(4)
一応、前回までのあらすじな。
アイドルとエッチしたら、レズだって告白されて妹のパンツ盗まれたわ。
「ていうかあなたのかぶってるそれ、うちの妹のパンティですよね?」
「いいえ、私のカチューシャですけど?」
妹の脱ぎたてパンツを頭にかぶったアイドルは、つぶらな瞳でそう答えた。
やっぱ可愛い。ツーサイドアップの髪にオレンジと白の縞々パンティが、まるでリボンみたいに映えていた。
アイドルって変態みたいな格好しても可愛いんだなあって、本気で感心しかけたよ。
「いやいやちょっと待って。感心とか絶対しねぇから。まず話を整理させて。あの、大藤絵玲菜さんだよね?」
「はい、絵玲菜って呼んでください。匠さんは私の彼氏なんですから、呼び捨てがいいです♪」
「そうそれ、彼氏。俺、絵玲菜ちゃんの彼氏ってことでいいんだよね?」
「はい。ふふっ、もう早く呼び捨てにしてくださいってば。わくわくして待ってるんですから」
「絵玲菜。一応彼氏として、核心に迫るようなこと聞いちゃっていい?」
「はいっ、どんどん私の陰核に迫ってくださいなっ」
「君って……ひょっとして、レズなの?」
「いえいえ、それは違います!」
衝撃的な疑惑を恐る恐る確かめる俺の前で、絵玲菜ちゃんはあっさり否定したかと思うと、軽快にターンして猫のように軽く丸めた拳を顔の横に立て、満面の笑顔を決める。
「ガチレズ菜です♪」
どうしよう。
すごく大好きなポーズなのに、初めてイラっときた。
「アイドルとしてのキャラづくりでガチ感をオブラートに包んだレズ菜と、秘かな個人的活動としてガチを解放したレズ菜の2パターンがありますが、どっちのガチレズ菜が匠さんのお好み?」
「ようするにガチでレズじゃねぇかよ!」
「やだ、すごく男らしい顔……レズ菜なのに、濡れちゃう」
「絵玲菜は、俺という男がありながら、いやアイドルでありながらっ、ガチレズだっていうのか!」
「はい。むしろ根本にあるのがレズ活動です。アイドルになった理由は、周りに可愛い女子がいっぱいいるからなんです。本気でやってる活動だから、上手いことを言って笑いにしたくはないんですけど、私は美少女の踊り喰いがしたいだけなんです」
「上手いこと言うなや」
「匠さんのこと愛しているのは本気なんですけど……でも、目の前にこんな美少女がいたら、ついつい目移りしちゃう悪いレズ菜でゴメンにゃちゃい☆」
絵玲菜ちゃんは顔をぎゅっとして、コツンと自分の頭を叩いた。
わ、可愛いっ。
「じゃねぇよ! 近年聞いた中でも最悪のカミングアウトだよっ。さっきの枕営業の話も軽く吹っ飛んだわ、枕と布団だけに!」
「匠さんって上手いことを言えない人なんですね。かわいそう」
「うるせぇな!」
図星を突かれて俺は顔が熱くなった。
というか、この状況はそもそも何なんだ。
目の前ではアイドルがガチレズを宣言している。妹はレズにクン二されて絶頂失神している。
この狂った状況で、なおかつギンギンに猛り狂っているケダモノを抱えて、俺は一体どうすればいいんだ……。
「それより匠さん、さっさと続きしません?」
「え?」
「せっかく処女の妹さんがイキ寝してるんですから、今のうち強姦しちゃいましょうよ~。私、美少女が男に処女を奪われるところって、まだ見たことないんです。しかも兄妹モノなんてSSRな初体験じゃないですか。やりましょ、やりましょ!」
「ちょっと待て。このケダモノ兄貴がいくらケダモノとはいえ、泡を吹いて失神している妹の処女を奪うほど……って、え、あずきって処女なの?」
「え? はい、処女ですよ?」
マジで?
あんなにスケベな乱れ方してたよ?
しかも手コキだけなら全国レベルのランカーだと思うんだけど。それでいて処女だなんて……理想の妹かよ。
「ど、どうしてそんなことわかるの?」
「処女かどうかなんて、愛液の味でわかりますよー」
「すっげぇ、マジで!?」
「はい。処女は味が全然違いますから。でも私の場合、普段の声の出し方とか瞳の濡れ方だけでも、かなりの確率でわかっちゃいますねー」
「声だけで? ということは……」
「ええ。『レズ菜責任編集・処女声優便覧』のことでしたら、今年度版も完成してますけど?」
「それ売ってください! いくらでも払います!」
「売るとかそんな、嫌だなあ。匠さんは私の彼氏なんだから、ただであげるに決まってるじゃないですか」
「好きだっ、お前が大好きだ!」
「あんっ!」
がっちりと絵玲菜の体を抱いた。
初めて本当の意味で彼女と心が通じ合った気がする。
レズとかそんな、性愛の対象で人を判断するなんて悲しいことじゃないか。
美少女が大好きっていう、共通の趣味を持つパートナーになれるのに。
「よし、レズ菜。これからの俺たちを祝して、一緒に妹でも犯そうか!」
「嬉しい、匠さん!」
「勝手なこと言うな、変態ども!」
「いてぇ!」
後ろから飛んできた枕が後頭部に着弾する。
いつの間に目を覚ましたのか、あずきが顔を真っ赤にして睨んでいた。
「あ、あんたたち、何の話してるのよ! ていうか、あたしに何したのよ! 変態、変態、変態~!」
あずきはプンプンだった。
兄にイラマチオ調教されてレズにクンニされてイかされたくらいで。
「ていうか、あたしのパンツをなんでこの人がかぶってるのよ! バカじゃないの、あんたたち! バカ~!」
まだまだ興奮状態のあずき。「やれやれイキっぱなしかよ」と俺と絵玲菜ちゃんは顔を見合わせ、肩をすくめて笑う。
そして、俺が代表してあずきに言う。
「黙れ処女」
「ひくぅ…ッ!?」
「おまえはケダモノとレズビアンの檻に放り込まれた処女だ。いくらキャンキャンと元気よく鳴きわめいても、俺たちに喰われる運命なのは変わりない。あと、絵玲菜がかぶってるのはただのカチューシャだ」
「あんたまで頭おかしくなったの!?」
「聞いて、あずきちゃん。ようするに私と匠さんは、今からあなたを犯すことにしたの」
「何度も聞いたし、何度も聞きたくないわよ、そんな話!」
あずきは手を打ち鳴らそうとする。しかしその刹那に俺のケダモノインパルスが超反応し、あずきの手の間に足を突き出す。
「うぎゃ!?」
俺の足の裏を両手で挟むことになったあずきは、すごい気持ち悪そうな顔をした。
その隙に、絵玲菜ちゃんのレズビアンタックルが炸裂し、あずきをベッドの上に押し倒す。
俺も反対側からあずきに抱きつき、その耳元で勝ち誇った声で言う。
「ふっ、無駄だ。いくら超天才美少女催眠術師のお前でも、ケダモノとレズビアンに挟まれては勝てるはずがあるまい?」
「どーゆー状況なのよ、これ!?」
「はふぅ。処女の匂いがするぅ。私の布団にも染みこませたいなぁ」
「どれどれ、俺も処女の汗でも味わってみるか。れろれろ、むふー」
「は、鼻息と舌が気持ち悪いよぅ!」
あずきの首やうなじをペロペロする。
これが処女の味か。確かにケダモノの舌にぴったりくる。
「おは乳首ー」
「きゃあ!?」
絵玲菜ちゃんがあずきのTシャツをめくりあげる。
さっき、俺がさんざん舌でねぶってやった桃色乳首だ。
「すっごい可愛いー。キスしちゃおっと♪」
「いやっ、やッ!」
「ちゅっぱ、れるれる、じゅるっちゅ、ぢゅずずずずずっ!」
「いやああああッ!?」
おいおい、ガチの乳吸いじゃねぇか。キスしちゃおっと♪レベルのじゃねぇぞ。
唾液を塗りたくりつつ唾液ごと吸い上げ、あずきの体液を余さず胃袋に流しこむ勢いの愛撫は、まだ出ぬ彼女の母乳にまで手をつけようとするかのように激しく、そしてしつこかった。
「じゅるんっ、べろべろ、ぢゅっぱ、じょずずずずりっ!」
「いやっ、何すんのよ、バカ兄貴!」
負けじと俺もあずきの乳首に吸い付いた。妹の乳首が5センチくらいになっても構わないという意気込みで吸った。
隣の乳首を吸う絵玲菜ちゃんと目が合う。彼女は優しく微笑み、俺の髪に手を伸ばして優しく触れてくる。
俺も彼女の髪に指を絡め、頬を撫でる。互いの愛情を分かち合いながら、一緒にあずきの乳首を豪快な音を立てて吸った。
「いいかげんにしてよ!」
「イテっ!?」
「あうっ!?」
あずきの肘が俺たちの頭に振り落とされる。
するりと抜けだしたあずきはTシャツを元に戻し、ベッド隅に縮こまって胸元を隠す。ふっ、しかしノーパンであることを忘れては意味ないぜ。処女との評判の高いアレが丸見えだ。
「な、なんなのよ、あんたら! 一体、何があったらこんなことになるのよ!」
「何があったかって? まあ、かいつまんで言うと……ようするに俺はケダモノ、彼女はレズビアン、そういうことなんだよ」
「さっきから全然説明が進まないし、あんたも本当はよくわかってないでしょ! レズビアンってどういうことよ!? なんで絵玲菜がレズなのよ!?」
「貝アレルギーだけど、アワビ大好きー♪ 男女交際禁止業界に舞い降りる絶対正義のレズビア―――」
「うっさい、真面目な話をしてるのよ!」
「あずき、バカ! アイドルの人たちにとって自己紹介は真面目なお仕事なんだよ。これが彼女たちの真剣なんだよ!」
「いいんです、匠さん。世間からこういう目で見られるの、私たち慣れてますから……ぐすっ」
「お願いだから、せめてどっちかはふざけないで真面目に説明して!」
コイツ、うっせぇなあ。自分は絵玲菜ちゃんの面倒くさい背景説明のときにイキ寝してたくせに、そっちこそ何なんだよ。
こんなの、真面目に語るような話でもないのに。
「もういいから、さっさと二人とも眠って――ッ!?」
あずきが手を叩こうとした瞬間だ。
俺は油断して反応が遅れた。しかしそれよりも速く、目に止まらないほどの鋭い正拳突きがあずきの両手に挟まっていた。
絵玲菜ちゃんが、その拳を突き出していたんだ。
「催眠術……ですよね? それを使って、私や女の子たちをモノにしてきたってわけですか」
ぞくりとした。
絵玲菜ちゃんの推理もだが、それ以上に彼女の醸し出すオーラというか闘気というか念みたいのに、さしもの俺のケダモノも「きゅうん」としっぽを丸めた。
あずきも驚いて固まっている。しかも、なぜか催眠術のことまでバレている(俺たちが騒ぎすぎたせいだと思うが)
新藤兄妹の悪巧みはここで終了、告訴も待ったなしか。
「いいっすね!」
しかし絵玲菜ちゃんは、あずきの手の中で親指を立てて称賛した。
「さすがのレズ菜も、女の子を落とすのに催眠術とは考えもしたことなかったです。でも最高。この私を男にメロメロにしてしまえるくらいの破壊力があれば、どんなノンケも食い放題じゃないですか。マジこの兄妹、どこまでレズ菜を猛らせるのって感じです。いいっすね。やりましょうよ。この調子で世界中の美女・美少女を私たちで洗脳してやりましょうよ!」
「兄貴、警察呼んで。自首しよう。コイツに捕まるより絶対マシだって」
「そんなこと言わずに――んっ!」
絵玲菜ちゃんが、手首を返してあずきを捕まえにいく。
ただ、素早くてあまりよく見えなかったんだが、あずきも何かをして逃れたようだった。
「……へえ」
にたりと、これまで見せたことのない笑みを絵玲菜ちゃんは浮かべた。
しかもあずきも、俺が見たことのない構えをとっていた。
「やるじゃん」
「そっちこそ、ただのアイドルじゃなさそう」
あずきが素早いジャブを繰り出すが、絵玲菜ちゃんはそれには反応せずに次のフックをかいくぐって胴を取りに行く。
しかしあずきもそれを予測していたのか、膝を突き上げて彼女の顔面を狙う。
あとはもう、俺にはよくわからない暴力の駆け引きだ。
「ふうん、なるほど。催眠術は確かにメンタルへの攻撃力は最強かもしれない。でも、それを使う隙さえ与えなければ容易く破られる。その弱点を、あなたはすでに克服していたってわけね」
「当たり前っ。催眠術師なら当然誰でも武術の一つや二つは嗜んでるよ。行き着くところは武の力だもん!」
「ますますあなたが欲しくなったわ。どうしても、私のレズペットになってもらうっ」
「やれるものなら、やってみなよ!」
え……ちょっと待って。
俺は催眠術でエッチできればいいだけなのに、バトルとか始められるの最悪なんだが?
そりゃあ確かに、この展開これからどうするんだろとは思っていたけど、ケンカで決めるんだったらもう最初から力づくのレイプと同じじゃん。やめてよ、俺の興奮ポイントそこじゃないし。
「その流派、あたし知ってる。乱世に生まれ、乱世と消えた数多の戦国武術の一つ、近江黒鷺流!」
「そう言うあなたは遠江白鷺流! まさか、源流を同じくしながらも、主の非業の運命により袂を分けた因縁の相手だったとは!」
いや、マジでいいから、そういうのも。
なんか2人とも見たことない技とか使うし、真面目に観戦してたら結構すげーことしてるのかもしれないけど、ぶっちゃけ俺も格闘技に詳しくないし、戦国時代も知らないし。
そもそも、なんで2人とも素手での闘いにこだわってたんだろとか思っちゃう。
なんならそこのデスクライトとか、壊れてるから使っていいし。それで殴ればいいじゃん。一発じゃん。
あずきはなんか技名みたいのを叫びながら跳躍する。絵玲菜ちゃんもよくわかんないけど、気とか溜めてたのかな? 両手でハーッてしたわ。
なんかどんどんすげえことになっていくけど、どうする? 俺は下行ってテレビでも観てるか?
「くっ…!」
「ふふっ、こっちではまだまだ私に一日の長があるようね。さっさと観念してごめんなちゃいしなさいっ。私の指定する萌え萌えポーズで!」
どうやら、あずきの方が不利みたいだ。まあ、体格も絵玲菜ちゃんのほうがでかいしな。どっちも華奢だけど、だからこそ差は大きく出るよな。
「やだ……絶対負けないっ。もう二度と負けるとこ見せたくない!」
あずきは涙目になっても拳をくり出す。だけど絵玲菜ちゃんは、さすが肉食系変態レズビアンだけあって、かえって欲情した様子で追い詰めていく。
そういや、あずきの負けず嫌いは筋金入りだった。
なんだかあんまり覚えてないけど、誰かに負けて涙目になっているところ、俺はしょっちゅう見ていた気がする。
あのあずきが他人に負けるとか、今じゃあんまり想像できないけど……執念深く勝つまで挑むあいつを、「えらいぞ」って褒めてやるのが俺の役目だった気がする。
涙目のあずき。慰める俺。そしてもう一人、誰か女の子がいたんだ。そんな俺たち兄妹をどこか寂しげに見ていた子が―――
「うぅっ!」
そして今、目の前で絵玲菜ちゃんに押されていくあずき。
俺、何しようとしてたんだ? レズビアンと一緒にあずきを犯そうとしてた?
いやいや、何を考えてんだよ。あいつは俺の妹だ!
「あずき、そんなやつに負けるな!」
俺は気がついたら拳を握って叫んでいた。
「兄ちゃんが見てるぞっ。おまえは絶対に勝つ! 諦めるな!」
あずきが一瞬、目を丸くする。そして、仲間だったはずの俺にいきなり悪者扱いされた絵玲菜ちゃんも「マジで?」って顔をする。
勝負はあっという間についた。あずきが絵玲菜ちゃんの手首を返すと体ごと一回転して倒してしまう。
きゅう、と変な声をだして失神する絵玲菜ちゃん。
レズビアンの脅威は去った。妹の勝ちだ。
「やったぜ、あずきっ。さすが俺の妹――」
「近寄んなケダモノぉぉお!」
デスクライトで思いっきりぶん殴られた。
砕け散るガラス。俺の頭かライトのどちらかがへこむ音。
「だーっ!」
崩れ落ちる俺が、意識を失う直前に見上げた最後の光景は、両手の拳を突き上げて、勝利の雄叫びを上げる妹の姿だった。
えらいぞ、あずき。
◇
まあ、そんなことがあって俺の毎日がまた賑やかになった。
気になっていたのは、俺が絵玲菜というガチレズ国民的アイドルとも付き合うようになった事実について、希がどう思うかということだった。
いわゆる修羅場に、俺は向かい合わないといけないと思っていたのだが。
「はじめましてー。NNP48の大藤絵玲菜です。このたび匠さんの愛人にしていただくことになりました!」
放課後の俺んち。
予想どおり固まってしまった希に、たたみかけるように絵玲菜はマシンガントークをくりだす。
「わっ、本当だ、すごい可愛い。芸能界でも見たことないっ。さすが匠くんが『俺の正妻』だっていうだけある!」
「え、せ、正妻って。あ、あの、たっくん、どういうこと? この人、アイドルだよね? 愛人って、その」
「じつはですね、握手会に来てくれた匠くんのあまりのかっこよさに私がひとめぼれしてしまいましてっ。だってかっこいいですよね、匠くんって。ね、希さん!」
「う、うん。たっくんは世界一かっこいいけど……」
クラスで一番地味だし、こないだまで希の記憶の中にすら存在しなかったけどな。
「だからすぐに告白して愛人にしていただいたんですけど、『正妻は絶対に希に決まってるから』って匠くんすごい言うんですよー。もちろん、私は何番目の女でも気持ちに変わりはないから、おとなしくオッケーなんだけど」
「え、え、待って、たっくんっ。こんなにすごい人から告白されたのにっ? わ、私のほうこそ何番目でもいいよぉ。たっくんの後ろを歩かせてくれたら、それで十分だから」
「すごい! 本当に昭和っぽいっ、話に聞いていたとおり! こんなに可愛くて健気な女の子だもん、匠くんが愛してやまないはずだよね!」
「そ、そんな。私なんてあなたみたいな有名人じゃないし、たっくんがいらないっていうなら、おとなしく身を引くし……」
「ねえ、匠くんっ。やっぱり希さんが一番で、私が二番ですねっ。匠くんが一番愛しているのは希さんですもんねっ」
泣きそうな目で俺の顔色を窺う希。「わかってるよね?」という視線とゲスい笑みを向けてくる絵玲菜。
私にまかせてくださいと、この会合の前に彼女は言っていたのだ。
俺は「もちろん希を一番に愛している」と答える。
「たっくん…ッ!」
「じゃあ決まりだねっ。これからは2人でねっとりいやらしく匠くんを愛していきましょうよっ」
「う、うんっ」
そう、順番など絵玲菜にとってはどうでもいい。
俺のカノジョである希の画像を見せた瞬間「ひとめぼれ」した彼女は、俺と希の両方を手に入れるためなら何でもする。
修羅場どころか、勢いと順位付けだけで、希との関係を壊さず、愛人になることもあっさり了承させてしまった。
催眠術とは、なんだったのか。
「えっと、でもよく考えたら、どうして3人でしなきゃならないのかなって……」
「何を言っているんですか、正妻の希ちゃんっ。私たちはこれから、匠くんの愛情を共有して保護して同時に子宮に宿していかないとならないんですよ? ユニゾンなんですよ? 歩調を合わせていかないと」
「え、ごめんなさい。でも恥ずかしいっていうか……」
「いいからっ、脱ぎましょうっ。裸になってしまえば、案外なんとかなるっ」
学園のアイドルと、国民のアイドルが目の前で裸になる。
とても興奮する光景だった。いつもの2倍は勃起したいと思った。
「やっばぁ……希ちゃん、体もエロい……どうしよう、花びらが勝手に開いちゃうよぉ」
そしてそれ以上に、この状況に俺よりも興奮できる絵玲菜がうらやましいと思った。
「あ、あの。絵玲菜ちゃん、そんなにジロジロ見ないで……」
「隠すことないじゃない。だって私たち、3人ともベッドの上ではただの獣になって貪り合うと誓った仲でしょ? そんな美味しそうな体、私と匠くんのいいエサだよ。本当にありがとうだよ」
「え?」
「ごめん、希ちゃん。あなたに言わなきゃいけないこと、本当はもう一つあったんだ。じつは私、貝アレルギーだけどアワビ大好きで」
「え、え?」
「ずっと前からあなたのことが好きでしたっ。付き合ってください!」
もつれるようにベッドに押し倒される希。
やれやれ、これは厄介なセックスになりそうだ。俺はため息をついて服を脱ぎ始めた。
「ちょ、待っ、やっ、待って、なんで私っ、NNPの人におっぱい揉まれてるのぉ!」
「おふっ、これマジでやばいっ。神乳っ。神肌っ。こんな乳対応されたら、CD何枚でも買っちゃう! ちゅぶうぅ」
「や、んんっ、吸ってる……なんでぇっ。本当になんでこんなことになってるのぉ」
「乳首ちゃんが恥ずかしそうに尖ってきてる。女の子に吸われても感じちゃうんだ? ふふっ、こんにちは、希ちゃんの乳首ちゃん。レズビアンの世界へようこそ♪」
「たっくんっ、この人、変なこと言ったっ!? どうなってるの、たっくん、助けて!」
俺は制服をハンガーにかけて、下着をたたんでから、勃起したちんぽを握って絵玲菜をバックで貫いた。
「はうぅぅん!?」
「希、ごめんな。つまり、世の中にはいろんな人がいて、いろんな愛の形が存在する。だから、その愛は普通とか変とか、他人が決めつけるのもおかしいと俺は思うんだ。でもそういった話はともかくとして、絵玲菜は少し頭がおかしい。覚えておいてくれ」
「あっ、あん、匠くんのおちんちん、やっぱりすごいっ。レズビアンの膣にもしっくりくるのぉ!」
「たっくんはそれでいいの……? だったら、私もなるべく早く慣れるようにするよ」
「希っていい女だよな、マジで」
絵玲菜の中から抜いて、希に入っていく。
慣れ親しんだそこは、きゅうっと俺の形に締まる。
「たっくん…ッ!」
のけぞった希の体を、ゆっくりと往復していく。
くちゅくちゅと、可愛い音を立てて俺を歓迎してくれているそこが、ますます気持ちよく締めつけてきた。
「あっ、あんっ、たっくんっ、ふぅんっ、いつもより、恥ずかしくて、んんっ、上手く声が出せないよぉっ」
「かわいい、希ちゃん。んー」
「やっ、キスはダメ!」
唇を近づけてくる絵玲菜から希は顔を背ける。ごめん、と真顔で引いた絵玲菜に、希は「違うの」と小さな声で言う。
「キスは、たっくんとだけにしたいから……他は慣れるようにするけど、唇だけは許して?」
絵玲菜は希の体を抱きしめた。硬くなった希の耳に口を近づけ、優しい声でささやく。
「ありがとう。私、あなたたちのことが本当に大好き」
それから少しだけおとなしくなった絵玲菜と、交互に抱いて、何度も愛し合った。
調子に乗った俺は、ケータイを取り出し、バックスタイルで俺に貫かれる絵玲菜を撮影したりする。
「あぁん、やあ、匠くん、エッチなとこ撮ってるぅ!」
尻を突き出して、むしろ「ここ撮って」とばかりにフリフリとアピールして、絵玲菜はぐいぐいと腰を押しつけてきた。
前にゴミ動画でメモリいっぱいになってエロ絵玲菜の撮影できなかったことがあったからな。きれいにしといてよかったぜ。これからはもう、きれいなエロ動画しか撮らない。
「ねえ、それ流出したら、私、アイドル終わっちゃう」
絵玲菜は尻を振りながら言う。興奮しきった顔で。
「それとも終わらせたい? 私を抱いてるとこ流して、私の芸能生活終わらせたい? いいよ、匠くんがそうしたいなら。絵玲菜を独り占めしたいなら、ネットに上げちゃえば?」
想像したら興奮する。もちろん、そんなもったいないことするわけない。自慢したいのは山々だけど、この関係をそう簡単に終わらせるわけにいくか。
絵玲菜もわかってて言ってる。でもそれで破滅する自分を想像して、俺と一緒に興奮しているんだ。
彼女から抜いて、隣で横たわる希に入れる。丸いおっぱいを震わせて細い体がのけぞる。
「やっ、たっくん、恥ずかしい。撮られるの、恥ずかしいよぉ」
やっべ、興奮する。やっぱり希はきれいな顔をしている。俺にやられているとき、最高にエロい表情になる。
「誰にも、見せないでねっ。私の裸、たっくんだけに見てほしいからっ。絶対に、嫌だから、他の男子に見られるのっ」
見せるわけないじゃん。ネットで無料でこんなの見せるからいろいろ乱れるんだよ。本当にかわいい子とのエッチはがんばった人へのご褒美なんだ。まあ、俺は何もしてないけどな。
「匠くん、あとでこれ見てオナニーするんでしょ?」
絵玲菜が希に顔を寄せてピースする。
「がんばってシコってー。私たち、応援してるからね」
最高にかわいい笑顔。俺に揺さぶられている希。めっちゃ興奮する。
「ほら、希ちゃんもこの動画観て一人エッチしている匠くんに愛のメッセージ」
「え、えっと」
希も顔の横でピースして、頬を紅潮させたまま微笑む。
「言ってくれたら私たちお手伝いするから、いつでも呼んでね?」
今、特上の美少女二人とセックスしているのになんだが、早く帰ってもらってオナニーしたいと思った。
興奮して、エッチなことをしまくった。二人に重なってもらって交互に挿入したり、並んでМ字開脚させたり。
念願のダブルフェラなんてしてもらったりもしたけど、絵玲菜は希の唇に気をつけていたし、希もそんな絵玲菜のことを信用したみたいだ。最後まで俺たちはエッチを楽しんだ。
3Pなんて初めてだったが(あずきはノーカン)、俺の幸福感は半端なかったし、またしようねってことにもなった。
希はそれからも絵玲菜と上手くやってくれているようだった。
彼女から『正妻』と言われたことも意識しているみたいで、俺がデートに誘っても「絵玲菜ちゃんの予定を聞いてみる」と自分から彼女を誘ったり、2人で出かけることになっても、どこでどうしたとかを正直に3人だけのSNSグループに報告したりしている。
「私がたっくんを独り占めするようなことは、しちゃダメだなって思って」
いわゆる『妾』の立場に感情移入しちゃうあたりが、希らしいなって思った。
でもそんな希だからこそ、性欲モンスターの絵玲菜も徐々に飼い慣らされてきた。希のことを「好き好き」いうのは相変わらずだけど、最近それも単なる性欲とはちょっと違ってきていた。
「今でもめちゃくちゃカノジョにしたいよー。でもずっと友だちでもいたいから、嫌がられそうなことはしたくないなっ」
3Pエッチのときはそりゃアレだけど、普通にしていると本当に仲の良い友だちって感じだ。
そういや希も春からはモデルデビューが決まっていたので、2人は業界の話とかでも盛り上がっている。いつか何かで「デビュー前からの友だち」だって紹介し合おうと、ちょっと楽しみな約束もしているそうだ。
絵玲菜も、今回のことをきっかけに自分のキャラを少しオープンするようになった。アイドルや声優へのファン活動や知識の深さも世間に知られるようになり、仕事の幅が広がったそうだ。
自分もトップに限りなく近いアイドルでありながら、他のアイドルグループにミーハーな声援を送る姿は微笑ましくも愉快で、バラエティのレギュラーも取ったし、雑誌のコラム連載なんかも始まった。おかげで露出機会が増えたと、彼女に感謝するアイドルや事務所も多いとか。
そして自ら絵玲菜のところへ売り込みにくる。じつはそれが計算どおりだとは誰も思わず、業界は着実に侵食されていく。
これは希にはナイショにしているが……絵玲菜は時々、そうやって落としたアイドルや声優を引き連れてきては、俺にも抱かせてくれているのだ……。
◇
とまあ、こんな感じで性に潤い爛れきった幸福な生活を送っていると思っただろ?
事実、そういう毎日は送ってはいる。だけど、幸福かどうかってのは微妙だ。
なにしろ、妹はあれからずっと怒っているのだ。
「兄貴、まだできないの? 中学の問題も解けないとか、頭脳までケダモノレベルじゃん。死んで?」
あずきの宿題が俺の仕事になった。
毎日、俺の部屋にやってきて「おら」と教科書とノートを突きつける。しかも結構遅い時間になってから。
自分はベッドでマンガを読みながら、俺に文句を言い続けるんだ。
「ねえ、これの続きは? 買ってないの?」
「まだ出てないな」
「気になる。雑誌掲載分のあらすじ言って。セリフもポーズも忠実に」
「地獄か」
エッチなラブコメディを兄貴に演じさせるなや。
1人でラッキースケベなんてできるかよ。
「ねえ、まだー?」
中学の問題とはいえ、それなりに苦戦する。というか中学時代からして、すらすら解けたことなんてねえし。
ようやく終わったところで、感謝されるわけでもないし。
「あのさあ……これぐらい、間違わないでできないわけ? 去年やったところだよね?」
俺の書いたノートをぱらぱら開いて、計算ミスを見つけてぶつくさと不満をたれる。だったら自分でやれって話だ。
「まあ、いいか。あたしだったら、こんぐらいノート見ないでも解答できるし。おつかれさん」
しかもコイツ、めちゃくちゃ学校の成績いいし。絶対自分がやったほうが早いのもわかっててやらせてんだぜ。本当に嫌味なやつだ。
だけど、弱みがあるのでしばらくは言いなりだ。しかたないけど、我慢するしかないか。
まったく、これさえなければ文句なしの人生ってやつなんだけどな。
自業自得とはいえ、妹の奴隷なんて最悪だぜ……。
「じゃ、じゃあ。一応今日もがんばってくれたみたいだから、ご褒美あげないとね。えっと、さっき言ってたやつ。この続き、お兄ちゃんが実際にして教えて?」
あずきが手にしているのは、さっきのマンガ。ちょっぴりエッチな(それなり過激な)ラブコメディだ。それの続きがどうとか言ってたが。
「ヒロイン役は、特別にあたしがやったげるっ。はい、スタート!」
あずきは赤い顔して早口に言うと、パン、と表紙を叩いた。
俺の意識が、どっかに浮き上がって弾けて広がる。自分が自分でないような、まるで雲を歩く気持ち。ふわふわと、夢の中で俺の役目を思い出す。
演じなきゃ。エロハプニング磁力を持ったラブコメ主人公を。
えーと、確か転んだ拍子にヒロインの1人を押し倒して。
「ひゃあ!?」
そしてTシャツとブラをたくし上げて、乳首を咥えるんだった。
「んっ、あんっ」
そうそう。そしてヒロインに謝るんだけど、咥え方はもうちょっと深かったかもしれない。あともしかしたら、吸ってたかもしれない。
「あんっ、んっ、や……はあ、エロいよね、ほんと……」
本当そう。最近のはすごいエロい。早く続き出て欲しいよな。
「ん、ん、ふぅ、あ、くぅ」
ヒロインは、主人公にエッチなことされても「またか」って感じであまり怒らない。この許され具合こそが主人公である。神か。
そういや、おっぱいも揉んでたかもしれないな。
「やん、んんっ、もう、エロエロじゃん……」
でも怒られない。しかたないなって許してくれる。
ハプニングだから。わざとじゃないから。
地球って本当いい星じゃん。
「はぁ、はぁ、んんっ……」
「あ、ご、ごめんっ。わざとじゃないんだっ」
「うん……ハプニングだもんね」
ほら、怒らない。彼女は本当にヒロインだ。
俺も昔からこの子のことはよく知っているんだ。なにしろ中学時代の3年間、毎晩俺の夢の中で手コキしてくれてたんだからな。
いわば俺の最初の女。実質的俺の本命ってやつだ。
「え、もう一回言って?」
実質的俺の本命ってやつだ。
「もう一回」
実質的俺の本命。
「しょ、しょうがないなあ! そこまで言うなら、何しても許してあげちゃうけど、特別にっ。あたしのおっぱい……好きにしていいよ?」
遠慮なくモミモミさせてもらった。これは偶然起こったハプニング。誰のせいでもないんだ。
「あっ、ん、んっ。はぁ、すごい、エッチな揉みかた……希たちで練習したの?」
そう、おっぱいの研鑽は日々続けている。おっぱいの気持ちを理解し、おっぱいのして欲しいことを考え、おっぱいの幸福を願っている。
俺はおっぱいになりたいんだ。
「あたしにも教えて、んんっ、仲間はずれにしちゃやっ。ん、あんっ」
しないさ。もちろん俺は夢の彼女のおっぱいを幸福にしたい。
揉んで、優しく吸って、舐める。彼女も俺のおでこにキスしてくれる。転んで押し倒しておっぱいを触っているハプニング野郎に。
まったく、生まれ変わったらエロコメマンガの主人公になりたいぜ。
「ごめん、わざとじゃないんだ。立てるか?」
「え、うん。ありがと」
あらすじに従い、ヒロインの手をとって立ち上がらせる。
でもまた、足腰がふらついてるヒロインは、バランスをくずし俺を巻き込んで転んでしまうんだ。
「こ、こう?」
俺の上に倒れ込んで、あと、Tシャツもめくれて乳首同士が重なる感じだ。忠実に、あと俺の記憶を若干おおげさに再現することにして、ショートパンツの中に手を突っ込んで尻も直に触った。
「あんっ……転んじゃった、ごめーん。んんっ」
しかもこれは彼女のアドリブなのだが、キスしてきた。
にゅるっと可愛い舌が、俺の歯の間をかいくぐって舌に絡んでくる。
「ん、れろっ、んんっ、ごめんね、ちゅっ、わざとじゃないの、れろ」
「れろれろ、ちゅば、しかたないって、ちゅぶっ、転んじゃったんだから、ちゅぶぶぶぅ」
豪快に吸い上げながら、俺もこのエロハプニングを許す。尻、めっちゃ気持ちいい。すべすべで張りがあって、パツンと丸くて最高。PC持ってないけどマウスパッドにしたい。
唇がふにゃふにゃになるまでキスをする。ハプニングなんて長ければ長いほどグッドハプニングだ。永遠にハプニングが続いてほしい。
そうして飽きるまでキスしてから、夢の彼女は体をずらしていく。
「んっ、ごめん、そろそろ起き上がるね。ちゅっ、ちゅっ」
首、鎖骨、俺のシャツをめくって乳首にもレロレロチュってキスしてくれる。彼女もはぁはぁと息が荒い。ハプニングで興奮している。
硬くなった俺のアレを撫で、スウェットごとトランクスも脱がせる。もちろんただの偶然なのだが、俺も尻を浮かせていたところだった。
ん、そのトランクス。あれ?
いつだったか、NNPの握手会前に夢精しちゃって捨てたやつじゃなかったっけ? いつの間にタンスに戻ってきてたんだ?
ぼんやりした頭で記憶をまさぐる俺の前で、夢の恋人は、ビンビンにそそり立つそれに熱い息を吹きかけながら長い髪を耳にかけ、棒読みで言う。
「ごっめーん。また転んじゃった……あぁむ」
ペニスの上に覆い被さって、喉深くまで飲み込む。いきなりの衝撃にも、ハプニングだから仕方ねえ…ッ、て、俺も歯を食いしばりながら許す。
ぞくぞくと駆け上がってくる快楽。生温かい感触がにゅるにゅるとチンポに絡んでくる。
「んっ、んっ、んっ、ちゅぶっ、ちゅ、ぷっ、れろ、ちゅぶっ」
唇の吸引と自在に蠢く舌と、根元を支えながらしっかりと往復する柔らかい指。
いきなりピークの快感に襲われて仰け反ってしまう。夢の彼女は、俺のたくしあげたTシャツからおっぱいを揺らし、俺のずり上げたショートパンツから尻を丸出しにして、顔を器用に上下していた。
超エロい俺のヒロイン。俺だけのもの。マジでおまえのフェラがナンバーワンだ。
「ふぇ? もうひっはい言っへ?」
マジでおまえのフェラがナンバーワン。
「もう一回」
おまえのフェラが一番気持ちいい。もっとしてくれ。
「し、しかたないなあ! そんなに言うなら全部飲んだげるから、いっぱい出せば!」
ちゅぶっ、ちゅぶっ、ちゅぶっ。
強烈なバキュームと愛撫の嵐。俺の腰は自然に浮いて、つま先がピンと立つ。夢の彼女はそんな俺を押さえつけ、ますます激しいフェラで追い詰めてくる。
「で、出る!」
「んんんっ!」
精液を超える何かが出てるんじゃないかってくらいの快楽のかたまりが尿道を突き抜ける。
宣言どおり、夢の彼女は大量に噴き出すそれを喉で受け止めてくれた。しかも、全部飲んじゃってからも、くったりしている俺のチンポを手に乗せてペロペロを続けてくれる。
気だるさと気持ちよさとくすぐったさで悶える俺。徐々に硬さを取り戻してくるそれを舐めながら、尻を揺らして「ねえ」と彼女はささやく。
「それで? 続きはどうなるの?」
続き?
あぁ、マンガの話か。
確かその次の回は、いつものように妹と風呂に入っている場面から――
「よっしゃあ、妹回! いこいこ、早くお風呂行って続き聞かせて!」
その後、夢の彼女と2人で風呂に入った。原作では洗いっこするだけだったけど、アドリブのハプニングでキスしたり、風呂の中で胸とチンコを揉み合ったり、素股泡プレイなんかを楽しんだりした。
片手で恋人つなぎして、泡だらけの腰を俺の上で動かしながら、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と可愛い声で鳴いて、もう片方の手で俺の乳首をコリコリしてくれる夢の彼女。
まったく、うちの鬼妹もこれくらい素直で甘えんぼうだったら、文句なしだったんだけどな。
◇
朝起きたら、ゴミ箱がティッシュであふれていたので、下に持っていく。
最近、夢精はしなくなったけど、始末した覚えのないゴミティッシュがいつの間にか増えてるし、朝勃ちすらしなくなった。
まさかとは思うけど、俺は2人も美少女恋人がいながら、夢でもオナニーをしてるのか?
ありえるな。もう最近はエロに関しては何があっても不思議じゃないっていうか、俺をおいてけぼりで世界が勝手にエロくなっていく感じだしな。まあ、病気じゃあるまいし、別にいいけど。
からっぽになったゴミ箱を抱え、パジャマの中でへそを掻く。階段下に戻ったところで、チャイムが鳴った。
どうせ母ちゃんの井戸端仲間だろうと、だらしない格好のまま玄関を開けてやる。
――顔、ちっちゃ!
それがまず最初のインパクトだった。
長い黒髪と、フィギュアみたいに整った顔。あずき、希、絵玲菜という完ぺき美少女三国志の中で傀儡の帝やってた俺ですら、膝を叩いて禅譲したいニュー美少女フェイス。
清楚なワンピースから伸びる手足も、服の下で上向きに自己主張している意外と大きめの胸も、何より匂いというか雰囲気というか、まとっていう空気がもう『美少女』としか言いようがない。小さな花が飛び交って見える。
美少女に生まれ、美少女のまま人生を全うするのだろう「美少女」という名の人類を超えし美少女が、なぜ俺んちなんかに来てくださったんだ。
「お兄さん……やっと会えました」
彼女が瞳を潤ませ、頬を紅潮させたとたんに空気がほんわりと暖かくなる。
蕩けてしまいそうな背骨を、なんとか支えて立っている。というかなんでパジャマだしゴミ箱なんて抱えてるんだよ、俺。そりゃ天使も奇跡を現しにいらっしゃるわ。
「あの、あなたのどちらの天使様でしょうか?」
「え?」
失礼のないように尋ねたつもりだ。しかし、彼女は急に表情を曇らせた。それだけで俺も泣きそうになった。
「あ」
しかし何か思い当たったのか、「もー」と美少女は少しむくれた顔になる。
いちいち表情が動くたびに俺を感動させるものだから、心臓がドキンドキンと不整な鳴り方をして死にそうだ。やっぱり彼女は天使か美少女のどちらかだよ。
「わかりました。あずきちゃんがいじわるしてるんですね。何かするんじゃないかと思ってましたけど、お兄さんの記憶を封印しちゃったんだ。あの子も催眠術にハマってたし。もー、ひどいなあ」
「え、あずき? きみ、妹のことを知ってるの?」
「もちろんです。あずきちゃんがやりそうなこともだいたい。あいかわらずのお兄ちゃんっ子みたいですね。ふふっ、早く会いたいな。でもその前に」
天使は俺の前で小さな手を握って見せる。うわ、手まで可愛い。それ食べていい?
「お兄さんの封印、わたしが解いてみますね」
その手をかわいく振る。
最高に可愛い笑顔を浮かべて、いきなり開く。
「ぱっ」
――その瞬間、頭の奥で何かが決壊した。
全然気づいていなかったが、俺の中に、巨大なダムか砦のようなものがそびえ立っていた。
執念深い誰かが何年もかけ、毎夜を費やし、何重ものセキュリティの鎖を這わせて築き上げたのだろう重く分厚い壁。いつからか知らないけど、俺はそれに心を半分に区切られていたんだ。
だが、それは壊れた。
というか消えた。一瞬にして跡形もなく、魔法のようにこの子が「ぱっ」と消してしまった。
そこからあふれ出すのは記憶だ。小さいときの思い出だった。
俺とあずき。まだ仲が良かった頃の俺たちのそばに、いつももう1人の女の子がいた。
あゆりちゃんだ。
年は1コ下であずきの同級生。近所のマンションに住んでいて、俺たちと仲がよくて、毎日一緒に遊んでいた。
頭が良くて何でもできて、常にあずきの一歩先を行っている感じだった。あずきはよく彼女に張り合っていたけど、おとなしい彼女は困った顔をして、最後には勝ちを譲ってあげてたりしたんだ。
そして俺が褒めてやってようやく機嫌を直すあずきを、いつもこの子は一緒に褒めてあげていた。あのときのあずきは、あゆりちゃんに比べると全然ガキだったよな。
そう、この子はあのあずきも超える天才体質なんだよ。なのに優しいんだ。しかも、めっちゃくちゃ可愛くて、俺は彼女が大好きだったんだ。
どうしてこの気持ちを忘れていたんだろう。この子が俺の初恋なんだ。希よりもずっと先に、ちゃんと恋していたんだ。
封印されていた気持ちが、新鮮な想いになってあふれかえる。あゆりちゃんをすっげえ好きだったって思い出して、今の感情になる。
さすが俺。分不相応な恋が本当に得意だな。妹が超天才美少女催眠術師じゃなかったら永遠に童貞だったよ。
でも、思い出した。彼女が親の都合で海外に引っ越しすると告げた日。
俺は彼女にプロポーズした。そして彼女は答えてくれたんだ。
『お兄さんのお嫁さんになります』って。
そう。その可愛くて大好きな幼なじみが――
「――あゆりちゃん?」
「はいっ。ご無沙汰してしまってごめんなさい。お兄さんのあゆりです」
天上の楽器を奏でるかのような笑顔と声。
赤い頬で上目遣いする彼女に、俺はもう視線を逸らせなくなる。
しかし感動の再会に盛り上がりかけたそのとき、後ろの階段でズドドドと何かが崩れ落ちてくる音がした。
「あ、あゆり?」
尻餅をついて、あずきがあんぐりと口を開けている。
あゆりちゃんは、「わあ」と嬉しそうに笑った。
「あずきちゃんだー。やっぱり、すっごく可愛くなったんだね。わたし、今度こっちに越してきたんだよ。昔みたいに、また仲良くしてね?」
青い顔をして、あずきは唇の片端をひくひくさせた。
あゆりちゃんはニコニコと、天使のスマイルを見せていた。
そしてこれから、俺たち兄妹の物語も最大の転換点を迎えてクライマックスへと向かっていくわけだが―――。
なんか、絵玲菜の件だけでも結構こってりだったし、俺もいいかげんエッチばかりで疲れたっつーか枯れちゃってるし、次回またってことでいい?
< おわり >
更新が来てることに今更気づいたけど書籍化されてるみたいだし続きは来ないのかなぁ
それはそれとしてとても良かったです
まだたったの6年。まだまだ待てます、あと10年は戦える。