“教室の章”
大破したベンツから僕は降りる。
頭がクラクラして、足元がよく見えない。
でも、やるべきことは全て頭に入っていた。
先日廃業したばかりのファミレスの窓は無惨にも粉々になり、衝突のすさまじさを物語る。
ガラスを踏んで店内に入った。この中にまで吹っ飛んでいくのを僕は見た。焦げるような匂い。頭が痛い。僕の体もどこかおかしくなってるかもしれない。
人影を見つける。
床に倒れて、それはもう死んでいるように見える。おかしな形に曲がっていた。
それなのにあの人の声がしつこく僕の名を呼んでいる。僕に撃てと言ってる。
僕は考えるより先にベルトに挟んだ銃を取り出していた。そして、発砲していた。
一発。
二発。
三発。
彼の名を呼ぶように。
*
「ここ、女はいいんだけどなー」
ステーキを美味しくなさそうに咀嚼しながら、キリヤはウェイトレスを呼ぶベルを鳴らした。
「料理はいまいちだよね」
僕は相づちを打ちながら、和風スパゲティをフォークを巻き付かせる。高校生になった僕らの旺盛な食欲は、不満を垂れながらも次々と目の前の皿を平らげていく。
学校のすぐ近くというバツグンの立地条件にあるというのに、よほどお腹が空いてるときじゃないと食べたいとは思えない、残念な味の店だった。
それにも関わらず、さらには制服での入店が校則で禁じられているにも関わらず、僕らがこの店を利用するのは、キリヤも言ったとおり、ここのウェイトレスさんのレベルが高いからだ。
「お呼びでしょうかー?」
顔なじみのウェイトレスさんがやって来て、にこやかに注文を聞いてくる。キリヤは、おもむろにウェイトレスさんの無防備なスカートをめくった。
「キャッ」
スカートの下に、濃い陰毛をした女性器が見えた。
「もう、ナツミくんってば!」
「ははっ」
愉快そうに笑うキリヤを、彼女は満更でもないような表情で肩を叩いた。
「ほんと、エッチなんだから。ふふっ」
確か彼女は専門学生のアルバイトで、ミクさんっていう名前。童顔で巨乳という、ウェイトレスの鑑のような人。
キリヤはこの店では彼女のことを気に入ってて、そして彼女の方もキリヤのことを意識してるようだった。
だからなのかは知らないけど、キリヤはこの店のウェイトレス全員をノーパンで働かせている。
本当に「だからなんで?」って感じだけど、彼はそういう遊びが好きなんだ。
「俺、ミックスベリーパフェ。タイヨウは?」
「マンゴープリン」
「はい、ご注文繰り返します……キャッ!?」
ミクさんがマニュアル通りに繰り返そうとしたとき、キリヤがまたスカートをめくった。
「もー! どうしてそーゆーことばっかりするんですかー!」
口では文句を言いながらポカポカとキリヤの肩を叩くミクさんだが、僕には喜んでるようにしか見えない。僕はアホらしくなってスパゲティを頬張る。
「ナツミくん、エッチですよー。ひょっとして、彼女が構ってくれないとかですか?」
「んなの、いるわけないじゃん」
「えー、そうなのっ? 意外ーッ!」
ミクさんは僕の方をチラリと見る。僕は食事に没頭してるフリをした。
「じゃ、じゃあ……ナツミくんは、今度のお休みってぇ……」
そして彼女が恋する女の顔を見せた途端、キリヤは態度を豹変させる。
「おい、ミク。セックスするぞ。俺の上に乗れ」
「はーい」
ミクさんが短いスカートをたくし上げ、キリヤの腰を跨いだ。
僕はスパゲティを一口飲み込むと、ナプキンで口の周りを拭いて、テーブルの上のベルを鳴らした。
「ちゃんとボッキさせろよ」
「はい……」
キリヤの腰の上で、ミクさんがコシコシと手淫を始めた。キリヤは、無造作にミクさんの制服の胸元を開いて引き下げた。背中越しでもわかるくらい、豊満な胸が揺れた。
僕は後からやってきたウェイトレスさんに、ミクさんの代わりにミックスベリーパフェとマンゴープリンを注文を済ませる。
「ご注文を繰り返します」
そのスレンダーなウェイトレスさんは、すぐそばでミクさんが客の上で腰をグラインドさせ、切れ切れに嬌声をあげ始めたというのに、淡々と注文を繰り返していた。
「以上でよろしいでしょうか?」
「いいですよ」
年下に見えるくらい小さな彼女だが、落ち着いた態度は大人びていて、時にクールすぎるその無表情も、ウェイトレスとしてはともかくキャラとしては悪くない。
ついでに、僕は彼女のスカートをめくった。ミクさんよりも体毛の薄いその性器も好みだった。
ぴくっと眉をわずかに上げた彼女に、僕は言う。
「ユキさん。注文を届けたら、すぐに僕のところに戻ってきてください」
「はい」
大人数用のこの部屋は、すっかり僕たちの専用テーブルになっていた。多少の声は外に漏れないし、一般席からも離れている。
僕たちは、注文の多い客だった。
*
「そんな話、信じられるわけないじゃない」
カシイ先生は、目つきを険しくして言い切った。
ナツミキリヤという新入生はどんな人間も従わせる。幼い頃からその能力で、やりたいように生きてきた。
ただ、僕だけが彼の能力の外にいる。だから僕たちは親友になった。共犯者となって、彼と一緒に好き放題している。
確かに、僕も当事者でなければそんなアホっぽい話には付き合わない。
「でも、見ましたよね? みんなが裸になって踊ってるところ」
僕がそう言うと、「まあね」とカシイ先生は眉根を詰めた。
キリヤにバレないように体育館を出た僕は、彼女の後について保健室までやってきた。体育館では、きっとまだダンスパーティーは続いている。そして何人かの女子生徒は今頃キリヤに犯されてるだろう。
カシイ先生は、胸を押さえるようにしてうずくまった。
「……信じるわけには、いかないわ」
自分に言い聞かせるみたいに、カシイ先生は呟いた。僕は大人の理解と想像力の無さに少しイラっとくる。
彼女はこの学校の教師じゃない。カウンセラーだった。近くの大きな病院に勤めていて、週に何日かだけ学校に来ているらしい。
今日は本当なら来る予定ではなかったが、新入生に紹介したいので、時間が取れたら来て欲しいと学校長に言われ、顔を出しただけだという。
「とにかく、ナツミキリヤという子と話してみないと」
彼女が白衣の前を開くと、ふわっと良い匂いがした。大人の女性を意識した。
「それは、やめたほうがいいと思います」
僕が制止すると、カシイ先生は形の良い眉をぴくりと上げた。
「どうして?」
「だから、キリヤに説教しようなんて考えても無駄です。そういう人なんです。キリヤにこの話をしても、先生は記憶を消されて、犯されるだけですから」
みるみるうちにカシイ先生の顔が赤くなる。
「ふざけないで! 誰がそんなこと!」
激昂しやすい性格らしく、カシイ先生はきつい口調で僕を睨む。カウンセラーのくせに、それでいいのかなんて、ちょっと思う。
「……カシイ先生、腕時計を見てください」
9時26分。入学式が始まって30分程度。
「見たわ。それが何?」
「カシイ先生は、キリヤの新入生挨拶を聞きましたか?」
「いいえ、聞いてないわ。ワタシが聞いたのはあの音楽と踊ってる人たちの声だけよ。だからおかしいと思って、覗くだけにしたの」
「でも、あのマイクは全校に流れてますから、たぶん先生は聞いてます。先生はアレを聞いて、覚えてないだけなんです。それを今から証明します」
「どういうこと?」
「僕とセックスしてください」
彼女は一瞬驚いた顔をして、僕の顔をじっと見た。
胸を押さえて深呼吸して、やがて艶っぽく目を潤ませて、喉を鳴らした。
「いいわよ、もちろん」
カシイ先生は立ち上がり、白衣をその場に落とした。
*
図書室の事件から次の日、ナツミは朝から機嫌が良かった。
休み時間のたびに僕を呼んで近くに座らせた。ナツミの周りにはいつも友だちやファンの女の子たちがいる。そんな中でいきなり彼のご指名で隣に座る僕に、みんなが不審な視線を向けた。
「お前は俺の親友なんだから、堂々としてろよ」
彼はそう言うけど、僕にはどうしていいかわからない。
「ナツミくん、本気なの?」
「何が?」
「その……親友とか」
「当たり前だろ」
「でも親友って、何するの?」
「ん?」
僕は、今まで親友と呼べるほど同級生と親しくしたことはなかった。どうすれば親友になれるのかもわからない。
でもナツミも本気で悩んでるような顔してるから、僕と似たようなものなんだと思う。
「そりゃ、一緒に遊ぶに決まってるだろ」
「それだけなのかな?」
「遊んでるうちに、いろいろ仲良くなっていくんだよ」
「でも……」
「なんだよー。昨日ハラダとエッチなことしたくせに。今さらナシとかありえねーからな」
僕は顔が熱くなった。
「今日、お前んち行くから」
僕は戸惑い、息を呑む。
でも、頷くしかないってわかってる。
こうして僕らは、放課後2人で電車に乗った。
「……つーか、なんで電車通学なの? お前、引っ越してきたんじゃないの?」
「ちょっと事情があって」
あまり言いたくもない話だけど、仕方なく僕はナツミに説明する。
僕の親は、2人揃って失踪してた。
理由はわからないけど、とりあえず自分は捨てられたんだってことだけは理解できた。そして、代わりの保護者になるようなのは、今の学区に住んでる父方の親戚くらいしかいなかった。
だけど、彼らは僕と同居するのを嫌っているようだった。空気の読める僕は、親と住んでた家にそのまま住みたいと言った。性格悪いけど市議をやってるその親戚には、世間体や財力だけはたっぷりとあるらしく、一応僕を自宅に保護するという形だけはとって、生活費だけ肩代わりしてくれることになった。
結果、僕の住民票だけが右から左に動いて転校することになる。前の学校でも特に仲の良い友だちはいなかったし、学校が変わることにたいした抵抗はなかった。
「だから、僕んち来ても何にもないよ」
「ふぅん」
僕の身の上話を、ナツミは適当な相づちで聞き流していた。一応、誰かに話すのは初めての、わりと不幸自慢なヒストリーだったんだけど。
「タイヨウ、そのおっさんたちとは縁切れよ。金なら俺が面倒みてやるから」
「え、まさか」
予想外の提案に僕は戸惑った。
気持ちはかなり嬉しいけど、僕と同じ公立に通う同級生の援助はありえない。僕は笑った。
「お前信じてないだろ?」
「え、いや、そんなことは」
「そんぐらい、俺には楽勝なのー」
「いたたた」
僕の態度が気に入らなかったのか、ナツミは僕の鼻をぎゅうぎゅう摘む。
「お前1人くらい、余裕で養ってやるよ」
駅で降りたあとも、電車の中の会話をナツミは続ける。
「金なんてどこにでもあるんだから。みんな持ち歩いてんだから。必要なだけ誰かにもらえばいいんだよ」
「もらえばいいって……」
駅前商店街を歩きながら、ナツミはあたりをキョロキョロと見渡す。そして向こうから歩いてくる高校生カップルに目を付けて、「よく見てろよ」と耳打ちした。
「そこのバカップルの男の方。ちょっと来い」
いかにも遊んでそうな、日焼けした男だった。僕らをギロっと睨んで、本当にこっちに近づいてきた。
「え、ちょ、ナ、ナツミくん、やばいよ」
僕はナツミの後ろに隠れる。
「いいから」
高校生は僕らの前に立って、威嚇するように肩をいからす。
「なんだぁ、テメェ?」
野太くて威圧的な口調に僕はビビる。だけどナツミは、その男に向かって堂々とした態度で言う。
「俺ら金欲しいんだよね。だからお前の財布くれ」
僕は驚いて声も出なかった。
何をするつもりなのかと思ってたけど、まさか高校生相手にカツアゲするなんて思わなかった。ていうか、カツアゲってこんなにストレートに申し込むものなの?
男の目が細くなる。僕は震え上がる。
「はい」
なのに次の瞬間、男は素直にお尻ポケットから財布を出して、ナツミに差し出していた。
「サンキュ」
ナツミは、財布から紙幣も小銭も抜き取り、からっぽにして男に返した。あっけに取られる僕の前で、ナツミは「な?」と得意気に笑う。
「帰っていいぞ。俺らのことは忘れろ」
「はい」
男は、来るときと同じ、だらしない足取りで彼女の方へと戻っていく。
「篤、何してんのー? 知ってる子なの?」
「何でもねーよ。行こうぜ、はるか」
「あ、待って。うち何もないから、なんか買ってこ?」
「おう、いいぜ。って、あれ、あの店員、見たことね?」
「倉島じゃん。えー、なんでこんなとこにー」
男は彼女の肩を組んで、その先のコンビニの中に入っていく。僕らのことはもう忘れたみたいに、振り向きもしなかった。
「……アイツの彼女も貰っちゃえばよかったな」
その姿を見送りながら、ナツミは惜しむように言う。
確かに、今の彼女はめちゃくちゃ可愛かった。あんなチャラい男にはもったいない感じだ。
ていうか、そんなことはどうでもいい。
「ナツミくん……今のは、なんだったの?」
「見てのとおりだ。あの生意気な高校生からカツアゲしてやったぜ。6千7百円」
「どうやって!?」
「だから、見てたろ? 金くれって言ったんだよ。ほら、お前の分」
そういって、ナツミは僕のシャツのポケットに紙幣をねじ込んだ。
脅しでもなければ、催眠術なんてもんじゃなかった。本当にナツミは「くれ」と言っただけで高校生から全財産を巻き上げていた。
「アイツ、きっとコンビニで金無くて焦るぞ。でも、どうして金がなくなってるのかアイツにはわからない。『たぶん何かに使って忘れたんだろうな』みたいに思って勝手に納得する。都合いいようにな」
例えば、あの高校生たちがナツミとグルになって僕をからかってる可能性も考えられないだろうか。
いや、無理だな。ナツミは僕の住んでる場所を知らなかった。ここは学校で調べてもわからない住所だし、一緒に駅で降りた客の中にも、あの高校生たちはいなかったはず。それに、昨日のハラダの様子。
「つー感じで、俺って何でもできるの。信じる気になったか?」
膝が揺れてる。僕の知ってる世界が崩れてく。僕の周りで何が起こってるんだろう?
これはやばい。僕はよくわからない世界に踏み込んでる。やばい。わくわくしてきた。
ナツミはひょっとして、本当に僕を違う世界に連れて行くために現われた使者なのかもしれない。
「なあ、タイヨウ?」
ナツミは、駅から見える小高い丘を指さす。僕の通ってた学校では、俗に裏山と呼ばれていた場所。頂上に神社があるらしい。
「あれって登れるの?」
「うん……僕は登ったことないけど」
「よし、行こう」
「え?」
「登ってみようぜー!」
「え、あ、ちょっと、待ってよ」
新しい遊び場を見つけて、楽しそうに走り出すナツミ。
その後ろ姿を、僕は必死に追いかける。
彼についていけば、僕のつまんない人生がひっくり返るような、何かが起こるのかもしれない。あるいは今、起きてる最中なのかもしれない。
本格的に、これはやばい。
*
僕には夢がある。
それは小説家になること。子どもの頃からの夢だった。
僕の考えた物語をたくさんの人に読んでもらいたい。そして、僕の物語でたくさんの人を感動させたいんだ。
「じゃ、本でも出すか」
進路希望調査票を前にして、キリヤはつまんなそうにシャーペンを回していた。
「そういうんじゃないんだよね」
僕は自分の実力に見合った公立高校の名前を、第2志望の欄に大きく書いた。
「じゃ、なに? ケータイ小説とか?」
「そういうんでもないし」
キリヤは椅子を動かして、僕のすぐ横まで来る。
「どういうことよ?」
「や、なんていうか、キリヤに頼めば何でも簡単に実現しちゃうでしょ?」
「うん」
いきなり大手からハードカバーで出版させたり、文学賞取らせたり、キリヤならやってくれるだろう。
「でも、そういうのでいいんだったら、夢って言わないと思わない?」
「あー」
わかったような、わからないような声を出してキリヤは頷く。
「じゃさ、俺のこと書けばいいじゃん?」
「え?」
「俺みたいなヤツ、世界中探したって俺1人だ。きっと面白い小説になんだろ」
確かにキリヤは間違いなくオンリーワンの人間だ。
でも、やっぱりそれも違う。
「ていうか、何度も書いた。でもどうしても面白くない」
「なんで?」
「キリヤは、どんな物語も壊しちゃうんだ。だって、例えばみんなが刀とかピストルとかでギリギリ戦ってる小説の中でも、キリヤは1人だけ四次元ポケットから地球破壊爆弾を出して落としまくってるわけだよ? それって、無敵すぎて話にならなくない?」
「あー」
わかったような、わからないような声を出してキリヤは頷く。
「そういやタイヨウ、のびっぽいもんな」
「関係ないだろ」
僕はキリヤの脇腹をパンチした。キリヤはくすぐったそうに笑う。
「つーか、そんなことより」
キリヤは進路志望調査票を丸めて投げる。緩やかな放物線を描いて、それはまるで最初からそうなる運命だったみたいに、見事にゴミ箱のど真ん中に落ちた。
「俺たち、高校どこ行くわけ?」
僕は、自分の実力に見合わない有名私立の名前をキリヤに告げた。
*
白衣を落としたカシイ先生は、スーツのボタンを外し、短いスカートも下ろして、ブラウスのボタンに手をかけた。
「ベッドに横になって」
僕がそう指示すると、言われたとおりに横になり、艶めかしい仕草で脱ぐのを続ける。
「こっちを見て。僕を見ながら脱いで」
喉が渇いていく。大人の女の蠱惑的な体。スーツの上から見るよりもカシイ先生はずっとスタイルが良くて、ちょっとエッチな紫の下着がよく似合っていた。
「そのまま僕を見て。もっと色っぽい顔をして。写真撮っていいですか?」
「ふふっ、こういうのが好きなの?」
ボタンを1つずつ外しながら、欲情した顔でカシイ先生は僕を見上げる。
僕にはそんな趣味はない。でも、今日からハマるかもしれない。
「いいわ。ポーズはこれでいい?」
ブラウスをはだけて、僕に胸を強調するようにして舌なめずりをする。その表情を僕はケータイで撮影した。すでにボッキしていた。
「もっと色っぽいポーズをしてください」
「こう?」
ブラウスを広げ、髪をかき上げ、腰のラインを強調させるように片膝を上げる。
「それともこう?」
ブラウスを脱いで、スカートも下ろし、僕にむっちりした太ももを見せつけながらストッキングを丸めていく。
その姿を僕はケータイに収める。
「よ、四つんばいになって、お尻をこっちに向けてください」
喉が渇いてきた。当初の目的も忘れて夢中になりそうだった。
「ふふっ、いいわよ。これでいい?」
「そう。腕もこっちへ」
大きなお尻が、僕の目の前にきた。ぴっちりと張り付いた高そうな下着も、ほとんどはみ出してる丸いお尻も、すごく触り心地よさそうで、参ってしまう。
彼女はその豊かな体を惜しみなく僕に晒し、艶っぽく唇を濡らして僕を見る。僕はそのいやらしい表情も、腕時計も全部ケータイで撮影した。
「……はい、いいですよ。もう服を着てください」
「え?」
「セックスはしません。服を着ていいですよ」
「あ……はい」
カシイ先生から、さっきまでのいやらしさ消えて、淡々とスーツを身にまとっていく。僕はハァーっと息を吐く。
やるべきことだけやったつもりだけど、もったいない気持ちがないわけじゃない。僕はきっと先ほどの光景をこれから何度も思い出すだろう。あるいは、そのうち我慢できずに彼女を抱いてしまうかもしれない。
それぐらい、色っぽい写真が撮れた。
服を着終えたカシイ先生は、僕のことが目に入ってないみたいに、白衣をまとって椅子にかける。そして乱れた髪を直して、僕を見て、思い出したように口を開き、そして閉じ、こめかみをグリグリした。
「えっと……ごめんなさい。何の話をしてたんだっけ?」
僕は、重い病名を医者に向かって宣告するという、不思議な立場に置かされた中学生だ。
ケータイの写真を開き、ゆっくりと、彼女に説明する。
「先生は、もうキリヤの支配下にあるんです。そのことを忘れてるだけです。僕はそう言いました」
「あ、そうそう……だから、それどういう意味よ?」
「こういう意味です」
僕はケータイの画面を見せた。
カシイ先生から顔色が消えた。
「先生、今、何時ですか?」
「……9時45分」
「さっき時計を見たときから20分近く経ってますね。その間、あなたは何してましたか?」
「君と……喋ってたわ。ずっと」
「その内容は?」
「……わからない。でも、君と喋ってた。そうとしか覚えてないもの」
「次の写真見てください」
僕は腕時計も一緒に写ってる写真を見せる。こっちに向かってお尻を向けて、いやらしく唇を舐めている写真だ。
「いやっ!」
「目を逸らさないで見て下さい。腕時計の時間を確認してください」
9時35分前後。彼女の記憶と食い違う時間だ。
「……信じてもらえますか?」
カシイ先生は、胸を押さえてブルブル震えている。そこに怖いものでもいるみたいに僕を見る。
「ワタシを、犯したの?」
「い、いえ! 写真を撮っただけです」
「消して。今すぐ消して。お願い!」
「はい」
残さず消去した。お尻の写真は残しておきたかったけど、消した。
「……警察には?」
「言っても無駄だと思いますけど」
「ワタシ、どうしたらいいの?」
「一番いいのは、学校に来るのをやめて、忘れることだと思います」
「そうね……でも、そういうわけにもいかないわ」
どうして、と聞く僕に、大人の事情よ、とカシイ先生は横を向いたまま答えた。
そして自分を落ち着かせるように、カシイ先生は深呼吸して、笑みを浮かべる。
「考えてもみれば、あなたも共犯者なのよね。2人でワタシを始末する?」
「い、いや、僕はそんな……」
「みんなのことは見捨ててるクセに、どうしてワタシにだけ教えてくれたの? キリヤ君を裏切るの?」
「僕は、裏切るなんてッ」
あのときは、とっさにそうしていた。
扉の向こうで、怯えるカシイ先生のきれいな横顔を見て、僕はこの人を逃がしてあげようと思ったんだ。
でも、深い理由なんて全然考えてなくて、どうしてあんなことしたのか自分でもわからない。
悩む僕の前で、ふっとカシイ先生の表情が和らいだ。
「教えてくれてありがとう、フユキ君」
カシイ先生の細い手が、僕のほっぺたを正面から包んで、顔を上げさせた。すぐそこにカシイ先生の真っ赤な唇がある。僕はどんな顔していいかわからなくなる。
この人は、僕が今まで見た中で一番の美人だ。間違いなく。
「あなたにお願いがあるんだけど」
スッと目が細くなって、微笑みに変わる。僕はそれだけで蕩けてしまう。
「……ワタシのナイトになってくれる?」
ほっぺたが、熱くなっていく。
*
ハワイから帰ってきた僕を待っていたのは、ハラダのラヴラヴ攻撃だった。
「タイヨウくん、好きー」
休み時間のたびにハラダは僕の席までやってきて、僕の膝の上に座って抱きついてくる。最初は僕も逃げてたけど、ハラダはどこまでも追いかけてくるし、あんまり逃げてばかりいると泣き出してしまうので、最近は好きなようにさせている。
しかし、そんな僕らに対するクラスの連中の冷やかしは相当なものだった。
地味~な転校生だった僕が、いきなりクラス一の美少女とこんなことになってるんだから、そりゃあ騒然としたものだ。
僕はすぐにキリヤに相談した。
「キリヤ。ハラダのことですっごいみんなに冷やかされるよ。なんとかしてよ」
「ほっとけって。相手にすんなよ、他のヤツらなんて」
「でも、ちょっとイジメっぽいこともされて、困ってるんだ」
「マジ?」
キリヤは机の上に立ち上がって宣言した。
「お前ら、タイヨウとハラダの邪魔すんじゃねぇぞ! それからタイヨウをイジメたヤツは俺が100万倍にして返すからな! 覚えとけよ!」
それ以来、僕とハラダがどんなにイチャついても、からかいに来る人はいなくなった。その代わり、ハラダの行為はエスカレートしていった。
「タイヨウくぅん。えへへ、好き。ちゅっ」
休み時間の廊下で唇にキスされた。僕はびっくりして逃げたけど、休み時間のたびにしつこくキスをねだられ、仕方なくロッカーの中とかで、こっそりキスするようになった。
「ん……ちゅぴ、ん、ちゅ、んん、ちゅぷ、タイヨウくぅん……」
やがて舌を絡めてキスすることを覚えた僕たちは、最初の恥ずかしさを忘れて気持ち良さに夢中になり、授業の合間はいつも2人で教室のすみっこでキスして過ごすようになった。舌と舌をこすり合わせると、すごく気持ちいいんだ。温かくて、柔らかくて、女の子の体ってすごいと思う。男の子を気持よくするために彼女たちは存在するんじゃないだろうか。小さな舌でペロペロしてくれるだけで、僕の全身はビリビリとしびれるんだ。
「ンっ、ちゅ、ちゅぷ、ちゅ、ずずっ、はぁ…んく、ぢゅっ、ちゅぅ、あぁ、タイヨウくん……」
僕たちはチャイムが鳴るまで舌を絡め合い、抱き合い、お尻を撫で合っていた。
頭の弱いイシカワくんが、僕たちのそばでジャージにテント立ててジッと見ていたり、好奇心旺盛な女子たちが集まって見学にきたりと、直接の冷やかしはなくても、僕たちのキスは学校名物になりつつあった。
それくらい、僕はハラダとのキスに夢中になってた。
「ハラダとはよくしてんの?」
ある日、キリヤがいきなりそんなことを聞いてきた。
「してるって、その……」
「せっくす」
「う、うん。たまに」
僕は顔が赤くなってるけど、キリヤは「ふーん」と興味なさそうに頷いて、「でも、できる?」と指で作った輪にもう片方の人差し指を突き通した。
僕はますます赤くなった。
「あんまり、その、2回に1回くらい」
僕はセックスに慣れてないし、ハラダも慣れていない。痛がったり、うまく入っていかなかったりで、途中で終わっちゃうことが多い。
「だろ? ハラダってまだ無理だよな。そうじゃないかと思って、俺もやってなかったんだ」
「そ、そうなんだ」
「うちのクラスでやるなら、キヨタとかハタヤマとかだな」
キヨタは、背が高くて勉強もできる整った顔をした女子だった。
ハタヤマは、まあまあ可愛いけど、地味で目立たないグループにいる子で、あまりエッチな感じはしなかった。
「特にハタヤマはお薦めマークな。アイツせっくす上手いから」
「え、そうなの?」
「なんか近所の大学生と仲良くて、去年からいろいろやられてるんだって。だからすげー詳しい」
「……意外だ」
「俺もクラスの女とは何人かやってるけど、どうせするなら上級生のほうがいいな。うちの女子なんてガキばっかじゃん?」
「そ、そっか」
僕はハラダとのチューに夢中で、他の女子のことなんて考えたことなかった。キリヤにそんなこと言われて、ハタヤマとか上級生の女の子とか、頭の中をグルグルする。
「下級生でも、もうできるヤツいるけどな」
「えー!?」
「いろいろやってるぞ、俺なんて」
えっへんとキリヤは胸を張る。でも尊敬すべきではないと思った。
「とりあえず、ハタヤマとは1回やっとけって。マジ勉強になるから」
「う、うん。でも、そういうのって、人としてどうなのかなって疑問もない?」
「ハタヤマー、ちょっと来て」
「え、今すぐ!?」
キリヤはその場でハタヤマに話をつけて、僕とハタヤマの2人は授業のない音楽室にやってきた。
なんだかすごく緊張するけど、ハタヤマは入ってすぐにてきぱきとカーテン閉めたり、なんだか余裕ありそうに見える。
「それじゃ、フェラチオしてあげるね」
僕のパンツをあっさり脱がせて、ハタヤマは慣れた手つきで僕のチンチンを取り出した。そして半分被った僕の先端の皮を剥いて、ぺろりと小さな舌で舐めた。
「ちゃんとここも洗わないとダメなんだよー」
「ご、ごめんね」
ハタヤマは、丁寧に舌できれいにしてくれる。優しい動きが気持よかった。
地味でおとなしい印象のハタヤマが、えっちなことをリードしてくれてるっていう今の状況が、なんだかすごい意外で、興奮した。
みんな、結構こういうことしてるんだろうか?
「ン……レロ、チュプ」
「う、わ」
先端をパクって咥えられて、唾液を舌でまぶされる。チンチンを丸ごと飲み込まれて、口の中でグニュグニュって遊ばれる。僕のがますますボッキしてくると、ハタヤマの顔がジュプジュプってピストンしながら強く吸う。
「気持ちいいでしょ?」
「う、うん。すごい」
ハラダもこういうことしてくれるけど、ハタヤマの方が全然良かった。
「へへっ。あ、そうだ。キスしていい?」
「え、キス?」
「うん。私、キス好きなんだ」
チンチンを舐められた後だから、ちょっとやだなぁと思ったけど、ハタヤマのキスに興味湧いたから、僕は頷いた。
「んー」
ハタヤマのぽてっとした唇が押し当てられる。にゅるんと舌が入ってきて、僕の舌をくすぐる。
「ちゅぷ、ん、ちゅ、れろ、ちゅぷ」
ハタヤマの舌が唇をくすぐる。僕が舌を伸ばすと、それはチュッとハタヤマに強く吸い取られ、歯で甘噛みされてチロチロと先端を撫でられる。絶妙な感触に僕は震える。ぬるんと持ち上げるように舌の裏を舐め上げられ、下唇を挟んでくすぐられ、僕はキスだけで腰が抜けそうになる。
「ん、はぁ……どう? ハラダさんより上手いでしょ?」
僕はフラフラしながら、頷いた。
「う、うん。上手い。びっくりした」
「へへー」
地味めグループで絵ばっかり描いてるハタヤマが、まさかこんなにエッチに慣れてるとは思わなかった。なんかすごい。
「私、いっつもあなたたちのキス見て、下手くそだなぁって思ってたんだよ」
「そ…そうなんだ」
教室チューはもうやめようと思った。
「寝て」
「う、うん」
ハタヤマは僕を机の上に仰向けにさせると、トレーナーと、その下のスポーツブラもたくし上げて僕に見せた。
「おっぱいも、ハラダさんより大きいでしょ?」
ハタヤマの胸は、大人みたいに膨らんで、乳首もプクンと大きかった。大人の色をしてた。
「うん。大きい」
「ふふっ。それじゃ、しよっか」
下も全部脱いで、ハタヤマは僕の上に跨った。
「私がしてあげるから、じっとしてていいよ」
ハタヤマの中は、ぬめっとしてた。入り口のところとか締まるけど、ハラダみたいに痛いほどじゃない。でもハワイのお姉さんたちよりもきつくて、僕にはちょうどいいサイズだった。
「うんっ、うんっ、あっ、あんっ、あんっ、あんっ」
大人みたいな声を出して、ハタヤマの腰が滑らかに動く。
上下だけじゃなくて、前後にも左右にも回転して僕のを刺激するハタヤマのセックスは、気持よすぎて、僕は早くも出しちゃいそうになってしまう。
これで同級生なんて信じられない。上手い。頭がボーってなってくる。
「イキそうになったら、んっ、言ってよね。先にイッちゃ、ダメだよ。我慢してねっ」
僕は快感に負けないように必死に頷く。でも、自信はないな、と思った。
「……どうしよう。ハタヤマとやっちゃった」
「いいじゃん?」
教室に戻った僕はすぐにキリヤのところへ行った。
キリヤはルービックキューブで遊んでいるところだった。
「でもハラダにばれたら、きっと大変なことになるよ」
僕は、嫉妬に狂ったハラダに包丁で刺されるところを想像する。
どうしよう。僕のせいで、また深夜アニメが放映中止だ。みんなごめん。
「ばれないよ」
淡々とした口調で、キリヤはあっという間に6面を完成させて、すぐに崩して、また6面を作り上げていた。とんでもなく速い。
僕は相談してたことも忘れて、目を奪われる。キリヤだけ違うルールで遊んでるように見える。
「ハタヤマ、もうタイヨウとエッチしたこと覚えてないし」
「え?」
キリヤがチラリと教室の前の席を見る。
僕より先に教室に戻ってきていたハタヤマは、仲良しの女の子と、ノートに描いたイラストを見せ合って何やらクスクス笑ってる。その姿は確かに、いつものおとなしい女の子にしか見えない。
「またやりたくなったら、いつでも誘ってみろよ。言えば何でもしてくれるし、終われば次にエッチ誘うまでそのこと忘れてる。その間の記憶は、辻褄合うように勝手に誤解してくれるから大丈夫。このクラスの女は全員だ。俺と同じように、タイヨウにもいつでもやらせるように言っておいた」
完成させては崩し、完成させては崩し、キリヤの手の中で色が目まぐるしく変わる。自由自在に世界を転がすみたいに。
「ほら、嫁が呼んでるぞ」
キリヤのキューブ捌きに見惚れて、ハラダがブンブン手を振って僕を呼んでるのに気づかなかった。立ち上がる僕にキリヤが耳打ちする。
「浮気したい女がいたら、いつでも俺に言えよな」
イタズラっぽい顔で、キリヤはルービックキューブを放り投げた。緩やかな放物線を描いて、それはまるで最初からそうなる運命だったみたいに、見事にゴミ箱のど真ん中に落ちた。
*
「フユキ、こっちー」
ノリコさんが僕を見つけて手を振ってくれた。白いニットの上にコートを羽織って、短いスカートがセクシーだ。
「待たせるなって言ってんだろ」
「ごめんなさい」
腕をグイっと引き寄せられると、いい匂いがする。2コしか違わないのに大人っぽい空気。彼女はマナとは違う魅力に溢れている。
僕のお気に入りの3年生だった。時々こうしてマナに隠れて会ってはデートを楽しんでいる。
最近の僕は、いろんな女の子たちとただエッチするだけじゃなく、こうした恋愛やデートも含めて楽しむようになっていた。
「そんな面倒なのどこが楽しいわけ?」とキリヤは言うけど、さすがに高校生にもなると、逆に動物みたいにしてるばっかりってどうなのよ、と思うようになってくる。
そりゃ最終的にやることは同じだ。でも、みんなと同じように普通っぽくデートから楽しむのもいいものだって、この年になって気づいてきたんだ。
『浮気したい女がいたら、いつでも俺に言えよな』
昔、キリヤがそう言ってくれたように、彼に頼めばどんな女の子も僕の浮気相手になってくれる。他にも僕には浮気相手の子が結構いるが、ノリコさんはその中でもお気に入りの人だった。
「リョウんとこでいい? なんか今日、2周年なんだって」
「いいですよ」
ノリコさんは、うちの高校にはあまりいない元ギャルで、今は落ち着いたっていうけど夜の街には顔が広くて、いろんな店に僕を連れてってくれた。リョウさんっていうのは、昔から知り合いらしく、よく連れてってくれる店の店長だ。
彼女は今まで僕の周りにいた人とちょっとタイプが違う。
大人で、ちょっとワルで、刺激的な人だった。
「よぉ、ノリ。彼氏フユキくんだっけ? いらっしゃい」
「どうも」
「なんだよ、全然客入ってないじゃーん。今日は盛り上がるって言ったクセにー。ふざけんなよー」
「これからだよ、これから。来んの早いんだよ、お前ら」
大音量の音楽と、薄暗くてシックな店内。働いてるのは格好良い男の人ばかり。
軽口を叩き合う2人に、僕はちょっと遠慮する。
リョウさんは親切だけど、これまた『昔は相当ワルでした』って空気がムンムンで、僕はちょっと苦手だった。
ノリコさんがコートを脱ぐ。ニットの下の大きな胸が目立つ。リョウさんがそこを見て、ついと視線を逸らすのを僕は見逃さなかった。
「何飲む?」
「あー、私はジンフィズー。フユキは?」
「ピーチサワーで」
「了解」
リョウさんはニッと笑ってカウンターの奥へ行く。僕は緊張の糸をほぐす。ノリコさんは肩を震わせていた。
「どうしたんですか?」
「いやー、相変わらず可愛いわ、フユキ」
「何がですか?」
「なんでもない。そのままの君でいて」
運ばれてきたグラスで乾杯する。甘いサワーでリラックスしていく。音楽がうるさいから、僕は顔を寄せ合って会話する。僕に寄りかかるノリコさんの胸が心地よい。軽いキスをしながら、僕たちは会話とお酒を楽しむ。
「ノンー、久しぶり」
「おー」
ノリコさんの顔なじみが集まってくる。気がつくと店は結構賑わっていた。ノリコさんが相手してくれなくなると、僕はこの空気に馴染めない。彼女たちの身内ネタにちょっとあぶれた僕は、しばしトイレに逃げる。僕の引っ込み思案は小さい頃から変わらない。たぶん、一生モノなんだろう。
頃合いを見計らって戻ってくると、ノリコさんの隣に男が立っていて、カウンターにリョウさんもいた。
「ほら、ツレ来たからどいて」
ノリコさんに肘鉄されて、男は舌打ちして去っていく。戻ってきた僕にノリコさんが腕を絡める。
「ナンパ。あのヤローしつこくてさ。リョウ呼んじゃった」
「ま、あれも悪いヤツじゃないんだ。酒グセがちょっとな」
リョウさんは、気にすんなよと肩をすくめて、煙草に火を付ける。
僕はどう答えていいかわからず、はぁ、と間抜けな返事をする。
「リョウさーん」
「はいよ」
カウンターの向こう側にいる女の子たち2人が、こっちを不愉快そうに見てリョウさんを呼ぶ。ぶっきらぼうに女の子たちをからかって、それでも彼女たちに歓迎されてるリョウさんの背中を、黙って眺める。
ああいう男っぽさがガンガンあふれてる背中って、確かに男から見ても魅力的だ。
腕立てとかしたらいいんだろうか。僕もあれくらい逞しくなったら、キリヤ抜きでも女の子にモテるようになるんだろうか。
「フユキ」
ノリコさんが、つんと僕の脇腹をつつく。
「そろそろ行こっか?」
シャワーに濡れた体も乾かないうちに、僕たちはベッドでもつれ合う。素裸にネックレスだけのノリコさんは、大人顔負けのプロポーションで僕の目を楽しませてくれる。メイクの少し落ちた彼女は、今は年相応の少女の顔で僕の愛撫に悶えている。
ベッドの上では、僕の方が先輩だった。
そして彼女も、僕の前で裸になるときは、か弱い少女に戻ることを好んだ。
「やぁっ、あっ…ダメっ、そんな、足広げちゃ、ダメだってばっ…」
「ノリコさん、力抜いて。もっと僕にびしょびしょのオマンコ見せて」
「バカっ、やぁっ、あぁんっ、恥ずかし、いよ、あっ、あっ、フユキッ…はぁっ! あぁっ、あっ、あッ!」
感じやすい彼女は、すぐに涙を流して僕の腰の動きに翻弄される。普段は大人っぽくて余裕のある彼女が、僕とのエッチで乱れていく姿は、感動的でもあった。
この魅力に満ちた体を組み敷き、気の強そうな彼女をガンガン突いて泣かせる。男に生まれてよかったと思える。僕の征服欲が満足していく。
僕の腰の動きに合わせて大きな胸が波打つ。ピンと立った乳首が可愛い。強めにこねる。切なそうにノリコさんは胸を反らせる。
「あぁ、イクっ、イッちゃう! イッちゃうぅ!」
ビクンビクンと、ノリコさんの体が跳ねて、あそこから飛沫を上げた。
でも、僕のはまだ余裕がある。ぐるりと四つんばいにさせて、後ろから突く。ノリコさんの背中がグンと反る。
「あぁ! ダメっ、ダメっ、フユキィ! あぁ、あぁっ!」
「まだだよ、ノリコさん。まだまだ終わらないからね」
「あぁっ、やだっ。すごいっ。そこっ、すごいよ、フユキ! すごいよォ!」
ノリコさんの腰を掴んで、彼女の一番弱いところをゴリゴリと先端で擦る。叩く。ノリコさんが泣きそうな声を出す。
僕のセックスは強い。抱いた女性の数なら大人にだって負けない。ベッドの上の僕は強気だ。どんな女性も夢中させる自信はある。
かつての同級生の顔が思い浮かんだ。
今の僕なら、ハタヤマだって泣かせてやるのに。
「やっ、あっ、んっ、んぐっ、イク、イクッ……あぁぁ!」
バックでイッてしまった彼女を、次は抱き上げて突く。
「ダメ……もう、ダメ……あぁっ!」
すっかり力の抜けきったノリコさんの体はくにゃりと柔らかく、軽く揺すっただけで悲鳴を上げた。汗と涙に張り付いたキレイな髪を払って、トロトロになった彼女の顔がよく見えるようにする。
大人っぽい年上の先輩が、僕に思うままに犯され翻弄される。
いつも余裕たっぷりなノリコさんのキレイな顔が、立て続けのエクスタシーに、くしゃくしゃになって泣く。
僕たちの結合部はノリコさんが噴いた愛液でぐしょぐしょだ。
最高の気分だ。
「私っ…イクっ! またイッちゃう! あぁっ、あぁっ、イクイクっ、イッちゃう! 死んじゃうよォ、フユキィ!」
熱くどろどろに蕩けた彼女の中に、僕はたっぷりと精液を染みこませる。
「……うー」
僕の胸に顔を埋めてノリコさんは呻く。
またか、と思って彼女の頭をポンポンと叩く。
「煙草吸いてー」
ノリコさんは前カレにやめろと言われて禁煙したそうだが、エッチしたあとはどうしても吸いたくなって辛いらしい。
煙草には興味ないし匂いも苦手だから、僕にはその気持ちがよくわからない。
「前カレはさー、私にはやめれって言ってたクセに、自分は吸ってんだよ。信じらんないよね?」
ノリコさんはよく前カレの話をした。今まで付き合った男は結構いるらしいけど、みんな『前カレ』の一括りで言うから、いつのカレのことかわからない。
でも、きっとその煙草のカレは彼女にとって特別の男だったのだろう。いまだに禁煙を守ってる彼女を見てるとそう思える。僕が嫉妬するいわれもないんだけど。
「ダメ。限界。フユキの吸わせて」
そういって僕の股間に潜っていく。煙草代わりに、僕のが咥えられた。
イッてしばらく経って完全に萎えたそれは、彼女の口の中にすっぽり収まって、くちゅくちゅと弄ばれる。
「ふぅん…んん…ちゅぷ……ちゅぴ……」
ゆっくりと舌が絡み、唾液がまぶされる。ムクムクと条件反射的にボッキしていくそれを、ノリコさんはなだめるような優しさで愛撫してくれる。
射精を促す性急さのない、スポーツ後のマッサージのように丁寧なフェラを、煙草代わりによく彼女はしてくれた。
彼女とのエッチで、僕が一番好きなのもこれだった。されたまま眠ってしまうこともよくあった。
これも前カレの趣味なんだろうか、なんてことを考える。今度マナにも教えてあげよう。
「……ね、ハラダも、こういうことしてんの?」
ちゅぷっと口の中から僕を出して、ノリコさんは僕を見上げる。
「彼女は何でもしてくれますよ」
ノリコさんの前カレに対抗するような気持ちで、僕はきっぱりと言ってやった。でも彼女はそんな僕を見透かしたように笑った。
「ハラダって、ほんと可愛いーよね。あんないい彼女いるんだから、浮気ばっかしてちゃダメだよ。マジで」
ぺろりと裏スジを舐める舌が気持ちいい。優しく愛撫されて、力が抜けていく。
ノリコさんも他の浮気相手の人も、マナのことはみんな知っている。知ってて僕と関係を結ぶようキリヤに言わせている。僕にとっての一番はマナだった。彼女は僕とキリヤの友情の証でもある。
でも、僕にこんな風にマナのこと言える余裕があるのはノリコさんくらいだ。彼女はやっぱり、他の子より大人だと思う。
「……ノリコさん、東京行くんですか?」
「うん。春になったらね」
彼女は卒業後、東京の大学に行くことが決まっている。実家から通えなくはないんだけど、あっちで1人で暮らしてみたいんだそうだ。
「卒業してからも会えますか?」
「んー、すぐ彼氏作る予定だから、無理」
「そんなこと言って……僕のエッチから離れられるんですか?」
ノリコさんは頬を赤くて、僕のをカプっと囓った。
「痛っ!?」
「バーカ」
クスクス笑って、囓ったところを舐めてくれる。痛みはすぐに、くすぐったさに変わっていく。
今までのエッチでは、僕が最高だってノリコさんは言ってた。たぶん本当なんだと思う。自信ある。僕が彼女の最高の男だ。
でもノリコさんはぺろりと僕のを舐め上げ、長い髪をかき上げながら、上目遣いで僕に釘を刺した。
「高校出たら終了だよ。フユキのこと好きだけど、ズルズル続けてたらハラダにも悪いでしょ? こういうのは、切れるとき切っとかないとダメなの」
彼女の僕に対する好意と関係はキリヤの命令で始まったけど、その関係をいつ終えるかはお互いの自由だ。別れようと言う権利は彼女にもある。
でも僕はやめたくなかった。彼女がなんと言おうと、キリヤに一言頼めばいいだけだ。大学行っても僕と続けろと言えば、彼女とはいつまでも続けられる。僕は何も心配していない。
「……僕はノリコさんとこういう関係、ずっと続けたいな。これからもたくさん、エッチしようよ」
彼女の頬を撫でる。薄い肌越しに僕の先端に触れる。くすぐったい。ずっとこうして彼女に甘えていたい。このまま眠りたい。
女の人って、セックスだけじゃなく、会話や関係も含めて楽しむものだっていうのが、僕も最近わかってきた。
キリヤにもこの男と女の深さがわかればいいのに。
「ぢゅ!」
いきなり、彼女が僕のを深く飲み込んだ。グチュグチュと音を立てて顔が上下し、ギュウと吸い込まれる。
「ちょ、ノリコさん、強い…ッ!」
先端に痛みが走るほど、乱暴に吸われた。歯が当たるほど激しく口淫された。
「痛っ、あっ……あぁっ!」
痛みと快感が同時に押し寄せる。堪えきれずに、あっという間に僕は果てる。精液は全てノリコさんの顔にかかった。
ノリコさんは、精液で濡れた顔で僕を睨む。怒ってる。でも僕には理由がわからない。ノリコさんはそのままバスルームに入って乱暴にドアを閉めた。シャワーの音がした。
「……ノリコさん?」
僕はバスルームに近寄り、彼女に声をかけながら扉に手をかける。
「こっち来んな、バカ!」
でも、激しく拒絶されて、動けなくなった。
磨りガラス越しに、彼女の裸体がしゃがみこんでるのが見える。シャワーが彼女の体の上に降りかかってる。
「バーカ! 大バカ野郎! 男なんて最っ低!」
僕はわけがわからず、ただ困惑するだけだった。
ひょっとしたらノリコさんは泣いてるのかもしれない。けど、もう言っても返事はない。罵声とシャワーの音しか返ってこない。
いつまで経っても彼女は出てこないから、僕は1人でホテルを出て帰った。
それきり、彼女とは会っていない。
なんだか怖くなって、嫌になって、それきりだ。
*
車があると買い物も便利だそうだ。
「やっぱ良いなー。CDでも聴こうぜ」
キリヤは機嫌良さそうに騒々しい音楽を流す。
「これナビも付いてんだ? あ、しかもHDナビってやつだぜ。すげー」
自分で持ってきたクセに、内装についてキリヤは全然知らなかったらしい。どうせまた誰からかタダで貰ってきたんだろう。車なんて買えるわけないし。
でも、そんなことは今はどうでもよかった。
「これ何のボタンだ? 脱出用かな? なあ、タイヨウ。これ何だと思う?」
「待って。僕、今それどころじゃないから!」
「あははっ、緊張しすぎだって、お前」
僕は今、生まれて初めて車を運転してる。しかも公道。当然、無免許。
キリヤの車なんだからキリヤが運転するものだと思ってたけど「これは俺たちの車なんだから、タイヨウも運転覚えろ」と、少し指導しただけで、キリヤはいきなり実地運転を僕にやらせた。
当たり前だけど僕の他にも車が走ってる。人も歩いてる。さっき交差点でガードレールを擦った。次は人間を擦らないという保証もない。
「あ、そこを右だな」
「右折やだよぉ」
「いいから曲がれー」
僕たちは、新しく進出してきたファッションブランドの店に向かっている。電車で行ってもいいんだけど、いっぱい買い物するなら車が便利だとキリヤが思いついて、この命がけのドライブが始まった。
周りの車が全部敵に見える。ゲームではあんなにカッコ良くドリフト王子してた僕も、現実では急ブレーキと急ハンドルの悪魔だった。本当にリアルなレースゲームなんて無いと知った。
「やべー、俺、ちょっと具合悪くなってきた……タイヨウ、真っ直ぐ走れって」
「無理。ていうか、僕も吐きそう……」
へろへろになりながらも、何とか目的地に到着した。ガードレールに擦ったり路肩に乗り上げたり、新品の高級車は1回のドライブでめちゃくちゃになっていた。
「味だよ、味。こうやって車は持ち主に馴染んでいくんだ」
「馴染む前に廃車だよ、たぶん」
「大丈夫だよ。だってベンツなんだから」
「これ、ベンツなんだ! へぇ、すごいね」
シルバーの巨体はすでにあちこち削れたりへこんだりしているが、ベンツと知るとその姿にも威厳が漂う感じがした。
「そっかー。さすがベンツ。かっこいいなあ」
ブランド物に弱い僕は、うっとりとボディを撫でた。
「ベンツだし、ベンジャミンと名付けようぜ」
「いや、この未知の航路を往く宇宙船の如き気高く勇猛な銀色ボディは、シルバー・ナイツと呼ぶに相応しいと思う」
「それじゃ、こいつの名前はベンジャミン・シルバー・ナイツ。略してベンツな」
「ところで車はここに停めていいの? 駐車場とかないの?」
「知らね。すぐ戻るからいいって」
僕たちは大胆にも、人通りの多いビルの前に路駐して買い物を始めた。
何着も服を買って(もらって)すっかり物欲に火のついた僕らは、そこからハシゴして別のブランド服やスニーカー、時計やMP3プレーヤーなんかも大量に抱えて、気がつくと結構な時間を買い物に費やしてベンツの元へ戻った。
「あ、ベンツが!?」
長時間路上に放置していた僕たちの車に、婦警さんが何かしていた。僕らは荷物を抱えて走る。
「おい、俺たちの車に何してんだよ!」
キリヤが詰め寄ると、手帳にベンツのナンバーを控えていた婦警さんが顔を上げる。
きつそうな目をした婦警さんだった。でも、美人だった。
「あなたたちの車ですって?」
驚いた顔をして、僕たちを無遠慮に観察する。あからさまに疑惑の目だった。それも当然だろうけど。
「……あなた、免許は持ってるの? あるなら見せてみて。年はいくつ? 親は?」
僕たちは、まだ暴力表現等のある一部のゲームですら規制される年頃だった。
キリヤと僕は顔を見合わせる。
「車の中で話をしよう」
「ええ、わかったわ」
キリヤが言うと、婦警さんはあっさり僕らの車に乗り込んだ。
「いくぜ、ベンジャミン・シルバー・ナイツ!」
そしてキリヤがハンドルを握ってアクセルを踏む。僕が運転したときとは、うって変わった重厚なエンジン音を響かせ、ベンジャミン・シルバー・ナイツは走りだした。
「広い車にして良かったな」
夜景の見える丘で、婦警さんにフェラさせながらキリヤは言う。
「大正解だよ」
その婦警さんのお尻を後ろから貫きながら、僕は相づちする。
「あん、じゅぷ、んっ、んっ、うんっ、んんっ」
運転席のシートを倒し、仰向けになったキリヤのペニスを婦警さんが頬張っていた。そして前に押し倒した助手席側の後方座席から、僕が婦警さんをバックで犯している。
「はんっ、じゅぶっ、じゅぶっ、んんっ、あぁっ、もう、ダメぇ、んっ、んっ、んっ、んんっ」
スカートを腰に巻き上げただけの制服姿で、婦警さんが僕たちに犯され、よがっている。
これってかなりの事件だよな、と思いながら僕は興奮していた。
「俺たちに逆らうヤツはみんなこうなるんだ。覚えとけよ、婦警ちゃん」
「ふぁい。んちゅ、ちゅぼ、んんっ」
「さすがに、なんかヤバイ感じするね、これ」
「大丈夫。俺とタイヨウのコンビは最強だ。怖いモノなんて何もない!」
最強はキリヤ1人なんだけど、とりあえず僕は「そうだね」頷いて婦警さんを強く突く。
「あぁ! やだぁ、いいっ……すごく、いいよぉ!」
「おい、しゃぶるの忘れるなよ。もっと強く吸え」
「はいっ! んんっ、じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ、はぁ……あん、んんっ、んっ、あぁ! んっ、あぁ!」
僕は夢中になって腰を動かす。僕の抱える大きなお尻がバウンドし、その反動で婦警さんの細いウエストがしなる。大人とエッチするのは久しぶりで、かなり興奮した。
そしてこの体勢が、こないだのカシイ先生の下着姿とシンクロして、すごく燃えた。
「あぁっ!? あっ、あっ、あん、あんっ、あんっ、あぁっ、あぁッ!」
「お? 出たなー、タイヨウのマシンガン突き。オイ、負けるな。お前も必殺のハリケーンフェラを見せてやれ」
「んぐ、ぢゅっ、ぢゅぶっ、ぢゅるるっ、ぢゅ!」
「うわー、気持ちいい。俺、イキそ。一緒に出そうぜ、タイヨウ」
「うん!」
キリヤは婦警さんの髪を掴んで、がんがん腰を突き上げる。僕も負けじと腰の動きを速くする。
「やっ、やぁっ、んぐっ、じゅぶっ、んんっ、んんんっ、あぁ、ダメっ、んぐ、んぐっ、んぐっ、んんっ、んー!」
婦警さんのお尻に精液を出した。ビシャビシャとオマンコやお尻の穴や、制服にまで僕の精液は飛び散った。
「んー! んー! んくっ、んんんっ……」
キリヤも同時に婦警さんの口の中に出したようだ。婦警さんはビクビクって痙攣しながら、喉をならしている。
「あー、すっきり」
キリヤは「うーん」と伸びをして、まだキリヤの股間に顔を埋めている婦警さんに向かって言う。
「俺たち外にいるから、きれいにしとけ」
「ふぁい」
僕たちは、乱れた車の中の掃除を婦警さんに任せて、風の気持ちいい丘の上で夜景を眺めた。
なびく髪を撫でつけながら、キリヤは満足げに呟く。
「やっぱ車はいいな」
「よく考えたら、タクシーで来てもよかったんだけどね」
「これタイヨウにやるよ」と
そう言って、キリヤはベンツのスペアキーを僕に投げた。
夜景にきらめく銀色のカギ。
僕たちの新しい秘密兵器。
僕とキリヤのコンビは最強。
「……ありがと」
そして、カシイ先生という僕だけの秘密を思い出して、キリヤから視線を外した。
*
保健室登校の子が何人か常駐してるので、キリヤはそれがうざいと言って、エッチのときでも保健室は使わない。だから週に2度、僕はキリヤに内緒で放課後の保健室に通うようになった。
そこにカシイ先生がいるからだ。
「いらっしゃい、フユキ君。ワタシ、今日は犯された?」
「い、いえ、大丈夫です!」
「そう。ありがと」
会うたびにカシイ先生は同じことを僕に聞く。ひょっとしたらからかわれてるのかなって、笑う彼女を見てると思う。
「今日は、どんなことして遊んだの?」
カシイ先生が、カルテのようなものにペンを走らせる。彼女は学校に来て僕に会ったときは、必ずその日にキリヤがしたことを僕に聞いて、メモしていく。
「たいしたことしませんでしたよ」
「ダメ。ちゃんと、全部正直に言って。ナツミ君が何と言って何をしたか。それをフユキ君はどう思ったか」
まるで僕がカウンセリングにかかってるみたいだった。
「……今日は、午前中に2年女子のプールの授業あったので、キリヤと一緒に参加しました」
「それで?」
「キリヤが、水着の肩紐外して、胸を出すように言いました。体育の先生もです。そして、その格好で騎馬戦させました。ポロリだらけの水泳大会だって言って」
「……それで?」
「それで、その、僕たちは何人かとセックスしました。キリヤは、見学してる女の子たちのパンツ脱がせて、生理で見学とかウソついてるヤツがいるって言って、けしからんってお尻叩いてました。でも僕は、風邪ひいて見学する子だっているよなって思いました」
「男って、年齢に関係なくエロの発想はオヤジなのね。よくわかったわ」
カシイ先生にあきれるように言われて、僕は顔が熱くなる。
「それで? もちろん、それだけじゃないんでしょ?」
カシイ先生に自分たちの悪事を白状していくのは、拷問のような、甘い告白のような、不思議な気分だった。
僕はいつのまにか饒舌になっていく。
「そう。そんなことまでしたの? サイテーね。でもフユキ君、興奮したでしょ?」
見透かすような微笑に、僕は言葉に詰まって頷く。
こうして、僕は1日にしたこと全部、カシイ先生に白状してしまう。
「……これで終わり?」
僕は頷く。
カシイ先生は、さらに何行かを書き加えて、ファイルを閉じた。ため息をついて、眉間を指で押さえる。
「あなたたちって、避妊してないよね?」
「え、あ、はい」
「もし友だちが妊娠したらどうするつもりなの?」
「それは、キリヤが……」
「ナツミ君が、何かするの?」
「入学式のときに、妊娠するなってみんなに言ってますから」
「それで本当に妊娠しないの?」
「少なくとも、今までは……ないです」
「本当に?」
カシイ先生は驚いたのかあきれたのか、口を大きく開けて、すぐにさっきのファイルを開けてペンを走らせた。
「そっち方面は専門外だけど……つまり女性の排卵を止めるとか、ホルモンを操作するとか……そういうことまでされてるってこと? ナツミ君の命令1つで?」
「いや、その、僕も、詳しいことわかりません」
「待って。入学式のときってことは、ワタシもそうなのよね? ワタシも妊娠しない体になってるの? そういうこと? でも、生理は普通に来てるんだけど」
カシイ先生の口から『生理』なんて聞いて、僕は顔が熱くなった。
「……婦人科の友だちに、適当なこと言って診てもらうわ」
カシイ先生がペンを走らせる。いつ聞いても気持ちいい音だ。
理知的な、大人の横顔。きれいに整えられた眉が難しそうに詰められたり、ペンをあごに当てて少し考えたり、彼女の仕草の1つ1つが、僕を惹きつける。
僕は美人な大人に弱いんだって、彼女に会うまで知らなかった。
でも、不意に顔を上げたカシイ先生の次の質問に、僕は冷や水をかけられたみたいに縮み上がる。
「ねえ……もしもナツミ君が死ねって言えば、人は死ぬの?」
ハワイの海辺で、キリヤが僕に言ったことを思い出した。
僕は何も答えれなかった。だけどカシイ先生には、わかったみたいだった。
「そう」とだけ言って何かを書こうとした手を、彼女は止めた。
「……ナツミ君のご両親は何してるの? いる?」
僕は答えられない。カシイ先生はまた「そう」と言って、何かを書いた。
「でも、僕と知り合ってからは、誰も。本当です。キリヤは誰も……」
「あなたのご両親は?」
「ぼ、僕の両親は前から行方不明です。でも、それはキリヤと知り合う前の話ですから」
「それは確かなの?」
「確かとか! わかりません、けど…。キリヤはしてないです。本当に。僕と約束しましたから」
「……あなたがナツミに人を殺すなと言ったの? それで彼は人殺しをやめたの?」
僕は頷く。頷くしかない。
「あなたは信じるの?」
信じる。
キリヤとは2年程度の付き合いだけど、何をするにも一緒にいた。僕たちは親友だ。彼は本当にいいヤツだ。
カシイ先生は、胸に手を当てて苦しそうにしている。僕が「大丈夫ですか?」と聞くと、かぶりを振って顔を上げる。そのままじっと僕を見る。
「……本当に、彼を信じていいの? それ、すごく大事なことよ?」
背中がじっとりしてきた。落ち着かない。
100%信じるかどうかなんて言われても、それは誰に限らず保証なんてできない。いじわるな質問だ。
でも、僕が一番信じるのはキリヤだ。あの不思議な力なんて関係ない。僕の親友のキリヤだ。
親のいない僕を守ってくれてるのはキリヤだ。友だちのいなかった僕を誘ってくれたのもキリヤだ。
僕が一番大事なのは、キリヤなんだ。
「ごめん、そんなに怖い顔しないで」
ポンポンと頭を叩かれた。顔を上げるとカシイ先生が微笑んでいる。
「ナツミ君はあなたの親友だものね。あなたが彼を信じるのは、当たり前のことだわ」
椅子の背もたれに体を預け、キィと後ろに下がって彼女は天井を仰ぐ。
「あらゆる人間を操る子どもと、彼が操れないただ1人の子ども。ナツミ君だけでも十分奇跡なのに、そこに例外が存在するっていうのも、逆におかしな話よね。出来すぎてる感じ」
独り言のようにカシイ先生は呟く。僕は返事をしないでじっとしてる。
「あるいはどちらかがどちらかを欲した結果か。あなたたちはお互いを必要としている。パズルのピースみたいに、お互い歪な形のくせにピタリと噛み合っている」
カシイ先生は、自問するように目を閉じている。
手をお腹の上に組んで、ゆらゆらと体を揺らして、長い足を前に放り出していた。僕はその素足にドキリとする。
「……問題は、どうやって切り離すか……」
カシイ先生の睫毛は長い。鼻筋も唇もきれい。
大きな胸が、呼吸に合わせて上下している。指が細い。ウエストも細い。そのわりにたっぷりとした腰があって、きれいな足がスラリとしている。
彼女が足を組替えた。短いスカートに隙間ができる。気づいてないんだろうか。僕の目の前だってこと。
カシイ先生が瞑想を続けるのをいいことに、僕はそこを視姦する。黒く影っている奥に、さらに濃い黒の場所が見える。初めて会ったときの、下着姿を思い出す。あれから他の女の人を抱いても、あのときのカシイ先生のことを思い出してしまう。抱きたいと思ってしまう。
ダメだ。
僕はかぶりを振る。カシイ先生にはそういうことをしたくない。どうしてこんな気持ちにあるのかわからないけど、彼女にはそんなことしたくない。
でも、僕はその誘惑には抗えない。彼女の覗いてはいけない部分に目が吸い込まれる。こっそりと彼女の体を見つめる。
マネキンのように長く白い足。魅惑的な黒い下着。張りだした腰と細いウェストのコントラストはきっと黄金の比率を叩き出すに違いない。その上に乗っかる豊満な胸も、組んだ腕にぽってりと持ち上げられ、柔らかそうに形を歪ませ僕を誘惑してる。
そしてその大きな瞳を弓形に細めて、ニヤニヤと僕を見つめる、イタズラっ子のような笑みときたら……。
「はフっ!?」
「あら、どうしたの?」
「いえ! 何でもありません!」
「顔が赤いけど、熱でもある? 保健の先生呼ぼうか?」
「だ、大丈夫です! 心配ご無用!」
慌てふためく僕にケラケラしながら、カシイ先生は椅子を回す。さらば魅惑のデルタ地帯。
「おかしな子」
すみません、おかしな子で。
僕はだらだら流れる汗を袖で拭う。
「ねえ……ワタシって、あなたたちから見たら全然おばさんじゃない? どうなのかしら?」
などと戯言で遊ぶように頬杖をついて、ちらりと僕を見る。僕は恥ずかしくて顔を上げられなくなる。
「そ、そんなことないです。先生は……」
カシイ先生は若いし、すごい美人だ。
彼女と二人っきりになるだけで僕はドキドキしっぱなし。いろんな女の子とエッチしまくって、女の人に慣れたつもりの僕でも、どうしていいかわからなくなるんだ。
「そう。ありがと」
少し考えるように目を閉じて、カシイ先生は微笑む。
「さてと。そろそろ帰ってくれるかな?」
「え?」
あっけない別れの言葉に僕は拍子抜けをする。カシイ先生は立ち上がって、ズイっと僕に顔を近づける。すぐそばに彼女のきれいな瞳があって、僕はたじろぐ。
「狼さんに、またお洋服を脱がされちゃいそうで怖いの」
「なっ!?」
「冗談よ。ちょっと片付けなきゃならない仕事あるから、ごめんね。来週また来てくれる?」
「え、あ、はい!」
僕は顔を熱くして立ち上がる。カシイ先生にエッチなこと考えてたの、ばれてしまった。
でも先生は大人だから、僕のスケベ心なんて軽くあしらわれてしまう。それが悔しいような、くすぐったいような、不思議な高揚感に浮かれてしまう。
ふと、僕は扉を開ける寸前、カシイ先生を振り返った。
―――違和感。
「どうしたの?」
きょとんと、カシイ先生が首を傾げる。
「あ、いえ、来週またきます!」
「ええ。放課後にね」
バイバイと手を振って微笑んでくれる彼女に、同じように手を振って僕は扉を閉める。
カシイ先生は今日もきれいだった。
きれいで、頭が良くて、とても優しかった。
でも、帰り際に一瞬感じたアレは何だったんだろう。
カシイ先生、怖い顔してたと思う。
*
生徒会の会長に立候補するつもりだと、キリヤに宣言した。
キリヤは、全裸にして並べた美術部の女の子たちの体に絵を描きながら「なんで?」と首を傾げた。
「だって、今まで何もしてなかったから。学校という場所で、僕は自分から何かを始めたことってないような気がする。自分に何ができるのか、僕は知りたいんだ」
「……タイヨウって、相変わらず言うこと面白いよな」
「変かな?」
「いや、いいんじゃねーの」
高2の夏は、青春を反省するにはうってつけの季節だった。
僕とキリヤの毎日はバカげたことの連続だ。それは今も変わらないし、これからもきっと変わらないだろう。キリヤは何でもできるし、彼がいるから僕にも限りなく不可能はない。
ただ、この平和でハレンチな毎日に、いつのまにか僕の中で独立心と挑戦意欲の小さな芽が育っていたことに気づいてしまったわけで。
もちろんキリヤと離れたいわけじゃない。ただ自分だけの仕事を持ってみたいだけだ。僕はこんな楽しい毎日をくれるキリヤに感謝してるし、これからもよろしくって思ってる。
その気持ちを現わすために、僕は女の子のお尻にキリヤの似顔絵を描いてハートで囲った。
キリヤはさっそく、そこを黒で塗りつぶした。ちょっと似てたのに残念だ。
「それでさ、キリヤに推薦人をお願いしたいんだけど」
「別にいいけど」
名門校にありながら学年トップの成績と、ずば抜けた運動能力。そしてこのルックスでナツミキリヤの名声は全校に轟いている。彼の名前を推薦人に据えることで、僕の支持率アップも狙えるだろう。
これこそが僕の戦略、有名人作戦だ。どこの政党だってやってる。恥ずかしいことじゃない。
「ていうか、俺がやらせてやるよ」
面倒なこと嫌ったのか、キリヤは「ちょちょっと投票操作してやる」と言ってくれた。
持つべきは超常能力者の友人だと思うが、僕はそのありがたい申し出を辞退する。
「学校にいる間に、何かやりたいんだ。そういうの抜きで」
特に理由なんてない。ただ、たまにはキリヤの超常能力の外で何かをやり遂げてみたかった。
時々、僕にはそういう向上心が訪れる。僕もそろそろ大人になりたい時期だ。僕が1人でできることも、何かあってもいいはずだ。
僕のやる気を認めてくれたのか、あるいはよく伝わらなかったのかもしれないけど、キリヤは「ふーん」と頷いて、「それじゃ、はなむけにコレを贈ろう」と言って、女の子たちを動かし始めた。
幾何学的だったり、サイケデリックだったり、キャラクター絵だったり、それぞれが独特のおかしな模様を描かれた女の子たち。
それが、キリヤの指示とおりに体を窮屈に寄せ合い、絡み合い、1つのキャンバスになった。そうして、複雑な模様によって描かれた人物の顔になった。
ていうか、僕の顔になった。
「巨大タイヨウ!」
それはあまりにも悪趣味で品のない絵画。だが完成の瞬間には、とてつもない衝撃もあった。
女の子の体のそれぞれが独立したアートでありながら、お互いの模様の一部を複雑に絡み合わせることによってまったく別の絵が完成する。一体、どういう脳みそがこんな芸術を創り上げるんだろう。僕は、素直に感動してしまっていた。
「…キリヤって、相変わらず考えること面白いよね」
「だろ?」
まさにこれがナツミキリヤの世界。
大胆な発想と緻密な構成。
ポップで現代的な作風でありながら、容赦なく変態的。
「注目はここな。見ろ。口のところにちょうどマンコがあるから、なんとタイヨウは自分にフェラさせてる気分でセックスできるんだぜ」
「ていうか、ただの変態だろ」
「ひっでぇ」
「気持ち悪いだけだって。誰が巨大な自分の顔でフェラしたいなんて思うんだよ?」
「そんなのタイヨウしかいないじゃん? 見ろよ、タイヨウそっくりだろ? すごくね? しかも、どこからでも犯せるんだぜ!」
キリヤは真顔で僕を見ていた。
「……僕、生徒会室行って、立候補届もらってくる」
「あれ、しないの?」
「悪いけど、君の悪趣味に付き合ってたら、今後の選挙活動に支障をきたしそうだから」
「えー?」
さすがにそこまで変態になりきれない僕は、彼の贈り物を固辞する。
キリヤは「せっかく作ったのに」と不平を言いながら女生徒たちを解放していった。
当たり前だ。誰がそんなもの使うかよ。
ぜ、全然興味なんか…ないんだから。
「タイヨウ」
そして出て行こうとする僕を、キリヤが呼び止める。
「楽勝だよ。インチキなんてしなくても、絶対お前は当選するから心配するな」
たとえ何があろうと、自信たっぷりに言い切る彼のそのあとに続くいつもの言葉を、僕は小さい頃からよく知っている。
「俺とタイヨウのコンビは……」
「最強だ」
楽しそうに笑うキリヤ。
なんだかこういうノリって久しぶりだ。
僕たちは、普通の高校生として選挙に挑む。
< 続 >