俺の妹が超天才美少女催眠術師のわけがない第2巻 (2)

(2)

 さて、そんなわけでNNP48の握手会でゲリラライブを決行し、観客1万5千人を催眠術で操り人形にし、その隙にアイドルを誘拐するというちょっぴりお茶目なイタズラをしつつ、今日もうちの妹が我が家に天使を連れてきたわけだが。

「……深く……深く眠って……体から力が抜けていく……心がからっぽになっていく……」

 ベッドの上で、お人形さんのように手足を投げ出すアイドル制服の女の子。その隣であずきは囁くように導入を深めていく。
 俺はケータイのシャッターを切るのに忙しい。

「兄貴、うざい。邪魔だからやめて」
「で、でもよ……」
「邪魔だっつってんの!」

 妹にギロッと睨まれ、俺は渋々ケータイを下ろす。
 だって、仕方ないじゃん。こんなのありえないって。

 あのNNP48の次期エースで俺のトップ推しメン、大藤絵玲菜ちゃんがうちにいるんだぞ!

 一月前には希がそうしていたように、今、絵玲菜ちゃんがうつろな顔をして、俺のベッドの上にいる。壁を背もたれに、手足はだらりと伸ばし、宙を見つめる表情で。
 ここまで連れてくるのもドキドキだったんだぜ。

『あたしたちはいつものマネージャー。あなたは次の現場に向かっているだけ』

 この暗示を信じこんだ絵玲菜ちゃんは、ごく自然に俺たちの指示に従い、この家までやってきた。
 電車の中では他の客にバレないかハラハラしたし(なにしろ新曲の衣装まんまだし)、普通に俺のことマネージャーだと思って話しかけてくる絵玲菜ちゃんに、しどろもどろの冷や汗をかきっぱなしだった。

「次はグラビアですか?」
「あ、あぁ、はい、ええ、その、そうですね」
「ひょっとして水着? ステージ上がりだから、体に下着の跡が残ってると思うんですけど」
「下着の跡が……ッ!」
「……? 変なの? どうかしましたか、マネージャー?」
「いえっ、本当に、何でも!」

 俺があたふたしてるのを、あずきはフフンとせせら笑う。催眠ライブが終わってひと安心してたのだが、アイドルを連れて帰るってのは予想以上に緊張を強いられる作業だった。
 なにせ絵玲菜ちゃんは可愛かった。岸月希という超絶美少女と毎日やりまくってるリア充の俺ですら、匂いを嗅いだだけでスプラッシュマウンティンしてしまいそうなくらいに。
 テレビやグラビアというフィルターを通して見ていた彼女は、まだ本物ではなかった。むしろ多少は修正を施されているだろうそういった媒体では、実物よりも可愛く見えるものだと思っていた。
 でも本物はやはり違うね。オーラが出ている。
 希よりは地味と思っていた顔立ちも、実際に仕草や表情が動くところを間近に見てしまうと、小さな顔に整ったパーツがとても優雅に華やかに変化し、非常に完成度の高い美少女であることが再認識させられた。
 普段の立ち振る舞いからして、他人の目を意識している。おそらくはプロの指導を受けている。希の場合は、「可愛い子がやると何でも可愛く見える」って感じに思うまま振る舞っているけど、絵玲菜ちゃんの場合は、「可愛い子をもっと可愛く見せる」ための振る舞いってやつを、身につけてるんだと思う。
 清楚な外見なのに、目の奥にすっげぇパワーを感じる。俺たちのような素人とは内側にあるものが違うっていうか、エネルギーが違う。目的意識がしっかりあるんだ。
 金も時間もたっぷりかけて磨かれた贅沢な外見を全身にまとい、そしてその魅力をフルコントロールするセンスと作法を訓練されてきた少女。
 アイドルって、可愛いけりゃ誰でもなれるってもんじゃない。さっきのあずきのライブを観て俺はそう実感させられた。何万人もの視線を一身に受け止めて立っていられる人間になるには、努力か才能、どっちかで抜きんでなきゃ無理なんだ。
 その数少ない能力を搭載した2人の美少女に挟まれ、超凡人である俺は、空調の効いた電車内で1人冷たい汗を滲ませるだけだった。
 両手に花の贅沢なのはわかってるが、それにしたって俺に持てる量も限界あるぜ。

「眠って……深~く眠って……」

 そして今、俺の部屋にアイドルが。
 しかも、俺に惚れてしまうための催眠を受けている最中だ。
 舞い上がるなと言われる方が無理だ。写真だって撮りたいさ。その愛らしい横顔を動画で撮り倒したいさ。
 あずきはどんどん彼女の催眠状態を深くしていく。この準備が終われば絵玲菜ちゃんは俺の恋人その2になる。
 信じられるか?
 俺みたいな地味メンが、学校一の美少女(しかも来春にはモデルデビュー決定済み)と、国民的アイドルグループの一員(もちろん次世代のエース)とで、二股かけちゃうんだぞ。
 うちの妹、マジでドラミちゃんじゃね?
 
「あなたは夢の中にいる……夢の中でオーディションを受けている……審査員はあたしよ。あたしの質問には正直に答えて。いい?」
「……はい……」

 この声だよ。
 絵玲菜ちゃんのミルキーボイスが、催眠術でぼやけた声になってる。
 すっげぇゾクゾクした。催眠術って、なんでこんなにエロいんだ。被暗示状態ってだけでもう抜ける。
 これが催眠フェチってことなのか。この妹にして、この兄ありか。
 まあ、このシチュエーションにしびれない男なんていないだろうけどな!

「それじゃ絵玲菜。さっそく聞くけど、あなたは今彼氏いる?」
「……いません……」

 俺は心の中でガッツポーズしてシャンパンを抜いてプールにダイブした。
 ある程度の災難は覚悟していた。なんだかんだ言ってライフライナーを裏切るのがアイドルの常だ。絵玲菜ちゃんみたいな可愛い子、常識的に考えて芸能界隈の男どもが放っておくはずないからな。
 だが、少なくとも現時点で彼女に男はいない。あずきの催眠術にかかってんだから、その言葉には100%ウソはない。
 それだけでも天に昇る気分だぜ!
 と、だらしなくニヤケる俺を、あずきはギロリと睨みつける。
 そして、フフンと意地悪な笑みを浮かべる。
 
「じゃあね……今までにエッチした男は、な~んにん?」

 うわ、いきなりそんな質問いっちゃうわけ? 修学旅行の夜かよ。AVの冒頭かよ。
 でも、そこはファンとしても聞きたいような聞きたくないような重要な領域だ。おそるおそる、絵玲菜ちゃんの反応を伺う。

「いません」
「「ブーッ!?」」

 しかしそこから返ってきた意外すぎる回答に、俺とあずきは飲んでもいないコーヒーを吹いてひっくり返ってしまった。
 え、処女?
 まさかの処女回答!?

「ちょっ、マジ、こ、これ、ど、どうすんの兄貴、これ、どうすんのよ、あたしたちバージンの人連れてきちゃったじゃないの! 怖い、あたし怖い! どうしよう!」
「お、おおおおおお落ち着けよ、おおおお落ち着けバカ。ど、どうするって、そりゃ……どうしたらいいんだよ!?」
「なんであたしに聞くわけっ? 知らないわよ、兄貴が決めてよ。長男なんだから!」
「ちょ、長男関係ないし! むしろ、女の子の問題は長女の担当だと俺は思う!」
「ずっるい、兄貴は本当にずるい。そんなんだから女にモテないのよ!」
「うっせー、丸顔!」
「丸顔言うな、地味顔! ……って、あぶない!?」
「え?」

 俺たちのガキのようなケンカ騒ぎが響いたのか、絵玲菜ちゃんがうっすらと目を開け始めていた。
 あずきは急いで絵玲菜ちゃんのまぶたを手のひらでふさぐと、再び催眠導入を試みる。

「まだ出ていっちゃダメ。オーディションは終わっていない。あなたは元の場所に戻って」

 俺の方を向いて、唇に人差し指を立ててシーッと顔をしかめる。俺も口を押さえて頷いた。

「オーディションを続けるわよ……そこから逃げちゃダメ……あなたはプロなんですからね」

 ピク、と絵玲菜ちゃんのまぶたが反応して、やがてゆっくりとした呼吸になっていく。それから少し耳元で同じようなことを囁いて、あずきは「ふぃー」と胸をなで下ろす。

「やっぱりこの人、ちょっと手強いな……すごく固い」
「固い? 何がだ?」
「んー、あたしの感覚的にってことなんだけど、なんていうか、被暗示状態なのに、あたしの言葉が奥まで届いてない感じがするの」

 よくはわからんが、つまり、催眠術が効きづらいっていうことなのか?

「効いてないわけじゃないんだけどね。こういう人ってたまにいるのよ。心にどっしり構えた『自分』っていうのを持ってる。簡単には揺るがない何かを持ってんのね」
「でも、さっきまであずきの催眠暗示にかかってたじゃないか?」

 イベント会場のときも、ここまで一緒についてきたのも、全部あずきの催眠術が上手くいってたからだ。何も問題ないように俺には思えた。
 でも、あずきは「う~ん」と、腕組みして首をゆらゆらさせる。出来の悪い生徒に、どうやって解説してやろうかって悩む先生みたいに。

「ああいうさ、単純な肉体操作とか寸前の記憶消去とか、あと彼女の中の常識に乗っかった誤認くらいなら楽勝なわけよ。表面を撫でる程度の暗示だし、むしろさっさと醒めてもらった方が好都合な暗示ばかりじゃん。でもね、例えば今の仕事をやめろとか、大好きな人のこと嫌いになれとか、彼女がしっかり心に抱えているものを逆転させる系は面倒かもって感じ? うーん、上手く言えないけど」
「……心にガードかかってるってことか?」

 あずきはムニュっと唇を曲げて、「それも微妙に違うんだけど」と言いつつ、「あたしたち側から見ればガードされてるってことになる」と認めた。

「でもそれは、彼女にしてみればガードじゃなくて、逆に自分を解放しているってことなの。自信を持って、これが大藤絵玲菜って全開に主張しているの。他人が強引に立ち入ろうとしても、入る隙間がないくらいに」

 なんとなく、理解は出来てきたような気はした。
 あずきも、なんだか困ったように笑った。

「自分がどういう人間なのかを、ちゃんと目標も持って決めてる人なんだと思う。だから他人の言葉にも安易に揺るがない。……そういう人、嫌いじゃないんだけどね」

 珍しく、他人を褒めるあずきを見た。褒めるっていうか、まあまあ評価してるって感じだけど。

「つまり、絵玲菜ちゃんを俺の彼女にするのは無理ってことか?」

 それはかなり、がっかりだぞ。
 まあ、最初から出来すぎた話ではあったんだけど、ここまで来て無理とか言われると、限界まで膨らんでた俺の期待がかわいそうだぜ。
 あからさまなため息をついた俺に、あずきはムッとして反論してきた。

「あたしを誰だと思ってんのよ。それくらい楽勝だっての」
「え、マジ? さっきと話違くね?」
「好きにさせるだけなら簡単だって。兄貴の情報は絵玲菜にとってはまったく新規追加だもん。最初から限りなく好印象にして覚えさせるだけ。『前から嫌いだった人を好きにさせる』より、はるかに簡単なの。それは上手くいくよ」
「そ、そうなのか!」
「でもね。その気持ちってのを先ず彼女の大事な位置にまで放り込んでやらないと、すぐに冷めちゃうんだよ。兄貴みたいなクソ地味メンでクソつまんないクソ並の存在価値しない男に、アイドルの心を繋ぎ止めるなんて無理じゃん。だから難しいんだってば」

 つねづね不思議なんだよな。
 なんで世の中には、妹なんかに萌えちゃうバカが後を絶たないんだろう。
 メディアに洗脳でもされてるの? 思いやりがあって可愛くて兄大好きの妹なんて、現実にはいないんだよ?

「でもよ……俺と希の場合はどうなの? かなり安定してねえ?」

 実際、俺たちのイチャラブはいまだ留まることを知らない。
 美女と地味の奇跡の恋愛は学校ではすでに伝説化され、俺の席で告白して生まれたカップルは永遠に結ばれるというジンクスまで生まれているらしく、放課後とかにいきなりギャルゲのエンディングみたいのが始まることだって、最近はしょっちゅうだ。

「希の場合はまた別よ。あの女って、兄貴に可愛いと思われるためにオシャレもしてるし、兄貴に愛されるためにいっぱい尽くしてくれるでしょ。どうして喜んでそんなことするかというと、元々彼女のパーソナリティが『みんなに可愛いと言われたい』、『みんなに愛されたい』っていうチャラい願望しかなかったからよ」

 あぁ、そうかも。
 確かに前の希はそんな感じだった。

「あたしがしたのは、その願望と価値観が向かう方向を兄貴一人に固定して、『昭和の女』っていう着ぐるみをかぶせてやっただけ。で、兄貴も希がそんな健気な女やってるのを可愛い可愛いってバカみたいに喜んでるから、希と兄貴でwin-winの関係が作られてる。長続きする土壌は出来てるから、あとはそこを定期的にメンテしてやればいいだけなの。例えばこのアロマを嗅ぐと初めて結ばれたときの幸せを思い出すとか」
「あぁ……なるほどな。そういうことか」

 今も俺の部屋にあるアロマとかイージーリスリングのCDとか、あのへんは全て希用の催眠グッズだ。
 俺の部屋だけに限らず、どこかでその手の匂いや音楽を聴いただけで、希は俺への新鮮な恋心や多幸感で満たされるシステムになっている。もう彼女はこの恋から逃げられないだろう。
 あずきが言ってるのは、ようするに今日のイベントでやったようなその場しのぎの催眠術と、恒久的な暗示を対象者に効かせるのでは、初手の重要さというか、戦略が変わるということか。
 
「まあ、それ以前に希の頭が空っぽだったっていうのもあるんだけど」
「それは言わないでやってくれよ……」

 性格はすごく良い子になったと思う。可愛いし。
 本当に可愛い子ってのは、可愛いだけで周りを幸せにできるからそれでいいんだ。ちょっぴりバカでもいいんだ。

「う~ん。どうするのがいいかな」

 あずきは珍しく考え込むような顔を見せる。
 絵玲菜ちゃんは、おそらくアイドルである自分をとても大切にしている。そして、それは個人の恋愛とは目的を反対にするものだ。
 希のような単純な方向変換が上手くいかないなら、彼女の中で俺の存在を『アイドル』よりも上に持っていかないとならない。
 そのためには―――

「そうだ! 俺を絵玲菜ちゃん憧れのスーパーアイドルだと誤認させるというのはどうだ?」
「うわっ……あたしの兄貴、キモすぎ……?」

 ターンを決めてイケメンスマイルを浮かべる俺に、あずきはショックを隠せない顔でつぶやいた。
 どうやらこのアイディアは却下のようだ。悪くない考えだと思ったのだが、うちのクソ生意気な妹は否定するどころか無視しやがった。
 あずきはおでこに指を立て、「うーん」とトンチを働かせる。

「ん、わかった」

 そしてポンと手を叩くと、あずきは言った。

「まず、しよう」
「何を?」
「何って……えっちに決まってんじゃん」
「ええっ!?」

 あずきは顔を赤くして、「大きな声出すな!」とスネを蹴飛ばしてきた。
 でも、お前、そんなこといきなり……まあ、するつもりだったけどさ。

「絵玲菜が初めてだっていうんなら、その強烈な体験と一緒に兄貴の存在をでっかく印象付けられるはずなの。えっちから始まる恋愛ってやつ? 希とは逆に、まず体に兄貴を教え込むわけよ。がっつりと」
「が、がっつりと……」

 つまり、希と過ごした愛の1ヶ月の成果を、アイドルの体で実地試験というわけか。
 俺はこの夏、どこまで昇り詰めちゃうんだろう。
 クソ童貞から学校一の美少女の彼氏になり、さらに今度は国民的アイドルの彼氏にメガシンカしちまうなんて、俺がポケモンならサトシに敬語使われるレベルだぞ。
 あずきは、「まあ見てて」と小悪魔のような笑みを浮かべ、髪をかき上げる。
 ガキのくせに、妙に色っぽい仕草しやがる。

「絵玲菜……よく聞いて。オーディションの内容が変わったから。あなたには今から、ある男性の相手をしてもらいます」
 
 そして絵玲菜ちゃんの隣で、暗示をささやいていくあずき。
 俺たち兄妹は、今、国民的アイドルを毒牙にかけようとしているんだ。
 あずきはぺろりと唇を舐め、その端を歪めて笑う。
 まったく、うちの妹は悪魔なのか。思わず背中がぞくりとする。そして俺も今、おそらく悪魔っぽい笑みを浮かべているだろう。
 この世の裏をかく技術。
 ホント、悪魔の所業だぜ、催眠術ってやつは――。

「枕……ですか? すみません、私はNGです。うちの事務所でしたら、佐恵ちゃんや仁美ちゃんなら営業できます……」
「ぎゃーッ!?」

 ぼんやりと開かれた色っぽい唇からの、まさかの超電磁砲カウンターを食らって俺の頭部は吹き飛んだ。
 女の子の唇がいつどこで破壊兵器に変わるかは予測もできない。やつら本当に危険な生き物だ。
 俺はブクブクと泡を吹いて倒れた。今までにしたことのない痙攣をした。
 確かにそれはNGだった。本物のNGだ。「なんという現実」、略してNGだった。
 あずきは、きょとんとした目をぱちくりさせていた。

「えーっと、枕がどうしたの? 何がNGなの?」
「……枕というのは業界の言葉で……」
「お前は聞くなぁ!」

 うちの妹に本物の巨悪を教えないでくれ!
 この子はそんな子じゃないんです。ちょっと小悪魔ぶってるだけで、中身はただの子どもなんです!

「む~! もが~!」

 絵玲菜ちゃんの思わぬ反撃から妹を守るため、俺は後ろからあずきを抱きとめ、耳と口をふさぐ。暴れる彼女から数回の蹴りを食らった。
 でもダメだ。これ以上のことを知ってしまったら、「おや、誰か来たようだ……?」となっちまう。
 知る必要のないことは知らないままでいい。その方が幸せだった。ちなみに佐恵ちゃんってのは俺の中ではナンバー2の推しメンだったんだぞちきしょうマジ腐れ滅びろ芸能界。
 まったく、いくら身内に催眠術が使えるヤツがいるからって、あまり女の子の秘密を根掘り葉掘りしてもショッキングなお話しか出てこないから、みんなも要注意な。
 元ビッチの彼氏やってる俺からの忠告だぜ?

「もう、なんなのよ、バカ兄貴。いいわよ。別に教えてくれなくても、wikiとかで調べてやるもん」

 あぁ、そうしてくれ。この手の話はモニター越しの眉唾話として眺めとくのが一番だ。
 俺は今、あずきがアイドルの道に進まなかったことに心から安堵していた。絶対にあずきは芸能人にさせねえ。腹にダイナマイト巻いてでも阻止してやる。

「それじゃ絵玲菜。オーディションの続きよ。これはね、ドラマのオーディション。あなたはアイドルグループの一員だけど、ファンの男の子と恋に落ちたの。それで、今日はこっそり彼の部屋に来た。誰にも見られない場所で久々に大好きな彼とイチャイチャできる。そういう設定なの。OK?」

 絵玲菜ちゃんは、かすかに頭を傾け、あずきの指示を理解し終えると「大丈夫です」と頷いた。

「相手役の男の子を紹介するわ。新藤匠よ。目を開けて、相手の顔を覚えたら閉じて」

 ゆっくりとまぶたが上がり、絵玲菜ちゃんが俺の顔をじっと見つめる。
 すっげぇ可愛い顔だよな。てか、すっげぇ可愛い顔だよな。
 俺が見とれている間に、絵玲菜ちゃんの瞳は再び閉じられる。

「役作りはできた?」
「はい……」
「それじゃ、始めるわよ。あなたと彼は愛し合う。でも男の人を知らないあなたは彼の言うとおりにする。どんなことも愛する彼の思うまま……いいわね?」
「はい……」

 絵玲菜ちゃんのぼんやりとした声が耳にくすぐったい。
 弱々しく俺を見上げる催眠に落ちた瞳は、テレビの中の元気な彼女とまるで違って、人形みたいに無機質に見えた。

「えっと……コホン、いいよ兄貴。これで、準備オッケー……よ」

 恥ずかしそうにあずきが頷く。
 そしてその隣には、新藤兄妹の手によって恋の罠に堕ちたアイドル。
 罪悪感と興奮が入り交じって、心臓がばくばくした。さっきのイベント会場で絵玲菜ちゃんに必死に声援を送っていたファンたちのことを思い浮かべて、申し訳ない気持ちにもなった。
 彼女はみんなのアイドル。ファンのために処女を守ってきたアイドル。
 でも俺はそんな彼女を……抱いてもいいんだ。
 からからの喉に唾を流し込み、やっとの思いで命令を口にする。

「それじゃ、そこに横になって」
「……うん」

 恥ずかしそうに、言われるがままベッドの上に横たわるあずき。
 短いスカートから伸びる足は、あいかわらずすらりとして白い。思わず生唾が口の中に浮かんだ。
 俺はそんな彼女の足元ににじり寄る。そしてその小さな体に覆い被さるようにして……ようやくツッコむことを思い出した。

「いや、なんでお前が寝てんだよ?」
「ひくぅ!?」

 あずきは目を丸くすると、慌てて起き上がって「ぎゃー!」とか奇声を上げて俺の顔面にパンチしてきた。

「いっでぇ!?」
「んなななな、なわけないじゃん! なにしてんのよ、変態、死ね!」
「いや、お前が自分で……」
「うっさい! うっさい、うっさい! ただのギャグ! ギャグでやったの! とにかく、あたしは関係ないからね、絵玲菜を抱くんでしょ、絵玲菜を! こっち来んな!」

 なぜか胸を隠して、顔を真っ赤にしてあずきは怒った。つーか俺、全然悪くなくねぇ?
 フーフー鼻息を荒げて睨むあずきに理不尽なものを感じるが、それでもまあ、変なギャグでもかますくらい兄妹仲は打ち解けてきたってことでいいんだよね?
 あと俺、鼻血が出てるんだけど、これも体を張ったギャグってことでいいよね?

「あ、兄貴の目的は絵玲菜でしょ。ふざけてる場合じゃないじゃん……」

 確かに、今はふざけているヒマも、ふざけた妹を○してやるヒマもない。
 俺は気を取り直して絵玲菜ちゃんに向き直る。
 絵玲菜ちゃんは、俺をうっとりした目で見ていた。

「匠さん……」

 ドキリとした。そして頬が熱くなっていく。
 国民的アイドルにこんな顔をされてはたまらない(勃起開始)
 俺は静かに絵玲菜ちゃんをベッドに促し(カウパー分泌)
 彼女の頬に手を触れた(射精完了)

「くそ……! まだ何もしないうち前に射精してしまった……っ」
「えええー!? あ、兄貴、またぁ?」

 希を抱いたときも、俺は興奮しすぎで自動的に出し尽くしてしまい、肝心なときに使い物にならなくなっていた。
 2度目の惨事にあずきも額を叩いてあきれかえる。俺も恥ずかしさに身を縮めるだけ。
 困った。本気で困ったことになった。
 希の時にもあったこの危機を救ってくれたのは、あずきの手コキだったのだが……。

「……や、やだ。しないもん」
「ま、まだ何も言ってないだろ!」

 チラリとその手に視線を向けてしまったことを察したのか、あずきは右手を隠すようにして、俺をジトっと睨む。
 いや、さすがに俺だって妹に「手でしてくれ」なんて頼むほどのジャンキーじゃねぇよ。パンツの中グジョグジョにしてこんなこと言っても説得力ないかもしれんが。
 でもあんな超絶テクニックの持ち主は「夢の女」を除けばあずきしか俺は知らない。希だっていろいろと研究してくれてはいるんだけど、まだそのレベルではないし。
 言わずともわかってくれるというか、気持ちいいところに手が届くというか、俺のチンポを知り尽くしてるかのようなあの愛撫は思い出すだけで興奮できる。
 ていうか、思い出せばいいんだ。あの気持ちよさを。興奮を。そして、目の前にいる絵玲菜ちゃんの恥ずかしそうな表情を見ろ。ベッドの上に横たわるNNP衣装と完璧なボディを見ろ。そして集中だ、集中。
 たった一度の暴発で終われるはずがない。むしろ今のはただの祝砲だ。獲物を取り囲んだモヒカンが「ヒャッハー」言いながら撃ち鳴らすアレだ。
 バンバン撃ちまくってやんよ。俺だってもう童貞じゃない。この程度のハプニングで折れたりしないし、何度でも立ち上がるぜ。
 そして、あの絵玲菜ちゃんを抱くんだと思えば……。

「もう……し、しかたないなぁ」
「よっしゃぁ! もう大丈夫! まだまだイケるぜ!」
「ひくぅ!?」

 俺が精神統一している間に、あずきが何やら言ってたらしく、俺の大声にびっくりして変なポーズで固まっていた。

「何してんだ?」
「な、なんでもない、バカ!」

 そして俺のスネにいつものように蹴りが入る。
 なんなんだろうね、うちの妹。更年期なの?
 
「準備出来たんなら、さっさとおっ始めろ!」

 さらには尻まで蹴とばされて、野蛮にセクロスを指示される。
 ここは西部の種付け牧場かよ。
 まあいい。あずきなんて関係ない。
 俺と絵玲菜ちゃんが上手く出来るかどうかの問題だ。

「…………」

 ベッドの上では、彼女が不安そうに俺を見上げている。
 たった今入った情報によると、この絶対美少女であるNNP次世代エースは未だ男を知らないという。
 処女を抱いたことなんて、もちろん俺にはない。希は俺に処女を捧げたと思っているようだが、あれがペルソナであることを俺たち兄妹は知っている。
 だから、これこそが正真正銘の初物だ。
 思わず身震いしてしまう。絵玲菜ちゃんの初めての男が俺なんかで本当にいいんだろうか?
 いや、いいはずないよな。あずきの催眠術のせいだもんな。でも、それこそ今さら言うことじゃないよな。
 びびってしまいそうになる気持ちと息子を奮い立たせる。迷うな。怖がるな。絵玲菜ちゃんを不安がらせるだけだ。

「た、匠さん。私、その、こういうって……」
「大丈夫。俺に任せて」
「あ……」

 髪を撫でてやると、絵玲菜ちゃんはほっと息を吐いて、瞳を潤ませた。

「優しくするから」
「はい」

 そして安心したように微笑むと、絵玲菜ちゃんは「お任せします」と体から力を抜き、ベッドに体を沈ませた。
 どう? 俺、女の子の扱いに慣れてねえ?
 
「匠さん……好き」
「俺も大好きだよ、絵玲菜ちゃん」
「うわ、キモっ」

 ちなみに妹の扱い方にもだいぶ慣れてきた。
 無視すればいいんだぜ。

「キスしていい?」
「はい……」

 絵玲菜ちゃんが目を閉じる。
 この手のキス顔はNNPの十八番で、CMやらPVやら、N豚を萌えさせるために何度も量産されてきた見飽きた顔のはずだった。
 でも、これが本物の絵玲菜ちゃんのキス待ち顔。赤く染まった頬もかすかに震える唇も、100%演技なしのリアルフェイス。
 もう一度射精してしまいそうなのを必死でこらえる。これ以上出したらさすがに俺は保たない。性欲的な意味でも妹の冷たい視線的にも。
 ゆっくりと絵玲菜ちゃんに顔を近づけていく。いつも遠くで応援していたアイドルの顔がこんなに近くに。
 まるで、自分が映画の登場人物になった気分だ。
 夕焼けの海が見えた。あるいは国際線のターミナルが見えた。ドラマチックなBGMが勝手に頭の中に響き、母ちゃんを始めとする俺の人生のスタッフたちの名前がエンドロールで流れ出した。
 これは夢だ。憧れのキスだ。

「ん……」

 俺の唇が、絵玲菜ちゃんの唇に重なった。
 やべえ。すげぇ柔らかいの触ってる。
 相手が相手だけにド緊張する。
 絵玲菜ちゃんは俺とキスしたままじっとしている。俺の方から角度を変えてキスを深くすると、小さく身じろぎした。
 安心させるように髪を撫でる。こうされると気持ちいいのか、「くふ」と軽く息を吐いて、絵玲菜ちゃんの唇が緩く開いた。
 彼女はキスも初めてなんだろうか。いや、他のメンバーとふざけてチューしてる写真や動画はずいぶんあるけど、男とするのはっていう意味で。
 最初からトバすと引かれちゃうかな?
 この良い匂いのする柔らかい唇の奥に舌を入れてみたい衝動に激しく駆られるが、なんとか我慢する。我慢すべきが正解なんだろう。だがしかし……!

「んっ!?」

 柔らかいものが舌に触れたとたん、可愛い悲鳴を上げた。
 俺が。

「んっ……んっ……」

 なんと驚くことに絵玲菜ちゃんの方から舌を伸ばしてきて、俺の口の中に入ってきたのだ。
 にゅるりと触った舌が、ちろちろと細かく動く。控えめな接触がくすぐったくて、あごがぞくぞくした。俺が彼女の動きに同調すると、いきなり回転を大きくして、俺の舌を巻き込むように撫でてきた。それに乗っかるように、自然に俺も舌を大きく彼女に絡ませていく。
 なにこの子、キス上手い……!
 口の中に吸い込まれていくみたいだ。チュッと吸われて捕まった舌に優しい愛撫がされる。先っちょから裏側まで舐められ、しびれる感覚に思わず舌を引いてしまうと、そこを狙ったように今度は彼女の舌が侵入してきて、唇や口内を愛撫される。
 
「はぁ…っ」

 息継ぎしたと思ったら、次は上唇を挟まれてチュウチュウ吸われる。そのまま舌でくすぐられて、蕩けそうになった。
 俺の首に腕が回ってホールドされ、引き寄せられる。そしてたっぷり唾液の乗った舌が再び口内に入ってきて、じわりと俺の唾もたまった。
 互いの唾液と舌を絡ませ、キスはどんどん濃厚になっていく。しかも、それを彼女にリードされているのが何故か心地よかった。
 希とはいつも貪るようなキスをしている。主に俺ががっつく感じで、余裕も技巧もまるでない。
 絵玲菜ちゃんのキスはまるでダンスだ。作法と礼儀と思いやりに満ちた、上品で大胆でエロいダンスだ。
 キスとは、こんなに気持ちいいものだったのか。下手なセクロスなんかよりよっぽどエロい。鼻にかかった彼女の甘い吐息。俺のブヒ音。互いの体を抱きしめ合って、ひたすら唇と舌だけで愛撫する行為がこんなにも気持ちよくてエロくてヤバかったとは。
 頭がどうにかなっちゃいそうだ。

「んっ、ちゅっ、ちゅっ、匠さん、ん、れろ、れろれろ、んちゅー、ちゅ、ちゅぷ、ちゅぅっ」
「はぁ、はぁ、絵玲菜ちゃん、はぁ、絵玲菜ちゃぁん……」
「な、なによ、この大人すぎるキス。映画というより春画だわ」

 キスしながら俺は腰を動かしていた。まるで余裕なんてなくなったし、映画のようなきれいなキスシーンなんかしてる場合じゃなかった。このままではまた出ちゃう。出ちゃうううぅぅぅぅ。

「ぷはぁ!」

 絵玲菜ちゃんから逃げるように唇を離して、逆襲の舌を喉に這わせた。

「ひゃぅん!?」

 可愛らしい悲鳴を上げて絵玲菜ちゃんが仰け反る。
 ステージ上がりのせいか、少し汗の味がした。我ながら変態じみた発想だと思うが、この味がアイドルの証だと思うと、すごく美味しく感じた。
 大勢の声援を浴びて踊り終えたアイドルを、その衣装のまま抱く。Pでもなけりゃ普通は体験できない喜び。週刊誌にでも売ってファンを発狂させてやりたい優越感。
 もちろん、俺はそんなもったいないことしないけどな!

「あっ、あんっ、匠さん、あん、恥ずか、しい、そんな、私、汗かいて、ますから、あぁん!」

 汗なんてただの甘露じゃん、恥ずかしがることないじゃん、むしろもっとかいてよ、俺のために!
 ちゅぱちゅぱと絵玲菜ちゃんの首筋に吸い付き、柔らかい体を抱きしめる。折れそうなくらい細いのに、俺の胸に押し当たる感触のなんて大きく弾力的なことか。
 俺は今、アイドルの絵玲菜ちゃんを抱いてる!
 俺は今、アイドルの絵玲菜ちゃんを抱いてる!
 俺は今、アイドルの絵玲菜ちゃんを抱いてる!
 もう何度繰り返しているかわからないくらい繰り返している感動のフレーズだけど、そのたびに頭の中でフェロモン汁がバンバンあふれ出る。
 衣装の上から絵玲菜ちゃんの胸に触れた。柔らかい感触に感動する。「ふぅん」と甘い声を立てる絵玲菜ちゃんが可愛い。
 何万人もの男が触れたいと願ったおっぱいを俺がぐにぐに揉み回す。父ちゃん母ちゃん、俺を産んで育ててくれてありがとな。つまんないことで反抗しちゃってごめん。これからは真剣に親孝行するよ。
 両手を使って、両おっぱいをアナログパッドのように回す。DSで発売されたNNPのクソゲームでは出来なかった裏コマンド。絵玲菜ちゃんに「だめぇん」と言わせる秘密コマンドだ。
 
「あっ、匠さん……だめぇん……」

 制服のボタンを外して、ブラウスの前を開いていく。あんまり色気のないスポーツブラ。仕事中だったもんね。汗かいちゃうから仕方ないよね。今日、まさか男に抱かれるなんて考えもしなかったもんね、絵玲菜ちゃん!
 俺は容赦なくそのブラも押し上げる。せーのっつって持ち上げる。
 ぷるん。ゼリーのように揺れる絵玲菜ちゃんのおっぱい。アイドルのおっぱい。桃色乳首の美少女おっぱい。
 正直、鼻血が出た。

「匠さん……」

 絵玲菜ちゃんは、不安と恥ずかしさの混じった瞳を潤ませて俺を見上げていた。縮こまった両腕がおっぱいをぎゅっと真ん中に寄せ、逆にすごくエロいことになってるのに気づいていないのか。
 強引にはだけた制服。乱れたブラウス。
 もちろん、首元のリボンは残したままだ。わかるだろ?
 NNPを脱がせるなら、全脱ぎなんてありえない。こういうパーツは絶対に残しておく。
 アイドルはアイドルのまま脱がせることに意義がある。ドルオタに着衣エロの素晴らしさがわからないやつはいないと俺は信じている。
 大好きなアイドルにはずっと綺麗な体で輝いていて欲しい。だけど、俺にだけは汚すことを許して欲しい。
 そのダブルバインドによってオタ心理は形成させる。俺は今、狂おしいほどの罪悪感と欲情に酔っている。そしてかつてないほど興奮する絵が目の前に!

「兄貴、リボンが邪魔っけそうじゃん? あたしが取っちゃるね」
「お前はショートケーキにイチゴを乗せないで店に出す気かぁ!」
「ひっくぅっ!?」

 許せ、妹。
 ドルオタってみんなキモいんだよね。
 
「あっ、あんっ、やっ」

 絵玲菜ちゃんの生おっぱいに、とうとう直に手をつけた。
 神様が約束をされた場所で、俺は全ての苦しみから開放された。
 ふわふわ、わふわふ、ふにふに、ぼにゅぼにゅ。
 どんな擬音を付けたって、この気持ちよさは伝わんねえ。
 どうしてだろう、何万年も前からヒトはおっぱいの気持ちよさを伝えるために言葉を編んできたというのに、まだその域に言葉は届かない。そんなにも大きくて柔らかすぎるのか、おっぱいは。
 ホント、おっぱいって地球だぜ。そして俺たちは宇宙船おっぱい号の乗組員なんだ。俺が操縦士で絵玲菜ちゃんがおっぱいだ。そして見てくれよ、船長さん。俺の波動砲が充填200パー超えたってさ。イカくせぇエナジーがだだ漏れだ。早くこの惑星と惑星の間に砲台を挟んでゆさゆさ揺すってやろうぜ。お前さんのいやらしいワーム・ホールも、亜空間膜をヒクつかせながらローレンツ収縮してるじゃねぇか!
 ……ていうか、どうしておっぱいって揉んでると知能が下がるんだろうね? これ絶対、俺の手から何か吸い取ってるよね。
 
「んんっ、た、匠さぁん……あっ、あん、あぁんっ」

 俺の手の中で絵玲菜ちゃんのおっぱいが形を変えて、それにつれて彼女の表情も色っぽく変化していった。

「あん、あっ、きゃうん!」

 真っ赤になったほっぺたでエッチな悲鳴を上げる。ソロシングルも出しちゃうくらい声に自信ネキの絵玲菜ちゃんだけど、こんな声を聞いたことある男は俺だけなんだろうなと思ったら感動でカウパー汁が出た。
 やっぱボイトレやってる人って違うよね。喘ぎ声すら腹から出てるよね。マジでこの声、耳に心地良いよ。男なら一度は歌手か声優を抱くべきだよ絶対! オススメだよ!
 じわりと汗をにじませるおっぱいは、ますます俺の手のひらに吸い付くような弾力を増し揉みごたえを良くしていく。
 なんだよ、乳首がコリってんじゃん、絵玲菜ちゃん。
 俺は遠慮なくその先端を吸う。エロゲのちゅぱ音担当のおっさん並にちゅぱちゅぱ吸う。絵玲菜ちゃんはイヤイヤして顔を隠すけど、かなり甘い声を出していた。乳首はどんどんシコっていく。彼女のおっぱいが熱くなっていく。
 すげぇ感度良いんだな。へへっ、このままおっぱいだけでイっちゃうんじゃないのかい、エッチなアイドルさんよぉ。

「た、匠さん。私も……」

 スッ。
 そのときTシャツの下から、絵玲菜ちゃんの手がすべりこんできた。そして俺の乳首の上で、くりっと指先を回転させた。

「イクぅ!?」

 絶妙な力加減に、俺は一瞬にして達してしまった。
 おっぱいを嬲っている間に溜まった興奮が、絵玲菜ちゃんの乳首一撃で蛇口を捻るように噴出したのだ。

「あぁ…あぁぁ……」

 トランクスの中でのたうち回り、断末魔の悲鳴を上げる俺のノコノコ。
 絵玲菜ちゃんは、きょとんとした顔をしていた。
 あずきは両手で顔を覆って、「誰かこのハゲを殺してあげて」と泣いていた。
 俺だって今すぐ死にたいと思っていたところだ。慟哭しながら血を吐いて死にたいわ。てかハゲてねぇし。

「……くす」

 絵玲菜ちゃんは、この状況がわかっているのか、いないのか、天使のような微笑みを浮かべる。

「匠さん。次は、私にさせてください」

 そういって、絵玲菜ちゃんは俺のTシャツをたくし上げた。そして俺の胸元に顔を沈めると、ちゅ、と唇で音を立てた。

「はぅ!?」
「んっ、ちゅ、ちゅ、んん…っ」
「な、これ、なに、ええええッ!?」

 ビリビリするくらいの快感が全身を走る。下から俺にしがみつくような格好で絵玲菜ちゃんの唇が俺の体を這っている。そして指が俺の背中を撫でている。
 絶妙。
 筆の達人が辿る筆跡のように、正確に美しく絵玲菜ちゃんの唇と指が俺の体の上で舞い、大胆で的確な刺激が俺の脳を蕩けさせる。
 決して強いタッチではない。羽毛で撫でるが如くってやつだ。なのに、そのわずかな感触が俺の体内で楽器のように甘いメロディを奏で、神経を震わせた。

「んっ、男の人の体って、大きい……んっ、ちゅ、ぺろ」

 時々くすぐるように伸びる舌がたまらない。ぞくぞくする。
 優しく蠢く指先は俺の背中から腰へ、そしてジーンズの隙間から尻の割れ目近くまでなぞり、戯れるように爪先でこちょこちょ擦ると、そのままツーと上がって言って脊髄をしびれさせる。
 その間も体中にしてくれるキスが甘ったるくて震えた。
 俺の乳首も、へそも、絵玲菜ちゃんが全部キスしてくれて、そのたびにビクンビクンと俺は感じた。
 この子、ひょっとして天才……!

「……ゴクリ」

 気がつくとあずきも喉を鳴らし、目を丸くしていた。そしてなぜかケータイで動画撮影を始めてた。絵玲菜ちゃんの愛撫から真剣に何かを学ぼうとしていた。
 お前、さっき俺がケータイ撮影してたら怒ったくせにぃぃぃぃ。
 しかし、小さな波を重ねるように続く絵玲菜ちゃんの可愛らしい愛撫が、体の中で大変な快楽となって暴れている今、俺はうめき声を上げることしかできなかった。

「んっ、んっ、んんっ」

 絵玲菜ちゃんはぶちゅぶちゅと俺の肌にキスをしながら、徐々に下がっていく。そのたびに俺の腰はみっともなく跳ねる。でも絵玲菜ちゃんはけなげにも俺の体にしがみつき、キスを続けてくれる。そのまま腰のあたりまで下がっていく。
 俺のそこはとっくに膨れあがっていた。現金なもので、さっきまでの落ち込みようなウソだったみたいに、りりしい顔をしていた(おそらく)
 絵玲菜ちゃんの可愛らしいご尊顔がそんなものの近くまで下りてくる。畏れ多い。きっとものすごくイカくさいのに。でも、期待で早くもはち切れそう。
 しかしそこへ触れる寸前で、絵玲菜ちゃんは手を止める。

「えっと、その……すみません、これ以上は無理です……わかりません」

 真っ赤になって申し訳なさそうに目を伏せる彼女に、むしろ俺は激しく欲情した。
 彼女は処女。男を知らない。愛撫センスがあまりにも芸術的だったせいで忘れそうになっていたが、これが絵玲菜ちゃんの初めてのセックスだった。

「大丈夫だよ。ありがとう」

 熱くなったほっぺたに手を添えて見つめると、絵玲菜ちゃんはますます顔を赤くして「……匠さん」と可愛く息を漏らした。
 本当に天使だよ。天使が乱れた制服からおっぱい見せてるよ。正直、どこまで理性が保てるか自信はないが、こんな子を失望させる男にはなりたくない。
 俺がしっかりリードしてやらなきゃ。

「絵玲菜ちゃんも、大丈夫?」
「は、はい。私は、その、平気です」
「じゃ、続けるよ」
「……はい」

 暴発が続いたせいで、逆に冷静にもなれた。
 俺は絵玲菜ちゃんを再び横たわらせ、白いオーバーニーの絶対領域に手を触れる。柔らかい。温かい。ぴくんと跳ねた彼女の反応が可愛らしい。
 そしてそのままスカートの裾に手を入れる。絵玲菜ちゃんはぎゅっと目を閉じた。指先が彼女の下着に触れる。指をひっかけて、少しずつ引き下げていく。
 絵玲菜ちゃんは緊張した横顔を見せていたけど、かすかに腰を浮かせて俺が脱がせやすいようにしてくれた。するすると、彼女の見せパンと、そして本物の小さな下着も一緒に足から抜き取ってしまう。

「絵玲菜ちゃん」

 俺はスカートの端をつまんで、持ち上げていく。
 絶対領域の上には禁断領域が存在する。俺のギラギラした眼がその領域を侵していく。未知のゾーンがこの手の中にある。世界中の男が知らない絵玲菜ちゃんの大事な場所を、俺が初めて開こうとしている。
 バックンバックンという心臓の音しか聞こえない。好奇心と興奮しか存在しない。
 慎重に、大胆に、絵玲菜ちゃんのヒラヒラしたスカートをゆっくりと持ち上げて―――いよいよ俺は、この世の奇跡を目にする。
 遠慮がちに生えた薄い体毛の下で、桃色の器官が濡れて息づいていた。
 これが国民的アイドルの処女マンコ。世界に一つだけのヒダ。とてもきれいな色と形をしていた。これぞまさに男の思い描く理想のオマンコだ。
 正直、相手はアイドルということもあって、逆に「じつは男の娘でした」とか、「ふたなりダブルペニスでした」くらいの突飛なオチがくるんじゃないかと秘かに心構えはしていたが、さすがに神様もそこまでのハプニングは望んでいなかったようだ。
 むしろこんなにも素敵な贈り物が俺の人生に用意されていたなんて、他の人類に申し訳ないくらいだった。俺は絵玲菜ちゃんのアソコに向かって五体投地したい衝動を必死でこらえていた。

「なに固まってんのよ。さっさとやればいいじゃん」

 あとは妹がこの場にいなければなー。
 感動をぶち壊しにするあずきに「あいよ」と投げやりに答えて、俺はジーンズと一緒にびしょ濡れのトランクスも下ろす。

「ひくっ!?」
「きゃ!?」

 ぴよんとバネのように飛び出した俺のラストサムライに、あずきと絵玲菜ちゃんは揃って悲鳴を上げた。
 コイツそうとう斬れるから、女子供は離れてたほうが身のためだぜ?

「た、匠さん……これが、男の人の……?」

 絵玲菜ちゃんは声を震わせて、不安そうな顔をした。
 確かに希とのエロい行為で鍛えられてきた俺の名刀ライジングサンは、いまやどんな女も一撫でで瞬殺できるレベル。HPが低いのが玉にキズだが、攻撃力なら誰にも負けない。
 でも大丈夫。怖がることはない。
 俺はもし処女の子を抱くようなことがあったら世界一優しくしようと常日頃から妄想オナニーしていた男。ハチミツのように甘いセクロスがお好みなのさ。

「しゃぶれよ」

 だが、気がつくと俺は思いとは裏腹に残酷な命令を口にしていた。
 絵玲菜ちゃんはびっくりした顔をしたけど、おとなしく目をつぶって、おずおずと舌を伸ばしてきた。

「あ、兄貴、つええ……」

 あずきも驚いているようだが、俺も驚いていた。よほどハートが強くないと妹が見ている前で処女にこんなこと言えないぞ。どうしたんだ、俺。
 どうも俺にはセクロスになるとケダモノっぽい一面が出て来るらしい。初めて希を抱いたときから、それは自分でもずっと意外に思い続けていた。
 俺みたいな典型的非モテ属性の草食い男が、さらにベッドヤクザという非モテ要素を身につけても一文の得にもならんというのに。
 野獣になんてなるもんか。あの日、あずきにしてしまったことを忘れたことは一度もない。固く胸に誓ったことを忘れるな。

 “お兄ちゃんは妹を抱かない!”

 こんなことを心に誓う兄なんて本気でキモいと思うが、前科があるので仕方ない。興奮しすぎて前後を失わないようにしなければ。
 ぞわり。
 どうでもいいことを考えているうちに、絵玲菜ちゃんの舌が俺の先端に触れた。しびれるような快感が全身を駆け上がり、思わず唇を噛みしめた。

「んっ、んっ」

 チロチロと器用に絵玲菜ちゃんの舌は動く。そういや、キスもすごく上手だったっけ。だからフェラにも才能があるんだろうか。じつに的確に感じるポイントを掴み、そこへ刺激を送ってくれた。

「んん……変な、味です……んっ、ちゅっ」

 ぐねぐねと割れ目を舌でこじ開けてくる。カリを丁寧に舐め回し、裏の付け根にも舌を回してくれる。慣れないものを舐めさせられているというのに、彼女は懸命に俺を喜ばせようとしてくれていた。
 俺は彼女の髪を撫で、こんな良い子に無茶ぶりしてしまった自分を恥じた。

「ごめん、もういいよ」

 出来るだけ優しく言ったつもりだったけど、絵玲菜ちゃんは「下手くそでごめんなさい」としょんぼり項垂れる。そんな健気な仕草にまたも打ち震える俺。彼女の愛撫は強烈な破壊力だが、ビジュアル的な攻撃力まで高いので、気を抜くといつまた無駄射ちしてしまうかわからない。危険な女の子だぜ。
 俺は彼女を再び仰向けに転がし、今度はその足の間に俺の腰を進めていく。絵玲菜ちゃんは恥ずかしそうに足を開き、濡れたアソコをあらわにした。先端を絵玲菜ちゃんのソコにくっつける。ひくん、と彼女の腰が跳ねて、ほっぺたを真っ赤にする。

「いくよ?」
「……はい」
「オッケーよ」
「お前に聞いてねぇよ」

 今まさに結合しようという俺たちの性器に顔を近づける妹にチンポビンタしてやりたいのを我慢しつつ、絵玲菜ちゃんの処女に向かってさらに腰を進める。
 くちゅ。
 俺の絵玲菜ちゃんのを広げる。「んんっ」とくぐもった声を上げて絵玲菜ちゃんが身をよじる。おっぱいが揺れる。この光景だけをおかずに3発はいける自信あるけど、今は我慢して更なる奥地へ。
 ぐにゅ。
 絵玲菜ちゃんのアソコが抵抗する。ぎゅっと歯を噛みしめる絵玲菜ちゃんの顔に緊張が走る。「ひくっ」とあずきが小さな息を漏らす。俺のがアイドルの処女孔に侵入せんとしている。マジでこの体勢のまま化石になりてえ。
 ぐっ、ぐぐっ……ぐちゅ。

「あっ!?」

 絵玲菜ちゃんが一声上げた。俺も喉を引きつらせた。

「は、入った?」

 あずきがおそるおそる俺を見上げる。
 まだだ。まだ先っちょがロックしただけ。しかし、これは歴史に残る一歩だ。蜜の如きしずく流るる清らかな天界に俺が最初にチンポをつけた。あと数センチ先へ進むだけで大藤絵玲菜という名の天使はオンナになり、ただのN豚だった俺が神になり、来週の文春にその詳細が掲載される。
 今ならまだギリギリ引き返せる位置。ほんとギリギリ。止めるなよ? 誰も俺を止めるなよ? マジで誰も止めないの? いいの? 本当にいいの?
 正直、俺はびびっている。
 ここまで来といて俺って本当にヘタレだと自分でも思うけど、あずきも言ってたとおり、俺なんてマジで何の取り柄もないしパッとしない普通の高校生なんだよ。
 うちの妹みたいに、周りの人間を超越しちゃったことなんて、希の彼氏になるまで一度もなかった。そのせいで浮かれてたっていうか、勘違いしてた。俺みたいな凡俗が、「NNPの子を抱く」なんて大偉業に怖じ気づいたって当然なんだよ。びびるんだよ。
 あずきはホント興味津々って感じで、俺と絵玲菜が繋がろうとする場所をポーッとした目で見つめている。絵玲菜ちゃんは目を固く閉じてその瞬間に構えている。
 超絶美少女だよなぁ、二人とも。俺とは人間ランクが桁違い。こんな連中と一緒にセクロスしてる俺ってホント何者なんだろう。どうして親は俺に「凡人」って名前を付けてくれなかったんだろう。
 いいのかよ。本当にこっから進んじゃっていいのかよ。あとで絵玲菜ちゃんに訴えられたらどうしよう。芸能界の黒いアレが俺たちを消しにきたらどうしよう。

「……兄貴」

 はぁはぁ呼吸を乱す俺を、心配そうにあずきが見上げる。

「大丈夫。あたしがばっちり録画しといてあげるから」

 俺のケータイを持ち上げて、コクリと頼もしくあずきが頷く。
 いや違ーし。そんな心配したことなかったし。
 さすがうちの妹は考えること違う。てか、もうどうでもいいわ。
 凡人は凡人らしく、天才の考えるわけのわかんないことに振り回されてりゃいい。考えてもみりゃ、こいつが味方にいる限り、最悪の事態になんてなるはずないんだから。
 ピポっとケータイの録画音を鳴らすあずきの真剣な横顔見てると、今の自分のバカバカしさが思い出されて笑えてきた。
 ホント、変な妹だよな。
 まあ、俺も今さらコイツのこと言えないけど。

「あっ!? あ、あっ!?」

 ぐにゅ、にゅにゅにゅ…。
 濡れた狭い経を俺の相棒が突き進み、未開の秘所に男を刻む。1ミリごとに心臓が震えた。絵玲菜ちゃんを抱く。オンナにする。俺が絵玲菜ちゃんの初めてのオトコになる。
 
 大藤絵玲菜の大天使処女を、この瞬間、この俺が――ポプー!
 
 いや、今のは俺の頭がおかしくなったわけじゃないよ?
 あずきの構えている俺のケータイが、ちょうどいいタイミングで間抜けな音を立てたんだ。

「兄貴、もうメモリいっぱいだって」
「マジ? あ、そういや俺、さっき寝てる絵玲菜ちゃんをハァハァ言いながら撮り倒してたわ」
「うわ、マジでアホじゃん兄貴。マジでメモリと酸素の無駄遣いじゃん。ていうか、これどうやったら動画消せんの?」
「待て待て、お前。その前にいらないやつから消してくれよ。こないだ謎の生物と間違えて、延々と風で飛んでるレジ袋追いかけて撮ったやつとかあるから」
「ブハハ、田舎の犬かっつーの」

 ばちーん。
 
「いってぇ!?」

 俺の話に吹き出したあずきが、背中を思い切り叩く。
 この年頃の女子ってのは、どうして男子へのツッコミに手加減できないんだろうな。女子力が低いんだろうな。
 結構マジで痛くて、思わず仰け反ってしまったぜ。

「あぁーんッ!?」
「うわああ、入ったーッ!?」
「ひっくぅぅ!?」

 入った。挿入完了してた。
 次世代最強アイドルの処女を奪うという、一生に一度あるかないかの大イベントを、俺たちはホントどうでもいい会話をしながら迎えてしまった。

< つづく >

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