聖騎士王国の籠絡 第二話

第二話

 聖騎士王国、第三王子シェムザールの部隊を陥落させたわたし――マリは、ヴィスに頼んで、魔国マリスマギアの人たちを呼び戻してもらった。
 別に、あのまま、聖騎士王国まで進行してもよかったのかもしれないが、まずは自陣を固めることを優先したのだ。
 おかげで、それなりに時間をくってしまったが、よいこともあった。
 それは、シェムザールの部隊のみんなを、魔国の女性たちで、味わい尽くすことができたことだ。
 魔国の最高指導者、女王ユスナグにも、彼らを献上することで、協力を仰ぐことができた。
 おかげで、この謁見室兼事務室兼自室のような部屋も与えてもらうこともできた。
「そういえば、ヴィス、女王が国の指導者って、この世界では普通なの?」
「うーん……そうですね、血統を重んじる国ではふつうだと思いますが」
 血統?
 疑問に思ったわたしに、「あれ、こんなこともわからないのかな?」みたいな素朴な疑問の目をヴィスが向ける。
 悪気はないんだろうが、ヴィスだけがこの城の防衛線に残された理由がわかる気がするぞ……君、友だちいないだろ。(いや、もしかしたら、相当に優秀な術者だったから、というのもあるのかもしれない。魔国の女性術者の話を聞く限り、ヴィスの魔術の技能は相当に高いようだ)
 ま、最近は、ヴィスのそういうところも、かわいいと思うようになっている。
 頭が回りすぎて、知的レベルがふつうの人間のことが理解できないだけなのだろうと思いはじめているからだ。
 それに、何度もセックスしていると、情がうつってしまうというか。
 なんとなく、憎み切れない。
「あのー、どの腹から生まれたのかはわかりますが、どの種から生まれたのかはわからないじゃないですか」
「なるほど」
 なるほど。
 なるほどだった、本当に。
「血統を重んじる国は、だから女王が国を継ぐのがふつうです」
「一妻多夫制なのも、ふつう?」
「あー、それはちょっと珍しいかもです。なんというか、比較的新しい制度なんですよね」
「新しいんだ」
「ええ、女は本能的に優秀な子孫を残そうとするから、よりたくさんの男の精子をたくさん子宮にいれて競争させることで、より優秀な子孫を産む、という考え方です。競争する精子の数が多ければ多いほど、その中に含まれる優秀さの確率が上昇する、と思っているんですね。だから、女の浮気というか、女がたくさんの男と寝たいと感じるのは、本能によるものであるという考え方が、一時はやりましてね。そのなごりかな。まあ、数百年前くらいからの流行みたいなものです。最近は、反対意見もありますけど、だいたい女の子の浮気の方が大目に見られたりしますよね、この国では」
「なんか、男は本能的にいろんな女を孕ませて自分の血を残そうとするからといって、浮気を正当化する理論と同じ匂いを感じるぞ……」
「へえ、そんな理論があるんですか。聞いたことないですが、マリ様の世界は、ちょっと逆になっているみたいですね」
 きらきら、とヴィスの目が、知的好奇心に輝く。
 そのときだった。
「マリ様、見張りの兵士が、第二王子アールクラインの部隊を発見しました!」
 わたしの傀儡になった、シェムザールのところの兵士が、わたしに忠誠のまなざしを向けている。
 うーん、確か彼とは夢の中で一度きりしただけだったなぁ。
 また食べたい……。
「わかった。出撃して迎え撃とう。でも、その前に」
 ふわぁ、と浮き上がって、彼のそばまで行く。
 どうも、精を吸い取れば吸い取るほど、不思議な力を使えるらしく、わたしは浮遊能力や、簡単な魔法が使えるようになっていた。
「その前に、君を食べることにするね」
 そういって、有無を言わせずキスをする。
 むくむく、とわたしの手の中で、彼のおちんちんが勃起していくのがわかる。
 大きくなったおちんちんに、ぷしゅっ、と尻尾のとんがった先っちょを刺す。
 精管に特殊なゲル状ポリマーを注入して、精管内のポリマーを通過すると、精子が破壊される仕組みだ。
 避妊も完璧!
 終わったらこれを押し流せばいい。
「では、マリ様、ごゆるりとお楽しみください」
 ばたん、と扉をしめて、ヴィスが出ていく。
 わたしは風を操って、とびらにかんぬきをかけると、兵士をベッドに押し倒した。

「やっぱり生身の人間って、おいしいねえ! 元気が満ち満ちてくるよ!」
「いや、僕は淫魔じゃないので、よくわかんないんですけど」
 そう言って、ヴィスはちら、と横を見る。
 そこには、寡黙ながら、しっかりとシェムザールがついてきている。
 今は夜。
 みんなが寝静まった時間、アールクラインの夢に入るために、わたしたちは少人数での隠密行動をしていた。
 シェムザールのときと違い、そこまで城の近くにいるわけではないので、こちらから動かないといけないのが、ちょっとつらいところだ。
「シェムザールも、お兄ちゃんの魔剣の力は知らないんだよね?」
「魔剣ではなく、聖剣です、マリ様」
「あ、そっか、ごめん」
 どうも違いがいまいちわからないけど。
 結界切りの剣とか、どうも攻撃的な感じがするし。
「どうやら、俺の剣とは相性が悪いらしい、という話は聞いていますが―――正直、聖剣の能力は、保有者にのみ知らされるのがふつうで、俺みたいに有名なのは例外なんですよ。俺の剣だって、他の国と戦争するときに能力を見せざるをえないから有名なだけで、能力の正体がつかめずに効果を発揮するものだったら、自分から話したりはしません」
「そっか」
 だけど、シェムザールの剣と相性が悪いなら、好都合だ。
 わたしたちは、第二王子アールクラインの陣地へと近づく。
「――――駄目ですね、ちょっとこの陣地のどこに彼がいるのかわからないです」
 千里鏡、遠隔透視魔法道具を使っても、良く見えない。
「魔法防御結界か何かか? うーん」
 ヴィスがうなる。
「ま、ともかく、このわたしの増大した力で、ちゃちゃっと片づけてくるよ。体、見張っておいてね」
「はい、気を付けてください、マリ様」
「命に代えても、俺がお守りいたします」
 二人のかっこいい男の子に見守られながら、クエストにでかける、というのは悪くない。
 わたしは、幽体離脱して(いちいち寝なくてもよくなったのだ)、陣地にふらふらと浮遊して近づき―――
「ぐあっ!?」
 気づいたら、わたしは体に戻っていた。
 なんだ、今のは。
 変な壁みたいなものを感じたぞ―――
 ぶおおおおおん、と敵襲を知らせる笛がなる。
 気づかれた!?
 びっくりしたわたしたちは、闇夜に乗じて、その夜は逃げ出すことにした。
 その判断が早かったことと、風の魔法をヴィスが使うことで、足跡を消すことに成功し、追手をうまくまくことができた。

 次の夜。
 昨日のあれについて、わたしはひとつの仮説をたてた。
 あれは、ヴィスのいうように、魔法防御結界とやらか、あるいはなにかしら、それに類するものだ。
 ということは。
 シェムザールがいる、わたしたちの敵じゃない。
 みんなが寝静まった夜に、わたしはまた、こっそりとアールクラインの陣地の近くに這いよる。
「シェムザール、お願い」
 待機していたシェムザールが、剣を抜く。
「見えます―――結界が。黄金色の、とてもきれいな――――」
 わたしには全然見えないが、結界を切る剣を持っている人間にとっては、ちゃんと見えるのだろう。
「はっ!」
 ぶんっ、と音がして、剣が空を切る。
「終わりました」
「え、それだけ?」
 全然、なんにも音がしない。
 だが、ヴィスの声で、確かに結界が切れていることがわかる。
「あ、このテントですね、アールクラインがいるのは。ほら、ここ」
 千里鏡がちゃんとつかえているのだ。
 ヴィスの言葉に従い、わたしは自分の魂を飛ばし、アールクラインの夢の中へと侵入した。

 本。
 本。本。本。
 膨大な文字が、ぐるぐると空間をめぐる。
 小さな部屋。椅子。本。小さな手。
 子供の手。ページ。
 窓。笑いながら駆けてゆく子供たち。
 ひとりぼっちのアールクライン。
 でも、それはどことなく甘さもある記憶。
 次の瞬間、その景色は書き消えて、どこか色あせた記憶に切り替わる。
 シェムザール。
 男友達と仲良くしているシェムザール。
 楽しそうに笑っているシェムザール。
 知らない男。とてもきれいな男。
 でも、わたしにはそれが、長兄のレイアだとわかる。
 いろいろな女人に囲まれて、幸せそうだ。
 それだけではない。民にもしたわれている。
 それはシェムザールも同じ。
 でも、自分の周りには―――。
 ちくり、とする孤独。
 霧がかかり、すぐにはれる。
 そこは図書館で、一人の男が、本を読んでいる。
 波打った髪を後ろで一本にまとめた、冷徹な瞳の男。
 アールクライン。
 シェムザールによれば、とても頭がよい、宰相のような立場の次男坊。
「こんにちは」
 わたしの声に、こちらを向いた瞳は、ほんのちょっとだけさみしそうに見える。
「だれ、です?」
「だれでもいいじゃない」
 むわっ、と自分でもわかるほど、雌の匂いを放って、わたしは彼に近づいた。
 きっと、彼が感じている官能は、わたしの比じゃないんだろう。
 でも、そんなことはおくびにも出さずに、警戒した顔をする。
 残念。
 ここはもう夢の中。
 剣を持ち込めない夜の国。
 もしかしたら、この場所でも効果を発揮する魔法道具があるかもしれない、という最低限の注意だけは頭の片隅におきつつ。
 目の前の魅力的な男を見て、下半身が欲する食欲を、もうわたしは抑えきれそうにない。
「さびしいの?」
 その台詞に、瞳が揺れる。
 たくさんの本。でも、人は一人も見えない。
 きっと、ここは基本的に幸せな場所なのだ。そういう匂いがする。でも、さびしさの匂いもする。
 この雰囲気、わたしは嫌いじゃない。でも、ごめんね。
 これから、みだらでいやらしい匂いで、あなたのこの心の世界にマーキングして、さびしさを忘れさせちゃうよ。
「そっか……さびしかったんだよね。いいよ。わたしが、慰めてあげる」
 そう言って、わたしは、自分の足を大きく開いて、彼を誘った。
「おいで。おちんちん、おまんこの中にいれて、慰めセックスしよ?」
 ふらふら……とこちらに歩いてくる彼に、わたしは釘をさす。
「でも、わたしの中でいっちゃったら―――わたしの下僕になっちゃうこと、忘れないで」
「なかで出さなければ、いい話だ」
 言い訳がかわいい。
 速攻で終わらせてあげる。
 口では、えらそうなことを言っていても、おちんちんは正直に勃起していて、もう目は釘づけ。
「ふふっ。どこ見てるの? むっつりスケベ」
「なっ……!?」
 顔を真っ赤にして、むりやり横にそらす。プライドが高いみたい。
「あ、怒っちゃった? 別に悪口じゃないよ」
 大きく足を開いているから、下着のスリットも大きくひっぱられて、秘所が丸見えだ。
 それを、さらに右手左手をつかって、横に開く。
 ぐぽぐぽと、黒い穴を見せながら、粘膜がうねっているのが見えるはず。
「わたし、むっつりスケベな男の人、好きだよ。すました顔してるのに、頭の中で、いらやしいこと考えている男って、すっごくいやらしくって素敵じゃない?」
 とろっ、と愛液が、穴の奥からあふれてくるのがわかる。
「ふふっ、よだれ、でちゃったね」
 興奮で出てくる愛液や汗は、すべて媚薬に変わる。
 時間が経てばたつほど、この夢の世界は、淫乱な色に染めあがっていく。
 いつの間にか、アールクラインの服が消えていた。
 心が、無防備になった証拠だ。あるいは、性欲に染めあがったか。
「お・い・で?」
 くちゅっ。
 ぐちょぐちょになった秘所に、亀頭が優しくキスをする。
 それでも、まだとまどっている彼のために、優しく竿をもって、くちゅくちゅと先端部をぬかるみにこすりつける。
 ぶるぶるっ、と腰をふるわせるさまがかわいい。
「我慢、しなくて、いいんだよ。入れちゃおうよ」
 その言葉に、とんっ、と踏み出した一歩で、根本までずっぽりとペニスがわたしの中につつみこまれる。
「あ……ああぁっ………」
「気持ちいい?」
「き、きもち、いい………」
 さっきまでとくらべると、ずいぶん素直に返事をするようになった。
 首に手を回して、唇を押し付ける。
 ちゅっちゅっちゅっ。ちょっとだけついばんだあとは、そのまま深く唇と唇をあわせ、キスをする。
 舌でアールクラインの口内をなめとるたびに、ペニスがびくんびくん、と跳ねまわる。
 さっきまで我慢していたぶん、快感があふれ出てきたのだろう。
 だんだん、だんだん、腰の動きが加速していく。
 わたしは、気づかれないように、ゆっくりと足を開く。
「う、あぁっ……」
 さっと抜こうとした腰を、がっちりと自分の足で固定する。
「あぁっ!?」
 絶望したような――でも、どこか甘いような声。
「じゃあ、今までの人間のあなたにバイバイしよっか? これからは、わたしのモノになるんだよ」
「ぁ―――」
 小さなうめき声をあげて、知的な勇者は、淫魔の中に、その精を吐き出した。
 ぐったりとしたアールクラインを見下ろしながら、わたしは言った。
「ふふっ。目が覚めたら、わたしの奴隷だね」
 さて。
 次は、この軍隊の人たち、みーんな、手早く片づけないとなあ。いったい、何日くらいかかるだろう。
 首領たるアールクラインは堕とせたわけだから、みんなを操る必要はないともいえるが……。

 結局、わたしはアールクラインの部隊をみんな支配下に置くことに決めた。
 籠城戦も途中経験したが、そもそも、アールクライン軍のトップはすでに支配されていたし、こちらもことさら攻める気はなかったので、死者は出なかった。
 だが、アールクラインの部隊のみなをみんな支配下に置く時間が、一人の人間を死に至らしめた。
 聖騎士王国の騎士王が崩御したのだ。
 進軍を途中でやめ、アールクラインは、そのまま王国に戻ることになった。

「マリ様、本当に行くのですか?」
 アールクライン軍の若者を、はだかにして、椅子として使い、優雅に女王が笑う。
 アールクライン軍の何人かは、ここに残って、魔族の性奴隷として暮らすことになったのだ。
 本国に戦死と一時的にも伝えるのは心苦しいが、それも、聖騎士王国を打ち破るまでの話だ。
「行くしかないでしょ。どっちにしろ、あの国を叩かないことには、侵略はやまないわけだから」
「ご武運を」
「別に、戦いに行くわけじゃないわ。――戦いを、終わらせにいくの」
 わたしはそう返す。
 この力があれば、そういうことだってできるはず。
 そして、わたしたちは、アールクラインの軍に従って、聖騎士王国に無事、到着する。

 聖騎士王国についたはいいが、外を出歩く余裕なんてなく、シェムザールとアールクラインがややこしい話をしている間、わたしたちは彼らの部隊と共に待っている。
 正直、こんなに男がおおいと、体がうずいてしかたがないのだが、夜の重要な目的のために、我慢する。
 そして、おまちかねの夜が来る。
 夜の謁見室。
 そこで、シェムザールとアールクラインが、第一王子――今はこの国の王である、レイアに向かい合っている。
 そして、その前には、わたしとヴィス。
 つまり、魔国の特使というわけだ。
「なるほど。わかりました。でも、その前に、やりたいことがあります」
 そう言って、レイアは、腰に二本かけてある剣の一方を抜く。
 十分に離れていなかったら、戦闘開始の合図とみなされたかもしれない。
 現に、シェムザールは、剣の柄に手をかけている。そんなことをしたら怪しまれるというのに、シェムザールは本当に直情的だ……。
 わたしが精神操作の能力を持っているということまでは気がつかないと思うけど……。
「なるほど……精神操作能力者の魔族、ですか……」
「!?」
 鞘走りの音がして、シェムザールとアールクラインが剣を抜くのがわかる。
 ヴィスの魔力も、活性化して、臨戦態勢へと入る。
「ま、待ってください!」
 レイアが、剣を向けたまま、こちらに話しかけてくる。
 対話の意志が、ある―――?
「三人とも、待って」
 戦う気満々の三人を押しとどめる。シェムザールとアールクラインはともかく、ヴィスはそんなに好戦的じゃないと思ったが……。
 わたしを守ろうとしてくれたのか?
「えっと、とにかく話をしましょう。わたしは、魔国に侵攻するのをやめてほしいし、これからも、そうならないようにしたいんですよ」
「後者はともかく、前者については、すみやかに実行できると思いますよ」
「え?」
 レイアの話に、わたしは拍子抜けする。
「もともと、父王がはじめた侵攻でね。正直、あまり人気のある政策でもなかった。やめることに異存はこちらとしてもない。むしろ、最近の父王は、少しおかしかった……」
「それじゃあ」
「ああ。侵攻はやめる」
 その言葉を聞いて、ヴィスとにっこり笑う。
「ただ、アールクラインや、シェムザールたちにかけた精神操作の魔法を解いてほしいのですがね」
「う、うーん……」
 これって、解除できるのだろうか?
「大丈夫だと思いますよ」
 え?
 今、わたし、自分の思ったことを、声に出してなかったよね?
 わたしが何か考える前に、レイアが唐突に近づいてきた。
 ぎょっとするわたしの横を通り抜けて、もう一方の剣を抜き、その剣をアールクラインとシェムザールにあてる。
 今――本気で殺すつもりだったら、切られていた?
 昔、漫画か何かで読んだ、一瞬で距離をつめる、まるで瞬間移動に見える歩行法を使われたら、こんな感じなのかな。
 ふりむいて、アールクラインとシェムザールの方を見ると、二人とも、剣を抜いていた。
 その目は、敵意をもって――わたしを見ている?
「魔国からの使者ですよ。攻撃してはなりません」
「しかし、レイア兄様!」
 どうやら、わたしの力が解除されているようだ。
 おそらく、もうひとつの剣の力だろう。
 アールクラインとシェムザールは、レイアの後ろに隠れている。
「さて。この二つの剣、ひとつは父王から受け継いだ『こころみの剣』、もうひとつは『抗魔の剣』です。『こころみの剣』は、真実を知る、心を見る、心見の剣とも、相手の心を試みる剣とも言われていますね。『抗魔の剣』は、魔法が効かない・魔法を打ち消す能力があります」
 なるほど。
 さっきから、こっちの意図がばれているように思えたのは、『こころみの剣』の力で、さきほどわたしの魔法を解除したのは、『抗魔の剣』の力か。
「剣の力でわかったことがあります。マリさん。あなたに悪意はない。殺意もない」
「まあ、人を殺そうと思ったことは一度もないよ」
 実際、この戦争では、一人も死んでない。
 人を殺す力を、この指輪は直接的には与えてくれない。
 人を操れるなら、人を殺す必要は基本的にない。
 この指輪があったからこそ、聖騎士王国からの侵攻をだれも傷つけずにはねのけることができた。
「人を操るその力、非常な脅威であるとは思いますが……少なくとも、わたしは、それが悪いものだとはあまり思ってませんよ」
「そ、そうですか~? けっこう危ないものだと思いますけど」
「言い方を変えましょう。その指輪はいいものでも悪いものでもなく、ただの力ですが、その使い手のあなたは悪い人ではありません。少なくとも、あなたは使い手としては信用できます。『こころみの剣』で見えるあなたの心は、指輪の力におぼれてはいない」
 そうだろうか。
 けっこうセックスにおぼれている気はするのだが……。
 そう思ったら、レイアが笑った。
「面白い人ですね。確かに、そういう意味ではおぼれているのかもしれませんが、悪用しているようには思えませんよ」
 まあ、それはともかく。
 レイアがそう言って、場を仕切りなおす。
「魔国への侵攻はすでに止めています。父王が死んで、私が王位をついでからは、侵攻をやめるように命令を出しましたから」
「それは、ありがとうございます」
「そして、これからも侵攻されないための方法ですが、そうですね、友好協定でも結びましょうか? そして、徐々に交流を増やしていく。あなたが望むなら、国民の心の中に、侵攻することがないように暗示を埋め込んでもいいですよ」
「レイア兄さん、それは……」
「この剣があれば、きちんとその暗示をかけたかどうかわかりますよ。それに、君たち二人とも、そこまで嫌な思い出でもなかったようですが……」
 レイアの言葉に、シェムザールとアールクラインは、顔を赤くする。
 気持ちのいい体験……ということで、そこまで嫌な思い出にはなっていないのか。レイプされたトラウマみたいなものになっていなくて、本当によかった。
「いや、こちらとしては、侵攻さえしないなら、それでいいです。むしろ、無理に交流するよりも、ある程度距離を保っていたほうがいいかもしれません。そこらへんのことは、また嬢王と話をしてください」
「なるほど。では、そのように」
 そんなわけで、あっさりと会談は終わってしまったのだった。

「うーん、あの王様、信用できるんですかね」
 ヴィスが腕を組む。
「どーも、話がうまくいきすぎていて怖いんですが。夜に暗殺されたりしませんか?」
「この国、そんなにやばいの?」
「いやあ、ここはむしろ正々堂々戦うタイプの国ですよ、僕が読んだ資料によれば。でも、最悪の可能性は常に考えておかないと」
「そうだね。じゃあ、わたしは、夢に侵入してみるよ。夢の中では、嘘をつくのは難しいから」
「えーっ、でも、第二王子の剣があるから、入ることができないのでは? 第三王子の剣も向こうにあるわけですから」
「いや、王様には抗魔の剣があるから、そもそも、そういうことをする必要はないと思う。あの剣を身につけているかぎり、操られることはないはずだから。わたしは、ただ心を見たいだけ。こっそり心をのぞけるならいいんだけど、だめなら交渉するよ。ここで勝手に夢の中に入ろうとしたって、怒ったシェムザールに剣を振り回されたらかなわないしね」
 ふっふっふ、とヴィスが笑う。
「おまかせください、マリ様。ようやく僕の出番が来ましたね」
 そう言って、謎の器具を出す。
「こんなこともあろうかと、剣の位置を把握する器具を作っておきました」
「君……すごいね……」
 そのまま、ヴィスは器具を何やら操作する。
「うーん、確かに、ばらけてはいるようですね。やはり兄王の剣があるから、安心しているのでしょうか」
「じゃ、とりあえず、夢に入ってみるよ。夢に入るまでなら、できるだろうしね」

 そういうわけで、わたしは今、レイアの夢、というか、たぶん深層心理の中に来ている。
 森―――これは、宮殿の庭だろうか。
 なんだか、懐かしい「感じ」がする。
 少なくとも、危険な感じはしない。
 なにか、やばそうなことを考えている人間の心の世界は、こんな感じではないだろう。それは、直感でわかる。
 あまり長居する必要もないかもしれないな。見つからないうちに、さっさと帰ろうか。
「あれ、マリさん?」
 そう思ったとたん、横から声をかけられた。
 レイア王子。
 いや、今はもう王様か。
 ゆったりとした服――寝間着、だろう、を着て、おだやかな日差しのもと、立っている。
「ここ――、あれ、夢、なんです、かね?」
 まだ、ぼんやりとしているようだ。
「ああ、すいません。あなたが、こっそりわたしの暗殺を計画していないか、気になっちゃって。つい、夢の中に来ちゃいました」
「いえ、それは全然、いいん、です、けど……」
 そう言いながら、ゆっくりと、目がわたしにくぎ付けになっていくのがわかる。
 自分の体だからあんまり気にしてなかったけど、わたし、そういえば、かなりエロい恰好してるんだよな……。
 寝間着の、薄い生地を通して、ペニスが大きくなっているのがわかる。
「あぁ、これ、すごい、です、ね……なるほど、これじゃあ弟たちもやられてしまうわけです」
「ははっ、でも、剣があるから大丈夫ですよね」
「夢の中には、持ち込めないみたいですけど」
 そう言って、ひらひら、と手を振る。
「――――それ、大丈夫なんですか?」
「いや、夢から覚めたら、ちゃんと剣を身に着けているので、魔法は解除されますね」
 なるほど。
 夢の中だけの、特別な時間、というわけか。
 少し、いたずら心が出てきた。
「王様。ちょっと、わたしの目を見てくれます?」
「はい?」
 ばちり、と目が合い、わたしから彼へ、目に見えない何かがつながる。
 すうっ、とうつろになる彼の目。
 口をぽかん、とあけた彼に、わたしはちょっとした暗示をかける。
「レイア様。あなたは、とてもとても、わたしとセックスがしたい気持ちになってしまいます。それがなぜだかはわかりません」
「はい……」
 ぼんやりとした表情で、レイアは答える。
「そして、その気持ちを、止めようと思っても、止めることができません」
「はい……」
「その気持ちがたかぶると、いやらしい言葉や、仕草をしてしまいます」
「はい………」
「意識を取り戻すと、服を脱ぎだしてしまいますが、それを止めることは絶対にできません。そしてあなたは、意識を取り戻すと、今わたしが言ったことを覚えていませんし、わたしの言葉に嘘をつくこともできません。それでは、意識を取り戻してください」
 そういうと、レイアの瞳に、光が戻る。
「んー? 目を見ても、なんにも、おこ、ら……」
 すっ、と手が動いて、レイアが自分の寝間着を脱ぎはじめる。
「えっ!? これ、え?」
 王様の驚いた声なんて、はじめて聞いた。
 ふふっ、かわいい。
「いや、これ、違うんです、違うんですよ、そういうんじゃなくって……」
 軽くパニックになったような声で、次々と服を脱いでいく。
「あれ? なんで、服なんか脱いじゃうんですか?」
「あ、その、これ、は……」
 全裸になった王様の股間からは、がっちがちになったペニスがそそりたっていた。
 レイアは、とても荒い息を吐いている。
「ねぇ……もしかして、セックスがしたいの?」
 ぐいっ、と腕を組み、胸を強調しながら聞く。
「ちが、ちがわない、いや、そうじゃなくて、セックスしたいなんてことはない……わけない、です。あれ?」
 そこで、ようやく落ち着いたようで、
「あーっ、マリさん、私に何かしましたね?」
「あはは、すごい! 夢の中で、術にかけられたことに気づくのはすごいですよ! ごめんなさい、夢から覚めたら解除されるってことみたいだったから。でも、今すぐ暗示、解除しますね。いたずらがすぎました」
 そう言いながら、術を解除しようとすると、レイアは、尻もちをついたように座り、わたしを見ながら、そそりたったペニスをしごきだした。
「あの、レイア、さま……?」
「どうせ、解除される、なら……夢の中で、楽しみ、ましょ、うよ……はあっ、だって、私、もう、こんなに……ああっ」
 ペニスを見ると、すでにとろとろと透明な液体が噴き出してきていた。
 これは―――わたしの暗示のせい。
 たぶん、そう。
 だから、暗示を解除して、元に戻さないと、駄目。
 そうなん、だけど。
 だけど。
 目の前で、性欲にあてられている男を見たら。
 わたしの中の、女の部分が、うずいてしまう。
 ごめん、王様。
 わたし、セックスしたいです。
 心の中で謝って、そのまま、ゆっくりと体を密着させる。
「ああっ……」
 それだけで、レイアが甘い声をあげる。
「ふふっ、かわいい……」
 ペニスからは、特有の匂いがただよってきて、わたしはよだれが出てしまう。
「いただきますね」
 かぷっ、と加えて、じゅるじゅるっ、とすする。
「あ、ああ……」
 すぐに限界がきそうなのを感じ、あわてて口を離す。
「だめぇ……してぇ、マリ様ぁ、わたしのペニスを、マリ様のあそこに、入れさせてくださいっ……」
「だめだよ」
 意地悪く笑って、わたしは答える。
「もっといやらしい声で誘わないと、女の子だって本気にならないよ」
 ごくっ、と、レイアがのどをならす。
「マリ様っ、わたしのオチンポを、マリ様のおまんこ様にっ、入れさせてくださいっ!!」
「ふふっ、合格っ♪」
 にゅるっ、と一気に、上から包み込む。
「んんっ、かたぁいっ!」
「マリ様っ! マリ様ぁっ!!」
 わたしの腰をしっかりにぎって、夢中で上下させるレイア。
 その顔は、完全に淫欲に染まっていて、ああ、理性的なこの人がこんな顔をするんだ、と思うと、ぞくぞくしてしまう。
 急速に射精欲求が高まるのを、わたしは感知し、キスをする。
「じゅるっ、じゅるるる~~ッ!」
 どぴゅっ、るるるるるっ!!
 キスの刺激で、どっぷどっぷと精液がわたしの体に満たされる。
 立ち上がると、わたしの股間と、レイアのペニスの間を、白いねばついた糸が結ぶ。
 どくん……。
 そのとき、わたしは、新たな能力を開花させたことがわかった。
 直感にしたがって、体を変える。
 にょきにょき、と生えてきたペニス。
 胸の大きさなんかも、変えられるみたいだけど、今は……。
 レイアを立たせて、木に手をつかせ、後ろ向きにさせる。
 そしてそのまま―――。
「うごぁっ……」
 しっぽを使って、レイアのお尻の穴に、びゅるびゅると浣腸液を入れる。
「じゃ、お尻、きれいにしようね」
「あ、だめ、出るっ、でるうっ……」
 ぶびゅるるるるるるっ!!
 信じられないくらい下品な音と、排泄物の汚いにおいが、あたりを漂う。
 こんなにきれいな顔の男の人が、こんなに汚いものを出した、というギャップに、ぞくぞくしてしまう。
「あ、は、あ……、あ」
 呆然としているレイアは、排せつの快感にくらくらしている。
「はい、もういっかーい♪」
「え、あ、もうっ……だめっ、ああっ!」
 ぶびゅるるるるっ、ぶびゅっ!
「えへへ、まだだよー、でなくなるまでねー」
「あひゅっ、だめっ、らめでしゅっ、ああっ」
 数分後。
 ガクガクと足を震わせたレイアのお尻からは、もう何も出てこない。
 水魔法で、さっと尻尾を洗い、土魔法で排泄物の処理をすると、さっきから興奮しているペニスを、しっかりと狙いをさだめて、レイアのお尻に向ける。
「じゃ、レイアの処女、奪っちゃうね―――」
「あ、おねがい、しま――――あああああああああっ!!」
「うふっ。男の子って、女の子を犯すときって、こんな気持ちなのかなあ~♪ たーのしいっ!」
 ゆっくりと。
 いたくないように、彼の腰をもって、前後に動かす。
「うっ、ああっ、はあっ、は、はじめてっ、なのにっ、いたくないっ、き、きもちいいっ、なんでっ!?」
 レイアは、驚いているみたいだ。
「だって、サキュバスの体液は媚薬効果があるんだからさ。こうなるのも当然だよ」
 そっかぁ。
 これが、男の子の、気持ちよさなんだ。
 ペニスで、レイアのお尻を犯しながら、しっぽで、自分自身の割れ目をこする。
「ふうっ、ああっ、マリ様っ、いいっ、そこ、いいよぉっ」
「わたしも、いいよっ、でも、あ~、やばい。もう出る」
「えっ、あっ、ああっ、わたしも、いきますっ、一緒に、一緒にいってっ!」
「ああ、わたしも、いくっ、いくううっ!!」
 どぴゅるるるっ!!
 わたしのペニスから、レイアのお尻に向かって、白濁がほとばしる。
 それだけでなく、レイアのペニスからも、びゅくん、びゅくん、と精液が大地にこぼれていく。
 夢の世界に散らばった精気を、わたしは吸収する。
 ぐったりしたレイアの体を綺麗にして、いつのまにか出来ていたベッドに横たえる。
「おやすみ、王様」
 そして、わたしは、夢の世界から立ち去った。

「うひぃ、なかなか、疲れるね、これ」
「マリ様、ちょっと調子のりすぎですよ、夢の中に入るだけじゃなくて、そこでセックスしちゃうとか」
「だってぇ、目が覚めたら魔法解けるっていうから、つい……」
 あのあと、起きたレイアさん(魔法は解けてる)から、おしおきです、と言われて、宮殿の庭の草むしりをさせられていた。
 アールクラインやシェムザールは、怒るというよりあきれていた。
「魔法を使っても、案外時間かかるなあ」
「いや、いい運動なんじゃないですか、真面目な話」
「かもね」
「やってますね」
「うへぇ、すっげえ、魔法使えるとこんなに早く草が刈れるのか」
「シェムザールはあまり魔法は得意ではなかったからな」
 草むしりをしていると、レイア、アールクライン、シェムザールの三人が、こっちにやってきた。
「あ、だいたい終わったよ」
「そのようですね」
 そう言って、レイアがにっこり笑う。
 アールクラインもシェムザールも笑っていた。
 この「おしおき」って、もしかして、変に角をたてないための、レイアの親切なのかも、と思うが、ちょっとわからない。
 夢の中に入って、ちょっとだけでも操ったのに、ミステリアスな雰囲気はそのままだ。
「えへへ、もう洗脳は解けてるけど――どうかな? 抗魔の剣があって、現実でセックスしても操られないなら―――みんなで、しない?」
 ふりふり、と尻尾を上下に振って、みんなを誘惑するわたし。
「もーっ、マリ様、調子にのりすぎです」
 ぽかっ、と頭を軽くヴィスにはたかれ、みんなが笑った。

 聖騎士王国の事件も一件落着し、わたしとヴィスは、魔国に戻る。
 とりあえず、これからは、元の世界に変える方法を探さなければ。
「ヴィス」
「はい?」
 魔国に変える道中の、馬に乗った彼が振り返る。
 レイアに頼んで、彼にかけた魔法だけは、外してもらった。
 何度も彼の夢の中に入っているけれど、別に、魔法で支配する必要が、もうないと思ったから。
「これからも、改めて、よろしくね」
「はいっ!」
 にっこりと笑うヴィスに、わたしは、これからのあれこれを忘れて、笑い返した。
 とりあえず、今はこの世界を楽しもう。

< 完 >

あとがき
男性に注射する避妊薬とは、 パーセマス財団(Parsemus Foundation)が支援している、「ベイサルジェル(Vasalgel)」を参考にしました。精管にゲル状ポリマーを注入して、精管内のポリマーを通過すると、精子が破壊される仕組みらしいです。
RISUG (reversible inhibition of sperm under guidance) と呼ばれるやり方のようですが……回復可能で健康に影響がないってすごいですね。
ただ、これに関する記事を読んで思ったことがあります。避妊具を使わない避妊について、今まで気軽にピルを想像していました。でも、自分がベイサルジェルを使うことを考えると、もしかして一生不妊になるんじゃ……と不安に思いました。しかし、それってピルを飲む女の人も同じじゃないかなあ。ピルも副作用がないわけではないし、それを考えると、いわゆる「生セックス」における精神的負担は、現在、女性の方に多くかかっている場合が多いのでは?なんて考えました。
とりあえず、このお話はここでいったん終了――ですが、いくつかあるルートのひとつ、だと思ってもらえればと思います。たとえば……
分岐1聖騎士王国までさっさと進軍するルート(警戒されない、王様が死ぬ前に会える)
分岐2聖騎士王国を陥落させて、帰らないルート(世界征服ルート……?)
みたいな感じで、他にもルートはありうるけれど、共通ルートの第一話からの分岐のひとつとして、この話があります。
もともと、この話は現実世界に最短で帰る話にしようと思っていたのですが、書いているうちにこんな風に。着地点がずれました。
きっとこのルートでは王道の正義の淫魔として活躍しつつ、元の世界に帰って、でもまた異世界の人たちと会えたりして、大団円になるはず。では。

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