リアル術師の異世界催眠体験18

◆昇る陽を追って

 

 

 ――。

 

 コンコン。

 

 ノックの音が響く。うう、眠い。起きたくない。だってそうだよ、昨日はあの後ちゃんと夕飯を食べて、その後は結構遅くまで――。

 

 

 ――。

 

 

「アイシャさんたちにやったこと全部してください」

「いや、もともとあれは大体ミリちゃんにしたやつをやってあげてたんだけど……」

「だったらもう一回してくれたらいいじゃないですか」

「……はーい」

 

 

 ――。

 

 

 うん。結構遅くまでねっとりしっぽり過ごす羽目になったのである。やむを得ないね。

 

 コンコン。ばちんばちん。がたがた。

 

「……いやずいぶんアグレッシブなノックだな?」

 仕方なく起きる。ついでにミリちゃんに布団を掛けてやる。なんか足元に丸まってたので。

 

「はーい?」

 

 がちゃ。

 

「おはよー!」

 

 ドアを開けると、笑顔でぱたぱた腕を振る――アイシャ、ちゃん、だなこれは。

 

「あー。おはよう、アイシャちゃん」

「わかるんだ?」

「そりゃまあ。君は分かりやすいよ……早起きだね?」

 まあ既にちゃんと朝なんだけど、ミリちゃんはあまり朝に強くないようで、まだ布団の方から『うー、うー』と聞こえてくる。

 

「えらいでしょ」

「えらいぞー。アイシャちゃんは早起きでえらいねえ」

「……あっ、ちょっと待って私も、早起きだから。ほら、起きるもん」

 どうやらミリちゃんも褒めてもらいたいようだ。もぞもぞ起き上がってきた。

 

「ミリちゃんはー、きのういっぱいあそんでたよねっ」

「えっ、あっ」

「あ、聞こえてた?」

「うんー。おねえちゃんがきいてたー」

 なるほど。それは悪いことをした。……のだろうか? しかし、アイシャちゃんは本当に普通に出てくるようになってしまったんだな。これこそ、悪いことをした。アイシャ本人はこのままにしたいと言っていたけども……。

 

「きょうはー、おでかけだよね。ラヒーシャさんはあとでくるとおもうっ!」

「そうしてもらえると助かる」

 ぴょんぴょん跳ねて、元気なのは大変結構だけども。なんというか心配になるよな流石に。そんなことを思いつつアイシャちゃんと話していると。

 

「うー。あの。ミリちゃんですけど」

「ミリちゃんだねえ」

 ミリちゃんが起きて隣に来ているのであった。ああ、さっきのやつだ。

 

「早起きなんですけど」

「はい、えらいえらい」

「ふふふふふ」

 撫でてあげるとご満悦のようだった。うん、少し寝ぼけてるよなこれ。後で恥ずかしがるんだろう、きっと。

 

「あのねあのね、きのうはすっごくきもちよかったって」

「アイシャ……は君もか。『アイシャさん』が? ラヒーシャも?」

「どっちもかな?」

「それはよかった」

 嬉しそうに部屋の中に入って、ぴょんぴょんしているけど……これ、昨日のセックス――は、してないが、まあ愛撫が、気持ちよかったのを喜んでるわけなんだよな。なんというかあまりにも無邪気すぎて、倒錯的で……変な気持ちになる。

 

「あっだめかもー」

「何が?」

「うごくとねー、きのうのがまたきてー、あっだめだから、えっと……ごめんね?」

 アイシャちゃんはその場にしゃがみ込んで、俯いて……ぶるぶる震え出した。

 

「アイシャちゃん?」

「あっうそ……お゛、っ♥ あっ、ああぁあ……♥」

 そのまま、様子を見に近づいたミリちゃんにしがみ付いて――。

 

 

 ――。

 

 

「そういう訳でね。ちょっとした弾みで、気持ちよくなっちゃうみたいなんですよねっ」

「『ちゃん』は、イきそうになったから押し付けて引っ込んだってこと?」

「うん。ひどいと思うんですよ」

 どうも、跳ね回っていた弾みで、子宮が揺れちゃって、思い出しアクメをキメていたということらしい。そんで、アイシャちゃんはそれを元のアイシャに押し付けていったと。とんでもないガキだ。

 

「ミリちゃんみたいだなあ」

「いや私そんなんなりませんけど???」

「本当? こうやって腰叩かれるだけで思い出しちゃうんじゃない?」

「あ、ちょ、っやめ」

 

 とん。

 

「お♥ ……っく、ぁ、おぉぉ……♥ なん、でぇ……」

「まあミリちゃんは置いといて」

「うん。レシしゃもひどいよね」

 そんなに褒められたら照れるね。

 

「支度ができたら出発だ。馬屋に行って、ヴィークルを回収しようか」

「うんっ。その時にはラヒーシャさんが出てくると思う。もぐもぐ」

「何食べてんの。空気?」

 アイシャはいつの間にか、また口に何か入れてる。何だ?

 

「干しぶどうのパンだよ。下の階で食べられるやつー」

「あっそういうのは早く言ってくれ」

「中身が1人じゃないせいかなぁ。まめに甘いものを摂らないと頭が疲れちゃうんですよね。もぐもぐ」

 確かに、そういうこともあるのかもしれないな。つくづく、1人で旅をさせるのが心配な人だ。ラヒーシャはしっかりしているみたいだけども……。

 

「なるほどねえ。ミリちゃん、朝食だよー。行くぞー?」

「あう、行きます、行くから。ちょっと待ってね……着替えさせてください」

「うん、イってる場合じゃないからね」

「そういうのマジで要らないんで」

「あははっ」

 

 

 ――。

 

 

 そんなこんなで、宿で朝食を取って、すぐに宿を引き払って出発。東の空に昇る朝日に照らされて、貿易都市ペルルグリアは早くも活気に溢れている。朝の市場の賑わいも横目に眺める程度に留め、予定通り向かう先は馬屋。

 

「はっは、お早いですな。おーい、魔術師さんが出られるぞ!」

「すみません、朝から重労働で。助かります」

「いえいえ魔術師さん、何せそれだけのお代は貰っておりますからね」

 馬屋のおっちゃんたちはしっかりヴィークルを保管してくれており、あとはちゃんと乗れさえすれば問題なく出られそうだ。そしてその問題の方は……。

 

「ン。行ける」

「おお、本当にラヒーシャだ。不思議なもんだね」

 馬屋に入るとアイシャはすぐ、ラヒーシャに代わっていた。どういう仕組みなのか知らないが、まあラヒーシャは出ようと思えば出られる、ってことなんだろうか。最初から居た、という意味での主人格はアイシャみたいだけど、人格自身の意志で出てくるという意味での主導権はラヒーシャの方が強いように見える。あとアイシャちゃん、あれもたいがい好き勝手に出たり引っ込んだりしてるっぽいよな。

 

「魔術師さん方は、東へ行かれるとか。通行止めの件はご存じとは思いますけども」

「はい。私はそれを解決しに行くんですよ。不便でしょう、でも私が何とかしますから!」

「……解決しに? 通行止めをですか?」

「そのために来たんだよね。こう見えてこの子はすごい魔術師なんですよ」

「ははあ……へえ……ほお……?」

 馬屋のおっちゃんはミリちゃんのドヤ顔をまじまじと見つめる。

 

「できる、って。見たい」

「まあ、できると思いますよミリちゃんなら」

「はい、私は賢い魔術師なので、できるんです」

「……なんとも信じられん話じゃありますが、はっは、そいつは願ってもないことですな」

 そりゃそうだ。この辺の流通に関わる人間は皆困っているんだろうから。

 

「あー、どうしたもんでしょうな。そうですね……でしたら特別に、お教えしましょう。聞いて頂けますかい」

「あ? 何かあるの?」

「いえ、それが……」

 馬屋の店主は目を細めると、憚るように話し始めた。

 

「まず、向こうには関所の前に宿場が1つあったんですがねえ」

「2日の距離だそうですから、そうなりますね」

「いや待って。……あった、って?」

 

「はっは、建物も設備もあるんですけどね。今は真っ当な主人がおらんのです」

「ゥン?」

「あ、そうか」

 ミリちゃんは何かに気づいたようだ。主人がいない、ということは営業していないんだろうから……。

 

「……つまり潰れたってこと?」

「ほら。ここから東が通行止めということは。つまり誰も通らなくなってしまったわけで」

「アー」

 なるほど。宿場の客って、つまり街道を行き交う旅人だ。西側ならまだ、この街からシレニスタへの移動があるけど……ここから東は、そうか。誰も通るわけがない……。これは確かにアーになってしまう。

 

「そうです。弟の店だったんですがねえ……」

「ゥン。私も、前はそこに泊まった。羊、食べた」

「今じゃ奴も、この街の船着場で、日雇いの荷下ろし人夫をやっておりますわ、はっは。寝泊まりにはうちを使わせておるんですが、今朝も暗いうちから働きに出ております」

「うわあ、世知辛い……」

 つまり、ここからの道中では途中での宿泊は難しいってことだな。

 

「街道が塞がって……ええと、まだ二週間も経ってないですよね? そんなにすぐ経営が立ち行かなくなるものなんですか」

「街道の往来を食い扶持にしている者は他にもおります」

 うん? 宿場の経営者の他というと……。

 

「ン。野盗?」

「はっは、その通り。連中も商売あがったりってことでね、こうなっちまっては宿場を乗っ取りに来るってんで。弟はさっさと引き上げたってことです。なにせ身の安全には代えられませんからねえ」

「治安が終わっている……」

「うう……陛下の徳政も、国土の隅々まで行き届かないのは、やっぱり仕方ないんですよ。私達も頑張っているんですけど」

 往来が停止してしまえば、宿場も干上がるが、野盗の獲物も居なくなるということだ。そうすれば連中は何をするか分からない、と。いやはや、道一つ塞がっただけでずいぶん色んな問題が噴出するもんだな。

 

「レシヒト」

「何? ラヒーシャ」

「助ける。宿場」

 相変わらず片言のシレニア語だけど……つまり、野盗に乗っ取られているかもしれない宿場を解放しようと?

 

「ん……ミリちゃんの動力と、ラヒーシャの運転だったら、すっ飛ばして1日で着けると思うけど?」

 目的地はシレニエラ街道をここからさらに東、エルミル教主国との国境付近。そこまでは一般的な旅足で2日の道のりだという。つまり、ここまでと同じペースなら日が沈む前に1日で着く。道中で宿場に立ち寄る必要はない。

 

「できる。でも、助ける」

「レシさん、助けてあげましょう。きっと母神様は、こうして困っている市民の助けになることまで聖業(クエスト)に含めてますよ」

「うん、だから困ってるんだよね」

 アレじゃん。土木工事だったはずだろこれ。野盗退治とか聞いてないぞ自分は。何か簡単そうに言ってるけど、不良少年が角材持って隣の中学にカチコミとかそういう牧歌的なやつとは違うんだぞ。しかもさ、こっち来てこの方、いわゆる異世界だってのにモンスター的なものの話ひとつ聞かない。つまるところ人間。人間なんだよ相手は。うわー、気が進まない……。

 

「あ、レシヒトさんは怖いのかもしれませんけど、戦いは私の仕事だから大丈夫ですよ?」

「……いやそういうわけじゃ……あれどうなんだろ。そういうわけなのかな……」

「ン。私、強いから。レシヒト、何もしない」

 ラヒーシャまで。いいよもう、そこまで言うならやろうじゃないか。どうせ、いつかはそういう話になると思って覚悟はしていたんだからな。うん。

 

「……いいよ、分かった。ミリちゃんがすごい魔術師になるために、必要なんだよね?」

「はい。だから、任せてください」

 そう。ミリちゃんは『宮廷魔術師として恥ずかしくない自分でありたい』という願いを抱いて、ここに立っている。前に話して分かっていたことだけど……ミリちゃんは、彼女なりの決意をちゃんと持っている。だから曲げない。そのために、野盗とはいえ人間を殺すことになるのだとしても。

 それは正直、眩しい。だけど、自分が元の世界の常識に縛られて、情けないことを言っていたら……ミリちゃんと一緒にいる資格は無いんだろう。実際問題、怖いのは間違いないんだけど。

 

「自分、マジで戦えないからね?」

「知ってます。私がしっかり守るんで」

 これだもんな。正直、全く思う所が無いわけじゃない。だけど、自分は騎士じゃないから。強くもなければ、頑固でもないから。だから大人しく、この小さくて賢くて生意気で、世界一可愛い魔術師様の背中に甘えていこう。

 

「ン。私、武術、できる。ミリちゃンは、魔術。大丈夫」

「お。それは心強いですね」

「あ、そうそう。ミリちゃんはいいとして、ラヒーシャはどうして?」

 そう。なんで彼女がこんなに乗り気なのかが分からない。ミリちゃんは、国政に携わる立場でもあるから、治安維持に責任を感じるのは分かるけど。

 

「羊」

「ひつじ?」

「ゥン。美味しかった」

「なるほど?」

 つまり、前に泊まったとき、食事が美味しかったから助けたいと。……分かる、分かるけど何というか。

 

「分かります」

「分かるんだ」

「羊は美味しいので」

「それはそう」

 分かるらしいからいいや。

 

「じゃあそういう訳で、2人が何とかしてくれることになった。僕は頑張って応援するね」

「はっは、兄さん大物だねえ」

「ン。レシヒトは、変」

 何とでも言え。

 

「ところで、馬屋さん。さっき特別って言ってたの、何だったんですか?」

「あっそれ。ちょっと気になってたんだよね」

「あー、いや、はっは。そいつは、ええと」

 あれ、何か目を逸らしてるけど。これ、何かあるな? あーん?

 

「ン。絞める?」

「いや……何かあるなら教えといてもらえないですかね。僕らも命懸けなんで」

「は、はっは……そう、ですね。連中は、魔術騎(ヴィークル)を待って柵を作って、弓で待ち構えているはずです。気をつけて……」

「は~~~~~?」

 あ、ミリちゃんも怪訝な顔になった。そりゃそうだ。おかしいだろ。つまり、そういうことだ。話が見えてきた。

 

「つまり、おっちゃんはその野盗とグルだったと」

「ひいっ!」

「そういうことですよねえ」

「ゥン。絞めよう?」

 手でラヒーシャを制して、話を続ける。まあ、話してくれたと言うことは利害は一致したということだからな。

 

「違うんですわ。弟の店を守るためでしてね。奴ら、旅人を向こうへ寄こさないと店を壊すって言うんですよ」

「アーになっちゃいますねこれは」

「絞めよ?」

「絞めないよ」

 

「しかしね、魔術師様なら何とかしてくれるかもしれません。街道も元通りにして下さると仰る。おまけに、払いも良いと来ました。こいつは、不義理を働いてはシレニア神の罰が当たります。何卒、この街道に平和を取り戻しちゃ頂けませんか」

「調子のいいおっちゃんだなあ……」

「最初は野盗に売るつもりでいたってことですよねこれ……」

 やっぱり絞めるか? 違うか。

 

「売るなんてとんでもない、ただ……」

「ただ黙って送り出すだけ、ってことでしょ」

「野盗が罠張ってるのを知ってて、ねぇ」

「絞めるよ?」

 だめだよ。

 

「ひぃい……すいません、ウチとしても仕様がなくてですね……!」

「えーと、まあ……ミリちゃん、どう?」

「別に。正直ちょっと業腹ですけど、解決すればしっかりしてくれるなら……」

「流石は魔術師様だ! はっは、なんて寛大なお方なんでしょうぐっ」

 あっ絞めた。

 

「どうどう、ラヒーシャどうどう」

「ゥン、殺さない」

「はい。とりあえず、行きましょうか。車は街道まで出してください」

「げほっ、げほっ。へい! おい野郎ども、まだか! ケチなことしてんじゃねえぞ!」

 

 

 ――。

 

 

「それじゃどうも、お世話になりました」

「はっは、こちらこそありがとうございました。またご無事でペルルグリアへお越しの際は、ウチを御贔屓に!」

「よく言うよマジで」

 

 こうして、若干の不安とともに……交易都市ペルルグリアを後にすることになったのである。

 

 馬屋のおっちゃんたちには街道まで車を運んでもらい、そして帰ってもらう。それは、出発の前に、どうしてもあまり人目につきたくないプロセスがあるためで――。

 

 

 ――。

 

 

「――意識が広がる……慣れ親しんだ感覚だよね。そう、君は万物を感じ、万象を紡ぐ賢者。解き放とう、本当の君の力を。さあ、出ておいで……『大賢者ミリセンティア』」

「……ぁ……ああぁ……」

 ――そう、いつものようにミリちゃんに催眠を施す。これくらいのことであれば、『大賢者』としての精神状態を思い出すキーワードだけでいけるのかもしれないが……一応、定期的に深化と再定着を行うことも大事だと思う。

 さすがに、催眠掛けてるところも、ミリちゃんがあの状態になってるところも、見られるとあまり都合が良くないというわけだ。

 

「……ミリちゃンは、すごい」

「そうだよ。街道が開通したら、シレニスタの宮廷魔術師はすごいって国で自慢してくれ」

「ゥン……そうなったら、いい」

 ラヒーシャはエルミル教主国の、まあ恐らくは諜報員……つまるところスパイなんだろう。しかしまあ、友好国であるということと、ラヒーシャの様子から、僕とミリちゃんはこそこそしないことを選んだ。だって、ラヒーシャもアイシャも、面白くて可愛いんだから仕方ない。

 

「ふふ、あはは……すごい、すごいですよ……♥」

「ン、でも……ここまで、見ていいの? 私、レシヒト、ミリちゃン、仲間じゃない」

「これから野盗とやりあうのは、手伝ってくれるんだろ。それなら仲間みたいなものだし……少なくとも、敵でもないならいいさ。何だったら、ここでラヒーシャと仲良くしておけば、敵になったときに情けを掛けてくれるかもしれないし」

 冗談みたいに言いはしたけど、実のところこれは半分本当だ。ラヒーシャは僕らのことを、少なくとも悪く思ってはいないのは確かだと思う。甘い考えかもしれないけど、立場の違う人間に人脈を作っておいて悪いことはない。

 

「……代行者(アンジェルス)は、そンなことしない」

「それだよ、ラヒーシャ。君の……君たちの情報も、僕らは教えてもらったからさ。いわばお返しかな?」

「レシヒト、変」

 変は変だろうけど、僕はそこまで善良な催眠術師でもない。ただのお友達ごっこで、このどうやら仕事熱心で思慮深いらしい女性の心情をぐらつかせることができるとはさすがに思っていない。なので、悪い催眠術師なりのやり方を交えていくことにする。

 

「ところでラヒーシャ。運転は大丈夫?」

「ゥン? 問題ない」

「そんなはずはない。アイシャちゃんが言ってたよ、昨日のアレが気持ちよすぎて、子宮を意識するとイきそうになるんだろ」

 じ、と目を覗き込む。声色を変えて、抑揚のない声で、断定的に、暗示として突き刺すように。文字通り、胎(はら)の底に叩き込むように語り掛ける。

 

「ァ……ゥ、っ、ちが、ウ……」

「あ、今意識しちゃったよね。じゃあ手遅れだ、ほら。昨日、乳首こねられて胎イキしたのを思い出してるだろ。ほら、ずくん、って」

「ぉ……っア、ッ、レシヒト、やめ……っ♥」

 ――これは催眠なのか? そう聞かれたら僕は、当然そうだと答える。催眠暗示を有効に働かせるためには、別にトランス状態にさせる必要はなくて。特に、既に掛かったことがある相手なら猶更。相手に、『これは催眠だ』と理解させるサインがあれば充分。ここではこの、声だ。

 

「あは……えっちですよ、えっちだぁ……♥」

「ミリちゃんも一緒に、想像していいよ。昨日の、気持ちいいやつ……二人とも、覚えているよね。一番奥を、指で、時間をかけて……ゆっくり押し込んだら。ね、全身で……イくんだったよね」

「ちがっ……ンゥ、ッン……っ、お、あっ、あっあ、あぁぁ……♥」

「あ、っくぅ……あは、っ、くぅ……えへ、えへへへへ、き、きもちいぃ……♥」

 言葉だけで、イく。それは当たり前のことだ。第一に、僕自身が絶対にそうなるだろうと確信している。だって、昨日アホみたいに快楽を教え込まれたばかりの女の子が、こんな風にオーガズムの想起を暗示されたら。イくに決まっている、そうならないわけがない。

 

「これじゃあ、運転なんてできないよね……だから、この快感は君の中にしまっておこう。車が揺れても、跳ね回っても、意識が向いちゃっても、勝手にイってしまうことはなくなる。昨日の最高に気持ちいい思い出は、君の宝物として……大事にしまっておくことができるよね」

「ゥ……あ、ン。ほンとだ、大丈、夫」

 まず、必要な暗示はこれ。朝のあの様子だと、運転中に子宮アクメをキメられる可能性があったからな。いくらなんでも事故が怖い。戦闘があるならなおさらだ。

 

「それから……ラヒーシャ、聞いて」

「ゥア……ゥン、聞く」

「ラヒーシャ。君は昨日、僕ととても……『仲良く』なった。だから――」

 さて。あとはちょっと、悪い催眠術師なりに……悪い遊びをしてみようか。

 

「だから――ほら、宝物を思い出そう。僕の声によって、すぐに意識がぼんやりとして……はっきりと思い出せる。ほら、君の『好き』なやつだ。アイシャも『好き』だったやつだ。君も、アイシャも、小さいアイシャちゃんも、みんなあれが『好き』になった……僕らと仲良くするの、好きになったよね」

「ァ、あぁっ、だめ、それ、だめ」

「気持ちいいのも『好き』になった。ほら、思い出そう。気持ちいい窪みを捏ね回されて、一番奥をくりくりされて、ほら、君たちの身体に染み付いているから、すぐに思い出せる……」

 

 ぱちん。

 

「ゥ……ア、あっ、あっああああっ♥」

「『好き』になっちゃったから……君が、僕らの敵になろうとしても。絶対にこれを、この快感を思い出してしまうよね。僕の声と、言葉と、指で……『仲良く』されてしまったのを思い出す。『好き』を思い出す。あんなに気持ちよくなったのは、初めてだったんだから当然だよね……」

「ゥ、ァ、くそ、レシヒト……ゥウ……あぁァッ!」

 正直、こんなものでラヒーシャを本当に縛り付けられるとはあまり思わない。でもまあ、やっておいた方が面白いので、やっている。彼女が敵にならないなら関係ない暗示だし。記憶を消したりもしない、これは一種の……お遊びだから。

 

「僕やミリちゃんに敵意を向けようとすると、勝手に子宮が疼いて……また、『仲良く』して欲しくて、どうしても我慢できなくなるよ。僕やミリちゃんに嫌われたら、もうあれをしてもらえない。『好き』なやつを、してくれない……それってすごく、辛くて、悲しいことだよね。だからラヒーシャは、僕らとは仲良くしてくれる……でしょ?」

「ぁは♥ なかよし、なかよしです……はだかで、なかよしですよ♥」

 ミリちゃんも、一緒に幸せそうで何よりだ。あれだけの想像力を駆使して気持ちよくなれるなら、まあ最高だろうなあ。

 

「……ゥ、ゥ……レシヒト」

「ん?」

「……死ね」

 ラヒーシャはぽつりとそう言ったが、特に、殺そうとはしてこない。ヴィークルの操舵席に背を預け、うっとりと快感に浸りつつ……ジト目でこちらを睨むのが、やけに可愛かった。

 

 

 ――さて。目指すは、あの朝日の昇る方か。

 

 

 

◆ 南正教会

 

 

 ――。

 

 

「アイシャちゃんは、明日聖別の儀(サクラメントゥム)だよね」

「うんうん、楽しみっ」

 『私』はジャハーナ族の孤児だった。幼いころにここ、エルミル南正教会(オルトドクシア)に拾われ……育てられてきた。故郷はもっと南の地。聞けば、私の両親は大神エルンストに帰依するために『私』を教会に預けたのだそうだ。それによって神への恭順が示され、改宗が受け入れられるのだという。

 

「アイシャちゃんが代行者になったらさ、私は庇護者(パトロヌス)になるからね~。ずっと一緒にいようね」

「うん。一緒っ」

 この子は――イヴリンは、教会の寮のルームメイトだ。『私』よりも早く教会に拾われた女の子で……エルミル国内の出身だから、私とは肌の色などが違う。『私』とイヴリンのように、南正教会に拾われた孤児は、同年齢の2人が同室で育てられる。

 

「すごいね~、アイシャちゃんは。司教様の御指名だもんね」

「うんっ。でも、どうして私なのかなあ」

 ルームメイトとして育てられた2人のうち、一方は聖別され教会のために動く代行者となり……残る一方はそれを補佐、監督する庇護者となることになっている。『私』は南正教の司教を務める聖ミローデンの指名により、代行者となる器に選ばれたのだった。

 

「えっと~……分かんない、けど、アイシャちゃんなら大丈夫だよ?」

「そう?」

「だって可愛いし、身体も丈夫だし~。きっと、アイシャちゃんなら代行者になれるよ!」

 ――可愛いとか、よく分かんないけど、関係あるのかなあ?

 当時5歳だった『私』は、無邪気にもそんな風に考えていたのだった。

 

 

 ――。

 

 

「アイシャ! いやこれ違うな~、ラヒーシャだ!」

「ン。ただいま」

 『私達』とイヴリンは、それぞれの立場を全うするため成長した。彼女は、私にもアイシャにも良くしてくれた。アイシャには、唯一の気を許せる友人として、いつも話し相手になってくれる。アイシャの掴みどころのない話にも、楽しそうに聞き入ってくれるし、多くのことを教えてくれる。幼いころ、アイシャにシレニア語を教えてくれたのも彼女だ。

 

「司教様との面会~? 大変だね、ラヒーシャも」

「ゥン。慣れた」

 そして、私の任務の際には、庇護者として支援してくれた。私では判断できないことでも、庇護者であるイヴリンは決めることができる。私が尻込みしてしまうような任務でも、彼女が背中を押してくれる。私は、彼女が居てくれることで、代行者として、何でも――どんな任務でも、こなすことができるようになるのだ。

 

「いくら慣れたって言ったってさ~。それじゃ、いつものやつやるよね?」

「する。……イヴリン、すまない」

 そう言って、私は意識を手放す。ミローデン司教との面会とは、任務を前に代行者の身を清め直す儀式――つまるところ司教との性行為だ。その胎に神性を受け容れ、大神の祝福を宿し加護を得るというもの。

 

 ――大神エルンストは、両性具有の神である。

 

 かの神は、『初めの仔』として女神シレニアを創生した。シレニアはエルンストと番い、我々人間を広く産み落としたのだ……と神話は伝える。

 その、“父なる神”エルンストの男性性を信奉するのが……南正教会である。

 

「――あれ? あ、うっ、うわっ」

「……おかえり、アイシャ。大丈夫、私だよ。ここは寮。怖い人はいないよ~」

 そう。私は意識を手放し――身体をアイシャに委ねた。清めの儀式は終わったし、私は疲れてしまったから。それに……。

 

「あうっ、やだ、やなの。無理なの。できない。おねがい。できないから。お願いします……」

「よしよし。大丈夫、大丈夫だからね。アイシャは何にも気にしなくていいよ~」

「う、あっ、うあぁ、うえぇええん」

 アイシャは、こういう時必ず泣いてしまうから。彼女には、イヴリンの温もりが必要で……私には必要ないから。

 

「ほら、おいで~。アイシャ、いつものだよ~」

 

 イヴリンは、いつものように胸を差し出してくる。アイシャは昔から、彼女の抱擁の中で泣くことで、ゆっくり落ち着きを取り戻すのだった。

 

「あうっ、おっぱい……」

「おっぱいですよ~」

「えうぅ、うえぇぇえ、ふえぇえぇぇえん」

 おっぱいが大好きなアイシャは、イヴリンの胸元に顔を埋めて、泣いていた。アイシャにとって、長年こうして包んでくれていたルームメイトの温もりは、欠かすことのできないもの。本当は、私が彼女の辛いことを全て、引き受けてあげなくてはいけないんだけど……アイシャは、勘が良くて優しい子だから、どうしても、泣いてしまうのだ。

 

 

 ――。

 

 

「統一教主(ユニティア)の預言があったらしくてね~」

「ゥン。任務?」

「そう、また西だよ~。シレニスタ領内まで行くって」

 私が代行者として帯びる任務は、エルミル国内のみに留まらない。特に南正教会は、父なるエルンストに対し母なるシレニア、夫婦神の関係を篤く信奉しているため……友好関係にあるシレニスタ聖王国に赴く機会も多いのだ。

 

「エル=シレナ、慣れてる。大丈夫」

「でもね~、何だか少しきな臭いよ。正教としては、シレニスタとは上手くやりたいのにね」

「……私は、分からない。イヴリンが、分かる。大丈夫」

「うん、そうだね~。ラヒーシャ達には、私が居るから大丈夫だよ。何も考えなくていい。私が、全部決めてあげるからね」

 そう。代行者は意思決定権を持たない。私が武術を修め、魔術騎の操縦を習い、精神修養に努めている間、イヴリンたち庇護者は教義と政治を学び、魔術を修めている。だから私達は、2人で一人前。2人揃って初めて、正しく神の手となることができるのだ。

 

 代行者は聖別された人格を持ち、実際の任務行動を担う。聖別された代行者の人格は、不要な生活行動を本来の人格に任せ、ほぼ行わない。私の人生は大神エルンストに創出され、その教えを地に広めるためにのみ存在している。それと無関係な、余分なものは、すべてアイシャが担当する。

 

 また、他国の捕虜になるなど、不測の事態において、代行者としての人格は深く潜り消えたように振る舞うこともできる。つまり私が万一下手を打って、他国の捕虜になったとしても。その時点で『ラヒーシャ』を眠らせてしまえば……敵の尋問を受けるのは、一般の下っ端侍祭であるアイシャだけ。通常の拷問手段では、代行者に口を割らせることはできない。

 もっとも、実際に重要な情報を知り、管理しているのは庇護者の方なので、私にはそもそも大して重要な機密は知らされないのだが。

 

「イヴリン、ありがとう」

「ううん~」

 いつも、任務の仔細を決めてくれる。私が引き受けきれなかった悲しみに泣くアイシャを、私に代わって慰めてくれる。彼女が居なければ、私はこの立場を続けることなどできないだろう。

 

「……こっちこそ、ありがとう、なんだよ?」

「ン?」

「何でもな~い。それじゃあ、任務の話ね。まず、天教の連中が、エル=シレナを封鎖するの」

「ゥン!? 何で、そんな」

 驚いた。そんなことをしたら、エルミルとシレニスタの国交に大きな損害が出る。ほぼ断絶すると言ってもいい。間違いなく国益を損なうし……何より、私たち南正教会は、母神シレニアの寵愛に見守られるかの国と、決裂することを望まないはずだ。活動基盤をシレニスタとの交易に大きく依存してもいるのだし。

 

「ラヒーシャは、知らなくていいよ~」

「ゥン。でも、凄いな」

「凄いよね~。天教の奴らは喜ぶのかなあ」

 

 ――北天教団(セレスティア)。

 

 このエルミルを南北に分かつ、もう一方の集団だ。エルンストの男性性を信奉する南正教会に対して、連中はその女性性を重んじる。つまり、『唯一完璧である大神エルンストは自ら仔を産まれるのだから、妻となる神は必要ない』『女神シレニアは大神が自らを模して創った娘に過ぎない』みたいな主張をしている連中だ。『人類が争い続けるのは、不完全な胎から産まれたためだ』と言っては、熱心に反シレニスタを掲げている。

 連中は北に国境を接するダモクレシアとの交易を管理している。エル=シレナの封鎖などされては、南北のパワーバランスは崩れてしまうのではないだろうか。

 

「……駄目、じゃない?」

「困るね~。でもまあ、統一教主の意向じゃしょうがない」

 統一教主とは、南北に分かたれるエルミルを『教主国』として纏め上げる偉大な方だ。エルンスヘイム中心部の大神殿に住まわれ、大神エルンストより言葉を賜ることができるという。預言には、正教・天教両者いがみ合うことなく協力し、従わねばならない……と、されている。

 

「封鎖、されて。で、任務は何?」

「シレニスタが、エルミルにとって脅威にならないか監視」

「ゥン。どうして?」

「ラヒーシャ。『望むように為せ(フェスク・ヴドラ)』、だよ」

「ァ……」

 そうだった。私は代行者。私に必要なのは『何をするか』だけ。『何故するか』は、私には関係がない。無関係なことに意識を割けば、判断を誤る。

 

「ン。監視、する」

「うん、理由は私が知っていればいい。それから、もう1つ。……天教の連中が、余計なことをしないように」

「ゥン。監視?」

「そう。……統一教主の意向じゃしょうがないけど、あいつらが調子に乗るのは困るから」

 理解した。私の任務は――シレニスタに存在しうる脅威の監視。そして北天教団の行動の監視。監視結果は適宜イヴリンへ報告し、彼女の判断を待つ。

 

「イヴリン、どこで待つ?」

「封鎖ポイントのすぐ手前、国境警備の詰所。作戦行動は2週間以内で~、封鎖ポイントに戻り次第報告して」

「分かった」

 アイシャには、イヴリンの温もりが必要で……私には、その智慧が必要なのだ。

 

 そして――。

 

「それはそうと、ラヒーシャもこれ~? いっとく?」

「ゥン。当然」

 

 ――おっぱいは、両方にとって必要。

 

 

 ――。

 

 

「ゥン、止めて」

「はいよ、ミリちゃんストーップ!」

「えへ、なんで? なんでですか? 道あるもん、あるもん」

 無視してクラッチを外す。動力を切り離せば止まるはずだ。下手をやると操作部が折れるけど……まあ、大丈夫。

 

「よーし落ち着こうかー。ミリちゃんストップだぞー」

「うー」

「……ン。見える」

 街道の向こうに、防柵。ざっくり10人から潜んでいる。思ったよりも数が多い。ひとまず、3人で魔術騎から降りた。このまま向かうのは自殺行為だ。

 

「例の野盗かな。矢は飛んでこないようだけど」

「まだ。もう少し進めば、きっと。でも」

「でも?」

 連中からこちらは見えている。だって、今ももうもうと蒸気が上がっているのだから。弓の届く範囲まで引き寄せたと判断されれば撃たれるし、逆にこうして留まっていれば、待ち伏せを気取られたことも連中の知るところとなるだろう。

 弓から魔術騎と2人を守ってこの間合い。できるだろうか?

 

「……進まなければ、来る」

「なるほど。じゃあここから倒そう」

「ン?」

 何? 待ち伏せの弓が、相手を見つけていながら射撃を躊躇う間合い。魔術で捉えるには遠すぎる。狙いも定まろうはずがない。どう考えても、弓が有利となる間合いだ。この男、何も知らないのでは?

 

「どうしたものか悩んでいたんだけどさ、ここなら思う存分やれそうだ。ミリちゃん」

「うー?」

「抜け掛かってるな。ほら、しっかりしてくれ『大賢者ミリセンティア』」

 また、例の言葉だ。出発の前に、ミリちゃんを催眠術に掌握する際に用いていた言葉。2人動力の魔術騎を単独で動かしてしまう彼女は、確かに賢者と呼ぶに相応しい、強大な魔術師なのだろう。しかし、だからといってこれはどうこうできるものではあるまい。魔術が2つ使えたところで、何も解決しない。

 

「あ♥ 出番、出番ですよねっ」

「うん、石畳さえ壊さなければ大丈夫。そうだね、矢が飛んできても嫌だから……吹き飛ばしてしまおうか」

「はい♥ えへ、風ですよ――従え。大気、見えざる抱擁。静かなりては無きが如く。騒げばその強きを知る。集え風の源」

「ン……?」

 本当に集中詠唱を始めてしまった。気流魔術(エアロクラフト)? 今さっき、焔熱魔術(パイロクラフト)と流水魔術(アクアクラフト)を唱えていたのに。つくづく、ミリちゃんの多芸には恐れ入る。

 

「そう……君は賢者。万象を識り従える者。イメージしよう、大気の圧。空気は集まれば塊になる。人間ひとり立つ場に、その質量は人間100人分以上とも言われる。僕らの想像をはるかに超えたものだ……!」

「大気。天にまで積もる見えざる塔。圧して塊となれ。命ずるは大賢者、世界呑みし賢者が不可視の壁を乞う」

 

 ぐにゃ、と視界が歪んだ。眼前の街道に何か……奇妙な歪みが生まれた、ような。

 

「圧し拉ぎ――征け。薙ぎ払え『大気の爆裂弾(コンプレッシブ・キャノン)』」

 

 ――ドゴン、と巨きな音がした。

 

 

 ――。

 

 

「は……ァ?」

「……困ったね、大分石畳も吹っ飛んだな」

「えへっ、すごい、すごいですねっ♥ はだかですよっ」

 ミリちゃんが放った『モノ』……恐らくは、空気の塊? それは波のように私達の前を奔り……行く先の全てを薙ぎ、吹き飛ばしてしまった。

 防柵は消し飛び、その中に隠れていたであろう者たちも吹き飛んでいる。樹木すら根こそぎになり空を飛ぶのを見た。たかが風、ではない。あの速度と勢いで飛んだ者たち、その大半が助かるまい。あれでは高所からの落下と同じだ。

 

「おかし、い。ミリちゃン、何、これ」

「これがミリちゃんの凄いところだよ。山くらいなんとかできそうだろ?」

 私の知っている魔術とは明らかに違う。何がと言えば……規模? 出力? 例えるなら、焚火と山火事の違い。桶と湖の違い。どうしてこんなことができる?

 

「……すご、い、……ッ!」

「うん。でも……野盗、ってことは悪い人たちなんだろうけど……」

 

 無視。

 

 ――キィン。

 

 のんびり語っているレシヒト目掛け、飛んできた矢。短刀で弾く。そしてそのまま、矢の飛来した方へ――投げる。

 

「……シッ」

「えっ、何?」

 レシヒトは、まだ分かっていない。ミリちゃンもふわふわしているし。馬鹿なのか。

 相手が、反撃の一刀を避けた動きを見て……直ちにもう一撃、投げる。

 

「ン」

「え、っあ……」

 どさり、と倒れた男。眉間に短刀が刺さっていて……小型の弩に矢を番えているところだったようだ。

 

「レシヒト、死ンでた」

「そ、そうみたいだね……まだ居る?」

「ふえ? まだ?」

「ン……大丈夫。これ、生き残り」

 ……一番前まで出ていた者が、たまたま暴風の直撃を免れたといったところだろうか。周辺でこちらを伺う気配はもう無いようだ。

 

「ラヒーシャ……」

「気をつけた方が、いい」

「うん。ありがとう」

「レシヒト」

 ――悪い人たちなんだろうけど……の後には、何を言うつもりだったのか。

 

「……ごめん、気は抜かない。躊躇もしない」

「ン」

 分かっているなら、良かった。

 

「宿場というのは、すぐそこにあるんだろうか」

「……違う。もう少し、先」

「じゃあ、行きますよっ――出でて溢れよ『泉の清水(ファウンテン)』」

「よーしちょっと待とうかミリちゃんまだ乗ってないからなー」

 

 ――。

 

 警戒は怠らずに、野盗たちに乗っ取られたという宿場へ向けて再出発……しながら。

 

「ゥン……」

「ラヒーシャ、どうしたの?」

「……何でも、ない」

 

 ――『脅威』とは、例えば……何だろう。

 

 私は、私と無関係なことを――考えてしまっていた。

 

 

 

◆失概念

 

 

 ――。

 

「もうすぐか? 案外歩くな」

「そりゃ、向こうから見られたくないですからね」

 宿場に向かう道の途中でヴィークルを停め、以降は徒歩。大賢者として強力な魔術を放ったミリちゃんも、催眠状態から戻してある。

 

 ――強力な魔術。

 

 予想通りと言えば予想通りに、大賢者ミリちゃんの全力の現出魔法はとんでもない出力だった。自分が与えた気圧の概念イメージから、それを全て地上に圧した圧縮空気の壁を作ったのだろう。そのまま放てばこちらも一緒に吹っ飛んだはずなので、前方だけ圧を解放したといったところだろうか。いや、上手く行ってるけど、本当におっかないなこれ。

 さすがに自衛はしてくれるみたいだけど、うっかり忘れたりしないとも限らない。だってミリちゃんそういうとこあるし。そして現状、加減はできそうもない。やんぬるかな。

 

「道、直さなきゃですね」

「そうだなあ」

「ン。運転、少し難しい」

 こうして歩いていると、ミリちゃんの魔法で剥がれた石畳が時折、路上に散乱している。これや剥がれた部分に車輪を取られると、ヴィークルも荷馬車も横転の危険がある。うちはラヒーシャの運転だからまあ平気だったけど、目的は往来の復旧なので当然これも問題になる。

 爆発や激流で攻撃すると、街道がダメになるのは分かり切っていたので、ミリちゃんには風の魔法で攻撃してもらったんだけど……それでもやはり多少は被害が出てしまった。まあ、普通風で石畳は飛ばないんだけど、あれだ。風は風でも爆風だから……。

 

「うわ」

「……うっ」

 そんな石畳に紛れて、黒い染みが目に入った。いやうん、その時点で気付いて見ないようにできればよかったんだけど。見てしまったわけだ。明らかにパーツが足りていないけど、どうやら人間だったと思われる塊が、石畳に『着弾』したと思われる染み。その後、勢いを殺し切れず、弾け飛びながら滑って転がっていったのであろう痕。

 

「ゥン。流石に、死んでる。大丈夫」

「それは、まあそうだろうけども……」

 ラヒーシャは動じない。そりゃそうだ、さっき襲われたときも、投げナイフであっさり敵を仕留めて平然としていたんだから。なんとか教会のなんちゃらいうエージェント的なやつだというから、まあこういう命のやり取り自体に慣れているんだろう。そうしてここまで生きてきたということは、つまり……生き残ってきた。勝ち続けてきた。要するに、殺し続けてきた、ということなのかもしれない。

 いや、理屈は分かるけどやっぱりとんでもない。自分はそんな女の子を、昨晩めちょめちょにイかせまくって仲良くなってもらったってこと? ちょっと理解はできても実感がない。世界観がうまく交わってこないというか。

 

「……『大丈夫』かどうかはそこじゃなくてね」

「これ」

 沈痛な面持ちのミリちゃんが、ぽつりと口を開いた。ラヒーシャは急かしたそうにしているが、ちょっと待って欲しい。敵に気づかれる可能性があるから早く進んだ方がいいとか、分かってはいるから。

 

「これ……私が、やったんですよね」

「ン。ミリちゃン、すごい」

 ラヒーシャから見ても、ミリちゃんの魔術はとんでもないものだった。もともとシレニスタの宮廷魔術師は、戦地においては大量殺戮さえ可能な兵器のようなものだというのは、アウレイラの噂とかで自分でも分かっている。シレニスタに諜報で来ているラヒーシャもまあ、そういうイメージは知っていたのだろうけど。

 まあ、でも実際に見るとびっくりするよな、広域破壊。こんなの反則だもん。そもそも、本来のミリちゃんの出力ではあんなことはできないはずなので、ガチャで催眠術師なんて引き当てたミリちゃんの名状しがたい運と、『魔術に役立つんじゃないか?』っていう僕らの思い付きが重なって産まれた偶然の産物だ。

 

 ――いや、本当に偶然か? なんかリルだったかが『その時必要な人物が出る』とか言ってた気がするな。その理屈だとしても、自分である必要はないような気がするけど……。

 魔術に役立ててみようとしたのは、好奇心と、『エッチな催眠掛ける口実が欲しいな』というスケベ心のせいだったので、そこはやっぱり偶然かもしれない。

 

「私が、これを……すごい、けど、こんな」

「うん、ミリちゃんはすごいよ。でも、これをやらせたのは僕だ」

 さて、ミリちゃんはと言えば。身も蓋もない言い方をすれば、殺人は初めてではない。……いやうん、この時点で大分狂ってると思うんだよな正直。元の世界にもそういう国や時代があったのかもしれないけど……。普通に暮らしてたら、人殺しと仲良くする機会は無いのよ。魔法よりそっちのほうが非日常だよ。

 

「それはそうですけど」

「実は僕、今日初めて人を殺した。直接的でなくとも」

「ン」

 ラヒーシャが納得の様子。悪かったね、甘ったれで。

 

「なんか妙な感じなんだよ。いろんなことが頭の中に出てきてさ。こいつらは悪党で、僕らが退治することで多くの人が助かる。ここで僕らに殺されなくても、こんな悪事を働いている以上いずれ他の誰かが退治するかもしれない。それに、きっちり殺さなきゃこちらが殺される。さっきまさに僕は死にかけた」

「そうです。……レシヒトさんのしたことは、悪いことじゃないですよ」

 同じことが、ミリちゃん自身にも言える。当然分かっているはずだ。自分に言い聞かせてもいるんだろう。

 

「でも、僕らがここへ野盗退治をしに来なければ、少なくとも今はまだ……彼らは生きて動いていられた。悪党とはいえ、彼らにも子供の時代があって……きっと様々な苦労をして大人になって、今日ここで死んだ。家族だって居たのかもしれない。案外その肉塊の懐を漁れば、娘の手紙とか出てきたりして」

「関係、ないよね?」

「……考えすぎです。そうだったとしても、戦わなきゃいけないんですから」

 そう。ミリちゃんは賢くて、強い。そして他人に優しい。だからこんな言葉が出てくるわけだね。

 

「第一、この人たちを殺したのは私です。レシさんは何もしてないでしょ」

「催眠術師は暗示の結果に責任を負うものだ。そこは譲らないよ。それに……意外と平気なんだよね。もっとこう、吐き気とかしたり、手が震えたりとかするもんだと思った」

 恐らく、一度死にかけたせい。全く実感のないまま自分の命が失われかかっていて、守られて、代わりに別の命が消えた。あっけなく行われた、生殺与奪の交渉。それを理解した時に寒気はしたけど、すぐに収まった。

 

 ――ああ、『そういうもの』なんだ。

 

 そんな理解がストンと腑に落ちた瞬間。きっと、ミリちゃんにとっての初の『人殺し』もそんな経験だったに違いない。

 

「つまり、何」

「大丈夫、ってこと。行こう」

「はい。私も、大丈夫ですから」

「ン」

 

 一つ確かなのは……この日、この瞬間で、僕の価値観がひとつ『壊れて』しまったこと。多分、元居た世界でもそうやって、何らかのきっかけで『壊れて』しまった奴が居て……そういう連中が、殺人鬼とか凶悪犯とか呼ばれて世間を震え上がらせていたんだろう。

 そういう連中は往々にして、ニュースでは『普通の人だったのに』みたいに言われていたりするが、実際本当にそうなんだろう。『人を殺してはいけない』というのが不変にして普遍の原理、道徳から……一段、下に押しやられただけ。

 この世界は、その『壊れて』しまった奴らで回っている。それが『正常』なんだ。ここでは『正常』にならなきゃ生きていけない。

 

「そうだ。ラヒーシャさん、ありがとうございました」

「ン、何?」

「レシヒトさんのことです。私が守るって言ったのに……」

 そう。『正常』にならなきゃ、大切なものも守れないってことだ。だからミリちゃんは宮廷魔術師になって……もっと強大な魔術師を、目指している。それを、価値観の一番上に置いて、戦っているんだ。

 

「……? 気に、しない。ミリちゃン、他、ぜンぶ、倒した」

「うっ」

 でもやっぱり、ああして大勢の人間を紙屑みたいに薙ぎ払った経験は、彼女にはなかった。理屈は同じと分かっていても、ショックがあるんだろう。

 

「弓、撃たれたら、レシヒト、守れなかった」

「うん。だから、僕らはミリちゃんに守ってもらったことになるね」

「うー。でもそっか、そうですよね……次は、もっと頑張ります」

 だったら、これでいいよね。ミリちゃんが野盗を一網打尽にしてくれたおかげで……少なくとも、僕は今ここを無傷で歩くことができているのだから。

 

 ――。

 

「そろそろ、建物。さいみン、する?」

「ミリちゃんに?」

「ゥン」

 宿場の建物に近づいているらしい。そこで、『大賢者』の催眠をするかどうか。まあ、ラヒーシャはさっきのアレを見ているので、当然やるつもりでいるのだろう。でも、どうかな。ここ、結構難しい気がする。

 

「あっはい、良いですけど」

「それなんだけど。ここは無しの方がいいと思う」

「ゥン?」

 いやまあ、至極単純な話なんだけども……。

 

「あっ、そっか。建物」

「うん、馬屋の弟さんが経営してるんだろ、その宿場って」

「ゥン」

 ミリちゃんは分かったのだろう。そう。僕らはその宿場を『解放』しなくてはいけないわけで……。

 

「ミリちゃん、どう?」

「アー、無理ですね。あの状態の私、そういう難しいこと考えられないと思うんで……」

「大賢者なのにおバカ」

「うるさい」

 そう。大賢者ミリちゃんは、自然との同一化に全てのリソースを投入するため、加減ができない。つまり、あれを投入した時点で……宿場の建物、施設は、恐らく無事では済まない。良くて全焼、全壊。場合によってはクレーターと化してもおかしくないだろう。駄目だ。宿場の『壊崩』になってしまう。

 

「ラヒーシャはさっきの魔法見ただろ」

「ゥン」

「あれを宿場に撃ったら、建物無くなるよな」

「ン……なるほど。羊も、みんな死ぬ。困る」

 納得してもらえたようだ。まあ、野盗が羊をちゃんと残してくれているかは知らないけど……。

 

「しかし、何か面白いな」

「何がですか?」

「いや、前の世界でもこういう事件はあったんだよ。悪党が武器を持って建物に立てこもるの」

「なンの、話?」

 あ、ラヒーシャは神盟者のこと知らないもんな。まあ、大丈夫だろう。

 

「あーまあ、僕の故郷の話。気にしないで」

「ン」

「そういうとき、レシさんの故郷ではどうするんですか?」

「すごい爆弾とかあるから、建物ごと吹き飛ばすのは簡単なんだけど、いろんな理由があってあまり使われない。あと、悪党もできる限り殺さないんだ」

 面白いなと思ったのは、ここ。悪党とはいえ……人間の命よりも、建物や羊の心配をしているわけだよ、僕たちは。これは、元の世界……の、少なくとも自分の暮らし周辺ではあり得なかった発想だった。

 

「へえ、面白いですね」

「変」

 

 ――実感する。どうやら僕はもう、昨日の僕には戻れない。それはどこか、禁断の果実を盗んで楽園を追放される話にも似ている気がする。

 

「そうだな、変だなあ」

「……治安が、良かったんでしょうね。きっと」

 ミリちゃんは賢い。為政者側だからだろうか、まあそういうことだよね。

 

「でもここでは、そんなのは通用しない。……宿場に立てこもる野盗たちを殲滅しよう。生き残らせるとまた命を狙われかねないからね」

「そうですね」

「ン、皆殺し」

 今日僕から失われたのは、価値観。道徳観。倫理観。善悪の基準。そういった概念だ。多分、それはもう戻ってこない。

 元々の僕の価値観では、殺人なんて最大にして最悪の罪だったのに。ミリちゃんなんか、彼氏に黙って僕とエッチなことするのをめちゃくちゃ気にしていたくせに、普通に人間は殺していたっていうの、よく考えたら面白いじゃないか。人間の善悪の判断なんて、結構あやふやなものなんだって思い知る。

 これも一種の常識、認識の改変だよね。催眠術師としては改めて納得。失概念(パラダイムロスト)とでも言おうか。

 

「ええと。じゃあ結局、私は素面で突入するわけですか」

「建物ごと吹き飛ばすほうが安全だとは思うけど、できればそうしたいかなって」

「ン、大丈夫。室内戦、得意」

 実際、自分たちの安全を取るなら遠距離から一網打尽にしたいけど……よく考えたら、いくら依頼されているとはいえ、たかが建物を守るために自分の命を危険に晒して突入するのも、大概トチ狂ってるよな。本当に僕はイカれてしまったらしい。

 あれだよ。ロールプレイをするゲームで、『屋敷に火を放ちます』って言うタイプのクソプレイヤー。あれこそがここの最適解だろうと思うんだけど。

 

「実際、中に居るのが野盗だけとは限らないよね。宿場に残った人や、捕まった旅人とかが人質になってる可能性もある」

「アー」

「それは……まあ、殺しても、いい。けど、建物は、困る」

 ラヒーシャはそうなんだろうけどさあ。ミリちゃんの立場的に、無辜の市民は巻き込みたくないよね。

 

「だから、2人が大丈夫なら……突入で。そのなんだ、守ってくれ! 僕は戦えない!」

「ン。知ってる」

「あの状態になってなければ、私ももうちょっと周囲に注意できるんで。大丈夫です」

「助かる……」

 確かに、ミリちゃんはあの夢遊状態では本当に魔法をぶっ放すことしかできないけど、普段は流石にもうちょっとちゃんとしている。自分の判断で咄嗟にコンパクトな魔術を使ったりも多分できる。そうすると思ったより安全なのかも。

 

「レシヒト」

「ん?」

 ラヒーシャが手で制する。敵か? と思ったらそのまま歩いて道の脇へ。そこには……ああうん、さっきとは別の肉塊があるねえ……。

 

「どうしたんですか?」

「これ、持つ」

「おお?」

 賊の死体の傍らから、何か拾って……突き出されたそれは、剣の柄だ。

 

「持つ、レシヒト」

「あ、うん……」

 鞘の部分を持って受け取る。見た目は小ぶりだが、ずしりと金属の重量を感じる。ショート・ソードとか呼ばれるやつだろう。なるほど、使い物にならないなりにせめて武器を持っておけと。いやあ、困ったね。

 

「これ、革紐で腰に括るのかな」

「そんな感じじゃないですかね。使いやすければなんでもいいのでは。なんなら街で買ってくればよかったですね」

 どうにかこうにか腰に固定する。おお、結構様になっているんじゃないか?

 

「こう?」

「あ、いいですね。かっこいいですよ」

「ン。弱そう」

 ラヒーシャお前さあ。

 

「どれどれ……」

 試しに抜いてみようと、柄に手をかける。

 

「む」

「どうしたんですか?」

 握りしめた掌に、異様な感触。背筋がぞくりとする。こ、これは……。

 

「……レシヒト?」

「これは……」

「これは?」

 恐ろしい感触に、思わず手を放してしまう。これは――。

 

「――めっちゃ血が付いてる……」

「拭いたら行きますよ」

「ン」

「あっおい待って……これ気持ち悪いんだけど……」

 

 ……不格好ながらも、初めて武器を帯びた感触。これで、何かを守れるってほど強くなったわけでもないんだけど。でも、何となく。たったこれだけのことで、僕は。

 『この世界の一員』になれた……いや、なってしまった、気がした。

 

<続く>

3件のコメント

  1. 読ませていただきましたでよ~。
    南正教会の闇。まあ、北天も色々やばいわけでぅが、南正も充分やばいでぅね。
    実行部隊と司令部は別で実行部隊は細かいことを聞かずに命令のまま従うだけとか闇が深い。
    とはいえ、宗教なんてどこも闇だらけなので仕方ないでぅねw
    エルミル教会は政治にも関わってるみたいでぅし。

    そして気になったのは道徳の話。
    レシヒトさんは異世界転移させられた人なので現代日本の道徳に縛られているのは仕方ないのでぅけれど、ミリちゃんが人殺しだめ絶対とかなってるのはこの世界の治安とか考えるとどうなんだろうとは思いますでよ。
    いや、まあ、ミリちゃんはちゃんと覚悟してるしやっちゃってるわけでぅし、それがこの世界の常識なんでぅけど、それを現代日本の尺度で当てはめるのはなんか違うとは思うんでぅよ。
    この世界は壊れた人たちが正常の世界なのではなくて、ここの人たちはそれが正常なだけで壊れてもないと思うのでぅよ。日本だって戦国時代とかは戦争してるわけで人殺しも許容されてるわけでぅし。それが壊れてるのかと言ったらそうじゃないと思うのでぅ。
    人殺しがいけないことというのは現代日本ではそうなのでぅが、道徳なんていうのは状況、世相などで変わるので不変にして普遍の原理というのはちょっと違うと思うのでぅ。(まあ、レシヒトさんの考えなので突っ込むのも野暮なんでぅけど)
    なんて、人と違う趣味やら考え方をしてるようなのからすると気になったことを書き綴ってしまったのでぅ。MC趣味なんて正常じゃないんでぅよw

    であ、普通とかみんなそうだからとかいう話が好きじゃないみゃふでした。
    次回も楽しみにしていますでよ~。

    1. ヤバい宗教国家はファンタジーの華なのでやっていかなくちゃですね。

      さて。なんだかんだ言って、市井の人々にとって殺人は身近ではないと思うのです。生業にしている者とそうでない者の感覚の差はあると思うんですよね。
      レシくんの考えというより、現代日本に生きる一般的な人の道徳観では、人を殺してはいけないというのは神聖不可侵なものとして最上位に置かれています。少なくとも、哲学をしない人にとってはそう思われています。それが『動かせる』ようになること自体が異常性なのです。
      で、レシヒト君は壊れていることを悪いとは言っておらず、ここではそうあるべきなのだと言うことを受け入れ、価値観をアップデートしちゃったわけですね。

      わたしも普通とかどうとかは好きではないですが、だからこそここで「動かせる」ようになる主人公を書きたいわけなのですね。はい。

  2. 読みましたー!

    おお、トランスを経由しない催眠、これはある意味リアルならではのロマンを感じるシチュエーションですね。
    催眠状態の時のことを想起させることでその時の感覚を呼び起こして暗示を投げかける……。
    相手に暗示を入れられるようにする方法が一つじゃないっていうのは趣深いです。

    そして定番?の、敵対心をトリガーに発情させるシチュ。
    どれくらい現実において有効なのかは正直分かりませんが、実際に試して反応を見てみたいやつです。
    (そもそも現実で殺意を向けられるシチュエーションの時点で大概ですが……)

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