剣姫編 7
かつて、とある王国があった。
その国は傍若無人な王が治め、弱者は虐げられていた。
民衆は苦しんだ。
犠牲も大勢でた。
だが高貴な者は省みず、贅の限りを尽くした。
王族に1人の美しい姫が居た。
その姫は母親が下賎の者だった事もあり、民衆の味方だった。
やがて姫は立ち上がり、父である暴君を倒し、女王となった。
女王は国政を一新、民衆中心に切り替えた。
瞬く間に民衆の暮らしは良くなっていき、国中に笑顔が溢れた。
国の変動に乗じて、他国が侵略してくる事もあった。
女王は常に先陣に立ち軍を指揮し、強大な力で王国を勝利に導いた。
その姿はまるで軍神の様であった。
それだけの力が有りながら、女王は他国への侵略を是としなかった。
王国の防衛だけに努め、争いは討論で解決しようとした。
その試みは難航したが、女王の誠意が通じたのか。
あるいは他の要因があったのか。
周辺国家は同盟を結び、戦争は無くなり、遂に平和が訪れた。
人々は喝采した。
平和は長く続いた。
女王は善く国を治め、人々から愛された。
平和は長く続いた。
女王は皆に愛され、いつまでも美しかった。
――そう、いつまでも。
女王があまりにも歳を取らないので、人々は不思議に思った。
女王は何者なのか?
疑問が生まれた。
女王は人間では無いのか?
噂は彼方此方で流れた。
――だがある時、誰かが言った。
女王が何者でも関係無いではないか?
皆を救ってくれたのは、紛れも無く女王なのだから。
人々は賛同した。
歳を取らない?
それがどうした。
きっと女王は神なのだ。
皆を救う為、天から降りてきてくださった神に違いない。
そんな考えが王国を包み込んだ。
無論、それを是しとしない国も存在した。
それらの国は協力し、王国に宣戦布告をした。
女王は魔の者である、として。
しかし、女王を女神として称える民衆は団結し、強硬に抵抗した。
また、女王は自ら他国を訪れ、和平への道を協議した。
その結果、女王は改めて他国から認められ、大した戦も無く再び平和が訪れた。
民衆は喝采した。
やはり女王は神なのだ、と。
平和は長く続いた。
――だが。
一体どの位の時が過ぎた頃だろうか。
女王が突然姿を消した。
最初はどこかへお忍びで出掛けたのだろうと、皆思った。
しかし、一月経とうが二月経とうが、一向に女王は戻らなかった。
様々な噂が流れた。
誘拐されたのでは?
あの神にも等しい女王を?
それが出来る者を、誰も想像出来なかった。
では、暗殺か?
それこそ誰が可能なのか?
また、誘拐犯からの要求も無ければ、女王の遺体も見付かっていない。
捜索は続いているが、何の手掛かりも掴めていなかった。
誰かが言った。
天に御帰りになったのだ、と。
この考えは徐々に人々の心に染み渡っていった。
――そして、後継者争いが始まり、国は乱れた。
また、豊かなこの国を、周辺国も放っては置かなかった。
人々は平和を望む。
この意見に異を唱える者は居ないだろう。
だが、本当に平和を望んでいるのだろうか?
王国は女王の手に因って、長い平和を手に入れた。
しかし、女王が居なくなると、半年と経たずに国は乱れた。
人々は平和を望む。
それは真であろうか?
少なくとも、その国の名前を覚えている者は……もう誰も居ない。
< つづく >