サイミンラブホリデイ

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 俺、空町 空(そらまち そら)って言うんだ。スカイツリー言うな、ソラマチ言うな、武蔵言うな。……こんな感じで名前をいじられることはあるけど、割と普通の人間だと思う。
 二つの事を除けば。

 一つは10年ほど前から催眠術の練習を繰り返してきたこと。色々な本や、ビデオ、映画、アニメ。もう催眠と名の付くもの全てを教本にした。結果、ほとんどが外れだった。

 しょうがないので、直接高名な催眠術師に指導をしてもらったり、母親に対して実際に催眠をかけたり、とにかく俺が思いつく限りのことをやってきたつもりだ。

 そして、二つ目に一般人と違うところ。これが一番大切な話。

 俺は、姉さんが好きだ。優しくて明るい実姉が大好きだ。少し天然入ってる姉さんが大好きだ。ちょっとツンツンしてる姉さんが愛おしい。10年以上前からずっと好きだ。
 俺は、筋金入りのシスコンだ。姉一筋でここまで生きてきた。姉さん愛してる。空町美咲を愛してる。

 だけど世間は、近親相姦に対して風当たりが強い。
 だから俺は姉さんを意識しないように努力して生きてきた。……表向きは。

 そう、催眠術だ。姉さんは10年ほど前に、テレビでやっていた催眠術の番組を見て、「私も掛けられてみたい~」って言っていた。これだ。世間の冷たい眼差しなんか知るか。
 そこからの俺の行動は速かった。下心丸出しで、催眠術を猛特訓した。これまで母以外にも、色々な人に催眠をかけた実績もあるし、満を持して今日という日を迎えたわけだ。

 俺はとても緊張していた。何せ10年以上の思いが遂げられるかどうか、今日次第で、全てが決まるからだ。深呼吸をして落ち着く。

「すーはー、すーはー」

 落ち着かない。
 姉さんの方はと言えば、俺を男としては見ていないようだけど、軽いブラコンではある、といったところ。
 姉弟仲はすこぶる良好である。

 俺はともかく姉さんまでブラコンなのは家庭環境のせいなんだ。父は僕を胎まして、すぐに死んでしまった。一人残された母は俺たちをこの年まで育ててくれた。今も俺たちの学費と生活費を稼ぐために一生懸命働いてくれている。

 姉さんは母の代わりに1つ下の俺を良く見てくれていたんだ。今でも家事は姉が全部一人でやっている。更にバイトも難なくこなす。

 俺も家事を手伝いたいんだけど、勉強しろと怒られるんだ。特に姉さんは俺が一緒に料理を作ろうと台所に向かうと、烈火のごとく怒る。正直お嬢様ぐらい恐い。
 悠はよくあれに耐えられるよね。俺はあまり姉さんを怒らせたくない。でも怒っている姉さんは可愛い。怒っている姉さんを押し倒して支配したい。

 そんな姉さんは頭が良くて、あまり勉強せずとも名門、舞専学園2年A組副生徒会長。

 生徒会も勉強も家事もこなして、更にはアルバイトまで……。こんなん惚れるなっていう方がムリだろ。姉さんは可愛い、天使だ。絶対犯す。セミロングの、濡烏のような黒髪を汚す。可愛らしくおでこを出しているからキスする。小顔な美咲可愛いよ。美咲。身長158センチ、体重48キロ。最近体重増えたと気にして少し飯を控えめにしているお前がナンバーワンだ。

 バスト77 ウェスト59 ヒップ84。素晴らしい、素晴らしい。本当はAカップなのに見栄を張ってBカップのブラジャー着けている姉さんが大好きだ。太もも周囲46センチを舐める。

 もう一度言っておく。俺は筋金入りのシスコンだ。
 空町美咲犯す。今日犯す。

 そんな大天使美咲姉さんとは対照的に、俺は必死に勉強してなんとか舞専学園の1年生だ。

 一応、姉と同時にアルバイトを始めた。今年の四月からだ。
 俺は姉さんと同じく、少しでも母と家計を助ける為に姉と同じところでバイトしているって訳。
 仕事は葉入家の執事とメイドね。ああ、さっきお嬢様って言ったけど執事の癖で。ごめんごめん。お嬢様の名前は葉入怜って言うんだ。確かに学園で1番の美人だよ。恐いけど。

 あ、葉入家ってのはこの町一番の大屋敷のこと。その娘さんがお嬢様で、俺の姉さんと知り合い……。っていうか、お嬢様は舞専学園の現生徒会長なんだ。
 それで副生徒会長の姉さんが恥を押して、バイトを紹介してくれるように頼み込んだらしい。
 結果、時給1250円という破格のお値段で俺たちを雇ってくれている。お嬢様には頭が上らない。

 中学時代は他人が勝手に姉さんとお嬢様を比べて、姉さんの評価を貶める輩がいた。だから、正直お嬢様に良い印象は持ってなかった。お嬢様プライド高いし。

 今となってはお嬢様に雇用してもらったし、何より友人の婚約者だから悪いことはもう絶対言えない。今日のお膳立てだって、その友達、須藤悠にしてもらったからな……。あの夫婦には一生頭が上らん気がする。

 グダグダ言わずに、ちゃちゃっと姉さんに催眠かければいいじゃねえかって話なんだけど、そう簡単に人は催眠状態にはならないんだ。もっと言うと人が本当に嫌がることを、強制させてやらせる事はできない、ってのが催眠術の通説的見解だ。
 姉さんにはここ数年で、暗示にかかりやすいように仕込みを入れてきた。

 そして姉さんは忙しい人だから、なかなか時間とタイミングがなくて……。でも、姉でオナニーし続けた日々も今日で終わりだ。悠とお嬢様にも後押しされたし、悠達のようなラブラブカップルになってやる!

 ……母を裏切るようで罪悪感はあるけれど、好きになった人が偶々姉なんだからしょうがないと思ってる。ごめんお袋。あれだけ孫の顔が見たいって言っていたけど、子供は諦めてくれ。俺たち、幸せになります。

 計画ではそろそろ、姉さんが俺の部屋に来るころ。頼むぞ悠、お前に全てがかかってるんだ。悠さん俺を助けてくださいお願いします。

 ガチャっと俺んちの玄関のドアが開く音が聞こえた。来たっ。
 とんとんとん、と可愛らしく階段を駆け上がる音が聞こえる。やばい、心臓破裂する。

 余談だけど、姉さんは舞専学園に入学してから、俺の部屋に入ってきたことはない。だからさっきまで、貧乳姉モノの同人誌とかエロ漫画を散らかしっぱなしだったんだ。7月という暑い時期に大掃除は辛かった。

 そんなことをふと思い返していたら、姉さんが、禁断の俺の部屋に入ってきた。ベットと机と箪笥しかない質素な部屋だけど、姉さんがこの空間にいるだけでやばい。制服姿の姉さんでこの部屋やばい。姉さんの絶対領域で地球がやばい。

「うーーーーん……。私、首になっちゃうのかなぁ。……はぁ」

 可愛ええええええ! 可愛い顔を歪めてあり得ない心配する姉が可愛いいいいい。

「あれ、空? あんた、私の部屋に入って何してんの? もしかして空も執事クビになっちゃった? 聞いてよ~。私、怜にいきなり今日はお休み! って言われちゃってさぁ」

 姉さんは、俺が居るのに対して抵抗を見せなかった。俺がベットの縁に座っているからか、姉さんも俺のすぐ隣に座り、早速愚痴る。いい香りがする。香水はつけてないのにな。姉さんの匂いだ。

 しかし、そういう誤認をかけたのか。どうやら姉は、自分の部屋に入ったと思わされているようだ。普段の姉なら、顔を真っ赤にして、出てってよ! みたいな展開になるんだけど、悠達はその部分も含めて、うまいことMCしてくれたみたいだ。
 姉さんがこんなに至近距離に来るなんて、久しぶりかもしれない。ていうか、体が普通に当たってる。柔らかいなぁ。
 こんな状況、俺が姉さんに『くぅ』って呼ばれていた頃以来なんじゃなかろうか。

 流石悠さんの洗脳術! ここから先は俺一人でやってみせるぜ。

「姉さん、お嬢様の性格ならクビならクビ、ってはっきり言うと思うぞ。てか勝手に俺をクビ扱いすんな」
「それもそうか。最近の怜は幸せいっぱいって感じで羨ましいよ。悠君と怜。お似合いだよねぇ。あっ、そう言えば悠君から、どっちを選んでもお幸せにね、って言われちゃった。どういう意味かな。あははっ」

 あのバカ。変なこと吹き込むな。っていうかどういう意味だ。

「確かにな。悠は知らん。変な奴だから、なんか変な物を食ったんだろ」
「もう、私たちの雇い主の旦那様なんだから、悪口言っちゃだめだよ」
「それに関しては感謝してるけどさぁ。あ、そういえば今日はもうやる事なくなったんだよね?」

 わざとらしく、今日の予定を聞く俺。

 次に姉さんは、今日は1日中お仕事する予定だったから、やることなくなっちゃった。お休みだね。お勉強と、生徒会の仕事の残りでもやろうかなぁ。空の給料もないってことは……ああ、二人合わせて2万円以上が、ぱぁになっちゃった……どうしよう……。って言う。

「今日は1日中お仕事する予定だったから、やることなくなっちゃった。お休みだね。お勉強と、生徒会の仕事の残りでもやろうかなぁ。空の給料もないってことは……ああ、二人合わせて2万円以上が、ぱぁになっちゃった……どうしよう……」

 もう姉さん分かりやすすぎるよ可愛いよ。

「そうか。なぁ姉さん。最近仕事が山積みで大変だっただろ? 疲れてるんじゃないか?」
「うん、正直疲れちゃったかな。怜が一カ月以上も生徒会のお仕事ほっぽって、優子ちゃんと悠君の取り合い合戦してるんだもん。その間全部私たちがやらなきゃいけなかったんだよ!? 信じられる!? ……あ、これ言っちゃいけなかったんだった。ごめん、聞かなかったことにして?」
「大丈夫、俺もさっき悠から聞いたから」

「ほぇ~いつの間に悠君と仲良くなったの? 空ったら将来の旦那様から信頼されちゃってぇ。将来は葉入家の専属執事かな? 年収いくらかな? 1000万越えは確実だろうなぁ。うふふふふふふ」

 姉さんは少しお金に汚いところがある。そんなとこも可愛い。

 さ、ここからが本番だ。上手いことスムーズに会話ができた。普段から姉さんと仲が良くて良かったよ。

「……姉さん。そんなお疲れの姉さんにぴったりのモノがあるんだ。催眠術って知ってる?」

「あ……。……催眠術……。……そういえば、昔テレビで見たね。懐かしいなぁ。なに、まさか空が掛けてくれるの?」
「そのまさかだよ。最近(10年以上)特訓しててさ。練習台になってくれない?」
「……えー。どうしようかなぁ。」

 はにかみながら、目をそらし少し考えるそぶりを見せる姉。むぅ、可愛い。あと一押し必要か。

「なんかね、催眠術を掛けられると冷え性とかも治るらしい。勿論疲労回復、肩こり解消、ストレス発散何でもござれだよ。姉さんにとって何もデメリットはないから、お願いします。せめて一回だけでも催眠術の被験者になってください。お願いします。この通りです」

 土下座までしてしまった。予想以上に必死になってしまった。童貞なんかこんなもんだよ畜生。
 
「じゃ、じゃあお願いしてみようかな……?」

 俺の勢いに押されて、了承する姉さん。結果オーライ。

「その顔は催眠術を信じてないな?」
「……そりゃまぁ……ね。だってテレビでやってたのだって演技でしょ?」

 悠達が、姉さんの記憶を一部消去すると言っていた。
 多分、悠達が洗脳しあっていた、というお話を忘れさせていると思う。
 悠達の、洗脳の内容がえげつないから、姉さんにその記憶があったら催眠術を掛けられるのを絶対拒否するはずだ。

「うーん。それじゃあまずはさ、手が固まる催眠術を掛けてみようか。姉さんそっちに座って?」

 姉さんが枕元付近に女の子座りで座る。可愛い。俺は姉さんの真正面に座る。目の前に姉さんがいる。本当に可愛いと思う。二重のまぶたも、クリクリっとした目も。可愛らしい唇も、鼻も耳もその小顔も全部。……欲しい。

「手が固まる催眠術?」
「そう。姉さん、右の指先を左の指の一番下にあわせて、そのまま両手の指を曲げてみて?」
「えっ、いきなり言われても……」
「ほら昔小学校の頃、手遊びで、パンパンって手拍子した後、バリヤーとか攻撃とか、溜めとかやったでしょ? あの、溜めの動作の形だよ、ほら、この形」

 そういうと僕は姉さんに見本を見せる。姉さんはそれを見て思い出したようだ。

「あ~懐かしい! 空とよくやってたね! ……はい、これでいい?」
「オッケー。次にお互いの指を思いっきり引っ張ってみて? ぐい~って感じで」
「うん。……ぐぐぬぬぬぬ……おりゃー!」

 全力で乗ってくれる姉さんマジ女神。15秒弱ほど引っ張らせて、暗示をかけてやめさせる。

「俺が後3っつ数を数えて手を鳴らすと、姉さんの手はもう動かなくなるよ。俺が動いていいよ、って言うと、姉さんの指はまた動くようになる」
「ふぬ~! って、そんな訳ないじゃん~」

 少し笑う姉さん。実際これ、催眠術ではないんだけどね。

「1……2……3! はい! 姉さんの手はもう動かないっ!!」
「はいはい……ってええええ!? 嘘っ、本当に動かない……?」

 面白いように引っかかるな。詐欺には気をつけなよ? 
 俺は、ばれない様にさりげなく姉さんの手を取る

「はい、動いていいよ」
「あっ……えっ? 動く……す、すごい」

 合図をしたと同時に、俺は指同士を離して、姉さんの指をマッサージする。

 簡単な話で、実際にやってみれば分かるけど、お互いの指を強く引っ張り合ったら指が動かなくなるんだよね。知らない人にとっては効果抜群だと思うけど、姉さん知らなかったのかよ……。

「ね? 催眠術って凄いでしょ?」
「うん……本当にあるんだ、催眠術」

 ぽかん、としながら返答する姉さん。流石姉さん、期待を裏切らないぜ。ここ一月、仕事続きで疲れている影響も大きいのだろう。そういう意味でも仕事を増やしてくれた悠達に、感謝しなければならない。
 とりあえず、催眠術の存在を信じさせ、なおかつ俺が催眠術師としての腕があると思わせたところで誘導に入る。

「姉さん、この写真を見て? 覚えてるかな」
「ああっ。これ3年前の沖縄旅行の写真だよね!」

 母と姉さんと俺の三人で行った沖縄旅行の写真を見せた。
 その写真は沖縄の浜辺を映している。青いサンゴ礁に澄んだ海。あの時は青空で、ぽかぽかしてて。とても気持ちがよかったのを覚えている。あの時は人も全然いなかったな

「ちなみにこっちもあります」
「恥ずかしいからやめてよ~。って、いうか初めて見たんですけど!? ……もう! 没収です!」

 それは姉さんが浜辺で寝ていた写真だった。
 しかも姉さんは、水色を主体としたビキニの水着を着ていて、その、胸が……そんなになかった。今も貧しいけど、もっと貧しかった。俺は貧乳派なのでご褒美ですが。

「姉さん、あの時は気持ちよさそうに寝てたよねー」
「空だって、私の隣で寝てたじゃん! いつの間に撮ったのよー!」
「まぁまぁ。次の催眠術はこれだよ。姉さん、思い出して、あの時のことを」
「あの時の事?」
「そう、目を閉じて……。俺の言うことに従ってみて……?」

 俺は未だ納得してない様子の、姉さんの目を閉じさせて、あの時の記憶を呼び起こさせる。

「姉さん。姉さんは今、沖縄の浜辺に来ています。あの時と同じで、水着です……。」

 姉さんの顔が一瞬恥ずかしそうに顔を綻ばせた。姉さんの様子を注意深く観察しながら、誘導を進める。

「姉さんはあの時と同じで、とても暖かくてぽかぽかしているので、寝っころがります……ざざーん……ざざーん……雲一つない青空に、波打つ海の音。……とても穏やかな時間が過ぎていきます」

 姉さんの顔が穏やかになっていく。前に旅行に行った時、浜辺で寝た時の感覚を思い出せているようだ。

「くぅ……くぅ…………カモメでしょうか?……雄大な海鳥が、綺麗な大空を駆け回っているようです……。姉さんは……その光景に癒されながら……ゆっくりとまぶたを閉じていきます」

 姉さんが本当に寝てしまわないように気を付けながら、暗示をかけていく。ここからが正念場だ。

「目を閉じても聞こえる波の音……カモメの鳴き声……。姉さんは、暖かい日の光に優しく照らされながら……。姉さんは今……とても気持ちがいい……こんな気持ちが良いのは初めて。……いつだってこの場所にいたい……この感覚に浸っていたい……」

「姉さんは瞼を閉じたので、真っ暗になりました……。少しずつ波の音…カモメの鳴き声が遠ざかっていきます……。でも……気持ちいいのは変わりません……。ずっとずっと気持ちがいい……俺の言葉に従うと……もっと気持ちが良くなる……」

 姉さんの顔が更に緩む。俺はあらかじめ用意しておいた、催眠用の甘い香りがする香水を自分の右手に軽く振りかけた。

「姉さんは今……とても気持ちいい……。……ふと……姉さんは甘い匂いを感じました……」

 姉さんの鼻元に俺の右手を近づける。姉さんがその匂いを認識するタイミングを見計らい、暗示をかけていく。

「姉さんはこの匂いを嗅ぐと……また気持ちのいい世界に入ることが出来ます……。姉さんはこの世界が気に入りました……だってこんなにも気持ちのいい世界です……。あなたは他に……こんなにも気持ちよくしてくれる世界を知りません……。……いつだってこの世界に戻りたい。……この世界にいると……疲れも取れていきます……」

「空町空も、この世界に入るために必要な存在です……この匂いを与えてくれるのは空だけ……。空だけがあなたをこの世界に連れて行くことが出来る……」

 このあたりで一度、姉さんを現実世界に戻そう。何回も根気強く、催眠をかけるんだ。

「空が3っつ数を数えて手を鳴らすと、あなたは現実世界に戻ります。絶対にそうなります……。いいですか? ……1……2……3! はい!!」

 ぱちん、と乾いた音が鳴り響く、姉さんは、はっ、とした様子で、目を開ける。
 とろん、とした目で、姉さんは俺を見た。

「どうだった、催眠術。疲れは取れたかな?」
「……うん。……そら、凄い……」
「もう一回催眠術にかかりたい?」
「……かかり、たい……」

 僕は再度催眠術をかけることにした。姉さんの脳にはまだそこまで負担がかかっているわけじゃない。何度か掛けてから、休憩しよう。

「じゃあ、姉さん。また目を閉じて?」
「うん……」

 ゆっくりと目を閉じる姉さん。
 俺はもう一度姉さんの鼻元を右手で覆った。

「……きもちいい……姉さんは今とっても気持ちいい……。もっともっと気持ちよくなりましょう……」

 すぐに軽いトランス状態に入る姉さん。今度は催眠深度を深めてみよう。

「あなたはこの匂いを覚えている……。自分を気持ちいい世界に連れて行ってくれる匂いです……」

 すぅー、すぅー、と規則正しく鼻息を立てる姉さん。決して寝かせないように、決して目覚めさせないように。赤ん坊を観る母親のように……ここが催眠術師の腕の見せ所だ。

「あなたはもうこの世界から逃げようだなんて思わない……空が連れてきてくれるこの世界が全てです……。……くぅ……くぅ……あなたのくぅが連れてきてくれる……この世界……。くぅに身を任せれば……もっと気持ちよくなれる……ほら……更に気持ちよくなってきましたよ……」

 先ほどのカモメの鳴き声と、姉さんが昔僕を呼んでいた『くぅ』を併せて、更に催眠深度を深める。

「くぅの右手は……魔法の右手……大切なくぅが連れてきてくれる……きもちいい……きもちいい……くぅの右手は魔法の右手……」

 姉さんの口元からよだれが出てきた。
 2回目はこの程度でいいだろう。

「覚えていますか?……3っつ数を数えて手を鳴らすと、あなたは現実世界に戻りますよ……。いいですか? ……1……2……3! はい!!」

「あっ……そらぁ……」

 姉さんは物足りないようだった。そりゃ早めに切り上げたからね。

「姉さんは、またあの世界に入りたいよね?」
「うん……あ……ちょっと、まって?」

 強めに言っても反抗しない。だいぶハマってくれているようだ。
 俺は再度姉さんに目を閉じさせようかと思ったけど姉さんが何か言いかけた

「私にくぅって呼んでほしいの?」
「えっ、その……うん」

 そういえばあの世界でのやり取りの記憶を消してなかった。2回ぐらいじゃそこまで高度な暗示はできなかっただろうけど。

「……しょうがないなぁ……それじゃあ、その、おねがい……くぅ……」

 萌え死んだ俺は再度姉さんを催眠の世界に連れていく。
 もう俺が何も言わずとも、匂いさえあれば姉さんは一人でトランス状態に入れるようだ。

「またくぅが……連れてきてくれました……大切なくぅ……きもちいい……大好きな世界…………」

 更に催眠深度を深めた、前回の暗示を少しだけ改変し、繰り返し使う。

「あなたはもうこの世界から逃げようだなんて思わない……空が連れてきてくれるこの世界が全て……。……くぅ……くぅ……あなたのくぅが連れてきてくれる……この世界……。くぅに身も心も任せれば……もっと気持ちよくなれる……ほら……もっと気持ちよくなってきた……。あなたはもう、くぅの声しか聞こえない……」

 姉さんの顔を良く見る……うん。ここまで深まれば、多少体に接触しても大丈夫だろう。恍惚とした表情の姉さんの口元から、よだれが垂れているので試しに慎重に舐めてみた。

「………………ん……ぅ……」

 甘い。おいしい。姉さんは覚醒しない。見立て通り、姉さんはかなり深い催眠状態に入ったようだ。

「よく聞いて……?……くぅの右手は……魔法の右手……大切なくぅが連れてきてくれる……きもちいい……きもちいい……くぅの右手は魔法の右手……」
 
 先ほどのワードを更に刷り込む。

「『くぅの右手は魔法の右手』……この言葉と一緒に……あの甘い匂いを嗅ぐと、姉さんはこの世界に入ることができる……でも、普段の姉さんは、『くぅの右手は魔法の右手』というキーワードを思い出すことが出来ないんだ……それでも姉さんの、心の深い、奥底に、キーワードは深く……深く刻まれる……」

「……1……2……3! はい!!」

 ぴくっ、として姉さんは目を開ける。緩んだ顔しているけど、暗示は上手く働くだろうか。

「気分はどう? 姉さん」
「……くぅは、天才だよ。……とっても気持ちよかったよ……」

 俺はキーワードと同時に再度右手を被せる。

「姉さんはまたあの世界に入る。『くぅの右手は魔法の右手』」
「……あ……ん……」

 今度は目を閉じさせなかった。でも今の姉さんには十分すぎたようだ。光のない、虚ろな目をそのままに、姉さんは深い催眠状態になった。

 長かった。ここまで本当に長かった。俺は姉さんを催眠にかけている間、姉さんの美しすぎる顔、完璧すぎる姉さんの制服姿に興奮していた。
 しかし、ここで下手を打てば、最悪の展開だ。

 万全を期して、俺はその後も何度も姉さんを覚醒させ、何度も催眠状態に堕とした。最終的には匂いが無くても、キーワードだけで落ちるようになった。
 当然だけど、俺以外の人間がキーワードや、あの匂いを嗅がせても、トランス状態に入らないように暗示を掛けた。
 そういう訳で、休憩だ。

「……1……2……3! はい!!」
「んぁぁ……くぅ……」

 ぽーっとしている姉さんが可愛すぎる。必死に息子の位置を修正しているこっちの身にもなってほしい。

「じゃあ一旦休憩しようか」
「え……もう……? まだお昼じゃん……。もうちょっと、私を催眠の世界に連れていって? くぅ……」

 熱い眼差しで俺を見る姉さん。あああ可愛い。今更ながら、姉さんは本当に疲れがたまっていたようだ。姉さんの顔がツヤツヤしているみたい。俺の部屋に入ってきた時より若返っているかのようだ。

「じゃあお昼ご飯食べてからね」
「……ほんと? やったぁ。じゃあ、お姉ちゃん腕によりをかけて作るからね。期待して待っててね。ぎゅー」

 姉さんはいつも元気だけど、今はここ3カ月で一番元気だ。ついでに暗示でくぅくぅ言いまくったので、昔の距離感に近づいた。姉さんが甘えさせになっている。素晴らしい。
 姉さんは俺を思いっきり抱きしめた後、うおー! って言いながら一階に下りて行った。

 そうだ、俺が姉さんを好きになったのは姉さんのせいだ。美人なお姉ちゃんにこんなんされたら誰だって惚れるだろ。ああ、甘い香りがしたなぁ。

 抱きしめられたのは舞専学園に合格した時以来だな。その前は小学校の卒業式だ。何が言いたいかと言うと、姉さんの抱きしめはレアなんだ。幼稚園の頃とか、小学校低学年の頃は毎日2回はされてたのに。そりゃ惚れるわ。

 とりあえず、後催眠が有効かどうか。そして、ちゃんと表層意識は暗示内容を忘れているかを確認するために、姉さんの様子を覗いてみた。

「お姉ちゃんはくぅが大好きで~♪ ふふん♪ くぅもお姉ちゃんが大好きで~♪ 二人はとっても両思い~♪ なんでなんでなんでだろう~♪ うぉうーうぉうーうぉおっお♪」

 えっ? 俺が掛けた後催眠、俺のことが好きになるとかじゃないんだけど。ノリノリで途中からパクリ曲を歌っている。

 いやいや落ち着くんだくぅ……じゃなくて、空。今の姉さんは昔を思い出しすぎて、5歳児の頃の俺に対する感情で今の俺に接してきているんだ。恋愛感情はないんだ。姉弟として愛されているだけだ間違いない。
 一人悶々としていると姉さんにバレた。

「こら! 何見てるの!? く……空っ!! おとなしくリビングで待ってなさい!」

 とりあえず、リビングで待つ。落ち着くんだ。俺。

 しばらくすると、料理が出来たようだ。そして料理を見て絶句した。

「ハンバーグと目玉焼きはいいとして……牡蠣!? 今、夏だぞ」
「たまたまお家にあったんだ~。夏牡蠣だから大丈夫だよ。さ、召し上がれ!」

 なんで? 牡蠣ってことは明らかにそっち目的だよな。

「姉さん」
「ん?」
「『くぅの右手は魔法の右手』」
「あ……」

 首尾よくトランス状態になる姉さん。完全に覚醒してからでも、キーワードのみの導入は成功した。姉さんは少し口元がほころんでいる。気持ちよさそうだ。

「美咲、あなたは催眠状態の際に、俺が話していたことを、覚醒中覚えていましたか?」
「いえ……覚えていませんでした……」
「美咲、あなたは料理に自分の唾液を入れましたか?」
「……はい……入れました……」
「どうしてですか?」
「料理に……唾液を入れるのは……普通の事……だからです……。」

 よし、上手くかかっていたみたいだ。ついでに会話もできるようになったし、どさくさに紛れて美咲って呼んでいる。とりあえずその異常常識を元に戻して、聞きたいことを聞いてみた。

「美咲はどうして料理に牡蠣を入れたんですか?」
「私は……」

 そこで姉さんは言いよどんだ。この状態で素直に答えられないということは、姉さん自身の価値観の核に触れる段階の内容のようだ。

「安心して……くぅは絶対美咲を嫌いにならないよ……ほら……くぅを信じるのが気持ちいい……くぅに全てを委ねたい……」

 俺は右手を姉さんに当てた。匂いも併せて、これなら喋ってくれるだろうか。

「……あ……ああ……。私は……私は…………。くぅが……好き……」

 一度喋ってしまえば、もう止まらない。姉さんは堰を切ったように話し出した。

「私……昔から……くぅ……好き……。私が小学……4年生の頃から……くぅで……おなにー……してた。……でも……姉弟で……そんなの……ダメ…………だから。……今日……くぅに……襲われなくて……両思いになれなかったら……」

 興奮した。俺たちは両思いだったんだ……。なんか衝撃的すぎて、実感がわかない。
 ……両思いになれなかったら? とてつもなくイヤな予感がする。

「一週間前……海原君に……告白……された……から……その人と…………付き合う……」

 海原……。海原達也か? 俺のクラスメイトだ。とりあえずあいつ殺す。そうか、さっき姉さんが言ってた悠の言葉の意味が分かった。

 『どっちを選んでもお幸せにね』。

 選ぶ? 最初っから選択肢なんてねぇよ。姉さんは俺の、俺だけのモノだ。

 沸々と黒い感情が湧き出て俺を支配する。姉さんは俺が好き。俺も姉さんが好き。それならやることは決まってる。

『空町空への想いが強くなる。他の男に興奮しなくなる。空町空に愛の言葉を囁かれたら美咲は興奮する』

 そんな暗示を何度も何度も掛けた。何度も何度も繰り返した。ハンバーグと目玉焼きがが冷めても、ずっと、ずっと繰り返した。

「……1……2……3! はい!!」
「ん……あれ、お料理が冷めちゃってる……電子レンジで温め直すね……」

 とりあえず、料理が冷めたことに関してはそんなに疑問を持たせないようにしておいた。

 その後の姉さんは正直、可愛すぎた。電子レンジで温め直している間、顔を赤くしながらこちらの様子を窺うのだ。目が合うと目線をそらして何も言わない。暗示内容を忘れている姉さんは、いつも以上に俺の事が気になっている。姉さんは、急に俺の事が魅力的に見えて困っているようだった。

「姉さん、レンジ温め終わったよ」
「ひゃ! ……はい……。……はい、くぅ……うぅ……」

 小さい声で俺をくぅと呼ぶ姉さん。普段は姉さんが積極的に喋るんだけど、今の俺たちは無言で食事をしていた。姉さんの唾液入りの料理うめぇ。
 痛いくらいに姉さんの視線を感じた。

 姉さんがあまりにも可愛すぎるから、食後にからかってみた。

「姉さん、シャワー浴びてきなよ」
「え……しゃしゃしゃしゃわー!? え……?」
「そういうことだよ。嫌?」

 姉さんの顔が茹蛸みたいにまっかっかになった。

「……はい……シャワーいただいてきます……。あの、くぅ?」
「かわいすぎる」
「ふは!? なによいきなりそんな……お姉ちゃんをからかわないで! ばかっ」

 ちょっとやばいわ。替えの下着をわざと俺に見せつけながら、顔が真っ赤のまま風呂場に飛んで行った。
 流石実姉。俺の趣味をよく分かっている。

 赤の紐ブラに赤の紐パン。なんか少し光沢がある。完全に誘ってるわ。俺が姉さんの下着の中で一番好きなのをチョイスしてきた。
 ……ぶっちゃけ先月の姉さんの誕生日で、俺がプレゼントした奴なんだけどな。その時の姉さんはやっぱり顔を赤くしてぶん殴ってきた。でも一回も履いてないっぽいな。
 ご丁寧に俺が見えるところで箱を開けていたから。可愛い。

「くぅ、上がった。次入って」

 おや、姉さんの様子が違う。なんか覚悟を決めた感じだ。決意をしたかのような、強い口調で俺に入浴を促す。とりあえず、俺も色々な所を丁寧に洗い、歯を磨いた後、自室に戻ったら……いない。
 パンツ一丁で、コンドームを持って姉さんを探す。姉さんどこだ?

 とりあえず、姉さんの部屋をノックする。なんとなく。

「どうぞ」

 ……あー、なるほど。
 姉さんは、俺の部屋が姉さんの部屋だと思ってるから、姉さんの部屋が俺の部屋だと思い込んでるのか。なら姉さん的には勝手に俺の部屋に入っている認識なんだな。ややこしい。

「入るよ」

 俺は、割と姉さんの部屋に内緒で入る。幸い彼氏が出来たという証拠はなかった。犯罪者? なんとでも言え。俺は姉さんが好きなんだ。絶対に俺が姉さんを幸せにする。

 姉さんはベットの上でこちらに背中を向けて、女の子座りで座っていた。ブラとパンツしか履いていない。とりあえず、俺も座って思いきり姉さんを抱きしめる。

「うひゃあああ!? くぅ! あんたいきなり何抱きしめてるの!? 普通こういう時ってんんむ!?」

 我慢なんてできる訳ない。頭が真っ白になり、実姉にキスをする。舌も入れる。姉さんはかなり驚いたようだけど、次第に俺を受け入れて行った。

「ん……ちゅぅぅ…………くぅ……んん……じゅる……じゅるっ……んんんぅう」

 最初はぎごちなかった姉さんだけど、俺の動きに合わせるように、舌を絡め、吸い、時に歯を使って俺の舌を甘噛みして、お互いの口内を貪りあった。姉さんの身体が柔らかくて、折れてしまいそうで、だから優しく強く、抱きしめた。

「くぅ、くぅ……んんっ! ……んふぅ、じゅりゅ……んっ、んっ……んんんん!」

 我慢できずにキスをしながら胸をさわった。控えめな胸が素晴らしい。それが姉さんのモノだと思うと興奮しかしない。赤いブラにも興奮しながら、姉さんにも感じてもらえるように、できるだけ優しく、丁寧に乳房を触った。

「んふぅ……くぅ……じゅる……れろ……ぅん……ん!? 嫌っ!」

 次に俺が姉さんの股間を擦ると、姉さんは俺の腕を無理やりほどいて、俺からいったん離れた。姉さんは、俺に正面を向けて座った。

 今までキスと胸の感触に夢中だったが、よく見ると姉さんの身体が震えている。姉さんの表情も苦悶に満ちているかのようだ。

「はぁ……。はぁー……。……くぅ、何か言うことは?」
「好きだ」
「っ! ……馬鹿、そういうこと聞いてんじゃない。私たち、姉弟なのよ? なんでそんなこと言える訳?」

 姉さんは悲しげに俺を見る。何だよ、姉さんだって俺が好きでたまらないくせに。今更そんな事言うなよ。

「美咲」
「なっ!? くぅ……あ、あんたってば……そんな、姉を呼び捨てで呼ぶなんて」
「好きだ。本気なんだ」

 そう言うと、姉さんは、美咲は、困ったような嬉しそうな、そんな顔をして俺を見る。よく見ると美咲は情欲的な目をしていた。
 そして、一瞬目を閉じ、何か覚悟を決めたような顔をして、口を開く。

「私は……。……ううん、私も、あんたが好き。……私は今までくぅ以外の男を好きになったことがないの。あんた以外をオカズにしても、全然気持ちよくならない。でも、くぅのことを考えただけで、私は、体が火照るの。胸が締め付けられるの。それで……くぅで、するの。……あははっ。どう? 変態でしょ? 私みたいな女、好きになっちゃダメだよ。くぅはかっこいいんだからさ、他にいい人絶対見つけられるよ!」

 泣きそうな顔して、なんでそんなことが言えるんだよ。
 俺は美咲を押し倒す。もう一度キスをしようとすると美咲が止めた。

「んあっ……ダメ……。私は、ダメなの……お願い……私、くぅに、そんな惚れられる女じゃないの……」
「何でさ」
「……」

 暗い顔をして、口を開こうともしない美咲。

「仕方ない。『くぅの右手は魔法の右手』。なんで俺に何も言わないの?」
「や……だ……」
「ぐ……なんで俺に言いたくないんだ、美咲?」
「嫌われる……から」

 もういい。右手で美咲の鼻を覆う。

「美咲……くぅは絶対何があっても美咲を嫌いにならない。……くぅは、俺は、美咲を知りたい。俺を信じてくれ、美咲……」

 光のない美咲の目から一筋の涙が零れる。ぽつり、ぽつり、と話始めた。

「私……くぅが好き……。大好きだから……よく……くぅの部屋……内緒で……忍び込んでた……。くぅの匂いで……おなにー……したかったから……。……くぅの部屋……お姉ちゃんモノの……エッチな本……いっぱいで……嬉しかった……。催眠術の本……いっぱいあった。……悪いと思った……から。……催眠術の本……読んでない……。私……いつか……掛けられること……期待……してた……。それで……興奮……してた……」

 え……、全然気づかなかった。

「くぅのモノ……なりたかった……。……犯されたかった……。……でも私たち……血が繋がってる……絶対……ダメ……。ママ……ごめんなさい……くぅに……襲って欲しくて……私を……変えて……欲しい……」

 ……分かった。美咲は、生徒会に入っているだけあって、頭が固いところがある。だから、近親相姦は絶対ダメだって、必死に自分を抑え込んでいたんだろう。
 それに、俺はあっさりお袋のことを割り切れたけど、美咲はそうも行かないんだと思う。

 俺が、美咲を幸せにするんだ。美咲の涙を舐めとって、美咲の価値観を変えられるように、何度も暗示を掛けた。

『弟と結婚するのは世間体としてはダメだけど、昔から偉い人は姉弟姦をやっている人がいる。皆に内緒なら大丈夫』

 ……俺の腕では、ここまでが限界だった。これ以上の価値観の変動はできそうもない。美咲の意思があまりにも強かった。でも、ここまで刷り込めたなら、美咲も俺を受け入れてくれるはず。
 そして俺はもう、姉さんに隠し事をするのが嫌だったから。だから俺は、催眠状態での会話を全部、覚醒状態の時でも覚えていられるようにした。

「……1……2……3! はい!!」

「……くぅ……ひぐっ……」

 目に力が宿り、覚醒する美咲。
 美咲は、顔を歪めてぽろぽろ涙を流した。ごめんな。今まで気付いてやれなくて。

「くぅ……くぅ!」

 美咲は俺に抱きついてきた。勢い余って俺は押し倒された。

「くぅ……ありがとう。全部思い出せたよ……。くぅ。私を変えてくれて、ありがとう。ちゅっ」

 軽く口づけをされる。

「あははっ。くぅ、好き、大好き。今までずっと言えなかった……あ」

 と言って俺をジト目で睨んできた。

「あんた、今まで催眠かかってた私に好き勝手やってくれたじゃん? ちょっとは我慢しなよ。唾なめたり、唾入れさせたり、どんだけ好きなんだよ。この変態っ! 海原君に告白されたことも話しちゃったし、ちょっとはプライベートってのを考えなさい!」

 それと、と続けて言う。

「……その……私を変えたんだから、一生大切にして」

 紅い顔を隠すように、ばふっ、と小気味いい音を立てて、後ろに倒れこむ美咲。

 ……一生大切にするからな、美咲。

 でも今、俺をコケにしたから、ちょっとくらい虐めてもいいよな?

 俺は仰向けに寝た美咲を、膝立になって視姦しながら愛撫を再開した。

「ああっ、いきなり、胸さわらないでよっ。普通キスからでしょっ。……んあっ……はふぅ……んんんっ!?」

 減らず口をたたきまくるお姉様に従って、さっきより激しいキスをお見舞いしてやった。今度は攻めさせてやらない。思いっきり美咲の口を犯す。支配する。美咲の口が熱くなる。熱でもあるかのように美咲の顔も熱くなる。
 キスをいったん止め、美咲に愛の言葉を囁く。

「美咲、好きだ、大好きだ。」

 ぴくん、美咲の身体が動く。俺の暗示はまだ有効のようだ。

「はぁぅん……ば……かぁ……それ、言ったら私ぃ……」
「美咲、どうして欲しいんだ?」
「別に……私はっ……くぅん!?」

 胸を強めに揉む。右手でブラの紐を外した。俺が買ったブラジャーだから、外し方も心得ている。練習したからな。っていうか解くだけだし。
 ブラの上から左手で胸を揉んでいる。もうブラジャーは、ただ美咲のちっぱいを覆うだけの役割となった。

 それでも俺はブラの上から揉み続けた。さっきから、決して乳首には触れていない。美咲の右手は、軽く俺の左手に乗せて、形だけの抵抗をしている。美咲の左手は、シーツに皺が出来るほど、握りしめている。

「言え、どうして欲しいんだ?」
「言わない……ああっ……あっあっ! ああっ!」

 美咲は少しずつ喘ぎ声が大きくなってきた。そんな美咲を見るとますます虐めたくなる。
 俺が美咲を気持ちよくしていると思うと興奮する。左手で、胸を激しく揉みしだき、右指の先で美咲の弾力のある桃色の唇をつーっ、っと撫でた。

 ビクビクッと美咲の身体が揺れる。唇を撫でられるのが余程よかったのだろうか。
 香水の匂いはまだ残っていて、美咲の目が少し虚ろになる。
 抵抗していた美咲の右手は、唇をなでられてから俺の左手に重圧をかけ、むしろ胸に押し付けているようにも感じる。
 先ほどまでシーツを握りしめていた左手は、俺の右手を執拗に撫でている。もっと撫でて欲しいのだろうか。

「美咲、これが欲しかったら、言わないと分からないぞ」
「くぅのいじわるぅ……お願いぃ……私の唇、なでてぇ」

 軽いトランス状態に入ったからだろうか。少し美咲がしおらしくなった。先ほどまで気の強かった女が堕ちた。
 今迄の俺と、美咲との思い出が走馬灯のように駆け巡る。片思いの女が、俺だけの女になった。海原には絶対に渡さない。もっと、俺だけのモノにしたい。
 そう思うと、自然と次の言葉が出ていた。

「これから自分の事は美咲と言え、分かったな」
「はいぃ……分かったからぁ。美咲の……くちびる、おっぱい……もっとしてぇ」

 ご褒美とばかりに、触れるか触れないかぐらいの感触で、美咲の唇を撫でる。胸を揉む。美咲の顔が快楽にまみれている。悦んでいる。
 その内、美咲が我慢できなくなった。

「くぅ! も、もう美咲……限界……でっ!」
「『くぅの右手は魔法の右手』」

 すっ……と美咲の意識が落ちる。美咲は面白いようにトランス状態になる。術師としてこれ以上嬉しいことはない。虚ろ目の美咲の美しさはこの上ない。

「美咲は、俺と一緒じゃないと逝けない。1、2、3! はい!!」

 俺も余裕がなくなってきたので、暗示も適当感が出ているが、それでも美咲にとっては十分なようだった。

「くぅの……ドS! 私は……あっ……美咲は、もう逝きそうなの……お願い……」

 私、と呼んだ時に睨んだら、おとなしくなった。可愛い。もっと支配したくなる。

「好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
「あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」

 美咲の身体が大きく跳ねる。でも美咲はイクことができない。
 大きく口を開けて、よだれを垂らして、白目を剥いた美咲が愛おしくてたまらない。
 思わず。美咲のおでこにキスをした。そしたら美咲がまた跳ねた。

「あっ、んああぁ!! お願い! お願いだから! 美咲を逝かせて! くぅと一緒に逝かせてよぉ!!」

 俺も我慢できなくなったので、美咲の下半身を眺めた。
 一言でいうと、洪水、と言ったところだろうか。恐らく美咲の唇を撫でた時には既にパンツは使い物にならなくなっていたのだろう。
 パンツの紐をほどく前に、その、魅惑的な太ももを舐めた。また美咲が震える。

「もっ! 無理ぃ! 無理だからぁ……焦らさないでぇ!」
「俺に対して敬語を使え」
「なんであんたなんかに! ああああっ! ごめんなさいくぅ様ぁ!! 美咲を愛して!大好きですぅ!」

 少し、秘部を撫でただけで、この反応だ。別に『くぅ様』までは指定しなかったんだが。どうやら美咲はマゾの才覚があるらしい。美咲の耳元に顔を近づけ、囁く。

「俺も大好きだ、美咲」
「あがぁ……くぅ様ぁ……くぅ様ぁ……」

 ここまで気持ちよくしてやれば十分だろう。俺は美咲の使い物にならなくなった赤の紐を解き、解放してやった。ブラももう邪魔なので、除いた。

「あああぁ……くぅ様……くぅ様」

 全裸になった美咲は、俺の名前をうわごとのように呟きながら、期待に満ちた淫靡なまなざしで俺を見る。その顔はわざとやっているのか? 素直に挿れてやる訳ないじゃないか。
 俺は、まだ胸を舐めていない。優しく美咲の髪を撫でつけながら、美咲の控えめな胸をじっと見る。

「くぅ様ダメです……早く入れて下さい。後でいっぱい吸っていいですから……ああ……ダメ……ダメ……」
「乳首、舐めて欲しいんだろ?」
「やぁ……」

 美咲はぎゅっと目をつむり、快楽に備えた。口では嫌がっていても、期待しているのは明らかだ。
 美咲の乳首は薄ピンク色で、乳輪は小さく乳首の色と一緒だった。
 乳首は尖り、硬くして、俺の口を待ち望んでいるかのように、今か今かと震えていた。ぴくん、ぴくんと持ち主に似て可愛らしく踊る。
 俺は我慢できず、舐めた。吸った。甘噛みした。

「んぁぁぁ、だめ! ダメです! 乳首舐めちゃいやぁぁ! あっあっあっ、あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 美咲の体は何度震えただろうか。既にいっぱいいっぱいになっている美咲をみて、美咲が欲しくなった。
 美咲の秘所を丁寧に撫で上げ、擦り、舐めた。いずれも美咲は声をあげて悦んだ。クリトリスを弄んだ時は、美咲はアへ顔を晒していた位だ。

「美咲、大好きだ」
「……あひぃ……くぅさま……すき……だいすきぃ……」

 トランス状態にしていないのに、美咲はどこか遠くを見る目で俺を見た。

 ……その顔がたまらなかった。

「美咲、挿れるぞ」
「は……ひぃ…………ん……あっ……くぅ……さまぁ……」

 ここまで気持ちよくしたら、痛みもあまりないようだ。抵抗することなく美咲は受けいれていく。何かに当たる感触がした後、血が流れた。俺は、美咲と結ばれたんだ。

 俺も初めてということもあってか、美咲の膣が名器すぎるのか。全然我慢が出来そうもなかった。最奥まで一旦入れたはいいものの、美咲がきゅうきゅうと締め付け、俺から精液を搾り取ろうとする。初めてなのに、これは卑怯だ。

 俺は美咲を抱きしめた。首筋、左耳右耳、髪の毛、ありとあらゆるところを舐めた。キスをした。自分のモノだと主張するように美咲の柔肌に強くキスした。後を残した。
 何とか逝かないように必死に耐えながら、ピストン運動を繰り返す。
 数度耐えたが、もう俺が我慢できなくなった。

 そして最後の最後に、俺のモノで感じている美咲が最後の力を振り絞り、俺に問いかけた。

「……くぅ、さまぁ……んああっ! ……み、みさきを………んんっ! ……あいしてぇ……いますっ……か?」

「……愛してるよ、美咲」

 愛情をたっぷり込めた質問に、倍返しの返答をしてやった。

 そして同時に美咲のうごめく名器に、ありったけの精液を注ぎ込んだ。
 二人で、仲良く逝った。特に、今までずっと我慢していた美咲のイキっぷりは凄かった。

「みさきもぉ……あいしてるぅぅうぅぅうううう! ああぁぁあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぐぅざま゛ぁ゛あ゛あ゛!! 」

 その後も、俺たちは何度も何度も求め合った。お互い片思いをしていたからか。
 初恋同士の禁断の愛が落ち着くまで、何時間もかかった。お互いの理性が戻るころにはすっかり夜が更けていた。

 お互い理性が戻った後、俺は美咲へ正式に告白をした。一生大切にするから、結婚を前提に恋人になってくれ……と。美咲は泣きながら抱きついてきた。

 そういえばコンドームを使うの忘れてた。何のためのコンドームだ。
 ……もし赤ちゃん出来てたら……悠とお嬢様に相談しよう。その前に結婚の相談もしないといけないな。

 美咲がお腹減ったとか言い出したので、晩御飯を一緒に作ることになった。カップルになってから、初めての共同作業だ。ちなみに家の台所で一緒に料理をするのは、初めての事。
 美咲が今まで俺を台所に近づけさせなかった理由も分かった。

「ねぇなんで、今まで二人で料理を作らせてくれなかったの? ねぇなんで?」
「うるさい! さっき話したでしょ! もう言わないってばぁ……」
「『くぅの右手は魔法の右手』」
「……ん……」
「なんで今まで二人で料理を作らせてくれなかったの?」
「……家で……夫……と……作るのが……夢だった……から……」
「ああもう可愛すぎ! うちの台所で、男と一緒に料理をするのは旦那だけなんだな! あああ可愛ええ! 一生大切にするからな美咲ぃ!!」

 我が家の夜は長い。明日からはオーディナリーな日常がやってくる。でも明日も明後日もその次の日も。俺たちはずっと、サイミンラブホリデイだ。

< おしまい >

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