魔性の少女 第五章

第五章

― 0 ―

 ぼくは、言語に置き換えがたい爽快感を感じている。
 言葉にすると、それは日常とか、常識とか、道徳とか、世の中を成り立たせる為のルールから、激しく逸脱しているものになるだろう。
 けれど、世の中を構成する他人の思いなど、どれほどの価値があるというのだろう。
 必要なのは快感だけ。
 そして、家族の痴態を楽しそうに眺める、舞ちゃんだけ。
 それが全て、それ以外は全ておまけのようなモノ。
 そういう意味では、ぼく達家族は全員、舞ちゃんのモノだ。
 この魂が穢されるような絶頂も。
 理性を焼き尽くす快楽も。
 価値観を覆す悦楽も。
 禁忌を踏み越える悦びも
 全ては舞ちゃんの為。
 全ては、舞ちゃんだけの為。
 その目的に埋没できる、それはそんな爽快感だった。
 粘膜と肉によってもたらされる、酷く猥褻な爽快感。
 人からは納得も理解もされない、一線を越えたぼくだけが感じられる爽快感だ。
 だから、舞ちゃんには感謝してる。
 だから、ぼく達家族を差し出しても構わないほど、感謝してる。

 ぼくを変えてくれた事を、感謝してる。

― 1 ―

 居間のソファーに腰を深く埋めて、ぼくは食後のまったりとした幸福感を味わっていた。
 背後では、母さんが食器を洗う音。
 気分がいいのか、小さな声でアイドルの歌を歌いながら。
 それだけで、てきぱきと洗い物をこなしていくのが、目に見えるようだった。
 これは、朝食の音で目が覚めるのと同じくらい、幸せな状況のような気がした。

「ん・・・ふ・・・」
「ぁん・・・」

 そして、ぼくの左右からは押し殺した、けれど明らかに快感を覚えている、押さえ切れない小さな喘ぎ。
 ぼくの右側には胡桃、左側には苺がいる。
 両手を自分の股間に這わせ、服を着たままオナニーしている。
 催眠暗示を与えた訳じゃあない。
 ぼくの後を追いかけてきた二人が、最近のお気に入りの行動として身体を密着させてきたから、試しに言ってみただけ。

 ――オナニーを見せてくれたら、後でいやらしい事をしてあげるよ――

 胡桃は頬を真っ赤にして、けれど嬉しそうに。
 苺は無表情な中に、どこか淫靡なものを潜ませて。
 こくりと頷いた。
 そして、今に至る。

 ・
 ・
 ・

「ふたりとも、いやらしいんだね。とっても可愛らしいよ」

 ぼくは、足を開いてパンティの上から自分の大切な場所に指を這わせる二人に、優しく声をかけた。それだけで、ふたりとも身体を愛撫されたみたいにぶるっと身体を震わせる。幸せそうに笑みを浮かべる胡桃に、きゅっと目を瞑って快感に集中する苺。どちらもいやらしくて可愛い。

「私もいるのに構ってくれないのって、なんだか寂しいです」

 そんな事を言いつつ、舞ちゃんは目の前の特等席とも言えるテーブルに腰を下ろして、胡桃と苺を均等に見詰めている。
 口にした内容ほどには寂しくないようで、二人が顔を赤くして息を荒げている様子を、楽しそうに見ている。それは、もしかしたら料理番組とかを見て、自分が食べたことの無い料理を、出演者がおいしそうに食べるのを見て擬似的に満足する、そんな感覚なのかも知れない。

「その分、後でいろいろ見てもらおうと思ってるから、そっちを楽しみにしてて欲しいな。それとも・・・する?」

 ぼくとしては、その方が嬉しいんだけど。
 例え快感を与える事が出来なくても、触れ合う事に意味はあると思うから。
 それともただ単純に、ぼくが舞ちゃんに耽溺してるだけだからかも知れないけど。

「せっかくですから、たっぷり見せてもらいますね。今から楽しみです」

 うふ、なんて小さく笑う様子に、ぼくも笑みを返す。
 舞ちゃんの笑みが嬉しくて、ぼくは両手を双子の胸に回した。
 二人いっぺんに抱き寄せるみたいにして、服の上から胸を刺激する。
 薄着だから、胸の形や柔らかさ、硬くなった乳首がどこにあるかなど、文字通り手に取るように判る。二人とも、ブラは付けていないし。
 別に、ブラが必要ないほど小さいという意味じゃなくて、ぼくに密着するのに都合がいいからだと思う。少なくとも、ブラをつけないのは家の中だけみたいだし。

「や・・・やぁんっ」

 胡桃は硬くなった乳首をボタンみたいに押されると、拒否するみたいな悲鳴を上げた。でも、それが嫌じゃないって事は、なんとなく判ってた。

「・・・んっ」

 苺の乳首の付け根の位置を探るように指を動かすと、荒くなった息の合間に小さな喘ぎが混ざった。苺は切なそうに濡れた目でぼくを見上げて、こてんっと頭をぼくの肩に預けた。

「あん、苺ちゃんずるぃっ」

 胡桃が苺を非難して、負けじと自分からぼくに身体を寄せた。
 熱を持ったしなやかな身体が、ぼくに愛しそうに纏わり付く。

「はっ、はぁっ、お、おにいちゃん・・・」

 胡桃は熱に浮かされたような口調でぼくの名前を呼んで、子猫のように身体を擦り付けた。柔らかいほっぺたも、薄い胸も、濡れたあそこも、すべすべした太腿もだ。
 苺はにやりんぐ♪という人の悪そうな笑みを浮かべると、右手は自分の秘所を刺激しながら、左手でぼくの手を取った。ただぼくの手を持つというより、手の甲に上から手のひらを合わせて、ぼくの指と指の間に自分の指を絡ませるような、どこと無くいやらしい持ち方で、ぼくの指を自分の口元へ誘導する。

「あむ、んぅ・・・ちゅぴ」

 苺はぼくの指を、ぼくの性器に見立てて咥えた。ちゅうちゅうと吸いながら、大胆に舌を絡ませる。首を振りたてるように激しくしたり、舌の動きを見せるように口を大きく開いたり、酷く誘惑するような目つきでぼくを見上げたりと、直接的間接的に、ぼくを楽しませてくれている。

「もうっ、ママを放っておいてえっちな事をするなんて、いったいどんな放置ぷれいなのかしら?」

 どこか拗ねたような口調の声とともに、背後からぼくの首にするりと腕が絡みついた。同時に、ふにゅっとした感触の物体が、後頭部に押し当てられた。

「だって、母さんは昨日いっぱいしたから。今度は妹達の番だよ」

 ぼくの言葉に、母さんは「えー」とか不満そうな声を上げて、押し付けた胸でぼくの頭を上下に擦るような動きをした。何となく気持ちいいけど、両手は塞がってるから何もできない。

「じゃあ、気持ちよくしてあげるから、前に回って」

 母さんが思ってるのとは、違う方法かも知れないけど。

「うふ、だからゆうちゃん好き。大好き」
「はいはい」

 本当に嬉しそうな声の母さんに、少しだけおちゃらけたぼくの返事を返す。
 いそいそと舞ちゃんの横に立った母さんは、その身体にエプロンしか纏っていなかった。いや、夕食の準備をしてるときからずっとその格好だったのだけど、これからいやらしい悪戯をすると思っただけで、その格好のいやらしさが違って見えるのが不思議だった。さっきまでの食器を洗っている姿は、後ろから全部見えているのに、いやらしいというより綺麗・・・というか、『なんかいいかも』っていう感想が先にあったし。

「『淫夢にまどろみなさい』、母さん」

 ぼくは、母さんを支配する鍵言葉を口にした。
 瞬間、どこか幸せそうな茫とした表情で、母さんが動きを止めた。ぼくは、妹達の喘ぎ声をバックに、母さんに暗示を埋め込んだ。

― 2 ―

 母さんが裸エプロンのまま、ぼくの前に跪いた。
 息を荒げ、欲情に蕩けた笑みを浮かべて、ぼくを――ぼくの右足を見詰めている。
 数日絶食した人の前に食事を出したら、こんな風に餓えて欲望に満ちた目付きをするだろうか。
 今、母さんの目に映るぼくの右足は、普通の足じゃあない。暗示で、母さんに最高の快楽を与えてくれる、魔法の足に映っているはずだ。ピンク色の淡い光を放つ、身体のどこにどう触れても快感を感じる、そういう魔法の足に。
 だから、意識を戻してあげた後、母さんは食い入るように、切なげに、ぼくの右足を見詰めている。

「足の指・・・舐めて。舌を出して、指と指の間も全部舐めて。手は使っちゃだめだからね」

 母さんが舐めやすいように、左膝に乗せるようにして、右足を差し出した。

「は・・・はい・・・いただきます・・・」

 欲情に身体を焼かれながら、それでも行儀良く口にしてから、熱くてぬめぬめとした舌を伸ばした。母さんは言いつけをしっかりと守って、手は自分の膝の上に置いたままだ。異常な行為に興奮しているのか、まだ触れてもいないのに息を荒げて、とろんと蕩けたような焦点の合っていない目つきだ。

「んぅ、ちゅ、ちゅく、ちゅっ、んあっ、ああんっ!」

 舌で右足の親指を突くようにしてから、指の腹を舌の表面で舐め取るみたいに、ぞろりと舐め上げた。そこで暗示が働いたのか、まるで小さな絶頂に達したかのような声を上げて、身体をふるふると震わせる。エプロンを硬く尖った乳首が押し上げている事からも、物凄い快感を感じているだろうと思った。きっと、エプロンの裏側に隠されたあそこは、ぐちゃぐちゃに熱く蕩けてる、そう確信できるほどの甘い表情で、母さんは快感に耽っていた。
 ぼくは、妹達を弄ぶ手はそのままに、母さんの胸とエプロンの間に右足の爪先を滑り込ませた。足の指に、汗で湿った肌の感触と、ふにふにと柔らかく形を変える胸の感触が感じられた。ぐにぐにと指先を奥へ進めると、そこだけ硬い乳首へと到達する。とたんに、母さんの身体がビクンと跳ねた。暗示が生きている以上、ぼくにとっては足の爪先で触れている程度でも、母さんにとっては至上の快楽だ。

「ふあぁん、いいっ、いいよぉ。おっぱい、とけちゃうっ。きもち、よくってぇ、とけちゃううぅ!」

 母さんは身体を仰け反らせるようにして、身体をビクビクと震わせている。だらしなく開いた唇の端から、甘そうな唾液がつぅ、と胸の谷間に伝った。
 ぼくは、暫く母さんを愉しませたあとで、わざと足を胸から離して、「あんっ」とか不満そうに喘ぐ母さんに顔を向けた。

「エプロンを胸の間に寄せて、胸を晒してみて。そうしたら、もっとしてあげるから」
「は・・・はぁい・・・」

 母さんは膝を開いた状態で膝立ちの姿勢をとると、両手でエプロンを胸の間に寄せた。腰から下はエプロンの裾で隠されているのに、大きな胸だけが晒されるという格好になる訳だけど、重量が感じられる胸が重力に逆らっている様子は、生で見るだけの価値はあると思う。少し身動ぎしただけでぶるんと音が聞こえてきそうな胸なんて、普通は垂れるだけだと思うし。
 ぼくはご褒美に、硬くしこった乳首を足の親指と人差し指で挟んで、指の付け根で胸を圧迫してあげた。

「あっ!あんっ!」

 ぼくの足の裏側で、母さんの胸がむにむにと形を変える。それはこねるという表現が似合うほど、ぼくの思うように形を変える。ぼくはふと足を止めた。

「母さんの好きなように動いてみてよ。ぼくはこのまま、足を動かさないようにするから」
「あっ・・・ん、ゆうちゃんの、いじわるぅ・・・」

 恨めしげに濡れた目でぼくを見上げて、母さんは身体をうねうねと動かし始めた。ぼくの足の指は母さんの乳首を摘んだままだったから、母さんの動きは胸が足から離れないように、自然と小さなものになった。

「いいっ、すごくいいのっ!へ、へんになっちゃうのっ!」

 汗で身体をてらてらと光らせながら、母さんは踊るように身体を動かした。
 胸をぐいぐいと足の裏に押し付けたまま、まるで見えない相手と騎乗位でセックスしているみたいに腰をグラインドさせたり。
 胸を中心に上半身で円を描くような動きをしたり。
 胸ごとぼくの足を抱き締めて、感に堪えないといった表情で舌で舐め上げたり。
 まるで狂気に取り付かれたみたいに、快感を貪っている。
 ぼくの足の指に挟んだ乳首はこれ以上無いってほどに硬く大きく尖り、母さんがどれほど感じているかを示しているようだった。

「おばさま、すごくいやらしい顔をなさってますわ。私まで興奮しちゃいそう」

 舞ちゃんが、嬉しそうに微笑みながら、母さんの耳元で囁いた。
 毒を流し込むように。
 快楽で忘れていた羞恥を、思い出させるように。
 それは、どちらも同じ事なのだけど。
 蕩けた目は中空のどこかを茫と見詰めたまま、母さんは淫らな踊りを続ける。舞ちゃんの言葉で興奮が高まったのか、さっきよりもねちっこさが増していた。

「ああー、いぃ、いぃのぉ、はぁーっ」

 イキっぱなしになっているような、どこか単調で、頭の中が真っ白になったままのような喘ぎを漏らして、母さんの動きが緩慢になった。なんだか、このままずっと同じ状況が続きそうな気がして、そろそろ母さんには絶頂+失神という道を辿ってもらう事を決めた。なにしろ、今日のメインイベントの事もあるけど、実はさっきからちくちくと双子の視線がぼくを苛んでいたから。母さんにかまけて双子をこれ以上放置したら、どんな災厄がぼくに降りかかるのか、想像も出来ない。したくない。

「んっ、やはっ、やめ、やめないでぇ」

 ぼくが母さんの胸から足を離すと、母さんが泣きそうな声で懇願した。ぼくは安心させるように頷くと、足を別の場所へ向かわせた。エプロンの裾の向こう、開かれた脚の間、見えないけれど、恐らくは漏らしたみたいに愛液を分泌しまくっているであろう、母さんの秘所へ。
 ちゅく。
 エプロンの下から足を潜り込ませて、大体の位置に指を動かすと、熱く濡れた粘膜の感触と一緒に、そんな湿った粘液の音がした。

「はんっ!い、いいっ!!」

 母さんが自分の胸を抱き締めるような格好で、びくんっと身体を仰け反らせた。ボリュームのある胸が、エプロンを挟み込んだままでぶるんと揺れた。
 ぼくの足の親指は、母さんの秘裂を数回なぞってから、ぼくを待ち侘びてひくひくと震える膣に数センチほど挿入した。別の生き物みたいに、そこはぼくの足の親指を、きゅっ、きゅっと締め付ける。信じられない事に、それはぼくにとっても快感に感じられた。性器ほどの快感は無いものの、ぞくぞくと気持ちいい感覚があった。

「い、いくっ!いくっ!い、いっちゃうぅっ!!」

 一際大きな嬌声を上げて、母さんはくたりと全身を脱力させて、後ろに倒れ込んだ。舞ちゃんが危なげなく、テーブルにぶつかる前に抱きとめて、優しくカーペットの上に横たえた。母さんは、完全に意識が飛んでいるようで、全身を弛緩させたまま、幸せそうに見える笑みを浮かべている。

「楽しませて頂いたけど、メインディッシュはこれからですよね?」

 舞ちゃんが小首を傾げるようにして、どこか悪戯っぽい表情を浮かべた。そうすると、整った顔はますます人形を彷彿とさせるものになる。ぼくは、舞ちゃんの期待に応えるように、小さく頷いて見せた。

「それじゃあ、ぼくの部屋に行きましょうか」

 双子の妹を立たせて、ぼくは宣言した。母さんはまだ失神したままだったから、ぼくの上着を裸エプロンの上に被せた。部屋の中は暖かいし、多分、これで風邪はひかないと思う。
 母さんの痴態を見て興奮したのか、赤い顔でもじもじとしている双子と、酷く楽しそうに微笑む舞ちゃんを伴って、ぼくは居間を後にした。

― 3 ―

「『淫らに耽溺しなさい』」

 ぼくが舞ちゃんから教わった鍵言葉を唱えると、下着だけでベッドに腰掛けた二人は、そろってほわんとした虚ろな笑顔で、催眠状態に陥った。
 これから暗示を埋め込んで、ぼくが二人を支配する。
 喜びも。
 悲しみも。
 快感も。
 苦痛も。
 そして、考え方までも。
 それは、酷く興奮する行為だ。
 まともな世界に決別して、一歩踏み出したこの世界には、驚くほどの刺激に満ちていた。

 ・
 ・
 ・

 パチン。
 ぼくが指を鳴らすと、双子はゆっくりと目を開けた。けれど、その視界の中には、ぼくと舞ちゃんは入らない。見えても自分達以外はいないと、認識するようにしてある。

「あれ?なんでお兄ちゃんの部屋にいるんだっけ?あ、きゃっ」

 胡桃は自分が下着姿だと気が付いて、可愛らしい悲鳴を上げて縮こまった。苺は無表情に周りを見回していたけど、胡桃に目を留めると、次第にとある表情を浮かべた。それは、酷く淫蕩な笑み。舞ちゃんに染まってからだって、ぼくはここまでいやらしい笑みを苺が浮かべたのは、見た事が無い。

「ね、苺ちゃん。なんで私達こんな格好で・・・えと、なんだか目つきがコワいよ?・・・」
「ふふり・・・」

 ぎらぎらとした目で自分を見る苺に危険を感じて、胡桃は自分の身体を隠すように抱き締めたまま、ベッドの端へと身体をずらした。けれど、苺の目は獲物を追尾する肉食獣の目のように、胡桃から一瞬たりとも離れない。

 ――苺は胡桃を見ると、犯したくてたまらなくなる。どんなに胡桃が嫌がっても、胡桃を犯していやらしい声を上げさせたい、そんな気持ちでいっぱいになる――

 ぼくが苺に与えた暗示は、期待通りに働いているみたいだった。当然、二人とも舞ちゃんが来る前・・・いやらしい事が当たり前に受け入れられるようになる前に逆行させている。それなのに苺がこんな風に動いているのは、胡桃を犯したいという欲求が強すぎて、なぜ自分が胡桃を犯したいのか、疑問に思うだけの心の余裕が無いだけの話だろう。

「やっ、いちごちゃ・・・んっ!」

 壁際に追い詰められた胡桃の顔を優しく、けれど逃がさないという意思を持って両手で押さえて、苺は胡桃の唇を奪った。

「んーっ!!・・・んぅ、んっ!?」

 最初はくぐもった悲鳴を上げていた胡桃は、戸惑ったような声とともに少しずつ身体の力を抜いていった。いや、逃れたくても感じすぎて、身体が動かないんだろう。

 ――胡桃は潔癖症だから、女の子同士でえっちするなんて、絶対にだめだって思う。けど、胡桃の身体はえっちな身体だから、えっちな事をされるとすぐに感じちゃう。身体が敏感だから、すごく感じるんだ――

 胡桃に与えた暗示も、順調に働いているらしい。苦痛を感じているみたいに眉はぎゅっとしかめられているけれど、紅潮した肌は、既に十分に興奮している事をしめしてる。

「っ!」
「んふ。ん、れろ・・・ちゅぴ・・・あむ、んぅ・・・」

 胡桃が驚いた様子で、表情を強張らせた。それに対して、苺は笑みを深くしている。二人の唇さっきよりもぴったりと合わさり、気が付くと苺のピンク色の舌が胡桃の口の中を犯していた。胡桃の先ほどの驚いた様子は、口の中を苺に許してしまったからか、口の中が驚くほど気持ち良かったからか、どちらかだろう。

「ふたりとも、情熱的なキスをするのね」

 はぁ、と熱い吐息を漏らしながら、舞ちゃんが感心したように呟いた。ぼくは舞ちゃんの胸を服の内側で直接弄びながら、言葉の代わりに首筋にキスをした。
 ぼくは勉強机の椅子に、舞ちゃんはぼくの腿に小さなお尻を乗っけて、双子を良く見える位置で密着していた。ぼくのモノは物凄く硬くなっているのだけど、今は双子のショーを舞ちゃんに見せる時間だから、必死で我慢してるという状況。けど、舞ちゃんは「我慢しなくてもいいのに」と言わんばかりに、柔らかいお尻をもぞもぞとぼくのモノに当たる位置で動かしている。ある意味地獄だ。

「いちごちゃ・・・も、やめ・・・あんっ・・・な、なんでぇ・・・?」
「胡桃ちゃん、かわいい・・・」

 気が付くと、苺の愛撫は本格的なものになっていた。
 胡桃の純白のブラを上にずらし、ささやかな胸を剥き出しにして、舌で乳首をくすぐるように舐めている。舐め方もただ舐めているだけでなく、舌が乳首の付け根をぐるりとなぞったり、舌で乳首を押し潰したり、または舌で乳首の先端を触れるか触れないかという微妙なタッチで舐めたりと、相手に快感を与える事を目的とした、ひどくねちっこいものだった。
 胡桃も、暗示でそうなっているとは言え、面白いように敏感に反応している。

「やはっ!あっ、だめっ!んくっ!んっ!」

 否定と混乱の響きを伴った、抑えようとしても抑え切れない喘ぎ声。
 誰よりもお互いを知る双子なのに、どんなに胡桃が嫌がっているか判っても、苺は止まることが出来ない。それどころか、胡桃がそれでも感じてしまう様子に、どこか倒錯的な快感を覚えてすらいるようだった。酷薄な笑みを浮かべて、唇の端を舌でちろりと舐め上げる様子は、見ているぼくですらゾクゾクと来るモノがあったくらいだ。

「胡桃ちゃんが気持ちイイところ、全部判るよ。だって、双子だもの。だから、一回だけ、すごくイカせてあげる。でもね、次は絶対にイカせてあげない。・・・憶えておいて。イカせて欲しいときは、心の底から懇願するの」

 苺はどSな感じに囁くと、胡桃の脚の間に身体をするりと割り込ませて、お尻を抱え込んで持ち上げた。頭を下に、下半身を上にした不自然な姿勢は、プロレスのパイルドライバーとかいう技に似てる。それとも、キ○肉マンのキン○ドライバーだろうか。

「あっ!やっ!いやぁっ!」

 自分が恥ずかしい格好をさせられている事に気が付いて、胡桃の悲鳴が一段と大きくなる。でも、それは格好だけの問題じゃあなかったみたいだ。

「胡桃ちゃん、パンツがぐちょぐちょに濡れて、ぺったりと張り付いてるよ?」
「やっ!」

 普段からすると信じられないくらいに饒舌に、苺は言葉で胡桃を嬲った。胡桃が恥ずかしそうに悲鳴を上げるのを愉しそうに見下ろして、それでも胡桃が抵抗できないのをいい事に、最後の一枚のパンツを脱がした。床に放り投げられたパンツは、ぺちゃりと濡れた音を立てた。

「すっごいこと、してあげるね」

 苺は邪悪とも思えるような笑みを浮かべて、迷う事無く胡桃のお尻に顔を埋めた。胡桃が「ひゃうっ!!」と悲鳴を上げるのを無視して、お尻の穴を舌で舐める。

「やっ!やめっ!そ、きたなっ!いやぁっ!」

 足をばたばたとさせるものの、快楽に蕩けた胡桃の身体は、苺を撥ね退けるほどには力が入らない。それどころか、苺の左腕で片足を押さえられ、右手でクリトリスと秘所を同時に愛撫されるという攻撃を受け、胡桃は許容量を超えてしまった。

「ひぁっ!ふ、あっ!んぅっ!」

 もう、抵抗の様子すら見せず、胡桃は快楽に流された。きれぎれに喘ぎを漏らし、何かされるごとに面白いぐらいにビクッと反応する。溢れた愛液が自分の顔に垂れてきても、それが何なのかも気付かないくらいだ。

「そろそろ、イカせてあげるね」

 苺はニヤリと邪悪な笑みを浮かべて、舌先を尖らせた。胡桃に見せ付けるようにお尻の穴の周囲を丹念に舐めて、ヒクヒクと震えて力が抜けた頃合を見計らったように、舌が届くところまで、お尻の穴に突き入れた。同時に、痛々しいほどに大きく勃起したクリトリスを、包皮ごと摘む。膣の入り口にも、小指の先端が入っているみたいだ。

「ああっ!ひっ!アッ!あああああああああっ!!」

 胡桃が悲鳴を上げた。普通のセックスでは絶対に味わえないほどの快感に、汗や涎や涙で汚れた顔をぐしゃぐしゃに歪める。知らない人間が見たら、胡桃が死んでしまうと勘違いしてしまいそうな、凄い悲鳴だった。

「アッ!あくっ!ひんっ!はっああああっ!!」

 ガクガクと痙攣していた胡桃の身体が、突然電池が切れた機械みたいに動かなくなった。とうとう許容量を突破した快感に耐えられず、失神したんだろう。
 自分で掛けた暗示だけど、こんなに激しいイキっぷりを見せ付けられると、ほんの少しだけショックだった。罪悪感という訳じゃなくて、今までは可愛い妹と思っていたんだけど、それが本当は『女』なんだって判ったような、そんな認識の変化からくるショックのような気がした。

「んふ」

 苺はとろんとした目で微笑むと、胡桃の身体を優しくベッドに横たえた。胡桃の薄い胸が荒い呼吸とともに上下するのを、意識を無くしてもいやらしく見える胡桃の顔を、苺は飽きる事無く見詰めた。

― 4 ―

 暫くして、胡桃が意識を取り戻した。
 快感の残り火が身体の奥で燻っているようで、ベッドの上でぺたんと女の子座りをしながら、自分で自分の身体を抱き締めて、時々思い出したようにぶるっと身体を震わせている。笑み蕩けたような表情が、本当に胡桃かと疑ってしまうほどにいやらしい。

「胡桃ちゃん、気持ち良かったでしょう?」

 苺は胡桃の背後に回り込んで、胡桃を背後から抱き締めるようにして腰を下ろした。裸を密着させる・・・それだけで胡桃は快感を感じているようで、小さく「あ・・・んっ・・・」とか声を上げて、うっとりと目を閉じている。

「別に女の子同士でも・・・姉妹でも、気持ち良いよね?」
「っ!」

 苺の言葉に、胡桃がビクンっ!と身体を震わせた。
 絶頂の余韻で甘い気分に浸ってはいたけど、もともと暗示で女の子同士のセックスは良くないと、潔癖症気味に思い込まされていたのを無意識のうちに思い出したんだろう。
 胡桃は苺から離れようともがいたけど、苺の両手が胡桃の身体をがっちりと押さえて、離れるのを許しはしない。

「逃がして・・・あげない。胡桃ちゃんが素直になるまで、たっぷりと・・・いぢめて、あ・げ・る」

 胡桃が力無く逃れようとするのを押さえて、苺の両手が位置を変えた。
 右手は胡桃の秘所へ。
 左手は胡桃の右の乳房へ。
 暗示で強制的に増幅された快感が、一瞬で胡桃の理性を蕩かす寸前にまで胡桃を追い詰めた。身体に裏切られた胡桃の顔が、悲しみとも悦びともつかない表情に歪む。

「そっ・・・そんなとこっ、さわ、ちゃ・・・あっ、んぁっ!」

 苺が手のひらで胡桃のクリトリスの辺りに刺激を与えながら、中指を膣に少しだけ差し込んで、くちゅくちゅとかき回している。絶頂に達したすぐ後だからか、身体がさっきよりも敏感になっているみたいだった。喘ぎの声が高くなって、すぐにもイッてしまいそうに見える。

「ここまで・・・だね」
「えっ!?」

 苺は意地の悪い笑みを浮かべて、胡桃の身体をまさぐる手の動きを止めた。身体は密着させたままだから、微弱な快感は感じているはずなのだけど、それまでのような圧倒的な快感は、『おあずけ』の状態だ。

「素直におねだりしたら、続き、してあげる」

 苺は胡桃の耳たぶをはむはむと甘噛みしながら、人を堕落させる悪魔のように囁いた。それもまた胡桃にとっては快感として伝わり、胡桃は目をぎゅっと閉じて、快感に耐えているのか、それとも快感に集中しようとしているのか、どちらにも見える表情を浮かべた。
 苺はくすりと小さく笑って、胡桃の乳首をぴんっと弾いた。

「ひぅっ!」

 傍で見ていて痛みしか感じないんじゃないかってぐらいの強さだったのに、胡桃の上げた声は快感の悲鳴だった。あまり大きくない乳房に、快感で極限まで勃起したのか、驚くほど乳首が大きく見える。

「して欲しく・・・ないの?」

 苺は判っているのにわざと嬲るような口調で、ねっとりと囁いた。
 今度はさっき弾いた乳首の周辺を、触るか触らないかという微妙な力加減で、円を描くように刺激する。強い刺激の後の弱い刺激は、驚くほどあっさりと胡桃を追い詰めたみたいだった。「あっ、あっ、ん、ふっ」と切れ切れに喘ぎながら、まるで胸を突き出すみたいに、ひくん、ひくん、と上半身を震わせる。胡桃の半開きの口の端から、たらりと唾液が顎へと伝った。

「だ・・・だめ、なのぉ・・・」

 ここまで身体は出来上がっているのに、胡桃はまだ言葉で弱々しく抵抗する。多分、暗示が無かったらとっくに堕ちていただろう。

「そう、じゃあやめてあげる」

 にやりと微笑みながら、苺はまた手を止めた。今度は右手を秘所から足の付け根に近い太腿の位置へ、左手は胸の先端から乳房の下のあたりへ。
 それは、愛撫を連想させる位置で、しかも先ほどのような快感は与えられない、微妙な位置だ。そのままでは絶対にイケない。けど、快楽が途切れる事も無い。じりじりと、弱火でずっと炙られるように、刻一刻と胡桃の身体を追い詰めていく。胡桃のお腹が、ヒクっ、ヒクっと痙攣を始めた事からも、かなり切羽詰った状況なんじゃないかと思った。

「素直になったら、いっぱいいろんなこと、してあげるよ?硬くなった乳首、軽く噛みながら舌でくすぐったら、すごい気持ちよさそうだね。それに、おま○こ、舐められたら、どんなに感じちゃうんだろうね。さっきみたいに、お尻の穴を舐めてあげてもいいし。アレ、気持ちよかったでしょ?」
「ひ、うぁ・・・あ・・・んっ・・・」

 苺が耳元で囁く度に、胡桃の身体がビクっと震える。その快感を想像したのか、うねうねと身体をくねらせる。もう、胡桃の目は開かれていても、茫として何も見えていないようだった。

「素直になろう。そうしたら、いっぱいいっぱいイカせてあげる」

 そう囁いて、ダメ押しとばかりに、胡桃のクリトリスをピン、と指先で軽く弾いた。焦らされていた所に鋭い快感が与えられて、胡桃はとうとう陥落した。「ひっ!」と息を吸い込むような悲鳴をあげて、身体を仰け反らせてから、もう我慢できないという顔で、ぎゅっと目を閉じた。

「・・・し・・・て」

 蚊の鳴くような小さな声で、胡桃が呟いた。
 苺にいやらしい事を懇願することへの、羞恥と、悲しみと、ちょっとだけ安堵の混じった声で。
 でも、Sの入った苺は、当然そんな事では納得しなかった。

「あーあーあーきこえなーいっ」

 わざとらしい口調で、そんな風に言った。
 快楽が欲しいなら、ちゃんと懇願しなきゃと。
 どうしようも無いからではなくて、自分が欲しいから快感を求めるのだと。
 それは、自分のいやらしさを認めろという事だ。

「いや・・・らしいコト、いっぱい・・・いっぱい、してくださいっ。身体が熱いの!うずうずして、もっと気持ちよくなりたくて、たまらないのっ!苺ちゃん、おね、おねがいっ!」

 胡桃が泣きそうな声で、それでもはっきりと、自分の敗北の言葉を口にした。
 暗示で与えられた、潔癖であろうとする心と、快楽に敏感である身体とで、身体が勝利した瞬間だった。

「胡桃ちゃんの泣きそうな顔、すごく可愛らしくて、すごくいやらしいのね。とても素敵」

 ぼくの膝の上で、舞ちゃんが嬉しそうに言った。それだけで、ぼくの心に幸せが広がる。

「まだ始まったばかりだよ。だから、もっと楽しんでね」

 ぼくは後ろから舞ちゃんを抱き締めた。
 そう、夜はまだ始まったばかりだ。

< つづく >

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