ねこのみゃー 二年前

二年前

「ただいまー」

 僕は一人で家に帰ってきた。いつもならみゃーが一緒にいるんだけど、今日はみゃーは自分のクラスの文化祭の準備が終わってないとかで残っているらしい。違うクラスの僕が手伝うのもどうかと思うし、うちのクラスの準備は終わっているとはいえ、別のクラスを手伝うくらいなら自分のクラスの準備をしろとかクラスメイトには言われそうだしで結局僕はみゃーを置いて一人で家路についた。

「おかえりー」

 玄関のドアを開けるとそんな声が聞こえてきた。
 あれ?
 聞き覚えのある声に僕は自分の部屋ではなく、居間へと直行する。そこには金色の長髪をさらりと流した美少女がいた。居間のソファーでアイスを咥えて雑誌を読んでいる。

「たま姉ちゃん。何でこっちにきてるの? 停学って家に居なきゃいけないんじゃないの?」

 目の前の美少女――たま姉ちゃんに向かって声をかける。たま姉ちゃんは読んでいた雑誌をぱたんと閉じて、アイスを口に咥えたまま、髪をかきあげた。その動作に僕はほうっと目を奪われた。
 本当にたま姉ちゃんはなにをやっても様になる。
 まるで、舞台の上の女優のようにどんな仕草をしても、完璧なほどに気品と色気を醸し出していた。

「いやぁ、家にいても暇で暇で。ブチシマコンビは一泊してくるとか言ってどっか行っちゃったし。みんな学校だし。で、ミケ君がそろそろ帰ってくる頃かなって思ってさ。あれ、でもみゃーは? いつも一緒に帰ってきてるのに珍しい」

 ふふ、とたま姉ちゃんは極上の笑みを見せる。その笑顔に僕の心臓はどきっと鳴った。

「みゃ、みゃーは文化祭の準備でまだ学校に残ってるよ。みゃーのクラスはまだ終わってないんだって」

 僕はドモリながら答える。顔が熱くなるのを感じて、たま姉ちゃんをまともにみれない。

「ふぅ~ん。みゃーも大変ねぇ。確か、みゃーのクラスはお化け屋敷だっけ? 冷やかしに言ってもいいかも。でも、まだまだだなぁ。武道場をまるまる使った巨大迷路くらいやらないと」
「いや、そんなことやれるのたま姉ちゃんだけだから・・・」

 たま姉ちゃんの軽口に僕は溜息混じりに返す。巨大迷路とはたま姉ちゃんが僕達の学校に通っていた時に文化祭で行った伝説の一つだ。一昨年の話だっけ。巨大迷路を作りたいとか言い出したたま姉ちゃんは一クラスだけでは無理だとわかると、自分の学年全部を巻き込んで、超巨大迷路を作り上げた。大がかりな仕切りで道を作って体育館と武道場を巨大迷路に仕立てあげたのだ。
 後からたま姉ちゃんの友達の識さんに聞いた話では、たま姉ちゃんが全クラス説得し、生徒会や教員達との折衝も、実際の製作の指揮も全てたま姉ちゃんが執ったとか。しかも、体育の授業の邪魔にならないように前日の準備日で一気に組み立てたらしい。一体どうやったのかは全く想像つかないけど、全員の行動を把握し、全くサボらせなかったとか。
 そうして作り上げた大迷路は僕とみゃーも入ったけど、そこは本当に大迷路だった。三メートルほどの高さの壁に仕切られて、罠あり、抜け道あり、抜けたと思ったらイベントありでちゃんと抜けるまでに一時間近くかかったっけ。制作者であるたま姉ちゃんはともかく、確かみゃーが十五分くらいで抜けて、最短記録を出してたはず。

「確かにあれはすごかったけど、あんなのは絶対無理だよ。たま姉ちゃんみたいな人が居なきゃ」
「そう? そんなに大変な事じゃなかったけどなぁ・・・そうだ、いいこと考えた~♪」

 たま姉ちゃんは嬉しそうにアイスをシャクッと噛んでいく。ニヤリと浮かんだその笑みはさっきの天使のような極上の笑みとは正反対の悪魔のような妖艶な笑みだった。困った事に自分が楽しければそれでいいというたま姉ちゃんは極上にしろ、妖艶にしろ、笑みを浮かべた時は碌でもないことを考えている。というか、今だってそんなんで停学になってるんじゃないか。

「いい事って・・・たま姉ちゃん、今停学中でしょ?」
「うん、そう。明後日からまた学校に行けるのさっ。そして二週間後にはうちの文化祭だから・・・うん、忙しくなるぞぉ~」

 指折り数えて、心底楽しそうにたま姉ちゃんは顔を弛める。そんな表情をしても絵になってしまうのがたま姉ちゃんの凄い所だった。ドキッと高鳴った胸を自覚しながら、僕はたま姉ちゃんの顔を見ないようにソファーに座る。
 だけど、たま姉ちゃんはそんな僕に後ろからのしかかってくるのだった。
 ちょ、ちょっと待ってよ。

「た、たま姉ちゃんっ!?」
「ん~、なに? ミケ君」

 たま姉ちゃんの突然の行動に、僕は動揺を隠せない。というか、みゃーとは全然違う大きな膨らみがふにっと僕の背中に当たってるっ!

「な、な、なんなのさっ、たま姉ちゃん!?」
「ん~、ミケ君が可愛いから。それに、ちょうどいい機会だと思ってね」

 たま姉ちゃんは僕の背中に抱きついたまま意味の分からないことを言ってくる。
 たま姉ちゃんに抱きしめられてる、たま姉ちゃんの胸が背中に当たってる、たま姉ちゃんの匂いが漂ってきた。心臓はドキドキとなり、顔が熱くなる。視界はぐるぐると回り、僕の脳はもはやオーバーヒート気味だ。
 そして、僕はたま姉ちゃんに顔の向きを変えられた。

「た、たま姉ちゃっ・・・」
「ふふ、ミケ君」

 目の前にたま姉ちゃんの顔が現れる。真っ白で染み一つない肌理細やかな肌を金色の長髪が彩る。すうっと延びた鼻梁に切れ長の瞳。真っ赤に映えた唇が大写しで僕の前に晒されていた。
 ドキドキと心臓が高鳴る。目の前には昔から輝いていたたま姉ちゃんの顔がある。本当に、キスでもしてくるんじゃないかというくらいの距離にたま姉ちゃんの顔があって、僕はどうしていいのか、慌てるばかりだった。

「ほら、もう目を逸らせない」
「え・・・」

 柔らかいたま姉ちゃんの声が僕の耳に入っていく。ドクンドクンと心臓が高鳴る中、僕はたま姉ちゃんに見入っていた。

「そう。ミケ君はもう私から目を逸らせない。じっと私の目を見てしまう」

 声に導かれるようにたま姉ちゃんの目を見てしまう。切れ長の目、その中の揺れる瞳に目を奪われていく。

「じっと私の目を見ていると、だんだんと私の目に吸い込まれていくように感じる。ほら、すうっとミケ君が私の中へと入っていくよ。ミケ君が私の中に入っていくとだんだんとミケ君の体から力が抜ける。ほら、だんだん目を開けているのが辛くなってきたね。ミケ君が私の中に入ってきたから瞼をあけていられなくなったんだよ」

 あ・・・れ・・・
 たま姉ちゃんの言葉が指し示すとおり、僕は目を開けていられなくなる。まるで眠くなったときのように瞼が勝手に落ちてきた。

「そう、辛くなったら目を閉じていいんだよ。ミケ君が私の中に入りきると目が閉じてしまう。ほら、だんだんとミケ君の体から私の中へと入ってくる。目を開けていられない、ミケ君の瞼が閉じていくよ。ほら閉じてしまった」

 たま姉ちゃんは断定的に言うと、僕の瞼を手で閉じた。だけど、僕はもうたま姉ちゃんの中へと入ってしまったのでそんなことをしなくても目を開けることができない。

「ほら、とても気持ちいいね。ミケ君はとても気持ちいい。すうっと力が抜けて、ミケ君は私の中に漂っている。それがとても気持ちいい。ね、口に出してみて。気持ちいいって」
「・・・気持ちいい」

 たま姉ちゃんに導かれて僕は言葉を紡ぐ。その途端に何ともいえない感じが体に広がった。

「そう、口に出してみるととっても気持ちいいよね。ほら、もう一度言ってみて。気持ちいい」
「気持ちいい」
「もっと」
「気持ちいい」
「もっと」
「気持ちいい」
「もっと」
「気持ちいい」

 たま姉ちゃんに言われるまま、僕は気持ちいいを繰り返した。その度に僕の体に気持ちよさが広がり、僕はすうっと穏やかに落ちていく。

「うん、とても気持ちいいね。じゃあ、今から私の中のミケ君をミケ君の体へと返すね。ミケ君の体の中には気持ちよさが広がっている。だから、ミケ君を返しても私がいいって言うまでずっとこのままの気持ちよさが続くの」

 たま姉ちゃんがそう言った後、僕の顎がくいと上げられ、唇に何かの感触が広がった。

「ん・・・むぅ・・・」

 微かなたま姉ちゃんの声と息づかいが間近で聞こえる。数秒間の感触。暖かな感触が離れたと思うと、ふふっとたま姉ちゃんの柔らかい笑い声が聞こえた。

「ごめんねみゃー。ミケ君のファーストキスもらっちゃった♪ さあ、ミケ君。これでミケ君はミケ君の体に帰ったけど、ミケ君の体の中には気持ちよさが広がっているからとても気持ちいいよね。それはね、ミケ君の心の中にいるからだよ。ミケ君の心の奥底はとても気持ちいいの。ずっとそこにいたいくらい気持ちいい。もっと気持ちよくなりたいよね?」

 もっと・・・気持ちよく・・・
 たま姉ちゃんの質問に僕はこくんと頷く。

「うん、じゃあ、もっと気持ちよくなるためにミケ君の心の深い深いところまで歩いていこう。ミケ君は立って歩くことができるよ。そこはミケ君の心の道。歩けば歩くほどにミケ君は心の深い深い所、とてもとても気持ちいいところへといけるよ。さあ、ミケ君。立って」

 たま姉ちゃんに手を取ってもらって、僕は立ち上がる。目の前は真っ暗な闇だったけど、たま姉ちゃんに引っ張ってもらうと安心して進むことができた。

「そう、一歩、二歩・・・足を進める度にミケ君は深い深いところへと進んでいく。とても気持ちいい。はい、靴を履いて。十五、十六・・・ほら、とてもとても静かで気持ちいい場所に歩いていく」

 少しの間があって、再びたま姉ちゃんに手を引かれていく。何処へ向かっているのか全くわからないけれど、たま姉ちゃんに着いていけばいいと思った。

「三十二、三十三・・・階段を上がっていっても、ミケ君は深い深いところへと歩いていくよ。とてもとても気持ちいい。四十八、四十九、五十。はい、ミケ君はとてもとても深い所、とてもとても気持ちいい所へと辿り着いたよ」

 そう言って、たま姉ちゃんは僕を何かに座らせる。

「ここはミケ君の一番深い所、とてもとても安心できる場所だよ。だから、ミケ君がいつでもここにこれるようにたま姉ちゃんが魔法をかけて上げる。ミケ君は”ミケ人形”という言葉を聞くと、何時でも、この気持ちいい安心できる場所に来れる。何時でも、今の状態になるよ。いいね」

 たま姉ちゃんの言葉が僕の中に染み渡る。僕はこくと頷いた。

「うん、じゃあ、もう一つ。今の状態の時に”普段のミケ君”って聞くと、いつものミケ君に戻るよ。必ずそうなる。わかった?」

 こくん。

「よし、じゃあ、”普段のミケ君”」
「っ」

 その言葉を聞いた瞬間、突然世界が戻り、僕は自分の家にいない事に気づいた。

「おはよ、ミケ君」

 たま姉ちゃんが天使のような笑みを浮かべて話しかけてくる。だけど、僕は戸惑うばかりだった。僕はうちの居間でたま姉ちゃんと話していたはずなのに、いつの間にか此処にいたのだから当然だろう。

「たま姉ちゃん、ここ、何で?」
「ん~? ミケ君をご招待?」
「何で疑問形?」
「だって、ねえ? ミケ君が来たいって言ったんだよ?」

 ん? と小首を傾げるたま姉ちゃん。って、僕はそんな事を言った覚えがない。

「言ってないよっ」
「言ったじゃない。十年前に」
「そんな昔の事覚えてないよ・・・」
「ふふっ、ミケ君。私の部屋へようこそ♪」

 上品に笑うたま姉ちゃんに僕ははあと溜息を吐く。女の子っぽい内装に小難しそうな本の並んでいる本棚。それと何か非常に似つかわしくない大きめのパソコン。どれもが調和してなさそうで、全体的に見ると微妙にしっくりしている奇妙な部屋。そう、ここはたま姉ちゃんの部屋だった。

「いや、何度も入った事あるから・・・それにしても、いつの間に僕たちはここに来たの? さっきまでうちの居間にいたよね? 制服のままだし」

 僕は自分が制服を着ている事を確認し、たま姉ちゃんに聞いてみる。その問いにたま姉ちゃんはくすりと極上の笑みを見せた。

「それはね・・・」

 すっと僕の耳元に口を寄せる。目の前にたま姉ちゃんの大きな胸が大写しになって、僕の視界を塞ぐ。突然の事に僕は驚き、慌てて逃げようとした。

「ちょ、まっ、たま姉ちゃんっ」
「”ミケ人形”」
「あ・・・」

 しかし、その言葉を聞いた瞬間、僕の視界がブラックアウトし、すとんと気持ちよさに包まれた。何をしているのかも、何を思っていたのかもわからない。ただ、気持ちいいだけのこの世界に再び僕は沈んでいった。

「こうしたの。って、聞こえてても理解は出来てないでしょうけど。ね、ミケ君。これが催眠術なんだよ?」

 何かたま姉ちゃんが言っている。この場にいるのが気持ちよくて、何を言っているのか考える気も起きない。たま姉ちゃんの言う通りにしていればいい。そうでなくても、このままいればとても気持ちいい。

「さて、と、ミケ君はとりあえず置いといて・・・あ、もしもし、あきにゃん? 私、たま。うん、ひさしぶりー。でさ、あきにゃんってみゃーと同じクラスだったよね? 文化祭の準備って忙しい? うん、うん。下手すると徹夜? もうみゃーったらなにやってんだか。うん、みゃーを好きなだけ扱き使っちゃって良いよ。うん、明日楽しみにしてる。あ、みゃーには私が電話した事秘密ね。うん、ありがと。じゃーねー」

 たま姉ちゃんの声が途切れる。その代わり、たま姉ちゃんが笑っているような雰囲気が漂ってきた。真っ暗で何も見えないけれど、たま姉ちゃんを近くに感じる。

「ミケ君・・・二人っきりだよ・・・」

 つん、とたま姉ちゃんに鼻先をつつかれる。

「ふふ、ミケ君・・・ごめんね。んっ・・・」

 くいと顎を持ち上げられ、何か柔らかいものが唇に押しつけなれる。そして数秒の後、柔らかい何かとともにすぐ近くまで接近していたたま姉ちゃんが離れた。

「ごめんね、みゃー。ミケ君、聞こえる? 私が手を叩くとミケ君は見る事も考える事も出来る様になる。だけど、ミケ君は沈んだままだから、聞こえてくる言葉には逆らえないよ。わかった」
「・・・うん」

 僕はその言葉に頷くと、ぱん、と何かが叩かれる音が響き、それを合図に僕の視界が戻った。

「っ!?」

 そして、その瞬間に僕は目を大きく見開いた。目の前にたま姉ちゃんの顔があるんだから当たり前だ。

「ふふ、ミケ君・・・んっ」

 たま姉ちゃんは目を細めて僕の顔を見ていたと思ったら、いきなりキスをしてきた。唇に伝わるたま姉ちゃんの柔らかい唇の感触。僕はいきなりの事で何が何だかわからなかった。

「ちょ、ちょちょちょっ、た、たま姉ちゃんっ!?」

 僕は慌ててたま姉ちゃんを引き離す。たま姉ちゃんは物足りなさそうな表情で僕を見た。

「なななななななっ、何するのっ!?」
「ミケ君は可愛いなぁ。そんな風にされるともっとしたくなっちゃうよ」

 そう言って、たま姉ちゃんは再び僕に顔を寄せてくる。
 やばい、このままだと絶対やばい。
 どんどん近づいてくるたま姉ちゃんの唇に僕は何がやばいのかよくわからないまま、必死に逃げるように顔を背けた。

「ほら、動かない」

 だけど、僕の抵抗も虚しく、たま姉ちゃんに顔を固定されると僕とたま姉ちゃんの唇は重なった。

「ん・・・・ふぅ」
「んんんっ」

 唇を合わせたまま数秒が過ぎていく。たま姉ちゃんの唇から何とも言えない感触が伝わってきた。いや、唇の間から何かぬるりとしたものが進んでくる。それはたま姉ちゃんの口から僕の口へと侵攻してくると、僕の歯を舐め回し、そっと口を押し開いていく。そして、僕のぬるりとしたもの――舌を見つけると、ねちょねちょと音を立てながら絡ませてきた。

「ん・・・あむぅ・・・ふぅん・・・」
「んぅっ・・・むぅっ・・・ぁんぅっ」

 たま姉ちゃんの舌は僕の舌だけでなく、口内全てを蹂躙していく。たま姉ちゃんの舌が動いていく度にゾクゾクとした快感が僕の体を走っていった。ぴくっと僕の体が震える。それを感じたのか、目の前のたま姉ちゃんがふふっと目を細めた。

「んん・・・・ちゅ・・・・ふぅ・・・」
「んっ・・・ふっ・・・はぁ・・・」

 たま姉ちゃんの唇が僕の唇から離れる。つうっと僕とたま姉ちゃんの唇の間に銀色の橋が架かり、そして、ぷつんと切れた。たま姉ちゃんは自分の口元に指を宛て、ふふっと笑う。たま姉ちゃんがたまに見せる妖艶な笑みだ。

「どう、ミケ君? 初めて・・・」
「ちょ、たま姉ちゃんっ、どうしてそれをっ」

 何でたま姉ちゃんが知ってるんだっ!?
 僕がキスをするのが初めてなんてたま姉ちゃんに言った覚えはないのに。

「ふふふ、たま姉ちゃんに知らない事はないのだ」

 僕の質問にそんな意味不明な事を言いながら、たま姉ちゃんはもう一度僕にキスをしてくる。そして、それに気づいて、たま姉ちゃんはちょっと体を離した。

「ミケ君のここ。すっかり元気になってる」

 ふふ、と笑いながら蕩けるような流し目を送ってくるたま姉ちゃん。その手は僕の股間のいきり立っているものに添えられていた。

「た、たま姉ちゃんっ!?」

 たま姉ちゃんの手が僕のあそこをすりすりと撫で回す。まだズボンやパンツ越しだというのに、たま姉ちゃんの指の動きが的確に僕の敏感な部分を刺激していた。つつ、とたま姉ちゃんの指が動く度に僕の体にゾクゾクッと寒気に似た感覚が走る。下半身の感覚が無くなったかのようにそれだけしか感じられなかった。

「ミケ君、可愛い♪」

 そう言って、たま姉ちゃんは本格的に下半身を弄っていく。たま姉ちゃんはベッドの下へと降りて、僕の足の間にすっと収まった。

「ミケ君、腰を上げて」

 僕のズボンのホックとファスナーを外しながらたま姉ちゃんは言う。たま姉ちゃんの指示通りに腰を浮かせると、たま姉ちゃんは僕のズボンとパンツを一気にずり下ろした。

 ピンッ!

 という効果音が付きそうな勢いで僕のちんちんが飛び出す。かちかちに固まっているそれをたま姉ちゃんは悪魔のように妖艶な笑みで眺めた。
 なに・・・する気?
 たま姉ちゃんの雰囲気に僕はぞわっと寒気を感じる。このままたま姉ちゃんの好きなようにさせたら大変な事になる気がするが、吃驚しすぎなのか何なのか、僕は指一本すら動かす事が出来なかった。

「これがミケ君の・・・ふふっ、立派だね」
「ぅ・・・ちょ、たま姉ちゃ・・・んぅっ」

 そう言って、たま姉ちゃんは僕のちんちんに指を這わせていく。たま姉ちゃんの白魚のように綺麗な指がそっと僕のちんちんを掴み、ゆっくりと扱きだした。ゾクゾクッとした快感が一気に増す。ビクビクと僕のちんちんが震え、僕は全身を走る快感にギリと歯をかみしめていた。

「凄い反応。気持ちいいんだね。でも、まだまだこれからだから、我慢してね」

 たま姉ちゃんはふふっと笑う。そしてつんつんと、先の部分をつついてきた。

「あっ・・・ちょっ、やめっ・・・っ」

 既に敏感になっている其処はたま姉ちゃんにつつかれる度に逃げるようにびくんと動く。それが面白いのか、たま姉ちゃんは何度もつついていた。
 だから、それだめだからっ!

「やっ・・・・めぇっ・・・」
「おっと、これ以上やっちゃうと暴発しちゃうね」

 たま姉ちゃんはくすっと笑って一旦刺激をやめる。ゾクゾクとした刺激は形を潜めたものの、今までの刺激の結果が僕のちんちんに集中し、びきびきと更に堅くしていた。
 それを見て、たま姉ちゃんは楽しそうに笑う。

「凄い事になってるよ、ミケ君。これ大変じゃない?」
「はぁ・・・・はぁ・・・・・っ」

 そんな風にしたのはたま姉ちゃんでしょっ!
 と言いたいんだけれども、呼吸を整えるのに精一杯でそんな事を言う余裕なんて全くない。なんとかしないといけないのに、逃げないといけないのに、何故か動けなかった。

「一度出しちゃおうか?」

 そう言って、たま姉ちゃんは僕のちんちんに顔を近づけていく。先程僕の唇と重なった紅い唇が僕の別の場所へと重なろうとしていた。
 たま姉ちゃんはいったい何をしようとしてるんだっ。

「ちょ、ちょっと、たま姉ちゃんっ!? いったい何をするのさっ!?」

 慌てて呼びかける僕の声にたま姉ちゃんは金髪を靡かせて僕を見上げる。その瞳にはふふっと蕩けるような眼差しが映り、くすりと口の端を持ち上げる様は今まで見た事がないくらいに妖艶だった。

「何って・・・そっか、ミケ君。フェラなんて知らないか。ふふ、いい事だよ、ミケ君」

 一瞬、驚いた貌を見せていたが、すぐにたま姉ちゃんは妖艶な笑みへと戻すと、再びちんちんへと顔というか、唇を近づけていく。
 ちゅ。
 たま姉ちゃんの紅い唇が僕のちんちんの先に触れる。ゾクッと快感が体を走り、ぴくんとちんちんが動いた。

「た、たま姉ちゃんっ、汚いよっ」
「だから、こうして綺麗にしてるんでしょ? 大丈夫、ミケ君のだもの」

 何が大丈夫なのかよくわからない。
 たま姉ちゃんは口からちょこんと舌を出し、まるでアイスを舐めるかのようにちんちんの根本から上に向かって舌を動かす。
 僕の足の間でたま姉ちゃんの金髪が動き、たま姉ちゃんを汚してしまったという背徳感とともに鋭角の刺激が僕の背骨を突き抜けていった。

「んっ・・・れろ・・・どう、ミケ君? ・・・ちゅぅ・・んぅ」
「くぅ・・・やっ・・・めぇっ・・・」

 ビクビクと僕の体が震える。たま姉ちゃんの質問に僕は声を震わせた。

「ふふ、ミケ君のとても元気だよ」

 たま姉ちゃんは僕のちんちんの根本を掴み、舌をれろれろと這わせていく。ちらりと僕を見て、何処が感じるのかを確認していた。

「ぁ・・・くぅ・・ぁっ・・・やっ・・ぁっ・・・・っ」

 やばい、やばい、やばい。
 流石、たま姉ちゃんと言うべきか。的確に僕の感じる部分を把握して攻めてくる。きゅっと、根本を掴みながら舌でツンツンと先の部分をつついてくる。重点的に先の部分を舐めていき、先の先、小便が出る所を穿るように舌でつつく度に、僕の体にゾワッと寒気にも似た快感が走った。

「ちょっ・・・・たっ・・・・・ちゃ・・・・んんぅっ」

 ビクビクと体が震え、ぎゅっと筋肉が硬直する。下半身に溢れてくる快感に、僕は掠れた声でたま姉ちゃんに訴えながら大きくのけぞった。そんな僕の耳にたま姉ちゃんの綺麗な声が飛び込んでくる。

「ミケ君、気持ちいい?」

 そんな事聞かなくてもわかってる癖にっ。
 たま姉ちゃんの質問に答えられる訳もない僕は、ただ、ぎりっと歯を噛みしめ、ぎゅっと目を閉じているだけだった。

「もっと気持ちよくしてあげるね」

 既に暴発しそうな勢いを必死に我慢している僕の事なんか気にも止めずに、たま姉ちゃんは暴挙に出る。

「ふぅ~~」

 何を思ったのか、たま姉ちゃんは唾液とかに濡れた僕のちんちんの先に向かって息を吹きかけてきた。
 既に大分やばかったのに、そんな事をされて大丈夫な訳がない。
 ゾクゾクと震えていた所に更に大きな刺激が走る。結果、僕の我慢は簡単に決壊した。

「ちょ、あ、うぁあぁぁっ!?」
「え、きゃぁぅっ!?」

 たま姉ちゃんに掴まれながら、僕のちんちんがビクビクと震える。その先からは真っ白い何かが飛び出して、たま姉ちゃんにぶちまけられた。
 圧倒的な快感が頭の中を洗い流し、僕は何も考えられなくなる。そして、数秒。思考を取り戻した僕は、目の前で自慢の金髪に白い何かを付着させているたま姉ちゃんに思い至った。

「たま姉ちゃんっ!?」
「ふふ、ミケ君ったら」

 ・・・・・・
 たま姉ちゃんは髪や顔に僕の精液を付着させながらもふふっと笑う。かかった精液も淫靡な装飾にしてしまうその笑みに僕の心臓がどきっと鳴った。たま姉ちゃんはそんな酷くエロい笑みを貼り付けたまま、出したばかりの僕のちんちんをつんとつつく。出したばかりで敏感になっていた僕のちんちんから、鋭角の刺激が伝わり、びくっと体が震えた。

「ちょ、たま姉ちゃんっ!!」
「元気なのは良い事だね。でも、初めてなのをさっ引いてももうちょっと我慢して欲しいな」

 たま姉ちゃんはそう言って、手を自分の背中へと回す。

「よっと」

 もぞもぞと背中で何かをやっていたかと思ったら、不意にたま姉ちゃんの胸が大きくなった。
 いや、抑えられていたものが解放された感じだ。もしかして、ブラジャーを外したの?

「まだ、大丈夫だよね。っていうか、本番はこれからなんだよ?」

 たま姉ちゃんは服の前を押し上げる。その下からはぽろんとみゃーとは天と地程の差もある胸が飛び出した。大きすぎる人によくあるアンバランスさは何一つ感じさせず、ぴったりと体とのバランスの取れた巨乳が僕の目の前に現れる。水着姿なら毎年見せられているけれど、素肌のおっぱいは初めてだった。

「た、たま姉ちゃん・・・」

 僕はそんなたま姉ちゃんの胸を見てドキドキしていた。たま姉ちゃんの胸を見て興奮しない訳がない。学年が違っただけの先輩達はまだしも、学校すら違う僕の学年にもたま姉ちゃんに告白して撃沈していた男子がいるというのに、たま姉ちゃんは僕に向かって胸を見せてくれているんだから。

「お、元気になってきたね。よし、もっと良い事をしてあげる」
「え、たま姉ちゃんっ!?」

 ええっ!?
 たま姉ちゃんはそう言うとTシャツとブラジャーを顎で押さえて、その大きな胸で僕のちんちんを挟み込む。柔らかい圧迫感が僕のちんちんを包み、それだけで、僕のドキドキを押し上げていった。

「パイズリ・・・って、言うんだよ。ミケ君を気持ちよくしてあげるねっと・・・」

 たま姉ちゃんは僕のちんちんを挟み込んだまま、体を上下に動かしていく。僕のちんちんに塗れた液体もあるせいか、たま姉ちゃんの肌はまるで抵抗がなく僕のちんちんを滑っていく。それがまた何とも言えない快感となって、僕の頭へ駆け上っていった。
 むくむくとあっという間にさっきの元気を取り戻す。さっき程の逼迫感はないけど、何とも言えない快感が絶えず、僕の頭へ突き刺さってきていた。

「ふふ、ほら、ミケ君のがピク、ピクって動いてる。もっと感じて良いんだよ」

 そう言って、たま姉ちゃんはいきなり大口を開ける。そして、あろう事か、はむっと僕のちんちんをその口で咥えてしまった。僕のちんちんの先がおっぱいよりも更に熱い温度で包まれる。

「た、たま姉ちゃんっ!? 何やってるのさっ!?」

 僕はたま姉ちゃんの行為に慌てて声を荒げた。それを聞いてくれたのか、たま姉ちゃんは一旦、付けた口を離すと、だけど、おっぱいは僕のちんちんを挟んだままでくすりと相変わらずの天使の笑みで僕を見た。

「こうやってね、ちんちんをおっぱいで挟むのをパイズリ、ちんちんを咥えるのをフェラチオって言うんだよ。気持ちいいでしょ?」

 そんな聞いてもいない事をたま姉ちゃんは言ってくる。たま姉ちゃんの事だから、僕が言いたい事なんてわかった上でそんな風に言っているはずだ。

「い、いや、気持ちいいとかじゃなくて、汚いよそんなとこっ」
「大丈夫だよ。さっきも言った通り、ミケ君のなんだから。それよりも痛かったら言ってね。出来るだけ優しくしてあげるから」
「そうじゃなくぇえっ!?」

 たま姉ちゃんは僕の言う事なんか聞かず、再びぱくりと咥え込んだ。だけど、たま姉ちゃんはやめるどころか、僕の慌てぶりを見てにやりと目だけで笑う。そして、先程も感じたぬるっとした刺激がたま姉ちゃん口内から伝わってきた。

「うひゃぁっ!?」

 びくんと僕の体が跳ねる。口内でたま姉ちゃんに舐められているのが、伝わってきた刺激でわかった。僕はたま姉ちゃんの行動を止めようと思いながらも、伝わってくる刺激に遮られてしまう。
 そんな僕の痴態を見ながら、たま姉ちゃんは徐々にその動きを強くしていった。ふわりふわりとたま姉ちゃんの体が上下する度に金髪が宙に舞う。そして、その度に僕に伝わる快感がその量を増やしていた。

「た、ま、姉ちゃん・・・っ」
「じゅ・・・ぅん・・・むぅ・・・じゅ」

 ピチャピチャと唾液の音を立てながら、たま姉ちゃんは僕の足下で体を動かしていく。口を細く窄め、きゅっと口で僕のちんちんを締め付けた。口による強い締め付けとおっぱいによる柔らかい圧迫が僕のちんちんに伝わって、僕の背中をぞわぞわとした感覚が通り抜ける。いつの間にか、僕のちんちんは先程にもまして硬く、大きくなっていた。

「あ・・・た、まぁ・・・姉っ・・・ちゃんぅ」

 あ・・・やば・・・っ。
 さっきと似たような感覚が腰から上ってくる。びくびくとちんちんが震え、また精液を出してしまいそうになる。
 が、その前に僕のちんちんから刺激がなくなった。

「あ・・・ぇ・・・?」
「まだだめ。これからが本番なんだから」

 茫然と足下を見た僕にたま姉ちゃんはふふっと笑う。そして、机の引き出しから何かを取り出す。たま姉ちゃんはその何かの袋をびりっと破ると中から出てきた丸っこい何かを取り出した。
 あれって・・・もしかして・・・

「ん、コンドーム。避妊はちゃんとしないとね」

 僕の視線を理解したたま姉ちゃんはくすっと笑いながら僕にそれを見せた。
 やっぱり・・・
 初めて見るそれをたま姉ちゃんは慣れた手つきで僕のちんちんへと付けていく。僕のちんちんにピッタリとフィットしたそれは先程のたま姉ちゃんの口ほどではないけど、軽く、僕のちんちんを締め付けてきた。
 そうして、たま姉ちゃんは立ち上がると、スカートの中にへを差し込み、すっとパンツを下ろす。

「ほら、こんなに濡れちゃった♪」

 たま姉ちゃんは楽しそうに僕に脱いだパンツを見せつけると、ぽいとパンツを放り投げて僕をベッドへと押し倒した。

「た、たま姉ちゃん・・・」
「ふふ・・・ミケ君」

 たま姉ちゃんはまるでマウントポジションでも取るかのように僕の上に跨ってきた。だけど、胸の上に乗るマウントポジションとは違い、たま姉ちゃんは僕の腰の辺りに跨っている。それが何を意味するのか、さっきは驚いたけど、コンドームの時点でその先の展開を想像出来た僕はどうしてこんな事をと思いながらも、たま姉ちゃんとの行為を心のどこかで期待していた。
 たま姉ちゃんはまるで見えているかのようにスカートに隠された中で的確に僕のちんちんへと腰を当てる。くちゅ、と水っぽい音が響き、たま姉ちゃんのあそこと僕のちんちんが触れあったことを示した。

「いくよ、ミケ君」

 たま姉ちゃんはふぅと軽く息を吐き、僕の返事なんか待たずに腰を落としてきた。

 つぷり・・・ぷつんっ。

「んぅっ」
「うぅっ・・・はぁっ」

 僕のちんちんが物凄く熱い何かに包まれていく。スカートに隠れて全く見えないけれど、たま姉ちゃんの中に入ったのを理解し、そして、跳ね上がった快感に打ち震えた。

「くぅ・・・ぁっ・・・」

 何だこれっ!?
 ただたま姉ちゃんの中に入っただけ。それだけで何にも動いていないというのに、僕の腰からゾクゾクと快感が駆け上ってくる。きゅっと根本が締め付けられ、先はやわやわと刺激が与え続けられる。僕は暴発してしまわないように必死だった。

「ほ・・ら、ミケ・・くん。はいった・・・よ」
「ぅ・・・・んんぅ」

 たま姉ちゃんはふふっと普段とはどこか違う笑みを浮かべて、僕を見下ろす。だけど僕は腰から伝わる快感に耐えるのが精一杯だった。そんな僕を思ってか、たま姉ちゃんは一分近くそのままで動かなかった。

「だいっ・・じょうぶ? ミケ君」

 全然・・・大丈夫じゃない・・・けど、このままなんて訳にも・・・
 たま姉ちゃんからの声に僕は必死に歯を食いしばり、こくこくと頷いた。それを確認したのか、たま姉ちゃんがそっと腰を動かしていく。やわやわと与えられていた快感が鋭角に変わる。

「んっ・・・・ふぅっ・・・・んんぅっ」
「くぅあっ!! ぅ・・・ぁぁっ!」

 腰が動いていくのに合わせて、たま姉ちゃんの口からも吐息が漏れる。だけど、そんな風にたま姉ちゃんを観察出来るほど僕の方の余裕はなかった。たま姉ちゃんの中は凄まじく、右側と左側で伝わってくる快感が違う。腰が上がって下りてくる度に種類の違う快感が走った。ゾクゾクと伝わる快感に体が震え、僕はシーツを握りしめ、必死に快感に耐えていた。その手にたま姉ちゃんの手が触れる。僕の手をシーツから剥がしていき、そっと自分の手に絡めた。

「みっ・・・け・・・くんっ。ど、どうっ・・・きもちっ、い、い・・・?」

 腰を上下に動かしながらたま姉ちゃんが聞いてくる。おっぱいをたゆんと揺らし、金色の長髪を振り乱す姿はあまりにもエロかった。僕はともすれば大声が漏れてしまいそうになるのを必死に耐え、珠のような汗を浮かべるたま姉ちゃんに向かってこく、と頷いた。

「そ・・・、良かっ・・・た・・・ぁ・・・んんぅっ!」

 たま姉ちゃんは僕の返事に安心したように頬を緩める。その瞬間、たま姉ちゃんの体が震え、不意にたま姉ちゃんの中がきゅっと締まった。

「くぁぁぁぁっ!?」

 まるで口で吸われたかのような感覚が腰に走る。突然の事に僕は耐えきれずに出してしまった。
 数秒の硬直とその後に伴う脱力感。僕がベッドに沈み込むように脱力すると、たま姉ちゃんはふふっと笑った。

「あ・・・もう・・出し、ちゃったの? もう、ちょっと・・・我慢、して・・・欲しいな」

 たま姉ちゃんはふうふうと息を切らせながらそう言うと、そっと腰を持ち上げた。

「よい、しょ・・・・っと」

 ずるっと僕のちんちんがたま姉ちゃんの中から抜ける。たま姉ちゃんはふらっと揺れながら僕から下りると、さっきと同じように僕の足下に陣取った。そして、繁々とコンドームに包まれた僕のちんちんを眺めてくる。
 恥ずかしくて堪らないが、全身を包む脱力感に僕は全く体を動かせない。それをいいことに、たま姉ちゃんは僕のちんちんを初めて見るかのようにつんつんとつついたりしてきた。

「ちょ、たま姉っ・・・ちゃんぅっ」
「ねぇ、ミケ君。もう一回、いけない?」

 くすりとたま姉ちゃんは笑みを浮かべてつんつんとつつく。その度にちんちんからぞわぞわっとした刺激が走るが、僕のちんちんはそれに応えることなく小さくなっていった。

「あ~あ、小さくなっちゃった」

 たま姉ちゃんはやや残念そうな貌で、僕のちんちんに被せられて、ピンク色の液体が絡みついているゴムを剥ぎ取った。そして、中の液体が零れ出さないように口をきゅっと縛ると、無造作にゴミ箱へと放り投げる。綺麗な放物線を描いたゴムは見てもいないにも関わらず、縁にも当たらず見事にゴミ箱へと飛び込んだ。
 その様を呆然と見ていたら、びりっと袋を破く音が足下から聞こえた。その音に引き戻されて見ると、たま姉ちゃんがくすりと笑みを浮かべて、新たなコンドームを口に咥えていた。

「なぁんて、ね♪」

 その笑み、その言葉に危険だと頭の中で経験則が警鐘を鳴り響かせる。だけど、僕の体はまだ全然動かせなかった。

「ね、ミケ君。前立腺って知ってるかな?」」
「前立腺・・・? 聞いた事があるような無いような・・・って、ええ!?」

 な、なにやってるの!?
 たま姉ちゃんは白魚のような中指を僕のちんちんに擦りつけてきたかと思うと、その中指を肛門へと押し当ててくる。前立腺が何の事か全くわからないけれど、次に何が行われるのかは予想が付いた。

「ちょっ、まっ、たま姉っ」
「ほら、ミケ君。そんなに緊張しないで。力を抜いて、息吐いて」

 たま姉ちゃんにそう言われた瞬間、僕の体から力が抜ける。ふう~っと息を吐いた瞬間に、肛門から違和感が侵入してきた。無理矢理押し広げられる感覚。排泄にも似た、だけど何処にも爽快感のない感覚が伝わってくる。

「~~~~~~っ!?」
「ほらほら、暴れないの。もうちょっとだから。っと、これね」
「ぃぅっ!?」

 たま姉ちゃんは何をしたのか、ぞわぞわとした変な感覚が僕の体を走り抜ける。くりくりとお尻の中を弄られているのにさっきと同じような快感が体を刺激していった。

「ここをこうして・・・」
「あっ、たっ、まぁっ・・・ぃぅっ」

 な、なにこれっ!?
 丁度、ちんちんの裏の辺りを刺激され、伝わってくる快感に僕は体を打ち震わせる。びくっびくっと電気を流されたように体が震え、小さくなっていた僕のちんちんが見る見る間に大きくなっていった。

「ほら、大きくなった」
「・・・」

 とても嬉しそうな声でたま姉ちゃんは言う。ふふっと笑ったその顔はまるで天使のようで悪魔のようだった。そんなたま姉ちゃんの笑みを余所に、僕は何か大切なものを捨ててしまったような気分だった。
 ゆっくりと肛門から指を引き抜いたたま姉ちゃんはウェットティッシュで指を拭う。そして、咥えたままのコンドームを大きくなった僕のちんちんへと再び装着していった。ぴっちりと再びコンドームを着けられたちんちんに、たま姉ちゃんはふふっと笑って跨ってくる。僕のちんちんに触れたたま姉ちゃんのあそこからくちゅという音が響き、あそこがすっかり濡れている事を示した。

「ミケ君。わかる? ミケ君のを触っているだけでこんなになっちゃった」

 そう言ってたま姉ちゃんはくちゅくちゅと何度かかき回す。まだ中に入っていないものの、先の敏感な部分が、たま姉ちゃんのあそこと擦れて微妙な快感を伝えてきた。

「ぁ・・・たま、姉ちゃんぅ・・・」

 さっきと同じくスカートに隠れて見えないが、僕のちんちんがぴくぴくと動く。そhして、たま姉ちゃんに擦れてく感覚がどんどん伝わってきた。

「ふふ、ミケ君。いくよ」

 そう宣言すると、やっぱり僕の返事なんか待たずにたま姉ちゃんは腰を下ろしてくる。なにか、みっちりと詰まっている所に突っ込んでいく感覚。無理矢理に押し広げるような感覚がちんちんに走った。

「ぅ・・・・くぁ・・・」
「んぅ・・・はぁ・・・」

 僕とたま姉ちゃんの息がハモる。根本まで何か熱いものに包まれ、押さえつけられたちんちんにさっきと同じ、とんでもない快感が伝わってきた。

「ぅ・・・ぁ・・・」
「ど、う・・・? ミケ君・・・。今度は、もうちょっと、我慢、して、ね」

 ふうふうと小刻みに息を吐きながらたま姉ちゃんは言う。そして、そっと腰を動かし始めた。

「ぅぅぅっ・・・・!?」

 伝わってくる快感が増大する。既に二度も出してしまったお陰で耐えられるが、入れた瞬間に出してしまってもおかしくないくらいにたま姉ちゃんの中は気持ちが良かった。
 ずっ、ずっとたま姉ちゃんの腰が動く。ぞわっとした快感が増大し、びくっとたま姉ちゃんの中でちんちんが震えた。

「んぅっ・・・・はぁっ、ミケっ、くんぅっ」

 たま姉ちゃんが僕の上でブルッと体を震わせる。若干反らし気味だった上体を前へと倒した。僕の顔を挟むように手を突いて僕を見る。そこに浮かべた貌は今まで見たどんな貌よりもエロかった。

「た、まぁっ・・・姉、ちゃんっ」

 僕はたま姉ちゃんの顔を触ろうとしたのか、よくわからないまま手を伸ばす。だけど、たま姉ちゃんはその手をすっと避けて上体を更に倒した。目の前にたま姉ちゃんの顔が来る。切れ長の目はうるうると潤み、口からは熱い吐息が零れていた。
 たま姉ちゃんの顔が更に近づいてくる。さらりと金髪が僕の顔へと垂れ、僕とたま姉ちゃんの顔を周りから隠す。その中で、僕とたま姉ちゃんの吐息が重なった。

「んぅ・・・」
「む・・・ぅ」

 たま姉ちゃんの柔らかい唇を自分の唇で感じる。なにかぞわぞわとした感覚が僕の体を走った。上と下で重なったまま、たま姉ちゃんは体を動かす。たま姉ちゃんもぞわぞわとした感覚が走っているのか、時折びくっと体を震わせた。
 だけど、その程度の事は気にしないとでも言いたそうにたま姉ちゃんは腰をぐりぐりと動かしていく。上下はもちろん、前後左右にも動かし、僕のちんちんを自分のあそこに擦りつけていた。

「んんぅっ・・・・」

 たま姉ちゃんは僕に唇を重ねたまま、奥からくぐもった声を漏らしてくる。いつものたま姉ちゃんからは絶対に見れないような貌でたま姉ちゃんは腰を動かしていた。
 水っぽい音が何度も部屋に響き渡る。たまにブルッとたま姉ちゃんの体が震え、その度に中の気持ちよさが増大した。

「ぁむぅ・・・・っ」

 その気持ちよさにびくんと僕の体も震える。たま姉ちゃんの中はきゅきゅっと締め付けてきて、僕に出せ出せと促していた。
 ぎりと歯を噛みしめてその衝動に耐える。本当にさっき出していなかったらとっくに出してしまっている。それくらい、たま姉ちゃんの中は気持ちよかった。
 無意識のうちにぎゅっとたま姉ちゃんを抱きしめる。みゃーとは違う、大きなおっぱいが僕の胸との間でぎゅうっと潰された。

「ん・・・んぅっ」
「んんぅ、むぅっ」

 途端にたま姉ちゃんの腰の動きが速くなる。最初からずっと感じていたたま姉ちゃんの気持ちよさが一気に膨れ上がり、ぞわぞわ所ではない快感が僕の中を走り抜けた。
 やばいやばいやばいやばいっ。
 さっきから二回感じてしまった出してしまう直前の感覚。僕がぎゅっとたま姉ちゃんを抱きしめる腕の力を強くすると、たま姉ちゃんも僕を抱きしめる。密着度は更に上がり、完全に僕とたま姉ちゃんは一つになった。

「ん、んぅ、んんんんんんんっ!?」
「んぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 物凄い快感が僕の体を走り、僕は一気にコンドームに発射していた。それを感じたのか、たま姉ちゃんの体もビクビクと震え、僕達は体を震わせたまま、ぎゅっと互いに抱きしめた。そのままの体勢で互いを感じあう。それは数十秒に渡り、静かな時間が流れていた。

「ちゅ・・ぷぁ」
「ぷ・・・はぁ」

 その中でたま姉ちゃんが動き出す。ゆっくりと放した唇につうと唾液が橋を作る。しかし、その橋はすぐにぷちんと途切れ、たま姉ちゃんは気怠そうに体を起こした。

「気持ちよかったよ、ミケ君」

 たま姉ちゃんは僕を見下ろし、ふふっと天使の笑みで笑う。そして、ゆっくりと体を動かして、たま姉ちゃんは自身の中から僕を引き抜いた。ずるりと抜け出た僕のちんちんはさっきよりも早く小さくなる。またも全身を脱力感が覆い、上手く体を動かせない僕は、隣に座ったたま姉ちゃんが僕のちんちんを覆うゴムを外すのを呆然と眺めているだけだった。
 たま姉ちゃんはゴムを外すとくすっと笑いながらそれを眺める。そして、何を思ったのか、そのゴムを傾けて中に入った液体を少量、とろりと自分の口へと流し込んだ。突然の行為に僕は目を見開き、慌てて声を上げた。

「た、たま姉ちゃんっ!? な、なにやってるのさっ」
「何って、味見・・・んぅ~、なんていうか、ちょっとだけ塩気がして変な味。飲む事は出来ても、これを美味しいって思う日は来ないんじゃないかなぁ?」

 なんて、僕の驚きなんて気にも止めずに、たま姉ちゃんはもごもごと口を動かして、妙な顔をしている。そして、ふと、僕の顔を見ると再び天使の笑みを見せた。

「ミケ君も舐めてみる?」
「い、いらないよっ!?」

 そんなもの舐めたいなんて思わない。
 ゴムを差し出してくるたま姉ちゃんにぶんぶんと首を振る。すると、たま姉ちゃんは残念そうに肩を竦めた。

「なぁんだ、残念」

 そう言って、たま姉ちゃんはゴムの口を縛る。そして、先程と同じようにぽいっと無造作にゴミ箱へと放り込んだ。
 っていうか、残念ってなに? しかも、本当に残念そうだし。
 その後たま姉ちゃんは何をするでもなく、ふふっと笑いながら僕の頭を撫でている。そんな中、僕はさっきから頭の中でぐるぐると回っていた疑問を押し出した。

「たま姉ちゃん・・・どうして、こんな事・・・」
「ミケ君が好きだからじゃ・・・だめ?」

 たま姉ちゃんは真剣な顔をして、じっと僕を見る。うるうると瞳が潤み、白い肌が桃色に染まっていた。
 って、そんな訳ないだろっ。昔から何度も同じような目に遭ってるんだからいい加減にわかる。

「ふざけないでよっ」
「そんな・・・ミケ君。ふざけてなんて・・・」

 たま姉ちゃんは悲しそうに軽く目を伏せ、それでも健気に僕の瞳をじっと見つめてくる。ぎゅっと僕の手を握り、そっと自分の胸に押しつけた。

「ちょ、たま姉ちゃんっ!?」
「ほら・・・感じるでしょ。ドキドキしてる・・・こんなになるのはミケ君だからだよ」

 天使のような極上の笑みでたま姉ちゃんが僕を見つめる。
 え・・・もしかして・・・本当に? あのたま姉ちゃんが・・・?
 ドキドキと感じる心臓の鼓動は果たしてたま姉ちゃんの物なのだろうか? 僕の胸も同じようにドキドキとして、どっちがどっちの心臓の音なのかわからなくなった。

「・・・・ぁ・・・・」

 掠れるような声が口から零れた。
 どくんどくんとなにやら衝動のような物が僕の中に溢れ、この胸の中の想いを言ってしまえと僕を唆す。その衝動に押し流され、僕は胸の中の想いを押し出していた。

「たま姉ちゃんっ・・・僕、僕・・・たま姉ちゃんのこと・・・ずっと・・・ずっとっ」
「はい、カット~♪」
「え?」

 楽しそうなたま姉ちゃんの声と共に僕の目に入ってきたのは何か携帯プレイヤーみたいな物を持つたま姉ちゃんの姿だった。
 え・・・・どういう・・・事?
 茫然としている僕を余所にたま姉ちゃんは手に持った携帯プレイヤーを操作した。搭載されている内部スピーカーからさっきの僕の声が再生される。

『たま姉ちゃんっ・・・僕、僕・・・たま姉ちゃんのこと・・・ずっと・・・ずっとっ』
「うんうん、ちゃんと録れてる」

 僕の声を確認して、たま姉ちゃんは満足気に頷いた。

「え・・・たま姉ちゃん・・・どういう事・・・?」
「ミケ君の告白ゲットだぜーっ」

 僕の呟きにたま姉ちゃんは携帯プレイヤーを掲げると、高々と宣言した。
 いや、ゲットだぜじゃなくて・・・それは・・・やっぱり・・・そう言う事?

「はぁぁぁぁぁぁ~~~~~・・・・・」

 僕は盛大に溜息を吐く。全身にかかる疲労感と脱力感が一気に増大し、僕は体を動かせないまま、ベッドに沈み込んだ。そんな僕をたま姉ちゃんは天使の笑顔で覗き込んでくる。毎度の事だけど、そんな上品で綺麗な笑顔を見せられては、怒る気力も一気に萎えてしまう。

「ふふ、ミケ君もまだまだだね♪ って、ご機嫌斜め?」
「もういいよ・・・たま姉ちゃんは何時だってふざけてるし。僕の気持ちなんてどうでも良いんだよ」
「そんなに拗ねないでよ。ミケ君の気持ちって、もしかして、私の事が好き~とかそう言うの?」
「なっ!?」

 なんで、わかるの!?
 体を動かせないまま、僕は目を見開いた。ぱくぱくと開いた口がふさがらない。そんな僕にたま姉ちゃんはふふと笑ったままだった。

「何でわかるのって、顔ね。そりゃあわかるわよ、私を誰だと思ってるの?」
「・・・」

 自信満々に言ってのけるたま姉ちゃんに僕は何も言えなくなった。
 相手はたま姉ちゃんだ。昔から、僕やみゃーをからかって楽しんでいたたま姉ちゃんには、僕の事なんて全てお見通しだったんだ。でも、だったら答えてくれても良いじゃないか。

「たま姉ちゃん・・・」

 僕は重苦しい思いを噛みしめ、言葉に変えた。

「さ、みゃーが帰ってくる前に後始末しなきゃね」

 たま姉ちゃんは僕の言葉を聞かなかったかのように明るい声を上げた。
 あんな事しておいて、そのままにするつもりなんだろうか。いつもの関係で居るつもりなんだろうか?
 たま姉ちゃんにとって僕はどんな存在なんだ?

「たま姉ちゃんっ」
「違うよ」

 叫びにも似た僕の声を小さな、だけどきっぱりとした言葉で遮る。見ると、たま姉ちゃんの貌は先程の天使の笑顔から、じっと僕の瞳を見る真剣な顔へと変わっていた。今まで見た事もないたま姉ちゃんの貌だった。

「ミケ君が私に対して思っているのは恋じゃないよ。憧れを勘違いしているだけ。ずっと一緒にいたい、離れたくない。そういう思いが恋、そして愛っていうの。ミケ君にはそう思える人がいないの?」
「そんなっ、僕はっ!?」

 昔からたま姉ちゃんは頭が良くて、強くて綺麗でかっこいい。そんなたま姉ちゃんが僕は昔からずっと好きだったんだ。あんな風になりたいって、ずっと思っていたんだ。
 たま姉ちゃんは真剣な顔から慈愛に満ちた笑顔に変えて、僕の頭を撫でてくる。そして、顔を近づけると、その綺麗な声で囁いた。

「”ミケ人形”」
「た・・・ま・・・・姉、ちゃ・・・ん」

 たま姉ちゃんの綺麗な声に導かれて、僕の意識が闇に引きずり込まれる。

「それにね、ミケ君の事好きだけど、みゃー程ミケ君に本気になれないの」

 そんなたま姉ちゃんの声が僕の耳に届いたような気がした。

「ミケ君。聞こえる?」

 たま姉ちゃんの声が聞こえる・・・
 聞こえるんだから答えなきゃ。

「うん。ミケ君は今どこにいるの?」

 どこ・・・とても気持ちいい所。

「気持ちいい・・・所。僕の中・・・とても深い・・・心の中」
「うん、そうだね。ミケ君はとても気持ちいい所にいる。そこはミケ君の心の奥底で、聞こえてくる全ての声はミケ君の心の声。常識だよね。いい、ミケ君。今から三つ数えるとミケ君は目を覚ますけど、家に帰ってきてからの事は思い出せないよ。学校から帰ってきたミケ君は私と一緒に楽しく話した。内容は思い出せないけど、楽しく会話をしていた。わかった?」
「うん・・・わかった」
「それと、”ミケ君に命令”と言われたら、その後に続く命令を無意識のうちに反芻して、ミケ君は命令されたことに気がつかないまま、実行してしまう。どんなに嫌な命令でもどうしてかわからないまま、絶対に実行してしまうの。必ずそうなってしまうよ。そして、”命令解除”と言われたら、その命令はキャンセルされる。命令を行わなくてもよくなるの。わかった?」

 ミケ君に命令と言われると逆らえない。絶対に実行しなきゃいけない。そうだ、絶対に実行しなきゃ行けないんだ。心の声、常識なんだから。
 こく。

「うん。家に帰ってきてからの事は思い出せないけど、それは本当にあった事。だから、言われた事は思い出せないけど、頭の片隅では覚えていて、必ずそうなるよ。全く思い出せないけど、絶対にそうなる。どうしてだかわからないけど、絶対に実行してしまうよ」
「必ず・・・そうなる」

 たま姉ちゃんの言葉を僕は反芻していく。これは僕の心の声なんだから絶対にそうなる。必ず実行する。そうだ、絶対に実行するんだ。帰ってきてからの事は思い出せない。何も思い出せないけど、僕はたま姉ちゃんと楽しく話をしていた。必ず実行する・・・

「一つ、二つ、三つ」

 パンッ!
 目の前で爽快な音が響き、僕は深い深い場所から引き上げられた。

「おはよ、ミケ君」

 目を開いた僕の視界にたま姉ちゃんのアップが映る。

「うわぁっ!?」

 突然の事に驚いて、僕は慌てて起き上がる。そんな僕にたま姉ちゃんはくすくすと楽しそうな笑顔を向けた。

「どうしたの、ミケ君。そんなに驚いて」
「え、あ、いや・・・あれ?」

 僕はきょろきょろと周囲を見回して、そこがたま姉ちゃんの部屋である事に気がついた。女の子っぽくないみゃーの部屋とは正反対の女性っぽい部屋。ちょこんと可愛いぬいぐるみや花などが飾られている中、本棚に小難しい本やよくわからない本が並んでいる辺りのアンバランスさはたま姉ちゃんらしい。

「なによ、そんなに見回して。失礼だぞ、ミケ君」
「いや、たま姉ちゃんらしい部屋だなって・・・」
「何度も見た事あるでしょ。何を今更」
「だって、みゃーの部屋はどう見ても男子の部屋だよ? 漫画だって少年誌ばっかりだしさ。クロさんや母さん達のお土産の提灯とかペナントとか、とりあえずみゃーの部屋に飾られてるじゃん」

 そんな風に言った僕の目の前でたま姉ちゃんはチチチと指を振る。楽しそうな笑顔を向けたまま、たま姉ちゃんは本当に楽しそうに言った。

「観察眼が足らないぞ、ミケ君。みゃーもちゃーんと可愛いものを集めてるんだから」
「うそぉ!?」

 たま姉ちゃんの言葉に思わず声が出た。だって、あのみゃーが、あの部屋に可愛いもの??
 全く以て想像出来ない。想像出来ないけど、たま姉ちゃんが嘘を吐くとは、いや、嘘はよく吐くけど、こんな状況で嘘を吐く意味なんて無いし。本当に集めているんだろうけど・・・

「想像出来ない?」
「うん、全く」
「でも、事実よ。今度チャンスがあったら探してみたら」
「ただいまー」

 たま姉ちゃんがそう言った時、下の階からみゃーの声が響いてきた。

「っと、噂をすれば影ね。ミケ君、ブチシマコンビはどっか行っちゃったから、今日はこっちでご飯ね。お風呂もこっち。寝るのは好きな所でいいよ」

 そう言って、たま姉ちゃんは立ち上がって体を伸ばすと、ふい~なんて声をだして廊下へと出て行った。それについて僕も部屋を出る。その時、みゃーとばったり会った。

「ミケ? こっちで食べるの?」
「うん。なんか、母さん達またどっか行ったらしいんだ。それにしても、随分時間がかかったね。でも、確か下手すると日付が変わるまで終わらなさそうなんじゃなかったっけ? って、なんか機嫌悪そうだね」
「きしゃーっ、明奈があれもこれもあたしに押しつけるのよ! 何かにつけてみゃーなら大丈夫って、全然大丈夫じゃないわよっ!」
「はは・・・そりゃ大変だ」

 小島もみゃーに押しつけるとか相当に切羽詰まってたみたいだな。まあ、普段からみゃーでからかってるけど。いくらみゃーが凄いからって、押しつけるのは嫌いだったはずだし。

「でも、それで何とか目処が付いたんでしょ? お化け屋敷。明日が楽しみだね」
「ん・・・まあ」
「で、みゃーは何やるの?」
「っ、なんだっていいでしょっ」

 何をやるのか聞いた途端にみゃーは更に機嫌を悪くした。

「え、何?」

 僕、悪い事聞いた?

「みゃーは鉄鼠をやるんだよね」
「へ?」

 突然、後ろからたま姉ちゃんが口を出してきた。
 でも、今なんて?

「だから、みゃーは鉄鼠をやるのよ」
「てっそ?」
「き、きしゃーっ!!」

 僕はお化けとかに全然詳しくないから、名前をいきなり言われてもよくわからない。
 みゃーが慌ててる所を見ると、そんなに恥ずかしいお化けなのかな?

「うん、鉄鼠。簡単に言うと鼠の妖怪よ」
「きしゃーっ!」
「鼠・・・?」

 鼠・・・みゃーが鼠・・・

「ぷっ」
「きしゃーっ!!」

 バキィッ

「痛ぁぁぁぁっ!」

 鼠の格好をしているみゃーの姿を想像して吹いてしまった瞬間、僕はみゃーに殴られるのだった。
 翌日、たま姉ちゃんに連れ去られる形でお化け屋敷に入った時、みゃーを見て盛大に笑い出したたま姉ちゃんのとばっちりで殴られたのは言うまでもない。

< 続く >

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