戻れない、あの夏へ Preceding Stage サヤカ 陥落編

Preceding Stage サヤカ 陥落編

堕ちていく人形

 ――秋月紗耶香
 9月2日、PM1:15 東京、”ラ・プッペ”前。

「ここね……」

 東京駅で拾ったタクシーを降りると、目の前にその店はあった。

 メインの大通りからは少し離れた通りにある、ビルの1階。
 ブティックやブランドショップらしい、店内がよく見えるガラス張りの外装に、控えめな看板が出ていた。

 ”La Poupee”……ラ・プッペって、たしか……フランス語で、人形だったわね……。
 彼って、よっぽどお人形さんが好きなのかしら?

 その店名に、彼が合い言葉にしていたイタリア語の合い言葉を思い出してしまった。
 彼に会うために仕事を辞めて日本に戻ってきたことを考えると、なんだか彼の思い通りになってしまったように思えていい気はしない。

 でも、いいわ……そのためにわざわざ来てあげたんだから、お人形遊びにでもなんでも付き合ってあげるわよ……。

 彼がミラノを去って以来、私の中に澱のように蓄積していた欲求不満を、自分でも抑えることができなかった。
 それに、彼は私を人形にして遊んでいるつもりかもしれないけど、それは違う。
 私は彼の人形なんかじゃない。
 彼と遊んであげたのは、あくまでも私の意志。
 ちょっと面白そうだったから催眠術にかかったふりをしただけ。
 そして、彼とのセックスが思いのほか良かったから、その後も相手をしてあげただけなんだから。

 だから、今日もせいぜい私を楽しませてよね。

 看板の文字を見上げながら胸の内でそう呟くと、ドアを押して店の中に入る。

* * *

 ガラス張りのために外からも見えていたのだが、店の内装はよく言えばシンプルで機能的、悪く言えば素っ気ないほどに飾り気がなかった。
 もっとも、ゴテゴテした装飾は好きではないのでむしろ好ましいくらいだ。

「いらっしゃいませ!ようこそ、”ラ・プッペ”へ!」

 出迎えた店員がペコリとお辞儀をする。
 白いシャツに臙脂色の蝶ネクタイを結び、黒いベストにやはり黒のスラックスという男装がよく似合う、すらっとした長身の女性だった。

「津雲雄司さんはいらっしゃるかしら?」
「社長にご用ですか……?あの……どういうご用件でしょうか?」
「ミラノから秋月紗耶香が訪ねてきたと言ってもらえればわかるはずよ」
「秋月様ですね……わかりました。少々お待ちくださいませ……」

 私に対応した店員が、奥の方に引っ込んでいく。
 その後ろ姿を眺めながら、私は苛立ちを隠せないでいた。

 さっきの店員も、そして、店内にいる他の店員も女ばかり。
 それも、みな背が高くてスタイルがいい。
 その凜々しい格好や立ち振る舞いの一方で、女の色気も漂わせている整った顔立ち。
 まさに、男装の麗人という言葉がぴったりの美人揃いだ。

 鬱々とした想いを抱えて日本に戻ってきて、目当ての男がこんな美人ばかりを身の回りで働かせているのを目の当たりにして、苛立たない方がどうかしている。

「お待たせしました、秋月様。どうぞこちらへ……」

 腕を組み、イライラいらしながら待っているとさっきの店員が戻ってきた。
 そして、私を奥の方に連れて行く。

 ”従業員通用口”というパネルの張られたドアを開けると、その先にエレベーターホールがあった。
 私がエレベーターに乗り込むと、彼女が2階のボタンを押す。

「この中で社長がお待ちです」

 エレベーターを降りると、彼女は正面にある、”社長室”と書かれた部屋のドアをノックした。

「……社長、秋月様をお連れしました」
「ああ、通してくれないか」
「はい。……さあ、秋月様、どうぞ中へ」

 彼女が開けたドアから中に入ると、そこはかなり大きめのスペースだった。
 奥の方に、がっしりとしたデスクと、黒革の張られた椅子が置かれ、その前には長机を挟んで、やはり黒革のソファが置いてある。
 おそらく、社長のオフィスと応接室を兼ねているようだけど、それにしても広かった。

「これはこれは秋月さん。突然どうしたんですか?……さあ、こちらに座ってください」

 立ち上がって入り口まで出迎えてきた彼が、私の姿と、引いている大きなトランクを驚いたように見比べて、ソファに腰掛けるよう勧めてくる。
 勧められるままにソファに座ると、彼は私と向かい合うように座った。

「本当にどうなさったんですか?こちらに来るのなら連絡をくれたらよかったのに?」
「すみません、アポもなしに突然押しかけてしまって。……あの、実は私、ガルマリーニを辞めて日本に戻ってきたんです。それで、こちらの方にまず挨拶をしておこうと思いまして……」

 まずは、ここに来た事情を説明する。
 だけど、当たり前のことだけど本心は口にしない。
 彼とのセックスが忘れられなくて戻ってきたなんてことは、口が裂けても言えない。

 それに、私にはなんとなく予感がしていた。
 彼とふたりだけになるのは3ヶ月ぶりのことだ。
 こうやっていると、きっと彼の方からあの言葉を言ってくるかもしれないって。

「そうだったんですか。……それで、あの、僕のところに来たということは、あの時の僕の申し出を受けていただけるということなんですか?」
「えっ?」
「僕の店で働いてもらえたらという、あの時のお願いですよ」
「……あっ!」

 彼にそう言われるまで、そのことはすっかり忘れていた。

 やだ……これじゃあ、私ったらそのためにここに来たみたいじゃないの。
 わっ、私はただ……彼との一時の楽しみを得るためにここに来ただけで……。
 それも、我慢できなくなったから訪ねてきたなんてみっともないから、単に挨拶にきた体を装っているのに。

「違うんですか?」
「え、ええ……わ、私は本当に、帰国の挨拶に来ただけで……」

 慌ててごまかしながらも、動揺を隠せない。
 あの快感を味わいたい一心でここまで来たけど、よく考えたらわざわざ帰国の挨拶に訪れるほどの関係でもないし。
 そのために私がここに来たのだと彼が思ってしまうのも当然じゃないの。

「では、もう次の就職先は決まっているんですか?」
「いえ……それはまだ……」
「だったら、ぜひ僕のところで働いてくれませんか?」
「それは……もう少し考えさせてください……」

 彼の質問をはぐらかしながら、言いようのないばつの悪さを感じるのと同時に、また少し苛ついていた。

 せっかく私が来てあげたっていうのに……彼があの言葉を言いさえしたら私は喜んで相手をしてあげるていうのに……。
 なにをグズグズしてるのよ。

 そんなもどかしさが、思わず表情に出そうになる。

「ふふふっ……」

 その時、彼がいかにも楽しそうに笑った。

「どうやら、まだ素直になれないようですね。だったら……」

 ……あの言葉が来る!

 彼のその表情に、私はそう確信した。
 私を催眠術で思いのままにできると彼が思っている、あの言葉を言うんだって。

 ……早く言いなさいよ。
 言ったら私は催眠術にかかったふりをしてあげるから。

 期待に胸を膨らませている私の目の前で、彼の唇がゆっくりと動く。

「”靄に霞む森で美女は眠る”」

 ……え?
 なに?その……こと……ば……は…………?

 彼の口から出てきたのは、予想していなかった言葉。
 いや、どこかで聞いたこともあるような言葉。
 だけど、どこで聞いたのか思い出せない。
 それよりも早く、頭の中に急に靄がかかっていって、意識が遠のくような感覚に襲われる。

 そのまま、目の前が闇に包まれていった。

「ん……んんっ……」

 誰かに起こされたような気がして、目を開く。
 すると、向かいのソファに座っている彼と目が合った。

「……ご主人様?……って!?えええっ!?」

 彼の名前を呼ぼうとしたら、口が勝手に”ご主人様”って言った。

「どうなってるの!?……ねえっ、ご主人様!?……やだっ!?また???」

 またもや、彼のことをご主人様と言ってしまう。
 どうしても、彼の名前を呼べない。

「もうきみは俺のものだよ、サヤカ」

 今まで私のことを秋月さんと呼んでいた彼が、名前を呼び捨てにして笑う。
 態度や物言いまで、これまでとはすっかり変わっていた。

「なにを言ってるの!?」
「そのままの意味なんだがね。さあ、立ち上がって服を脱ぐんだ。……そうだな、下着はつけていてもいいかな」
「なんで服を脱がないと!?……ええっ、えええっ!?どうなってるのっ、これは!?」

 体が勝手に立ち上がって、服を脱ぎはじめる。
 もちろん、私はそんなことしようなんて思っていない。
 それなのに……。

「やだっ!?なんでっ……こんなことがっ!?」
「それはね、催眠術のせいだよ」

 ブラウスのボタンを外していく私の姿をニヤニヤと眺めながら、彼がそんなことを言った。

「なっ……!催眠術ですって!?だってあれはっ……」
「ん?どうしたのかな?」
「私はっ、催眠術にかかったふりをしていただけでっ!」
「ああ、それも俺のかけた暗示だよ。きみも知ってるあの言葉を聞くと、催眠術にかかったふりをして、結局は俺の思うままに動いてくれるっていうね」
「そんな、まさか……」
「信じられない気持ちはわかるけどね。でも、今、きみの体は自分の意志とは関係なく僕の言いなりになっているだろう?つまりそういうことだね。きみはミラノでの時から僕の催眠術にかかっていたんだよ」
「じゃ、じゃあ、私は……」

 私は、今までずっと彼の掌の上で踊らされていたってことなの!?
 催眠術にかかったふりをして、遊んであげてると思ってたことまで全て催眠術でやらされていたなんて……。

 あまりのショックに、言葉も出てこない。
 そんな状態なのに、体の方はボタンを全て外してブラウスを脱ぎ捨てる。

「でっ、でもっ、催眠術じゃ本当に嫌なことをさせることはできないって……!」
「うん、浅くかかった程度だったらね。だけど、きみは何度も催眠術にかかっているから、簡単にかなり深い催眠状態になってしまうんだよ。もう、きみ自身の意志ではどうにできないほどにきみを思いのままにできる暗示をかけることができるくらいにね」
「そんなっ!何度もって!?」
「だって、ミラノできみは1週間の間、毎晩俺に催眠術をかけられた状態になっていたのも同然なんだぜ?催眠術って言うのは、繰り返しかかるごとにどんどん深い催眠状態に堕ちていくようになるものなんだ。それに、きみだって、あの時は俺とのセックスを楽しんでいたし、快感をたっぷり味わっていたんだろう?だいいち、今日だってそのためにここに来たんじゃないか」
「そっ……そんなことはっ!」
「ごまかしても無駄だよ。さっききみを催眠状態にしたときに聞き出したからね。……まあ、たしかに嫌悪や不快感は強い拒絶反応をもたらすから、催眠術をかけるときの妨げになる。反対に、人間っていうのは快感や心地よさを受けいれやすくできているものらしくてね。快感や快楽を繰り返し与えられると、それを与えてくれるものを受けいれやすくなる。実際、繰り返し俺の暗示によって快感を感じたきみの体や心は、きみ自身の意識よりももっと深いところ、いわゆる識域下で快感を与えてくれるきっかけになる催眠術を無抵抗に受けいれるようになっているんだ」
「そんな……」

 いかにも楽しそうに話す彼の言葉は、私にとっては悪魔の宣告だった。
 もう、私の意志ではどうにもならないところまで、彼の思いのままになる体にされている。
 その結果が、これだなんて……。

 彼が長々と話している間に私はスカートも脱ぎ捨てて、ブラとショーツとストッキングだけという格好になってしまっていた。
 そんな私の姿を舐め回すように眺めて、彼は満足そうに何度も頷いていた。

「うん、久しぶりに見るけど、実に美しくて、そしていやらしい体をしてるね、きみは。それに、下着を黒で揃えているのも実にいい。エロティシズムというものがよくわかってるよ」
「ふっ、ふざけないでっ!」
「ふざけてなんかいないよ。お楽しみはこれからが本番なんだから。……さあ、こっちに来てフェラチオをするんだ、サヤカ」
「だっ、誰がご主人様の言うとおりになんかっ!……やっ、ちがっ、ま、またっ!」

 あんたの言うとおりになんか!と言おうとしたのに、やっぱりご主人様と言ってしまった。
 どんな形であれ、彼のことを呼ぼうとすると、口が勝手にご主人様と言ってしまう。

 それに、体も私の気持ちなど無視したみたいに彼の前に歩み寄って膝をついた。
 そのまま、ズボンのベルトを緩めると、勃起しかけたペニスを露わにさせる。

 自分の体なのに、私の思い通りになってくれない。
 抗おうとしても、自分ではどうにもできない。
 私が完全に彼の催眠術で操られていることを思い知らされる。

「やだっ!こんなことっ、したくないのに!」
「ふふん。本当にしたくないのかな?」
「どっ、どういうことよ!?」
「まあ、すぐにわかるよ」
「なにをっ?……やっ、だっ、ダメよ……ちゅっ、ちゅむっ……」

 私の手が、大事なものを包みこむようにペニスを握り、ゆっくりと顔を近づけて舌を伸ばす。
 こんなの……こんなの、私の意志じゃないのに、体は全く言うことを聞いてくれない。

「ちゅるっ、あふ……んふっ、あむっ……んっ、んんん!?」

 何度か舌先を這わせた後、ムクムクと膨らんできたそれを口に含む。

 その瞬間、口から鼻に抜けた匂いに、クラクラと目眩がしたような気がした。
 それに、舌や口の中にペニスが当たる走る、ビリビリ痺れるような感覚……これは……快感?

「んっ、はむっ……じゅっ、じゅむっ、ちゅば……あふううぅ……」

 間違いない……。
 舌と口が勝手にやっているフェラチオなのに、じわじわと快感がこみ上げてくる。
 そして、それは次第に強くなっていく。
 まるで、ミラノで彼にフェラチオをしたときのように。

 本当に……私の体はこの感覚を覚えてしまっているの……?

 彼の言ったとおり、その快感を受けいれる体になっているのかと思うと、泣きそうな気持ちになる。
 それなのに、体は泣くどころかますます熱心にペニスに舌を絡め、唇で扱いていく。

「んんっ、んむむうっ、んっ、はうっ……」

 せめてもの抵抗とばかりに、上目遣いに彼を睨みつける。

 それなのに……。

「んぐっ、ぐぐぐぐっ!……んふっ、むふうううううぅっ!」

 すっかり固くなったペニスが喉の奥に当たって、一瞬目の前が白くなった。
 脳味噌を揺さぶられるような衝撃が走る。
 しかし、苦しいのよりも快感の方がはるかに大きい。

「んっ、んぐっ、くっ、んっく……くふっ、ぐくっ……」

 やめて……そんなに激しくしないで……。
 どうして?私の体なのに、なんで言うことを聞いてくれないの?

 より強く快感を求めるようにディープスロートを繰り返す私の口。
 ズンズンと頭を揺さぶる快感に、脳が溶けていきそう。
 頭の芯がじんと痺れて、意識がぼんやりしていく。
 それに、アソコが疼いて、体が熱く火照ってくる。

「んっく……あふ、んぐっ、ぐふっ……んっぐ……」

 ああ……ご主人様のペニスが喉の奥に当たって気持ちいい……。

 ……って!?やだっ!私っ、今なにをっ!?

 今、彼のことをご主人様って思ってた。
 まるで、自分じゃない誰かが頭の中にいたような、そんな感覚だった。
 
「んぐっ、ぐ……?……ふあ?」

 不意に、彼の手が私の頭を撫でた。
 彼が、私をニヤニヤと見下ろしている。

「うん、敵意剥き出しで睨みつけていた目尻がいやらしく緩んでいくのを見るのは実に気分がいいね。……そのくらいでいいだろう。立つんだ、サヤカ」
「や……こ、今度は……なにを?……やっ!?ああぁんっ!」

 彼の手が、ショーツの上からアソコをなぞった。

「こんなに濡らして、いやらしい体をしてるじゃないか、サヤカ」
「ちっ、違う……私は、そんなつもりじゃ……」
「いいかげん諦めたらどうだ?だったら、さっききみを催眠状態にしたときにどんな暗示をかけたか教えてやるとするか。まず、俺のことはご主人様としか呼べない。そして、きみの意志とは関係なく俺の命令したとおりに行動する。そして、快感を感じれば感じるほど、心から俺を主人と認め、俺の奴隷になっていく」
「なっ!?……そんなっ!」

 だから……さっき彼のことをご主人様って!?
 そっ、そんな……このままじゃ私……。

 彼の言っていることのおぞましさに、目の前が真っ暗になる。

「そして、俺とのセックスで中に出されて絶頂したら、きみは完全に僕の奴隷になるんだ。……じゃあ、最後の仕上げといくか。サヤカ、俺のペニスを自分で中に入れるんだ」
「やっ……それだけは、お願い……だめっ、止まって!……ダメよっ!……ああっ!ふぁあああああああっ!」

 私の体が、ソファに腰掛けた彼を跨ぐように立つと、指先でぐしょ濡れのショーツをずらしながら腰をかがめていく。
 そのまま奥までペニスを呑み込んでいくと、一気に膣内が擦れて、背筋が反り返るほどの快感が駆け抜けていく。

「そのまま、自分で腰を動かすんだ」
「やっ……こんなのっ……耐えられない……んっ、はうううっ、ああっ、ダメッ、うっ、動いちゃっ……あんっ、はうううっ!」

 彼の肩に手をついてバランスをとりながら、腰を浮かせたり沈めたりし始める。
 同時にアソコの中をペニスが擦りはじめて、体が燃え上がるように熱くなる。

「はっ、やめっ……あんっ、あっ、気持ちいいっ!やっ、だめなのにっ、あふっ、はんっ!」

 自分の腰の動きが次第に速くなって、膣内でペニスがリズミカルに快感を刻んでいく。

「あんっ、ああっ、いいっ、そこいいのっ!はんっ、ああっ、気持ちいいっ!」

 ご主人様のペニスが奥まで届いてる……。
 ご主人様のペニス、熱くて固くて気持ちいい……。

 ……違うっ!
 彼はご主人様なんかじゃない!
 そんなのダメなんだから!

 ああ、でも……。

「ああっ、いいのっ!ご主人様のペニスっ、気持ちよくてっ、止まらないっ!」

 だめ……自分で腰を上下させるのを止めることができない。
 中で擦れるペニスが熱くて熱くて、頭がぼんやりしてくるほど気持ちいい……。

「ああっ、止まらないっ、止まらないっ!このままじゃだめなのにっ、止まらないのぉっ!」

 私の体はもう、彼の首に腕を絡めて腰を揺すっていた。
 体を密着させてるせいで、さっきよりもずっと奥までペニスが届く。
 そんな体勢でこんなに激しく腰を揺すったら、私……。

「あふんっ!あんっ、いいっ、すごくいいっ!ああっ、イキそうっ、もうイキそうなのっ!」

 全身が熱くて、アソコも、そればかりか肌が触れているところさえも気持ちよく感じる。
 頭の中が熱でショートしたみたいに、目の前で光がチカチカする。

 このままだと私、ご主人の奴隷にされてしまう……。
 ……だめよっ!ご主人様のことをご主人様だなんてっ!
 ちっ、違うっ!ご主人様は……ああっ、だから違うんだってば!
 ああ……わからない……もう訳がわからないわ……。

 快感に満たされて靄がかかった頭の中で、彼のことをご主人様と思う自分がどんどん膨らんでいくのを止めることができない。

「ふあああっ!だめっ、このままだと、ご主人様のペニスでイカされちゃうっ!……ああっ、いまっ、中でビクッて!」

 アソコの中で、ペニスがまた少し大きくなって震えたように思えた。
 しがみついている私の耳許で、彼の声が聞こえてくる。

「くくっ、いい腰使いだ。よし、そろそろ出してやるぞ」
「そんなっ……だめ……はうぅんっ!」

 このまま出されたら私……。
 そんなのだめ……。
 イッたらだめ……イッたらだめなのに……。

「んっ、はんっ、やあっ!だめっ、とまらないっ!ああっ!」

 思いとは反対に、私の体は射精を促すようにいっそう激しく腰を動かしていく。

 そして、彼が小さく呻いたかと思うと……。

「くぅっ……だ、出すぞっ、サヤカ!」
「ああっ!ふわぁああああああああああっ!」

 お腹の中でペニスが暴れて、熱いものが迸り出てくる。

「あああっ、来てるっ、熱いのがっ……!んふぅううううううっ!ふああっ、ご主人様の精液でっ、わたしっ、イッちゃううううううううううっ!」

 子宮に届くほどに熱い精液を叩きつけられて、目の前が真っ白になって私は絶頂していた。

 意識が途切れ途切れになりそうなほどの快感の奔流の中、私という存在そのものが真っ白になっていくように感じる。
 今までの私が消えていって、自分が自分でなくなっていく。

 そして、私は……。

* * *

「ふあああぁ……ん、ご主人様……」

 まるで、一瞬気を失っていたみたいな激しい絶頂だった。
 まだ、余韻でアソコがヒクヒク震えているのがわかる。

 それでも、ようやく体を起こしてご主人様の顔を見つめる。

「良かったぞ、サヤカ」
「……はいっ!ありがとうございますっ、ご主人様!」

 ご主人様に褒めていただいて、すごく嬉しくなる。

 さっきまで、あんなにご主人様の奴隷になるのを拒んでいた自分がバカバカしく思えてくる。
 なんでもっと早くご主人様のものにならなかったのかと腹立たしく思えるほどに。

「これからずっと俺のもとで働いてもらうぞ、サヤカ」
「もちろんです、ご主人様」

 そう、それはごく当然のこと。
 私はご主人様の奴隷なんだから、この先ずっとご主人様にお仕えするのだから。

 日本に帰る少し前から、あの仕事は私のしたいことではないんじゃないかって、本当にしたいことは他にあるんじゃないかって思っていた。
 その、本当にやりたいことを、私は見つけることができた。
 それを、ご主人様が私に与えてくださった。

「おまえには、下の店を手伝ってもらうぞ。店のやりくりだけでなく、仕入れや、新しいブランドの調査や交渉もやってもらうつもりだ。おまえの知識と経験を俺のために役立ててくれ」
「はいっ!お任せください、ご主人様!」

 ご主人様の言葉に、自信たっぷりに返事をする。

 その役目に、私ほどぴったりな者はいない。
 私なら、ご主人様を補佐して店のお手伝いができる。
 さっき下のフロアにいたあの子たちよりも、はるかにお役に立てる自信はある。

「よし。ああ、それと、俺のもとで働くのなら、俺のことは社長と呼べ」
「はい、わかりました」

 ご主人様のことは、社長と呼ぶ。
 命令ならば、私は喜んでそれに従うだけ。
 呼び方が変わっても私はご主人様の奴隷であることに変わりはないんだから。

「うん、じゃあ、今日はおまえが俺のものになった祝いだ。これからたっぷりと相手をしてやるぞ」
「ああ……ありがとうございます、社長……」

 ご主人様のありがたいお言葉に、胸が高鳴ってくる。
 いやらしい気持ちがこみ上げてきて腰をくねらせると、アソコの中にご主人様のペニスを感じる。

 ああ……あんなにいっぱい出してくださったのに、まだこんなに固い……。

 さっき射精したばかりなのに、まだ固さを保っているペニスの感触を味わいたくて、くいっ、くいっと腰を捻る。

「ふふふ、いやらしいやつだな、サヤカ」
「はいいいぃ……私は、いやらしい女ですぅうう……」
「ああ、それでいい。俺の前ではそうやっていやらしい女でいれば、いつでもかわいがってやる」
「ありがとうございます……。私……社長の前ではいやらしい女でいます。ですから、私を……サヤカをいっぱいかわいがってくださいませ……」

 甘えるようにご主人様の胸に頬をすり寄せながら腰を揺らしてペニスをいっぱいに感じる、この、喩えようのない幸福感。
 でも、奴隷としてはそれではいけないのではないかという不安が頭をもたげてくる。

「あの……社長……なにか私にお望みのことはございますか?」
「そうだな……おまえのいやらしい姿を思い切り見てみたいな」
「私の……いやらしい姿を?」
「ああ。……そうだ、うちの従業員の前でセックスするか?大勢の目の前でおまえが痴態を晒すのはさぞいやらしいだろうな」
「従業員の方たちの前で……私の痴態を?……あっ、あああっ!」

 体がカッと熱くなって、目も眩むような快感が駆け抜ける。

 私……大勢の前でご主人様とセックスをしている自分の姿を想像しただけで、軽くイッてしまった。

「ははは、やっぱりおまえは、人に見られて感じるんじゃないのか?」
「そう……かもしれません.……んっ、んんっ!」

 ホテルの窓際でご主人様とセックスをしながら、誰かに見られるんじゃないかとビクビクしていたのがかなり昔のことのように思える。
 あの時感じていた快感は、ご主人様の言う通り、見られることを望んでいたからに違いない。
 だって、想像しただけでこんなに気持ちいいのだから。

「んっ!ああっ、したいですっ!従業員の皆様の前で、私のいやらしい姿っ、見せたいです!」
「くくく、そうか。だったら、後でたっぷりと見せてやれ。今はまだ仕事中だからな」
「はっ、はいいいっ!」
「それに、時間はたっぷりある。だから今は、おまえがやりたいように俺を楽しませろ」
「わかりました、社長……」

 その言葉に、私はブラを外して胸をさらけ出すとご主人様に抱きついて体を揺する。
 ご主人様の体に当たって、マシュマロのように形を変えていく乳房。
 こうすると、私も感じてしまう。

「んふぅっ……いかがですか、社長?」
「ああ、いいぞ。相変わらずいやらしい胸をしているな、おまえは」
「ありがとうございます、社長……あふっ、あんっ、社長のペニスがまた大きくなって……素敵です!んっ、はんっ!」

 ご主人様に抱きついて胸を揺すっていると、アソコの中でペニスが膨らんでいくのを感じる。

「あんっ、社長!一生懸命ご奉仕しますから……サヤカを、これからもずっとかわいがってくださいませ!あうっ、はあぁんっ!」

 私の全てはご主人様のもの……。
 私の体も、知識も能力も全てをご主人様のために使っていくの。
 この先ずっとずっと、こうやってご主人様にお仕えしていくんだから……。

 こみ上げてくる快感に夢見心地になるながら、私はいっそう情熱的に腰をくねらせるのだった。

< 続く >

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