俺の妹が超天才美少女催眠術師なわけがない 後編

後編

 頭の中に、ふるさとの歌が流れていた。
 忘れていた懐かしい味だ。
 赤ん坊の頃、大好きだったあの味がした。
 でも、あの頃には感じなかったはずの衝撃と感動が、この小さなお肉にはあった。
 今、ようやくわかったよ。
 大人になってからじゃないと、本当の乳首の味はわからないってね。
 
「ぢゅうううううう」
「ひやぁん!?」

 吸った。吸うしかなかった。ただちに吸うしかないと思ったし、気がついたらもう吸っていた。
 
「れろれろれろれろれろれろ」
「はぅぅぅんっ!?」

 ていうか、本当は舐めてたし。
 べろべろ舐めた。吸いながら舐めてた。
 俺の口の中で、柔らかいおっぱいが真空になるまで吸われ、円の動きで舐め回される乳首がピンピン弾かれ、すごい音を立てていた。

「でゅっぽん、でゅっぽん、でゅっぽん」
「いやっ、あっ、あぁん!」

 覚えてるか、あずき?
 昔は毎年、じいちゃんの家で餅つきするのが正月の恒例だったよな?
 見ろよ。希ちゃんのおっぱいが餅で、俺が杵だ。
 乳輪に激しく吸い付きながら顔を前後に動かし、たぷんたぷんと揺れる乳房を顔でこねくり回し、柔らかく張りのある肌を心ゆくまで堪能する。
 どこまでも柔らかいおっぱいは、何をしても柔らかかった。

「ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ」
「あっ! あんっ! やっ、やぁぁん!」

 光速で左右のおっぱいを吸ってるうちに、俺は自分が希ちゃんのおっぱいになったかのような錯覚を感じた。
 彼女のおっぱいに生まれてたら幸せだったと思う。てか、どうして俺は新藤匠で、希ちゃんのおっぱいじゃないんだろう。
 おっぱいになれないから、男は女を愛するのかな。おっぱいじゃないから、戦争は終わらないのかな。
 希ちゃんのおっぱいの先っちょをベロベロ舐めながら、俺は考える。
 バカバカしいことは、みんなやめよう。そして、おっぱいを吸おうぜ。
 肌の色も、神様の違いも、貧しくても金持ちでもいいじゃんか。おっぱい吸って、地球のこと真面目に考えようよ。
 地球は一個のおっぱいで、俺たちはおっぱいが好き。ほら、大事なのは何か、もうわかったじゃん。
 おっぱいから始めていこう。みんなでおっぱいに寄付しよう。おっぱいの施設を建てて、おっぱいの話をしよう。おっぱいと一緒に暮らして、おっぱいと語らい、おっぱい吸って、おっぱいの夢を見て過ごそうよ。
 そして時にはおっぱいみたいな―――
 
「いいかげんにしろ」
「イッテぇぇー!?」

 あずきにどつかれ、首がゴキキと変な音を立てた。

「マジしつこいから。本当にキモいから。てか、男ってなんでそんなにおっぱい好きなの? 変態? ビョーキ? 死ねばいいのに」

 ビョーキなのは、胸をこんなに腫らせている女の方だ。男は心配で心配で仕方ないだけだよ。
 しかし、明らかに希ちゃんのおっぱいに遅れをとっている思春期のあずきに、いくらおっぱいのロマンを語っても機嫌を損ねるだけであろう。
 俺は空気を読んでおっぱいの話はやめた(決して妹にびびったわけではない)

「さあ……いよいよ最終段階に進むわよ、兄貴」
「さ、最終段階?」

 あずきは、自らの発言に頬を染めながら、クイとあごで希ちゃんの裸体を指した。
 俺の執拗なおっぱい攻めに、すでに何度もヘヴン状態に達している希ちゃんは、ベッドの上にぐったりと体を投げ出していた。
 乱れた呼吸に喘ぎ、必死に酸素を求める彼女は、気づいてはいないのだろう。
 足、こっちに向けて開いてますよ?

「あ……ぐっ……そ、それは……ッ!」

 さっきよりも、ぐっと生々しさを増した希ちゃんの秘密の園。それは可憐な彼女の肉体で、唯一恐怖を感じさせる場所。
 それは俺が、何も知らない童貞だから。

「……捨てるわよ。昨日までの弱虫な新藤匠を」

 俺とあずきは、揃って「ごくり」と喉を鳴らす。
 てかホント、今日この疑問を何回繰り返したか忘れたけど、どうして俺は妹と一緒に童貞捨てようとしてるんだろうな?
 まあ、それはもういいよ。あずきには感謝してるよ。絶対に、俺一人でこんなすごい事件は起こせやしないから。
 なんだかガキの頃、まだあずきと仲良かったときに、二人でイタズラして親に怒られたこと思い出すよ。
 あのときの俺たちは、小さなギャングだった。

「……どしたの、兄貴?」
「いや、それが……昔はやんちゃだった俺も、今は賢者っつーか」
「はぁ? いいから、早くしろっつーの。なによ、今さらびびってるわけ?」
「いや、気持ちはびびってないんだけど、まあ、一部びびってるみたいな……」
「も~! ここまで来て恥ずかしがってる場合じゃないでしょ! いいから、さっさと脱いで!」
「い、いや、それが、ちょっと……」
「?」

 遠回しに言っても埒が明かない。俺は、泣きそうな思いであずきに説明することにした。
 ていうか、説明したら脱がされた。

「……兄貴って、本当に情けない」

 萎えていた。妹の冷たい視線と言葉をとどめに、心も体もすっかり折られていた。
 はしゃぎすぎたせいかもしれない。俺の興奮は何度もピークを越えていた。
 びしょぬれのパンツと、役に立たなくなった俺の武器は、出番の前に力尽きていたのだ。
 うなだれる俺(二重の意味で「俺」な)に、あずきはため息をつく。

「ったく……ホントにもう、これっきりだからね」

 てっきり俺は、何か催眠術的なものでどうにかしてくれるのかと思った。
 だがあずきは、念のために再確認するが俺の実の妹のあずきは、俺の横で四つんばいになって体を丸めると、チンポに向かって手を伸ばしてきた。
 ひやり。
 他人の手の冷たさが、火照った俺のチンポに触れる。

「んっしょ」

 そして、その小さな手で俺の萎えたチンポが揉まれる。
 小さなぬいぐるみで遊ぶ、幼い頃のあずきを思い出した。

「って、何してんだ、お前ーッ!?」
「ん?」

 あずきはきょとんと、俺を見上げた。

「何って、手コキじゃん? 兄貴の勃ててやってんでしょ」
「手、コキって、お前ッ!?」

 頭が混乱していた。あずきが俺のを? 手で? こいてる? 欧米におけるシェイクハンドのような気安さで?
 
「そんなことは、おまっ、や、やめ……っ!?」
「じっとしてなってば。勃たせるだけだから。ホラ」
「ううっ!?」

 竿から袋までを、手を羽根のように柔らかく使って一撫でされる。ぞわぞわと、くすぐったい快感が全身を駆け上る。

「大げさに考えなくていいわよ。兄貴にはもっとすごいの見せてもらうんだから、これくらい手伝ってやるってだけ」
「うっ、うっ…」

 萎えた俺の根本を摘んで、ぺちぺちと振り回す。先っちょに向けて充血していく感じ。そこをすかさず、指先でこちょこちょとくすぐって、刺激で俺の快楽を集めていく。
 さっきまで、俺のセクロスに緊張しているフシのあったあずきなのに、俺のを扱く手つきは様になっているというか、慣れていた。
 弄ぶように、なのに的確に俺のを勃起させていく。正直、俺のオナニーより数倍うまい。予測もつかない動きなのに、俺のチンポの喜びっぷりは震えて踊りださんばかりだった。

「あずき、お前…」
「ん?」

 俺のをシコシコ擦りながら、あずきは童顔を上げる。平然と兄貴のをこする女にはどうしても思えなくて、俺は、思ったとおりの疑問を口にする。

「な、慣れてんだな、ずいぶん……どこで覚えたんだよ、こんなの?」
「はぁ?」

 あずきは、片方の眉を器用に上げ、俺を睨んだ。

「兄貴がそれ聞いてどうするのよ?」
「あ、あぁ、そう、だけど……」

 ぷいと顔を下げ、俺の方を見ないままあずきは手コキを続ける。そしてポソリと、小さな声でつぶやいた。

「……昔の男よ。あんたに関係ないでしょ」

 チンポを他人の手でこすられる感覚というのは、とても温かくて、熱いくらいだったんだけど、あずきのセリフに、頭のどこかが急に冷えてく感じがした。
 俺の勝手な期待というか、予想というか、あずきに男はいないって思ってた。
 たまに男友達からも電話かかってきてたりしてるみたいだけど、家に上げるのは女友達だけだし、こないだのクリスマスも女だけで部屋で騒いでたし。
 俺も彼女いないのに、妹が先とか考えたくなかったし。
 つーか、あずきはまだ厨房なんだし。
 まだまだないよなって思ってたんだ。

「んっ、んっ、んっ、よしよし、固くなってきたね。じゃ、ここもいじってやろっか?」

 なのに、なんなんだよ、この超絶テクニックの数々は!
 指を全部使って柔らかいタッチでくすぐる前半パートを終えると、今度は硬度を増した俺のにしっかりした圧力を加えてくる。
 ギュギュギュと先端に向かって握りを絞ったかと思えば、先端をくりくりと指先で弄び、ペニスの裏側をつつつとなぞる。
 そして、筒状にした手で高速のピストン運動。
 俺の手よりもずっと小さいのに、全部が包まれてるような錯覚に陥る。しかも親指を蓋のようにして筒を閉ざしているものだから、あずきの手を通り抜けるたび、俺の先端にはそれを突き破るような甘い衝撃が走るんだ。
 すでに職人の域だろ、コイツ。
 俺はこんなの知らねぇ。こんなテクニックを、俺は自分の息子にしてやったことはない。
 ダメだ、頭がボーっとしてくる。我慢できない。
 このままじゃ、俺は妹の顔にテキーラしちまう…!

「ん、こんなもんかな」

 だがその寸前、あずきの手はスッと俺のを離れる。前触れのない中断に、俺はおあずけを食らった犬の気持ちになった。

「なによ。このまま出したかったの?」

 クスクスと、あずきは俺を下から嘲笑う。
 誰が妹の手コキなんかで射精するか。と、言いたいところだが、先走りまで垂らしている俺の息子は明らかに残念がっていた。

「でも、だめよ。兄貴のそれは……今日は、こっちに使うの」

 あずきの指差した場所。
 希ちゃんは、いつの間にか俺たち兄妹の手遊戯を見ていたらしく、慌てて顔を逸らした。
 でも、かすかに広げられた足は、まだ俺を待っていた。

「……ゴクッ」

 俺とあずきは、再び揃って喉を鳴らす。心臓がバクバクしていた。
 一昨日、希ちゃんにふられて、昨日、あずきにオナニー見られて、そして今日、俺は希ちゃんとの初体験を遂げようとしている。
 マジ、人生って万華鏡だよな。
 かつてない緊張感が部屋に漂い、時計のカチコチ言う音が響く。
 
「希、いいわね?」

 あずきにうながされて、希はコクンと頷く。

「兄貴は……全然おっけーね」

 俺のそそり立つペニスを一瞥して、あずきは頷く。

「そ…それじゃ……」

 俺と希ちゃんの注目を浴びる中、あずきはコホンと咳払いをして、手を頭の上でクロスさせる。

「だ、第一ラウンド、ファイっ」

 そして俺と希ちゃんの注目を浴びる中、沈黙はまだ続いた。

「な、何してるのよ! ゴングが鳴ったでしょ。早く、その、あれを始めてよ!」
「いや、そんなの合図で始めろって言われても……なんか、すっげー恥ずかしかったっていうか……」
「そんなこと言われたら、やったあたしの方が恥ずかしいじゃん! いいから、早くなんとかしてよ。もうこの沈黙耐えられない!」

 俺たち兄妹は、ここにきてテンパっていた。なにしろ肝心の俺が童貞。そして妹同伴だ。
 どうすりゃいいのか、余計に難しくなってんだよ。

「あ、あの」

 ぎゃーぎゃーわめき合う俺たちの間で、ベッドに横たわる希ちゃんが、そっと口を開いた。

「私は、その……覚悟は出来てるから、いつでも、匠くんの気持ちに任せます」

 そして、膝がゆるゆると持ち上げられていく。希ちゃんの顔が真っ赤になっていく。

「で、でも、できれば、その、私としては……今すぐ、匠くんに全部もらって欲しいんです!」

 完璧なるMの字を描く白いふともも。
 とてもスケベな格好には間違いないのに、俺は、その神々しさに感動していた。
 彼女の真っ直ぐな気持ち、真っ直ぐな愛情、真っ直ぐな勇気が俺の心に突き刺さる。
 そっか。
 そのMは、「真っ直ぐ」のMなんだね。
 まさかの人文字だなんて、俺は気づかなかったよ。そして俺の「もう我慢できない」のMになったよ。
 魔法のMを、ありがとう。

「希ちゃんを、もらってもいい?」 
「はぅ…ッ、は、はい」

 真っ赤になって頷く希ちゃん。
 鼻から馬のように息を吐いたあずきが、俺の背中をバチーンと叩いて、親指を立てる。

「よーし! やってやれ、兄貴!」

 うぜぇよ。もうとっくに決心ついてんだよ。帰れ妹。
 俺はあずきを無視して、希ちゃんに腰を近づける。
 ギューって目をつむる希ちゃん。優しくするよ。絶対大切にする。「じーっ」て口に出してガン見しているあずきを無視して、俺は、彼女の中心に自分の中心を近づける。
 夢を見ているのかもしれない。俺と希ちゃんがセックスしようとしている。
 俺のチンポと希ちゃんのオマンコがキスしている。くちゅってやらしい音を立てて、希ちゃんが体を震わせる。

「あぁん!」
「ひくぅっ!?」

 なぜかあずきまで変な声を出してた。俺は無視する。慎重に希ちゃんの中に進んでいく。
 熱くて、狭くて、ぬめってしている。
 外から見ただけじゃ分からなかったけど、中身は複雑な形をしているみたいだ。
 絡み付いたり、蠢いたり、俺のをいろんな形で迎え入れようとしてくれていた。少し中を進めるたびに、気持ちよすぎて腰が震えた。
 これが女の体。希ちゃんの体。
 大声で叫びたいくらい、俺はこの快楽に感動している。

「い、痛い……」

 でも、希ちゃんは苦しそうに顔をしかめていた。額には汗すら浮かんでいて、本気で痛そうだった。

「え、で、でも……」

 処女じゃあるめぇし。
 と、言いかけて口をつぐんだ。彼女の苦痛に歪んだ顔も、真っ赤になるまでかみ締められた唇も、演技になんか見えなかったから。

「たぶん、『処女に戻ってる』からよ。彼女は本気で男は初めてだと思ってるし、体もそういう反応しているの」

 あずきが俺の耳元で囁く。
 希ちゃんの膝を抱える俺の手に、希ちゃんの白い手が重ねられる。彼女は震えていた。
 俺は、その手に指を絡める。

「もちろん本当に処女の体に戻ったわけじゃないし、過去の彼氏が消えてなくなったわけでもない。でも、希が初めてを兄貴に捧げたのも嘘じゃない。二人にとって大切なのは、たった今、している現実。でしょ?」

 そういって、あずきは自分の頭の横でくるりと指先を回した。

「催眠術って、人を惑わして操る、おっかない技術よね。でも、使い方次第では、現実よりも素敵な現実を作ることができる。誰かの願いで生まれる現実。人は夢の世界に生きたっていいと思うの。あたしは、みんなの幸せを繋げる催眠術師になりたい」

 希ちゃんの体はまだ痛みに震えていて、噛み締めすぎた唇も白くなっている。
 涙もポロポロ流れて、気の毒なくらい痛々しいのに、俺と目が合ったとたん、嬉しそうに笑うんだ。

「ありがとう、匠くん……私、嬉しい…ッ」

 俺たちが希ちゃんにしたことが、正しかったとは思えない。あずきの催眠術を恐ろしいと思う気持ちもある。
 でも、希ちゃんと愛し合って繋がったこの幸福感を、嘘だとは思えなかった。

「やったじゃん、兄貴。どーてーそーしつ、おめでと!」

 あずきに頭をベシンと叩かれる。「いっ」て歯を剥き出しにした、一瞬のぎこちない笑顔。
 それが妹の照れ隠しだってことくらい、ロストコミュニケーションな兄でも余裕で推察できた。
 
「あぁ。ありがとな、あずき」
「ん」

 そっぽ向いて髪をかき上げるあずき。そして、俺は希ちゃんの涙を拭う。

「ありがとう、希ちゃん。俺もすっげー嬉しい」

 希ちゃんは俺の手を握って微笑んだ。彼女の涙は止まらないけど、慰めも感謝の言葉も必要なかった。
 俺たちは愛し合ってるから、もう余計なものはいらない。

「それじゃ、バコバコしちゃえば?」

 ちなみにこの場で一番余計なのはこの妹なのだが、同時に一番頼りになる存在でもあるという、ややっこしい事態はまだ続いていた。

「…ん、じゃ、動くよ、希ちゃん」
「はい…んんっ」

 少し引き抜いて、また戻す。ゆっくり決めたはずなのに、希ちゃんはつらそうに眉をしかめる。

「だ、大丈夫、だから……」

 どう見ても痛そうだった。さすがに童貞の俺にも、無神経に腰を動かすことは出来なかった。ゆっくりと、抜き差しというよりは揺するような運動で、希ちゃんの中を動く。

「うっ、うっ、んっ、大丈夫、うっ、だいじょう、ぶっ、だよ…っ、んっ、うっ、うっ」

 俺を強く締め付けてくる快感だけで、イキそうだった。でも、もう少し踏み込んだ快楽が欲しくても、これ以上を希ちゃんに求めるのは酷で、じれったい動きを続ける。

「……しょうがないなぁ」

 やっぱり俺には、超天才美少女催眠術師の助けが必要だ。希ちゃんの隣に寝そべり、彼女の耳元に唇を寄せるあずきに、正直、ロマンチックが止まらなかった。

「希、レッスンの時間よ」

 いつの間に暗示ワードまで決まっていたのか、希ちゃんの目が、その瞬間に光を失った。
 被暗示状態の弱々しい瞳。彼女のような美少女にそんな力ない表情をされると、なんだか、猛烈に襲い掛かってやりたい衝動にかられてしまう。
 あずきは、ニヤリと笑っていた。

「ちょっと動かしてみ。あんまり乱暴しちゃダメよ。ちょっとだけ」
「あ、あぁ? こういうこと?」

 俺は、さっきと同じように腰を動かした。

「ふっ」

 希ちゃんは、俺の腰に合わせて肺から空気をこぼしたが、うつろな目をしたままだった。ゆっくりとした呼吸が、彼女の胸を上下させている。

「ふっ」

 もう一度やってみた。希ちゃんは、焦点の合わない瞳を天井に向けたまま、また吐息を一つだけこぼした。
 それは―――とても興奮できる光景だった。

「……もっと動いて大丈夫か?」
「うん……大丈夫、かな……たぶん」

 あずきも手探りのようだが、一応、ゴーサインも出た。俺は逸る気持ちを抑えて、連続して腰を動かす。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 吐息だけで、表情すら動かない希ちゃんを犯す。なぜか、俺自身でも分からないが、それはすごく興奮できるシチュエーションだった。
 ゴクリとあずきも息を飲む。催眠術師も、希ちゃんの反応に興味しんしんのようだ。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 ラブドールを抱くってこんな気持ちだろうか。いや、そんなのきっと比べ物にもならないんだろう。
 俺が抱いているのは、紛れもなく本物の岸月希ちゃんで、そして、彼女は今は人形の状態。
 生きてる美少女を人形のようにして抱くってのが、俺の嗜好にこんなにハマっちまうとは。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 胸がたぷたぷ揺れて、あそこもぐちょぐちょ言って、そして、この呼吸音。
 エスカレートしていく自分を抑えられない。どんどん腰は大胆に動くようになっていた。ベッドがギシギシ鳴っている。
 あずきが、うつろな希ちゃんの耳元で暗示を施していく。

「希、聞いて。今、新藤匠があなたの体を貪っている。あなたの体はそれを認識しているけど、眠っているから反応はできない。一方的に犯されるだけ」
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 貪っている。それは確かに今の俺の行為を的確に言い表していた。
 俺のセックスをだらりとした体で受け入れている希ちゃんに、あずきの催眠ワードが注がれていく。
 上気した美少女の顔が二つ並んで、なんだかすごく扇情的だった。

「あなたは、新藤匠に犯されることで彼の愛を感じる。幸福を感じる。どんなに無茶なことをされても、それは愛で、あなたの喜び。感じるでしょ? すばらしいでしょ? あなたはきっと、新藤匠に抱かれるために生まれてきたのね」
「ふっ、ふぅっ、ふっ、ふっ、ふぅっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふぅっ、ふっ、ふっ、ふっ!」

 呼吸が少し荒くなっていく。快楽のキーワードが、深い眠りの中にいる希ちゃんの脳を蕩かせていく。
 新藤兄妹に、体と脳を同時に犯される希ちゃん。
 俺は……すごく興奮している。

「ふぅっ、ふぅ、ふぅ、ふっ、ふぅっ、ふぅっ、ふっ、ふぅっ、ふっ、ふぅっ、ふぅっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふぁっ、ふぁっ!」
「あたしたちに教えて。あなたは今、誰に、何をされているの? どんなことを考えて? どんな風に体は感じているの? あたしが手を叩いたら、あなたの体と口は目を覚まして、見たもの、感じたものを正直にあたしたちに教えるの。いい? ちゃんと口に出して説明してね。あなたが、兄貴に抱かれてどれだけ気持ちいいかを」
「ふぅっ、ふぅっ、ふぁっ、ふぁっ、ふっ、ふぅっ、ふぁっ、ふぁっ、ふあっ! ふあっ! あっ、ふぅっ、ふあっ、ふあっ、あっ、あっ、あっ!」

 パン。
 あずきが手を叩いた。
 希ちゃんの目に光が戻って、体がぎゅううって仰け反った。

「ああああぁあぁぁあッ!? た、匠くんにセックスしてもらってますぅぅッ!」

 つんざくような声で、希ちゃんは「セックス」と言った。俺の手を強く握り締め、全身を痙攣させた。
 ショックで出しそうになってしまうのを、俺は必死に堪えた。

「た、匠くんが、私の中にいます! 私の中を、た、匠くんのおちんちんで、愛してもらってます!」

 おちんちん。希ちゃんの口からそんな言葉を聞ける日が来ようとは。
 なのに、彼女の口は止まらない。俺への愛と、セックスの快楽を、脱ぎ乱れた制服の体をばたつかせながら、必死で告白を続けている。

「おちんちんで、ぎゅっ、ぎゅって、私の、お、おまんこ、突いてもらって、ああんっ、体が、バラバラになりそうなくらい、気持ちよくって、あんっ、あぁっ、気持ちよくって、あぁ、私、死んじゃいそうです! 嬉しくて、死んじゃいそう!」

 人形状態から、一気に火がついたような乱れっぷり。
 俺の脳みそも沸騰する。希ちゃんのこんな姿を見てしまったら、もう我慢できない。こんなこと言われたら、俺はもう止まらない。一瞬で俺の頭は真っ白になっていた。

「あぁぁぁああッ!? な、なにか当たってるっ。私の中で、匠くんのから、あっついの、出てます! 私の奥に、入ってきてますぅ!」

 やりきった。
 天国を垣間見たと思ったら、俺はそこに達していた。
 希ちゃんの中で脈打つ俺の息子。初陣にして一番手柄を果たした自慢の息子。
 俺は彼に全てを託して、一足先に天国へと旅立っていた。

「ちょ、中に出してるの!?」

 あずきに尻を蹴っ飛ばされて、ぬぽんと俺のが中から抜き出た。あずきは慌てて、希ちゃんの前で指を鳴らす。

「希、寝て。そして、よぅく聞きなさい。あなたは妊娠しない。中に出されても妊娠しない。あなたが妊娠するのは、結婚してから。独身中のあなたは中出しされても妊娠しない。信じて。全力で信じて。あなたの一番深いところで約束よ。妊娠しない。妊娠しない。妊娠しない……」

 そして俺はまだ天国をさまよっていた。
 俺の童貞が、俺の見ている前で天国の階段を昇っていく。
 「もういくのかい?」『そうだ』「世話になったね」『元気でやれよ』
 少しだけ寂しくなるけど、大人になるためには必要な別れだ。
 過ぎ去っていく童貞の背中を見送りながら、俺はこの夏、バイクの免許でも取りに行こうか考えていた。

「このバカッ!」
「ふぐっ!?」

 みぞおちにあずきの踵がめりこむ。鮮烈な衝撃が、俺を天国から引きずり下ろした。

「何を賢者面でたそがれてるのよ。あんた、女の子の体を何だと思ってるの! 言っとくけど、あたしの避妊催眠だってただの保険だからね。何にも保障できないわよ。妊娠したら、あんたに責任取れるの?」
「うぐ……」

 返す言葉もない。妹の説教は、蹴りよりも強烈に胸に響いた。

「てか、早漏」
「ぐはっ!?」

 むしろ、言葉の暴力だ。

「まったく……次はちゃんと外に出してよ」
「え? 次?」
「だって、まだするんでしょ? 兄貴のそれ、ゴーイングメリー号みたいになってんじゃん?」
「あっ、いや、これは…ッ!」

 そう。俺のはまだやる気だ。張り切ってた。
 あれだけの興奮なんて生まれて始めてだから、限界を超えて張り切っている。
 だけど、仮面処女を失ったばかりの希ちゃんに2連続なんて無理をさせるのは心苦しい。てか、中出しした直後だし。
 ちらりと希ちゃんの方を見る。くったりした体で、でも熱い瞳で俺をしっかりと見返していた。

「私は、もう匠くんのものだから……」

 俺とのセックスを乗り切ったせいなのか、希ちゃんの表情には、少し自信のようなものが感じられた。

「……匠くんのしたいこと、全部できるよ」

 ―――いくぜ、ゴーイングメリー号。
 希ちゃんの天使の笑顔は、俺の全身にパワーをくれた。
 再び彼女の上に乗る俺を、希ちゃんは笑顔で受け止めてくれる。
 俺の彼女だ。俺のオンナだ。
 胸いっぱいに喜びを膨らませ、キスをする。そして、彼女の中に自分を埋め込んでいく。

「入ってくる……んんっ、匠くんのが、んっ、また、私を抱いてくれたぁ…あんっ…」

 希ちゃんはすごく可愛い。俺のことをすごく愛してくれている。

「あんっ、あっ、動いて、ますっ、匠くんのおちんちんが、私の、おまんこの中で、あんっ、あんっ、すごいっ、私、すごい気持ちよくて、あんっ、匠くんのおちんちんに、んんっ、女にされてるっ、んっ」

 どうしてこの子は、こんなに可愛いんだろう。俺は、すっげぇ幸せ者だ。

「俺も気持ちいいよ、希ちゃん!」
「あぁ、嬉しい! その言葉が、本当だったら、私すごく嬉しい! ありがとうっ、私、幸せですっ、あなたに、んっ、抱いてもらえて、んんっ、うれしい、よぉっ、好きっ、あぁっ、好き、大好きぃっ、匠くんっ、匠くぅん!」

 俺は夢中になって希ちゃんの中で腰を振る。すぐに出ちゃいそうになるのを、必死で堪えた。
 もっと味わえ。今の幸福を、一生忘れられないくらい。
 あずきは、希ちゃんの隣にのそっと寝転んで、彼女のお腹をさすりながら耳元に呟く。

「……ここの中に入ってるのが、あなたの幸せよ。あなたがずっと見つけられなかった幸せ、ここに入ったの。絶対に大事にしてあげて」
「はいっ、あんっ、私、大事にします! 私の、あぁ、た、宝物です!」
「兄貴に、ずっと尽くしてあげてね。新藤匠をずっと愛してあげて。何があっても、何をされても、あなたは耐えて愛するの。昭和の女だからね」
「はいっ! 私は、尽くして、耐えて、昭和の女になります!」

 希ちゃんは胸の前で手を組んで、愛の誓いにうっとりと頬を緩める。
 てか、昭和の女ってどんなんだよ。

「あと、ちゃんと避妊だからね。やりまくっても妊娠はだめ。これ大事よ。ちゃんと外出ししてもらうのよ」
「はい!」

 確かにそれは大事なことだ。
 でも、避妊具なしで挿入している時点ですでに妊娠のリスクは発生しているということを、このおませな天才催眠術師は知っているんだろうか。
 外出しすれば大丈夫なんて、今時の中学生にとっては危険な思い込みなのだが、まあいい。たぶん大丈夫だ。
 そもそも、俺もゴムの用意してなかったしな!

「……この中に、兄貴の……入ってんだ」

 暗示が終わっても、あずきは希ちゃんのお腹をさすっていた。
 そして、俺に突き上げられてる希ちゃんの体に、ぴたっと体を寄せて、俺を見上げてきた。

「兄貴が、せっくすしてる……」

 上気した目の周りがボウと赤くて、その中心にある瞳も潤んでいた。
 希ちゃんと並んで俺を見上げる姿は、まるで……二人とセックスしてるみたいだった。

「あぁっ、あぁっ、こすれる…っ、こすれてるっ…!」
「な、何が? 何がこすれてるの、希?」
「匠くんのおちんちんです! おちんちん……私の、お、おまんこの壁、こすって……気持ちよくしてくれる…!」
「お、おちんちん……兄貴のおちんちんが、中をこするの……?」
「こするのぉ! こすって、んんっ、あぁ! 今、一番奥、コンって叩いた! ビリビリするっ、私の、おまんこ、から、体全部っ、ビリビリした…!」
「ひくっ……」

 ぎゅっと、あずきは希ちゃんの体にしがみつく。
 激しく跳ねた体を抱きとめようとしたんだろうか。そのまま、俺に抱かれる希ちゃんの体を抱きしめる。

「ううっ、ううっ、す、ごいっ、あぁ、すごい! すごい!」
「……な、なに……どうしたの、ねえ……?」
「体が、止められ、ない…! 匠くんに、ごつん、ごつんされたら、そのたび、体壊れちゃいそうですっ、あぁっ、あそこ、熱い……おまんこ、熱いィ!」
「……~~ッ」

 あずきは、真っ赤になって希ちゃんにしがみつく。その姿に、俺はとても危険な気持ちになってしまいそうになる。

「あ、あずき、離れてろよ…」
「えっ、な、なんでぇ?」
「ていうか、もう、いなくていいって。気が散るだろ」
「ひっどい……誰のおかげで、こんな……エロいこと出来てると思ってんのよ!」

 それは間違いなくお前のおかげだ。
 お前は天才だ。超天才美少女催眠術師だ。
 そして……紛れもなく魅力的な外見をした、俺の妹なんだよ。
 熱を帯びた潤んだ瞳と、上気した頬。体の線に貼りつくTシャツ。ぴっちりしたショートパンツ。
 お前が生意気なスタイルしているなんてことは、毎日会ってる俺が一番良く知ってる。だから、あらためてベッドの上で鑑賞しちまうと、身内とはいえ複雑なんだよ。
 てか、そんな怖い面したって、美少女は美少女なんだよ、このクソ妹!

「いいから、もう邪魔なんだって。子供は下でアニメでも観てろ」
「むむむ……生意気。じゃあ、思いっきり集中させてあげるわよ!」

 あずきはムスっと口をへの字に曲げると、俺の前で両手を合わせた。
 なに? ごめんってこと?

「止まれ」

 パン。
 あずきが手を叩いた。
 と、思った。
 それは俺の気のせいだったかもしれない。

「……いい? 兄貴はケダモノよ。セックスになると見境のないケモノ。本能を剥き出しのエロエロビーストになっちゃいなさい」

 気のせいだったかもしれないけど、俺は誰かに命令を受けた気がした。
 いや、俺にじゃない。
 俺の中に眠る、九尾のケルベロスにムチが入ったのだ。

「わおおおおおおンッ!」

 全身の血が滾った。脳内麻薬に溢れた。いろいろと捗った。
 俺が今、貫いている女体。それを貪れと本能が雄たけびを上げている。

「ひゃぁぁン!? すご、すごいっ、やっ、強い、匠くんっ、あぁっ、すごいぃ!」

 希ちゃんの体を、ぶつけるようにして揺する。もっともっと奥に入りたい。彼女の中から突き破りたい。
 この快楽を与えてくれる彼女を、壊してもいいから貪りたい。

「た、匠くん! 匠くん! あぁっ、あぁっ、怖い! すごすぎて、怖いぃ!」
「えっと……ちょ、ちょっと、大丈夫なの? 待って兄貴、そこまでしなくても……」

 そして、希ちゃんの隣にはあずきがいる。
 血の繋がった妹。生意気なやつ。俺のことをずっと無視してたくせに、なぜか希ちゃんとセックスさせてくれた、よくわからないやつ。
 そして、こいつも女だった。とびきり魅力的な女だ。

「あずき……」
「……え?」

 自分でも、どうかしてると思った。絶対に、変だと思う。
 でも、止まらなかった。腰は希ちゃんの体を犯し続けている。そして、腕はあずきの肩をべッドに押さえつけている。
 唇は……妹の口を狙っている。

「んくっ!?」

 柔らかいと思った。希ちゃんの唇よりはちょっと固いけど。それは、あずきの全身がものすごく緊張してたからだ。
 いつものしゃっくりみたいな声を出して、あずきは目を丸くする。そして唇を離すと、目にじわっと涙を溜めた。

「あ、兄貴に……キス、された……?」

 唇を指でなぞって、顔を歪める。あぁ、俺、とんでもないことした。妹にキスした。
 自分のしたこと、今、立ち止まったらすごい後悔する。それがわかったから、俺は、それから逃れるように、もっとあずきを求めた。ケダモノの本能に身を任せてしまったんだ。

「んーっ!?」

 がっちりと閉じた口。俺はそれに強引に自分の唇を押し当てる。
「んーっ、んーっ」

 あずきのうめき声がする。それは、俺に犯されてる最中の希ちゃんの喘ぎ声より、耳に入った。

「やっ、な、何してんのよ、あんた…んーっ! や、やだってば、んっ、んーっ」
「あっ、あっ、匠くん、強いっ、あんっ、そこ、だめっ、壊れちゃう、あんっ」

 セックスが俺たちを狂わせていた。
 希ちゃんは俺の強引な腰の動きに乱れ、あずきは涙を滲ませる。
 固く閉ざされたままのあずきの唇。でも、俺の体を無理に跳ね除けようとはしていない。
 テンパってるのあずきも同じだ。中途半端で止めたら、こいつ絶対、親に言う。
 だったらこのまま、押し流してやろうか。
 などと、いつもの俺ではありえないようなオスっぽいことを、俺は平気で考えていた。あずきという“新しい獲物”を貪るのに夢中になっていた。
 兄貴のくせに。

「くそ。だから、出ていけって言っただろ……今の俺、すっげー危ないんだからな、はぁ、はぁ……」
「やめ、バ、バカっ、んっ、ヘンタイっ、んっ、ヘンタイ兄貴、んっ、ひゃうっ!?」

 生意気な口を改めないあずきの、首筋をべろりと舐め上げた。ビクビクンと体を震わせるあずきの両手首を押えつけ、耳まで齧ってやった。

「ヘ、ヘンタイっ、ケダモノぉ、うぅっ、や、やめてよぉ」

 胸元まで真っ赤にして、涙声であずきは講義の声をあげる。もう一度、俺はあずきの唇を塞いだ。
 油断していたのか、開きっぱなしだった歯の間に、俺は舌を潜り込ませた。

「んんーっ!」

 くちゅ、くちゅ、あずきの小さな舌をこねくり回す。希ちゃんの口の中より、少しミルク臭い気がした。

「んっ、んむっ、むぅっ…ん…くちゅ…」

 妹とキスしてるのか、俺。
 しかも希ちゃんとセクロスしながら。
 よくよく考えるまでもなく、自分でも何してんだよって感じだが、冷静になろうとしても獣欲が理性を押し流す。
 おれはあずきから唇を離した。

「ぷはぁ……はぁ、はぁ……あ、兄貴のバカぁ」

 顔を真っ赤にして、あずきは涙ぐんでいる。でも俺は、こいつを解放するつもりで唇を離したんじゃない。
 手を、あずきの胸に這わせた。

「やっ、やっ、どこ触って、んんっ!?」

 再び、唇を塞ぐ。手は胸を揉んだまま。
 生意気なおっぱいだ。希ちゃんほどではないが、この年でこの充実サイズということは、かなりのポテンシャルを秘めているということだろう。
 女になりかけている、大事な時期の少女の体だ。

「んんっ、やぁっ、スケベ、やっ、んんっ、くちゅ、んん、はぁ、んっ、ちゅっ、もう、ちゅっ、ダメ、それ…反則…んっ、やだぁ、もう、んんんっ」

 生地の薄い布ブラのせいなんだろう。Tシャツの上からでも、あずきの胸の先端がわかった。
 それは、服の上から摘めるくらい、生意気にコリコリと尖っていた。それがますます俺を興奮させる。

「あずきのあずきがあずきみてぇになってんぞ、はぁ、はぁ……」
「バ、バカっ、ヘンタイっ、も、いやぁ……」

 ぐちょ、ぐちょ、希ちゃんと俺の結合部がいやらしい音を立て、あずきは俺のキスとパイ揉みに翻弄される。
 俺はケダモノだ。最高のケダモノだ。
 美少女二人を、この手に抱いている。

「んんっ、バカ兄貴…んーっ、ちゅぷっ、やだ、んっ、もう、やだ…ん…んっ…」

 細いくせに、胸のはっきりした妹の体。まだ固さを残した青い果実っていう、エロ小説によくある表現がぴったりきた。
 妹にこんなことをしてる自分を気持ち悪いと思うのと、だからこそ、すっげぇことしてるっていう興奮が同時に来る。
 そして、あずきの神業じみた手コキを思い出す。
 普段はあれだけ生意気なくせに、俺にキスされただけで泣いちゃうか弱い妹。なのに、とっくに男の調教済みだっていう意外な事実。
 複雑な気持ちがまた湧き上がってくる。
 誰だよ、ひとんちの妹にあんなこと仕込んだやつ。そいつもこうやって、嫌がるあずきにキスしたり、胸揉んだりしたのか。そんで、手コキさせたりセックス教えたりしたのか。
 まだ中学生だぞ、ふざけんな。あずきはまだまだ新藤さんちの女の子だ。よその男が勝手に手ぇつけてんじゃねぇよ。
 獣じみた怒りが、俺の頭を熱くする。
 俺はあずきの体を抱きかかえていた。
 そして、まだ繋がったままの希ちゃんの腹の上を跨がせていた。

「やっ、なに? 何してるのよぉ?」
「匠くん…あっ、あっ、あっ、私…っ」

 希ちゃんの中に抽送を続けながら、あずきの小さい体を抱っこする。

「ちょっと、兄貴、何……ん、んんっ、ちゅぷっ」

 そして、逃げられなくなったあずきの唇を塞いで、希ちゃんの体と一緒に揺する。

「なに、んっ、これ、んんっ、わけ、わからないィ…んっ、ちゅぷっ」

 あずきの腰が、希ちゃんの上で揺れる。希ちゃんのエロい喘ぎ声が、俺たちの頭をどうにかさせてしまう。

「あっ、あんっ、あぁ、た、匠くんの、ますます、大きくなって、あぁんっ、すごいですぅ!」
「んっ、バカ兄貴、んぷっ、バカ、もう、バカぁ」

 あずきの尻に手を回す。小ぶりな尻がキュッと緊張する。
 でも、この体勢で俺の手から逃れる方法はない。俺は思うさま妹の小さな尻を撫で回す。
 まるであずきを犯してるみたいだ。すげえエロい。なんだかこれは、とんでもなくエロいことしてる。

「やだっ、えっち……えっちぃ…」

 そしてそのまま、大きく開いた股の間に手を伸ばした。ぴっちりしたショートパンツは、すでに湿り気を帯びていた。

「ひゃぁう!? どこ触ってんの! やだっ、やだっ、そこやだぁ!」

 もちろん、逃すはずがない。俺はそこを、柔らかくて湿ったそこを、指で何度も往復させる。
 あずきの形を探るように。

「やっ、やぁっ、もう、ほんとに、やだぁ……」
「匠くん! 匠くん! んんっ、いいっ、気持ちいいです! 好き、好き、匠くん、好きぃ!」

 今、俺が抱いているのは、初恋のあの子だ。大好きな女の子だ。
 なのに俺は、違う子に夢中になっている。
 俺の腕の中で泣いてる子だ。大事なところを触られて、泣きながら尻をくねらせている女の子だ。
 生意気で、小さくて、気が強くて、可愛いやつ。
 妹のあずきを抱いていることに、俺は夢中になっていた。

「あずきっ、あずきっ!」
「ひゃっ…やっ…んっ、んぷっ、ちゅぷ…やっ、んっ、だめ…んんっ、だめ…ッ!」

 腰から下は気持ちよすぎて感覚まで飛んじまってる。
 上はあずきの頭をなでて、キスして、あそこを触ることに夢中になっている。
 異常だ。俺はマジでケダモノ。
 自分の性欲のためならなんでも出来る感じ。いつまでもこんなめちゃくちゃを続けていたい。
 興奮が高まって、頭がぼうっとしてきて、何もかもわからなくなっていく。
 だから、これは幻覚とか幻聴とかいう類のものだったに違いない。
 俺に翻弄されてるあずきの両手が、助けを求めるように俺の背中に回り、ぎゅうっと抱きしめてきた。
 そして、甘えた声で俺を呼んだ気がしたんだ。

「……おにい、ちゃんっ……」

 その瞬間、俺の体が緊急事態を発した。
 血液が沸騰して、股間から熱い塊が湧き出る。寸前で引き抜けたのは、自分でも奇跡だった思う。
 びゅる、びゅる、尿道が裂けるか溶けるかってくらい、大量の熱い精液が、勢いよく飛び出した。
 マジで失神するかと思った。本当に視界が真っ白に消えかかった。
 荒い息をついて、ベッドに腰を落とす。そして、目の前の光景の凄まじさに、思わず「うおっ!?」と声を上げる。
 希ちゃんのお腹の上、びっくりして固まったあずきの体は、股間から、胸から、そして顔まで、俺の精液でべっとり汚れていた。

「あ……あ……」

 みるみる真っ赤になっていくあずきの顔。そして、立ち上がると同時に、俺の顔面に強烈な蹴りをめり込ませてきた。

「ぐふっ!」
「バカ兄貴ぃ!」

 ひっくり返った俺の目に映るのは、涙をボロボロ流して怒るあずきの顔。そのまま部屋を飛び出していく。

「だ、大丈夫、匠くん?」

 二人っきりになったベッドの上で、希ちゃんが優しく俺を顔をさすってくれる。

「……大丈夫……希ちゃんの方こそ、大丈夫?」
「え、あ、うん。大丈夫。心配してくれて、ありがと……」

 乱れた制服をそのままに、恥らう希ちゃんの仕草はマジ天使と思えるくらいに可愛い。

「あの……抱いてくれたお礼を、させて?」
「お礼?」
「……匠くんの体を、きれいにさせて欲しいの……」

 そういって、希ちゃんは俺の股間に顔を沈める。
 くちゅ、くちゅ、生温かい感触に包まれて、俺の腰がびりりと痺れる。

「希ちゃん……処女だったくせに、そんなこと……」
「あの、でも、匠くんのために出来ることなら、私は……ぬちゅ……い、いやらしい女の子だと思う? 軽蔑する?」
「しないよ……もっとして」
「は、はいっ、んちゅ、くちゅ、んんー」

 希ちゃんの小さな頭が、俺の股間で前後に揺れてる。
 夢にまで見た光景。妄想してたとおりの嬉しいセリフ。
 それは正直に俺の股間を反応させていく。

「あ……このまま、続けるね……んちゅっ、くちゅ、んぷ……」

 でも、頭の中は別のことでいっぱいだ。さっきのあいつの顔がぐるぐる回ってた。

 俺……あずきを泣かしちまった。

 ―――ということがあってから、1ヵ月がすぎた。
 とんでもない事件だったわけだが、新藤家の中では特別大きな変化は起きていない。
 せいぜい、俺にものすごい可愛い彼女が出来たことに、父と母が揃って腰を抜かしたくらいだ。

 あずきとの関係も、全然変わってない。
 何度も謝ろうと思ったが、話も聞いてくれなかった。
 真っ赤な顔して怒って、プイと顔を背けて、それっきり。廊下ですれ違うときも、端っこまで避けあう二人。
 まるで何も変わっていない。この数年間と同じ兄妹だ。
 つまり、冷え切った関係がずっと続いている。

 学校では、すげぇ変化があった。
 もちろん希ちゃん……いや、希のせいなんだけど。

「たっくん、おはよ」
「おぉ、なんだよ。教室で待ってていいって言ったのに。毎朝、校門で待つことないって」
「えー、でも、1分でも早くたっくんの顔見たいし……迷惑?」
「なわけねーし。じゃ、教室行こっか」
「あ、待って。カバン持つね」
「いいよ。これくらい自分で持つって。希がそこまですることないって」
「違うよぅ。空いてるたっくんの手でね、希をぎゅってして欲しいだけ。えへ」

 そんな感じで毎朝べったべたにくっついて登校する俺たちに、学校中が騒然としたわけだ。
 もちろん、「岸月希の隣にいる男は誰だ」って感じで。希を落とすような男が、うちにいたのかって。しかも、超地味じゃねって話で。
 数々の噂や嫉妬や買収の話が持ち上がったが、俺たちのラブを引き裂くことは誰にも出来なかった。
 なにしろ、熱烈なのは希の方なのだ。
 4、5人はいた彼氏どもは「誰ですか?」の一言で忘却の彼方へ追い込み、俺でもいけるならと勘違いした同校のヤローどもも「ごめんなさーい」で撃沈し、「世界で一番好きな人」と公言してはばからない俺への愛を、全世界に見せびらかしてくれた。
 
「たっくん、かっこいー!」

 体育の時間となれば、たいした活躍もしていない俺に黄色い声援を送り、毎日作ってくる弁当も最近は味が安定してきたし、のりで作るハート型も上手になってきた。
 
「私、たっくんの隣じゃなきゃやだー」

 席替えでもあろうものなら、学校のお姫様ぶりを遺憾なく発揮して、俺の隣を無理やりにでもゲットする。
 でもそんな強引さを見せたかと思いきや、俺の隣にいるときはしおらしく、トイレに行ってる間にシャーペンの芯を足しとくとか、次の授業の用意をしてくれるとか、お姫様とは思えないような世話女房っぷりを発揮する。
 なんでも最近は、昭和の演歌とかをよく聴くようになったそうだ。「女心が刺さる」とか言って。
 ついでに、周りの俺への評価も変わってきた。あの岸月希をここまで夢中にさせた男として、学校でも一目置かれるようになったきた。
 ひと月も経って、近頃では俺の隣に希にいるのも当たり前と思われている。
 俺は、岸月希のオトコになっていた。

「ね、今日も、たっくんの家に行ってもいい?」
「いいよ」
「じゃ、じゃあ、その、今日はたっくんが喜ぶことしてあげたいなーって思うんだけど……何かある?」
「俺の喜ぶこと? なんで?」
「だ、だっていつも希ばっかり良くしてもらっちゃって、悪いもん」
「いいんだよ。俺が希の喜ぶ顔見たいんだから」
「でも、そればっかりじゃ希がヤダよ。たっくんに、してもらうだけの厚かましい女だと思われたくないもん……ねえ、希にして欲しいこと言って? なんでもするから、お願い」
「じゃあ、今日はまずしゃぶってもらって」
「え、やった。今日もしゃぶらせてくれるの? 嬉しいな。あのね、昨日もあれからバナナで練習したんだよ。上手に出来たら、またご褒美ミルク飲ませてね?」
「あとパイずりもしてもらって」
「あ、うん。希、それも好きだよ。あれ、すっごい幸せな気分になるんだぁ。早くたっくんのおちんちん、おっぱいで抱きしめてあげたい!」
「そんで本番は淫語プレイかなぁ」
「え、うそ! あのねっ、希も、今日はそういうのいいかなあって思って、授業中とかに、たっくんが喜びそうなセリフいろいろ考えて、ノートに書いてたんだよ。あとでたっくん、赤ペン先生してね?」
「で、最後は希の体を縛って、ソフトSMしちゃおっかな」
「あ…うん、それも、すごく好きです…希はたっくんには逆らえないんだってこと、体に教えてもらってるみたいで…そ、想像しただけで、もうダメかも…」
「それじゃ今日はこんな感じでしよっか?」
「え、ダメだよぉ」
「なんで?」
「だって、それじゃまた希ばっかり嬉しいプレイだもん。今日はたっくんのためのエッチしたいのっ」
「いや、無理だって。希って、結局俺に何されても嬉しいじゃん?」
「あ、そっか。そういやそうだね。あはは」
「ったく、しょうがないやつだな」
「あんっ、たっくん…ちゅぷ、んん…周りにまだ、学校の人いるよ…?」
「いいじゃん、見せつけてやろうぜ。キスしながら帰ろう」
「はい、たっくん…んっ、ちゅぷっ、んんっ…たっくん、大好き…れろ…」

 まあ、こんな感じで世界中から爆発しろって言われるような毎日を送っている。
 俺の青春は輝かしき充実と幸福に溢れている。隣にはいつも最高の美少女。
 不満なんてあるはずなかった。

「……はぁ」

 真夜中のリビングで、俺はため息をつく。
 親はとっくに寝てるし、あずきも自分の部屋でもう寝てるだろう。
 テレビの電源を入れて、録画リストから先週予約してたNNP48の特番を再生した。
 ここ最近、希と遊んでばかりで、見たいテレビも見ていなかった。もちろん、テレビなんかより希とイチャイチャしてるほうがずっと楽しいからなんだけど。
 それでも、今日はなんとなく「用事ある」って言って、付き合って初めての「デートしない日」にした。
 希は文句一つ言わなかったけど、やっぱり寂しいのかメールは頻繁にやってくる。
『返事はいらないからね』と、決まって最後に書いてるメールは、俺に愛情と気遣いを尽くしてくれる彼女の優しさをひしひし感じた。
 明日はうんと優しくするさ。でも、なんか、今日はごめんな。
 ずっと心に引っかかったままのことが、とうとう重たくなって、一人になりたくなっちまった。
 だからと言って、自分から何か出来るわけでもないくせに。

 あずき、まだ怒ってるよな。

 当たり前だ。なんだかんだで、俺のためにいろいろ動いてカノジョまで作ってくれたのに、めっちゃくちゃひどい目に遭わされたんだから。
 実の兄貴にあんなことされるなんて、考えもしなかっただろうな。俺だって、妹にあんなこと、想像もしたこともなかったよ。
 自分でもどうしてあんなことしたのかわからない。エッチのときになると、どうやら俺はケダモノチックになるらしい。
 後悔だけはずっとしている。いつもどおりにあずきに無視されても、腹が立つより、申し訳ない気持ちの方がずっと大きい。
 あのとき、俺が暴走するまでは、かなり息の合った会話してた気がする。なんていうか、久しぶりにガキみたいに、あずきと一緒に大声出したり、ケンカしたり、そんで、笑ったりもしてた。
 俺がぶち壊しにしなければ、ひょっとして、希のことをきっかけに、少しは昔みたいに戻れたのかもしれない。
 それに……正直な話、あのめちゃくちゃな俺の初体験は、すごく楽しかったんだ。
 あずきがいたから、楽しかった。変な話だけど、妹に邪魔されたり協力されたりしながら、ぎゃあぎゃあ大騒ぎしてするエッチが、今にして思えば懐かしい。
 あずきは、どう思ってるんだろうか。
 あれから何回も希とはエッチしてるし、場所は主に俺の部屋だし、最近、淫語プレイにハマってる俺は、希に「おまんこ気持ちいい」とか「チンポありがとうございます」とか言わせまくってるし、隣の部屋のあずきに聴こえてないはずがない。
 まあ、もちろんというか、あずきがそのことで俺に何か言ってくることはないし、あえて俺が聴こえるようにエッチしていることも、ひょっとしたら気づいてて知らないふりしてるのかもしれないけど。
 はっきりアプローチできない情けない兄貴のこと、前よりもっと嫌いになってるのかもな。
 別に、「お前も一緒にエッチしようぜ!」とか、ヘンタイチックなこと望んでるわけじゃないんだ。あの時みたいに、たまには腹立つこと怒鳴りあったり、からかったり、笑ったりしたいってだけで。
 ようするに、俺はお前のこと嫌いじゃないし、よろしければ、兄とおしゃべりしませんかっていうことを……。
 あぁ、無理。そんなこっ恥ずかしいこと言えるか。てか、あんなことしておいて、どうして今さら兄貴ヅラできるんだよ。
 修復不能。自業自得。諦めろ、クソ兄貴が。

 テレビの中では、NNP48の女の子たちが楽しく歌ったりはしゃいだりしていた。
 希と付き合う前からハマってる、西日暮里を拠点に活動している地下アイドルたちだ。
 今やコンビニ商品からアダルトグッズ(もちろん不許可)まで制覇している国民的グループだが、何を隠そう、俺はそのへんのにわかとは違う初期からファンを自負していた。
 そして今は、次世代エースの呼び声も高い「大藤絵玲菜」ちゃんを推している。
 神と呼ばれる上位7名に最も近い子。年は俺より1つ上のまだ高2だが、愛くるしいキャラクターと完成度の高い美少女っぷりで、アイドルとしてのポテンシャルは実質ナンバーワンだと俺は思っている。
 しかも、やたらに整形疑惑の多い上位メンバーの中にあって、数少ない「無添加」が立証されている(ネットってすごいよな)神美少女なのだ。
 彼女のアップのシーンでHDDを止める。やっぱ可愛い。希よりも少し地味めだが、清潔感というか清楚感がすごい溢れている。
 この子は伸びると睨んだ俺の目は間違っていなかった。実際、俺がオナニー始めてからの最多出場は彼女だ。
 よし、今日は希ともエッチしてないし、久々にオナニーしようか。
 俺はパンツを下げて、自分のモノを擦り始める。

「あぁ……可愛いなあ、絵玲菜ちゃんは……」

 昔の彼女に会ったような、不思議な懐かしさだ。希に後ろめたいような気持ちを抱きながら、俺はオナニーを続ける。
 気持ちいい。やっぱり、たまには自分で自分を愛してあげなきゃね。

 かちゃ。

 そのとき突然、リビングの扉が開いて、慌てて俺は股間を隠した。
 ……が、気のせいだった。扉は開いていないし、誰も入ってきていない。

「なんだ、いつもの幽霊か」

 よくあることだ。もちろん、本気で霊が我が家に住み着いてるとかいうわけじゃないぞ。
 リビングとか、自分の部屋とか、風呂とか、たまにドアが開いたり誰かが入ってきたように錯覚することが、家にいるとよくあるんだ。本当にただの錯覚なんだ。

「ったく、驚かしやがって」

 まあ、昔からよくあることなので、俺は気にしていない。オナニーを続行する。
 そういた、最近はあまりなかったな。昔はよく部屋に入ってこられたような錯覚が多かった。寝るときとか、ほぼ毎日な。
 俺は高校に入るまでは、自分でオナニーなんてあまりしたことない。中学時代の通り名は「夢精マスター新藤」だった。
 夢の中で、いつも俺の布団に誰かが入ってくるんだ。そして、俺のアレを擦ってくれる。
 時には俺を意地悪になじりながら、時には媚びるように甘えながら。
 夢なので、相手がどんな顔してるとか、何を言ってるかなんてのは細かく覚えてない。
 でも、その気持ちよさだけは今でも忘れられない。
 最初はくすぐったいだけだったのに、夢のくせにどんどん気持ちよさが上達して、1年もすればすぐに俺を射精にまで導いてくれるようになった。それどころか、自分でするよりずっと気持ちのいい「夢の恋人」を待って、中学の俺はオナニーを捨ててた。
 その域にまで達していた俺の夢精レベルは、友人たちの間でも神として崇められていたぐらいだ。
 高校に入って、希に一目ぼれしたあの日の夜、股間に謎の激痛が走って以来、そういうのはなくなったが。
 まあ、そんなことはいい。今の俺には希と右手がある。

「あぁ、かわいいよ絵玲菜マジかわいい……」

 画面いっぱいに笑顔とピースを浮かべる絵玲菜ちゃんに、俺のハートと股間はキュンとなる。
 ごめんな、希。でも浮気とかじゃないから。
 だって絵玲菜ちゃんはアイドルだもん。遠くから憧れてるだけ。たまに握手会とかで声援を送るだけ。
 たまにこうして、ネタにしてるだけだからさ…!

「はぁ、はぁ、絵玲菜ちゃん、絵玲菜ちゃぁぁ…ッ!」
「ふーん、兄貴はこんなのがいいんだ?」

 脱糞するかと思った。
 鬼としかいいようのないタイミングで、俺の背後から、懐かしき冷め切った声が聞こえてきた。
 グギギと首を後ろに向けると、そこには我が妹が、ソファに座ってカチカチとケータイをいじってるところだったのだ。

「い…いつからいたの?」
「えー、最初っからいたけど? 兄貴がいきなりテレビ付けてオナニー始めるから、びっくりしちゃった」

 そ、そんなバカな。
 いくら怖いもの知らずの俺でも、家族のいる茶の間でオナニー始めるほど人間捨ててはいない。ちゃんと確認した。誰もいないはずだった。
 なのに、あずきは冷めた顔して、かちかちケータイをイジり続ける。「今さら兄貴のオナニーくらいで、何?」って感じで。
 短いスカートから伸びた足を、すらりと組んでいる。てかスカート短すぎだ。
 見えそうで見えない。見えそうで見えないわ。見えそうで見えないから2回も言っちゃうくらいに見えそうで見えないぞ、お前。
 などと、妹の足見てくだらないこと考えてる自分に嫌気がさして目を逸らす。

「兄貴、次はこの女がいいの?」
「へ?」

 あずきはケータイでテレビを指していた。画面は、絵玲菜ちゃんの天使の笑顔で埋まったままだ。

「あいかわらず女の趣味、さいあくー。ま、いいけど。それじゃこいつ、あんたにあげるわ」

 国民的アイドルグループの次世代エースに向かって、趣味悪いとか、あげるとか、何を偉そうに……って、あげる? くれるの? 誰に? 俺に?
 あずきはもう、絵玲菜ちゃんには興味なさそうにケータイに目を戻している。

「いつもまでも希みたいなブスにハマってるから、心配しちゃった。やっぱ男は、次から次に女を食ってナンボよ。次はこの女ね。決ーまり」
「お、お前、何言って……てか、絵玲菜ちゃんは無理ゲーだろ! 国民的アイドルだぞ!」
「楽勝じゃん。だってこいつら、バカみたいにしょっちゅう握手イベントやってんでしょ? あたしをそこに連れてってよ。2秒で兄貴に恋させてやるから」

 絶句した。
 まるでカブトムシの取れる場所を知り尽くしている名人のように、ヘラクレスオオカブト級のアイドルを、事も無げに「お前にやるよ」とあずきは言った。
 なにこの超天才美少女催眠術師…!

「い、いや、でも、俺には希ちゃんが…っ」
「別に関係なくない? あいつは兄貴が他に女作っても、金を巻き上げても、風俗で働かせても、黙って従うわよ。昭和の女なんだから」

 すげぇ時代だったんだな、昭和。

「つ、つーかさ、なんで? なんでお前、俺に、その、女をあてがってくれるの? ちょっとわかんないんだけど……」

 あずきは、ケータイをかちかちイジる手を一瞬止めた。そしてまた怒ったのか、少し顔を赤らめて、ボソッと呟いた。

「―――罪滅ぼしよ」

 罪……?
 言ってる意味がわからない。あずきは口調を速めて、カチカチすごい勢いでケータイのボタンを押す。
 壊れちゃうよ?

「あたしも昔はちょっと、催眠術でヤンチャしちゃってた頃もあったからさ。だから、まあ、ちょっとぐらいなら、誰かさんを幸せにしてやってもいいかなって思っただけ。そんだけ。深い意味ないし、感謝してもらうつもりもないから。兄貴は黙って鼻の下伸ばしてればいいのよ」
「でも、お前……」
「あーあ。もう、うっざいなぁ。いいからこの話は決まりね」

 立ち上がって、んー、と伸びをする。
 中学生のくせに生意気な胸がタンクトップの下で強調されて、そういや、俺ってそれ揉んだりキスしたりしたんだよなぁってこと思い出しそうになって、慌てて頭から追い出す。

「イベントの日、調べといてよ。あたしがちょうど暇な日だったら、その頭悪そうな女を兄貴のオンナにしてやってもいいから」

 ピシ、とケータイで俺とテレビを指して、あずきは「じゃ、ごゆっくり」と言って、気取った仕草で髪をかき上げ、ヒラリと手を振る。
 相変わらず、そっけなくてつれない妹。
 理由も結局よくわからない。ひょっとして催眠術で女を落とすって遊びに、俺を付き合わせているだけかもしれない。
 でも、あっけに取られてる場合じゃないなって、ようやく俺はカラカラの喉を開いた。

「―――待てよ、あずき」
「ひくぅっ!?」

 名前を呼んだだけなのに、なぜか、あずきはびっくりした猫のように肩を跳ね上げた。
 リビングの扉の前。妹の小さい背中。止まったままのテレビ。
 
「な、なによ?」
「あぁ……その……」

 妙な緊張感があった。あずきは俺に背中を向けたまま、どんな顔してるか分からないが、いつもの不機嫌な声の調子だ。
 俺は、自分が何を言おうとしていたのか、ちょっと分からなくなってしまったけど、とにかく、あずきから俺に話しかけてきたこのチャンスは、絶対に活かさなければならない。

「そ、その……ありがとな」
「へ?」
「あ、いや、絵玲菜ちゃんとか、希ちゃんのこととかじゃなくて……いや、それもありがとなんだけど……そうじゃなくて、その、俺と話してくれて、ありがとってこと」

 なんか、すげぇ情けないこと言ってるけど、でも、自分でも考えがまとまらない。かなりテンパってるけど、でも、この機会を逃したら、きっと、あずきが俺とまともに会話してくれるチャンスもないはず。
 だから、頭ぐだぐだのまま、俺は続ける。あずきは背中向けたままだ。

「俺さ……こないだのこと、忘れられないんだ」
「ひくぅっ!?」

 あずきはまた肩をいからせた。
 なんだ? 怒らせたか?
 だが、かまうものか。なんでもいいから喋れ。

「希としてても、どうしてもお前のこと思い出すんだ。あのとき、すっごく楽しかったなって」
「ひっ!?」
「なんていうか、物足りないって思うんだよな。その、カノジョとかいて、幸せは幸せなんだど……あずきとも、一緒に楽しみたいなって思ってた」
「ひっ!? ひぃ! ひくぅ!?」

 どうやらしゃっくりが止まらなくなったらしく、あずきは「ひくひく」肩を震わせる。
 でも、俺にはあずきを気遣ってる余裕なんてない。とにかく、今のうちに俺の謝罪と兄としての希望を伝えておきたい。

「逃げないでくれよ、あずき。俺の気持ちを受け止めてくれ」
「ひぃぃぃ!?」
「絵玲菜ちゃんでも、他の女でも構わないよ。お前が付き合ってくれるなら、俺、誰でもいい。何人でも抱くよ。……お前と一緒に」
「ひぃぃっくぅ!?」

 そうだ。あずきが唯一、俺と喋ってくれる機会が「催眠術で女を落とす」って遊びなら、それでいい。
 変な兄妹だけど、あずきの催眠術で俺たちが一緒に盛り上がれるなら、それでいいよ。
 もちろん、二度とあずきに変な真似はしない。それは当然のことだ。
 でも、今それを言っても気まずくなるだけなのは目に見えているので、あえてそこに触れる必要はないだろう。
 肝心なのは、あずきと俺が二人とも楽しめることをするってことだ。それがたまたま、催眠術でエロいことっていうだけで。
 でもそれが何でも関係ねぇよ。やろう。それが俺たち兄妹のルールだというなら。

「俺、マジで嬉しい。これから、いっぱいやろうぜ。俺とお前で」
「ひっ、ひぃっ、ひっくうううう!?」

 あずきはさっきから固まったまんまだ。しゃっくりの音しかしない。

「……どうなんだ、あずき?」

 言いたいことは言ったので、あえて横柄にあずきに尋ねてみる。恥ずかしくて顔が熱いぜ。
 でも、正直に気持ちを伝えられた清々しさはあった。
 あずきは、肩をひくひく震わせていた。
 てか、怒ってるのか?
 耳の後ろまで真っ赤じゃないか。なんで?

「……じゃないの」
「ん? なに?」
「バッッッカじゃないの!? 信じらんない! ヘンタイ! 死ね!」
「なっ!? お前、人がせっかく恥ずかしい思いで―――」
「わあああああッ!」

 あずきは真っ赤な顔で俺を怒鳴りつけると、バターンとリビングの扉を叩きつけ、ズダダズベタンと2階に駆け上がり(途中で転んだようだ)、ズドーンと部屋のベッドにダイブしたようだ。

「……なんだよ、急に?」

 よくわからんが、またあいつの機嫌は悪くなったようだ。難しいやつだな
 でもまあ、俺の気持ちは言えた気がする。
 昔みたいには戻れないにしても、あずきの催眠術で一緒に遊べるんなら、そのうち、もっと仲良くできるだろう。
 おかしなもんだ。あんなことしちゃってから、妙にあずきのこと意識しちゃって、そんで、仲良くしたい、なんて気持ち悪いこと考えている。
 でも、今までの冷たい関係の方が異常なんだ。絵玲菜ちゃんと付き合えるなんて夢みたいな話だけど、それより俺は、前と同じようにあずきが俺と喋ってくれたことの方が嬉しかったりするんだ。
 やべえよな。俺ひょっとして、シスコンの素質あんのか?
 我ながら寒気のするようなこと考えながら、でも、あずきとの関係修復に向けて、俺は決意をあらたにする。
 希には悪いけど、しばらくはあずきと一緒に女狩りするぜ。
 目指せ、100人斬り。そして目指せ、仲良い兄妹。
 俺は決意を結ぶとともに、拳を高く掲げる。

「よーし、やってやるぜー!」

 ―――などと、1人で舞い上がってたせいなんだろうか。

 次の日の朝、俺は久々に夢精していた。

< 終わり >

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