喫茶ヒプノ2

-2- 花婿探しダーツ大会

「ふぅむ……」

 朝霞は催眠に堕とした女ふたりを見下ろしながら、次のイベントについて考えていた。

 今日堕とした相手からいつも通りに個人情報を聴きとっている。

 目の前にいる女性二人は穏やかな寝息を立てているが、朝霞の質問に対しては寝言のような小さな声で、しかし一切の嘘偽りなく答えてくれる。

 片方は明野ミサキ。もう何度目かの来店で彼女についてはもう十分知っていた。

 一番の上玉が集まる通りの『嬢』で、幼い顔立ちだが歳は20ちょうど。現役大学生で、趣味はダーツ。

 もう片方が飯塚マヤ。こっちはミサキの友人で、『嬢』ではなく一般の会社員。磁器のような白い肌を惜しみなく晒したタンクトップにショートデニム、175cmの長身に大きな胸と尻という日本人離れしたプロポーション、意志の強そうな切れ長の目。『可愛い』とはまた違うが、異論の余地がない美人。

 そんな彼女が無防備な寝顔を晒し、朝霞の問いに隠し事などせず素直に答えてくれる。朝霞はこの征服感が何よりも大好物だった。

 そしてこのマヤ、ダーツのセミプロだという。朝霞はダーツの世界に詳しくはないが、セミプロというからには素人よりは遥かに上手いだろう。

 おあつらえ向きと言わんばかりに、今日のイベントはダーツである。

 いつもであれば客同士で争わせて優勝者と準優勝者に『景品』を贈っていたが、今日は少しシステム変えてみようか。

「マヤさん、今日は貴女は――」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「お集りの皆さん、今日のゲームについてルール変更があります」

 裏のイベントバー・ヒプノ。朝霞はカウンター裏から集まった人にアナウンスを始める。

 いつも通りのダーツだと思って来ていた客が少しザワつく。

「ゲームがダーツであるということは変わりません。ですが今日競っていだたくのはいつも通りの順位ではなく……どうぞ、お入りください」

「アタシと結婚できる相手はいるんかねぇ」

 全裸の美人がフロア中央に躍り出る。

 フロア全体から視線が集まり、ザワつきが困惑から歓声に変わっていく。

「本日お越しの飯塚マヤさん。彼女は結婚相手、花婿を探しているそうです。マヤさんと一対一のガチンコダーツ対決で最初に勝った人を花婿として迎えるそうです」

 その説明だけで理解した客も少なくなく、あちこちから「そういうことか」「結局いつも通りか」「早い者勝ちってことか?」などと声が上がる。

 フロア中央にいるマヤから『そういう案内で集まったんじゃないのか?』と目で問われた朝霞は『ルールを再確認しただけです』とカンペで返した。

 朝霞がマヤに仕込んだ催眠は、

 『貴女は今日は花婿を探しに来ました。貴女が婿として迎えたいのは、自分よりダーツが上手い人です。あなたはダーツのセミプロなのですから、自分よりダーツが上手い人がいたらその人に恋をしてしまうのは当たり前です。自分より上手い人は憧れでとても気になる存在ですからね。裏のフロアで貴女の花婿に立候補した男が待っています。さぁ、花婿候補の中に相応しい男がいるか、見定めに行きましょう』

 という内容。

 バーとしてのイベント的には『ダーツが上手いと景品が手に入る』ことに変わりはない。ただ他の誰かがマヤに勝つ前に自分が勝つ必要がある、という早い者勝ちシステムになっただけだ。

 ちなみにミサキにはマヤと同じ状況として理解する、疑問を持たないという催眠を仕込んだ上で、今日はカウンターで待機してもらっている。ミサキも疑いようがない美人だが、彼女は既に何度か『お手伝い』してもらっている。

 折角だから今日初参加のマヤに頑張ってもらおうと朝霞は考えた。

「マヤさんのプロフィールですが、普段は会社員でして、今日が一期一会の機会でございます」

 ブロアのボルテージがまた一段を上がったのを肌で感じる。

 このバーでわざわざ職業を伝えるのは『嬢ではない』ということを表している。嬢を連れてきたイベントであれば、ゲームに負けたとしても遊郭で遊ぶことはできる。しかし嬢ではない一般女性ならそうはいかない。この瞬間だけ、一度きりの機会になる。

 そして相手は誰もが目で追う美人。参加者が興奮するのは当然である。

「さぁ、アタシに勝てるという自身があるやつは手を挙げな」

 自信満々の宣戦布告。

 それを聞いた男は一斉に手を挙げた。もうみんな早い者勝ちということに気付いているのだろう。

「じゃぁ一番前のお前、こっちに来い」

 たまたまマヤに一番近いところに座っていた男が指名される。

 メガネの痩せた若い男はマヤの隣に歩いていき、ダーツの矢の確認を始める。

 イベントバー・ヒプノのダーツはカウント・アップで行われる。高得点を取った方の勝ち、という最もシンプルなルールだ。

 通常のカウント・アップは3本投げて1ラウンド。これを8ラウンド繰り返し、計24本でのスコアで競う。しかし朝霞は回転率のため3ラウンド、計9本での勝負というハウスルールを採用している。今回もそのルールだ。

 マヤも普段ならマイダーツを使うのだろうが、常に持ち歩いているわけではない。今日は朝霞の用意した普通の矢で勝負してもらう。若干感覚は変わるだろうがセミプロのハンデということでいいだろう。

「お前から投げていいぞ」

 マヤは後攻を選択。メガネの男は軽く息を吐いてから1本、また1本、最後の1本と立て続けに投げる。スコアは19のトリプル、7のトリプル、19のダブルで116点とかなり高い点数。メガネは満足そうに矢を回収する。

「そういえばあの客……」

 朝霞の記憶に誤りが無ければあのメガネの男、過去に優勝経験がある猛者だ。このまま一戦目で決着がついてしまうのではないかという不安が朝霞とフロアの男たちに沸いてくる。

「じゃぁアタシの番だな。……っと」

 白く長い腕のしなやかな動き、慣れたフォームで放たれた矢は3点に刺さる。ダブルでもトリプルでもないただの3点で単純なミス。

 このままメガネの勝利で終わってしまうのかという不安がさらに大きくなる。『こっちにチャンスがが回ってこないのに終わるのはつまらねぇぞ』という客の視線が朝霞に刺さる。

 このまま一戦目で決着が着くのは唐突にシステムを変更した朝霞としてもよろしくない。どうしたものかと思考を巡らせ始める。

「ん、こういう重さか。なら……っと」

 神妙な面持ちの朝霞の視線の先で放たれた二投目は、

『Bull`s Eye!!』

 的のド真ん中、ブルズアイに突き刺さった。ダーツマシンが光り演出が流れる。

「もう一度……ッ」

 そして三投目もブルズアイ。きれいに真ん中に突き刺さっている。

「ぉぅ……」

 思わずたじろぐメガネの男。

 ブルズアイ2回と3点でマヤの得点は103点。今はまだメガネの方が得点は高いが、このまま朝霞の店の矢に慣れてしまえば誰も止められなくなる恐れがある。

「マヤちゃん、20のトリプル狙わないんだね。自分の矢じゃないから安定を取ったのかな」

「えっと……ミサキさんはマヤさんとダーツで知り合ったんでしたっけ」

「うん、そうだよ。マヤちゃんはいっつも20のトリプルを狙うから、ブル(真ん中)を狙うのは珍しいなって」

「そ、そうなのですか……」

 そのまま第二、第三ラウンドと続き、高得点を的確に射貫いていくマヤ。この瞬間ばかりは、フロアもマヤの腕前に呆然としていた。そして最終ラウンドが終わった時にはマヤの圧勝であった。

 朝霞の心配は『一人目で終わってしまうのか』ではなく『誰も勝てないのではないか』という真逆の心配に変わっていた。

 メガネも最初こそ調子が良かったものの、第二ラウンド以降は得点がガタ落ちする。それもそのはず、矢を投げるだけの動きでさえ揺れるマヤの大きな胸に視線が釘付けになっていた。ダーツへの集中力などとうに消え、どこかで勝負を諦めて彼女の大きな胸を間近で見ることに集中したようだ。

 裸でいることが普段通りのダーツの正装だと暗示を刷り込まれているマヤはその欲望の視線に調子を崩すことなく、3ラウンドすべて平然と投げ終えていた。

 あえなく敗北したメガネの男は少しうなだれながら、でも少し満足そうな顔で自分の席に戻っていた。

「さぁ、次の相手は誰だ?」

 再び男の手が一斉に上がる。たけどその数はさっきより少ない。手を上げているのはまだ勝てると信じている男か、ただマヤの胸を近くで見たいだけの男かは分からないが、いずれにせよその数はぱっと見でわかるくらいに減っていた。別に挑戦料もなければペナルティもないが、マヤの技量に気圧されたのだろう。

 マヤはまた無造作に指名して二戦目が行われる。彼女の勢いは止まらず、二人目、三人目と立て続けに下していき、

「これで……全員終わったのか?」

 マヤの全勝で花婿探しは幕を下ろすことになってしまった。

「アタシの相手になるヤツはいなかったな……」

 「この後はどうするんだ?」とマヤの視線が朝霞に飛んでくる。

 さてどうしたものか、と朝霞は考える。

 セミプロといえ、誰かひとりくらいは運よく勝てる人がいるだろうと思っていたのだが彼女の腕は甘くなかった。いや、朝霞のプロに対する認識が甘かった。

 このまま終わりにしてもいいのだが、マヤだけではなく客からも朝霞に『これで終わりか?』という視線がいくつも向けられる。

 朝霞はダーツの腕に自信があるわけではない。それにもし仮に店主の朝霞が勝ったとしてなんの意味があるのか。

 ここにいる男は全敗。マヤに勝てる可能性がある人を今すぐ呼ぶことも……

「あっ」

 ふと、カウンターでカクテルを呑んでいるミサキに目が留まる。

 ひとりだけいた。男ではないが、この場でひとりだけ、まだマヤと勝負していない人が。

「ミサキさん、マヤさんと勝負してみませんか?」

「えっ、私がですか?」

「でも……マヤちゃんの方が上手いですし……あはは……」

 苦笑いしながら勝負を避けようとするミサキ。『絶対に戦いたくない』というより、『どうせ戦っても負けるから』というような諦めを含んだ笑いだ。

 しかしこのまま終わらせるのも面白くない朝霞にとってミサキは格好の相手。

「そうですか……では」

 チリン、とベルを鳴らす。

 これはこの店のコンパニオン全員に仕込んでいる、催眠状態に堕とすためのトリガー。

 ミサキの表情から自嘲的な笑みが消えて、なにも感情を感じさせないただの人形になる。

「今日、連戦連勝のマヤを目の前でずーっと見ていた貴女はマヤのことが大好きになってしまった。性別なんて関係ない。格好いいマヤのことが大好きで、マヤが欲しくて仕方なくなる。そして今日の貴女はちょっとS。マヤの感じている可愛い顔が見たい。マヤをイジメたくて仕方ない。そして今日マヤは花婿を探しにきている。もし勝てればマヤとカップルになって、なんでもできるかもしれない。いいやできるに決まっている。勝ったら時間も場所も考えず、マヤを鳴かせちゃいましょう。貴女は折角の機会なので、マヤと勝負したくなる。マヤとエッチしたいから勝負を挑みたくなる」

 暗示を仕込んでから、ミサキの肩を大きく揺らす。

「せっかくなんでマヤさんと勝負してきたらどうですか? 負けても罰ゲームがあるわけじゃありませんし」

「ふふっ……そうですね。全勝でマヤちゃんも天狗になってるみたいですし……」

 暗示によって『Sになる』スイッチが入ったのだろう。悪い笑みを浮かべながら、ゆらり、と立ち上がってマヤの方に歩いていく。

 ミサキに気が付いたマヤがこっちに視線で『何かやるのか?』と聞いてくる。それに対して朝霞は手招きでマヤを呼ぶ。

「今度はミサキの花婿探しか?」

 小走りでカウンターに駆け寄りながら、ミサキがステージに立つ理由を訊いてくる。

「いいえ、そうではなくですね。マヤさんと勝負したいそうです」

「アタシと? 別にいいけど……別に勝敗で何かあるわけじゃないぜ? 女同士だし」

「まぁそれはそうなんですけどね」

 マヤにもチリン、とベルの音を聴かせる。

 彼女もフッと表情が消え、催眠状態に堕ちていく。

「貴女は花婿探しに来ていました。もし自分よし強い男性がいれば花婿でしたが、もし女性に負けたらその女性に何をされても抵抗できなくなって、されるがままになってしまいます。だって自分より強い相手なんですから当然です。そして自分より強い相手から与えられる快感は、これまでに経験したことのない快感になって貴女の身体を貫きます。そして貴女は挑まれた勝負は断れない。セミプロの名に懸けて勝負を逃げるなんてことはできませんよね。でも今日の貴女は連戦で疲れが溜まっているのか、なぜか点数の低い場所を狙ってしまいます。自分ではちゃんと高得点を狙っているつもりでも、なぜか低い点数を狙ってしまいます。ですが挑まれた勝負は必ず受けて立ちましょう。何を言われたかは何も覚えていませんが必ずそうなりますよ――マヤさん、大丈夫ですか?」

「んんっ……あれ、なんだ、立ち眩みか?」

「で、ミサキさんとの勝負は避けるんですか?」

「勝負……? なっ、挑まれたなら受けて立つぜ。アタシにも矜持ってモンがあるからな」

「凄い自身ですね。ではミサキさんがステージで待っていますよ」

「アタシがミサキに負けるなんて万に一つもねぇだろうけどな」

 勝敗は決まっているも同然の勝負。そんなことを知る由もなく、暗示で戦意を刺激された彼女は好戦的なセリフを吐き捨てて、肩を回しながら意気揚々とステージに戻っていく。

「アタシに勝負を挑んでくるなんて凄い自信だな」

「私だっていっつもマヤちゃんに負けてばっかりじゃないんだからね」

「お前じゃアタシに勝てないってことを教えてあげるよ」

 二人が並んでダーツマシンの前に立つ。それだけで男共から軽い歓声が上がる。

 ミサキはマヤのような強烈なプロポーションではないが、それでも遊郭で人気が高い嬢だ。スタイルは抜群である。そんな二人が全裸で並んでいるとなればまぁ当然の反応なのだろう。

「んじゃアタシから行くよ。……ッ!」

 これまでと全く変わらないフォームで投げられた矢は、

「……あれ?」

 狙い通りに1点のエリアに刺さる。

 1点エリアは20点と18点という高得点エリアに挟まれた場所なのだが、『無意識に低い点数を取る』という暗示を入れられたマヤは見事に1点を射貫いて見せた。

「あれどうしたのマヤちゃん? 20点狙いで外れちゃった?」

「こんなの偶然だっ……あれぇ?」

 また1点のエリア。今度はダブルだけれど1が倍になったところでたかが知れている。

 三投目も1点に刺さりミサキに交代。彼女はマヤほどの技量はないが、無難に、堅実に点を獲っていく。

 ラウンドは進み、マヤは1点狙いの結果で逸れて20点や18点に刺さることはあっても、ちゃんと点数を取っていくミサキの一歩下となっている。

 そしてそのままゲームセット。そこそこ大きな差をつけてミサキの勝利。

「ねーぇマヤちゃん、私じゃ誰に勝てないってー?」

「えっと……それは……」

 決着がついた瞬間、ミサキの目つきが変わる。獲物を狩る獣の目に。

 変わってマヤは苦笑いしながらミサキから距離を取ろうとする――が、ミサキに両肩を掴まれる。勝敗が付いてしまったが最後、マヤはもう勝者のされるがままだ。

「私のことずーっとバカにしてくれちゃって。そんな悪い口は塞いであげないとね」

「み、ミサキ――んむっ!?」

 ミサキが強引にマヤの口を口で塞ぐ。そしてそのまま舌をねじ込んでいく。ミサキは片手でマヤを抱き、もう片手はマヤの股間に伸ばしていた。それだけでマヤの身体が軽く跳ねる。

 ミサキは童顔で穏やかそうな雰囲気で、どちらかというと『受け』っぽい雰囲気を纏っているが、とても楽しそうにマヤを責め立てる。暗示の効果もあるのだろうが、本人もそういうのが好きだったりするのだろう。

 背も高く強気で男勝り、誰もが羨むプロポーションのマヤが、自分より小柄で幼い顔立ちのミサキに襲われるレズプレイ。しかも演技やヤラセではなくお互いに本気。

 長いディープキスが終わって、二人の口が離れる。

「マヤちゃん、あーんなに強気だったのに、こんな子供みたいな愛撫で蕩けちゃってるの?」

「ち、違うんだ、なぜかいつもより感じて……」

「まーだ強がるんだ? なら素直にさせてあげないとねー」

「ミサっ、ミサキ、ちょっ、まっ……あぁぁっ!」

 ミサキは遠慮なくマヤの割れ目に指を差し込む。

 暗示で快感が倍増させられているマヤはすぐに嬌声をあげて身悶える。

「可愛いよマヤちゃん、その可愛い声をもーっと聞かせて?」

「まっ、待って、少し休ま……あっ、激しいのっ、ダメぇっ、ダメだってぇぇ!」

 さっきまでの強気の態度から一転。甘く蕩けた嬌声をあげながらミサキの愛撫を受け続ける。

 マヤは普通の会社員だけれど、ミサキは性技のプロ。マヤにとってミサキから与えられ続ける快楽は暗示を抜きにしても耐えることができない快感だろう。

 そしてミサキの悪い笑顔。楽しそうに何度もマヤをイかせてるのを見てると、きっと元々Sっ気があったんだろう。結果的にだけどとても良い配役だ。

 朝霞は内心ホッとする。ダーツそのものは朝霞の想定していない終わり方で、今この状態は計算外のものであるが、結果オーライと言っていい。このイベントバーはノークレームを絶対としているが、それでも客の文句が来るのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。

 そしてゲームの勝者以外は『おさわり』厳禁のバー・ヒプノ。このレズプレイに交ざりたい客は少なからずいるだろうが、ヤジを飛ばしたり立ち上がったりという男はいない。今回の勝者は楽しそうにマヤを責め立てている、明野ミサキその人だから。……まぁ勝負は八百長もいいところなのだが。

「もうびしょびしょじゃん。上のお口では強がってるけど、下のお口は『もっともっと』っておねだりしちゃってるよ?」

「だ、だって、ミサキの手の動きがいやらしすぎるから……」

「ふーん? 不満なんだ。じゃぁもうやめちゃう?」

「ちがっ……! そうじゃない、そうじゃないんだ……!」

「じゃぁちゃんと上のお口からもおねだりして? じゃないと止めちゃうよ?」

 二人の世界は朝霞や男共を他所に、どんどん深くなっていく。

 ミサキの細い腕の中で身体をガクガクと震わせる。マヤの白い足を愛液が伝い、もう床まで届いている。

 ミサキの責めが始まってからまだ数分も経っていない。ミサキがどれだけ遊べば満足するか、男共は興味津々かもしれないが朝霞には分からないし興味もない。同様にミサキが満足するまでマヤが正気を保っていられるかも興味がない。

 朝霞はステージの二人を見守りながら、さっきまでミサキが使っていたグラスを洗い始めた。

 結局、ミサキが満足したのはそれから一時間後。マヤは白目を剥いて完全に失神してしまっていた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「あ、あれ……アタシは……?」

「目が覚めましたか」

「マスター……? アタシはなんで眠って……」

「思い出す必要はありませんよ。どうせ忘れるんですから」

「え……それはどういう……」

 チリン、とベルを鳴らす。

 イかされ続けて気を失って、ソファーに全裸のまま寝かされていたマヤは、失神から今度は催眠に意識を堕とされる。

 並んで反対側に置かれているソファーにはミサキが寝かされている。もちろん催眠に堕ちている状態で。

「ミサキさんもマヤさんも、今日は喫茶店に来た後、隣のダーツバーで夜まで楽しんでいました。そしていつもよりお酒を多く飲んでしまって、喫茶店で休憩していたら眠ってしまっていました。具体的に何を飲んだり、どんな話で盛り上がったりしたかは覚えていませんが、とーっても楽しかった、そして気持ちよかったことだけ覚えています。だって楽しければそれで十分なんですから。そしてとっても楽しく、気持ちよかった記憶と共に、ベルの音を聴くとまた催眠状態に堕ちるという記憶も貴女たちは心の深いところで覚えています。これも思い出すことはありませんが、とっても楽しくて気持ちいい幸せな感覚と共に貴女たちはちゃーんと覚えています。だからまたベルの音を聴くと必ず催眠状態になることができます。最後に、ふかーい催眠状態のまま、ぼーっとしたまま、服をちゃんと着ましょうね。服を着たらまたソファーに深く座りましょう」

 このまま全裸で覚醒させるわけにはいかない。催眠状態のまま服を着させる。

「さて、私が肩を揺らすと二人とも目を覚ましますよ。ただただ楽しく、気持ちよかった記憶だけが残って目が覚めます。はい! ――マヤさん、ミサキさん、大丈夫ですか?」

「……んっ、あれ? アタシは何を……?」

「寝ちゃってた……?」

「二人ともお酒の飲みすぎで潰れてしまってたのですよ。貴女方のような美人を床に寝かせるのも恐縮でしたので、喫茶店で休んでいただこうと運ばせていただきました」

「そう……だっけか。ダメだ、全然思い出せない」

「楽しくワイワイした記憶だけはあるんですけど……飲み過ぎちゃったのかな」

「ダーツに熱中しておられたようですので、疲労もあるかもしれません。閉店時間まではまだ時間がありますが、終電は大丈夫か気になったので起こしたのですが……お時間は大丈夫ですか?」

「時間? アタシそんなに寝て……っ!? もうこんな時間!?」

「私はまだ大丈夫だけどそろそろ帰らないとかな……ごめんなさい、お世話になってしまって」

「お気になさらず。そういうのも含めて喫茶ヒプノのサービスでございますから。お帰りの際は忘れ物はないようにお気を付けください」

「忘れ物は……うん、大丈夫だな。ありがとうございました。機会があればまた来ます。ごめんミサキ、先に行く!」

「私もまた来ますね。お世話になりました」

「こちらこそ、またのご来店をお待ちしております」

 慌ただしく飛び出していくマヤ。軽く一礼してからその後を追うように出ていくミサキ。

 急なイベント内容変更だったが、結果として客は満足、ミサキはマヤをイジメて楽しめて、マヤもマヤで新しい快感の境地に辿り着けて全員幸せのハッピーエンドだ。

「レズプレイ鑑賞会も需要あるんだなぁ」

 今日は突発企画、その上朝霞も想定していなかった展開にも関わらず、チップの羽振りがかなりよかった。需要があることの現れだろう。

 よく考えると美女ふたりが必要なレズプレイは女ひとりを買うだけじゃできない。それを生で間近で見る――というのはやりたくてもできない人がいるのかもしれない。定期的に企画してもよさそうだ。新たな客層も見込める。

 とはいえ番外編のような企画ばっかりではこれまでの常連が離れていってしまう恐れがある。月イチくらいで特別企画を入れてもいいかもなぁ、などと朝霞は考える。

「でもまぁ、次は感謝祭か」

 あらかじめ次に用意していた企画について、朝霞はブツブツ呟きながら考えを巡らせ始めた。

<続く>

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