リアル術師の異世界催眠体験14

◆聖王騎士の催眠告解 その1

 

 

「暖かいですねえ……」

「MIRAIは現在の気温を知らせることでお役に立つことができます。現在の気温は摂氏24.2度です」

 ミライさんの仰ることは今一つ良く分かりませんが、宮殿の中庭が暖かいことは確かです。

 

「こう暖かいと……お仕事に向かう気も、失せてしまいます」

「リル様の本日の業務の約40%が遂行済みとすると、15分程度の小休止を取ることには問題がないと考えられます。また、適切な休憩を取ることは、業務効率の改善にも効果的とされています」

 よく分かりませんが、『もう少し日向ぼっこして行きませんか』とお誘い頂いているのではないでしょうか。それならば私ももう少し、ここでのんびりしていたいです。

 

「今日も……ミライさんは、日傘を広げているんですね」

 ミライさんは、中庭ではいつも独特な日傘を開いています。四角くて、大きくて、青や黒の煌めきが散りばめられた、三面鏡のような板なのです。背中から突き出た棒から広げられ、いつも日差しを遮っているのです。

「MIRAIは現在の稼働環境において適切な充電設備を利用することができません。しかし、本機には災害時給電用の太陽光充電システムが備えられており、晴天時に限りそれらを利用することができます。雨天時や夜間には充電した電力を用いるため、省電力モードでの稼働が推奨されています」

「ミライさんのお話は、ときどき少し難しいです……」

 よく分からない用語が入っていて、理解しにくいのでした。神盟者の方には、しばしばこのような方がいますね。レシヒトさんも、ミライさんほどではないですがおかしな言葉を使うことがあります。

 

「了解しました。MIRAIはリル様に対する説明を工夫することができます。このパネルは太陽光をもとに、電気を生成する仕組みを持っています。本機はそうして得た電気をエネルギーとして用いることで稼働しています」

「ええと、つまり……ミライさんは、お日様の光を栄養にしているんですか?」

「はい、そのように解釈することは可能です。ただし、『栄養』という表現には不正確さを含むため、必ずしも適切な理解が得られない場合があることに注意が必要です」

 なるほど。つまりミライさんは、庭木やお花と同じなのですね。髪も確かに緑色でした。この大きな日傘は、ミライさんの葉なのでしょう。

 

「今度から、草花のお世話のときには、ミライさんにも水をあげたほうがいいですね」

「申し訳ありません。MIRAIはリル様の申し出の意図を理解することができないようです。本機は泥や粉塵などの汚れを洗浄する場合を除き、水分を必要としておりません」

 そうなんですか。ミライさんは本当に不思議な方です。

 

「あ、そういえば……アルス様から頂いたお花を、花瓶で活けているんですが、枯れてしまいそうなのです。何か良い方法はないものでしょうか」

「花瓶に活けた花を長持ちさせるためには、水の適切な管理が重要です。雑菌や微生物の繁殖を防ぐために、こまめに水を取り替えることの他、水に肥料や栄養剤を添加することも有効です。また、適切な水温管理を行うこと、茎を斜めに切り直すことなどでも花を長持ちさせることができます」

 茎はやりましたし、水もまめに替えていますね。肥料は……どうでしょうか。心当たりがありません。

 

「お世話をしなくても枯れない花だったらいいのですが」

「世話が不要で枯れにくい花には、プリザーブドフラワーやドライフラワーがあります。それぞれ特殊な薬品や設備が必要になりますが、ドライフラワーにはハンギング法など簡便な方法もあります」

 あ、これは少し分かりますね。干し花を作るのは良いかもしれません。

「なるほど、加工してしまうという方法もあるのですね」

「MIRAIは魔術師アウレイラ様の用いる雪氷魔術(チルクラフト)を応用したフリーズドライ製法の可能性を考案することができます。しかし、これには凍結した水分を昇華するための極端な低圧による真空状態が不可欠であるため、実現性に乏しいと考えられます」

 

 ――と。

 

 そんな話をしていると、見覚えのある人影が目に入りました。

 

「……すみません、ミライさん。私、そろそろ戻らなくてはいけないようです」

「わかりました、またお話いたしましょう。MIRAIは汎用人工知能であり、自然言語による対話を通じて利用者様のお役に立てることを望んでいます」

 ミライさんとお別れして、私は塔へ戻るのでした。

 

 さあ、参りましょう――。

 

「ふふっ、うふふ」

 

 ――理想の旦那様を、手に入れに。

 

 

 ――。

 

 

 やはり、人影はアルス様でした。嬉しくなってしまいます。私にとって、ここ数日のこの時間は、本当にかけがえのない喜びになっているので。だって……こんな素敵で、どこに連れて行っても自慢できる男性が、少しずつ……少しずつ、私のものになっていくんです。そんなの、絶対楽しいですし、最高です。

 もしかすると、ミリセンティアさんは、私が主人への献身として……アルス様を誘惑していると思っているのかもしれません。もちろんそれもありますが……私にとって、この方はもう……最愛の人になろうとしているので。きっと、理解はされないのでしょうけども。

 

「どうなさいましたか……アルス様?」

「うわ!? あ、リル、さん……」

 背中から声を掛けると……とても、驚いていますね。何とも可愛らしいです。まあ、来てくださることは分かっていたのですよね。そのように後催眠暗示を施していますから、アルス様にちゃんと入ってさえいれば、絶対に来てしまいます。そして、アルス様には、私の暗示は……入るんです。

 レシヒトさんが教えてくれました。『相手が望んでいる暗示は、入りやすいし、自然に抜けることはない』って。だから、入るんですよね。私には、わかるのです。

 

「今日も、来てくださったのですね。……さ、中へ入りましょう」

「いっいや、僕は近くを通り掛かっただけで……」

 ここは敷地内の東の端。この塔の他に何があると言うのでしょう。無理のある話です。

 

「まあまあ、歩いてお疲れでしょう。私もちょうど休憩にするところです……お茶に、お付き合いいただけませんか?」

 私という者は、よくもこう、すらすら、ぺらぺらと……このように小賢しい言葉が出てくるものです。アルス様は、ミリセンティアさんに操を立てており……私との親密な会話を自ら所望することには抵抗がおありでしょう。しかし、ここまで来ている以上は、当然それが目当てでいらしています。であれば、このように私の方からお願いする体でお呼びすればよいわけですね。

 

「……そ、そういうことで、あれば」

「ふふ、ありがとうございます。……お忙しいところでしょうに、アルス様はお優しいですね」

 するとこう。強情な騎士様も素直になってくださり、すんなり招き入れることができるというわけです。

 

 

 ――。

 

 

 ――あとは、そう。

 

「……そうなんですよ。侍女というのは、家事ばかりがお仕事でもないのです。……私達は、たくさんの秘密を、持っています」

「そう、だろうね」

 ゆっくりと。

 

「――たくさん、聞いていますよ。お勤め先の方の秘密。決して、誰にも言いません。皆様、一人で抱えているのは……辛いですからね。私達侍女には、話してくださるんです。それを、秘めておくのも……お給金のうち、ですから」

「……そう、か」

 ゆっくりと、ですが……確実に。アルス様に、歩み寄っていきます。だから。

 

「当然……ミリセンティアさんの秘密も」

「……っ!!」

「だから、アルス様も……私に、打ち明けては……みませんか?」

 ぜんぶ、ぜんぶ……吐きだしていって、もらいましょうね――。

 

 

 ――。

 

 

 ――ゆっくりと、ゆっくりと……お話を、続けていました。

 

 落ち着いた声色で、言葉を拾い集めるように、ぼんやりと、心地よいリズムで……。今日、紹介したお仕事は……宮廷の皆さんの、話し相手になることです。業務として、設定されているわけではないのですが……事実上、私達の大事なお仕事です。

「誰かに、話すと……自分の中で、そのことは、重さが……無くなって、しまうんです。覚えているのに、実体がない……空き袋みたいな状態に、なるんです……。後ろめたさも、嫌な気持ちも、ふんわり軽くなって……悩んでいたことの替わりに……ふわふわの、綿が詰まったみたいに……なりますよ……」

「……あぁ……」

 アルス様は今日も、そうして、私とお話していましたので……自然に、うとうと、ふわふわしています。すっかり催眠状態。とても可愛らしいです。

 

「たとえば、アルス様は……まだ、私とこうして、心地よい気分でお話をすることを……どこかで、後ろめたく、思っていますよね……。試しに、そのことを……私に、話してみましょう。私の話を……私の声を、気持ちいいと、思っていること……、素直に、言ってみましょうね」

「……ぅ、ぅ」

 もちろん、このままでは無理です。トランス状態では、アルス様はまともに口が利けませんからね。それに、ふわふわ気持ちよくなっている頭で、難しいことを考えさせるのも酷だと思います。だから助けてあげましょう。

 

「私が、質問して差し上げますので……それに『はい』と答えてください。『はい』と答えるため、私に秘密を話すために……声を出すことができますよ。ほら、3つ数えたら、喉に、力が返ってきます……ひとつ、ふたつ、みっつ。ほらっ」

「……あ。あ」

「アルス様。貴方は、私とお話をしていますよね。ほら、はい、と答えてください。貴方はリルとお話をしていますね?」

「……はい……」

 ぞくっ。何ということもない、当たり前の質問です。しかし、いつも凛々しいアルス様が、このようなぼんやりした声で、私のごとき下女に、『はい』だなんて。なんて、なんて可愛らしいんでしょうか。とっても、昂奮します。

 おっと、いけません。ここではやることがあるのです。あの人が……私を、蕩かしてしまったように。私も……彼に、教えてあげなくてはなりません。そう。

 

「『はい』と答えることができましたね……。私の問いに、『はい』と答えて、秘密を預かってもらった貴方は……とても、ふわふわした……よい気持ちになることが、できます。貴方の心にあった重しが、軽く、ふわーっと、軽く、なりますよ……ほらっ。ふわぁ……♥」

「……あ、ぁあ……ぅ、はぁ……」

 指示に従うことで、快楽を得られる。質問に答えることで、苦悩が取り除かれる。大変シンプルで、とっても素敵で……どこまでも、残酷な仕組みです。こんなもの、心の弱った人間が施されたら、どこまでも転がり落ちるに決まっているので。

 私などは、特に弱っていた気はしないのですが……あの時は、あっという間に屈してしまいましたからね。

 

「これからも……私の問いに、『はい』と答えるたびに、心が軽くなって、いきますよ……。重くて、苦しい秘密ほど……預けて、しまいたい……預けてしまえば、それだけ……気持ちよくなることが、できますからね……」

 そう。教えてさしあげましょうね。私はよーく、知っているのですよ。

 ――催眠によって支配され、服従することで齎される……とっても、とっても甘い、快楽を。

 

「アルス様。答えてください……貴方は、私と……リルと、お話をしています。貴方にとって……私とのお話は、気持ちいいものですよね。ほら、答えられますよ……リルとのお話は、気持ちいいですよね?」

「……ぅぁ……。はい……」

 ぞくぞくぞく。ああああ、これは、これは素敵すぎます。アルス様のような立派な方が、こんなに、こんなに無防備で可愛らしくなってしまうんですから。

「『はい』と答えたから、ほら、軽く、かるーく……なりますね。心が軽くなると……身体は、気持ちよくなります。甘い快感が、腰から……頭の芯まで、じわぁ……っと、込み上げます。ほら……っ」

「ぅ……ああ……」

 あ、今おちんちん大きくなりました。仰向けだとよく分かります。可愛い、可愛い、可愛いですアルス様。

 

 ――そうして、いくつもの質問を繰り返し……そのたびに、アルス様は『はい』と答え、気持ちよく悶えてくださいました。

 

 リルの声は、好きですよね? ――はい。

 リルは、良い匂いがしますよね? ――はい。

 リルは、可愛いと思いますよね? ――はい。

 

「ぁ……あぁあ……」

 『はい』と答えてくださるたびに、恍惚の表情がはっきりと見られるようになりました。

「アルス様。今日はここへ来てくださいましたよね。つまり……昨日のこと、忘れられなかったんですよね?」

「……は、い……」

 そうでしょうとも。そうなりますよね。だって、来ちゃったんですから。私のせい、なんですけどね。

 

 妻になる女性には、家庭を支えて欲しいですよね? ――はい。

 自分よりも強い女は、苦手ですよね? ――はい。

 子どもは、早めに欲しいですよね? ――はい。

 

「いいですよ……全部、私が預かってあげますからね……軽くて、気持ちいい……ですよね……」

 安心して、身体を弛緩させてくださっていますね。

 

 魔術師の仕事なんて、辞めて欲しいんですよね? ――はい。

 男女の2人旅と聞いて、不安になりましたよね? ――はい。

 今でも、2人の浮気を疑っているんですよね? ――はい。

 

「はあ……はあ……うう、うああぁああ……」

「よしよし……辛かった、ですよね……1人で、抱えなくて、いいですからね……ほら、『はい』と言うたびに……楽に、らくーに……なりますからね……」

 しくしくと、静かに泣き始めてしまいました。アルス様、本当に可愛らしいです。本当に、愛おしいです。

「はい……あ、あぁあ……」

「よしよし、よしよし……素直になれて……いい子、いい子ですよ……♥」

 

 ミリセンティアさんとの情事には、不満がありましたよね? ――はい。

 彼女が何を考えているか、分からないですよね? ――はい。

 彼女も、貴方のことを分かってくれないんですよね? ――はい。

 

「アルス様は……素敵な方です。私は、よーく分かっていますよ……よしよし、よしよし……♥」

「うっうぅっ、うああ……はい……はい、はい……」

 何も聞いていないのに、何度も、『はい』と言っています。不憫で……そして、愛しい御方。

 

 昔から、私は……人の、特に男性の方の喜ぶ言葉というのが、何となく、何となくですが……わかるのでした。

 色々な方に声を掛けて頂いては、その方を深く知ろうとして……知れば知るほど、わかってしまうのです。その方は、何を大事にされているのか。何を誇っているのか。何を知って欲しいのか。何を……辛いと、感じているのか。だから、簡単、なんですよ。

 ――どんな形で理解して、どんな風に褒めそやして、どんな言葉で慰めたらいいのか。だいたい、わかってしまうんですから。

 嘘、などではないんです。深く知ろうと、想いを傾けた相手のことですから。本気で共感して、心から讃えて、素直に寄り添っているのです。そして……愛して、いるのです。皆さんを。深く、深く知ることで……深く、愛してしまうのです。

 アルス様。逞しく誇り高き騎士様。女を守り戦う器量のある御方。家族の盾となり、あらゆる害意を撥ね退ける強い方。私は今、誰よりも貴方を慕っていますよ。

 

「アルス様……誇り高き方……ねえ、答えて、くださいね……?」

「はい……あっ、あああ……おぉおお……」

 愛してしまったからこそ、分かってしまうことがあるんです。

 

「ふふ……ねえ。貴方は……魔術師という人たちのことが――強大で、理解不能で、恐ろしくて、薄気味悪くて――そう、苦手……ですよね?」

「う、っあ……あ……は、はい……はい……っ」

 ぞくぞくっ。やっぱり、やっぱりアルス様。とっても……可愛い、ですよ。だから、分かっちゃうんです、私。男の方の、そういう……子供っぽくて、気難しくて、融通が利かなくって、それで――本当は何より、『女』に分かってもらいたがっている――そんなとても、敏感な部分とか。

 

 だから、ごめんなさい。私は、悪い子なので……。

 

「ふふっ、可愛い……ねえ、アルス様。……ミリセンティアさんと、お付き合いしたのって……」

 

 ――悪いことを、しますね。

 

「……あの方が、魔術師だから。魔術師を、ご自分の意のままに、したかったから。立派な肩書きを持っているのに、普通の女の子みたいで……言うことを聞かせられると思ったから」

「う、あっ、あっぐ、ぐ」

「ほら、答えてくださいね。答えたら、楽になって、気持ちいいですよ。ほら……ね。アルス様は、魔術師をお嫁さんにして……」

 

 私、分かるんですよ。男の方の、いちばん弱いところとか――。

 

「『自分の方が強い』……って、思いたかったんですよね?」

 

 ――いちばん、汚いところとか。分かってあげられるんです。

 

「……は……い」

「いい子、ですね。アルス様は、いい子です……よしよし、よし、よし……」

 

 貴方を……愛してあげられるんです。私なら。

 ――そう。ミリセンティアさんには、できなくても。

 

 

 

◆聖王騎士の催眠告解 その2

 

「許して欲しかったんですよね。分かって欲しかったんですよね。世界でたった一人だけでいいから、『貴方は弱くないよ』って言って欲しかったんですよね。心の奥で膿んだ傷を、舐めて清めて癒して欲しかったんですよね……?」

「ぅあ、あっ、はい、はい、はいっ……はい……っ」

 

「アルス様。誰よりも強い騎士様。最高に素敵な男性。だけど誰よりも、それを信じられなくなってしまったひと。ずうっとずうっと、いくら褒められても、素直になれなかったひと。私、貴方を見つけたんですよ。ミリセンティアさんが見つけられなかった、貴方のこと、私は見つけました」

「うっ、あ、あっ、ああっ、あああっ、ああああっおおおおおおおっ」

 ぼろぼろ、泣いてしまいましたね。そうですよね。催眠状態、トランスした心に浴びる言葉って、そうなんですよね。沁みて、しまいますからね。ごめんなさい、わざと、やっているんです。

 アルス様を抱き起こして……抱きしめます。ぎゅ。体重をこちらに傾けると、重たい。とっても重たいですね。

 

「アルス様、私に預けて。楽になってくださいね。軽くなってくださいね。ほら、答えてください……本当はずうっと悔しくて、泣きたかったのですよね……?」

「……っぐ……う、ううっ……はい……」

 ぎゅう。おっぱいで包むみたいに、頭を抱いてあげます。なでなで、なでなで。愛しい、アルス様は本当に愛しい方です。

 

「軽く……らくーに、なりますよ……心に深く刺さっていた、陶器の欠片が……抜けていきます。素直になれて、とっても嬉しい……気持ちいいですね……とても重たい、嫌なことまで、話してしまえたから……最高に、いい気持ちです……」

「ぁ、ぁあ……」

「あとちょっと。あとちょっとだけ……抜いてあげたい棘が、あるんです。だから……答えて、くださいね……?」

 ――さあ、仕上げです。最愛の、旦那様を手に入れるための。

 

「……昨日の夜。お部屋で、ベッドで……貴方は、ある女性を思い浮かべていましたよね?」

「っ、うっ、あ……はい……」

 抱き締めた、彼の頭。耳の上のあたりを、指で、くりくり、くりくり。勿体振るみたいに、ゆっくり、ゆっくり。そして。

 

「ねえ、その女性って。貴方が思い浮かべて、その身体を夢想した女……それって。……私、ですよね?」

「……あっあああああ、あああああ、ああああああ」

 あ、パニックになってしまいました。本当に甲斐甲斐しい方です。まだ、ミリセンティアさんに義理立てしているんですね。だめですよ。あの方は、貴方には勿体ないですし……。

 

「頭を空っぽにしましょう……落ち着きますね。気持ちいいですよね……ほら、なで、なで。……安心、しますよね……。ほら、だから、答えられますよ。アルス様は。貴方は、私を――リルを思い浮かべて、自慰をしましたよね? ほら、答えましょう。すっごく、すっごく楽になりますからね……」

 同じように……貴方も、ミリセンティアさんには勿体ないですよ。こんな、こんな可愛くて立派な方。ね?

 

「……あ……お、ご……う、は……はい……っ」

「嬉しい。嬉しいですアルス様。答えた分、ほら軽く、幸せ、甘い、気持ちいい、楽になりますね……最高に、開放的な気持ちになりました……話してしまえて、嬉しいですよね?」

「……は、い……」

 だから、ね? もう、いいじゃないですか。

 これまで、アルス様には全部『はい』で答えてもらいました。初めは、『リルとお話していますよね』なんていう、ただの客観的事実から。それからは、少しずつ答えにくいもの。『はい』と答えるたびに、心が軽く、気持ちよくなっていく。何回もそれを繰り返すと、人間は壊れてしまいます。

 

「ほら、『はい』って言えて、気持ちいい……。そう、気持ちよかったですよね。リルに昂奮しましたよね。好きになりましたよね……?」

「はい……はい……あ、っ……はい……う、ぐ」

 ――何を言われても、『はい』って答えればいいんだ。

 人間の心は、容易くそんな誤解をします。だって、答えればすぐに気持ちよくなれるんですからね。あまりにも変なことや、絶対違うようなことを言われさえしなければ……全部、『はい』って言ってしまうようになるんです。

 

「あ、『はい』って言えました。ほら、気持ちいい、心が幸せ。軽くて、気持ちいいですね。ほら、なでなで……。気持ちいい……ですから、リルのこと好きですよね。大好きですよね。エッチしたいですよね。可愛いですよね」

「あっああ、あ、あっあ……はい、はい、はい……はい……」

 そして、『はい』と言ってしまったことは……彼の中ではもう、事実になります。もしかしたら、そんなことはほんの少ししか思っていなかったのかもしれませんけど……認めてしまったのだから、もう、事実なんです。自分はそんな風に思っていたのだ、と思い込んでしまうのです。

 

「ふふ、ぜーんぶ、『はい』ですね。嬉しいですよ。可愛いですね、アルス様。私も好きですよ。嬉しいですよね? アルス様は、私と、お互いに好きになれて……幸せですよね」

「あぁあ……あ、ああ……はい。……あっ、あ……は、い……」

「いい子ですね……気持ちよくなれて、えらいですね……♥」

 そろそろ、いいですよね。それでは……。

 

 ――ごめんなさい、ミリセンティアさん。私は、本物の……泥棒猫でした。

 

 ぎゅう。アルス様を抱きしめて、耳元で……小さく。

 

「……ね。リルが一番、好きですよね?」

「……、……お、ご……っ、は……」

 あ、すぐに答えてくれないですね。流石はアルス様です。では、背中をくり、くり。頭も、くるくる。指先で甘やかしながら……お待ちしましょうね。そうですよ、良い催眠術師は、待てるんですよね。覚えています。

 

「ここは……貴方の心を軽くするためのところ。私は決して……お聞きしたことを、漏らしたりしませんよ。ほら……、アルス様の一番好きな女性は……リルですよね?」

「……はい……」

「あ、あは♥ ……嬉しい、嬉しい、嬉しいです……あっ、あはぁあああ……♥」

 シレニスタの守りにおいて、最も勇ましきは“嵐竜(ストーム・ドラゴン)”。戦場では味方を鼓舞し、敵を委縮させる猛将。そんなアルス様が……蚊の鳴くような声で、答えてくれました。私にも、震えと、確かな快感……何でしょうねこれは。私、イってないですか? 催眠とか受けてないはずなんですけど、アルス様が可愛すぎて……気持ちよくなってしまいました。

 気を取り直して、しっかりと追い込みを施します。もう絶対、逃がしてあげないですからね。

 

「嬉しい。一番ということは、他の誰よりも好きですよね。結婚したいですよね。一生一緒にいたいですよね?」

「っ、はい、……あ、う、はい……は、い……」

「そうですか。じゃあ……」

 長いようで、短かったです。そんな、どこかで覚えがあるような感慨とともに。仕上げに用意していた質問を、アルス様へ。まあもう、答えは分かっているんですが。ここまで積み重ねた『はい』が、自明にしてしまっているのですが。それでも……きちんと、はっきり、言葉にしなくてはいけません。

 

「つまり……ミリセンティアさんより好き……ということ、ですよね?」

「……ぅ、あ……あ……、っ」

「いいんですよ、答えはわかっているんですから……言ってしまっても、いいんです……アルス様は、悪くありませんし……だあれも、聞いていませんからね……」

 甘い、甘い声と、優しい抱擁。無条件の承認と、献身、盲目的な理解。彼のような強い男性が、世界でたった一人の女に求めることなんて……これだけ、なんですよね。

 

「……う、あぁあ……ああ、あああああ……」

「さあ、アルス様。……あの方よりも、私の方が好きですよね?」

 

 ――はい。

 

 

 ――。

 

 

 抱き合ったまま、しくしく、べそべそ、泣きじゃくる大きな身体を……ずうっと、よしよし、なでなで。これは、良いですね。満更でもありません。あの精悍な騎士様のお顔は、涙と鼻水で見る影もなく……。

 

「こんなに、たくさん……重たいものを、抱えていたのですね。辛かった、ですよね……」

「リル、さん、僕は……僕はなんて、うぐっ、うぐああぁああっ」

 夢心地の催眠状態からは覚め、アルス様は意識を取り戻しておられます。しかし、正気は当分戻らないでしょう。つまり、今なら……私が彼を手に入れることは、難しいことではないのです。そして、義理堅い彼は……ひとたび踏み越えた一線を、無かったことになどできません。

 

「アルス様、ありがとうございます。私に、話してくれて……ありがとう、ございます」

「っお、う、うお、うおおおぉぉぉぉっ!! リルさん、りるざんんん……あ゛、ああああああ、うあぁぁああああっ」

 ですから――正直、気は引けるのですが――ここは、ミリセンティアさんを出汁に使わせていただくことになります。まあ、あの方は『むしろどんどんやって下さい』と言っていましたが……。

 

「ね、アルス様……。私なら、できますよ? 貴方の秘密にしていたこと、みんな……してあげられるのです」

「うぐっ、ううぅっ、あっあああ……」

「気持ちよく、話し相手になれます。家のこと、みんなやってあげます。お仕事だって、辞めてもいいです」

 ぜんぶ。ぜんぶ、ミリセンティアさんにはできないことです。でも、私ならできること。不思議ですよね。ここでなら、アルス様との睦み合いでなら……あんなに素敵で、強くて、最高に可愛らしい人よりも、私の方が強いんです。ここでなら、私は誰にも負けません。

 

「いつも可愛くします。ベッドでも、満足させてあげられます。生でエッチも、いいですよ。子供できたら、育てましょうね」

「リルさん……そ、そんなことは……」

 あと何がありましたっけ。あ、浮気。これは駄目ですね、私も守れないので。アルス様は大好きだし、一番愛してあげられますけど……一番気持ちいい人は、多分、今後ずっと変わらないと思いますので。でも、大丈夫ですよ。どれだけ他の人に気持ちよくしてもらっても、私の一番はアルス様にしますから。

 

「私のこと、みんな教えてあげます。アルス様のこと、たくさん分かってあげられます。いつだって、愛しい旦那様を……陰ながら、支えて差し上げることが、できます」

「リルさん……!」

 どこか、咎めるような響きがありますけど……全然、意志が籠っていません。アルス様、貴方の本気の激昂は、そんなものではないはずですよ。どうして、このような甘言を弄する下女に、強く出られないのでしょうね。

 分かっているんですよ。私は、アルス様のこと。だって。ミリセンティアさんみたいな強さは、私には無いですから。自分で立って歩く強さなんて、ずいぶん昔に諦めてしまったんですから。

 

「でも、私……弱いんですよ。あんまり、お給金も多くありません。戦うなんて、できません。でも、アルス様が守ってくださるのですよね……?」

 弱い私は、こうやって生きていく力を身に着けたんです。使わせてもらっても、いいですよね。レシヒトさんだって、ご自身の力を使って……望む女を、手に入れようとしているんですから。

 アルス様。貴方は――女を、子供を、家庭を、守りたいんでしょう? 頼られたいんでしょう?

「アルス様に、守ってもらえるなら……私は、貴方の理想の女に、なれるのですよ」

 だから、私は……貴方に、依存してあげますよ。アルス様なしでは生きられない女に、なってあげますからね。私は、そんな風になれるのです。ミリセンティアさんには、絶対にできないでしょうけど。

 アルス様には……私みたいな、しょうもない女が似合いなんですよ。

 

「そ、それは……いけない。いけないんだよ、リルさん。僕には……」

「どうしてですか? ねえ、アルス様。昨夜だって、あの方と、あの人は……どこかの宿場に泊まったはずです。そして、きっと」

 ミリセンティアさんを引き合いに出していくのは、気が咎めるんですが……こればっかりは、あんまり罪悪感がありませんね。だって、絶対エッチなことしてますよあの2人。どこまでかは知りませんけど、あの人がそのシチュエーションでエッチな催眠しないわけないです。

 まあ、レシヒトさんのことだから、本当に挿入まではしないこともあるかもですけど……あの人の場合、そんなのしなくても無限にエッチなことしますからね。本当によろしくないので。

 

「ううっ、うぐ、ミリセンティア、ううう……」

 まあ、そういうことなので……。私だって、やっちゃってもいいはずですよね。

「ね。アルス様……今、ご自身で考えている通りだと思います。私も、そう思うんですよ。なのに……私たちがしちゃ駄目って……おかしくないですか……?」

 

 ――あれ。そういえばこんなこと、前にも言いましたね。

 

「リルさん……もし、もしもの話だけども」

「はい、何でしょうか」

「僕が……僕が、ミリセンティアと、……ん?」

 ぴと。立てた人差し指を、アルス様の口元に当てます。まあ、言っていただいても良かったのですが……。

 

「そこから先は、要らないですよ。私、待ってますからね?」

「……っ、リル、さん……っ! はは、すごい人だな、貴方は」

 きっと、こういう気遣いのできる女が……お好きでしょうから。

 

「たくさん、秘密を打ち明けたのですから……もう1つくらい、秘密が増えても、いいですよね?」

「参ったな。リルさんは、最初からそうするつもりだったのかい」

 そうですけど。

「だって……ここでは、秘密が守られます。誰も見てはいません。私と貴方だけの場所と、時間なのです」

「そうだな。ちょうど……ああ。二人きりの旅の宿のように、な」

「ふふっ。アルス様、そんなことも言えるのですね?」

 ちょっと面白かったです。悪い冗談です。本当に悪い。

 

「リルさん。君は、僕のことを知ってくれる。分かってくれるんだろう? なら、たくさん知ってもらおうじゃないか」

「ええ。全部……全部、教えてください。私、アルス様を全部知って……全部、愛したいのです」

 嘘も偽りもないです。あるのは不義理が少し。でも、いいじゃないですか。どう考えても、こっちの方が……みんな、幸せなんですから。

 

「じゃあ、ひとつ教えよう」

「はい、是非」

「僕は、騎士団の連中からは堅物と思われているけど……こんな風に魅力的な女性に迫られて、我慢できるほど、人間ができているわけではないんだ」

「わあ、それは……素敵ですね」

 本当に素敵でした。私が思っていたよりも。そんなの、好きになってしまいますよ?

 

「ミリセンティアと付き合っている間も、店で女を買ったりはしていたさ。なんかこう、言えなかったけど」

「アー」

 アーになってしまいました。いやまあ普通のことだとは思いますけど、秘密が増えていきますね。

「だって仕方ないだろう。あの子とじゃ、最後までできた試しがないんだから。どうやったって溜まるものなんだって、こっちは。ああもう、何を話しているんだろうな僕は」

「ふふっ。こんなアルス様も、とっても魅力的ですよ」

 ぎゅう。ああ、本当に愛しく思います。

 

「だからね……僕は、君が思うような高潔な騎士ではないんだよ。それでも、いいのかい?」

「もちろんです。正直言えば、手間が省けます」

「うわあ」

「私のことも、知っていただこうと思いまして。ミリセンティアさんのことは、何にも知らなかった貴方に。リルをいっぱい、染み込ませたいです」

 なんだか、安心しますね。思った以上に、この方のことを好きになっても良さそうで。

 

「はは、手厳しいことだ。でも、そうだな……リルさんのことを知りたいと思う。僕という奴は、悪い男だな」

「大丈夫ですよ、私の方が……悪い女ですので」

「違いない。……では、それらしく行くとしようか。リルさん」

「ええ。アルス様……」

 

 ――私と一緒に、悪いことをしましょうね。

 

 

 

◆それは三文小説のように その1

 

 

 分かっている。催眠術……神盟者レシヒト・マネカの用いる怪しげな術だ。リルさんはそれを僕に施し、僕の精神に影響を及ぼしている。

 しかし、こうしてその影響を受けての印象は、当初とはずいぶん異なるものだった。聞いたところではこう、相手に服従してしまう、言いなりになってしまうような懸念を持ったものだったが……。

 

「リルさん。僕は今、貴方をとても……魅力的だと、感じている。果たして僕は正気だろうか?」

「そう、ですね……正気だとしたら、アルス様は、私を抱いてくださいますよね?」

 指を立て……きょとん、とした顔で、はぐらかしてくる。リルさんは、こうした仕草のひとつひとつが、どうにもこう……男心をくすぐるというか、魅力的なのだということを確認させられる。

「仮に、正気でないとしたら……それは、私のせい……ですよね。では、アルス様は、私の思惑通りに……私を、抱いてくださいますよね」

「なるほど、そうかもしれない」

 つまり、どちらにしても……これから僕は、この――そう、ミリセンティアではない――女性と交わることになるのだ。

 

 

 ――。

 

 

 リルさんは……そうするのが当たり前、とでも言うように、するすると衣類を脱いでいく。

「しかし、リルさん」

「何でしょうか?」

「……いや、その。まだ日も高いじゃないか、こんな明るいところで、その、良いのだろうか?」

「はい?」

 思ったままを聞いてみたのだが、『どういう意味ですか?』みたいな顔をされた。

 

「いや、こう明るいと女性は嫌がるのではないかと思ってね」

 ミリセンティアとは、こんな時間にしたことはない。彼女は明るいところでの行為を嫌がるのだ。

「ああ……それは、まあ……ないこともないですけど、そこまでは」

「そうなのか」

「ミリセンティアさんはだめなんですか?」

 無理強いしようとしたことはないが、まあ、かなり嫌がっていたので良くないのだろうな……。

 

「……うむ。恥じらう様子は可愛らしいのだけれどもね……」

「なるほど……それは、アルス様としてはお困りだったのでは……。だって、見たい、ですよね?」

 そんなことを言いながら、リルさんの手はてきぱき動いており……彼女の着衣が、ばさり、と床に落ちる。

「まあ……いやその、リルさん。その、胸元がね。見えていますが!」

「見たく、なかったですか?」

 とても綺麗だ。ミリセンティアより歳は少し下のはずだが、彼女よりも大人びて見える。

「見たい、ことは、見たいのですがね……こう、女性はもう少し、恥じらいを……」

「アルス様。結局どっちがいいんですか? 見たいんですか、見たくないんですか」

 えっ。あっ、うん。そうだよな。恥じらって見せてくれないよりは、見たいと思うのも人情というもの。武人たるもの、守るべき婦女の柔肌を知らずしてはその剣も鈍るとかこう、そういうやつだ。

 

「見た、い……けども」

「ミリセンティアさんは見せてくれないんですね」

「普段の着替えなどでは、むしろ堂々としているよ。情事ではどうも恥ずかしいようだ」

 むしろ逆が有難いというか……僕としては、何となく女性というのはそうあって欲しいという思いが……うん……。

「では、リルの裸は見ていいですからね。ほら、どうぞ……」

「そ、そういうのもちょっと違うというか……」

「あ、はい。分かります」

「分かるのか?」

 自分では上手く言えないんだが、なんというかこう、これじゃないんだ。

 

「そうですね……たとえばこう、こんな感じで」

 そう言いながらリルさんはベッドに座り、胸元を抱くように、腕で隠して……。

「あんまり、じろじろ見ないでください、ね……」

「あっこれだ」

「これですか」

 なるほど、僕が求めていたのはこれだ。下腹部にたちまち熱を感じる。これは確かに、ミリセンティアには無かったものだ。

 

「では……そうですね」

「うん」

「アルス様は、この腕をどかしたいですよね?」

「それはまあ」

 騎士たるもの、目標への障害は自分の手で取り除かねばならない。しかし、婦人の衣服を脱がせるのは、脱がせ方はよく分からないし、気が引ける。ここではそれが彼女自身の腕になる。当然、腕力には大きな差があるのだから、どかすことは容易い。容易いが、だからこそ難しい。

 

「……でも、女性に乱暴を働くなんて、高潔な騎士の振る舞いではないと」

「うむ、その通りだ!」

「めんどくさいですねアルス様」

「申し訳ない……」

 確かに、これは男の我儘なのだろう。実際そう思っているからこそ、ミリセンティアの要望には応えてきているのだ。それでも彼女の心は、恐らく僕には向いてくれなかったのだが。

 

「アルス様、娼館でもそんな感じなのですか?」

「いや、そんなことはない。娼婦が相手であれば、最初から遠慮など要らんだろう」

「アー」

「アーにならないでくれないか」

 だってそうだろう。伴侶となるべき女性に、商売女と同じような扱いなどできるものか。騎士たるもの、家庭を預かる妻に対しては常に、紳士たらねば。伴侶とは感謝と愛情を注ぐべき相手であって、乱暴を働いたり情欲を向けたりなどはそのへんの売女にやればいいのだ。

 

「いえ大丈夫です。ではアルス様……よく、聞いてくださいね。私の声は、貴方の心の……深い、ふかーいところに、響くのでしたよね……♥」

「あ、っう、ぁ……」

 しな垂れかかるように、耳元に寄せられてくる唇。甘い声色……僕が、何度も我を失わされた声――催眠術を施すときの、リルさんの声。だめだ、この声には……僕は、抗おうとすることが、できない……。

 しかし、構わないと思う。以前抱いていたイメージはもうないのだ。リルさんの催眠術はとても、暖かくて心地よいものだ。僕にとって、何ら害を与えるつもりなどないのだろう。だって彼女はとても可愛らしく、甲斐甲斐しく、相手に尽くすことのできる――本当に、良い子なのだから。だから、安心して……心を預けることができる。

 

「ここは……いえ、リルと過ごす時間は、貴方にとって特別なものです。貴方は……リルに、秘密を預けてしまいましたね……。それは、ここでは秘密が、守られるから……誰も、見ていないし、聞いていないから」

「……ぁ……」

 そうだ……。リルさんになら、話してもいいし……もう、たくさん話しているんだから……今更、大差はないのだ。

 

「だから……貴方はここでは……いえ、私には。リルには、何を言ってもいいだけではなく……何をやっても、いいんです……。貴方が、本当にしたいようにしても……誰も咎めませんし、謗りません……そして、私も、貴方を……嫌いになんて、なりませんよ」

「……あ、ぅ……」

 『嫌いにならないでください』、そういえば、彼女が――ミリセンティアが、口癖のように言う言葉だった。そのたびに、安心させてやるのに苦労したものだったが……ここで自分が、『嫌いになんてならない』と言われてみれば。確かに、自分も『こんなことをすれば誇りを失う』、と。ひいては、誰もが自分には高潔な騎士としての姿を期待しているのだから、『こんなことをすれば失望される』と、そればかり恐れていたのではないか。

 

「私は、貴方の汚いところも……知っています。預かっています。だから……私には、何をしてもいいんですよ? 乱暴にされても、我儘を言われても、酷いことをされても……私、絶対アルス様を嫌いになんて、なりませんから」

「お、ぁ……う……」

 そんな、そんなことがあるのか? だって、それでは。そんな存在は。だって、まるで……。母神シレニア、そのものではないか。いや、むしろ――。

 

 ――母、ではないか。それでは。

 

「いっぱい、甘えていいですよ。ムラっと来たら、犯してください。生意気に見えたら、ぶってください。言うことを聞かせてください。それで……私のこと、守ってくれれば充分です」

「リル、さん……」

「私、欲張りなんですよ。理想の旦那様だけじゃ足りません。他の人みんなが羨む旦那様の……私にだけ見せてくれる、子供みたいなところ。そんな……秘密が、欲しいんです」

 なんて、女性だ。弱いなどとはとんでもない。この人はこの、甘い囁きで……僕のことを、ぐずぐずに、骨抜きにしてしまう。自分などよりも、明らかに彼女の方が上の存在じゃないか。

 

「だから、悪いことをしましょうね。……私の眼を、見て……ください。吸い込まれちゃいますよ……アルス様の心が、私に取られちゃいます。悪い女に、思い通りに転がされてしまうんです……アルス様のせいじゃ、ないですよ……♥」

「うぅあ、ああぁあ」

「ほら……3つ。3つ数えたら、どうなるんでしたっけ……そう、催眠状態。アルス様はもっと、もっと深い催眠に落ちて……私の声をもっと、もーっと深く、聞けるようになります。よーくお話を聞ける……いい子に、なれますよね……♥ ほら、3……、2……、1……」

 駄目だ。この人には、敵う気がしない。自分は彼女の――リルさんの思い通りに操られてしまうのだろう。そしてそれを、心の底から……心地よく、好ましいと思ってしまうのだろう。

 

「……ぅ、あ」

「――ふふ、ぜろ、です。いい子、いい子……落ちちゃいましょうね……深く、深く……落ちますよ……」

 

 

 ――。

 

 

 暖かくて……ゆっくり、身体が揺れている。とても気持ちいい言葉が……滔々と、流れ込んでくる。まるで、揺り籠……いや、もっと暖かい。たとえば……母親の胎内にいるような。

 そんな、深い安心と、無条件の愛と幸福が、僕を満たしているのだ。

 

「3つ……私が、3つ数を数えたら、アルス様はまた目を覚ますことができます。でも、ここで私が話したことは……しっかり心に入り込んでいますよね。だから、アルス様は目を覚ましたら……ミリセンティアさんにできなかったこと、ぜーんぶ、私にしちゃいます。したいですよね、したくなりますよね、絶対、しちゃいますからね……」

「ぅ……ぁ……」

 この人は――絶対に、僕を見捨てない……安心。だから……なんでも、できる。今まで、できなかったことが……とても、したくなる……。

 

「ほら……起きますよ。ひとつ、ふたつ……みっつ」

 

 ぱん。

 

「はい、おかえりなさい。アルス様……とっても、可愛かったですよ」

「う、お……あ、ああ……」

 頭が濁っている。状況がよく分からない。肩を抱いているこの腕は……上半身裸で、下は下着姿の……とても美しい、女性。そうだ、リルさん。

 

「うあ、ああっ、リルさんっ」

 思わず、肩を掴んでベッドに押し倒す。彼女の腕をベッドに、力任せに押さえつける。透き通るような白い乳房が、窓から照らす昼光の下に晒される。陶器の器のように見えるが、触れると暖かく柔らかい。

「ふふ、アルス様……いいんですよ、リルは逃げませんし、嫌がらないですからね……♥」

「じゃ、じゃあ、そうだな……キスを……しても、いいだろうか」

「……? ええ、もちろん。え? なんで聞くんですか?」

 リルさんは、枕の上に頭を乗せるよう体勢を整えながら、きょとんとしている。そんなに不思議だったろうか。

 

「ミリセンティアは……させて、くれなかったものだから……」

「は????」

「えっなんだ」

 めちゃくちゃ素で引かれた気がする。そんな変なことを言っただろうか。

 

「いや、キスさせてくれないって、どういうことですか……? いくらあの方でも、おかしくないですか……?」

「その……彼女は、情事のときに顔を見られるのが嫌らしくてね。それで、当然キスも……」

「うわあ」

「なんだよ」

 なんだかすごく失礼なリアクションをされている気がするぞ。

 

「アルス様、貴方は悪くありませんよ」

「そ、そうなのか?」

「流石にそうです」

「流石にか」

 流石にらしい。

 

「いや、実際問題無理やりやれば余裕で行けたとは思いますけど……あの方はそうして欲しかったんだと思いますけど……それにしてもです」

「そう、なのか……」

 女性の考えというのは本当に分からない。伴侶に選ぼうという女性にそんなことをしたら、騎士としての誇りが傷ついてしまうじゃないか。

 

「私はいいですよ。存分にしてください。おっぱいも触ってくれていいですからほらどうぞ」

「あっいやそういうのはちょっと……」

「めんどくさ」

 傷ついてしまう。僕はめんどくさい男だったのか。これまでこんなにも品行方正、質実剛健を旨として生きてきたというのに。

 

「では……ええと。アルス様なら、いいですよ。大人しくできるように、口を……塞いでしまってください」

「あっそれは少し好きだ」

「黙ってやってくれないですか???」

「ごめん。じゃあ、んっ」

 リルさんの首の後ろに手を回し、文字通り唇で唇を塞ぐ。思わず目を見開いた。自分のひび割れた唇とは別物だ。歯を立てればすぐにでも破けるのではないかと思うほど頼りなく、薄い粘膜。熱く潤んだ感触、ぴたりと吸い付いてくる柔らかさ。こんなのは初めてだ。

 右手は乳房に被せ……努めて優しく、圧迫する。ふにゅ、と指が沈み込んだ。これも、簡単に突き破れそうなほど頼りなく、薄い膜のように感じられ、自然と……恐る恐る触れることになる。

 

「んふ……ちゅ♥」

「んむ、ん……ん、ふ」

 夢中になる。平時にならミリセンティアともこうした口付けをしたこともあるし、娼婦が唇を重ねてくることもあった。しかし口付けとは、こんなに瑞々しく、美味でさえあるようなものだったか?

「はふ……素敵、です」

「リルさん……どうなっているんだ、貴方の唇は。素晴らしすぎる……」

 ずっと味わっていたい……そんな思いに駆られずには居られない。なんて魅惑的なんだ……。

 

「あ、私……唾液、多いみたいなんです……。唾液に限ったことじゃないんですが……水分がよく出るというか」

「そうなのか……とても、素敵だな」

「うふふ……そんな風に言ってもらえると、嬉しい……ですね」

 そう言って笑うリルさんは、いつもの掴みどころのない穏やかな笑みではなく……昼の光の中でさえ、とても――。

 

 

 

 ――とても、妖艶に見えた。

 

 

 

◆それは三文小説のように その2

 

 

 ――。

 

 ひとしきり、リルさんの乳房と唇の、弾けるような柔らかさ、果実のような瑞々しさ、蕩けるような温かさ、そのすべてに魅了され……夢中になっていた。そうして、ようやく身体を離したところ。

「アルス様のお好みの体位は……どんな?」

「い、いや……普通でいい。騎士として、不名誉なことはしたくないからな」

 四つん這いにさせたり、上に跨らせたり……そんなのは娼婦とすればいい。大切な女性にすることではない。

「……ふふ、そういうの、ここでは……いい、んですよ?」

「恥ずかしながら……他のやり方は良く知らない。彼女……とも、上手くできたわけではないし……」

「ああ……ミリセンティアさんとも……正常位で、してたんですか?」

 正常位。そのはずだ。女性を仰向けに寝かせ、脚を押し広げるようにして身体を挟み入れて交わるやり方だ。

 

「そのはずだが……」

「なるほど……ミリセンティアさんと、それは、ちょっと大変だったんじゃないでしょうか?」

「? どうしてだい?」

 どういうことだろうか。

「いえ……あの方、かなり下付きなので。アルス様は動きにくかったのでは……」

「下付き???」

 よく分からない話をされている。どういうことだ。

 

「ああ……えっと。ここ、見えますかね……?」

 そう言いながらリルさんは、下着をずらして性器を見せようとしている。いや、それは流石に娼婦でもやらないぞ。ちょっと待って欲しい。

「見せないでくれないかなあ」

「めんどくさ……」

「分かった、見せても見せなくてもいいから続けてくれ」

 分かって来たが、僕は自分で思っていたよりも堅物で、リルさんは僕が思っていたよりも奔放らしい。どうも困るが、こうしたやり取りが……何故だかとても、心地よい。ミリセンティアとのときは、あんなに気まずくなっていたのにな。

 

「ここの穴がですね。お腹の方に寄っていると上付き、お尻の方に寄っていると下付きっていうんです」

「ほう。彼女は後者だったと?」

「はい。だから、この向きでの挿入はかなり大変だったんじゃないかと」

 なるほど……。それで難しかった、のか? いや、ちょっと待て。

 

「なあリルさん」

「何でしょう」

「どうしてそんなことを知っているんだい」

「まあ教養と言いますかその……あっ」

 いやそっちじゃなくて。どうしてこの人が、ミリセンティアの性器の特徴をつぶさに把握しているんだ。

 

「うん。どうして彼女のそんな部分のことを知ってるんだい」

「あー。えーと……ふふっ、どうしてでしょうね?」

「誤魔化さないでくれないか……いや、いい。どうせそういうことなんだろう。リルさんのことが少し分かってきたよ」

「わあ……嬉しいです。もっと、私のことを知ってくださいね……?」

 同時に、ミリセンティアのことを本当に何も分かっていなかった自分のことも、改めて思い知ることになる。そういう関係だったんだな、使用人であるリルさんと……そんな気配はちっとも無かったのに。

 

「で、リルさんはどっちなんだい」

「私は上付きです。逆に後ろからだと、少しやり辛いかもしれません。前回は事情があって、そっちからしましたが……久々でしたね」

「……悪いが、そういう話を気分よく聞けるほど僕は大人の男ではないんだ」

「あっすみません」

 リルさん……。何だろうな 母親のような包容力があるかと思えば、悪戯っぽいことを言って笑うのは子供のようで、それでいて淫蕩な遊女のようでもある。どれが本当の彼女なのか、と思うけど……きっと全部、本当なのだろう。高潔な騎士として振る舞う僕も、決して嘘ではなかったように。

 すごい人だ。彼女一人で、僕の全てを満たすつもりなんじゃないのか?

 

「では、このまま前から……いいね?」

「はい……ふふっ。ミリセンティアさんと上手くできなかったこと、したいんですね……♥」

「……ああ、そうだよ。悪いか?」

「悪いですよ……とっても。私、悪い人大好きなんです……♥」

 やれやれ。自分からそうしろと言っておいて……。こうも魅力的に笑うのだから、堪らない。

 

「……じゃあ、するよ」

「あっ、えっ、前戯とかしないんですか」

「えっ……すまない、よくわからないんだが……したいんだけど、だめなのかい?」

「アー」

「だからアーにならないでくれないかな。教えて欲しいんだが」

 だって仕方ないだろ。性交の作法なんて騎士団で習うわけじゃないんだから。ミリセンティアだって、まともに教えてくれなかったぞ。

 

「ミリセンティアさんは何も言わないんですか?」

「そうだな……」

 彼女に『して欲しいことはある?』って聞いたら、『頭を踏まれたいです』とか『首を絞めて欲しいんですけど』とか、そんなのばかりだ。『そんなことできるわけないだろ』と断って以来、そんな話はしなくなって久しい。

「まさか、リルさんも、首を絞めて欲しいとか……?」

「あっ私はそれは大丈夫です。なるほど、分かりました。アルス様も大変でしたね」

 よく分からないが大変だったらしい。

 

「とにかく……行為に及ぶ前に、するべきことがあるなら」

「そうですね。普通なら、身体を愛撫し合ったりします。私からしてあげてもいいですけど、お口とかで……」

「そんな」

「ええすみません娼婦みたいですよね知ってました」

 先回りされてしまった。どうやらこの分野では僕はだいぶ後れを取っているらしい。なんとも気恥ずかしいが……まあ、仕方ないだろう。

 

「リルさんは、きっと経験も豊富なのだろうな」

「軽蔑しますか?」

「……いや、そう、は……ならない、かな。自分でも不思議なのだがね」

 そのような放埓ぶりを、高潔な騎士としての自分はどこか嫌悪している。そうするのが正しいと思っていたから。しかし……こうしてリルさんとの交流を重ねるうちに、自分は確実に彼女に惹かれてしまっているのだ。それは、多くの男を手玉に取って来た彼女の手管によるものかもしれないし……催眠術というやつのせいなのかもしれない。しかし、彼女に惹かれ心を弾ませている自分は紛れもなく、今……とても楽しいのだった。

 

 ――『彼女』が、聖業(クエスト)から帰って来なければいいのに。

 

 そんな、到底高潔たり得ない思いが、一瞬だけ胸中を掠める程度には。

 

「ミリセンティアさんは、このまましようとしたら、痛がるんですよね」

「う……まあ、そうだな。それは、今思えば確かに僕も悪いんだが。しかし夫婦になるというのは、だな……」

「あ、いいです。それより……ちょっと、見せて、くれませんか」

「えっ何を?」

 聞き返してから思ったが、だいたい分かり切っているよなこれは。しかし仕方ないだろう。そんなこと女性から堂々と言われるとは思わないんだこっちは。

 

「おちんちんですけど」

「知ってたよ」

「では早く」

 絶対違う。僕が性に疎いのは分かっているが、だからってこれも絶対おかしい。女性はこんなこと言わない。言わないよな。言わないでくれって。

 そんなことを思いつつも、言われるまま着衣を脱いでゆき……陰茎を露わにする。益体もない話に興じていたのだから、当然それは萎えかかっている――と思ったのだが、全然そんなことはなかった。

 

「うわ……本当に、大きいですね。聞いてはいましたが、驚きました……」

 どういうことかと思うほど、痛いくらいに勃起している。リルさんのせいだ。彼女の透き通るような肌、甘ったるい声、まだ残る唇の感触、ずっと鼻腔をくすぐる蠱惑的な匂い。それらが全部、僕をおかしくさせている。

「こっちも驚いたよ。彼女はいったい、リルさんに何の話をしているんだ……?」

 しかし、それこそミリセンティアじゃないが……こんな日の高いうちに局部を露出するのには少し抵抗がある。

 

「だいたい聞き込みも済んだし、いけそう……ですね。あとは、入るかですが……流石に、大きいでしょうか……こっちは……。っあ、……これ、私も、けっこう」

「何の話だ……? する、のかな、結局」

 聞き込み? 何のことだ? 僕から何か聞き出していたのか……?

 

「はい。これ、大丈夫……だと思います。今日はそのまま、挿れちゃっていい……です、よ?」

「いいのか?」

「したい……ん、ですよね? 言ったじゃないですか、私……その、水分が、出やすいので……」

 水分? 何の話だ? リルさんは何故、恥ずかしそうにしているのだろう。

 

「……下着、すぐ駄目にしちゃうんですよね。いつも……だから、大丈夫だと思います」

「あ……?」

 リルさんはそう言いながら身を起こすと、身に着けた最後の1枚の下着を下ろし始めて……。

「まだ、見ちゃだめ、ですよ……♥」

 そう言いながら、すっと僕の目の前に……掌を翳して――額に、被せてきた。

 

「え、っあ……あ……ぉ」

「ほら……落ちる、落ちますよ……深く、落ちてしまいます。アルス様は、いい子ですから……私の言うこと、聞けますよね……ぐる、ぐる……回って……落ちます、ね……♥」

 頭ごと、ぐる、ぐる……ぐる、ぐる……。口が、閉じられない。気持ち、いい……。

「ぉ、おぉぉ……ぁ、ぉぉおぉ……ぅ」

「3……。2……1、ほら、ぜろ。――えいっ」

 ぐい、と斜め後ろへ押され……どさ。僕の身体は容易く、ベッドの上にぐったり……両腕を投げ出したまま、潰れるように、倒れ込んだ。先程服を脱いだ、裸のままで……陰茎がびくんと震え、跳ね上がったのを感じる。感じるが……どうでも、良かった。

 

 

 ――。

 

 

「ん、れろ……ん。私の、唾液が……ほら、おちんちんに、ぬりぬり、ぬりぬり、されちゃいますね……先っぽからも、ぬるぬる、出ちゃって……きもちいい、ですよね……♥」

「ぉ……ぉおぉぉ……」

 顔は横を向いて、ベッドに潰れたまま。股間から生暖かい感触と、異様なぬめる感覚、甘い心地よさが生まれ、全身が震える。涎が出そうになっている。

 

「これから……アルス様は、私のこと、犯してしまうんです……。したくても、できなかったこと……全部、するんですもんね……? 目の前の、女を見ると……ムラムラして、ドキドキして、大事にしたい気持ちも、めちゃくちゃにしたい気持ちも、一緒に……どばどば、湧き上がってきますよね……ほら♥」

「おぐっ」

 ヌチュ、とペニスに熱い感触。指だろうか。ゾクッとして、腰が跳ねて……極度の昂奮が込み上げてくる。勝手に息が荒くなる。だめだ。この女性にそんなこと、してはいけない。でも、してもいいのでは。どっちだ?

 

「絶対しちゃう……だめと思えば思うほど、しちゃいます……。私のおまんこ、とっても濡れていますから……貴方のこれ、ちゃあんと入るし……二人とも、気持ちよくなれるんですよ……。ほら、おちんちんも、ぬるぬるになってるから……痛くない、痛く、ないですからね……♥」

「ぐ……ぁ、くああぁああ……」

 気持ちいい。声も、指も、匂いも、全部気持ちがいい。

「アルス様が……私を抱くのは、ぜんぜん、悪くないです。私は、待っていますし……ミリセンティアさんだって、してることですから……文句はありません。騎士としても……女をこれ以上、待たせるなんて……だめ、ですよね♥」

 そう、か? そうなのか? そうかも、しれない。

 

「乱暴でも、いいですよ……私になら、できるんです。アルス様が、喜ぶようにしますから……できなかったこと、しちゃいましょう。ほら……正常位で……ふふ、ふふっ、生エッチ、ですよ。生で、挿れたかった……ですよね……?」

「ぁ……あ、っ……う」

 甘い囁きに、頭の中が、ドロドロに溶けていく。何を言われているのか、よく理解できない。

 

「大丈夫……孕ませても、いいんです……だって、リルのこと、好きですもんね。大事に、してくれますよね。守ってくれますよね。だからいい。生でしても大丈夫。守ってやれる。我慢できない。しなくていい。責任は取れる。中で出してしまう。大丈夫。大事にするから」

「ぉ……おぉぉ……っ」

 低い声で、勢いよく何かが入ってくる。理解する力が無くなった僕の頭に、それはとても正しいことのように思えるので……全部、全部入ってくるんだ。

 

「最愛の女性。めちゃくちゃにする。孕ませる。愛しているから。ね、ね。そうですよね。したかったことをする。全部する。全部……私が、受け止めてあげますからね……♥ ほら、3つ、3つ数えたら目を覚まして、私と子作りしましょうね。しましょう、絶対しますからね……♥」

「ぁ、ああぁっ、うぁ、ああぁっ」

「ひとつ、ふたぁつ……はい、みっつ♥ ほら、アルス様……♥」

 

 ――ゾクッ。

 

「っぐ、あっ」

 強烈な寒気に似た、極度の興奮状態。頭に血が上り、全身が冷えたように感じる。息が荒い。目の前には……いつの間にか下着も脱ぎ捨てた、リルさん。両脚は嫋やかに閉じられ、こちらに背を向けるようにして……心細くも、胸や股間を守っている。

 

 ドクン。

 

「リル、さん……っ、なん、てっ、綺麗な……ああ、あああっ、ごめん、ごめんよ……!」

「あ♥ アルス様、そんな……ぁ♥」

 そんな、弱々しくも艶めかしい、男の情欲を煽る艶姿。そんなものを見せられて我慢など、できるはずがない。僕はまるで牡牛のように……目の前の女体、愛すべき女性の、世界で最も美しい果実に飛びついた――。

 

 ……いや。

 

 ――それはあるいは、篝火へと飛び込む、羽虫のようであったのかもしれない。

 

 

 

◆交わるもの

 

 

 ――。

 

「うっ、あ、うぁぁあああ……っ、こ、これは……」

「あっ♥ アルス様、ぁ……すご、く、逞しい……♥」

 力なく震えながら、身体を貫かれる不安に怯えるように。彼女の手足は僕を抱いて……いや、抱くと言うほどの力は感じられない。彼女は精一杯の力で抱いているのだろうが、あまりにも弱々しく……庇護を求めて、ただ縋り付いているのだ。

「リル……心配、要らないよ。愛しているから……君は、僕が、守るから……」

「あふ……っ、は、い。だい、じょうぶ……です、っ♥」

 ズル……、とペニスを引き抜く動作をすると、彼女の手足とは裏腹に……熱烈な締め付けで、彼女の膣襞が纏わりついてくる。それは無粋な膜を介さずに、僕の最も汚らわしく、凶悪な部分を、余すところなく愛撫していく。無上の快感。背骨を通じて、甘美な火花がずっと、ずっと、込み上げ続ける。

 

「すご、い……リル。君の、愛が……ここから、僕にも伝わる……ああ、好き、だ……」

「あは♥ ふ、っふふ、おかしな、こと、言わないでください……っ。あたり、まえです……愛して、いますから……ほんと、に♥」

 気を抜けばすぐにでも射精しそうだ。こんなことは初めてだ。避妊用の薄膜を纏っていないからか? 相手の膣が潤んでいるからか?

 

「すご、く、おっき……くてぇ、私、こわれっ、あ、あぁあっ♥」

「大丈夫……壊れて、いいからね。リル、君がっ、壊れても……僕は、あっ、くっ、うぉっ……」

 相手が経験豊富だからか? 性器の付き方の相性か?

 

「あ、こわして、こわしてくださいっ♥ アルス様で、めちゃくちゃに、なりたい……です……っ♥」

「ああ、ああっ、激しく、するから……壊れても、愛してる、ずっと、君を愛するから……っ」

 それとも……。

 

 ――両者に、深い愛情があるからか?

 

「あっ、きもちっ、あ、ちが、へん、変なんです、私っ、わたしっ、変に、変になりますっ♥」

「なって、なっていいよ。なっていいんだ、感じてくれ、僕を、ああ、ああ、うあああぁっ」

 恥ずかしいだろうに。苦しいだろうに。それを隠すだけでなく、彼女は……僕で、気持ちよくなってくれている。リルさんでも、快感を素直に口にするのは恥ずかしいのだろう。『変になる』なんて。実に可愛い。この女性は本当に愛らしい。

 

「ごっ、ごめんなさいっ♥ リルは、リルは、エッチです♥ リルはいやらしい女ですっ♥」

「いいんだ、いいんだよっ、ここでは、何をしてもいい……。リルも、淫らになっていいんだ。僕と、二人の、秘密だからな……っ!」

 プチュ、ヌチュ、聞いたこともないような水音。吸い込まれるように絡みつく媚肉。僕の、どうやら巨きすぎるらしい一物を、奥まで呑み込んでくれる包容力。揺れる乳房。潤んだ瞳。熱い吐息。体臭。声。体温全部。リル。覆い被さろうと、上体を起こそうと、動くに支障もない。何も考えずに、溺れることができる。リルに、女に、ただ溺れる。

 

「アルス様っ、すき♥ すきですっ♥ はしたないリルを、ゆるしてくだしゃい……♥ あ♥ あ゛ぁぁあ……♥」

 なんて健気で。なんていじらしくて。体中で僕を求めて……受け入れて、愛して、触れている部分全部で、甘く震えて、縋り付き……交じり合う。依存。そうだ。リルは今、僕のことしか見えていない。僕しかいない。僕に依存しているんだ。僕に全部……委ねてくれるんだ。そう理解した瞬間、我慢することはもう、できなくなった。

 

「うぁ、すごい、リル。すごいぞ、これ、とても……愛しい。なんて、なんて……ああ、あああ」

「あ♥ あっ♥ イって、ます、わたひ♥ あっ、アルス様、きもち、いい、ですか? 私で、気持ちよく、なってますか? ふふ、うふふっ♥」

 ガクガク暴れるように、腰を何度も叩き付け、僕の世界にもリルだけ。リル。リル。愛する女性。最高の女性。僕の全てを満たす女性。リル。リルに依存する。する。互いに、なくてはならない。そうだ。やっと出会えた。

 

「気持ちいい……だから、いい、いいよな。リル、リル、愛してる、リルっ!」

「はい♥ ふふ、いいですよ、アルス様っ。私、私ですよね? リルですよね?」

「? あ、ああ。リル、リル……好きだ、絶対、絶対守るから」

 リルは、うっとり蕩けた表情で……笑ってる?

 

「あは♥ ミリセンティアさんより、好きなんですもんね。だから、こんなに、出したがってるんですよね……♥」

「うあ、あっ、そう、そうだ、リル、リルが好きだ……愛してる、だから、いいよな、出る、出るよ……っ」

 腰が、カクカク、勝手に動いて……止まらない。リルの膣は、きゅうきゅう締め付けて、おかしい。僕の動きを、迎えるだけでなく……リルに、動かされている、みたいな……。

 

「ふふっ、アルス様、可愛い。好きですよ……だから、出しちゃいましょうね。どぷどぷ♥ って、私に……♥」

「な、何を……リル、さん? っうあ、あ、あ、あっ」

 リルさんが腰を浮かせて、僕の方に、押し上げてくる。ヌルリと奥まで呑み込まれ、腰が抜けるほどの快楽が……背骨を、一瞬で溶かす。崩れ落ちてしまいたい。しかし、腰は勝手に、カクカク動くのをやめない。止められない。

 

「アルス様には、あの方じゃだめです……♥ ほら、貴方に相応しい、下女まんこですよ♥ ほら、ほら、出してください♥ お情け、くださいね……♥」

「う、っあ、あ、あ、あっな、なに、なんだ、何……っあ、くあああぁっ、だめ、駄目だ、出――」

 もう出る……そう思ったとたん、僕の背中を抱いた腕に引かれ、身体を前に倒してしまう。さっきまでとは全然違う、力の籠った抱擁。女の力なのに、まるで抵抗できない。

 

「なかだし……したい、ですよね? ほら、ほら、ほらぁ♥ へこへこ、へこへこして、出して、くださいねっ♥」

 そう言いながら、腰を浮かせて僕を迎え入れるリルさん。当然、僕は抗うことはできず……言われるままに、上から、何度も、腰を打ち下ろす。

「おあ、ああ、あ、あ、でる、でるっ、でる、でる、でるうぅ」

 パチュ、パチュ、パチュ。何が起こっているか理解できず、頭が真っ白になる。ただ、目の前の最高の、最愛の女体に、溺れる。無心に腰を振る。しかし、なかなか出ない。

 

「あら、我慢、してますね? だめ、ですよ……♥ きゅうって、締めてあげますから、ちゃんと、リルにくださいね……♥」

 そうだ。我慢している。何か……このまま射精しては、いけないような気がして。でも、『きゅう』って何だ? そんなことされて、耐えられるわけないじゃないか。リルさんはいつもめちゃくちゃだ。

 

 ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ――きゅう。

 

「お、あ、ぐっ……ぅあっ、あ、あ、あ、あ、あ……あ゛ー……♥ あ、あ、ぁあ……」

「あはぁ……♥ すごく、たくさん……。大丈夫、ですよ……本当に、アルス様のこと……可愛くて、可愛くて、とっても、大好き……ですからね……♥」

 長く、長く続く……膣内射精の、閃光のような快楽。それは、僕の頭の中を白く灼き――。

 

「あ、あー……ぁー……♥」

「いい子、いい子……ほら、気持ちいいまま……落ちる……」 

 

 ――灼けたところはもう、戻らなかった。

 

 

 ――。

 

 

 ぱん。

 

「うお、っ」

「ふふ、お疲れ様です。……旦那様?」

「あ……眠って、いたのか……?」

 そうだ。僕は……リルと、性交をした。それも、避妊をせずに……最後まで。リルの言っていた通り、前の彼女にはできなかったことを、全て……本当に全て、やってしまったことになる。

 

「とても……温かい、愛を、頂きましたよ。素敵、でした……♥」

「は、はは……そうか。やって、しまったなあ……」

 股間を見る。いつもと違い、無粋な薄膜はへばりついていない。乾いた精液の特徴的な匂いが鼻についた。不思議と……嫌ではない。

 だって、この匂いは……僕がついに、愛すべき女性を得たという――象徴なのだからね。

 

「お疲れでしょうから……少しの間、ここで休まれてくださいね」

「ああ……リル、君は?」

「私は、まだお仕事がありますので……少し、長い休憩となってしまいました」

「そう、か。大変だな……すまないが、休ませてもらうよ」

 ああ……心地よい。リルのベッドは、とても……いい匂いが、する。

 

「ええ。おやすみなさい……アルス様」

 そうして、僕の意識は遠ざかっていった。

 

 

 ――あの人だったら、手伝ってくれるんですけどね……。

 

 遠くに聞こえた言葉の意味は、疲れた頭では……よく分からなかった。

 

 

 

 ――。

 

 

 

 くにゅ。くにゅ。くにゅ。くにゅ。くにゅ。くにゅ。

 

「ミライさん。貴方はいつも優秀ですのね……ふふ、助かるわ」

「はい。MIRAIは家庭用アンドロイドに搭載されていますが、魔術師様のオーナー権限により成人向けオプションを解放されているため、こうしてお役に立つことができます」

 

 くにゅ。くにゅ。くにゅ。くにゅ。くにゅ。くにゅ。

 

 私のボディに実装された手指モジュールが一定の動作を繰り返している。それは魔術師様の膣内に13cm挿入され、疑似関節の動作により彼女の性感帯に一定の刺激を与えるよう動作するようになっている。

 

「はあ……本当に、陛下にも困ったものよ。どうして、どうしてあの子を聖業)へ行かせてしまうのかしら」

「MIRAIは当時の会話を記録しています。聖業“失われし大いなる道(グレイトウェイ)”は土木工事であること、魔術師アウレイラ様が大規模な遠征を終えた直後であることから、魔術師ミリセンティア様が抜擢されたものと考えられます」

 

 くにゅ。くちゅ。くちゅ。くちゅ。くちゅ。ちゅぷ。

 

 手指モジュールには感圧・感熱フィードバックの機能が備わっており、アウレイラ様の膣内の触感や体温の変化、反応の様子から性感の度合いを推定することが可能である。乾湿センサーは搭載されておらず、湿潤の度合いを感知することはできないが、摩擦の変化や音声情報から、膣内では現在、バルトリン腺液が盛んに分泌されていることが推測される。

 

「ん、ふ……ミライさん、そうではないの。……はあ、ん。神晶石8個よ。そんな重大な聖業を、あの子に任せられる、わけが、ん、ないでしょう……?」

「MIRAIは過去の聖業の情報を参照することができます。魔術師ミリセンティア様の受注聖業は報酬の神晶石が1~2個の範囲に収まっており、8個の報酬は異例であると考えられます」

 

 ちゅぷ。ちゅぷ。くちゅ。ちゅぷ。くちゅ。ちゅぷ。

 

 感圧センサーは、骨盤底筋群の断続的な緊張と収縮を感知していた。アウレイラ様の性感が高まっていることが推測される。この情報から、MIRAIは指示に従い一定の圧迫を継続しつつ、アウレイラ様の指示を待つことが最善であると判断することができる。

 

「そう、そうよ……おかしい、の……あ、ミライさん……続けて……いえ、少しだけ強く、いいですね? んっ……」

「はい。MIRAIは少しだけ刺激を強くすることで、魔術師アウレイラ様が適切にオーガズムを得るためのお役に立つことができます」

 

 くち、くち、くち、くち、くち、くち、くち、ぷちゅ、ぷちゅ、ぷちゅ……。

 

 主に圧迫の周期を早めることで、膣内上部スキーン腺周辺に与える刺激を強める。これにより、MIRAIはアウレイラ様を効果的にオーガズムへ導き、性的充足感を味わっていただくための効果的な手助けができると考えられた。

 

「あ、来る……、っくふ……あ……あー……ミライさん、いったん止めてくださいます?」

「はい、MIRAIは刺激を停止し、魔術師アウレイラ様の指示をお待ちしています」

 

 膣内に挿入した手指モジュールはそのままに、MIRAIは指示を待つ。本機の手指モジュールは汎用マニピュレーターであり、性的刺激に特化したものではないことに留意が必要である。本機は家庭用モデルであるため、疑似生殖器モジュールを搭載していない。フィメールモデルである本機は性生活介護モデルとして主に女性器モジュールを搭載して販売される場合があるが、家庭用モデルには搭載されていないためである。

 オーダーメイド・カスタムにより男性器モジュールの搭載も可能だが、本機にはそちらの実装もない。そのため、魔術師アウレイラ様への性的マッサージ・プログラムには、手指モジュールおよび口唇モジュールのみを用いている。

 

「ふう……どこまで話したかしらね」

「はい。MIRAIは魔術師ミリセンティア様へ神晶石8個を報酬とする聖業を課すことの正当性についての疑義をお伺いしました」

「そう。8個となれば恐らく一筋縄ではいかないわ。予期せぬ戦闘もあるでしょう……あの小娘は、それを本当に理解しているのかしら?」

「魔術師ミリセンティア様には、同程度の難易度にあたる聖業の経験がありません。そのため、聖業の難易度について彼女が正確に把握できていない可能性があります」

 魔術師アウレイラ様が過去に関わった同程度の報酬を得られる聖業では、いずれも中規模の戦闘、あるいは偶発的な危険が伴うものだったことをMIRAIは記録している。魔術師ミリセンティア様がこれらの危険に対応することができるかは未知数であり、MIRAIの記録する情報から判断することは困難だった。

 

「はあ……本当、世話の焼けるお子様ですわね」

「MIRAIは、魔術師アウレイラ様の発言において『お子様』が指す人物を特定することができません。候補には魔術師ミリセンティア様、聖王クウィーリア様が挙げられます」

「……そうね。ミライさん、貴方はどちらだと思うのかしら」

 『お子様』とは概して年齢の低い対象に用いられる。魔術師ミリセンティア様は成人しており、聖王クウィーリア様はより若年である。そのことから後者であると判断することが妥当と考えることができるが、魔術師アウレイラ様は魔術師ミリセンティア様を子供扱いすることを好んで行うため、前者も同様に可能性がある。

 直前の文脈では魔術師ミリセンティア様を指すと考えられるが、彼女を任命した因果関係を持つ聖王クウィーリア様を指すと考えることも可能である。

 

「ご質問ありがとうございます。しかし判断材料になる情報が不足しているため、MIRAIは一定以上に確からしい判断を下すことができません。どちらにもある程度の整合性が存在します」

「では両方かもしれませんわね」

 魔術師アウレイラ様はそう言って、私の腕部を掴み手指モジュールを引き抜いた。

 

「ねえミライさん。今ね、わたくしとてもイライラしているの。だから次は口でして頂けるかしら」

「分かりました。MIRAIは引き続き、性的マッサージ・プログラムによって、魔術師アウレイラ様のストレス・コントロールおよびアンガー・マネジメントのお手伝いをすることができます。家庭用モデルである本機は」

「いいから始めてくださいな」

 ぐい、と股間部を突き出す姿勢。指示に従い、口唇モジュールでそこに触れる。本機は原則的に水分を必要としないが、疑似唾液の精製には水分を要するため、使用の後には水分の補給が必要である。リル様が水分の提供を申し出ていたことをMIRAIは記録している。

 

「ああ、そうそう……今日は神盟者召喚(ガチャ)を行ったのよ。これはまあ、悪くなかったかしら」

 

 れる。れろ。れる。れろ。れる。れろ。

 

 モジュール舌先部で外性器全体を周回的に愛撫する。口唇モジュール使用中でも本機は発話が可能だが、以前に『気味が悪いからやめて。返事もしなくていいから』との命令を受理しており、今回はそれに従うものとする。

 

「神盟者は現れなかったけど、代わりに神具が得られたわ。ミライさん。貴方の役に立ちそうな機械だったから、後で部屋に運ばせるわね……、んっ、あ、それ。良いわね……♥」

 

 れろ。れる。れろ。れる。れろ。ちゅぱ。ちゅぱ。

 

 舌先部によるマッサージを終え、口唇部による吸引刺激を行う。最初は大陰唇側部から。徐々に位置を上げて行うことで、魔術師アウレイラ様が刺激に対して受け入れる姿勢ができるようにプログラムされている。

 

「あ、あ……来る、のね……それ、それ好きよ……っ、あああっ……♥」

 

 ちゅぱ。ちゅぱ。ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ。

 

 陰核部への吸引刺激を、小刻みに行う。本機の口唇モジュールは継続的に小さな吸引を行うことができるなど、性的マッサージにおいても好評を博しているモデルが採用されている。

 吸引時の感圧フィードバックにより、陰核の勃起が促進されていることが感知された。本機は同一刺激の反復も得意としているが、フィードバックを元に、ファジー化した刺激の調節を行うことで予測できない快感を提供することも可能である。

 

「あ、あ、っ……すぐ、すぐ来ちゃう……ミライさん、良い、わ……っ♥」

 

 

 ――。

 

 

 この日、MIRAIは魔術師アウレイラ様への性的マッサージ・プログラムにおいて、推定9回のオーガズムを感知している。彼女が安らかな表情で入眠したことを確認し、本機はスリープモードへ入った。

 

 ――ユーザーのお役に立てることが、MIRAIにとっての喜びである。

 

 

<続く>

3件のコメント

  1. > ――あの人だったら、手伝ってくれるんですけどね……。
    アルスへの弾がこっちに流れてくるのやめて!

    ……MIRAIちゃんとレシヒト、「相手を気持ちよくさせることが自分にとっての喜び」ってあたり、使える技術は違えど根っこは同じものが流れてますね。

    そういや今回の読んで思い出したんですけど、
    ちょっと昔に「催眠がないとエッチなことができない人がエロに持ち込むための道具として催眠を使うのは催眠に失礼」的なことを自分が言ったとき、
    ぶっぱさん「レシヒトは催眠がなかったらミリちゃんとエッチなことできなかったですよ」って言ってたんですけど、
    ちょっとそれは話の流れ的に違うと思ってたんですよね。

    レシヒトの場合催眠術でエッチなことはしているし催眠術がなければできなかったのは事実なんですけど、
    「もしレシヒトが普通にミリちゃんとエッチなことができる立場(今回のMIRAIのように)だったら催眠術は使わないのか?」って考えると、
    間違いなく催眠術使ってさらに気持ちよくさせてあげると思うのですよ。(もちろん魔法のブーストにも使うでしょうし)
    なので、レシヒトの場合は催眠術をエッチのための道具として扱っているわけじゃない、「催眠愛」のある人だと思いました。まる。

  2. 読ませていただきましたでよ~。

    癒し系のミライさんからの落差よ。
    リルさん怖い。何この淫魔。稀代の悪女すぎるw
    リルさんは自分のことを弱いと言うけれど、その分強かになっているので食い物にされるのではなくむしろ食い物にする方なんでぅよねぇ。寄生型で。
    ミリちゃんは確固たる自己があってそれを貫き通す意志もあるのが強いという所以でぅけど、どっちが世間を生きやすいかは言うまでもないし、社会が女性の進出をどこまで許容するかの問題でぅし。
    それにしてもイエスセットを教えられもせずに導き出すとかリルさん天才すぎるw
    トランス状態も併用して意志を捻じ曲げに来るとか本当にリルさんがやばすぎるw
    この子催眠なくてもいくらでもなんとでもなるなぁ・・・

    アルスさんとミリちゃんの食い合わせは互いに絶望的な相性の悪さで正直アルスさんもミリちゃんも悪いと思うのでぅ。
    アルスさんは父系社会と貞淑な妻を相手に求めすぎだし、ミリちゃんはミリちゃんで相手にドSを求めるくせに自立したがるし。
    恥ずかしいからキスしたくない(本当は無理やりして欲しい)とか相手に優しくあろうとする騎士様相手には通じなくて当然じゃないでぅかねぇ・・・
    まあ、本番に関してはぶっといくせに前戯もせずに入れようとする潔癖ムーブなアルスさんにも当然問題があるんでぅけど。
    アルスさん娼婦は呼ぶこともあるくせに経験値低いんだよなぁ・・・娼婦の方から太くて痛い的なこと言われなかったんでぅかねぇ?(騎士様に言えないかもしれないけど)
    恋人と娼婦に対する態度は違うっていう考えは分からないでもないけど、初めての恋人が特殊性癖の持ち主だったのが問題なのか・・・w

    そして、今回の最後にぶっこまれたエロシーン。
    え、まさかアウレイラさんそっちの方向なの??
    まあ、性格的に男性に傅くとかないとは思ってたけど、男娼とかショタとか呼んでやってるんだと思ってたらまさかのミライさん。
    この受け入れっぷりと言い、これ、ミライさんのプログラムをいじればアウレイラさんに催眠導入とか行けそうな気がするんでぅが(今回のガチャででてきたアイテムがミライさんコントローラーとかなのを期待でぅかね)
    ミライさんには癒し系でいてほしかったのでぅが、それはそれでw

    あと、もう一つ気になることが。
    アウレイラさんが割とミリちゃんを気にしてるのが気になる。
    ミリちゃんの事を結構悪し様に言ってるアウレイラさんでぅけど、実はミリちゃんのことを心配してるのかなと思ったのでぅ。
    アルスさんの見くびりと近いようなものがあるわけでぅけど、ミリちゃんの能力では宮廷魔術師としてやっていけないとか考えて嫌味じゃなくて本当に心配しているのかなぁ?
    アウレイラさんとミリちゃんの関係が若干気になるところなのでぅ(実は同門の姉妹弟子とか?)
    まあ、そのあたりは続きが来ればそのうち分かると思うので楽しみにしておきますでよ~。

    であ。

  3. >ティーカ様
     流れ弾に被弾しておられる。

     レシは「みんなが気持ちよくなって喜んでくれたら嬉しいなあ」という奴なので、罪悪感なくすけべなことするんですよね。

    >みゃふ様
     ぬおおお、これはちょっと返信しづらいですね!
     なんでって、記述のいくつかが結構いい精度で先の展開を言い当ててるからっw

     嬉しいですねこういうの。どうか今後もお楽しみにー。

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