さよならウィザード 第6話

第6話

「こ、琴原モエミさん! 俺と付き合ってください!」

 いきなりモエミに告白してきたのは、同じクラスの神田という奴だ。
 出身中学が違うし、まだそんなに親しくはないのでよく知らないけど、爽やかなジャニ系っぽい童顔で、女子にも「可愛い」と人気があると聞く。
 しかし、まだ6月だというのに告白とは勇気があるな。
 とはいってもモエミも人気があるみたいだし、誰かのカノジョになっちゃう前にって焦る気持ちも分からないではない。
 でも、何もこんなときに告白しなくてもって、僕なら思うけど。

「こ、こんなとき、あんっ、そんなこと言われてもっ、あっ、あっ、んんっ」

 モエミも同意だそうだ。
 放課後の教室で、自分の机の上で僕にバックから犯されながら、モエミは困ったように唇を結ぶ。
 教室にはいつの間にか僕ら以外の生徒の姿はなく、授業が終わってすぐにモエミを犯し始めて、結構な時間が経っていたようだ。
 神田もモエミだけになるのを待ってたみたいだけど、僕らのセックスがいつまでも長引いているから、痺れを切らして告白しちゃったというところだろうか。

「ずっと前から君のことを見てました…ッ、好きです! 俺のカノジョになってください!」
「ひんっ!?」

 大胆な告白に、ますますモエミは真っ赤になって縮み上がる。僕のペニスもキュッと締め付けられた。恥ずかしさと嬉しさからか、じゅぐっと蜜の量を増すアソコの中を、僕はぐいぐいと突き進む。
 高校入学を機に髪型とメガネを可愛らしいデザインに変えたモエミは、地味だった印象も変わってモテるようになった。高校の同級生はもちろん、上級生や、奴隷制度から解放された中学時代の同級生なんかにも声をかけられているらしい。
 それでも、彼女はそういう誘いを今のところ断っている。
 理由も、もちろん僕は知っていた。

 あれは、入学式の帰り、僕とモエミが並んで電車に座っていたときだ。

「……トーマ君のことが好きなの」

 モエミは消え入りそうな声で告白してきた。
 コトンコトンと走る電車の音を聞きながら、隣の席で背中を丸めていく彼女の真っ赤な耳たぶを見つめ、僕は思った。
 あぁ、やっぱり、と。
 彼女の優しさが単なる親切ではないだろうことは、さすがの僕でも察しが付いていた。彼女なりに思い切ったらしいイメチェンも、朝からたどたどしく緊張していた仕草も、今日は何かあるんだな、と思わせるには十分だった。
 そして僕の答えもすでに出来上がっていた。

「悪いけど、モエミと付き合うつもりはないよ」

 モエミは膝の上で拳を強く握って、「……うん、わかってた」と頷いた。「それでも一度、告白してみたかっただけだから」と言って、さらに背中を丸めた。
 彼女との付き合いも小学生の頃からだから相当長く、セックスだって数え切れないくらいしてるし、中学から始めたパンツローテーションも彼女は律儀に守っていて、今日も大胆なヒモパンを履いてきていた。
 宿題を見せてくれたり、ボタンの取れた制服を直してくれたり、時々はお弁当も作ってきてくれたりと、彼女にはセックス以外にも何かと世話になっている。
 モエミは小学生のときも、積極的にエリをイジメていたわけじゃない。だから僕も彼女には特別冷たくしているつもりはないんだけど、もう少しその真剣な気持ちには応えてやってもいいかもしれない、と思った。

「カノジョとかは無理だけど」
「え?」
「僕の性奴隷になら、してあげてもいいよ」

 子供の頃からメイドごっこやペットごっこでエッチするのが好きだったモエミは、それがどういうものなのかはよく理解できている。
 少し驚いた顔をして、やがてポッと頬を染めて俯いた。
 そして小さな声で「夢みたい……」と呟くと、潤んだ瞳を上げた。

「私を、あなたの性奴隷にしてください」
「あぁ、いいよ」
「……ありがとう、ございます」

 こうして、モエミは僕にセックスを供給する奴隷女になった。
 彼女は真っ赤な顔をして、嬉しそうに新しいメガネを押し上げ、感極まって流れ落ちる涙を拭う。
 僕たちの会話を盗み聞きしていたリーマンのお兄さんが、口を開けて固まってて、笑えた。

 というわけで、今やモエミは学校公認の「僕の性奴隷」だ。
 高校なんていっても中学より人数が多いだけで、支配するのも簡単だ。
 僕は入学式のときに学校のほとんど掌握していたし、取りこぼしを拾うのだって、2日もあれば終了している。
 完全に支配下に置いた学校の中で、僕は中学と同じ階級制度は作らなかった。
 ああいうのは、結局エリがいなければ意味ない。権力にまとわりつく女子もうっとうしい。僕はみんなと同じ普通の男子生徒で、必要に応じて横暴な魔法使いであればいい。たかが800人にも満たない程度の学校生活に、特別な地位など何もいらなかった。
 モエミとも、その後もやってることはたいして変わらない。
 ただ、時も場所もを選ばなくなったというだけで。

 “琴原モエミは僕の性奴隷”

 それはこの高校の者なら誰でも知っているし、彼女の家族も承認している事実だ。

 “どこで僕らがセックスしようと僕の自由で、不自然な行為じゃない”

 例えば休憩時間に彼女を僕の足下に跪かせてしゃぶらせようが、授業中に僕の上に跨るように命令しようが、廊下のど真ん中で犬みたいに交わろうが、それは日常的でよくある高校生活の一部だ。
 誰もおかしく思ったりはしないし、授業中のハレンチを咎める教師もいない。
 僕らはそういう関係であるというだけだ。
 でも、僕はモエミにセックスの奴隷であることだけを命じたつもりだけど、モエミは前にも増して僕に世話を焼くようになった。
 次の授業の準備とか、昼食の用意とか、僕の掃除当番を代わったりとか、日常生活においてもまるで僕の奴隷のように振る舞っていた。
 そのせいで、逆におかしなことになったなと僕自身も思うんだけど、クラスメイトからは、「性奴隷とか言って本当はお前ら付き合ってんじゃないの?」と、じつに奇妙な冷やかしを受けている。
 セックスは「僕らの日常」だけど、それ以外の世話焼きは「特別な好意」じゃないかと、彼らは勘ぐっているわけだ。
 それに対して僕らは「付き合ってない」と正直に答えている。セックスしながら言っている。モエミもみんなの前で僕との結合部を晒しながら、「こ、これはそういうんじゃないもん!」といやらしく腰を捻ったりしている。
 普通の生活を送ると言っておいてこれなんだから、我ながらクレイジーな高校生だと自覚している。
 今さら普通だなんて、無理なのは分かってる。しょせん、魔法使いが普通の人間のフリをしているだけだ。今はまだ。

「ご、ごめんな、さい! そ、その、神田君とは、私…あっ、あっ」

 机の上に顔を押し当て、僕に尻を揺すられながらモエミは答える。
 神田はショックを隠せないようで、わなわなと唇を震わせる。
 というより、この状況で告白してOKをもらえると本気で思っていたのなら、あきれるほど厚かましい男だと思う。
 何でも自分の都合の良いようにしか考えないのが、僕ら世代のクオリティだとしても。

「でも、トーマとは付き合ってないんだよね!? 性奴隷っていうだけで、二人は付き合ってないんでしょ? そうなんだろ、トーマ?」
「うん、まあ」
「そ、それは、そうなんだけど…あっ!? あ、そこ!」

 モエミは、唇を噛んで「んーっ!」と仰け反る。ちょうど僕のペニスの先が彼女の弱い所を擦った。おしゃべりの邪魔して悪かったかな。

「だったら…その…俺とも…」

 神田は僕らが繋がっているモエミの尻を見て、ゴクリと喉を鳴らす。
 これが「日常」とはいえ、セックスはセックスだ。
 好きな女の子が目の前でお尻を出して犯されているんだから、男子としては気になるのは仕方のないところだろう。
 モエミが高校にきて急にモテるようになった理由の一つもこれだ。日常的にお尻もアソコもおっぱいも教室の中で丸出しにしてセックスしている女の子のこと、誰だって気になって当然だ。
 おとなしい性格のくせにボリュームたっぷりのスタイルや、可愛い顔や、エッチのときの恥ずかしそうな乱れっぷりは、男なら誰でも抱いてみたいと思うだろう。
 彼女が授業中に僕の前で下着のヒモを解くとき、あるいはその豊満な胸をあらわにして僕のペニスを挟むとき、教室から静かに低い感嘆の声が漏れることにも僕は気づいている。そして彼女がいやらしく献身的なセックスに奉じている様子は、カノジョがいるやつですら「うらやましい」と僕に調教の秘訣を聞きに来るくらいだ。
 モエミみたいな子とセックスしたいって、男子なら誰でも一度は思うはず。
 だって実際、モエミの体は気持ちいいし。

「あ、あの、神田くん。そんなに、ジロジロ見ないで、あん!」
「あっ、ご、ごめん!」

 もちろん、モエミが欲情した男子に乱暴なことをされないよう予防線は張ってある。

 “モエミが禁止の言葉を口にしたときは従わないといけない”

 本人すら知らないルールを、魔法で全校にかけておいた。
 とりあえずの処置だけど、少なくともモエミが望まないことで被害を受けるようなことはないように、僕も魔法使いとして最低限の気配りはしているつもり。
 今も神田は自分の欲望を抑えて、必死にモエミの尻から目を逸らしている。

「二人が付き合ってないなら、俺と付き合うことも考えて欲しいんだ。即答はいくら何でも悲しすぎるから」
「んっ、んっ、でも、私は、あっ!? あんっ、ダメ、トーマ君、そ、そこばっかり、ダメぇっ」
「こ、今度の土曜日とか、空いてたらどこか行かない?」
「あっ、あっ、あっ、そこ、ダメだってば、あっ、びりびり、きちゃう、トーマ、くぅん!」
「聞いてる、琴原さん?」
「き、聞いてるよぉ! あぁん! あぁ! ど、土曜日はダメなの……トーマ君が泊まりに来てくれる日だから、んっ、私とお姉ちゃんは、家にいないと、あん!」
「と、泊まったりとかしてるの、トーマ!?」
「うん、まあ。たまに」
「……本当は付き合ってんの?」
「付き合ってない」
「つ、付き合ってないよぅ!」

 僕らの関係は誤解されやすい。
 それだけのことだ。

「全然わけわかんないよ……トーマは、琴原さんはトーマ以外の男と付き合ってもいいの? 性奴隷なのは知ってるけど、他に彼氏作ってもいいってことだよね?」
「もちろん」

 当然そんなのはモエミの自由だろう。いつか彼女に僕以外の恋が訪れたときは祝福するつもりでいる。
 まあ、たとえ彼氏が出来ても、そいつとはセックスはさせないけど。だって病気とか怖いし。僕は自分用のオマンコは独占する主義だ。

「琴原さん、トーマはこう言ってるけど。俺とは、どう? どうしても付き合えない?」
「ど、どうって言われても……んっ、あんっ、んっ、んっ……無理、です……」
「だから、どうして無理なのさ!? いいじゃん、別に性奴隷が彼氏作ったって! 何でだよ!」
「うぅ……で、でもっ……」

 おとなしそうな顔のわりに、ずいぶん自信あるんだな、神田。モエミは付き合えないって言ってるのに。
 ていうか、性奴隷って本当に彼氏作ってもいいのかな? 誰が得するんだろ、その状況。なんだか僕まで意味がわからなくなってきたんだけど。
 神田は荒れていくし、モエミはそんな彼に萎縮していくし、僕もさっさとイきたいし。
 そろそろ魔法の出番か。

「僕は魔法使いのトーマ」

 神田の目から焦点が切れ、とろんと蕩ける。現実の時間から魔法の時間へと落下する意識。だらりと下がった肩は弛緩し、半開きの唇と鼻からも緩い吐息がだらしなく漏れた。
 モエミのお尻からも緊張が抜ける。じゅぶ、と緩い水音をさせる膣内を往復しながら、僕は魔法の言葉を告げる。

「神田。お前はモエミの意見に逆らえない。今後も絶対に彼女には逆らえなくなる。お前の恋愛感情は、そのままモエミへの忠誠に変わっていくんだ。モエミを大切にしたい気持ち。欲しい気持ち。それは全部忠誠だ。お前は、自分をモエミの下に置きたかっただけだ」

 思えば、階級制度を布いていた中学時代にはこんな面倒なことはなかった。いや、一度だけ竹田の事件があったか。でも問題が起きたのはそれぐらいで、学校生活としては効率的だった。平和そのものだった。
 でもその効率的な暮らしは魔法使いを退屈させた。常に女子から注目されるのも煩わしかった。
 堂々たる王としての生活か、あるいは隠匿の魔法使いとして暗躍する毎日か、どちらの選択も便利な面と不便とがある。おとぎ話にでもなりそうなテーマだ。
 まあ、悩むほどのことでもないけど。
 この学校で何をしようと僕が自由なのには変わりない。絶対に勝利する剣は、常に僕の手の中にあるのだから。
 そして今の僕には、大勢の女性を侍らせる王の暮らしに魅力は感じられなかった。
 煩わしいものは、必要ない。魔法使いの生活なんてのはシンプルでいいんだ。
 僕はエリという女王に仕える身分だから。

「モエミ、どうして欲しいのか正直に言ってあげなよ。君の望みを、神田に聞かせてやるんだ」

 彼女はいつも柔らかい言い方しかできないから、こういう拒絶をきっぱり出来ない。まあ、その柔らかさがモエミの長所だと思うので性格までどうこうするつもりはないけど、いつまでもハッキリしないのは神田のためにもよくないだろう。
 そして魔法を解除する。
 モエミの中が再びギュウと締まり、深く入り込んでいたペニスの先端に彼女の子宮口が当たる。

「あぁー! 私、トーマ君のおちんちんが好きィ!」

 机の端をきつく握り、喉を仰け反らせてモエミが叫んだ。

「好きッ、好きなのッ! 大好きなの! 神田君は邪魔しないで! あなたも、他の男子も、私たちのセックスの邪魔はしないで! 私たちの大切な時間に、あなたたちは入ってこないでぇ!」

 モエミは自分から腰を振り、机を揺らし、セックスを激しくさせた。
 豹変した彼女の大胆なセックスとセリフに、神田は目を丸くする。

「トーマ君だけなの! 私はトーマ君のことだけ考えていたいの! トーマ君に喜んでもらえれば私は幸せなの。私は、セックスだけじゃなくて、身も心も彼の奴隷になりたいの! だから、あなたが勝手に私のこと考えたりしないで! 私はトーマ君の所有物なんだからぁ!」
「は、はい…」

 モエミの厳しい物言いに神田はたじろぐ。
 そして、僕も少し驚いていた。
 所有物? 身も心も?
 いや、僕はそこまでモエミに求めたことはないんだけど。

「あぁ! あぁ! もう、トーマ君だけ…私は、トーマ君のことだけ考えて生きてくって決めたの…ッ! あぁ、幸せ! トーマ君の奴隷になれたら最高に幸せ! 想像しただけでイッっちゃう! 私、トーマ君の奴隷になれるなら何でもしてあげるのに! 死んでもいいのに! 他の人はいらないの! 私を、トーマ君と二人だけにしてぇ!」

 神田も引いてたし、僕も完全に引いた。
 モエミは暴れ馬のように腰を振り、僕のペニスに身悶えして、自分のセリフにも酔っていった。
 僕の奴隷になったら、毎日首輪をしてヒモを僕に握らせたいそうだ。
 僕のために食事を作ったり、部屋の掃除をしたり、身の回りの世話をしたいそうだ。
 何か気に入らないことがあったら、野外でもどこでも犬みたいに犯して欲しい。ご褒美のフェラチオはお腹いっぱいになるまで飲ませて欲しい。僕の脱いだ服は全部手洗いさせて欲しい。トイレなんかに行くくらいなら、自分にゴクゴク飲ませて欲しい。
 大学を出たら、一生懸命に働いて僕を養いたい。全部自分に任せて家でゴロゴロしていてほしい。僕の気の向くままに犯されて、セックス三昧な毎日に溺れたい。
 他に欲しいものはない。僕がご主人様でいてくれればそれでいい。奴隷になりたい。犬になりたい。牝豚と呼ばれたい。イジメられたい。
 モエミは自分の密やかな願望をマシンガンのようにしゃべりまくり、そのたびにセックスを激しくさせた。ガタガタと机を鳴らし、全身を揺すって僕のを締め付けた。
 あれ、そういえば神田は?
 いつの間にか彼は帰ってしまったようだった。

「あぁっ! あぁ! トーマ君、トーマくぅん! 私を、奴隷にして……もうセックスだけの奴隷じゃ、満足できないの……全部、あなたのモノにして欲しいの……っ! 私に、あなたをご主人様と呼ばせてぇ!」

 せっかく新しい校舎にもようやく馴染み、新しい友人も出来てきたところだ。
 普通の高校生として生活をリスタートしたばかりだというのに、さっそく同級生の女の子を完全奴隷にしてしまう男子なんて、クラスのみんなにも引かれちゃうと思う。
 でもまあ、性奴隷とか言っている時点ですでに普通ではないわけだし、これがいよいよ真の奴隷となったところで、僕らの生活は何も変わらないような気もするけど。

「あっ、あぁ! トーマ君、お願い! お願いぃ!」

 放課後の校舎に、モエミの切ない懇願が響き渡り、遠くで聞こえる金属バットの快音がそれに重なった。
 6月の晴れ間に僕らは爛れた性生活を学校に持ち込んで、堕落していく。
 蒸し暑くなっていく体はセックスの匂いをますます濃厚なものにしていき、この位置で見下ろすモエミのたっぷりとしたお尻は、僕をエッチな気分にさせた。

「じゃあ、まあ、セックスのときぐらいは、僕のことご主人様って呼んでいいよ」

 モエミは驚いたように僕を振り返ると、にまぁっと表情と蕩けさせた。

「ありがとうございます……ご主人様っ!」

 しっぽを降るようにお尻を揺らすと、僕のペニスを締め付ける。

「ご主人様……私の、ご主人様ぁッ!」

 涙を流してモエミは喜び、一生懸命にお尻を振る。ガタンガタンと机は危なっかしく揺れ、その上で暴れるモエミはまるでロデオライダーだ。
 夢中になるのはかまわないけど、「ご主人様」なんて言ってるところを他の人に見られるのはさすがに恥ずかしいから、学校では少し自重して欲しい。

「あ、やっぱりモエミとトーマ君だった」
「すっごいよ、廊下まで聞こえてたよ、ご主人さま~って」
「え、あ、うそッ!?」

 と、思ってたらやはり同級生に見つかってしまった。クラリネットを持った吹奏楽部の女子二人だ。
 僕のことを「ご主人様」と呼び始めたことをさっそくバレてしまったモエミは、顔を真っ赤にして口を隠す。僕らの繋がっているアソコも真っ赤だというのに、そこは丸見えのままだけど。
 彼女たちは練習場所を探している途中だったらしい。吹奏楽のやつらは、パート練習と称していつも放課後の教室を不器用な音色で占領する、文化部のくせに侵略的な連中だ。今日は2、3年生は大会の練習があるので、1年生だけでロングトーン練習らしい。
 じっくりとセックスを楽しんでいた僕らにも、馴れ馴れしく近づいてくる。

「あいかわらずだねー、君ら。もう付き合っちゃえばいいじゃん。モエミ超いい子だよ、トーマ君」
「てか、トーマ君ってモエミにご主人さま~とか呼ばせてんの? なんか、やばそー。じつは付き合ってんでしょ、かなりディープに」
「あっ、んっ、ち、ちがうの。私たちは、その、あんっ、そんなんじゃないし、んっ、やばくないからっ、あんっ、あんっ」

 僕はモエミの後ろからお尻をパンパン突いて、彼女たちとの会話を適当な相づちでやり過ごす。
 モエミとのセックスを日常風景にしたのはまぁよしとしても、日常会話に埋没してしまうまでになると、当事者としては少し複雑だった。

「そういや二人ってさ、小学校から一緒だったってホント?」
「う、うん」
「えーっ!? 小学生のときからご主人さま~だったの? やばすぎる小学生じゃん、すごくない!?」
「す、すごくないよぉ! んっ、その、ご主人、様とかいうの、ごめん、聞かなかったことにして! ちょっと、ふざけただけだから! あっ、あっ!」

 恥ずかしがるモエミの尻に爪をたて、激しく腰を動かす。彼女のソコは、同級生に言い訳しながらもどんどん熱くなっていき、僕のをきゅうきゅうと締め付けた。
 モエミも恥ずかしいとか言いながら、最近じつは見られながらするエッチに感じ始めてるんじゃないかなっていう手応えがある。露出系、羞恥系の趣味は僕にもなかったはずだけど、観客が女子ならそういうのも悪くないかも。
 真面目で地味なキャラしてるモエミが、見られることに恥じらいながら乱れていく姿は、確かに可愛いし興奮する。
 吹奏楽部の二人に練習場所を空けてやるためにも、僕らが早くイけるように協力してもらおうか。

「僕は魔法使いのトーマ」

 モエミがまた被魔法状態になって体から力が抜ける。
 クラリネット女子たちの瞳もとろりと色を失う。
 彼女たちもどちらかと言えば地味系だ。でもモエミと違うのは、その地味なとこが魅力になっていないところだ。
 進学校であるうちの高校は総じて女の子たちのレベルが低い。今さらそのことで文句を言っても仕方ないが、美少女レベルなんて数えるほどだ。
 この二人も抱きたいと思わるほどじゃない。だけど、いろんな女の子の裸を見るのは、単純に僕は好きだった。

「二人ともスカートを脱いで」

 はらりと2枚のスカートが同時に落ちる。
 片方の女子は黒いストッキングを履いていて、それが逆にエッチな感じだった。モエミのパンツローテーションにノーパンストッキングの日を組み込むのもいいかもしれない。

「セーラーもたくし上げて。ブラも一緒に。僕が隠していいというまで、僕たちに君らのおっぱいを見せて。そして君たちは僕に下着や胸を見せていることに気づかない」

 二人とも、きれいな色をした乳首を見せてくれた。たぶん、二人とも処女なんだろうな。
 眼鏡の方はやや小ぶりでお椀みたいに丸い形をしている。ストッキングの方はモエミほどではないけど巨乳で、乳首は陥没していた。

「モエミ、二人に僕らのセックスがどれだけ気持ちいいか説明してあげなよ。僕たちがどれだけエロいことをしているのか教えてあげるんだ。質問には正直に答えて。僕のこともご主人様と呼べ。恥ずかしくても、それが見学者に対するマナーだよ。じゃ、魔法解除」

 パン、とお尻を叩いて解除する。「ひぃん!?」と悲鳴を上げて、モエミがぎゅっと僕のを締めつける。
 そして、解き放たれたように大きな声を出す。

「あぁああ~ッ! 気持ちいいよぉ、ご主人様のおちんちん、すごく気持ちいい!」

 ぐいぐいとお尻を揺すって同級生に奴隷のセックスを見せつけ、モエミは全身を赤くして叫ぶ。

「恥ずかしい……けど、見てぇ! これが私たちのセックスなの! 私はトーマ君の奴隷なの! 彼のことご主人様って呼んでご奉仕して意地悪してもらうの、気持ちいいのぉ! おちんちんでイジメてもらうの大好き大好き気持ちいい気持ちいいよぉ! 私の子宮が、ご主人様のおちんちん大好き大好きって泣いてるのわかるの、ぞくぞくしちゃうのご主人様のこと考えただけで! あぁ! お尻の穴も、ひくひくしちゃう! ご主人様の視線感じるの、こんな恥ずかしい格好したらそこ丸見えなのわかってるの、そこも何回も何回もご主人様に犯していただいた穴だから、見ていただくだけで感じちゃう…ッ! あぁっ、だから、セックスはこの格好が一番気持ちいいの! ご主人様の前で四つん這いになっただけで、私、イッちゃうの! イッちゃう体に、調教されちゃってるのぉ! ご主人様に、おちんちんで、調教された体なのォ! ご主人様にぃ! 私の、ご主人様にぃ!」

 机の上で丸まったモエミの体が、びくんびくんと何度も痙攣し、そのたびに僕のペニスに彼女の絶頂が伝わってくる。
 大胆な告白に、吹奏楽部の子たちも顔を赤らめ、恥ずかしそうに笑う。

「すっごい、モエミちゃんって……マジで奴隷の子なんだね。ね、小学生のときから調教されてるの?」
「そうなのォ! 5年生のときに、教室で犯していただいて、あん、処女を奪ってもらったの! あぁっ、そのずっと前から、トーマ君のこと大好きで、んっ、お友達になりたいって思ってたから、私、嬉しくてたくさんイッっちゃって、あぁっ、もう、どうにでもしてって思ったの! この人に、何でもしてあげようって、誓ったの! そのときは、あぁっ、あぁっ、できればお嫁さんにって、思ったけど、今は、あぁんっ、奴隷がいいの! 奴隷サイコーなのォ!」
「うわ、なにそれ、純愛……っていうの? なんかすさまじい愛を見たよ」
「マネできないね、私たち」
「うん。いくら好きな人のためでも、奴隷とか、人前でエッチとか無理だよね、絶対」
「むりむり。てか、人前で裸になるのも無理だよ、絶対できないー」
「私もー」

 おっぱいもパンツも僕に見せながら、そのことに気づいていない彼女たちが、おっぱいを揺らして笑う。
 なんていうか、中学時代だったら平民クラスな女子二人だけど、同級生を裸にするのも入学式以来で、久しぶりな感じでちょっとドキドキした。
 わんぱくな少年魔法使いだった頃を思い出す。こういうおっぱいとかオマンコとかがいっぱいあったのが昔の魔法使いなんだよな。今の同級生は昔の魔法使いを知らないから困る。

「あぁ! あん! 気持ちいい! 奴隷セックス気持ちいい! みんなの見ている前でご主人様に犯されるの、恥ずかしいけど、感じちゃうの! こんなの、初めてぇ! 初めてだよぉ、こんなに気持ちいいのォ!」
「……なんか、本当に気持ちよさそう……」
「エッチって、そんなにいいの、モエミちゃん?」

 モエミは蕩けた顔を上げて、よだれをひとすじ机に落とし、嬉しそうに言う。

「あは……こんなに気持ちいいことって、絶対、他にないよぉ……毎日、死んじゃいそうだよ……」

 二人は喉を鳴らして、顔をますます上気させた。
 僕の魔法は、セックスの快楽を増幅させる。モエミに限らず、今までセックスしてきた相手には必ずそうしている。
 そして終われば、脳に残った経験記憶のうち、魔法増幅された快楽の一部だけをリセットさせる仕組みを作っている。次のセックスでも、新鮮な刺激として快楽が巡るようにだ。
 この一連の反応は自動で行われるようにしている。なので、僕とのエッチはいつでも「今が最高」のセックスとして彼女たちは体験していることになる。
 どんな麻薬も、慣れと依存で習慣化されてしまえば、物足りなさが生じる。そして過度の刺激を求め続けるようになってしまえば、いつか人間も破綻する。
 僕のセックスが退屈なものになってしまわないように、そしてセーフティに気が狂うほどの快楽を楽しんでいただくために、魔法使いとしても出来るだけのサービスはしてあげてるつもり。
 まあ、手抜きといえばそれまでだけど、そこらのエッチ自慢の男に抱かれるよりは、数百倍は満たされた性生活を僕のセフレたちは味わっているはずだ。
 どんな女も、僕とのセックスを体験してしまえば、もう他の男になんて抱かれてなんかられなくなる。
 この二人にも、さすがにこの場で抱く気にはなれないけど、ちょっとくらいは体験させてあげてもいいかも。
 
「僕は魔法使いのトーマ」

 瞳の色が落ちた二人に、僕は軽い魔法をかける。

「君たちは、体験したことのないセックスを今、モエミを通じて体験している。モエミは、こんなに気持ちの良いことはないといった。つまり、君たちはこの気持ちよさを知らない。だから想像するんだ。想像して、確認して。モエミが君たちにセックスの気持ちよさを教えてくれる。そのクラリネットは男の体だと想像して疑似セックスを体験するんだ」

 そして再び「魔法解除」だと言ってモエミの尻を叩く。
 ズン、と腰を突き入れると、モエミと、女子二人が同時に口を大きく開けた。

「あ、あぁんッ!」
「いや、なにそれェ!」
「気持ち……よさそう!」

 僕はモエミの中をえぐり出すような気持ちでペニスを出し入れする。ぐちゅぐちゅと生々しい水音と、激しく体がぶつかる音が重なり、モエミの嬌声がひときわ高くなる。

「あぁ! あぁ! それ、いい、気持ちいいです、ご主人様ぁ! あぁ! 気持ちいい! ご主人様のおちんちんが、出たり、入ったり、出たり、入ったり、私の中を大威張りで闊歩なさってて、すごくたくましい! あぁ、素敵、素敵、素敵すぎてどうにかなっちゃいそう! あぁ! あぁ! 溶ける、溶けちゃう、頭の中もオマンコも、ご主人様のおちんちんで溶けちゃう! こんなセックス、教え込まれちゃったら、もう、奴隷になるしかないよぉ、だってだって、逆らえないんだもん! あぁ、気持ちいい、気持ちいいよぉ、死んじゃいそうだよぉ!」

 モエミが何かを叫ぶたび、吹奏楽女子たちはビクンと震え、手にしたクラリネットを強く抱きしめる。
 眼鏡の子はそのレンズの下を真っ赤にして、ストッキングの子は陥没してた乳首をくっきりと飛び出させて、体の奥に目覚めた感覚に戸惑うように手を肌に這わせていた。

「いいの、いいよぉ! お尻が、ご主人様の腰でパンパンされて、嬉しい! おっぱい、ご主人様の手で乱暴にされて、嬉しい! 今度の土曜日はね、ご主人様が、うちに泊まりに来てくれるの! お父さんとお母さんの前で、ご奉仕を命令してもらうの! お尻をペンペン叩かれて泣いてるところも、親に見せちゃうの! 私のお姉ちゃんもMっ子だから、一緒にペンペンしてもらって、それからお風呂でソープ洗いしたり、テレビ観ながらしゃぶったり、ご飯を口移ししたり、お姉ちゃんと一緒にご奉仕するの! それで、夜はもちろん三人で……あぁ、もう、待ちきれないよぉ! 想像しただけで、イッちゃうよ、イッちゃうよぉ!」
「あ、あ、すごい、モエミ……そ、そんなこと言わないでぇ。私には刺激強すぎて……」
「もっと、もっと教えて、モエミぃ。セックス、そんなに気持ちいいの? こんなふうにおっぱい自分で揉むより、気持ちいいのぉ?」

 二人の見学者の呼吸も乱れていく。
 クラリネットの先で乳首をこりこりしたり、マウスピースに舌を這わせてみたり。
 やがて眼鏡の子が、隣の子の乳房をつつき出す。

「こんなふうにすれば気持ちいいの?」
「あ、ひゃん! 何するの、もー、お返し!」
「あん、ダメ。どこ突いてるのよぉ!」

 互いの体をクラリネットで刺激することを覚えた彼女たちは、そのうち大胆な愛撫へ変化していって、ストッキングの子がモエミと同じように机の上で四つん這いに体を丸め、そして眼鏡の子がその股間をストッキングの上からクラリネットで擦り始めた。
 
「あぁーんっ、あんっ、やぁ、それ、ダメぇ! モエミ、みたいになっちゃう! トーマ君にエッチされてる気分になっちゃうぅ!」

 眼鏡の子も上気した顔でハァハァと息を乱しながらクラリネット攻撃を続けて、モエミはさらに「ご主人様のはもっと気持ちいいもん!」とおかしな対抗心を燃やし、お尻をグイグイ振り回し始める。
 僕もなんだか盛り上がってきて、隣の二人に負けじと乱暴にモエミを犯す。
 放課後の1年E組は狂宴の教室となり、若い男女の喘ぎ声で乱れた。

「ねえ、吹いてぇ! あんたのクラで、NNPのあの曲吹いてぇ!」

 股間にクラリネットを押しつけられているストッキング子が、押しつけてる眼鏡子にNNP48(西日暮里48というグループのことだ。なんでも地元密着型の身近なアイドルというのが売りだったくせに、あこぎな販促方法でオリコン制覇したとたんに「国民的アイドル」を名乗り出した厚かましい連中らしい。僕はああいうのに1ミリも興味がない。滅びろ)をリクエストする。
 眼鏡子は「例の曲ね!」と合点したらしく、ストッキングにクラリネットの先を押しつけ、大きく息を吸い込み、吹き始めた。

「あぁぁあぁぁあぁ~ッ! ヘビィッローテッショーーーンンンッ!」

 ストッキング子は体をがくがくと震わせ、よくわからないことを叫び、股間からじゅわっと透明な液体を噴いてストッキングに染みを広げた。
 股間はじゅわじゅわぶぶぶぶ、と演奏に合わせて泡や汁を噴き、下手くそな尺八のように奇妙な音を立てる。それでも眼鏡子の細いわりに驚異的な肺活量はストッキング子の股間をびろびろと共鳴させながら、NNPのヒット曲を演奏し続ける。
 
「あぁ、もう、私も吹いちゃう! バスクラのパートで吹いちゃう!」

 ストッキング子も自分のクラリネットを咥え、眼鏡子の演奏に合わせて「ブ、ブ、ベ、ベ」とベースラインと思わしき旋律を重ね合わせる。
 四つん這いの女の子が喘ぎながら吹くベースパートと、その股間に押しつけて汁を飛ばしているメインパート。
 よくわからない構図と行為なのだが、二人とも本当に気持ちよさそうだし、吹奏楽部には吹奏楽部の世界もあるのだろうし、気にしないほうがいいんだろう。

「あぁん! それで、日曜日は私の焼いた目玉焼きの黄身をおっぱいに塗りつけてもらって、新鮮なフルーツをお腹に乗せて、ぬるめのホットミルクをアソコに注いで、朝から女体盛りでお持てなしするのぉ! お父さんとお母さんの見ている前で、みんなの食卓で、私はご主人様の朝ご飯になるのぉ!」

 モエミもそう思ったらしく、彼女なりの世界観で、彼女なりの予定を語り始めた。
 僕たちはそれぞれで快楽を貪り、没頭していく。
 モエミのお尻をわしづかみにして、最後のピストン運動をスピードアップさせる。

「出すよ」
「は、はいぃぃぃッ! ご主人様ぁぁああッ!」

 僕が告げるとモエミはそれだけで一足早い絶頂を始め、アソコをぎゅうぎゅうと絞ってくる。僕はそこから引き抜き、彼女のお尻の穴を指で広げ、そこにペニスの先端を押し当てて射精する。
 びゅ、びゅ、びゅ。
 モエミの大きなお尻の中心を白い液体で汚していく。お尻の穴は僕の精液を欲しがってひくひくと動き、必死で口を開けようとしているみたいだった。
 痙攣を起こしたように、ガクンガクンとモエミの体が震え、途切れ途切れに悲鳴を上げて絶頂から失神へと落ちていく。モエミは上質な精液ポットだ。彼女の豊満な肉体に射精するときの達成感と征服感はとびきりだ。
 クラスの男子がカノジョにしたがる気持ちもわかる。一度でいいからモエミにセックスの相手をして欲しいんだろう。彼女が僕以外の男でここまで乱れることは一生ないんだけど。
 モエミのお尻から僕の精液がゆっくりと股間を通って落ちていき、膣口付近に届いたときに、彼女はまた体を震わせた。もはや声もなく、体を痙攣させるだけがエクスタシーのサインだ。
 吹奏楽部の女の子たちは、いつのまにか立場が変わっていて、床の上にひっくり返った格好で足を広げる眼鏡子の股間に、ストッキング子がクラリネットを押しつけケニーGの静かなメロディを演奏してて、僕はそのシュールな光景に笑ってしまった。
 放課後の終わるチャイムが鳴り響く。それは僕の作ったこの学校の魔法のメロディで、クラリネットの音色も自然とそれに重なっていく。
 制服、音楽、セックス。僕たち高校生の奏でる青々しいアンサンブルは教室に独特の一体感と高揚をもたらしたが、チャイムの余韻とともに静かに終わりを告げる。
 夕暮れの教室は女子生徒たちの甘く疲れた吐息に包まれ、もうじきバス遠足があることの楽しげな告知と、期末テストのスケジュールと、「教室はきれいに使おう」という標語が僕たちを見下ろしていた。
 魔法は、僕の高校生活にほんの少しだけ非日常的な彩りを与えてくれるが、それすらも退屈な日常の一部でしかないということも思い知らせてくれる。はしゃぎすぎた僕らには、嫌になるような後片付けが待っている。
 ひと息ついたら、モエミを起こして、一緒に掃除して帰ろう。
 肩を回したら、首の関節がコキンと鳴った。

 エリ。
 君は笑ってる?

 学校から帰った僕を出迎えに、母さんがキッチンから出て来る。
 なぜか、今日は妹までエプロンをつけていた。

「ただいま」
「お帰りなさい、トーマ。もうすぐご飯も出来るからね」
「おかえり、お兄ちゃん! 聞いて聞いて、今日のハンバーグはわたしが作るの、わたしが!」
「へえ、すごい」
「すごい? えらい? じゃあさ、じゃあさ、お兄ちゃんにでっかいの作ってあげるから、あとで宿題みてくれる?」
「はいはい」
「あのねー、今日は数学とねー、英語とねー、あ、お兄ちゃん、外から帰ったらすぐ手を洗わないとダメ! 風邪をひくんだよー! 熱も出るよー! コラー! 下りてこーい!」

 階段下からまだ大きな声出してる妹を無視して、僕は自分の部屋にカバンを放り投げてベッドの上に横たわる。
 親が僕に対してを過保護気味なのは昔からだけど、そんな親を見て育ったせいなのか、なぜか妹まで口うるさい子になってしまった。
 思春期に揺れ動く中学1年生ゆえ、甘えん坊だったりお姉さんぶったりまだキャラクターが固まっていないが、どちらにしろ僕に似ずパワフルな女の子なので兄は手を余している。あのテンションは我が家の賑やか担当としては重宝されているが、帰宅直後に相手をするのは少しきつい。
 まあ、そのうち学校の男の子とかに興味持つようになれば兄離れするんだろうけど。
 メールの着信を知らせるバイブが、枕元を揺らした。
 僕は画面をスライドしてロック解除する。
 高校入学祝いにおじいちゃんが買ってくれたスマホはまだ扱い慣れていないけど、こういう新しいツールは自分もステップアップしたように錯覚させてくれる。今度アプリを使った魔法なんかも考えてみよう。
 通知の画面から、僕はメールアプリを開いてみた。

『テレビ見てみ 9チャンネルね』

 言われたとおりにテレビの電源を入れる。
 ニュースで、テレビ局制作のドラマを映画化って話題が流れていた。
 テレビ局が自分のところの宣伝を「ニュース」だなんておかしな話だと僕は思うんだけど、そんなことより主演俳優の横で、映画化にあたっての新ヒロインという触れ込みで、僕の知ってる女の子が立っている。
 髪がばっさり短くなっていて、映画デビューよりもそっちに僕は驚いてしまった。
 カメラを意識した芸能人スマイルも自然で、インタビュアーや共演者との絡みもじつに優等生的で、「初々しいけど大人びた女の子」っていう難しい印象を上手に演出できている感じだった。

「お兄ちゃーん! おまたせ我が家の晩ゴハンだよー!」
「あぁ、今行くよ」

 僕はしばしテレビの向こうの彼女に感心してから、電源を切った。
 階段を下りながらメールの返信を打つ。

『髪切った?』

 ゴハンを食べて、ひと息ついて、妹の宿題を見てやる。忘れた頃に、さっきのメールの返事がやって来た。

『それ本家の昼メガネにも聞かれる予定 来週木曜だって』

 すっかり芸能人なんだなあ。
 昔から近隣でも有名な美少女ではあったけど、まさか芸能界でも売れてしまうとは。
 妹が、僕にほっぺたをくっつけて、「昼メガネってだれー?」とスマホをのぞき込んでくる。
 ちなみに我が家の妹は、高見盛にそっくりだ。
 というのはもちろんウソだけど。

 
 高校までの電車の時間、モエミはいつも駅で僕を待っている。
 今日の下着を混雑した電車の中で確認し、ついでにお尻とアソコの肌触りもこっそり確認しながら学校までの時間を過ごす。
 降車駅に着くころにはモエミはもうフラフラだ。
 僕の腕にしがみつく彼女を介助するみたいにして登校するのも、いつものことだ。
 
「おはよー、トーマ」
「モエミ、おはよ」

 うちの高校は区外から通う生徒も少なくないので、駅前では見知った顔とよく一緒になる。同じクラスのやつや、そいつと出身中学が同じやつ。入学してから2ヶ月もたつと、僕もだいぶ知人が増えてきた。中学時代は魔法王政のせいでピラミッド式の人間関係しか生まれてなかったけど、今の僕は魔法を使えることはナイショの一般生徒。趣味が合うとか合わないとか、帰り道が近いとか、友だちの友だちだとか、どうでもいい理由で人間関係は複雑に広がっていくし、簡単に閉ざされてもいく。
 コミュニケーションで『友人』という肩書きを取捨されるのは久しぶりだ。目には見えない評判や印象というものを、ポイントカードみたいに心のどこかで意識していないといけない。慣れてはきたけど、意外とスリリングな毎日なんだな、普通の学生というのも。

「おはよ、トーマ君」

 後ろから肩を叩かれる。
 同じクラスの小田リノだ。長いポニーテールを揺らして、右手には別の男の子を抱えている。

「おっす」

 リノと同じくクラスメートの近藤ケイタ。剣道部のガタイの良い男だ。
 二人は出身中学が同じで、そして、今年の三月頃から付き合いだしたばかりという、まだまだ新鮮なカップルだった。

「おはよ」

 僕は二人に挨拶を返す。モエミもぼんやりした表情のまま「おはよう」と緩い声を出していた。
 そのまま他愛のない話をして四人で登校する。

「私、髪切ろうかなー」

 リノは、シュシュで結んだまっすぐなポニーテールを摘まんで、ケイタと僕を交互に伺うように見た。

「なんでだよ?」

 ケイタは、さして興味なさそうにリノの艶やかな髪を一瞥する。
 僕と彼は教室でもそれほど仲が良いわけではないが、リノが僕の席の隣なので、こうして朝とか一緒になると並んで登校することが多い。
 
「あんた、昨日のルナ観なかったの? 髪切ってて超可愛かったんだって。私もあれにしよーと思う」
「ふーん。ま、いいんじゃね。やってみれば?」
「うわコイツつまんねー。ね、ね、トーマ君とモエミはどう思う? 私、似合うと思う?」
「うん。リノちゃん、顔ちっちゃいからショートも似合うよ、絶対」
「むふふ。モエミったら、やだー」
「やん、ちょっと脇は触っちゃダメだってば!」

 女子の髪型がどうとか、僕にわかるはずもないので黙っている。
 僕を挟んでモエミとじゃれ合っているリノの胸が、僕の背中にぽよんと当たった。

「トーマ君はテレビ観た? ルナが今度映画に出るんだって」
「あぁ、うん。観たよ。たまたまニュースで」

 佐藤ルナは、今は苗字のない『ルナ』という名前だけの芸名で呼ばれている。
 水着姿で無邪気に跳ね回る清涼飲料水のCMと、印象深い眼力と長い髪をなびかせてミステリアスな少女を演じた化粧品のCMの2本で、彼女は一気に有名になった。
 その勢いで衛星放送の単発ドラマに出たと思ったら、昨日はいきなり映画デビュー。どう見ても事務所のゴリ押しなんだけど、「ゴリ押しはするがステマのような姑息な真似はしない」という、事務所側のよくわからないけど潔い宣言も手伝って、ネット上でも「これは良いゴリ押し」と、なんだかわからない評価を得て受け入れられているようだ。
 確かに同年代のアイドルや女優と比べても、ルナは圧倒的に正統派の美少女だった。世間的にもゴリ押しに文句なしと言ったところらしい。事実、彼女の水着CMの動画再生数はとんでもないことになっていたし、最後にアグネスが登場するMADまで作られていた。
 しかも、彼女に“女優”の資質があることは僕もよく知っているつもりでいたけど、実力は想像以上だった。こないだのドラマ、のめり込みすぎてルナのシーンでちょっと泣きかけてしまったのはナイショだ。
 世間も彼女に大物の予感を抱き、注目している。流行にめざとい同年代の女の子たちも、さっそく真似したがるくらいに。

「トーマ君とモエミって、ルナと同じ中学だったんでしょ? いーなー。ルナ、可愛かった?」
「う、うん。佐藤さんは……あ、ルナは、よその学校からも見に来る人がいるくらい有名だったよ」
「へー。私もそのとき知っとけばよかった。惜しいことしたなー」

 モエミは僕の顔をチラチラ見上げながら、当たり障りなくリノの質問を流していた。
 僕の彼女の関係を知っているのは、今の高校ではモエミだけだ。

「ところで、ゴリ押しのゴリって何ゴリラのことなんだろ?」
「え、なに、急に言われてもわかんないんだけど。とりあえず『押すゴリラ』だからオスじゃない?」
「すげ、めちゃくちゃ頭良いなリノ。え、でもゴリラは押すほうなのか? 押されてんじゃなく?」
「押されるゴリラ……押されゴリラ……つまり、オシャレゴリラってことね」
「いや、つまりって言われてもオシャレゴリラなんて聞いたことねーし……あ、いや、なんか聞いたことあるな。え、何だっけそれ?」

 ルナのことは適当にはぐらかし、バカップルのバカな会話を尻目に今日も僕の平和な高校生活が始める。
 ちなみにゴリ押しについては、「ハゼ科のゴリっていう魚を川底から引きはがして捕る『ゴリ押し漁』が語源みたいだけど」と、モエミがぽつりと言っていた。
 中学生のときからの疑問が、あっさり解けた瞬間である。

 朝の教室はいつも騒がしい。
 ふざけ合う男女やベランダ越しの他クラスとの交流、けたたましい笑い声をハモらせる女子たちに、キモいカードバトルで静かにニヤけるキモい男子たち。そしてぼっちでひたすら自習に励む者たちなど、15、16のガキどもの生態がライブで行き交う『普通の教室』だ。
 朝っぱらセックスと全裸が乱舞していた中学時代とは比べようもないほど普通。それが今の魔法使いが暮らす場所だった。
 席について、机に今日の分の教科書をしまい込み、軽く伸びをする。そして僕もいつものカードクラブに混ぜてもらおうかとキモいマイデッキを取り出したところで、隣の席のリノが僕の脇腹を突く。

「ねえねえ、知ってた? 魔女の話」
「え、魔女? 何それ?」
「ホラ、トーマ君も知らないって!」

 リノと一緒に、数名の女子がキャイキャイと笑ってる。
 同じクラスの子たちで、そういや昨日のクラリネットのストッキング子も中にいた。名前はよく覚えてないけど。

「あのね、学校七不思議の第10話、聞きたい?」
「とうとう七不思議も二桁目に突入したんだ……」

 こういう話が好きな女子って結構いる。リノも意外とそっちの方で、時々すごい怖い表紙のマンガを隣で読んでてびっくりするときがある。
 まあ、彼女の場合はオカルトマニアというより、ゴシップ全般が好きって感じみたいだけど。学校七不思議をどこまで増やせるかに意欲を燃やしているらしい。ちなみに「七の意味がない怪奇」っていうツッコミならすでに第8話のときに済ませているので、そこはもうスルーでいい。

「怪奇! 魔女のいる教室~!」
「はぁ」
「あのさ、校舎四階の一番東端に、使われてない教室があるんだよね」
「そこって、七不思議の第3話で死んだ女生徒が放課後に佇む教室じゃなかった?」
「それはそれ、これはこれなの。いやむしろ、第3話は第10話の前ふりだったといえるかもしれない」
「前ふりで死んだ女生徒がかわいそうだな……」
「もう、真面目に聞かないんなら教えてやらないよ? いいかげんにしてよね」
「え、ごめん」

 なんで僕が謝らなきゃならないんだろう。

「そこはかつて“魔法研究会”っていうマニアックな同好会の部室だったの。元々は昔流行った魔法少女アニメの同人クラブみたいな感じだったらしいんだけど、そのうち占いとか白魔術とか、それっぽいジャンルに手を広げてちゃんとした同好会っぽく細々続いてたんだって」
「はぁ」

 うちの高校もかつては生徒数もずっと多くて、同好会活動も自主的で活発だったらしい。プロレス研究会だのアマチュア無線同好会だの、よくわからないクラブ活動が盛んで賑やかだったそうだ。
 今の生徒にしてみれば知ったことではないんだけど、古い教師なんかはたまに懐かしむようなそんな話をしている。
 それにしても、魔法研究会か。そんな同好会が今もあるなら、ネタで入ってやってもよかったんだけど。

「でもある日、不思議な子が入部してきたんだって。見た目はただの女子生徒。だけど、彼女は本物の魔法使いだった。黒板に魔方陣を描いて、部員を操り、奴隷にした。顧問の先生も魔女の命令には逆らえない。彼女のぶ厚い眼鏡に見つめられただけで、魂を握られてしまうんだって」
「へぇ」
「やがて学校全部が魔女に支配されてしまったの。イケメンは全て魔女の恋人。可愛い女の子は学校を追い出される。そうやって魔女は自分の思い通りの人間だけ残して学校の女王様になったわけ」
「……ふぅん」

 どこかで聞いたような話だな。

「でも、あるとき女子生徒の一人が、間違って黒板の魔方陣の一部を消してしまったの。するとその子は魔法が解けた。魔法の秘密を知ったその子は、他の生徒にも消えた魔方陣を見せて魔法を解いたの。そしたらもう、魔女狩りの始まりよ。今まで彼女に従っていた生徒たちが一斉に反乱を起こして、恨みを晴らさんとばかりに魔女を磔りつけにして、焼き殺してやるわけ」
「それはやり過ぎだ! 魔法使いが気の毒だし、残虐すぎる! 先進国のやることじゃないよ!」
「……トーマ君、どうかしたの?」
「いや、別に。それで?」
「でも、魔女がいなくなってメデタシメデタシというわけにはいかなかったの。魔女の怨念があの空き教室に残ってしまった。四階東端の空き教室の黒板に魔方陣が浮かび上がるとき、見た者は魂を魔女に奪われ、気が狂う。鬱になって自殺とか、暴力事件を起こす人とかもこの学校では時々あるんだけど、みんな魔方陣を見たことがある人ばかりなんだって」
「そう。まあ、最後はよくあるオチなんだね」

 リノの話で思い出したけど、昔、僕自身のことが街の噂になったこともあったっけ。「この街には魔法使いが住んでいる――」ってやつ。それに過去に実在したかもしれない“魔法研究会”ってのが混ざって、こんな噂ができあがったってとこだろう。
 というより、ただの七不思議系の噂にしては物語じみた構成だから、それこそ今も存在する「文学同好会」あたりが作った創作が元ネタかもしれない。
 どちらにしろ、考えたやつご苦労っていう程度のつまらない作り話だ。
 個人的には少し興味のあるネタもあったけど。
 魔方陣って……かっこいいよね。
 小学生のとき、黒板にデタラメな絵を描いて導入にしたときもあったけど、自分に絵心がないことは自覚しているので、それ以降も描画ネタは苦手としていた。
 だけど憧れはある。だって魔法使いだもん。『魔方陣』って響きが、すでにかっこいいし。

「ということで、第10話はここまで。なんか映画化されそうな話じゃない?」
「あぁ。ちょっとエロホラーな雰囲気醸し出してるやつね。それで中身はたいしたことなくって、パッケージ詐欺とか言われたりするんだよね」
「いや私はそこまで言ってないし、エロいDVDとかそもそも借りないけどね」

 という、くだらない話をしているうちに予鈴が鳴った。せっかく構築したばかりのマイデッキ(名付けて『マリたんのもぎたて首デッキ』)を試すことなく、僕は再びカバンにしまい込む。
 隣でリノが、「またそのキモいカード持ってきてんの?」と冷たい視線を向けて、そして、ケイタの方に声をかける。

「ケイタ、今日も部活?」
「おー」

 リノは「鉄道研究会」という、これまた意外な同好会に所属していて、そっちは週に時々しか活動しないヒマな部活らしい。
 ケイタの所属する剣道部のように熱い武道系とは、活動時間がよく食い違う。

「あっそ。それじゃ、私は部活ないし、終わるの待ってるかなー」

 ケイタにそう言ってから、リノはちらっと僕に視線を向けて微笑む。
 彼女の思わせぶりな態度に心当たりのある僕は、了解した合図に軽く頷いた。
 だが、そんなことは今はどうでもいい。
 この女、僕のデッキを「キモいカード」だと言ったか?
 キモいことぐらい僕も自覚しているが、女子に言われるとイラっとくるのはなぜだろう。自分だって鉄子のくせに偉そうに。
 最近のリノは調子に乗っている。いや、知り合って2ヶ月くらいだから最近なのかどうかは知らないんだけど、とにかく僕の『魔法少女☆コマキ』カードをバカにすることは、いくらリノがポニーテールのよく似合う美少女だったとしても許すことはできない。彼氏がいようとも関係ない。絶対に許すことはできないのだ。
 担任が入ってきて、朝の挨拶が終わる。そして淡々と出欠確認を終えてHRの連絡事項を並べて帰り、1時限目の教師が来るまでの束の間の空白時間に、僕は隣のリノに声をかける。

「ねえ、リノ」
「ん?」

 僕が顔を寄せると、「なになに?」とリノもきれいな形をした耳を近づけてくる。僕はその無防備な貝殻に秘密の言葉を囁く。

「僕は魔法使いのトーマ」

 すとん、とリノの意識が深みに落ちる音が聞こえた気がした。
 僕はさらに声を潜めてリノの白いうなじに近づき、そしてカードケースをかたかた揺らす。

「じつは、このカードは四階の魔女から貰い受けた魔法のカードなんだ。カードに描かれた絵が、君の魂を支配する。これを見て」

 僕はケースから少女のカードを一枚取り出す。
 コマキの仲間で、ポニーテールの魔法少女、キョウコだ。

「これが君だ。よく覚えて。もうすぐ1時限目が始まる。それがカードゲームの始まりの合図で、始まれば君のカードに様々なハプニングが降りかかる。それは全て君の肉体にも影響するんだ。君は、このカードに降りかかるハプニングを自分で引き受けなければならない。どれだけ嫌なことでも逃れることはできない。それが魔女の呪いだ。君はこのカードに逆らえない。この、キモいカードにね」

 そして僕は、1時限目のチャイムが鳴って、教師が現れた瞬間に机をドンと叩く。
 リノ以外の生徒と教師の視線が僕に集中した。

「僕は魔法使いのトーマだ」

 これからやろうとしているのは、単なる個人的な憂さ晴らし。
 もちろん、無関係の人間まで巻き込むつもりはない。

「全員、僕とリノから注意を外して。次のチャイムが鳴るまで、君たちは僕とリノのことを忘れている。何をしていても目に入らない。耳に入らない。意識から消える。授業は普通に進めてくれてかまわない。ただし、ここに僕とリノはいないんだ。わかったね? じゃ、始めてくれ」

 起立、礼、着席。
 僕たちを無視して授業を始める教室の中で、僕はリノにさらに耳打ちをする。
 
「さあ、始めるよ。僕の机の上にカードを置く。これが君だ。これから君に数々の災厄が降りかかる。君はカードに逆らえない。怖くてもそのとおりにしなければならない。僕がもういいっていうまでゲームは続くよ。さあ……スタートだ」

 リノのこめかみをツンと突く。
 すでに授業が始まっていることに彼女は驚いた顔をして、体勢を戻す。そして僕の机の上の【キョウコ】を見て、もっと驚いた顔をして、僕に顔を寄せて囁く。

「それ……もしかして私?」
「あぁ、そうだよ」

 どんな声を出そうが、どんなことをしようが、他のみんなが僕たちのしていることに気づくことはない。
 もちろんリノはそんなこと知らない。

「これ、知ってるよね。このキモいカードがなんなのか?」

 カードケースを揺らすと、リノは顔を青ざめた。
 気の毒なくらい怯えている。

「それ、魔女のカードでしょ? どうしてトーマ君がそんなもの持ってるの?」
「決まってるだろ……僕は、四階の教室で魔方陣を見た」
「!?」

 吹き出しそうなのを堪え、僕は真面目な表情を作ってリノに宣言する。

「僕は魔女の弟子なのさ」

 そうして、ケースからカードを取り出す。『魔法少女☆コマキ』カードは、全433種のうち、412枚が『エロハプニングカード』で、そのほとんどが、魔法少女の首がもげる『死亡フラグ』までコンボする。
 ゲームバランスなど犬に食わせろ、というのが制作コンセプトだ。「少女の首は簡単にもげる」というのが宣伝文句で、むしろ、もげてからが真の戦いとも言える。
 もちろん、僕はリノの首をもぐつもりなんて、ちょっとしかないので安心してくれ。

【パンチラ】

 まずは軽~い『ハプニング』だ。僕はそのハプニングカードを【キョウコ】の下に添えるように置く。
 リノは、魔法少女【コマキ】がめくれ上がるスカートを抑えて「いや~ん」になっているイラストを見て、小さな声で「キモっ」と言った。
 でも、みるみる顔が赤くなり、自分のスカートを両手で摘まむと、机の下でゆっくりめくり始めた。

「えっ!? やだ、ウソ! どうして…ッ」

 白にカラフルなドット柄の可愛いパンツだ。目に鮮やかで、そして若々しく健康的な太ももが眩しい。
 ちなみに軽いハプニングである【パンチラ】だが、これが場に2枚揃えば【ずり下げ】が発生して、パンツが膝まで下がって『死亡フラグ』完成となり、【ミラーマン】か【お兄ちゃん】が現れれば首がもげる。

「ちょ、なんで、なんでぇ…ッ!?」

 右手を下ろそうとすると左手が、左手を下ろそうとすると右手がスカートをまくり上げる。一人で旗挙げゲームでもしてるみたいだ。
 どれだけ抵抗を試みようと、すでに魔法洗脳済みの肉体は僕のカードに逆らえない。可愛らしい【パンチラ】を授業中にお披露目しながら、リノは先生の方を、反対側の男子生徒を、周りの視線を気にしながら「やめてやめて」とスカートをヒラヒラさせる。
 もちろん誰も僕らのことは見ちゃいない。でも、リノはいつ見つかるかというスリルと恥ずかしさで真っ赤になっていた。
 僕は次のカードを選んで、場に置いた。

【ブラチラ】

 巨乳の魔法少女【マリ】が前屈みになり、無防備に広がった胸元からピンクのブラをチラ見されて「いや~ん」になっているイラストだ。
 リノはすごく嫌そうに顔をしかめた。そして、ぷちんとセーラーの胸元を外した。

「やだ、見ないでってば、トーマ君…ッ!」

 といっても、広げているのは君だろ、リノ。
 パンツと同じドット柄のブラカップがちらりと見えた。イラストと同じように前屈みになり、教師や僕に見える角度で広げられた。
 なんとかリノは逃げようと向きを変えるが、逃げられるはずもない。諦めたのか、僕に向かって胸を広げながら、「見ないでよ、バカ!」と小声で僕を叱る。
 ちなみに、【ブラチラ】に【パイ揉み】をコンボさせれば【巨乳】となり火力が強化されるが、代わりに『死亡フラグ』が完成し、【保健室の悪魔】か【お兄ちゃん】で首がもげる。

「やめてよ、もう…ッ! トーマ君のエッチ! なんなのこれ、意味わかんない…ッ!」

 偏差値の高さだけが自慢の我が校で、リノのような美少女は金よりも貴重だ。
 魔法使いといっても、男は男。可愛い女子が少なければモチベーションも下がる。高校を階級支配する気がないのも、正直、独占する必要のある女の子が少ないからっていうのもあるよ。
 ルナとかジュリとか、芸能人になっちゃうような女の子がゴロゴロしてた中学時代がたまたま当たり良かっただけなのはわかってるけど、それにしても男女比6:4で、しかも中学時代なら平民に分類される女子の率が9割が超えるだろうこの高校には少し失望したのも事実だ。
 その基準でいうなら、リノの見た目は貴族レベルだ。セックス次第では王族だって夢じゃない。ちょっと痛い昔のランク分けで評価するなら、彼女はそのクラスの美少女だった。
 ケイタにはちょっと申しわけないけど、僕だって性奴隷とのセックスを一般公開してあげてるんだから、リノにもこれくらいのサービスさせたっていいよね。

【素足】

 リノは、「本気で意味わかんないのキタ!?」と言って、靴とソックスを脱いだ。
 彼女が知らないのも無理はないけど、世の中には直接的なエッチ系ハプニングよりも、【素足】や【ネコ耳】などの装備変化系ハプニングを好む者は結構多いし、あるいは【一人称ボク】とか【やや不幸な生い立ち】なんかの設定追加系ハプニングに萌える者もいる。
 僕はあんまり凝ったフェチはないのでエッチ系メインだが、対戦相手への礼儀として、マイデッキのハプニングには多少の変化をつけるようにしていた。
 キモさの奥が深いんだよ、このゲームは。
 イラストだけ見て適当に「キモい」と言われても困る。アニメの方もひととおり観てから、あらためて、したり顔で「コマキモい☆」と言ってくれ。

「うぅ……床が冷たいよぅ」

 小さな爪のついた指が、教室の床の上でにぎにぎと悶える。
 そばに脱ぎ捨てられた上履きとソックスが、授業中の女子を脱がせてやったという、奇妙な達成感と興奮を僕に抱かせた。
 中学の時はもっとエロいこと授業中にしてたのに何故だろう。「嫌がる女の子」に「バレないように」やらせているという、設定追加系ハプニングだからか。
 『魔法少女☆コマキ』は、魔法使いの僕にHENTAIを教えてくれた。そんな主人公に敬意を表すカードを出そう。

【ツインテール】

 コマキの髪型をフューチャーしたカードだ。
 ちなみにイラストは、首もげしたコマキの後頭部だ。

「無言でそんなカードを差し出す君が怖いよッ!?」

 リノは、自慢のポニーテールをほどき、長い髪を手櫛でなでつける。
 そして予備の髪留めをカバンから出して、半泣きでツインに結び始める。

「私のアイデンティティが否定された……」

 ルナの真似して髪を切るとか言ってたくせに、やはり、その気はなかったんだな。
 女子は自分の髪型を男を試す武器にしてくるから油断ならぬ。
 特にハツカレが出来て調子に乗り始めている女子は、調子に乗りすぎてそのまま暗黒面に墜ち、小悪魔化してしまう危険もある。締めるところはビシっと締めてやらなければならない。朴念仁なケイタに、リノの調教は任せておけない。
 リノはぶちぶち文句を言いながら、ツインに結び直した髪を指で伸ばす。
 男にしてみれば、髪型なんて本気でどうでもいいんだ。せいぜい見るのは色とツヤくらい。女子は髪型なんて気にするくらいなら、もっと野菜を食べるべきなんだよ。くだらない。
 リノの髪は、こうして見ると、真っ直ぐで黒々ときれいに輝いていた。しっとりとして、触ったら気持ちよいかもしれないって思った。
 だ、だからといって、良い髪してるって認めたわけじゃないからな。
 ツンツンしながら、僕は次のカードをめくる。

【パンチラ】

 先ほどと同じカード(モデルが魔法少女【つぐみ】に変わっただけ)に、リノは怪訝そうな顔をする。ただし、僕はカードの説明を指でトントンと叩く。
 場に【パンチラ】が二枚出ると、先に【パンチラ】を行っていたカードは【ずり下げ】になり、パンツは膝まで下がるんだ。
 防御力ダウン、攻撃力アップ、そして『死亡フラグ』がONになり、首もげリスクが一撃以内になる。
 ちなみに、こんな調子でしょっちゅう首がもげてしまう『魔法少女☆コマキ』だが、場にキャラクターに対応した首また胴体の『もげカード』を伏せておくことに成功していれば、『ゾンビネーション』が発動し、『破滅章~復讐ノ魔法少女編』に突入できる。コマキはもげてからが本番、といわれる所以だ。
 しかしそんなことより、まずはパンツを膝まで下げるんだ、リノ。

「信じらんない……鬼! 悪魔!」

 泣きそうな顔をして、リノはじりじりとパンツを下げる。
 授業中の教室。隣の男子に見られながら、お尻を左右交互に上げ下げして、不自由そうにリノは下着を脱いでいく。
 白いドット柄が中途半端に膝に絡まった。
 おや?
 そこのお股の部分、ちょっと湿っていない?

「見んな、バカ…ッ!」

 リノはパンツをギュッと握りしめ、僕を睨む。
 僕は、「フッ」と余裕の冷笑を浮かべ、メガネを押し上げる。
 そして容赦なく次のカードをリノにちらつかせる。

【お尻丸見え】

「……気が狂ってるわ、そのゲーム……ッ」

 歯噛みしながら、周りの目を気にしつつ、リノはスカートを持ち上げ、ゆっくりと片方の尻を持ち上げ、僕につるんとした丸いカーブを見せてくれた。
 僕が見ているんじゃない。彼女が僕に見せているんだ。
 リノは悔しそうに唇を噛む。僕は隣の女子が授業中に見せてくれる痴態に、下半身を素直に興奮させる。
 ちなみに【お尻丸見え】は、【ずり下げ】や【巨乳】状態のキャラの攻撃力補正を無効にし、防御力を【無防備】にして1ターンゼロにして、なおかつ『死亡フラグ』をOFFにする。これは不人気だったアニメ本放送において、乳首は修正されるがお尻は露出OKだったことに由来する。
 リノのお尻は、きれいにツルツルだった。乗車系鉄子だから座ってばかりで荒れてるかと思いきや、意外な美肌だ。

「えっち……バカ、バカぁ」

 僕の股間が膨らんでいること、リノは気づいている。真っ赤な顔で、恥ずかしそうに、僕のソコを意識している。口ではなんと言おうが、お尻を見せて男を興奮させている自分に、彼女自身も興奮しているに違いない。
 同年代の女の子をエッチな気分にさせるのは簡単だ。あえて魔法で感覚操作する必要すらない。スケベなことをさせて、男が喜んでいることを教えてやれば、女の子だって嬉しくなるんだ。
 次のカードを探る僕に、リノは、コクッと喉を鳴らした。

【アナル見せ】

 ぎょっと目を丸くして、そして悲しげに瞳を潤ませ、リノは、「……想像以上のキモさだった」と、諦めたように呟いた。
 何を隠そう、『魔法少女☆コマキ』カードは公式で『18禁ブースター』が発売されている。同人よりもタチの悪い版元、とメーカーが呼ばれる所以だ。
 同級生のお兄さんに買ってきてもらったり、あるいは高レートのトレーディング相場をかいくぐったりして、僕も数枚は手に入れている。
 ちなみに通常のゲームでもかなり高コストな【アナル見せ】だが、【お尻丸見え】からならコスト消費なしでオープン可能だ。攻撃力、防御力が2ターンゼロになり、『死亡フラグ』が再びONになって、【お父さん】か【お兄ちゃん】で首がもげることになる。
 お察しのとおり、この【お兄ちゃん】の存在こそが『魔法少女☆コマキ』カードをクソゲーたらしめているわけだが、また同時に【お兄ちゃん】の存在なくして『魔法少女☆コマキ』は語れない。そういうアニメ本編のクソ展開については、あえて説明するまでもなくこのカードゲームのクソルールでお察しいただけているものと思う。

「……こんなの、ケイタにだって見せたことないんだよ……」

 そりゃそうだろう。リノがまだ処女なことくらい僕も知っている。知った上で、その処女アナルを僕に見せろと言ってるんだ。
 教師の方をチラチラと、周りをキョロキョロ見渡してから、お尻を僕の方へさらに向け、目をつぶり、おずおずと、むっちりと、リノ自身の手で彼女のお尻は開かれた。
 こういう風に例えるのもおかしいとは思うけど、小さな花のように可愛らしいアナルだ。
 健康そのものといった感じ。ちゃんと魚や野菜を中心に食生活を送ってるんだと思う。連想されるのは、真っ白な湯豆腐の上に、そっと添えられた春菊の花だ。僕のみぞれポン酢をぶっかけて、ハフハフといただきたいよ。
 リノは真っ赤になって、恨みがましく、それでいて、何か言って欲しそうに僕を睨んでいる。

「……きれいなお尻の穴だね。可愛いよ」
「そ、そんなとこ褒められても嬉しくないし…ッ!」

 でも、本音だ。
 数々の女の子のアナルを見てきた僕が褒めるんだから、リノは自信を持っていい。ケイタも鼻を高くしていい。
 リノのお尻の穴は可愛い。無理のある体勢がつらいのか、あるいは恥ずかしいせいか、小刻みに震えている様子もすごくいい。触って欲しそうにも見える。

「ていうか、触ってもいい?」
「ダメ! ダメに決まってんじゃん、何言ってんの!」
「そう。残念」
「バカ!」

 リノはますます赤くなり、周りの目を気にしながら、それでいてお尻の穴を僕に向かって広げながら、もう一度「……バカなこと言わないでよ」と言って唇を尖らせる。
 なんか、本気で触るつもりなかったんだけど、逆に触って叱られてみたくなる感じ。
 でも残念ながら、【アナルタッチ】や【アナルぺろぺろ】のカードを僕は持ってないんだな、これが。
 
「も、もういいでしょ? やめようよ、こんなの……」

 コソコソと声をひそめ、リノが不安そうにケイタの方を見る。
 彼氏にも見せたことないお尻を、隣の席の男子に見せてるなんて、確かに見つかったら大変だよね。
 でも僕は、そしてリノも、まだ本当の『魔法少女☆コマキ』の世界を知らずにいる。
 お兄ちゃんが変態だったり、誰かの首がもげたり、確かにそれはストーリー上の不可欠なファクターなのだが、それはまだまだコマキの世界観では入口にすぎない。
 重要なのは―――そこの、出口なのだ。

【うんち】

「……ぇぇぇええええええッ!?」

 気の毒なくらい、悲しい悲鳴が響き渡った。
 わかる。その気持ちはわかるよ。魔法少女たちも毎回泣きそうになっていた。そう、毎回誰かがコレで泣いている。コマキとはそういうアニメだ。
 巷でよく言われている「コマキはクソアニメ」、「コマキはクソゲー」という評判は、じつはダブル・ミーニングだったと知るんだ、リノ。

「やめ……それだけは、許して……」

 リノの大きな瞳からはぽろぽろと涙が零れ、お尻の穴はひくひくと震える。
 上の口と下の口で懇願されてるみたい。
 いつもちょっと生意気な態度のリノが、本気で僕に許しを乞うている。お尻の穴を見せながら。
 コマキのお兄ちゃんの気持ちがちょっとわかった。すごいスリルだ。

「だ、だめ……本当に、だめなの……」

 ひく、ひく、リノのアナルが喘ぎ出す。
 真っ赤な顔と同じくらい、お尻も真っ赤になっていく。今は授業中の教室で、先生も生徒も彼氏もいる。そんなところでウンチしなきゃならないなんて、かわいそうな話だ。
 でも、ゾクゾクする。こんなありえない仕打ちを女の子に出来ちゃうのは魔法使いだけの特権だ。
 普通の高校生としての暮らしは、僕に平穏と静けさを与えてくれたけど、中学時代のような無茶だって時々はしたくなる。
 いつもモエミで発散しているはずなのに、やっぱりハーレム体験は男を欲深くさせてしまうんだろうか。理性的な男になりたいとは思うんだけど、ちょっとの拍子でわがままな僕が顔を覗かせてしまうんだ。
 恥ずかしそうに泣く女の子。いやらしい格好。禁断の授業中。
 この状況に熱くならない男もいるはずない。

「やだ、やだやだやだ……で、出ちゃう……助けて、トーマ君……ッ!」

 でもまあ、さすがにそこまでさせるわけないじゃん。
 僕はカードを伏せて宣言する。

「―――ゲーム終了。リノ、自由にしていいよ」
「!?」

 ハッと目を開け、リノは大急ぎでパンツを直し、お尻をきゅっと締めて、机に突っ伏す。

「バカ! トーマのバカ!」

 耳まで真っ赤にして、僕を涙目で睨むリノ。
 僕はにやりと笑ってそれに応え、メガネをクイ上げしてカードをしまう。
 まさか、うんちまでさせるわけがないじゃないか。
 コマキ本編でもそうだ。
 毎回、出そうなところで出ない。ハラハラするところまではいくけど出ない。絶対に出ない。なぜなら、出したら番組が終わるからだ。
 ちなみに実際のカードバトルにおいても、場に【うんち】を出してから、その発動である【アルティメット・コマキ】に至るまで、最短でも69種の追加カードと148ターンの時間を要する。ルール上、絶対に起こりえないのでカードを出しても無意味だ。公式戦でも【うんち】は使われたことはない。ただのネタカードだった。
 本当に、全方位的な意味で、コマキはクソゲーなのだ。

「トーマのバカ……バカぁ……」

 ぐすぐすと泣いてるリノに、僕は再び顔を近づける。

「僕は魔法使いのトーマ。この遊びは二人だけの秘密にしよう」

 すぅっと呼吸の落ち着いたリノが、「……はい」とぼやけた声で返事する。
 カード遊びは面白かったら、これからもちょくちょく遊ばせてもらおうと思う。
 授業終了後、「いつ髪型変わったんだよ?」というケイタに、リノは「うっさい!」とだけ答え、慌てて教室を出てどこかへ行ってしまった。
 靴下も忘れて、どこ行ったんだろうね。

「んんっ、はぁっ……ご主人様ぁ……」

 放課後の教室で、昨日に引き続いて僕はモエミをバックで犯す。
 昨日と違うところは、僕たちのすぐ隣で、リノが僕らのセックスを見学していることだ。
 モエミは僕の公認性奴隷なのだから、誰の前で犯そうが問題はない。もちろん僕の魔法が効いてる空間限定で。
 だからといって好きこのんで見学者を募る趣味はない。だけど、リノにはこうしてケイタを待っている間に、僕らのセックスを見学させてやることがたまにあった。
 リノとケイタはまだキスまでしかしていない。だから、勉強のためだと言って。

「……すごいよね、モエミのおっぱいって。ぐにゃぐにゃ動く」
「やぁん!」

 僕に後ろから揉みしだかれて形を変える胸を、しげしげと同級生に見られて感想まで聞かされ、モエミは首筋まで真っ赤になる。
 ちなみにリノの髪はいつのまにかポニーテールに戻っていた。

「あぁ、でかいよね。モエミのおっぱいは、たぶんクラス一だ」
「やっ、ご主人様、いけませ、あぁん!」

 自慢するように僕はモエミのおっぱいを搾りあげ、尖った乳首をリノに向ける。
 リノはごくりと喉を鳴らし、自分の胸をセーラー服越しにひと撫でした。

「ていうかさ、いつからトーマはご主人様になったの?」
「あっ、い、いつからっていうか、その、なんとなく、昨日から……あ、あぁんっ」
「ふぅん……ラブラブだよね、ホント」
「ち、違っ、そういうんじゃなくて……ッ」

 ますます真っ赤になるモエミ。
 リノは右手でポニーテールに触れて、左に視線を逸らす。
 僕はモエミの中に入れたペニスを、えぐるようにかき回す。

「あっ、あぁん! あぁっ、あぁっ」

 リノは、悶えるモエミと、彼女を乱暴に犯す僕とを交互に見て、ポニーテールに指を絡ませる。

「リノ、ちゃんも……ッ」
「ん?」
「……いつから、トーマ君のこと、呼び捨てにしてるの?」

 リノは、ジロっと僕を見て、視線を左に動かし、「今日から。なんとなく」と呟いた。
 僕は気まずくなる前に腰の動きを速めた。モエミはひときわ高い声を上げて、僕のをぶるぶる締め付ける。
 僕らの間に秘密の遊びがあることは、モエミにもナイショだ。

「モエミ、今イッたの?」
「っ、う、うん」
「……イクのって、気持ちいい?」
「気持ち、いいよ…っ、頭、真っ白になる…っ、こ、これがね、何度もくるのっ。ご主人様に抱かれると、何度もこれ来ちゃうの」
「そ、そうなんだ……」

 小さなエクスタシーの波をかぶって、モエミは肌に汗を滲ませる。
 この波は彼女が絶頂に達する前の前兆だ。小さなエクスタシーを何度も重ねて、やがて失神するくらいの大きなエクスタシーに至るまでがモエミのセックス。子どもの頃から僕に調教されてきた彼女の体は、セックスに対する理解も深く、快楽に寛容だ。僕から与えられるものは全て受け入れ、自分の全てを無条件に僕に捧げる。
 僕の奴隷になりたいと思う気持ちもわからないでもない。そうでなければ、この体は何なんだって、彼女自身も思うだろう。
 セックスと体と心の同一化。同級生の見ている前でオモチャのように犯され、学習教材のように自分の体の変化を解説し、僕の役に立つことで喜びを感じる彼女はそれでも幸せだ。
 僕もまあまあ、そんなモエミのことは気に入ってるよ。
 彼女は役に立つ。退屈な僕の高校生活で始めた、新しい遊びにも。

「まだわからないからな、私……そういうの」

 リノは、気持ちよさげに喘ぐモエミと、激しく肉のぶつかる音を立てる僕らのセックスに、徐々に顔を赤らめていく。
 セックスの勉強。いずれ自分もこうするはずの光景。彼女は座り直すふりをして、さりげなく股間をすり合わせた。

「ケイタとは、まだしないの?」

 僕がそう尋ねると、リノは視線を泳がせて、平静を装った声で答える。

「……あいつ、度胸ないし。こないだもね、ケイタの部屋で二人っきりだったんだけど、ちょっとキスしたくらいだったから」
「ふぅん」
「なんか、本当に私のこと好きなのかなーって、思っちゃうよね」
「そっ、そんなこと、あぁん! ないと、思う、よっ、あぁ! ケイタ君だって、ちゃんと、んんっ、リノちゃんの、こと!」
「……いや、熱々のセックスしてるモエミに言われてもさー」

 僕らには、リノも自分たちの進展ぶりを隠さず教えてくれる。僕とモエミは別にカップルでも何でもないので、恋人交際についてはよく知らないが、体を使ったお付き合いについてはかなり進んだ先輩だ。
 相談に乗るような体裁でいろいろとリノには聞き出しているし、モエミもそれなりに相談に乗っているつもりでいる。
 腰を捻るように動かし、モエミに甘い声を引き出させ、リノにもそのスケベな顔を見せつけながら僕は言う。

「確かに、ちょっとおかしいよね。リノみたいなカノジョがいたら、僕ならすぐしてると思うけど」

 探るように、遠回しに、口説く。
 入学して偶然同じクラスになったリノに、僕がかけている魔法はそんなに多くはない。

 “僕とケイタ以外の男に関心を持たないこと”
 “僕にケイタとの交際の内容を隠さないこと”

 あとは、最初の席替えのときに一番後ろの席で隣同士になるように操作したけど、それくらいだ。
 そしてケイタには、“リノにキス以上のことをする気になれない”魔法をかけている。

 これは実験だった。暇つぶしに始めた、女子高生の生態実験だ。
 中学時代は、僕と体の関係にあることから僕に恋してしまう女子はあとを絶たなかった。ジュリとか、あのルナですらだ。
 セックスに溺れるうちに、女はしがみつく男の肉体に恋をする。魔法使いとのセックスは強烈だから、確かにそれは必然なのかもしれない。では、女の子がセックスの前に心を決める瞬間って、どのへんなんだろう。
 リノについては、僕はまだ自分から彼女に触れたこともない。今日、授業中にパンツを脱がしてやったけど。
 彼女はそのことで昼過ぎまで不機嫌だったが、今はそれほど怒ってもいないようだった。こうして僕らの赤裸々なセックスを見せてやってるせいで、多少はそのへんの抵抗心が緩くなっているにしても、授業中に無理やりあんな恥ずかしい格好をさせるような男に、恋愛相談なんて普通はしないだろう。
 おそらく、知り合って間もない頃にあんなことしてたら、さすがにリノも僕と絶交してたと思う。今の僕らの間には、それだけの信頼関係が生まれていると解釈してもいいはずだ。リノは僕のしたことをもう許してくれている。エッチな弱みを握られたっていうのに、それほど気にしている様子もない。つまり僕のことを、スケベだけど信用してもいい友人とでも思ってくれているのだろう。
 ケイタとの関係が進まないのは、そもそも僕のせいだということも知らず。
 僕は彼女に“恋する魔法”も“セックスしたくなる魔法”もかけていない。かける予定もない。でも、彼女の処女はいずれ僕がもらうつもりでいる。
 彼女には、優しい言葉や、スケベなからかいや、遠回しな口説き文句といった、魔法の混じっていない言葉だけを少しずつ投げかけている。最初はやりすぎて露骨な嫌悪を向けられることもあったが、それも“関心”であることを利用し、隣の席で親しげな会話を続けることで、彼女の僕に対する警戒の壁もどんどん低くなっている。
 セックスに対する興味も日に日に増しているようだ。最初は遠慮がちに遠くで見ている彼女も、先月あたりからこの勉強会を始め、キスとかフェラとかについてもモエミに質問したりするようになった。
 今日も、授業中にイタズラをされたついでに、リノは僕を呼び捨てするようになった。あのスケベなゲームのせいで、僕らの間の親しみは逆に増したように思える。正直に言うと作戦も何もなく勢いでやってしまっただけなんだが、ああいうことをされたときの女性の反応は二択だ。
 怒って嫌いになるか、怒ってから許すか。
 お尻の穴まで見せてしまった僕に対して、彼女は警戒心を固めるのではなく、肌を見せ合った関係として気を許す方を選択した。あるいはあんなエッチなイタズラを僕がリノにした理由も、彼女は勝手に深読みしているかもしれない。
 一年くらいかければ、彼女が自分から僕に抱かれる気持ちになるまで仕向けることはできると思った。彼氏のいる女が、どのようにして恋人を裏切って他の男に身を任せるのか、ゆっくり見学させてもらうつもりだ。
 『リノがカノジョだったら僕はすぐにエッチしている』
 彼氏のいる女の子なら、普通は怒ってもおかしくないような今の僕のセリフにも、リノはポニーテールに右手で触れて、視線を左に向けるだけだった。

「……ふぅん。そういうもんなの?」

 その仕草は、リノが照れたり誤魔化したりするときのサインだ。
 それだけじゃなく、彼女は、すり合わせるように閉じていた太ももを、かすかに緩めてつま先を泳がせた。
 ひょっとしたら、一年もかからずに、リノは初めてのセックスの相手に僕を選ぶかもしれない。
 やっぱり女は簡単だ。
 思わず口元が緩んでしまう。

「…………」

 いつの間にか、モエミが真っ赤な顔で僕を見上げていた。

「どうかした?」
「い、いえ、何でもありません!」

 気を抜いたのがバレたかな?
 モエミを飽きさせないように、僕はスピードをアップする。
 リノに見せつけ、興奮させて、もどかしい思いをさせながら、モエミの白いお尻に射精した。いわゆる「ぶっかけ」というものを披露して、ガクンガクンとエクスタシーの痙攣を起こすモエミの清楚なセーラー服をオスの匂いで汚してみせる。
 いつもより、量も多くて色も濃い。それゆえに、吐き出したあとの冷めていく感情も重たかった。

「……すごい、ね」

 呟くリノの声も聞こえないふりをして、まだ先端を伝うそれを、彼女の前で僕はゆっくりとモエミのお尻に擦りつけてみせる。

 ―――退屈な高校生活を塗りつぶすように。

 曇り空が晴れても、夏の一歩手前を足踏みするみたいに、どんよりした空気は真上からのしかかってきた。

「どっか寄ってく?」

 部活を終えたケイタの腕に自分の腕を回して、リノが僕たちの方を振り向く。
 玄関を出れば、湿った空が僕にセックスの疲れを思い出させた。モエミは体をすりつけるようにして僕を見上げ、「トーマ君は疲れてるみたいだから」と、僕に代わってリノに答えた。

「……そう。じゃ、帰ろっか」

 リノは今度はケイタを見上げて、ポニーテールをなびかせる。
 校門前には、部活を終えた生徒たちが海に出る稚魚のように群れをなしていて、僕らもそれに吸い込まれていく。
 デジャヴみたいに、僕は毎日繰り返されるその光景に吐き気を感じていた。

 エリもどこかで、似た光景を見ているんだろうか?
 エリも僕らと同じ高校生になっているんだろうか?

 僕の右手には今も見えない魔法のステッキが握られている。
 小学生のとき、魔法を覚えた僕はイジメっ子だったルナを犯して、教室ごと支配して、エリの復讐をした。
 中学生のとき、僕の魔法は進化して、学校を階級制度で支配して、エリの帝国を作った。
 そして高校生の僕は、平均的な高校生の日常に埋没しようと努力し、そんな自分に退屈していた。
 行き場のない能力で、小さなストレスを時々花火のように打ち上げ、自己満足という幼さの壁にぶち当てて破裂させるだけ。大人になろうと真剣に悩むのが子供の証明であるのと同じように、普通の高校生を装おうとする努力自体が魔法使いの傲慢だ。僕は自分が周りの人間を見下していることを自覚している。エリ以外の人間には低い価値しか認められないし、そのことは僕の人格の一部にすらなっている。
 自分で言うのもすごく恥ずかしいことだが、ようするに僕は大人になりたいんだ。しかし、何が大人なのかはよくわからない。
 スマートに、エレガントに魔法でエリを救い出す男になるはずだった子どもの頃の僕は、セックスに夢中になって十代の半分を過ごし、スケベな魔法使いになってしまった。じつはセックスこそがエリを苦しめた原因の一つであったにも関わらず、今も僕はモエミが押しつける胸の感触にも、前を歩くリノのお尻にも欲情しようとしていた。
 この高校では普通の学生として振る舞っていながら、マナホとチナホの通う近くの女子校はすでに完全支配しており、時々、王様として遊ばせてもらっている。
 こないだも、そこの女子校のプールの水を僕の精液だと誤認させ、王様の子供を妊娠したい全校生徒が競って飛び込み、水をごくごく飲んだりアソコに指を突っ込んで中でかき回したりするのを、温かい缶コーヒーを飲みながら見学してきたばかりだったりする。
 早く大人になりたいと思うのは子供だ。
 でも、大人の魔法使いとはどのような大人なのかは、誰も知らないはずだ。
 落ち着いた男になりたい自分と、わがままに振る舞いたい自分は、今はまだぴったりとくっついている。

 エリは、僕にどんな魔法使いになって欲しいと思っているんだろう。

 後ろを振り返って、校舎を見上げる。
 生徒を吐き出し続ける本校舎の四階に、リノが「魔女がいる」と言っていた場所がある。
 東端の空き教室。
 ここから見上げる黒板には、当然、魔方陣など描かれてなかった。

「僕は魔法使いのトーマ」

 そして、ひとりぼっちのトーマだ。

「リノ、お尻見せて」

 僕とモエミが死角になって、その影でリノはお尻のきれいな丸さがわかる位置までパンツを下げる。

「スカート下げていいよ。そのまま家まで帰ろう」

 ケイタと仲良く腕を組むリノと、並んで歩く。
 駅の階段で、リノの後ろを上がろうとしていたリーマンのお兄さんが、ひっくり返って落ちてった。

< つづく >

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