放課後の催眠 第四話

本懐・・・なのか?

 そして翌日。充は学校へ行って部室の使用許可をとって昼過ぎには水樹を待っていた。

「こんにちは。せんぱい。待たせてすみません」

 ちょっと舌っ足らずな声がロリフェイスの水樹にはよく似合っている。

 軽く縦ロールにした髪を濃い栗色に染めていて、制服のプリーツスカートを膝上10センチ以上に短く履いている。下に伸びる脚は健康的ではち切れそうな質感だ。

「いや、許可取るのに早めに来なきゃならなかったから」

「で、あたし、なにをすればいいんですか?」

 語尾が甘く伸びるような声で水樹が聞いてくる。

「俺がセラピストをやるから、主人公の役をやって欲しいんだ。で、リアリティがあるか、直した方がいい箇所があるかを確かめたいんだ。ひとりでセリフをしゃべっていたんじゃ限界があるんだ。内容自体は変わってないけど、すごく書き直したから」

「は~い」

 デコメならハートがたくさん付きそうな口調で水樹は部室の椅子に座る。台本を読んでいるからシチュエーションはわかっている。

「本気でかけられるつもりになってね」

 水樹は返事の代わりにニッコリ笑ってうなずく。

「このペン先に視線を集中させながら私の話を聞いてください。いいですね?」

 充は小道具で用意した万年筆のキャップを取って水樹に差し出しながら言った。

 水樹はものも言わずにペン先を見つめる。

「台本に入る前に、ちょっと世間話。いい?」

「はい」

 水樹がうなずく。

「いまはワープロでものを書くようになったけど、昔は万年筆と原稿用紙だったんだって。この万年筆はある小説家の持ち物で、編集者だった僕の叔父さんが形見としてもらったものを借りてきたんだ。僕はこの万年筆を見ていると小説家の魂みたいなものを感じるんだ」

「・・・」

 水樹は黙って充の話を聞いている。

「水樹はこの万年筆を見てどう思う?」

「道具っていうよりアクセサリーみたいできれい」

「こういう古いものって、作った人や使っていた人の魂が宿っているように思えるんだ。見ていると、現実じゃないものと会話できるような気がする」

「そうですね」

 水樹がうなずく。

「集中して見てごらん」

「こう?」

「うん。そう・・・ほかのものが見えなくなるくらい・・・」

「うわっ・・・なんか、すごい・・・けど、目が疲れちゃうよ」

 一分ほどペン先を見つめていた水樹は「ふうっ」と息をついて言った。

「そしたら目を閉じるんだ。ゆっくり休ませるように。それでもペン先が見える感じがしない?」

「ほんとだ・・・不思議だね・・・」

「目を閉じると、すごくリラックスしたんじゃない?」

「うん・・・そんな感じ・・・」

「じゃあ、台本に戻ろう。目を開けて。はじめるよ」

「はい・・・」

 この時点で水樹はとろんとした表情になっている。あれから、充は催眠術の本を読み直して導入の手順をもっとていねいにやるべきだと思った。調べていくうちに彩があんなふうにかかってしまったのはラッキーなことだと思い知らされ冷や汗が出た。たぶん、あのストレートな性格がいい方に転んだだけで、水樹にそれが通用するとは限らない。まずは、水樹の気持ちをひとつのものに集中させて雑念を取り去ることが大切だ。その目的は果たせたようだ。

「人の心は容れ物のようなものです。大事なことは引き出しのような場所にしまってあります。ところが、その引き出しを忘れてしまったり、間違えて違う場所に入れてしまったりすると、心のバランスが崩れてしまうんです。これから私は、あなたの容れ物を確かめます。そして、間違いや忘れたものを見つけていきます。そのためには心を開いてもらう必要があります。私の言っていることが理解できるなら返事をしてください」

 充は書き直した台本のセリフを読む振りをして本格的に術をはじめる。

「はい」

「ペン先を見つめながら聞いてください。まず、静かな水面を想像してください。青い静かな水面です。そこへ一滴一滴、しずくが落ちて丸い波紋を作っていきます。その波紋を見ていると、あなたは身体の重さを感じなくなって宙に浮いているような気分になっていきます。さあ、もう目を閉じていいですよ」

 水樹が目を閉じたタイミングでiPhoneに入れた効果音のアプリを起動する。昨夜、いろいろと考えて仕込んだのだ。

 水滴の音が一定間隔で部室に響く。

「しずくが落ちていくたびに、あなたの心は開いていきます。同時に、どんどん身体の力が抜けていきます。さあ、もう動けないほど力が抜けてしまいました。いま、あなたは宙に浮いて、あたたかいものにみたされています。あたたかくて、とても気持ちがいい。あなたは水の音と同調していきます。水の音とともに身体が揺れていきます」

 そこまで言うと恍惚とした表情を浮かべながら、水樹は上体を左右に揺らしはじめた。

「あなたは、とても安らかな気持ちになっていく。そうですね?」

「はい・・・」

 しばらく、そのまま間を置く。

「私がみっつ数えると、あなたは、ゆっくりと心の底へ降りていきます。ひとぉつ、ふたぁつ、みぃっつ」

 充はゆっくりと数える。

 水樹の上体は揺れたままだ。

「はい。もう、あなたは心の底に着きました。まわりは、きれいなお花畑ですね。身体の揺れも収まります」

 目を閉じたままでも水樹の表情が和んだものになったのがわかる。

 たぶんかかったはずだ。充はiPhoneを操作して水音を止める。

「あなたは景色と同化していきます。それは、ここがあなたの心の底だから当然ですね。ここは、あなただけの世界。安心と心地よさが、あなたを包んでいます。本当にきれいなお花畑ですね」

 そう言われて、水樹はモナリザのような微笑みを浮かべる。

「私がみっつ数えたら目を開いていいですよ。目の前には、あなたがよく知っている人の顔を借りた、あなたの心の声がいます。私は、あなたの心の声です。私が誰かを言ってみてください」

「心の・・・声・・・」

 抑揚を失った声で台本にはないセリフを水樹は口にする。

「そうです。私は、あなたの心の声です。ですから、隠すことなどなにもありません。そして、私の質問に答えるたびに、あなたはとてもいい気持ちになっていきます。いいですね?」

「はい・・・」

 台本には「心の声」という言葉を使っていない。かかっている。充は手応えを感じた。

「では、いいですね。ひとぉつ、ふたぁつ、みぃっつ」

 数え終わると水樹は目を開けた。眩しそうな顔をして充を見る。

「私は誰ですか?」

「あたしの・・・心の・・・声・・・」

 焦点を結んでいない目をして水樹が答える。

「そうですね。まずは、あなたの名前と年齢を教えてください」

「いちかわ・・・みずき・・・17才・・・です・・・」

 水樹は劇中の主人公の名前ではなく本名を答えた。やった。そう思ったが、慎重に進めていくことにした。時間はたっぷりある。部室の使用許可は下校時間の6時までとってある。

「きれいなお花畑ですね。まるで、あなたのようです。とても、いい匂いがします」

 充は笑顔を向ける。

 すこしだけ水樹の頬が赤くなったような気がした。

「さて、もうすこし教えてください。あなたの身長と体重、それとスリーサイズを」

「はい。ええと、156センチ、42キロ。上から82、58、84センチです」

 水樹はスラスラと答える。その、うっとりとした表情から大丈夫だろうと判断した充はとどめの質問をすることにした。

「初体験はいつですか?」

「中学卒業のときでした・・・」

「・・・」

 水樹の処女を疑っていなかった充は、その答えに充は息を飲んだ。

「あ・・・相手は誰ですか?」

 努めて平静を装って質問を続けるが、どうしても声が裏返ってしまう。

「家庭教師をしてくれた大学生の高橋先生です」

「いまでも付き合っているんですか?」

「いいえ」

 答えるたびに気持ちよくなっていくという暗示が効いているせいで、あまりいい内容ではないのに水樹の表情は幸せそうだ。

「どうして?」

「とっても憧れていたから私からお願いしたんです。志望校に受かって卒業したら一度だけ抱いてくださいって・・・」

 夢見るような顔つきで水樹は答える。

 充は腹を立てていた。なぜだかわからないが、水樹が他の男に身体を許していた、それも自ら望んでという事実が許せない。

「気持ちよかったですか?」

 それでも質問がやめられない。

「痛かった・・・です・・・」

 水樹は首を振って答える。

「痛いだけ?」

「すごく痛くて・・・でも先生のためならって我慢しました・・・」

「それ一回きりですか?」

「はい。そういう約束でした。高橋先生には付き合ってる彼女がいましたから」

 これ以上質問しても腹が立つか悲しくなるだけだと思った充は話を変えることにする。

「こうやって話すと気持ちがどんどんよくなってきました。話すことは解き放すことです。話していると、どんどん心が軽くなっていきます。あなたは、またここへ来たい。そうですね?」

「はい。とっても」

「では私が『本当の気持ちを教えてくれよ』と言うと、あなたは、このお花畑にテレポートして心の声が聞こえるようになります。わかったら復唱してください」

 充は後催眠のキーワードを水樹に埋め込む。適当な言葉を思いつかなかったので、彩と同じものにした。

「あたしは、あなたに『本当の気持ちを教えてくれよ』と言われると心の底へテレポートします」

「そうです。そして、普段はこの場所で起こったこと、話したことは思い出せません。復唱してください」

「あたしは心の底で起こったことや話したことを普段は思い出せません」

「そうです。いま、あなたは、とてもリラックスしています。本当に、ここは気持ちのいい場所ですね?」

「はい」

 水樹の表情はうっとりして涎を垂らしそうだ。その顔を見て、昨日の彩のようにオナニーをさせたくなった。しかし、それでは水樹に触ることができない。もっと進んだ段階まで水樹を誘導して欲望を叶えたかった。そのために慎重な導入を行ってきたのだ。

「ここはあなたの心の底です。夢の中だと思ってもいいでしょう。ですから、ここで起きることは現実と関係ありません。いいですね?」

「はい」

「あなたの心は自由です。ここでは恥ずかしいこともなにもありません。そして、私は、あなたの心の声であると同時に、心の医師、つまりセラピストでもあるのです。これから私はあなたを診察します。そうすることで、肉体的な快感を伴って、あなた自身が解放されていきます。まず、高橋先生にエッチされて痛かった場所を診てあげましょう。パンツを脱いで、そこに座ってください」

 充は昨日、彩がオナニーをしたソファーを指さす。

「はい」

 水樹は躊躇せずにスカートの中へ手を入れて淡いブルーのショーツを脱いだ。

「見せてください」

「はい」

 水樹はショーツを充に手渡す。細かい花柄にレースがあしらわれた、いかにも水樹らしいガーリーなショーツ。そのクロッチの部分には僅かだが染みがあった。

「ちょっと濡れているね。どうして?」

「わかりません・・・エッチなことを聞かれたからかも・・・」

「それじゃ、診察してあげよう。スカートをめくって」

「はい」

 水樹のヘアーは彩のものより細くて縮れが強く密集している感じだった。

「よく見えるように脚を開いて。そうだ、ここに足を乗せましょう」

 充は水樹の前にしゃがんで両足首を持ち、ソファーの座面にローファーを履いたままの足を置く。肉体的な接触にも抵抗がないようだ。水樹はM字型に大きく脚を開くことになった。

 目の前にある水樹の秘所に充は息を飲む。大陰唇には縮れた毛がまばらに生え、すこしだけ色素が濃い小陰唇の合わせ目がほんのすこし蜜で濡れているようだった。

「では診察をはじめます」

 充は親指の腹で小陰唇を押し拡げた。

 ピンクの秘肉が顔を出す。膣口が鯉の口のように開き、その上に尿道口の小さな穴が見える。ここへ来る前にシャワーでも浴びたのかボディーソープの香りが漂う。

(すげぇな・・・)

 充は心の中でつぶやく。昨日、彩のものを見たが、これほど仔細に構造は確かめられなかった。鶏冠にも似た秘貝の上端部にあるはずのクリトリスは見えない。

「痛いですか?」

 親指で、さらに膣口が開くようにしながら聞く。

「ううん・・・大丈夫です」

 質問に答えると気持ちいいという暗示のせいで水樹の口調はうれしそうだ。

「それでは性的な感度を調べることにします。敏感な部分を触りますから、どんなふうに感じるか教えてくださいね」

「はい・・・あっ・・・ちょっと強い感じが・・・」

 充は、昨日、彩がやっていたのを真似して人差し指と中指でクリトリスを挟むようにして円を描くように揉んでみたのだ。

「いつも、こうやって自分を慰めていますよね?」

「あ・・・いえ・・・ほとんど、しません・・・」

「ひとりエッチはしないんですか?」

「はい・・・途中で怖くなって・・・」

「ではオーガズムを経験したことがないんですね」

「はい・・・あ・・・それ・・・気持ちいいです」

 強い感じと言われたので、充はタッチを柔らかくしていた。

「それはいけませんね。心を開くことが大切です。感覚に集中しましょう。怖いことはなにもありません。どんどん気持ちよくなっていきますよ」

 充は行為を続ける。

「ほんと・・・なんかヘン・・・ジンジン熱くなってきたみたい」

「その調子です。目を閉じて・・・身体の力を抜いて他のことを考えるのはやめましょう。感覚に身を委ねて。いいですね」

「はい」

 充は、さらにソフトなタッチでクリトリスを弄る。

「あんっ・・・なんだかヘンですぅ・・・ああっ・・・」

 水樹の息づかいが荒くなっていく。

「怖くはありません。どんどんエッチな気持ちになって、とても感じてしまいます」

 指の間にあるクリトリスが、はっきりと硬くなってきたのを感じながら充は誘導を深めていく。

「ああんっ・・・こんなの・・・はじめて・・・気持ちいい・・・の!」

 水樹は最後の「の」を強く言ってビクンと身体を震わせる。

 クチュクチュと蜜と秘肉が淫靡な音を奏ではじめる。

「ほうら・・・気持ちよくてたまらなくなっていきますよ」

「あんっ! すごいの・・・もっと・・・」

 水樹は自ら腰を動かしていった。

「わかりました。それでは私があなたの心を開いてあげましょう。あなたの閉じていた心は、ここと同じです。私が開いていくと、心も開いて、もっと気持ちよくなりますよ」

 充はクリトリスから手を離して、中指を膣口にあてた。すでに、そこは蜜でグッショリに濡れている。

「あうぅぅぅっ!」

 中指を第二関節あたりまで挿入すると、水樹は大きな声で喘いで背中を反らせた。

「痛いですか?」

「いえっ・・・いたく・・・ない・・・気持ちいい・・・のぉっ!」

 充は内部の感触を確かめるように指先を動かしていた。

「いい子ですね。感覚に身を委ねるんですよ」

 興奮を隠して充が言う。秘肉の感触は驚くほど柔らかで熱かった。

 水樹は息を荒げて喘いでいる。

「ここはどうかな?」

 充は手を返して上部というのだろうか、身体の前側にあるザラザラとした部分を指の腹でこすった。ネットで仕入れた知識によれば、ここらあたりにGスポットがあるはずだった。

「ああっ・・・おかしく・・・なっちゃう・・・ああんっ・・・もっと・・・」

 ビクビクと身体を震わせながら水樹はさらなる行為を求める。

「では、こっちも触ってあげましょう」

 充は空いた手の親指でクリトリスを弄る。

「はぅんっ! そこっ・・・たまらないのぉぉぉっ!」

 水樹が激しく動くので、なかなか親指の位置が定まらない。どうせ目を閉じているのだから、なにをしているのかわからないだろうと高をくくって、充は中指を挿入したままクリトリスを口にふくんだ。

「あああっ! それ・・・すごい・・・感じちゃう・・・ああんっ!」

 舌先でクリトリスを転がすように舐めると水樹の痙攣の度合いが激しくなる。

「あぁぁぁっ! なに・・・これ・・・もうだめ・・・いやぁぁぁぁっ!!」

 水樹は何度も痙攣してからソファーの座面を握りしめて身体を硬直させた。

 どう見ても絶頂を迎えたのは明らかだ。

「もう目を開けてもいいですよ。あなたの心は解放されました。気分はどうですか?」

「腰が・・・溶けちゃったみたいで・・・身体がうごきません・・・」

「これがオーガズムです。私が、あなたの心の声だから呼び起こせた感覚です。私といると、あなたはどんどん感じやすくなっていきます。いやですか?」

「もっと・・・感じるの?」

「そうです。まだ怖いですか?」

「いいえ・・・こんなに気持ちよかったなんて知りませんでした・・・もう怖くはありません」

「それでは、もっと感じる身体が欲しいですか?」

「はい・・・」

「それには通過儀礼が必要です。とは言っても気持ちいい通過儀礼ですが、これは私にしかできないことです。あなたは、それを望みますか?」

「はい。望みます」

 充はわざと質問形式で話を進めていく。

「それでは服を脱いで生まれたままの姿になってください。全身で感じることが大切です。いいですね?」

「はい」

 水樹は、もうリボンタイを外そうとしている。そして1分後には、その美しい裸体を充に晒していた。82センチと言ったバストはBカップくらいだろうか、それほど大きくはないがお椀を伏せたようなきれいな形をしている。制服の上からではわからなかったウエストはキュッとくびれていて女らしさを際立たせている。

「あなたは、これから私に抱かれます。似てはいますが、これは、いわゆるセックスではなく、あくまでも、あなたを解放するための通過儀礼です。いやならば、このまま普段のあなたにも戻れます。どうしますか? やめましょうか?」

「やめないで・・・ください・・・」

 水樹は懇願するような口調で答える。

「では、いいんですね?」

「はい」

「それでは、その証を見せてもらいましょう」

「あかし・・・?」

「私の性器をあなたの口で愛撫するのです。そして出したものをそのまま飲み込んでください。これが解放への第一歩です」

 口からでまかせだった。まずは一発抜かないと、すぐに暴発しそうなほど興奮していた。

 充も制服を脱いで全裸になった。

 ちなみに、ふたりとも制服を着ているのは、たとえ授業がなくても校内では制服でいることという校則があるからだ。

 水樹の視線が充の股間に釘付けになる。

「できますね?」

「・・・」

 驚きの表情を浮かべたまま水樹は固まっている。

 やはり無理なのか、充は焦った。触られるのは大丈夫なのに、触れるのは抵抗があるらしい。それも男性器ならなおさらだろう。ショックで催眠が解けてしまっては元も子もない。本に書いてあった深化という言葉を思い出す。

「怖いんですね。大丈夫ですよ。それが普通のことです。無理をしてはいけません。もう一度目を閉じてください」

「はい・・・」

 水樹はホッとしたように目を閉じる。

「もう見えるのはお花畑だけ。そして聞こえるのは私の声だけです。身体の力が抜けてリラックスした気分になります。そう、とても気持ちがいい・・・」

 そう言った後にしばらく間を置く。

 水樹の表情がトロンとしてきた。

「さて、もう一度聞きます。私は誰ですか?」

「心の・・・声・・・」

「そうですね。身近にいる人の姿を借りていますが、私はあなたの心の声です。なぜ、私があなたの心の声なのに男の人の姿をしているのか不思議ですね?」

「はい」

「それは、あなたの希望でもあり運命でもあるからです。怖くはありません。右手を真っ直ぐに伸ばしてみてください」

「はい」

 充は水樹の手をそっと握って自分の胸に当てる」

「どうですか? 私の鼓動がわかりますか?」

「はい・・・ドキドキしてます・・・」

「そのドキドキに意識を集中してください。ほら、だんだんとあなたの鼓動とシンクロしていきますよ」

 また充は間を置く。

 普段は自分の動悸など感じるものではない。充は水樹の思い込みに賭けた。

「ほら、もうピッタリと合わさっていますね?」

「ほんとだ・・・」

 水樹が驚いたような声で言う。

「それは、私があなたであるからです。男の人の姿をしているのは通過儀礼に必要だからです。それがわかりましたね?」

「はい」

「試しに私の指を舐めてみましょう。口を開けて」

 充は念には念を入れることにする。

「どうですか? 甘いでしょう?」

「ほんとだ・・・」

 指先だけをやさしく舌の上に乗せると、水樹はうっとりとした顔になった。

「私はあなたの声。そして、あなた自身でもあります。ですから、触れれば気持ちよく、味は甘くておいしいのです。これでわかりましたね?」

「はい」

 水樹の返事にははっきりした気持ちが感じられる。

「では、私がみっつ数えたら、あなたは目を開きます。目の前にいるのは、あなたが望む男性の姿を借りた、あなた自身です。それでは、ひとつ、ふたつ、みっつ」

 目を開けた水樹は充を見てうれしそうな表情を浮かべる。

「私のこれが怖いですか?」

 充は屹立を指先でつまんで水樹に見せる。

「いいえ・・・だって、それは、あたし自信ですから・・・」

 水樹は首を振って答える。

「それでは私の前にひざまずいて、これを口にふくむのです。そうして、舌を使って舐めまわしなさい。」

「わかりました」

 水樹はうれしそうな声でそう言うと充の前にひざまずく。

「さあ。私のものは甘いですよ。そして、ここから出るものは、あなたが大好きなスターマックスのクリームよりおいしいはずです」

 部活で雑談しているとき、水樹がスターマックスのクリームが好きだと言っていたことを思い出して、そう言った。

「はい」

 次の瞬間には充の肉棒は水樹の口の中にあった。

 ねっとりとした感触に充は呻きをこらえるのがやっとだ。

 亀頭のまわりに舌が這うのを感じたとき限界が訪れた。

「で、出る! 飲むんだ!」

 そう言った瞬間には、もう熱いものが尿道を通って噴き出していた。

「んっ! んんんっ!」

 喉の奥に直撃を受けた水樹は咽せそうになるのをこらえて必死で飲み込もうとしている。

 そして、ついにゴクリと喉を鳴らして充のものを飲み込み、上を向いて微笑んだ。

 その唾液と精液で濡れた口もとを見たとき、まだキスもしていなかったと充は後悔した。しかし、後催眠が効いていれば、この後いくらでもできると気をとり直す。

「どうだい、味は?」

 だんだんと言葉遣いがぞんざいになってしまっているのに気がついて充は気を引き締める。まだ道は半ばなのだ。

「こんなに・・・いっぱい・・・おいしかった・・・です・・・」

 水樹は口のまわりにあふれた精液を舐めまわしながら言った。

「これで通過儀礼の第一歩が終わりました。あなたが、私の聖なる液を飲み込んだことによって、私はあなたを導く導師になりました。ですから、これからは導師様と呼びなさい。わかりましたか?」

「わかりました。導師様」

「そう。いい子だ。私は導師ですから、私のやることはすべて、あなたを性的な快感に導きます。さっきのように感覚に身を委ねるのです。そうすれば、さっきよりも何倍も感じるようになります。導師である私はあなた自身でもあります。ですから、私がよろこぶと、あなたもうれしくなり余計に感じます。わかりますね?」

「はい。わかります」

 充がニッコリ笑って言うと、水樹もうれしそうに返事をする。

「私はあなたをそのままミズキと呼びます。名前を呼ばれるだけで身体の奥が熱くなってしまいます。ミズキ、そこに横になりなさい」

「はい」

 水樹はソファーに上がって身を横たえた。

 充はソファーの傍らにひざまずいて色の薄いレーズンのような乳首を口にふくむ。

「あっ・・・」

 ため息のような喘ぎが水樹の口から漏れる。

 充は右手でもう片方のバストを包み込むようにして感触を楽しむ。

「導師様・・・ヘンです・・・おっぱいを触られてるのに・・・あそこが・・・」

 どんな風に感じるか教えろという暗示がまだ効いているらしい。術をかけている間は言葉に気をつけないといけないと再認識する充だった。

 水樹のバストは弾力という言葉がふさわしい。文字通り弾けるような感触に充は夢中になった。

 ついさっき出したばかりだというのにジュニアはビンビンに勃起していた。

「あっ・・・気持ちいい・・・の・・・あそこがジンジンしてます・・・」

「あそことはどこですか? ちゃんと言えば、もっと気持ちよくなれますよ」

 充は乳首から口を離して聞く。

「ああっ・・・お・・・おまんこ・・・です・・・あんっ・・・」

「よく言った。ご褒美をあげよう」

 充はバストを揉んでいた手を下腹へと滑らせていく。

 咄嗟に思いついた導師という呼び名に影響されて充自身の言葉遣いもおかしなものになっている。しかし、それが超常的な印象を水樹に与えていた。結果として暗示がさらに強力なものとなっていく。

「はうぅぅぅぅっ!」

 指先が秘肉へ触れただけで水樹は背中を弓なりに反らせて喘いだ。

「心の底では、ミズキは私の言いなりになる。逆らうことはできない。その代わり、この世で最高の快感を得ることができる。それでいいな?」

「はい・・・導師様・・・もっと・・・もっとください・・・」

「よく言った」

「あああぁぁぁっ!」

 充が中指を根本まで一気に挿入すると、水樹は叫びにも似た喘ぎ声をあげる。

「だいぶ、感じるようになってきたようだな?」

「ああっ・・・やばい・・・気持ちいい・・・あそこの中が・・・ひくひくしちゃう・・・ああんっ!」

 水樹の蜜壺は洪水のように濡れている。

「準備は終わった。もう大丈夫だ。通過儀礼の最終段階に入りますよ」

 充は水樹の膝と膝の間に割って入り屹立に手を添えて蜜壺にあてがう。

「ああっ・・・なに? 熱い・・・熱いの・・・」

 先端が触れたとき水樹が言った。

 いよいよ、これで童貞とオサラバだと思うと無茶苦茶に興奮した。

「いくぞ!」

 充は腰を進める。

「ああっ! すごい・・・いっぱいに・・・ああんっ!! 熱くて・・・どんどん・・・ジンジンするぅ・・・こわれちゃいそう・・・あああっ!」

 接合が深まっていく様子を、まるで実況中継のように喘ぎながら訴える水樹。

「あんっ! 奥に・・・あたって・・・やばい・・・やばいよぅ・・・溶けちゃうみたい・・・」

 根本まで挿入すると、水樹はおそろしく色っぽい目で充を見た。

 充は、そんな水樹の乳首を口にふくんだ。

「ああんっ! なに・・・だめ・・・落ちる・・・落ちちゃうぅぅっ!」

 舌先で乳首を転がすと水樹は小魚のように跳ねた。

 屹立に絡みつくような肉の感触に感激しながら充は挿送を開始する。

「あんっ! あんっ! あぁぁぁぁっ!!」

 激しく痙攣する様から絶頂を迎えてしまったのがわかる。しかし、ついさっき出したばかりなので、このまま膣内に出してしまうのはマズイと考える余裕が充にはあった。

「通過儀礼を終わらせるには導師に処女を捧げなければならない。しかし、ミズキにはすでに男性経験があった」

「じゃあ・・・あたしは解放されない・・・んですか?」

 余韻でひくひくと痙攣しながら水樹は絶え絶えに言う。

「お前に覚悟があるなら終わらせることができる」

「どうぞ・・・お願いします・・・導師様の言うとおりにします」

「よく言った。痛みはないから心配は無用だ。新しい世界を見せてやろう」

 充はそう言って屹立を引き抜く。

「はぁんっ!」

 また感じてしまったらしく喘ぐ水樹の膝を持って脚を折り曲げ、胎児のような恰好にさせて腰を浮かせる充。ネットで見たやり方だ。アナルセックスなら中へ出しても大丈夫だと思ったのだ。

「えっ・・・そこ・・・違いますぅ・・・」

 アヌスへ屹立をあてがわれ、水樹は戸惑ったように言う。

「ここは処女・・・そうですね?」

「ええっ・・・そ、そうですけど・・・汚いし・・・怖い・・・」

「大丈夫です。私に任せなさい。いいですね?」

「は・・・はい・・・」

 水樹の目を見つめながら厳かに言うと覚悟を決めたらしい答えが返ってきた。

「目を閉じて力を抜きなさい。いいですね?」

「はい・・・」

「新しい世界が開けますよ・・・一緒に気持ちよくなりましょう」

「導師様も気持ちよくなる・・・」

「そうですよ」

 充は笑顔で答える。

「なら・・・あたしも気持ちよく・・・なれる・・・の・・・?」

「そのとおりです。よく覚えていました。いい子ですね。では・・・力を抜いて」

「はい・・・」

 水樹が目を閉じたタイミングで充は慎重に進む。アナルセックスは痛みを伴うとか、慣れが必要であることはネットを通じてよく知っているつもりだった。潤滑剤が必要なことも知っていたが、腰を浮かせたときに、溢れた蜜がアヌスを濡らしていたのを見て大丈夫だと判断した。それに屹立も蜜で濡れきっている。

「あうっ!」

 未開の器官に亀頭の先が入り込んだとき水樹は大きな声を上げた。

「痛いですか?」

「いえ・・・熱くて・・・ピリピリして・・・ヘンな感じ・・・」

「私はミズキのここが気持ちいいですよ」

「あううっ!」

 ズルリという感じで亀頭が埋没したとき、水樹はまた声を上げた。

「すごい・・・マジ気持ちいい・・・」

 わざとではなく、亀頭の根本を締めつけてくるアヌスの感覚に、思わず充は本音を漏らしてしまう。

「導師様が・・・気持ちいいなら・・・あたしも・・・」

 水樹が目を開けて充を見る。

 なにかが通い合った気がした。

「ミズキ・・・」

「導師様・・・」

「ともに快楽の淵へ・・・」

「はい・・・」

 相手が同じ演劇部の水樹なので、つい芝居じみたセリフを口にしてしまう。しかし、それが心の底にいると信じている水樹にとって効果があったようだ。自ら腰を浮かせて充のものを受け入れようとしている。

「すばらしい・・・ミズキの身体はすばらしい・・・」

 充はそう言いながら結合を深めていく。

「ああっ! 導師様も・・・ああんっ! すごい・・・いっぱいに・・・ああっ!」

 もともと感じる体質なのか、それとも催眠のなせる業か、水樹は甘い声で感じていることを訴える。

「いくぞ!」

 ねっとりとまとわりつく肉の感触と、締めつけてくる入り口(?)のコンビネーションに、充はたちまち昂ぶってしまった。

「うおぉぉぉっ!」

「あうぅぅぅっ! あ、熱いのが・・・あぁぁぁっ!!」

 放出の雄叫びに呼応して水樹も高らかに喘ぐ。

 もう、なにも考えられずに充は水樹の上に倒れ込む。

 密着した肌の感触に陶然となりながら、充は荒い息を整える。

 そんな充の背中に水樹の腕がまわってきて、きつく抱きしめられた。

「はぁん・・・」

 その勢いで萎えたものが抜けて、水樹は軽く喘ぐ。

「ミズキ・・・」

「はい」

「これで、お前は完全に解放された」

「うれしい・・・」

「ここは、お前の心の底だ。現実の世界では、いつもと変わらない」

「そんな・・・もう、戻るのはいや・・・」

「大丈夫だ。いつでも、お前が望めば心の底へテレポートすることができる。鍵を握っているのは吉川先輩だ。わかっているね?」

「あ・・・はい・・・」

「だから吉川先輩は特別な存在だ。大切にしなくてはならない。いいね?」

「はい・・・大切にします・・・」

「お前は生まれ変わった。家庭教師のことはいい思い出としてだけ残ってはいるが、もう重みはない。儀式は終わった。帰る準備をしなくてはならない」

「はい・・・」

「後始末をして服を着なさい」

 充が服を着はじめると、ティッシュであそこを拭いていた水樹は釣られたように下着を着け、制服を着た。

「椅子に座って」

 充は水樹が最初に座っていた椅子を指さす。

「そう。目を閉じて身体の力を抜くと、またお花畑が見えてきます。見えますね?」

「はい・・・」

「あなたは身体から力が抜けて動けません。また、暖かいものに満たされ、ふんわりとした気分の中で心の声だけが聞こえてきます。私がみっつ数えると、あなたは現実の世界に戻り、吉川先輩と台本について確認作業をします。そのときには、心の底で起こったことは忘れてしまいます。いいですね?」

 いつでも望めば心の底へテレポートできると言ったのはどうなるんだろうと思いながら、充は暗示を与えていく。

「はい・・・わかりました・・・」

 水樹は抑揚のない声で答える。

「では・・・ひとつ・・・ふたつ・・・みっつ」

 覚ますときのキーワードを仕込むと便利だと思いながら充は数を数えた。

「あ・・・あれ?」

 水樹がきょろきょろとあたりを見まわす。

「大丈夫? なんか、ほんとにかかっちゃったみたいで心配したよ」

「えっ? ええっ?」

「なんだか、セリフに反応しなくなっちゃったから・・・」

「ごめんなさい・・・ボーッとしちゃったみたい・・・」

「やばいな、これ」

「なんで?」

「ちょっとリアリティを追求しすぎちゃったかも・・・だって、水樹ったら途中で意識失ったみたいになっちゃったもん。ちょっと焦ったけど、元に戻ってよかった」

「うん・・・」

 充が笑顔を向けると水樹は顔を赤くしてうなずいた。

「こりゃ、封印だな。芝居なんだから、それっぽいだけでいいんだってわかっただけで収穫だよ。水樹、さんきゅ~」

 充の笑顔を眩しそうな目で見る水樹。

 そのときiPhoneが鳴った。ディスプレイには「岸本彩」と表示されている。慌てて充は応答ボタンをタップする。

「ごめん。取り込んでて電話しそびれちゃった・・・あ、うん・・・あとで、かけ直すけど・・・うん・・・じゃ、6時頃・・・わかった・・・ごめん・・・あとで」

「だれ?」

 水樹の顔が曇る。

「あ、クラス委員の岸本。用事頼まれてたの忘れててさ・・・部活・・・ってか、水樹といたら忘れちゃったんだよ」

 機嫌を損ねたような水樹の顔を見て充は言い訳をする。

「ふうん・・・」

 まだ水樹は不満げだ。

「水樹、岸本のこと知ってるだろ? あいつ、超こわいんだ。俺、台本とか書いてるからホームルームの議事録まとめろって言われてたの忘れてたんだよ」

 水樹との計画に夢中になって彩へ電話するのを忘れていたのは失敗だった。それに、まさか向こうから電話をしてくるとは夢にも思ってなかった。

「そう・・・」

 水樹は素っ気ない。

「なんか、水樹、おかしくね? 俺がクラスの仕事しちゃいけないのかよ?」

 面倒臭くなった充は反撃に出る。

「あっ、ごめんなさい。先輩。そんなんじゃないんです。自分でもわからないんですけど・・・ごめんなさい・・・」

 充が強い態度に出ると水樹の対応が一変した。いくら覚えていないと暗示をかけても、術が解けたあとの人格や性格に影響が出てしまうらしい。水樹の態度は明らかにヤキモチだった。運命だの希望だの言わない方がよかったかと思う。

「ま、いいけどさ。水樹のおかげで台本の問題点もわかったし、家に帰って書き直すことにするよ」

「せんぱい・・・怒っちゃったんですか・・・?」

「なんで?」

「だって・・・」

「気にしてないよ。そうだ、今日のお礼にスターマックスでおごってやるよ。お前、なんとかフローズンとかいうの好きだって言ってたじゃん」

「いいんですか?」

「なんか不満?」

「いえ、うれしいです。だって、先輩、あたしがワガママ言ったから怒って帰っちゃうのかと思って・・・」

「怒ってないよ。それに、俺も疲れちゃったから、そのフローズンとかいうの食ってみたくてさ」

 そうは言ってみたものの、水樹の態度を見ていたらいままでの好意みたいなものが薄れてしまったのを充は感じていた。なんとなく女の本性を見てしまったのではないかとも思った。とにかく、もう部室にいる意味はないし、ここから出るのにはいい口実だった。

「せんぱい・・・」

 水樹が甘えた声で言ってくる。

「なに?」

「ほんとに・・・怒ってない・・・?」

「なにバカなこと言ってんだよ。行こうぜ」

 充は勢いをつけて立ち上がる。

「はい!」

 釣られて水樹も立ち上がった。

 駅前のスターマックスでお茶をして充と水樹は別れた。

 あまり会話は覚えていない。なんとかフローズンをうれしそうに飲んでいる水樹と、催眠状態で喘ぐ水樹がどうしても同一人物に感じられず、充はしらけてしまったのだ。

 反対に水樹は甘えるように充にすり寄ってきた。ちょうど隣り合わせになる席しか空いていなかったのを幸いに身体を密着させて座ってきた。そんな態度が充をしらけさせる原因かもしれなかった。なんとなく仕留めてしまった獲物という感じで萌えないのだ。

 たぶん、ここで誘えば水樹はどこにでもついて来るだろう。うまくすればキスどころか、その先にだって進めるに違いない。でも、充は彩のことを考えていた。催眠術をうまく使えばセックスができる。ならば、後腐れなく彩を抱くことだってできるはずだ。水樹と比べて、彩の身体はどんなだろうと想像するだけで興奮した。

 充はまだ気がついていない。最初は催眠術を使ってセックスすることが目的だった。それなのに、その課程である催眠術をかけること自体により興奮を感じるようになったことを。

< つづく >

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