なみのおと、うみのあお 最終話 -諒一-

最終話 -諒一-

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 それまで何の取柄の無い僕だったけど、人間何がきっかけで変わるか、誰にも判らないものだとつくづく思う。そう、今の僕は、客観的に見ても、もう”普通”でも”取柄が無い”訳でも無い。それが、”力”を得たという事なんだと思う。

 ”力”・・・良く聞く単語ではあるけど、どういう意味だか”普通”のやつは理解しているんだろうか?知”力”、体”力”、腕”力”、読解”力”、理解”力”、そして、強制”力”・・・。

「んぅ、あぁあああん、くぅ・・・やぁん」

 僕の足元で、喘ぎ声が上がる。まるで、耳から侵入して、頭をどろどろに蕩かすような、淫らで、刹那的な声。途絶える事無く、四種類の声が喘ぎ続ける。僕は、薄く笑って思索に戻った。

 思うに、”力”とは自分も他人も含めて、どれだけの影響を与え得るか、それを示す言葉ではないのだろうか?どのような形であれ、多大な影響を及ぼし得る・・・それが、力があると言う事、そう僕には思える。

「ああん、いいよぉ・・・ねぇ、りょういちもぉ・・・あああぁ」

 僕が視線を下に向けると、そこには4人が裸で絡み合い、愛撫しあう姿があった。綾香、陽子、沙織、恵・・・『海の記憶』で、僕のモノにしたオンナ達。快楽に敏感で、淫らで貪欲な・・・僕がそう作り変えた存在。

 綾香・・・僕の幼馴染で、最初に実験した女の子。僕の事を、好きで好きでたまらなくしてある。僕が望めば、その身体を他の誰かに差し出すことも厭わないぐらいに。
 陽子・・・綾香と仲の良かった保健医。綾香の為なら、どんなことをしてもいいというぐらいの愛情を植え付けた。そう、綾香のそばにいられるなら、僕の奴隷になってもいいという風に。
 沙織・・・本屋の店員、いや店長だろうか?もともと淫乱と言ってもいいぐらいに快楽に貪欲な彼女に、通常ではありえない快楽を教えてあげた。ある意味、自分から進んで僕のモノになった人ではある。
 恵・・・人に見られるのが好きという大学生。バイト先のコスプレ喫茶を巻き込んで、たっぷり快楽を味あわせてあげた。コスプレ喫茶の中で、一番のお気に入りだ。

 4人とも・・・いや、これまで『海の記憶』を使用した相手は全て、完全に僕の言いなりになる”モノ”になった。それは、僕こそが”力”のある存在という事の証明だろう。

「綾香、陽子、二人で僕のモノにご奉仕するんだ」
「あん、りょういち・・・うれしい・・・」
「は・・・はい・・・」

 けだるげに身を起こした二人は、這うようにして近付いて来た。綾香は力強く上を向く僕のモノを、愛しげに先端を口に咥えた。陽子は思いっきり舌を伸ばして、裏側を刺激する。二人のテクニックは凄まじくて、最初の頃の僕だったなら、あっという間に精を放っていただろう。けど、今の僕は、経験と・・・『海の記憶』を自分に使うことで、かなりの持続力を身に付けていた。自分でそう思わなければ、いくらでもこの刺激に耐えられる。

 最初にそうしようと思ったのは、綾香一人を抱いていた頃だった。快楽に身悶える綾香を見て、快楽以外の暗示を与えられないか・・・そう考えた。記憶力、判断力、計算力、運動能力・・・試してみたいものはたくさんあった。
 用意するものは数分間で終わるようにした『海の記憶』と、暗示を掛ける自分の声を録音したテープ。それは、面白いほどの効果を発揮した。その時一緒に実験したのが、テープに録音した『海の記憶』で暗示が与えられるかと、それを聞いても暗示に掛からない方法だった。

「ねぇ、りょういちぃ・・・欲しい、ほしいのぉ・・・入れてもいい?・・・ねぇ」
「綾香はえっちだね。・・・いいよ、僕に跨って入れるんだ。陽子は綾香のお尻の穴を、たっぷり舐めて」
「ああ、ありがと、りょうち・・・んんっ・・・あぁん、すごいよぉ・・・おくまでとどいて・・・きもち・・・いい・・・」
「あやかちゃん・・・きれい・・・んっ・・・」
「ひっ!・・・ようこちゃんっ、おしり、いいよぉっ!・・・もっと、もっとぉ、おくまで・・・っ!」

 僕の上で、綾香の身体が快楽に踊る。入れるのは確かに気持ち良いけど、最近の僕は、相手がどう悦ぶか、どう悶えるかが愉しみになってる。歳の割には達観した愉しみ方かもしれないけど、もう、普通である意味は無いんだし・・・。

「ああん、あっ・・・りょういち、すきっ・・・すきぃっ!!あ、ああっ、んんっ!」

 前を僕に、後ろを陽子に犯されながら、悦びに涙すら流して喘ぐ綾香を見て、脈絡無く・・・思い付いた事があった。それは、普通だったらやれる訳が無い、狂気に近い発想だと我ながら思うけど・・・そう、僕は普通じゃ、ない。魅力的な発想が、僕を興奮させた。

「ふふ、そろそろイクよ」

 そう断ってからから、綾香の身体を揺さぶるようにして、激しく抽送する。持続力を自由に出来るからと言って、思っただけで射精できるのではつまらない。やっぱり、テンションを高める方が気持ちいいから。

「あ、ああ、あっ、んう、いく、いくぅ、あ、ああああ、あ、すごっ、うあっ!」

 舌で綾香のお尻を追いきれなくなったんだろう、陽子は指を2本挿し込んでいた。その指の感触が、僕のモノの裏側に擦れる感じがした。射精感が高まる。

「んっ!」
「ああああああああっ!」

 僕が力一杯欲望を放つと、綾香の中がぎゅっと締まって、まるで全てを吸い出そうとするような動きを見せた。僕の背筋に快楽の電気が流れる。綾香も激しい絶頂を感じていたようで、身体ごと一つになりたいとでも言うように、僕を抱き締め、肌を密着させる。綾香の早鐘を打つような鼓動と、時折びくっと震える身体が、耳元で聞こえる荒い息が、なぜか不思議と愛しかった。

- 2 -

 激しい雨の朝。誰もが学校を休みたくなるんだろうけど、今日の僕は違ってた。早く学校に行きたいとすら、思ってる。
 僕の手の中に『海の記憶』を30分ほどリピートして録音したテープが2本と、雑音を通さない耳栓がある。これが僕の武器、力の源だ。通学用のカバンにしまって、気分を落ち着かせるように深呼吸した。

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 家を出ると、綾香が雨の中待っていた。僕を認めて、輝くような笑顔になる。

「おはよう、諒一っ!いよいよ今日だね!」

 わざわざ玄関にいる僕の方に駆け寄ってきて、嬉しそうに言う。昔は生意気な口調だったのが、今は自然に柔らかい言葉遣いになっている。並んで歩くと、自然にスキップ気味になるのが可愛い。
 僕は綾香にどういう態度を取るかは強制していない。だから、今の綾香は”恋をした綾香”という事になる。いつも会う度、綾香がこんなに可愛かったのかと、目からウロコが落ちる気分だった。

「予定通り雨だし、準備はしてあるし、順調だよね?」
「ああ、たっぷり愉しもう」

 僕は自然に綾香に微笑んで、学校に並んで登校した。

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 体育館で、朝礼が行われる。これは、朝礼がある日で雨が降ると当たり前の事だけど、生徒には不評だった。各教室にテレビがあるんだから、別に集まる必要はないじゃん、という意見だ。それを言ったら、晴れた日に校庭でやる朝礼だって、貧血で倒れる生徒がいるんだから廃止すべきなのに、なぜかその意見は出てこない。不思議なものだと思う。

 僕は、体育館の2階にある放送室から、全校生徒を見下ろした。耳栓をしている事を確認して、そばにいる放送委員の男子生徒に『海の記憶』のテープを渡す。もちろん、僕の命令をなんでも聞くように洗脳済みだ。これからこのテープを全校生徒、先生方に聞いてもらう。
 緩やかに流れ出す音。耳栓越しに微妙に音が変わって、脳裏に映る海の青も、なんだか霞んでいるように思える。そのおかげで意識を保っていられる訳だけど、逆に言えば、それが僕の”力”の限界でもあって、もし生徒の中に耳が聞こえなかったり、ウォークマンを聞いてたりする生徒がいれば、全てが失敗する訳だけど。
 僕は、放送室の窓から、体育館を見下ろした。校長の訓辞の途中から『海の記憶』が流れ始めたんだけど、先生や生徒に混乱している様子は見受けられない。全員が網に掛かったと思ってもよさそうだ。一応用心の為に5分位流して、全員の様子に変化が無い事を確認してから僕は下へ降りて行った。
 ちなみに、今は校舎内でも『海の記憶』が流れているはずだ。耳栓をさせた陽子が担当で、たとえサボりの生徒がいても、これでフォローが効くはずだ。設置されてるスピーカーの音質がいいおかげで、不安は無い。

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「僕が相川諒一・・・先生、生徒を問わず、ここにいる全員の『ご主人さま』だよ。みんなは、僕の言う事に逆らう事は出来無い。逆らおうという事すら、考えられない。僕の言う事は、みんなにとって、絶対だから。逆に、僕の言う事に従えば、君達は幸せを感じる」

 僕はマイクから口を放して、周りを見渡した。僕の言葉が、みんなの心の深い所に浸透するのを待つ。綾香と目が合って、僕は笑いながら来るように合図した。

「いいカンジだねっ」
「ああ、でも・・・もう少しきつく暗示を掛けておこうか」

 僕はそう言うと、マイクに口を近付けた。『海の記憶』は、あと15分ぐらいは流れるから、僕に従う事の悦びを心に刻み込んでおく事にする。

「さぁ、全員その場で服を全て脱ぐんだ」

 僕がそう言うと、虚ろな目をしていたみんなが、躊躇う事無く脱ぎ出した。脱ぎながら嬉しそうな顔をしていたり、淡々と脱いでいたりと、ここら辺は結構個人差があるようだ。ふと脇を見ると、さっきどかした校長が嬉しそうに脱いでいるのを見て、軽い吐き気を覚えた。

「ね、私も脱いだ方がいい?」

 無邪気に聞いてくる綾香に、僕はいいよ、と答えた。もしかしたら期待してるのかも知れないけど、今はこっちの方が大事だから、綾香には見物に回ってもらう事にする。
 全員が脱ぎ終わった事を確認して、次のステップに行く事にする。少なくとも、『海の記憶』を全員聞いているのは確認できたから。

「オナニーした事が無い人は、手を上げるんだ。オナニーの意味を知らない人も手を上げる事」

 僕の言葉に、誰も手を上げなかった。一年生でオクテなコでもいるかと思ったけど、それなりに知識はあるらしい。隣で手を上げるのが見えて振り向くと、綾香が笑いながら手を上げていた。僕は小さく笑って、「ばぁか」と言うと、先を続けた。

「オナニーしても、気持ち良くないって人は、手を上げて」

 この言葉にも、反応する人はいない。まぁ、それはそうだろう。

「みんな僕の言う事を聞いたから、今から幸せにを感じるようになる。具体的には、オナニーをして気持ち良くなったカンジを思い出して、実際に感じるんだ」

 途端に体育館に淫らな熱気が充満した。全員裸なのに、体内の熱が堪えきれない程に高まっている。でも、まだまだ。

「今から僕が『はい』と言うと、その気持ち良さがずぅんと大きくなる・・・『はいっ』」

 体育館の中を、喘ぎ声が満ちた。中には、耐え切れなくて座り込む生徒もいる。あまりやりすぎて失神されても困るけど、あと1,2回は大丈夫だろう。それよりも、これ以上喘ぎ声が大きくなると、校外に聞こえてしまうかも知れない。

「さぁ、みんな僕の言う事に従ったから、もの凄く気持ち良くなった。でも、まだまだだよ。僕が許可するまで、何があっても声が出なくなる。いいね、『はいっ』」

 淫靡な熱気が、まるで蒸気のように湧き上がる。でも誰も声を上げない。代わりに聞こえてくるのは、荒い呼吸音とぴちゃ、ぐちゅっといった粘液質な音。もう、我慢できずにオナニーを始めたのだ。全校生徒と教師で、1000名を超える人数のオナニーショー・・・壮絶な景色かもしれない。

「次に僕が合図すると、すごく気持ち良くなって、イク・・・頭の中が真っ白になる・・・。その真っ白な頭に『僕に従う事が幸せ』っていう事が刻み込まれる。もう、忘れる事は出来ない。もう、逆らう事は出来ない・・・『はいっ!』」

 空気が無音で爆発したみたいだった。快楽のあまり床で悶えていた全員が、僕の合図で仰け反り、足のつま先まで突っ張らせ、床をかきむしり、激しい絶頂に達したのだ。僕まで釣られてぞくぞくした。
 『イク』ことを知らない女生徒がいるかも知れないと思って心配したけど、どうやら大丈夫そうだった。今までの例から、ここまで快楽を刻み込めば洗脳は完璧・・・そう確信できた。
 体育館の中に、甘い体臭と、精液の匂いが充満する。後で、掃除をさせなくちゃ。

「んっ・・・んん・・・」

 僕の横で、綾香が下半身をもぞもぞさせている。これだけのものを見れば欲情しても当たり前だし、実際僕も結構昂ぶってるけど、欲望を吐き出すのは後にする。なにより、あと数点暗示を与えたり、解除したりしなきゃいけないから。『海の記憶』の放送が止まるまで、あと5分も無かった。

- 3 -

「それじゃあ次は、吉田さん読んで」
「はい」

 今は3時限目の英語の時間。あれから2時間近く経っている。窓の外は土砂降りになった雨が、まるでカーテンの様に視界を覆っている。締めきった窓に水滴が浮いて、湿度が高くなった教室内は、少しむっとした空気が流れている。

「Take! All! It is this hand! Instinct which presupposed that the heart was damaged even if and woke up The body is run about.」

 結構滑らかな発音で、教室の中に吉田さんの声が響く。背筋を伸ばしてきりっとした雰囲気で、そういえば男子に人気があったはずだ。そのうち相手をしてもらおう。

「Language changes a meaning and yesterday’s truth becomes today’s lie. Everyone only wanders about.」
「ああぁんっ、いいよ、いいよぉ!とけちゃうっ!」
「みんな授業中なのに、もう少し声を押さえられないの?綾香って、淫乱なんだ?」

 僕は今、前の方の窓際にイスを持って行って、みんなに見える様に綾香に挿入しているところだ。さっきの興奮をずっと焦らされていた綾香は、押さえる事のできない快楽に、どろどろに蕩けている。

「Good fantasy of the convenience by the dream, love, etc. It steps on reality firmly and a hand is lengthened to the endless future. 」

 僕と綾香の痴態が見えていないように、授業は進んで行く。でも、見えてない訳じゃない。ミツコ先生も、女生徒も、時々羨ましそうに綾香を見ている。中には、スカートのポケットから手を入れて、自分を慰めている女生徒もいるようだ。まったく気付かないのは、男子生徒だけだろう。

「Reckless fire, fire a soul boldly There is nothing in a refuge etc. Strength which drinks up a lie and inconsistency. 」
「ああっ、あああっ!いいっ、いいのっ・・・りょういちっ、すてきっ、おくが、おくがぐりぐりするのぉっ!!」

 僕は綾香の制服の前を開いて、ブラを上にずらせた。最近、胸が成長しているのか、前よりもずらせにくい気がする。伸びちゃうんじゃないかと心配になるぐらい、乳首を摘まんで前にひっぱった。まるで苦痛も快楽と感じているように、綾香の喘ぎ声が大きくなる。そのまま、今度は両方の胸をぐりぐりと揉む。跳ね返って来るような弾力が、掌に気持ち良い。

「あっ、いいっ、いいっ!むねっ、むねもいいのっ!あふっ、ひぃんっ、いくっ、だめっ、いっちゃうよぉっ!」
「めちゃくちゃだね、綾香。いいの?だめなの?」

 僕は笑いながら意地悪な質問をする。だめな訳が無いのに。

「あっ!いいのぉっっ!だめぇ、あたま、うごかないよぉ、いくっ、いくぅっ!」
「僕もイクから、もう少しがまんしてね」

 そう言って、乱暴と言ってもいいぐらいに腰の動きを早めた。繋がってる部分から、濡れた音が激しく響く。

「It is Sympathy which is not calculated and which dwells mutually now. Until it catches something that cannot be passed.」
「あぁあ、もぉ、もおっ!おねがい、きて、はやく、きてっ!」
「んっ!」
「いくっ、いくいくっ、ああああああぁぁああっ!!」

 その瞬間、綾香の腰を押さえて、一番奥に吐き出した。激しく絶頂に達しながら、綾香は全てを受け止める。その後もしばらく、小さい絶頂感を何度も感じているようで、うわ言のような声を出しながら、身体をびくびくと痙攣させていた。力の抜けた身体を、僕は全身で受け止めた。

「・・・はい、吉田さんありがとう。次は・・・」

 上気した顔でミツコ先生が言った。目が潤んで、色っぽい表情になっている。いつもと違ってかすれた声も、それだけ欲情している事を示している。綾香が意識を取り戻して動けるようになったら、ミツコ先生に僕のをきれいにしてもらおう。

 ・・・あれから、女教師、女生徒には、『僕の行動を疑問に思わず、喜びを持って受け止める』という暗示を、男には、『どんないやらしい光景を見ても、気付かない』という暗示を与えてある。だから、みんなの前で綾香とセックスしても、誰も何も言わない。女子が羨ましく思うぐらいだ。これから、僕のどんな行動も、邪魔されることは無いだろう。

「・・・んん・・・あ、りょういち・・・」

 半失神状態だった綾香が、僕の方へ身体をひねった。汗まみれの顔で嬉しそうに微笑む綾香に、僕も微笑み返した。薄暗い教室の中で、綾香の笑顔が輝いて見える。

「好きだよ、綾香」
「うふふ、私もっ!」

 僕たちは、クラスのみんなの前で、永遠を誓うようにキスをした。

< 終わり >

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