魔王と聖女と三王女 第三話

第三話

 魔王城の一角に、我の居室がある。寝台と戸棚と机があるだけの、小さな部屋だ。すべてが黒い石材で作られ、寝台の敷布までもが闇の色であることを除けば、ごく普通の人間が使う部屋と大差もないだろう。我は、寝台から身を起こすと、脱ぎ捨てた装束を着込む。外套を羽織ると、寝台の上に横たわる全裸の娘に声をかける。

「起きよ。エレノア」

 我が声を聞いて、まどろんでいたエレノアがぱちりと目を覚ました。エレノアは、我に身体を求め、我に犯され、気を失い、また目覚めては身体を求める、ということを繰り返していた。数知れぬ情交によって注ぎ込まれた精液とあふれ出した愛液がまじりあったものが、敷布に滴り、しみを作っている。まるで、虚無の穴を我の精で埋め合わせようとしているかのようだった。

「ふぁ……おはようございます。お父様」

 エレノアは、我のほうを向いて蕩けたような笑みを浮かべる。

「玉座の間に行く。ついて来い」

 我の言葉を聞いたエレノアは「はい」と返事をすると、顔に媚を浮かべながら起き上り、我の腕に抱きついた。豊満な二つの乳房が、我の腕に当たって形を歪める。

 闇でできた回廊のごとき廊下に、歩き出した我の靴音とエレノアの裸足の足音が響いた。

「お父様。これから、リーゼのことを堕とすのね」

 エレノアが、我に裸体を密着させながら、ささやく。リーゼとは、槍の姫の名なのだろう。

「でも、あの娘、ちょっとおカタイところがあるから……素直にお父様の素晴らしさを受け入れられるかしら?」

 エレノアが、イタズラを思案する子供のように相貌を崩す。

「どのような形になろうとも、三王女全員には堕ちてもらうぞ。そのために、お前を連れているのだ。エレノア」
「はい、お父様……」

 我の言葉に対し、エレノアはその顔に媚と忠誠を浮かべて、返事をした。

 玉座の間、そこには数が二つになった巨大な黒いイバラの蕾が鎮座している。我は、エレノアを引き連れて、そのうちの一つの前に立つ。我は、すっと指をかざした。黒いイバラが波打ち、少しずつ左右に分かれていく。

「う……ん……」

 イバラの塊の裂け目から、槍の姫の顔が現れる。目を閉じた顔の頬は、白い肌にわずかに紅をさしている。癖がなく清流のように流れる黒髪は、イバラの樹液にまみれ、妖しい光沢を放っていた。エレノアほどの厚さはないが、小さく可愛らしささえも感じさせる唇は、わずかに開き、消え入りそうな呼吸音とうめき声を響かせている。

 我は、そのまま下ろすように指を動かす。イバラは、我の指の動きをなぞるように裂け目を作り、槍の姫の身体を眼前にさらしていく。エレノアの時と同じように、胴体だけを解放し、腕と足はイバラの中に拘束したままだ。胸と腰だけを守る軽装の鎧は、先の戦いでボロボロになり、鎧の下の薄い服はイバラの粘液と槍の姫自身の汗で水気を吸い、彼女の肌に吸いついている。肉付きはエレノアほどもなく、戦士であるというのに、二の腕や太股も、とても細く見える。しかし、その内側には鍛えられた筋肉が宿り、しなやかな優美さを描いている。肩口から、腰にかけての曲線も、豊満でこそないものの、柔らかさを感じさせる優しい曲線を描きだしていた。

「うん……あ……え?」

 我とエレノアの、視姦するかのような視線に気がついたのか、槍の姫が目を開いた。どこか眠たげではあるが、その瞳は焦点が合い、明確な意思の光を宿している。

「魔王!! それに……エレノア!?」

 槍の姫が、驚愕の声をあげる。

「リーゼ、すごぉい。あのイバラの中にずっといたのに、まだ意思を保っているなんてぇ」

 エレノアが、感嘆と嘲笑の入り混じった声をあげる。

「槍の姫が、強い精神力を持っていることは察しがついていた。だからこそ、お前よりも長く待っていたのだ。エレノア」
「お父様、ひどぉい。それじゃあ、私がまるで意志薄弱みたいな言いようじゃない」

 我が言葉に、エレノアはどこか拗ねたようにして甘えてくる。その前で、槍の姫は顔を蒼白にし、明らかに狼狽していた。

「エレノア! どうしちゃったの!? 魔王に操られているの!!?」

 槍の姫は、かつての仲間を想い、必死で言葉をかける。その言葉を聞いたエレノアは、ただ薄い笑いを返すだけだった。

「ねえ、お父様。リーゼのこと、どんなふうに堕とすおつもりなのかしら?」

 エレノアは、淫蕩でどこか残酷な笑みを浮かべたまま、我に尋ねる。

「エレノア。お前がやってみろ」
「はぁい。わかりましたぁ」

 我は返事をするエレノアに背を向けて、玉座へ向かった。玉座に腰を下ろすと、二人を見下ろす。エレノアは、槍の姫の肩に手を載せ、紅潮し汗の浮かんだ顔と身体を近づける。槍の姫が「ひっ」と息をのむ。エレノアとは対照的に、顔面から血の気が引き、蒼白になっている。

「エレノア……?」
「うふ。リーゼぇ……」

 変わり果てた仲間の姿に、槍の姫は身じろぎして逃れようとする。黒いイバラに拘束された状態では、それも無駄なあがきだ。エレノアは、熱を帯びた吐息を吹きかけながら、蛇のように艶めかしく槍の姫の四肢に腕をからめていく。エレノアのぽってりとした唇が、槍の姫の薄い唇に近づいていく。

―――んちゅ……

 エレノアと槍の姫の顔が重なり、唇が触れ合う。エレノアは恍惚と目を閉じ、槍の姫は驚愕に目を見開く。なおも逃れようとする槍の姫の後頭部をエレノアの腕が捕らえ、さらに口内の奥深くまで蹂躙していく。重なり合った口と口の間から、ダラダラと唾液があふれ出す。

「ぷはぁ……」

 しばしの蹂躙の後、エレノアは大きく息継ぎするように唇を解放した。それもつかの間、エレノアは槍の姫の首筋に顔をうずめる。そのまま、ピチャリピチャリと舌を這わせる音が響く。

「ひあ……あぁ……」

 槍の姫が、艶のある嬌声をあげた。いかに強靭な精神の持ち主であろうとも、媚毒としての力を持ったイバラの樹液に三日三晩も漬けこまれた後では、肉体が淫らな反応を示してしまう。

「うふふ……リーゼ、イイ声が出せるじゃないの?」
「いや、いやぁ!!」

 いやいやと首を振る槍の姫。その肌は、本人の意思とは無関係にほんのりと赤く染まり始めている。エレノアは、槍の姫の反応を楽しみながら、焦らすように少しずつ舌を身体に這わせる。なめらかな肩の曲線から、エレノアと比べれば控え目な乳房を蕩かすようにじっくりと責めていく。敏感になった桃色の乳首が舌の上で転がされて、槍の姫は一層淫らに身体をくねらせる。

「やめて! やめてよ、エレノア!!」
「ダメよ、リーゼ……お父様のご命令なんだもの」

 槍の姫の必死の懇願も、今のエレノアの耳には届かない。エレノアの顔が下がり、槍の姫の柔らかい腹部……ヘソのあたりを責め始める。

「エレノア、目を覚まして……何で、魔王の言いなりになっているの……」

 槍の姫は、すすり泣くような声で弱々しく言った。エレノアは、一瞬だけ動きを止める。

「……何でだと思う?」

 エレノアの声は、驚くほど冷たい。槍の姫は反射的に「え?」と呟いて、動きを止める。

「リーゼ、あなたも分かっているはずよ。私たちは……三王女なんて、英雄みたいにもてはやされたけど……そんな御大層なものじゃない。私たちは、皆、何かを欠落させている。心に虚無を抱えている。そうでなくては……こんな死地に赴いたりなんか、しないはずよ」

エレノアが、静かな落ち着いた声で小さくつぶやいた。槍の姫は、自分の仲間の告白を、泣き出しそうな瞳で聞いている。

「エレノア……」

 槍の姫は、絞り出すようにそうささやくのが限界だった。

「うふふ……私はね、心の欠落を埋めてもらったのよ。どんなに厳しい戦いを切り抜けても、満たされなかったものを満たしてもらったのよ……」

エレノアは、再び淫猥な笑みを顔に浮かべると、槍の姫の股間に顔をうずめる。

「んふ……さぁ、リーゼ。あなたも望みを言いなさい! 私のお父様に……魔王様に、“心の欠落を埋めてください”と懇願なさい!!」

 エレノアは、舌を艶めかしく動かし、槍の姫の濡れた秘裂をなでる。

「ひゃ! あぁぁッ!!」

 槍の姫が、甲高い悦楽の悲鳴をあげる。エレノアは、快楽の牝芯である肉芽を探り当てると、つつくようにして執拗にそこを責める。槍の姫は、エレノアの舌につつかれるたびに、身を弾ませ、粘る蜜を滴らせる。

「んはぁ……リーゼ。魔王様に屈しなさい! どうせ、人界の誰も私たちが戻ってくるなんて思っていないわ!! 良くて、魔王様と相討ちだと思っているわよ!!!」

 一度顔をあげたエレノアは、リーゼにまくしたてると再び顔を沈める。槍の姫の身体が、びくんと震え、のけぞる。エレノアの舌が、槍の姫の媚肉の奥深くに潜入し、吸い出すような唇の動きとともに、快楽の振動を打ちこんでいく。

「ひ、ひあッ!? エレノア……私、わたしぃ!!?」

 槍の姫が全身を震わせた。絶頂に達したのだろう。股間からは、びちゃびちゃと愛液があふれ出し、床に水たまりを作り出す。

 槍の姫を快楽の頂へと導いたエレノアは、立ちあがると、優しく槍の姫に抱きついた。涙と唾液がだらしなく流れ、呆けた顔になった槍の姫の耳にそっと唇を寄せる。

「ねぇ、リーゼ。あなたの望みを教えて? 私たち、友達でしょう……」

 優しい声で、エレノアはそうささやいた。槍の姫の瞳の意志の色が弱っている。

「私の……望み……は……」
「何? リーゼの望みは何!?」

槍の姫の薄い唇が、震えるように言葉を紡ごうとする。それをエレノアは、妖しい声で促す。

「……お姉様と……一緒のテーブルで食事をすること……」

 槍の姫は、消え入りそうな声で答えた。

「お姉様って、槍の王国の女王リリアーネ様のことね。そんなこと願うってことは、一度も同じテーブルで食事をしたことがないワケ?」

 エレノアは、槍の姫の心から覗いた傷跡を容赦なく詰問していく。絶頂の快楽で意識がもうろうとなっている槍の姫は、こくん、と頷く。

「私は……幼いころに、市井に預けられたから……お姉様と再会したのは、成人してから……でも、お父様もお母様も亡くなって、お姉様だけが世界で一人だけの肉親なのに……お姉様は、私に笑ってもくれないから……魔王討伐に志願したのも、そうすれば、私のこと認めてくれると思ったから……」

 槍の姫は、とぎれとぎれの言葉で、心の滓を吐き出していく。それは、親友であるはずのエレノアにしても、初めて聞く話のようだった。だが、それでも、我とエレノアは、にやりと笑う。

「ねぇ、リーゼ。もし、魔王様を倒して、凱旋しても、お姉様はあなたのこと認めてくれないかもねぇ」
「……え?」

 いたずらに笑いながら、残酷な言葉を槍の姫につきつけるエレノア。悦楽で紅潮した槍の姫の顔が、みるみる青ざめていく。

「だって、唯一の肉親と言うことは、逆に権力の座を脅かす唯一の存在ってことでしょう? 魔王様討伐という業績を達成したら、ますます脅威だって思われて、遠ざけられるかもよ?」

 エレノアは、おびえる子供のように震える槍の姫の肩を優しく撫でてやる。

「そんな……私は……ただ、お姉様に認めてほしいだけなのに……同じテーブルで食事をして、笑ってほしいだけなのに……」

 槍の姫の顔が、くしゃくしゃになっていく。エレノアに煽られた不安が、肥大化し、彼女の鋼のように強かった意志にヒビを穿っていく。その様を見たエレノアは、改めて満足げで、邪悪な笑みを浮かべる。

「大丈夫よ、リーゼ。安心して? 私たちには、望みをかなえてくださる方がいるんだから……」
「え……?」
「魔王様よ。さぁ、願いなさい? そして、忠誠を誓いなさい? それが、リーゼの望みを手に入れるただ一つの方法よ……」

 エレノアの言葉が、毒のように槍の姫の精神を侵していく。顔をあげた槍の姫の視線は、まっすぐに玉座に座る我のほうを向いた。それは、すがる者の視線だった。

 我は、玉座から立ち上がると、身体を重ねるエレノアと槍の姫のもとへ歩み寄る。

「魔王……様……」

 槍の姫の声が、弱々しくもはっきりと響いた。我は、槍の姫の瞳を覗きこむ。視線に魔力を込めて、深く心の欠落までも絡め取る。

「槍の姫よ。貴様は、何を望む?」
「姉と……同じ食卓に着くことを……」

 我が言葉に、抑揚のない声で槍の姫は答える。

「ならば、その代償として、貴様は何を差し出す?」
「魔王様への……忠誠を……」

 槍の姫は、小さくも淀みなく宣言した。我は、指をかざした。槍の姫の四肢を捕らえていた黒いイバラが解かれ、彼女の身体が自由になる。

「さ、リーゼ。忠誠の証として、魔王様に純潔をお捧げするのよ。どうせ、あなたも処女なんでしょう?」

 エレノアは、槍の姫の身体を抱きすくめると、体を入れ替えて、我のほうに槍の姫の尻を向けさせる。引き締まった尻肉の間から覗く、槍の姫の秘所は純潔とは思えぬほどに蜜をあふれさせ、淫らに潤っていた。

 脚が震え、倒れそうになる身体をエレノアに支えられながら、槍の姫は肩越しに我を見つめる。その目には、もはや戦士の強靭さは存在しない。救いを求める、哀れな一人の小娘だった。

「槍の姫よ。忠誠の証として、貴様の処女をもらうぞ」

 我の宣告に、槍の姫は「はい」を小さくうなずいた。我は、黒い装束の内から、そそり立つ肉棒を解き放つと、槍の姫のくびれた腰を強くつかんだ。そのまま、乱暴に腰を突き出す。

「か……はぁ!!」

 肺の中の空気を全部吐き出すかのような、槍の姫のうめきが聞こえた。イバラの媚毒とエレノアの淫らな舌の責めで、無理やり開かれた肉体は、何の抵抗もなく我が剛直を飲み込む。それでも、奥に侵入するにつれ、実ったばかりの果実のキツイ締め付けが現れてくる。

「ふん……悪くはないぞ、槍の姫?」

 我は、槍の姫の肉体の奥の、本能的な抵抗を蹂躙するように、腰を打ちつける。

「んん……! はあ……あぁん……ん!!」

 槍の姫の喘ぎ声に、艶が混じり始める。結合部からあふれる水音が激しくなる。槍の姫の身体が、女としての悦楽に反応し、愛液を分泌させ始めたのだ。

「うふふ……リーゼったら、可愛い……」

 我と挟み込むように槍の姫の身体を支えていたエレノアは、槍の姫の首筋に舌を這わせ始める。いやらしい水音の数が増え、身をくねらす槍の姫の淫らなダンスは一層激しさを増していく。

「ふあぁ!! 私、またイク……イクぅ!!!」

 槍の姫が、絶叫した。全身の筋肉を緊張させて、快楽の頂へと上り詰める。だが、我は、まだ満足するつもりはなかった。腰をつかむ手の力を一層強め、腰の動きをさらに激しいものへとする。

「あ! あぁ!! 魔王様、激しすぎます!! 私、イッているのにぃ!!!」

 槍の姫が、神経を焼き尽くすような官能から逃れようと、狂ったように身をよじる。我は彼女の身体を押さえつけ、エレノアもまた彼女の頭を抱きかかえ、快楽地獄からの逃避を許さない。我は、ここで槍の姫の中に己の肉欲を解放することを決意する。

「槍の姫よ。我の精を注いでやる。受け取るがよい……」

 我が男根から、白い濁流が噴き出される。槍の姫の身体が震えた。

「あぁ、熱い! 焼けてしまいそう……!!」

 槍の姫は、許容できぬ快楽に全身を硬直させる。そして脱力し、我とエレノアに、身と心を預けた。

「槍の姫よ。お前は、何者だ? 我に応えるがよい」

 我は、享楽の奔流に流され、息を荒くつくままの槍の姫の耳元に囁く。

「……私は、槍の王国サヴェリアの妹姫リーゼロット。そして……魔王様に忠誠を誓う、下僕……私のことは、リーゼとお呼びください。ご主人様……」

 槍の姫……リーゼは、息を切らしながらも、健気に答える。我とエレノアに挟まれて屈服宣言を口にしたリーゼの表情は、とても穏やかなものだった。

「あの……ご主人様……」

 身体を離した後、リーゼは顔を真っ赤にしながら、もじもじと何事かを言いだした。

「どうした? リーゼ」

 我は、聞き返す。

「もし、よろしければ、下僕である我々に、衣装を与えていただけないでしょうか?」

 リーゼは、恥ずかしそうに控え目な胸と、先ほどの情交の淫液が垂れる股間を腕で隠した。どうやら、全裸であることを気にしているようだ。

「あら、別にイイじゃない。リーゼ?」

 同じく全裸のエレノアは、そのことを気にするそぶりも見せずに、我の腕に抱きついてくる。

「エレノア! あなたは、ハレンチすぎよ!? 下僕には、下僕の品格というものがあるわ!!」

 リーゼは、赤い顔で甲高い声をあげる。

「私は、お父様専用の娼婦だから、ハダカでもかまわないと思うんだけど……でも、オシャレしたほうがお父様も喜んでくれるぅ?」

 エレノアが、甘ったるい声で我に聞いてくる。

「……階下に、貴様らが殺した魔族の侍女の部屋があったはずだ。そこの服を適当に使え」

 「貴様らが殺した」という言葉に、エレノアとリーゼは、顔を暗くする。それでも、自分達で言い出した手前、とぼとぼと侍女の衣装部屋を目指していった。

 ほどなくして戻ってきた二人は、めいめいの衣装を着こんでいた。

「ご主人様。いかがでしょうか……?」

 リーゼが選んだのは、メイドの衣装だった。リーゼは、自分のことを、我の従者として位置付けているらしい。

「悪くはない」

 そう言ってやると、暗くなっていたリーゼの顔が少し明るくなる。

「お父様ぁ、私のはどう?」

 そう言って、身をひるがえすエレノアは、胸と腰を薄布で申し訳程度に覆った踊り子の衣装に身を包んでいた。見方によっては、全裸よりも、淫らに見える。

「エレノア! 私の話を聞いていたの!? それじゃあ、裸と変わらないじゃないの!! もう少し、ご主人様の下僕としての品性を考えたらどうなの!!」

 ご機嫌なエレノアに注文をつけるリーゼ。エレノアもまた、腰に手を当て、リーゼの方を向き直る。

「あら、リーゼ。あなた、そんなに自分のカラダに自信がないのかしら? それに、お父様の下僕としては、私のほうが先輩なんだから、偉そうにしないでくれる!?」

 エレノアが、負けじとリーゼに言い返す。エレノアとリーゼは、お互いににらみ合う。生真面目を絵に描いたようなリーゼと、ともすれば享楽的にも見えるエレノア。彼女たちは、人界にいるときから、このような間柄だったのかもしれない。だが、それでも、我の眼前にいる二人の娘は、魔王討伐に志願した人界の英雄の三王女ではない。魔王の忠実な下僕である三王女なのだ。

 二人を横目に、我は玉座に腰を下ろす。我は、玉座の間の一角に残された、最後のイバラの蕾を見つめる。エレノアとリーゼの口げんかを聞き流しながら、我は、イバラの中に眠る聖女の弟子を堕とす算段、さらに三王女を如何に使うかに思いをはせ、笑みを浮かべた。

< 続く >

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