好奇心は猫をも殺す 7

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「ひゃぁぁぁいぃぃぃあぃあぁぁぁぁがぁああぁぁぁぁぁぁあっ!」

 響き渡る絶頂の声に、太一は目を覚ました。
 見ると委員長が大きく口を開け、涎を撒き散らしながら叫んでいた。
 ……どの位寝てたんだろうか。
 よく見ると、たった今委員長をイかせたのは、出席番号が最後の男子だった。
 クラス男子が全員終わった所の様だ。
「どれどれ」
 太一は立ち上がると、委員長の傍まで歩み寄る。
 普通に動く事は問題無さそうだった。
 力はまだ不安があるが、委員長があれでは大丈夫だろう。
「調子はどうだい? 委員長?」
「……ふぇい?」
 委員長が鈍く反応したが、その目は虚ろで何も映していない。
「なかなかそそる姿になったね」
 身体中が精液でベタベタで、目からは涙、口からは涎が垂れている。
 表情は淫らに崩れ、いつもの凛とした委員長からは想像も付かない姿だった。
「じゃ、僕も楽しませて貰おうかな」
 太一が服を脱ぎ始めた。
「……でも、他人のが残ったのは流石に嫌だな……」
 太一はマンコから零れ、体中にこびり付いた精液を汚い物を見る様に見た。
「おい、委員長を綺麗にしろ」
 その言葉に、傍に居た星野達3人が委員長に群がる。
 星野はマンコに口を付けると、舌を差し込み膣内から吸い出し始めた。
 桜井と宮下は委員長の身体に舌を這わせて、こびり付いた精液を舐め取っていく。
「あ、ぁぁんっ! ひゃんっ! いぃぃっ!」
 委員長がそれらの行為に反応し、淫らに声を上げる。
 乱れた委員長を見ていると、太一のチンポは見る見る大きくなった。
「もういい、どけ」
 堪らず太一は割って入り、待ち侘びるかのように開いたマンコにチンポを突き入れた。
「ひぁああぁはぁぁあああぁいぃぃぃいぃんっ!」
 委員長は嬌声を上げた。
 あれだけ開いていたマンコはしっかりとチンポを咥え込み、快感を逃すまいと蠢く。
 それは太一にも快感を与えた。
「いいな、委員長。お前は最高だよ」
 太一は激しく腰を振り、委員長のマンコを楽しんだ。
「あぁっ! ひっ! あぁんっ!」
 突かれる度に委員長が声を上げる。
 あの委員長が自分に突かれて喘いでいる。
 それが太一を堪らなく興奮させていた。
 程なくして、2人とも絶頂を迎えようとしていた。
「そら、委員長、これで仕上げだ」
 言うと太一は委員長の目を覗き込む。
 右目に残った力を注ぎ込んだ。
「お前は俺に中出しされると俺の物になるんだ。一生俺の肉奴隷にしてやるよ」
 荒い口調で高笑いする太一。
 太一を知る者が見たら、あまりの変わり様に目を疑っただろう。
「そ~ら、そろそろ出すぞ~」
 太一がスパートをかけたその時――。

「それはちょっと嫌かもね」

 不意に背後から声が掛かった。
「何っ!?」
 慌てて太一が振り返る。
 そこには見覚えの無い女生徒が笑顔で立っていた。
――誰だ?
 考えても全く心当たりが無い。
 無いが、浮かべている表情には見覚えがあった。

 ……その笑顔は確か……。

「――まさかっ! 委員長っ!?」
「正解」
 女生徒が答えた。
 答え方も委員長と同じだった。
「馬鹿なっ!」
 太一は自分が抱いている委員長を見た。
 委員長はここに居る。
「お前は誰だっ!」
「取り合えず、落ち着いて周りを見ようか」
 女生徒の言葉に太一は周りを見た。
 そこには、女生徒と同じ笑顔を浮かべた人達が、全員太一を見ていた。
「ひっ!」
 太一は恐怖した。
 皆同じ笑顔なのだ。
 全員顔の筋肉が同じ動きをしているのだ。

「「「「「どう? わかった?」」」」」

 全員が一斉に話した。
 同時に声帯が同じ動きをしたのだ。
「お前はいったいっ!?」
 太一はよろけ、後ろに倒れかけた。
 が、それを腰に巻きついた足が支えた。
「ほら、危ないよ」
 委員長だった。
 さっきまでの淫蕩な表情ではない、凛とした顔をしていた。
「それに中途半端は……ねぇ?」
 腰を蠢かし、萎みかけたチンポを刺激する。
「お前っ!? ひぃっ! やめっ!」
 太一が混乱し暴れようとするのを、星野達3人が押さえ込む。
「お前達までっ!?」
 太一はますます困惑する。
 この3人は特に念入りに力を使ってある。
 そんな簡単に解けるはずが無かった。
「種明かししようか」
 委員長が話し出す。
「私の能力は……同化吸収」
「何だって?」

「「「「「だから、今はここに居る全員が私なの」」」」

 全員が言った。
「流石にこの人数を同化するには、骨が折れたけどね」
 委員長が照れ笑いを浮かべる。
「お前は……何なんだ?」
 太一が恐怖に顔を歪めながら聞く。
「私は委員長だよ」
「嘘だっ!」
「それより、君こそ誰? 私の知ってる菊池君はそんな乱暴じゃないよ」
 委員長が太一を睨む。
「だから、菊池君を返してもらうわね」
 両手で太一の肩を掴む。
 太一は振り払おうとしたが、手が動かない。
「な、なんで!?」
「だから言ったでしょ? 同化吸収だって」
 狼狽する太一に委員長が答える。
 見れば、委員長の手が太一の肩と同化していた。
「君の敗因は油断し過ぎよ」
「油断だって?」
「そう自分の力に溺れ、相手の事を知ろうともしない」
 太一が拘束から逃れようと身を捩るが、身体はビクともしない。
 いや、すでに自分の身体という認識が無かった。
「そして自分の限界も知らず、結果、私に時間を与えてしまった」
 委員長は周りを見る。
「こんなに大人数を同化出来るだけの時間を、ね」
 太一は愕然とした。
 確かに言う通りだった。
 では、全ては委員長の計算通りだったというのか。
「ほら、途中だったでしょ? 楽しみましょ」
 委員長は扇情的な笑みを浮かべ、腰をくねらせた。
「……3分耐えれたら褒めてあげるわ」
 膣内が蠢き、チンポを締め付けた。
 また、愛液が異常に分泌され、2人の結合部から溢れ出す。
「ぎゃっ! がっ!」
 それだけで太一に信じられない程の快感が走った。
 今までのセックスなど問題にならない、圧倒的な快感だった。
 無論、愛液に含まれた媚薬成分の所為だが、太一に気付く余裕は無かった。
 ただ、快楽に翻弄されるだけだ。
「ほら、全部吐き出すまで、搾り取ってあげる」
 委員長はますます腰を淫らに、激しく蠢かす。
 あまりの快感に耐えられず、太一は快感にのた打ち回った。
――その時、太一に変化が起こった。
「ぎぃいぃいぃぃいいっ!」
 奇声を上げ、委員長の拘束から逃れようと激しくもがく。
 右目が変化して、人間の物では無くなっていた。
 いや、太一である事も止めた様な動きだった。
「……出たね」
 委員長が睨みつける。
「……全く、あの3人で満足してれば良かったのに……」
 どこか呆れる様に言った。
「欲をかくと、身を滅ぼすわよ」
 委員長は足をしっかりと巻き付け、止めとばかりに腰を振った。
「ほら、お終いね」
「ぁがぎゃがあぁいぁいあぅぅぇぇぇぃぃぃぃ、あぅぇぁああああぁぁああぁぁがぁぁっ!」
 太一は絶叫し、委員長の中に吐き出した。
 それは信じられない程の量だったが、委員長のマンコは一滴残らず飲み干した。
「……ふぅ、御馳走様」
 委員長がお腹を摩りながら、満足げに言った。

 程なくして、太一の目が元に戻った。
「あれ……僕は……」
「お帰りなさい、菊池くん」
 それを委員長の優しげな笑みが迎える。
「あ、委員長……って、僕っ!」
 太一が今の状況に慌てた。
 まだ2人は繋がったままだった。
「こらっ、急に動くと危ないわよ」
 委員長が足で締め付け止めた。
 状況的には先程と変わらない。
 が、2人の表情は別物だった。
「ご、ごめん、委員長、あの、いろいろ……」
「もういいよ。全部が菊池くんだけの所為じゃないしね」
 委員長の表情は優しい。
「私も甘く見てた所があるしね」
「委員長にこんな力があるとは知らなかったよ」
 太一が言った。
「委員長も、もしかして僕みたいに?」
「違うわ」
 委員長に浮かぶ複雑な表情を見て、太一は思い出した。
「委員長の言ってた、辛い事って……」
「――ま、そんな所ね」
 委員長が遮る様に言う。
「でも、そんな力があったなら、もっと早く僕を止められたんじゃ……」
「……そうだね」
 委員長は心の中で認めた。
 確かにそうなのだ。
 太一の異変に気付いたのはかなり初期、星野達3人が変えられた直後だった。
 すぐにでも止めるつもりだったが、その後の太一に行動を見て思い留まった。

――太一が余りにも幸せそうだったから。

 星野達3人は自業自得な所もあったので、このままなら手を出さないと決めた。
 が、ある日の太一は何処か様子が変だった。
 尾行してみると、喫茶店で見知らぬ女性に力を使おうとしていた。
 流石に見過ごせず割って入り、忠告もしたが、逆に今回の事を招いてしまった。
 そう、最初に動かなかった自分にこそ、責任の大部分があった。
 自分の敗因もまた油断だった。

「ごめんなさい」
 委員長は頭を下げた。
「そ、そんなっ! とんでもないよっ!」
 慌てて太一が言った。
「こっちこそ、ごめんなさい。僕、酷い事したよね……」
 太一が項垂れた。
 その顔は酷く落ち込んでいた。
「いいのよ、もう」
 委員長が笑顔で言った。
「それに……まだ途中だし……」
 その笑みが妖艶なモノに変わる。
「もう少し楽しみましょ……」
 絡めた足が強くなった。
「えっ? ぇえっ!?」
 混乱する太一をよそに、委員長は腰をくねら始める。
「ちょっ! なっ! ま、まってぇぇぇっ!」
「ま・た・な・い」

 ……太一は委員長に搾り尽くされた。

 流石の太一のチンポも萎み、マンコから押し出される。
 後ろに倒れそうになるのを数人の生徒が支え、静かに横にして寝かせた。
「ふふっ、お休みなさい」
 委員長は満足そうに微笑む。
「……さて、と」
 委員長は真顔になると、自らのマンコに中指と人差し指を入れて弄る。
「ん、んんっ! あぁっ!」
 暫く動かしてから引き抜くと、指の間にピンポン玉位の大きさのモノがあった。
「これね……」
 委員長は忌々しげに睨みつけると、徐に口に入れ飲み込んだ。
「……御馳走様」

 暫くすると、太一が目を覚ました。
「おはよ」
 委員長が爽やかな笑みで迎えた。
「お、おはよう」
 太一はどこか引きつった笑みで答えた。
「さて、皆を元に戻しますか」
 委員長が辺りを見回しながら言う。
「後始末もしなきゃならないし、皆の記憶も消さなきゃね」
「そんな事出来るの?」
 太一は驚いた。
「ま、皆の中の私を回収するだけ。『私』は私だけで十分だし」
 そう言った委員長の表情は、太一からは陰になって見えなかった。
「その時に余計な記憶とかは一緒に回収するだけよ……脱童貞の男子は残念だろうけど」
 委員長は小悪魔的な笑顔で太一に向き直った。
「じゃあ、早速――」
「待ってっ!」
 太一が引き止めた。
「お願いがあるんだけど」
 その表情は真剣だった。

 あれから数日経ったある日の放課後。
 太一は星野達3人に呼び出され、空教室に向っていた。
 あの日太一は委員長に頼み、3人の記憶は消さないでもらった。
 委員長は心配そうだったが、太一の望み通りにしてくれた。
 但し、委員長の力に関する記憶は消されたが。
 太一は3人に全てを話し、誠心誠意謝った。
 心と身体を操り、弄んだ事。
 許されるとは思ってないけど、一生掛けても償う、と。
 額を床に摩り付け、謝り続けた。
 3人は暫く言葉も無く愕然としていたが、目配せし合うと太一の前から無言で去って行った。
 罵りや恨みの言葉すら無かった事が、太一を打ちのめした。
 今更ながら、自分のした事の愚かさに気付き、号泣した。
 そして、あの幸せな日々を失った事に、どうしようもない喪失感を覚えた。
 それからは以前と同じ、孤独な学校生活が戻った。
 いや、3人にすら避けられた為、更に孤独を味わった。
 もしあの日に戻れるなら、馬鹿だった自分を殺してやりたい程だった。

 そんな時に3人からの呼び出しだった。
 許されるとは思っていない。
 寧ろ殺されるのではないかと思う。
 自分のした事を考えれば有り得る事だった。
 ……それもいいかな。
 そう考えながら、太一は空教室の前まで来た。
 太一は震える手で扉を開けた。
 そこには3人が座って待っていた。
 太一からは逆光で、3人の表情は見えない。
「お、遅れて、ごめん」
 太一がたどたどしく謝った。
「……そんな事はいいんだよ」
 星野がどこか押し殺した声で言った。
 ……やはり許されてないな。
 もうあの笑顔は見れないのか。
 太一は泣きそうになった。
「あ、あの、ほんとに、ごめ――」
「だから、そんな事はいいんだよっ!」
 尚も謝ろうとした太一を、星野が大声で遮る。
 そして、ゆっくりと太一に近付き、目の前に立つ。
「……1つだけ答えな」
 低く尋ねる。

「……私達の事、好きか?」

 太一は予想外の言葉に驚いたが、すぐに大きな声で答えた。

「好きですっ! 愛してますっ!」

 太一は迷わなかった。
 迷ってはいけない時だった。
 初めて使った愛と言う言葉も、これ以上相応しい場面は無いと感じた。
「……そうか……」
 星野はそう言うと、押し黙った。
 そして、小刻みに震え出した。
「あ、あの、星野、さん?」
 心配になった太一が声を掛けた時、星野が太一に抱き付いた。
 そして、そのまま床に押し倒す。
「わっ! えっ? な、なにっ!? むぐっ!」
 混乱する太一に、星野がキスをした。
 舌を絡めた、情熱的なキスだ。
 しばらく太一の口内を蹂躙すると、星野は唇を離した。
「なら、一生責任取ってもらうからなっ!」
 目に涙を浮かべ、心底嬉しそう顔をしていた。
 そして太一のズボンと下着を脱がしだした。
「えぇっ? ちょっ! どうなってっ!」
 混乱して抵抗も出来ない太一は、忽ち下半身を裸にされた。
 男の悲しい性と言おうか、そんな状況でもチンポは勃起していた。
「何だ、もう準備出来てるじゃん」
 星野が妖艶な顔をする。
 素早く下着を下ろすと、星野のマンコもすでに濡れていた。
「私も準備万端だから、もう入れるぞ」
 言うや否や、待ち切れないとばかりに太一に跨りチンポを咥えこんだ。
「あぁあぁぁいぃぃいぃひぃぃぁぁあぁんっ!」
 それだけでイってしまったのか、高く嬌声を上げる。
 暫く余韻に浸っていたが――。
「ほらっ! 後がつかえてますのよっ!」
「そうだよ~、早くしてよ~」
 桜井と宮下が待ち切れないと言った様に声を上げる。
「順番は決めただろっ! 大人しく待ってなっ!」
 邪魔するなと言わんばかり言い返し、再び腰を使い出した。
「え、えぇ? どうなってるのっ!?」
 太一は混乱するばかりだ。
 どうしてこうなったか見当も付かない。

 ……でも、もしかしたら、あの幸せな日々は終わってないのかも知れない。

 そう思うと、太一の目から涙が溢れてきた。
「どうした? 痛かったか?」
 星野が腰を止め、心配そうに声をかける。
 その自分を気遣う言葉がたまらなくうれしかった。
「だ、大丈夫、う、嬉しい、だけだから……」
 それ以上は言葉にならない。
「そっか……」
 星野も目を潤ませていた。
「……さ、楽しもうぜ。2人には悪いけど、残らず吐き出させてやるからな。……覚悟して下さいね、私の御主人様」
 涙を拭い、もう一度太一にキスをすると、腰を動かし始めた。
 太一もそれに応える。
 それを桜井と宮下が、嫉妬が混じりながらも優しげに見守っていた。

「よかったね、菊池くん」
 廊下から様子を窺っていた委員長は、心から安堵した。
「さて、お邪魔虫は退散しますか。……ま、こうなるだろうとは思ってたけどね」
 空教室から去りながら、委員長は思い返していた。
 3人から回収した『私』から、大よその予想は出来ていた。

 星野達3人は皆、愛に飢えていた。

 星野は小さい頃に両親が事故で死亡していた。
 両親は望まれた結婚では無かった様で、残された星野は親戚中を盥回しにされた。
 何処に行っても厄介者扱いだった。
 子供には分からないだろうと、酷い事も散々言われた。
 分からない筈は無いのに。
 星野は愛を与えられずに育った。

 桜井の両親は仕事が忙しく、家に居ない事が殆どだった。
 一体家族が揃ったのは何時が最後だろうか。
 どれだけ頑張っても思い出す事が出来ない程だった。
 両親は愛情はあるようだが、基本的に物を与えればいいと言った愛情表現だった。
 そんな間違った愛情で、心が満たされる筈も無かった。
 桜井が欲しい物は、決して目に見える物では無かったのに。

 宮下に至っては孤児院出身で、親の顔すら知らない身だった。
 生まれたばかりの状態で、山中に放置されていた。
 偶然登山客が通り掛り発見しなければ、そのまま死んでいただろう。
 その後、孤児院で普通の子供として育てられた。
 が、自分がどんな状況なのかは成長するにつれて分かるものだ。
 両親に捨てられた、いらない子供。
 宮下は自分自身に価値を見出せなかった。

 そんな3人が出会い、似た環境が距離を近付けた。
 だが、どこかで相手の不幸を喜ぶような関係だった。
 本来なら長続きする筈のない関係だが、今回は例外だった。
 太一の存在だ。
 いじめられっ子の太一は、3人にとって絶好の攻撃対象だった。
 太一という自分達より不幸な存在を得て、3人は関係を続けられた。
 それは安心できる居場所だったのかも知れない。
 そして、居場所を失う事を恐れ、執拗に太一を攻撃していたのだ。
 それが、今回の事を招いた。
 が、結果は思わぬ方向に転がった。
 操られるという望まない始まりだったが、それにより3人は愛を得た。
 見下し攻撃していた相手から、望んでいた愛を貰ったのだ。
 太一は自分達を愛してくれた。
 大切にしてくれた。
 労わり、気遣い、心からの笑顔をくれたのだ。
 太一は今まで誰もくれなかった物をくれた。
 それは夢にまで見た幸せな世界だった。
 太一から貰ったこの愛を手放したくない。
 いや、太一を失いたくない。
 その想いは力から開放された後も、心の中に強く強く残った。
 しかし3人は迷った。
 太一は私達の事をどう思っているのか。
 あれだけ酷い事をしてきたのだ。
 今更愛してくれと言えるのか。
 太一が愛してくれるのか。
 その資格があるのか。
 3人は悩んだ。
 が、その間も想いはどんどん増していく。
 そして決断した。
 当たって砕けるのみ、と。
 そして、もう1つ決めたのだ。
 もし……もしも、太一が私達を受け入れてくれたのなら……。

「最初に孕んだ者が菊池くんと結婚できる。残りは愛人で我慢……か」
 委員長は思い出し、微笑んだ。
「菊池くんもまだまだ大変だね」
 どこか嬉しくて、スキップでもしたい気分だった。
「キミは誰とキスをする~っ、てね」
 軽く鼻歌を口ずさんだ時――。

「それはちょっと古くないかい」

 不意に声が掛かった。
 委員長が声のした方を見ると、廊下の突き当りに人影があった。
 コートを着ているかの様なシルエットだった。
「誰?」
 委員長は身構えた。
 一体何時からそこに居たのか、まるで気配を感じなかった。
「忘れたのかい? 残念」
 言いながら人影は近付いてくる。
 距離が近付くにつれ、コートでは無く白衣の様な物だとわかった。
「あなたはっ!?」
 委員長は息を飲んだ。
 その影に見覚えがあったのだ。
「久し振りだね。お元気そうで何より」
 中性的な声が響く。
「……ええ、お久し振りね」
 委員長が応える。
 そこに笑顔は無く、一片の油断も無かった。
「で、何しに来たのかしら?」
「もう判ってるでしょ?」
 影は質問で返した。
 確かに判っていた。
 太一と同化した時、太一の体が弄られている事に気付いたからだ。
 太一の体はモノに合う様に調整されていた。
 更に肥満化や体臭の悪化等、人から嫌われる要素も追加されていた。
 恐らく負の感情を持った人物の方が都合が良かったのだろう。
 そして、そんな事の出来る組織を委員長は知っていた。
「ええ……これ、ね」
 委員長が舌を出すと、そこにはピンポン玉の様なモノが乗っていた。
 太一から取り出したモノだった。
「正解」
 影が手を広げ、おどける様に答える。
「これをどうするつもりなの?」
 モノを指で摘んだ委員長が問う。
 答えによっては戦いになるかも……。
 委員長の全身に緊張が走る。
 ……しかし。
「あぁ、それはもう好きにしていいよ」
 影はあっさりと言った。
「それにもう用は無いしね。適当に報告しておくから、キミも気にしなくていいよ」
 あまりに意外な答えだった。
「そんな報告が通るとでも……?」
 委員長の問いに影は自慢げに答える。
「……通るよ。知ってるでしょ? あそこの連中は皆、上には逆らえない」
 言いながら影はニヤリと笑った。
「……キミの一部に同化された、この私以外はね」
「私を恨んでいるの?」
「恨む? とんでもないっ! 寧ろ感謝してるくらいだよ」
 影は大袈裟に手を広げ、笑った。
「だから、キミの脱出にも手を貸してあげたでしょ?」
「なっ!」
 その言葉に委員長は絶句した。
「あれ? まさか、あんなに偶然が重なると思ってたの?」
 それは委員長も疑問に思っていた。
 奇跡なんて、起こらないから奇跡なのだ。
「あなただったんだ」
「キミは私に自由をくれた。だからキミが自由を得るのに協力したのさ」
 そして委員長をまじまじと見た。
「……まさか生き延びるとは思ってなかったけどね」
「そうね、私も思ってなかったわ」
 委員長は自嘲的な笑みを浮かべた。
「今はもうすっかりその少女になったんだね」
「違うわ」
 委員長は否定した。
「失敗作の変異体はもう居ない。私は、委員長よ」
「……そうかい」
 影は振り返った。
「キミともう会わないで済む様に願ってるよ」
「私もそう願うわ」
 影が遠ざかって行く。
「そうだ」
 影の声が遠くから聞こえた。
「委員長ってのはあだ名でしょ? キミの本当の名前は何?」
「あなたに名乗る理由は無いけどね……まぁ、いいわ、改めて自己紹介するわね」
 委員長は胸を張り、誇らしげに言った。

「私の名前は――――」

< 続く >

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