第二章 春の目覚め(前編)
-1-
僕の本当の母親は、僕が小学2年生の時に死んだらしい。
母親の記憶はあまりない。だから死んだことに対しては別段悲しくもない。だが亡くなった母がベッドに横たわっている姿と、母が亡くなった日の父さんが泣き叫んでいる姿はおぼろげながらではあるが覚えていて、その姿を見て猛烈に悲しい感情になったことも覚えている。
それからはずっと父さんと二人暮らしだった。
大学病院の医者だった父さんは、母を救えなかった後悔の念からなのか今まで以上に自分の仕事に没頭した。深夜になっても帰宅しないことも多かった。医者としての権威と名声を徐々に獲得していく一方で、僕との親子関係は徐々に希薄になり、たまに家に早く帰ってきても父さんと会話することはほぼなかった。
でも寂しいとは思わなかった。
仕事にひたむきに取り組む父さんのその姿に僕は憧れていたからだ。
いつか自分もあんなふうに何かに熱中したい。素晴らしい仕事を成し遂げたいと思っていた。
その生活が一変したのは僕が中学最後の年だった。
「志貴、紹介するよ。冬美さんだ」
「はじめまして、志貴さん。これからよろしくね」
父さんが突然再婚相手を連れてきた。同じ病院に勤める看護師で、名前は冬美といった。驚いたことに冬美さんは父よりも10歳も年下で、しかも二人の子供がいた。
それが夏帆と春香だ。
「よ、よろしくです。お、お兄ちゃん」
「……よろしく」
新しい家族に戸惑いの連続ではあったものの、それなりにうまくやれていたと思う。それも全て父さんがうまく立ち回ってくれていたからだった。仕事ばかりの生活を変え、積極的に僕たちと出かけるようになった。義理の兄妹の関係を気遣ってか、なるべく夕食も六人全員でとるように心がけていた。
六人で過ごした日々に僕もそこそこ満足していた。
だが、その日々が突然途絶えてしまう。
父が書斎で服毒自殺を図ったのだ。遺書はなかったが、状況からみて自殺であると警察に断定された。その後の家族の崩壊は早かった。父の財産のほとんどは冬美さんに渡ることになり、冬美さんはまるでそれまでひた隠しにしていたものを全て吐き出すかの如く、父の遺産を湯水のように浪費しまくった。
毎日のように若い男友達を家に招いてはパーティを開き、夜は彼らをとっかえひっかえに一夜を過ごす。夏帆はそんな冬美さんに愛想をつかしたのかほとんど家にいない。春香は唯一家に残ってくれているが、基本は秋と一緒に過ごしている。僕もそんな家の中に居場所はない。
そんな生活を送り続ける中で、僕はこう思うようになった。
父の死は本当に自殺だったのだろうか、と。
母の死を嘆き、他人の命を救うことに全力尽くしていた父が自ら命を絶つ……そんなこと絶対にありえない。
では誰が?
もしかして父は殺されたのか? 状況的に外部の犯行とは思えない。
じゃあ誰が?
僕の疑念は残された三人のかりそめの家族に向いた。
まさか、冬美さんが?
父の死体が発見されたあの日、僕以外の全員が家にいた。
もしかして春香が?
今でも覚えている。僕がアルバイトから帰宅すると、慌てたように駆け寄ってきて叫ぶ夏帆。泣きじゃくる春香と心肺蘇生をする冬美さん。その様子を青ざめた様子で見ている秋。
もしかして夏帆が? それとも秋が?
四人の顔が目の前を通り過ぎていく。この四人の中の誰かが、父を殺したのか?
「あの人はとってもよい人だったわ。医者としても一流だった」と冬美
「義理とは言え、父親がいなくなった悲しみくらい私だってわかるわよ」と夏帆
「とっても悲しいし、なにより志貴兄ぃがかわいそう」と春香
「ぼっちゃんには私がいますから、大丈夫ですからね」と秋
誰かが嘘をついている。誰かが父を殺したに違いない。
僕は決意した。どんな手を使ってでも父を殺した犯人をあぶりだす、と。
僕の生きる目的はただそれだけ。だから……。
手元のスマホに目を向ける。春香の笑顔の写真が写っている。
今度は春香、君の番だ。
-2-
母の再婚話を聞いたとき、春香は正直乗り気ではなった。
今更自分に父と兄ができても、うまくやっていける自信なんて全くなかった。これまで女三人で生活してきた春香には男性との生活は未知のもので、どう接していいかわからない。だから新しい家族に会いに行く日も憂鬱で仕方なかった。
そんな春香の気持ちが大きく変わったのは、
「初めまして、春香さん。私はこの家のハウスキーパーの秋と言います」
新しい家で秋に出会ったときだった。このとき春香の中で何かがはじけたのだ。
これまでの人生で何度かいいなと思った男性はいた。実際に交際まがいのようなこともしてみたこともある。だけどそのたびになにか物足りなさを感じていた。男性との交際では満足できない何か。その違和感の正体に春香はこのときはじめて気づいた。
そうか、自分はこの人に会うために生まれてきたんだ。
「秋さん、よろしくお願いします。春香です」
新しくできた家族、特に秋と過ごす時間は、春香にとって幸せな時間だった。なるべく二人で過ごしたいと、秋の買い物にいつも付き添うようにした。帰り道、何気ない会話をして帰るのがとても楽しかった。
義父が死んでからは母も姉も家を空けてばかりで寂しかったが、そんな寂しい日も秋がいれば乗り越えられた。いつも自分のことを気にかけてくれ、優しい言葉をかけてくれる秋に春香はどんどんと心惹かれていた。
いつの日か、秋と特別な関係になれることを夢想したこともある。
でも今は、一緒に買い物に出かけたり話をしたりするだけで十分だと秋は思っていた。
そんな楽しい日々に違和感を覚えたのはつい最近のことだった。
義理の兄である志貴の様子がおかしいことに気づいてからだ。いや、正確に言うと志貴と秋との関係に違和感を覚えてからだ。
義父が亡くなってからというもの、近づきがたいオーラのようなものをまとっていた志貴が最近と秋と会話している時にだけ穏やかな表情を見せる。
「秋、今日のご飯は何だい?」
「今日はご……ぼっちゃんのお好きな春巻きです」
「そうか、うん。おいしそうだ」
まるで恋人同士のように見つめあいながら、そんなたわいもない会話をする二人に春香は疑念を抱いていた。二人に何かあったんじゃないだろうか。
それに最近は二人きりで家に残ることも多い。
「ねぇねぇ、秋。一緒に買い物行こうよ!」
これまで春香がそう誘えば秋は必ずと言っていいほど、
「いいですね、行きましょうか」
と言ってくれていたのに、最近は、
「申し訳ありません。今日はちょっと……」
と言って志貴の方に視線を向けるのだ。
秋と志貴が二人きりで家に残る。それだけでも春香は気に食わないのに、そんなやり取りをする最近の二人の様子に春香は我慢ならなかった。
私の秋なのに。
その日も二人だけで家に残るというので、春香はここぞとばかりに一計を案じてみることにした。
今日は出かけたふりして、こっそり家に戻ってきてみよう。
最初は子供じみたいたずら心のつもりだった。二人がいちゃいちゃと恋人ごっこでもしているようなら乗り込んでいって冷やかしまくってやろう。それくらいの気持ちでいた。
「いってきまーす」
いつのように家を出た春香は、しばらく自宅の周辺をうろついた後、
「そろそろいいかな」
こっそり家に帰宅してみることにした。
聞こえるはずもないのに足音を立てないように玄関へ。
「あれ?」
誰かしら在宅している際はいつも開けっ放しになっているはずの玄関の鍵が、なぜか今日に限って閉じられていた。
……やっぱり怪しい。
春香はこっそり冬美の部屋からくすねてきた合い鍵を使い、まるで空き巣のように自宅に侵入した。しんと静まり返った一階。二人とも二階にいるんだろうかと、忍び足のまま階段に足をかけたその時だった。
「……まぁ」
ん?
何やら二階から声がした。
「……さまぁ」
秋の声だ。だがいつもの凛とした感じの声ではなく、どこか甘えたようなねっとりとした色気を帯びた声だった。
そっと春香が耳を澄ませてみると、
「ご主人様ぁ、お願いしますぅ」
そんな秋の声が春香の耳に飛び込んできた。
え、あ、秋……。
まさかの秋の声に内心驚きながらも興味の方が勝った春香は、そのまま音をたてないようにゆっくりと階段を上っていく。
「あぁ、ご主人様、ご主人様ぁ」
声がはっきりと聞こえてくる。どうやらその声は志貴の部屋から聞こえてくるようだ。はっきりと聞こえた秋の声は今までに聞いたことないくらいに艶っぽかった。自然と春香の心音が早まっていく。
「ご主人様ぁ……お願いしますぅ。あきの……秋のここに、ご主人様のぶっといのを入れてくださいぃぃ」
え、え、え、あ、秋?
ただならぬ声に、春香はごくりとつばを飲み込む。
どう考えてもこれは……。
春香は志貴の部屋のドアにそっと近づくと、音をたてないようにノブをひねる。そのままゆっくりと扉を開け、空いた隙間から中を覗き込んでみた。
「本当にはしたない奴隷だね、秋は。そんなにこれが欲しかったの?」
「はいぃぃ、欲しかったですぅ、ずっと、ずっぅと我慢してたんですぅ」
部屋の中には、メイド服を着こんだ秋と全裸の志貴がいた。
超ミニのフリルスカートに、秋の大きな胸を隠しきれていないブラジャー型のエプロンを着込んだ秋の姿が見える。そのエプロンは秋の胸をあえて強調せるようになっており、エプロンの横からは豊満な秋のおっぱいがはみ出していた。短いスカートから秋の生脚がちらちらと見え隠れしている。その煽情的な秋の姿に、春香はさらに心臓を高ぶらせた。
秋ったら……なんてはしたない格好を。
そんなはしたない姿をした秋は志貴のベッドに腰かけ、その前に椅子に座った志貴を上目づかいに見上げていた。春香が覗き込んでいる場所からだとちょうど秋が正面におり、志貴の背中だけがこちらを向いている。
「はやくぅ、はやくここにいれてくださぃ」
「いれる? どこに? ほら、いつもみたいに見せてごらんよ」
「はいぃぃ……見てぇ、くださいぃぃ、秋のここぉ、じっくりとぉぉ」
秋はベッドに深く座ると、志貴の目の前で自分の両足を大きく広げて見せた。
きゃっ!
春香は思わず漏れそうになる声を必死にこらえる。秋が足を広げると同時にスカートが大きくめくれ上がり、そこから秋の大事な部分がすっかり顔を見せていた。
「ごしゅじんさまぁぁ、いかがですかぁ?」
下着をつけていない自らの恥部を見せつけるように開いた股の中央には、ヒクヒクとうごめく陰裂が見えた。そこには黒々と光るバイブが挿入されており、ぶーんという鈍い音を立てながら秋の恥部を責め立てている。
うそっ、秋ったらあんなもの……。
秋が身をよじりながら志貴に懇願する。
「こんな……こんなの朝からずっといれられて……私、もう我慢できませんんっ」
だが志貴はいじわる気に、
「ふうぅん……でもこのふっといバイブを朝からずっと咥えていたんでしょ。もう充分じゃないの? 僕のこんなの入れなくてもさ」
そう言いながら志貴はゆっくりと秋に近づき、大きく広げられた秋の太ももに自分の肉棒をペチペチとたたきつける。すると秋は狂ったように、
「いぁ、いやぁあぁぁ! お願い、お願いしますぅっ! それが、それが欲しいぃんですぅ。バイブじゃ、いやなのぉぉ、ほんものがいいのぉぉ!」
そんな叫び声をあげた。
秋ったら、なんてはしたない声を……。
初めて聞く同性の嬌声に春香の鼓動は早鐘のように激しくなっていく。自分の心音が聞こえないか新派になるほどだ。
「お願い、おねがいぃ」
「じゃあこの前教えた通りちゃんとおねだりしてご覧よ。僕の奴隷らしく、とってもいやらしく、ね。もしもできなかったら、今日はこれお預けだよ」
「はいぃぃ、します。おねだりしますぅぅ」
秋はバイブを加えこんだ陰唇をぐっと両指で広げながら、
「ご、ご主人様……秋の……秋のいやらしいメス穴に、どうかご主人様のちんぽをぶちこんでくださいぃ。はしたない奴隷をどうか、あぁぁ、どうかいじめてくださいぃ! うひぃぃぃっ!」
秋が言い終えるや否や、志貴は黒いバイブを秋からずぼっと引き抜き、そのまま濡れそぼった秋のオマンコに自らの肉棒をいきなり挿入した。
「ほぉぉっ、お。ほおぅっ」
十分に潤っていた秋のオマンコはスムーズに志貴の肉棒を受け入れ、ぐちゅぐちゅといういやらしい音と白い粘着質な泡を立てながら卑猥なハーモニーを響かせる。
「あぁぁぁ! これぇえ、これが欲しかったのぉぉ。き、きもじいぃぃぃっ!」
頭を振り乱しながら感じる秋の姿に春香も興奮を隠せない。
あぁ、秋……すっごい、いやらしい顔してる。
秋が喘ぎ、叫ぶ姿に気づけば春香は自らの指を股間に伸ばし、ショーツのクロッチの上から自分の陰唇をこすり上げていた。志貴の抽挿に合わせ、春香も指を動かす。徐々に自分の息が荒くなっていくのを感じていく春香。
「ひぃい! あっ! ああっ、ふっ、あああんん!」
「ふ……ん、んあっ!」
秋の声に合わせ、春香も声を押し殺しながらあえぐ。
「あああっ! ご主人様! イキます、イキますぅぅっ!」
「くっ! 僕も、僕も出すよ! 秋! くっ……うっ、あああっ!」
志貴と秋が共に絶頂する声が響く。
「あっ……く、んんぅぅ!」
それに同調するかのように春香も絶頂に達し、体を小刻みに震わせる。ショーツに収まり切れないほどにあふれ出た愛液が床に垂れる。口に手を当てたまま、春香は熱い息をこぼす。
わ、私も……イッちゃった……。
自分の指先にまとわりつくねっとりとした感覚。その指をしばらく見つめていたが、
に、にげなきゃ……。
ぼおっとする頭を無理やり起こし、その場を後にしようと志貴の部屋に背を向けたその時だった。
「どこ行くの? 春香」
びくぅ!
先ほどまで隠避な光景の広がっていた志貴の部屋の扉の向こうからふいに声をかけられた。恐る恐る春香が振り向くと、じっとりと汗ばんだままの志貴が扉の向こうからこちらを見下ろしていた。その向こうで秋が満足そうに笑みを浮かべながらこちらを見ているのが見えた。
<続く>