第7話
「あなたはだんだん眠くな~る……眠くな~る……眠くな~る……」
ゆらり、ゆらりと、目の前をコインが泳ぐ。
『五円』の文字とたなびく稲穂がピンク色の糸に厳重に括られ、右に、左にとふらふらと頼りなげに往復していった。
「眠くな~る……眠くな~る……まぶたがどんどん重くな~る……」
子供っぽいその声は、優しく眠気を誘う。
聞いていると、自然とまぶたも落ちていく。
視界が黒くなる。
「そのまま……そのままだんだん眠くなる……眠くな~る……深~い眠りにフォーリンラブ……」
なぜそこ英語にしようと思った? そして流れに任せてラブ言うな。
つっこみたい気持ちをグッと堪えて拳を握る。
今は何も見えない。体も動かない。
自分に言い聞かせて体を弛緩させた。
「…………」
息を飲む音と、まぶたの閉ざされた眼前で、まだ律儀に往復しているらしい五円玉の微かな風。
小さな声で「……マジで?」とつぶやいてる。
そして逡巡したのちに、もう一度喉を鳴らすのが聞こえた。
「えっと、じゃあ、手が、右のね、手がどんどん軽くなる。軽くなって、浮いてくる。浮いてく~る……浮いてく~る……」
右手をゆっくり体から離す。
ゆっくり、ゆっくりと上げていく。自分で命令したくせに、「うわわわ」と、ものすごい狼狽えている様子だった。
その声のする方をめがけて、なおかつ膨らみかけの胸を狙って、僕はすばやく右手を動かした。
ぺた。
「……へ?」
ぺたぺた。
頼りない柔肌と肋骨の感触が、手のひらに伝わってくる。
「ぎゃーッ!?」
一拍の間をおいて、両手をカニのように広げて、妹のミチルが色気のない悲鳴を上げた。
「こらー! どこ触ってんのよ、お兄ちゃんのえっちぃ!」
「ははッ、ごめんごめん」
「ダメなんだよ、女の子の胸は勝手に触ったらー! 通報して警察のHPに載せちゃうんだぞー!」
「わかったよ、ごめんな?」
顔を真っ赤にして、カンカンと湯気を立てて妹は怒る。
ふふ、単純なやつ。
「も-、かかったふりとかして、お兄ちゃんはいじわるだ」
お手製の催眠術キット(五円玉をピンク色の毛糸で縛ったもの。うちの妹はピンクが好きだ)をぶらぶら振り回し、「ぶー」とほっぺたを膨らませる。
僕はそれを取り上げて、くるくる回してから彼女の前に垂らしてみせた。
「だから言ったろ。こんなのヤラセだって」
友だちとネットで遊んでて、古い催眠術の動画を見たらしい。
どういう検索経路でそんなものに辿り着いたのかは聞かなかったが、それを試してみたいという彼女に付き合って、今、僕の部屋のベッドの上で兄妹並んで催眠術ゴッコをしている。
僕は彼女の前で、五円玉を揺らした。
「こんなもので、どうやって催眠状態になるんだよ。赤ちゃんだってお昼寝しないぞ」
「だって、ネットではこれで上手くいってたもん。あのね、それ使って何でも秘密を喋らせたり、手が勝手に浮いたり、椅子と椅子の上に横になって、男の人がその上に座ったりするの」
「……よくわからないけど、そんなことして何になるんだよ?」
「何になるっていうか、催眠術にかかるんだよ」
バカバカしい子供だましだ。
昭和時代ならそういう詐欺まがいのバラエティも通用したかもしれないが、ちょっと今じゃありえないだろ。
いや、妹あたりがハマっちゃうあたりと見ると、一周して今は逆に新鮮なのかもしれないけど。未だにテレビじゃスプーンとかフォークとか曲げてキャーキャー言われてるし。
でもまあ、五円玉催眠術の再ブームはないな。ネタがチープすぎる。
「じゃ、次は僕がやってみるよ」
「うん、いいよ。やってやってー」
あぐらをかいて頬杖ついて、適当に五円玉を揺らす僕の前で、ミチルは短い髪をかき上げ、ベッドの上できちんと正座して、真剣な顔をする。
何を真面目に期待してるんだか、ちょっと笑っちゃう。
僕は一定のリズムで五円玉を揺らし、妹の眼球が動くのを確かめる。
そして呼吸も。
吸う、吐く、吸う、吐く。眼球も右から左、左から右へ。彼女の集中力と肉体運動は、今、振り子と完全に一致した。
彼女が息を吐ききり、そして眼球が左から右へと動くタイミングを狙って、僕はゆっくりと、ひと息で、お腹の底から出す声を命令にして告げる。
「お前は眠くなる」
右に目玉を寄せたまま、とろん、と妹のまぶたが緩くなった。だけど彼女が完全に眠ってしまう前に、さらに次の命令を告げていく。
彼女の目線の先に五円玉の揺れの中心を合わせて、次々と、沈んでいく彼女の意識に、僕の言葉を重しにして結んでいく。彼女と一緒に沈めていく。
ミチルは、僕の言葉にしがみついたまま、自分自身で意識レベルを落としていく。
「お前はそのまま眠っていく。まぶたはそのまま開いておく。僕の声はちゃんと聞こえる。そのまま眠くなっていく。でもまだ声は聞こえる。お前は眠る。眠る。どんどん眠くなる。でも僕の声は聞こえている。耳は僕の声に繋いだまま、眠くなる。どんどん眠くなる。今あるのは僕の言葉と、五円玉の振り子だけ。揺れる。揺れる。これはゆりかごだ。お前のこっち側は眠っていく。反対側は目覚めて僕と会話している。眠る。揺れる。眠るお前は振り子を見ている。僕と一緒に見ていて、僕の言葉も聞こえる。わかってるね。ちゃんと、聞こえてるね?」
「……うん」
「ミチルは今、眠っているんだ。でも僕の声は聞こえているし、返事もする。とても不思議な感覚だが気持ちいい。僕の命令に従うのは嫌じゃない。僕に何かされるのも嫌じゃない。なぜなら今、ミチルはとても気分がいい。テストで良い点取ったときみたいに」
「……うん」
にへら、と薄い笑みを浮かべる。
首の座りが悪くなり、ふらふらと揺れている。重そうなまぶたの奥では意識の薄い眼球が五円玉を写していた。
僕はそのほっぺたをつんつんと突く。薄い胸をぺたぺた触る。
さっきはあれほど怒ったミチルも、ぼんやりと五円玉を眺めるだけだ。
「ま、これが催眠術だよ。僕は魔法と呼ぶけどね。慣れればこれぐらい簡単なんだけど、お前には才能なさそうだ。だから、こんなくだらないことに興味持つのはやめなさい」
「……うん」
「よし」
素直に返事するミチル。
僕はその下唇をむにーっと引っ張る。柔らかい顔だ。子どもだからか。
妹の体をいじっても、特に面白くはないな。
「もう宿題やったか?」
「まだ」
「じゃ、あとでちゃんとやろう。自分で出来るな?」
「……お兄ちゃんに聞くもん」
「自分でやりなさい」
「やだ」
「やだじゃない」
「ノープロブレムだもん」
「自分でやらないからいつまでたっても英語弱いんだよ!」
「……うー」
「五円玉を見て。まだ眠らない。僕の言葉は耳に入ってくる。だから、まだ眠ってない。いいね?」
「はいー……」
五円玉催眠術って、古すぎるんだよな。
こちらの手中にあるものに集中させ、その集中(=リラックス)を利用して意識レベルを下げる。
基本どおりにはよく出来てる。でも誘導の道具としては全然弱い。そしてやり方もそうだが、あまりにも有名で古典的すぎる。
五円とか五十円の振り子とか、あとロウソクの炎とか、こんな催眠術の胡散臭さの象徴のようなアイテムを見せて実際に誘導されちゃう人なんて、今どきいるんだろうか。
妹ですら心の底では「胡散臭い」と思ってるので、催眠の深度も浅い。しかも視覚から誘導したので、この浅さではまだ目を閉じさせるわけにもいかない。施術者の感覚としては、半分眠った子の手を引いて連れ回してる感じ。ぐずったり、本格的な眠りに入ろうとしたり、こっちのコントロールも中途半端になってて怖い。ハンドルの効かない車に乗ってるみたいだ。
彼女にも僕の催眠キーワードは入ってるので、「魔法使いのトーマ」を発動させれば一発で言いなりだ。手段は他にもいろいろあるし、もっと深いところまで誘導するのも簡単だ。
なのにどうしてわざわざこんな面倒な方法を、昔の人は広めたんだろう。
あるいはこれが、昔の魔法使いが隠匿してきた魔法なのかもしれない。
真実の技術というものは、そう簡単には盗まれないように、大衆の目を誤魔化しながら伝えられていくものだ。催眠術を始めようと思ったら、まずはこの能率の悪いショー催眠の定番に引っかかって、余計な時間を取られるのもお約束だった。
僕も魔法勉強を始めたばっかりの頃は、こういうのをいちいち全部試していたっけ。妹はそのとき小さかったから、僕の催眠術の練習台として手伝わされてたこと、よく覚えてないんだろうな。いや、それとも僕が忘れさせたのかもしれない。
なにぶん僕も子どもだったし、魔法のことはエリ以外にはナイショだったし。
こういうのも少し懐かしい気がする。僕は五円玉を面倒くさく揺らしながら、魔法と呼ぶには稚拙な催眠術を妹に試していく。
「いい? ミチルは僕の命令には逆らえない。逆らう気持ちにならない。なぜなら、言うとおりにしたら褒めてもらえるから。お前は良い子だ。すごく良い子だ。お兄ちゃんの言うこと聞けるね?」
「……楽勝です」
「そう、楽勝か。じゃあ、あとで自分で宿題すること」
「……なんとかします」
「うん、まあ、良い子だ」
「へへへ……」
「じゃ、次はいろいろと質問するよ。正直に答えて」
「どんとこいです」
「好きな男の子はできた?」
「……まあまあ、できた」
「まあまあって、どういうこと?」
「先輩とかと一緒に、全学年女子でアンケート取って男子ランキングやったから、とりあえず1位になった人を私の好きな人にするって決めてて……」
「……今は恋愛も総選挙で決まる時代なのか?」
「好きな人でもいないと、みんなの話題についていけなくなる……」
女子ってそういうもんなのか。大変なんだな、こいつも。
しかし、こんなのでも恋愛っていうのかな? まあ、いいけど。
「そうか。じゃあ、そいつと上手くいくといいな」
「……上手くいくといいね……」
「お前のことだよ」
「あぁ、うん……」
のんきなやつだな。どうせ無理して恋愛のふりしてるんだけなんだろうけど。
せっかくだから、僕が本気にさせてやろうか。こいつもそろそろ恋くらい経験くらいしてもいい年だろうし。
「お前は、その1位の彼のことを本気で好きになる」
「好きになる……?」
「彼のことを思うだけで胸がドキドキする。付き合いたい。そうだろ?」
「うん、付き合いたい」
「結婚したい」
「結婚する」
「お前は今までに恋をしたことあるのか?」
「……正直、ない」
やっぱりか。
「それじゃ彼がお前の初恋だ。大事な恋だ。がんばれ」
「はっ、がんばります……」
まあ、余計なお世話かなって気もするけど、クラスのみんなも恋バナで盛り上がってんだろうし、こいつも当事者になって参加した方が楽しい思い出も出来るだろう。
付き合ったりとかいうのは、まだ早すぎる気もするけどね。でもまあ、何事も経験だ。
ちなみに僕もセックス体験だけは早かったけど、恋というのをしたことがない。今後もしない予定だ。
魔法使いとしての仕事もあるし、そもそも女の子なんて、抱きたいと思った瞬間にはもう抱いてるしね。
そう考えると、これからまっとうな恋愛を始める妹が、ちょっと楽しそうで羨ましくはある。青春って感じだ。
まあ、競争率の高い相手で大変だろうけど、がんばれ。
「それじゃ、次に右手を上げて」
「うん」
「左手上げて」
「うん」
「両方下ろす」
「うん」
あと、ミチルは催眠術で何やらせるって言ってたっけ?
椅子に座らせて、その上に座るんだっけ?
なんだそれ。ケガしたらどうするんだよ。
まったく、昔の催眠術師ってのは、まあ、どうせ偽物だろうけど、何やってんだか。いろいろ雑だし乱暴だよな。
「おっぱい見せて」
「うん」
女の子を催眠術にかけてやらせることなんて、こういうことだろ。
妹はぺろんとTシャツをタンクトップごとまくり上げて、ブラ知らずの胸を兄に見せてくれた。
細い脇腹には微かに肋骨も浮かんでる。乳首なんて豆粒みたいで、全然、子供の色してる。
わかっていたけど、身内の、しかも幼い妹の胸なんて見ても欲情なんてするはずなかった。
むしろ、こんな胸を披露させちゃって、かわいそうなことしたって後悔がよぎる。
「ごめん、隠していいよ」
「うん」
「まだまだ発育途上だったな」
「申しわけないです……」
「でもまあ、胸ってのは、これからどんどん大きくなるんだよ。好きな人に揉まれたりしたら、すぐ大きくなる。だからお前の胸がまだ小さいのは当然だ」
「好きな人に揉まれる日を待つ……」
「そうだな。でも、焦ることないから」
「焦らず待つ……」
決意を噛みしめるように妹は何度か頷く。
まあ、期待せず待っててくれ。
「じゃ、もうすぐ催眠は終わるよ。僕にいろいろ聞かれたことは忘れること。でも、お前の心の中に僕との約束は残っている。ちゃんと宿題は自分でする。わかったね?」
「……うん」
「この五円玉を下ろしたら、目が覚める。お前は催眠術にかからなかった。やっぱり催眠術はインチキだった。それじゃ……これで終わりだ」
五円玉を下ろす。
ぼんやりとした妹の目が、やがてくっきりと色を取り戻し、そしてパチパチと瞬いた。
「な、やっぱり催眠術なんてインチキだろ?」
僕がそういうと、妹は恥ずかしそうに俯き、「う、うん」と頷いた。
なんだか、元気がなくなったように見えるな。
「どうした? 具合でも悪いか?」
「わ、わかんないけど。胸がドキドキする」
「胸? 吐き気とかは?」
「……な、ないよ。あの、ちょっとお兄ちゃん、あんまりこっち見ないでくれる? なんか、恥ずいから」
「あ、あぁ」
ぱたぱた手を振って赤い顔を隠す。
なんかこいつ、おかしいな。ちゃんと解除できたはずなのに。
どこか手順がおかしかったかな?
そんなはずないと思うんだけど。
「大丈夫か?」
「うひゃあ!?」
僕が額に手を当てると、妹は、変な悲鳴を上げて後ずさった。
そして、ハッと何かを思い出し、慌てて胸を抱くように隠した。
「そ、そうだった。ど、どどどどうしよう!? おっぱい大きくなっちゃう!」
「は?」
「お母さんにブラ買ってもらわなきゃ! わあ、大変だよお!」
「おい、落ち着けよ。何言ってんだよ。お前の胸なら、全然大きくないって」
僕が正直にそう言うと、妹は目を大きくして、そして悲しそうに歪める。
「やだ、お兄ちゃんのえっち! ばかぁ! ばかばかぁ!」
なぜか知らないけど、急にわけわからないこと言い始め、そして、うずくまってしまった。
変だと思ってのぞき込むと、ミチルはポロポロ涙をこぼしていた。
「おいおい……どうした、ホントに?」
「お兄ちゃんが、無神経なこと言うからだもん! どうせ私は胸ちっちゃいし! わあああ!」
だぁだぁと涙を流して妹は泣き出す。
情緒がすごい不安定だぞ。おかしい。どう見てもミチルは精神的異変を抱えている。
やっぱりさっきの催眠術の手順に想定外の過ちが?
いや、まさか。素人じゃあるまし、今さらこんな基本的なことで間違えるはずがない。
僕が何か見落としているとすれば……。
「なあ、お前のとこの学校で、こないだ男子ランキングを決めたんだって?」
「え……? ぐしゅ、なんで、お兄ちゃんがそんなこと知ってるの?」
「後輩から聞いたんだ。で、1位のやつって誰?」
妹は、ジトっと僕の顔を睨むと、ぽつりと答えた。
「お兄ちゃんだよ。2、3年票がダントツだったもん」
「……それは完全に想定外だった」
かつての後輩として、そして今は最上級生と2年生として中学に残っている王族・貴族のみんなは、そしておそらく平民だった女子たちも、律儀に僕に恋を続けてくれているようだ。
卒業生だってのに、わざわざ1位にランクインさせてくれたか。現役男子を差し置いて。
ありがたいけど、ちょっと重いな、その愛は。
ていうか、いくら順位で決めたからって、ミチルも自分の初恋相手を身内なんかで妥協してんじゃないよ。
「わ、私、宿題しなきゃ! お兄ちゃん、おやすみ!」
「えっ、ちょっと待てよ!」
妹はバタバタと僕の部屋から飛び出して、自分の部屋へ帰っていく。
「待てって、おい! 開けろよ! ちょっと話があるんだ。もう一回催眠術やろう! 今すぐやろう!」
「いや! なんか、お兄ちゃんの声聞いてたらドキドキするの! 変な想像しちゃうの! あっち行っててってば、もう、お兄ちゃん嫌い! でも、大好きぃ!」
「お前がいま感じている感情は精神的疾患の一種だ。しずめる方法は僕が知っている。僕に任せろ!」
その後、なんとかドアをこじ開け、妹には好きな人は焦らずじっくり自分の目で決めるようにと、まともなアドバイスを魔法でかけて、誤った恋心も処分した。
全て終わったころには夜も遅くなってたので、けっきょく宿題も手伝ってやることにした。
「お兄ちゃん超やさしいー。私たち、ズッ兄妹だよ!」
「いいからさっさと英訳終わらせろよ。そこ、『six』はiだろ、eじゃない」
「あーもー、1人でするの無理だよ。お兄ちゃんの尻貸して?」
「尻言うな、siriって言え。無意識のセクハラがひどすぎるぞ、お前。ちゃんと自分で辞書調べろ」
「いったーい! 叩くことないじゃん、鬼兄ぃ! もう、優しくしてよ、わたし(このように難しい英語の問題を解くのは)初めてなんだからぁ!」
「……お前と喋ってると疲れる」
などと、バタバタと騒がしく一日を終えれば、いつものように平凡な朝がくる。
「おはよ、トーマ」
リノが爽やかな笑顔と右手のケイタを引き連れて、僕に朝の挨拶をする。
日課の痴漢プレイで火照った体を僕に押しつけるモエミは僕の左手だ。
いつもの話題。くだらないやりとり。今日も僕らの間に特別変わったことはない。
「トーマ、そういえばあそこのクーポンくれるって言ってたじゃん。持ってきてくれた?」
でも、こういうやりとりのついでにリノが僕の体に触れることが多くなったかなって気はする。会話のついでに腕に触れたり、廊下でふざけて体当たりしてきたり、むしろ僕とスキンシップしたがってるような素振りも見える。
今なら手ぐらい握ってもリノは許してくれるのかも。魔法以外で女の子に触れたことってないから、タイミングがよくわからないけど。
女子高生の生態実験は順調だった。
リノは着実に僕に気を許している。
授業中のイタズラも上手くいっていた。
【キョウコ】
いつものヒロインカードを僕は自分の机の上に置く。
「……またぁ?」
リノはツンと唇をとがらせ、頬を赤くする。「ほんと、トーマはスケベだよね」と文句を言いながら、机をさりげなく僕の横に近づけ、後ろに下がる。
僕たちは教室の一番後ろで、廊下側が僕でその左隣にリノ。できるだけ他人に見られないように位置を下げて、僕を睨む。
【パンチラ】
彼女は、むにゅっと唇をさらに尖らせ、「……すけべ」と小さな声で苦情を申し立て、そして、自分でスカートをめくって僕に下着を見せた。
“このカードゲームにリノは逆らえない”
学校七不思議の第10話の魔女から僕がもらったこの不思議なカードに、彼女は操られる。でも誰にも言ってはいけない。二人だけの秘密だ。
という僕の魔法を、彼女は本気で信じている。授業中にこうして僕にエッチなイタズラされ続け、最初は怒ってた彼女も、今では「いつものこと」と諦めるようになった。
それはまあ良いことだけど。
「……なんか、すごいセクシーだね」
「やっ、バカ! 言うな!」
リノはポニーテールをぶんぶん揺らして、恥ずかしそうに机に突っ伏す。でもスカートは、カードの指示どおりに上げたままだ。
いつもの可愛い系と違って、横がヒモみたいに細くて、ちょっと角度の深い下着だった。緑とか水色とか、そういうのを好む彼女しては珍しい薄紫色だし。
「どうしたの、それ?」
「別に、どうしたってわけじゃないけど……」
ずっと下着を見ている僕に、リノは太ももをムズムズさせる。やがて諦めたように口を開いた。
「今日、ケイタも私も部活ないから、放課後二人で遊ぼうって言ってて……」
「へえ、とうとうエッチするんだ? ホテルとかに行くの?」
「そ、そそんなこと言ってないしっ!」
このカップルはまだキスまでしかしていない。
僕が魔法で、ケイタにそう命令しているからだ。キス以上のことはこの二人の間では起こらないし、リノはそのことを知らない。
彼女は、早くセックスをしてみたいのに。
「……でも、なんか、あるかもしれないし……その、念のため、というか……」
リノは机に突っ伏したまま、恥ずかしい告白を続ける。耳まで赤くして可愛いものだ。
当然、スカートは僕に向かってめくられたままだけど。
「リノ、これ」
僕は空気も読まずに新しいカードを机の上に乗せる。
【ブラ見せ】
「上も見せてよ」
「……っ」
ちらりと教室を見渡してから、リノは、スカートから指を離し、ゆっくりとセーラー服をたくし上げていく。
そして僕の方をじっと見ながら、パンツとおそろいのブラを僕に見せてくれた。
薄紫色したカップ面積の小さめなブラだ。ヒラヒラとした邪魔っけそうな飾りが、「早く脱がせて」と女の子の代わりに主張してくれるブラだ。
「すごくいいね。興奮してくる」
「バ、バカっ、何言ってんのよ!」
正直言うと、ちょっと派手すぎのような気もするけど。初めてでそんなブラしてたら、ケイタみたいな男は引くんじゃないかな。
まあ、彼がそのブラを見ることはないから余計な心配だけど。
リノは、ブラをさらけ出した胸を机の下に隠すぐらいに身を縮め、先生の方を伺っている。顔が真っ赤だ。
「本当だって。リノって胸の形がいいし、セクシーなブラも似合うよ」
「も、もういいってば! 余計なこと言わないの!」
あと、その白い肌もいいし、細いウエストもいい。そういや中学のときは運動部だったんだっけ。引き締まった体だけど、肌はあくまで柔らかそうだ。
抱き心地も良さそうだね。
「その中も見たいな」
僕はそう言って【ブラ見せ】をもう一種出す。【ブラ見せ】が二枚重なることによって【おっぱい見せ】にコンボして『死亡フラグ』が立った。
リノは、ジトっとした目で僕を睨み、「……すけべだねぇ」とため息をつき、ブラのカップをたくし上げてくれた。
「はい」
最近、リノは諦めが良い。乳首とかほぼ毎日授業中に披露させているからね。むしろ今日は勝負下着を見られる方が恥ずかしかったみたいだ。
綺麗なお椀型をした胸の先は、まだ誰にも触れられたことがないのを証明するかのように、鮮やかなピンク色をしていた。
リノはもう周りの目を気にすることなく、僕の方をじっと見ている。
もちろん僕は授業が始まる前に、クラスのみんなや教師に“僕らのことは一切気にするな”と命令している。当然、リノはそのことは知らないはずだ。
でも、気づいてはいるんだろう。最初のときほど、周りの意識はしなくなっている。たぶん「魔女の呪いで誰も気づかないんだわ」とでも思っているのだろう。あるいは、肌を見られること自体になれてきたのか。
彼女の視線は、僕が自分の胸を見てどういう反応をするのか、興味深く見守っていた。そういう余裕も生まれているみたいだ。
「きれいだね」
僕は微笑みを浮かべて言う。
リノも、ちょっと口元を緩めて、「えっち」と呟いた。
少し萌えた。
「もう……ケイタだって私の胸まだ見てないんだよ?」
「でも僕には見せてくれるんだ?」
「み、見せてんじゃなくて! 見られてるの!」
リノのおっぱいがぷるんと震えて僕に抗議する。
触りたいな。でも、まだ我慢しておこう。リノもさすがにそこは警戒しているはずだ。せっかく僕に見られるだけで感じるようになってきたみたいだから、もう少し感じやすい体に育ててあげなきゃ。
「なんだか、ちょっと優越感あるよ。ケイタがまだ見てないリノのおっぱい、先に見せてもらえるなんて」
「さ、さいてー。何言ってんのよ、もう……」
「リノの体を見て喜ばない男なんていないよ。きれいだよ。すごく興奮する」
「しつこいってば!」
おっぱいの先っちょが尖っていく。
僕はそのことに気づいているし、リノだって当然知っているだろう。
でも、お互いそのことには触れっこなしだ。以前、そのこと指摘したときはリノもすごい怒ったから。
逆に言えば、その話題に触れないのならば、このまま続行してもいいという暗黙のルールだ。
「リノ。僕は【おっぱいタッチ】や【おっぱい揉み】のカードも持ってるけど」
「…………」
「それは出さないでおいてあげるね」
リノは視線を外したまま目を閉じただけで、何も言わない。良いとも悪いとも。
それよりも、そろそろ下着を脱がせてあげなきゃ。
湿ってきているだろうし。
【パンチラ】
これが二枚ヒロインカードに重なれば【パンツ下げ】になる。
そのへんのことはいちいち説明しなくてもリノはとっくに了解済みだ。
勝負下着が彼女の膝のあたりまで下がる。
そして、僕が促す前に、自分からもう一度セーラー服をたくし上げておっぱいを再度見せてくれた。
「寒くない?」
「……大丈夫」
ゲーム続行だ。
「ケイタと最後にキスしたのっていつ?」
僕はカードをシャッフルしながらリノに尋ねる。
「……先週かな?」
リノは少し考えてから答える。
彼女は僕に交際の内容を隠すことができない。そういう魔法にもかけているから。
「舌とか入れたりするの?」
「入れないよ、そんなこと……」
「入れると気持ちいいんだよ?」
「ケイタはそんなことしないもん」
「もったいない。僕ならリノのキスするときは舌を入れるよ」
「バ、バカじゃない? ほんとトーマってスケベなことばっかり――」
「入れるよ、絶対に」
「…………」
僕はシャッフルして出てきたカードを、リノに見せる。
【ベロ見せ】
リノはあきれたようにため息ついて、ほんの少しゆがんだ苦笑を浮かべた。
「……今度さ、そのカードってどういうのあるのか全部教えて?」
「かなりヒマなときじゃないと無理だよ」
あれからさらにカードは増えて、今は全785種だ。ちなみに追加されたのはほとんど『18禁ブースター』で、バランスもクソもないデタラメなエロフェチばかりだ。
魔法少女☆コマキもそろそろ限界だと見限った版元が、やけくそのように最後の売り逃げを図っているらしい。本当にコマキ周辺にはクソみたいな人間しかいない。
でも、僕は好きなんだ。
「ベロ見せて」
リノは難しそうな顔をしてから、観念したように目を閉じて、「んっ」と舌を突き出した。
「べー」
両目を閉じて、あっかんべみたいに舌を伸ばす。おっぱい丸出しなのがなんだか可笑しい。
リノの舌は健康的な桃色だった。きちんと歯を磨く子は口の中も舌もきれいだ。
つやつやと濡れていて、柔らかくて気持ちよさそうだ。
「裏も見せて」
「ん」
「左」
「ん」
「右」
目を閉じて、エッチなキスをするときみたいな顔で、リノは舌を僕の言うとおりに動かす。
リノとキスしたいけど、それもまだ我慢だ。
「舌を回してみて。唇を舐めるみたいに」
ぐるぐると舌が回転する。それに合わせて柔らかそうな唇もぐにゅぐにゅ動く。
「違うよ、もっとゆっくりでいいんだよ。――キスするときは」
リノの舌がピタっと止まり、口の中に引っ込んだ。そして大きな瞳が開いて僕を睨む。
「何言ってんのよ」
「いいから、見せて。ゆっくりだよ。ホラ」
僕は机の上の【ベロ見せ】をリノの前にちらつかせる。
勝手に伸びていく舌に、リノは諦めたように目を閉じた。
そして、おずおずと、ぎこちない感じで、ピンク色の器官が揺れる。
「ん……」
ゆっくりと、唇に触れて確かめるような動き。
そしてリノが自分でたくし上げているおっぱい。キス顔で動かす舌。僕らを放置して淡々と進む授業。
ぐっと色気を増した光景に、僕も生唾を飲み込む。
「もっと舌を出して」
いったん動きの止まった舌が、あらためて伸びてくる。
そしてさっきよりも大胆に、ぬめりながら回転する。
時々口の中に引っ込めて唾液をまぶし、また伸ばし、動かし、僕に見せつける。
濡れたそれを生き物のように。
「ん……れろ……はぁ……」
つやつやの唇。えっちになっていく動き。
下がってくるブラを、僕が何か言う前に自分で直して、おっぱいを突き出した。その顔は、僕にディープな口づけをねだっているように見える。舌がまるで手招きしているみたいだ。
そこに自分の舌や指を、あるいはペニスを絡ませる想像で僕も興奮していく。
「リノ、舌はもういい」
目を閉じたまま舌を引っ込め、唾を飲み込んだリノに僕は言う。
「お尻を見せて」
リノは、とろんとした瞳を上げて、僕の顔を見ながら、お尻を上げた。
スカートを持ち上げて、つるんとしたお尻を、いつものように僕に向けてくれる。
きれいなお尻に一本、椅子のあとが走っている。授業中のリアルなお尻。女子高生の生のお尻。
でも、僕は机の上には何のカードも出ていない。
リノは命令に普通に従ってしまっただけだ。そしてもちろん、僕は彼女にそんな魔法かけていない。
だけど、そんなことをわざわざ指摘してリノをからかうような無粋な真似はしなかった。
これは僕たちだけの秘密で、二人ともすごく興奮していたから。
「いつ見てもきれいなお尻だね」
「……ほんと?」
「本当だよ」
「トーマって、エロいよね……ケイタなら絶対そんなこと言わないよ」
「リノお尻を見れば、絶対に言うよ」
「そうかなぁ」
「触ったら気持ちよさそう。肌がきれいだよね」
「……なんか、言い方がえっちくさいってば」
「ねえ、お尻の穴も見せて」
「えー、またぁ?」
「見せてよ」
「……やらしー……」
二人の間に魔女のカードはない。
でも、リノはくるりと僕に背中を向け、そしてそのまま、前屈みになった。
小さな花模様。女の子が一番恥ずかしがる場所。
何度もカードでそこを覗かれているせいで、リノも僕がそこに興味を持っていることにも慣れたのかもしれない。
でも、カードも出してないのにそこまでしてくれるとは、僕も思ってなかった。だから本当は、すごくドキドキしてた。今もしている。
リノはもう抱けるかもしれない。僕はその想像に興奮する。
他の人が僕らの遊びを発見することはない。
授業中に、彼氏のいる教室でお尻の穴を他の男に見せているリノを知っているのは、僕だけだ。
「……きれいだね、リノは。本当に可愛いよ」
「ね、ねえ、もういいでしょ。恥ずかしい……」
「いいよ。こっち向いて」
リノは体勢を戻して、僕の方を向く。
「はぁ……はぁ……」
荒い息。赤い顔。下がったままの下着。
僕たちは見つめ合う。リノは僕が何か言うのを待っている。もうどんな言葉でも彼女は許すかもしれない。
「なにそれ……すっごいことになってるよ?」
ズボンの前を膨らませているものの正体なら、今さら説明するまでもないはずだ。これがモエミの中を出たり入ったりする様子を何度もリノには見せてやってるのだから。
リノはそれをしきりに気にしている。頬を絡めてチラチラと見ている。
もちろん、僕も彼女にそれを隠したりしない。むしろ、見せつけている。
僕の興奮の証を。誰のせいでこうなっているのかを。
「……リノ。次はどうしようか?」
「…………」
「リノはどうしたい?」
「わ、かんないってば……私に聞かないで」
僕らの間に空気が、甘くて危険な香りをたてている。
リノは何も答えず目を閉じた。そしてスカートをギュッと握った。
その下に何が隠れているか、ヒントを出すみたいに。
だけど僕は、カードを伏せた。
「でもそろそろ、授業終わっちゃうか。ゲーム終了だね」
「……あ」
リノは教室の前にかかってる時計を見上げ、緩慢な動きで前に向き直ると、下着を戻した。
そしてどちらともなく、ため息をついた。
僕はペンを回して、嫉妬する男を装ってつまらなさそうに呟く。
「ケイタってついてるよね。リノみたいな子がカノジョで」
そしてリノの視線から逃げるように、僕はそっぽ向く。
「ちょっとムカつくよ」
実際はムカつくも何もない。
そんな道理も理由もない。
勝手に他人のカノジョにちょっかいを出し、そしてやきもちを妬くなんて最低の男だと我ながら思う。
「なんでトーマがムカつくのよ? トーマだってモエミがいるくせに。意味わかんないんだけど」
当然、リノだって怒るだろう。
でも僕はあえて何も言わない。リノは僕の方を見ている。
しばらくそのまま放置してみる。釣り人のような気持ちで。
「……しょうがないじゃん、私の彼氏はケイタなんだし……怒んないでよ。ね?」
ヒットした。僕の制服の腕に、彼女の指がぴんと引っかかる。リノが僕に媚びるような態度を見せた。
女の子は「優しくておとなしい男」よりも、なぜか「強引でわがままな男」に惹かれるらしい。同じ男から見ても腹が立つくらいの身勝手な態度も、ある程度の好感度を得ている場合、「繊細で傷つきやすい人なのね」と、バカバカしいくらい都合良く解釈してくれる。昨日、駅前のTUTAYAで立ち読みした恋愛指南書にはそう書いてあった。
彼女が僕に罪悪感を抱く理由なんて本当なら何もない。でも、スネてしまった僕の機嫌がどうしても気になるらしい。
授業中に「アナル見せて」とムチャぶりしても、彼氏がいることに勝手に腹を立てても、リノはそんな僕のことを許してくれるんだ。
恋は魔法のようだとよく言われるけど、魔法使いの僕に言わせれば、実際はマインドコントロールに近い。
例えばこのコマキカードは、もはや僕の一方的なイタズラではなく、二人だけのゲームとして成立している。
僕がリノの体には決して触れないという決まりを作り、それを守っていることに彼女は気づいている。その証拠に、さっき僕が胸を触りそうな気配を見せたときも、リノは黙って僕の様子を伺っているだけだった。ゲームを始めたばかりの頃なら、恐怖と不安でムキになって抵抗していたはずだけど。
肌に触れないなら見せてもいいというのが、僕らのルール。言葉で誓約を交わしたわけではないが、彼女は僕が自分の体に触れないようにしてくれていると信じ、そしてそこだけを根拠に僕を信頼してしまっている。授業中に、不思議な魔法アイテムでセーラー服を剥くような男なのに。
ありえない話だと僕も思うが、世の中には、たいした理由もなく暴力をふるうDV彼氏のことを、「でも顔は殴らないから本当は優しい人」とかいう女もいる。あれと同じだ。僕はリノに裸になれと命令はするけど、体には触れない。彼女の美しさを褒め、時に冷やかし、素直に興奮して、それなりに節度も保っている。
彼女も今じゃ僕らのスケベな遊びを楽しんでいる。スタイルを褒められると得意そうに照れて、僕の興奮した部分を見てはニヤニヤと喜び、そして誰も知らない秘密であることに甘い優越感を覚えている。
被害意識のハードルは日に日に下がって、加害者と被害者の関係ではなくなっていた。今は恋人すら知らない秘密を共有する特別の関係だ。ゲームを続けるうちに、僕は「すけべな男」から「特別の男」に昇格していた。
こうして他人には理解できない特殊なルールに慣れさせ、囲い込んでしまうのがマインドコントロールの秘訣。つまり、恋愛のコツでもある。
デートを地道に積み重ねるよりも精神的な拘束力は増す。状況を扱いこなすだけの度量や根気を要求されるが、ハマれば深い。
暗示的な言葉も有効だ。
僕がついさっきケイタにヤキモチを妬いてみせたのも、「リノみたいなカノジョがいて羨ましい」といっただけで、「リノが欲しい」と言ったわけじゃない。でも、彼女は自分が僕のカノジョじゃないことを謝ってきた。はっきりと口にはしたことはないが、彼女はもうお互いの間に好意があることを確信しているのだろう。
他にもなにげない会話の端々に、リノに好意を感じさせるようなワードをちりばめるようにしている。おかげで最近の僕らの会話には、気持ちを通じ合わせた同士の甘さや切なさが感じられるようにもなった。
実験はすごく順調だ。ケイタがいなければ、リノはたぶんとっくに僕に恋していただろう。
僕はリノに見えない位置で、ひっそりとほくそ笑む。
恋は魔法なんかじゃない。
ただの技術だ。
「……ねえ、あとで相談聞いてもらっていい?」
甘えるような声でリノが言う。
どんな相談なのかはちょっと気になる。内容はどうでもいいけど、おそらく何かしらのスキンシップサービス付きだ。
でも、僕はそれを断ることにした。
「ごめん。今日は途中でサボる予定なんだ」
「あ、そう」
僕にふられて急に不機嫌になったリノが、つまらなさそうにポニーテールをこっちに向ける。そして思い出したように、セーラーの中に手を入れてブラを直してた。
もうしばらくリノとの駆け引きを楽しみたい気持ちもあるけど、今日はこのへんにしておこう。だって僕がその気になれば、今日中にでも彼女は抱けそうな気がしたから。
このまま相談に乗るとか言って二人きりになったら、きっと僕は彼女を抱いてしまっている。それでは実験の意味がない。もう少し僕との関係に焦れてもらって、彼女の方から僕を求めさせなきゃ最後の仕上げにならないし。
電子レンジのようにあっという間に女の子を料理してしまう魔法もいいけど、こうしてじっくり弱火で煮込んでいくマインドコントロールの料理もいい。フタを開けてみるまでのお楽しみというやつだな。
でも、やっぱり恋愛なんて単純で簡単だ。
素材にあった味付けを見つけてしまえば、あとはフタして火にかけるだけで、複雑なものなど何もない。彼氏がいるくせに僕に転びかけてくリノを見ているのは楽しいけど、高校生の恋心なんて所詮こんなもんっていう、拍子抜けみたいのはあった。
これなら、僕のことを軽蔑しながらパンツを脱いでた初期のリノの方が、よっぽど複雑な表情を見せてくれて面白かったな。
まあ、魔法使いにもなれない男から見れば贅沢な悩みなんだろうけど。
しかしそれはそれとして、僕のこの興奮はどうしてくれる。モエミ一人ではおそらく処理が足りない。リノとのじれったいイタズラでたぎった股間は派手なプレイを要求していた。
というわけで、午後からは授業をサボって王様になるつもりだ。
僕はこっそりスマホを取り出し、王国用のSNSを起動させ、『午後からそっちへ行く』と打ち込んだ。
『お待ちしてます!』
『嬉しいありがとうございます!』
『もうパンツ脱ぎました!!』
向こうも授業中のはずなのに、あっという間にハートマークだらけの書き込みで埋められる。
黄色い歓声で湧き上がる、マナホたちの女子校の様子が目に浮かぶようだった。
学校抜け出そうと思ったら、玄関近くでケイタに呼び止められた。
「トーマ、どこ行くんだよ?」
「あぁ、ちょっとサボる」
「今からか? てか、職員室から丸見えだろ」
「どうにでもなるよ。いろいろ限界なんだもう。先に帰らせてもらうから」
「……お前って、真面目そうに見えて結構フリーダムだよな」
「そう?」
「うん。なんか、意外と物怖じしないっていうか、度胸ある気がする。まあ性奴隷飼ってるような男だし、なんかあるとは思ってるけど」
「んー」
度胸という意味では、たいした男ではないと自分では思うけど。
でも、僕には魔法という強みがあるから、物怖じなんかもしたことない。暴力で負けたところで、心まで操られるわけじゃないからね。
この世で一番怖いのは、心を誰かに奪われることだ。魔法使いにはそれがない。
だから誰も怖くない。
「ていうか、たくさん女喰ってそうだしな」
「そんな風に見える?」
「知らねぇの? 女子とか言ってるらしいぜ、お前のこと。なんかメガネ取ったらジャニーズの誰だかに似てるって」
「女子って、人の顔を見れば芸能人の誰かに似せたがるもんでしょ」
「まあな。つーか、お前は草食系に見えて結構グイグイいきそうだなって話だ」
「うーん」
自分の見た目なんて気にしたことはない。魔法使いにはそもそも関係のないものだから。
一応、普通の高校生になるあたり、平均的な身だしなみ程度は心がけてはいるけど。
むしろ男としての容姿ならケイタの方が上だろう。背も高いし。
「俺って、わりと見た目だけで他人にびびられたりするんだ。タメのやつらにも引かれてるときあるし」
「へえ、そうなんだ」
「けどお前って、最初からそういうの百パーなかったよな。だから俺は結構認めてたんだ、お前のこと」
確かにケイタはガタイもいいし、言われてみれば目つきもちょっと鋭いかもしれない。
男の顔とかあまり気にしたことはないから、今さらだけど。
「ま、別にどうでもいいんだけど。見つかんないように帰れよ」
「うん。じゃね」
と、軽く挨拶をして、靴を履き替え、上履きを閉まってからも、ケイタはなぜかそこにいる。
「あのよ、トーマ」
「なに?」
僕の隣でロッカーに背中を預けて、頭一つ高い位置から、ケイタは低い声を出した。
「お前、リノに手ぇ出したら、殺すから」
彼が僕らの何に気がついてるのかはわからない。
ただ、授業中の遊びのことは知るはずはないにしても、どんどん親しげになっていくリノの態度やスキンシップに、あるいは奥手な彼をその気にさせるために僕の名前を引き合いに出したりすることに、いろいろと疑念が渦巻いているのだろう。
殺す、という短絡的な脅し文句に彼の余裕のなさと、そして「他人がびびる」という容姿に自信を持っていることが窺えた。
僕は魔法使いのトーマ。
今ここでそう言えば済むことだけど。
「あぁ。手は出さないよ」
笑顔でそれだけ答えて、さっさと帰ることにした。
うざいな。
僕はさっさとセックスがしたいんだよ。
聖慎女子学園。
校門を出て、坂を下って、さらに高い坂を上がれば、そこに僕の王国が広がる。
地元でも誉れの高い名門女子校に入門するには、事前の許可が必要だ。もちろん僕にはいつでも許可が出ている。先ほどSNSに書いた訪問予定はすでに全校に知らされていて、校舎の窓には季節外れの桜の花でも咲いたみたいに、少女の顔がびっしりと並んでいた。
この女子の園で一番偉いのは誰なのか、彼女たちはよくわかっている。熱いまなざしは僕一人に注がれる。
玄関から駆け寄ってくる出迎えの双子の美少女たち。僕の中学時代の同級生。王族の美しさはそのままだ。
マナホとチナホが、揃って抱きついてくる。
「いらっしゃい、トーマ様!」
「私たちのトーマ様!」
スポーツ少女でいつも元気いっぱいのマナホ。おしとやかな大和撫子の妹のチナホ。顔立ちはよく似ているけど性格は対照的。この理想的な双子たちとは小学生時代からの付き合いでもある。気心も体の相性も知り尽くした仲だ。
彼女たちに腕を引かれ、女の子の匂いに満ちた校舎へと誘われていく。
体に触れる女の子たちの柔らかさは、僕のささくれだった気分をほぐしてくれた。そして廊下に出て僕を迎えてくれる少女たちの微笑みが、華やかな気持ちにさせてくれる。
僕のことを心から愛している数百名の女の子たち。授業なんて当然中止だ。教師も僕を王様だと認めてくれている。
ここは僕のための花園だ。
「全員、パンツ」
「はーい!」
廊下に出そろった少女たちが、笑顔でスカートをめくる。
白、赤、黒、青。柄も形もばらばらの万国旗のように、様々な下着が僕の眼前に並ぶ。
「あーッ!? ずるい、もう始まってる!」
階段から降りてくる生徒たちも、慌てて自分のスカートを持ち上げる。
1年生も2年も3年も、この学園の生徒ならみんな僕の女の子だ。もちろん容姿で不合格した女の子たちは教室で自習中。合格ラインは中学の頃よりも下げている。僕はこの楽園に数での奉仕を求めた。どうせ僕の学校じゃないし、せっかくの女子校だ。もっと大ざっぱに、大勢の女の子が僕に従うところを見たいと思ったから。
ここは僕の息抜きの場所だった。子供が塾の帰りにコンビニに集まるように、大人が仕事上がりに女の子のいる店でお酒を飲むように、僕は退屈な学校生活の合い間に女子高生の王様になる。
女の子たちはぞくぞく集まってくる。廊下からあふれ、そして急いでスカートを持ち上げて、王様の僕に今日の下着を見てもらおうと頑張っている。
みんな、僕の女の子だ。
「全員、おっぱい」
「はーい!」
セーラー服のはためく音が、一斉に重なった。
形も大きさもそれぞれのおっぱいが、ブラに包まれて僕の前に並ぶ。増えていく生徒。増えていくおっぱい。僕はそれをかき分けるように進みながら、女の子たちを集めていく。
いい匂いのする廊下。柔らかい肌を揉みながら進む玉座への道。僕はぎゅうぎゅうの女子生徒の中で片手を挙げて宣言する。
「全員、体育館まで行進だ。服を脱ぎながらだよ」
「はーい!」
祝福の紙吹雪のように飛び交って舞うセーラー服の下を、僕たちは仲良く歩く。
スキップする女の子たち。歌いながらくるくる踊る女の子たち。僕にキスを、おっぱいを、お尻もアソコも好きに触らせてくれる何でもありの女の子たちだ。
どこにでもある高校には違いないのに、女の子がみんな裸というだけで、別の世界にように見えるのはなぜだろう。
不思議な浮遊感と興奮を味わいながら僕は歩く。まるで雲の上みたいに。
「せーの!」
中庭にさしかかったとき、マナホの合図で、女の子たちのパンツが一斉に宙を舞った。
降り注ぐパンツの下、笑顔とキスで裸の自由を祝福し合う彼女たちは、妖精のように無邪気だ。
そして全裸になったマナホとチナホが、僕の制服に手をかける。上着がするりと取られて、別の女の子たちの手に渡される。
期待と好奇の笑みが女の子たちの間に広がる。僕はその中を歩きながら、靴やズボンもシャツもマナホたちに脱がされるまま預けていく。
最後のボクサーパンツが脱がされ、僕のペニスがバネのように弾んだとき、女の子たちの間で拍手と喝采が沸き起こった。
「みんな、愛し合う準備は出来てる?」
「出来てまーす!」
こぞって手をあげ、胸を揺らす。そして体を寄せてアピールしてくる女の子たちに背中を押され、パレードの速度が増す。
教会に似た外観で建てられた体育館の扉が、僕の前に開かれた。
日差しの注ぐピカピカの床の上、その中央に白いシーツをかぶせた大きなソファが置かれている。
僕はゆっくりとそこへ近づく。女の子たちは僕の背後に整列を始める。さっきまではしゃいでいた若く瑞々しい裸体が、鍛錬された団体行動を見せて美しい正方形をいくつも描く。
悠々とソファに腰掛ける僕。左右からマナホとチナホが跪き、ペニスを優しくさする。むくむくと硬度と角度を増していくご主人様の男根に双子たちはため息をもらし、整列する女子たちは内心に欲望の火を灯しながらも、しわぶき一つ立てずに凜と顔を上げ続けた。
「君たちの恋人は誰だ?」
「魔法使いのトーマ様です!」
「君たちを犯すのは誰だ?」
「魔法使いのトーマ様です!」
「君たちの主は誰だ?」
「魔法使いのトーマ様です!」
中学のときですら、ここまで女の子たちを人形のように隷従させたりすることはなかった。僕は「支配」というものにイジメや暴力に似た気持ち悪さを感じている。だがそれでも、3年間の魔法王暮らしで権威の快感に染まってしまった部分はあるらしい。
平凡な高校生である自分を解放させる場所として、マナホたちの女子校はうってつけだ。僕は本来ここに在籍する生徒ではなく、何の責任を負うこともなかった。そして男子生徒そのものがここには存在しない。いるのは思春期の匂いを全身から発する瑞々しい女の子たちだけだ。
まるで僕を遊ばせるために作られたような学校だ。まさにぐうハー。ぐうの音も出ないハーレム。魔法使いにとっては絶好の狩り場で、実験場だった。
僕はメガネを押し上げて、時計を見上げる。
時間は、僕らの堕落した性欲を満足させるのに十分すぎるほど余っていた。
「遊ぼうか。夕方まで僕たちだけの時間だ」
僕が「おいで」と手招きすると、女の子たちはエサをちらつかされた子猫のように目を輝かせ、まっしぐらに殺到してくる。マナホとチナホは急いで僕の亀頭と陰のうをそれぞれ咥えて吸いたてる。僕に触れる手。口づけ。体を触らせようと突き出される胸。お尻。甘い告白。切実で卑猥なおねだり。
僕は思わず笑ってしまう。女の子たちもつられて笑う。わけもわからず僕らは笑う。セックスとイチャイチャとハーレムに早くも思考が麻痺し始める。
マナホの口から引き抜いたペニスをみんなの前に突き出すと、女の子たちは歓声を上げて群がってきた。手当たり次第に口の中に突っ込み喉の奥を叩く。お尻を突き出してる子の膣内に入れてやる。何十人も乱暴に突っ込んでるうちに射精したくなって適当にぶちまける。女の子たちは手を叩いて喜ぶ。顔にかかった子をみんなで追いかける。床に転がってオナニーしている子を飛び越え、レズキスしてる子たちの間を横切り、そしてマナホがその子に追いついて床に転がし、みんなで顔にかかった僕の精液をチュルチュル舐める。
向こう側では、僕のパンツをかぶった子を別の子たちが追いかけっこしてた。他にも後ろから違うの子をおっぱい揉んだり、1年生を集団でくすぐるイジメっこ2年生たちがいたり、すみっこで良い雰囲気作ってる百合カップルがいたり、歌って踊ってみる子たちがいたり、女の子たちが大勢集まるととにかく賑やかだ。
僕はそのへんにいた適当な子にペニスのフェラ掃除をさせる。その子の後ろに、ぺたんと違う子が女の子座りして期待の目をキラキラさせる。どんどんそれが長い順番待ちの列になった。しかたなしに僕も順番にペニスを突っ込んでやる。しかしいつまでフェラさせても終わらないなと思ったら、先に咥えてた子が後ろに回って馬跳びリレーみたいになっていた。
これじゃきりがない。僕は女の子たちに命令して手を繋がせた。一列に並んだ女の子たちがその細い腕で一本に繋がる。僕はその端っこの子の手を握って言う。
「僕は魔法使いのトーマ」
女の子たちの首がくたっと力を失って下がる。
でも手はしっかり繋がったままだ。
「僕がこの手に念じると、大きな快楽がこの子に伝わってエクスタシーに達する。そしてそれは隣の子にも伝播する。エクスタシーの波が君たちの手を伝わっていく。隣の子のエクスタシーが君のエクスタシーになり、次の子のエクスタシーになるんだ。しかも波はどんどん大きくなっていく。想像して。思い描いて。僕から発射されたエクスタシーが順番に伝わって、君たちを絶頂させるところを。順番に、どんどん大きく。隣の子をよく見て。君に伝わるのはその子よりももっと大きな快楽だ。しっかりと受け止めて、次の子に引き継ごう。さあ、行くよ」
僕は自分の握っている手に、優しく力を込めた。
「エクスタシー波、発射」
「あっ!? あぁっ、あぁん!」
まず、最初の子が大きな口を開けて、快楽の悲鳴を上げた。本気イキした衝撃がブルブル震える手のひらに伝わってくる。そしてそれは隣の子にも伝播した。最初の子にも負けない声で絶頂を叫び、お尻を浮かせて全身で達した。
僕は彼女たちに何度もエクスタシーを教えている。だから言葉による命令だけでイかせることだって出来る。
三人目の子は、体を前に倒して激しく痙攣した。四人目の子は、アソコからピュピュッと愛液を飛ばした。
「ヒィ!? あっ、あぁぁぁーんッ!」
五人目の子は全身を真っ赤にして、振り絞るような悲鳴を上げ、強烈なエクスタシーにのたうった。
伝播するほど強くなると命令したエクスタシーの波は、「隣の子よりも大きなもの」を想像した女の子たちによって忠実にリレーされていく。悲鳴、痙攣、潮吹き、趣向を凝らしたドミノのように可愛らしくいやらしいアクションを増やして女の子たちは絶頂していく。
「あッ、あぁッ、いやッ、いやああああぁぁぁぁぁッ!」
「やだッ、なに、死んじゃうぅぅぅッ!?」
「イクッ、イクイク、イクッ、あぁ、イク~~~ッ!」
導火線を伝わっていくエクスタシーの火は、やがて怯えて待つ最後の女の子のところへ。
それがチナホだったのはただの偶然だ。
でも、怖がる彼女の表情と、勢いを止めない絶頂の波が僕にスリリングな興奮を与えてくれる。
十六人目の女の子が失神をして、十七人目の子が雷にでも打たれたように激しく痙攣した。
二十二人目の子が拷問でも受けたみたいに暴れだし、二十三人目の子がそれに振り回されながらエビ反って吠えた。
歯をカチカチ鳴らし、なぜか爆弾に備えるみたいに片方の耳をふさぐチナホの見ている前で、二十七人目の子はお尻を高く突き上げて潮を吹き上げ、二十八人目の子が白目を剥く。
やがて最後から三番目の子が失禁して倒れ、恐怖に目をつぶるチナホの隣で手を繋いでいる子が大きな悲鳴を上げて足をピンと伸ばし、そして最後に、チナホが今までに聞いたことのない大声を上げて、グィンと後ろに仰け反った。
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!?」
ビクン、ビクン、僕に向かってみっともなく足も広げてつま先も立てて股を突き上げ、痙攣に合わせてそこから透明の液体を吹き出し、白目を見せた顔から舌とよだれをだらしなくチナホは流した。
いつも控えめな彼女のとんでもない痴態に僕も思わずガッツポーズをしてしまう。しかし彼女の中では行き場を無くしたエクスタシー波がまだ暴れているらしく、何度も何度も悲鳴を上げて彼女は転がり、あちこちに愛液をまき散らしている。
「あぁ……あ……うぅん……はぁ……」
やがて、静かに体を沈めていく。ひっくり返った白目にはすでに意識がなく、だらしなく広がった足の間から、チョロチョロと液体が流れていく。
大人しい優等生のチナホが、みんなの前で大股開いて失禁だなんてちょっとした椿事だな。
周りもちょっと引いていた。さすがにやりすぎたような気もする。僕はマナホと他の女の子にチナホの介抱を頼んだ。
「さあ、気を取り直して遊ぼうか」
「はーい!」
僕のいいなり女の子たちは、すぐに機嫌を直して満面の笑顔を浮かべる。
でも、何をして遊ぼうかな。
そういや、スマートフォンで魔法が使えないかって、こないだいろいろ考えてみたんだった。それを今日は実験してみよう。
僕は録音メモを起動して再生する。
『僕は魔法使いのトーマ』
スマホから流れる僕の声に、女の子たちの意識は沈む。
『僕は魔法使いのトーマ、僕は魔法使いのトーマ』
念のために三回魔法のワードを繰り返して音声は止まる。着実に女の子たちは録音された声で被魔法状態に落ちたようだ。
万が一、口がふさがれることがあっても、これさえ起動できれば被魔法人間はコントロールできる。中学のとき、竹田に屋上から落とされかけた経験もあるので、こういう備えが必要だと思ったんだ。
全裸の女の子たちが、彫像の森のように直立不動の姿勢を保っている。試しに近くにいる女の子のおっぱいを揉んでみても反応はない。アソコに指を入れても微動だにしない。
実験は成功。それじゃ、次の仕掛けはどうだ。
僕はテキスト読み上げアプリを起ち上げ、メッセージを書き込む。そしてもう一度録音メモの次のメッセージを再生する。
『僕は魔法使いのトーマ。今から言う音声の指示に従うこと』
女の子たちはピクリとも動かない。
静まりかえった体育館で、すでに用意したテキストをスマートフォンが機械的な声で読み上げる。
『スワレ』
ざざざ、と音を立てて女の子たちが一斉に床にお尻を落とす。
三角に座る子、正座する子、形はそれぞれだが言われたとおりに反応してくれた。
僕は次の命令を入力する。
『キリツ』
揃った動きで女の子たちは元の直立姿勢に戻る。
白い裸身が整った団体行動を見せる姿は、まるで帝国軍のクローン部隊だ。僕は読み上げ音声をベイダー的に低くする。
『ジュウヲカマエロ』
半分くらいの女子がそれらしく構えてくれたが、残りは「理解不能」の直立を続けていた。次回のパーティはアーミーキャンプ形式にして鍛え直してやる必要がある。
あと、ただでさえ聞き取りづらい機械音声なんだから、名門女子校の生徒たちがいつも耳にしているような、聞き慣れた言葉を命令にしないとダメだな。
『ヨツンバイニナッテシリヲアゲロ』
息を吸って吐くかのように慣れきった動きで、全員が四つん這いになってお尻を広げた。さすがは僕の女の子たちだ。
まだ処女の子もいくらか残っているはずだが、こういう身体検査はいつもやっている。アソコもお尻の穴も命令されれば僕に見せるのは、彼女たちにとっては午後の紅茶を嗜むのと同じくらい当たりまえの習慣である。
『コウカセイショウ』
こんなこともあろうかと録音していた、ここの学校の校歌を流す。静かなピアノ伴奏とともに、少女たちのきれいな歌声が体育館が響き渡る。
聖歌のように壮大なメロディ。清らかさを讃える美しい歌詞。それをまるでお尻の穴に歌わせるような格好で彼女たちは歌う。永遠の理想紡ぎし学舎、あぁ、聖慎女子。
一番を聴いただけであきたので二番は省略した。
『キリツ』
再び女の子たちを立たせる。
次はもう少し複雑な命令を試してみよう。覚醒状態でも発動する条件魔法。味気ない言い方をすれば、後催眠などと呼ばれる類いの魔法だ。
『ボクガテヲ3カイタタクトネコニナル』
『コノメイレイハメヲサマストワスレル』
『ダケドキオクノソコニメイレイハノコッテイル』
『ボクガテヲ3カイタタクトネコニナル』
『キミタチハカナラズネコニナル』
『マタボクガテヲ3カイタタクトニンゲンニモドル』
『イジョウノルールダケキオクノソコニノコシテメヲサマス』
僕が手を3回叩くとネコになる。もう一度それを繰り返すと人に戻る。ただし、普段はそのことを忘れて意識することはない。
言葉にすると簡単だが、命令実現のために必要な魔法のステップは7つか8つくらい踏んでいる。単純に「ネコになれ」と命令するよりもだいぶ複雑だ。
これが上手くいけば、日常的に使いたい魔法命令はだいたいスマホでも可能ということになる。
僕は覚醒の命令も読み上げアプリに任せることにした。
『メヲサマシテクダサイ』
女の子たちが、ふっと瞳に色を取り戻し、ぱちくりとあたりを見回す。
僕のスマホで被魔法状態にされたことは覚えていない。覚えているのは、その寸前の僕の呼びかけだけだ。
「どうしたの? 遊ぼうよ」
「……はーい!」
戸惑いながらも女の子たちは笑顔で応えてくれる。
集まってくる彼女たちに、僕は思い出したふりして違う遊びを提案した。
「そうだ、あれ見せてよ。団体ダンス」
「はーい!」
聖慎女子学園の体育祭は、関係者以外には非公開で行われる乙女の大運動会で、それ目当てで多額の寄付や助成をしてでも理事になりたい金持ちがあとを絶たないというレアなイベントだ。
なんでも、ここは伝統の体育服であるブルマとかいうのがまだ使用されている日本唯一の学園らしい。
生徒たちの評判はあまりよろしくないそうだが、学園側はやめるつもりないそうだ。物心ついたときにはブルマなんてなかったし、そもそも彼女たちの全裸しか知らない僕にはその魅力がいまいちピンと来ないのだが、コマキカードにおいても【ブルマ】は装備変化系ハプニングの基本と位置づけられていることからも鑑みるに、ここでしか見られないリアルブルマに群がる団塊世代も多いのだろう。
まあ、そんな体育祭を目前にして、彼女たちも準備に忙しいそうだ。中でも目玉である団体ダンスにはたくさんの練習時間を割いてるらしい。
1年生から3年生まで同クラスが一丸になって踊る団体ダンスは関係者の人気も高く、勝利チームのポイントも高い。また学年の異なる生徒が仲良くなる絶好の機会なので、ここで生まれる百合カップルも多いそうだ。
女子校ってすごい場所だよね。僕のハーレムの中にもたくさんのカップルがいる。男と付き合われるよりよほど安全なので温かい目で見守っているが、人気のあるマナホやチナホあたりは上級生から相当なアタックを受けているらしい。律儀に僕に操を立ててくれている2人だが、「いっそ双子で付き合ってることにしようか」と疲れた顔でため息をつくときもあった。
などと、脱線したことを考えている間に、ダンス披露のためのフォーメーションが出来上がっていた。
桜組、木蓮組、椿組、桔梗組。4つのクラス別にブロックを作り、きれいに整った隊列を描く全裸の少女たち。
体育館のスピーカーから、今年のテーマ曲が流れた。それに合わせて女の子たちが踊り出す。
若さ弾けるまぶしい肢体。はずむ胸。無邪気な笑顔。なかなかの光景だ。
確かにブルマとかの体操服姿で見ても可愛いかもね。女の子たちが楽しそうに踊ってるってだけで、その場が華やぐパワーが生まれる気がする。
そして彼女たちのダンスも、クラスごとに特徴的だった。
桜組のダンスは、ペアになってくるくる回ったり、追いかけっこしたり、ちょっと芝居じみた振り付けでいろんな表情を見せてくれる楽しげなダンスだった。
テーマは『妖精の庭』だとか。子どもっぽいというか、可愛い系の子が多い桜組の雰囲気にはよく合っていると思った。
その隣では、チナホの所属する木蓮組が、ゆったりとした舞いを見せていた。
といってもテンポが遅れているというわけではなく、日本舞踊をイメージしたダンス構成だからだ。
大人っぽく清楚な雰囲気が桜組とは対照的で、見ていると引き込まれそうな美しさがあった。テーマは『悠久』だって。木蓮組はおとなしめの和風美人な子が多いし、ぴったりという感じだ。
団体ダンスは、全クラス同じ曲を使うけど、解釈はそれぞれの生徒たちに任せるというやり方らしい。もちろん当日はクラスごとに別々に発表するそうだが、こうして一度にやらせると、それぞれの個性がよく見えて楽しかった。
「ゴーゴー!」
別のブロックで、元気な声が上がった。マナホの所属する椿組が、大きくフォーメーションを変えながら、アグレッシブなダンスを披露していた。
テーマは『CHEERS!』で、チアリーディングの動きを取り入れた激しいものだ。運動神経の良い子が多いらしく、驚くほどダンスレベルが高い。おっぱいがバインバイン跳ねて見応えも十分だ。
「ヴィクトリー!」
女の子たちに持ち上げられ、チナホがすごく高く飛んで上空で大股を広げる。容赦なくパックリと広げられたそこに、見慣れているはずの僕も思わず鼻水を吹いた。
もちろん本番ではブルマを着用してるはずだが……来年度には、またここの校舎が新しくなってる気がする。僕の学校との格差は広がる一方だ。
そして、別のブロックでは、苦悶の表情を浮かべ、くねくねと前衛的な踊りを見せている集団があった。
動きが個性的すぎて僕には解釈できない。苦悶というより、ただの変顔になってる子もいる。ゾンビのように踊っているかと思いきや、突然、そのうちの1人が奇声を上げて、それきっかけで全員が無表情に飛び跳ね始めたりする。
なんか怖い。きっと何かしらの物語があってのこの振り付けだと思うが、本気で意味がわからない。それでいてテーマは『青春』ときた。
さすがは“聖慎女子のスリザラン”と呼ばれる桔梗組である。
入学式の前、チナホが「桔梗組はいやだ、桔梗組はいやだ」としきり繰り返していたことを思い出す。僕も桔梗組のこういうノリにはついていけない。しかしそのくせ美人率が最も高く、成績も優秀で、生徒会役員もほとんどここから輩出されてる聖慎の看板クラスだというから、余計にタチが悪い。
各クラスのダンスを、ある程度見せてもらってから、僕は両手を高く構えた。
みんな、自分たちのダンスに集中している。
手のひらを3回、ゆっくりと打ち鳴らす。
「にゃ?」
マナホがYの字に高く足を上げたまま、目をきょろっと回した。
「にゃ、にゃ!?」
そしてそのままバランスを崩して床にへたりこんだ。
「……にゃ~?」
チナホも、他の女の子たちも、2本足で立っていられなくなり、次々に座り込む。
そのままネコのように手を丸め、四足でうろうろし始め、あるいは足で頬を掻こうとして失敗し、そのまま股を広げて横転したり、舌と手で顔を洗う子、互いの顔を舐めあうカップル、丸くなって眠る子、みんなネコになりきって好き勝手に振る舞い始めた。
「にゃ~」
「にゃごにゃご」
「ふみー」
誰一人、人間の子はいない。僕のスマートフォンは100人を超える女の子たちを別の生き物に変えてしまった。
目の前の光景に僕も興奮する。すばらしい結果だ。僕の魔法は今日も重大な進化を遂げた。僕は間違いなく最高の魔法使いだろう。
じゃれる子猫たちに変身した僕のハーレムの中で、再び両手を高く上げて、僕は3回手を叩く。
「……え?」
発情したメスネコのポーズでお尻を突き出していたマナホが、ふと我に返る。
そして、自分と同じように四つんばいになったり丸まっている仲間たちの中で、きょとんとあたりを見渡してる。
「どうしたの、みんな? 音楽はまだ続いているよ?」
「え? え? どうして、私たち……?」
彼女たちの記憶にはネコになっていた間のことは存在しない。練習の成果を僕に披露している最中だったはずだ。
しばらくあっけにとられていたが、一人ずつまた元のフォーメーションに戻ると、気を取り直してダンスを再開する。
桜組の可愛らしいダンス、木蓮組の淑やかな舞踊、椿組のチアリーディングも桔梗組の暗黒舞踏も良い出来だけど。
僕は3度、手を叩く。
「にゃ~ん」
すばらしいのは、僕の魔法だ。
手のひらとスマートフォンだけで人々を自在に踊らせる僕の魔法に勝るダンスはない。
「にゃんにゃん」
マナホが他の女の子たちと四足で追いかけっこしている。
桜組の子たちが暖かそうに重なって、子猫みたいに幸せな顔してお昼寝を始める。
互いの体を舐めあって気持ちよさそうに鳴いている子たちもいる。
「フーッ!」
「フーッ!」
「ふにゃぁ……」
チナホを取り合って睨み合うのは桔梗組の先輩方だな。かわいそうにチナホは縮こまって怯えている。
可愛いネコになって戯れる女の子たちを眺めて笑っていたら、急に一匹のネコが僕に襲い掛かってきた。
「にゃ~ん」
僕を押し倒して、その股間の上でつり目がちな瞳を細める女の子。少し潤んでみえるのは発情しているせいか。
誘惑的な表情にぞくぞくする。ぺろりと唇を舐める舌が、メス猫というより獲物を前にした女豹のようで、僕は捕食される予感にまたぞくりとした。
長い黒髪。女性というより人間としての高い自信に満ちた瞳の輝き。整った鼻筋にバランスよく伸びた唇に歪みのない輪郭を覆う白磁の美肌。すごく美人な女の子だ。それこそルナやジュリといった僕の中学時代の美少女たちにも全然ひけをとらないほどの。
彼女が前年度のミス聖慎。本年度も文句なしにミス聖慎。誰しもが恐れる桔梗組の第46代総委員長で、そして誰しもが憧れの現聖慎女子学園生徒会長、天河タマキだ。
「にゃーん♪」
その彼女が、僕のペニスに頬をつけ、ネコの声を上げてぺろりと僕の下腹部を舐める。
僕が快感に思わずうめくと、嬉しそうに微笑んでぺろぺろと立て続けに舌を這わせる。
それこそ甘えるネコのように可愛らしい仕草なのに、時折僕を見上げる瞳には肉食の迫力があって、僕はそのまま逆らえずに彼女に身を任せる。
柔らかく大きな胸が太ももの上に乗せられる。タマキさんはスタイルも抜群だ。さっきまでものすごい変顔を晒して変な踊りをしていたくせに、素に戻ったときは聖慎の魔王と称されることもある有能で豪腕なスーパー美人で、実家も大富豪らしくてまさに女帝といった風格を漂わせている。桔梗組のあの変な舞踏も、タマキさんの考えた今年の桔梗組のスローガンである『勝ちに走るな、度肝を抜け』を実践してみただけの、ただの悪ふざけだ。
この学園のことなら何でも思いどおりに出来るカリスマ。そんな彼女をネコにしてじゃれつかせている、自分が愉快だ。
「にゃんにゃん」
「にゃー」
僕のペニスをしゃぶるタマキさんに続いて、彼女の熱心な信奉者である副会長のミミコさんと書記のスモモさんが、両側から彼女に寄り添い、僕のペニスに舌を伸ばしてくる。
聖慎女子生徒会によるミルク舐め。近隣高校の男子生徒が見れば憤死しかねない光景だ。
ミミコさんはショートヘアに黒縁メガネ。モエミをちょっと大人っぽくしたような、おだやかで成績優秀な真面目美人だ。常にタマキさんにべったり付き添い、彼女の信頼も厚いことから「天河の軍師」と呼ばれている。
スモモさんはこの2人の1学年下の2年生。ちょっとあどけない可愛い顔をした人で、いつもフルーツ系の可愛いヘアバンドで前髪を結んでいる。今日はバナナか。しかし見た目に反して計算や分析能力が非常に高く、タマキさんリスペクトのクールで辛らつな性格で「小魔王」と呼ばれる人だ。
もちろんこの2名も桔梗組である。こういう人材の集まるクラスらしい。
「にゃ、にゃ」
「ふにゃ~ん」
「にゃっ……ん、にゃ……」
もちろんみんな、僕の女だ。タマキさんもミミコさんもスモモさんも僕は抱いた。みんなの処女も貰った。タマキさんは僕のことを『主殿』と呼んで愛してくれている。
やがて射精に向けて高まっていく性欲を、僕はこの3人にぶつけていく。
「にゃっ、にゃあっ、にゃっ、にゃっ」
「にゃぁぁん! にゃっ、にゃっ」
「にゃん! にゃんにゃん、にゃぁぁん!」
四つんばいしたタマキさんの迫力あるお尻にペニスを突っ込んで、思い切り揺さぶる。
彼女の整った顔が紅潮し、セックスに乱れる様子はいつもオスの喜びを感じさせてくれる。どうせ抱くなら美人がいい。自分の美しさを自覚している女性が、僕にしか見せないアヘ顔を見せてくれるから。
ミミコさんはすでに放心しきって、お尻だけ高く上げた格好で失神している。スモモさんはだらしなく手足を伸ばして、ヒクヒクと痙攣している。
「にゃあ!? んにゃあぁぁぁぁあっ!」
タマキさんもイッていいよ。いくらでも女の子はいる。この学園の頂点にいるのは僕だ。どんな女性も魔法使いには逆らえない。
華やかで、クセがあって、賑やかな女の子たち。
君たちの学園にどんな物語があったのか知らないが、魔法使いが現れたからにはすべてのページが書き換えられる。それは結末のないセックスの物語だ。
君たちの花園で咲き誇る友情も恋も青春も、全部僕が貰っていくよ。
「この中で、まだオスに抱かれていない子猫はいるかい? いれば右手と左足を上げて」
セックスの匂いに寄ってきた発情中の子猫たちに呼びかける。まだ4分の1くらい処女が残っているらしい。早く大人のネコにしてあげないとね。
「おいで。そしてお尻をクイっとあげて。僕が食べやすいように」
右から順に奪っていく。
子ネコの悲鳴が次々に響く。
「順番に撮っていくよ。みんな紙を持って」
彼女たちの連絡先は全て登録済みだけど、アイコンがバラバラなので全裸で統一することにした。
人数も多いので、わかりやすいように彼女たちの名前とスリーサイズとアピールポイントをスケッチブックに書かせて持たせるというアイディアは、ミミコさんが出したものだ。
どうせならと、ボードを持って立ったとたんに被魔法状態のうつろ瞳になるように魔法をかけたのは、僕のアイディアだけど。
「それじゃ、撮ります」
撮影と登録はチナホにやらせる。
僕は品評会のようにずらりと並んだ女子生徒の間を、奴隷商人のように品定めをして歩く。
名前と、スリーサイズ。そしてアピールポイント。
『どんなご奉仕でもします』
『胸のサイズに注目!』
『呼ばれればいつでも参上』
『トーマ様は私の命です』
『孕ませOK!』
『フェラチオ№1宣言』
『家が金持ち』
『ドMです。犬と呼んでください』
『姉妹が3人います』
『主殿の天下を作る』
最後のはタマキさんだ。この人はなんていうか、生まれる時代と性別を間違えてしまったんだろうか。
ぼんやりと裸で立つ少女たちの間をのんびりと眺める。どの子もみんな僕に対する愛を必死にアピールし、そして無表情にそれを値札のように掲げている。美人時計のアプリに画像を使うのも面白そう。
奴隷市場というより、少女工場だな。僕はここにいる女の子たちをどうにでも出来るし、作り変えることもできるんだ。
爽快な気分だった。
「トーマ様、メールです」
「ん?」
チナホが僕にスマホをよこす。
リノの名前が表示されていた。僕はチナホに見えない位置で本文を表示する。
『女としての自信を失いました…泣』
デートは早い時間に終わったようだ。
僕を殺すとまでいっていた勇ましいケイタは、今日も子どものするようなキスしか彼女に出来なかったに違いない。
だって、僕がそういう魔法をかけているからね。
『明日、話を聞くよ』
僕はそれだけ返事して、チナホに撮影を続けるように言う。
いずれはリノも、ここに並べよう。
< つづく >