最終章
「行くの?」
ぼくは、舞ちゃんを後ろから抱き締めて、そう聞いた。
もう、何度も聞いたというのに、もしかしたら引き止められるかも知れない・・・なんて、ありそうも無い希望に縋って。
「ええ。そんなに掛からないと思うから・・・待っててくれる?裕司さん」
舞ちゃんはお腹に回されたぼくの腕にそっと手を重ねて、甘えるように体重をぼくに預けて、そう言った。
最近、ぼくと二人だけの時、舞ちゃんは自然と言葉遣いが親しげなものに変わるようになっていた。それが、心が震えるほど嬉しかったのに。
ぼくは最近、舞ちゃんが快感を感じないのは、もしかしたら彼女が父親と関係を持ったという罪悪感が、原因じゃないかと思うようになった。
ぼくは心理学者じゃないから断言は出来ないけど、父親とのセックスで感じなければ、それはただのスキンシップと割り切れる、そんな事を無意識に信じてしまったのではないかと。
それなら、彼女がぼくの家族を快感の虜にしていくという歪み方も、家族との間でのスキンシップとは考えられないだろうか。悪意ではなく、害意でもなく、ただ家族の一員になりたかっただけじゃないのだろうかと・・・そんな気がする。
だから、だんだんぼくと舞ちゃんとの距離が近付いてきた今、もしかしたら彼女はセックスにスキンシップ以上の何かを求める・・・快感を感じるようになるのではないかと、期待していた。それなのに・・・。
「あの叔父様たちを、破滅させるだけだもの。簡単だわ」
舞ちゃんは、くすり、と楽しそうに笑う。
艶やかに、美しい笑顔で、そんな恐ろしい言葉を口にして。
最近事業に失敗した遠い親戚が、舞ちゃんの父親の遺産を目的に、舞ちゃんに接触してきた。その為だけに、舞ちゃんを引き取りたいと。もちろん、そんな下衆な事を、言葉にはしなかったけれど。
そのあまりの利己的な考え方は、吐き気がするほど気に食わなかったのだけど、それ以上に、舞ちゃんに付きまとうその姿は、醜悪としか言いようが無かった。
だから舞ちゃんは決めたのだという。
あの叔父達を、破滅させるのだと。
「裕司さんが、私の事を忘れちゃう前に、ぜったいに帰ってくるの。だって・・・」
きゅっと、ぼくの腕に重ねた手に、舞ちゃんは力を込めた。それは、ぼくの腕を離したくないと、言っているみたいだった。
ぼくも、舞ちゃんの身体を、ぎゅっと抱き締める。
言葉を探すみたいに口を閉じた舞ちゃんに、ぼくはそっと囁いた。
「・・・あいしてる・・・」
万感の思いを込めて。
何度も身体を重ねているのに、ぼくがそれを口にするのは、これが初めてだった。
ぼくの腕の中で、舞ちゃんの身体がピクっと小さく震えた。
「・・・」
舞ちゃんからの応えは無かった。
けど、俯いた舞ちゃんの頬をつたったのは、喜びの涙じゃなかっただろうか。
彼女のおとがいが、こくんと小さく頷いたようには、見えなかったろうか。
それに・・・振り向いてぼくに向けた輝くような笑みは、舞ちゃんも同じ思いなのだと。
――ぼくは、信じる――
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ぼくは、今日も家族に催眠術を掛ける。
最愛の支配者、舞ちゃんが帰ってくるその日まで、ぼく自身のスキルを磨く為。
そして、彼女が楽しめる環境を、維持する為。
ぼくのモノに、母さんが、胡桃が、苺が、蕩けるような表情で群がっている。
少しでも快感を得ようと、催眠術で性器にされた舌で、ぼくのモノを舐めようとして。
部屋の片隅では、父さんが獣のようなぎらついた目でこちらを見ながら、自分のモノを扱きたてている。
家族はみんな、それぞれの形で最高の快感を感じている。
ぼくは、そっと目を閉じた。
――はやく、かえっておいでよ。
ぼくは、最愛の彼女に、心の中で語りかけた。祈るように、願うように、そっと。
――いつまでも、ずっとまっているから。
――あいしてる・・・舞ちゃん・・・。
< おわり >