リアル術師の異世界催眠体験15

◆ 交易都市にて

 

 

 

 僕とミリちゃんの乗るヴィークルは、今日もやはり大賢者エンジン出力全開。シレニエラ街道を走りに走った。自分が運転するときはいつ事故で死ぬかと、熱風と蒸気の渦の中でさえ背筋が凍る思いだったが……。

 

 

 ――。

 

 

「――ン。蒸気術騎(スチームヴィークル)? すごいね」

「やっぱ珍しいんだ。運転はできる?」

「ゥン。できるよ」

「じゃあ操舵席に乗って欲しい。僕じゃちょっと危なっかしくて」

 こうして無事に運転手が雇えたことで、多少はマシになるんじゃないかと思う。思いたい。正直ラヒーシャがどこまで頼りになるのか分からないから、何も安心できないんだけど。おやじさんはえらく自信満々で太鼓判押してたからな……大丈夫だといいなあ。

 

「? レシヒト、運転する? 魔術師じゃ、ない?」

 あ、そっか。普通、これは魔術師2人で動かすものだから。

「どうも私が1人で動かしてたみたいなんですよね。知らんけど」

「ミリちゃン? できるの?」

 そりゃそうなる。普通ならできないことらしいからな、異なる魔術の同時使用って。

 

「あー、うん。僕が彼女の魔術をサポートしてね、1人で2人分の魔術を使ってもらうんだ」

「!? レシヒト、すごい?」

 

「すごいのはミリちゃんだよ」

「ミリちゃンすごい」

「えへへへ」

 

「そして可愛い」

「ふふふ、もっと言っていいですよ」

「ミリちゃンかわいい」

「ラヒーシャさんもありがとう」

 

「ミリちゃんはお礼が言えてえらいねえ」

「ミリちゃン、えらい」

「ふふん」

 なんだろう、ちょっとこれ面白いぞ。

 

「で、それはいいんだけど……ミリちゃんは魔術の加減が上手くできなくて、すごい出力が出るんだ。要するにめちゃめちゃ速いよ。それでも運転できそう?」

「ン。速いの得意。エル=シレナなら目が無くてもできる」

 よく分からないこと言い出したな。ええと……。

「この街道なら、目を瞑ってても運転できるよ、と。そういうやつですかね」

「ミリちゃン、頭いい」

「えへ、えへへ」

 よく分からないけど、この2人は案外相性がいいようだ――。

 

 

 ――。

 

 

 まあそういうわけで。

 

「レシヒト。大丈夫?」

「あ、ああ……うん……ぁー、うえぇ……気持ち悪い……」

「えへっ、えへ、着いた? はやい、はやいねっ♥ はだかはやい♥」

 

 ミリちゃんの色々問題な言動と、自分の車酔いを引き換えに……ラヒーシャの駆るヴィークルは素晴らしいペースで旅を進めてくれた。当初休憩拠点とするつもりだった二つ目の宿場をすっ飛ばして、今日だけでちょうど2日分の行程を走り切ったことになる。

 

「『ミリちゃん、帰っておいで』……ほら、疲れたよね……楽にして、らくーに……休むことができる」

「あ、う……んふぅ……」

 動力席でとりあえず寝かしつけておく。どっぷり催眠を深め、想像力を働かせ、世界に集中して……その後で全てを止めて、どっぷり……トランスに浸る。絶対これ、気持ちいいからな。

「ミリちゃン?」

「ラヒーシャ、ちょっと待ってね。ほら、ミリちゃんはしばらくの間……深い、深いところへ落ちて、気持ちよく……休むことができるよ。3……、2、1……0。ほら、すぅーっと……下りていく。気持ちいいね……」

「ぁ……ふぁ……♥」

「僕が……レシヒトが次に、ミリちゃんを呼んで声を掛けるまで……そのまま、気持ちよくなっていることが、できますよ……ほら」

 瞼をぷるぷる震わせ、唇をふにゃりと緩ませ、とろんと恍惚に浸るミリちゃんを確認する。うん、今日も幸せそうで最高に可愛い。

 

「レシヒト、これ何?」

「えーと、催眠術というんだけども。まあ、人間の心を落ち着かせたり、解放させてあげたりできる技術。自分の特技なんだ」

 かいつまんで説明する。暗示によって深層意識に命令を埋め込んだり、意志や記憶を書き換えたり、エッチなことに使ったり……そんな話はさすがにしない。

 

「さいみン……術。ミリちゃンの、魔術2つも、それ?」

「そうだよ。ちょっと加減がアレなんだけどね……しかし、ラヒーシャは本当に運転が上手なんだな。驚いたよ、助かった」

「少し、びっくりした。速かった」

 そりゃそうだよ。街道を通る他の人とか、轢いたりしたら大変だしな。通行止めでむしろ良かったと思う。

 

「それで……なんか大きな街だねこれは。潮の匂いもする……交易で栄えているんだな」

「ン。ペルルグリア。ラヒーシャも、よく来る。ここで休む?」

「そうなるだろうね。さて、ミリちゃんを起こして、向かうとしようか」

 

 

 ――。

 

 

「はっは、毎度あり、確かに預かりますよ。おーい、魔術師さんだ。車運びに行けるもんは行ってこいや」

 町外れにあるのは馬屋、なるほど確かに合理的だ。で、なんで僕らが馬屋に居るかと言うと。

 

「馬を預けるだけじゃなくて、ヴィークルも預かってくれるわけね」

「あ、そうです。普通の人じゃ引っ張って運ぶしかないけど……それでもまあ、やっぱ高いんで」

「ン。盗まれると困る」

 宿場でもそういえば、ミリちゃんは後で停車したヴィークルを樹に鎖で括っていたりした。確かにまあ……宿場の敷地に乗り付けるのと、大都市の外れに乗り捨てるのでは話が違う。ここでは、あんな簡素な措置では盗まれても文句は言えないだろうから、こういうサービスを利用するわけか。

 

「あれ運ぶのって大変じゃないんですか」

「はっは、4人も掛かれば平気っすね。魔術師さんはめったにない上客ですからね、いや、今日は幸先がいい。はっは」

「そういうもん?」

「それはほら、レシさんは馬乗らないんで。あれも大変なんですよ、飼葉も水も必要で、閉じ込めたら暴れるのもいるし。病気になったり死んだりしたら馬屋さんも責任問われちゃいますし」

 アー。なるほどね、ヴィークルは自分で歩いちゃくれないけど、死なないし餌も食わんもんな……。

 

「それに魔術師さんはやはり気前がいいんですわ。はっは、いやあ今後も贔屓に頼みますよ」

「だって、ちゃんとお代払わなかったら店に盗まれるんですよこういうの。部品抜き取られたとかあるし」

「ありそう。金で信用を買うの、わかるなあ」

 どこの世界も世知辛いことだった。

 

「はっは、そんなことしませんよ……だって魔術師様ですからね。怒らせた日にはこっちの命が、はっは。いえ、何でもありゃせん。こちらの可愛らしい魔術師様はそんなことなさいませんともね」

「しませんけどね」

「そうだね。しっかり預かってさえくれればミリちゃんは優しいもんね」

「あー、何ですかそれ。むー」

 まあ、あんまり舐められても、せっかく払ったお金の意味がなくなるからね。

 

「いやあ、はっは。ところでお客さん、お連れの方ですが……あれはいいんですかね?」

「はい? 連れって、え、ラヒーシャ?」

「あれ? どこ?」

 そういえばいつの間にかいない。ミリちゃんばっか見てたとかそういうんじゃないけど。

 

「はっは……いやね、あちらの方で。ほら」

「あっ。何やってんだあれ……?」

 親父さんが指すのは馬小屋の方。そちらでは、厩舎から首を出した馬を見ているらしい褐色赤毛の女。うんまあラヒーシャ。

 

「わっわっ。お馬さんだぁ。可愛いねぇ。ごはん美味しいねぇ。いっぱい食べるもんねぇ」

「……?」

「えっ、何?」

 妙に可愛らしい声が聞こえる。え? 誰が喋ってんのこれ?

 

「はっは、魔術師さんの連れじゃ無下にもできませんが、あんまり馬にちょっかい出されちゃ困りますよ」

「あ、はい、ごめんなさい。ラヒーシャ、おーい。それダメだって! こっち来てー!!」

「いや、何か様子変じゃないですか……?」

 ミリちゃんの言う通り、どうも何か様子がおかしい。ラヒーシャだよねあれ? とりあえず、こっちに連れてこないと……。

 

 

 ――。

 

 

「えっと……? 君たちはアイシャのこと知ってる人かな」

「色々聞きたいのはどっちか言うとこっちなんですけども」

 とりあえず、厩舎の前から引っ張って、待ち合いテーブル席まで連れてきた。込み入った事情を察してか、馬屋のおっちゃんは何も言わないでくれている。

 

「うん、まずそこだ。君はええと、アイシャって言った?」

「そうそう、アイシャ。エルミル教主国の神官をしてるよぉ。君たちは……あー、『レシヒト』と『ミリちゃん』だ。分かるよぉ分かる。良かったぁ、知らない人苦手なんですよねっ」

 良かった、とりあえず自分たちのことは分かるらしい。で、別人ってことはいくら何でもないだろう。人相も服装もラヒーシャそのままだ。雰囲気はだいぶ違うが……何かを警戒するような鋭い眼差しが、ふわふわころころ人懐こい、くりくりの瞳になって。話す言葉もずいぶん異なり……って、あれ?

 

「……レシさん、これ流暢なシレニア語で」

「うん、わかる。なるほどねえ」

 ラヒーシャは、この地方の言語をあまりうまく話せない。しかし、このアイシャを名乗る彼女は、この通り普通に話すことができている。そんなことがあるだろうか。いや、うん。あるんだよな世の中には。特に、催眠術師なんてやっていると心理学を学ぶ機会もあるから、わかるけど……え、実例かこれ?

 

「いやちょっと何もわからないんですけど。何がなるほどなの?」

「そうだな、えーと……アイシャ。君、まずラヒーシャって子知ってる?」

「うん、知ってる。用事かな? でもラヒーシャさん寝ちゃったしなぁ」

「やっぱりか。ラヒーシャは、『君の中にいる』んだね?」

 ――多重人格。

 あるんだねえこういうの。聞いたことはあるけど、恐らくラヒーシャ……いや、アイシャ? この子『たち』はその一例なんだろう。一つの身体の中に、2人の人格が存在していて……特定の条件で、入れ替わりを起こす。

 

「分かるんだ? レシヒトさんはすごいねぇ!」

「あーん? つまりなんですか、このアイシャさんは、やっぱりラヒーシャさんだけど……アイシャさんになったりラヒーシャさんになったりするってこと? あれごめんちょっとこれ意味分からないですよね」

「いや分かる。そういうことだと思う。ミリちゃんは賢いねえ」

 なでなで。反射的に撫でる。ぐい、と手を退けられる。睨まれる。やっぱり人前で撫でちゃ駄目なのか……。

 

「ここはどこなんだろ……しばらく出て来なかったから、よく分からないや。あはは」

「いいだろう、教えよう。ここは……ええと……どこだ?」

「分からないなら無理しなければいいのでは」

 あっミリちゃんが塩対応だ。ちょっと好き。

 

「ミリちゃんがフォローしてくれると思って」

「はあ。ペルルグリアです。分かりますか?」

「えーと……聞いたことは! 私ちょっと道とか覚えるの苦手なんですよねぇ」

「ラヒーシャはこの街道なら任せろって言ってたのに……」

 思った以上にキャラが違う。やり辛い……いや、ラヒーシャの時点でやりにくい子だったから、会話が成立しやすい分マシになってる? もう何も分からん。

 

「じゃあえっと、私達はシレニスタから、アイシャさんの国、エルミルまで向かっているんです。その途中にあるのがこの、貿易都市として知られるペルルグリア市。そんで、ここはその郊外にある馬屋さん」

「あー。ありがとうございます、分かりました。……ミリちゃんさん優しい!」 

「えへへ」

「そこは変わらないんだ……」

 とりあえず相互理解が進むのは良いことだが、ラヒーシャが多重人格とか聞いてないぞ。ここまで話した感じだと、『アイシャ』の方はちょっと運転とかできそうにないよなこれ。おいおい、どうするんだよこれ。

 

「ラヒーシャさんのことって、アイシャには良く分かんないんで。ちょっと見て覚えてることもあるんですけどー……」

「私達のことが分かったのもそれってことですかね」

「あ、そうです。でも名前しか分かんない! あはは」

 ということは、どういう事情で同行しているかも何も知らないってことだな。あー、厄介なことになった……。いよいよ困ったら催眠でラヒーシャを呼び出せたり……するか?

 

 そうしてテーブルを占領して話し込んでいると、馬屋が少し騒がしくなったことに気づく。

 

「はっは、来たみたいだね。こいつはすげえ、蒸気術騎じゃないか。預からせてもらいますから、どうぞごゆっくり。明日お出になるんでしたね?」

「あ、はい。そのつもりです」

 どうやら、馬屋の若い衆たちがうちの魔術騎を運び終えたらしい。手慣れた手つきで敷地内の車庫に収められていく。ちゃんと車庫、あるんだな……。高い金を取るだけのことはある。

 

「あー、えっと。ラヒーシャは今ね、僕らに、あのヴィークル、わかるかな。あれの操舵手として雇われてるんだ。アイシャはその仕事できる?」

「無理っ! いや本当に無理です、すみません……」

「だよな。じゃあ明日の朝にはラヒーシャが出てきて仕事してくれないと、僕らは困ってしまうんだ。君……いや、君たちに頼むのが無理そうなら、明日までに他の人を見つけなきゃいけない」

 とりあえず最低限、ここは話をつけておかねばならない。

 

「それならー……うーん。大丈夫じゃないかなぁ? 多分っ」

「大丈夫なんだ?」

「うんー。ラヒーシャさんは、お仕事のときはちゃんと出てきます。だから私、ラヒーシャさんのお仕事全然知らないんだけどねっ」

 なるほど。いやどこまで信じていいのか分かんないけども。アイシャ的には大丈夫らしい。

 

「あー……つまり、あの人は街に着いたから休んじゃったってことなんですか?」

「そゆことじゃないかなー。だから安心しましょ?」

「まあそういうことなら。万一、明日ラヒーシャが起きて来なかったらそのとき考えようか」

 せっかく雇ったのだし、というのもあるけど……それ以上に、ラヒーシャと同等以上の技術を持った操舵手なんて、たぶんこの大都市でも、一日ではそうそう見つからない気がする。宿場の数名の客の中に彼女が居たのは奇跡みたいなものだと思う。

 

「アイシャさんはいいんですか? 私達と一緒に来てもらっても」

「あ、それは全然。むしろ楽しいので!」

「なんというか明るい子だなあ」

「ありがとっ!」

 屈託なく笑うこの感じは、ラヒーシャとは全然違うけど……可愛い子だなあ。

 

「はっは、良く分からんが……話がまとまったなら、そろそろ行かんと良い宿は埋まってしまうよ」

「おっと」

「お泊まりだ!」

 アイシャがはしゃぐ。人種の違いからよく分からないけど、多分年齢の割に子供っぽい人なんだろうなあ……。

 

 

 ――。

 

 

 貿易都市ペルルグリア。シレニスタ領内のほぼ東端に位置し、郊外の傍らを通るシレニエラ街道を利用することで、エルミルとの陸運における重要な拠点となっている。また、エルンス内海に面した湾港を構えており、海運の要としての面も持ち合わせる。なるほど、貿易都市の名は伊達ではない。街は賑やかで、港の方では王都シレニスタよりも活気があるほどだ。

 そんな話をミリちゃんに聞かされながら、宿を探しに歩いていく。うーん、社会科が為されているねえ。

 

「そういうわけで、陸路が潰れてしまっても海路がありますから、この街はどうにかやっていけてるみたいですね」

「なるほどねえ。とはいえ」

「はい。とはいえ、ですね。やっぱり早く街道を使えるようにしないと困るわけで」

 そうだよな。何とかなってはいるものの……ってところだろう。

 

「ところで」

「はい。今度はところでですか」

「アイシャはどこへ行ったんだろうか」

「……」

 大丈夫。あの子は目立つ人相をしている。まだそう遠くには行っていまい。その辺を見回せばほら、あそこで果物の屋台に張り付いている褐色赤毛の女性――。

 

 ――。

 

「……すぐ見つかってよかった」

「はぐれたわけじゃないんだけどね?」

「アイシャさん。果物食べたかったんですか?」

 ミリちゃんが財布を出しながら聞く。お、買ってあげるんだ?

 

「あ、私もお金くらいあるよ。ラヒーシャさんにも迷惑掛けない!」

「いいですよ。働いてもらってるので、私達の分も買ってきてくれますか?」

「おお……」

 そう言って、ミリちゃんがアイシャに銀貨1枚を握らせる。貨幣価値よく分かんないけど、結構買えるんじゃないかな。思えば、ミリちゃんに召喚されて以来、金に困ったことはない。宮廷魔術師とその神盟者というのは、相当贅沢な身分なんだろう。

 

「優しいっ! 行ってきます!」

 そうして、アイシャは嬉しそうに果物を買いに向かった――。

 

 ……のを、見送り、確かめると。

 

「レシさん、ちょっとお話いいですか」

「ん?」

 ミリちゃんが耳打ちするように話しかけてきた。茶化そうかと思ったけどやめた。多分真面目な話だこれ。……まあ要するに、アイシャに聞かれると困る話。

 

「いいよ、何?」

 アイシャが果物に夢中で、こちらを見ていないのを確かめるように……。

 

「今夜、アイシャさんに――催眠、かけてください」

 ミリちゃんは突然、そんなことを言い出したのである。

 

 

 

◆ 正教侍祭の催眠見学 ☆

 

 

 ――。

 

 

 

「なるほど、つまりアイシャさんはあくまでもアイシャさんだったと」

 この人がレシヒトさん。うんうん。

「そうですよ。ラヒーシャさんは子供のころにできたんじゃないかなー」

「できた、って言うんですね」

 それで、こっちがミリちゃんさん。ちゃんさんって、なんか変だけどまあ覚えちゃったよね。それと私。ペルルグリアの街の宿屋、その一室で今、3人でお話中なのだった。この街は何回か来たことあるけど、この宿はわからない。ラヒーシャさんが泊まったことはあるのかもしれないけど、全部覚えてるわけでもないし。自分で泊まったらさすがに覚えてると思うんだ。多分ね?

 

「うん。果物、美味しいですねぇ」

 もぐもぐ。こうして美味しいものをゆっくり食べるのは好きだよ。

「レシさん、こうやって美味しそうに食べる女の人好きでしょ」

「なぜわかった」

「いやだって、私が食べてるときによく言ってるし」

 もぐもぐ。レシヒトさんとミリちゃんさんは仲良しさんなんだねぇ。

 

 そういうわけで、買ってもらった果物を盛り合わせにして、3人で食べています。私はラヒーシャさんの着る軽装の旅装束じゃなくて、もう少し布地が多い私の服に着替えた。黒いフードは、正教の遣いとしての装束なので、まあ被ってるよね。

 ラヒーシャさんも私も、お互い服のセンスがちょっと違うから、ある程度間を取った服装をしてないと『出て来ちゃった』ときに困るんだよね。あんまりゆるゆるな服だとラヒーシャさんは困るっぽいし、ぱつぱつな服だと私が恥ずかしい。余裕があれば着替えるけど。

 

「そうすると、いわゆる主人格はアイシャの方ってことなんだな」

「うん。先に居た方ってことならそれで合ってる。もぐもぐ」

「それ口に出して言うんだ」

 だって美味しいから……。

 

「どうしてラヒーシャが生まれたかは、アイシャは知ってる?」

「うやー分からないかも。小さいころだったのは確かだよ?」

「……ラヒーシャさんは、傭兵って言ってました。アイシャさんは神官って言ってましたよね?」

 うんうん。ミリちゃんさんは人の話をよく聞けるんだね。えらいねぇ。

 

「うん。エルミル正教の神官をしてます、アイシャ・バライです。よろしく、でいいよね?」

「ああ。ええと、ミリちゃん。僕らの立場はどこまで話す?」

「あー、私達はシレニスタから来た魔術師と従者なんですよ。国から、塞がった街道を何とかするようにって依頼があってですね」

 あ、ふーん。そういえば道が無くなってたみたいだったよね。そんな依頼を受けて、魔術騎(ヴィークル)で向かうって、多分かなりえらい人なんじゃないかな?

 

「うん。ミリちゃんさんはえらいんだねぇ」

「そうだぞ」

「そうですが、何なんですかこれ」

 レシヒトさんがミリちゃんさんの頭を撫でてるね。なるほど、仲良しさんだな?

 

「私はただの神官さんだけど、ラヒーシャさんはすごく強い傭兵さん」

「やっぱりそうなんだ」

「……それなんですけど。ラヒーシャさんって普段、どんな仕事してるんですか?」

「あー……」

 ラヒーシャさんの仕事、それは実際私には全然分からない。私は普段からラヒーシャさんの意識をあんまり見られないんだけど、中でも仕事に関しては全然見せてもらえないから。

 

「今回は操舵手として雇ったけど、傭兵ってことは普段は戦って金を得ているんだよね?」

「うん。それは、うん。多分そう」

「……それ、怖くないですか?」

 うん。ミリちゃんさんの言うことも分かるよね。確かに怖いことだよこれ。

 

「言ったじゃん。ラヒーシャさんは強いからね、いつの間にか死んじゃったりはしないんですよ? 多分っ」

 うん。これは全部じゃないね。きっとミリちゃんさんは分かっているよねぇ。えらいもんね。

 

「それは、いいですけど。アイシャさんは怖くないんですか、その……」

「分かってるんだよ? そこは聞かないで欲しいなあ」

「……だったら、それでいいです。うう、なんかごめんなさい」

「ううん、いいよー。ミリちゃは優しいっ!」

 

 ――その……知らないうちに、人を殺しているとしたら?

 

 うん。ミリちゃの言いたいところはここだよね。魔術師さんだもんね、そういうのが分かる人だ。えらいねぇ。そりゃもちろん、私だって考えたことあるしね。答えなんてないんだよ。ラヒーシャさんは私の、ずっと昔からのお友達だからね。

 

「あー、分かったような分からないような。そこでなんだけど、アイシャは、ラヒーシャが何を考えているかって知りたくならないの?」

「ふえ? なるけど。できないよ?」

「できないって?」

 ラヒーシャさんは多分、仕事のことを私に知られるのを嫌がってるんだ。だから教えてくれないし答えてもくれない。見せてくれることもない。ん? あれ、でも何でだろ。

 

「あれ? そういえば変ですね!」

「何が変なの?」

「あっれー。どうしてアイシャが出て来られたんだろ」

「ん? 運転で疲れたラヒーシャが休んじゃったからだよね?」

 今、ラヒーシャさん仕事中じゃないですか。なんで? なんで『見せてくれた』のかな。

 

「あ、そっか。私達、仕事の関係者ってことですよ」

「あー。普段はこういう時、ずっとラヒーシャのままなんだ?」

「うん。だからラヒーシャさんの知り合いはあんまり分かんないんだっ。こういうのはあんまりないよ」

 レシヒトさんとミリちゃに会えたのは嬉しいし、ラヒーシャさんは確かに実際、疲れてるのかもしれないけど。それでも代わらせてもらえるのは珍しいんだ。

 

「それくらい疲れてたのかな。自分としてはアイシャとも仲良くなれそうで嬉しいけど」

「それはそう。案外、友達としてアイシャさんに紹介してくれただけだったりして」

「かもねぇ。レシしゃとミリちゃとは仲良くしたいっ! 2人ともいい人みたいだし、仲良しさんで可愛いので!」

「それはそう」

 ラヒーシャさんの人間関係って本当にわかんないからね。エルミル正教会の仲間には、ラヒーシャさんを知ってる人もいるけど。それもアイシャが先に知り合った友達とかなわけで。

 

「まあ仲は良いですけど」

「うん。仲良しは良いね。これ美味しいし、良いなあ」

 もぐもぐ。何て言う果物かはよく分からないけど、美味しいので大丈夫。

 

「ラヒーシャさんのこと、もしかしたら……もうちょっと分かるようになるかもしれないですよ?」

「ふえ?」

「まあ、『かもしれない』でしかないんだけどね。やってみる価値はあるかな」

「ふんふん」

 何だろう。でもラヒーシャさんのことかあ。知りたいと言えば知りたいけど、ラヒーシャさんが知らせたくないなら、知らない方がいいと思うんだよね。

 

「レシヒトさんは、催眠術っていう特技があって。ええと、上手く言えないんですけど……心の中に一緒に入っていくようなイメージかな? そういうことができるんですよ」

「うん、合ってる。アイシャの中にラヒーシャがいるなら、アイシャの心に深く入ることで何か分かるかもしれない」

「へえー。そういうことができるんだ。うん、うん」

 なるほど。でもそれ、いいの? 怖くないのかな。

 

「術とか言ってるけど、まあ大したことをするわけじゃないよ。僕の言葉、声に従ってリラックスしてもらうだけ。よかったら試してみない? 不安ならミリちゃんに掛けるのを見てからでもいいけど」

「えっ私ですか」

「ほうほう、ミリちゃにもやってるんだね」

 掛ける、というのはその催眠術を、だよね。この感じだとやったことがあるんだろうねぇ。

 

「見てからのほうが安心できるんじゃないかなって。危ないこととか無いって分かってもらうにはいいでしょ」

「うっ、そ、それはまあそうで、うん。危ないこととかはうん……本当に無いです、よ?」

「うん。そこまで言うなら見せてもらってもいい?」

 よく分からないけど、見せてもらえるなら楽しそうだし見てみたいと思う。心に入るってどういうことするのかな?

 

「OK、じゃあミリちゃんそこに座って」

「ええぇ……変なことしないでね?」

「大丈夫、僕はしないから」

「こら待て。変なことさせようとしているな? そういう手口良くないと思うんですよ!」

 うん、楽しそうだね。仲良しだねぇ。

 

「じゃあアイシャ、君はそっちに座って見ていてね。ミリちゃん、それじゃあ力抜くところからやろうか」

「うう……本当にやるの……?」

「アイシャに安心してもらうんでしょ。ほら、座って……力を抜いていくと、まずは腕が、だらーんと……ほら、落ちる」

「ぁ、う、ちょ……待、っ」

 レシヒトさんは、素早くミリちゃんさんの後ろに回って、頭の後ろを押さえている。あ、本当に言われた通りに、腕の力が抜けたように見えるね。

 

「ぐったり、重たーくぶら下がって……重い、重い……腕が、だらり……と、垂れ下がるのは……すごく、気持ちいいよね……肩の骨が、後ろにずれて……ほら、だらん……首も、力が入らない……」

「ぁ……、っ、うぁ、ぁ……」

 肩甲骨。肩の後ろの骨が、確かに後ろへ引かれている。当然、胸を前に出して、顎が上がって、頭が後ろに傾いて……うん、レシしゃがそこを、後ろから支えてるね。アイシャは、正教会では傷病人の介助の仕事をしていた。だから、人の身体のことって、少しは分かる。あれは効率がいいやり方だね。

 

「ミリちゃんは……何度も、何度もこの、気持ちのいい状態になっているから……もう、すぐにでも催眠に落ちて……落ちて、しまいたく、なっている。でも、だめ……まだだめ。だって……アイシャに、催眠誘導を見せてあげなきゃいけないから……ほら、我慢」

「……ぁあぁ……っ、う、ぁっ……あ、っくぅ……ん」

 レシしゃの声は、低くて落ち着いた、とっても聞きやすい響きになっていて……ああ、これ、気持ちいいんだな。私もちょっと聞いてみる……えっと、力を、抜くんだよ、ね……うん、できる……うん。

 

「頭の中、とろとろで……とっても、気持ちいい。脳みそが……まるで、溶けてしまったみたい……ほら、なでなで、なでなで……頭を、撫でられると……頭の中、しあわせー……に、溶けて、いきますね……」

「あ゛……ぁ、ぁ、あ、あー……♥」

 なでなで。うん、なでなでしてるね。頭を撫でられてるだけで、ぴくんぴくん震えて、口元へにゃへにゃになってる。目も、ぱちぱちって、たまに開いたり、閉じたり。よく分からないけど、すごく……。

 

「きもち、よさそー……」

「そうだね……ミリちゃんは今、ふかーい……リラックスと、蕩けるような、気持ちのいい感覚を、味わっている……。催眠に掛かるのは、とっても幸せで……気持ちのいいことですからね……」

「ぁ……あー……ぉ、ぉ、あはぁ……♥」

 私の呟きにも、反応してくれて……ミリちゃの頭を撫で続ける。ああ、あれ、いいな……。私も、何だか気持ちいい……。

 

「撫でる手が……頭の中を、直接撫でているみたいで……ぞわぞわ、ぞわぞわ……気持ちいい。ほら、ぞわぞわ……脳みそ、ちゃぷちゃぷ、混ぜられているみたい……ほら、ほら、指を立てると、ちゃぷちゃぷ、とろとろで、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいいですね……」

「お゛、あ゛……あっ、あ、あっ、あ、あー♥」

 えええ、何それ。気持ちよさそう。ミリちゃの口から、こぷ、と涎がこぼれた。頭ゆらゆら揺すられて、指を立てた手で、頭、わしゃわしゃ、混ぜられてるんだ。あれが、頭の中に入ってたら……いや、あり得ないけど、何だかめちゃくちゃ気持ちよさそうだ、と、思ってしまう。

 

「とろとろ、とろとろ、気持ちよくて……このまま、深く、ふかーく……落ちて、しまいましょう。私が3つ、数を数えると……いつもの、ふかーいところへ……落ちていく。ほら、3……、2、1……はい、0」

「ぉ、ぉ、お、あ、あっ……お゛♥」

 レシしゃが、数を数え終わって……手を離したら、そのまま後ろへ。ふらぁ、どさり。ベッドに倒れてしまったミリちゃは、ぐったりしているけど……『お゛♥』とか『あ゛♥』とか、ときどき呻いて、ぴくぴく震えている。何これ? めちゃくちゃ気持ちよさそうじゃないです?

 

「すごく……気持ちいい。身体中に、恍惚が広がって……貴方の大好きな、深い……催眠状態に、まだ、落ち続けて……まだ、もっと、我慢した分だけ……落ちる。ほら、3、2、1……0」

「ぉ……っ、……」

「あー……」

 静かに、なった。何だろう……やっぱり、すごく、気持ちよさそう……。だけど、ちょっとえっちな感じ? いいけど。

 

「とろとろ……蕩けたまま……すごく、気持ちいいね……そんな時に、こうして、頭を揺らすと……ほら、ちゃぷ、ちゃぷ……揺れて……波打って、ほら。ちゃぷん。ちゃぷん。気持ちいい、ですね……」

「あ、ぉっ、ぁ、あ、あー……ぉふ、あっ、ぉ……」

 倒れちゃったミリちゃの頭を、ゆらゆら揺すってる。私にまで、ちゃぷちゃぷ、音が聞こえるみたい。脳みそが、溶けちゃって……頭の中で、ちゃぷちゃぷ。それって、どんな気持ちよさ、なのかなぁ……。

 

「はい……3つ数えたら……頭、横にしちゃうよ。横になると……耳から、こぽこぽ、零れちゃう。ミリちゃんの、賢い脳みそ……とろとろ、こぽこぽ、お漏らししちゃうからね……」

「ぉ、ぁ、っぐ」

「脳みそ、漏れちゃったら……空っぽになっちゃうね。でも……でも、それって、すっごく、気持ちいいよね。ほら、3……、2、1……」

 レシしゃは、すごいことを言い出したね。そんなことしたら駄目じゃないかな。

 

「0。ほら。とろー……こぽこぽこぽ……こぽこぽ……漏れちゃう……脳みそ、だらだら零れていく……ほら、とろとろ……こぽこぽ……耳から流れて……気持ちいいね、気持ちいい……」

「っあ゛、お゛、ぉ、ぉ、ぁっ、ぁ、ぁ、ぁ、お゛おぉぉ、おぉぉ……♥」

「うっわぁ……」

 びくっ、びくって、すごい震え方してる。人間らしさが消えるというか……変な声しか出せなくなって、閉じていた目を見開いてるけど、完全に……白目を剥いてる。人間って、言葉だけであんな風になるんだ?

 

「3つ数えたら……空っぽ。全部出て行って空っぽになるよ……3、2、1……0。こぽ、こぽ……」

「ぉ、あ゛」

「とろぉ……ぽた、ぽた……ぴちょん。ほら、全部……全部、出て行った……空っぽ。空っぽは……とても、気持ちいい……」

「ぁ、ぁ……」

 また、静かに……なっちゃった。あれ、絶対……気持ちいい、よねぇ。あー、されたい、ね。これは、されたくなる。分かっちゃった。でも、私もあんな風になれる? というか、大丈夫? あれって、戻れるんだろうか。

 

「これ、大丈夫なの?」

「大丈夫……ミリちゃんの、大事な脳みそ……君そのもの、智慧も心も、君を作るものぜんぶ……君の全ては、グラスに入れて、僕が持っています……」

 コトン。テーブルの上でグラスを鳴らした。まあそれ、さっき果物食べながらお水飲んでたやつなんだけど……。でも、それだけで、ミリちゃの表情がちょっと緩んだ気がする。へえー。

 

「だから、今からそれを……戻して、あげましょうね。君は、どんな形でしたっけ……。確か……」

 コトン、コツ。グラスを鳴らしながら、もったいぶって呟いてる。ミリちゃは涎を垂らしたまま、静かに聞き入ってる。口を挟める雰囲気じゃないです。うん。

「確か……今、横向きに寝ていて……脚は身体の前に投げ出して……そう、『前足も』後ろ足も、だらしなく力を抜いて……横たわっていましたね……」

 うん? 今何か変なこと言ったね?

 

「ほら……抜けてしまった中身を戻してあげますよ……ゆっくり、ゆっくり……もとに戻してあげますね……ほら、こぽこぽ……貴方は、どんな姿でしたっけ……」

「ぁ……あ、ぁ……」

 グラスを取って、耳に当てて、傾けていますね。中身は無いけど……ミリちゃの中身がきっと、そこに入っていることになってて……今、それが注がれている、ということらしい。うん。わかるけどわからないね。

 

「力の入らない身体は……そう、貴方の、すっかり力の抜けた、ふわふわの毛に包まれた身体は……犬。貴方は大きな、賢い犬でした。ほら、こぽこぽ……犬の貴方が、少しずつ……戻ってくる」

「え?」

 あ、ここ口挟まないほうがいいよね。でも、レシしゃ、めちゃくちゃ言ってますよ。もちろん、ミリちゃは犬ではなかったけど……。

 

「貴方は私の飼い犬。とってもよく躾けられた犬でしたね……飼い主である私のことが大好きで、今日はたくさんお散歩して……餌をもらって、お昼寝していたのでした。ほら、こぽ、こぽ……とくとく……注がれていくと、安心ですね……」

「え?」

 あれ。安らかに息をしていたはずのミリちゃが、ちょっと変だね。

 

「はー、はー……はっ……はっ」

「こぽこぽ……。ほら、とってもいい気持ちです……飼い主に……ご主人様にたっぷり愛されて、気持ちよく休んでいても、自然に尻尾が動いちゃうくらい。ほら……」

「ぁふっ、ぁう……はっ、はっ、はっ……♥」

 レシしゃが、ミリちゃの背中……お尻? その中間あたりをぽん、と叩くと、ミリちゃは嬉しそうに身体を揺すって、はあはあ言い始めた。すごい、犬になっちゃった?

 

「犬は、飼い主のことが大好き。構ってもらうと嬉しい。賢い貴方は、人間の言葉だって、何となく理解できる。可愛がられると、尻尾をぶんぶん振って喜んじゃいますね……ほら、とくとく……もうすぐ、もうすぐ全部入ってくる。3つ、3つ数えると、元通りちゃんと、賢いワンちゃんに戻れるよ……戻ったら、飼い主の……ご主人様が顔を撫でてくれる。ご主人様に撫でられて、嬉しくって、すぐに目が覚めるからね……」

「ぅぅ、はっ……はっ……くぅぅん」

「ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ。ほらっ、犬だねえ。ミリちゃんは可愛いワンちゃんだ、ほらほらっ」

 レシしゃが、鼻の上あたりを、わしゃわしゃって、撫でると――。

 

「ぁうっ!」

「うわっ」

 ミリちゃは飛び起きて――。

 

「あうっ、あうっ、はっ、はっはっ♥」

 

 ごろん。

 

 ――お腹を見せて、ベッドに転がってしまったのでした。

 

 

 

◆ 正教侍祭の催眠体験 その1 ☆

 

 ――ミリちゃんさんは、催眠術というやつで気持ち良さそうになったあと……レシしゃに『犬だった脳みそ』? を入れられて、すっかり犬みたいになってしまった。

 

「あぅんっ、はっはっはっ♥」

 お腹を見せてベッドにひっくり返って、両手……いや、前足だね。とにかく、軽く握って左右に広げて、両足、うんまあ後ろ足も同じく大股開き。うーん、魔術師さんだからね。ぴっちりした服を着ているのはわかるよ。でもそれ、お股がだいぶ危ないんじゃないかな!?

 

「はっはっ、はっはっ、はふっ」

 でも、ワンちゃんは当然、そんなことは気にしないのだった。晒したお腹をくいくい持ち上げて、完全に服従のポーズ。うん。可愛いね?

「うん、うん。すごいねこれ」

「可愛いでしょ、うちの犬」

 くいくい、くいくい、お腹見せつけて……レシしゃんの方を見て笑ってる。笑って、舌を出して、口をぱくぱくしながら、息が、はっはっはっはっ……うん、これ犬だね。

 

「ぁう、ぁうん、はっはっはっ、はっはっ、はぅん♥」

「よーしよし、ほらほら、いい子いい子、よしよしー」

「ぉぅんっ、ぁうっ、ぁうっ、はっはっはっはっ♥」

 レシしゃが、お腹をわしゃわしゃ撫でてるね。さわさわじゃないんだ、なるほど。毛皮があるイメージなんだなこれ。わしゃわしゃわしゃわしゃ。ミリちゃ、気持ちよさそうだ。

 

「あうっ! あうんっ! はふっ、はっ、はっはっ、んっ、んっんっ、はむ、んんっ」

「うわっ、はは、元気だなあ。よしよし、よしよし」

「わお……」

 ミリちゃはぴょん、と跳ねて、座っているレシしゃに飛び掛かって……前足で凭れ掛かりながら、顔をべちゃべちゃ、ぺろぺろ、うん、舐めてるね。

 

「んむっ、はふっ、はっはっ、はふっ♥」

「こら、こらっ、舐めすぎ……はは、可愛いなあ、もう、こいつは……ほらほらっ、耳の後ろ気持ちいいよねー、なでなで、なでなで」

 レシしゃは顔をべとべとにされながら、頭と背中をわしゃわしゃ。うん、可愛いね。飼い主の顔はべちょべちょだけど。

 

「うん。ミリちゃん、こっち、こっちだよー。可愛がってあげるよ、おいでー」

「あうんっ♥ ……はっはっ、はっはっ♥」

 うわお、勢いよく来ましたね。頭なでなでわしゃわしゃ、うんうん。可愛いね、近くで見ると、目がすごい。焦点が合ってないというか、正気を感じない目をしてる。目はらんらんと輝いて、上唇は引き上げられて笑ってる。構ってもらえてとっても嬉しそうなワンちゃん、そのもの。

 

「すごいでしょ。ミリちゃんは特にすごいんだ、催眠術では心が解放されるから……こんな風に、普通ではあり得ないことを信じ込んでしまい、本当にそうなる……なんてことも、できる」

「うん、うん。これすごいね、楽しいねえ」

 演技でやっているとは思えないよね。完全に、『犬が入ってる』状態になってる。これ、すごいなあ。

 

「ほら、取ってこいっ」

「わうっ!」

 レシしゃが何か投げたね。木のお皿を水平に、しゅるるる……と飛んで、向こうの壁に当たって落ちる。ミリちゃが飛び出して、四本脚で追いかけて……おお、上手に咥えてる。

 

「はうはうはうっ、んっふ、んっふ、あうっ!」

「よーし偉いぞー。えらいえらい、よしよし」

 駆け戻ってきたミリちゃからお皿を受け取って、なでなで、わしゃわしゃ。うーん、可愛いねえ。

 

「アイシャ、これ貰うね」

「え? いいけど、うん。うん?」

 レシヒトさんは受け取ったお皿に、私が取り置いていた果物……プラムかなにかかな、皮を剥いておいたやつを並べて、ミリちゃの前の床に置く。おおっ。

 

「あう、あうっ、はっは、はっは、はっは」

「よーし、いい子だ。待てだぞー、待て待て……よし食えっ」

「あうんっ! あぶっ、ぢゅる、はうっ、はぶっ、あむっ」

「わあ……うん。うん、犬だねぇ……」

 催眠術ってすごいんだな。ミリちゃは、姿勢を低くして、床に置かれたお皿から果物を……というか、エサを食べている。

 

「美味しいね、幸せだね……でも思い出そうか。ミリちゃんは本当は人間だったよね。頭の中に変なものが入ってたけど、僕が3つ数えると、綺麗に元通り、人間の女の子に戻ることができるよ」

「はむ、ぁう?」

「ほら……ひとつ、ふたつ……みっつ、はいっ」

 

 ぱちん。指の鳴る音。これが合図なんだろうね。だから――。

 

「っは、はぁ? は??????」

 ――だから、ミリちゃはこんな風になっているわけだね。

 

 

 ――。

 

 

「……言いたいことはいくつもあるんですがどれからにしますかね」

「良い知らせから」

「そんなもんはない」

「ないかー」

 人間に戻ったミリちゃは、怒っている……けど、あんまり怒ってなさそうだね。慣れてるのかなこれ。人間、あれに慣れることってあるんだろうか。

 

「そもそも、アイシャさんが安心して掛かれるように私に掛けて見せる流れだったと思うのですが」

「その通り。いやあちゃんと覚えていて偉いね」

「うるせえ。どこの世界にあれを見て安心する人がいるんですか」

 確かに、あんまり安心できる感じではなかったかも。

 

「楽しそうだなー、とは思ったっ」

「結果オーライ」

「何も良くない。どう考えても、辱められ損でしかない……」

 可愛かったと思うけどなあ。自分がああなるのは遠慮したいけど。

 

「えー。だって、ミリちゃんにどうせ掛けるんだったら、喜んでもらえるようなやつをやりたいじゃん」

「人を喜ばせるために!!? あれを!!???」

「好きでしょ、ああいうの」

「好きじゃないが? 全く好きなどではないので今すぐ認識を改めてください」

 好きそうだったけどなあ……すっごく、なんていうか幸せそうだったし。

 

「じゃあ、『ミリセンティア、犬になっていたときの気持ちを詳しく教えて』」

「は? え、う、あ……えっと、難しいこと考えられなくなっちゃうのが、すごく幸せで……お腹、撫でてもらうと、嬉しい気持ちがいっぱい溢れてきて……」

「お、おお?」

「ミリちゃんは、僕がこうして命令すると逆らえないようになってるんだ」

 何かしれっとすごいことを言ってるよね。それもさっきの催眠術でやったのかな。

 

「うう……そもそも、催眠で自分が何か変わっちゃってるときって気持ちいいんですよ。で、わんわんだから、構ってもらったり、遊んでくれたりすると、尻尾ぶんぶん振っちゃって嬉しくて……いや尻尾ないけど」

「そうだね、なるほど。床でものを食べるのはどうだった?」

「めっちゃ気持ちよかった……またされたい……ああああ……」

 うんうん。頭抱えちゃったねえ。可愛いぞ。

 

「まあそういうわけで、本人は喜んでいるからいいんだ」

「えーと、私も犬になったり、恥ずかしいことを言わされたりするのかなこれは」

「そういうつもりはないけど、アイシャがそういうの好きならやってもいい」

「釈然としないのですが!?」

 つまりミリちゃはそういうのが好きということですね。うんうん。

 

「私からも聞きたいんだけど、あれってやっぱり気持ちいいのかな」

「え、っと……」

 さすがに言い淀んでいるミリちゃんさん。そこで、レシしゃの方を見る。あ、OKっぽいね。

 

「ミリセンティア、答えてあげて」

「……気持ちいいですよ、すっごく。頭バカになるんじゃないかってくらい」

「やっぱりそうなんだねえ。もぐもぐ」

 うーん、あんまり恥ずかしいのは困るけど、興味は出てきちゃったよね。これでラヒーシャさんを呼び出したりできるのかは知らないけど。

 

「そういうわけで、アイシャさえ良かったら君にも試してみたいな」

「いや馬鹿でしょ? この流れでいいってことあるか???」

「いいよ!」

 いやまあ恥ずかしいし不安だけど、こんな面白そうなことから逃げるのはもったいないよ。何より、レシしゃがあんな風に優しくやってくれるのだったら心配ないと思うんだ。二人のことは好きだからね、うんうん。

 

「あったじゃん」

「いや待ってこれ私が変なんじゃなくてですね、貴方達2人がおかしいんですよ。そこのところはっきりさせた方がよくありませんか」

「ミリちゃんだって、リルが猫になってるの見ても試そうとしたじゃん」

 リル? お友達かな。色んな人にやっているんだねえ。

 

「それは私には試す動機があったからで、ウオオ離せ! 私は正常だ!!」

「ミリちゃ、暴れはじめちゃったけど」

「そういう季節なんだよ。気が立って攻撃的になったりする」

 うん。発情期かな?

 

「動物扱いするな! ウオオ私は人間だ!!」

「そうだねーミリちゃんは人間でかしこくてかわいいねー」

「雑すぎでしょ」

 あっスンッとした。表情豊かで面白い子だと思うよ。うんうん。

 

 

 ――。

 

 

「じゃあ、やっていこうか」

「うん。これでいいのかな?」

 ベッドに横向きに座る。さっきミリちゃが座っていたところ。うん。隣にはレシヒトさんだね。ミリちゃはさっき私が座っていた椅子に腰掛けて……もぐもぐ。果物食べてる。

 

「いいね。アイシャ、君はさっきのミリちゃんの様子を見て……どんな風に感じた?」

「えーと……気持ちよさそうだったよ?」

「そうだね。それで……その気持ちよさそうな様子を見ていた貴方は、もしかすると……それに見入ってしまったり、自分でも、僕の指示に少し、従ったりして……気持ちいい感覚を、自分でも味わってみようと、していたかもしれない」

「あー」

 うん。レシしゃはあれかな、ミリちゃに催眠術というのを掛けながら、私の方も見てたのかな? それとも予想で言ってるのかな……。とにかく、私はまさにそういう感じだったよね。

 

「それに、君の中にはラヒーシャがいるよね」

「いるよ」

「それは……脳の使い方を変える、意識を変性させることに慣れているということだから、催眠にも深く掛かれるかもしれない。違う自分になる、ということに慣れていることになるから……」

 ふむふむ。私からすると、ラヒーシャさんとアイシャは別の存在なんだけど、同じ身体を使っているのは間違いないから、レシしゃの言う通りかもしれない。

 

「つまり、私はラヒーシャさんになるみたいな感じで、犬になっちゃったりできるってことなのかな」

「そういうことかもしれないね」

 じゃあ、完全に犬になっちゃうねそれは。なるほど、ミリちゃはそういう感じだったわけだ。それはちょっとよく分かるよね。

 

「犬にして欲しいってこと? 正直、何をやるか分かってる相手に掛けるの、ちょっと気まずくて苦手なんだけど……ご希望ならやるよ?」

「いやいいですよ。レシしゃの好きにしてくれたらいいんじゃないかな? 楽しみっ!」

「その男の好きにさせるのはマジで危険だからやめた方がいいですよ」

 なるほど? ミリちゃは何をされたんだろうね、気になっちゃう。

 

「まあ、エッチなのは無しってところでいいかなとりあえず」

「うん。ばっちこい!」

 座って、両手を膝の上に置く。こうして待っていればいいんだよね――。

 

 

 ――。

 

 

「――次は、右足……僕が膝に触れると、触れたところから、力が抜けてしまうよ……ほら、3……2、1……0。すーっと抜ける……ほら、くたぁ……気持ちのいい、脱力……脚も、リラックスすることができますね……」

「ぁ、あっ、ああっ、あー……」

 レシしゃの手が膝に触れる。くにゃ、と膝が外側に倒れる。膝を揃えて座っていたけど、力が抜けると少し開いてしまうんだね。

 ここまで、両腕、背中、お腹、右足と、同じやり方で力を抜いてもらった。すごく、気持ちいい。

 

「左足も同じように、ほら……3、2、1……0。力が抜ける……力が抜けると、重たく……感じる。首から下、全ての力が抜けて……重たく、重たく……なっています。とても、心地よい重さです……」

「ぅあ、あっ、あっあっ、あ、ぁ……」

 めちゃくちゃ声が出ちゃう。なんだろうねこれ。ミリちゃはこんなに声出てなかったと思うんだけど。でも、気持ちいい。

 

「眠っていて、意識のない人を持ち上げるのが、とても難しいように……人間の身体は、力が抜けると……リラックスすると、重たく……重たく、感じられますね……」

「あっ……」

 重たい。そうだね、意識のない患者さんを運ぶのって、とても大変。だからこうして、力の抜けきった身体は、とても重たいし……背中を支えてくれている手が、とってもありがたい。

 

「次は頭……頭の力を、抜いていきます。私が、おでこに触れると……そこから、頭の力が抜けてしまいます」

「ふぁ」

 頭……。そうか、頭はまだ、力が抜けてなかったね。

「頭の力が抜けると……頭が重く、重たーくなって……考える力も、抜けてしまう。頭の力は、考える力……ほら、抜いていきましょう。3……2、1……0」

「あっあ、あああっ、ああっ、あ、ああああっ……!」

 こつん、とおでこに触れられたところから、すーっと何かが抜けていく。声が出る。めちゃめちゃ大きな声が出ちゃってる。

 

「ほら抜ける……考える力が抜けて……すーっと抜けて、重たくて……気持ちいい……楽になる。らくーになる……重たくて……気持ちいい……頭が、ずーんと重くて……回らなく……なってしまうのが、気持ちいい……」

「あっ、あああっ、あ……っ、あ……あー……ぁ……♥」

 おでこに触れていた手が、前に倒れる頭を支えてくれた。気持ちいい。きもち、いい……。

 

「頭の中……いつのまにか、溶けてしまっているね。ほら、さっき……ミリちゃんが感じていた、どろどろになった脳みそ……彼女の感じていた、気持ちいい感覚。頭を前に傾けると……中身が、どろぉ、っと傾いて……前へ、前へ……」

「あっあ、あっ、ああっ」

「うわ……ひどいことしてる」

 遠くで、何か聞こえてるけど……何も、考えられない。頭、どろぉって、これ、気持ちいい。

 

「おでこに……蕩けた脳みそが、どろーっと、溜まっている。頭の前が、重たくて……気持ちいい。意識が……自然に、頭の中へ向いて……視線も、上へ、上へ……頭の中、どろどろ、気持ちいいのを……じーっと、見つめています……。目の前は、暗く、くらーく……ずぅんと、真っ暗になって……すごく、気持ちいい」

「あっ、あぁっ♥」

 おでこ、ずーんと重くて……全部、全部そこに吸い込まれて、真っ暗。

 

「頭の中を、ぼんやり見ていると……あの子の、気持ちよさそうな顔を思い出します。白目を剥いて、涎を垂らして……あんな風に、貴方も……なることが、できますよ……ほら、ちゃぷ、ちゃぷ……」

「……あ、っ……あっ、ああっ、あっあっあっ、あ♥ あっ、ああっ♥」

 頭、ゆさゆさ、されて……ちゃぷちゃぷ。気持ちいい。涎、てろーって垂れる……わかんない、何も分かんなくなって、気持ちいい。

 

「布、敷きましたから……アイシャさんは、安心して、涎、垂らしちゃっていいですからね」

 あ、これ。ミリちゃの声だ。ありがとう……?

「安心ですね……。いっぱい、涎が出ちゃうくらい、気持ちよーく……催眠に、入っていますね……」

「あぁ、あっ、あー……」

 頭の中、どろどろ。ちゃぷちゃぷ。すごい。これ本当に気持ちいい。

 

「とろとろの脳みそ……こうすると、また傾いてしまう。ほら……」

「あっあっ、あっ!」

 頭が右に、くたぁ、と傾けられる。レシしゃが、頭の上に手を乗せて押してるんだ。当然、中身も右に、だばぁ、って動いて……頭の中、全部、気持ちいい。

「次は後ろ……ほら、どろぉ……気持ちいい……」

「あっぁ、あ、あおぉぉっ、ぉおぉぉっ」

 頭が後ろに、かくん。喉を逸らしてしまい、変な声が出るのを止められない。

 

「左側も、ほら……それから、また前へ……はい」

「あっあ、あぁあっ、あっあっ、あー……♥」

 これで一回り。これだめだよ。気持ちよすぎて馬鹿になりそう。こんなの――。

 

「それじゃあ、しばらく回してあげますね……」

「え、あ♥」

 

 ――そんなの、したら……戻れなくなるよね?

 

 

 ――。

 

 

「お、あー、あー、あっ、あああっ、あっ」

「ぐる、ぐる……ぐる、ぐる……気持ちいい、ですねー……」

「……なんか、今日の誘導エグめじゃないです?」

「そうかな? そうかも。アイシャ、ほら、ぐるん……ぐるん……」

 何か聞こえるけど、まわるの、気持ちよすぎて……なんか、どうでもいい。うん。気持ちいい。

 

「はい、ぐるん……ぐるん。また前に……ほら、くたー……っと。気持ちいいね……」

「あぁっ、っ、あっああ、あっ、あっ、あああっ!」

「ここから、深い……催眠状態に、落ちていきます。私が、3つ……3つ数えると、頭も、身体も後ろに倒れて……全部、力が抜けた身体は、何の抵抗もなく……とっても、気持ちのいい状態で、深いところへ……落ちていくことができる」

 おち、る……。ミリちゃが、でろーんってなってた、あれ……。気持ちよさそうなやつ……。

 

「ほら……3、2……1、0。はい、落ちる――」

 数え終わったレシしゃは、私の頭を後ろに、かくん、っと倒して――背中を支える手も、引いてしまった。私はそのまま、真後ろにどさりと倒れ込んで――。

 

「あ、っ、あっ、あ、ああああっ、ああっ、あ、あああっ、うああっ!」

 

 ――真っ暗な世界に落ちながら、がくんがくん、身体を震わせていた。

 

「アイシャさん、落ち声すご……」

「そうだね、人によって違うから面白い」

「あ、あっ、うあ、あっ……」

 すごい、すごく気持ちいい。変な声がずっと、出てる。

 

「気持ちいい……ここは、深くて、暗くて……とても、落ち着く。だから、すーっと沈むように……ほら、落ちる……もっと、落ちる……3、2……1……、0」

「あっあ、あ、あ……あっ、あああっ……あ、あ……ぁ……」

 気持ち、いい……真っ暗で、落ち着く……気持ちいい……。そんなイメージがゆっくり……ゆっくり理解できるようになって……。

 

「すごく静かで……気持ちのいいところ。アイシャの心の、深いところ……自分では、降りてこられない、とても……大切な場所に、来ることが……できましたね……」

「あ……ぁ……」

 

 やっと、呼吸が整って……静かに、なった。

 

 

 

◆ 正教侍祭の催眠体験 その2 ☆

 

「――アイシャに? なんでまた。そっちの趣味もあった?」

「ちょっと一遍と言わず2、3回くらい死んだ方がいいですよ」

 ペルルグリアの街の市場で、アイシャが果物を買いに行っている間。ミリちゃんとこんな話をしていた。

 

「いやまあ真面目に――何か気になることがあったんだ?」

「うん。アイシャさん……と、ラヒーシャさん。ラヒーシャさんはシレニエラ街道のこと、『エル=シレナ』って言ったんですよね。あれ、エルミルの人の呼び方です」

 ああ、そういえばそうだったな。ミライさんが言ってた気がする。

 

「で、アイシャさんもエルミル正教の人で間違いないと思うんですけど……神官と傭兵って、変じゃない?」

「確かに」

「ぶっちゃけスパイかもしれないんですよ」

「ぶっちゃけたな……そういうのあるんだ?」

 なるほどなー。そもそも何のために居たのかよく分からないもんな、アイシャにしろラヒーシャにしろ。

 

「シレニスタとエルミルは友好国ですけど、そういう諜報活動は無いわけじゃないですからね。うちだって送ってるはずです」

「ははー。なるほど、宮廷魔術師ともなると……って、もしかしてミリちゃんって、国家要人に当たる立場なわけ?」

「そうですが? 何か文句でも?」

 宮廷魔術師、クエストにも行くし政務も助けているし、そうか、そりゃそうなんだろうな。うわ、ミリちゃんが国家要人ってちょっとめちゃくちゃ面白いな。

 

「なるほど……つまり催眠でアイシャと、ラヒーシャのことを聞きだして探りを入れられたら、ってことね」

「まあ、そういうことで……あ、終わったみたい」

 ミリちゃんが指さした方を見ると、アイシャが両手いっぱいに果物を抱えていた。無言で頷いて、迎えに行くことにした。

 

 

 ――。

 

 

 さて。アイシャを、初催眠にしては相当深めの催眠状態に落とすところまでは成功。予想通りと言えばそうなるけど、かなり掛かりが良いねこれは。

「深い……深いところに居ます。貴方の心の奥……普段は見ることのない、穏やかで……心地よいところ。ここでは……私の声は、貴方の深いところに……直接、入っていく。何を言われているのか……意識しなくても、理解できなくても……心がちゃんと、分かっているから……心配ない、ですね……」

「あ、あっ、ああっ……」

 アイシャは、落ち声というか……催眠中に出る不随意な声が、やけに明瞭で、大きい。どこか悲鳴めいているとも思える。何か無意識にまつわる、恐怖を感じた体験があるのかも。もしくは、落ちるイメージが怖い可能性もある。

 

「では、緩やかに……もっと深いところへ、ゆっくり、降りていきましょう。私がこうして、手を握っていてあげますから……安心、できますよね……そう、安心して……静かに、ふわーっと、降りて……いく。ほら、3……2……」

「ぁ……」

 あ、静かになった。落ちるのが怖いの、あるかもしれないな。気持ちよさそうではあったけど、今日は安心して欲しいので、ゆっくり降りていくイメージを活用しよう。

 

「1……0。ほら、一緒にふわーっと……降りていこう……ふわふわ……すぅーっと……沈む……沈んで、いく」

「……ん……」

 よし。表情が落ち着いて、瞼の動きが一定になった。

「……なんか、優しいですね」

「そうだね。優しく……降りていくのも、気持ちいいよね……ゆらゆら……木の葉みたいに、揺れて……揺れて……舞い降りていく。気持ちいい……ふわ、ふわ……ゆら、ゆら……」

「ぁは……」

 揺れるイメージの声掛けとともに、頭を軽く揺する。リラックスして、全身がより弛緩しているのがわかる。同じ動作でも、脳みそまぜまぜしている時とは反応が違ってくるのも、催眠の面白いところだ。

 

「すごく……気持ちいい。この、気持ちいい状態を……よーく、覚えてしまいます。気持ちいいから、また……ここに、帰って来たくなりますよね……。だから、またいつでも、この……心の奥の、気持ちのいい場所に来られるように……紐を、つけてしまいましょう。ほら、きゅ……っと結んで、これを辿ることで、またいつでも……ここへ、降りてくることができる」

「……あっ……あ」

 さらに深化したいので、何度か覚醒させて、落とす……いや、降ろすことにする。再び催眠状態になるためのトリガーとして、目印をつけておくのはよくやるパターン。今回は、後々使うので、紐のイメージを使用する。

 

「私が、数を3つ……3つ数えると、この深い……気持ちのいいところから、帰ってくることができます。3つ数えて、指を鳴らすと……貴方はすっきりした気持ち、はっきりした意識で……目覚めることが、できますよ。ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ。はいっ」

 

 ぱちん。

 

「あ。んあ……」

「ほら、すっきり目が覚める……覚め……てないなこれ」

「あ……う、あぁ……っうう」

 やっぱり、まだふわふわしていて、覚醒し切れていない。寝起きが悪いタイプか。

 

「起きてないですねこれ」

「アイシャ。もう一度3つ数えるよ。ひとつ……意識のもやが晴れていく。ふたつ、身体の感覚が戻る。みっつ……目に光を感じるよ……はいっ、おかえり」

 具体的な覚醒指示とともに、肩を揺すって知らせる。

「あっ、ああー、あ。うん、うん。ただいま、おはよう?」

「よかった、おかえり。気持ちよかった?」

 

「うん。うん……気持ちよかったよ! いやあ、気持ちよくって、起きたくなくなっちゃったよね」

「わかる」

「そういうこともある。でも、すぐまた降りていけるから、安心して戻ってきていいからね」

 落ちる、という言葉を避けて配慮してみる。

 

「うん、それ。『落ちる』っていうのちょっと怖かったけど、『降りる』のは平気だったー」

「あ、やっぱり。じゃあこっちでいこうか」

「いやいいよ?」

「あれ?」

 いいよって? 『落ちる』でいいってこと?

 

「高いところが苦手だから『落ちる』っていうの怖いのかな、って思うんだ。でも落ちるのすっごく気持ちよかったから……声出ちゃうの、気持ちいいね?」

「わかるぞ!」

「あ、そういうやつでしたか……」

 ミリちゃん案件だった。まあ、そういうことなら『落ちる』でいいか……。こういう時、気持ちよくてもそういうのはやめよう、と言う催眠術師もいるだろうけど……自分は、気持ちよければそれでいいと思う方だった。

 

「うん、だから『落ちる』でいいよ? 怖くなる暇もないくらい、一気に落としてくれたら嬉しい」

「なるほどなあ。ところでアイシャ、さっき落ちたとき、あの気持ちいいところに紐をつけておいたよね。ほら、手繰っていくだけで、意識はどんどん引っ張られていく。ふわふわして、力が抜ける。気持ちよくなる、吸い込まれる、ほら、すーっと吸い込まれる」

「あうっ、あっ、あっ……ああっ」

 なるほど。怖いことは怖いけど、声が出ちゃうのは気持ちいいと……うん、なかなか複雑だなあ。いろいろ心配だけど、とりあえず今日はこのままいこうか。勢い良く。

 

「ほら。紐を頼りに落ちていくことができる。3つ……僕が3つ数えると、貴方はまたあの深いところ、気持ちいいところに、すとーんと落ちて……深い、催眠状態になってしまう。ほら、3……2、1……」

「う、あっ、ああっ、っ、あっ」

 ミリちゃんが『大丈夫かなあ……』って顔で見ている。まあ、気持ちよさそうではあるから……。

 

「0。落ちる……深く、落ちる。気持ちいい、落ちるの気持ちいい。気持ちよくて、幸せ。どんどん落ちる……ほら。私の誘導に従うことで、またこの、暗くて、気持ちのいい場所に、落ちることができました。何度でも、ここに落ちて来られる。この声は、何度でも貴方を気持ちよくしてくれる」

「ぁ、あっ、ああ、あ……」

 ここ大事。術者の言う通りにすることで、気持ちよくなれること。そして、何度でもこの状態になれること。気持ちよくなれるので、安心して落ちることができる。また来られるから、安心して目覚めることもできる。何度も落として起こしてを繰り返すことで、これらを何度も確かめることができるので……単純な慣れ以上に、催眠の深化として良く働くようになっている。

 変な暗示を入れるのが大好きなタイプの術師としては、ちょっと物足りないこともあるけど……単純にめちゃくちゃ気持ちいいので、これをひたすらやってくれとせがまれることも多い。

 

「深いところで、結び付けておいた紐……この紐は、とても良く伸び縮みする紐。だから……貴方が目を覚ましても、強い力で……この、気持ちいい場所へ、ぐーっと、引っ張られてしまうね。目を覚ましても、勝手に……この場所に引っ張られて、何もしていなくても……またここへ、落ちてきてしまう。意識がはっきりしてから……10秒もすればもう、落ちてしまうよ。我慢しようとしても、ぜんぜん抵抗できない。必ず、そうなってしまう」

「……あっ、あ、あうっ」

 一瞬、ゴム紐って言いそうになったけど、この世界にゴム紐無いよな、多分。衣類は紐で締めるものばかりだし。タピウスの樹液なんてものが出回っている以上、作れないことは無いと思うんだけど……。

 

「3つ数えたらまた目が覚める……だけど、意識が返って来てもまたすぐ、この気持ちいいところへ引っ張られてしまうよ……ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ……はいっ! ほら、意識がはっきりするよ!」

「ふぁあ!?」

 寝起きあまり良くなさそうなので、強めに肩を揺すってあげる。びくっとした、流石に起きたか。

 

「おかえり。大丈夫、しっかり目を覚ますよ」

「あうっ、うん、うん。大丈夫。起きてます」

「そりゃよかった。ところでアイシャ、ラヒーシャのこと聞きたいんだけど」

 それを聞きたいのは半分本当。でも、ここで聞くことにはあまり意味がない。だって……。

 

「ラヒーシャさん?」

「うん。こうしてアイシャとして過ごしている間、ラヒーシャはどうしているのかなとか」

「あっそれね。うん。だいたいいつも見てるんじゃないかな。今も、いる……と、おも……あっ」

 あ、目つきがとろんとした。落ちかけてるな。

 

「大丈夫? ほら、ちゃんと起きて。ミリちゃんも手伝って」

「あ、っう、あっ」

「こっち支えますね。アイシャさん、大丈夫ですか?」

 二人で左右から支えるようにして、腕を引き……上体を起こしてやる。

 

「話の途中だよ。落ちちゃダメだって」

「私も知りたいんですけど。ラヒーシャさんはいつも、アイシャさんのことを見てるんですか?」

「あう、あ、えっとね、えう、えっとお。あ、あっあっ、ああっ」

 ミリちゃん、これわざとやってるな。そうだよな、そんな風に言われたら頑張って起きようとするし、そうなると絶対気持ちいいもんな。

 

「アイシャ、首が落ちてるよ。ほら、しっかりして」

「大丈夫ですか? ほら、こっちも」

 かくん、かくんと揺れる頭を、両方から支えて、無理やり起こす。ミリちゃん上手いな、自分がされて、気持ちいいのが分かってるわけだもんな。

 

「あうっ、あ、あっ、やだ、やだ、やだよお、やだあ」

「やだ? 落ちたい?」

「あっあ、落ちたい、落ちたいっ、これやだっ」

「そうですよね、気持ちいいですもんね。えへへ、羨ましいなあ……♥」

 ミリちゃん、声がちょっとエロいんだけど。

 

「じゃあ、いいよ。ほら、せーの」

「はい」

 ぱっ、と二人で支える手を放してしまう。

「あっあ、ああああっ!」

 どさり。アイシャはそのまま真後ろに倒れ――。

 

「……おっ、あっ、あっ、ああ、あっぁああっ!」

 ――悲鳴を上げながら、びくんびくん痙攣している。なんていうか、落ち着かない落ち方する子だなあ。

 

「大丈夫……もっと深く、どこまでも落ちる。ほら、3……2、1……0。落ちる、落ちる、押しつぶされるみたいに、落ちていく、深く……深く、落ちる」

「おあ……あっ、ああ、あ……あっ、あっあ……ぁ……」

 顔に掌を被せて、ベッドに押し込むみたいに、ぐっと力を加える。両眼を覆って、視界を奪い……瞼を押し込むようにして、真っ暗な圧力で意識を――潰す。

「……うわ、えぐ」

 だって……好きなんだろうから、こういうの。

 

 

 ――。

 

 

「ぶちゅ、と潰れる音がして……あなたの意識は、ぺちゃんこ……ぺちゃんこになってしまいました。頭の中、すっきりして……何にもない、静かな状態……だから、この声が、とても……よく聞こえますね……」

「ぁ……」

「いつもなら、そわそわしたり、ざわざわしたり……波の立っている意識も、今はぺちゃんこ……平らに潰れてしまったから……とても静か。とても静かで……穏やかな状態です……」

 『僕が潰したから穏やかだよ』って、我ながら結構ひどい言い草だけど、催眠ではこれは結構強い説得力がある。実際、ああして乱暴に落とされた後の静寂は、本当に気持ちいいものだから。

 

「……むう」

 ミリちゃんが、どうも抗議の目で何やら訴えているように見える。何だろう。『初めての人に無茶苦茶しすぎでは?』だろうか、それとも、『私にはそれやってくれないんですか?』だろうか。後者だな。間違いなく後者だ。今度やってあげよう。

 

「平坦で……穏やかな意識の中。貴方は、あらゆる不安や心配から解放されて……この声をよく聴くことができますね……。この声を聴いて、その通りにすると……さらに、安心……落ち着いた、気持ちのいい状態になることができる」

 こうした、トランス状態で施術者に従うことによって安心を与える方法は、何かと応用が利く。応用が利くということは悪用もしやすいということなので要注意だ。例えばリルはそういう悪用に才がありそうなので、あえて教えてない。いやまあ、あの子への初催眠で使った方法だから、自力で見出しかねないのが怖いところだけど。まあ、いくら何でも。

 

「私が質問すると……貴方の喉に力が戻ります。口を動かして、声を出して、質問に答えることができます……この声に従うと、言う通りになると、とても気持ちよくて……幸せです」

「……ぁ、ん」

 声が出せることを確かめているような、微かな口の動き。大丈夫そうだ。

 

「では……アイシャ。この声は聞こえていますか? 聞こえていたら、『はい』と返事をすることができますよ……ほら、声が出せる。アイシャ、聞こえる?」

「ぁ……はい……」

 

「言う通りに、答えることができましたね……ほら、とても気持ちいい。幸せですね。今の、催眠状態の心地よさが、ぶわっと広がる。ほら、気持ちいい……」

 頭を軽く撫でてあげる。気持ちいいのは大事だからね。報酬があると分かっていれば人間は従いやすくなるものだから。

「ぁ……うふ、うふふふっ」

 なんか笑い出したぞ。まあ、いいか。気持ちよさそうだし……。

 

「では……アイシャ。君は普段、ラヒーシャの存在を感じることができますね?」

「はい……」

 これはさっき聞いた通り。

「うん。では……アイシャ、今、君はとても気持ちいい状態です。ラヒーシャは……そこに、いますか?」

 聞きたいのは、これ。催眠状態のアイシャの意識は……ラヒーシャに、アクセスできるのか? また、催眠状態のアイシャにあったことを、ラヒーシャは見ているのか?

 

「……いな、い……いないです」

「うん。よしよし、ラヒーシャは今そこにいないんだね……答えることができて、嬉しいね。気持ちいいね……」

「ふふ、うふふっ」

「笑ってる……」

 ミリちゃんも困惑している。催眠の掛かり方は人によって差が大きいけど、中でも独特な子だとは思う。

 

「では……ラヒーシャは、今、君のことを……アイシャのことを、見ていますか?」

「……見て、ない……多分。アイシャ、一人……変な、感じ」

 へえ、そうなんだ。というか、そうか。アイシャにとっては、ラヒーシャがいるのが当たり前だから……自分一人になる感覚が、奇妙に感じられるのか。

 もしかすると、強く落とされたいというのも……ラヒーシャ、つまり他人格の存在から離れて、深く落ちてみたかった? 考えすぎかな。

 

「そうですね。アイシャ一人になるのは……とても、安心できることです。ここでは、何も心配はありませんから……安心して、誰も居ない心を楽しむことが、できますね」

「ぁ……♥」

 察することしかできないけれども。一人で居ても、一人でないというのは……結構、キツいんじゃないだろうか。心の中に、別の誰かが居るというのは……思った以上に、気が休まらないものなのではないだろうか。

 確かに自分は今、目的があってアイシャに催眠を掛けているけど……それとは別に、彼女が少しでも、安らかな経験をしてくれればいい。そんな風に思う。

 

「アイシャは今、ラヒーシャのことを知っていますが……ラヒーシャが生まれたのは、貴方が子供のときでしたね。今日はそれを、少しずつ……思い出して、みましょう」

「ぁ……」

「子供……そう、君は子供。ラヒーシャがいつ、どうやって生まれたのか……もしかしたら君は。覚えていないかもしれないけど……ラヒーシャのことを、初めて知ったときのことは、思い出すことができます」

「……あ、なるほど」

 ミリちゃんに納得してもらえた。そう、ラヒーシャが居ないのでは、催眠を掛けてラヒーシャのことを聞きだすのは難しかろう。あと、催眠で別人格を引きずり出すのは……できるかもしれないけどリスクが高い。ラヒーシャは強力な傭兵らしいし、詮索がバレて暴れられても困る。

 でも、これなら? 催眠中のアイシャを、どうやらラヒーシャは見ていないらしい。だったらアイシャを……ラヒーシャと出会った頃の、子供のアイシャに、戻してしまえば。

 

「ほら……頭がまた、ぐるぐる回る……。ぐる、ぐる、回ると……気持ちよくて……頭の中が、どろどろになっていくのでした」

「あっ、あ、あっ……」

「ぐるぐる……同じ向きに、回し続けると……不思議なことが起きています。貴方の意識は、ぐるぐる……ぐるぐる、回るごとに……どんどん、時間が……戻って、いきますね……」

「あ、っ? ああっ、あっあっ」

 

 そう。今のアイシャが知らないのなら――。

 

「深い……催眠の世界で、とっても……とっても素直になった貴方は……もっと、もっと素直で、とても可愛らしい……子供。そう、子供になるまで……ほら、ぐる、ぐる……戻る……戻っていくことが、できますね……」

「ああっ、あ、あ、あっあっあっ……?」

 

 今のアイシャが、忘れてしまったのなら。

 

「なるほどなー……そんなことも、できるんですね」

「あんまり、やりたくなかったんだけどね……。ほら、ぐる、ぐる……戻っていく。今はそう……15歳。まだまだ、戻っていきますよ……」

 

 子供の頃のことで、思い出すことができないのなら。

 

「ぐる、ぐる……戻る、どんどん、戻る……。大丈夫、またいつでも、大人のアイシャに戻ることができるから……今は、子供の心を、楽しむことができる……」

「あ……っ、ああ、あー……ぁ……」

 

 ――なら、『昔のアイシャ』に聞けばいい、というわけだ。

 

 

<続く>

5件のコメント

  1. 解離性同一性障害!(解離なのか同一なのかはっきりしろ!)
    催眠を学ぼうとすると当然心理学の本を読むことになるわけで、そうなると当然のように出てくるあいつでぅね。
    それにしても王都のストームドラゴンさんに比べてこっちはほのぼのしてるなぁw
    落とされたり、犬に変えられたりして憤慨するミリちゃんの表層意識がかわいいでぅ。(そして、命令で本心を言わされたりするミリちゃんもかわいい)
    まあ、アイシャさんに催眠をかける理由はほのぼのでもなんでもないんでぅけれどw

    >いやまあ、あの子への初催眠で使った方法だから、自力で見出しかねないのが怖いところだけど。まあ、いくら何でも。
    まさかねー、いくらリルさんが才能に溢れてるからってねー。
    って、思いっきり使ってますし、イエスセットで思考捻じ曲げてますがなw
    リルさん怖いw

    >展開予測
    まあ、物語を書いているとよくあることでぅね。
    みゃふも過去に何度か先の展開言い当てられて困ったことがありますでよ。
    先の展開がわかるのは張られた伏線をしっかりと読み取られてるとか、そもそも王道展開でわかり易すぎるとか、実はわかってるわけじゃなくてこうだったらいいなーという読み手の願望を書いてるだけとか色々あるわけでぅが、それに対する反応も書き手さんの自由でい良いと思いますでよ。
    というわけで、みゃふもどの感想が言い当てたのか考えながら、先の展開を楽しみにしていますでよ~。(登場キャラはだいたい催眠にかけられるというぱ。さんの発言とミライさんとの関係性からミライさんに催眠かけられるアウレイラさんかなー?)

    であ。

  2. いやぁ……
    へへへ、言わされる催眠、いいですよね!
    そしてミリちゃんもそういう恥ずかしいこと言わされるの望んでわざとこうやってツンツン振る舞ってるんだろうなあ……
    (かなり長い間暗示が残ってるわけですし)

    そして脳みそトロトロ催眠。即興で手元にあったコップを利用する技法といい、ね。
    現実の催眠を描いているからこその、リアリティ。
    復習みたいに過去の技法を踏まえた描写が描かれるのも、いいなぁ……

    1. ありがとうございます。しかし失礼ですがこちら本当に人間による感想でしょうか?
      どうもスパムっぽい書き込みが最近散見されます……。

  3. >みゃふ様
    ミリちゃんは本当にキレ芸が可愛いんですよね……。
    アイシャさん周りは正直全然ほのぼのしてないですね。こわいこわい。

    展開はまあ読めるところは読めるでいいので遠慮なく感想くださいな~。

    >ティーカ様
    ミリちゃんはちょろいので、実際には長期間が開いて暗示が抜けてしまっていても、記憶にさえ残っていれば、自信満々に命じることで「あっそういえばそういう暗示だ」と認識してしまうから、その場で暗示として入り直しますね。
    実際にも数年前に入れたキーワードが機能したりします。

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