23
「ただいま~。あら、お客さんなの?」
見慣れぬスニーカーを見つけたからか、玄関から若くて元気な声がした。
老婆の話を聞きはじめてから1時間ほどが経っていた。
「おかえり、結花。こっちへおいで」
「いらっしゃいませ」
紺色の制服を着た娘が隼人の姿を確かめもせずにペコリと頭を下げた。
長いストレートヘアーが垂れ下がって顔は見えない。背は高く、身体は細い。が、バネのような強靱さも感じられる。
「結花、こちらはお前の大切な人になるお方じゃ」
「えっ?」
結花と呼ばれた少女が顔を上げる。
二重まぶたの大きな眼と尖った顎が溌剌とした印象だった。
よく動く瞳が隼人を見つめている。
「壬生結花です。よろしくお願いします」
隼人と目が合うと少女はまた頭を下げた。
「斎部隼人です。よろしく」
隼人も自己紹介する。
「隼人・・・さん・・・」
結花は興味深そうな眼をして隼人を見つめる。
「結花」
老婆が言う。
「はい」
「こちらのお方は『サイ』じゃ」
「えっ・・・ほんとに・・・そしたら私・・・」
「そうじゃ。準備をしてくるがいい。この日が来るかもしれないことは伝えてあったはずじゃ」
「この人が・・・」
「そうじゃ。不服は許さん」
「よかった・・・」
「ん?」
「だって・・・古めかしいオジサンだったらどうしようって思ってたんだもん」
「つまらんことを言わんでいい。はやく支度を」
「は~い」
元気な声で少女は答えてドアの外へ出て行く。階段を上る音がする。少女の部屋は二階なのだろう。
「あの娘には幼いころから因果を含めておる。しかし、どうやら、お前さんが気に入ったようじゃ。これで、わたしも安心じゃ」
「じゃあ・・・」
「そうじゃよ。あの娘はお前さんに抱かれる準備をしておるんじゃ」
「そんな・・・」
「お前さんも一族ならわかるはずじゃ」
「はい」
運命に従うのも運命。そうでなくても、さっきまで目の前にいた少女は魅力的だった。
「それから、お願いがあるんじゃ」
「なんですか?」
「あの娘に術をかけるとき、痛みはすぐに快感になると言って欲しい。かわいい孫が痛がる姿は見たくない」
「じゃあ、お婆さんの目の前で・・・」
「そうじゃよ。お前さんが力を得たときにも父親がいたはず。それが一族のしきたりじゃ」
「そうか・・・」
「痛がらないようにして欲しいと言ったのは、わたしの老婆心じゃ」
老婆はそう言ってカラカラと笑った。
そのくだけた物言いに、隼人はすっかり老婆のことが好きになっていた。
「あと、もうひとつ」
「なんでしょう?」
「あの娘の感覚を、わたしも感じてみたいんじゃ。死ぬ前にもう一度味わってみたい。お前さんにはその力があるはずじゃ」
「だって・・・そうするには、お婆さんに『サイ』をかけなきゃならないんですよ。いいんですか?」
「知らんようじゃな」
「なにを?」
「術をかけられるのは気持ちがいいんじゃよ。もしかしたら、ちょっと悪いことをしていると思っているのではないかな?」
「はい・・・たしかに・・・」
「かけられるだけで、交わらなくとも夢の中にいるような気持ちになれるんじゃ。これからも、どんな女にも遠慮せずにかけるがよい」
老婆の言葉は隼人のわだかまりを取り除いてくれた。
「じゃあ、お婆さん。僕の眼を見て」
「うむ、うむ」
老婆の顔は期待と歓喜に満ちていた。
「サイ」
隼人が唱えると老婆は恍惚とした表情になった。
「お婆さんは『サイ』をかけられても普段どおりに話せるし行動もできる。そして解いた後もかけられた最中のことは忘れない。いいね?」
「もちろんじゃ。いい気持ちじゃよ。ありがとう」
老婆は笑って答えた。
しばらく待つと結花がバスタオルを巻いた姿で現れた。洗い髪が艶やかに光っている。
「身を清めてまいりました。どうぞ、よろしくお願いします」
結花はペコリと頭を下げる。
その姿は息を飲むほど美しかった。剥き出しの肩、長い脚の素肌が白く輝いて見えた。
「覚悟ができているんだね」
「はい。おばあちゃんから言い聞かされてきましたから。私に力を授けてくれる方が、あなたのような人でよかった」
そう言って恥ずかしそうに微笑む少女にためらいは見られなかった。
「わかった。僕も結花ちゃんみたいに魅力的な娘と結ばれるのはうれしい。僕を見て」
「はい」
結花は真っ直ぐ隼人を見つめる。
隼人は結花の額に手をかざす。そうする方がいいと思った。できるだけ丁寧に扱いたいという気持ちの表れだった。
「サイ」
腹の底から力を込めて隼人が唱える。あの力が手のひらからほとばしった。
結花の身体がビクンと震える。両手から力が抜けバスタオルが足元に落ちた。
張りのあるバストは南川琴音より丸みがあって大きい。比べることに意味などないが、どうしてもそうしてしまうのは男の性なんだろうと隼人は思った。
背丈は170センチくらいありそうだ。筋肉質の身体を女性らしい薄い脂肪層が包んでたおやかな曲面を作り出している。ヘアーは淡いというよりかはスリットが見えるほどまばらだ。まだ発達途上なのかもしれない。
「きれいだね。なにかスポーツとかやってるの?」
「バレエをやっています・・・」
「踊るのが好きなんだ」
「壬生は巫女の家系です。アメノウズメが祖先だと言われています。幼いころから踊ることは好きでした」
「結花ちゃんが踊っているところを見たいな」
社交辞令ではなかった。本気で隼人は見たいと思った。
「では、ここでご覧に入れましょう」
そう言って結花が両手をひろげて爪先立ったとき背中から後光が差して見えた。その容姿やスタイルだけからではなく、一流のバレエ団で主役を演じても通用するなにかが結花にはあった。
瀕死の白鳥がそこにいるのが知識のない隼人にもわかった。音楽が聞こえてくるようだった。
「すごい・・・初めて見るけど、すごいことだけはわかるよ」
無意識に隼人は拍手をしていた。
「ありがとうございます」
結花は深々とお辞儀をする。
裸であることを感じさせない自然な動作だった。
「僕はこれから結花ちゃんを抱く。これが運命だからね。でも結花ちゃんの嫌なことはしたくない。痛かったり、嫌だったりしたら言ってね」
「私は、この日がくるのを待ち望んでいました。隼人さん、どうか私に力を授けてください。この身が裂かれてもかまいません」
トランス状態なのに結花は隼人を見据えながら言った。
「いや、結花ちゃんに苦痛はない。僕が結花ちゃんの中へ入ったときだけ痛みを感じるかもしれない。でも、それはすぐに快感へと変わる。僕の身体は結花ちゃんの感覚を引き出す魔法の杖みたいなものだ。僕が触れば経験したことがないくらい気持ちがよくなる。たとえば・・・ほら・・・」
何も考えていないのに言葉が出る。
隼人は手を伸ばして指先で乳首に軽く触れた。
「あんっ・・・」
結花は甘い声で喘いだ。
「どう?」
「電気が走ったみたい。すごく気持ちいいです」
「じゃあ、これは?」
隼人は、その指先を下腹へと滑らせる。
「は・・・ああんっ・・・」
結花の声は年下とは思えないほど色っぽい。
「僕のことを待っていたって言ったよね?」
「はい・・・」
「僕は今日まで結花ちゃんと結ばれることを知らなかった。それなのに、いまはすごくうれしいんだ。この僕が結花ちゃんの役に立てるなんて」
「私だけじゃありません。おばあちゃんも隼人さんを待ち望んでいました。それに、あなたは『ム』とも結ばれます」
神託を告げる巫女独特の眼で結花は言った。
「わかるの? ほんとに・・・?」
「はい。私には見えます・・・」
「どこで?」
「はっきりとはわかりません。でも近い将来、結ばれることは確実です」
「そうなんだ・・・」
「今日は私のハレの日。どうか思う存分かわいがってください。この日のために私は生きてきました。『ミ』は『サイ』のしもべです。なんなりと言いつけてください」
結花の言葉を聞いて隼人は奮い立った。昨夜、南川琴音にしたように味わい尽くしたいと思った。
「結花ちゃん、そこへ横になって」
「はい・・・」
カーペットの床に滑らかな動作で結花は横たわった。
その間に隼人も服を脱ぐ。
「結花ちゃんは男性経験まったくなし?」
「はい」
「キスも?」
「はい」
「じゃあキスからはじめよう」
隼人は結花に覆い被さるように四つん這いになって、ゆっくりと顔を近づけていく。
「こわい?」
10センチほどの距離で隼人が聞く。
結花は首を振って答えた。
次の瞬間には唇が重ねられていた。
「んんん・・・」
結花は身悶えした。
隼人が舌を差し込むと積極的に応えてくる。
舌を絡めながら、隼人はバストをまさぐった。
まだ蕾のような乳首が隼人の指に挟まれて硬くなる。
「んっ! んんんっ!」
唇をふさがれているので喘ぎは声にならない。しかし、反応から結花がじゅうぶん感じているのがわかる。頭の中のメーターはまだ半分弱の感じだった。
隼人は結花の息が上がってきたのを機会に唇を乳首へ、手を下腹へと移動させる。
「ああんっ!」
結花は身体をバウンドさせて叫んだ。
一気にメーターが跳ね上がった。
初めてなのに結花は激しく感じている。これなら、お婆さんに念を送っても大丈夫だと思った。隼人は意識を集中させる。
老婆の顔に歓喜が浮かんだ。
乳首を口にふくんで舌で転がすと二人は同じように悶えた。
これ以上メーターが振れないところまで乳首を愛撫してから、隼人は舌先を下腹部へ移動させる。
無言で両膝を持って脚を開かせるとぴったりと閉じた秘貝の下の方から蜜がこぼれているのがわかった。隼人は舌先でこじ開けるように舐める。
「ああっ! これが・・・ああんっ!!」
結花が高い声で叫んだ。
蜜は粘度が濃い感じがした。風呂でよく洗ったのか嫌な匂いはしない。
舌先で敏感な部分を探り当て集中して責めると、結花の喘ぎ声は次第に高くなり間隔も狭まる。その間、何度も痙攣を繰り返していた。
しかし処女のせいかメーターはギリギリのところで止まっている。
「結花ちゃん、もっと僕を信じて自分の感覚に素直になるんだ」
隼人はそう言って、ふたたびクリトリスを責める。
「あんっ! ああんっ!」
結花は自ら腰を動かしながら隼人の愛撫に応える。
試しに蜜壺へ舌を差し込んでみた。
「ああ~んっ!!」
高らかに叫んだ結花は腰を浮かせて硬直した。
メーターが振り切った。
どうやら結花は処女のくせに内部で感じるようだった。
あたたかいものが隼人の胸の中に流れてくる。
潮時だと思った。
結花の秘部は蜜と隼人の唾液でじゅうぶん潤っている。
隼人は体勢を変えて屹立をあてがった。
「いやっ! いやぁぁぁっ!!!」
挿入の瞬間、痛みを感じたのか頭の中のメーターがゼロ近くまで下がってしまった。しかし、結合を深めていくと徐々に感度が上がっていくのがわかった。
「あそこを触ってあげようか?」
「それより・・・」
「なに?」
「きつく抱きしめて。私を離さないで・・・どんなに激しくてもついていくから」
結花は真剣な眼をして言った。
「わかった」
背中に両手をまわした隼人は力の限り結花を抱きしめる。
「ああんっ・・・こんなに・・・気持ちいいなんて・・・ああっ!」
すでに結花は官能の渦に巻き込まれていた。
暗示をかけすぎてしまったのかもしれない。結花は激しく感じて悶えている。まるでピチピチと跳ねる生きた魚を握りしめているような感触だ。隼人はしっかりとホールドして思いきり腰を振った。
結花の内部は、外見と同様に筋肉質だった。コリコリとした肉が隼人の屹立を締めつけてくる。たまらない刺激に隼人は律動を早める。
「隼人さん・・・来て・・・来て・・・来てぇっ!」
結花は隼人の絶頂を待ちわびていた。
そして、それが近いのを察しているようだ。
隼人は陰嚢の裏側で異常なほど熱いエネルギーのかたまりが膨れ上がっていくのを感じていた。
そのかたまりを一気に放出させてしまえば、どんなに気持ちがいいだろう。たぶん、そのエネルギーは「気」だ。それを内部に放つのはショックが大きすぎるのではないかという心配もあった。琴音と交わってから隼人は精液と一緒に「気」を放てるようになっていた。
隼人は欲望に流された。雄大も己の欲望に素直になれと言っていた。
隼人はいままでにない規模で「気」のかたまりとなった精液を勢いよく放出させた。一回では出し切れず、二回、三回に分けて結花の蜜壺の奥深くまでへ注入された。
直接「気」に触れた結花は硬直した。秘部は細かい痙攣を繰り返している。
前に見たSF映画でアンドロイドが管だらけで横たわっているようなポーズで結花と老婆は震えていた。
隼人の頭の中で声がした。年下の処女を奪うのはレベルを上げる必須ポイントだが、老婆のエクスタシーを引き出したのはそれ以上のポイントだという。胸の中の渦はますます大きくなって形を変えていた。それに一族の女を抱くのもポイントが高いらしい。
レベルが上がったことで難敵に出会っても(つまり、その気がない女とか、術者に対して嫌悪感が強い女のことだろう)深く術をかけられる力がついたと頭の中の声は告げていた。
ゆっくりと結花から身体を離す。「気」のせいか結花は意識を失っていた。それでも、ときおりヒクリと身体を震わせている。
「しばらくは目を覚まさないじゃろう」
老婆が言う。
「心配はない。お前さんはよほど強い力を授けてくれたらしい。気を失っておるのはそのためじゃ。感謝するよ」
老婆は隼人に手を合わせた。
「やめてください・・・そんな・・・」
「いや、これで『ミ』は絶えずに済んだ。そして『ミ』は『サイ』とともにあり『サイ』のしもべ。わたしも、この娘もお前さんのためなら命を捨てる」
「さっき、結花ちゃんは『ム』もいると言ってました」
隼人は居心地が悪くて話題を変えた。
「うむ。壬生は巫女の家系じゃからな。術をかけられ舞えば予言もできる」
「ということは・・・」
「どこかで、まだ『ム』も絶えずにいるということじゃ」
「そうなんだ・・・」
隼人はまだ知らぬ一族に思いを馳せた。
「結花が言っておったように壬生はアメノウズメの末裔じゃ。稗田姓が正統と言われておるそうじゃが表向きのこと、我が壬生家が力を伝えておったんじゃよ。そんなことはよくある話じゃ」
「そういえば父さんが柿本人麻呂も『サイ』だと言ってました」
「サルじゃな・・・」
「サル・・・?」
「うむ。サルは佐留とも書く。どこかの学者が人麻呂はサルから人へ昇格したなどと言っているようだが逆じゃよ。サルは人の能力を超えた者への尊称だったんじゃ。だから忍者などというものへ身を落とした傍系の一族には猿飛なんぞと名乗る者も出てきたんじゃ」
老婆はテーブルに魔法瓶のお湯をちょっとこぼして字を書きながら教えた。
「すごい・・・もっと聞かせてください」
老婆の話はドキドキするほどおもしろかった。
「では、婆の戯言としてお聞かせ進ぜよう。冥土へのみやげをもらったお礼にな。サルは動物の猿ではない。本当はこう書くんじゃ」
老婆はテーブルに見たことのない難しい字を書いて見せた。
「人の能力を超えた者を民はサルと讃えた。しかし侍が台頭してくると事情は変わった。やつらに一族は疎まれたのじゃ。そして猿は蔑称としても使われるようになった。それに朝廷を置物にして権力を手にする小賢しい者どもも現れた。こうして我が一族は日陰者になったのじゃ」
「どうして『サイ』や『ミ』は朝廷に仕えたんですか? 力を利用すれば一族が権力を握れたはずなのに」
「朝廷が『ヒ』だからじゃよ」
「ヒ・・・?」
「力を持つ者を統率する祭主が『ヒ』じゃ。日本は『ヒの本』なんじゃ。いまでは太陽と混同されているが『ヒ』には別の意味がある。しかし朝廷はある事情で力を失った。以来、一族は朝廷を助けてきた。我らは残された力を持つ一族なんじゃ」
「じゃあ、僕らは選ばれた一族・・・なんですね?」
「むずかしいところじゃ。人を操れば『マ』を生ずる。『マ』は力を滅ぼす」
「あっ・・・父さんにも『マ』の話は聞きました。ちょっと違うけど」
「それは物に宿った『マ』が力を持ってしまうことじゃろう。わたしの話はもっと簡単じゃ。理由もわからず右を向けと言われれば誰もが反感を覚える。それが『マ』の正体じゃ」
「ふ~ん・・・」
老婆の話はわかりやすかった。
「人の心は複雑じゃ。醜さと美しさが混在しておる。愛などと呼ばれるものが憎しみに変わってしまうことも珍しくない。力によって得た好意は恨みと裏腹なものなんじゃ」
さすがに「ミ」として人の心を読んできた老婆の言葉には説得力があった。
「もうひとつ聞かせてください」
「いいとも」
「ここの家、男の人はいないんですか?」
「正統な『ミ』の家には男はおらん」
「じゃあ、どうやって・・・」
隼人は不思議だった。
「うむ。『ミ』の者は力を継げる胤を持った男を見つけ胤だけをもらう。だから『ミ』には男はおらんのじゃ。これは『ム』も同じ。そうせんと『サイ』に仕えることができん」
「じゃあ、結花ちゃんのお父さんは・・・」
「誰だかわからん」
「ふぅん・・・」
「傍系の者は家族を持つこともある。しかし男の『ミ』は不完全なんじゃ。なぜだかはわからん。そして、こやつらは欲が強い」
老婆がそこまで言ったとき結花がムクリと起き上がった。
「声がしました。私は隼人さまの旅に付き添い『ム』を探し出します。その後はここへ戻り、隼人さまの帰還を待ちます」
結花は焦点が定まらない眼をしてそう言った。巫女の神託だった。
「して『ム』はいずこに?」
老婆は即座に反応した。
「西へ三日歩いた海のほとり」
「ならば日の出を待って出かけるがよい。それまでは休むことじゃ」
老婆の口調にも抑揚がない。
隼人は呆気にとられて、そのやりとりを聞いていた。
しかし、結花はそれだけ告げると昏々と眠ってしまった。
「そういうわけじゃ。今夜は泊まっていきなされ」
老婆の口調が元に戻り、隼人の方を向いてニコリと笑った。
老婆から「サイ」について話を聞いているうちに夜は更けていった。
24
こうして隼人は老婆の家に泊まることになった。
神託により結花と旅をすることになったからだ。
結花は声がしたことを告げると、また昏々と眠り続けた。
隼人は「サイ」について知りたいことだらけだった。
そして老婆の話を聞くうちに夜は更けた。
「出で立ちのときです」
リビングで寝てしまった隼人に結花が声をかけた。
「あ・・・結花ちゃん、おはよう・・・」
結花の声を聞いて隼人は起きた。ソファーで眠っている老婆も目を覚ましたようだ。
「隼人様は身を清めてください。わたくしは支度をして参ります」
結花は巫女らしく重々しく言った。
隼人は違和感を覚えた。
「あのさ・・・結花ちゃん・・・」
「はい。隼人様。なんなりとお申し付けください」
「そのしゃべり方なんとかならない? ちょっとウソっぽいよ」
「バレちゃった? この方が雰囲気出ると思って」
結花はペロリと舌を出してそう言った。目が笑っていた。
「やっぱり」
隼人も笑った。
「でも私が言ったことは本当。隼人さんはシャワーを浴びてきて。そうしなきゃならないの。案内するから」
「禊ぎじゃよ・・・」
老婆が言った。
「このまま外へ出れば淫の気を人々に感じさせてしまう。害はないが、敏感な者はお前に淫らな欲望を感じて引き止めることになるかもしれん。そうすれば、たどり着くのが遅くなる」
「わかりました。言うとおりにします」
隼人は素直に答えていた。「ム」に会いたかった。
濡れた髪をタオルで拭いていると結花がやってきた。
キャラクターがプリントされたパーカーにジーンズ姿だった。ピンクのリュックを背負っている。背の高い結花がそんな格好をしているとボーイッシュで溌剌とした印象だった。
「おばあちゃん、行ってきます。とっても楽しみ」
玄関で結花は老婆に言った。その口調には屈託がない。メールだったら語尾にハートマークが付く感じだ。
「うむ。気をつけてな。わたしも楽しみじゃよ」
「うん。隼人さん、行こっ」
結花は隼人と腕を組みバストを押しつけてきた。
「あ・・・うん・・・」
あまりの快活さに隼人は気圧されてしまう。
「行くがよい。結花は役に立つはずじゃ」
老婆が隼人を見て笑いながら言った。
「わかりました。行ってきます」
隼人はそう答えた。
結花は隼人を先導するように前を歩いていく。
ジーンズに包まれたヒップは小ぶりだけど形がいい。キュッ、キュッ、と音を立てそうな双丘の動きを眺めながら隼人は結花の後ろを歩いていた。景色なんかを眺めている余裕はなかった。
「あのさ・・・隼人さん・・・」
横浜を過ぎたころに結花が声をかけてきた。
「なに?」
「私を見ながら、ずっとエッチなこと考えていたでしょ」
「しまった。結花は『ミ』だった・・・」
心を読まれていたのだと知り隼人はちょっと恥ずかしかった。言い訳をしても無駄だと思った。
「私のお尻好き?」
「うん。すごくかっこいいし、きれいだと思う」
隼人は正直に答える。
「それだけ?」
「ごめん。エッチなこと考えていた」
「いいの。私も気持ちよかったから」
結花が笑う。
「えっ?」
「隼人さんって、すごくタイプなの。『サイ』の人が隼人さんでよかった」
結花みたいな女の子からそういうことを言われると悪い気はしない。
「でもさ、結花ちゃんくらいの女の子ってスポーツ部で活躍してる男子とか、そういうのが好きなんだと思ってた」
隼人は結花と肩を並べて歩きながら言った。
「兵士ね」
結花は吐き捨てるように言った。
「えっ? 兵士って・・・?」
「バカのことよ。あの人たちは考えもせずに行動する。だから、いつもリーダーを必要としているの。肉体的能力は優れているかもしれないけど、ただの兵士。将棋のコマね。たしかに、そんな兵士に魅力を感じる女子はいるかもしれないけど、そんなのと一緒にして欲しくはないわ」
隼人は結花の物言いに驚いていた。
「それよりお腹すかない?」
結花はニッコリと笑って言う。
「あ、うん。そういえば・・・」
もう昼近い時刻だった。
「試してみたいことがあるの」
「なに?」
「人の心が手に取るようにわかる。すっごくおもしろい。でも、それだけ。私には操る能力がないから、隼人さんにやって欲しいの」
「なにを?」
「だれか食事をご馳走しても困らないような人を探すわ。そしたら隼人さんはその人に『サイ』をかけて。豪華な食事を奢ってもらいましょうよ」
「でも、『サイ』は人前ではかけられないはずだから・・・」
「大丈夫よ。私がいれば。だれも私たちのことに注意をはらっていなければ、いないのと一緒。それが私にはわかるの」
「すごい。やってみよう」
結花の話を聞いていると隼人までがワクワクしてきた。
「あの人がいいわ」
昼前の商店街で結花が指さしたのは40才くらいに見える身なりのいい女性だった。ブランド物のバッグをさりげなく持っていて、いかにもお金持ちそうだったし、なにより性格がよさそうだった。
「いまよ。声かけて」
「うん。やってみる」
隼人は結花の言葉を信じた。
「あの、すみません。道を聞きたいんですけど」
「はい。どちらまで?」
その女性はニッコリと笑いながら答えた。
「サイ」
隼人は目を見ながら唱えた。
あの独特の感覚があった。
「僕らは旅の途中なんです。お腹が空いちゃって、なにかご馳走してくれませんか?」
傍から見れば、隼人とこの女性と普通の会話をしているように見えるだろう。
「あら・・・ちょうど私もなにか食べようと思っていたところよ。お寿司なんかいかが? よろしかったらご一緒しましょう」
こうして隼人たちはお寿司にありつくことになった。
連れて行かれたのは高級そうな店だった。
その女性が入っていくと店員さんが威勢のいい声で「まいどっ!」と言ったので常連さんらしかった。隼人と結花のことを遠縁だと紹介して最高級のネタを握るように頼んでいた。
こんなにおいしいお寿司を食べたのは生まれて初めてだと隼人は思った。それはネタが高級だったせいもあるけど、狩りの戦利品という意味もあったようだ。
「大成功だね」
店を出て女性と別れると結花が言った。
もちろん別れ際に隼人は「サイ」を解いた。
「うん・・・すごいや」
隼人はそう答えた。
「それに、あの人は隼人さんに感謝してる」
「そうみたいだね」
あの老婆は例外として、セックスとは関係なしに「サイ」をかけたのは初めてだった。そして、力に変化が生じているのがわかった。雄大の言うとおり、レベル的には大したことはなかったが、力が上質になった感じだった。
「ねえ」
結花が妖しく笑った。
「なに?」
「私がなに考えてるかわかる?」
「僕は『ミ』じゃないから・・・」
「私ね・・・すごく欲しいの・・・」
「なにが?」
「あなたのこと。ふたりで狩りをしているような感じがして、すごく興奮しちゃったの。あなたに抱かれたい」
「・・・」
隼人は結花のストレートな物言いに気圧されて言葉が出なかった。
たった一晩で結花は少女から妖艶な美少女へと変身していた。
それはミの一族として目覚めてしまった女の宿命だった。
「こんどは、あの人に『サイ』をかけて」
結花はマンションに一階にあるカフェテラスに座っている女子大生っぽいさえない女性を指さした。
「いいけど・・・なんで?」
「部屋を貸してもらうの。あの人の部屋はこのマンションよ」
「そんなことまでわかるんだ」
隼人は舌を巻いていた。
「いまなら大丈夫。早く」
結花の強い口調に押されて隼人は声をかけた。
「あの・・・すみません」
「はい?」
「サイ」
手順など、どうでもよく、隼人は「サイ」を唱えていた。
「ちょっとだけ僕らに部屋を貸してください。その間、あなたはここで待ってる」
隼人がそう言うと女性はバッグの中へ手を入れた。
「501号室です」
そう言って鍵を隼人に渡した。
森ガールっぽいインテリアのワンルーム。そんな景色を眺める余裕もなく結花はぶつかるように隼人に抱きついてきた。
「お願い! して! もう・・・私・・・あなたにメチャクチャにされたい。なにをされてもいいの。抱いて! 早く!」
結花は叫ぶように言った。年下の女の子が言うセリフではなかった。
隼人の心の中でも変化が起こっていた。凶暴とも言える欲望が湧き上がってきた。
「結花! 脱ぐんだ! ぜんぶ」
それは命令だった。結花はそれに従いあわただしく服を脱ぎはじめる。隼人も一緒に服を脱いだ。
一糸まとわぬ姿になった結花を隼人はベッドの上に投げ飛ばした。
「来て! がまんが・・・できない・・・」
結花は四つん這いになって尻を突き出した。
「ほんとは・・・あなたが・・・私のお尻を見てたときから・・・欲しかったの・・・」
さっきまで眺めて楽しんでいた結花のヒップがそこにあった。結花は見られていただけで感じていたらしい。人の心を読めるせいだろうか、隼人が想像していたポーズをとっていた。
ベッドへ上がった隼人は後ろから結花を貫いた。
「あうぅぅぅぅっ!!!」
叫んだ結花は、すでにオーガズムを迎えていた。
シーツを握りしめながら何度も痙攣を繰り返す結花を見て隼人は激しく律動した。
「ああっ! いいっ! もっと・・・わたしを・・・メチャクチャに・・・犯してっ! ああ~んっ!」
「犯して」という言葉を聞いたとき隼人は結花のアヌスを見ていた。
そこは、まだ固い蕾に見えた。
隼人は親指の腹でその蕾を撫でる。
「あっ・・・く・・・くうっ! もっと・・・うばって・・・」
激情した結花は自分から求めるように尻を突き出した。
そのはずみで親指がアヌスへ潜り込む。
「はうぅぅっ!」
結花は背中をのけ反らせながら喘いだ。
それを見た隼人は後ろを犯したいという欲望を抑えることができなくなっていた。結花と同じように理性が飛んでいた。屹立を引き抜き、小さな蕾にあてがう。
「あぐぅっ!!」
結花の悲鳴が部屋中に響いたときには、まだ幼い印象を受ける身体の排泄器官へ隼人のものが突き刺さっていた。
「あああっ! あうっ!」
言葉にならない声をあげながら結花はシーツをかきむしった。
結合が深まって行くにつれ結花は震えだした。
「ああっ! いやぁぁぁぁぁっ!!」
気がこもった隼人の精を直腸の深いところで受け止めた結花は高い嬌声を発した。
「あんっ・・・熱いものが・・・お腹の中で・・・暴れて・・・ああん・・・」
隼人が萎えかけたものを引き抜くと、ぐったりと弛緩した結花は、ときおりヒクリと震えながらそう言った。
「ごめん・・・夢中になって・・・痛くなかった?」
隼人は自分でしたことに驚いて言った。まさか、いたいけな少女とも言える結花のアヌスを犯してしまうなんて思ってもいなかったのだ。
「いいの・・・こういうふうに・・・乱暴にされたかった・・・やっぱり、あなたはすてき・・・私の望みをかなえてくれる・・・」
「結花ちゃんから、欲しいって言われて・・・自分が自分じゃなくなっちゃったみたいだ」
「嫌いになった?」
「そんなわけないじゃないか。だって、結花ちゃんは僕の心が読めるんだろ?」
「うん・・・わかってる。ちょっと甘えてみたかっただけ」
隼人は結花のことを大切な血族だと本心から思っていた。だから、心の中で、その気持ちを念じてみた。それは、「サイ」にかかった女へ別の女の快感を送り込むときの方法と似ていた。
「ああ・・・わかる。うれしい・・・私は、あなたのしもべ・・・」
隼人の心が結花に響いたらしい。
「その、しもべって言葉には抵抗があるけど、結花は僕のかけがえのないパートナーの一人だ」
「いいの・・・これが私の定め。ああ・・・また・・・」
「どうしたの?」
「おかしいの。私・・・こんな気持ちになるとは思わなかった。お願い。きつく抱いて」
「うん、いいよ」
隼人は言われたとおりに結花を抱きしめた。
「結花ちゃん、もしかして、また欲しくなっちゃったんじゃない?」
「うん・・・わかる?」
「もちろんだよ。こんどは、もっとやさしく抱いてあげる」
隼人は南川琴音にしたように、ていねいに気持ちを込めて結花を抱いた。
結花は、見られ、開かれ、触られ、舐められ、そして貫かれてなめらかに啼いた。
「すごい・・・立てないかも・・・」
余韻に浸りながら結花は荒い息の中で言った。
「しまった・・・」
「どうしたの?」
「あの人、カフェテラスに待たせたままだよ」
気がつけば、ずいぶん時間が経っていた。
「ごめんね。私のワガママのせいで遅れちゃった」
「それはいいんだけど、どうする?」
「なにが?」
「あの人を連れてきて今日はここに泊まる?」
「ううん。もっと足を伸ばさなきゃ間に合わない」
「そうか、それじゃ出発だ」
「うん・・・それから・・・」
「なに?」
「これから隼人様って呼んでいい? だって、これまで無理してたけど、私にとってはその方が自然なの」
「わかった。いいよ」
「うれしい・・・」
隼人には「さま」が「さまぁ」に聞こえた。その言い方が結花らしいと思った。そして同時に「ム」に会うまでは結花ひとりを相手にすることになりそうだとも思った。
< 続く >