※この作品には一部フィクションが含まれています。
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◆夜 その1
――。
「……どうしてここに来てるの?」
レシヒトさんはそんなことを言う。そんなの決まってるのに。
「アルスさんのとこ、抜け出してきちゃったので」
そうじゃなきゃ、私がここにいる訳ないじゃないですか――。
「それは、わかるけどさ。どうしてそんなこと。行きなって言ったのに」
「駄目ですか? 私がここにいちゃ、駄目なんですか。というか私の塔なんですが」
夜宴の騒ぎもここまでは聞こえない。ここで何があっても誰も聞き咎めない。窓の外の景色はもうすっかり夜も暮れ――恋人たちの時間。愛し合う男と女とが、閨を共にする時間というやつだ。
だったら、私がここに居て、何が悪いって言うんですか。
「僕じゃなくて、彼が駄目だろ」
「……知りませんよ、そんなの。私が居たい人と居るのではいけないですか?」
なぜだか、涙が出てくるのだ。胸から込み上げてくる感情がとてもとても酸っぱいもので。
「ミリちゃんは、僕と居る方がいいってことかな」
「だって……どうせするなら、気持ちいい人のほうがいいじゃないですか」
言ってしまってから、自分でも少しどうかと思った。でもしょうがない。アルスさんはすごく魅力的な男性なんだろうけど、レシヒトさんのほうが絶対気持ちよくしてくれるんだから。
「なるほど、そうなっちゃうんだ」
「やっぱり、エッチが合う相手じゃなきゃ無理だと思います」
けっこう、いい雰囲気だったのに、何だかいつもの感じになってしまっている。まあ良いと思う。私は多分、こういう雰囲気が好きで、こうやってリルちゃんやレシヒトさんとエッチなことをするのも大好きなんだろうから。
「まあそれはね。でも、ちゃんと楽しめるように『練習』したじゃない」
「……それで、レシヒトさんより気持ちよくなれるんですか?」
練習。なんでも、私の身体はレシヒトさんの声と指によって、エッチですごく感じるようにされてしまったらしい。私は正直よく覚えてないけど、奥に当たるだけで震えるほど気持ちよくなれるのだとか。
「それはまあ……」
「私がどれだけ調教済みボディになったとしても、アルスさんとするよりも、レシヒトさんにされた方が、絶対気持ちいいわけじゃないですか」
だったらやっぱり、レシヒトさんとしたほうがいいじゃないですか。私はとても賢いので、それくらいのことは当然理解できるんですよ。
「……つまり、これは夜這いなわけだ」
「そういうことに、なりますかね。さすがに恥ずかしいので……早いとこ、催眠、掛けて欲しいです」
今だって、罪悪感とか、羞恥心とか、そういうものがお腹をぎゅうぎゅう締め付けてて。私はずっと、ずっと、長いこと……こういうものから自由になりたかったのではないだろうか。
だから、神盟者召喚(ガチャ)でレシヒトさんが現れたのは、必然だったし、彼じゃないと駄目だったんだと思う。
――本当に、レシヒトさんで良かった。
「ミリちゃんは、悪い子なんだね」
「あうっ……♥」
悪い子、と言われると、きゅんと下腹部が疼く。悪いことをしているのはわかっているから。そして、その悪いことがどうしようもなく気持ちいいって、よく知っているから。
「じゃあ、いいよ。望み通り……君の心を、操ってあげようね」
――。
「――気持ちいい……とても気持ちのいい状態。貴方のよく知っている……穏やかで、心地よい……幸せな状態です」
「おっ、ぉ……おぉぉ……♥」
恥ずかしい声が漏れてしまう。これ、リルちゃんと話したことあるんだけど……私の、気持ちいいときの声って、ちょっと恥ずかしい。リルちゃんはもうちょっと可愛らしく『あ♥』とか言ってるんだけどな。ずるい。
「とても、気持ちよくて……ここでは、何も気にすることなく……その感覚を、楽しむことが……できますね……」
ふわふわとした――とてもいい気持ちです。
私は知っています。これは催眠状態で――だから、この意識は、深い眠りに落ちてしまいます。
「もっと深く……落ちる。5、4……3、2、1……0。落ちる。ふかーく落ちる……そして、この声が、貴方の心に……するする……入り込むように、なります……さあ、落ちる……」
「ぉ、ご♥」
ミリセンティア・ディッシェという一人の人間。その意識は、いつもこうして――気持ちのいい――暗闇に――。
「……深く、深く……入っていく。貴方の心の中に、この大好きな声が染み込んでいきます。この声は気持ちいい、気持ちいいから逆らわない……身を任せると、もっと……気持ちいいですね……」
「ぉ……っ、お……♥」
気持ちいい声。好き。この声が、好きだから。入ってくる。
「ほら、もっと落ちられますよ……3、2、1……ゼロ……深く……沈む――」
――。
私の中に、どんよりと蟠っている思いがあるんです。
誰と、誰が、付き合ってるとか、誰が、誰と、恋人だとか、何だとか。
そういうの……くだらないじゃないですか。
みんな、気持ちいい人と……気持ちいいこと、できたほうが、いいじゃないですか。
でも、だめなんですよね。
――私が、この人とエッチするのは、良くないこと。
どうやら、そういうことになるらしいんです。
「ミリちゃんは……気持ちいいこの声を、よーく聴くことができる……君は、とっても優秀で……賢い、宮廷魔術師ですから……とても、責任感が強くて……たくさんのことを、真面目に……考えて、しまっていました……」
「ん……」
ミリちゃんに呼びかけられても、ミリセンティアの意識は今は眠っているため、そのまま入っていくだけ。そういう状態に私はなっている。
「だけどここでは、嫌なことを考える必要はありません。ここでは、貴方は自由になれます……悪い子になることができます。ここでは、悪い子になっても怒られません。ほら、理解するとともに、安心が広がっていく。悪い子になっても、怒られないことがわかりますね……」
「ぁ……♪」
悪い子でもいい。本当に?
「罪悪感も、責任も、なーんにも感じることはありません……自分のしたいように、気持ちいいように、奔放になることができます。悪い子……ミリちゃんは悪い子になれますね……そう、例えば……リルさん」
「ふぁ」
――リル、ちゃん?
「リルさんのように……自由になれます。できるなら、あんなふうに奔放に、天衣無縫に、気持ちいいことに素直になりたい……怒られることなんか気にせずに、欲望のままに振る舞って……それでも、愛されていたい。罪悪感も、羞恥心も、本当は欲しくないんだって……貴方はずっと、そう思っていましたね……」
「ぁ……あぁ……ん」
リル……ちゃん、みたいに……。自由に……催眠も……エッチも、して……いいのかな?
「ここでなら、貴方も……リルさんみたいな、悪い子に……なれますよ……」
「わる、い……子」
「ミリちゃんは大賢者として、世界の全てを想像の中で、自由にすることができる……だから、自分の心くらい、きっと簡単に……自由に、できますよ……」
「……ん」
それなら、できるんでしょうか。
「さあ、いつものように数を3つ数えます。3つ数えると……催眠状態から覚め、すっきりとした気持ちで目が覚めます。すっきり……そう、とてもすっきりしています。嫌なことを気にしなくてもいい……とても自由な、リルさんのような気分です。彼女のように、思うままに……振る舞うことが、できますよ。ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ。はい!」
ぱちん。
「んふあ」
「おはよ、ミリちゃん」
「あーはい。ミリちゃんですけど……うわ、私こんなことで悩んでいたんですね」
「大変そうだった」
心がすっきりしている。嫌なものが何にもない。とっても風通しがよくて、自由だ。自分ではよくわからないけど、大賢者になったときもこんな感じなんだろうか。これがリルちゃんの心だって言うなら、すごいことだなと思う。
「いやマジでどうでもいいですね、なんで私のエッチする相手を他人が決めてるんですか。意味がわからない」
「それはそう」
「そういうわけで」
「うん」
私は、寝かされていたベッドから身体を起こした。うぇ、髪の毛が口に挟まってる。この、普段の術師服と違う服装も気に入らない。夜宴とか、もうどうでもいい。
「私はやっぱり……今夜の相手は、この人じゃなきゃ嫌みたいです」
今すぐエッチしたい――大好きな人の手を取って、言った。
――。
皺になっても困るし、もうやることやってしまうと決めたので、服を脱いでいると。
「せっかく送り出したミリちゃんが、イケメン彼氏ックスにドハマリせずに戻ってくるなんて」
「何ですかそれ」
レシヒトさんはときどき本当に意味の分からないことを言い出すから困る。そんなことより、今は早く触って欲しい。私はどうやら、この人の指のせいで本当にエッチな体にされてしまったらしいんだから。
それをしっかり味わいたいし、ちゃんと最後までして欲しいし、それはこの人じゃなきゃ嫌だと思う。
「ううん。それじゃ、『練習』のおさらいからしようか。まずはここ、寝てくれる?」
「はい」
脱いだ服をきれいに畳――まずにベッドの下に放り投げて、言われるままごろんと横になる。
「ミリちゃんはあんまり覚えていないだろうけど……君の子宮、この中にある――赤ちゃんのできる部屋。そこを、とても気持ちよくなるようにしてあげたんだよね」
さすさす、撫でられる。おへその下だ。これだけでももう、ちょっと気持ちいい。
「あ、ふっ……♥」
「この中に、僕の声が……[この低い声が]……[ずぅん]、と響く」
「ぉ!? お、っぉ♥」
言いながら、手でも優しく押されている。何だかよく分からない感覚。ずくんと疼くような快感、汗が噴き出るような昂奮、腹を押し潰されていることへの恐怖もあると思う。
とにかく、全部じんわり――気持ちいい。
「目覚めさせてあげるね……[ほら]、お腹の奥が、揺さ振られる。[ほら]、[ほら]、[ずぅん]と響く」
「ぉ、お゛♥ おほぉぉぉ……♥」
急に快感が強く、大きくなった。そう、大きいんだ。そして重くて、深い。だからすぐには気持ちいいと感じない……でも、気付いたら足がぶるぶる震え、目をぱちぱちさせながら、下品な声が止まらないわけです。
「こっ、これ♥ これぇ♥ や、や、ほんとに、こんなのしたんですか……っ♥」
「そう……ゾクゾクする、気持ちいい、とっても深い快感。[ほら]、[ほぉら]」
「ぉほぉぉぉぅ♥ ぉ、あ゛♥ あ、あ゛ー♥」
イって、る。私は、腹を押されながら、耳元で重たく囁かれるだけで、何もわからないまま絶頂に震えた。
こんなのされてたとか、聞いてないし――こんなの、好きになるに決まってます。
――。
「あ、ひ……えへ、えへ、えへへへ♥ すき♥ これしゅき♥」
膝が、カクカク笑っています。せっかく綺麗にセットしたはずのベッドシーツも、べちょべちょ。
私は結局まんまと、レシヒトさんが昨日私の身体に施したという、『練習』の一部始終を再体験させられてしまったわけです。なんでですかね。マジで意味がわからない。私が記憶トばしてるせいですか?
おかげでもう嫌と言うほど気持ちよくされ……おまんこは、自分でもわかるくらいひくひくと――なんなら、ぱくぱく、みたいに言った方がいいくらいに、欲しい、欲しいと訴えてきます。レシヒトさんの指が抜けるとき、本当に寂しくて、ぴっちり縋り付いてしまったくらいに。
「とまあ、これくらいやっておけば……彼氏くんともうまく行くと思ってたんだけど」
「やりしゅぎ……ですよぉ……♥」
こんなに蕩かされたら、どんな男性のものでも……絶対、気持ちよく、なってしまうわけで。
そんな無防備で危険なおまんこを、他の男性に差し出すなんて……レシヒトさんは、本当に何を考えているのかわからない。
私が、このトロトロまんこをアルスさんに曝け出して、本当に彼とのエッチに『ドハマリ』してきたらどうするつもりだったんだろう。
「気持ちよくなるのに、やりすぎなんてないよ。自分は、気持ちよくしてあげる相手には遠慮しないようにしてる」
「うう……絶対、間違ってますよぉ……♥」
だってこんなの、気持ちよすぎる。誰彼構わずこんなことをした日には、みんなレシヒトさんが大好きになっちゃうじゃないか。リルちゃんと私と、他にもまだ増えるとちょっと困ります。
「そう?」
とか言って、彼はまた私の乳首を触ってきた。――くりゅ。
「ぉおぉぉぉぉおぉっ!? ぉ、おほぉ♥」
それだけで、私は腰を暴れさせて、またイってしまうわけでして――。
「ほら、子宮イきを覚えると、乳首で簡単にイけるでしょ。お腹に力入れると、[ほら]」
「ぉご♥ ああ゛あぁあああぁアアアぁぁ……、んぅ♥」
すごく、気持ちよくて……何度も、何度でも、彼のことを、好きになっていく。
だってそう。私は今、リルちゃんみたいなんだから。気持ちいい人のことは、大好きで――最高、なんですよ。
「じゃ、この調子でもう一回……子宮口、捏ねてあげようね」
「むり♥ むりです、むり、むりですってばぁ♥ やあぁああ♥」
とは言っていても、そこを押されると――。
「ぉっお゛♥ ぉふ♥ おっほぉぉぉ……♥」
――すぐに、こう……なってしまうのが――ミリセンティア・ディッシェという、生き物なのでした。
◆夜 その2
「りぇしひとしゃぁん……♥」
「なーに?」
乳首をこねこね苛められながら、とろんとろんの声でどうにか意思表示をする。でも彼は返事をしながら、『きゅむッ』と強めに乳首を摘んできた。頭がおかしいのでは。
「ぉお? ぉおおおぉぉ♥ イッぐっ……♥」
当然、そんなことをされたら会話が成立しないわけですよ。
「……うう……」
「少し休ませてあげる」
さすさす、お腹を撫でられていますね。賢い私は気付いていますよ、これは休ませる気なんてないということに。
「んぁ……♥」
とろん……と心地よくなりつつ、お腹からじわーっと広がる快感。ほら見ろ、指を3本揃えて少し圧してる。催眠で蕩けた頭と身体でそれをされると、女は幸せになってしまうんだぞ。
「気持ちいいねー……穏やかなのに、イってるみたいに、気持ちよくなる……力を抜いて、全部投げ出したまま……すごい快楽が、押し寄せるよ……ほらっ」
くに。く、く。くい。
「――ぉひゅ♥ ひ♥ ひィっ♥」
軽く押し込まれるだけで、全身の毛穴が開き、ぶわあっと快感の煙が噴き出す。脱力しきった身体で、目だけ見開いて、あちこちぷるぷる震えている。馬鹿だ、これは馬鹿です。気持ちよすぎる。こんなの好きになります。
「ちゃあんと気持ちよくなれたね……いい子、いい子……」
「ぉ、おぉお……♥」
いい子って言われました。わたしわるいこなのに。ほんとうにわるいこなのに――。
「――ミリちゃん。『練習』のことは思い出したかな」
「おもい……だひ、ましたあ……♥」
「いい子だ」
あ。頭、撫でてくれるんだ……髪の毛、さわさわ、気持ちいい……。
「れしひとさんんぅ♥ ゃあ、やあぁあ♥」
「甘えちゃおうね……気持ちいいからね……」
「だめ……ミリちゃんはですね、えっちするんですよお……♥ するもん♥」
そのために、来たんですもん。してくれなきゃ嫌なのでした。
「するかい?」
「してください……」
それともやっぱり、この人は――私たちに、本当は興味なんてなかったりするんじゃないですか?
そんなことを、私は、ずうっと心配していたんです。だって、全然手を出してこないじゃないですか。
催眠掛けながら、毎回股間は膨らませているくせに。知ってるんですよ?
「……そうだね。これ以上引き延ばすのも卑怯か」
「そうですよ……」
私は、ずうーっと前から、して欲しかったのに。今日だって、指でこんなにされて、我慢しているんです。
「ごめんね、じゃあ……しよう」
そう言って、レシヒトさんも裸になっていったのです。何だかいつもより小さく見えるような、自信なさげな所作で。
「えへへ♥」
何だか嬉しくなっちゃって、私はそれを眺めていたのでした。レシヒトさんの裸、初めてだなあって。
「正直、身体に自信は全くないけど」
「いいんですよ……はぁ、ん、はあ……気持ちよければぁ、なんでもいいです……」
はあはあと自分の息の音が耳まで届いて気付きましたが、私めちゃくちゃ昂奮していますねこれは。
レシヒトさんの身体は、あんまり筋肉がなくて、引き締まってもいなくて、なんていうか普通で――でもちゃんと、男の人で。
「あ……」
『そこ』はぴぃんと固く、勃起しているのが一目でわかって、ちょっと嬉しくて。
「なんだよ」
それらはきっと、アルスさんの逞しい身体とは全然違っていて――。
「よかったです」
レシヒトさんも、私達と最後まで、したかったんですね。彼は、何を考えているのかわからないけど――リルちゃんも、私も、彼に、そういう目でちゃんと見られていた。
「何が?」
「あ、えーと。これくらいなら痛くなさそうかな、って」
「そういうこと言っちゃうんだ?????」
私は、きっとこういうのが良かったんだろうと。こんな風に、リルちゃんやレシヒトさんと、笑い合って、心から楽しく触れ合って……催眠かけてもらったり、エッチしたりする。きっとそういうのが良くって――アルスさんとは、そういうのできないんですよね。
「なんだか感慨深いですね。初めてするわけでもないのに、初めてよりドキドキしてます」
「そう? ちょっと嬉しいな」
「長いようで、短かったです」
こうなるまで。レシヒトさんと――エッチが全てじゃないってわかってますけど――結ばれる、まで。
「ふむ。というと」
「あ、レシヒトさんの『それ』の話ではないですよ」
「うるさいぞ?????」
つい。
「しょうがないんですよ、今の私はリルちゃんみたいなので」
「そういう悪い子には――」
「え?」
す、と目の前に掌が翳されて――。
「――お仕置きしないといけないよね」
「ぁ……」
――かくん、と世界が傾いた。
――。
「――君は、リルさんのようになっているから……欲望に、とっても、素直になっていますね……」
「ん……」
「だから……さっき可愛がられた子宮が、ずくん、ずくん、疼いているのにも……とても、素直です……貴方は、子宮をどっぷり甘やかされて……すっかり、発情……して、しまった」
「う、ぁ……お、おぉ……♥」
ずくん、ずくん。そわそわ、ぞくぞく。ドロドロになったおまんこが、また――いえ、ずっと、欲しがっている。何を――。
「一番気持ちいい相手を、欲しがっていた貴方は……ほら、待ち望んだセックスを前にして、もう我慢ができなくなっている……心の底から、欲しくて、欲しくて、たまらなくなってしまっていますね……ほらっ」
「ぉ、おぉぉ……あ、あ、あ、あ、あはぁ……♥」
欲しい。したい、したい、したい、したい、エッチしたい、この、この熱いとこ、奥までくつくつ煮えたここ。おまんこ、私の、一番エッチなところに、レシヒトさんの――あ、あ、あ、あ――。
一瞬で思考がトんで、私の意識は塗り潰されました。情欲、劣情、愛欲、その上にほら、べた、べた、塗られて、何重にも、欲、欲、欲、欲――!
「したいですね、すぐしたい、気が狂いそう。欲しい、交尾したい。セックスのことしか考えられない。ドロドロの穴を埋めて欲しい。奥まで掻き回して欲しい、ほら、ほら、ほら……君は――ミリちゃんは、発情している。目の前の男とまぐわうことしか、君は考えることができない……ほらっ!」
「ひ――っ♥」
とんっ、と腹を叩かれて――びくん。
私は、迷わず彼に飛び掛かっていました。
「するっ、する、する、えっち、えっちしよ? しよ、ここ、ここ使って、ここぉ♥」
「ミリちゃんは悪い子だねえ」
「ずるいっ♥ こんなのむりで、むりだから、したい、したくなっちゃて、あう、ずるいぃ……♥」
「ほら、してあげるからそこに――四つん這いになろうか」
四つん這い、動物みたいに。いい、それすき。ぜったいすきです。私それがいいです。それ。
「なる、なります、なりますね、ほら、ほらほら、どうぶつ、どうぶつです♥」
はっはっ、はっはっ、息が荒くなる。尻尾を振るみたいに、お尻をくいくいして、『きてきてっ』て誘ってしまいます。
これすき。これ気持ちいい、これ、これ、このままここに――。
「いい子だね。ほら」
「――あ」
――ここに――。
ずりゅ……。
き、た――っ、あ。
「あ゛♥ あっあ、あ、あは……っ、ぉ、おぉぉぉぉぉおおぉ……♥」
ぐい、と腰を引き寄せられて……奥まで、ずぶりと、入ってきたのでした。
「うお……すっごい、ぬるぬるだこれ」
「あ♥ だ、だぁってえ、これ、これきもち、きもちぃっ♥」
奥に、ぴと、と当たると……ぞぞぞぞぞぞ、とてつもない、波。快美。頭の中チカチカするほどの、真っ白なものが、全身を包んでしまいます。
「このまま当てておくのが好き?」
「ひゅ、き……♥ あ、ああ、あ、あ、あ、あー……♥」
これだけで、イっています。ずっと、気持ちいいままで。もちろん、エッチでこんな風になっているのは初めてで――こうしている1秒ごとに、胸の奥から、すき、すき、すき、すきって、ずっと、ずっと、湧き出ているわけで……。
「あはぁああぁ……すき、すきっすきっ♥ れしひとしゃんしゅきです……♥」
「嬉しいよ、ほら、いい子いい子」
「お♥ おおぉぉおぉ……♥」
撫でられたりすると……いい子の私は、くにゃくにゃにイき崩れてしまうのです。
「よいしょ……ほら、続けるからね」
彼は、私のお尻を掴んで、突き上げるように腰を動かします。これ、ずるくないですか?
「おぉ゛♥ ぉ、ぉあ、あっ、あ、あー♥」
私のお尻ごと、持ち上げて……にゅる。下に、ばつんって、落とされて――ぢゅぶ。
そんな、体重、乗せちゃ、駄目なんですけど。こんなのは絶対、駄目で……。
「ああ……すっごい、気持ちいい、っん」
「あー、あ、あ、だめ、だぁめですよ♥ こんな、あっ、あー……♥」
玩具みたいに、腰全体をゆっさゆっさ、揺すられて、私も、なんか合わせて勝手に動いているみたいで。私はこういう、気持ちよすぎるのは、知らないので――。
腰が揺すられるたびに、奥にごつっ、ごつって、閊(つか)えていて、そこはさっき散々――『練習』させられた、ところ。
「イひゅ、ぅうあ♥ イ、っって、ええぇえぇ、えへ、えへへ、えへへへえ♥」
「ミリちゃんは、ご機嫌だねぇ……んっ、はぁ……あー……気持ち、いい……」
いつイくとか、そういうのって、催眠えっちには、ないんですね。
だって、最初からずっと……イってないこと、ないです。ずっと、ずっとこれで――。
――。
――そして、そのままずっと、イっているのでした。
「お、おぉぉ……♥ えひ、えひひ、いひひひ♥ イ、ぴゃ、あひ、あ、あー♥」
私は完全に壊れてしまって。この声も多分口じゃなくって、鼻とか頭とかから出ていると思うんです。
「あ、これ、続けるよ、これ好きだ……」
「しゅき、しゅきしゅきっ♥ すきっ、すきすき、すきぃ……♥」
ぱつっ、ぱつっ。肉がぶつかる音。私のお尻が、何度も落とされては弾けている音。私の頭の中が、ぐちゃぐちゃに潰されている音です。
「すき? 僕のこと好き?」
「すきっ! しゅきなの♥ きもちいい♥ すきぃ♥」
「そうか……ん、いい、よ。それじゃあ――」
あえ? 頭の後ろを、掌で押さえつけられて――。
ぐい。
「お゛♥」
――真っ暗に、なりました。
「この声は……深い、深いところに染み込む。君の中に、直接届いていく……だから、気持ちよく、聞くことができる」
「ぉぁ……ぅ」
「だから……深いところに、入り込んだ暗示を……引き抜いて、あげましょう」
あん、じ……なん、でしたっけ……?
「この暗示は……心の奥の、気持ちいいところに……刺さって、いるから……抜いちゃうと、とっても、気持ちよく……なって、しまいますね……」
「あ……ぁう……」
「これが……抜けたら、貴方は激しく、イってしまう……その衝撃で、全部……思い出せる。本当の……本当の貴方に、戻ることが、できますよ……」
ほんとうの……私、は……。
「3つ――3つ数えて、抜いてあげる。ひとつ……手が掛かる。ふたつ……ほら、気持ちいい……みっつ。ほらっ!」
ぐちゅっ。数え終わると、勢いよく腰がぶつかって――。
――全部、思い出したのです。
「あっ、あ、これっこれこれこれです、これ、これぇえええ♥」
「悪い子だ、悪い子。悪い子に、お仕置き、してるんだからなっ」
「はいぃ♥ 私、悪い子だからっ♥ すき、すきなんです、好きになっちゃあぁああ♥」
そのまま、乱暴に、じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ、腰を、ぶつけ合って。溺れて、しまいます。エッチ、しています。していました。レシヒトさんと。
「なん、で、好きなの、さっ」
「らってえぇ♥ きもちっ、きもちいのっ♥ こんなの好き、すき♥ ぜったいすきですっ♥」
シーツを掴んだ手に、力が籠ります。引きちぎるくらいぶるぶる震えます。ずっと、ずっとイってたのに。まだ、まだ気持ちよくなってるんですよ。おかしいじゃないですか。
今までした人の中に、こんな人、いなかったんですよ。なんでですか。
「悪い子だ……あ、うぁ、ほら、もう出るし、ほら……悪い子に、出すから」
「あ♥ あ、あ、あ、あっ、くだしゃい、くださいぃ、すきっすきっ♥ きもちいの、すき、っです♥」
腰が、どんどん速くなって、もうすぐ、きて、しまうのが……分かります。
私は、悪い子なので……ぜったい、やめません。こんな、素敵で、気持ちよくて、悪いこと。絶対、好きですから。
「う、おっ……悪い子、だなぁ……ほら、ううっ……悪い子の――『リルの』、中で、出……っる……っ」
「あ♥ これすきっ、すきっ、すきっ♥ あ、あ、あ、っあ゛♥ ああぁああああ……♥」
「っ、く、あ……出、て……っ」
「あ……はぁ……♥ わたし、だってぇ……すき♥ ……なんです、よぉ……♥」
力がもう、入らなくって――。
「うん……はぁ、はぁ……リル、ごめん……」
撫でてもらう手が、とても、心地よくて……やっぱり、好きで。
「えへ……♥ さい、こぉ……でし、た……♥」
――やっぱり、この人で良かった。と、思うのでした。
◆夜 その0
――ノックの音がした。
「こんばんは」
「あれ?」
大広間でミリちゃんと別れ、何をするでもなく部屋でのんびりしていたところである。
「あの……リルです」
「うん、入ってくれていいよ」
「失礼しますね」
リルは確か、広間で給仕をしていたはずだ。食事は片付いたのかな?
「こんな時間になんだろう。夜這いなら間に合ってるけど」
「ふふ。違いますよ――」
リルはいつもの悪戯っぽい――どこか猫めいた、人懐こく魅力的な――笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「――作戦会議を、しましょう」
――。
「――なるほど、つまり……レシヒトさんは、まんまと、ミリセンティアさんを、アルス様に、献上してしまったと」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん……」
ミリちゃんがお腹で気持ちよくなれるようにたっぷり『練習』して送り出した、という例の話である。
敵に塩を送る、ではないが、あくまでもミリちゃんのために動きたいのだ自分は。催眠で無理やり言うことを聞かせようとするようなクズとは違う。あくまでも善意の協力者として、セックスの悩みを解消してあげようとしたわけだ。
ただちょっと、『その結果ミリちゃんがこっちに転がり落ちてきたら美味しいなあ』という未必の故意があるだけだ。クズじゃない。ないことないか。まあまあクズだなこれ。
「私としては、ですね。……ミリセンティアさんは、レシヒトさんと懇ろになっていただかないと……困るのです」
「なんでさ」
「え、だって……あんまり待たされると、私がレシヒトさんのこと、欲しくなるじゃないですか」
「……」
だめだこの子。何言ってるのかわからん。マジでわからん。
「レシヒトさんだって……どうせ、アルス様に渡すつもりなんて――ない、ですよね?」
「……さあ、どうだろうね」
「さっき、話してくれた――『練習』。あれ、私に、してくれてない、です。すっごく、気持ちよさそうなのに……!」
「まあ……そういうのする相手は、選んだほうがいいかなって」
そんなことしてたら『遊び』じゃ済まなくなりそうだから。……一方で、ミリちゃんには『本気』で自分を好きになって欲しいから。つまりリルの言う通りだった。
「では、そうして……選ばれた、ミリセンティアさんですが……実際、どうするのでしょう。アルス様のことは……?」
「特に考えてないけど。まあゆっくり待とうかなって」
「私が待てないです。それに……アルス様に、恥をかかせるわけにいかない、じゃないですか。そこで……いい考えが、あるんです」
そういえば、前に何か言ってたな。気にしないでヤっちゃえとかどうとか。
「考えって……どうするつもり?」
「ミリセンティアさんが、レシヒトさんのことを……いくら、好きでも。あの人は、自分から別れ話なんて……しにくいはずです」
「そうだよね。自然消滅を待つしかないのかなあ……」
アルスの方からミリちゃんを振ってくれたら、一番丸く収まるんだろうけど……ミリちゃんはどう見ても乗り気じゃないし、そのうち別れるんじゃないかな、なんて。
「いえ……? そんな必要、ないですよ」
「と言うと?」
そう尋ねると、リルはたっぷり溜めを作って――いつもの笑みで、言った。
「――アルス様を落としてしまいましょう」
――は?
「えーっと、どういうことなの」
「ですから……アルス様に、ミリセンティアさんより好きな女性が、出来てしまえばいいわけです。そうすれば、ミリセンティアさんは……捨てられることができます」
「簡単に無茶苦茶言うね君」
え、何。そういう話?
「ミリセンティアさんから、お別れを切り出したら……すごく、角が立ちますよね。でも、アルス様がお別れを切り出す分には……ほら、問題ありません。ミリセンティアさんは、それを受け入れたらいいです」
「いやそれはわかるよ。どうやって?」
「私が、アルス様を……ふふ、誘惑、しようって、思っています」
「やっぱりー!!!」
頭痛くなってきた。リルは前々からおかしい子だったが、どんどん磨きが掛かってないか?
「レシヒトさん、失礼ですよ……私はそんなに魅力がありませんか?」
「いやそういうわけじゃないんだけど、彼だって義理堅い騎士だろう」
「でも私……ミリセンティアさんよりも、彼の好みですよ……絶対。家事できます、殿方を立てて身を引くこともできます……。聞き分けも良くしますし……女らしく振る舞います」
失礼なのは君じゃないかなあ。ミリちゃんにそれらが全部無いって言ってるんじゃないか。無いけど。それがいいんだよ。
「彼、ミリちゃんの良い所全然好きじゃなさそうだしな……」
「そこ、なんですよ……。あんな人のところに、ミリセンティアさんを……置いておくなんて……」
「あの、貴方自分でそこに置かれに行ってるんですが」
「あ。私は……彼、良いと思います。家柄、良いですし。名声も……資産も、素敵です。すごく、守ってくれそうですし……」
あ、駄目だ、この子思ったより強かだったわ。
「ミリセンティアさんは……そんなの、要らないんですよ。あの方は、自分で生きていく、とても賢くて強い方ですから」
「そうだねえ」
「私は、楽ができるなら、したい、です。ミリセンティアさんほど、賢くも強くもないですので……」
「そうだろうねえ」
うーん。困ったな。――提案を蹴る理由が無くなっちゃったぞ。
「なんでしたら……ほら。アルス様に、催眠を……掛けてしまいましょうよ」
「自分、めっちゃ警戒されてるんだけど……どうやって信頼してもらうのさ」
「私が、やりますので……レシヒトさんは教えてくだされば。あと、練習もしたいです」
「アー」
えーと、ここまでで不安要素として一番大きいのは……この異常娘に催眠術を教えて本当にいいのか? というあたりかな。うん、もうこの際しょうがないんじゃないかなそれは。半ば手遅れな気がするし。必要悪として受け入れよう。
「どうでしょうか? 我ながら……いい考えだと、思うのです」
「それはそう。何か裏が?」
「しいて言えば……。条件が3つほど、ある、でしょうか」
来やがった。リル相手は油断ができないからな、しっかり聞き質しておかねばならない。
「まずは聞こうか」
「では1つ目、さっきも言った通りですが、催眠の……掛け方を教えてくだされば。暗示の入れ方はなんとなく見て、少しは覚えてきたんですけども……最初の誘導が、難しい、です」
「それはOK。むしろ覚えてきてるのがおかしいよ、きっと素質がある」
倫理観が無いくせに素質があるから教えたくないんだけどな。とんでもないことをしでかしそうで。人のことは全く言えないけど。
「じゃあ2つ目なんですけど……約束、して欲しいです」
「ん、何を?」
「私がアルス様を落とすのに成功したら……ミリセンティアさんを、必ず、レシヒトさんの伴侶にしてください」
それは……そもそも、それが目的だ。何も問題はない。
「もちろん、言われるまでもない。ミリちゃん次第ではあるけど……」
「それは大丈夫です。あの人はレシヒトさん大好きですから」
「えー本当?」
「それはもう。あ、でも……まだ、足りないですよ? もっともっと虐めてあげてくれないと……」
ずっと思ってたけど、この従者やっぱり首にした方がいいんじゃないか?
「そういうもんなの?」
「ミリセンティアさんは……酷い仕打ちをされればされるほど歓ぶ、とても可愛らしい方ですので」
「すげえ断言来たなこれ」
「ともかくそれが2つ目です。3つ目の話を……しても、いいですか?」
「うん、酷い仕打ちについては善処しよう」
そう答えると、彼女――リルは、『では』と前置きして――靴を脱ぎ、ベッドに……横たわった。
そして――。
「なに?」
「3つ目です。私と――エッチしてください。今」
――そんなことを、言い出すのだった。
――。
「あのさあ。何でそうなる?」
「だって……考えてみてくださいよ。私が、アルス様と。レシヒトさんが、ミリセンティアさんと、それぞれ……結ばれると、するじゃないですか」
うん。話がうまく進めば、そういうことになるのかな。
「そうしたら……いったい誰が、私に、催眠エッチをしてくれるんでしょうか」
「……は?」
「あんなに気持ちいいこと、しておいて……そのまま、なんて。私は、絶対……嫌なのですよ」
「さいで……」
思ったより胡乱な話だなこれ?
「だって……あんなに、気持ちいいのに……あのまま、シたら、絶対……気持ち、いいですよね? 知ってる、ん……でしょう。どうして……して、くれないんですか……」
「そ、それはまあ。だって、ミリちゃんのこと、狙ってるからさ……」
「知ってますよ……でも、まだ、何も問題ない……でしょう。何も心配しないで、エッチ、できるの……今だけ、ですよね?」
……どうだろうかな。結構心配なんだけど。
「ここで、してもらえなかったら……私、催眠かけてもらいながら、エッチすること……もう、ないかもしれないんですよ? 絶対、嫌ですからね、そんなの……!」
「アー」
アーになってしまう。まあ、何かで無いとも限らないが……あんまり、なさそうだよな、確かに。
「そこまで言われたら……まあ、してあげないと、申し訳が立たないけど……」
「大体ですよ。今、ミリセンティアさんは……アルス様と、まぐわっているんですよね?」
「まぐわう言うな」
「まぐわってるじゃないですか。なのに、私たちがしちゃ駄目って……おかしくないですか……?」
うん、まあ……仰りたいところはわかりますけどね?
「とはいえ、子供ができたりしても困る」
「それなら、大丈夫です。これ、持って来ました……」
そう言って、リルは薬? 油? 何かその手の壺のようなものを取り出した。
「何これ?」
「ご存じないですか。タピウスの樹液です」
「ご存じないですね」
リルは刷毛のようなものを取り出した。クリームというかオイルというか、なんか粘りの強いものが垂れている。
「あ、そうなんですね……これを、レシヒトさんの、その、おちんちんに、塗ります」
「塗る」
……これを?
「そして、10分程度乾燥させると……乾いて、薄い膜になります。簡単には取れないし、伸縮性があって破れません」
「うすぴたじゃん」
「タピウスの樹液ですが」
そうか、そう言うんだったらそうなんだろうな。もういちいちツッコまないぞ。
「つまり、それを塗っておけば精液が膣内に入らないってことだね」
「はい。男性は少しばかり、気持ちよくなくなるかもしれませんが……」
「うんまあ、いいよ。自分の世界にもよく似たものがあった」
というかあれだろ。これご都合主義ってやつだろ。そうだよなガチャとかあるもんな。
「安心してください、私の膣内は結構評判がいいので」
「そういうのあんまり聞いてないかも」
「そうですか……?」
普通、あんまり聞いても喜ばないと思うよ、男性。
「では塗っていきたいので出してくれますか」
「ええ……腫れたりしない? もげたら嫌だよ?」
「大丈夫ですよ……怖くないですからね、小さくしちゃ駄目ですよ……?」
何?
何なの? このプレイ。
――。
「はぁ、はぁ……いや、くすぐったいってそれ!」
「せっかくなので、そういう風に塗りましたから……」
「なんで!?」
マジで意味がわからないんだよな。
「では乾くまで……私に、催眠をかけてください」
「はあ。本当にするの、これ?」
「しますよ。さもなくばアルス様に告げ口しますよ?」
「あっずりぃ」
困った。どうやら本格的に……自分は今日、リルとセックスをしなくてはならないらしい。
それ自体はちっとも嫌じゃない、むしろリルはめちゃくちゃ可愛い。
だけど、ミリちゃんに申し訳ないというか……。
彼女は今、彼氏であるアルスと一緒にいる。今、この時間までこの塔に帰って来ていない以上、確実に泊まってくるのだろう。『練習』の成果を試していることだろう。上手く行けばいいと、自分としては一応本気で、願っている。
で――だから、自分もリルとセックスしていいんだ――とは、ならない。
だって、そんなことしたら……ミリちゃんは、絶対『許してくれる』。彼女の立場上、文句なんて言えやしないだろうしな。
そう。あの子が本当は、本当に、嫌だったとしても――二つ返事で許してくれるだろう。
「……ミリちゃんのこと、考えると、やっぱり」
「レシヒトさん」
「は、はい」
「ミリセンティアさんのことを考えてくれるのは、とてもとても嬉しいんです。ですけど……」
タピウスの壺を片付け終えて、ベッドに戻ったリルが、続けて言うには。
「その、ほんの……ほんの1割で構いません。私のことも、考えて……くれません、か――」
――。
泣いてた。
いや、自分が泣かせたんだけど。
「そういうわけで、私は……御主人様のものに手を付ける、泥棒猫なんですよ」
「一応、まだフリーではあるけど」
「だから、お願いなんです……催眠、掛けてください」
また、泣き出しそうな素振りがあったけど――彼女は、リルは、気丈に堪えた。
「エッチなやつ、して欲しくなった?」
「はい。めちゃくちゃにして欲しいんです。私が、私じゃなくなってしまって……私は、悪い子だ、って……思わなくて、いいくらいに」
――これだもんな。
「どうして」
「だって……私のまま、エッチしたら……きっと、好きになっちゃいますよ。レシヒトさんのこと。そうしたら、本当に……泥棒猫に、なってしまいます」
つまり、こう。
リルは、ミリちゃんと僕をくっつけたがっていて……自分は、そのためにアルスを落として、身を落ちつけようと、している。身を引こうと……している。
――いじらしい、と言っていいんだろうか、こういうのは。
「わかった。セックスはする。催眠も、かける。リルさんを――リルじゃない、別のものにする」
「よかった……」
「ただし、好きになるのは構わない。好きになってもいいように、好きになってもらえるように、するよ」
「え……?」
リルが、僕のことを好きになることに、抵抗があるのであれば。
僕のことを大好きになっても、リルが許せる人物に、なってもらえばいいわけだ。
いいね。それで行こうか。一つだけ――方法が、あるから。
「さあ……リル、深い……催眠状態になる。僕の声は、君の……心に直接、触れることができるよ……」
「ぁ……♥」
仕方ない。リルの意識が、完全に落ちきるまで、どっぷり……掛けてあげることにしよう。
――彼女の希望を叶えるには、完全に「別人」になってもらう必要があるみたいだから。
◆夜のあと
「ひぐ、……っぐす、うぇ、うえぇえええっ」
私は、泣きじゃくっていたのです。
――。
「――落ち着いた?」
「……はい。……お水、ありがとうございます」
水差しの水を飲み、人心地つくと……改めて、実感がやってきました。
「しちゃったなあ」
「……しちゃい、ましたね」
レシヒトさんはもう、服を着ています。私は、まだ裸ですが……彼の毛布を借りて横になっていますね。
行為の残滓、その象徴になるものといえば……タピウスの膜に包まれて、すでに屑入れに捨てられています。
「あれ。そういえば……着けて、ましたね」
「あ、うん。『ミリちゃん』には見えないようにしておいた。最初から準備万端で着けてたら、変だろうし」
「確かに、そうです」
では、おそらくは心配ないのでしょう。……正直、実は着けていなくて――その結果、起こるべきことが起こってしまうことを、私はどこかで、望んでいるのだと思います。ですが、それは良くないことですので。
「それでなんだけど……リルさん、ごめん」
「……謝るくらいなら、どうしてあんなことをしたんですか」
これは、きっとあのときのことです。
せっかく。せっかく、私は、ミリセンティアさんになっていたのに。せっかく、何も考えずに――大好きに、なっていたのに。
「どうして、戻してしまったんですか――?」
リルは、レシヒトさんのことを好きになってはいけません。だって彼には、私ではなくてミリセンティアさんの傍に居て欲しいんですから。できたら隔日くらいで貸して欲しいですけど。いや無理ですよね、じゃあ週3……いえ週2でも……無理かな……。
とにかく、ミリセンティアさんは彼を好きになってもいいですが、私は駄目なんです。
――私が、この人とエッチするのは、良くないこと。
そういえば、ミリセンティアさんもこう思っているわけですよね。私だって思っているのに。なんだか、おかしな話だと思います。
「……最初は、戻すつもりはなかったんだよね。最後まで、安心できるように――ミリちゃんでいてもらおうと思ってた」
「だったら、どうして戻しちゃったんですか……私が、主人の男に手を付ける、泥棒猫になってしまうじゃないですか」
「言い得て妙なやつがきたな」
ミリセンティアさんのままだったら、頭空っぽにして、『すきすき♥』でいられたのに。最後の最後で、リルが漏れてしまいました。しかも――。
――私だって、好きなんですよ。
言った、気がしますね。確かに言いましたね。
「あれじゃ、完全に……つまみ食いする悪い女じゃないですか」
「それは最初からそうだったから、夜這いに来た時点で諦めようね」
「それはそうなんですけど!!」
ミリセンティアさんになっていた私は、レシヒトさんのことをいっぱい好きになっていました。だって、私と違って――ミリセンティアさんは、彼を好きになってもいいんですから。
ミリセンティアさんには、アルス様がいましたが――私は、それを振り払った、わるいミリセンティアさんになっていたんです。何にも気にしないで、好きになっていられたんです。
「だって……その前のあれ、リルの気持ちだったでしょ」
「あう……」
――僕のこと好き?
そう聞かれたとき、私はミリセンティアさんとして答えました。ですが……本当に、そうだったでしょうか。
……というか、私に決まってるんですよ。あれはミリセンティアさんになっていても、やっぱり私なんですから。よく考えたら、レシヒトさんわざわざ、『リルちゃんみたいになる』とか言ってましたよね?
「だったらやっぱり……最後まで『ミリちゃん』だったら、リルさんは納得しないだろ」
「私は……納得できると思ってたんですよ?」
でも、駄目だったのかもしれません。
「ほら、『リルちゃんみたいに悪い子でもいい』って言ったでしょ」
「それですよ! 私そんなに自由に見えました!? 悪い子じゃないですよ……」
これが、この人のずるいところだと思うんです。ばっちばちに催眠掛かってるときに、そういう、大事なことを言いますかね。『リルみたいでいい』『悪い子でいい』って、なんでリルのときに言ってくれないのでしょうか。本当に質(たち)が悪いです。
「まあ自分としては、ミリちゃんにもリルにも好かれたいから。だから、悪い子でいいと思うよ? なにせ僕も悪い催眠術師だからね」
「うわぁ」
「あっ、そこで引く? リルは共犯だと思ってたんだけど」
「……それは、そうですね」
本当に、ずるいのです。私が、悪い人が大好きなのを知っているんですから。
「私は……今日の気持ち、ミリセンティアさんには黙っています」
「それがいい。まあ、許してくれるだろうとは思うけど……」
ミリセンティアさんは確かに、許してしまいそうです。なんだかもう、何でも。だから困るんですよね。
「許してくれなかったらどうします?」
「そりゃ、催眠かけてどうにかするよ」
「悪い催眠術師ですねえ」
「それはまあ、お陰様、お互い様で」
私も、彼も、それから多分ミリセンティアさんも、みんな何から何まで、正しくないことをしています。
それは、だめなことなのだろうとは思いますけど――。
「だからさ。ミリちゃんのことだけでなく、リル自身のことも考えてあげなよ……ほんの1割でも、さ」
「やっぱり……ずるい、ですね」
――やっぱり、この人で良かったです。
――。
「ミリちゃん、上手く行ってるといいなあ」
「私は、上手く行かないで欲しいですけど」
後始末をしつつ、そんな話をしていました。
「だって、せっかくの『練習』だ。ちゃんと役立ててくれなきゃ、僕が単にミリちゃんを気持ちよくさせて寝取ろうとしている間男になっちゃうだろ」
「それは最初からそうでしたから、催眠をかけた時点で諦めましょうね」
「あれ? それはそうなんだけどずるくない?」
やはり、こういうのは良いものです。とても楽しいと思います。
「そういえばその『練習』ですけど、あんなこと……本当にミリセンティアさんにも?」
「うん。リルはミリちゃんになってたけど、実際にあれをされたことは無いわけじゃん。だから、おさらいと称して同じことをしたんだ。本当は何日も続けた方がいいんだけど、催眠掛かってれば充分でしょ」
「うわあ……じゃあ、本物のミリセンティアさんも、あんな風になってたんですね」
見たい。超見たいです。どこで見られますか?
「いや、本人の方がすごかったと思うよ。じっくりやったから」
「わああぁああ♥」
なんて夢の広がる話でしょうか。私はこの人を尊敬します。
「まあ、実際に役立つかはアルス君次第だよ。元よりはマシだろうけども」
「そうなりますよねえ」
片付けも粗方済んだところで。
「そろそろ寝るよ」
「あ、待ってください。この部屋は今日は駄目です」
「なんで?」
「私のいろいろな液とか匂いとか染み付いているわけですよ……? デリカシーとかないんですか」
当然みたいに言います。こういうのは言ったもの勝ちです。
「はあ。じゃあ替えはある?」
「無理ですよ、こんな時間に」
「じゃあ別の部屋……?」
ふふふ。私の完璧な計画です。
「はい。私の寝泊まりしている使用人室が空いています。二人くらいなら寝られますよ」
「それは空いてるって言わないんだよ」
「じゃあどうするんですか!?」
「ここの床で寝るよもう」
困りました。案外強情です。素直になっていただきたいものです。
「うう……そんなに、私と添い寝……嫌ですか?」
「ミリちゃんへの義理立てはどこ行っちゃったんだよ」
「添い寝はセーフだと思います」
「ガバガバジャッジじゃん」
「仕方ありませんので……元通り、この部屋で手を打ちましょう。パジャマ取ってきますね」
「リルは下で寝るんだよ」
「あれ?」
「悪い子でいいとは言ったけど、都合よくアホになるのはやめてね」
うやむやのうちに潜り込む、完璧な作戦だと思ったのですが、なかなかうまくはいかないようでした。
「では仕方ありません。私の残り香を……めいっぱい、意識して寝てください。おなにーも、我慢しなくていいですよ」
「しないよ。疲れたしすぐ寝ちゃうよ。第一さっき出すもん出したっての」
なかなか強情です。では……。
「じゃあ、代わりに私にもレシヒトさんの匂いがするものをください」
「なんでだよ!?」
「それ言わせるつもりなんですか!? 本当にデリカシーがないんですね……あ、部屋の屑入れ、中身捨てておくので預かりますね」
「絶対だめだぞ。この流れで『それ』を渡すわけないだろ!」
「ちっ」
「舌打ち!?」
――。
そんな言い合いの後、私は仕方なく引き下がりました。でも大丈夫、使用人室には今日預かった洗濯物がありますからね。私に抜かりはないのです。
「それじゃあ、例の件。とりあえず明日、催眠の練習から始める?」
「はい、お願いします。必ずそれでアルスさんを……あっ」
ふ、と気付いてしまいました。もしかしてこれって。いえ、もしかしなくても――。
「あっ?」
「気付いちゃったんですが……私これ、またしても『主人の男に手を付ける泥棒猫』になりますか……?」
「アー」
――やっぱりリルは、どうあっても悪い子のようでした。
――。
組み敷く女体は、あまりにも小さく華奢で、簡単に壊れてしまいそうに思う。
だからこそ――自分は……男として、最大限優しくあらねば。
「……っふ、あ、あっ、んぅっ」
夜の闇には心細い月明かりが、滑らかで柔らかい肌を照らしている。慎み深く恥じらいがちな彼女は、明るい場所で肌を晒すことを好んでいない。少し残念ではあるが、愛(う)いこと、好ましいことであるとも思う。
「ミリセンティア……ああ、君は、可憐な女性だ……!」
グッ、グッっと腰を突き入れると、彼女は抑え殺せない声を上げ始めた。彼女のこういう声は、本当に可愛らしいと思う。抜けるように高い、澄んだ声だ。
「アルスさん……」
「大丈夫かい? 痛くはない?」
「あ、はい……んっ、大丈夫、です」
普段、あまり女性らしさを表に出さない彼女も、僕の腕の中ではこうして……女らしくなるのだ。その事実が、僕を興奮させていた。
「そうか……すまないね、出征の間、ずいぶん想いが溜まっていたから……少し、余裕が無かったのかも、なっ」
「うんっ、私……あー……うん、大丈夫、です、から……!」
ミリセンティアは気丈な女性だ。しかし、彼女がそのような振る舞いを強いられているのは、今まで佳き庇護者に巡り合って来なかったからだろう。
「我慢せずに……無理だったら言うんだよ。僕はいつでもやめられるからね」
「は、い……うぅ……」
彼女は西部の田舎の出だと言う。淑女(レディ)としての嗜み、教養だって充分に身につけられてはいない。そんな彼女が王宮に出入りするようになるまで上り詰めたというのは、本当に奇跡的なことだ。ならば、自分の役割は――彼女をあらゆる危難から守る、正しく強い騎士であること。
そのようなことを考えていると、不意に……腰がズッ、と前へ出た。彼女に体重が掛かり、押し潰すような格好になる。
「ぉあッ♥」
「お……っ、と、済まない。大丈夫かい。苦しかったろう……」
「……だいじょうぶ、です……」
どうやら自分の一物は相当に大きいらしく、小柄な彼女の負担となっている。以前などは、それを気に病んだ彼女から潤滑剤を使う提案があったが……そのような娼婦の道具は当然断った。それほどまでに思い詰めさせる原因となっていることには心が痛むが、彼女の品位を貶めるようなことはできない。
「久しぶり、だからな……こうして、挿入できたことにも、少し驚いてるよ……」
「えへへ……」
そう。痛がるものだから、出征に出る前からしばらく挿入行為は出来ていなかったのだ。手や口でしてもらってはいるが、射精まで至ることは稀だった。
今日は――恐らく出征帰りで滾っている僕を気遣ってだろう――、彼女の方から、今日は大丈夫そうだと言ってくれたのだ。そして実際に、こうして行為に及ぶことができている。
「よし、続けてもいいかな」
「あ、はい……ちゃんと、着いてますか?」
彼女が言っているのは、タピウスの薄膜。避妊の為に用いられる樹液を使った薬剤だ。僕はこんなもの、無い方がいい……そもそも、避妊をする必要性がわからない。彼女は早く、僕の子を身籠り、育ててくれたらいい……。
だが、ミリセンティアは必ず、これを使用するよう求めるのだった。だから今夜も、渋々だが――ちゃんと、使用している。
「大丈夫だ。外れていない」
「ごめんなさい……」
心が痛む。彼女に、謝らせてしまった。不安にさせている自分に対し、恥じ入るばかりだ。女性一人守れずに何が騎士だ。
「……こちらこそ、心配させてすまないね。では、続けるよ……ふっ、ん」
「あっ、ん、ん、ん、あっ、ぉ、っあっ」
奥へ押し込むと、彼女の声質が変わった。余裕のないような声。そういえば、奥は気持ち悪くなるから嫌だと言っていたが……。
「気分は悪くないか?」
「あ、大丈夫……です。奥、して……ほしい、です」
「なんだって? ……あ、ああ、わかった」
ズブ、ズチュ、始めは恐る恐る……そして徐々にリズムに乗り、腰を使うと……奥に当たるたび、ミリセンティアは――聞いたことのない声で、鳴き始めた。
「あ♥ これ、これですっ、そこ、そこっ、あっあ、あああぁあぁ……♥」
甘い叫び声とともに、感極まるように体を震わせ……絶頂している? 彼女が? 僕とのセックスで?
「……なん、だ? その声、っ、く、これ、は……」
腰を動かすと、ぬめる粘膜がペニスを包み込み、うねるように迎え入れてくる。タピウスの薄膜越しでも分かる、腰が蕩けるような淫蕩な感触。どういうことだ? これは本当に彼女なのか?
「あっ、きもち、い……きもちいい、です……も、っと」
「あ、ああ……くそ、お、ぉおっ、っく、出す、出すよ……」
「あう、ん……イ、って、ください……! っくふぅ……」
ぶるるっ、と震えがきて……。
「ぉ、あ……くぅぅ……」
彼女が苦しい思いをしないよう、体勢に注意して……挿入したまま、精を放った。
そして。
「はふ……ぅぅん……」
うっとりと……行為の余韻に浸っているようにも見えるミリセンティア――。
彼女が、どこか遠く――ここではない場所を見ているような気がしたのは、気のせいだろうか。
――。
互いに息を整える程度の時間が経ち。
振り返ると……ミリセンティアの様子のおかしさが気に掛かった。
「……はあ、はあ。どうしたんだい? 今日は……」
「えへ……うまく、できましたか……?」
そんなことを……こうして媚びるように聞いてくるのも、初めてだ。今日は驚くことばかりだ。どういうことだ? まるで別人だった。淫婦……とまでは言わないが、普段の慎ましさとは大違いだった。
「ああ……その、なんだ。君が……あんな風に大きな声を出す女性だとは、思わなかったな」
「あう」
「今まで聞いたことのない声だった」
「ごめんなさい……」
何故謝るのだろう。彼女はときどきよく分からない。よく聞くとおり、女性とは、そういう理解の及ばないものなのだろうか。
「久しぶりだから、なのかな」
「そ、そうです」
そう言いながら、ミリセンティアは顔を伏せた。単に、恥ずかしがっているのだろうか。
「僕も久しぶりで、とても昂揚したよ。最後までできたのはいつぶりだったかな」
「うううう、ごめんなさい……」
まただ。正直、時々イライラするのは事実。しかしこのようなことで腹を立ててはいけないと自分を律している。
「あ、あの。それなんですけど。大丈夫でしたか、赤ちゃんできたり……」
「ああ、大丈夫だよ……しかし、できてしまったら困るものだろうか?」
薄膜越しに包まれた『それ』を処分して、僕は思わず聞いてしまう。
「……うう、ごめんなさい」
「いいんだよ」
彼女はいつも、宮廷魔術師としての業務に差し支えるから――と、言う。しかし、彼女がそんな仕事をする必要があるのか。宮廷魔術師……アウレイラ・トレグレンと戦線を共にすることは何度かあったが、その度に恐怖にも似た薄ら寒い感覚を覚えたものだ。
――あんなものが人であるものか。
「でも……」
「ミリセンティア」
「っはい」
「君は本当に、魔術師を続けるつもりなのかい」
いや、これは卑怯だな。僕は……彼女をあんな、あんな――殺戮の化身にすることを望んでいない。
彼女の返答如何に関わらず、今の仕事などは出来るだけ早く、辞めてもらわなくてはならない。
「……そうですよ。私の夢ですから」
「それなら、もう十分じゃないか。シレニスタの宮廷魔術師まで登り詰めたんだろう、君は」
正直、彼女の身の心配だけではない。並び立つはずの存在であるアウレイラ女史……あれは明らかに、ミリセンティアとは格が違う。宮廷魔術師にあれだけの能力を求められるとするならば、彼女では確実に落第だ。
「だ、って。まだまだ、ですよ。私はまだ……」
「もう、いいだろう。君がそんな仕事をしなくても、僕の稼ぎでなんとでもなる。前にも言ったけど――」
彼女には才能も足りていないし――覚悟も、足りていないだろう。
人間をやめ、人殺しの道具になる覚悟が。
「――やめて、ください。私、夢、なんです。最強の、魔術師になるの……」
「無理だよ」
「……っ」
ここらで、現実を見た方が、いいだろう。僕らだっていつまでも若いわけじゃないんだ。そろそろ落ち着いて、家庭を持つことを考えていかなきゃいけない。
――いつまでも、彼女の子供じみた『夢』に構っていることはできない。
「事実、戦功だって“西の”とは比べ物にならないじゃないか」
「それは……っ」
「やっとのことで召喚した神盟者は、あの冴えない男なんだろう? いい切りだよ、もう君は――」
「は??? いや待ってください」
ん? 何?
「あの女の話は二億歩譲っていいとしますけど」
「そんなに譲ってくれていたのか……」
「私の夢のことは、私が決めたいんですよ。それと――レシヒトさんのことを何も知らずに見下すのはホントやめてもらえますか」
何だ? 何も分からないが、ミリセンティアがこんなに怒っているのは初めて見た。どういうことだ?
「……やけにあの男の肩を持つじゃないか」
「そりゃ、私は魔術師で、彼は神盟者ですからね。アルスさんは、私と彼のすごさを何にもわかっていないんですよ。だったらそこは黙っててくださいよ」
「しかし……」
啖呵を切ったミリセンティアは、鼻息も荒く、素早く服を着始めた。
「お、おい。帰るつもりなのかい?」
「いえ。流石に今日はもう塔に戻れないですから、泊めてくださいね」
「う、うん」
「私あっちで寝ますので」
言い終わるなり、隣の部屋へ行ってしまう。そこには長椅子しかないのだが……。
「お、おい。ベッドを使うといい。共寝が嫌だと言うのなら僕がそっちへ……いや、むしろまず話を」
「いいです。今私、あまり冷静じゃないので。自分でもびっくりしてるんですよね」
「……」
取り付く島もない。こんな女性だったか?
分からないが……聞くところによると、女性というのは確かに、こうして何も分からないまま機嫌を損ねることがあるらしい。
そういうときは、どうすれば良いのだろうか。隊の者に聞いてみるか?
……明日まで待って、花でも贈ってみよう。
――そして。
レシヒト・マネカ。あの男は、彼女に何をした?
「……くそっ」
嫌な想像ばかりが、脳裏を掠めるのだ。
――女という奴は、旦那の留守中に間男を連れ込むのが普通だ。
飲み仲間のジェイコブが言っていたか。
――たらし込むには、ヤっちまうのが一番っすよ。勝手に情が移って、転がり込んで来てくれるんでさ。
色男で知られたサイモンだったか。まあ、あいつはもう女に刺されて隊を去ったが……。
「レシヒト……か」
何にしても――これは、確かめる必要があるようだった。
************************************************
※またしても催眠状態になっていた方は、例によってコメントをお願いしますね。
<続く>
本番きたー!!!(違・・・わない?)
今回は気持ちよさ増量で色々エッチでしたでよ。
暗示でどろどろに溶かされるミリちゃんとか、褒められて幼児帰りしたり、気に食わないことでむぅとむくれるミリちゃんが可愛すぎるという。
そして、催眠、らゔらゔの他にもみゃふが好きなジャンルがありまして・・・知られてるかもしれないでぅが、みゃふはホワイトアルバムが好きなのでぅよ(ジャンルじゃねぇ)
とは言っても浮気が好きなのではなくて、浮気したことに対する思考が好きというか、まあ、要は恋愛におけるグダグダ思考と煩悶とする自責とかそういう思考の羅列を読むのが大好きなのでぅ。
だから、三角関係とか四角関係とかそういう展開が好きなのでぅ。
というわけで、今回のリルさんとかものすごく好きなのでぅ。自分から身を引くとかもうね。結局、主人の男に手を付ける泥棒猫なのでぅけどw
アルスさんはめっちゃ男前でいい男なのでぅけれど、考えが男尊女卑なのでぅよね。いや、男は仕事、女は家庭みたいな感じか。そのために自分は頑張るし、ミリちゃんにもそうあって欲しいと想ってる。もちろん宮廷魔術師の人間兵器っぷりにミリちゃんにはそうなってほしくないとも思ってるのもまざってこじらせてるわけでぅが。
ミリちゃんを愛してるとは思うけど、いろいろな場面で察しちゃうミリちゃんが割りを食ってる感じでぅ。アルスさん、悪い人じゃないんでぅけどねぇ。
アウレイラさんはもう。わからせてもらいたいところでぅね。リアルな催眠術では大賢者ミリちゃんの実力を見せて、催眠術をかけさせてもらうところに至るまで難しそうでぅけど。
ユキツナさんやミライさん、20個もらった石で新たに呼び出されるであろう神盟者をどうにかしないと難しそうなのがまた大変なのでぅが。
一応、ここまでの情報で感想を書いてるけど、ノクターンで先を読んでしまってるので感想を書きづらくなってたりもするという(リルさんとかリルさんとかリルさんとかw)
いやー、今回のリルさんはとってもいいのになぁ~・・・泥棒猫でぅがw
というわけでこの先は来週で。(ノクターンでも感想を書けば解決する話)
であ、次回も楽しみにしていますでよ~。
いぇーい!(挨拶)
本当にねぇ……この時もまんまと騙されたなぁ……(またかよ)
トーマスと同じパターンだって気付いた時は「あああー!」って頭抱えましたねえ。本当。
最初に読んだ時に「ん?」と思う違和感が、ちゃんと読み返すとところどころヒントになってるんですよねぇ……
ミリちゃんがアルスの体と比べて「きっと」とかいう訳ないじゃんとか……
本当、ぱ。さんの展開には、催眠に限らず予想を裏切られて期待は裏切られないっていうパターンが多い。
きっと私は『そういうの』が気持ちいいんだろうなぁ。
だから、きっと何度でも騙されます。気持ちいいのが、大好きなので。どんどん騙してください。
>みゃふ様
本番行為、少なすぎるんですよね……!
ホワイトアルバムは良かったなあ……あれは好きでした。
なんでこの作品NTRドラマになってるんでしょうね。わからない。
北方戦線組が絡んでくるようになって話が広がっていきます。意外とちゃんと異世界ファンタジーもしていくのでよろしくお願いしますw
ノクタのほうは、まあ、はい、お気になさらず……。
>ティーカ様
トーマスくん自体が伏線だったんですよねー。「あるぞ」っていう。
今後も思い付きでぶん投げた話が多いと思いますがよろしくお願いしますね。