ぼくの彼女は寝取られ属性

 エリカと最初に出会ったのがどこだったのか、ぼくはよく覚えていない。
 でも、割りと派手な女の子たちのグループにいたことは覚えている。
 派手、というと、誤解を招くかもしれない。
 不良という感じという意味の「派手」ではない。
 たとえば、美人コンテストに出る人がいたり、ちょっとしたイベントを主催したりする人がいたり、そっちの意味での「派手」なグループだった。
 当然、そのグループにいる女の子たちは、活発な人が多かった。
 でも、エリカは、その中でも裏方業務というか、事務作業というか、割と地味な仕事をしていたと思う。
 みんなが前に出たがるようなグループでは、そういう役割は重宝されていたようだ。
 性格的にも、どちらかといえばおとなしい方で、聞き役に回ることも多かったので、グループの潤滑油的な役割を果たしていたのだと思う。
 
 
 だから、ぼくが、ちょっとしたことで、そのグループの人たちと一緒にイベントをやることになったときには、もうエリカのことは知っていたはずだ。
 その縁でエリカと付き合うことになったのだけど、正直、よくも付き合えたものだと思う。
 実際、エリカは、けっこう男たちから人気があった。
 活発な人たちの中に、控えめな人がいると、人気が出ることがあって、そういう現象なんじゃないか、とエリカは言っていたけど。
 ぼくは、エリカの性格がいい、というのが、根本原因じゃないかと思っている。
 人徳がある、といえばいいのか、人格者、というと言い過ぎか。
 あ、この人いい人だな、と思わせる性格をしているのだ、エリカは。
 ぼくと付き合う前にも、何人かの人と付き合ったことがあるらしい。
 だから、そういういわゆる「モテる」女の子と、ぼくが付き合えるとは、まったく思っていなかったので、実際に付き合うことになったときにはびっくりした。
 ついでにいえば、むこうから告白してきたのも、びっくりだった。
 なんで?
 と聞いても、性格、としか言ってくれなかったけれど。
 正直、なんでぼくなんかと付き合ったのかは、今でも疑問に思っている。
 別段、何か目を引く特技があるとも思えない。
 すこぶる足が速いとか、何かの運動能力があるとか、一目置かれる秀才であるとか、そういうわけでもない。
 あんまり目立つグループにいるわけでもないし、黙っていても人が回りに集まってくる、というタイプでもない。
 不細工ではないと思うが、はっと目をひく二枚目というわけじゃないし。
 せいぜい、真面目と誠実さくらいが取り柄の、ぱっとしない男だ。
 いや、自分では、真面目なことって、全然悪くないと思うんだけど。
 今まで生きてきて、そこが評価された記憶はあんまりない。
 だが、そういう性格、性分なのだから、今さら、どうにもならない。
 この性格を、変えられないし、変えようとも思わない。
 結局、自分で自分のことは、割と好きなのかもしれない。
 

 その日、ぼくたちは、デートをしていた。
 デート、と言っても、要するに、彼女のショッピングに付き合う、というだけのことだ。
 街の中心部、ショッピングモール的な建物の中。
 そこにある雑貨屋に、ぼくたちはいた。
 ぼくにとっては、そこまで興味のない品物を、エリカは熱心に見ている。
 不思議だ。
 自分にとっては、別に興味のないものでも、好きな人が興味をもっていると、なんとなくつまらなさが減っていく。
 今日は、文房具を買いに来たはずだったのだけど、ぼくたちがいるのは、雑貨屋である。
 ぼくが一人でショッピングに来たとしよう。
 文房具を買いに来たのなら、絶対、文房具屋さんに行って、文房具屋さんだけに行って、必要なものを買って、帰る。
 しかし、エリカは違う。
 文房具屋さんに行く。
 文房具屋さんで、いろいろなものを見る。
 必要なものを買う。
 もしかしたら、必要じゃないものも買う(今日は買わなかったけど)。
 そして、文房具屋さんじゃないお店にも入る。
 それも、ちょっと隣の本屋さんを見よう、だけじゃなくて、本屋さんにも、雑貨屋さんにも行こう、という感じなのだ。
 ぼくとは、買い物の仕方が違うんだなあと思って、なかなか興味ぶかい。
 実際、買い物の仕方って、人によってけっこう違うよな。
 
「ね、これ、どう思う?」

 エリカの声で、考えごとにふけっていたぼくは、現実に引き戻される。
 エリカの手には、キーホルダーがにぎられていて、そこには、ぺしゃんこになったネコ(に見える)がついていた。
 なんだか見覚えがある。
 ブス可愛いだか、キモ可愛いだかで、小ヒットを飛ばしているキャラだった、はず。
 うーん。
 特にかわいくはない。

「うーん、……うーん」

 うまく切り替えしができればいいのだが、なんといえばいいのかよくわからない。

「正直、あんまり、ぼくは、好きではない」

 だから、正直に答えることにした。
 嘘をつくのは苦手だ。

「あー、そっかー。わたしはかわいいと思うんだけどなー」

 そうかなー。
 どこがかわいいのか、ぼくには全然わからない。
 センスの違い、だろうか。

「よし! やっぱり買っちゃおう!」

 こういうことを経験すると、やっぱり意見を聞いているわけじゃなくて、ただ同じ題材について話したいだけなのかなー、と思う。
 別に、ぼくが否定的なことを言ったとしても、それで不機嫌になるわけじゃないし。
 勝手に気を使って、気を悪くさせるようなことを言ったらだめなのかなー。
 あんまりかわいくなくても、かわいいって言わなきゃだめなのかなー。
 そんなことに悩んだ時期もあったけど(というか、今でもたまに考えるけど)、正直が一番だ、という感じがする。
 少なくとも、エリカに対しては。

「じゃ、レジに行こう」
「うん」

 レジで買い物をすませているエリカから、ふと視線が外れる。
 雑貨屋の前の店で、何かを物色している女の子たち。
 女子高生、かな。
 その中の一人に、ぼくの目は、すうっと吸い寄せられた。
 さらっさらの黒髪に、あまり見たことがないくらい黒いセーラー服。
 清楚と上品が合わさったような雰囲気に、その美少女はとてもよく似合っている。
 あんなに髪が黒い女の子は、最近、あんまり見かけないな。
 だいたい、みんな髪を染めてるもんなあ。
 スカートから伸びるふとももが、美しい。
 すらりとした脚線美。
 スタイルもいいのだろう、服の上からでも、胸が制服を押し上げているのがわかる。
 それに、さきほど美少女と言ったけれど、体から、どこか色気がたちのぼってくるような―――

 ふ、と何かの気配を感じて、横を向く。
 すると、無表情でこちらを眺めていたエリカと視線がぶつかる。

「あッはッは! いや、違うよ? 全然違う」

 人間、突発的な事態になると、笑いが出るらしい。
 何が違うのか、全然説明していないが、ぼくは何を言っているのか自分でもよくわかっていない。
 ちらっ、と先ほどの女子高生のいたあたりを見る。
 もう誰もいない。

「うん、ちょっと見てただけで、なーんにもやましいことはないから」

 ぼくが言葉をつむいでいるうちに、エリカの顔にも、うっすらと笑いが広がっていく。
 そして、明るい声で言った。

「美人、だったね」
「あー、でも、エリカの方がかわいい」
「胸、服の上からでもわかるくらい、大きかったね」
「あ、いや、ぼくはエリカの胸も」

 ぴ、と指を出され、発言を制される。

「公共の場で、そういうことはなし」
「はい」

 ぎゅ、と手をつかまれたまま、ひきずられる。
 あれ。
 もしかして、怒ってる?

「怒ってるなら、ごめん」
「怒ってないよ」

 確かに、さっきの声も、今の声も、別に怒った声じゃない。
 むしろ、どこか明るい。

「いいよ」
「え?」
「他の女の子、見てたって」
「いや、それは」

 美人がいたらつい見ちゃうというのは、どちらかといえば本能的なものであり、意図的な制御は難しく、しかしそれゆえに、別に相手が好きとかそういうわけではなく、熱いお湯に触れた手が脊髄反射で引っ込んでしまうのと同じようなものなのだ―――というようなことを言いたかった。
 のだが、とりあえず、頭を下げるのが先か。

「ごめん」
「なんで謝るの?」
「え?」

 心底、不思議そうな顔をして、エリカは言った。

「謝らなくてもいい、って言ったじゃん」
「あ、いや……そう、なの?」
「そうだよ」

 そういう、ものなのか。

「別に、相手が好きとかじゃなくて、ただ、脊髄反射的に、見ただけだから、その……なるべく、見ないようにするし」
「見てもいいよ、大丈夫。そんなの、気にしない」

 何かを、ぼくは聞こうとしたけど、その言葉は、エリカの言葉でさえぎられる。
 
「あー、ネコ、かわいいねー」

 窓ガラスの向こうには、野良猫がいた。
 こういうとき、ぼくは、どういう返事をすればいいのか、わからなくなる。
 ぼくは、一度も、動物をかわいい、と思ったことがないからだ。
 別に、嫌悪感とか憎しみも抱いたことはないんだけど、かわいいとも思ったことがないのだ。
 だから、ネコがかわいいという気持ちが、いまいちわからない。

「実は、ぼく、一度も、ネコをかわいいと思ったこと、ないんだよね」

 実は、これは、ぼくにとって、けっこう勇気のいる発言だった。
 あまり賛同してくれる人がいない言葉を言うのは、勇気がいる。
 臆病だな、自分。と思う。
 妙に押しに弱いというか、流されやすいところがある。
 こんなんじゃ、いつか取り返しのつかないことになりそうで怖い。

「あ、そうなんだー。もったいない。きっとかわいいよ、もっと近くで、いーっぱい見たら。あんまり、関わってもいないでしょ?」
「そう、だね」
「今度、一緒に頭なでなでしたりしよー?」

 エリカといると、自分の知らない自分が見えてくる気がする。
 自分が自分のままでいていいと言われている気がする。
 ぼくは、本当に、エリカといると、リラックスできるんだ。

 夜のラブホテルで、ぼくはエリカと二人きり。
 だけどぼくたちがやるのは、セックスだけじゃない。
 祈るように手を組んで、ぼくはベッドに腰掛けている。
 いったい何をしているのか。
 別に、神さまに祈っているわけじゃない。
 催眠術の実験だ。
 催眠術。
 おとなしくて、目立たないエリカの、唯一の珍しい、変わった趣味……。
 それが、催眠術だった。
 ぼくとエリカは、催眠術の相性が抜群にいいらしい。
 エリカがかける暗示に、ぼくはあっさりかかってしまう。
 お互いに信頼関係が築けているから、だそうだ。専門用語では、ラポールがどうとか。
 エリカといると、もともとリラックスできるのだが、催眠術をかけてもらうようになってから、ますますリラックスできるようになった気がする。

「おー、くっついた! しかも、離れない! エリカの催眠術は、相変わらず、すごいね」

 カタレプシー。
 身体が硬直して動けなくなる、という現象だが、今回は、「くっつけた両手が、離れなくなる」という、割と定番の催眠技法(と聞いた)をやっている。
 ぼくは、これは百パーセントかかる。エリカが相手だと、だけど。
 今度は、全身の硬直を試してみる。
 ぼくは、ベッドに大の字になって、リラックスする。

「はい、手の先が重いよー」

 目を閉じるぼくに、エリカの声が響く。
 言葉の通りに、ぼくの手の先が、重くなる。

「ほら、腕も重い。動かせない」

 言う通り、ぼくは腕が動かせない。
 その調子で、全身が硬直させられ、動けなくなっていく。
 ゆっくり、ゆっくり、まるで意識が、どこか深いところに沈んでいくような気持ち。

 そのあと、何かをいくつか言われた気がするのだけれど、ぼくはよく覚えていない。

 また気がつくと、体が硬直したまま、ベッドの上に横たわっていた。
 にっこりとほほ笑みながら、エリカがこっちを見る。

「あの、さ。ほかの女の子と、セックス、したくない?」
「え?」

 それは、あまりに突然で、しかも世間話をするように言われたので、何を言われたのかわかるのに、時間がかかった。

「いや、別に、したくないけど……」
「今日、他の女の子、見てたけど、そのとき、したくならなかった?」
「いやいや、あれはそういうんじゃないから。美人だから見てただけで……」
「そっか………」

 なぜか、どこか暗い声でいうエリカに、ぼくは疑問を持つ。

「どうしたの? 浮気してほしいの?」

 もちろん、それは否定されることを前提とした質問だった。
 でも、返ってきた答えは、否定じゃなかった。

「――――実は、そうなんだ」

 なにが「そう」なのか。

「わたし、君に、浮気してほしい」

 ぽかん、としているぼくに、エリカが説明を始める。

「実はね。わたし、昔、官能小説を、読んだことが、あるの」

 恥ずかしそうな顔をして、そんな告白をするエリカ。
 ぼくの方は、いきなりの発言に、なにか言うことさえ忘れていた。
 体が硬直していなくても、きっと何もできなかっただろう。

「そこでね、寝取られ……っていうのかな。好きな女の子が、他の男の子とセックスして、快楽でメロメロになっちゃって、主人公を捨てる、みたいな話を読んだの」
「それ、ひどい話だね」
「うん」

 でもね、とエリカは続ける。

「興奮、したの」
「興奮?」
「うん。それも、女の子の方に感情移入してたんじゃないの。主人公の方に、感情移入してたの」
「それは――――」

 それは、つまり、恋人が他の人間とセックスすることで、快感を感じていた、ということ?

「わたし、前に付き合っていた人がいた、って言ったじゃない?」
「うん」
「わたしね、その人に、浮気されちゃったんだ」
「えっ」

 突然の告白に、びっくりする。
 そんなの、初めて聞いた。

「催眠術を習ったのもね―――その彼の浮気で、メンタルがボロボロになったから、なんとかセルフヒーリングできないかと思って始めたんだ」
「本当に……ひどい話だね」
「うん。でも、それだけじゃないんだ」
「どういう、こと?」

 すうっ、とエリカは深呼吸する。
 緊張を安らげるように。

「本当に、浮気しているか、わからなかったからさ。こっそり、ばれないように、彼氏を監視、してたの。そしたら……」
「そしたら……?」
「浮気セックス、はじめちゃったの」
「っ―――」
「そんな傷ついた顔しないで? 大丈夫。傷ついたよ。とってもつらかった。でもね。――でも、わたし、そこでオナニーしちゃったの」
「え………」
「信じられない、って顔してるね。でも、本当なの。すっごくつらくて……すっごく、気持ちよかった」

 ゆっくりと顔を近づけて、エリカが言う。

「もう一度だけ言うね? 浮気、してくれないかな?」

 その顔は、とても優しいと同時に、とても意地悪く見えた。

「やっぱり……そういうの、エリカに悪いよ」
「わたしは、大丈夫だって言ってるんだけどなあ」
「でも、やっぱり、悪いな、って思う」
「そっか。じゃ、しょうがないね」

 あきらめてくれたのか。
 そう、ぼくは思った。
 だけれど、それが違うことを、すぐに思い知らされる。

「今日、君があの美少女を目で追ってから――もう、我慢の限界かな、って、思っちゃった。入って来て」

 入ってきて?
 ってなんだ?
 混乱するぼくをよそに、部屋に一人の女の子が入ってくる。
 見知らぬ人が、自分の部屋にいて、しかも、それを手引きしたのが自分の恋人。
 これは、かなり混乱する光景だ。

「紹介するね。あいちゃん。これから、浮気セックスをしてくれる人だよ」

 今日、買い物のときに見た美少女に、どことなく似ている。
 形のよい、ほどよく大きな胸。
 長くて綺麗な黒髪。
 白いブラウスに、青いミニスカートが、清楚な雰囲気を漂わせている。

「あいちゃんはね、こう見えて、男の子をたっくさん食べてるんだ。まあ、一言でいえば、ビッチちゃんなのかな」
「ひどいですよ、先輩……」

 あいちゃんは、傷ついたような顔をした。
 そう言いながら、ぼくの方を見る。

「本当に、動けないんですか?」

 その言葉で、ぼくは、自分が動くことを思い出す。
 手に力をいれる。
 だけど、それは無駄に終わる。

「へえ。催眠術って、すごいんですねぇ」

 す、と気品のある動作で、あいちゃんはぼくに近づく。

「はじめまして。あいです。今日は、彼女さんのお願いで、彼氏さんとセックスすることにしました」
「お、お願いって、そんな勝手な……」
「言うほど、勝手じゃないよ」
「え?」
「さっき、催眠術にかけたとき、深層心理に聞いてみたけど、セックス自体には、そこまで抵抗感はなかったよ。理性は断っているみたいだけど」

 体は正直だね、なんて、セリフを言って、エリカは、ぼくのズボンをおろしはじめた。

「うわぁ、なんだかドキドキしますね」

 そういって、あいちゃんが、脱がされたズボンを丁寧にたたむ。
 そんな仕草が、妙にそそる。

「パンツ、おろしますね」

 言い終わるか言い終わらないかのうちに、パンツがおろされて、ぼくの性器があらわになる。

「ふふっ。かわいい」

 さわさわと、あいちゃんが、ぼくの睾丸を触る。
 ぼくのペニスは、まだ小さくなっている。

「ふふっ、かわいい」

 そうして、ふと思い出したように、あいちゃんはエリカにお願いをする。 

「嘘つけない催眠があるって前に言ってたじゃないですか? 彼氏さんにかけてあげてくれませんか?」
「もう、かけてあるよ」
「ああ、それならよかったです」

 そういうと、するするっ、と服を脱いで、ブラジャーと下着だけの姿になる。

「どうですか? 彼氏さん」
「どう、って……」
「エッチに見えますか?」
「………うん」
「あっ」

 となりで、エリカの声がする。
 だけど、ぼくは、カタレプシーで動けない。

「ふふっ、聞こえちゃいました? 先輩、オナニー、始めてるんですよ? たったあれだけの言葉で興奮しちゃうんですねえ」

 そう言いながら、ゆっくりと顔を、ぼくの股間へと近づけていく気配がする。

「いいんですね、先輩? 本当に、食べちゃいますから」
「―――お願い」

 くぷっ、と、ぼくのペニスが、あいちゃんに食べられた感じがする。

「ちゅっ、ちゅるっ、じゅぷっ、ちゅるっ、ちゅっちゅっ、ちゅるっ」

 反応したくない。
 そう思っているのに、たっぷりの唾液と、絡みつく舌で、あっという間に、ぼくのペニスは勃起してしまう。

「あはっ、すご~い。もうこんなになっちゃった」
「す、すご、い、ね、はぁっ、もう、ガチガチなんだ……」
「ふふっ、先輩も、やばいですよー。ただ、なめただけで、そんなに息あらくしちゃって」
「そ、そんな、こと、いって、も、目の前で、かれ、し、が、あぁっ」
「んー、じゃあ、もっと興奮させてあげます」

 そう言うと、手でゆっくりとペニスをしごきあげながら、ちろちろとペニスを舐めだす。

「れろっ、れろっ、ちゅっ、れろっ、しぇんぱい、見えますか? しぇんぱいの彼氏さんのおちんちん、あいがフェラチオしてるんですよ?」
「ああ、だめぇ、だめええっ」

 ぎゅっ、とぼくの手が握られる。
 エリカの手だ。

「いっちゃ、だめぇっ……」
「エリカ……」

 きゅうっ、と胸の奥がしめつけられるような気がする。

「あー、なんだかやけちゃうなぁ……でも、ダメですよー……じゅぷっ、じゅるるっ、じゅぷっ、じゅるるっ!」

 急に、フェラチオの本気度があがる。

「じゅぽっ、ぢゅぢゅっ、ぢゅちゅちゅっ、ぢゅるっ、ぢゅるるるるっ、ちゅぱっ、じゅるっ、ちゅっ、ずぞぞぞぞぞっ!」

 激しい口淫奉仕と、自分の恋人の目の前で、別の女の子のフェラチオを受けているという状況で、あっという間に、限界が来そうになる。

「あっ、ダメダメ、ダメですー。フィニッシュは、こっち」

 そう言って、足を大きく広げて、おまんこを見せるあいちゃん。

「ふふっ、彼氏さんも興奮してるみたいですよー、すぐにいっちゃいそうになってましたからね。あ、それとも彼氏さん、すぐいっちゃう人?」
「ち、違うもん!」
「あはは、先輩、むきになっちゃってかわいいですね。彼氏さん、きっと先輩にとって、大切な人なんでしょうねぇ」
「それは、そうだよ!」
「でも、残念。盗っちゃいますから」

 そう言いながらも、あいちゃんは、ぼくから離れていく。

「せーんぱい。とどめは、先輩が、自分の彼氏に刺すんですよ。変態女のせいで他の女と無理やりセックスだなんて可愛そうじゃないですか。だから、『無理やりじゃないように』、『自分から他の女と浮気したくなるように』、催眠術かけちゃいましょうよ!」

 きゃはっ、と悪魔的な笑いをもらすあいちゃんに、「そうだね……」と、まるで悪魔に魂を売ってしまったような声でこたえるエリカ。

「ゆっくり起き上がって……」

 上半身が持ち上がる。

「そう、そのまま、あいちゃんの方を見るの」

 あいちゃんが、壁に手をついて、お尻を向けている。
 ぱっくりと開いたおまんこからは、何か白みがかかった粘液が、べっとりとついている。

「あはは。見てるこっちも興奮しちゃいましたからね~。見えます? エッチなお汁でドロドロのおまんこ」
「あいちゃんに目が釘づけになる……あいちゃんのおまんこを見る……もう目が離せないね…………そう、あの穴に、おちんちんを入れたくてしかたがない……我慢できない……自分の彼女もしていいって言ってるんだから大丈夫……ほら、ぱくぱく開いておいしそうだね……もう、おちんちんをあの穴に入れることしか考えられないよ………」

 じぶんの、あたまに、かのじょの、こえ、だけが、しみこんで、いく。
 駄目だ、これは浮気じゃないか、本当にしたいのはエリカだけだ。
 したい。おまんこ。あな。くろい。ぐちょぐちょ。いれたい。したい。

「ち、が、う……」
「違わないよ。素直になろう? あなたは、目の前に素敵な女の人がいたら、セックスが我慢できないの。性欲を感じるでしょう? それは悪いことじゃないんだよ。解放しよう。きっとすっごく気持ちいいよ。おちんちんをオマンコに突っ込んだら、きっととっても気持ちいい。彼女がいてもしょうがない。だって気持ちよすぎるし彼女もそれを望んでいるんだから。彼女の望みをかなえることは、とても気持ちがいいこと。あなたのおちんちんも気持ちよくなる。あなたの彼女も気持ちよくなる。あなたとセックスする女の子も気持ちよくなる。みんな気持ちよくなる。それはとても楽しいことで、本当にもう我慢ができない……」

 必死に出した否定の声は、流暢な暗示の奔流に、あっという間にかき消される。

「ちがう、したくない……したい……ちがう、したくない……したい、オマンコにおちんちんをつっこみたい、ちが、これは、ぼくのきもちじゃ、ない、わけない……ぼくのきもちじゃ……ぼくのきもち、したい、おちんちんを、おまんこに突っ込みたい」
「そう。それが本当の気持ち。おちんちんを、おまんこに突っ込みたい。突っ込みたくてしかたがない。ほら。どんどん体があいちゃんの方に、引きずられていくよ。あいちゃんのおまんこに、おちんちんがひきずられていくよ」

 一歩。
 また、一歩。
 ベッドから立ち上がり、あいちゃんに近づく。

「は~い、濡れ濡れくちゅくちゅのおまんこは、こちらになりま~す♪ ほらぁ、見てください♪ オチンポ欲しくてベトベトですよ?」
「あいちゃんに入れたら、あなたは、腰の動きを止めることができない。思いっきり、欲望のままに腰を振ることしかできない」

 だめだ。
 そう思うのに、足が止まらない。
 ペニスは、ビンビンに勃起していて、ぼくは、目の前の尻と、そこに開いた、大きな黒い穴から、目をそらすことができない。
 ゆっくりと、ペニスが、あいちゃんのおまんこに、キスをする。
 だが、そこで、がんばって踏みとどまる。
 すごく、きもちいい。
 でも、だめだ。
 いれたら、もう、ぼくは、もう――――
 耳の横では、エリカが、ずっと暗示をぼくの頭に叩き込みつづけている。
 いれたら、がまんできない、いれたら、こしをふる、とまらない、なかでだす………
 暗示は無意識に浸透し、ぼくの顕在意識は、すでに言葉の意味を取ることができないでいる。

「あ~ん、すご~い、先輩の彼氏ってすごい誠実じゃないですか~。ここで止まるなんて本当にすごいですよ~。生の亀頭に、あいのぐちょぐちょおまんこがキスしてるんだから、そーとーきもちいはずですよー? そんな誠実な彼氏を裏切るなんて、先輩もひどい女ですね。そっかぁ、彼氏さん真面目なんだぁ。あたし真面目な男って好きですよー。誠実で、自分の彼女を裏切らない男って大好きなんです。なんでだかわかります?」

 にいっ、と笑った姿は、ぞっとするくらい色っぽかった。

「そういう理性的で良識的な男を寝取って、セックス大好きなヤリチンくんに変えるのが最高だからですよぉ!」

 ずん。
 ぐいっ、と押し出されたあいちゃんのお尻が、あいちゃんのおまんこが、ぼくのペニスを食べていた。
 ゆっくりと。
 生のペニスが、膣壁につつまれて、ぐちゅぐちゅの愛液と混ざって、その快感が、ぼくの、頭を、焼き切る。

「あ、ちゃーんとピルのんでますんで。思いっきり出しちゃってくださいね♪」

 もう、がまん、できない。
 気がついたときには、ぼくは、自分の手で、あいちゃんの腰をもって、欲望のままに、自分の勃起したペニスを突き入れていた。

「あはぁ! すごいっ、先輩の彼氏のオチンポ、すごいっ! きゃはあっ、先輩、一度も生でしたことないって言ってましたよねえ! 先輩の初めての彼女だって言ってましたよねえ! だったら、ごめんなさーい♪ 先輩の彼氏の生セックス童貞、奪っちゃいましたぁ! 先輩の彼氏がぁ、生まれて初めて生でセックスした女は、先輩じゃなくて、このあたしですっ! 一生記憶から消えないすごいセックスにして、あたしのことを刻んであげますよっ!」

 その言葉に、エリカの方を向いた。
 エリカは――――泣きながら、オナニーしていた。
 ぼくの足に、手を触れて。
 他の女を、立ってバックから犯している彼氏の足に、そっと手を触れる。
 手は、他の女の腰をしっかりと握っているから、エリカが握ることはできない。
 エリカは、泣きながら、笑っていた。

「最高……最高っ……ああ、痛いっ、痛いのっ、他の女と、セックスなんてっ、してほしくなくて、痛いのにっ、痛いの気持ちいいよぉっ……」

 そう言って、ぐちゅぐちゅと乱暴に、本当に乱暴に、自分の指をおまんこにつっこんで、書きまわす。

「きっ、ひぃっ、あああっ……おおっ、いくっ、おおっ……くうっ…………」

 押し殺した雌の獣の声をあげて、エリカがすぐさま絶頂に達する。

「あひゃぁ、あたしも大概だけど、やっぱ先輩いかれてるなぁ。じゃ、あたしも動きますねー。んんっ、んっ!」

 ぱんっ、ぱんっ、とリズミカルな音が響く。
 ぐるぐると回転をかけて動く腰が、ダイレクトに快感を送り込んでくる。

「あっ、いいっ、このオチンポ、けっこういいですっ、んんっ、奥にずんずん当たるっ……」
「あ、ああ、あああ……」
「あれ、気持ちいいんですか、もしかして?」
「ん、んん……」
「それじゃあ、わかりませんよ。はい、質問です。しっかり答えてください。彼氏さん、あいのおまんこ、どうですか?」
「気持ちいいっ! これ、気持ちいいよっ!」

 思わず、大きめの声が出てしまう。

「本当なのっ!? わたし以外の女のおまんこが、そんなに気持ちいいのっ!」

 嘘がつけない催眠をかけられたぼくは、本音しか話せない。
 ショックを受けたような声と、隠しきれない興奮をもって、エリカは声をあげる。
 いつの間にか、エリカはバイブで自分を慰めている。

「気持ちいいよ、エリカ……う、いや、ごめん、でもっ」
「彼氏さん、正直になりましょうよ? 気持ちいいんでしょ?」
「だめ、だっ、て、あっ、ああ、気持ちいいっ、気持ちいいんだよっ! くそっ、なんでしゃべっちゃうんだ」
「だめっ、だめだよっ、気持ちよくなっちゃ、あぁ、駄目なのにっ、駄目なのにいっ!」

 エリカの叫びが部屋に響く。
 
「理性的な男が、乱れるさまって、さいっこう! きゃはは、あんなに彼女のことが大事だって言ってたのにねぇ! 見えてますかせんぱーい? あなたの彼氏は、あたしのおまんこに夢中ですっ! さ、彼氏さん、答えてくださいよ。彼女と。あたしと。どっちのおまんこが気持ちいいですかー♪」
「あ、あう、あ……」

 一瞬の、ためらいと、抵抗のあとで。

「あい、ちゃん……」
「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 一気にバイブを突っ込んだ エリカが、大声をあげる。

「うわぁ、今ので一回、あっさり言っちゃったみたいですね。見えます? あの無様な顔」

 あいちゃんの声でエリカを見る。
 涙とよだれと鼻水でひどい顔だ。
 それなのに、信じられないくらい愛液を出しているおまんこに、飽きることなくバイブを突っ込んでいる。

「あぁ、あぁ、先輩、バイブあんなにおまんこに突っ込んでズボズボしちゃって……。ぐちょぐちょって音がこっちまで聞こえてきそうです。ほら、聞こえますか? 先輩の喘ぎ声……もう何回もいってるはずなのに、収まらないんですね」
「駄目なのっ、にっ、きもち、いっ、あぁっ……!」

 エリカの、オナニーの声だ。

「んふふ。じゃ、彼氏さんも、いっちゃいましょうか?」
「あっ、ちょっ、そんなに動くと、ああっ」
「んんっ、こっちも、なかなか、限界、んんっ、ああっ、くっ、あああっ」
「あ、だめ、だめだ―――」
「あっ、あたしも、いくっ、いきますっ、あっ、あああああああっ!」

 びゅるるるるるる!
 視界が真っ白に染まる。
 性器だけ、別の生き物のように動いている。

 ―――一瞬、放心していた。
 ぴくり、と手が自由に動く。
 どうやら、催眠術は解けたようだ。
 あいちゃんは、さっさと立ち上がって、ベッドの上に腰掛ける。
 ぱっくり開いたおまんこからは、何も見えない。
 だが、ぐちゅぐちゅと中をかきまわしていると、どろりと精液が出てきた。

「うふふ。生セックス、お疲れ様でした。こんなに深くに出されたんですね。ピル飲んでなかったら、妊娠してたかも」

 ぼくは、エリカの方を見る。
 放心したようにぺたん、と座り込んでいるエリカの股間からは、何かの液体があふれていた。
 潮――――なのか。

「うわぁ、先輩って、彼氏が他の女とセックスしているのを見て、潮ふきあげて、絶頂しちゃう変態さんなんですね~。彼氏さん、乗り換えたかったら、いつでもどうぞ。はい、これ、連絡先です。あ、いちおー、保健所で病気の検査してもらったほうがいいですよー。あたしも気を付けてますけど、あたし、ヤリマンなんで」

 そう言って、あいちゃんは連作先を書いたメモを渡すと、服を着て、部屋を出ていった。

「あの……」

 不安そうなエリカの顔。
 ぼくは、さっきもらった連絡先の書いてある紙をびりびりに破いて、ゴミ箱に捨てた。

「あり、がと……」

 それが、何に対してのお礼か、よくわからないまま、ぼくは「うん」とだけ言った。
 そして、エリカをぎゅっと抱きしめる。

「大好きだよ、エリカ」
「ごめんね、こんな変態さんで……」
「うん」
「ごめんね…………」
「うん」
「どうしても、したかったの」
「うん」
「いやだった?」
「うん」
「でも、きもちよかった?」
「…………うん」
「あぁ……っ」

 びくびくっ、とエリカは、体を震わせる。
 言葉だけで、イった、のか。
 そして、ぷつんと糸が切れるように、エリカは意識を失った。
 エリカが起きたら、いろいろなことを話さなくてはならない。
 だけど、今は――とりあえず、眠ることしかできない。
 これからどうなるのか、自分はどうしたいのか、それを明日の自分に託して、くたくたになって考えることもできないぼくは、今日にさよならを告げた。

< 完 >

あとがき
 あまり無理やりっぽくしたくなかったけど完全に合意もとりつけたくなかったので、催眠術を使いましたが、この題材は、「女の子が無理やり彼氏を拘束して……」とか、あるいは、「女の子が男の子にちゃんと同意をとりつけて……」という形にしたほうが官能小説としてはもっと自然な流れだったかも。題材はいいと思うし、MCとも一応うまく組み合わせられたと思ってはいるのですが。

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