リアル術師の異世界催眠体験2

※この作品には一部フィクションが含まれています。

◆宮廷魔術師の催眠見学 その1

 ――。

 催眠術。そんなものは聞いたこともないけど、リルちゃんの見せた魔術は本物。あんなに大規模で精密な想像は、宮廷魔術師としてこの国で……この国で二番目の実力を持つ私でも、簡単にはできるものではない。

 “西の”方ならどうかと言うと、あの人にも無理に決まっている。むしろ得意分野で言えば私のほうが目がある……だけど、一晩であんなに仕上げるのはちょっと無理だと思う。

 そして、リルちゃん。彼女の使える魔術は――確かに、火焔や爆発は得意といえば得意分野なんだろうけど――小さな火球を弾けさせて、布や皮に穴を開けたり、弾ける音を立てたりする程度のものだけ。あんなことは当然できなかったはずだし、もしできるのであれば、他にも強力な魔術が扱えるだろう。

 つまり、レシヒトさん……彼は、リルちゃんを一夜にして魔術師にした。それも、私達宮廷魔術師に肩を並べるほどの。

 ――私は、そんなことをぐるぐる考えていた。

「ミリちゃん?」

「あっ。……えっと、すみません。少し、考え事をしていました」

 場所はレシヒトさんの部屋。窓の外を見れば、既に黄昏時が近い。思ったより時間が経っている。

「まあ、まずはそこの椅子にでもかけていてくださいよ」

「あ、はい」

 レシヒトさんに促され、椅子に座る部屋には彼が立っており、もう一人、リルちゃんがベッドに寝かされている。

 そう。例の“花火”の魔術を披露したあと、リルちゃんは庭の芝の上で眠りこけていて――私はその様子にも、結構びっくりしてしまったんだけど――彼女は、レシヒトさんの呼びかけで目を覚ますと、何事もなく部屋までついて来たのである。

 ありがたいことだった。私一人で彼の“催眠術”とかいうやつを受けるのは、流石に少し怖いわけだから。

 リルちゃんは、心を操られてしまうと言っていた。それって、つまり彼は私を、思い通りにできてしまうということだ。流石に多少話を盛っていると思うけど、警戒は必要。

 ここまでの印象では悪い人ではないはず。そもそも、神盟者召喚(ガチャ)では召喚者に敵意を持つ存在は招かれない。だけどやっぱり、男性だし、別の世界から来た人が何を考えているのかなんて、私には分からない。そもそも、他人に心を操られるなんて、相手が誰でも怖いものは怖いに決まっている。

「じゃあ、リルさんが居る場所でなら、やってみたいということですね」

「はい。正直、胡散臭いと思ってるんですが……あの魔術を見せられては、試さないわけにはいきません」

 催眠術によって心を操るということは、雑念を排除して集中力を強化させることも、想像力を高めることもできるということ。この理屈はすぐに理解することができた。では、もともと魔術が得意ではないリルちゃんがああなるなら……もともと魔術師である人に施したら、どうなるのだろう。

 つまり、私があれをしてもらったら……いったい、何ができるようになるのだろう。

 試さないなんてありえない。私には、もっと力が必要なんだ。

「じゃあ、さっそく始めますか?」

「いえ、待ってください。まずは、その催眠術をしているところを見せてくれませんか?」

 と言って、ベッドに寝ているリルちゃんに視線を送る。見た感じ、本当に寝ているようにしか見えないけど……。

 ――。

「では、そこで座って見ていてくださいね。それと、勝手に声を出したり立ったりしないように。いいですか?」

「わかってます」

 じっと視線を送る。なにせ、これから目の前で起こるのは、これから自分がされることなのだ。怪しいところがないかしっかり見ておかないと。

「じゃあ……リル、僕の声を聴きなさい。そう、この声は君の心の深いところへ、とても気持ちよく……じんわり染み込むように、響いていく。次に名前を呼ばれたとき、声が聞こえているなら、静かに返事をすることができますよ」

「……」

 レシヒトさんの声色が変わった。いつもの軽い感じではなく、声を低く、呼吸のリズムを測るような呼びかけ方。椅子に座って横で聞いているだけで、私もつい聞き入ってしまう。

「リル。返事をしなさい」

「……ぁ……は、い……」

 まるで夢でも見ているような、眠たげな声でリルちゃんは答えた。とても、気持ちよさそう。

「言うとおりに返事ができて、とても幸せです。ほら、思い出しましたね……言うとおりになると、幸せ……もう一度、返事をさせてあげましょう。リル、幸せですね」

「は、い、幸せ……です……ぁ、あぁぁ……」

 リルちゃんはかすれた吐息を漏らしながら、うっとりと喜びに浸っていた。やっぱり、これはエッチなやつではないだろうか。どう考えても!

 私は静かに警戒を強めた。レシヒトさんがどういう人なのか、しっかり見極めさせてもらわなくてはいけない。リルちゃんが気持ちよくなっている様子を、しっかり全部見てあげなくては。

「リルは今、とても気持ちいい状態です。ふわ、ふわ……浮かんで、ゆら、ゆら……漂っているような、とても穏やかで、気持ちがいい状態。君はこの状態がとても、とても好きでした。リル、この気持ちいい状態が好きですね」

「はい、ぃ……すきぃ……です……♥」

「……」

 リルちゃんが感じているのは、どう考えても性的な快感です。見ているこっちまで、こう、むずむずと……あんな、気持ちよさそうにして。ううう、こんなことが許されていいはずがない。

「では、もっと深く、気持ちのいいところへ落ちていきましょう。私が数を3つ……3つ数えると、君の意識は暗くて、深くて、気持ちのいい……心の奥の、もっと深いところへ、落ちていきます。3……頭の中が真っ暗になる……2、身体の感覚が遠のいて……1、繋ぎ止めていた糸が、切れる」

「ぁ」

「ゼロ。……落ちる。深く、深く、前よりも深く、もっと、もっと気持ちよく、どこまでも落ちていく……気持ちいい……」

「……ふ……ぁ」

 静かな吐息だけを漏らして、リルちゃんはもう動かない。

 見た目の変化はない。でも、見ているだけでわかる。あれは、とても気持ちいい。頭の中が空っぽになったみたいになって、全部、彼に委ねてしまう。どれほどダメだと思っても、全く抵抗できずに、気持ちいい感覚に塗り潰されるんだ。あれは、本当に気持ちよくて、一度でも味わえばもう戻れない。

「うぅう……」

 ……だから、本当に、気持ちよさそうで。こんなこと、許されてはいけない。

「心の深いところで、声が聞こえますね。耳ではなく、心の中、とても大事なところに直接聞こえる……とても気持ちのいい声。貴方は、この声の言うとおりになります。言うとおりになることが幸せ……安心しますね」

「……ぁ」

「ぅ……」

 じっと見つめる。リルちゃんの胸が、彼の言葉に合わせて上下する。呼吸を合わせて、声を受け入れている。彼の声は、私の中にも響いてくるみたいで。こうしてしっかりリルちゃんを見ていないと、私まで気持ちよくなってしまいそうで。

「リルは、この声の言うとおりになる。必ずそうなる……そして、自分では何もわからない。頭は空っぽで、何も考えることができない……」

 こうして彼が『リル』と呼んでくれたときは、なんとか、私に向けられた言葉ではないとわかる。逆に、そうしてくれないと、私は。私も。

 ……もしかして、もう、操られている?

「ぁ、あ」

 ぞくっ。

 寒気がした、と思った。一瞬遅れて気付いた。背筋を駆け上ってきたのは、寒気がするほどの、快感。

 ぎゅっ、と膝と膝を押し付け、身体を前に丸め、顔だけはリルちゃんに向けて、見つめる。二人が、とても気持ちいいことをしているのを見る。

「ぁぁ、ぁ、うぁ、あ」

 ぞわぞわぞわぞわ。

 震えが止まらない。怖い。怖いし、気持ちいい。気持ちよくなっているのが怖い。

「静かにしてくださいね」

「あっ、く、っふ……あ、はい」

 目の前が白く光ったと思うと、我に返った。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫……続けてください」

 そう、この行為を見届けなくては。レシヒトさんが、リルちゃんに催眠術を掛けているのを。だって、次は私の番なんだから。

「では……リル、君は自分を人間だと思っていました。魔術師ミリセンティアに仕える使用人として働いている。そんなふうに思い込んでいましたね……」

「ぁ……」

 思い込むも何も、リルちゃんは私の侍女なんですが。何を言い出すのか。

「私が教えた通りに……催眠でそう思わされていました。リル、君に掛けた催眠暗示を解いてあげましょう」

 はあ?

「ほら……人間としての記憶が、ぱらぱら、糸がほつれるように、わからなくなっていきます。本当の自分に戻れるのが、嬉しいですね……」

「ぁ……」

 催眠に掛けられた状態で、あれほど自信満々に言われたら……確かに、信じてしまうのかもしれない。それがどれほど荒唐無稽であっても。リルちゃんは、『言うとおりになってしまう』のだろう。

「ほどけた糸を、私がひとつひとつ、元の通りに撚り合わせてあげますね……君は、確かにこの塔に住んでいました……でも君は、人間ではありませんでした……君の主人は、ミリセンティアさんでしたね……」

 正しい記憶の間に、めちゃくちゃな嘘が挟まっている。こんなのはずるいと思う。

「君はそう、猫でしたね。かわいらしい猫。雌の猫でした。毎日この塔を我が物顔で、ひょこひょこ、散歩していたのでした……」

「ぅん……ぅゃ」

 ごろり、とリルちゃんが寝返りを打つ。見ると、両手と両足を横に向けていた。ちょうど、横倒しになって寝ている猫みたいに。

「飼い主のミリセンティアさんのことが、君は大好きでした……彼女の布団に潜り込むと、とても温かかったですね……今もとてもいい気持ち……自然に、甘えた鳴き声が出てしまうかもしれません。……ほら」

「……ゃお。ぅやぁぉ」

 気持ちよさそうに首を回し、布団の上でもぞもぞ動いている。本当に猫みたい。こんなことがあるだろうか?

「自分がどうしていたか、はっきり思い出していきます。猫だったころ、どんな風に歩いていたでしょうか……ひょこ、ひょこ、前足を繰り出して、お尻を高く、尻尾を誇らしげに見せて、気分良く散歩していたのでしたね……3つ、私が3つ数を数えると、猫のころの振る舞いをあなたは鮮明に思い出すことができます。身も心もすっかり猫に戻り、何もおかしいとは思わなくなりますよ……ほら、3……、2……、1」

「ふぅぅ……んゃう」

「ゼロ」

「ぅにゃぁぉ」

 ひときわ長く鳴いて、布団で丸くなってしまった。まるで、構われるのを疎ましがっているときの猫みたいに。

「もとの姿を思い出すことができて、幸せです。幸せ……とても幸せ。リル、君は賢い猫ですから、私の言葉をちゃんと理解することができます……」

「んみゃぅ」

「幸せで、とっても気分がいいですね。ほら、いい気持ち……こんなときは、散歩もいいですが、飼い主に撫でてもらうのがお気に入りでした。飼い主を探しましょう」

「は?」

 思わず声が出た。この場合、それって私ですよね?

「……私が3つ数を数えると、貴方はこの心地よい昼寝から目を覚ますことができます。目を覚ませば、きっと……この部屋にいる、あなたの主人を見つけることができますよ……」

「んぅぅ……ふぅぅ、ぅゃあ」

「でも……リルはよく躾けられた猫ですから、ご主人の前で、飛び跳ねたりはしませんね……可愛がってもらうために、いい子にしていましょう……ほら、ひとつ、ふたつ……みっつ。はい」

 ぱちん。

「ぅぁぅ」

 レシヒトさんが指を鳴らすと、びくんと跳ねて、リルが起き上がった。四つん這いで。

「ミリちゃん、可愛がってあげてください」

「えっ。えええええええええ……?」

 ひょこ。慎重に手を前に出し、ベッドから器用に下りる。そして両手を……手というか前足というか、それを揃えてぺたんと座り、得意そうにこちらを見た。

 可愛い。くりくり丸く見開いた、普段とは違う目つき。とても猫っぽい。

「呼んだら来ますよ」

「えー……じゃ、じゃあ。リル、おいで」

「にゃぅ」

 ひょこひょこ。リルちゃんが走って、私の座っているところまでやってくる。ありもしない尻尾を揺らしながら。なんだこれ。なんだこれ?

「んにゃぁ……んふぅぅ」

 私の脚に頬ずりするリルちゃん。助けて欲しい。レシヒトさんの方に目をやっても、にやにや笑って見ているだけ。なんだこの人。

「わかりましたよ……!」

「にゃぁん……♪」

 とりあえず、リルちゃんを可愛がってあげることに決めた。実際、可愛いのだし。

 

 

 

◆宮廷魔術師の催眠見学 その2

 すりすり。リルちゃんは私の脚に頬擦りするのをやめる気配はない。

「……なぁぉ」

 あ、こら。靴の匂いを嗅いじゃだめだって。

「リル。君は人懐こい猫だから、ご主人様に撫でられると嬉しいですね……特に顎の下や、耳の裏、背中から尻尾の付け根あたりがたまらないよね」

「……えー」

 つまり、そういうのをしてやれってことですよね、これ。いいけどさあ。

「ほら、ミリちゃん。待ってるでしょ」

「わ、わかってますし!?」

 しかし、どうもこれは倒錯的でよろしくない。普段リルちゃんはもっと凛々しくて、スンと立っている感じなのに、それがこんな、猫みたいに。猫だったわ。猫でしたねそうでした!

「うう……こう? なでなで、なでなで~」

 とりあえず頭。それから耳へ。

「んんぅ~ん、ふゃ~ぁぉ」

 くそう、可愛いじゃないか。くねくねしおってからに。

「ううう……なでなで、なでなで……」

「ご主人様の手は、とても気持ちよくて……腰から甘く、幸せが込み上げてきます……」

 この人はこの人で余計なことしか言わないし。どうして私は猫になった侍女を撫でてあやしているんですか? 魔術師を志したとて、人生にこんな場面は必要なかったのでは?

「ほら、顎もくすぐって欲しいよね……」

「ふぅう……ごろごろ……」

 前足(手だけど)を揃えて首を上げて、キラキラした目つきで見上げて、『してしてー!』と訴えてくる。可愛いのだが、何ていうか、ものすごくイケナイことをしているような気持ち。

「はいはい、やりますよやります。ほらほら、ごろごろ~」

「ごろごろ……♪」

 喉に唾液を溜めて、くるると唸る音を立てている。本当に猫っぽい。

「次は腰を触ってもらいましょう、ほら、尻尾を上げておねだりしようね」

「んゃぅ……ふうぅ~ん」

 身体の向きを変え、こちらにお尻を向けてくる。前に丸まって、腰を高く上げるものだから、スカートが思い切りずり下がって、その、丸見えである。駄目では?

 リルちゃんは気付いていないのか、全く気に留める様子もない。仕方ないので、こそっと手で直してあげることにした。

「尻尾の上のところが大好きですよね……ご主人様にしてもらいましょうね……」

「あの、そこって……」

 結構、際どいような気が……するんですけど……。

「いいから」

「……このへん?」

 さすさす。

「ふなぁぁぁお」

 うわ、甘ったるい声。

「もう少し下ですね」

「……こう?」

 さわさわ。

「ふゃぁん、ふ、ふくぅぅぅ……んみゃぁあ……♥」

「その辺ですね。もっと強くしてあげてください」

「こんな、感じ……?」

 ぐりぐり。

「きゅふ、ふ、ふぅぅぅぅ、くふぅぅぅぅぅっ」

 ぎゅうっと縮こまって耐えている。苦しいのでは?

「続けてあげてください」

「ええええ」

 ぐりぐり……。

「ふぁ、ふ、ひゅん、ふみゃぅぅぅぅぅん♪」

 腰、くねくねしとるが……。大丈夫なの、この子。

「トントン叩いてあげるのもいいですよ」

「……」

 無言でやってみる。とん、とん、とん。

「ひゃっ、きゅふ、にゃ、にゃぁん♪」

「気持ちいいですね、すごーく気持ちいい」

「あの、これって……」

 どう考えても……アレでしょう。

 とん、とん、とん、とん。

 叩くたびに、びくんびくん腰が跳ねて……縮こまった頭や前足は、ひっきりなしに震えて……。

「にゃ、にゃ、にゃぁう、ん、んみゃ、ふゃあぁぁあぁぁお……♥」

 ほら、足先まで痙攣するみたいに、びくびくして……。

「うううう……」

 ……イってる。リルちゃんが、性的に、感じて、イってる。私の手で。

「――リル。気持ちいいまま、深く、深く落ちていくよ……幸せ……」

 いつの間にかレシヒトさんが歩いてきて、リルちゃんの身体を支えていた。

 ……普通に考えて、あんな風に気持ちよくなったばかりの女の子に対して、男性に、手を触れさせたらダメだと思うんだけど……止めには、入れなかった。

 ――私も、リルちゃんと同じくらい、震えていたから。

「ミリちゃん。次はそのまま座って見ていてくださいね」

「……はあ」

 まだ何かするのか。というかやっぱりミリちゃんって呼んでるけど……この人、さっき催眠掛けながら、私のこと『飼い主のミリセンティアさん』って言ってた気がするんですけど。本当はちゃんと覚えてますよねこれ?

 やはり私、馬鹿にされているのでは?

「リル。これから私が、また数を3つ数えます。すると……猫の君は、そのままゆっくり体を起こすことができる。ぼんやり、ふわふわ、気持ちのいい催眠状態のまま……四本の脚で、ベッドの上まで戻ることができますよ……ひとつ、ふたつ……みっつ。ほら」

 ぱちん、と音がすると、しゃなり、しゃなり、四つん這いでリルちゃんはベッドに戻っていった。

「気持ちがいい……温かいところで、丸くなると、気持ちいいですね……そのまま、落ちていく。ふかーく……ふかーく落ちる……」

「……ゃぅ……んんふ……ぅん……」

 本当に、気持ちよさそうである。私もあんな風にされてしまうのだろうか?

 そんなの、さすがに怖いけど……やっぱり、気持ちいいのかな。どれくらい……?

「深いところ……心の奥の、深いところに落ちる……身体の力が抜けて……それでもまだ、腰の奥が甘く、蕩けていますね……ご主人様に、気持ちよくしてもらったことを覚えています……」

「……むー……」

 まんまと加担させられてしまった。こんなことは許されない!

「こんなに気持ちよくなってしまうのには、理由がありました。リル……あなたは今、発情期なのです。暖かい陽気に誘われて、あなたの身体は強く……雄を求めているのでした」

「んゃあ」

「……」

 マジ? みたいな顔でレシヒトさんを見てみるけど、こちらには一瞥もなし。この男本当に何なんだ。

「そう、あなたは発情した雌猫です……盛りがついて、どうにも落ち着くことができません。何をしていてもソワソワして、腰のあたりがムズムズしますね……今も、ゆっくり休むことができません。ほら……」

「ゃぁう……うゃぁぁぁあぉぅ……」

 さすがに、これには文句を……。

「……」

 ……いや、言えない。何をしでかすかわからないのだから。その代わりにちゃんと見る。彼に何ができるのか、私達に何をするつもりなのかを見ておくのだ。

「散歩をしていても、甘えた声で鳴いて雄を引き付けてしまいます……貴方はもう、いつでも仔猫が産める雌なのです。それを雄に伝えてしまう……誘ってしまいますね……」

「んんふぅ……んみゃぁああぁぁぁぁぉぅ……んゃあぁぁあぁぁぅ……」

 なんて媚びた声。あんなの、人間の雄だって喜んで犯しに来るでしょう。リルちゃんはそんな声出しちゃ駄目だ。

「そうしていると……ほら、窓のところに雄猫が現れました。あなたはそれを待ちわびていたので……見るまでもなくそれとわかります。気配、体温、匂い、すべてが好ましいですね……」

「んゃぅ……みゃぁぉぅ……んみゃぁぁぁあああぅ……♥」

 リルちゃんはもぞもぞ動いて、体勢を変えようとしている。何かと思えば、雄猫がいるという窓の方に、お尻を向けたがっているんだ。なんてエッチなことを。こんなのは許されない。

「ほら、貴方の鳴き声に興味を持った雄猫は、軽い身のこなしで部屋へ降り立ちました。真っ黒な毛並みの、とても格好いい雄です。貴方は本能のまま、彼を迎え入れることができます。貴方の発情した身体は、何も考えることはできません。ただ、魅力的な雄に性器を向けて、彼の興味を引くのです……さあ、動くことができますよ……ほおら」

 ぱん。手を叩く音がした。一瞬遅れて、ばたんと何かを蹴る音。リルちゃんがベッドを蹴り上げて、太腿をぴっちり閉じたまま、お尻をこちらへ向けて四つん這いになったのだ。

 上半身は低く潰れ、尻だけを突き出すあの姿勢。この部屋のベッドは壁に面しているから、顔を壁に押し付けるように、ベッドの上で尻を掲げた格好である。

「は、はーっ……にゃふ、んぁあぁう、んふぁあああぅ……♥」

 ふー、ふーと、興奮しきった息遣いがここまで聞こえてくる。それに合わせてお尻もゆさゆさ揺れている。丸見えも丸見え。下着の色がべっとり変わっているのもはっきり見えている。こんなの許されるわけがない。なんだこれ。

「雄猫はあなたを見つけました。とても魅力的な雌を見つけて、周辺を警戒しながら近寄ってきます。ほら、近づいてくるのを感じられる。彼の熱が、離れていてもわかりますね……」

 言うまでもないが、実際に雄猫なんか居ない。でも、そんなことはリルちゃんにはわからないのだろう。あ、そうか。四つん這いだからそもそも見えていないんだ。そのためにこういう姿勢にさせているのだろうか。何なんだこの男。

「近づいた熱が少し離れて……周りを見回っているようですね。早く、早く交尾して欲しいですね……リル、貴方の魅力をもっと伝えてあげましょう」

「ふぅぅぅぅっ……! ふしゅ、ふしゅぅ……ん、ん、んにゃぁあぁああぅ、んにゃぁおう、にゃうぅん♥」

 くい、くい、腰をしゃくって、ゆさ、ゆさ、お尻を振って、何だこれ、エッチすぎる。絶対許されないやつだ。

 でも、リルちゃん、本当に気持ちよさそうで……本当にして欲しそうで、早く、してあげて。可哀想だから。気持ちよくしてあげて欲しい。そんな風に、思えてくる。

「彼が近づいてきましたよ……貴方の右側から身体を寄せて……首筋を舐めてくれます。たっぷりと唾液を含んだ舌が触れる……ほらっ」

「ふにゃぁぁあぁああぅ……にゃぁああ……♪」

 ……今の、またイってたんじゃないだろうか。それくらい嬉しそうに、びくんって。

「猫の交尾では、雄が雌の首筋を軽く噛んで、大人しくさせます。それをされると、盛りで気が立っていた雌も、すぐ従順になって……彼と交尾するために、身体を差し出してしまうそうですね」

 なんだそれ。エッチすぎないか?

「ほら、彼の口が大きく開いて、貴方の首に……かぷっ」

「くふゃぁあぁあああぅ……ふにゃぉぉぉぉぅ……♥」

 そんなのされたら、駄目になるに決まってるでしょう。すっごく幸せそうで、なんていうか、ここまでくると……その。

 ……ずるい。と思った。きっと、そんな風に思わされているのが一番、ずるいんだ。

 

 

 

◆宮廷魔術師の催眠見学 その3と

「リル。雄猫は貴方に覆いかぶさって来ました。彼の……雄猫のペニスが、貴方の腿の間からぬるりと滑り込んできます。とても一生懸命な彼の様子から、彼は貴方と交尾がしたくてたまらないのがわかりますね……貴方はとても嬉しくなってしまいます。ほら、ぬる、ぬる、彼の動きが、とっても嬉しい……」

「はぅ、はぅぅん、ふにゃあ、にゃ、にゃおぅ……」

 くねくねと腰を揺すって、ありもしない雄猫の性器を受け入れようとしている。スカートがばさばさ揺れて、なんというかここまで、リルちゃんの体臭が匂ってくる。甘いような酸っぱいような香り。大変けしからんことだ。

 こんなエッチな光景を見ながら、男の人であるレシヒトさんは冷静に見える。むしろ私の方がドキドキしてしまっているのではないか。なんなんだこの男。

「さあ、貴方の発情したおまんこが、彼の先端にぴたりと当たったのがわかります。このまま押し込めば、すんなり入ってきそうですね……貴方が腰を後ろに突き出すだけで、ほら……」

「にゃ……んっ、ふにゃぁあああ……っあぁあああん♥」

 リルちゃんはお尻を後ろへ突き出し、両手で壁を引っ掻いて……顔からベッドに沈んだ。ぶるぶる震えている。どう見てもイってる。ずっと。ずっと気持ちよくなっているんだアレは。一体どれだけ?

 ぎゅっ、と押し付けていた膝に力が籠る。こうして力を籠めると、私も少しだけ、気持ちいい。そして、それ以上に……。

 こうして圧迫して、隠していないと、多分、我慢できない。

「覆いかぶさった雄猫が、貴方と繋がったまま……ほら、また首を噛んでくれますよ。口が近づいて……かぷっ」

「にゃぅぅぅぅん」

 ぶるぶる、がくがく、震えっぱなしで、それでもお尻を下げない。ずっと気持ちよくなりたがっているんだ。リルちゃんは、それほど気持ちよくなっていて……そして、もっと気持ちよくなろうとしている。そんなの、駄目なのに。ずるいのに。

「猫のペニスは……硬い棘のような毛が生えていて、簡単には抜けません。抜こうとすると、貴方の中をぞりぞり、引っ掻いて、血が出るほど痛いそうですが……発情した雌猫は、それが、気持ちよくて仕方がないんです。貴方もほら、彼に、ぞり……って、して欲しくなってきます……」

「ふにゃ……にゃぁう、にゃうぅぅん……♥」

 リルちゃんは、腰をゆさゆさ左右に揺すっている。少しでもその、ぞりっ、を感じようとしているんだ。絶対痛いでしょうそんなの。そんなので気持ちよくなって、いいわけがないのに。

「貴方は完全に、雄猫を受け入れて、発情してしまっていますね……もう、貴方は痛いと思うことすら、できなくなってしまいました。どんなに痛いことをされても……気持ちよくなってしまうんです……」

「ふっ、ふーっ、くふっ、くふぅぅん」

 痛いのが、気持ちいい。そんなの間違っている。絶対おかしいのに。みんなそう言っていたのに。あの人も言っていたのに。

 そんなのずるい。

「さあ、私が三つ数えると、彼は腰を引いてくれます。貴方の発情したおまんこを、思う存分……ぞりぞりって、擦ってくれるんですよ……ほら、楽しみですね……3……、2、1……ほらっ」

「っひ、ぎ」

「ずるぅ……抜ける、ぞりぞり擦れる、優しく触れるだけで気持ちいい場所が、痛いほど引っ掻かれて……発情しきったところが、最高に、気持ちよくされる。ゆっくり、ゆっくり感じる。最高に気持ちいいですね……」

「っくひゅ……っにゃ、ふぁああぁあぁぁぁあぁぁぁあああん……♥」

「っふ、あ……ん、んんんんんっ……」

 きもち、いい……。おまんこ、ぐりっ、て、えぐるの……すき……。

「でも、リル。貴方の発情はちっとも、収まりませんね……まだまだ、足りないですね……」

「ひっ、ふ、くふ、ふひ、にゃぅ、にゃぁあおう」

 嘘だ。リルちゃんは、あんなに気持ちよさそうに、壁にしがみつくみたいに、ぶるぶる震えて、とんでもなく深くイってるじゃないか。私より、ずっとずっと、ずーっと気持ちよさそうで、ずるくて。それで。

 私も、気持ちよかったけど、こんなのじゃ、全然で。

「猫の発情は……卵子、雌のお腹で、仔猫のもとになるために作られるもの……それをしっかり吐き出さないと、収まらないそうですよ……ほら、リル。君は、今、とても仔猫を産みたい……雄猫の仔を孕みたい。それしか考えられない……どうしようもなく、発情してしまっている……」

「にゃぅ、ぅゃぁああう、はふ、うにゃぁああああぉう」

 この人、やけに動物の生態に詳しくないですか? 何なのこの男。

「発情を治めるためには……君のおまんこの一番奥、仔猫の部屋を直接、彼の棘で……ごりっ、と、してもらわなくてはいけません。そうして、そこに子種を浴びせてもらえば……貴方は深く、深く満足することができます……」

「っ、ふっ、ふぅー、ふしゅ、しゅ、しーっ、しゅ、ふしゅる、っにゃう、にゃう、にゃぁぁあう」

 興奮している。リルちゃんは、そんな痛そうで……気持ちよさそうなことをされるの? されたがっているの?

 奥って何だろう。そんなのは無理だ。だって。

 ――私の指じゃ届かないじゃない。

「さあ、彼のペニスがまた奥へ、入ろうとしています……迎えてあげましょう。リル、腰を高く上げて……ほらっ」

「ぉごっ、く、ひっ」

 ぴーんと身体を硬直させて、手をばたばた動かし、壁をかりかり掻いて、震えている。何それ。私はそんな風になったことはない。なれたことがない。

 第一、あれは痛いんでしょう。痛いのに、あんなに感じているわけですよ。そんなのは絶対、ずるいのではないでしょうか。宮廷魔術師として許しておくことはできません。

 こんなの、こんなの絶対駄目で。絶対。ずるくて。

「彼の棘が、さっき引っ掻いた部分をざりざり、撫でていく……身体がばらばらになるくらい、気持ちいいですね……そして……一番奥、出っ張りを押しのけるように、ぐ、っと当たります……ほらっ」

「ふー、ふー、くひゅー、っ、にゃ、ぅぅにゃ、きゅふ、ぅゃああぁあぁぁぁああ……♥」

「っ、あ、あ、あっ、や、やぁ、やだ、やだぁ……やぁああ……」

 できないこと、言わないで。いやだ。気持ちいいのに。

「そうして引き抜くと……一番奥も、さっきのところも、全部……ごりっ、てしてもらえます……そうすると、リル。貴方は深く……深く満足して……気持ちよく眠ることができますよ……」

「にゃふ、はふ、はひゅぅ」

「3つ数えてあげますから……ほら、3……2、1……ごりっ」

「っおご、ふ、ひゅっ」

「ぞりぞりぞり……全部、全部、擦れて、痛くて、気持ちいい……」

「ふゃあぁあぁぁあぁあぁん……♥」

 リルちゃんは、ついにお尻を下げて……べちゃ、とベッドに倒れこんだ。とても気持ちよさそうで……本当に幸せそうで……。

「――さて、お待たせしました。ミリちゃん」

「っ、えぐ、くふ、ううう、ううううう、ううううううー!!」

 私は、股間に潜り込ませた手を隠すこともできず、泣いていたのだった。外はすっかり昏くなって……冷えた空気が殊更、悲しくて堪らなかった。

 ――。

 時刻はまだ昼下がり。ミリちゃんに花火を見せた後、リルを起こして、割り当てられた自室まで三人でやってきた。

「ええと、まずは催眠術というものについて質問に答えてもらいます」

「はあ、何なりと」

 結論から言えば、ミリちゃんに催眠への興味を持ってもらうのは大成功。リルがああして大掛かりな魔術を扱うことができたとあれば、もともと魔術師であるミリちゃんに同じように施術した場合、どれほど強力な魔法使いになることか。それは正直自分にもわからないし、興味もある。

 でもそれ以上に、ミリちゃんに催眠を掛けるきっかけが欲しいとも、思っていたのだ。

「最初に確認です。リルちゃ……リルがあんな魔術を使えるようになったのは、貴方の使う催眠術によるものなんですよね」

「そうです。ね、リルさん」

「……私一人では、あんなことはできません。自分でも、まだ信じられないくらいです」

 そこに関しては、当然ミリちゃんもわかっている。これは本当に、ただの確認だ。

「では……その原理です。催眠術は、人の心を操ることができると言いました。それで魔術を強力にするというのは、想像の力を強めることができるということですか?」

「ほぼ正解。人間は、集中しようと思っても限界がある。でも催眠を使うことで、普通ではありえない集中した意識……トランスに導くことができる。この世界の魔法の原理を聞いて、これが役に立つと思ったんですよ」

「なるほど……確かに筋が通っていますね……うん」

「頭の中、脳と言ってわかりますか」

「馬鹿にしてるんですか?」

 いや、本当にわからないんだよ。文明レベルとかそういうのが。

「……ああ、そういえば。自然科学がどの程度知られているのか、わかっていないと言ってましたね」

「そうです」

「大丈夫。脳とは人間の頭の中にあって、知的活動を司る器官です。宮廷魔術師たる者、これくらいは知っています」

「良かったです。で、その脳には、普段使っていない部分がたくさんあるんです」

「そうなんですね」

 一連の話をしている間、リルは退屈そうにベッドに座り始めた。この子、結構性格の太いところがあるよな……。

「なるほど。催眠を使うと、それら眠っている部分を引き出すことが?」

「その通りです。さすが魔術師様だ」

「ふふん」

 この子、結構性格のちょろいところがあるよな。

「だいぶ分かってきました。それで次の質問ですけど」

「はい」

 ……ミリちゃんの声のトーンが少し変わった。思わず姿勢を正してしまう。

「トランスと言いましたね。私がその状態になると、より強力な魔法を引き起こすことができるかもしれない」

「ええ。私も興味が湧いたんです」

「しかし、リルの様子は明らかに普通ではありませんでした」

「そりゃまあ、そういうものですから」

「なるほど。……えー、もし仮に、私がそのようになったとしたらですよ。そうしたら、私は貴方の言いなりになっちゃうんでしょうか」

 まあ、そこだよな。気になるとすれば。

「トランスの深度にもよるでしょうけど」

「深度。それが深いと、操られてしまうということですよね。リルのそれは、深かったのでしょうか」

「ええまあ、それなりには」

 警戒されてるなあ。無理もないか。

「その深度、浅く留めたとすれば、きっと魔術の補助としても期待できないんですよね」

「でしょうねえ」

「……強力な魔術師になりたければ、貴方の操り人形になれ、と?」

 そこまでは言ってないつもりだったけど、そういうことになるかもしれない。

 ――まあ、でも。

「何か誤解があるようなのでお伝えしますけど」

「何ですか」

「催眠では、相手が嫌がることなんて、中々できませんよ」

「……操る、という言葉からはずいぶん離れているようですが」

 思った通り、最初の印象よりもずいぶん賢い女の子だ。だから、いい。最高に、いい。

「催眠は相手との信頼関係があってこそです。相手にしてもらうことを信じて、すべて委ねることができないと、深い催眠は実現しない」

「はあ。リルと貴方にそれがあったと?」

 ぎく。

「あったんですよ」

「……それ、操りながら、嫌がらないようにさせたってことじゃないんですか?」

「賢いなあ!?」

「な、なんですか!?」

「いえ、びっくりしたので、つい」

 本当に賢い。思ったより更に賢い。

「ま、まあ、これでも宮廷魔術師ですからね。ふふ。魔術は想像力が命ですから、頭の回転は速くなくてはいけません」

 そして、性格がちょろい。

「そうですね。ところで、質問には答えましたけど、試すのはやめておきますか?」

「まさか。ただ、私が嫌だと感じたらすぐに止めてもらいます。妙なことはしないでください」

「……それだけで?」

「いえ。私が嫌だと感じないようにされてしまうかもしれないんですよね」

「そう思われているようで」

「リルを、ちゃんと起こしてあげて。それで、見張らせておいてください」

「……それで安心できるんです?」

 自分からしてみたら、リルはどうにでもなる。たっぷり催眠に浸かってもらったから、大人しくさせておくこともできるだろうけど……それ以上に、この子、催眠が好きすぎる。仲間が増えるって喜んで協力してくれたのだし。

「背に腹は代えられないってことです。リル、お願いしますね」

「はい。ちゃんと見てますから、安心して気持ちよくなってくださいね」

「……本当に、お願いしますね?」

 ――そう、ミリちゃんはとても賢い。だから、まだ伝えていない。

 賢くて、想像力が豊かな人物……。

 そういう人ほど、催眠に掛かりやすく……そして、比較にならないほど深く、掛かることができるってことを。

 だから、この子は、最高なのだ。最高に賢く、そして、可愛い。

「ではリルさん、そっちの椅子のほうに。ミリちゃんにベッドを使わせてあげて」

「……なるほど、リルちゃんのあの様子だと、倒れて怪我でもしたら大変ってことですか」

「まあ……そういうことです」

 こうして……まだ日も高い昼下がり。

 ミリちゃんへの“最初の催眠”が始まったのであった。

 

 

 

◆宮廷魔術師の催眠見学 その0

「じゃあ、リルさん。悪いけどそこで見ていてくださいね」

 リルを椅子に座らせ、自分はベッドに腰掛ける。ベッドの中央に背を向けるような形だ。

「いいですが、約束は忘れないで欲しいです」

 約束? 何だっけ。まあ、いいだろう。既に忘れているものを忘れることはできないってことで。

 ……実は、午前中に、リルにはすでに話してある。

 僕は、ミリちゃんを――催眠で、操るつもりだ。それも、リルにしたようなレベルではなく。

 そのために、リルには協力してもらっている。

 何故かと言ったら……まあ、一目惚れだろうか。

 彼女は自分にとって、理想だったのだ。

 ミリちゃんには悪いけど――彼女の意思を尊重する気は、これっぽっちも、無い。

「リルちゃんが言うには、リラックスして気持ちいいって話でしたが」

 ベッドに横たわっているのはミリちゃんだ。こうして同じベッドに寝かせると分かるけど、リルとは結構身長差がある。ミリちゃんはやや小柄だ。

「ええ、そうですよ。まずはその仰向けに寝た姿勢のまま……手足をだらんと伸ばして、そう。天井が見えますか?」

「見えます」

 天井は石でできており、均質ではない。

「では、天井をぼんやり……見つめていましょう」

「うん……」

 ぼんやり見ているその視線を追う。右や左に揺れている。どこを見ていいかわからないのだろう。

「見ていると……石の模様まではっきりわかる。ひびが入っていたり、色が違っていたり……」

 目の動きがゆっくりになった。何かしら気になるものを見つけたらしい。

「気になるところが見つかったら、そこをじーっと見つめることができる……ぼんやりしたまま……じーっと見つめると……だんだん、ぼやけて見えてきますね……」

「……あ……」

 目が細められる。うっすら吐息が漏れた。催眠を掛けるときは、こうした細かい反応をよく観察して、対象がどれくらい暗示を受け入れる状態にあるかを読み取っていく。

 ……まあ、この子に関しては……。

「見つめていると……だんだん、上へと動いていく。ほら、目で追ってごらん」

 顔の前に手を出して、天井を指差して見せる。それを少しずつ上に、というかミリちゃんの頭の方に動かしていく。

「ぁ……」

 うん。やっぱりもう半分くらい掛かっているよな、これ。

「ゆっくり……動いていく。ほら、もうすぐ、見えなくなってしまうね……」

 こうして視線を動かすと、眼球がどんどん上向きになっていく。

「ぁ、ぁ……ぅぁ」

 この状態は目がとても疲れるし、目を閉じようとしなくても、やがて白目を剥いてしまい――。

「ほら、もう見えない。何も見えない。真っ暗、真っ暗になる」

 ――当然、自然に瞼が閉じる。

「……ぉ、ぉぁ」

 びくん。肩のあたりが跳ねた。

 ここで視界が真っ暗になるのは、人間の身体の構造上当たり前の反応だけど……ミリちゃんからすれば、僕の言葉に逆らえずに、身体が勝手に従っているように感じたことだろう。そういう瞬間が一番、暗示を入れやすい。

「身体の力がすっかり抜けて……貴方は真っ暗な、とても気持ちのいい場所へと降りていくことができますよ……」

「ぁ、ぁ……」

 肩がぐったり沈む。瞼がひくひく痙攣している。突然畳み掛けられる指示を、思わず受け入れてしまう状態。直前に、思いがけなく術者の言いなりになってしまったことで、彼女はとても無防備になっている。

「ゆっくり……ゆっくり、降りていく……貴方は、この状態をとても好ましく思っていますね……そう、意識が解放されていく……貴方の脳が、頭の中が……広く、広く、どこまでも広がっていく。心地よい風が吹き込んでくる……」

「ぁ、ぁぁ……」

 ふにゃ、と表情が緩んだのがわかる。完全に受け入れている。

 もともと、ミリちゃんには催眠に掛かることのメリットを提示してある。強力な魔術が使えること。それはミリちゃんにとっては……悪く言ってしまえば、最高の餌であり……そして、自分から催眠にかかるための最高の言い訳になるのだ。

「貴方はこの気持ちいい状態を覚えます……頭の中がすっきりして、空っぽで……何も考えられない。いくらでも、想像を描くことのできる……空っぽ、空っぽの状態……それは、とても気持ちいい……」

「……ぁ……」

 ミリちゃんは、気持ちよくなるために催眠に掛かっているのではない。より立派な魔術師になるためだ。だから抵抗しない。だから協力する。だから気持ちよくなってもいい。

 そういう風になるように、仕向けたのだから。

「貴方はとても……賢い人ですね。だからほら、頭の中がこんなに、広く……ひろーく……どんなものでも入れられるように、広げられます……」

「ふふ……」

「私の言葉を……素直に聞いて……よく理解して……、深く、深く受け入れることが……貴方には、できますね……」

 そう。ここが実は本当に大事なのだ。

 催眠に掛かるためには、賢くなくてはいけない。何となく、バカが掛かるもの、みたいな印象があるかもしれないが、それは大きな間違いだ。

 極端な話、術師の話している言葉の意味が理解できていなかったら、暗示は入らない。当たり前だが事実だ。

 そして、自分がいくら言葉を尽くして説明しても、それを心に思い描く想像力がなくては……催眠に掛かること、つまり……それを信じ込むことも、できない。

 だから、催眠に掛かるためには、賢くなくてはいけないのだ。術師の語る言葉を、砂が水を吸い取るように、無抵抗に受け入れるためには……術師の語る言葉を、術師と同じように、あるいはそれ以上に正確に理解し、精確に想像できることが必要だ。これは絶対的な事実。

 いくら自分が天才催眠術師であろうと、バカには催眠を掛けられない。

「貴方はとても、賢い人ですから……私の言葉がよく理解できる。よーく理解できます……とても心地よく受け入れることができますよ……」

「ふふ……」

 まあこの、催眠状態になっているくせに賢いと言われてニヤけているところは、ちょっとアホっぽいと言わざるを得ないところはあるが。可愛いのは間違いない。

「私が、10から0まで数を数えます……数が小さくなるほど、貴方は深い催眠状態になることができる……深い催眠状態では、貴方は今の心地よさをより深く感じることができますよ……」

「……」

 声にはならない。それでも小さく……温かい息が漏れていた。心から期待しているのだ。これから落ちていく、初めての深い催眠状態に。それにより至るかもしれない、彼女の新しい境地と……もしかしたら、それにより得てしまうであろう、未知の快感に。

 あえて悪いように言うとすれば……周到に餌は撒いたのだから、思う存分楽しませてもらおう。

 ――。

 催眠術師にも、悩みはあった。

 まず、誰でも彼でも、催眠に掛かりやすいというわけではない。催眠に掛かるためには……素直で、賢くて、そして自分を信頼してくれる相手が居なくてはならない。

 この世界に来る前の自分とて、そういう相手に恵まれ続けたわけではないのだった。

 はっきり言って、催眠を掛けさせてもらえるなら……相手がちゃんと催眠に掛かれるのであれば、自分のことを好きになってもらうなんて、容易いことだろう。

 そりゃ、催眠でお手軽な洗脳なんてできない、相手が嫌がることはできない、と言っているけど。普通に考えて、これだけ気持ちいいことをしてもらって好きにならなかったらどうかしている。

 催眠に掛かるだけの信頼関係があるなら、あとは簡単な話だ。催眠で恋愛感情を植え付けることもできるが、そんなことをする必要なんてない。催眠をいっぱい掛けてあげれば、勝手に好きになってくれるに決まっている。催眠とはそれくらい気持ちよくて、抗いがたいものだ。

 だが、それだけ催眠に掛かれる賢い異性が、自分を信頼してくれる機会というのは、それほど多くはない。

 仲良くなれた相手が居ても、いまいち掛かりが良くなくて、楽しんでもらえなかったり、深く掛かれそうな相手がいても、立場上親密になることが難しかったり。

 これでなかなか、深い催眠を楽しめる女の子に巡り合うというのは、そう簡単なことではない。

 催眠術師になるような人間は、他人に催眠状態になってもらって、気持ちよくなってもらうのが何より好きという人間ばかりだ。自分も例外ではない。ずっと、最高のパートナーを探しているのだ。

 ……そこで、ミリちゃんである。

 彼女はとても賢い。そして可愛らしい。リルも素晴らしい女性だと思うが、彼女はまだ催眠に掛かっていても、一歩引いた意識が残っているように思う。

 ミリちゃんはきっと、もっと深い世界を楽しめる女性だ。これは運命だ、と思う。

「ミリちゃん」

「ぁ、ふ……」

 そんなことを考えながら、ミリちゃんは何度も……何度も、催眠に落とされては、起こされる、単純な繰り返しの深化を受け続けていた。馬鹿にしたものではない。これ、本当に気持ちいいし……これだけで、どうしようもないくらい、催眠が深まっていくのだ。

「起きた?」

「ふぁい……あぇ? 私……」

「だめだよ。ほら、また気持ちよくなる……頭が重く……重くなるね」

「ふあ、あ、ゃあ、それやぁああ。ぁめ、だぁめ」

 かれこれ7回目か、8回目か。もはや呂律が回っていない。それだけ、気持ちいいんだろう。

 ――それだけ、これが好きになってしまうに違いない。

「そうだねー……だめ、……だめだねー……我慢してもだめ……さあ、だめになっちゃおう。3……2……1……ゼロ」

「ぉ、ぅぁ」

 ミリちゃんはびくんと震え、容易く深い催眠へ落ちていく。カウントの数字も、初めは10からだったが、徐々に減らしている。それだけ簡単に落とせるようになっているということだ。

 そろそろ畳みかけて、気持ちよさを刻み込んであげるタイミングである。

「深く……ふかーく落ちる……何も引っかかるもののない、長い、長い、真っ暗なところを落ちていく……大丈夫、ここはどこまで落ちても……貴方の心の奥。安心……安心して、気持ちよくなることができますね……」

「……」

 小さく、ひゅ、と息が漏れたのがわかった。

「……ここは、深い、深い心の底……ここに落ちてくるのはとても気持ちいい……だから、貴方は何度でも……ここに戻ってきたい。何度でも……戻ってきてしまいます……」

「……」

 彼女は今、これまでで一番深い催眠状態になっている。彼女自身の意思はもう、一切介入できないくらい、深いところに……暗示が刷り込まれていく。そのたびに、瞼が、足先が、ぴく、ぴく、小さく痙攣する。

「ここはとても、気持ちいい……貴方は深く……深く落ちてしまったから、貴方の意識は眠っています。……これから、深い催眠状態のまま、貴方の意識を返してあげましょう。意識が返ってきても……身体は完全に力が抜けて……頭も空っぽで……何もできませんね。ただ……この最高に気持ちいい場所を、あなたの意識すべてで、感じることができます……」

「……」

「それは、人間が味わってはいけない快感……心を、魂を溶かされる、最高の喜びです……一度でも味わえば、決して忘れることはできません。忘れても……この、心の深いところに、刻まれてしまうのです」

「……ひどいことしてますね」

 ぽつり、とリルが呟いた。リルには悪いけど、集中してすっかり気にしていなかった。

 第一、自分ばかりひどいと言われるのは納得がいかない。リルだって共犯者だ。そうなるように仕立てたのは自分だけど。

「さあ、私が3つ……3つ数を数えたら、あなたはこの、一番深い催眠の世界で、何もできないまま……意識だけを取り戻します。それは人生を覆すほどの快楽で……あなたは絶対にそれが好きになります……どんな人間も拒むことはできない、禁断の法悦を味わってしまいます……」

 ミリちゃんに対しては、何一つ加減するつもりはなかった。こうして催眠を掛けながらも、必死に自分を抑えている。抑えているのは、つまらない欲に駆られて、台無しにしてしまわないように。

「ほら……貴方の意識を返しますよ。ひとつ……ほら、音が聞こえる……ふたつ……光を感じる……みっつ、身体の感覚が……戻る! はいっ」

 ぱちん。

 指を鳴らすと、まるで魚のように、ミリちゃんの身体が跳ねた。

「ぃ、ぎッ」

 額に汗が浮かぶ。腰をがくがく揺すっている。とてつもない快楽を瞬時に感じたに違いない。大丈夫。

「っひあっ、お、おっ、おォオ? お、おふ、ひっ、くフ……」

「ほら、力が抜ける……ここは君の心の中。安心して……力が抜ける……すぅーっと抜ける……楽に、らくーになる……」

「ぁ……ふぁ……」

「楽になると……身体を強張らせることはなくなります……力を抜いたまま、最高の快楽に浸ることができる……ほら、目を閉じて……浸る……」

「ん……んんふぅ……」

 感じ方は穏やかになった。だけど、得られる快感は……こっちの方が、上だと思う。

「川の流れを堰き止めれば……激しい水害が起こるように……強すぎる快感には、抵抗してはいけませんね……川。大きな川……貴方は大きな川のように、膨大な快感の流れを、ただ、受け入れることができる……川のように、すべてを感じられるようになる。ほら……」

 そう言って、ミリちゃんのお腹……へその下あたりに、掌を置いてやる。

「ぉ、ぁ……ふあ、ふああ、あ、あ、あ、あああああ……」

 一瞬ぴくんと反応したけど、すぐに力を抜いて、くにゃくにゃに蕩けていく。

「気持ちいいまま……川。大きな川として……感じる……普通の人間が、一生かけて感じる気持ちよさは……今のあなたを、一秒で流れていきます。大きな川……たくさんの快感が一度に、流れていく……」

「ぁ、……ぁ」

 一瞬間があって、理解したように、口をぽっかり空けて、気持ちよさそうに呼吸をするだけになる。

「普通の人間の、一生分……愛に満たされたセックスの、何百回分……そんな快楽が……一秒で、貴方の中を通っていく。ほら、いーち……にーい……」

「あ、あー……ぁ。あ、あは、あ」

「もっとも深い催眠状態では……貴方は、こんなに……気持ちよくなれる……」

「ぃ、ひ、っ、え、えへ、えへへへ……♥」

「……」

 そこはかとなく、リルの抗議の視線を感じる。これはあれだろう、ミリちゃんにひどいことをしていることよりも、これをリルがしてもらえていないことを怒っているのではないか。

「さあ……また、意識を眠らせてしまいます……意識が遠のいても……貴方の心と身体は、この場所で……気持ちよくなっていますから、安心して……3、2……1、ゼロ」

「……ぅ、ん」

「この気持ちよさは……人間には大きすぎますから、この深いところに、しまっておくことができます。……貴方は普段、思い出すことができません……」

 少し落ち着いたのか、寝息のように穏やかなリズムで呼吸している。唇や瞼の動きからは、眠ったわけではないことが見て取れるので、安心して続けることにする。

「しかし……この深いところに落ちると、この快感を味わうことができる……そのことは、貴方の心の奥に、深く刻まれています。思い出せなくても……ずっと、覚えています」

「ぁ……」

「だから、何度でも……ここに、戻ってくる。私の催眠で、何度でも……落として欲しく、なってしまいます……」

 ぴくん。

 暗示に反応して、身体が少しだけ、跳ねたのがわかる。

 ごめんね、ミリちゃん。

「刻み込む。深く、深く刻み込む。何があっても消えない……君は僕の催眠で、何よりも気持ちよくなることができる……」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、っぁ」

「思い出せない深いところ、深く、深く、君は覚えてしまう。気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい、この催眠がきもちいい、好き、好きになる。ほら、ほら、ほら……はい、すうーっと吸い込まれる……」

「ぅ、っく、ぁ……あ。あ、あぁあ……」

「気持ちいい……絶対に逆らえない快感。君は……絶対に、逃げられなくなってしまいました……それが、ほら、嬉しいね。とても嬉しい……」

「ぁ、あは……あはぁあ」

「頭の中がぐちゃぐちゃで……溶けて……深く……沈む……」

 ごめんね。

 君だけは……絶対に、逃がさないって決めたから。

「……全部、深いところにしまいこんで……今は、忘れてしまう。忘れる……」

「んぅ……」

「3つ数えたら……静かな、静かな……眠りの中へ、沈む」

 大丈夫。

 絶対に……君が、逃げたいって思わないようになるまで……。

「3、2……」

「ん、っ」

「1」

 好きになって、もらうからね。

「ゼロ」

「ぁ」

 ――。

 

 

 

◆異世界侍女の催眠見学 その1

 私は、ミリセンティアさんの侍女です。聖王陛下から与えられた職務ということになっています。

 ですので……彼女に良からぬことがあるとすれば、立場上、私は止めなくてはならないのです。

「深く……落ちていきます。貴方の意識は眠りにつき……この、とっても気持ちいい……深い、心の奥底で……直接、この声を聴くことができますね……」

「……」

 なるほど、と思いました。私も昨日、そして今日、あのように催眠術に掛けていただいたので、少し分かるようになったことがあります。

 あのように催眠状態になっていると、レシヒトさんの言葉は不思議な気持ちよさとともに、全身に染み渡るように響いてきます。しかし、何を言われているかはわかりましたし、嫌だと思ったら、きっといつでも目を覚まして拒絶することもできるのでしょう。なにせとても気持ちがいいので、春の朝、ベッドから飛び起きるくらいの強い意志が必要だと思いますが……。

 私はあの時、特に抵抗できませんでした。まあ、気持ちいいですし、そこまで嫌ではなかったというのが大きいです。

 ……思えば、そこで抵抗しなかったのがきっと間違いだったのですが。

「眠っている……だから、この声が何を言っているのか……まったく分かりません。でも、貴方の心は理解しています……この気持ちのいい声を、ただ受け入れることができます……」

「……ぁ……」

 ミリセンティアさんの意識が眠りについているのであれば、彼の言葉を妨害する者はいません。彼の暗示がミリセンティアさんにとって、どれほど困ったものであったとしても……全く止められることなく、彼女の心へ届いてしまうということですね。

 ――つまり、とても良からぬことが行われようとしています。

 午前中の打ち合わせ通りであれば、もうすぐでしょうか。

「とてもいい気持ちです……この声は、貴方の心に染み込んで……この深い催眠状態が、貴方にとってとても素敵な状態であることを教えてくれます……」

「……」

 ……とても気持ちよさそうです。羨ましい、と思います。

「宮廷魔術師としての、賢いあなたの理性は……あなたの意識は、眠っています……ここにあるのは、とても素直な、貴方の気持ち。剥き出しの心だけ……それは赤くて、柔らかくて、とても傷つきやすいから……普段は、絶対に表に出てくることのない、とても……素直な心です……」

「ぁ……」

「今から貴方は……その素直な心のままで、目を覚ますことができます。柔らかい心のままで……目を覚ますことができる。ありのままの貴方で、私達とお話できます……それは、とても楽しくて、素敵なことですね……」

 手筈通りに進んでいるようです。そう、私達、と言いました。レシヒトさんと、私、です。

「3つ……私が3つ、数を数えて……合図をします。そうしたら、普段の貴方の意識は眠ったまま……今この声を聴いている、素直な……貴方の心が、目を覚ましますよ……ひとつ……ふたつ、みっつ。はい」

 ぱちん。

「……あ……」

 ミリセンティアさんの瞳がゆっくり動いて……すぐ、くりんと真ん丸に開いた。

「こんにちは」

「あー、レシヒトさんだあ」

「そうですよ。君はミリセンティアさん?」

「わたしミリちゃんだよ」

「そっか、ミリちゃんか。ミリちゃんは可愛いねえ」

「えへ、えへえへ。可愛いかな。えへへへ」

 ……。

 ――とても良からぬことが行われています。

「それじゃあリルさん。ミリちゃんとお話してあげて」

「はい」

「リルちゃんだー」

「そうだねー、リルちゃんだねー」

「おはなし、してー……♪」

 ミリセンティアさん……いえ。ミリちゃんはとてもご機嫌そうです。こんな風になってしまうのですね……。

 私は椅子を立ち、ベッドに腰かけます。レシヒトさんは椅子に座りました。ちょうど私と彼の位置が入れ替わった形です。これから私が、ミリセンティアさんと……いいえ、ミリちゃんと、お話するのです。

 

「……ミリちゃん。私の話をよく聞いて、答えることができますよ」

「うん……リルちゃんの言うこと聞けるもん……」

「いい子です……ミリちゃんはいい子ですね……」

「えへへへ」

 ああ、なんて可愛いんでしょうか。

「ミリちゃんは、催眠に掛かっています。催眠に掛かるのは気持ちよかったですか?」

「うん……きもちよかった……」

「では、催眠に掛けてもらうのは、好き……ですか?」

「すきだもん」

 即答でした。まあそれはそうです。こんなに気持ちいいことが嫌いな人などいません。

「じゃあ、レシヒトさんのことは?」

「すき!」

「どうしてでしょうか」

「えっと、声がきもちいい……きもちいいのすき……」

 その気持ちはよくわかります。

「貴方はミリちゃんですね。とっても素直な気持ちで答えてくれるんです」

「ミリちゃんだよ」

「レシヒトさんのことは好きなんですね」

「すき」

「でも……ミリセンティアさんには、交際している男性がいらっしゃいましたよね」

「あ、そうなの?」

 そう。私が心配しているのはここである。ミリセンティアさんには既に、お付き合いしている男性がいるのです。

 それは……聖王騎士団の副団長、アルス様。

 そんなことも知らずに熱烈に催眠術を掛けていた方がいたようですが、構わずに話を進めます。

「わかんない」

「アルス様はご存じでないですか」

「アルスしゃん? 知ってる。なあに?」

 ……どうしてこんな、幼児めいた状態になってしまったんでしょう。レシヒトさんは、特にそんな暗示を入れていた様子はありません。ただ、素直な心が剥き出しになる、という話でした。

 すると……ミリセンティアさんの素直な心というのは、このような純粋な少女なのでしょうか。

 確かに、宮廷魔術師たらんと気を張っているとは思いましたけども。思った以上に無理をしていたのかもしれないです。

「ミリちゃんがレシヒトさんと仲良くなったら、アルス様は悲しまれるかもしれません」

「えー!? やだ、やだよ? なんで?」

「なんででしょう」

「僕に言われましても」

 アルス様は高潔な騎士様です。だからこそミリセンティアさんが他の男性にこんな姿を見せることは、絶対に喜ばれないということはわかっているのです。でも、なんでと言われると少し困りました。

「ミリちゃんはレシヒトさんの催眠で気持ちよくなりましたね」

「なった!」

「アルス様は、ミリちゃんが他の男の人と気持ちよくなると、悲しいんです」

「やだやだ! 気持ちいいのする!」

 ミリセンティアさんがこんなことを他の男性の前で言ったとなれば、騎士であるアルス様の誇りはズタズタでしょう。やはり問題です。

「困りましたね」

「僕に言われましても……」

 午前中に、ミリセンティアさんに交際されている男性がいることは私から話したのです。彼の答えは『NTRは後がややこしいから嫌だなあ』でした。意味がわかりません。

 あとはもう、ミリセンティアさんの意見を聞くしかないですね。

「ミリちゃん。アルス様とレシヒトさんのどっちが好きですか」

「レシヒトしゃん」

「よし」

 またしても即答でした。そして、何も『よし』ではありません。

「どうしてですか?」

「レシヒトしゃんはきもちいいけど、アルスしゃんはきもちよくないもん……」

「というと」

「痛いししんどいしやだ。会ったらエッチするって言うし。やだ。やだやだやだやだ」

「あー」「あー」

 思わず納得です。思ってたのと違う感じになってしまいました。

「レシヒトさん」

「何?」

「そういうことなら私はもう大丈夫です。ミリセンティアさんをよろしくお願いします」

「いやいやいやいや」

 いいんです。そこの相性が悪い相手と付き合うべきではないと思います。レシヒトさんが気持ちいいのは私が一番よくわかっているので、安心できます。

「彼氏さんどうするの」

「私が何とかしますので」

 もともと、二人の仲は良いとは言えなかったのです。私としても気を病んでいました。この際、二人には別れてもらうべきです。

「何とかって……?」

「ご心配はいりません。殺しはしませんから」

「当たり前だし余計に心配だよ」

 どうするかは何も決めていないのですが、何とかなるでしょう。

 ――彼だって、別にミリセンティアさんでなくたって良かったんでしょうから。

「えーっと、その彼氏さんって、何かクソ野郎だったりするの?」

「いえ全く。本当に高潔な騎士様です」

「アルスしゃんはかっこいいよ」

「むしろレシヒトさんがクソ野郎にふさわしい所業をしておいでかと」

「返す言葉もありません」

「このことが彼に知られた日には、騎士の誇りを傷つけたレシヒトさんは殺されてしまいます」

「そんなあ」

「やだ!? 死んじゃやだよ?」

 ミリセンティアさんも話に入ってきました。とてもややこしくなります。困りますね。

「ですので、内緒にしましょうね」

「ないしょ」

「内緒でお願いします」

 もともとそう頻繁に会われているわけでもありません。わざわざ言わなければ発覚しないと思います。それに、レシヒトさんは私やミリセンティアさんにセックスをしているわけでもありません。彼の催眠術がどれほど気持ちよくて、相手を好きになってしまうものであるか……アルス様も皆さんも知らないのですから、問題はないでしょう。

 この秘密は、私達の間で守っていればいいのです。

「レシヒトさん、ミリちゃんを寝かしつけてあげてください」

「ん。わかった」

 彼がベッドの隣まで来ます。私は、ミリセンティアさんの額に手を置いて、撫でてあげることにしました。

「ほら、ミリちゃん。なでなで……」

「ぁ……」

「リルさんに撫でられていると、とっても落ち着きますね……すごく気持ちいい……ミリちゃんの意識はまだ眠ったまま……心を表に出すのは、少し疲れてしまいますね……だから、休みましょう」

「ん……ぅ……ぁ」

「とろーり……溶けていく。心が溶けていく……ぽた、ぽた、滴り落ちて……一番、深いところに、溜まって……いく……ぽた、ぽた……」

「……」

 実に見事な手際でした。私が勝手に撫で始めていたのを、そのまま使ってミリちゃんを……ミリセンティアさんを気持ちよくさせています。やっぱり、この人がいいと思います。絶対。

「落ちていく……ほら、3……、2、1……ゼロ」

「ぁ」

 すうっと瞼が閉じたのを、掌の下で感じました。

 ――。

◆異世界侍女の催眠見学 その2

「彼氏さんの話だけど、結局どうしたらいいだろう」

「まあ、大丈夫ですので。気にしないで思う存分ヤっちゃっていいです」

 少し惜しいですが、ミリセンティアさんになら、彼を分けてあげてもいいです。

「いいんだ……」

「はい。むしろ、絶対にミリセンティアさんを落としてくださいね」

「なんで?」

 そんなの、わかりきっています。

「気持ちよくなっているミリセンティアさんは、世界で一番可愛いからです」

「わかる」

「わかるでしょう」

「だけど……真面目な話、どうして協力してくれるの? リルちゃんの掛かり方なら、頑張れば抵抗できたかもしれないよ?」

「できるんでしょうか。もう、そのつもりはありませんでしたが」

「そこなんだよな。どうしてそんなに協力的なのかと」

「……そうですね。こちらの、とっても可愛いご主人様の幸せを願っているから、です」

 レシヒトさんはクソ野郎ですが、誰よりも私達を幸せにすることができます。

「気持ちよくなれると幸せってこと?」

「いけませんか?」

「……いや。素敵な考え方だと思う。これからもよろしくお願いね、リル」

「ええ。……私にもしてくれるなら、いくらでもお手伝いします」

 彼がミリセンティアさんだけに構うようになって、私が気持ちいいことをしてもらえなくなってしまうのだけは……ちょっと、嫌です。

「……リルさんは、ミリちゃんの気持ちを聞いてから考えるって言ってたよね」

「ええ。聞きましたので、先程決めましたよね。ミリセンティアさんは、レシヒトさんを選んだ方が幸せです」

「とんでもない子だなあ」

「それに、ほら。レシヒトさんなら、気持ちいいことだけでなく……宮廷魔術師としてのミリセンティアさんの助けにもなれます」

「……まあ、ね」

 あの力を、ミリセンティアさんが使ったら……私のときよりもきっと、ずっとすごいことができます。

「それでは、本番ですね」

「あれ? 何かあったっけ?」

「約束です、忘れたとは言わせません」

 私はずっと覚えていたんですよ。ずっと。

「昨日です。魔術の実験が上手くいったら、すごく気持ちよくしてくれるって言いました」

「……言ったかも」

「今日は上手くいきましたね」

「いったかも」

「だから私の番です。早くしましょう」

 昨日の夜なんて、それが楽しみで楽しみで、ずっと自分で、身体を。こう、何度もですね。だめですね、恥ずかしいです。

 午前中、『花火』を教えてもらったときだって、本当は早く、して欲しかったのですよ。

「わかった、じゃあ……ミリちゃんに見てもらうのは、どうかな?」

「ミリセンティアさんにですか? ちょっと、恥ずかしいですが……」

「親しい人が催眠に掛かっている姿を見ると、自分も安心して掛かれるようになるから」

「ああ……確かにそうかもしれません。むしろ、見ていて羨ましくなってしまいます」

 そういうことなら、これも協力の一環です。恥ずかしいですけど、いいと思いました。

「……じゃあ、ミリちゃんはこっちの椅子に来てもらおう。ミリちゃん……気持ちよーくなったまま……この声を聴くことができる……僕がまた、3つ数を数えると……君は目を覚ます。目を覚ますけど……意識も、心も、眠ったまま……空っぽのミリちゃんが目を覚ます……」

「……」

「空っぽの頭では、何も考えられない……ただ、この声に言われるままに動く、お人形さん……お人形さんとして、目を覚まします……ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ。はいっ」

 あ、それ、えっちだと思います。今度、絶対……してもらいましょう。

 ぱん。

「……ぁ」

 ミリセンティアさんはぼんやりと目を開けますが、焦点がまるで、合っていません。口元には、よだれが垂れていますが……それを、気にする様子すらありません。

「ミリちゃん、上半身を起こしなさい。……お人形さんは……この声に従うことができる。ほらっ」

「ぁ……ぁ」

 ぎぎぎぎと軋むみたいな……ゆっくりとした動きで、ミリセンティアさんは上体を起こしました。

「……リルさん。命令してみる?」

「いい、んですか?」

 いいんでしょうか……そんな、楽しそうなこと、させてもらっちゃって。

「ミリちゃん……いえ、お人形さん。ここからは、リルさんの声も聞こえてきます。彼女の声を聴くと安心ですね……リルさんの言うことを聞いて、お人形さんは、動くことができますよ……」

「……お人形さん。ベッドから降りて、立ちなさい」

 レシヒトさんみたいに、ではないけど、落ち着いた低い声を、出そうとしてみました。自分でも驚くほど、深く響く声色でした。

 びくん、と反応して、ミリセンティアさんは……ベッドの端から足を下ろして……ゆっくり立ち上がって……止まり、ました。

 目はぼんやり開いていますが……口も力なく半開きで、とても……。

 ――これ、エッチ、です。とても。

「っ、はぁ……お、お人形さん……私の、手っ、この、手を、掴んでください……ほら」

「……」

 きゅ。小さな手が、ほとんど力の籠らない手が、私の掌の上に載せられました。なんですか、これ。ゾクゾク、します。これ、いけないやつです。

「お人形さん、っ、つ、ついて来て……くださいね。ほら……」

「リル、座らせるときは背中を支えてあげて」

 ……黙って頷きながら、覚束ない足取りのミリセンティアさんを椅子まで連れて行きます。

 ひた、ひた。

 ほんの数歩しか離れていないのに、歩くのにやけに時間が掛かっているように思えます。

「ミリ……い、え。いえ……お人形さん……目の前の椅子に、座りなさい……そう、上手ですね。あ、……」

 背中に右手を添えて、体重を受け止めてあげようとしました。じっとりと、熱くて……ドキドキします。とても、なんと言うか……魅力的です。

「言うとおりにできたら、褒めてあげるよ」

「……っ」

 そんなことまで、させてもらえるんですか……?

「お人形さんは……私の、リルの、言うことを……ちゃんと、聞けましたね……言うとおりに、できて、とても、とーっても……幸せですねぇ……♥」

 だめです。言いながら、膝がかくかく震えてしまいそうです。あのミリセンティアさんが、こんな顔で……私の、言いなりで……褒められて、あやされて……。

「ほら……えらいお人形さんは、なでなで、してあげます……なで、なで……」

「……ぁ、ふあ……んんぅん……♪」

 気持ちよく、なって、います……。こんなのは、だめなんですよ。

 だめ、だから……。

「……ふう……ミリセンティアさん……いえ、ミリ、ちゃん……ミリちゃんは、座ったまま、もっと、もっと……深いところに、落ちます。気持ちよく、なることが……できますよ」

「ぅ、ぁ」

 こんな感じ……抑揚を控えた、落ち着いた……低い声でした。それから……。

 ……我ながら、よく覚えています。思ったより、掛けられているとき……意識があったみたいです。

「落ちる……すぅーっと落ちる……そして、私の、リルの声を、深く……受け入れます……」

 レシヒトさんは……見ています。笑っているようですね。私のやり方が変でしたか。それとも、私がこんなことをしているのを、面白がっているのですか。

「深いところで……ここで、聞いたことは……忘れちゃいますけど……目を覚ますと……か、かならず……言ったとおりに、な、なっちゃい、ますよ……?」

「ぉ……っ」

 びっくりしました。ミリセンティアさんの肩が、ぴくりと動いたのでした。

「ふふ……こ、このあと……貴方は、私が……リルが、催眠を、掛けられているところを、見せてもらうことが、できます……そのとき、私が……リルが、気持ちよさそうに、していると……だんだん……少しずつ、羨ましく、なってしまうんです……」

「……うわぁ」

 レシヒトさんが引いてます。いいじゃないですか。これくらい、したって。私だって。

 ……私だって、ミリセンティアさんで、遊びたいです。

「私が……してもらってること、見ていたら……ぜんぶ、ぜんぶ、ちょっとずつ羨ましくなります……だって、私は絶対……とっても、気持ちよくなりますから……ミリちゃんは、絶対、羨ましがります……そうでしょう……?」

「……ぁ……」

「でも、ミリちゃんは……いい子、いい子の、お人形さん、でしたから……いい子で、レシヒトさんの言いつけ通りに……この椅子から、動かないで……見て、いられますよね……?」

「いい……こ……」

 これで、それから、それから……あれ。あれも、絶対。絶対しましょう。

「もし、ミリちゃんが……どうしても、羨ましくって……いっぱい、されたくなっちゃって……我慢、我慢できなく、なっちゃったらあ……ふ、ふふ……」

 言っちゃいます。ミリセンティアさんに、だめなこと、教えてしまいます。

「ミリちゃんは……オナニー……しちゃいます。ばれないように……こっそり、おまた……いじっちゃうんです……がまん、できなくなっちゃったら……しちゃい、ますよね……?」

「……」

 背後に、呆れている視線を感じます。何とでも言えばいいです。何も言われていませんが。

これから私は、レシヒトさんに催眠で、『すごく気持ちよく』してもらうんですから。それを自慢する相手が、欲しいのですよ。ミリセンティアさんが、羨ましがって、私で、興奮しちゃうとか、そんなのは最高だと思います。最高にいけないやつです。

「ミリちゃんは……ここで聞いたこと、ぜんぶ、ぜーんぶ……忘れちゃい、ますね……私に、リルに、催眠……さ、さいみん……かけられちゃった、なんて、絶対、覚えていませんよ……」

「ぅ……」

「ほら、もう、忘れちゃいます。ふわふわーって、なくなっちゃって……でも、絶対……言ったとおりに、なりますよ……っ」

「……っぁ」

 言葉に合わせて、ぴくぴく、全身で、感じているんです。これ。どうして、こんなに可愛いんですか。

「じゃあ……ぜーんぶ忘れて……すーっと……眠るように……落ちちゃいます……ほら……」

 こうして、落ちるという言葉に合わせて、首や肩がうなだれていきます。それを感じてしまうと、私は、とても……興奮するみたいでした。

 これは、たぶん……レシヒトさんのせいではなく、私が、興奮しているんです――。

 ――。

「終わりました」

「あのさあ」

「なんですか。クソ野郎の分際で、私に抗議できる立場だとでも言うんですか」

「いや……リルさん、結構、すごいですね」

「?」

 褒められたのでしょうか、呆れられたのでしょうか。判断がつきませんでした。

「勘違いしないで欲しいのですが」

「はあ」

「ミリセンティアさんは貴方だけの玩具ではありません」

「さいで……」

 大見得を切ってはみましたが、私だってわかっています。こんなものは見様見真似に過ぎなくて、それに、その見様見真似をミリセンティアさんが受け入れているのも、彼が下地を作ってくれたからこそなのです。

「ミリちゃんはとても賢くて素敵だけど」

「はい」

「リルさんも、すごい人だなと思った」

「……ありがとうございます」

 これは多分、褒めてもらっているのでした。

「それじゃ、約束を果たすとしようか。リル、ベッドに仰向けに寝なさい」

「はい。あ、約束ですけど」

「うん。すごく気持ちよくしてあげるよ」

「いえ、もう一つ」

 約束はまだあります。私はちゃんと覚えています。

「エッチなのをして欲しくなりました。お願いします」

 言いながら、ベッドに横になります。窓の外は黄昏が近づいていました。魔法の実験から戻った時はまだ日は高かったのですから、ずいぶん長いこと催眠で遊んでいたようです。

「……は?」

「『して欲しくなったら言うのでお構いなく』と言いました」

「言ってたわ……了解。まずはリルに落ちてもらって……それから、実験から帰ってきたところって体で、ミリちゃんを起こそうか」

「わかりました……」

 私の身体はすぐに、彼の催眠によって、心地よい脱力と……快感に囚われました。これに逆らおうなんて、とんでもないことです……。

 ミリセンティアさんと一緒に、気持ちよくなれる……。

 このときの私は、少しばかり呑気にそう考えていました。

 ――あんなに滅茶苦茶されるとは思っていませんでしたので。

 『◆宮廷魔術師の催眠見学 その1』へ続く……だ、そうです。

<続く>

3件のコメント

  1. はじめまして、ティーカと申します!
    先ほどノクターンで通して読んできました!

    まさかのファンタジーで本格催眠術もの。
    リアルな催眠術を魔法のために活用する発想、とても良かったです!
    「催眠術の気持ちよさ」=「催眠術の深さ」=「魔法の強さ」という構図を成立させることで、
    互いにとってエッチなことをする大義名分にするのがまた憎い……!
    先の展開も読んでいますが、ライバルの魔術師も登場しそうで、
    そっちの「悪戯」の展開もありそうなのでワクワクしてますw
    続きも楽しみに待っています!

  2. ぱ。さんはじめましてでよ。
    みゃふと名乗っている四色猫でぅ。
    リアル術師の異世界催眠体験早速読ませていただきましたでよ。
    とは言っても、既にノクターンである程度は読んでいたのでぅがw
    でも、読んでみたら数日読むのをサボってた分まであったのでちょっと嬉しい。

    それはそれとしてリアル技法をファンタジー世界にもっていくのはなかなかいい感じでぅね。
    異世界物となると割りと催眠魔法とか魅了とかになるのでしっかりと導入や深化をやっているのは過程スキーとしては素晴らしいでぅ。
    ミリちゃんは正妻として、リルちゃんも助手として色々やっていってほしいでぅ。
    あ、もちろん二人だけではなくお姫様とか悪役令嬢とかミリちゃんのライバルとかも色々やっていってほしいところでぅ。まあ、リアル催眠術となると相手がこちらを信用していないとかけるのは難しいので魔王とか敵対勢力には難しそうでぅけど。

    とにかくミリちゃんが今は可愛らしすぎてやばいでぅ。
    Rubbyさんといい、過程が重視されている作品が連続で来て嬉しい限りでぅ。
    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  3. >ティーカ様
    twitterでもお世話になりましたー! 感想ありがとうございます。
    実体験を小説に落とし込むにあたり異世界モノに仕上げる、ということでせっかくの異世界、いろいろ設定回りに工夫をしました。
    魔術が得意な人を探せば被暗示性が高い人が勝手に見つかるという……。
    キャラクターはいくらか考えておりますが、しばらくは今の2人が中心ですね。よろしくお願いします。

    >みゃふ様
    初めまして、20年近くお世話になってます。うわぁ伝説上の人物に声かけてもらっちゃったぞ……。
    「いつかみた、あの夏へ」で衝撃を受けたのを思い出します。わたしがリアル催眠術師になってしまったのは一部みゃふ様のせいです。ありがとうございます。

    さて。言われて気付いたのですが、もともと「ファンタジー世界を書こう」というよりは「溜まりに溜まったネタを書く舞台をファンタジー世界にしよう」という経緯でしたので、ある意味逆流しているのかもしれませんねこれは。
    仰る通り、何人か掛ける相手は増える予定はありますが、誰でも彼でもとはいかないのですよね。

    そしてミリちゃんの可愛さが伝わりますか……! ありがとうございます。いい子です、今後も可愛がってあげてください!

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