うらぷら 第3話

第3話

 ギィィィィィ・・・・・

 戸の軋む音が部屋に響く。
 照明が点いていない部屋の中は薄暗く、突然の光に水乃は眼を細める。
 そこには緑色の髪の毛をした男とその後ろに控える巫女装束に似た服を着た少女の姿があった。

「緑くん・・・?」

 水乃はつぶやく。
 それに答えるように緑色の少年は自身の後ろに控えていた少女を部屋に入れ、戸を閉めた。
 それでこの空間は外界から隔離される。
 戸には別に鍵もかかっていないのだが、裏緑の能力で水乃はその戸を開けることが出来なくなっていた。
 暗い中、水乃は目の前の少女を見る。
 そして息を呑んだ。

「たま・・きちゃん?」

 恐る恐る声をかける。
 外れていて欲しいと思いながら・・・

「・・・・はい」

 弱々しい声。
 水乃の目の前にいる少女は友人の妹だった。
 そう、緑松にとっては親友というべき人の妹だ。
 東野魂希――彼女もまた裏緑により囚われたのだった。

「ああ・・・・」

 水乃は嘆息し、沈痛な表情をする。
 そんな水乃を魂希はじっと眺めていた。

「水乃さん・・・どうなってしまうんですか? 私達」

 どこか不安そうな表情でそろそろと水乃に近づく魂希。
 そんな魂希の様子に水乃は魂希を側へ受け入れると、不安にさせないようにきゅっと抱きしめた。
 魂希も水乃に縋るように自分から抱きつく。上目遣いに水乃を見上げていた。

「大丈夫。大丈夫よ。きっと誰かが、きっと誰かが助けてくれる」

 魂希を安心させるように、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
 その時、ぎゅっと抱きしめた腕の中で魂希の体がビクンと震えた。

「魂希ちゃん?」

 腕の力を緩めて魂希を見る。魂希は体をガクガクと震わせて、呼吸をハアハアと乱していた。
 その瞳は茫洋として力がなく、その口から漏れ出す吐息は甘く、熱いものへと変わっていた。

「魂希ちゃん、魂希ちゃん!? どうしたの!?」
「ぁ・・・・・みず・・・の・・・・さん・・・・変・・・なんです・・・・体が・・・・なん・・・・か・・・うずく・・・・」
「魂希ちゃん! 魂希ちゃん!!」

 叫ぶ水乃の声を聞き流し、ため息のような声が漏らす。その声には悩ましげでねっとりと熱いものが混じっていた。
 その腕が自らの股間へと伸びていく。服の上から触っているというのにそこはくちゅという水っぽい音を立てる。ビクンと魂希の体が震えた。

「魂希ちゃん、だめよ、そんなことしちゃ。しっかりして!!」
「あっ・・・はぁっ・・・・ふっ・・・・っ」

 懸命に叱咤する水乃の腕の中で魂希は悶える。ブルルッと体が震え、僅かに開かれた口からは熱い呼吸が漏れ続けていく。
 ぎゅっと目を瞑り、体の中から湧き上がる衝動に翻弄される。

「あぁ・・・・な・・・・なん・・・・でぇ・・・・・」

 蚊の泣くような声が魂希の口から漏れる。その顔には戸惑い、そして渇望がありありと浮かんでいた。
 片手がするりと胸の上へと移動する。そして、快感を貪ろうと服の上から胸を揉み始めた。

「魂希ちゃん、しっかり!!」
「あ・・・・あ!! ・・・・あ・・・・・ああ・・・・・はぁ!」

 口をパクパクと動かし、虚空を見る。その口からつうっと涎が零れた。徐々に指の動きが激しくなるが、魂希の表情は苦悶の色が強くなっていく。

「魂希ちゃん!!!」
「どうして・・・・、どうして・・・・・こんなぁ・・・・」

 水乃の叫びが部屋中にむなしく響く。
 その中で魂希の指が激しさを増す。股間から漏れている液体はじゅぶじゅぶと泡立ち、白く濁っていった。
 ずぶずぶと魂希の指が動く。その動きは徐々に速くなり、乱暴さを増していった。

「なんで・・・・・どうしてぇ・・・・・」
「魂希ちゃん。なにしてるの!」

 水乃の言葉を無視して魂希は快感を貪っていく。ビクッビクッと震える魂希。ハァハァと荒い呼気を吐き、なおも指の動きを速めていく。
 敏感な所を刺激する度に魂希の体が大きく震える。汗、涎、涙、そして愛液が当たりに飛び散り、凄惨な光景を形作っていた。

「魂希ちゃん!!」

 水乃は叫ぶ。しかし、魂希が水乃の声に耳を傾けることはなく、延々と指を動かすだけだった。

「イケない・・・・・イケないの・・・・・」

 水を掻き回す音が当たりに響く。
 その中でぽつりと魂希が声を漏らし、それをきっかけに欲望が奔流となって溢れ出た。

「イケない、イケない、イケない、イケないイケないイケないイケないイケないイケないイケない、なんでイケないのーーーーーーーっ!!!」
「魂希ちゃん、やめなさい!!」

 ハッと気づいた水乃が魂希の腕を押さえる。ズボンの一点がピンク色に染まっていた。
 そんな魂希を水乃はぎゅっと抱きしめる。抱きしめられた腕の中で魂希は獣のような唸り声をあげた。ドンと水乃を突き飛ばし、履いているズボンを引きちぎると再びその指を秘裂へと伸ばす。狂ったように自慰に耽るその姿に水乃は呆然としていた。
 その激しい動きで切ったのか、擦ったのか秘裂に付着した泡はピンク色に染まり、びくっびくっと体が震える。

「何でイケないのぉーーーーっ!! イカせて、イカせて、イカせてよぉーーーーっ!!」
「魂希ちゃん・・・・・」
『ほっといていいのか?』

 不意に水乃の頭の中に声が響く。水乃はその声に周囲を探すが人の気配はない。

「緑君!? あなた魂希ちゃんになにしたの!!」
『魂希は今、どうしてもイクことができない。だが、お前がやってやればイクことができる。このまま放っておけば遠からずあいつは発狂するぜ』

 水乃はギリと歯を噛みしめる。そして、目の前の中空を睨んだ。

「イケないイケないイケないイケないイケないイケないイケない・・・・・・・・・」

 しんとした空間。月明かり、星明かりのみが照らし出す部屋の中心で今も魂希は自慰を続ける。口はぶつぶつと言葉を呟き、すり切れた秘裂から滲み出た血液が股間、そして手を赤く染めていた。
 そんな魂希の様子に水乃はぎゅっと目を瞑る。しっかりと握りしめられた掌からは血が滲み始めていた。
 ぎりと歯を食いしばり、意を決したように目を開く。
 その瞳に悲しみの色を滲ませて、水乃は魂希へと近づいた。

「魂希ちゃん・・・・・」

 魂希の姿をその眼に捉えて、悲しげに零す。そして、側にしゃがみこむと魂希の両手を押さえた。

「あ゛ーーーーーーーーーーっ!! う゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 獣のような唸り声を上げて魂希が暴れる。その華奢な体のどこから出てくるのか分からない力に振り回されながらも、水乃はマウントポジションを取り、ありったけの力で魂希を押さえ込む。そして、両手両足を使って、魂希の体を押さえ込みながら、唇を奪った。

「ん゛ん゛ん゛ん゛・・・・・・ん・・・・・・・ん・・・・・・・」

 水乃を弾き飛ばそうと暴れていた魂希の体から徐々に力が抜けていく。
 何かに取り憑かれていたような貌が安らかなものへと変わっていき、眼がとろんととろけていった。
 水乃は魂希の体から力が抜けきったのを確認すると、あわされた唇を放す。

「っはぁ・・・・・・・」

 魂希の口から熱い吐息が漏れる。

「ごめんね・・・・・魂希ちゃん・・・・ごめんね・・・・」

 水乃は悲しげに言葉を漏らすと、水乃は魂希の体を抱き起こし、後ろから包み込むように抱きしめる。
 片手は服の上から胸を揉み、片手は引き裂かれたズボンの中へと手を差し込み、直接魂希の秘裂を刺激した。

「っぁ・・・・・」

 水乃の指の動きに併せて、ビクンビクンと魂希の体が震える。ゾクゾクと湧き上がってくる快感に魂希は熱い吐息を漏らし、茫然と中空を見上げていた。

「魂希ちゃん・・・・・」

 つつっと舌を伸ばして魂希の首筋を舐める。
 震える魂希の体。その震え、その快感を甘受するように魂希は水乃へと体を預けていく。
 水乃は罪悪感に身を震わせながらも魂希の体を愛撫していった。
 擦り切れてしまった秘所が痛まないように避けて、クリトリスと胸を重点的に責める。
 勃起し始めた乳首とクリトリスをころころと転がし、刺激を与えていく。ビクビクと魂希の体が震えた。

「あぁぁぁっ!!」

 水乃に寄りかかる様に体を反らし、快感に声を上げる。完全に脱力して水乃に体を預ける魂希の肌を撫でさする。
 すっと水乃の手が魂希の肌を走り、その直後にその場所がブルルッと震えた。
 水乃の体の中で魂希ははあーっはあーっと呼吸を速くする。大きく開かれた瞳は中空を彷徨い小刻みに揺れている。

「あ、あ、あ、あ、あ!」

 ゾクゾクと背を反らせて体を震わせる。大きく開かれた口から切羽詰まって余裕のない声が零れていった。
 傷に触れないよう、それでいて魂希に快感を与えるように、細心の注意を払って魂希の体へ触れていく。
 水乃の手が触れた部分から溢れてくる快感に魂希の呼吸の間隔が短くなっていく。過呼吸気味に速くなる呼吸は水乃に魂希の限界が近いことを教えた。

「魂希ちゃん・・・・・ごめんっ」

 水乃はぎゅっと目を瞑る。そして、魂希の耳を軽く噛み、乳首とクリトリスをキュッとひねった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 魂希が大きく背を反らして硬直する。

「きもち・・・・・いい・・・・・・」

 ぼそりと言葉を漏らすと魂希の全身から力が抜ける。はあはあと呼吸を速くし、無自覚に呼吸を整えていたが、やがて呼吸は安らかになり、すうすうと寝息を立て始めた。
 安らかなその貌とは裏腹にその服はボロボロでその両手、そして股間は血に染まっていた。

「・・・・・・」

 そんな魂希をきゅっと抱きしめ、水乃は顔を魂希の背中に押しつけた。怒り、そして悲しみを押し隠すように。

「ごめん・・・・・ごめん・・・・・なさい・・・・・魂希ちゃん・・・・・」

 水乃の口からぎりと歯を食いしばる音が漏れる。水乃は血の滲む手を再び握りしめ、魂希の背中で嗚咽を漏らし続けた。

「・・・・・く」

 その光景ににやりと口の端を持ち上がる。
 目の前にはモニター。その画面には魂希と水乃が映っていた。
 ここは三四郎の家の一室。セキュリティを一手に統括している部屋だ。その部屋で俺は水乃達の様子をみていた。

 コンコン。

 三四郎か?
 というか、今この家にノックするヤツが三四郎しか居ない。

「入れ」

 俺の言葉にガチャリとドアが開き、三四郎が入ってくる。
 手に下がったビニール袋からなにかの箱を取り出し、俺に差し出した。
 なんだ? まさか・・・・
 受け取ったモノを見て、にやりと口が動くのを自覚する。
 見つかったのか。
 これで・・・・・・・・

「おはよう」
「おはよう」

 朝。そこら中に生徒達の挨拶が飛び交う。
 その中を一人、俺は歩いていた。
 辺りを奇異の目がよってくる。それはいつものことだ。
 気にすることなく校舎への道を歩いていく。その視線の先に見覚えのある背中を見つけた。
 骨にくるまれたその背中は心なしか寂しく、高いはずのその体躯が小さく見えた。

「東野」

 俺の言葉に東野は振り向く。その貌は酷い物だった。
 瞼は重く、半分しか眼が開いていない。その下には隈ができ、東野の徹夜具合を示していた。

「緑松か・・・・・おま・・・いや、いい」

 東野は何かを言いかけて、言葉を打ち切る。
 ふるふると力無く首を振ると、再び校舎へと進み出した。
 何のことだかよく分かっているが、知らない振りをする。

「何隠してんだよ。途中で止められると余計に気になるだろ。教えろよ」

 口でそう言い、テレパシーを使って人気のない方向へと誘導する。
 魂希のことにしろなんにしろ、ここまで落ち込んでいる姿から不意に元気になったら誰だって怪しむ。それにこいつにはやってもらう役割があるのだ。それはこんな状況では果たせない。
 朱美のヤツが来る前に東野を普段の調子に戻さなければならない。
 辺りをきょろきょろと見渡しながら人気のない所へと東野を連れ込んだ。
 今から処理をするとなると一限に遅れてしまうが、幸いにして緑松は遅刻・欠席の常習犯だ。髪が緑色に戻っているのだから緑松の両親もそれは予想しているだろう。

「ここなら誰にも聞かれないだろ。一体どうしたんだよ?」
「ああ・・・・・」

 それでも東野はキョロキョロと辺りを見回している。
 普段の様子を見ていると忘れてしまうが、東野は日本有数の権力者の息子だったのだ。
 どこにカメラやら雑誌の記者やらがいるかわからない。騒動になることはできるだけ避けるべきなのだろう。
 辺りに誰もいないことを確認したのか、東野は俺の耳に口を近づけ、小さく、それでいて震える声で俺に伝えた。

「魂希が・・・・昨日から帰って来ないんだ」

 そんなことは知っている。なぜなら、魂希を拐かしているのは俺なんだから。
 わざとらしく驚いて、東野の顔を見つめてやる。

「それって・・・・」

 意図して言葉を濁す。それで通じるだろう。
 俺の意図した通りに東野の顔が青くなる。その可能性は既に何度も考えたことだろう。見ると東野はガチガチと歯をかちあわせ、ガタガタと体を震わせていた。
 そんな東野を横目で見ながら力を確認する。
 これで二度目。要領もつかめてきた。

「東野」

 俺の声に振り向いた東野に水乃の両親と同じように組み上げたプログラムを刻みつけた。
 もちろん、今回のキーワードは魂希だ。

「なんだ? 緑松」
「それで、魂希ちゃんはどうするんだ?」
「魂希? 誰だそりゃ?」
「ああ、いや、なんでもない」

 俺の問いに問い返してくる
 ちゃんと力が発動しているのを確認した俺はその話題を打ち切った。

「それよりな。これを朱美に渡して欲しいんだ」

 昨日、三四郎に渡されたパッケージを渡す。
 それを見て東野の目が見開かれた。さすがに東野も知っていたんだろう。
 それはかつて緑松と水乃に降りかかった事件。緑松が三四郎と知り合うことになった事件の元凶。
 『自殺ゲーム』と呼ばれた占いゲームだ。
 正確に言うならば、それをベースにプログラムの一部分を俺が書き換えたモノだ。
 驚愕のまま東野は俺を見る。

「なんだよこれ? こんなモノをあの死語使い女に渡してどうすんだ?」
「どうするって? プレイしてもらうに決まってるだろ?」

 俺の返答に東野の表情が変わる。

「これって、あの『自殺ゲーム』だろ!? お前は死語使い女を殺す気か!?」
「なに言ってんだよ、東野。よく見ろ、『これはただの占いゲーム』だろ?」

 ジッと東野を見て言う。その裏でテレパシーで東野の認識を書き換えてやった。

「あ・・・・・・ああ・・・・・そうだよな。これ『占いゲーム』だよな・・・・・あれ? 俺、何言ってんだろ?」
「ああ、まずはこれからだとでも言って渡してくれ。あいつ、俺に妙な対抗意識持ってるから、俺が渡しても素直にやってくれないんだよ」
「あー、そうかもな。分かった。まかしとけ」

 そう言って、東野にパッケージを渡し、二人で校舎へと向かう。

 その背中を緑松の聞き覚えがある声が聞こえた。

「ひーほー! まる男ーっ! ホネ男ーっ!」」

 振り向くと黒い長髪。前髪には黄色いメッシュが入っている一人の女の姿があった。
 俺が振り向いたのを確認してその女はにっこりと笑う。
 その笑顔に俺はぎこちなく笑顔を返す。緑松のヤツもいつも返していた貌だ。多分ばれないだろう。

「や、やあ。朱美」
「おう、死語使い女」
「おっはよー。まる男にホネ男。元気してた?」

 大きく手を振り上げてバンと背中を叩く。
 痛え。
 背中から伝わる衝撃と痛みに顔を顰めた。

「いってーなぁ。いい加減にそれやめろよなぁ」
「これくらいでなによー。ただの親愛の表現じゃない」
「はいはい。さっさといくぞ」

 俺の言葉にむーっと眉を寄せて頬を膨らませる。怖くも何ともないその表情を無視して、校舎へと歩き始めた。

「おい、死語使い女」

 歩いていく俺の背後で東野が朱美に声をかける。

「ん? なに? ホネ男」
「ほら、まずこれからやって見ろ」
「なにこれ?」
「占いゲームだよ。名前と生年月日、血液型、干支、星座を入れれば、その日の運勢を占ってくれる」
「でも、うち、ゲーム機ないよ」
「大丈夫だよ、パソコンにインストールすればいいんだから。それくらいわかるだろ?」
「まあ・・・・・」
「ほら、やってみろよ。おもしろいからさ」
「ん・・・・・わかった」

 がさごそとパッケージを鞄へと入れる音。
 耳に届くその音に口元が緩んだ。

 その夜、朱美は自室で一人、格闘していた。
 相手はパソコンと朝に渡されたパッケージ。

「えーっと、どうすればいいんだって?」

 ペラペラとパッケージに入っていた説明書を捲る。さっき三度も通して熟読したその説明書の一番最初へと戻った。

「インストール・・・・だっけ? とりあえずCDを入れる・・・・・これでいいのかな?」

 ドライブにCDを挿入し数秒。オートランでCDが読み込まれ、ランチャーメニューが画面に表示される。

「えっと・・・・インストール。次へ、次へ、インストール開始」

 カチカチとマウスをクリックしてインストールをする。ただの占いゲームにしては使用するハードディスクの領域が多いのだが、これまでゲームというモノに殆ど触れてこなかった朱美には分からない。
 徐々に進捗度が進んでいき、やがてインストールが終了する。
 そして、ソフトが自動起動し、画面が切り替わる。画面におかっぱの女性の画像が現れた。

『占いの館へようこそ。私が店主の陽子よ』
「わっ、しゃべったっ」

 スピーカーから響き渡る合成音声に朱美は驚いた。今までゲームらしいゲームなんてやったことのない朱美には全てが初めてで新鮮だった。

『この館を利用する方はまず指輪をつけてね。これで利用者登録をしているから』
「指輪・・・・指輪・・・・・これかな?」

 パッケージに付属している指輪。それを朱美は指にはめ込み、画面へと向かう。

『じゃあ、名前、生年月日、血液型を入力してね』

 言われるままに朱美は入力していく。完了のボタンを押すと画面が切り替わった。

『はい、お疲れ様。これでユーザー登録は終了ね。それじゃあ占いを始めるわよ。何が知りたい?』

 ぱっと表示される選択肢。朱美はマウスを動かしていった。

 今頃、朱美はアレをやっている頃か?
 自然と顔がにやける。
 アレの効果は絶大だ。近い内に朱美は俺のモノになる。
 だが、それもしばらくの後。それまではこの二人で楽しませてもらおう。俺の目的のためにな。

「一体何のつもりよ。いい加減にしなさいよ緑君」

 俺の視線の先で抱き合っている二人の少女。そのうちの一人、水乃は俺に敵意をぶつけていた。

「緑君・・・・・ね」

 その言葉に笑いが込み上げる。
 そのバカにしたようなその態度が頭にきたのか、水乃は声を荒げた。

「何がおかしいのよ!」
「何がって・・・・・俺をあんなヤツと同じに思っているのが」
「何よそれ! 自分は緑松じゃない? 双子だとでも言うの!? そんな緑色どこにでもいるわけないでしょ!」

 それはその通りだ。
 染めてたりするんじゃなければこんな緑色。世界中で十二人しかいない。
 だが、俺は緑松とは違うんだよ。

「双子でもない。確かに俺は緑松だが、緑松なんかじゃないんだよ。水乃」
「何を訳の分からないこと言ってるの緑君!! いい加減にしなさいよね!!」

 俺の言葉に噛みつく水乃。何も知らないその姿は滑稽でしかない。

「わかりやすく言えば・・・・二重人格か。俺の名は裏緑。もう一人の緑松だ」
「二重人格? この期に及んで何を言い出すかと思えば!」
「信じる信じないは水乃の勝手だ。水乃が信じようが信じまいが俺には関係ないからな」

 水乃はぐっと言葉に詰まるもギリと歯をならし、俺をにらむ。
 水乃の頭の中では俺の言葉を信じるか否か、情報の取捨選択が行われていた。それをついと俺の言葉を信じる方へと能力で思考を誘導してやる。

「仮にそれを信じたとして、緑君はどうしたのよ?」
「緑松はもういない」
「え・・・・・・?」
「今まで俺を閉じこめてくれた礼に緑松は消してやった」
「な・・・・・・」

 水乃の顔が固まる。眼も口も開かれたまま徐々に顔が青ざめていく。やがて、蒼白になった顔で水乃は体を震わせていた。
 それは嘘だ。本当は緑松は俺の中にいる。俺を通して外のことを見聞きしている。水乃や魂希達を犯している時に響いてくるあいつの声は俺の楽しみの一つだ。だが、そんなことを教える必要なんてどこにもない。
 もっともっと。あいつに復讐をしてやる。ずっと俺を閉じこめていたあいつに。

「消えた・・・・・緑君が・・・・・・消えた・・・・・」

 ガタガタと体を震わせる水乃。

「ああ、消してやった」
「どうして!!! どうして緑君が消えなくちゃいけないのよ!!」

 怒りに顔を染めて、水乃は俺にくってかかる。
 何でだって? そんなの決まっている。

「面白いからさ」
「そんな・・・・・そんな理由で・・・・・そんな理由で私達にもこんな事をしているの!!」
「ああそうだ」

 あいつが苦しむ姿を見るのが面白い。今まで俺をずっと閉じこめてきたあいつを苦しめてやるのが心地いい。
 俺はあいつが好きだった全てのモノを消してやる。あいつが大切にしていたモノを全てなくしてやる。結果俺がどうなろうとも、そんなことはどうでもいい。あいつへの復讐が俺の全てだ。

「・・・・・・許さない」

 水乃の口からぼそりと声が零れる。
 その声は小さいながらも激しい怒気を孕み、俺を睨むその瞳は涙で赤くなりながらも鋭い敵意を向けていた。

「私はあんたを絶対に許さない!!」
「許さない・・・・・ねぇ。そんな状態で何ができるっていうんだ?」

 にやにやと笑いながら水乃に一歩近づく。
 ビクンと水乃の体が僅かに震えるのをみて、俺の中で緑松が騒ぐ。その感覚に口元がにやりとほころぶのを抑えられない。
 焦るなよ、緑松。お楽しみはこれからだぜ。
 ちらりと水乃の横で震えている魂希を見る。
 その視線に魂希はひっと呻き、水乃は魂希をかばうように前へ出た。
 そんなことをしても無駄だって言うのに。
 水乃の後ろで魂希は再びひっと呻き声を上げて体を震わせる。

「魂希ちゃん!!」

 魂希の様子に気づき、振り向いた水乃に向かって能力を使う。ビクンと水乃の体も大きく震え、痙攣しながら床へと崩れ落ちた。

「あっ・・・・・くぅ・・・・・・・」

 はっはっと小刻みな呼吸。それに合わせるように体も小刻みに痙攣している。
 何か大事なモノでも隠すかのように自らの体を抱きしめ、その場で小さく丸くなる。ぎゅっと目を閉じ、内から込み上げてくるその衝動をじっと堪える。
 時折はぁっと大きく甘い吐息を漏らす。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・・」

 そんな水乃の後ろでは魂希が声を漏らし続けている。
 その体は声に呼応するようにビクッビクッと震え、込み上げてくる快楽に翻弄されていた。

「水乃、魂希を放っておいていいのか? 昨日と同じにしてある。放っておけばどうなるかな?」

 俺の言葉に水乃はビクンと体を震わせる。そして、ギロリと壮絶な瞳で睨み、ギリと歯を鳴らすと魂希の方へと向き直る。

「魂希ちゃんっ・・・・しっかりっ・・・・ふぅっ・・・・・してぇ」

 水乃は魂希に声をかける。しかし、息も絶え絶え、甘い吐息を漏らしながらでは説得力なんてない。
 それに今回は魂希だけではない。

「くぅっ・・・・ふぅっ・・・・・ああっ!」

 ビクン。
 水乃の体が大きく震える。
 それで力が抜けたのか、ガクンと床に転がる水乃。
 そんな水乃を見下ろしてやる。

「どうした、水乃? 苦しそうじゃないか?」
「あ・・・んた・・・はぁ・・なに・・ぅ・・した・・・・・の」

 体の内から湧き起こってくる衝動に必死に堪えて、こっちを睨む。
 予想はついているくせに。

「分かっているんだろう? お前も魂希と同じだよ。お前一人じゃイク事ができない・・・・・・イカせてやろうか」

 その問いに睨むことで答えた水乃はビクンビクンと体を震わせながら、魂希へと覆い被さる。それだけでも快感が走るのか、二人してビクンと体を震わせた。

「ハァ・・・・・ぅ・・・・・・くぅ・・・・・・魂希・・・・ちゃん」

 ビクビクと震えながら、魂希を気遣う水乃。しかし、魂希は水乃の事なんて気にしていなかった。

「あ・・・・・・ぅぁっ・・・・・・・・・・・くぅふ・・・・ひぅっ・・・もっと・・・・もっとぉ・・・・」

 水乃の体を抱きしめて、自らの体を擦りつける。自らの快楽を求めて。
 しかし、それは魂希だけでなく水乃にも快楽を与えることになる。

「ひっ・・・・・・ぅっ・・・・あぅっ・・・・たまっ・・・・・あぅぅっ! やめっ・・・・・」

 敏感になっている肌を走る刺激。その刺激に水乃は体を震わせる。そして、密着しているのでその震えは新たな刺激を生み出し、更に刺激を走らせる。
 水乃は自らの意思に関係なくどんどん快楽を送り続けられていた。

「イイッ!! 気持ちいいっ!! もっと・・・・・もっともっともっともっと!! もっと気持ちよくしてぇ!!」
「だっ・・・・・・たまきちゃっ・・・・・・ひぁぅっ・・・だめっ・・・・・」

 溢れ出す快感を押し止めるため、水乃は魂希の体を引き離そうとする。
 しかし、体に快感が走るたびに力が抜ける水乃と、イクために必死に快楽を貪る魂希。両者の勢い、そして力は違い、自然、水乃は魂希に追いつめられていく。

「だ・・・・・はぁっ・・・・・・・くぅ・・・・・・・やめ・・・・・あむぅっ」

 水乃の唇が魂希に塞がれる。がっちりと水乃の体を固定した魂希は快楽を水乃の体と共に貪っていく。
 舌が伸ばされているのか、時折僅かに開かれる隙間からは熱っぽい吐息とぴちゃぴちゃという水っぽい音が漏れ出す。
 それでも水乃は瞳をぎゅっと閉じて湧き出る快楽を耐えていた。
 そんな水乃の様子にはお構いなく魂希は快楽を求める。
 にち。
 そんな音が聞こえたかと思うと、水乃の瞳が驚愕に開かれた。
 ビクビクと水乃の体が震える。

「ああっ・・・・あぁぁぁっ!!」
「いいいいいいっ!!!」

 魂希はお互いの膣を合わせて擦りあげる。その刺激に魂希は震え、水乃から我慢を削り取っていく。
 体を走っていく快感に翻弄され、水乃は頭を振り回す。
 魂希が水乃の体にのしかかり、互いに露わになっている秘部を擦りつける様は魂希が水乃を犯しているかのようだ。

「あっ!!・・・・・だっ・・・・・・・やぁっ・・・・・・・くぅっ・・・・・・・あぁぁぁぁっ!!」
「ひぅっ!! あっ! ふぅっ!! あぁぁぁっ!!!」

 水乃の口から切羽詰まった声が零れる。ビクビクと震える二人の体。
 魂希は大きく体を震わせ、そして深く体を擦りつけた。

「あっ! あっ! あっ! あっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 大きく体を震わせた後、ガクンと脱力する水乃。
 閉じられた瞼の端に涙が溢れ、そして開かれた口からは涎が少し垂れていた。
 そんな水乃の上に魂希は崩れ落ちる。その瞬間、走った刺激に二人の体がビクンと震えた。

「どうした? そんなによかったか?」
「・・・・・っ!!」

 俺の言葉に水乃の体が強ばる。

「挿れられてもいないのにイッちまうなんてな。飛んだ淫乱だな水乃」
「・・・・・・あんたが・・・・・やったんでしょ・・・・・・」
「我慢すればよかっただろ? イッたっていうことは水乃が我慢しきれなかったんだろ」
「っ・・・・・」

 水乃は息を呑む。

「そうさ、お前が我慢すれば済む問題だったんだよ。我慢すればお前はイカずにすんだんだ」

 ギリ。
 水乃の歯を噛みしめる音が響いてくる。
 そして、その数瞬後ひくっひくっという音が耳に届いた。

「なんだ? 泣いているのか? コンピューターガールもただの女という訳か」
「あんたっ・・・・・絶対許さない・・・・・・絶対に・・・・このままじゃ済まないわよ」

 涙を流しながらもものすごい眼光を向けてくる。

「きっと、きっと、高屋敷さんがお前を消して緑君を助け出してくれるんだからっ」

 くく。
 信じ切っている水乃が滑稽すぎて、笑いそうになるのを我慢する。
 果たして、朱美は本当に助けに来るのかね・・・・・。
 その水乃の信頼が崩れ落ちる様を見るのが今から楽しみだ。

『とっても気持ちいいでしょ? 朱美』
「はい・・・・・凄く気持ちいい・・・・・・」
『これから私が言うことはあなたの心の奥底に刻みつけられて、その通りになるわ。普段は覚えていないけれど絶対にそうなる』
「はい・・・・・ぜったいにそうなります・・・・」
『あなたは綿貫緑松という人に超能力を使うことができなくなる。そして、『朱美の扉』という言葉を聞くといつでもこの気持ちいい状態へと落ちていくわ』
「緑松・・・・まる男・・・・・・・朱美の扉・・・・・・気持ちいい・・・・わかりました・・・・・」
『とっても気持ちいいから、あなたは望んでこの状態へと落ちていくの。わかった?』
「気持ちいい・・・・望んで・・・・・・おちていく・・・・・・」

 暗い部屋の中、朱美は照明もつけず、占いゲームを行っていた。
 しかし、その顔に表情はなく、茫然としたままぽつりぽつりと言葉を漏らし続けていた。

< つづく >

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