さよならウィザード 11話

第11話

 深い眠りの底から、ゆっくりと引き上げられる。海底のような体の重さだ。
 空っぽの教室。机が一つ。僕はその机の前に座っている。体はまだ重くて口が開かない。湿布くさいなと思ったけど、それは僕の体から匂っていた。
 だけど痛みはない。カヅラ先輩が、魔法で感覚を切ってくれているんだと思った。
 体は、眼球しか動かない。捻るようにして時計と窓の向こうを見る。
 西日が正面から突き刺さる。僕は、かなりの時間を眠っていたようだ。

「目を覚ましたかい?」

 カヅラ先輩の声が天井から響く。するりとホウキで空を飛んで、柔らかく僕の前に着地する。
 嬉しくなって呼びかけようとして、声も出ないことに気づいた。
 魔法だ。僕は彼女の魔法の世界にいる。
 彼女の魔法で、海底の石にされている。
 
「遅くなってすまないね。君の魔法は強力すぎて解除しようにも骨が折れた。とりあえず小田リノと近藤ケイタ。そしてその友人たちの記憶は掃除してやったよ。君のしでかしたことについてもだ」

 ホウキで穿くような仕草をして、星屑を集める。。
 しかし、もう1人が厄介だったと、カヅラ先輩はため息で星屑を飛ばす。

「琴原モエミくん。彼女は相当魔法にやられていた。すでに君のコントロールからも外れかけていただろう。なんとか処置は出来たと思うが、しばらく君から魔法をかけることは控えた方がいい。彼女が通常の感覚を取り戻すまでは」

 魔法は麻薬だ。
 壊れるまでの服用はするな。
 と、カヅラ先輩は指をくるりと回して光を集めた。

「異常を正常と頭では認識していても、私たちでも覗ききれない深淵から真実はつねに我々を監視している。あの子の中で、小学5年生のモエミちゃんがずっと心配そうに見つめていたよ。自分自身と、君のことを」

 そして、積み重なっていく異常に彼女は潰れかけた。
 手の中で光のキューブを握りつぶして、カヅラ先輩は悲しげな顔をする。

「トーマ。私のウィザード。魔法使いの天才である君にこんなことを言うのはおこがましいが、キャリアだけは長い私から一言だけ忠告させてもらうよ」

 完璧な魔法などこの世に存在しない。
 我々は、常に失敗している。

「あるいは君なら、幸福なる魔法をいつか完成させるのかもしれない。だが、忘れるな。魔法は鏡のように自分自身に返ってくる。我々は溺れていることに気づかぬ魚だ。今、どこにいるのかを間違えると大変だぞ」

 僕たちのいる海底に、色とりどりの魚が現れてカヅラ先輩の周囲を回る。
 そして魚とともに姿をいったん消したカヅラ先輩は、くるくる回る魔法の光の中で再生する。
 小さな魔女の人形となって。

「少し、お芝居を観ていただこうか」

 人形はニタリと笑い、よちよちと教壇の上に立つ。
 背景にスクリーンのようなものが垂れてきて、学校を映し出した。舞い散る桜。始業のチャイム。そして、制服を着た人形の生徒たちも集まってくる。

「これは、ある1人の冴えない女の子の物語だ」

 えいっと、魔女が回転すると制服姿に替わった。
 メガネと三つ編みとそばかすの、地味な女の子に。

「彼女は高校1年生。普通の女の子並の可愛らしい容姿もなければ、明るく楽しい会話も苦手な子だった。平たく言えば陰キャのブスだ。すまないな、ヒロインらしくなくて」

 小さい頃に、美人で華やかなキャリアウーマンだった叔母さんから海外土産に貰ったタロットカードがお守りで、1人でカードの物語を夢想して楽しむのが趣味だった。
 いつもクラスのすみっこで、本を開くかカードをめくるかの毎日だった。

「そんな彼女を哀れに思ったのか、話しかけてくれる子がいてね。アニメやゴシップの好きなおしゃべり好きな子だった。たまたま、タロットの登場する古い魔法少女アニメのファンであることが共通しててね。仲良くなってしまったのだ」

 いきおいで“魔法同好会”なんて名乗ったりしていた。会員は私と彼女の2人だけだったが。
 カヅラ先輩の声が、懐かしそうに弾む。
 魔女とその友人の人形は、仲良く並んでお弁当を食べたり街に遊びに出たり。
 楽しそうだった。

「女の子は初めての友人にすっかりハマってしまった。親友と呼べる子が出来たと。だからついつい、誰にも言わないつもりだった秘密を打ち明けてしまった」

 急に照明が暗くなって、細い光が魔女を照らす。そして不気味な声で言う。
 私には先天的な目の病気がある。
 どんどん視力が弱くなり、ひょっとしたら将来失明するかもしれない。

「分厚いメガネの底にある小さな目は、日に日に夜が見えなくなっていく。その子にとって恐怖でしかなかったが、家族以外に打ち明けられる相手もいなかった。友人はとても同情してくれたよ~。大変だねと、女の子の肩に手を触れてね。一緒に泣いてくれた」

 そして次の日から、クラスのみんながよそよそしくなった。
 元々他の子とは仲良くしていたわけではないけど、あからさまに避けられるようになったし、裏で差別的なことも言われるようにもなった。

「誰が噂を広めたのかはすぐにわかることだったんだけどね。でも女の子は信じたくはなかった。友人のことは信じていたかった。だけど彼女は言ったんだ」

 再び暗くなる照明。ゆらりと宙に浮く友だち人形。目が怪しく光る。
 ねえ。
 目が見えなくなったら、そのカードは私にちょうだい。
 あなただと思って大事にするから。
 真っ黒な顔をした人形が、ニタリと笑う。

「すぐに見えなくなるって話じゃないんだ。視力も弱くなるだけで残る可能性の方が多い。女の子は少し不幸に酔っていたのかもしれない。大げさに伝えすぎたのかもしれない。だけど、友人の中では女の子はもうすぐ学校からいなくなる子になったようだ。仲良くしても時間の無駄だと」

 女の子の目が見えなくなるよりも先に、女の子のことを誰も見てくれなくなってしまったわけだ。
 教室のすみっこでカードをめくる毎日に戻った。
 そして視力も少しずつ弱っていく。厚くなっていくメガネと、暗がりを恐れて早歩きで帰る日々。そのうち学校にも行かなくなっていた。

「魔法少女のアニメは、毎日観ていたよ。夜にテレビはあまり観るなと言われていたけどね」

 ある日、夢を見た。
 魔法使いになって世界を平和にする。そこには孤独もない。平和しかない。世界の頂上に立って大きな虹をかける。
 自分のためだけの虹。自分のためだけの平和。

「それまで夢想してきた物語を、大きく口を開いて言葉にしてみた。不気味な魔女のような容貌を、もっと魔女らしく演出してみた。私は魔法使いだ。いや、魔女なんだ。キラキラと輝く魔法少女になんてなれるわけがない。だけど魔女になって世界を平和に公平に平坦に均してやれば、そこには醜さも暗がりもない」

 そして、その少し上に。
 ほんの少しだけ上に“私”が君臨して。
 世界を静かに平和に支配する。

「ブスで根暗な女の子はその日に死んで魔女になった。つまり、『私』になったわけだ」

 女の子は光に包まれて制服を脱ぎ、ボロボロの魔女のマントに着替えた。

「宝物のタロットカードをくれた叔母さんは結婚して主婦になり、近所に住んでいた。可愛い甥っ子もいて、引きこもっていた私の話相手になるように言われていたのか無邪気になついてくれていた。魔女の物語を最初に聞かせたのもその子だ」

 やがて魔法は完成する。
 その子は、私の前で鳥になりきって羽ばたいてみせた。

「私は学校に戻ったよ。同級生は3年生になっていて、私の籍はとっくになくなっていた。彼らは私の姿を見て驚いていた。そして懐かしさと罪悪感からか、向こうから話しかけてきてくれた。―――私は彼らに魔法を見せたよ」

 魔女のステッキで、学校は踊り出す。
 たどたどしい私の魔法でも、数人は引き込めた。協力者が出来た。
 そして、空き教室を使って占いのようなことを始めてね。生徒でもないのに毎日学校へ行って、少しずつ魔法の友だちを増やしていった。

「かつての親友もその中にいた。私の手足となって、次々に生け贄を連れてきてくれた。彼女には恋人もいた。とても素敵な男の子だったな」

 私の初めてのセックスの相手は彼だ。
 僕はその告白と、人形同士の夜のシーンに胸を痛める。

「その頃にはもう私の中で善悪という判断基準はなくなっていた。甥っ子で練習した魔法を学校で試す。階級制度を作った。女子はみんな私の手先だ。格好良くてスポーツマンの男子たちは、みんな私の彼氏だ。セックスの気持ちよさを覚えた私は、毎日のように男を侍らせて奉仕させた。公平な世界? そんなものは忘れていたな。若い男子を裸にして並べる光景が美しすぎて」

 そして、私たちは卒業した。
 制服の人形たちに混じって魔女も証書を受け取った。

「私はとっくにこの学校を卒業しているのだよ。おっと、年齢は聞くな。制服姿が痛々しくなる。それからの私は当然進学やら就職やらするはずもなく、いわゆる無職の生活を満喫していた。次の魔女の狙いは社会だ。私の魔法は学校の外へ出る。じっくりと時間をかけてナワバリを増やした。ときに羽目を外して遠くまで行ったりしたよ。主にセックスをしにね。これは自慢になるが、某アイドルグループのメンバー全員と私は寝たぞ。やりたい放題だ。ただ、ひどい目にも何度か遭ったけどね」

 人形は手足にギブスをしていた。死にかけたこともあるとカヅラ先輩は言った。
 社会など相手にするものじゃない。そこは魔法など及ぶ世界じゃない。
 巨大で無神経で、そのくせ傷つきやすく繊細で、ルールに厳しい。

「人は誰しも大金持ちになりたいと願うが、しかしある日突然、とんでもない大金を誰かが占有したらどうなるだろうね。金の価値そのものが破壊され、社会が破綻する。夢とか未来とか欲望なんてのも同じだ。それを独占しようという悪い魔法使いの噂は予防線のように街中に広がり、追い回される。かいくぐって好き勝手に楽しみながら生きていくなどという器用な真似は、私には無理だった」

 気がつけば、逃げ回っていた。
 破綻が後ろから追いかけてくる。火あぶりが迫ってくる。

「せいぜい、学校1つが魔法使いの生きていける社会だと私は思ったね」

 そしてこの高校に逃げ戻ってきた。魔女のマントを制服に着替えて。
 魔女として再び小さな城に君臨した。

「これで安心。と、私は思っていた。男も女も奴隷にして、再び私の快楽に奉仕させた。やりたい放題だった。卒業して大学生になり、就活で忙しいかつての親友たちも手先として学校に呼び出して奉仕を手伝わせた。私を差し置いて立派な社会人になろうだなんて、友だちのすることではないと思ってな。若く美しい生徒たちも巻き込んで盤石の体制で学校を支配した。他人の人生など知ったことか。私は魔女だ。学校のウィッチだ。この小さな世界で私は女王なのだとね」

 そのとき、甥っ子が学校で上手くいかずイジメに遭っていると知った。
 彼はもう中学生になっていた。

「引きこもりだった私の最初の実験体だ。素人に毛が生えた程度の魔法使いだった頃から私が何重にも刷り込んだ魔法は、本来のあの子の瞳から生気を奪っていた。すっかり彼のことなど忘れていたんだよ。だから、本来の活発さを取り戻してもらおうと思ったのだ。なに、私の魔法はさらに完成度を高めていたからな。すぐに治してやれるつもりでいた」

 ところが。
 魔女人形は、ため息をついて項垂れ、その格好のままつぶやく。

「―――甥っ子の名前は、竹田ノブテルという。私はノブちゃんと呼んでいたが」

 僕は、表情も体も指先1本動かない石だ。
 それでも、じわりと汗が浮かんだ。呼吸も苦しくなった。

「あぁ、落ち着いてくれ。もちろん君に非などない。ノブちゃんは私の被験者なのだからな。だが、まさか自分と同じ魔法使いが、しかも、もっと強力な中学生魔法使いがこの世にいるなんて当時は思いもよらなかった。私たちの魔法勝負はすでに始まっていたというわけだ。何も知らないノブちゃんの頭の中で」

 小さな男の子の人形の頭が、魔女と、「?」の顔をした男の子の間でキャッチボールされる。
 かつて僕の同級生だった竹田ノブテル。
 ルナに対する恋心に執着して、何度も僕の命令を打ち破り、魔法に対する異常な憎しみで狂気に走った元同級生。
 僕はその異常性だけで魔法を破壊しているのだと思っていたけど。
 だけど、彼は最後に―――

「……それしかないと思ったんだ。そのときの私は、もうノブちゃんには恐怖しかなかった。私のコントロールできる状態ではない。溌剌としていたあの子が、自分の殻の中でしか会話の出来ない壊れた人形のようになっていた。自傷行為にまで走った。若い頃は美人で自信にあふれていた叔母も、疲れた顔しか出来なくなっていたんだよ。私が魔法で……最後は魔法で、彼に虹を見せてあげた」

 魔女の人形劇は、突然、幕を下ろして終了した。
 制服を着たカヅラ先輩が、教室の中でポツンと立っている。
 疲れた顔をして。

「勘違いしないでくれ。これは懺悔などではない。ただの物語だ。魔法使いの犯した罪がこの程度なはずがない。まだまだ、ほんのエピソードを1つ紹介しただけだよ。懺悔など……一度でも『魔女』を名乗った者がすることではない」

 しかし私もまた自分の殻に逃げ込んだ。
 胸を焼く痛みはまさに火あぶりだ。
 私は亡霊。すでに存在しない魔女の抜け殻。
 学校の中に逃げ込み、息を殺して生きていくつもりだった。
 自分だけの魔法の世界に閉じこもって、何も考えないようにしようと思っていた。

「そして、今年の新入生たちも魔女の伝説とともに私の巣から遠ざけようとしたところに、君が現れて鮮やかに生徒たちの心を攫っていったというわけだ」

 私の心も一緒にな。
 カヅラ先輩はニタリと笑う。
 先輩との恋を思い出すと今も胸が温かくなる。
 彼女もきっと同じはずだ。恋が心を占めている。
 僕と一緒に生きていて欲しい。
 竹田のことは―――もう、忘れて欲しい。

「完璧な魔法など存在しない。その結論とともに、魔女は可愛い甥っ子の残した炎で焦がされている最中だ。消せないよ。どうやっても。こればかりは魔法なんかでごまかしてはいけないことだ」

 すまないな、こんなつまらない話になって。
 オチもないよ。
 カヅラ先輩はヒヒっと笑う。

「それでは、次に種明かしだ」

 両手の中からタロットカードを開いて見せる。
 カヅラ先輩を象徴する22枚のカードを。

「君もおそらく看破しているとおり、私には予知能力などなく、ただカード慣れした手先の器用さがあるだけだ。君に何度も見せていた運命のカードも、このとおり私の長年の遊び相手で、裏を見ただけでどのカードかわかるくらい馴染んでいたというだけだ」

 3枚の天使と魔術師と愚者。ひょいひょいとカヅラ先輩は抜き出してみせる。

「つまり私の予言はホット・リーディング―――とある人物から、君の情報を手に入れてたというだけだ」

 カードを元に戻してカヅラ先輩は笑う。
 魔女らしく。

「では、いったい誰から? そこが気になるだろう。私は君のしてきたことを全て知っていた。今日、君のピンチに颯爽と格好良く駆けつけることも出来た。協力者がいたからだ。それは誰なのか? あぁ、教えてやりたいよ。君に思い出させてやりたいと、いつも私は思っていたよ。でも、それはナシにしよう。彼女自身が望んでいないからな。いずれ違う形では紹介するが」

 ただ、私たちの出会いこそ本当の奇跡だったと言える。
 私が魔法使いで、そしてこんな頼りにならない目じゃなかったら、きっと見破ることは出来なかった。
 カヅラ先輩はニタリと笑う。

「見事だよ。君はやはり天才だトーマ。私のトーマ。私のウィザード。魔法でそこまで世間を欺けるだなんて、私には発想すら浮かばない。実現する技量もない。だけど驚嘆すべきはそこだけじゃない」

 その魔法にも壊されぬ強さがある。
 君の天使たちは、まぶしいくらいに強い子ばかりだ。
 まぶしいくらいに美しい子たちだと、カヅラ先輩は言う。

「幼い頃の罪など、もう許してやれ。私たちの方がよっぽど罪深い人種じゃないか。彼女たちはすでに手を取り合っているぞ。その手を君も掴めばいい」

 カヅラ先輩は、僕に向かって人差し指を突き出す。僕の顔の、さらに向こうを指している。

「君が過去の罪を許すことができないのは、君自身が君の罪を許してないからだ。トーマ。君の中に小学5年生の君がいる。膝を抱えて泣いている男の子だ。わかるかい?」

 頭の後ろでチリチリと音がする。導火線のように。
 それが僕に追いついたとき、僕は僕でなくなってしまうだろう。

「そして、同じく小学5年生のまま君を救おうとしている天使がいる。その子は君の手を取って、立ち上がらせてあげたいと願っている」

 チリチリチリチリ鳴っている。
 僕はそれを死刑宣告のように恐れている。
 それなのに、カヅラ先輩はケタケタと笑う。

「凍った心でしか為し得ない魔法と、それに立ち向かう純粋な勇気。君の物語はどこまでも美しいな。魔女は美しすぎるものには嫉妬と敗北感しか持たぬものだよ。これ以上はただの悪役でお邪魔虫だ」

 だから、私はここで退場する。
 と、カヅラ先輩は胸に手を当てる。

「君にプレゼントされたこの恋心も、私の最後の炎だ。ノブちゃんと君の炎を抱いて、燃え尽きるまで外の世界で生きてみよう。ブスで目の弱い中卒ババアに何が出来るなんて言うなよ。なぁに、いざとなったら魔法を使うさ」

 死ぬまで使わないように努めてみせるが。
 カヅラ先輩はニタニタ笑う。
 僕は必死に引き留めようと粘るけど、やはり何一つ動かせない。
 何も出来ない。
 
「それでは、最後に魔女らしい仕事をしよう。トーマ。“私は魔女(ウィッチ)のカヅラ”だ」

 運命の車輪のカードを、机の上に置く。すぐに車輪は浮き上がって、僕の前でカラカラと回り出した。
 夕日に長い影を落として。

「今から、“私に関する記憶だけを完全に抹消”する。それがどういう意味かわかるな?」

 記憶の抹消。消すということ。
 僕らの記憶操作は、記憶にフタをすることだ。忘れてしまうわけでも消してしまうわけでもない。思い出せないようにするだけ。
 例えば四階のカーテンが閉まるまで、カヅラ先輩のことを思い出せなくする魔法もそうだ。

「“完全に消す。思い出せないのではなく、なくす。魔法を誰よりも理解している君ならその意味を正しく実行できる。私に関わる記憶だけを全て消すんだ”」

 やめてくれ。
 そんなことをしたら、僕は行き先を見失った恋と孤独に心を支配され、発狂する。
 記憶だけなくなっても感情は残るんだ。穴が開くんだ。それは僕の心の致命傷になる。
 カヅラ先輩は、僕を殺すつもりなんだ。

「違うよ。私はその痛みを本来の子に返すだけだよ、トーマ」

 カヅラ先輩は、僕の頬を両手で挟んだ。

「恐れるな。君は幸せになってもいいんだ。そして君の魔法も誰かの幸せのためにあれ」

 この祈りが、いつか魔法となって君を救うことを願うよ。
 そう言ってカヅラ先輩は僕の額にキスをする。

「“君が涙を落としたときから、記憶の消去が始まる”―――私のために泣いてくれないか。私はもう、これからは自分のために涙を流さぬと決めた。“私のことを完全に忘れるまで体に自由は戻らない”」

 いやだ。絶対にいやだ。
 僕はあなたを忘れたりしない。

「トーマ、これを見ろ」

 カラカラと回る車輪の上に、ノートサイズのスケッチブックを掲げる。
 そこにサインペンで、『天使ノート』とカヅラ先輩は書いた。

「見えるだろう? “この『天使ノート』と書かれたノートは、いつでもそばにあって見える。どんなものでも『天使ノート』と書かれれば君のノートだ。そしてこれが君の守護天使。君の希望だ。何かに迷ったとき、君が苦しいとき、天使はこれでアドバイスをくれるだろう”……大いに頼るといい。天使はいつもすぐそばにいるのだから」

 スケッチブックが、宙に浮く。
 誰もいないのにサインペンのさらさらと流れる音がして、そして僕の前に差し出される。

 “ハロー”

 懐かしくて、どこか温かい文字。
 僕は、どこかで見たことがあるのかもしれない。この字を。

「これからは、彼女の言うことに従いたまえ」

 私の役目はこれで終わりだ。
 そう言ってカヅラ先輩は、僕から背を向ける。
 『Don’t think,feel! 天使が指示するまでこの教室から出るな!』
 と、黒板に書き殴り。

「……頼むよ。私はこの方法で友人を壊してしまったことがある。トーマを守ってやってくれ」

 僕ではない誰かに話すような口ぶりで、ゆっくりとつぶやく。
 そして机の上にタロットを束にして置いた。『愚者』を上にして。

「これも、もういらない。好きにしてくれ」

 僕の胸は張り裂けそうになる。
 これはカヅラ先輩の命よりも大切なもの。
 あなたを1人にするのは嫌だ。僕も連れて行ってくれなきゃ嫌だ。
 カヅラ先輩は顔を上げて微笑む。
 普通の女の子みたいに、初めて優しく笑う。

「ありがとう。トーマが大好きだよ。この気持ちがニセモノなわけがない。私たちは本物の恋をした。私がお姫様で君が王子様だった。あぁ、幸せな日々だった。私は死ぬまで忘れない」

 でも、君は全部忘れるのさ。
 カヅラ先輩は、その微笑を無理やり魔女の笑顔にして、ヒヒヒと笑う。

「―――さよならウィザード。私のトーマ。この魔法勝負、私の勝ちだな」

 ドアが閉まる。
 僕は立ち上がりたい。駆け寄って、何度も魔法をかけて彼女を悲しみの世界から救い出し、連れ去りたい。
 なのに、動かない。車輪がカラカラ回っている。僕を監視するみたいに。
 息が苦しい。喉に何かこみ上げてくる。
 でも嫌だ。絶対に泣かない。カヅラ先輩のために泣かない。絶対に忘れないんだ。

「あ……あぁ……」

 絞り出す声は形にならず、まるで嗚咽みたいに響く。カヅラ先輩。カヅラ先輩。彼女の名を口の中で繰り返す。忘れない。あなただけは忘れたくない。
 この恋だけは。
 
「あ、うぅ……」

 だから泣くものか。僕は絶対に泣かない。息を死ぬまで止めてやる。
 僕はカヅラ先輩を―――

 “泣いてください”
 
 
「あぁ……あぁぁぁーっ」

 ボロボロ涙が車輪の上を落ちていく。
 カヅラ先輩。カヅラ先輩。
 あなたのその強情な髪の毛が好きだった。メガネの向こうの小さな瞳が好きだった。抱きしめたら折れそうな体も、何か企んでるニヤニヤ笑いも好きだった。
 こんなにも愛しているのに。

「あぁぁぁぁー!」

 心が悲しみに満たされて、ズキズキと暴れる。
 愛してる。そう思うたびに別れが押し寄せて僕を痛めつける。
 ボロボロと心の何かを剥がされていく。

「うわあああッ!」

 声を張り上げないとおかしくなる。
 こんなに悲しいこと、今までになかった。
 なのにどんどん、もっと悲しくなっていく。

 “あの人の分も泣いてあげてください”

「ああぁぁぁぁっ、うわあああああッ!」

 ズタズタだ。
 心が千切れて飛んでった。
 一生分の涙を使って泣いた。もう流れるものなんて何もない。それなのに、体が震えて叫ばせるんだ。
 痛い。
 悲しい。
 喉が震えて息すら苦しい。
 誰か早く救ってくれ。
 僕の悲しみを――恋を――あの人を―――

「……あれ?」

 心臓が激しい動悸をしている。
 頭が締めつけられるように痛くて、叫んだばかりの喉はヒリヒリしている。
 胸がつらい。
 吐きそうに苦しい。
 なのに。

「なんでだよ……?」

 何がそんなにつらいんだ?
 僕は、どうしてこんなところにいる?
 
「あぁぁぁぁっ!」

 胸が苦しい。張り裂けそうだ。
 脂汗がじわじわと沸いて、体の震えは止まらない。
 叫ばないとどうにかなりそうなほど、悲しいって感情に埋められている。
 なのに、理由がわからないんだ。理由がわからないから、記憶にないから、逃げ場のない悲しみに僕の心は痛めつけられる。
 体の震えは両手を使っても収まらない。あたりを見渡しても誰もいない。
 しかし僕には確信できる。魔法使いのこの僕には。

「魔法だ……」

 誰かが、何かした。僕に魔法をかけたんだ。
 魔法で僕から大切なものを奪った。
 あの魔法使いの都市伝説みたいに、僕の大事な何かを奪っていったんだ。

「誰だ!」

 がらんとした教室。
 僕の声が行き場もなく跳ね返る。頭にがんがんと響く。
 それなのに、大きな声を出していないと胸が悲しみで張り裂けそう。

「あぁーッ! 誰だよ、くそぉ……僕から、何を持っていったんだよぉー!」

 喪失感と、その相手すらわからないという敗北感が、僕のプライドをがりがり削る。
 あるのは机と椅子が1つだけ。
 そして、意味ありげに置かれたボロボロのタロットが一組。
 開かれているのは運命と愚者のカード。
 まるで、僕の運命に背中を向けるようにして旅に出る愚者。

「……ふざけるなっ! こんなゴミで!」

 僕は机ごとそれを放り投げる。踏みにじって、破って、ぐしゃぐしゃにする。
 バカにするな。侮辱するな。
 涙がぼろぼろ止まらない。大事な部分がぽっかり抜けて、迷子になった気持ちが声を張り上げて泣いている。
 べったりと張りついた悲しみと敗北感が剥がせない。

「あああああっ、やめろっ、やめろっ。よくも、魔法使いのこの僕にっ! 誰だっ。誰だよ、出てこいよっ。ぶっ殺してやる!」

 椅子を掴んで壁に投げつける。
 大声を張り上げて、頭をかきむしる。
 痛い。痛い。頭が割れそうだ。胸が裂けそうだ。体の震えが止まらない。
 悲しくて仕方ない。
 理由もわからないのに、泣き叫ばないと気持ちが落ち着かない。
 僕はまるで生まれたての赤ん坊じゃないか。

「誰だぁ! 僕に用があるなら、早く出てこいよ! 僕に何をしたっ。出てこいよぉ! ああぁぁっ、うわああああッ!」

 教室には誰もいない。
 だけど、僕はここから出られない。
 なぜか理由はわからないけど、そう感じる。
 許せない。魔法使いの僕にこんな屈辱を。
 悲しくて涙がこぼれる。胸に空いた穴が大きすぎて、両手でも押さえきれない。
 お母さんに抱きつきたいくらいに、悲しくて寂しくて、死にたい。

「よくもッ、よくもぉッ! うわあああああああああッ!」

 足の曲がった椅子をもう一度掴んで、放り投げる。
 頭を割ってやりたくて、黒板に打ちつける。

「返せ! 返せよぉ! 何を、持ってったんだよ……返してくれよぉ!」

 チョークの匂いと強い頭痛。
 自分の記憶に呼びかける。僕は魔法使いのトーマ。心の奥にダイブする。
 だけど、深い心の底を手探りで探しても、どこに穴が開いているのか見つからない。
 完全に消された。そっくり持っていかれた。誰に負けたのかもわからない。
 ただ、大量の悲しみが心のほとんどを占めている。声を張り上げて僕は泣いた。絶望して泣いた。
 いっそ窓から飛び降りてやろうかと椅子を拾い上げ、窓に向かって投げようとしたところで。
 
 不意に体が動かなくなった。
 まるで誰かに後ろから抱きしめられたみたいに。
 女の子みたいな温かさで。

 “もうやめてください”
 

 だって、胸が苦しいんだ。
 死にたいくらい悲しい。
 なのに、どうして悲しいのか、わからないんだ。
 
 
 “一番大切な人のこと、考えてください”
 
 
 天使のノート。
 僕は知っている。
 これは僕のそばにいる天使。
 僕の守護天使が、優しい字で語りかける。

 “あなたの悲しみは、その人のものです”

 ―――僕が真っ先に思い浮かべたのは、ぼんぼりのついたニット帽をかぶった女の子の仏頂面だった。
 それと傷だらけのランドセル。
 尖らせた唇。
 僕を睨む大きな瞳。
 
「……なんであたしが、あんたなんかと一緒に帰らなきゃならないのよ?」
「だ、だって集団下校だもん。みんな、先に行っちゃったよ。僕らは同じ方向だからみんなと帰らないと」
「バカくさ」

 僕らみたいな子どもを狙う不審者たちは、徐々に陽気が近づいているせいか、このところエンカウント率を上げてきていた。
 おかげで学校側もいちいち情報メールの相手をしてられなくなってきたのか、「今学期が終わるまではずっと集団下校」という大ざっぱな指示が出ていた。
 だけど引率のお兄さんは、わがままな彼女の世話が面倒になったのか、さっさと先に行ってしまった。

「藤倉、あんたも先に行けば。あたし、もう少しブラブラしてる」
「ダメだよ。女の子の方が狙われやすいんだよ。危ないよ」
「へ~。あんた、そういうの知ってるの?」
「え?」
「変態が、あたしみたいの誘拐して何をするか?」

 彼女は思わせぶりにニタニタと笑う。
 イジワルな笑みだった。
 この子は―――栗原エリは、クラスの問題児で、暴れん坊で、肌の色の浅黒いハーフの子だった。

「知らない。先生が言ってたんだもん」
「あっはっはっはっ」

 栗原は何が面白いのか、笑って僕にパンチした。
 乱暴だなあ。

「いいんだ。外の方が安全。もしもあたしみたいの誘拐したい変態がいるんだったら、たぶん、そっちの方がいいも~ん」
「ダ、ダメだよっ。何言ってんの!」
「あっはっはっはっ!」

 栗原には、それから何回もパンチされた。
 そして何回も集団下校のグループから勝手に外れるから、僕が栗原担当みたいになっちゃった。

「トウマ、帰るぞー」

 というか、子分にされてしまった。
 気の弱い僕はエリに言われるがまま、下の名前で呼び合う関係になったし、一緒に下校するようになった。
 とは言ってもエリが僕を誘うのは下校のときだけで、学校ではほとんど口を聞くことはない。僕はいつも地味な友だちと遊んでいたし、エリは教室では――『空気』扱いされていたから。
 エリは登校のときもいつも遅刻すれすれか、遅刻してくる。家でのしつけが厳しいらしくて、顔や太ももに痣を作っていることが多い。
 そんな日は、少し機嫌悪そうに僕を呼び出すんだ。帰るぞって。女の子のくせに乱暴に威張って、困った子だと思ってた。
 しかもエリは真っ直ぐ家に帰りたがらなくて、いつも寄り道に付き合わされる。暗くなるまで公園とか遊んで、そして日が落ちると諦めたように帰って行く。
 しつけの厳しい親っていうのは大変だ。うちは結構甘い方だと思うけど、それでも思いどおりにならないと不機嫌になるので、怖いなって感じるときがある。
 どこの家も大変だなって、のんきに思ってた。僕の想像をはるかに超えるモンスターみたいな親が世の中にはいると知らず。
 
 一度だけ、エリが僕の家に来たことがあった。
 エリがふざけて僕の背中に乗ってきて、2人して水たまりに転んだんだ。
 彼女はゲラゲラ笑ってたけど、クシャミとかしてたので家に連れて行って着替えを貸してあげることにした。
 エリはいつも同じ服ばかり着ていたから。

「いーよ。親とかいるんだろ? あたしはいい。それより遊ぼ!」

 僕はそんなの絶対にダメだと粘った。風邪を引いてしまうって。そうすると遊べなくなるって言って。
 僕はなぜか、そのときどうしてか、エリが体調を壊して学校に来なくなったら嫌だなって思った。そうならないように、なんとかしようと必死だった。
 渋る彼女を連れて行く。ちょうどよくお母さんがいたので、僕はエリを紹介する。

「あら……まぁ……」

 お母さんは、エリを見て困った顔をした。
 エリは挨拶もしないで、ふてくされたみたいに横を向いてた。お行儀が悪いなって、なぜか僕が恥ずかしかった。
 お風呂に入れて、僕のジャージを貸してあげることにする。エリはその前にも「帰る!」って何回も言ってたけど、説得して何とかホカホカの状態で髪も乾かして送り出すことに成功する。僕は自分の仕事に満足していた。
 でも、その帰り際にお母さんはエリに言ったんだ。

「その服はあげます。返しに来なくてもいいから」

 そして僕には、新しいジャージを買ってあげると言った。
 よく意味がわからないまま、僕はエリを送っていくって紳士らしく申し出たけど、それはどっちからも「やめて」と断られた。
 夜、お母さんは僕の部屋に来て「あの子とは遊ばないで」と言った。

「あの子の親、悪い人なのよ……それに、あの子もホラ、ね? お願いだからお母さんの言うことを聞いて」

 僕はわかったと答えた。
 エリとは遊ぶな。
 うちのクラスのみんなもなぜか同じことを言う。慣れっこだった。
 でも僕はエリの子分みたいになっちゃってるし彼女の親と遊ぶつもりなんてないし関係ない。エリ本人は乱暴だけど、時々嫌なヤツだけど、遊んでるときは全然普通だし。
 次の日、まだ少し湿っているジャージと、溶けて包装にくっついちゃった飴が1個、僕のロッカーに入っていた。
 エリは、みんなが言うほど悪い子じゃないと僕は思うんだ。

「……エリ」

 懐かしいことを思い出したら、悲しさの穴が少し埋まった。だけど想い出はそこからどんどんとあふれていく。
 エリでいっぱいになっていく。
 
 エリとは、それ以来隠れて遊ぶようになった。
 僕が親に言われたことを言うと、「そう」とエリはつまんなそうに答えて、「じゃあ、あっちで遊ぶぞ」と、勝手にどこかのマンションの屋上に上がれる秘密のルートを教えてくれたんだ。
 よくこういう場所知ってるなって感心する。僕はエリに付いていく。僕たちの秘密は増えていく。
 そして、エリの身長が伸びて、少し女の子っぽくなっていくつれて、生傷や遅刻も増えて機嫌の悪い日も増えていく。

「家出する。トウマも付き合え」
「えっ、いきなり無理だよ」
「じゃあいつならいいの? 何月何日何時何分?」
「いや、無理だよ。子どもだけで家を出たって生活出来ないし」
「いきなりは無理って言ったじゃん。いきなりじゃなかったら出来るんでしょ?」
「もっと大人になったらだよ。今は無理だよ」
「ウソつき。出来るって言ったくせに」
「い、言ってないよぉ」
「ウソつきは死ね!」
「いたっ!?」

 機嫌の悪いときのエリは、本気で叩いてくる。僕の肩は真っ赤になった。

「いったぁ……」

 袖をめくってヒリヒリする肩を撫でる僕を、エリはじっと見ていた。
 
「トウマ、お腹見せて」
「なんで?」
「いいから見せろ」

 逆らったらまたパンチされそうだから、僕はお腹をめくってみせる。

「下も」
「え?」
「ズボンも脱いで」
「なんで!? 嫌だよ!」
「いいから脱げよ。大人にしてやるから」
「ちょっと、やめてってば! ねえ!」

 僕の上に乗って、乱暴にズボンを脱がそうとしてくる。
 今日のエリは変だった。

「……えっちのこと、まだ知らないの?」
「え、何が?」
「ガキだな」

 そういってエリは、いきなり自分が脱ぎ始めた。
 ちょっとだけ膨らんだおっぱいが丸見えで、僕はびっくりした。

「わっ、な、なにしてるの!? ダメだよ、女の子が脱いだりしたらっ」
「あんたもさっさと脱げよ。2人で裸になるんだよ」
「い、意味わかんないよ。絶対いやだっ!」
「あーあ! ガキはつまんない!」

 おっぱいを出したまま、エリはマンションの屋上でごろんと横になる。日干しみたいに。

「つまんなーい!」

 ビリビリと鼓膜に響く大声で。
 エリは、それからも大声を出し続けて、最後に泣いてた。
 その体は、よく見るとアザだらけだった。お父さんに叩かれた跡だ。

「……ぎゅって抱いて……」

 ぐしぐしと涙を拭いながら、エリは言う。
 でも僕は、「そんな恥ずかしいこと出来ない」と言って断る。

「死ね、バカトウマ……」

 エリは、いつも言葉がきつい。
 不機嫌になったり、乱暴になったり、笑ったり、びっくり箱みたいに感情がくるくる変わる。
 だけど、一番困るのがこうして泣き出してしまったときだ。見ていると、こっちまで泣きたくなっちゃうんだ。
 僕は、ちょっとだけ勇気を出して彼女の手を握る。
 一緒に寝転んで、真っ赤な空を見上げる。

 ―――それから数ヶ月後、彼女は突然僕の前からいなくなった。

「僕は魔法使いのトーマだ」

 そして代わりに現れたのは、老獪なる大魔法使いの生まれ変わり、トーマだ。
 教室を支配した僕は隣のクラスも、その隣のクラスも支配する。
 学校は僕とエリのものになった。エリを女王様として迎える準備を僕は始めたんだ。

「壁に並んでお尻を向けて」

 隣のクラスの女子をずらりと並べる。
 スカートやズボンを下ろさせて、色とりどりの下着を並べる。

「右隣の子のパンツをそれぞれ掴んで。一番左の子は自分のパンツも。いくよ。せーのでいっせいにパンツを下ろして。せーの!」

 ぷりんとたくさんのお尻が並ぶ。
 大小さまざま、形は一緒だ。

「さて、セックスはさっき見たとおりだ。あれを今から君たちも体験する。みんな、何をしたら気持ちいい? クッションをお股に挟んで擦ったら気持ちいい? それとも好きな人とキスを想像したとき? それの百倍、セックスは気持ちいい。最初だけちょっと痛いけど、それもすぐに快感に変わる。わかったね? セックスはすごく気持ちいい。期待して、想像して」

 教卓の上では、このクラスの担任のハゲ先生にセックスされたばかりの山畑先生が、アソコから精液を流している。
 僕らはもうセックスを先生に教えてもらった。あとは実践するだけだ。

「君から行くよ」
「んっ」

 うちのクラスのマナホの双子の姉妹、チナホから抱いていく。
 双子だけあってよく似たお尻だ。でも、若干柔らかい感触の気がする。
 すっかり濡れているソコへ、僕はおちんちんを入れていく。

「んんんんっ!」

 ぶちぶちって、何かを突き破る感触。
 初めてのセックスは女の子にとって大変らしい。
 エリは、もっと大変だったに違いない。

「んっ、んっ、んっ、い、痛いっ、ですっ」

 僕は遠慮せずに動かす。
 みんなにセックスを知ってもらうために。
 たった1人でセックスに苦しんでいた女の子のために。

「あっ、あんっ、いたい、のに、なんだか、どんどんっ」

 そして、みんなセックス狂いになればいい。
 セックスで言いなりになればいいんだ。エリの嫌いなセックスで。

「あぁーん! トーマくんっ、気持ちいいっ、トーマくん!」

 チナホのおっぱいに手を突っ込んで、小さな乳首を無理やり捻る。
 だんだん僕も気持ちよくなってきたけど、でも、チナホも生理はあるそうだ。

「あぁぁぁぁ!」

 びくびくってチナホが震えて膝を崩してしまったあたりで、僕も引き抜いて隣の子に移る。
 絶対にまだ生理きてない。
 一目でわかるくらい小さい子だ。

「入れるよ」
「う、うん……んんっ」

 しかし、その子のワレメが小さすぎておちんちんが入らない。たくさん濡れてるのに、それだけじゃ女の子のソコは広がりきらないみたいだ。
 じゃあ、こっちでいい。

「やっ!? そこは!」

 お尻の穴だ。
 仕方ないだろ、前の穴でセックスできないんだから。
 僕はどうしてもセックスをしないといけないんだ。

「い、痛い!」
「僕は魔法使いのトーマ」

 お尻の穴をちょっぴりおちんちんでこじ開けたまま、その子の耳に囁く。

「君のここは、アイスクリームの味がする。思い出して、一番好きなアイスの味。お尻の穴におちんちんを入れると、好きなアイスを食べたときの味が口の中に広がる。さあ、試してみる」

 そして、もう一度お尻の穴にトライする。

「やっ、だめっ……んんっ、え、甘い? やっ、そんなに広げたら……あ、甘いよっ。美味しいよ~!」

 完全におちんちんを入れて、そのままお尻を握って固定する。
 女の子は、僕にお尻の穴を拡げられたまま、「美味しい」って驚いていた。
 
「す、すごいっ、なにこれ、おちんちんのせい? お口の中、すごく甘い」
「あぁ、そうかもね。お尻の穴におちんちんを入れたら美味しいんだ。そして、このままゴリゴリ擦ったらもっと甘い味が口いっぱいに広がる。試してみる?」
「うん! してして、いっぱい動いて!」
「ほらっ、どう?」
「あっ、んんっ、ぺろっ、美味しいっ。ストロベリー味っ。お尻の穴からお口いっぱいに、おちんちんの甘い味が広がる!」
「もっと動くよ、ほら!」
「あぁ~ん! 美味しいっ。美味しいっ。お尻の穴とおちんちんの組合せ最高っ! こんなに美味しいの初めて! すごいっ、もっとしてっ。もっと甘いのちょうだ~い!」

 女の子の方から、お尻を動かしてきちゃった。
 小さなお尻がぴたんぴたんと僕のおちんちんを咥えて動き、「美味しい、美味しいっ」て大騒ぎしている。
 無理やり広げたお尻の穴は、真っ赤になって切れそうだっていうのに。
 必死になって僕のおちんちんにしがみついてくるんだ。

「もうすぐミルクも出すよ。これをお腹の中で出されると、君はハッピーで甘い味でいっぱいになって、もうこれのことしか考えられなくなるっ。いいね、出すよ!」
「あぁ、欲しいっ、欲しいっ、ミルク早く欲しいっ。出してっ、出して、出して~!」

 どくって、お尻の中で僕のおちんちんが膨らむ。
 たくさん出ちゃった。

「あぁ~っ! 甘い、最高っ、これ、最高っ。お尻の穴がハッピーすぎて頭おかしくなりそうっ。あぁっ、あんっ、おしっこ、出ちゃう~!」

 しゃあしゃあとおしっこを出して、女の子はその上にぺたんと尻もちをつく。
 その隣の子には、そうだな。おちんちんを入れたら猫になっちゃう魔法でもかけようか。

 ―――エリがいなくなって以来、ひとりぼっちになった下校に、なぜか同じクラスの佐藤ルナがついてくる。

「たまたまこっちから帰ろうと思っただけ」

 どこ行くのって聞いたら、そうやって答える。
 あぁ、そう。
 僕も適当に返事する。彼女とは別に友だちでも何でもない。仲良く帰る理由もない。
 なのにルナは、ずっと僕の後ろをついてくる。

「ねえ? 今日はずっと他のクラスに言ってたけど、何してたの?」
「別に。うちのクラスと同じことだよ」

 ルナの家がどっちなのかは僕は知らない。
 ただ集団下校で違う班だったから、そんなに近所じゃないと思うんだけど。

「じゃあ、せっくすしたんだ?」

 僕の後ろで、なぜか不機嫌そうにルナは言う。
 したけど。
 僕が普通にそう答えると、「ふーん」と言ってしばらく黙って。
 バチンと、背中を叩いてくる。

「いった!? 何すんの!」
「蚊がいたの。蚊。助けてやったんじゃん、感謝状くださーい」
「……今、何月だと思ってんだよ……」

 なんなんだよ、この子。
 こんなに乱暴な子だったかな。
 いや、クラスのイジメっ子リーダー格だし、乱暴で当たり前だけど。
 でもなんとなく、彼女が率先してイジメに動いていた印象はない。他に誰か主犯がいるわけでもないんだけど……。
 それよりも、なんでわざわざ僕に付いてきてんだ?

「あんた家って、遠いねー」

 というか、僕の家に来るつもりなのか?
 ランドセルにひらひらのミニスカートっていう、変態注意な格好で。
 彼女には、“アダルト女優のルナ”って魔法をかけた。
 それが真実の彼女の姿で、それを僕に言われるとスケベ大好きな女の子になるっていう魔法だ。
 そう言って、もう4~5回はセックスした。同じクラスの女子の中では結構した方だ。
 なんだかんだで、アダルト女優になった彼女のセックスは本当にスケベで、正直言うと刺激的だから。
 でも、セックスは罰としてやってるだけだから。逆にセックスを喜ぶようになっちゃった彼女だけど、僕はいつもそんな彼女をイジメるようにセックスをしている。
 昨日あたりから、他のクラスを攻めてるとこだから同じクラスの子とはしてないけど。
 よその女子といっぱいしてるから、ルナの相手なんて面倒くさいんだけど。

「ねー、トーマってさ。服もうちょっと選んだ方がよくない? これ、お母さんの趣味なんでしょ。はー、しょうがないなあ。今度、私が一緒に選んであげるよ」

 しかもルナって、2人きりになるとよく喋るしうるさいな。
 なんだか……エリみたいって、思っちゃうじゃん。
 
 だけど、ルナを見たときのお母さんの反応は、エリのときと全然違った。

「初めまして。トーマ君と同じクラスの佐藤ルナと言いますっ」
「あら。あらあらまあまあ。可愛い子! ねえ、トーマ。可愛いガールフレンドじゃないのっ」
「えっ、そんな。ありがとうございます。突然お邪魔してご迷惑じゃありませんでしたか?」

 モジモジと、恥ずかしそうに手を口元に寄せて。
 そんないかにもわざとらしく女の子らしい仕草にも、お母さんは「まあまあ」と大ハシャギだ。
 
「いいのいいの、ね? 遠慮しないで上がりなさい。ね? お母さん、お紅茶煎れてあげるから。まあまあ、ほんと、お似合いねー」
「あ、ありがとうございます。お邪魔します」

 そしてルナも、アダルトじゃなくても、女優だった。
 ニコニコと可愛い猫をかぶって、まんまとうちのお母さんを騙してのけている。
 普段はイジメっ子の陰険ガールなくせに。

「すごい素敵なおうちですね!」
「まあ、嬉しい。どうぞ、2階がトーマの部屋よ」

 調子のいいことを言って、厚かましくも僕の部屋まで上がり込む。
 そもそも僕は彼女を招待なんてしていない。
 なんで、ルナが僕の家にいるんだよ。

「へー、マジおっきい部屋。トーマって金持ちなんだね」
「うちの親がだよ。僕じゃない」

 そして2人っきりになった途端に、また馴れ馴れしくてずうずうしい喋り方に戻っている。
 お母さんは紅茶とケーキを持ってきて、そしてルナにご両親のことを聞いてきた。そつなくルナは親の紹介をして、またお母さんの信頼を勝ち取ってにこやかに見送り、いなくなった途端に「いいお母さんじゃん」と上から視線なことを言う。

「ま、私なら上手くやってけると思う。同居は絶対嫌だけど」

 何をどう上手くやっていくつもりなのか知らないし、うちのお母さんがルナと同居するわけもないし。
 そんなことよりも僕は、去年エリが初めてうちに来たときのことを思い出していた。
 今ならわかる。ルナのときと反応を比べてみて、ようやく僕にも思い至った。
 お母さんがあのとき、エリの顔や肌や、親同士の噂で知っていたのだろう彼女の家庭や生活環境を、どんな目でジロジロと見ていたか。
 そして、エリはそんな大人たちの視線に、いつもどれくらい傷つき、どのくらい我慢していたか。
 僕はお母さんの機嫌ばかり気にして、エリの態度に腹を立てたりしていた。
 バカだった。
 どうしようもないガキだった。

「ね、トーマ。何して遊ぶ?」

 ベッドの上で、ルナは足を僕の足の上に乗せてくる。
 細くて白い肌が、短いスカートからすらりと伸びている。

「……お母さん、しばらくこっち来ないよね?」

 熱っぽく赤くなった顔は、まだ魔法もかけていないのに“アダルト女優”になる準備をしているのか、それとも風邪でも引いたのか。

「ねえ、トーマってば……」

 ルナが顔を近づけてくる。髪をかき上げて、なぜか目を閉じて。
 唇が僕のに触れようとする寸前に、僕は口を開いた。

「僕は魔法使いのトーマ」

 そして固まってしまったルナを置いて、下に降りていく。
 お母さんも「魔法使いのトーマ」で固める。

「いい、お母さん? さっきの子のこと、気に入ったんだよね。エリと違って、お母さんは気に入ったんだよね?」

 エリにはケーキなんて出さなかったくせに。
 あの子が僕の友だちだったのに。
 
「僕たちは、これからセックスする。お母さんの見ている前で、子ども同士でセックスするから。でも、お母さんはそれを当たり前のことだと思って見ている。無邪気で仲良しな子どもの遊びに見える。可愛くて礼儀正しい女の子が僕と激しいセックスをしていて嬉しい。そういう光景に見える」

 また2階に上がって、まるでキスでもしようとしている顔で固まっているルナの髪をかき上げ、いい匂いのする耳元に囁く。

「場所を移動する。リビングに降りたら、そこに誰がいても気にならない。スイッチが入る。“君はアダルト女優のルナ”だ。思いきり自分を解放しろ」

 そしてリビングにルナを連れていって、お母さんの見ている前で魔法を解除する。

「トーマぁ!」

 ルナは、僕にしがみついて唇を押しつけてくる。ちゅぶ、ぶちゅって激しい音を立ててキスをしてくる。

「まあまあ、2人は仲良しさんね」

 お母さんは、ソファで紅茶のカップを傾けてながら、にっこりと微笑んだ。

「ねえ、トーマ。欲しいの。チンポ欲しいの。朝からずっとウズウズしてた。他の子なんてかまっちゃイヤ。ルナのオマンコ、トーマのチンポをずっと待ってるんだよ?」

 言いながら自分でパンツを乱暴に下げる。
 黒いレースの下着はとても子どもの穿くものとは思えないけど、それもクロッチの部分に染みが出来ていた。
 
「ねえ、触って? ルナのぬれぬれオマンコ触って? トーマにいじって欲しくてもう濡れてるの。一緒に歩いてるだけで、もう濡れてたんだよ?」
「可愛い子ねえ。仲良くしてあげるのよ、トーマ」

 短いスカートの中に手を入れると、確かにそこはもう濡れていた。どこまで演技なんだろう、この子。すごい女優っぷりだな。

「あぁん…ッ!」

 くねくねとお尻を動かして、僕に感じてる顔を見せるルナは、魔法使いの僕までドキドキさせるくらい可愛い。
 イジメっ子のくせに、可愛い。

「んんっ」

 指を強引に入れてやると、やっぱりまだきついのかルナは顔をしかめる。
 それでも、すぐに「あぁん!」とエロい顔をする。

「気持ちいい……トーマの指、気持ちいいよぉ」

 アダルト女優でスケベな女優。
 ルナは、僕のお母さんの見ている前で、ぺろりと唇を舐める。

「トーマのおちんちん、見たい」

 僕にたくし上げられたスカートは彼女の卵みたいなお尻を剥きだしにしている。
 それをそのままぺたんと床につけて、我が家のフローリングにスケベなお汁をつけて、ルナは僕のズボンを下ろす。
 そして、おちんちんにうっとりと目を細め、「かっこいい……」と呟いて、熱っぽい瞳を閉じて大きく口を開ける。

「あーむっ……ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぴっ」
「まあ、そんなことまでしてくれるの? 良い子ねえ、トーマ。嬉しいでしょう?」

 確かにお母さんの言うとおりだよ。
 エリをイジメた悪い子に、おちんちんをしゃぶらせるのは愉快だ。
 僕は学校でもこんなことをしているんだ。
 あなたの良い子は、毎日こんなことを女の子にさせているんだ。

「んっ」

 ルナの頭を掴んでおちんちんから離す。
 そして、上目遣いに見上げる彼女に命令する。

「全部脱いで。僕にお尻を向けて、ワレメを広げて」
「はい!」

 嬉しそうに笑って、ルナはぽんぽんと服を脱ぐ。
 おしゃれなシャツを。薄っぺらいくせに派手なブラジャーを。短いスカートを。エッチなパンツを。

「いいのよ、置いておきなさい」

 そしてお母さんも、嬉しそうに彼女の脱いだ服をたたんでいく。

「まあ、ルナちゃんったら」

 パンツもたたもうとして、そこがべっとり濡れているからとティッシュを当てる。

「トーマ、これでいい? ルナのぬれぬれオマンコ、ちゃんと奥まで見える?」

 そんなこともお構いなしに、ルナは僕に向かってお尻を突き出して両手で広げた。
 ピンク色のワレメが強引に開かれ、てらてらと濡れていた。
 お尻の穴まで広がって、彼女の恥ずかしい場所は全部我が家のリビングに開放された。

「まあ、きれいなアソコねえ。若いっていいわね」

 お母さんは小さく拍手する。
 今日、初めて会ったばかりの僕の同級生のアソコに。
 
「お願い、トーマ、来て。私たち、昨日もえっちしてくれてないんだよ? 私はずっと待ってたのに……いじわるしないで、来てぇ」

 興奮しきった顔を、逆さまにして股の間からおねだりしてくる。
 アソコも顔も涙目だ。

「いいよ、入れてあげる。ただし、もっとちゃんとおねだり出来たらね」
「イジワルねえ、トーマは。女はそれされるの結構きついのよ?」
「お願いっ! ルナのオマンコ、もう我慢できないのっ。昨夜からずっとウズウズしてるけど、自分でいじったりしなかったのっ。トーマがしてくれるからって信じてしなかったのっ。だから、もう、本当にアソコせつないのぉ。トーマのおちんちん欲しいよぉ」
「もっとだよ。もっと言わなきゃ入れてあげない」
「そういうとこだけお父さん似なのねえ……」
「お願いします! このオマンコ、好きにしていいからっ。お口もお尻も、好きに使っていいし何でもするっ! トーマに、せっくすして欲しいのぉっ! アダルト女優のどすけべオマンコ、可愛がって欲しいのっ。せっくす、大好きなのぉ!」

 小さな胸もこの体制だと三角形に尖って見える。
 ふりふりとお尻を振って、ルナは僕ん家の床にだらだらとエッチなお汁を垂らしている。
 だけどお母さんは、それすらも嬉しそうに微笑んで見ていた。

「トーマ。イジワルはそのくらいにして、ルナちゃんのどすけべオマンコ可愛がってあげなさい。こんなに一生懸命なのに、かわいそうじゃない」

 正直言うと、僕も自分の家でこんな恥ずかしい格好して恥ずかしいおねだりするルナには興奮していた。
 お母さんの前じゃなかったら、もうかぶりついていたかもしれない。
 少しだけ格好をつけて、もったいをつけて「じゃあ入れてあげるよ」という。

「あぁ、ありがとうございます!」

 ルナは泣きそうな顔で笑った。
 お母さんは「うんうん」と優しい顔で頷いていた。
 
「あぁーん!」

 きついアソコの中を、ぐいっと強引に差し込んだらルナは背中を仰け反らせて叫んだ。

「あらあら。まさか入れられただけでイッちゃったの、ルナちゃん?」

 お母さんは目を丸くして驚いていた。
 僕は、「魔法使いのトーマ」とルナの耳元にささやく。

「ルナ、お母さんが質問しているよ。ちゃんと答えて。良い子のルナで答えて」

 そして、ぐいっとまた腰を動かす。

「あぁぁっ、はいっ。はい、イきましたっ。私、お母さんの見ている前で、トーマ君におちんちん入れられただけでイきましたっ。すみません、お母さんっ」
「まあ、いいのよ、そんなに謝らなくて。そうねえ、若いものね。セックスは楽しい?」
「はいっ、あぁ、はい、すごくっ! トーマ君のせっくす、大好きなんですっ。あっ、あぁっ。私、せっくす狂いですっ。せっくすのことばかり考えちゃうんですっ。あぁんっ、明日は、トーマ君のおちんちんに何してあげようかな、とか、んんっ、どんなこと、されちゃうのかなって、あんっ、考えたら、濡れて、眠れなくなっちゃうんですっ」
「そうなのぉ。今が一番楽しいときなのね? ふふっ、微笑ましいわぁ。よかったわね、トーマにセックスしてもらえて」
「はい! 今日は、本当に、来てよかったですっ、あぁっ。ほんとは、すっごくドキドキして、家に入れてもらえなかったらどうしようって。お母さんに嫌われたらどうしようって、あぁんっ、どうやって挨拶しようかって、何回も頭の中で練習してましたっ。あぁっ、せっくす、どうしても、トーマ君とせっくすしたかったからっ。んんっ、嬉しいっ。おちんちんで、オマンコをぐちゅぐちゅしてもらえて、嬉しいっ。私たちのせっくすでお母さんにも喜んでもらえて、本当に嬉しいです!」
「……本当に可愛い子ねえ。すごい音までさせて」
「あっ、は、恥ずかしいですっ。うるさくして、ごめんなさいっ!」
「いいのよぉ。しっかりトーマのお相手してあげて」
「はいっ! 私、がんばりますっ。あぁんっ。トーマ君と、んんっ、しっかりせっくす、させていただき、ますっ、あぁーん!」

 パンパンと大きな音を立てて、ぐちゅぐちゅと濡れた音を垂らして、僕たちは激しいセックスを親の前で見せる。
 お母さんは、嬉しそうに目を細めて紅茶のカップに口をつける。

「ふふっ。こうして見ていると、まるで小さな夫婦みたいね」
「なっ!?」

 お母さんの戯れ言に、なぜかルナは真っ赤になった。

「おっ、お母さんってば、か、からかわないでくださいっ。あん、そんなの、あんっ、私たち、まだまだ先の話ですから、んんっ」
「ふふっ。だってねえ。こうしてセックスをしている2人を見てると、本当にお似合いだなあって思えるのよ」
「や、やだ……んんっ、恥ずかしい……」

 アソコが、ぎゅうぎゅうと強く絞まっている。
 僕と夫婦なんてイヤに決まってるのに、良い子の演技なんてしているせいでハッキリと怒れないんだ。無理しちゃってる。
 だけど、ルナはおずおずと僕を振り返り、「えへ」って笑って耳まで赤くした。
 演技派だなあ。

「……そ、そうなれるよう、がんばります」
「まあ」

 そんな殊勝な女の子のふりをするルナに、お母さんはますます調子に乗っていく。
 
「それじゃあ、これからもどんどんトーマとセックスしてあげてね」
「はい!」
「ルナちゃんになら、安心してトーマを任せられるわ」
「はいっ、私に任せてくださいっ。トーマ君のおちんちんのお世話は、私が毎日しますからっ。こすって、しゃぶって、腰ふって、毎日がんばります!」
「毎日? 大変じゃない?」
「平気ですっ。私、せっくす大好きですからっ! 毎日だって全然OKですからっ。私に、トーマ君のお世話を任せてください!」
「それじゃお願いね。毎日、してあげてね?」
「はい! 約束しますっ。お母さんとトーマ君に、約束します! あぁん!」

 ルナは、腰を掴んでいる僕の手をぎゅって握ってくる。
 もちろん、そんな約束も演技なのは僕はわかってる。それより早くイきたいんだろう。
 僕は腰の速度を速める。ルナは大きな声を上げて、自分も腰を振ってくる。

「出るよ、ルナ。出すからね!」
「来て、来て、トーマ、私も、イク……イック、あ、ああぁぁぁぁんッ!」
「若いっていいわよねえ」

 お母さんが参観している前で、僕はルナのお尻と背中と長い髪に、たっぷりと精液をぶっかけた。

「ほらほら、ルナちゃんじっとしてて。きれいにならないわよ?」
「平気ですってば、お母さん。私、トーマ君のせーえきなら顔に付けても歩けます」
「もう、ルナちゃん、ダメよそんなの。女の子は肌を大事にしないと。せっかくきれいな子に生まれたんだからね。ふふっ。トーマのこと、これからもよろしくね?」
「はい……お母様」
「まあ」

 僕の精液だらけになったルナを、お母さんが温かいおしぼりで拭いている。
 僕は、お母さんのケーキを一口つまみ食いして、さっさと2階へ戻る。

「……ん、じゃあ。このへんで」

 送っていけとお母さんがうるさいので、途中までルナを送っていく。
 なぜか、彼女は僕の手を握っている。
 そしてなぜかその手を離そうとしない。

「どうかしたの?」

 じっと下を向いて黙っている。
 不機嫌そうな顔で。
 エリがいつもそんな顔をしていたなって、思い出させる顔で。

「あ、夕焼け」

 ルナは、いきなりそんなこと言って顔を上げる。
 確かに空は真っ赤になっていた。

「ん」

 すると、ほっぺたに柔らかい感触がした。
 ルナは夕焼けを映した真っ赤な顔で僕をジトっと睨んで。

「約束、ちゃんと2人で守ろうね」
「は?」

 ついとそっぽ向いて、ルナは駆け出す。
 ランドセルをカタカタ鳴らしながら。

「……変なヤツ」

 僕は、夕焼けを見上げる。
 そしていつものように、あのマンションの屋上まで上がる。
 僕たちの秘密の場所。夕焼けは、ここから見るのが一番なんだ。これは誰にも教えない。僕とエリだけの秘密だ。
 今日も僕はエリのためにたくさんセックスした。
 そろそろ同じ学年は制覇しそうだから、次は6年生ともしようか。4年生だって出来るかもしれない。
 エリのために学校のみんなにセックスを教えて、セックスで支配する。彼女の大嫌いだったセックスにみんな狂って言いなりだ。
 みんなが僕とエリの人形になるんだ。そうして平和な世界が完成する。僕にはもうそれが出来るんだ。すぐに完成するよ。

「……エリ」

 もしもエリがいたら、笑ってくれただろうか。
 僕の魔法を「すごいすごい」って喜んでくれただろうか。
 でも、ひとりぼっちの僕は上手く笑えない。
 全然ひとりじゃ笑えない。

「つまんないよ……」

 あの日、どうしてエリが「つまんない」って言ったのかわかった。
 ひとりぼっちだったんだ。
 僕と一緒にいても、彼女はずっとひとりぼっちだった。

「つまんなーい!」

 エリは、ずっとつまらなかったんだ。

「―――エリ」

 そして今も、僕はひとりぼっちで教室にいて、目の前にはあの日と同じ夕焼けが広がる。
 からっぽの心とエリの想い出。
 痛みは、どんどん突き刺さってくる。
 僕を苛んで尖っていく。

「あぁぁ……あぁぁぁぁーっ」

 胸が痛くて立っていられない。声を張り上げて僕は泣く。
 ごめん。ごめん、エリ。ごめんなさい。
 僕が君を1人にしていた。僕はあまりにも子どもだった。
 でも、あの頃より少しは大人になったよ。
 今度こそ、君の願いは完璧に叶えてみせる。守ってみせるから。
 ようやくわかったんだ。
 遅れてやってきた感情が、ずっと気づかずに引きずってきたこの寂しさと痛みに名前をつけてくれた。
 あれは―――恋だった。
 僕は、エリのことが大好きだった。
 初めて女の子を好きになってたんだ。

「あぁ……」

 空っぽの悲しみがエリで満たされる。記憶と感情が初めて一致して、僕をエリのために泣かせてくれる。
 そうだよ。
 僕はずっと、エリのために泣きたかったんだ。
 何度も何度も彼女の名前を口にして泣く。
 泣けば泣くほど、エリのことが愛しくなる。
 彼女がいなくなってからの数年の時間が、ようやく僕の中で溶けていく。

「エリ……ッ!」

 いろんな彼女の表情が次々に浮かんだ。不機嫌な顔も泣いている顔も。
 そして、笑顔のエリに僕はくしゃくしゃに泣く。
 君を幸せにしたいって、それだけなんだ。魔法使いになって君を救ってみせるって、そのことばかり考えてたんだ。
 気に入らなければ怒ってよ。厳しいことを言ってもいい。君を笑わせるためなら僕は道化師にだってなる。
 好きなんだ。大好きだ。好きだ好きだ。エリが好きだ。君の世界を僕が作ってみせる。
 だから。

「早く助けに来てよぉ、エリぃ……」

 もう、限界なんだよ。
 君の魔法が必要なのは僕の方なんだ。僕の魔法じゃ君への想いは埋まらない。空っぽの胸に、風が吹き抜けるたびに痛い。
 どうして僕は今までこんな大きな穴に気づかずにいれたんだろう。
 魔法なんかじゃダメなんだ。エリじゃなきゃダメなんだ。
 また僕と一緒に下校してよ。
 いつもの不機嫌な顔で僕の前を歩いてよ。
 そして突拍子もないことで笑ったり怒ったりして僕を困らせて。
 1人で魔法ごっこしている僕に、「ウソつきは死ね」ってパンチして。
 エリ。
 僕には、君が必要なんだ―――

 “エリに会いたいですか?”

 しゃがみ込んで、膝を抱える僕に前にスケッチブックが開かれる。

「……え?」

 サインペンの音が弾んだ。
 そして女の子みたいに柔らかい文字で。

 “じゃあ、行きましょう”

 ……どこに?
 僕の手が小さく温かいものに包まれる。
 誰かが僕の手を引いている。

 “エリに会いに行きましょう!”

 白いノートの向こう側で、カーテンが翼のように揺れた。
 天使は僕の希望だと、記憶の底から声がする。

< つづく >

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