リアル術師の異世界催眠体験1

※この作品には一部フィクションが含まれています。

異世界侍女の催眠体験 その1

 ぱちん。

「……ふあ」

 さほど大きくはない破裂音とともに意識が覚醒します。

 目を開くと夕方の日差しが眩しくて、しぱしぱ瞬きを繰り返してしまいます。おば様たちの小言を聞き流しているとき、不意に名前を呼ばれたときのような。私はそんな、きょとんとした顔をしていたことでしょう。

 こういうのって、何と言うのでしたか。そう、雌鶏が煎り玉蜀黍(ポップコーン)食らったような顔。ちょっと人様にお見せしたい顔じゃないですね。

「さあ、目が覚めると、意識がはっきりしていく」

「……ん……」

 頭に掛かっていた靄が晴れていきます。ええと、私はどうしていたんでしたっけ?

「あ、れ?」

「おはよう」

 知らない男の人が、穏やかに微笑んでベッドに横たわる私を見下ろしています。

 ……。

 ええ。

 私はと言えば、たっぷり10秒は固まっていたでしょうか。

「待ってください」

「いいですよ」

 周囲を見渡そうと思って、身体を起こせないことに気づきます。拘束されてるんでしょうか? いや、そんな感じではないようです。力が入らない……というのも少し違います。

「身体の動かし方がわからない、そうだよね」

「あ、れ……? ほんとに、これ、変で……」

 腕、そう、腕ですよ。今までどうやって腕を動かしていたんでしたっけ。意識してやったことはありません、思い出そうにも見当もつかないのです。腕だけじゃなくて脚だって。確かに普通に動かして、歩いたり、物を持ったりしていたんですよ、私は。

 

「それだけじゃない。君は何もわからない。私が誰かもわかりませんね」

「え?」

 知らない男の人です。

 ……いや違いますね。知っています。私はこの人を知っていることを知っています。だけど、どうしてでしょう。この人が誰なのか、ちっとも思い出せないのです。確かに持っていたはずのきれいな石が、ポケットのどこを探しても見つからないみたいに。

「君は今、私の催眠術に掛かっているんです。催眠術とは、心、精神、魂、そういった、人間を作っている内側のものを思うままに操ることができるものです。今こうして目覚めて、話ができているのも、私がそう命令したからです」

「はあー……」

 それは、すごいことではないのでしょうか。この話を私は、聞いたことがあるような気がします。いつ、どこで聞いたのかは、ちっとも思い出せないのですが。

「ところで。ここは静かな部屋ですね」

「はい……」

 小さな机と椅子、そして私の寝ているベッドがあり、窓があって、空が見えます。見慣れた部屋です。どこにある、誰の部屋なのかは、やっぱり思い出せないのですが。

「貴方は今、身体を動かすこともできません。大きな声も出せません」

 声。試していなかったけど、試そうとは思いません。どうせ出し方がわからないんでしょうから。

「そうして今、知らない男性が部屋にいるわけです。どう思いますか」

「えー……と……」

 私は今、これ以上なく無抵抗で……。彼の言うことが本当なら、心とかそういうものを、操られてしまっているようです。それって、ものすごく危ないことのような気がします。多分、私は叫び声を上げて、この部屋から逃げ出すのが良いのでしょう。

「あー……大変、ですね。……逃げなきゃ……です」

「そうですね、大変です。どうして逃げないんですか?」

「えーと……だって、動けません」

 うんと頑張って力を入れようとしても、身体は反応しません。例えば、髪の毛。髪の毛を動かそうと力を入れるのに似ています。私の体はどうやら、動くようにはできていないようです。

「えへへ……」

 ふにゃあ、と頬が緩むのがわかります。どうしてかはわかりませんが、なんだかとても、いい気持ちです。

「すごく、すごーく安心していますね。大変なことが起きるほど、温かくて、安心する」

「これ、だめじゃないですかあ……だってぇ……」

 だって。そんなに無防備だったら、すごく危なくて、すごく大変で……すごくすごく安心で、気持ちよくなってしまいます。

「こうして私が、貴方の身体に触れても、安心してしまうよ」

「ふわぁあ……♥」

 額に掌が被せられます。温かくて、男の人の匂いがします。こんなことをされて、抵抗しなかったら、絶対だめです。そんなの、すごく安心するに決まっています。

 掌が目の上にずれて、暗くなって、お腹にも触られて、さわさわ撫でられて、温かくて……だめです。知らない人にこんなこと、安心すぎます。

「安心ですね、すごーく安心。何をされるかわからなくて、安心ですね」

「ふぁあ……あんしん……♥」

「それでは、さっきの気持ちいい世界へ、また落ちていきましょう。始めはゆっくり……10数えると、また、あの幸せな所に行けますよ……10……背中にじんわり、心地よさが広がる……9、……動かせなかった手足が、もっともっと重くなる、力が抜ける……」

 そうして、ゆっくりと数を数えられて。

「光が遠く、とおーくなって……2、さあ落ちる、落ちる、1、0。すーっと沈む。光が遠くへ、消える。ふつりと消える。沈む」

「ぅ、あ」

 真っ暗になるのです。

「深く、深く沈むと、気持ちいい。気持ちよくて、とっても幸せ。そう、幸せがここにはありました。貴方はそれを覚えているから、またここへ帰ってくることができましたね……」

「ぁ……」

 背筋がぞわぞわするような、温かい湯に浸かっているような、とても不思議な気持ちです。わかるのは、これがとても気持ちがいいこと、こんなに気持ちいいことに逆らってはいけないということ。

 後で考えるとおかしなことなのですが、こうなっているときの私は、世界と私はこのために生まれてきたのだと心から信じているのです。

 だって。

「はい、幸せなまま……もっと深く、深く、落ちていく。もう一度、今度は3つ数えると――あなたの意識は、完全に消えてしまいます。3」

 すごく、幸せ。

「2、1」

「ぉ、ぁ」

「ゼロ」

 ――。

 ぱちん。

「……ふあ」

 さほど大きくはない破裂音とともに意識が覚醒します。

 目を開くと夕方の日差しが眩しくて、しぱしぱ瞬きを繰り返してしまいます。おば様たちの小言を聞き流しているとき、不意に名前を呼ばれたときのような。私はそんな、きょとんとした顔をしていたことでしょう。

 こういうのって、何と言うのでしたか。そう、雌鶏が煎り玉蜀黍(ポップコーン)食らったような顔。ちょっと人様にお見せしたい顔じゃないですね。

「あれ?」

「おはよう」

「……それ、さっきやりましたよね?」

 ようやく、すっきりと目が覚めました。目の前にいるのは――招かれし人、です。

「身体も動くようになってるよ。軽く解しておいてください」

「ん……はい」

 言われて伸びをすると、ぱきぱき、軋むみたいな気持ちよさ。だいぶ固まっていたみたいです。

「思い出しました。ここは貴方の部屋ですね、招かれし人」

「うん。君が案内してくれたんだけど」

「……すごい」

 すごかったです。

 これが、催眠術というもの。

「そんなに?」

「こんなものは聞いたこともありません。魔法では説明がつかないです」

「そういう言い方になるんだ」

 彼――『招かれし人』は、何がおかしいのか、笑っているようでした。

「こんなことができる人はいませんし、どうしてできるのかもわかりません」

「催眠は、ただの技術だからなあ。君はきっと、とても賢い人なんですよ。僕はその力を少し貸してもらっただけで」

「賢い、ですか?」

 催眠術というものができるということで、実験と称して協力を申し出たのは私です。その後はただ、彼の声を聴いているだけでした。そうしたら、だんだん気持ちが良くなってしまって……。

「あ」

「どうしたの」

「……とても、気持ちよかったです。あれは?」

 思い出すと恥ずかしくなります。あれでは、まるで閨睦みではありませんか。

「まあ催眠は気持ちいいものだからねえ」

「そういうものですか……」

 まあ、そういうものならいいと思います。ただ、あまりにも気持ちよかったので少し困っています。

「ところで、僕の事は思い出してくれたみたいですけど」

「はい」

「あなたは誰でしたっけ」

「はい?」

 馬鹿にしないでほしいです。

「私は、東の塔住まいの侍女で、東の塔の宮廷魔術師ミリセンティアさんに仕えている」

「仕えている?」

「……ミリセンティアさんに招かれた貴方の世話役になりました」

「うん」

「……」

 ……わかっているのです。私は、私の名前は知っているのです。ただ、ただ!

「招かれし人。また何かしましたね?」

「まあ」

「招かれし人。貴方の行動については、魔術師様にお伝えするように言いつかっています」

「あーあーあーわかった、ごめん、君の名前ね。『かわいい仔猫』ちゃんだったと思うよ」

「ああ」

 そうでした。言ってもらえればすぐ、それとわかります。忘れていたわけではないのです。ちゃんと知っているのですから。

「そういうわけで、ミリセンティアさんに頼まれて貴方の世話をするかわいい仔猫です」

 ……あれ?

 これ何かちょっと、おかしくないでしょうか。

 ほら、招かれし人、めちゃくちゃ笑っていますし。

「あの」

「はいはいはい、ごめん。三つ数えると思い出せるからね。ひとつ、ふたつ、みっつ、はいっ」

 ぱちん。

 ああそうです。この音は、彼が指を鳴らしていたのでした。

「……どうしてこのようなイタズラをするのですか?」

「楽しんでもらえるかなー……って」

 この人は、どうやらこういう人のようでした。もう少し早く気が付いていたはずなのですが。

「……はぁ。リルです。リル・セイレナンド。よろしくお願いしますね」

「リルさんも、忘れないようにしようね」

「怒りますよ」

 ……とは言いつつも、私の顔はちっとも怒ってはいなかったのだろうと思います。

 だって。

「さて、続きを試す?」

「……いいのですか?」

 だって。こんな、自分の心が。

「リルさんがいいなら、そりゃまあ」

「うう……待ってください」

 だって。自分ではどうにもできないくらい、好き勝手にされるなんて。

 こうして、気持ちよかったのが忘れられないのすら。

 ……本当に自分の気持ちなのか、わからないんですから。

「じゃあ、最初に聞いたことだけどもう一回」

「あー……」

 こんなの。気持ちいいに決まっているじゃないですか。

「エッチなのは、する?」

「……同じですよ」

「なんて言ってたっけ」

「してほしくなったら言うのでお構いなく、です」

 絶対、言わされるに決まってるのに。

 私はすっかり、これが好きになってしまったようなのです――。

 

◆神盟者召喚

 生まれてから今まで、普通の範囲で変わり者として生きてきたと思う。運動は苦手。勉強は嫌いじゃないけど、興味のないことを頑張るのが致命的に下手。別にモテるわけじゃないけど、彼女がいたこともないわけではない。趣味はゲームと催眠術。普通の範囲でちょっと変わり者と言えるだろう。

「えっと……大丈夫ですかね。男の人、みたいですよね」

「女性のようには見えないです」

 ある休日のこと。のんびり寝ていたらお腹が空いて昼過ぎに起きた自分は、昨夜漬け込んだ残りの鶏モモ肉を、美味しい唐揚げにしていたのだ。そして発泡酒を2缶。

「神盟者召喚ってこういう感じでしたっけ? もっとこう、出てくる前にぶわーって稲妻みたいなのが出たり、しゅわしゅわ光ったりしてませんでした?」

「わかりませんけど、確かに“西の”魔術師様の召喚ではそんな感じでしたね」

 そう。しゅわしゅわ言うやつの缶を開けたところだったのだ。ぷしっと。そしたら、目がチカチカするような変な感じがして……雪みたいな光の粒が、部屋中に広がって……。

 思わず、目を閉じた。

「あの。これ、どうなってるんですか。僕の唐揚げは……?」

 ――すると、この石造りの広間に体育座りしていた、というわけ。

 ……。

 目の前には2人の女の子が立っていた。一人は丈の長いワンピース……というかローブ? のような、まあ、ありていに言えば魔法使い風の格好をした可愛い感じの子。栗みたいなボブヘアで、なんかこう、丸っこくて可愛らしい。

 もう一人は、色素薄めで、ちょっと癖っ毛の目立つセミロングの女の子。使用人っぽい服装、なのだろうか。知っているイメージでは、落ち着いた喫茶店の従業員に見える。コンカフェとかは行かないからわからないけど……。

「あー、なんかもう色々諦めがついてきましたが、一応もう一度聞きますよ」

「はい……」

「いや別に問い詰めたいわけじゃないんです」

 目の前には丸い頭。質問攻めにしたらしゅんとしてしまい、どんどん目線が下へ下へと傾いていくのである。

「ごめんなさい……」

「謝って欲しいわけでもなくて……ええと、貴方は、ミリセン……ティア、さん? でしたっけ」

「はい……。ミリセンティア・ディッシェ。王国の東の魔術師を務めています」

 正直何言ってるかわからないけど、わかってきたことはある。

 これは、異世界転生ものだ。いや、死んでない。召喚ものだ。さすがにわかる。

 ……いやあ、あるものなんだなあ。

「それで、僕は貴方にええと、召喚された? ということになるんですか」

「そうです。宮廷魔術師のみに許されている、神盟者召喚の儀式というのがありましてですね」

「ありましたか。それで、どうして僕が召喚されるんでしょうか」

 何もわからないのはここである。異世界転生ものならあれだ、きっと魔王とかそういうのが居たり居なかったりなんかして、そういうのと戦う勇者がどうとかそういうやつだ。でも、自分はここに来るまで、そういう説明は受けて来なかったし、チートスキルを授けてくれる女神さまにも出会っていない。ただの人だ。戦闘能力的には、平均的な成人男性よりたぶん低い。

 学力的にも特別高いわけではない。こんなことなら技術系や歴史系のオタクをやっておくべきだった。そうしたら軍師系の無双ができたかもしれないのに。

「どうして、と言うと」

「えーと。僕は特に魔術師さん? の役に立つようなスキル的なものは持っていないので……」

「ええっ!?」

「そこ驚くんだ」

 東の魔術師ことミリセンティアさんは、どうやら自分に何かの期待をしていたようである。

「いや、だってほら。神盟者召喚といったら、凄腕の剣士さんだったり」

「アクションはからっきしで」

「鉄の身体の戦士とか」

「触ってみますか?」

「半獣の豪傑というのも聞いたことがあります」

「100%人間でお届けしております。遺伝子組み換え原料は使用しておりません」

「なんでですか!!??」

 怒られた。

「とにかく、戦闘は全く無理です。そういうのを求めていたんですか」

「……じゃあ、すごい賢者さまだったり」

「自信はないですけど、今のところ一番ありえる線来たかな……」

「やった!!」

 いや、まだ何もやっていないんだけど。

「とにかく、そんな僕……いや、貴方は宮廷魔術師様なんでしたっけ。ええと、私を、何故呼び出したのですか」

 なんか知らないけど、受ける感じよりも偉い人なのだろうと思うので、丁寧に接してみることにする。

「それは……だって、神盟者召喚(ガチャ)ですから……」

「ガチャなの!!??」

 今度はこちらが驚いてしまった。

「神盟者召喚、すなわち『God’s allied troopers choice and accept』、縮めて『ガチャ』。ここではないどこか他の世界から、神の朋友を遣わされるのです。どのような方がいらっしゃるかは、私達にはわかりません。時には兵でなく神器を授かることもあるそうですが」

「それってやっぱり外れとかあるんですか」

 たとえば自分みたいな。

「リルちゃん。外れってあるんですかね?」

 ミリセンティアは、隣に控える使用人らしき少女に尋ねた。

「……神の使わす同盟軍に当たり外れなどないですよ。過去も必ず、その時世、その国が必要とする御方を遣わされたそうですから」

「ですって」

「でも自分特に何かできるわけではないんですけど」

「そこをなんとか、諦めないで」

「えー」

 どうしろというのだ。

「もう一度回してみるのはどうですか」

「回す???」

「そのガチャ? をもう一度やってみたら」

「そうしたいのは山々ですけど」

「やっぱり期待されてないじゃないですか」

「そうではなくて」

「石が足りないとか」

「!?」

 二人とも驚いているようだ。なんで?

「あの……なぜ貴方が神晶石のことを?」

「またベタな名前だなあ」

 マジで石。どうやら本格的にその手の世界観であるらしい。いいけどさ、わかりやすくて。

 ――。

 魔術師ミリセンティアと、侍女のリル。二人からしばらく話を聞いて、分かったことはというと。

「つまり、魔術師さんは今日、その石を使ってこの儀式(ガチャ)を1回だけ回して、それで僕が出てきたと」

「そうです。つまり、今の私には貴方しかいないわけですね」

「その、僕が出てきたとき、何か心配そうにしていたのは?」

 疑問に答えたのはリルだった。

「……現れ方が、とても静かだったからです。以前の召喚では、漏れ出る光や迸る雷のような前兆が見られていたのですが」

「あ、ふーん」

 なるほどなー。察しちゃったなー。

「分かるんですか?」

「それはともかく、いろいろ答えてくれてありがとうございます。ところで……」

 一つ、どうやら確からしいこと。

「なんでしょう」

「お腹が空いたので、何か食事を頂けないですか……?」

 どうやら、唐揚げは食べられそうにない。

 ――。

 直ちに食堂へ案内されて、食事を済ませた。どうやらこの建物は王宮らしいけど、敷地内に複数の建物があるようだ。自分が召喚された石の広間は、敷地の中央付近にある地下室だった。

 食事は正直、あまり期待はしていなかったが……思ったよりは食べられるものが出てきて助かった。パンは硬くて塩気の強いもの。シンプルな野菜のスープに、鹿か何かの肉を煮たやつ。ワインはずいぶん酸味が強かった。そういうものか。残り物でこれだけ出せるのだから、王宮というのはまあ伊達じゃなさそうだ。

 食事を終えるころ、また二人に連れられて別の建物へ。塔だ。ゆるやかに上に行くほど細くなっていて、底面の形は円だろうか。

「こちらが、私の住む東の塔です。招かれし人、貴方はこの塔の客間を使ってくださいね」

「ありがとうございます」

「お世話役として、リルを預けます。困ったことがあれば何でも言ってください」

「よろしくお願いします、招かれし人」

 リルはぺこりと頭を下げた。

「いやあ、すみませんね。何から何まで」

「だって、こちらの勝手でお呼びしてしまったわけですからね……」

「いやまあ、それは何かもう、いいですから……」

「うう……ところで、貴方のことはどう呼んだらいいですか?」

「ん」

 ふ、と考える。自分の元々の名前はまあ、ある。あるけれど、明らかにこの世界、少なくともこのシレニスタという王国の文化からは浮いている。

 それに、まだ見せてもらってもいないが、魔法などがある世界。本名なんて名乗るだけ損なような気がする。適当な偽名にしたほうがよさそうだ。

「いつまでも招かれし人と呼ぶわけにもいかないですよね」

「いや、それでいいですよ」

「はい?」

「レシヒト・マネカ。まあまあいい名前に聞こえませんか」

「……いいんですか、そんなので?」

「駄目でしたか?」

「……えー、いや、まあ、いい……のかな?」

 ミリセンティアは眉間に皺を寄せており、微妙に納得していないようだが、それはそれで可愛いので良しとする。

「気軽にレシって呼んでくれていいですよ」

「考えておきます」

 それにしても、ミリセンティアという名前もまた呼びづらい。ミリちゃんでいいんじゃないかな。いいと思う。脳内ミリちゃんで。

「では、リル。えーと、レシヒトさんをお部屋まで案内してあげてください。その後は、用事がないようだったら控えに戻っていいです」

「はい」

「ミリちゃんは?」

「ミリちゃん?」

 あっ、脳内が漏れた。

「何でもないです」

「できれば、普通にミリセンティアと呼んでください」

「はい……」

「私は、儀式の後始末と、陛下への報告がありますので」

「そういう」

 王国なんだからそりゃ、王がいるわけだ。そのへんの詳しいことはまた今度、聞いてみよう。

 

 

 

◆異世界侍女の催眠体験 その0

 ミリちゃんは王宮の方へ向かっていった。残されたのは自分とリル。リルに案内されるまま、目の前の塔へと入ってゆく。

「こちらが一階ですね。使用人のスペースですけど、塔に立ち入るのは普通、魔術師様お付きの侍女だけです」

「つまりリルさんだけ?」

「東の塔では、そうですね」

「そういえば、もう一つ塔を見たなあ」

 食堂からこちらへ向かう際に、ちょうど反対側。つまりあれは西の塔?

「シレニスタには西と東、2つの塔があるのです。それぞれ、宮廷魔術師様が住んでいらっしゃいます」

「宮廷魔術師……ミリちゃん?」

「ミリセンティアさんと、もうひと方。今は留守にしていらっしゃいますが、西の塔にも魔術師様がいますね」

 塔の中はあんがい広く、中の様子を見ながら登っていく。

「自分みたいなガチャ産の人も住んでるの?」

「この塔には、他に神盟者の方は居ませんけど」

 ん?

「待って、西の塔には居るの?」

「どなたが、というのは把握してないですが、何人かは」

「じゃあなんでこっちには居ないんだろう」

 よくわからない。西の塔にいるのは、西の魔術師が召喚した人たちなんだろうけども。

「……ミリセンティアさんが神盟者召喚(ガチャ)をするのは、今回が初めてです」

「あ、ふーん」

 なんだろう。何か格差の匂いがしてきたんだけど。

「……神晶石は、魔術師様の功績に応じて聖王から授かるものなので」

「アー」

 そんなに早い答え合わせは要らない。

「つまり、この塔にいるのは自分とリルさんとミリちゃんだけなの?」

「そういうことになります」

 ――。

「こちらの部屋で良いですか?」

「すごい、ちゃんとベッドがあるんだ」

 案内された部屋は綺麗に片付いていて、住みやすそうだった。

「招かれし人に無礼があってはいけませんから」

「そんな所、本当に自分が使ってもいいのかなあ」

 正直、あんまり自分は招かれていない……ぶっちゃけ、外れ枠のような気がする。

「……それなんですが、招かれし人」

「レシヒトでいいよ」

「本当に、貴方は、何の力も持っていないのでしょうか」

「……」

 申し訳ないけど、本当にその通りだった。聞けば、ミリちゃんは本当に一回こっきりしかガチャを回す資産(資産?)が無くて、そこから出てきたのが自分。西の魔術師がどんな人物かはわからないけど、多分優秀な人なんだろう。ミリちゃんの絶妙に頼りない感じではなくて。

 一発逆転、じゃないにしても、ささやかな希望だったのかもしれない。そこで引き当てたのが、何もできない一般人。これは、やっぱり可哀想だし、申し訳ない。

「まあ……見ての通り、普通の範囲だから」

「神盟者の普通は、私達にはわからないです。その服だって珍しいものです」

 部屋着代わりに使っていた、ディスカウントのパジャマなんだけどね。そうだ、あとでこちらの世界で着られる服を用立ててもらわないと。

「と言っても、役立てられそうな特技は……うん。あまり役に立たなそうなのはあるけど」

「どんなものですか」

「えーと……催眠術、ってわかる?」

 変わった特技というと、これくらいだろうか。確かに珍しいとは思うけど。

「いえ。魔術ですか?」

「違うんだけど……えーと、相手の心とか、精神とか、そういうのを……うーんと、操ったりしちゃうような技術なんだけど……」

「……それって、すごいことじゃないですか」

 そう、すごいんだけど、簡単な話でもない。

「誰にでもすぐに簡単に、とはいかないんだよね。例えば武器を持った強盗を相手に、その場で言うことを聞かせるなんてことは、いくら何でも無理だ」

「じゃあ、どういうことができるんですか」

「まず、相手が気を許してくれているほど掛かりやすい。静かで落ち着いた空間で、時間をかける必要がある」

「……あんまり意味がないということですか?」

 ああ、そうだよ。傷つくなあ。

「だから、特に戦闘の役には立たないって言ってるんだけど」

「むしろ、何の役に立つんでしょうか。詐欺……とかですか?」

 傷つくなあ!?

「役に立つって言うのかはわからないけど、面白いんだ」

「面白いですか」

「あと、すごくいい気持ちになる。心が穏やかになって、清々しくなれたりする」

「なるほどです。操る、と言われましたから、悪いことをさせるのかとばかり」

「疲れが取れたり、悩みが軽くなったり、そういう役には立てるかもしれないね」

 実際、そういうのもよくやっていた。不眠や不安の解消にはよく効くと言っていい。

「素敵じゃないですか。他にはどんな使い方があるんでしょうか」

「あー、えーと、深い意味はなくて単に一例ってことでなら……」

「はい」

「親密な相手だったら、エッチなことに使うこともできる」

「ああ……なるほどです。気を許してくれていて、心を、操る……なるほど……」

 何やらしきりに納得してくれている。

「でしたら……それ、試させて頂けませんか?」

「はい?」

「その、催眠術というものをです」

「……リルさんに?」

 めちゃくちゃ真顔で言われると困る。どういう意味で言っているんだろうか。

「気を許すのは大丈夫だと思います。静かな場所はここでいいですよね。時間も問題ないです」

「ああうん、まあそうかも……どうして?」

「とても興味が湧いたので。それに、招かれし人にどんな力があるのか、早く確かめなくちゃいけませんから」

 ミリちゃんと一緒のときは思わなかったけど、やけにぐいぐい来るな、この子。

「えーと、まあ、何度もやったことあるから、いいけど……」

「はい。では、お願いします」

 ――。

 自分のために用意してもらったベッドだが、今はリルが寝ている。

 話の流れで催眠を掛けることになり、初めての相手ということで、丁寧な誘導を行っているところだ。

「目を閉じたまま……そう、瞼を閉じたままで、オレンジ色の光を追いかけましょう……」

 時刻はまだ夕暮れ前。部屋は明るい。リルには目を閉じてもらい、瞼を透かして見える日光を意識させている。

 瞑目していると、真っ暗な中に光が見えることがある。それはチカチカ瞬いていたり、糸くずのような形があったり、ゆっくり横に流れていったり、様々な姿で現れる。原因は錯覚であったり、残光であったり、今のように光を通した瞼が見えているのであったりする。

「光は近いようで、とても遠い……見つめれば見つめるほど、遠くへ離れていきます。ほらっ」

「あ……」

 ほら、と言いながら軽く肩を叩く。びくん、と反応して身を竦ませる。

「追いかける……追いかけると、だんだん、意識がぼんやりしてくる……眠たいような、気持ちのいい状態……ほら、光がすぅーっと遠ざかる……どんどん、ぼーっとしていきますね……」

「ん……ぁ……」

 強張った身体が弛緩する。脱力暗示を入れていないのに、とても反応がいい。この分なら、かなり深く掛かることだろう。

「ぼんやりすると……力が抜ける。肩がだらーんと下がって……腕が重たい、重たい、お尻も、踵も、ずぶ、ずぶ、沈んでいくみたいに重い……私が3つ、数を数えると、力が抜けた身体は、重さに引っ張られて沈み始めます。温かいベッドに、ゆっくりと沈んでいくと、とても気持ちよくなりますよ……」

「……」

 ぴく、ぴく。暗示のリズムに合わせて、反りの強いまつ毛が揺れる。術者の言葉に反応して、瞼が痙攣している。これは声に深く集中し、言葉を無批判に受け入れる状態。リルはすでに催眠状態になっている。

「さあ、力が抜けて……3、2、1……ゼロ。重い、後ろに引っ張られるように沈む」

「ぅ、ぁ」

 びくん。一瞬だけ強張った身体が、すぐに弛緩し、小さく細い声が漏れた。完全に入っている。今のリルは、脳が蕩けるような深い快感を味わっているはず。

「ほら沈む、沈むと気持ちがいいですね……ずーんと沈む、深く、深く、引っ張られるように沈んでいく……」

 もう声はなく、ほぅ、と温かな吐息が漏れるのみだった。

 ――。

「私が3つ数えて指を鳴らすと……貴方はすっきりと目を覚ますことができます。ゆっくりと数えますから、安心して上がってくることができる……ひとつ……部屋の明るさが、じんわり目に染み込んでくる……ふたつ……風の音、部屋の匂い、布団の感触、気付かなかった感覚が戻ってくる……みっつ……ほら、頭がすっきりしてくる。すーっと晴れ渡る。とても、とても清々しい気分。もう、いつでも目覚められる……ほら!」

 ぱちん。

「ふわっ」

「はい、お疲れ様」

 びくん、と飛び起きるように跳ねたリルの肩に、優しく手を置く。

「えっ、え?」

「まずは、気持ちいい催眠状態を覚えてもらいました」

「あ……」

 呟くように言うと、目を細めて息を吐く。色っぽい仕草だ。

「気持ち、よかったです……」

「でしょ。ここから、リルさんの心を……操っていきます」

「あやつ、る……」

 うっとりと陶酔したように、復唱する。やっぱり色っぽい。

「リルさんはもう、この声を気持ちいい声として覚えてしまったから、こうして囁かれたら絶対に従ってしまう。絶対に言う通りになってしまいます」

「うそ……」

「本当ですよ。ほら、気持ちいいのを思い出しちゃったね。頭の後ろが、甘くふやけてしまう。ぐずぐずに蕩けて、沈み始めるよ……」

「ぁ、や」

「3、2、1……ゼロ。沈む、ずーんと沈む……」

「……」

 ――。

 ぱちん。

 そうして、何度か催眠に落としては覚醒させてを繰り返した後。

「あれ……」

「また落ちちゃったね」

「なんで……がまん、したんです……」

 落ちる前に我慢すると、気持ちいいのを長く感じてしまう。そして、気持ちよさに負けてしまう経験が、強く深く刻まれる。こうなってしまった彼女はもう、この快感には逆らえない。

「じゃあ、これからリルさんで遊んであげますけど、その前に……もっとはっきり目を覚ますことができます。頭がすっきりして、ぱっちり目が覚めるよ。またいつでも、あの気持ちいいところに帰ってくることができるから、安心して目を覚ますことができる……ひとつ、ふたつ、みっつ、ほら」

 ぱちん。

「! あ、本当です……」

「起きられたでしょ」

「はい。終わりですか……?」

 まさか。やっと準備ができたのに。一番楽しい所を味わわずに帰ってもらうなんて、勿体ない。

「これから遊んであげるって言いました」

「うあ……」

「それでなんですけど……どうしますか。エッチなのって、してあげた方がいいですか?」

 あえてこう聞いた。話していても、掛けていても、はっきりわかる。この子は、明らかに、性的な催眠をして欲しがっている。期待している。

 さすがに、いくら上手く催眠に落とすことができても、こんな右も左もわからない土地で初対面の女性にレイプ紛いの行為なんてできるわけがない。でも、本人がそれを強く望んでいるなら、してあげないのは失礼というものだ。催眠術師たるもの、そこは常にサービス精神を持っていなくてはならない。

 決して、エッチな反応をする彼女を弄びたいだけの言い訳ではない。決して。

「あー……そういうやつ、ですか」

「そういうやつです」

「お構いなく……して欲しくなったら、言いますので」

「……なるほど。わかりました」

 なるほど。

 ――言わせて欲しい、ということだった。

 それでは、どんな暗示で遊んであげようか……。

 

 

 

◆異世界侍女の催眠体験 その2

 ――。

 どれくらいこうしていたのでしょうか。今も、遠くに彼の声が聞こえます。とても気持ちのいい響きで、どれくらいこうしていたのだとしても、ずっとこうしていたいと思えます。

「とても穏やかで、気持ちがいいですね……もうしばらく、こうして幸せな時間を過ごすことができます」

 ぼんやりした意識の中で、ときどき、はっと我に返ろうとする瞬間があります。そう、私はリル。ミリセンティアさんの塔に配属された侍女で、招かれし人のお世話をしにここに来ているのです。大丈夫です、覚えています。

 ……本当でしょうか?

 また何かイタズラをされているのでは?

 一度あのようなことになった以上、自分が当然と思っていることも、もう何一つ信用できないのではないでしょうか。だって、彼がまた私に、何かそういう考えを植え付けているのかもわからないのです。

 心を弄ばれるというのは、思ったよりも恐ろしいことなのかもしれません。

「君はもうすっかり、この気持ちいい世界に馴染んでしまいました。意識していても、いなくても、こうして私が、低い声で……ゆっくり、ゆっくり話すと、ほら……心のドアをすっかり開いて、この気持ちいい状態になってしまう……」

「ぁ……」

 第一、私が彼のお世話をするのもよくわかりません。さてはこのあたり、何かおかしいのではないでしょうか。あれ? でも、ミリセンティアさんに頼まれたのだったような。いえ、それも彼が作った偽の記憶なのでは?

 考えてもわかりません。ぼんやりした思考はまとまりませんし、疲れてしまい、また、気持ちよく……。

「ここは……とても暗くて……深いところ。君の心の奥……誰にも見せることのない、大切なところです。今、そこに私の声が届いていますね……この声が聞こえたなら、『はい』と返事をすることができます。ほら」

「ぁ……はい……」

 他人のような自分の声が聞こえます。とても気持ちがよくて……ふにゃふにゃに蕩けた声でした。

「この声は、穏やかで、気持ちがよくて……心の深いところに響くと、とても幸せになります。ほら」

「はい……」

「また返事をすることができました。気持ちのいい声に従うと、もっと気持ちよくなれますね……言うとおりになるのは、気持ちいい。言うとおりになるのが幸せ、この声に従うと、気持ちいい……」

「ぁ、ん、ふ……♥」

 やはり、思ったよりも恐ろしいことが起きているようです。だって。こんなに気持ちいいこと、絶対に逆らうことなんてできません。どんな女だって、今の私が味わっている快感に浸れば、絶対、こうなってしまうと思います。

「やってみましょう。私が『ほら』と言うと……君は、声に従って返事をすることができました。そうすると、とっても気持ちよくなることができましたね……言うとおりになると、とても幸せ」

 これを聞いてはいけません。この声は危ない声です。さっき私は、何を安心していたんでしょうか?

「このことが、君の心に染み込んでいきます。絶対に取ることのできない、深い所に染み付いて……ずっと、ずっと残り続けます」

 そんなの、絶対、危ないと思います。きっと私は、一生、彼の声で気持ちよくされてしまうんです。そんなの、絶対……気持ちよくて、だめだと思うのです。

「このことがわかったら、返事をすることができますよ……」

 それがわかってしまったから、もう私は、だめなんですね。

「ほら」

「……はい……ぁ、ぅぁ、ぁぁぁ……」

 ゾクゾクします。体中が震えて、力の入らなかった足の先が、勝手にぴくぴく動くのです。気持ちよすぎて、こんなことは知りません。自慰をするときも、男の人に抱かれる時も、こんな風になったりはしないのですから。

「気持ちいい。言うとおりにできて幸せですね。気持ちいい、気持ちいい、腰の奥から、背筋を伝って、頭の中いっぱいに幸せ、幸せ……」

 だめです。そんな急に、畳み掛けるように早口で、そういうのは、ずるいのです。ずるいから、気持ちよくて。

「幸せになれたら、もう一回、返事をしましょう……ほら」

「ぁ、う、あ、ぉぉぉ、ぉ、ぉ、ふぁ、はいぃ……」

「真っ白、真っ白な光になって、広がる。幸せですね……さあ、幸せなまま深く、深く、もっと深く。心の奥へ沈みます……3、2、1……ゼロ」

「ぁ」

 ふつり。糸が切れた人形みたいに、私はまた静かに……穏やかに眠ってしまうのでした。

「ほら、染み込んでいく……言うとおりになることは、こんなに気持ちいい……幸せ……それは、貴方の心の一番深いところに届いて、普段見えないところに染み込んでしまいました」

 染み込んだ……深く……。言うとおりになるのが、幸せ……はい……知っています。とてもよく……わかりました……。

 眠っている私の上で、別の私が、彼の声を聴いているのがわかります。何を言っているのかわかりません。居眠りしている横で、お話をされているみたいな感じです。

「普段は見えないけど……深く染み付いたそれは、貴方を作り変えてしまいます。自分でもわからない、見えないところで……貴方の意識が覚えていなくても、心の奥で覚えています……」

 覚えて……います……。

 おぼえ……て……、何を……? わからない、です。眠たくて、何を、言われているのか。

「試してみましょう……心の深い、ふかーいところにある……この小さな染み……今日のこの出来事は、すべてこの中へ吸い込まれていきます。私に催眠をかけてもらったこと……とても気持ちよくなれたこと……私の言うとおりになってしまうこと……吸い込まれて、見えなくなっていきますね……」

「ん……」

「3つ数えると、今日の催眠のことは心の奥に吸い込まれ、思い出すことができなくなります……でも、この声に従うと気持ちいいことは、はっきり染み付いているから……私が君を、『リル』と呼び捨てにしてにして言ったことには、必ず従ってしまうよ」

「ぅ、ぁ……」

「命令にはどうしても従ってしまうし……言われた通りのことが起きてしまう……3つ数えると、貴方はこのことも忘れてしまいます……すっかり忘れて、とてもいい気持ちで目が覚めます。……でも、どれほどはっきり目覚めていても……私が君を『リル』と呼んだとき、言われたことは本当になる。……絶対にそうなる……ほら、ひとつ……ふたつ」

 えっと……呼び捨てに……されると……。

「みっつ、はいっ」

 ぱちん。

「あ」

 あれ?

「それで、リルさん?」

「あ、えっと、はい」

「催眠術を試そうって話だったけど」

 催眠術。そうだ、心を操ることができる、とかいう。

「ああ……はい。わかっています。言われた通り、ベッドに横になりました」

「うん。ありがとう……リル、君は身体を動かすことができない」

 え?

「っあ」

 びき、と音がしたみたいに感じました。脚が、腕が、固まってしまったのです。

「実はもう、君は僕の催眠術に掛かっているんだ。リル、口を動かして話すことができるよ。ただし、大きな声を出すことはできない」

「っ、は、はあっ、何ですか、これ……いつの間に、こんな」

 思い出そうとします。催眠術というものを試そうと申し出た私は、彼、招かれし人の言うままにベッドに、こう、仰向けになったのでした。そうして……少しの間、意識が飛んでいたような気がします。

「君の心はもう、僕のおもちゃだ。君は僕に操られ、逆らうことができない」

「嘘です」

「本当だよ。リル、笑って」

「え、あ……」

 そう言われると、私はにっこりと満面の笑みを浮かべます。何も楽しくなんてないのに。どうしてでしょう?

「もっとだ。リル、とても楽しい気持ちになってくる。声を出して笑ってしまうよ」

「えっ……ふ、ふふっ、あはははっ、くく、ふ、な、なんですかぁ、これっ、くふふふっ」

 何だか、とても楽しいのです。胸の奥から浮かれた気持ちが込み上げてくるのがわかります。しかし、どうして楽しいのかわからないのが、とても気味が悪くて、それがとても可笑しいのでした。

「笑うとこんなに可愛いんだなあ」

「ちょ、っと、ふふふふっ、何、言ってるんですかっ、あははははっ」

 笑いが止まらないのに、身体が動かなくて苦しい。

「リル、楽しい気持ちが消えてしまう。全部だ。笑いもなくなって静かになるよ」

「ふふふ……っ、……、何ですか、これ」

 薄気味が悪いです。心の底から嫌な気持ちになりました。

「操られる楽しさを知ってもらえたらと思って」

 癪ですが、彼の能力についてはわかりました。何もできないなんてとんでもないことでした。こんなことができるのなら、彼は価値ある神盟者となるはずです。喜ばしいことですが、腹立たしくもあります。

「ちっとも楽しくなどありません。招かれし人、もうわかりましたから、やめて下さい」

「え、嫌だけど」

「は?」

「もっと遊んであげたいし。リルさんはどうして欲しい? 手始めに、ミリちゃんじゃなくて僕に、一生の忠誠を誓ってみようか?」

「何てことを……!!」

 抵抗しなくてはいけません。身体は動きませんが、幸い、口を利くことはできます。私は魔術師ではありませんが、多少の心得ならあります。

「……炎。小さな灯。白昼に瞬ける星……風を裂く音……弾ける……それから……」

 イメージを深めます。魔術師ではない私には、ミリセンティアさんのような攻撃の魔術を扱うことはできません。取るに足らない自然現象を、ほんの一瞬、目の前に顕すくらいです。

「もしかして、魔法?」

 思い浮かべるのは小さな火花と音。彼が退散してくれればいいですし、ミリセンティアさんが近くにいるなら気付いてくれるかもしれません。目の前の一点に視線を注いで、想像を育てます。

 自然現象よりも現実らしく。それが本当に起こることを信じます。とても小さな小さな熱と光、そして音の爆発!

「リル。僕のことが大好きになる」

「……熱……あ、あれっ……あ、あぁ……」

 ぽひゅ。気の抜けた音がします。

 小さな熱が、私の目の前から消えて、ほっぺたに移ってしまいました。ごくりと唾を呑みます。胸。お腹。遅れて頭の中がかぁーっと熱くなります。

「リル、もっと好きになるよ。あらゆる愛が溢れてきて、もうどうすることもできない」

「や、これ、嘘……ですよ」

「そうだね、嘘かもしれない。でも、好きで好きでたまらなくなってしまうね」

 私は彼の方を見ません。騙されてはいけないからです。いえ違います。見たくてたまらないのです。世界で一番愛しい人。私は今、おかしな術で心を操られて、彼を愛してしまっています。そんなに素敵なことがあっていいのでしょうか。それは、私のすべてを彼が握っているということ。こんなに愛しい人に、すべてを、貰っていただけるなんて。

「あ、あ、あぁぁああああ……♥」

 ぼろぼろ涙が出てきます。愛しくて嬉しくて。本当はその顔を見たいのに、身体が動かないのが悔しくて。もし自由だったら、私は、どうしてしまっていたでしょうか。

「リルさんは、魔法を使えるんだね」

「はい……」

 声をかけていただけました。名を呼んでいただけました。そんなことがあっていいんでしょうか。

「すごい、初めて見た」

「!? あ、あは……ふひ、ふふふふ、そ、そんなことぉ……」

 褒め、褒めて、褒めていただけたのです。こんなふうになってしまっても仕方ありませんよね。褒めていただけたんですから。

「どういう仕組みなんだろう。教えてもらってもいいかな」

「は、はいっ、も、もちろん、えっと、えっと魔術というのは、ああ、ああ、もう、えっと」

 動けない身体がぶるぶる震える。もどかしい、もっと、もっとお役に立ちたいのに。

「あー、さすがにこれは不便か。リル、僕への愛情がもとに戻るよ。だけど、僕に敵意を持つことはできない」

「あぁ……」

 とても残念な言葉でした。この愛しい気持ちが……そう思ってすぐに、すっと熱が引いたような感じがして――。

「……あんな風になるものなんですね」

「なってたねえ。あ、リル。身体を動かすことができるよ」

 私は正気に戻ったのでした。

「はい。……不思議な気持ちです」

「どうして?」

「私を滅茶苦茶にしようとしている人とお話しているのに、全然嫌ではないのです」

 さっき、敵意を持つことができないと言われました。だからなのでしょう。そうして操られていること自体に、敵意や危機感を持つべきなのも、理性ではわかっているのです。

「まあ、別にそんな酷いことをするつもりはないよ」

「そうなんですか?」

「リル。今日の催眠をすべて思い出す。気持ちよかったことをすべて、ゆっくり思い出すんだ」

「あ……」

 ――。

「……やはり、すごい力だと思います」

 ゆっくり振り返って、改めて感心しています。私はずっと、彼の思うままに操られていたのでした。

「エッチなのした方が良かった?」

「それは……また今度お願いします。今日はずいぶん時間が経ってしまいましたから」

 外は薄暗くなり始めています。思い出した限りでは、かなりの時間、こうして催眠術をしていたはずでした。彼の言葉で記憶が飛んでいただけでなく、気持ちよくて、楽しくて、時を忘れていたのでしょう。

 この力を使って房事を行えばどうなってしまうのでしょうか。興味はあります。

「リル。本当の気持ちを話すんだ」

「あっずるい……してもらいたいです。エッチで気持ちいいことは私、好きなんです。最初からそれに興味があったのですよ」

「なるほどね。大丈夫、リルさんがそういう人だっていうのは、だいたいわかってたから」

 酷い。こんな辱めがありますか?

「でも本当に、今日でなくて大丈夫ですから。そろそろミリセンティアさんも戻るでしょうし」

「わかったよ。じゃあ明日ね」

 明日。この気持ちいい催眠術を使って、私は。

 ……それが楽しみでたまらないこの気持ちは、私自身のものなのでしょうか、彼が植え付けたものなのでしょうか。

◆魔術師になろう!

 リルに催眠を掛ける実験は、大成功と言えた。こうもきっちり掛かってくれると、こちらとしても楽しい。

 でも、ひやりとする場面もあった。

「リルさんさ、魔法を使おうとしていたよね」

 魔法で抵抗する。知らないから想定していなかった。結果的には問題無かったとはいえ、まずいことになっていた可能性はあった。気をつけよう。

「はい、魔術ですね。指先ほどの……小さな爆発で、音を立てようとしていました」

「それって、どうやるの?」

「……想像するんです。とても鮮明に、言葉にイメージを乗せながら」

「想像? それから?」

「大体、それだけです。思い浮かべたものが鮮明であれば――実際に、そうなります」

 思い浮かべるだけで、そうなる。……何か、それって。

「どういう原理でそうなるんだろう……」

「私よりも、ミリセンティアさんが詳しいです」

「そりゃそうか」

「ミリセンティアさんは魔術師として、優れた方です。私なんかのは、ただの見様見真似ですから」

 ミリちゃんは宮廷魔術師らしい。聞いている中では東西の塔に一人ずつしか居ないようだし、きっとすごい魔法使いなんだろう。ああ見えても。

「ミリちゃんとリルさんでは、何が違うの?」

「そうですね……想像力です。私のような普通の人間には、魔法を引き起こすほどの鮮明な想像は難しいんです」

 ふむ。

 ……いや、待てよ。それってやっぱり。

「鮮明に思い浮かべると、魔法は強くなる?」

「……そうですね。そう言われています」

「へぇー、そういうものなんだ。これは……」

 これは、面白くなってきたかもしれない。

「リルさん。明日だけど、ちょっと手伝ってくれるかな」

「はい? よくわかりませんが、大丈夫です」

「上手く行ったら、すごく気持ちよくしてあげるからね」

「知りませんけど……とにかく、また明日ですね」

 リルは身体を起こし、部屋の入口まで行くと、こちらを振り向いて一言。

「おやすみなさい、レシヒトさん」

「ん? あ、はい。おやすみ」

 ――。

 翌日。

 午前中、リルに時間を作ってもらって、気になっていた実験を済ませた。結果は、概ね成功。

「お待たせしました。分かったことというのは何でしょうか?」

 昼下がり、ミリちゃんに来てもらったのは王宮の裏手。例の地下室の入り口がある、広い庭だ。僕とリルは先に来て待っているところ。

「レシヒトさんの持っている、神盟者としての力のことです」

 そういうことにしてもらった。本当は単に、偶然催眠術を趣味にしていただけのことなんだけど。

「……昨日リルちゃんが言ってた、催眠術っていう?」

「はい。体験させて頂きましたが、すごい力なんですよ」

「えー……」

 ミリちゃんは眉間に皺を寄せて、リルの顔を覗き込んでいる。

「レシヒトさん。その件なんですけど」

「はい」

「リルから聞いた限りでは、その……心を操る、って」

「ええ、まあ」

 そう言ったし、そう伝えているというのも聞いている。

「で、リルはそれを体験したそうじゃないですか」

「させて頂きました」

「してもらいました」

「……変なことしてないですよね?」

 えーと、そんなには。

「……してないと思います」

「リルは?」

「して頂いていませんね、まだ」

「……じゃあ、レシヒトさんは変なことされませんでした?」

「どういうことですか」

 予想外の展開。

「この子、こう見えて手が速いところがあるから……」

「してもらってないですね、まだ」

「……やっぱりなんか二人とも、昨日と雰囲気違わないですか?」

「それより、昨日リルさんがちょっとだけ、魔術? を見せてくれたんですよ」

「はあ」

「本当にちょっとだけなのですが」

 リルが大した魔術を使えないことは、ミリちゃんも当然知っている。

「それでなんですけど、私の力はこの世界の魔術と関係があるかもしれないんです」

「魔術と?」

「それで、詳しい話を聞いたり、見せてもらったりできたら助かるなと」

 そういうわけで、この広い場所を選んだのであった。

 ――。

「……魔術は、想像を現実にもたらす、『魔法』という結果を導くための技術、とされています」

「ふむふむ。この国に、自然科学はないんですか?」

「もしかして私、馬鹿だと思われてますか?」

 ミリちゃんが怒った。魔法があるなら科学は蔑ろにされているのが定番だと思ったんだけど。

「いや、自分のいた世界では、科学が栄えていますが魔法というのは信じられていなくて」

「どういうことですか、それ?」

 どういうことですかと言ってもな。

「自然科学と魔法は切っても切れない関係にある、というのが……私達の常識です」

「そうなんだ」

「例えば魔法の結果、ここに石が現れたとします」

 ミリちゃんが、いつの間に取り出したのか小さな杖で、空中に円を描く。

「するとどうなります?」

「落ちるんじゃないですか」

「はい。その通りです」

 なるほど、それは確かに自然科学だし、そうなるんだろう。

「でも、自分らの常識では、空中に石は出てこないですよ」

「想像するんです。石の材質、表面の凹凸、匂い、密度、重さ。石の現れるとき、そこにあったはずの空気が押し出される流れまで。あらゆることを何もかも」

「リルさんは、そうすると本当になると言っていました」

「そうです。ご存じと思いますが、自然科学は精霊たちの営みによって成立している仕組みです」

「ご存じでないです」

「話の腰を折らないでくれませんか?」

「すみません」

 この世界ではそうなんだろう。よくわからないが。

「鮮明で深い想像と、それを紡ぐ言葉があったとき、精霊は、それを聞き入れるんです」

「ほう」

「普通の人が行う想像とはレベルが違う、現実よりも現実的な想像が、魔法となります。そのための技術を魔術というわけですよ」

 なるほど。だいたい午前中に実験して確かめたことと共通している。

 想像がより鮮明で真に迫ったものであれば、魔術はより強固になり、より強力な魔法を引き起こす。そこに間違いはない。それなら。

「ミリ……なんでしたっけ」

「ミリセンティアです」

「ミリちゃんの魔術も見せてくれませんか」

「……まあ、いいですけど」

 そう言うと、すう、と深呼吸をし、小さく呟き始めた。

「岩。地に眠る硬きもの。かつて赤熱せしもの。今は黒く冷たく。その剥片。鋭く。光る。太古の軌跡にて空を裂く」

 呪文というよりは、思い浮かべたものを一つ一つ説明しているような。ミリちゃんの杖の先で、光の粒が躍る。

「飛来せよ刃なる黒石(オブシディアン)」

 びゅお、と聞こえた。空気を切り裂く音とともに、掌大の黒曜石が放たれた。

 あまりの速さに目では追えなかったが、どさりという音とともに、遠くで庭木の枝が落ちるのが見えた。

「お見事です」

 リルが拍手をする。

「……ふう。こういうことができるわけですよ」

「飛んで行った石はどうなったんでしょうか」

「消えてしまいますよ。魔法といっても、生み出したものをずっと留めておくのは無理ですし」

「そうなんですか?」

「その間ずっと、私は石の刃を想像していなきゃいけないわけで……」

 なるほど、それは大変そうだ。

「飛ばすのはどうやってるんですか」

「この魔術では、火山の噴火……放たれる火山弾を想像するんです。強力な力で撃ち出されたことを石は覚えている、だから刃となってもまた、強力に撃ち出されることができる、って」

「想像しやすくするためですか」

 なるほど。そうした体系として、つまり想像のお手本のようなものが、魔術と呼ばれているということらしい。

「撃ち出してしまえば、それ以上は想像しなくてもいいですから。一度飛び出したものは、あとは自然科学によって飛び続けますよね?」

「慣性だ。なるほど、あとは運動エネルギー任せってことか」

「ええと。多分それで合っています」

「納得しました。勉強になる」

 こんなのを見せられると、元の世界でも実は精霊とか居たんじゃないかって気になるくらいだ。

「それで、私達の魔術とレシヒトさんの力の関係というのは」

「そうですね。やってみましょう」

「やってみる、って?」

「リル。『魔術師になろう』か」

「ぁ……」

 だらん。予めリルに組み込んでおいた暗示により、彼女の意識は暗闇に沈む。かろうじて二本の脚で立っているものの、肩から腕はだらりと下がり、瞳はどろりと半開き。口も小さく開いたまま、ゆっくり呼吸に合わせて動いている。

「え?」

「深い。深いところにいる。君は、この気持ちいい場所をよく知っている。もっと、もっと降りていくことができるよ……ゆら、ゆら、こうして揺すられると、どんどん、沈むように……降りる、深いところへ、降りていく……」

「ちょっと、何してるんですか……!?」

「見ていてください。……ほら、リル。貴方はこの深くて、とても、とても広いところを覚えていますね……ここでは、貴方は何でもできる。何でも想像することができる……」

「……まさか?」

 ミリちゃんが目を見張る。この子は、やっぱりとても頭がいいのだろう。自分とリルがやろうとしていることを、少ない情報から、だいたい読み当てているのではないだろうか。

 ――。

 魔術師になろう。そう言われると、意識が暗く染まりました。

 知っています。この感覚を、私は覚えているのです。

「花火というものがあります……赤、黄色、青、白、さまざまな色の炎。たくさんの金属が爆ぜる光。混ざり合って花のように、大きく、空を覆うほども大きく」

「ぁ……きれい……空に……」

 私の前には、今朝、レシヒトさんが教えてくれた『花火』がありました。

 それは空で爆ぜて、色とりどりの火花を散らし、尾を引き、弾けて、美しい花を咲かせるもの。とても、とても綺麗なものなのです。私は確かにそれを見ました。

「レシヒトさん、それは……そんな大きなものなんてさすがに、緻密に想像するのは」

「綺麗ですね……ほら、どんな色ですか。見えたまま口に出すことができますよ……」

「橙色……広がって、白、きらきら……すごい、きれい、あ、あお。あおがいっぱい。きれいで……」

「ではそれを、皆に見てもらいましょう」

「はい……上がりなさい、私の花火……」

 そう言いながら私は、両手を掲げました。

 ――。

 ぱぁん。

「うそ……」

 薄曇りの昼の空に、それでもはっきり見える花火が上がった。

 色とりどりの火花が爆ぜて、そして消える。呆然と見上げるミリちゃんと、陶然と見つめるリル。物音を聞きつけて、王宮の人たちも空を見上げる。

 ――おお。――魔術師殿だ。――これは一体。どよめく声が聞こえる。

 当然、彼らはミリちゃんがこれをやったと思っている。事前にリルに頼んで、魔術の実験をしているという話も通してあるのだ。

「きれいだけど、思ったより小さいかなあ。リル、座って。そう、眠りなさい」

「あ、ぅ……」

 すう、と眠りに落ちる。少し無理をさせてしまったかもしれない。

「ミリちゃんは、花火を見たことは?」

「ないですよ。レシヒトさんの世界にあるものですか?」

「まあそうです。魔法はありませんけど」

 ――今日実験していたのは、これ。 

 リルは、魔術がそれほど得意ではない。でも、催眠によって想像力を高めることで、魔術の力を高めることができる。結果は、見ての通り。

「魔術は、もたらす結果が大きく、複雑であるほど、難しくなるんですよ。普通、あんなもの想像することはできません。ましてや見たこともない、異世界のものを」

「できたよ?」

「それに、リルちゃんですよ? 彼女は魔術師じゃないです。私の方が、ずっと」

「知ってますよ。だから、見て欲しかったんです」

 もしかすると、自分がこの国に呼ばれたのはこのためなのかもしれない。

 この世界では、想像力がそのまま、魔法になる。だとすれば……。

「レシヒトさん」

「はい」

 だとすれば。

「その術、私にもできますか?」

「……いいんだったら、任せてください」

 ――催眠術師はある意味、最強かもしれないぞ。

<続く>

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