第一章 秋の収穫(後編)
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身体の上で気を失った秋をゆっくりとベッドにおろす。目の前で横たわっている秋を見つめながら僕は絶頂の余韻に浸っていた。すると頭の中で、
(どうよ、人間。念願かなって憧れの人に童貞を奪われた感想は?)
ギィが下品な笑い交じりに訪ねてきた。僕は息を整えながら、
「別に。僕の願いをかなえるために必要だっただけさ」
(へへ、強がるなって。お前の感情は手に取るようにわかるんだ)
「……鏡の分際で」
ギィはぐへへと笑ってから、言葉を続ける。
(さぁ、お待ちかね。今ならこの女、心が空っぽの状態だぜ。今の状態なら簡単に暗示にかかるし、なんでも話してくれる。ほら、やってみな)
「言われなくてもわかってるさ」
僕は横たわっている秋にそっと近づき、
『あき、秋、聞こえるかい? 僕の声が』
その耳元でささやく。
ううぅん、と秋はうめくように返事を返した。
『秋、君は僕を無理やり犯した、そうだね』
「……私は、ぼっちゃを無理やり、犯した」
「自分の欲望のはけ口として僕を利用した。そうだね」
秋がこくんと頷く。
『秋、君はひどい女だ。主を無理やり犯したんだから』
「わ、たしは……」
『罪悪感でいっぱいだろ。使えるべき主に酷いことをしたんだから。あぁ、僕は女性恐怖症になってしまうかもしれないよ』
(よく言うぜ、楽しんでいたくせに)
横槍を入れるギィを無視して話を続ける。
『秋は酷いね』
「私は、ぼっちゃんに、ひどいことを、いっぱいしてしまった」
『秋、罪は償わないといけないよ……よく聞くんだ。その罪を償うために、秋は一生をかけて僕にご奉仕するんだ。今日から僕は君のご主人様だ。いいかい? わかったら僕の言ったことを繰り返すんだ』
「……今日から、ぼっちゃんは、私の、ご主人様」
秋の口からご主人様という単語が飛び出し、僕の肉棒に再び血液が戻ってくる。
『そうだ。僕に酷いことをしたんだから当たり前だよね』
「あたり、まえ」
『ご主人様の命令は絶対だ。どんなことにも正直に答えなくちゃいけないし、どんな命令も素直に実行するんだ』
「ご主人様の命令は絶対。正直に答える。すべてに従う」
『さぁ、秋、これから三つ数えるよ。すると秋は、僕の完全な奴隷になるんだ。いいね?』
「三つ数えたら、私はご主人様の奴隷になる」
『いくよ、秋……三、二、一!』
僕が言葉を言い終えると、秋はビクンビクンと何度も身体を痙攣させた。やがて動かなくなったのを確認すると、僕は再度その耳元でささやく。
『さぁ、秋。僕にあの日の夜に起きた出来事を話すんだ。すべて、隠さずにね』
「……あの日、私はいつもの通りに買い物から帰ってきました」
うつろな目で秋は語り始めた。
-4-
あの日。
旦那様がお亡くなりにあの日。
私は夕方の買い物から帰宅し、すぐにキッチンに向かった。夕飯に使うために買ってきた牛肉が悪くならないよう、早く冷蔵庫に入れないと思ったからだ。あの日も真夏日を記録していて、とてつもなく暑かったことを覚えている。
キッチンで作業していると、春香さんがキッチンにやってきた。
そう、普段ならキッチンにまで入ってくることはないから珍しいなと思ったことを覚えている。
「あ! 秋! 帰ってたんだ!」
「春香さん、お早いお帰りですね」
最近春香さんはご友人たちとの付き合いで、帰りがいつも遅い。ちょっと心配だわ。
「今日の晩御ご飯なぁに?」
「今日は牛肉が安かったので、肉じゃがを作りますよ」
「えぇ~、肉じゃがぁ?」
春香さんは、不満そうに唇を尖らせた。
「たまには洋食にしようよぅ。お義父さんが健康に気を使ってるからって、最近いっつも和食ばっかりなんだもん。私、これでも成長期の女の子なんだよ? ハンバーグとか食べたいよぉ」
「成長期の女の子にとっても、和食はすごくよい食事だと思います」
「えぇ~」
ぶぅと頬を膨らませ抗議してくる春香さんに、私は思わず笑みをこぼした。
本当に春香さんは素直でかわいらしい方だ。
「あら、秋。ちょうどよかった。コーヒーを入れてくれるかしら」
しばらく春香さんと談笑していると、冬美様もキッチンへいらした。これもまた珍しいことで、普段の料理は全て私がやっているので、冬美様はほとんどキッチンへ入ってこない。
「わかりました。ええと、奥様がお飲みに?」
「ううん。あの人に持っていこうと思って。今日はずっと書斎で仕事をしているようだから、ちょっとした息抜きに」
「なるほど……わかしました」
私は冬美様に言われた通り、いつものようにコーヒーを入れ始めた。
やかんを火をかけ、旦那様用のマグカップを用意する。
あぁ、そういえば今日は旦那様の姿を見ていないな。書斎にこもって仕事しているとのことだったが、これもまた珍しい。旦那様が部屋でよく論文などをお読みになっていることなら、何度か見たことはあった。でも、一日部屋にこもって仕事なんて……今日はとことん変な日だ。
気づけば春香さんがキッチンからいなくなっていた。冬美様はお茶請けを取り出そうと食器棚を見ている。
そういえばここ最近、春香さんと冬美様のお二人が一緒にいるところをあまり見ていない。何か喧嘩でもしているんだろうか。
あれ?
冬美様が戸棚からミルクを取り出そうとしていた。旦那様はいつもブラックコーヒーしか飲まないはずなのに、変だなと思った。自分もお飲みになるのかしら?
マグカップにコーヒーを注ぎ、そのまま出来上がったコーヒーを旦那様の書斎に持っていこうとすると、
「あ、今日は私が持っていくからいいわ」
そういって冬美様は私からコーヒーカップの乗ったお盆を取り上げた。
「え、しかし」
「いいのいいの。たまには、ね」
ぱちんとウインクし、冬美様はそのままキッチンを後にした。
すると、今までどこへ隠れていたのか、春香さんが再びキッチンに現れた。階段を上っていく冬美様の後姿を見ながら、
「……め」
何かつぶやいたようだった。残念ながら正確に聞き取ることはできなかった。
春香さんは、くるりと私の方に向き直り、
「秋! なんかお茶請けないかな。ケーキとか、チョコとか」
そう尋ねてきた。
「ええと、チョコならあります。志貴さんがお友達からもらったとおっしゃっていたものが、確かこちらに」
「ありがと!」
私が戸棚から取り出したチョコの入ったお皿をまるで奪うように受け取った春香さんは、旦那様の書斎へ向かった冬美様の後を追うようにして、キッチンを出ていった。
そのあとのことはあまり覚えていない。そのあとがずっとキッチンで夕飯の支度をしていたし、他のことに気を取られるようなこともなかった。
二人がキッチンを出てから、十分くらいしたころだろうか。二階から夏帆さんの叫び声が聞こえたのは。何事かと慌てて二階へ上ってみると、書斎の入り口で立ち尽くしている夏帆さんと懸命に心臓マッサージをしている冬美様の姿があった。そして、
「だ、旦那様……」
書斎の真ん中であおむけに倒れている旦那様がいた。
書斎の真ん中で青ざめた顔をして倒れている旦那様のあの表情はいまでも忘れられない。苦悶に満ちた表情。熱風が書斎から私のいる場所に流れてくる。私の額から汗が流れ落ちる。
そういえば……あの時、春香さんはどこにいたんだろう。
よく覚えていない。
そのあとはすぐに警察を呼んで、そして……。
「……それで全部?」
裸のままベッドに腰かけている僕の股間に、床にひざまずいて顔をうずめている秋にそう尋ねる。
「ん……んん」
秋は僕の声が聞こえていないのか、僕の股間に顔をうずめたまま懸命にその頭を上下に動かしている。
「秋? 聞いてる?」
「あうぅ?」
僕の股間の分身を口にくわえたまま、上目づかいに僕を見つめる秋。その間も口の中では激しく舌をうごかし、僕の分身を刺激してくる。
「今の話で全部なの?」
「ふぁい、そうれふ……じゅび! ふあっ……今話したのが、私のあの日見た、れるれる、全部れす、ご主人様」
秋は口から僕の分身を取り出すと、今度は竿の部分に上下に舌を這わせながらそう述べた。
「ご主人様のおちんちん、すっごいげんき……へぅ、ん、ちゅ、じゅぴ……あんなにいっぱい、出したのに……まだ私に、れぅ、していただけるんでふか? はむ」
再び僕のものを口に含み、唾液たっぷりの口腔内でそれを舐る。
「そうか……」
今の秋の話を聞く限り、やっぱり怪しいのは冬美さんだ。
しかし春香の行動も気になる。
そもそも、二人は何か仲たがいをしていたようだし……。
「じゅ……じゅるる、ふはぁ、ん、ちゅ、んむ、れるるる、ふあ」
まずは、本丸の冬美さんに行く前に春香に話を聞いてみてもいいかもしれないな。
「おいひいれす、ぼっちゃんの……ん、んちゅるる、じゅぴ! ふああぁ、じゅ、レロレロ、ん、ちゅぴ」
それにしても、こんなにもうまくいくなんてな。
今回の秋への催眠は計画通りに進めることができた。
秋が僕に対してやましい感情を抱いていることはなんとなく察していたし、これを利用する手はないと思った僕はわざと僕を襲わせた。そしてその罪悪感に漬け込む計画を立てた。
「また、かたうなってう……ちゅ、んぱっ!」
「くっ!」
いろいろと集中して考えたいところだが、股座に顔をうずめたまま卑猥なメロディーを奏でている秋の様子にさすがに細かく頭を働かせるのは無理だ。
秋の舌先が僕の怒張をゆっくりと這うように上下に動き、亀頭にたどり着いたところで円を描くような軌跡に変わる。その緩急のついた見事な動きに僕の理性も吹き飛びそうだ。
「ろうれすか? ご主人様、ひもひ、いいれすか?」
「あぁ、いいぞ、秋。この数時間でだいぶうまくなったね」
催眠をかけてからすでに三時間くらいは経過しただろうか。その間、僕はずっと秋とまぐわい続けた。もう何度射精しただろうか。秋の身体中に僕の精液がまとわりつき、怪しく光っている。それでも僕の分身は主張を止めることなく、今もまた秋を貫きたくてぴくぴくと脈動していた。
「ありあとう、ろらいまふ……ん、ちゅぱ……あはっ! ここ、ご主人様のここをなめるとご主人様、ぴくんて、なるえすぇ」
カリ首のあたりに僕のウィークポイントを見つけたらしい秋は、無邪気な子供のようにそう言うと、そこを重点的に舌先で攻めてきた。
「れるれるれる、ちゅぴ、ん、あふ。ちゅるる」
「くっ……いいぞ、秋」
「ほんろれすか? うれしいれふ……んん、ちゅ、える……れろぉ」
「……秋。そろそろ挿れてやる。おしりをこっちに向けろ」
「はぁはぁ……はい。ご主人様。どうか、このいやしい奴隷に、ご主人様のお情けをくださぁい」
僕の肉棒から口を離した秋はベッドに四つん這いになると、その弾力のあるおしりを僕に向け、教えてもいないのにそんなセリフをつぶやいた。そのまま自ら陰唇を指で広げ、てらてらと光る秋の恥ずかしい入り口を僕に見せつけてきた。その肉の入り口はひくひくと脈打ち、僕のものが入ってくるのを今か今かと待ち望んでいるようだった。
僕に完全に服従するその姿に、僕は笑みをこぼすのを抑えられないでいた。
「いい子だ、秋。最高の奴隷になった、ねっ!」
「ありがとうございます、ご主人さ……まぁぁぁっ!」
秋が言い終える前に、僕は背後から秋の中に自分の肉棒を挿入する。その瞬間、秋は悲鳴にも似た嬌声を上げた。そのまま秋の尻をわしづかみにし、獣のごとく僕は腰を振る。十分にほぐれ切った秋のオマンコは、幾度となく僕のものを受け入れてきたためか、もはや前戯などしなくても十分に濡れそぼっていた。
ぱんっ!ぱんっ!という肉と肉のぶつかり合う音が部屋に響き、獣の咆哮じみた秋の声が響く。
「ふああっ! あっ! ご主人様! ごしゅじんさまぁぁぁ! 最高です! さいこうぅっ!」
「あき! あきいぃ!」
無我夢中で腰を振り続ける僕の脳裏に、ギィの声が響く。
(それがお前の本性だぜ、志貴。ようこそこちら側へ)
それは今までに聞いたことのないくらいに邪悪なその声は、どことなく僕自身の声にも聞こえた。
<続く>