リアル術師の異世界催眠体験11

※この作品には一部フィクションが含まれています。

 

◆48 爆走街道ふたり旅

 

 

「建物だ……宿だ!」

 思わず昂奮気味に声を挙げてしまう。それは待ち望んだ光景で、ようやく、ようやく見つけた安息の地で。

「えへ♥ もっと、もっと飛ばしますよ♥ えい、えいえい、どんどーん♥」

「待て待て待て待てミリちゃんストップストップストップ!! てか暑い暑い熱い熱い熱い!! あああそうだクラッチ切ればいいんだ!!」

 ガキィン。エンジンと車軸の接続を切り、ブレーキレバーを全力で押し込む――!

 

「あっ、だめですよ、止めちゃやだもん、やだもん、レシヒトさんだめですよぉ♥ はだかなら暑くないですよー?」

「勢いよく空焚きしないで!!? 『ミリちゃん、帰っておいで!』」

「ほえ――」

 キュルキュルキュルキュル……ズズズズ……。

 

 ――どうにかこうにか停車して……残るは大量の湯気と土煙。汗に張り付いてべっとべと。

 

「……はあ、はあ、はあ」

「あれ……着いた、んですね」

「そう、だね……お陰様で……うん……」

 全身ドロドロ、体のあちこちが痛む。

 

 ……こんな事態になった原因としては、昨日まで遡ることになる――。

 

 

 ――。

 

 

「食料や水は、倉庫から必要分を用立ててもらえるんですよ」

「さすが宮廷魔術師」

「そうでしょう、私は偉いんですよ」

 いよいよクエストに出発ということで、ミリちゃんと諸々の準備をしていたのだが……。

 

「あれ。そういえば、交通手段ってどうなってるの」

「どうやって街道を移動するか、という意味ですか?」

「うん」

 よく考えたら、この世界の交通手段ってよくわからない。馬車とかあるんだろうか。さすがにあるよな。あるとして、どれくらいの速度が出るもん?

 

「急ぐなら馬に乗るのが普通ですが、私って乗馬あまり得意じゃないんですよね」

「へえー、乗ったことないや」

「……え?」

「ないよ」

 おや。何だかめちゃくちゃ驚いた顔をされているね。

「えっ。馬乗れないんですか? 全く?」

「あっそういう扱いなんだ」

 困った事実が発覚する。いや、だってしょうがないじゃんそんなの。牧場の体験でも行かなきゃ機会ないぞ。

 

「えっと、馬じゃないとしたらどんな手段があるんだろう……」

「普通に歩いてもいいですけど、私、歩くのもそんなに速くはないので……」

 ミリちゃん、フィジカル弱そうだもんなあ。それでもこの世界で暮らしている以上、自分よりは健脚かもしれないけど。

「野宿とかになっちゃう?」

「いや、さすがに宿場間くらいは1日で歩けますよ。片道3日……いや、4日くらい? 休憩を増やすともっとかかりますけど」

 なるほど。街道沿いにはそうした宿が定期的にあるわけね。道の駅みたいなものか。とはいえ……歩いての移動に1日を費やすというのは、現代っ子にはちょっと抵抗があるよな……。

「馬車とかって無いのかな」

「ありますよ。シレニエラ街道は魔術舗装のされた平坦な道なので、個人馬車(コート)か魔術騎(ヴィークル)が走れます」

「知らないワードがいっぱい出てきたな」

 なんとなくイメージできるけど、まあ。

 

「魔術舗装は、石材や煉瓦を敷き詰めた道です」

「普通の舗装だ」

「人力では労力がかさみ過ぎるので、魔術師が加工と舗装をするんですよ。でも市中の街路ならともかく、街道自体を舗装するのは珍しくて。まあ大変ですからね、私も作業に加わったもので」

 ミリちゃん、本当に土木工事の専門家なんじゃないのか? 何か前も橋の補修とかしてたよね?

「普通の街道は舗装はされてないんだ」

「はい。“大いなる道(グレイトウェイ)”は伊達じゃないですよ。雨が降ってもぬかるんだりしません。私も作業したんですからね」

「ミリちゃんはすごいねえ、えらいえらい」

「えへん」

 うん、可愛い。

 

「ええと……コートっていうのは、小さい馬車なんだっけ」

「はい。ただこれはあんまり良くないんですよね」

「というと」

「領主とか貴族しか乗らないので。こんなのが単独でとことこ移動していたら、野盗の良いカモです」

「アー」

 アーになってしまう。そりゃそうだ、人が通る道があるなら、そういう連中も出るよな。

「私は強い魔術師なので、すぐに追い返せると思いますけど……矢でも飛んで来たら、馬は死んじゃうんですよね」

「それはそうだ……」

 ファンタジーも大変だ。なんかもっとうまいことやれるもんじゃないのか? ご都合主義で頼みたい。

 

「魔術騎は使えるかも。車庫を見に行ってみますか? 宮廷魔術師用の車両はいくつか用意されてるので」

「お、何か良さげな予感がする」

「魔術師専用の乗り物ですけどね」

 

 ――。

 

「うわ、なんだこれ……」

 王宮の車庫には、いくつもの奇妙な車が並べられていた。魔法で動く乗り物、と聞いてワクワクしていたものの……。

「これは気流術騎(エアロヴィークル)。自然風で走るのは難しいですが、この帆に、気流魔術(エアロクラフト)で起こした風を受けることで走るわけです。まあ扱いやすいですよ、ただ……重心が悪いので転倒しやすいんですよね」

「夏休みの工作みたいだ……」

 すごい、めっちゃワクワクするけど、めっちゃ乗りたくない。絶対事故るだろこんなの。

「魔術騎は普通2人乗りです。動力を務める魔術師と、操舵手が必要なので。レシヒトさんは操舵手の経験とか」

「あるわけないなあ」

「ですよね」

 操舵手の搭乗する席らしき部分を見ると、横棒のハンドルがついている。なるほど、仕組みはだいたいゴーカートだ。ブレーキはレバー式か。

 

「……やったことはないけど、やれないことはないかもしれない」

「そうですか? 一応他もお見せしますね。私、大抵の車両は動かせますから」

 そういえばそうだ。ミリちゃんのすごいところだった。

「こっちのこれは? 投石器?」

 隣の車両は、やはり帆がついているものの、車両の前に突き出している。

 

「あ、投射術騎(ショットヴィークル)ですね。前の帆に、岩鉱魔術(ガイアクラフト)とかで出した重量物をぶつけて、その勢いで進むやつで」

「乱暴すぎない???」

「かなりの速度を出せるんですが、速度の調整が難しいのが難点です。下手にブレーキかけると前につんのめりますから、使っちゃダメですよ」

 ヴィークルという奴はみんなこんな欠陥品なのか? 魔法の乗り物ってもうちょっと夢があるものじゃないのか?

 

「……こっちは? ソリにしか見えないんだけど」

「それは性格の捻じ曲がった女しか乗らないので関係ないです」

「なるほど察した」

 恐らく、雪氷魔術で凍らせた道を滑っていく仕組みなんだろう。一体何レイラが乗るんだろうな。

 

「それで、その隣は流水術騎(アクアヴィークル)。水を現出させて器に注ぐと、水車が回って車輪が動きます。比較的安定してるけど、歩いたほうが速いかも」

「残念ながら当然」

「割と力が出せるので荷運びには便利なんですけどね。移動用ではない感じです」

 よく見たら荷台がついている。なるほど、運搬機械なんだ。

 

「そういえば、これらは野盗に襲われないの?」

「襲われないこともないけど、襲われにくいですよ。魔術師が乗っていると分かっているものに手を出す度胸がある野盗はなかなかいないんで」

「アー」

 そうか。返り討ちに遭う可能性が高いから襲われにくいんだ……。

「なので、普通の馬車でもわざと、同乗者に術師服を着せることで威嚇するケースもあったりします」

「魔術師でもない人に?」

「はい。魔術師が居るように見えれば、それだけで襲われにくいので……」

「カカシかな?」

「ふふ、上手いこと言ってる。そうですね、まあカカシです。魔術師だって普通の馬車にも乗るから、本物でないとも限らないわけで」

 すると野盗の皆さんは、術師服の乗客を見て『どうせカカシっすよ親分』『しかし本物だったらどうする』みたいなやりとりしてるのか。思ったより愉快な連中なのかもしれない。

 

「あれ、これはずいぶんシンプルだね」

 車体に座席と、後部に大きな壺……いや、金属製だからむしろ大砲のようなものが付けられた車体が目に入る。

「それは焔熱術騎(パイロヴィークル)ですね。その臼の中で爆発系の魔術を」

「OK、もういい。却下で」

 奇遇だな、僕の世界にも似たやつがある。それな、ロケットエンジンって言うんだわ。絶対乗らねえ。

 

「むう、それじゃ乗れるものが無いですね。魔術師一人で動かせるのはこれくらいで」

「魔術師二人必要なものもあるの?」

 なるほど。確かにそういう機構のものがあってもおかしくはない。

「一応。ただ、流水魔術(アクアクラフト)と焔熱魔術(パイロクラフト)の使い手がそれぞれ必要だったりして」

「あっなんか想像ついたぞ」

「あそこに停めてあります、蒸気術騎(スチームヴィークル)ってやつなんですけど」

「想像通りだったわ。産業革命してるなあ」

 大方、一人が水を出して、もう一人がそれを加熱することでタービンを回すんだろう。蒸気を直接出す場合は、体積が膨大になるから難しいんだろうけど……液体の状態で現出させるなら、そういうこともできそうだ。

 

「まあ今回は私一人なのでさすがに……」

「でも、ミリちゃんは水も炎も使えるんだよね」

「使えますが、同時にそれらを想像して現出魔法(カンジュレイション)に、というのは流石に無理で――いや、無理でもない、のか?」

「やれるかもしれないよね、それ」

 そう。ミリちゃん一人ならいざ知らず、自分が同乗しているなら――つまり、催眠状態でブーストを掛けるのであれば。異なる魔術の同時使用も、試してないけど――やってやれないことはないのでは?

 

 

 ――。

 

 

 そして出発の朝。

 問題の蒸気術騎とやらに必要な物資を積み入れ、自分が前方、操縦席、ミリちゃんが後方、動力席。そして……。

 

「頼むよ、『大賢者ミリセンティア』」

「あ、っ――」

 

 ――うん、まあ。

 結論から言えば、やれたよ。

 

 

 ――。

 

 

「――出でて溢れよ『泉の清水(ファウンテン)』、そして赤熱せよ『焦熱(スコーチ)』。両の腕より出でて、張り裂けるは『膨張する蒸気(エクスパンション)』……!」

「うお、すご……っ、うわ、うわうわうわぶつかっ、うっおおおおおおお!!??」

「えへへへへへ、すごい、すごい♥」

 ドン、と圧力が掛かり……勢いよく廻る車輪。弾けるように飛び出す車体。楽しそうに笑うミリちゃん。泣きそうになる僕。

 そして、街道は憎らしいくらい綺麗に舗装されていた。

「えへ、えへへ、はだかですよ♥ いっぱい、飛ばしますよぉ」

「待て待て待って出力セーブしてあああああああああ!!!!!」

 ハンドルや車輪がもげなかったのは本当にすごい。シレニスタの技術職の皆様の努力を感じずには居られない。

 

 想像力を解き放ったミリちゃんによる、膨大な水と熱量の供給。現出させては消え、させては消え、動力を取り出し車は進む。その速さたるや、乗馬による行軍をも上回ったことだろう。

 一応懸念されていた、野盗の襲撃も無かった。そりゃそうだ、追いつけるわけないからな。

 

 

 ――そういうわけで、何事も……大いにあったが、一応無事に、初日の宿にたどり着くことができたのだった。

 

「本当に死ぬかと思った」

 今の僕はレインボーロードもイケるぞ。人間やればできる。

「アー。そんな感じだったんですね……あ、服は着てましたよね?」

「そんなもん見ている余裕があったと思うの!?」

「それはそう」

 ミリちゃんはといえばケロっとしている。そういえば、MP的なものってこの世界には無いんだろうか。

「ミリちゃんは大丈夫なの? ずっと魔術を行使していたことになるけど」

「あ、そうですね。魔術を使うと普通はだいぶ、精神的に疲労します。想像力を酷使するんで……」

「やっぱり。大丈夫?」

 普通よりも強力で凶悪で無法なことをやっているはずなので、少し心配になる。

「催眠のせいでしょうかね、普通に魔術を使っているのとそこまで変わりはないみたいで。なんなら日暮れまでに、次の宿場まで行けるかも」

「それは何よりだ……僕が限界でなければだけど」

 いや本当。大賢者さまの操舵手がこんなに大変だとは思わなかった。途中で岩石の染みになってないだけ幸運だよマジで。

 

 ――。

 

 そういうわけなので、宿に入ることにした。酒場と宿屋が併設されていて、あとは馬屋と、養鶏場がある。なるほど、本当に旅人の為にある施設なんだな。

 

「いらっしゃい……いや旦那、どうしたんですかいそのなりは」

 話しかけてくれた、人のよさそうな男性が店主のようだ。自分はといえば、蒸気と汗ででろでろのところに土煙を浴び続けて、チョコレートパイを顔面で受け止めたバラエティ芸人みたいになっている。

「泥パックが趣味ってわけじゃないんだ。お風呂は借りられますか」

「それと一晩泊めてください。お部屋はありますか?」

「ああ、どっちも大丈夫だよ」

 店主は僕らの人相を確かめてから、答えた。ああ、これアレだな。夫婦客と勘違いされて、相部屋に案内されるパターンだろ。よくあるやつじゃん、知ってるぞ。美味しいから黙っておこう。

 

 

 ――。

 

 

「じゃあ、私こっちの部屋ですんで」

「あれー?」

「どうしたんですか」

 おかしいな。

「いや、てっきり相部屋にされるかと思って」

「どこの世界に、魔術騎で乗り付けた魔術師と従者を同室にする宿があるんですか。私みたいに優しい魔術師ばかりじゃないですよ、不興を買ったら大変なんですからね」

「思ったより世知辛いやつだった」

 

 ――とにかく、どうにか目的地へ向かうことは可能に思えてきた。

 

 今日はゆっくり、休養を取ることにしよう。

 そう、明日の運転の為にも――。

 

「あ、後で部屋に行きますので」

「あれ、夜這い?」

「打ち合わせですよ。思ったより早く着けましたので、現地がどうなっているのか、他のお客やお店の人から聞き込みをしておきます。レシヒトさんは疲れたでしょうから、それまで休んでてくれれば」

 なるほど。ミリちゃんはしっかり者だなあ。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうね」

「はい、いったん面倒なことは忘れてしまいましょう」

「そうだね。リルさんのこととか」

 

 ……。

 

「……なんで言うんですか……? せっかく、忘れてたのに……」

「うん、僕も……」

 

 

 ――シレニスタは今頃、大丈夫なのだろうか……。

 

 

 

◆ 聖王騎士の催眠耽溺 その1

 

 

「こんにちは。リルさん、今日もお美しいですね」

「また……来て下さったんですね」

 まあ、そういう風にしたのは私なのですけども。

 

「ミリセンティアは、もう出てしまったのかな」

「はい、今朝早くに。その様子ですと御存じですよね、10日程度掛かると伺っております」

 そうですよね。聖業(クエスト)へ向かうことは当然、ミリセンティアさんから聞いていることでしょう。だって、後で怒られるのは嫌がるでしょうから。

「ああ。例の神盟者は?」

「レシヒトさんですか? ……あ――」

 そう、ですよね……。レシヒトさんを聖業に同行させることは多分、ミリセンティアさんは黙っていたんじゃないでしょうか。だって、その場で怒られるのも嫌がるでしょうから……。

 これ……は、いいですね。私としては、やりやすいです。だって……。

 

 ――アルス様、それを不義理と考えますよね?

 

「――御一緒に、向かわれていますよ。魔術の補助が彼の、お仕事ですから」

「そうか……それは、そうだろうな。他に供の者は?」

「いらっしゃらないと思います。三人掛けの魔術騎にお二人で乗っておりましたので」

 あまりこちらから煽るべきではありません。そんなことをしなくても、アルス様はご自分から、実際“ちっとも悪くない”ミリセンティアさんに、やり場のない不満を募らせているはずです。

 

 ――他の男と、10日にも渡って二人きりの旅。

  それはそれは、嫌でしょうとも。

 

 ――魔術師の彼女の隣には、神盟者の彼がいつもいる。

  アルス様は騎士として、魔術師に劣等感をお持ちですよね。

 

 ――でも、彼女は一つも悪くない。だって、必要な仕事だから。

  だから、やりきれないんですよね。誰にも文句ひとつ言えないんです。

 

「……やれやれ、ずいぶん仲の良いことだ」

「それは……仲が悪くてはお仕事に差し支えるでしょうから」

「そう、だろうな……」

「はい……。寂しい、ですよね……」

 アルス様のその苦しみ、私はとってもよく理解できるのですよ。

 

「10日……か……」

 

 ――この10日、彼が……多少、他の女に現を抜かしたとて。誰が咎められるでしょう。

  『だって、彼女もそうしているんだから』。そうではありませんか?

 

 それ、私は……とってもよく、理解、できるのですよ?

 

 

 ――ミリセンティアさんは……アルス様と、まぐわっているんですよね?

  なのに、私たちがしちゃ駄目って……おかしくないですか……?――。

 

 

 本当に、痛いくらいに……理解、できてしまうんですよ。

 

「はい。……この塔も寂しくなってしまいます。ですからこうして、アルス様がいらして下さるのは、とても嬉しいんですよ。ぜひ、お茶を飲んでいってくださいな」

「はは、リルさんは人が悪い。僕に愛しい人が居ることを知って、そんなことを言うのだからね」

 私は悪い子ですが、嘘は苦手なのです。だから、お話するのは本当のことばかり。私は、レシヒトさんが居ないと退屈ですし、アルス様とのお話はとても楽しいのです。

 

「お茶、入りましたよ。お話、してくださるんですよね?」

「あ、ああ……神盟者レシヒト。彼のことを聞きに」

「……あ、はい。そうでしたね……」

 アルス様は、目を逸らしていました。そうですよね。それは実は建前なんですよね。いいんですよ、言わなくても。ちゃあんと、分かっていますからね。

 

 ――私と、お話……したいんですよね?

 だって、私が……そう、させたんですから。

 

 

 ――。

 

 

「――と、言った感じです。催眠術は、前回少し、体験していただいたと思いますが……あの状態ですと、魔術の力が高まるのが、分かっています」

「そうか……なるほど。確かに、解放感というか、昂揚というか、不思議な感覚があったのを覚えているよ」

「はい……心を解きほぐし、無意識を呼び覚ます……とても、気持ちのいいことです」

 そうなんですよね……催眠状態になるのは、無防備な心をさらけ出し、触れてもらうことです。それは、身体的な話に置き換えれば……一糸まとわぬ状態で、抱き合って、あちこち、まさぐってもらう――そんな感覚になるのでしょう。

 そして……身体と、精神。果たして、どちらがよりデリケートで、プライベートで、特別でしょうか。そう考えると――。

 

「う、うむ……しかし、あのようなことを、交際しているわけでもない女性と……」

 ――アルス様の、このような感覚、危惧は、とても納得できる話です。

 実際私も、セックスと催眠だったら……催眠の方がより親密で、いやらしいことのような気がします。皆さん催眠のことなんて知らないので、黙っていればばれないし、言いませんけど……。

 

「大丈夫、ですよ……ただ、お話、していただけではないですか。少し、ふわふわ……いい気持ちに、なっても、おかしくはない……ですよね」

「あ、ああ……そう、なのかな」

「だって……ミリセンティアさんだって、仕事で、してもらっているんですよ……? いけないことなわけ、ないじゃないですか……」

「……確かに。それも、そうだね」

 ああ……ゾクゾク、します。私はやっぱり、こういうのが……好き、です。

 

 

 ――。

 

 

「――では、またそこに、横になってくださいね」

「ああ……でも、神盟者の話は……?」

「知っていることは、一通りお伝えしましたけど……私と、お話……するのは、お嫌……でしょうか」

 これは、ずるい聞き方なのです。私が、アルス様とお話したがっている……ということなら、彼は、断りません。それに……彼には、私とお話したくてここに来るように……暗示が、入っています。

 だからこれは、渡りに船、というやつで……。

「リルさんが、そう言うのなら……お付き合いさせていただこう。光栄だよ」

 当然、このようになるのでした。

 

「えへへ……すみませんね。話し相手が、いないものですから……でも、お仕事のお話くらいしか、できませんけど……」

「いいんだよ。それを、聞かせてくれるかな? リルさんのような、家庭的な女性のことは、よく知りたいと思う。……ミリセンティアにも、聞かせてやりたいな」

「……ッ」

 危ないところでした。我慢しました。『そういうところですよ????』くらい言いそうになってました。

 

「では……あ、実はですよ。今日は……干したばかりの、新しいシーツを使っているんですよ。アルス様が、来られると思ったので……」

「あ、本当だね……うん、これも、いい薫りだ……」

「昨日は、私の使ったままでしたので……きっと、不愉快な思いを、させてしまいました……すみません」

 まあ、昨日のは……わざと、なんですけどね。やろうと思えば、上の階に、神盟者の方のための空き部屋はあるわけですし……立ち入りを遠慮してもらうにしても、シーツくらいは取ってくることができます。

 そうしなかったのは単に、私の匂いを、覚えてもらうため。気持ちいい経験と、『リルさん』を、結び付けて覚えてほしいから……ですね。

 

「いや、昨日も……その、どう言っていいかわからないけど……良いものだったよ」

「ふふ、アルス様は……お優しい、方なのですね……」

 これは、本当にそう思います。レシヒトさんなら、『いや、いい匂いだったけど』とか言いそうですし。私はそれ、普通に嬉しいですけど……多分、一般的には嫌がられますからね。

 

「では、今日はそれ……ベッドメイクの、お話……しましょうね」

「うん……」

 『うん』ですって。なんて可愛らしいんでしょう。こういう変化はやはり、嬉しいですね。

「使ったあとの、シーツや……枕カバーは、洗い場に、持っていくんですけど……そんなに、汚れていないように見えても……意外と、脂や、垢などの……汚れが、ついているんです」

「ああ……そうなんだろうな……」

「ふふ。気持ちいい、ですよね……お返事は、しなくていい、ですから……私のお話、ゆーっくり、聞いてくれますか……?」

 こく、と小さく頷いて……ほぅ、と息を吐き、目を閉じて……また開けて。

 

「私の、声……眠たくなる、って、言われること……あるんですけど、それって、気持ちいい、ってこと……ですよね。ぽかぽかの、お布団で……眠たくなったら、眠ってしまっても、いいですからね……」

 そこまで伝えると、安心してくれたのでしょうか……心地よさそうに、目を閉じてくれます。どんどん、無防備な所を見せてもらえる……男の人を落とすのって、とっても……昂奮、しますよね。

「そうだ……明日、アルス様のお部屋のベッドシーツも、洗ってあげましょうか……当分、うちの塔からは……お洗濯物、出ませんしね……」

「あ、ぁ……」

 こうして……ときどき、ミリセンティアさんたちが留守にしていることを、思い出してもらいます。

 

「いいですね……アルス様のベッドを、きれいに誂えていくときのこと、考えてみます……まずは、汚れたシーツを受け取るんです。丸めてしまうと、皺になるし……嵩張るので、きれいに、畳んでいきますよ……ほら、ぱた、ぱた……」

 右の掌を伏せて、アルス様の太腿に載せます。布を畳むように、左手を上に。そしてまた、載せた左手を少しだけ浮かせて……右手を抜いて、上に。交互に、ぱたん、ぱたん。

 身体に触れていくの、好きです。私を、感じてもらえますから。そうすれば、男の人は喜んでくれるって……知っています、から。

 

「アルス様も、手伝ってください……皆さんのシーツは、たくさんあります……一緒に、畳みましょうね……ほら。ぱたん……次は、左。ぱたん……」

「ぅ、あ……」

 アルス様は、布団をかけておりません。手首を持って、お腹の上に掌を載せて……反対に。繰り返し、繰り返し、畳む動作を、繰り返してもらいます。

「ぱたん、ぱたん……上手、ですね……アルス様は、素敵な、旦那様になられるでしょうね……ほら、ぱたん、ぱたん……ずうっと……続けて、みましょう……ぱたん、ぱたん。手の動きに、集中して……右、左……右、左……上手ですね……」

 覚えてもらえたので、そのまま続けていただきます。レシヒトさんが言っていました。単純作業は、変性意識を誘発すると。こうして、同じ動作を繰り返すことに、集中してもらうことで――。

 

「手は、止めないで……私の声は、聞き流して……構いませんから、続けて、くださいね……。シーツを全部、畳んだら……洗い場で、真っ白になるまで、洗うんですよ……。垢も、汚れも、ぜーんぶ……きれいに、気持ちよーく……してもらえますから……ほら、まだ、畳みますよ……ぱたん、ぱたん……」

「ぁぅ……あ」

 ――集中してもらうことで……こうして、私の声に、とても無防備になってくれるわけですね……。

 

「ぱたん……ぱたん……上手ですよ、慣れて……来ましたね……。あと、少し……頑張って、ぱたん、ぱたん……すぐ、気持ちよく、なれますよ……」

「ぅ、ぅ、あぁあ」

「腕が、疲れちゃいますよね……ぱたん、ぱたん……腕が重い。重い、ずっと動かして、疲れますね。とても大変。剣の素振りをたくさんしたときに、似ていますね。しんどい、重い、重い、だるい……でも、ぱたん、ぱたん、頑張れますね……えらい、ですね……」

「う、ああ、ううっ、はぁあ、ぐぅう」

 アルス様は身体を鍛えていますから、さほど苦痛ではないでしょう。でも、手を持ち上げるような動作を……ずっと続けているのは、疲れるものです。そこに、重くなるように暗示を交えることで、本当に疲れてくれるはず。

 

「お洗濯も、けっこう、大変でしょう……。頑張って、集中、手に集中。ぱたん、ぱたん、右、左、ほら、あとちょっと。あと、ちょっとで、ざぶざぶ、してもらえます。洗って、気持ちよく、してもらえる。だから頑張れる、ほら、畳む、畳む、もうすぐ、気持ちいいの、もらえますからねー……」

「ぅ、あ、あっ、あ、あ……」

 疲れるけど、頑張れば……気持ちよく、してもらえる。そんな風に、条件付けすると……自分から……気持ちよく、なってくれる。そんな狙いで、言葉を重ねます。頑張ったのは、気持ちよくなるため。ぜーんぶ、それが目的。そんな風に、誤解してもらいます。

 アルス様のような、プライドの高い男性はよく居ます。そういう人は……なかなか、自分から求めてはくれませんから……こうやって、誘導しなくてはいけません。

 

「あと少し……あと少し、私が、私が数を5つ数えると、畳み終わって……アルス様の腕は、楽になります。らくーになって、力を抜いて……投げ出してしまって、いいんですよ。ほら、5……、4……、がんばって、ぱたん、ぱたん……3……」

「ぅっ、あ、う、あぁ」

「2……1……ほら、終わりです。ぜろ――楽にして……投げ出して、力が、抜ける……抜けて……気持ちいい……」

「……あ――」

 すっ、と筋肉の強張りが解け……両腕がだらりと落ちます。お腹の上に載せたままだった右手だけが残り、左腕は身体の横に落ちています。右手も、私の手がそっと、横に……いえ。持ち上げたままにしておいて……。

 

「3つ――3つ、数えたら……もっと、気持ちよく……楽に、なれますよ。ほら、3……、2、1……ぜろ」

「――ぉ、あ」

 0の合図とともに、手を離すと――。

 ――どさ。

 アルス様の太い腕は……力なく、ベッドに沈みました。

 

 

 ――。

 

 

「畳んだ、シーツは……洗い場まで、持っていかれます。貴方のシーツも、大きな桶で……石鹸と、水で、綺麗に……洗いますよ。ほら、ざぶ、ざぶ……ざぶ、ざぶ……気持ちいい、ですね……貴方は、今、洗われています……そう、貴方は今、シーツになって、しまいました……」

「ぁ……」

 アルス様の、服を掴んで……ぎゅ、ぎゅ。胸と、お腹の上で、洗うような動き。指先で、胸板をくすぐるように、わざと……するする、指を通して……ぎゅ。

「洗って、もらうのは……とても、気持ちいいですね……知らないうちに、染み付いた……凝り固まった、汚れが……落ちて、いきます。ほら、ここも……真っ白に、なりますよ……ほら、ざぶ、ざぶ……」

「ぅ、あ、あ、あ、あ、あ゛」

 あたま。アルス様の、髪の毛を、わしわし、わしわし。洗うみたいに。指先で、髪を梳いて、頭皮を撫でて、気持ちよくさせます。昨日も、同じようなことをしたので……思い出して、もらいます。

「真っ白。貴方は真っ白。真っ白なシーツ、真っ白になる。真っ白ですね。長年、染み付いたものも……ごしごし、ざぶざぶ……真っ白、真っ白になりますよ……ほら、3……、2……1、ぜろ……」

「――ぁあああ、あ、あー……」

 まぶた。うで、こし、あちこち、びく、びく、震えていますね。可愛い。アルス様、とっても……可愛いです。

 

「今度は……3つ、数を、上に……上に、数えます。アルス様は……3つ数えると、目を覚ましますが……真っ白。真っ白な、シーツになってしまいましたから……真っ白で、なにも、考えられないかも、しれないですね……」

「ぅ、ああ、あ」

 『何も考えられない』ではなく、考えられない『かもしれない』というのは、便利な言い回しだと思います。暗示としてきちんと入っていなくても、おかしくないことになります。考えられたとしても、嘘ではないので……私には、向いています。嘘は、苦手です。

 ……ああ、後は、こういうのも教わりましたね。

「アルス様は……洗った、ばかりで……びしょびしょ、ですから、まだ、使えません……。なにも、考えたく、ないですね……びしょびしょで、全部……重たい……ですから……何も、考えたくない……重い、重い、とても重たくて……じっとり、動けない……考えない、何も考えない……重い……」

「ぅ、ぅ……ぁ、あ……」

 『考えたくない』とか、『考えない』というのも、良いと思います。考えられるとしても、考えないことを選べばいいのです。私はこれで落とされたのを、まだはっきり覚えているんですよ。

「3つ……3つ、数えると、目が覚めますが……じっとり、重くて……真っ白で、なぁんにも、考えない……ぼんやりした状態で……目が、覚めてしまいますよね……ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ。はい」

 

 ぱん。

 

「お゛、あ」

「……はい、目が覚めますよ……。真っ白で、びちょびちょで……なぁんにも、わからないですね……それ、とっても、気持ちいい、ですよね……♥」

 うっとり。自分が気持ちいいように、高い声、甘い声色で話します。催眠状態では、判断力が鈍りますから……うまく考えられなくなった人間は、話しかけられた雰囲気に、流されてしまいます。

「ぁ、あ……♥」

「気持ちいい、そうですね……真っ白で、びちょびちょで、気持ちいい……♥」

「ぉぉお……」

 ほら、気持ちよさそうにしています。声につられてしまうんですよね。わかりますよ、それ。

 

「では、もっと、気持ちよくしてあげますから……目を、閉じていきましょう……」

「……ぁ……」

 そこで声を落として……優しく、ゆっくり、語り掛けるように。

「――洗い終わった、シーツは……暖かい、日差しの中で……干して、いきます……。瞼の向こうに、光を、感じますよね……今の貴方は、ぽかぽかと、お日様の、心地よい熱と……匂い……どれも、本当みたいに……感じることが、できますね……」

「ああ……あ……」

 当たり前です。今は昼間で、敷いているベッドシーツは先程まで干していた、ぽかぽかでお日様の匂いいっぱいのシーツ。催眠に掛かっていなくても、これらは感じるようになっています。本当に感じているんですから。

 こうやって、催眠という虚構の中に、現実を混ぜることで……全てが現実みたいに思わせる。レシヒトさんが、よく、やっていたように思います。これって……嘘を言わずに、男の人を狂わせる、甘い言葉の作り方と……よく、似ていますよね。

 

「ぽかぽか、ぽかぽか……暖かい……暖かくて、とっても気持ちいい……びちょびちょだったシーツが、乾いて……いきますよね……。真っ白で、ふわふわで、気持ちいい……」

「あぁあ……」

「私が……数を、10から、0まで……10から0まで、ゆっくりと、数えます。貴方は……この、真っ白な心……染み付いた汚れの、みんな落とされた……とっても清々しい心で……気持ちよく……ふわふわ、さらさらのシーツに、なることができます。数が、0になると……貴方は、真っ白なシーツは、アルス様の部屋に、帰ることができますよ……」

 

 さて、本番を始めましょう。

 ――アルス様に、本格的に……気持ちよく、なっていただくのです。

 

「今日は特別な日。貴方は今日の為に綺麗になりました。今日はアルス様の部屋に、大事なお客様がやってくるのです。そう……ミリセンティアさんですね。アルス様の大切な女性が訪れる日……」

「ぁ、う」

「貴方は真っ白……真っ白なシーツとして、お二人を受け止めるベッドになります。ここは……催眠状態の見せる、素敵な夢。夢……夢の中。貴方はこの夢を、最高の夢にすることができます……この特別な日を、文字通り……夢みたいに、してあげられますよ……」

「……」

 頻りに、瞼がぴくぴく、しています。アルス様に、いえ、アルス様でなくても……このようにきちんとした催眠暗示を施すのは初めてですが……多分、大丈夫だと思います。

 

「10……ぽかぽか、乾いて……いきます。9……、暖かくて、気持ちよくて……。8……風が、ふわふわ、ひらひら……。7……日差しが、気持ちいい……、6、すっかり、乾いて……ほら、いい匂い……」

「……」

 数を数え、呼びかけながら……体のあちこちに触れて、くすぐったさや、暖かさを、味わってもらいます。とっても、気持ちよさそうな表情です。

 

「5……よいしょ、取り込んで、しまいます……。4……畳んで、ぱたん、ぱたん……。3……お部屋の、ベッドに、載せて……。2、広げて、ふわぁ、いい薫りですね……1、ぴん、と伸ばして……縁を、折り込んで……ほら、0。綺麗に、できました。ベッドメイキング、できましたね……」

「……ふぁ……あ」

 

「気持ちいい……最高のベッドが、できました……ここでは、この夢の中では、貴方は再び……アルス様に、戻ることができます。ここは、貴方の夢、最高の夢の中ですから……何でもできますし、何もかも……貴方の、望むままになります……」

「ぅ、あ、あ……」

 ――気持ち、いいでしょうね。きっと。

 

「ほら……もうすぐ、あの人がやってきます。貴方の大切な人……ミリセンティアさんですね。ここでは……彼女も、夢の住人。夢の中ですから、貴方の、一番して欲しいことを、してくれます……」

「う、あぁあ、……ぁ……?」

 

「そして……貴方が、何をしても……決して、嫌がりません。貴方を、受け入れて、喜んで、貴方を……愛して、くれますよ――」

「――ぁ、あ」

 

 ――ええ。本当に。

 

 それは、とても、とても……気持ちいい、の、でしょうね――。

 

 

 

◆ 聖王騎士の催眠耽溺 その2

 

 

「ここは……夢の中ですから……些細な違和感には、意味が、ありませんね……。よく考えたら、おかしなことでも……夢の中では、気にならない……そういうものです」

「ぅ、あぁ……」

 暗示が複雑で、長かったので……少し、覚め掛かっているように見えます。こういう時って、何してもらったら、嬉しかったでしたっけ。

 私だったら……あれ、ですよね。

 

「そんな夢に、もっと……深く、入るために……数を、数えて……あげますね……ほら。3……、2、1……ぜろ。ほら、すうーっと、吸い込まれる……落ちて、いく。気持ちいい……3、2、1……ぜろ。落ちる、落ちる……もっと、落ちていくことが……できますね……」

「お、あ……う」

 こんな、単純なカウント。これだけで……覚めかけた意識を、また、ドロドロの催眠状態――真っ暗で心地よいところに、どっぷりと……落としてもらえる。これはとっても、嬉しいことでした……。

 

「夜です……自室のベッドで、貴方は、ミリセンティアさんと身体を重ねるところですね……はっきりと、イメージすることができますし……今は、力が入らない身体も……動かす、ことが……できるように、なります……まずは、ゆっくり……身体を、起こしていきますよ……」

「……あ、あ……」

 ベッドに腰掛けて、腕を背に回し……身体を起こす力で引き上げます。負傷者の介助の際に使う動作ですね。そういえば昔、騎士団の方に使ったことがあります……ああ、サイモンさん、でした。私と会っているのがばれて、婚約者の方に刺されてしまって……傷の回復まで介助が必要になってしまった方……。

 ……結局、元の婚約者さんと撚りを戻したそうですが……元気にしているでしょうか、彼。

 

 っと、いけません。今はアルス様に集中しなくてはなりませんね。

 

「ここは……夢の中。とても心地よい、真っ白なシーツの上の夢……夢を見ているのですから、目はふんわり閉じたまま……意識はぼんやりして、見たいものだけを見て……感じたいものだけ、感じる……私の声だけを、聴くことが……できますね……」

 優しく頭を抱き……かくんと崩れそうな首を、掌で支えて、ゆら、ゆら……揺すって、あげます。

「ぁ……あ……ぅ……」

「素敵な……素敵な、夢の中……貴方は、催眠術に掛かっていますから……どんな、素敵なことも……思い浮かべられます。現実よりも、ずうっと……気持ちよく、感じることが……できますからね……」

 ゆら、ゆら……ゆら、ゆら。

 まるで、母親にでもなった気分です。ちょっと、気分がいいですね。こんな立派な息子なら、きっと鼻が高いでしょうから。

「見たいものだけが……見えて……要らないことは、気に、しませんね……ここは、貴方の夢の中……夢で、細かいことは……気に、しないものですね……」

「……ぅ、……ああ……」

 アルス様の、たびたび発していた……呻くような声。それが穏やかに落ち着き……低くなり、そして、聞こえなく、なりました。

 

「さあ……貴方はベッドに座っています。ベッドには、今日の為に綺麗に設えた、真っ白なシーツが敷いてありますね……そして、ミリセンティアさんがそこに、寝ています……。この彼女は、貴方の夢の中の住人……貴方の理想の、ミリセンティアさんですよ……」

「あ……ああ……」

「思い浮かべるまま……望むまま、見て……感じることが、できますね……彼女は、どんな……どんな姿で、いるでしょう……思い浮かべたら……貴方の喉は、少しだけ、力を取り戻します。思い浮かべるまま、口にすることができますよ……。初めは、ぼんやりしているかもしれませんが……言葉にすると、理想の彼女は、より……はっきりと、貴方に、分かるように……感じられるように、なりますね……」

「……う……あ……」

 

 ――レシヒトさんは、あの後も、催眠術のコツを教えてくれました。

 それによれば……暗示を入れるときは、素早く。まず、ゆっくり一度。……そして、素早く何度も、繰り返す。言い換えて、畳み掛ける。

 

「部屋の灯りが、彼女を照らします……。彼女の姿を思い浮かべる。望むまま、夢想して、想うまま、描いて、言葉にします。彼女の姿を想像したら、口にすることができます。ここでは全てが思い通り。貴方の理想通り。何を言ってもそうなります。……ほら、ゆっくりと……夢を見ましょう……」

「……」

 

 ――そして、暗示を入れたら……待つ、と。

 合わせて……『素早く入れて、ゆっくり待つ』だそうです。相手が、言葉を受け入れるのには……時間が掛かる、と。私達が、催眠に掛かっている間もそう。その時間はなかなか、認識できないのです。

 だって、催眠に掛かっている者にとっては、ほとんど長く感じられないのですから。

 とろとろに、蕩けて、鈍った、思考力。くにゃくにゃに、ふやけて、崩れた、判断力。……そして、ふわふわに、膨らんで、広がった、想像力。それらはどれも、時間を必要とするし……相手によって、必要な時間は異なるのだ、と。

 

「ゆっくりと……思い浮かべます。理想の彼女……貴方の欲しかった、『ミリセンティア』。それは、どんな、姿で……貴方に、どんな風に、してくれるのでしょうね……」

 言葉を重ねるときも、急かすことのないよう……ゆっくり、落ち着いた声で。そして適宜、待つようにします。暗示に従いたいのに、術者が話し続けているというのは……とても辛いらしいですから。

 そうして、待っていると。やがて、アルス様は、ぼんやりとした声で話し始めました。

 

「……あ、あ……裸、だ……ミリセンティアは、裸で……寝ている……」

 いきなり裸でした。これは、思ったよりも展開が早いですね……。いくらミリセンティアさんでも、そんなすぐに裸を晒すでしょうか……?

 いえ、アルス様が、もう十分に睦み合った後の場面を想像しているのかもしれません。充分にあり得る話です。

「そう、ですね……裸の彼女が……ベッドに、寝ていますね……。口に出せば……はっきり、感じられる……もっと、夢の中に……催眠状態に、深く……入っていくことが、できますね……」

「ああ……ミリセンティア……」

 アルス様は、ベッドに両手を衝きました。恐らくは……ミリセンティアさんに、覆い被さっているのでしょうね。

「貴方に組み敷かれた彼女は、どんな様子でしょうか。貴方に、何を……望んでいますか? 理想の、ミリセンティアは……貴方を、どのように……求めて、いるのでしょうか……?」

「……脚を閉じ、腕で、胸元を……隠している。頬が……朱に染まって、とても、可憐だ」

 誰ですかそれ? そんな殊勝なミリセンティアさん居る訳ないでしょう。手か足が出ますよね、灯り消してくださいって暴れるんじゃないでしょうか。

 

 さて、ここからですね。だいたい、アルス様の理想は分かりました。ミリセンティアさんの言葉を、全部自分で演じていただくわけにもいきませんから……ここからは、私の出番です。

「そうですね……とても健気で、可愛らしいです。恥じらいに染まった、ほんのりと赤い肌が……ランプに照らされています。甘く、上品な、女性の香りがします……」

 囁きながら、アルス様の背中に回り……身体を、ぴったり密着させます。首の後ろから、声を掛けて……少しずるいですが、私の匂いも、感じてもらいましょうね。

 

「う、あぁ……ミリセンティア、なんて……愛らしいんだ」

「ほら。『アルスさん、私、恥ずかしくて……』って。ますます小さくなって、顔を背けてしまいましたね……でも、瞳は貴方を見ています。貴方も、裸ですね……その逞しい身体を見つめて、吐息を熱く……吐いて、いますね……ほら。――はふ……ぅ」

 自分で言っていて思うのですが、これは本当に、誰なんでしょうか。少なくとも、ミリセンティアさんではないですよね……これ。

「あ、ああっ、ミリセンティア……僕は……ああ、んんぅっ」

 アルス様は、感極まったように枕に顔を埋めました。キスを、しているのだと思います。

「『んん、はふ……ん……』、彼女の、小さく尖らせていた唇。優しく甘い接触に蕩けて、少しだけ開く。隙間から、吐息が行き交う。目を閉じて、彼女はただ……受け入れて、います」

「ん……、ふう……ミリセンティア。君は、本当に……可愛らしいね」

 ――お言葉ですけど、それ多分違う人ですよ。

 いえ、そう言いたいのは山々ですが、私にはやることがあるのです。茶化してはいけません。ええと、『理想のミリセンティア』は、この後どうするでしょうね……いえ、私なら――。

 

「――顔を離そうとすると彼女は、縋り付くように顔を前に出して……うっとり潤んだ瞳で、見上げています。身体は、起こせませんから……ほら、細い手を、背中に回してくれますね。筋肉を確かめるように、触れて……小さな声で、『すごい……こんなに、硬くて、力強くて、大きくて……アルスさん、アルスさん……』」

「あ、ああ……そうだよ。君の、君の、アルスだ。ミリセンティア……」

 いやそれ私です。何かすみません。

 

「『アルスさん……私も、アルスさんの……、いえ、その……す、すき……です』」

「ああ、僕も……愛して、いる……君は、僕のものだ……ミリセンティア……!」

 本当すみません。これもう誰だかわからないです。

 

 ――さて。

 ええと、この辺ですよね。分かっているところによると……『理想のミリセンティア』さんは、服は脱いでくれるけど、恥じらいがあります。アルス様との行為を望んでいるけど、慎みがあります。……いや何ですかそれ? もう少し設定に整合性を持たせてくれないでしょうか。演じる方も大変なんですけど。

 

 それから、大事なところとして……彼女は、魔術師としての力を恐れていて、女としての幸せを望んでいて……騎士であり、逞しい男である、アルス様の庇護を求めているのです。

 

 ……はうあ。

 

 ――考えただけでダメージが来ました。眩暈がしますね。解釈違いも甚だしいのですが……今日の肝はまさしくここです。私はあえて己を曲げましょう。許してください、原作のミリセンティアさん。私のせいではないんです。

 

「『私……もう、怖いんですよ。甘えても、いい、ですか……』」

 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。無理無理無理無理ですこれ。

「ああ、もちろんだ……僕が、君を守る。だから……」

「『はい……ずっと、ずっと守ってください。アルスさんの物に、してください……』」

 ウエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ。これ私絶対すごい顔してます。背中からで良かった……。

「ああ、もちろんだ……! 君はもう、ただの女に、なっていいんだよ……」

「……!!!!!!!!!」

 ――ぶっ殺しますよ?

 頑張りました。呑み込みましたよ。これは後で褒めて頂かなくてはいけませんね。

 

「彼女は……腕の中で、怯えるように、小さくなっていますが……貴方の顔を見て、安心したように……身体から、強張りが取れました。ほら、恥ずかしさに堪えるように、目を閉じていますよ……」

「ミリセンティア……ああ、なんていじらしいんだ……大丈夫、君のことは、必ず守るからね……」

 いや守るって言いながら、その動き、脚広げていますよね? むしろ侵掠しているのでは。男性ってこういうところ都合よく考えすぎじゃないです? というかミリセンティアさんはもっと乱暴にしないと喜ばないですよ。私は詳しいんですからね。

 でも今日は……アルス様の理想の夢、ですので、接待も止むを得ません。ミリセンティアさんの無限の可愛らしさについては、また別の機会に語ることと致しましょう。

 

「脚に手を掛けると……びくっ、と、わずかな抵抗がありましたが……すぐに、開いていきます。ほら、開いたそこは……触れなくても分かるほど、濡れそぼっていて……真っ白なシーツに、灰色に見える染みを、作り始めていますよ。ほら……『あ、っ、見ないで……ください』」

「……いいんだよ、悪いことじゃないんだ……ミリセンティア。君は、僕のことを、こんなに……」

 あー。一見結構キツい台詞ですが、良いですよ私そういうの嫌いではないです。ベッドタイムの醍醐味と言いますか……。しかし、加減が難しいものですね。アルス様は、性に積極的すぎる女は好みではないようですから。

 

「覆い被さって、そこに先端で触れると……とても、温かいですね……そして、ほら、感じますよ。薄膜越しではない感触。ぬめり、熱、拍動すら伝わります。何も邪魔せずに、何にも隔てられずに、貴方を夢中にさせる……自然に、腰が前に、出てしまいますよね……ほら、『あ、アルスさん……だい、じょうぶ、です……っ♥』って、彼女も、言ってくれています……♥」

「あああっ、ミリセンティア……う、うお……こ、こんなに、ああ……」

 そういえば、『着けて欲しいって言うと嫌がられるんだけど、男の人ってそういうものなの?』という相談をされたことがあったのを思い出しながら、アルス様を誘導していきます。したいんですよね、生で。欲しいんですよね、赤ちゃん。私なら、ぜーんぶ、させてあげられますよ?

 

「彼女は、身も、心も、貴方を求めて……両腕も、膣も、ぴったり縋り付くみたいに……少しの隙間も、残さないくらい、愛情いっぱいに、まとわりついて……ほら、『あ♥ ぜん、ぶ、アルスさんで……いっぱいに、してください……♥』って……何かを、堪えながら、小さく、囁いているんです……♥」

「う、あああっ、愛して、いるよ、ミリセンティア……あ、あ、う、あぁあっ」

 くい、くい、腰を、振ってくれています。私は、背中からぴったり、くっついて……手を、回して……ぱつぱつに勃起した、おちんちん……ズボンの上から、さすさす、さすさす。ああこれ、本当に……大きいですね。でもね、アルス様……。

「彼女は、その、大きなものを受け入れ……痛いのか、気持ちいいのか……深い愛情に、身も心も震わせて、『はぁ、はぁ、はぁっ♥』、ほら、甘い、吐息が、心地よいですね。腰、止まらない、ですね……♥」

「愛してる、ミリセンティア、愛、して、いるよ、あっ、く、うううっ」

 アルス、様。本当に……本当に、残念ですけども。貴方が……愛して、おられるのは――ミリセンティアさんでは、ありませんよ。

 『それ』は……残念ですが、別の女、です。例えば……私では、いかがでしょうね?

 

「うあ、出る、っ、ミリセンティア、あ、あぁっ!」

「えっ早い」

 あ。つい口に出ました。……よかった聞こえてない。危ない所でした。アルス様は、覆い被さるように倒れ込み、腰をぐ、と突き出して――。

「っ、く……!」

「熱い、一つになる、愛、愛を感じています。ほら、最高の気持ち、出る、出ますね、ほらぁっ……♥」

「ぁ、っふ、く、ぅぅぅ……っ」

 ぶるぶるっ、震えながら……静かに、イって、います。きっと……。

 

 ――きっと、これまでで最高の……セックスだった、の、でしょうね……。

 

 

 ――。

 

 ぱん。

 

「――はいっ。すっきり、目が覚めますよ。アルス様、おはようございます」

「うあ、あ……あ、れ?」

 なでなで、なでなで……。

「催眠術の世界で……アルス様は、お悩みを話してくださいましたね。大丈夫です、私……絶対に、ミリセンティアさんに言ったり、しませんからね……。お話、してくださった信頼……それを、裏切りはしませんので」

 これは本当です。私は、真剣に……アルス様を、私の物に、したいのですから。

「うわ……何てことだ。リルさん、済まない……この通りだ。僕は、何てことを……!」

「いえ、仕方のないことですよ……催眠術とは、このようなことができる技術です。掛かっている方に、責任はありません……私がすべて、悪いのです」

 これも本当です。どう考えても私が全部悪いです。流石に。

 

「そんなことは……いや、ううむ……」

「本当ですよ。催眠術に掛かった方は、皆、あんな風に気持ちよくなれますし……心の中の、デリケートなところまで、見せてしまうことが、できるんです。そうしたら、とっても……すっきり、しましたよね?」

「それは、確かにそうなのだが……リル、さん。聞いても、いいだろうか」

「あ、はい」

 さて、来るでしょうか。私の仕掛けた、違和感に……アルス様は当然、ご自分で気付いておりますよね。誰よりも、それを……気に掛けて、気を病んで――邪推して、いらっしゃいますよね?

 

「その……ミリセンティアも、このようになっているのだろうか。その……あの男と」

 

 ――ほら、ね。

 

「……さあ、実際にお二人がそのようなことをしているのを……見たわけではありませんから」

 嘘……では、ありません。一応、私は筋を通せるならば通したいのです。

「そうか……」

 暗い表情で、顔を落としてしまいました。そうですよね……私は何も、言っておりませんが。アルス様の中ではもう、決まったことなのでしょう。

 ――彼女は、神盟者レシヒトの術で、心を蕩かされ……幸福の極み、法悦の限りを与えられているのだろうと。そしてそれは、今も旅の合間に、何の邪魔も入ることなく行われ続けているのだろうと。

 

「……リル、さん。先程の、夢のような時間は……?」

「あれは、私がお見せした……アルス様の願望です。きっと、素敵な体験でしたよね?」

「うっ……流石に、恥ずかしいものだな。しかし、うむ。ミリセンティアも、ああ素直であったならば……」

「っ」

 危ない!!!!!! だからそういうことを突然言わないでくれないでしょうか。往生際が悪いというかなんというか。

 ――『素直になったらそもそも寝てくれるわけないですが』。

 喉まで出かかりました。本当に危ないです。

 

「……ええと。ミリセンティアさんは、あのように振舞ってはくれないのですよね」

「うむ、そう、だな……きっと、僕がまだ頼りないためだ。彼女の負う荷を、僕に預けられずにいるんだ」

 絶っっっっ対違いますが。あの方は自分で荷を運び、頂点を目指したいんですが? ミリセンティアさんの何を知っているんですかこいつ???

 ……抑えましょう。ここは落ち着くところです。リルは出来る子。ちゃんと頑張らなくてはいけません。最後まで、悪い子として。忠義ある、従者として。

 

「心苦しい、ですか」

「……もちろん、だとも」

 そう言うアルス様の表情には、普段の溌溂さは見られません。私とて、心苦しいのです。このように弱ってしまった人には、できるだけ早く……歓びを与えてあげたい。そう、思うのです。

 

「アルス様」

「何だろうか、リルさん」

 ――ですので、私は……。

 

「ここへ、来ていただけたなら……いつでも、貴方の望み通りに、できますよ」

「……それは、先程のような催眠術で……?」

「それも、当然、そうですが……そうで、なくとも……です」

「――!」

 驚かれていますね。私は、『なんにも言っていない』というのに。どうしたの、でしょうね。

 

「……何か、いけませんか?」

「それは、そうだろう。貴方は、いったい……」

「なぜ、いけないのですか……? なぜ、私達だけ、だめ、なんですか――?」

「そ、れ……はっ」

 

 

 ――。

 

 

 それから、しばらくは……ほぼ、無言のまま。

 アルス様は、静かに身支度を整えて……立ち上がるのでした。やはり、押し黙ったままで。

 

「……すみません、アルス様の御機嫌を損なうようなことを申しました」

「いや、リルさんは……貴方は悪くありません。悪いのは――」

 ――悪いのは? なぜ、口ごもるのでしょう。誰が、悪いと、思っているのでしょうね。……アルス様は。

 

「――悪いのは、僕だ。他の……誰でも、あるものか」

「そう、でしょうか……」

 ごめんなさい、アルス様。悪いのは……一番の、悪い子は――。

 

「では、失礼するよ」

「あ……待って、ください」

「何だろうか」

 ――悪い子は、私です。

 

「もし、今日のことが、忘れられなかったなら。もし……また、私の話を、聞きたいと思われたのなら……そのときは。何も、言わなくて構いません。ただ……」

「……そんなこと」

 

 だって――。

 

「私は明日も、ここでお待ちしていますから」

「……リルさん、さようなら」

 アルス様は、逃げるように帰られました。

 

 

 ――。

 

 

 ちゃぷ。

 

 お花、少し……萎れて、しまっていますね。

 周りの、引き立て役の……霞草だけ、むしろ……元気、みたいです。

 

「……だって」

 

 ――だって私は。

 アルス様に、悪いことをしていますから。

 

 彼には、後催眠暗示が入っています。

 ……自室の、真っ白なシーツ。その上に寝てしまうと……今日の、夢心地の世界を、思い出してしまうこと。

 痛いほどに勃起して……理想の女を思い浮かべ、夢中で自慰を、してしまうこと。

 そう、彼の……本当の、『理想の女』を、思い浮かべてしまうこと。

 

 そして、そのことが気になってしまい……明日も結局、ここへ来てしまうこと。

 

 

 ――もし、今日のことが、忘れられなかったなら。もし……また、私の話を、聞きたいと思われたのなら……そのときは。何も、言わなくて構いません。ただ……。

 

 

 ごめんなさい、アルス様。

 やっぱり私が……一番、悪い子なんですよ。

 

 

 ……私は明日も、ここでお待ちしていますから――。

 

 

<続く>

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