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最初に感じたのは衝撃。
次に全身を激痛が駆け巡る。
円城寺武は呆然と自らの胸を見た。
学ランが破れ、ぽっかりと大穴が開いている。
穴は丁度心臓の位置だった。
背中まで貫通し、そこには何も無い。
穴から噴出す鮮血が、瞬く間に学ランを濡らしていく。
「――っ!」
声を出そうとしたが、喉の奥から血が溢れただけだった。
身動きすら間々ならない状況に、頭が理解してしまう。
――自分は死ぬのだと。
目の前で返り血を全身に浴びた少女――世界に仇なす妖魔が1人、銀の女王が静かに笑う。
まるで死に行く者への手向けのように。
視界がぐらりと歪み、武は倒れた。
起き上がろうとするが、体は最早ぴくりとも動かない。
そんな武の体を、誰かがそっと抱き起こす。
霞んで碌に見えない目を凝らすと、それは銀の女王だった。
銀の女王が何か言っている。
が、武の聴覚はすでに麻痺していて、何を言っているのか分からない。
不意に武の唇に、銀の王の唇が触れた。
驚いたが、その感情もすぐに押し流されていく。
世界が暗くなっていく。
目の前にあるはずの銀の女王の顔が、黒く塗り潰されていく。
何も見えない。
感じない。
呼吸が止まる。
遠い昔から数多の妖魔を屠り、世界を守ってきた者達。
その1人、大剣使いの円城寺武は……死んだ。
この世界は、静かに悪夢に蝕まれようとしていた。
その中で人々は変わらぬ暮らしを続けている。
薄氷の上を歩くかのような、脆い現実。
そんな世界の中、様々な技を駆使して悪夢と戦い続ける者達がいた。
降魔師、エクソシスト、魔法使い、陰陽道……。
すなわち悪夢に対峙しうる力。
それは、魔を滅する剣 ―saber―
それは、世界を救済する者 ―saver―
それは、救世主 ―savior―
それを人はセイバーと呼んだ。
< 続く >