居候 「失礼いたします。園江でございます」 わたくしは離れの障子の前で膝を突き、抑揚のない声で言いました。旦那様から離れの住民の世話を頼まれてはいますが、愛想良く振る舞ってやる筋合いはありません。 「あぁ、はいはい」
もっと読む木綿の獅子の作品
華族令嬢変死事件一件書類
前略 お元気でいらっしゃいますか? 父からお聞き及びでしょうが、私は国立静川大学へ進学します。帝大卒のお祖父様、K大学に通っているお姉様には及びませんが、精一杯頑張ろうと思います。 先日、お祖母様の遺品を整理しており
もっと読む明治二十二年の再会
明治二十二年二月、帝国憲法発布を記念して、大赦が行われた。 静川県士族の北崎義達が出獄したのも、この時だった。 義達が逮捕されたのは西南の役の最中であったから、足かけ十二年間、獄中にいたことになる。十二年前、西郷軍
もっと読む県庁特別高等課 第三話
第3話 妹藍香 ――たとえ法律や組織が変わっても、僕たちがなすべきことは変わりません。僕たちは安寧秩序のために尽くすのみです。 (ある公安課長の就任挨拶より) 1 兄の恋、妹の憧れ 「ね、兄様。私たちって夫婦に見えるか
もっと読む県庁特別高等課 第二話(2)
第2話(2) 若妻佳苗 1 二人の若妻 ――見事なものだ。鈴木警部補の術というのは。 鈴木のおかげで咲子を毎日抱いていたが、施術を見るのは初めてだった。その手際は、見事というほかない。 校長が凝視しているのは、しか
もっと読む県庁特別高等課 第二話(1)
第二話(1) 幼妻潔子 ――気づかせてくれたのは、部下と妻であつた。善良なる国民を扇動し、秩序を乱し、我が国体を変革せむとする不逞の輩は、赤だけではなかつた。(中略)その時、大嶋県警察部特別高等課は、我が国の発展の先端
もっと読む県庁特別高等課 第一話
第一話 女教師咲子 ――真の××の敵は、特高ではない。女だ。どんな拷問よりも、女の誘惑の方が恐ろしい。転んでしまつた同志の、陶然とした顔が目に浮かぶ。俺も、もうじき転ぶことになるだらう。(ある活動家の日記より。検閲のた
もっと読む慶応三年の乱痴気
1. 故郷の夢 誠一は暗闇の中にいた。額が燃えるように熱かった。嫌な汗が、身体中を伝っていた。 暗闇が開け、眼前に灰色の田畑が広がった。収穫を終え、冬を迎えた村の風景。天沢村だった。誠一の故郷だ。 背の高い少年が、
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