さよならウィザード 10話

第10話

「あっ、あうっ、あんっ、ご主人様!」

 図書室で古い卒業アルバムをめくっていく。
 そのテーブルの上で、モエミをうつ伏せにしてパンツを脱がせ、覆いかぶさるようにして挿入している。

「ご主人様、あぁっ、みんなが、見てます…ッ」

 モエミが僕の性奴隷であることをこの学校で知らないものはいない。
 昼休みの図書室で勉強をしている真面目な生徒も何人かいるけど、ガタガタとうるさい僕らに迷惑そうな視線を向けても、「セックスをやめろ」と口にできる者はいなかった。
 時々、わざとらしい咳払いが聞こえてくるくらい。むしろ、本に隠れて熱心に観察している人の方が多い。
 僕らは、どっちも気にしないけど。

「んんんっ! ダメ、図書室なんだから、声、我慢しなきゃっ。でも、気持ちよくて、声出ちゃうぅ!」

 モエミのお尻は抜群のクッションになって僕の腰の運動を助ける。
 気持ちよくセックスを楽しみながら、僕は一昨年のアルバムの部活動紹介を眺めていた。

「おととしのアルバムにもない……カヅラ先輩が1年のときには、もう研究会はなかったのか」

 僕は『四階の魔女』の怪談と、カヅラ先輩の関係を調べていた。
 今朝、学校に来てさっそく四階端の教室に行ってみたけど、そこには机と椅子が一組あるだけで誰もいなかった。
 3年の教室を回っても先輩は見つからなく、職員室に行っても「そんな生徒はいない」と言われた。
 自分のことを魔女の亡霊だと言っている先輩が存在を隠しているのは当然予想できたことで、教師はそれを忘れさせられているだけだと最初は思った。だけど、生徒名簿を見せてもらっても奥山カヅラの名前はなかった。
 カヅラ先輩は、僕に偽名を名乗っているかもしれない。
 元々正体を隠して僕と会っていたから、その可能性も十分ある。
 そして、彼女がそこまでして身を隠したい理由に僕は興味を持った。
 恋人の身辺調査なんて下品なことだとは思うけど、愛している人のことを知りたいと思うこの気持ちを無理に止めても意味ないとも思う。
 まずは、魔女の噂とカヅラ先輩の関係。
 リノが前に言っていた“魔法研究会”の存在を僕は調べていた。

「ご、ご主人様は、何を調べてるんですか?」
「んー、ちょっとね」
「あんっ!? んっ、んっ、あぁ!」

 山積みにしている次のアルバムをめくり、モエミの耳たぶをカリっと噛む。
 甘い匂いのする髪を嗅ぎながら、その前の年の部活動紹介を探す。
 あの噂とカヅラ先輩は関係ないのかな? 何年も前になくなっているなら、古い噂に便乗して亡霊を名乗っているだけなんだろうか。
 本当に、ミステリアスな女性だ。わくわくしてくる。

「んんんっ、ご主人様っ、ご主人様!」

 ガタンガタンとテーブルを鳴らしてモエミの中をかき混ぜる。
 3年前にも5年前にも“魔法研究会”は存在しない。そもそも非公式な活動だったのか。ひょっとして、その存在自体が創作だっていう可能性もある。カヅラ先輩の創作だってことも。
 こっちから調べていくのは、ハズレかもしれないな。

「あっ、あっ、あっ、イクっ、イキます! イキます!」

 モエミの声が上ずってきて、生徒の注目がますます集まってきて、僕もスパートをかけていく。
 彼女の膣がぎゅうぅと締まって痙攣を始めたあたりで、僕も引き抜いて彼女の尻に射精する。
 
「あぁぁぁぁんっ!?」

 ビクビク震える尻肉に僕の精液で征服の絵を描いていく。
 参考書の表紙に隠れて僕らを見ている女子の顔は上気していて、男子は股間を隠すように蹲っている。
 あまり勉強の邪魔をしてもよくないので、モエミにはお尻に精液をつけたままパンツを穿かせ、さっさとテーブルを下りる。
 何事もなかったかのように(一部の男子はトイレに中座して)勉強を再開する生徒たちから離れ、モエミにペニスの後始末をさせているとき、彼女は言った。

「あの、ご主人様の放課後の予定は?」
「ん?」

 もう一度、四階の空き教室に行ってみようかとも思っていたけど。
 でも、彼女の正体がわからないうちに押しかけて、勝手に魔法を解いたこともバレたり、怒らせて会ってくれなくなっても困る。
 基本的には毎日会ってくれない人だから、昨日逢瀬があったばかりだしおそらく今日は呼ばれない。無駄足にしかならないだろう。
 こうして学校の歴史からアプローチしても無駄な遠回りにしかならないっぽいし、違う手段をあらためて考えた方が良いかもしれない。

「今のところ予定は特にないかな」
「でしたら私、リノちゃんと家で遊ぶ約束をしましたから、ご主人様もいらっしゃいませんか?」
「僕が?」
「はいっ! ご主人様がリノちゃんを抱けるように、私にもお手伝いさせてください!」
「ふーん」

 そういや、モエミにはリノで遊んでいることを話したんだっけ。
 別にリノを抱くことが目的ってわけでもないんだけどな。まあ、モエミにしてみれば僕がセックス以外に女性に興味を持つとこ見たことないだろうし、そう思っちゃうのも無理ないか。
 でも、リノのことはもうどうでもよくなっていた。
 恋を知らない僕が女子高生の恋を観察したかったっていうだけで、カヅラ先輩との愛を思い出した今では、その実験に意味はない。
 確かにリノも可愛いけど、僕の恋人ほどの魅力を感じているわけでもないし。

「えっと、余計なことしちゃったかな……?」

 モエミは途端に不安そうな顔になる。
 別に余計なことしたとまでは思っていないけど。
 まあ、リノには今までたくさん遊んで貰ったし、中途半端に終わらせるよりは処女でも貰った後にした方が、切りも良いかもしれない。

「いや、いいよ。放課後はリノを抱くよ」
「はいっ! がんばってください、ご主人様!」

 奴隷モエミの応援に、思わず苦笑してしまう。
 がんばる?
 もちろん、僕はカヅラ先輩のことを一生懸命にがんばるつもりだ。

 放課後のモエミの家。
 モエミと入れ違いに部屋に入ってきた僕に、リノは目を丸くしていた。

「あれ、トーマ君もいたの?」
「うん。今来たこと」
「モエミは?」
「しばらく外すって」
「外すって……え、どういうことなの?」

 半笑いでリノは顔を赤くする。おかしなドッキリに引っかかったみたいに。
 いや、ドッキリではあるんだけど。
 まさか今日、自分が処女じゃなくなるなんて思ってなかっただろうし。

「リノ」
「え、な、なに?」

 僕は彼女の座るベッドの隣に腰掛け、じっと顔を見つめる。
 こないだ、僕の顔を見ると甘くて美味しい精液の味を思い出すように魔法をかけたから、彼女も僕の顔から眼を離せなくなる。
 それどころか、引き込まれていく。

「ふたりっきりだよ」
「だ、だから、何よ、もう……」

 近づいてくる僕の顔を、押しとどめるように胸に手を添える。
 でもそれは、そのまま僕の服を摘まむ。

「リノって可愛いよね」
「ケ、ケイタのカノジョですけどねっ」
「そうだね。僕以外の男のカノジョだ」
「……うん」

 頬を指で撫でる。くすぐったそうに首をすくめるだけで、嫌がったりしない。

「……モエミ、本当にいないの?」
「いないよ」

 たぶん、覗いてはいるけど。
 
「やめようよ、こんなの」

 顔を伏せて目を逸らす。
 そのあごを持ち上げてやると、リノは頬を染めてまぶたを緩める。

「やめないよ。やめるわけないだろ」
「トーマ、ダメ」

 甘い誘惑を感じさせる僕の顔から、リノは目を離すことはできない。これまでの数々のエッチなイタズラと、飲ませた精液の甘い味を無意識に眠らせている彼女は、自分自身の持て余している性欲と好奇心を簡単に僕の手に握られてしまう。

「キスするよ」
「するわけ、ない…ッ、んっ」

 軽く触れて、すぐに離す。
 
「バカ、んっ!」

 僕を突き飛ばそうとする肩をしっかり抱きしめ、さらに強引に唇を重ねる。
 リノの唇。何度も奪いかけた唇をあっさり自分のものにする。

「んんんーっ!」

 感慨がまったくないというわけでもないけど、やはり恋しい人との触れ合いとは気持ちの入り方が全然違う。
 リノの唇を割って、舌を差し入れてみた。彼女は驚いて目を見開いた。

「舌、伸ばして。【ベロ見せ】カードで動かし方は教えたよね?」
「んんん…っ」

 僕が舌を動かして絡めていくと、そのうちリノの舌も真似するように動いていく。
 ケイタともまだ経験していないディープキス。
 にゅるりにゅるりと舌を絡ませているうちに、彼女の体から力も抜けていった。
 僕は、その耳元で囁く。

「僕は魔法使いのトーマだ」

 くったりとしたその頬は、興奮に染まっている。
 これまでじっくりと根回ししてきてスケベなイタズラが、処女の彼女をいやらしく反応させている。

「リノ、思い出して。授業中に服を脱がされて、おっぱいやお尻の穴まで僕に見られたことを。放課後の教室で、僕に髪を触らせ、アソコまで見せたことを」

 熱っぽい吐息をリノが吐く。
 耳たぶに唇をつけて、いやらしく囁く。

「今から僕にされるのは、それよりもっと恥ずかしくて気持ちいいことだ。君の体はそれに感じる。ケイタのことを想うよりも、もっとドキドキしてエッチなことを体験するんだ。今から。すぐに。君はとてもドキドキして気持ちいいことを体験する」

 そうして解除してから、もう一度キスをする。

「んんっ!?」

 彼女はビクンと大きく跳ね、舌を柔軟に反応させてきた。
 僕の襟元を強く握り、キスに流されていく自分を繋ぎとめようと爪を立て、そして簡単に流されていく。

「んっ……んっ」

 口の中を遠慮なくまさぐる男の舌に、リノは過敏に体を震わせ、とめどなく溢れる唾液を忙しく飲み込む。
 深く角度を変えて唾液をすすってやると、「んーっ!」と嫌がるように声をくぐもらせたが、逆に僕の唾液を流し込んでやると、その甘さに屈服したのか体から力が抜けた。

「んくっ、んっ」

 僕の唾液がリノの喉をすべり落ちていく。
 顔を角度を変えて、頬を両手で挟んで歯を舐めてやってさらに唾液を大量に飲ませる。こくっ、こくっ、とリノの喉が動いて、両手がだらりと落ちる。

「舌、伸ばして。もっと」

 僕に言われたとおりに舌をだらりと伸ばす。とろんとした瞳は焦点を失っているようにも見えた。キスだけでもう、彼女は堕ちていた。

「んっ、んんっ、んっ」
「もっとリノも動かして。舌の使い方は教えたよね?」
「んんっ、んっ、んっ、んっ」

 ポニーテールのうなじに手を回して、上を向かせる。言われたとおりに舌を動かす彼女がキスに夢中になっている間に、僕は服のボタンを外していく。

「んっ、ね、本当にモエミ来ないの? 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」

 形の良い胸を包むブルーの下着。
 僕にそれを見せながら、リノは見当違いの心配をする。
 モエミは邪魔なんかしない。きっと、今頃は自分の部屋で僕に抱かれようとしている君を覗きながら、オナニーしているよ。

「……ケイタのこと裏切っちゃうの、私たち?」

 首筋にキスをすると、「あうっ」と呻いてリオは肌に汗を浮かべた。
 裏切るとか裏切らないとか、とっくに僕らはその線を超えている。僕らは今までに何度も授業中にも放課後にも遊んできたじゃないか。
 僕らが今からするのも、ただのセックスだ。君との関係を最後にするためのセックスで、ケイタには何も関係ない。これが終わったら勝手に君らもセックスしろよ。
 僕は、もう君のことはいいから。

「トーマ……」

 あぁ、でも肝心なことを忘れていた。
 僕はリノのおっぱいをブラ越しに撫でながら言う。

「リノ、いいんだよね?」
「え……?」
「リノも、僕としたいんだよね?」
「そ、それはっ」

 真っ赤になっていく彼女に、僕は容赦なく迫る。
 これだけは彼女に言わせると前から決めていたから。
 コクリ、とリノは恥ずかしそうに頷く。それだけでは言わせたことにならないので、僕はじっと彼女の顔を見る。
 リノは困ったような顔をして、観念して口を開く。

「……したい」

 あぁ、言ったな。
 彼氏がいるくせに、僕とセックスしたいって。
 これで僕の目的は達成された。くだらない遊びだった。フィナーレに彼女の処女を散らしておしまいだ。
 よくわかったよ、高校生の軽い恋愛ってやつ。
 僕は明日から、本物の恋に生きるよ。
 ブラをはぎ取ると、リノは恥ずかしそうに胸を隠した。スカートを脱がせるとき、彼女は自分から腰を浮かした。

「トーマ、お願い。私たち、どんなことがあっても一緒にいようね? 約束ね?」

 何の重みもない幸せな言葉に、思わず僕は笑ってしまう。
 それもリノは勝手に良いように解釈してしまったのか、コクリと嬉しそうに頷く。
 
「……大好きだよ、トーマ」

 ブラを外す僕の手を、愛おしそうにリノの指がくすぐる。今から自分をオンナにする男の体を確かめるように。
 彼女のおっぱいは、想像していたとおりキレイだった。乳首なんて鮮やかで可愛い形をしている。
 シャツを脱いで、僕の肌も見せてやった。リノは目を細めて、さらに優しい手つきで僕の体に触れてくる。
 僕も、リノの胸に触れた。仰向けの格好でもほとんど型崩れのしない健康的な肌は、直に触れてみると張りのある心地よい感触だった。

「トーマ、いつも私の胸、触りたいって言ってたよね?」

 少し嬉しそうにリノは微笑む。

「いいよ。いっぱい、好きにしていいから。私の胸に触ったのは、トーマが初めてだよ」

 これから処女を捨てるテンションに浮かれてるのか、それとも罪悪感の反動なのか、リノは嬉しそうに胸を突き出し、「あぁん」とわざとらしい嬌声をあげる。でも乳首を軽く撮んでやると、「んんんっ!」と本気で驚いたような声を上げた。
 その乳首を、摘みあげたまま舌でなぞる。「あっ、あっ!」とリノは仰け反って体を突っ張らせる。もう片方の乳房を手の中で優しくこねながら、こっちの乳首を舌でなぶっていく。

「やっ、あっ、なにこれ、んんっ、ビリビリするよぉ!」

 僕の刺激が甘い味になってリノの体に染みていく。初めての体験に彼女は簡単に溺れていく。
 キスをしてやりながら、パンツを脱がせた。意外と毛の濃い彼女のそこは、もうぐっしょり濡れていた。

「ダメっ、そこ見ないで、お願い、あ…っ」

 隠そうとす両手を無理やり剥がして、彼女のソコに顔を近づける。青酸っぱく匂う処女臭。舌に触れる前からどんな味がするかもわかる。僕もう何百人分もの処女の味を知っている。
 ヒダをかき分けるように左右に広げると、リノは両手で顔を隠した。僕の舌が上下に彼女のソコをなぞると、白い喉を反らして引きつったような声を上げた。

「んんっ、やぁっ、トーマ、やめて、そこ、恥ずかしいってばっ、んんっ、あっ、んんんーッ!」

 歯を食いしばって、せいいっぱい声を堪えて、リノはお尻をピクピク浮かせる。でも、僕の魔法で性感を引き上げられている限り、処女であろうが快楽の渦から逃れることは出来ないない。
 今まで羞恥プレイのみで焦らされてきた分、彼女の体は正直すぎるくらいに僕のクンニに反応する。

「あっ、あっ、ダメ、それ、変になっちゃう、私、変だよ、トーマぁ!」

 照れも余裕もなくして、リノは声を張り上げて喘いだ。お尻をベッドの上でバウンドさせて、僕の顔を太ももで挟んだり髪に爪を立てたりして、処女にくせにみっともなく乱れている。
 
「あっ、あっ、あっ、あぁーっ!」

 あまり感じさせすぎると、ケイタとセックスしたとき、がっかりしちゃうかな。
 ぐったりとベッドに体を投げ出すリノは、目の焦点も合わないくらいにイキすぎちゃってて、時々ヒクっと痙攣までしていた。
 いつも処女を抱くときは、この初めての快楽と感動は僕に抱かれるたびに毎回思い出すよう体に記憶させておく。でも今日は省略。このくらいにして、もう処女は奪ってしまおう。

「リノ、足を広げて」
「あ……や、トーマ、恥ずかし……」
「入れるよ」
「え、ちょっと待って、避妊は……ん、あっ!? やっ、待って、痛っ、痛いのっ、あっ!? いた、痛いぃぃ!」

 ぶちぶちと、処女を貫通する。
 リノは大騒ぎしているけど、彼女のソコは十分に濡れていたから侵入は一気に行けた。
 根本まですっかり入れてから、腰を動かす。

「痛いっ、痛いよ、トーマっ。待って、お願いッ!」

 リノの中はとてもきついけど、愛液を僕のペニスで彼膣壁を塗りたくり、摩擦に不慣れだった粘膜を柔らかくほぐしていく。そうしているうちに、だんだんとスムーズに動けるようになっていった。

「ね、お願い、ゴムつけてっ。いた…ッ、お願い、嫌よ、こんな、直接…ッ、ねえ、トーマ! 妊娠したらどうするの、んっ、痛いっ、もっと優しくして、トーマ!」

 うるさい女だな。
 僕は、いったん彼女の中から離れて、ベッド下に置きっぱなしにしていたカバンを漁る。
 そして、リノの大好きなコマキカードを見せる。

「リノ、これを見て」
「あ…ッ、いや、どうしてこんなときに……」
「これは“魔女のカード”だ。君の体はこのカードに逆らえない。カードが示したとおりになる」

 リノの体に慣れ親しんだ幾通りのものパターン。
 僕はセックスにお似合いな格好を選んで彼女に見せた。ポニーテールの子が恥ずかしそうに股を開いているカード。【M字開脚】だ。

「やっ!? やめ、て……」

 カードそっくりにリノが太ももを開く。僕が傷つけたばかりの血を流したアソコを、大きく開いて僕に見せる。

「上手だよ、リノ」
「いやぁ…っ!」

 羞恥で涙目になった彼女のそこへ、再び僕のを押し当てる。「いじわるしないで」と泣き声で言うリノに、興奮が増す。
 僕のが、再び彼女を貫いた。

「いっ、あぁ…ッ!」

 それでも、めいっぱいに体を開いているから、痛みはさっきほどじゃないはずだ。先へ行くほど固く閉じられているリノの中を、僕は体重を込めて一気に潜っていく。

「うぅっ!」

 彼女の愛液も奥まで馴染んでいる。さっきよりも数段動きやすい。女の子の体は、最初は戸惑ってもすぐにセックスに慣れていくんだ。

「リノ、これを見て」
「え、やだ、見たくない、やめて……んんっ」

 それでも彼女の目はカードを見てしまう。そして体は従ってしまう。
 カードの中では、お嬢様っぽいキャラの子が、自分の大きな胸を揉んでいた。オナニーでもしているのか、恍惚の表情を浮かべて。
 これは【パイ揉み】のカードだ。

「んんっ、いやっ、なんでぇ? なんでこんなことするの、んんっ」

 リノが自分で胸を揉みしだく。形のいいおっぱいに彼女自身の細い指が食い込み、ぐにゅぐにゅと形を変える。

「僕はリノにも気持ちよくなって欲しいだけだよ。ほら、このカードをよく見てよ。もっと気持ちよさそうな顔をしてるよ」
「んっ、んんっ、あっ、だめぇっ」

 カードの中の女の子は、目も上向いて舌も出ている。
 その表情がリノにも移って、彼女もまた目を剥いて舌を出す。

「ひゃあ、トーマ、だめ、あぁ、あんっ」

 感度もまた上がっている。
 授業中に何度もこのコマキカードに調教された体は、イラストの女の子になりきってエロい反応を見せる。

「らめぇ、なんで、あんっ、あぁっ!」

 恥ずかしげもなく自分で胸を揉みながら悶える処女。
 僕は彼女の中で腰を動かしながら、さらにカードをめくる。
 裸の胸と股間を恥ずかしそうに隠す魔法少女。【戦闘中に服ビリビリ】のカードだ。

「え、やだっ!?」

 リノは驚いたように真っ赤になり、自分の体を隠そうともがく。
 だけど、足を開いて男に挿入されているのに、簡単に隠れるはずがない。裸に対する羞恥が急上昇して、赤くなった顔を覆って「見ないでぇ!」と叫ぶ。

「リノ、可愛いよ」
「やだっ、やっ、見ないで、本当に、んんっ、恥ずかしいのっ、やだぁ」

 胸まで赤くして、必死に手を動かして体を守ろうと暴れている。カードの中に描かれている少女と同じく、裸を他人に見られることへの羞恥と恐怖で混乱している。
 僕たちはセックスまでしているというのに、それよりもおっぱいを見られたことに強い反応を見せていた。

「あぁっ、恥ずかしいっ、見ないで、見ないでよぉ」

 僕は、さらに違うカードを彼女に見せる。
 敵に十字架に磔にされるという魔法少女のお約束状況、【例のパターン】を。
 
「やっ!?」
 
 リノ両手が見えない力に引っ張られるように開き、ベッドの上に固定される。
 彼女の健康的で上向きな胸が、ぷるんと震える。

「いやあ!」

 僕が腰を揺すると、ベッドに磔になった彼女の乳房もピンク色の頂点を上下に揺さぶる。
 10代って本当に素敵だよね。
 どんな格好をさせて犯しても体が最高のリアクションをしてくれる。

「あぁっ、やっ、恥ずかしいのっ。本当に、恥ずかしいの、トーマ!」

 胸元まで真っ赤になった顔。
 瑞々しく弾む体。
 魔法に敏感な女子高生。

「ほら、もう一度」

 さっきの【パイ揉み】をもう一度出す。
 リノは、泣きそうな顔をして自分の胸を揉みしだき出した。羞恥と快感とで複雑に顔を歪めて、クラス一の美少女がだらしなくセックスに乱れていく。

「あぁっ、やあっ、お願い、優しく、してぇっ。トーマ、好きなの、トーマ、お願いぃ」

 リノのアソコがきゅっきゅと絞まって、彼女の混乱と快楽と恐怖を僕のソコに伝えてくる。
 でも、最後はみんなセックスの気持ちよさに負けるんだ。
 魔法のオチンチンのこと、女の子は大好きになってしまうんだよ。

「あぁっ、あぁっ、トーマ、トーマぁ」

 リノの腰が少し浮いて、僕に押しつけるようにぐいぐい揺れる。
 おっぱいを揉んでいる指が、白い肌に強く食い込んでいく。

「トーマ……トーマぁ!」

 彼女の陰毛が濡れて肌に張りつき、上気した瞳も濡れていく。
 セックスの快楽を覚えて、高校生の健康的な体が女の肌に変わっていく。

「あぁー!」

 そして反り返ってよがる彼女に、僕は次のカードを見せる。
 
 【赤ちゃん帰り】
 
 ベビー服を着た魔法少女が、違う魔法少女に抱かれて、おっぱいに吸いついているカードだ。

「んっ、ちゅぱっ、はぁっ、だぁ、ちゅぱっ、ちゅぱっ」

 リノは僕の体にしがみついて、乳首に吸いついてくる。
 赤ん坊というよりも、だいしゅきホールドってやつみたい。だけどちゃんと赤ん坊らしく、「ばぶぅ」なんて言っててウケる。

 【ベリーダンス】
 
 セクシーなへそ出し衣装を着た魔法少女たちが、腰を突き出すようにして踊っているカード。
 リノも、腰を僕に押しつけるようにして左右に揺すりだす。

「あぁ~ッ! やっ、なんで、なんでぇ!」

 不自由な格好で、不器用ながらもエロい腰つき。
 僕のペニスにも強い刺激を与えてくれる。なんだか笑ってしまう。

「あ、遊んでるでしょっ。もう、やめてってばぁ。普通に、抱いてよぉ!」

 バリエーションが豊富すぎるコマキカードが悪いんだ。どんな背景でこんなカードが生まれているのか、愛好家の僕もわけがわからない。
 まさかエンディングアニメが、ベリーダンスなんだろうか?
 
「あっ、あっ、あんっ、トーマっ、はぁっ、トーマぁ!」

 ベッドを軋ませながら、リノの体と脳みそを弄びながら、処女女子高生とのセックスを堪能する。
 あぁ、気持ちいいよ。リノ。
 これからは、そうやってケイタのことを喜ばせてあげなよ。
 僕も、これからは本物の恋人を抱くんだ。

「そろそろ出すよ、リノ」
「んっ、あ、トーマ、待って。なんだか、んんっ、私、体が、へん…っ!」
「それ、そのままでいいんだよ。イクってやつだろ。君だって知ってるはずだ」
「でもっ、こんなに強いの、私知らない…ッ!」
「いいから、そのまま感じてなよ」
「あぁー! あっ、あっ、トーマ、待って、強くしないで、あぁっ、あぁー!」

 リノの腰を掴んで揺さぶると、白い喉を見せて彼女は胸を突き出すように反り返る。
 そして、シーツを握り絞めて大きな声で言う。

「あぁ~ッ! イクっ、イク! イク~ッ!」

 僕は、リノの中から引き抜いておっぱいめがけて発射した。
 リノは、ビクンビクンと何度もお腹を痙攣させて、舌を伸ばしていた。

「……ね、ねえ?」

 事を終えて制服を着ている僕の後ろで、リノがモエミのベッドシーツで体を隠しながら言う。

「明日、一緒にケイタと話してくれる?」
「ん?」

 困ったように少し笑い、そして真剣な顔をして。

「ちゃんと話し合って別れたいから。その、私の気持ちを正直にケイタに話すから、トーマにもいて欲しいの」

 あぁ。
 そういえば誤解を誤解のまま適当に抱いてたっけ。
 別に、彼らがどうなろうと僕の知ったことではないんだけど、そんなものに巻き込まれるのは当然ごめんだった。

「いや、別れることはないんじゃないの。今日のことを話すのはリノの勝手だけど、ケイタとのこと考えたら黙ってた方がお互いのためだと思うよ」
「……え?」

 何を言ってるの。
 という顔でリノは薄く笑って、そしてどんどん青ざめていく。

「……私と付き合ってくれるんじゃないの?」
「まさか。僕には、すごく大切に想ってる恋人がいるんだ。リノと付き合うのは本気で無理だよ」
「う、うそ!」

 青ざめた顔をみるみる赤くして、シーツを捨てて立ち上がる。
 さっき僕の下で揺れていたおっぱいが、またぷるんと瑞々しく弾む。

「じゃあ……ど、どうして抱いたのよ!」

 処女だからだよ。
 と、僕は彼女に正直に告げる。
 もう価値がなくなった体を見下ろしながら。

「君だって僕に抱かれたいって言ったろ。僕も抱きたいから抱いた。ケイタのことなんて関係ないよ。君が大事に想っているんなら、ケイタにも抱かせたらいいんじゃないかな。僕はもう満足したから」
「うそでしょ……なんでそんなこと言えるの? あんた、頭おかしいんじゃないの!」

 袖のボタンを留めてブレザーを羽織り、涙をポロポロ落としているリノの体を見る。
 美少女だと思う。
 セックスもよかった。
 中学時代に出会っていたら、王族の1人にはしてあげてたかもしれない。
 でもそのくらいだ。彼女は僕にとって特別な女の子じゃない。

「モエミ、いる?」

 僕は部屋の外でおそらく待っているだろうモエミに声をかけた。

「はい」

 扉の向こうで彼女が返事する。
 唖然としてしまっているリノをチラリと見て、「あとは任せていい?」と彼女に聞いた。

「はいっ」

 カチャリとドアを開けてモエミが入ってくる。
 自分の仕事を誇るように、晴れがましい笑顔で。

「リノ、すごいよかったよ」
「そうですか、おめでとうございます!」

 頭を撫でてやると、モエミはもっと嬉しそうに笑った。
 なんだか子犬みたいで可愛い。
 彼女は、どんどん僕のメス犬になっていく。

「……いや……」

 うしろでリノが何やら呟いてるけど、僕はもう関係なかった。
 あとのことは性奴隷に任せて、カヅラ先輩のことだけ考えよう。

「いやあああああッ!」

 僕は、僕の恋に生きよう。

 いつもの退屈な通学路も、彼女のいる場所に近づいているんだと思えば自然と足取りも弾む。
 少し浮かれすぎじゃないかと、ちょっとだけ恥ずかしくなったりはするけど、それよりも今は浮かれている自分を楽しみたい気持ちの方が強い。
 だって恋だ。
 恋をしてんだから浮かれるのは当たり前じゃないかと開き直って鼻歌まで歌ってみる。あぁ、やっぱり今の僕はやばい。ちょっとどうかしてる。
 でも、ニヤケてしまう。

「ご主人様」

 ホームまでの階段を登る僕に、モエミが追いついてきた。しっぽを振りながら走ってきたみたいに、息が弾んでいる。

「おはようございます」

 そして、ぎゅっと僕の腕をそのおっぱいに挟んで笑顔で見上げてくる。
 おはようと、僕も答えて胸を軽く揉んだ。「ふふっ」と微笑んでモエミは肩に頭を乗せてくる。

「モエミ、今日の下着は?」
「はい」

 チラリとスカートをめくって、紐の下着を見せた。
 今日は紐パンの日か。律儀にローテーションを守る彼女は本当に優秀な性奴隷だなと思う。

「んっ、あん、ご主人様……」

 電車の中でそのお尻に指を這わせながら、僕は学校に着いたらまずは4階のあの部屋を覗いてみようかな、なんてことを考える。
 早く彼女に会いたい。
 彼女のこんな声が聞きたい。

「トーマ」

 学校に着いて、玄関で靴を履き替えてたら上から声をかけられた。
 ケイタがその高い身長で僕を見下ろしている。
 ニッコリと笑顔で、僕も応える。

「あぁ、おはよ―――」

 目の前の光景が高速にブレて、ガンと頭がロッカーに当たる。
 殴られたのかと、思ったらもう膝の力が抜けて意識が飛んでた。

 ―――頬に冷たくて硬い床が当たった。
 見覚えのないピカピカのフローリングで、むやみに広い。
 素足の学生が数人いる。竹刀を持ったケイタと同級生の男子。
 おそらくケイタと同じ剣道部なのだろう彼らは、モエミを二人がかりで羽交い締めにして、口もふさいでいた。
 1人は知っている。前にモエミに「付き合ってくれ」と告白をしてきた神田だ。
 ここはおそらく道場で、僕たちの他には誰もいない。
 と、思ったらすみっこでグスグスと泣いている女子が1名。
 リノだった。
 お腹に強烈な蹴りが入る。ケイタ1人で僕をボコって、他の奴らはそれを引き気味に眺めている。
 リノが悲鳴を上げる。モエミもくぐもった声を上げるけど、大きな胸を揺らすだけで身動きもとれない。
 振りかぶった竹刀が太ももを叩く。体を丸めるしか出来ない僕の全身を痛めつけていく。
 殺されるかもという恐怖に手足が強張らせる

「僕は魔法使いの――」

 キーワードを言い終えるヒマもなく、お腹を蹴られて転がる。
 そして喉も蹴られた。呼吸が詰まって声が出なくなる。

「やめて、ケイタ! やりすぎだよ!」

 リノが泣きながら叫んで、ようやくケイタの暴力が止まった。
 喉が破れたかと思うくらい痛くて、せきをしただけで激痛が走る。

「やりすぎ?」

 ケイタは、息を弾ませながら笑った。

「俺はコイツに言ったんだ。リノに手を出したら殺すって。言ってあったんだよ!」
「……ケイタ……」

 リノが涙目で僕を見る。
 あぁ、そう。君はケイタにちゃんと告白したんだ。リノらしいと言えばらしい。
 僕は彼女にケイタには言わないように命令するのも忘れていた。どうでもいいと思っていた。
 そして、肝心なことを忘れていた。
 彼らだって彼らなりに恋をしている。
 奪われたら相手を殺したくなるくらいに。
 わかるよ。
 今なら僕にも、その気持ちはわかる。

「あああああッ!」

 竹刀が2度3度と振り下ろされる。
 頭をかばって転がっているしかなかった。メガネは割れて吹っ飛んでいった。

「ケイタ、もうよそうぜ。おまえ、やりすぎだって」
「ここまでやるなんて、俺たち聞いてねぇし」

 モエミを押さえている男子は、キレちゃってるケイタに完全に引いていた。
 そのせいで力が緩んだ。モエミは、彼らは振り払って叫ぶ。

「やめて!」

 振り下ろそうとしていたケイタの竹刀が止まる。

「手を離して!」

 そして、彼女を押さえつけていた男子たちが、パッと揃えたように手を離す。

 “モエミが禁止の言葉を口にしたときは従わないといけない”

 僕自身も忘れかけていたけど、この学校の男子には特別なルールがある。性奴隷としていつでもどこでもセックスを人前に晒しているモエミを守るためのルール。
 それがあったんだ。

「お願い……トーマ君に乱暴しないで」

 だけど、それじゃ足りない。“お願い”じゃダメなんだ。
 拒絶の命令じゃないと、彼らを動かせない。
 モエミは、陶酔したように目を緩ませ、うっすらと笑みを浮かべる。

「トーマ君の代わりに、私を好きにしてください。どんなことでもします……ご主人様を守るためなら」

 狂気に近い瞳の色をしていた。僕だけじゃなく、リノやケイタも戸惑ったように視線を泳がせる。
 優等生で親切なモエミが、僕に抱かれるとき以外でこんなに妖艶な空気を出すことはない。
 というよりも、どこか狂ったような陶酔感に溺れている彼女は、暴力と恐怖に心のタガが外れているように見える。
 いつもそばにいた彼女の、どこにこんな狂気が眠っていたのかと僕が驚くくらいに。

「……いいの?」

 神田が目の色を変えた。その瞳は魔法が揺らめいている。
 最悪なときに最悪は重なるものだ。
 思い出したよ。
 彼には、“モエミの意見に逆らえない”と命令していた。

「はい。好きにしてください。乱暴にしてくれてもいいです。その代わり、トーマ君には手をださないで」
「あぁ。約束する。俺はトーマに手を出さない。その代わり……モエミさんには手を出していいんだよね!」

 神田の手が乱暴にモエミの制服を脱がしにかかる。
 脱がせ方を知らない不器用な手は興奮にもつれて、乱暴に制服を引き裂いていく。

「お、おい、マジでするなよ、そんなの!」

 もう1人の男が神田を止めようとするけど、それも乱暴に振り払って神田はモエミに貪りつく。
 モエミは、じっと体を強張らせてされるがままになっている。

「ちょっと、やめてっ。ケイタもやめさせて!」

 だけどケイタは、「へへっ」と自分を鼓舞するようにヤケクソ気味に笑う。

「見ろ、トーマ! てめえの女を、神田がめちゃくちゃに犯ってやるっ! おまえがやったのと同じこと、てめえの目で見てみろよ!」

 モエミが床に押し倒されて、白いブラを剥きだしにされて胸を握られる。「ううっ」と痛みに顔を歪めて、それでも神田の好きにさせている。

「おい……マジでやっていいのか?」

 狼狽えるだけだったもう1人の剣道部が、この異様な状況に当てられたのか頬を赤くしている。
 モエミが僕の性奴隷なのを知らない生徒はいない。その胸とお尻が僕のためにどれだけいやらしく動くのか、目を奪われたことのない男子もいない。モエミは性奴隷。人前で犯されても喜ぶ女。男子なら誰でもそう思っている。
 ケイタは、「あぁ」と短く答えた。
 彼もまた普通の状態じゃなくなっていた。

「やめて……やめてよ、こんなの……」

 リノは自分の体を抱くようにして膝をつく。真っ青になっていた。
 口の中に溜まった血をごくりと飲んで、僕は声を振り絞る。

「僕は……魔法使いの……」
「黙ってろよ」

 ケイタは足を僕の胃に食い込ませる。部活系男子の力は、帰宅部草食系の僕を子どものように封じ込めた。容赦なく、否応なく。

「おまえのせいだ。悪いのはおまえなんだよ」

 狂気は伝染する。
 異常心理は伝播する。
 それがどのくらい簡単に発生するかは僕が誰よりも知っている。
 僕の魔法に縛られた経験のある彼らは、誰よりも濃くそれを発生させているモエミの異常さに、ズブズブとハマっていった。

「……ははっ……」

 男子たちの手で陵辱されようとしている同級生を見て、リノもとうとう笑った。神田とその友人の鼻息がまるで獲物を貪るケモノみたいに粘っこく響く。
 痛みで気を失いかけている僕が、むしろこの場では一番意識がしっかりしていた。
 狂気につられていく高校生たちの顔。
 乱暴に引きちぎられたブラジャーが宙に舞う。
 モエミは、狂っていく同級生を見て微笑んですらいた。

「―――ひーっひっひっひっ!」

 道場の扉をガンと開いて、黒髪を振り乱した女子生徒が乱入してくる。
 オカルト映画のワンシーンみたいに突然で、あっけに取られる僕らの前に彼女は芝居じみた仕草で両手を広げ、そして魔法の杖のように細い腕を突き出して笑う。

「私は四階に封じられし魔女の亡霊。塵より生まれた怨念。おまえたち6つの狂気が、星を描いて私を召還した。ひひっ……私を火あぶりにしたのは、だ~れだ?」

 ぺろりと舌を出して、分厚いメガネの底で笑う。
 カヅラ先輩。
 僕の恋人。
 どうしてこんなところに。

「きゃああああああッ!?」

 リノが悲鳴を上げた。
 僕も慌てて立ち上がろうとしたが、全身が痛んで起き上がれない。ケイタにまた踏んづけられる。

「……なんだ、このババア?」
「生徒じゃないよな、どう見ても」
「魔女! この人が魔女よ! この人のせいで、私も、トーマもおかしくなったの! 魔女のカードで!」

 リノが真っ赤になって叫ぶ。
 でもそうじゃない。
 カヅラ先輩の噂を利用して、僕が君を弄んだだけだ。カヅラ先輩は何も関係ない。

「ひ~っひっひっひっ! 私はこの学校の如何なる場所にも存在する。学校そのものが私の魂の杯なのだからな。おまえのこともよく知っているぞ、小田リノ。そして近藤ケイタ! 我が究極の魔法の実験体としておまえたちを選んだのは、この私なのだからな!」
「いや……やああああッ!」

 カヅラ先輩が僕の危機に姿を現したのも意外だけど、リノたちのことを知っていたのも意外だ。
 僕は彼女に実験の話をしたことなかったはずだ。僕のクラスのことだってそうだ。
 なのに、どうして―――
 カヅラ先輩は、十分に彼らの意識を引きつけ、ブルースリーのように両手を広げて魔法を宣言する。

「“私は魔女(ウィッチ)のカヅラ”だ……心を空にしろ」

 ストンと心に穴が開く。僕もまたカヅラ先輩の人形だ。
 思考が止まって、意識は目の前の事象を捉えるだけの器になる。
 カヅラ先輩が笑っている。

「くくくっ……忠実なる我がしもべたちよ。むやみに若い肉体を重なり合わせるのはやめろ。互いに離れるのだ」

 ケイタの足が僕から離れた。
 モエミの体から2人が離れた。
 僕らの瞳は空っぽだ。カヅラ先輩のお人形だ。
 しかし、小さな雑音も聞こえてくる。

「……うるせえ」

 低く唸る声。カヅラ先輩のものじゃない。

「うるせえ!」

 僕の鼓膜も震えて、固まっていた体も解けた。
 カヅラ先輩の魔法を解除したのは、ケイタだった。

「……ひひっ。さすが魔法使い(ウィザード)の玩具。私なんかに横取りはされないか」

 この学園を支配してきたカヅラ先輩でも、今年入学してきた僕らへの支配力は弱い。
 なぜなら彼らは先輩ではなく僕に支配されている。僕たちの魔法戦争は、ハッキリ言えば僕の勝ちだったから。

「僕は……魔法使いの……」
「てめえもうるせぇよ!」

 次は、もっと短いワードをカギにした方がいいな。
 言い終える前にケイタに蹴られた僕は、お腹を押さえて転がる。

「ババアっ! おまえが黒幕か? おまえがリノを傷つけたのか!」
「ひひっ。だからどうした、少年? 熱くなると思考が鈍るぞ。同じ説明が何度も必要か?」
「舐めたこと言うな!」

 ケイタが投げた竹刀が、カヅラ先輩の額に当たる。僕は思わず目をつぶる。
 でも、カヅラ先輩はニタニタと笑っている。血を流しながら凄惨に笑っている。

「舐めているのはどちらだ、少年? 君はそこに転がっている子を殺すと言ったな。だが、その子を殺して何になる? 私がおまえたちを狂わせた呪いの魔女だ。おまえの恋人の処女を奪ったのは私だ。その私に、棒きれをぶつけて満足か? 私がこんなもので死ぬと思ったか?」

 魔女を殺すのは火だ。くくりつけて火あぶりにしろ。
 カヅラ先輩は、中指を立てて言う。
 そこに、もう片方の中指で十字架を作って笑う。

「攻撃に予備動作を与えてはならない。瞬時に放て。でなければ、私の魔法が先におまえを焼くぞ?」
「気持ち悪いんだよ、ババア!」

 足にすがりついて止めようとするのも間に合わず、ケイタの跳び蹴りがカヅラ先輩の小さな体を吹っ飛ばしてしまう。
 簡単に転がってしまったカヅラ先輩を、ケイタはさらに追い討ちをかけにいく。
 やめてくれ。その人は僕の恋人なんだ。
 叫ぼうにも声が出ない僕。無力な魔法使いの僕。
 だけど、その僕に代わって魔法の言葉が鳴り響く。

『ボクハ マホウツカイノ トーマ』

 スマートフォンのテキスト読み上げアプリが、機械音声を響かせた。
 ケイタに痛みつけられている最中に飛んでったのか、離れた床に転がっているスマホが勝手にしゃべりだす。
 
『ゼンイン ネムレ』

 それこそまるで魔法みたいに、僕も操作していないというのにスマホ魔法が道場に鳴り響いて支配した。
 ごろりと、ケイタの体が崩れ落ちる。リノも、モエミも、神田も、もう1人の剣道部員も。
 僕のあずかり知らない魔法で、眠りの底へ落ちていく。
 カヅラ先輩まで。

「……カヅラ先輩っ」

 掠れた声で僕のウィッチの名を呼び、床を這って辿り着く。
 彼女の意識は眠っている。でも、その細い体で心臓がバクバクと鳴っていた。僕は必死に彼女を抱きしめる。

「カヅラ先輩っ、起きてっ。あなただけ、魔法を解除するっ」

 額のケガはたいしたことなさそうだ。だけどひどい蹴られ方をしていた。
 ケイタには後で地獄を見てもらう。必ず仕返しはする。
 僕の恋人に、よくも―――

「あぁ、カヅラ先輩っ。しっかりしてくださいっ」

 目を開けた先輩は、僕の顔を見て、周りを見て、そしてニタリといつもの笑顔を浮かべて。

「……君が悪いんだぞ、トーマ」

 僕の額に指を当て、「“眠れ”」と魔法を発した。

< つづく >

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