リアル術師の異世界催眠体験13

◆ 恋人たち その1

 

 

 

 ――さて。

 

「レシさん、どれ食べる?」

「あー、鶏肉の香草焼きいいね。これにしよ」

 不安定になってしまったミリちゃんを催眠で落ち着かせて、ついでに大分悪さをして、こうしてまた、酒場の方へ夕食を食べに来たわけなのだが……。

「あ、美味しそう。ところで私はシチューが食べたいのですがチキンを一口分けてもらえたりなどは」

「するする。シチューちょっとくれたらいいよ」

「えへへへ、やったー」

 このイチャつきぶりである。いやまあ、ミリちゃんの彼氏はレシヒトだよ、という暗示で罪悪感を取り除いているわけだから仕方ないんだけど……。

 

 ――。

 

「ミリちゃんは本当に可愛いなあ」

「えへ。うー、私達やっぱり悪い子かも」

「ん、どうして?」

 あ、暗示抜けてる? 参ったな、もう注文したしここで泣かれるとちょっと困っちゃうけど……。

「だって、大事な聖業(クエスト)なのに、こんなデート気分で浮かれてるのってやっぱ駄目だと思うんですよ。でも嬉しいから困っちゃう」

「あー。それは確かにねー」

 全然抜けてなかった。流石のちょろ神様である。

 

「最近はレシヒトさんとあまりゆっくりできなかったし。二人でのんびりできるのを喜んじゃっても罰は当たらないと思うんですよね」

「罰は……まあ当たらない、かなあ……」

 めちゃくちゃ道義上の問題はあるけどな……うん。

「だって凱旋式の日とか、やっぱり寂しかったですからね」

「あ、え? うん」

 ちょっと待て。その日はアルスと寝た日だろ? ミリちゃんの中では、記憶の整合性どうなってるんだ。

「どうかしたんですか」

「ああいや、凱旋式ね。そうか、一緒に居られなかったもんね」

「打ち上げで王宮泊まりになっちゃうんで……あの女の手柄で、レシさんと一緒にも居られないとか、マジで納得いかない」

「なるほど」

 ――記憶の補完が行われている。細かくケアする暗示を入れずに、認識や記憶に細工をされた場合、現実の記憶や状況と齟齬を起こすことがよくある。そういう時、被術者は様々な反応をする。

 例えば、おかしいと気付いて暗示が抜け、催眠が解ける場合。これはまあ、起こるときは起こる。あとは、矛盾が処理できなくて混乱してしまったり、固まってしまう場合。これはよくあるやつだ。そして……今ミリちゃんがやっている、記憶の補完。無意識のうちに、暗示で刷り込まれた内容に合わせて実際の記憶を捏造してしまったり、目の前の状況を歪曲して理解したりすることがあるのだ。

 

「ミリちゃんはすごいなあ」

 当然、この補完には相当の知能が要る。まあ、いわば反射的にその場しのぎの嘘をつき、辻褄を合わせて言いくるめる能力といってもいい。普通に嘘をつく場合騙すのは他人だが、催眠暗示の違和感を消す場合は自分の意識を騙すことになる。これはなかなかできることではない。

「えへへ、なにがだろ。えへへへへ」

 可愛い、撫でたい。他に客がたくさんいるが構うものか。今のミリちゃんは多分喜ぶだろ。まあ……『咄嗟に嘘をつくのが上手い』というのを喜んでくれるかはちょっと疑問だけど。

「可愛いねえ、なでなで……」

「ちょっと。やめてくださいよ」

「えっ」

「人前でさすがにそれはないでしょ」

 そうなんだ。ミリちゃんの基準よくわかんないや……。

 

「ハーブチキンお待ちー! おや、あんたらかい。例の件だけど、操舵手には話がついたよ」

「あ。ありがとうございます」

「おう。明日の朝にここに呼んであるから、条件とかはそこで話しな」

「やっとあの運転から解放されるのか……ほらミリちゃん、チキンあげる」

「わーい、あーん」

 フォークに刺した鶏肉を渡そうとすると、ミリちゃんは大きな口を開けた。本当は手渡しするつもりだったんだけど……まあいいや。

「はい、あーん。熱いぞー」

「はひゅ、あひゅ、あひゅい……おいひい♥」

「……あんたら、ずいぶん仲がいいねえ」

「ええ、まあ。どうもすみません」

 おやじさんに冷やかされながら、そんな調子で食事は進んだ。そういえば、夕方に来た時に話をしたラヒーシャ。彼女の姿は見えない。彼女も客のようだったし、部屋で休んでいるのだろうか。

 

 

 ――。

 

 

「美味しかったねえ。ミリちゃんの頼んだシチューも良かった」

「それ。うますぎでしょ」

 施設に養鶏場が隣接しているので、きっと絞めたばかりの鶏とかそういうやつなんだろう。味付けは刻んだハーブと塩だけだったが、実に美味しかった。シチューはヤギ乳かな。街道沿いのだだっ広い土地を利用して、結構ちゃんと畜産をしているのかもしれない。出荷も楽だろうしな……というか、そっか。王宮で食べていた肉類は多分こういうところから来てるんだろう。

「うますぎて馬になるやつ」

「馬乗れない人がなんか言っとるね」

 食事を終えると部屋まで戻る。酒場から部屋まで、アホみたいな話をしながら手を繋ぎっぱなし。他の人もいるんだけど、なでなではダメで恋人繋ぎはいいのか。ミリちゃんの基準よくわかんないや……。

 

「明日までにやっておくこと、あるかな」

「アー。早起きですもんね。操舵手さんとの話もあるから」

 てくてく。ミリちゃんの部屋の前を通り過ぎる。おや。

「それじゃあもう休む?」

「かなー」

 がちゃ。うん、ここ僕の部屋だね。

 

「寝る前にお話したいです」

「あ、うん。こっちで寝るんだ?」

「あ、私の部屋のほうがいいならどっちでも別に」

 そうかー。恋人同士だもんな……そうなっちゃうかー。しかし、本当に当たり前みたいに恋人として振る舞ってるな、ミリちゃん。流石というかなんというか。

 

「まあそういうことなら僕の部屋でいいけど」

「お邪魔しまーす」

 いいけど……どうしよう。これ、本当に一緒に寝るの?

 

 

 ――。

 

「なるほどなあ」

 そういうわけで、僕とミリちゃんは一緒に布団に入っている。ベッドはあまり大きくないので、寝間着同士でほぼ密着。というかやっぱり手を繋いでくる……好きなんだなこれ。自分はといえば、ミリちゃんってめちゃくちゃ良い匂いがするので、ずっと幸せになっている。こんな思いができるなら、悪の催眠術師もいいもんだ。

「やっぱり、アウレイラさんは私が手柄を立てるのがマジのマジに気に入らないんですよ。ネチネチ嫌味ばっかり言うし。みんな私のこと、陛下の贔屓で宮廷魔術師になったと思ってる。赤ちゃん扱いなんですよ」

 

「ミリちゃんは天才だと思うけどなあ」

「なら撫でてください」

 むっ。と唇を突き出してこっちを見ている。あー、うん、可愛い。

「よしよし。なでなでだよー、なでなで」

「ふふふ」

「ミリちゃんはすごいねぇ。かしこいねえ」

「えへへへへ。レシさんは私を赤ちゃん扱いしてもいいですよ。ただしあの女は駄目だ」

 ……ミリちゃんの精神性を作っている大きな軸がこれ。自分を馬鹿にしてくる連中を見返してやりたい。子ども扱い、女扱いで見縊られたくない。誰もが認める地位、名声、実力。そういったものへの希求。

 一方で、甘えるのも大好き。恋人設定になったとたんこれだもんな。いや、もともと片鱗は十分にあったけども。

 

「よしよし、ミリちゃんは赤ちゃんでちゅねー、よちよち」

「えへへへへへ。レシしゃんしゅき……」

 いいのかなあこれ。いや良くないのは最初からそうなんだけど……。思っていたよりだいぶよろしくない感じがするよな……ここまでデレデレになるもんなのか。

 というかアルスはどうだったんだよ。あいつには全然こんな感じじゃなかっただろ。今回の催眠では『ミリちゃんの恋人はレシヒト』という暗示しか入っておらず、つまりアルスの居た位置に僕が居るだけだ。ミリちゃんの感情とかには特に手を入れていない。

 

「ちゅーもしていいですよ」

「してあげよう。ちゅー」

「んふ♥ しゅきぃ……♥」

 こんなことになっている理由としては、考えられるのは2つ。1つは……『恋人である』という暗示を、『既存の恋人の位置にレシヒトを置く』、というイメージではなく、『レシヒトと恋人になる』という認識から『レシヒトに強い愛情を抱く』という理解をしたというパターン。これはあるかもしれない。どちらの認識でも、記憶からアルスが締め出されてしまっている現状の説明もつく。

 一方で、もう1つは……最初から、ミリちゃんはアルスよりも僕の方がずっと好きというパターン。あるか? あるのかもなあ。結構気持ちよくさせたし、自分が大好きな分、いっぱい優しくしてきたからな……。同じ『恋人』という席でも、『恋人としてのアルス』にはあまりイチャイチャできないが、『恋人としてのレシヒト』にはイチャついても大丈夫だと思っているという。うん、そうだったら嬉しいな。

 

「レシしゃん……」

「なんだろ」

「えっとね……うー、えっと……」

 言いづらそうにしている。何だろう……いや、雰囲気的には、なんか恥ずかしいことを頼もうとしているような感じに見える。エッチなやつか? それとも何か普通に言いにくいこと?

「ゆっくり教えて」

「えっとね……うう……嫌いにならない……?」

 なんだこの可愛い生き物。

 

「ならないならない。ミリちゃんは可愛いし、賢いし、かっこいいからね。なでなで」

「えへへ……うー、えっと」

「うん」

 何だろうか。ずいぶん引っ張るけども……。

「……えっと……。……おっぱい、さわってください」

「……」

 アー。

 

「……なるほど。もちろんいいけど……じゃあ後ろ向いて」

「うんっ」

 左腕を、ミリちゃんの首の下に通して……こうすれば、両腕で抱くことができる。そうして、ぎゅっと抱いて……左手を右胸に当てて、回した右腕で、左胸。

「こうすると、後ろぴったりくっつくよね」

「あ、すき……これすきかも。……ひゃうっ」

 両の乳首を、服の上からつん、と触る。そのまま、すりすり、すりすり。優しく擦るようにする。前にもやった、ミリちゃんのお気に入りのやつだ。

「身体がくっついてると、もっと気持ちいいよね。ほら、すり、すり……」

「これすき……これずっとして……♥」

 そう言うならしてもいいけど、しんどくないか? いや、自分の腕がという意味ではなく……。

 

「いいの? お胸すりすりされてたら、下にずくずく響いてきちゃうよね。甘くドロっとした何かが、どんどん溜まっちゃうよ。ほら、すりすり……」

「お♥ あ、あぁあ……これずるい、ずるい……♥」

 ね。乳首ばかり弄られてたら、普通そっちが切なくなるよね。まあ暗示めいた言葉で意識させてる自分も悪いんだけど。

「じゃあ、ずっとしようね。ミリちゃんの好きなやつずーっとしてあげるね」

「あっ、あああ、ううー、ずるい♥ レシしゃんずるい♥」

 うーん。もとはと言えばこの浮気クエストに対するミリちゃんの精神的不安を取り除くために、自分が恋人だと誤認する暗示を入れたわけなんだけど……。

 こんなに激甘になるとは。流石にちょっと気が咎めてきた。いいのかなこれ……いや最初からよくないのはそうなんだけど……。

 

「気持ちいい? あ、腰めっちゃ動いてるね。へこへこ、かくかく、気持ちいいねえ」

「やぁ、やだ♥ う、うー、ううー! 他もさわって……」

 『他も』とか言って、ずっと腰をくねくね揺すっているんだから、他も何も、指す部位なんて一か所しかないよねそれ。ミリちゃん、気持ちよくなるとすぐ身体が動く。素直でとっても可愛い。

「他ってどこさ。どこ触ってほしいの?」

「おまんこ、おまんこ触ってくだしゃい……♥」

 彼女でもない女の子にこんなこと言わせてるわけなんだけど、まあいいよね……悪の催眠術師なんてそんなもんだよ、うん。ほら、世間の催眠ジャンルのフィクションを見たらいい。自分なんて大分良識的な方だ。きっと。

 

「え、だめだけど?」

「ひっ」

 突然声のトーンを落として、ドスを効かせて言ってあげる。ミリちゃんは露骨にビクっとして、身を縮こまらせる。この子はこういうのが大好きってことは、まあ流石に分かってきた。

「ミリちゃんが自分で『ずっとしてぇ~♥』って言ったんだよねえ。今日はずぅーっと、ここだけだよ」

 精一杯の悪い声で、粘着質に言ってやる。いじめっ子モードだ。

「やっ、それは、それはぁっ、えへ♥ えへ、えへっ♥」

 あー、めちゃめちゃ嬉しそうだこれ。思った以上にマジの変態さんだこの子……。

 

「は? 宮廷魔術師のくせに、自分の言ったことくらい責任持てないの? バカじゃないの?」

 しょうがないのでいじめっ子ロールプレイ継続。ちょっと楽しいなこれ。

「あう♥ えへ、えへっえへっ、ごめんなさい……♥」

 こんなこと言いながら、腰を引いてお尻を押し付けてくる。うんまあ、そうされるとそこには勃起した僕のアレがあるわけでね……服は着てるけどさ、こう、ぐりぐりむちむちと、うん。

 ――スケベだなあ、ミリちゃん。

 

「ミリちゃんは、おっぱいでイくのも好きだったよね」

「っあっ、しゅき、それっそれ、それしゅき♥ イく、イきまひゅ」

 そう言って、指を立てて、こしょこしょくすぐるようにすると、ぶるぶる震えてすぐイきそうになる。流石は魔術師様、気持ちいいことも覚えが早いことで。でも――。

「まあこれもだめだけど」

 指を乳首から離して、周りだけをゆっくり……くる、くる、指先で回るようになぞる。

「くっふ、やっ、やだっなんでぇええ」

 ミリちゃんが胸を揺すっても無駄。僕の腕、ミリちゃんの身体を抱いてるから、一緒に動くだけ。乳首には触らない。腰もめっちゃ暴れてるねえ。

 

「ミリちゃんがずっとって言ったんだよ。今日はこのままゆっくりすりすりでイくんだよ」

「えっ、やだ、やだやだ♥ かりかりして、こしょこしょして♥」

「だからだめだって。ほら触るよー……すり、すり」

「おぉ゛♥ ……えへ、えへへへへ、えへへぇ♥ これだめぇ……♥」

 焦らした後なので、振れるか触れないかで……ゆっくり。これ、気持ちいいだろうなー。

「ゆっくりだと、なかなかイけないよねー。ずっとしてもらえて嬉しいね」

「らめ、これバカになりゅ、なる、なりまひゅ♥ バカになっちゃふ」

 デレデレだ。足がぷるぷる震えて、めちゃくちゃ気持ちよさそう。まあそりゃこんなのされたらバカにもなるよね。

 

 ――じゃあ、こうするか。

 

「バカになりなよ。賢いミリちゃんがバカになったら、きっと気持ちいいよ、ほら、すりすり、すりすり……何にもわかんなくなっちゃおうね、ほら、ほら」

「やだっ、やだぁ、私、わたしかしこいもん♥ わかるもん♥」

 この子は、普段からめちゃくちゃ気を張っている。馬鹿にされないように、嘗められないように。自分の力を、認めてもらえるように。自分のなりたい存在で居られるように。

 でも、実のところ……本当にそれを続けられるほど、強い人間なんていない。ましてやミリちゃんは、そもそもそんなにメンタルは強くない、と思う。今こうなっているのだって、アルスとのことで不安定になってしまい、泣いて癇癪起こしていたのがそもそもの発端なんだから。じゃあ普段はどうしてるのかと言えば、そりゃまあ簡単。無理をしているわけだ。

 ……いや、そりゃキツいってもんでしょ、ミリちゃんさあ。

 

「かっこいいミリセンティアさんは後で返してあげるからね。今はバカになっちゃおうね、ほら、おっぱい気持ちいいでちゅねー」

「赤ちゃんじゃないぃ♥ ちがうもん、私えらいんだもん……」

 見縊られることが大嫌いなミリちゃん。そのためにいっぱい気張って頑張って、いろいろ溜め込んでいるんだ。

 なので今日は、馬鹿にされるのが大嫌いなこの子を、思いっきりバカにしてあげよう。そうして発散することが必要なんだろうから。

 

「えらいえらい、ミリちゃんはえらいねえ、おっぱいすりすりで気持ちよくなれて、えらいねぇ」

「くひゅ、ふぅぅう、これっ、これやだっ、これ変だから、だめ、だめですよ?」

 楽しい。ミリちゃんの乳首なんてもう、布越しにアホみたいに勃起してるし。これカリカリしたら瞬時にイくんだろうな。でも今日は甘くて深い絶頂がいい。本当に頭バカになって、当分戻らなくなるやつだ。

 

「すりすりだと、なかなかイけないまま、ぞわぞわ、ぞわぞわ、深いやつが込み上げて来ちゃうよね。前におまんこの奥に指当ててあげたでしょ、あれと同じだよー」

「あれやだ、やだって言ったもん、やだやだ、やだやだあ♥」

 そういえばアレはアルスとの練習としてやったんだった。今のミリちゃんの認識だと、僕とのセックスになってるのかな。それはきっと――幸せな記憶になっていることだろう。

「ミリちゃんが嫌がっても、勝手にイこうとしてるよね。ほら、すりすり……こんな弱ーい刺激でイくと、全身震えっぱなしで、長いこと帰ってこられないからね。じっくりイってバカになろうね」

「やだっ♥ おばかやだ、おばかになったら嫌われちゃうもん。レシしゃんは、かしこいわたしがすきなんでしょ?」

 ……ん?

 

 なるほど。確かに……自分は、賢くてかっこいいミリちゃんに惚れている。だから、バカになったら嫌われてしまうと思っているのか。

 あ、いいなこれ。嬉しい。だって、アルスは彼女のそういうところを愛していなかったんだろう。でも今、今ここにいる……僕の彼女のミリちゃんはさ。自分の彼氏に、賢い自分を愛してもらえている……と、思っているんだ。

 ――なんだよそれ。最高に嬉しいじゃないか。

 

「そうだよ。賢いミリちゃんが好きだよ。良く知ってるね、かしこいねえ。ほら、すりすりー」

「えへっえへ、やっ、なんで、なんでしゅりしゅりするの♥」

「でも、賢い子がおばかになるのも好きだよ。ちゃあんと後で戻してあげるから、安心してバカになろうね……ほら、もうぞわぞわ昇って来てるよね。膝がくがくしてるよ、気持ちいいねえ」

「あ♥ これ、こわい、こわいっ、やだ、こわいっ、お♥ おぉ♥」

 あ、イくな。左右の乳首を甘く撫でられるだけで、この子は涙を散らして、快感の極みを迎えてしまうんだ。もともと変態だっただろうけど、この気持ちよさを教えたのは自分だ。この最高に可愛い女の子を、この最高の幸せに導いたのは自分なのだ。うん、それはやっぱり、とてもとても嬉しいことで。

 

「賢いミリちゃんも、僕の前でバカになってくれるミリちゃんも、大好きだよ」

 少しだけ……本当に少しだけ指の動きを速めるとともに、腰の裏に膝をぐいっと押し当てる。こうするとね、腰の奥……子宮に意識が向くんだ。でろでろに甘い快楽を溜め込んでるときにそんなことするとさ――。

 

「お゛……っ、おぉっ♥ あ♥ あごっ♥ くひゅ♥ ひ♥ ひゅん♥ ご♥ おほぉォォ……♥」

 

 ――まあ、そりゃ当分、天国から帰って来られないよね。

 

 

 ――。

 

 

「えへっえへ、しゅき、しゅき、レシしゃんしゅき……♥」

「よしよし……好きだよー。バカになっちゃってもちゃんと、可愛がってあげるからね」

 ミリちゃんが、乳首だけでバカみたいに……いや、完全にバカになりながらとんでもなくディープな絶頂をキメた後。彼女は身体をこちらに向けて、『ぎゅー♥』と言って甘えてきている。ひたすら甘えてきている……。

「ちゅー♥」

「はいはい、ちゅーしますよ……っと」

 まあ普通に微笑ましいイチャイチャなんだけど、これ、催眠で彼氏を誤認してるんだよな……。なんか流石に、ちょっと悪いことしてる気がする。

 しかし、分かったこともある。この子……ミリちゃんは、絶対、アルスよりずっと僕のことが好きだ。リルの言ってた通りなんだ。いや、だからって悪くないわけじゃないんだけどさ。でも。

 

「えへへへへ♥ すき……」

「ミリちゃんは本当に可愛いねえ~」

 でも、さ。

 悪いとか、悪くないとか、そういうの……これが彼女にとっての幸せなら。なんて、そういうずるい考えもそりゃ、湧いてくるってもんだよね。

 

「ん……あ、あー。えっと……うう」

「どうしたの」

 ぼんやり考えていたら、ミリちゃんがまた何か言いたそうにもじもじしている。

「う、うー……えっと、えっとですね」

「うん。またおっぱい触る?」

「それはいいです」

 いいらしい。自分としてはもっと触ってあげても良かったんだけど。好きだから。

 

「あの、ですね。嫌いに、ならないでほしいんですけど」

「なるもんか」

 なおも言い淀むミリちゃんは、その後もしばらくもったいぶって――。

 

「……私達って、えっち……しないんですか?」

 

 ――恥ずかしそうに、そう言ったのだった。

 

 

 

◆ 恋人たち その2

 

 

 

「アー」

「アーにならないでください」

 

 ――私達、えっちしないんですか?

 そう聞いたところ、レシさんはアーになってしまった。

 

「そうだよね、恋人同士だもんな。そりゃそうだ」

「まあ……無理言ってしたいわけではないですけど。ちょっと不思議だったというか」

 レシヒトさんとのお付き合いはそんなに長いわけじゃないけど。そういえば一回もしてもらってないよね? その割に、ありえないくらい気持ちよくされているので、不満があるわけでは全くないですけど。

 そういえばこれ、付き合う前からずっと不思議だった。この人、エッチな催眠かけるくせに手を出してこないので。

 

「ミリちゃんは、別にあまりしたくない?」

「したくないわけじゃないけど、しなくても気持ちよくしてもらえるから……」

 正直なところ『したい』よりも『してみたい』なのかもしれない。別にそれって、私達にとって必要でも特別でもないんだろう、多分。ん? あれ?

 

 ――私、したこと……ある、よね。え? 誰と?

 

「あれ……ちょ、っと……待って……」

 頭が、ぐるぐるする……何だろ、これ……。えっと……初めての彼氏は、アカデミーで……気が合った子だ。でも、彼とは結局、してなかった……。それから、宮廷魔術師になってから……。

「……大丈夫?」

「う、ん……え、と……確か……」

 確か……パーティーの席で……。

 頭が重い。瞼がぱちぱち、頻りに瞬きをするのが止められない。何かおかしい。多分催眠なんだろうけどそれに集中して考えることができない。何だろう。すごく嫌な感じがする。

 

「そう……思い出していこう……ほら、ぐちゃぐちゃの頭の中を……ゆっくり、整理するよ……この声を、聞いていれば……怖くないし、誰にも、怒られないからね……」

「あ……♥」

 これ。これ欲しかった。この声がないから、こんなに不安だったんだ。レシヒトさんの声。助かった。これで――。

 

「さあ、一度……深くて、気持ちいいところへ落ちていくよ……ほら、3……、2……」

 

 ――これで、大丈夫。

 

「1……、ゼロ。落ちる……落ちる」

「ぉ、あ」

「ぜーんぶ……ドロドロになって、落ちる。悩んでいた分だけ、深く、深く……落ちることが、できますね……」

 ああ、暗いと……何も、分からないから……。分からなくていいって、とても……安心。

 

 

 ――。

 

 

 ぱちん。

 

「はう」

「おかえり。どうしたの?」

 ……あれ。何考えてたんだっけ……と。そうか。私、自分の性経験を思い出そうとして……固まってたんだ。

「どうしたのじゃないですよ。妙な暗示入れようとしないでください」

「はは、ごめんごめん。僕だって男だから、そういう気持ちもあるってことにしておいてよ」

 ……どうやら私は、催眠で記憶を操られていた。アルスさんとのことを忘れて……レシヒトさんとのえっちが、初めてだと思い込むように……つまり、自分が処女だと誤認させられていたらしい。

 

「レシさんでも、そういうの気にするんですね。ちょっと意外です」

「気にするってことはないんだけど……どうせ初めてするんだったら、この方が盛り上がるかな? なんて」

 ふむ。レシヒトさんって、女の子を気持ちよくさせるのめちゃくちゃ上手だし、相手が処女とか処女じゃないとか、あまり気にしないイメージだったんだけど。そういうの……気にする、のかな。私、初めてじゃない……。

 うう。嫌だ。こういうとき、すぐ後ろ向きに考えてしまう癖がある。こんなことで嫌われることはないと思うんだけど、わかっていても。

 

「ごめんなさい。私……元彼が居るんで、初めてじゃないです。知ってますよね、アルスさん」

「うん、知ってるし気にしない。嫌いにもならないよ」

「うー」

 言わないように我慢したのに、先回って言われた。こういうのはずるいと思う。

 

「しかし、さすがに元彼ごと忘れるのは無理だったか」

「処女に戻れたら面白かったかもですけど、だめでしたね。レシさんでもそんなことあるんだ」

「いや、むしろ催眠ではよくあることだよ。ミリちゃんが特別ちょr……すごいだけで」

 こら。今ちょろいって言おうとしたな。分かりやすい、というかわざとらしいんですよ。

 

「まあそれはいいですけど。するのも、するなら、するで、いいけど……うう」

「何かあった?」

「子供できちゃったら、困るから……」

 私は、宮廷魔術師だ。クウィーリア陛下を支え、軍事に、内政に、あらゆる聖業を解決して……国を、支えなきゃいけない。子供なんて、産んだり育てたりしている暇はない。

 それに――出産って、めちゃくちゃ痛そう。やだ。絶対やだ。怖すぎ。

 

「ああ、これ使うよ。もう塗っておくか……」

「あ、タピウスさんだ」

 タピウスの樹液。携帯用の小箱に入ったやつだ。レシさん、用意いいなあ……つまり、最初から私と、その……するつもり、だったんですよね。うう、なんか緊張する。

 でもレシヒトさん、いつの間にそんなの手に入れたんだろう。

 

「確か10分くらい掛かるんだっけ」

「だったかな。レシヒトさんは使ったことあるんですか?」

「……リルさん、に……教えてもらった」

「ふーん?」

 教えてもらった。なるほど、つまりリルちゃんが、レシヒトさんに『これでミリセンティアさんをモノにしてきてください』などと宣ってこれを預けたんだろう。めっちゃやりそう。というか絶対やる。あの子はやる。

 

「そういうわけで、タイムラグもあるので塗っておこうと思う」

「そうしてください」

「うん……んじゃ、脱いじゃうよ」

 レシさんがズボンを下ろすと、おちんちんが出てきた。こうやってちゃんと見るのは初めてだ。もう硬くなっているみたい。これは……うん。アルスさんのより一回り以上小さい、と思う。

「あ、よかった。これくらいなら痛くないかも」

「本物もそれ言うんだ!?」

「あっごめん……」

 傷ついたかな。男の人ってそういうの気にするっていうよね。でも、大きすぎて痛くて最後までできないの、やっぱり申し訳なくなるし……素直に嬉しいわけですよ。てか本物ってなに? 私の偽物が出回っているのか?

 

「ええと……ここから開けるわけね。ああわかる、こうだな。えーと、隙間なく塗らないと駄目だよねこれ」

「ふふ」

 レシヒトさんが不慣れな小箱と刷毛で、恐る恐るおちんちんに塗膜を施していく。なんか可愛いぞこれ。

 

「てかこれなんか気まずくない? この世界の人たち毎回こんなことしてんの?」

「あー、女性の方が塗ってあげるとか聞きますね……。アルスさ……えと、元彼さんにはしたことないんですけど」

 『アルスさん』って言おうとしたけど、なんとなく言い直しちゃった。別に意味があるわけでもないんだけど、何となく名前で呼びたくなかったから。でも、どちらにしても心が少し痛む。なんでだろう。

「へえ。確かに男は喜びそうだけど」

 アルスさん、『そんな娼婦の真似事をすることはない』とか言ってたんだよな。なんていうか固い人なんだと思う。

 

「えーと、レシさんは塗って欲しいですか?」

「……いや、とりあえず今回はいいかな。それよりも……ミリセンティア。これから聞くことに素直に答えて」

「あ……」

 今、よびすてに、された。じゃあこれは――命令。命令には、従わなきゃいけない。

 

「君は……レシヒトと、セックスをしたい?」

「したい……」

 すっと言葉が出た。したいに決まってる。なんやかや普通にしてたけど、今でも意識を向ければ股間はじゅくじゅくで、正直何でもいいからイかせてほしいくらいで……それが、彼とのえっちだったりしたらもう最高と言えた。

 

「ミリセンティア。答えて。それは、僕と君が恋人同士だから、したいということ?」

「……」

 少し、考える。私は……別に、彼だったらいつでも……だって、絶対気持ちいいでしょそれ。付き合ってなくてもそりゃ、して欲しいに決まってる。このぐずぐずにムラムラした身体を、彼に全部委ねちゃったら……そんなこと、考えるまでもなくめちゃくちゃ素敵なことだ。

 

「ええと、つまり……」

「したい。恋人とか関係ないです。したいです」

「ん。そっか」

 それは素敵すぎることで、思えばずっとそうして欲しかったし、これから何度だってそうされたいし、今日だって朝までそうして欲しい。でも、なんでだろう。

 

 ――なんだか、それは良くないことのような気がして……涙が、出てくるのは。

 

「うっ……したい、よ。したいもん、でも、なんで? なんでぇ……? ぐす、っ、ふぇ、ふえぇえ……」

「……よし、よし」

 それをすると、誰かにとても……とても、怒られるんじゃないかって。怖くて、怖くて、とても怖くて。怖いのは苦手。怒られるのは嫌。だって、そんなことになったら泣いてしまうから。

 

「したいけど……えう、ぐすっ」

「うん」

「私……してもいいんだっけ? この人と、えっちしてもいいんだっけ……?」

 ぶわぁ。涙が一気に溢れてきた。頭がまたぐちゃぐちゃになって、怖くて、たまらなくて。おかしいよね。そんなはずないのに。レシヒトさんは、私の恋人で……そんな彼と、えっちして、何も悪いことなんてないのに。

 

「ご、ごめんなさい……えぐっ、うっ、ぐしゅ、ご、ごめんなしゃい……」

「そう、だね……」

 気まずそうな笑みを浮かべたレシヒトさんの手が、私の前に翳されて――。

 

「ほら、ミリセンティア」

「ぁ……」

 あ、これも……めいれい、だ。

「――また、もう一度……深い催眠状態になってよ」

「ぉ、あ――」

 おご、とか、ごぼ、とか、涙や涎にえずく音を立てて――私の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 ――。

 

 

「ミリちゃん……それじゃあ、『怒られないセックス』するからね。入っちゃうよ。ほらっ」

「――ふ、ぁ? お、ぉぉおぉぉ? お、ごっ♥」

 強烈な快感が、意識を無理やり現世に引き戻した。どうやらレシヒトさんは背中側にいる。私から後ろは見えない。でもはっきり理解できた。

 彼のおちんちんが、私のおまんこに……ずぶりと、突き刺さっている。

 

「奥までしてあげる。腰をこうして持ち上げると、深く入るだろ。奥のところに、ぴとって当ててあげる」

「お゛♥ あ、ぐ、あ、あー♥ あー♥」

 何? 馬鹿みたいに気持ちいい、気持ちよすぎ。何これ? 元彼のときは絶対こんなんじゃなかった。いくらなんでも異常すぎる。私のおまんこは、こんな風になるように出来てたんですか? だったら今までのえっちは何だったんだ。意味がわからない。

 

「動かなくても気持ちいいだろうけど、ミリちゃんはすぐ腰が動いちゃうねえ」

「ぁ、っこれ、これむり♥ だってむり、むりだもん♥」

 全身がずっとゾワゾワしている。わなわな震えるのが止まらない。がくがく暴れたり、背を曲げて丸くなったり、身体が勝手に踊り回る。じっとしてるの無理。

 

「おっと、丸くなっちゃだめだ。それをすると抜けちゃうからね。動きたくなったら、お尻を後ろに、こう。しゃくり上げるのがいいんだよ」

「ああぁああ♥ これ、これっこれっ、これえぇえええ♥」

 気持ちいい、気持ちいい、お尻くねくねするのが止まらない。上半身は、べちゃ、っとベッドに潰れ、両手でシーツを掴んでいる。

 

「ほら、動いてあげるからね……じゅぷ、じゅぷ、気持ちいいねえ」

 ちゅぴ。水音とともに……レシヒトさんが言った通り、ずりゅっと抜けていく感触。ぶるぶる震えが込み上げる。自然にお尻を上げて追いかけてしまう。

 

「ああああぁあ♥ うあああぁ、あ、あ、ああぁああ♥ あぁああぁっ♥」

 泣き叫ぶみたいな声が出てる。私、死ぬほど気持ちよくなってる。彼を膣内に迎え入れて、嬉しくて嬉しくて、自分からへこへこ、腰振っているんだ。大口開けて叫んでいるから、涙とか涎とか、鼻水とか、どばどば出まくってるのがわかる。

 

「幸せだね。僕とエッチできて、ミリちゃんは嬉しいね。大丈夫だよ、これは誰にも怒られない。誰にも、文句を言われない、『怒られないセックス』だからねー」

「あっ、あは♥ えへっ、えへ、しゅき、しゅき、しゅき、レシしゃんしゅきぃぃ♥」

 怒られない、と言われたら、急に全身が『ふにゃ♥』って喜んだ。そうか、これ悪いことじゃないんだ。してもいいんだ。だったら、気持ちよくなっちゃっていいんだ。

 

「ミリちゃんの中、すごいよ、ぐちゅぐちゅで、きゅうきゅう締め付けて、すごくエッチな形してる」

「えへへ、やぁあぁ、やだ、やだもん♥ 私、えっちじゃないもん♥」

 我ながらちょっと無理があったかも。だって、腰ほんとに止まんない。たまに、思わず背中を丸めちゃって、レシヒトさんの動きが止まっちゃって、寂しくなっちゃって……またお尻を突き出して、ちゃんと、上手に、できてるかなぁ……。

 

「腰、動かすの上手くなったねえ。えらい、えらい。ミリちゃんはかしこいなあ」

「えへ、しゅき、しゅき♥ えらい? ミリちゃんえらい?」

 くちゅ、ちゅく、じゅぷ。お尻はこうやって、くい、くい。これ、これが気持ちいいんだ。レシさんも気持ちいいのかな。私ばかり気持ちよくなってないかな。でも、これ、ほんとに、気持ちいいから、わかんなくて、幸せ。幸せ。

 

「えらいよ、えらいえらい。気持ちよくなるのが上手だね。お、これイくでしょ、きゅうって」

「あ♥ うん、イっ、く、イぎゅ、イ……くぅぅ♥」

 ぎゅううう。シーツを掴む。口がぱくぱくして、舌が出て、涎がべちょべちょ、あ、これ汚しちゃうな……。ここ、いつものレシヒトさんの部屋じゃない。宿場。

 ぼんやり見えるのは黒いシーツ。ああ、よくできてる。汚れが目立たないようになってるんだ。私達みたいな客がいるから。

 

「よしよし、イくのが上手だねえ。イった後は奥を、ぐりぐりするからね……」

「おご♥ あめ、らあめ……イっで、イっでゆからぁ……♥」

 これはだめなんですよ。イってるときにそれされると、女の子はだめになってしまうので。好きになってしまうので。こういうのは王国立法で規制しなきゃだめ。じゃないと、国内の女の子みんな、レシさんこと好きになっちゃうでしょ。それは私がこまる。私の考えおかしくないよね?

 

「イくの長くなるよねー、気持ちいいねー。ほら、なでなでだよ。奥押し込んだまま、なでなでするからね……」

「あはあ……♥ しゅき、しゅきぃ……♥」

「収まったら、もうちょっと動くからね。ほら、またすぐ……イきそうになるでしょ」

「っあ゛は♥ あ、あー♥ あ゛ー……♥ だめ、だめええ……♥」

 ぞわぞわぞわ。長ーく深ーくイった後のおまんこを、ぬちゅぬちゅゆっくり擦るのは、絶対だめです。私はそういうのだめだって知ってるんだぞ、かしこいので。そんなのされたら幸せになっちゃうでしょ。私、一生レシさんのものになっちゃうでしょ。だめですよそんなの。

 

「駄目じゃないよー。誰も怒らないし、気持ちよくなっていいんだよ。これは『怒られないセックス』だからね。ミリちゃんは悪くないよ、してもいいんだよ。もう一回、バカになるまでイっていいよ……」

「えへっ、いいの? いいのこれ? うれしい♥ うれしい♥ うれしいよぉお♥」

 くにゃくにゃになった身体に、またぞくぞく寒気が走って、腕や脚に力が籠る。シーツ掴んで、声が、出る。

 

「ほら、ここ、気持ちいいところ。ごりっ、ごりって、何度も擦れて……好きでしょ?」

「しゅきっ♥ あっ、あああああ、あ、あっ♥ ああぁぁぁああぁっ!!」

 大きいのきた。高い声出てる。涎と、涙、あと鼻水も。それから多分、脳みその中で、なんかだめな甘いやつも、どばどば、どばどば、溢れてる。

 

「気持ちよくなっていいよ。好きになっていいよ。幸せになっていいよ。ミリちゃんのこと、世界一幸せな女の子にしてあげる。ほら、速くするからね。っ、ほら、ほら、ほら、好き、好き、好き、大好きだよ、ミリちゃん……!」

「しゅき、しゅき、しゅきしゅき♥ イ、イきそお、イっていい? イっていい?」

 いいのかな。私、していいのかな。気持ちよくていいのかな。好きでいいのかな。ねえ。イっていいのかな。いいの? ほんと? 怒られない?

 

「いい、よ、ほら、一緒に……『怒られないセックス』で、イっていいよ……!」

「あ、あああっ♥ イきゅ、イ、っ、お゛、おおぉぉぉっ♥ イ……きゅっ♥」

 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、奥にごりっ。あ、ぐりぐりって……これ、あ――。

 

「ミリちゃん……大好きだよ……!」

「おご♥ お゛ぁ♥ っ、あ、おぉおおおぅああぁああ……っ♥」

 

 そういえば……何か、悲しいことがあった気がしたけど――。

 

 

 ――ぜーんぶ、嬉し涙で、流れていった。

 

 

◆ 恋人たち その3

 

 

 ――。

 

 なおも痙攣を続けるミリちゃんの後頭部に、左手を乗せて……。

「気持ちいいね……最高に気持ちいい……このまま落ちてしまえば、もっと気持ちいいよ……。ほら、3、2、1……ゼロ」

 ぐい、と押し込んでやる。

「ぁ゛――」

 

 ――ミリちゃんは、合図と同時に、『くしゃ♥』と潰れるみたいに……催眠の泥沼へと、沈んだ。

 

 性的に深く満たされた後、すぐに催眠トランスに沈むと……あの甘く心地よいセックスの余韻が、最高に豊かな精神によって、無限にも広がって感じられる。これは本当に気持ちいい。ミリちゃんは今、本当に幸せになっているはずだ。

 

「ふう……」 

 ちゅぽ……と音を立てて、ミリちゃんの膣から――指を引き抜く。右手の中指と薬指。さっきまでミリちゃんが……僕のペニスだと思っていたモノだ。

 

「これで、良かったのかなあ……」

 なで、なで……。左手で、ミリちゃんの頭を撫でながら……思わず、ため息が出た。

 なにが問題だったかと言えば……まあ、時を少し、遡ることになる。

 

 ――『何なんですかアルスって、誰なんですか……?』

 

 まず最初に。ミリちゃんは、アルスのことを忘れてしまっていた。そんな暗示は入れてなかったんだけど、催眠暗示で『彼氏』という席に僕が入ったときに、存在ごと弾き出してしまったのだろう。

 しかし、それではさすがに記憶に無理が多かった。凱旋式の夜のことはどうにか辻褄が合ったようだが、セックスするかどうかという段でフリーズしていたようで。仕方なく、そこでミリちゃんを催眠状態にしたわけだが――。

 

 

 ――。

 

 

 ――思い返してみると、こう。

 

「ここは……あなたの心の、とても深いところです……。ここでは……私の質問に、とっても素直に……答えることができる……。力の抜けた喉も、質問に答えるためになら……声を出すことが、できるようになりますよ……」

「ぁう……」

 突然固まってしまったミリちゃん。視線が左右に揺れ、しきりに瞬きを繰り返し、肩や腕が不安げに揺れて……混乱しているのは明らかだった。やむを得ず、そのまま催眠状態に落としたので……とりあえず、原因を探ることにする。

 

「貴方は……何かを考えようとして、困っていたようでした……。何か、分からないことがありましたか……?」

「……はい」

 いいね。この聞き方で『はい』が返ってくるのは、充分に深い催眠状態だろう。普通なら、こう聞かれたら『分からないこと』を答えたくなる。でも、催眠状態ではそうはなりにくい。考える力が鈍っているから、『分からないことがあるか』と聞かれれば『あるか、ないか』を答えることが多い。

 

「では……その、分からないこととは、何でしょうか……?」

「えっち……誰としたか、わかんない……」

 ふむ? セックスの相手。過去の相手ってことだよな。少なくとも、アルスとはやっている。アルスの他に居たなら、ここでフリーズはしない、か。つまりミリちゃんの処女を頂いたのはアルスだ。まあ自分は、そんなもんには頓着しない性質だけど……。

 ……いや? 使えるか、これは。

 

「分かりました。では……貴方が、以前にセックスをした相手は……アルスという騎士です。貴方は催眠暗示によって忘れてしまっていますが、彼は貴方の以前の交際相手で……もう別れてしまっていますが、貴方は彼と、性交をしていましたね……」

「あ……」

「思い出せて……安心。とても安心します……貴方は処女ではないし……以前の相手のことも思い出すことができました……」

 まあ、アルスのことはミリちゃんが勝手に忘れちゃったんだけど……。それはとりあえず気にしなくていいだろう。あとは、もっともらしい理由があると納得しやすい。ここで使えるのが、さっきのやつだ。

 

「私は……貴方に、自分自身を処女だと思い込ませようとしていましたが……記憶が上手く整理されなくて、貴方は違和感を覚えていましたね……。でも、もう大丈夫。私はその暗示を取り除き、貴方に正しいことを思い出させました。あなたは処女ではなく、元彼のアルスと経験がありましたね……」

 こんな風に、『今まで嘘を信じていたけど、本当のことを教えるよ』とか、『元に戻すよ』という言い方で伝えると、人はそれを素直に信じて受け入れやすい。たとえ……たとえそれが、別の嘘を含んでいたとしても。

 

「ぁは……」

 そう。『ミリちゃんは処女』は真っ赤な嘘で、『ミリちゃんはアルスと初体験を済ませた』は本当だけど、『アルスは元彼で、もう別れた』はやっぱり嘘だ。でも当然、信じてしまう。だって、その嘘はさりげなく仕込まれていて、催眠状態の人間では気付きにくいし――。

 

「さあ、本当のことを思い出した貴方は、とても安心します……。この声に従うことで、とても……安心することが、できましたね……」

「……ぇへ……」

 ――だって。何よりそれは……ミリちゃんが、何よりも信じたい嘘なんだから。

 

「この声に、従うことは……とても、安心すること。だから、命令されることは、とても気持ちがいいこと……。そのことは、この深い催眠状態から、覚めても……変わりません……」

 こうして、一度従うことでポジティブな感情を得た後は、続く暗示は一気に入りやすくなる。ちょろ神様であるミリちゃん相手なんて、実際そこまで気を遣わなくても何でも入るといえばそうなんだけど……今のミリちゃんは、どう見ても不安定だ。使える要素は使った方がいい。

 

「そう、命令……もし、貴方が目を覚ましているときに……この声で、レシヒトの声で、『ミリセンティア』と名前を、呼び捨てにされたら……貴方は、その後の言葉を、命令として受け取ることができます。どんな形でも……命令には、必ず従う……従うと、とても気持ちいい……」

「……ぁ……」

 これは、以前リルにも入れた暗示とほぼ同じ。他人の声で発動するようなことになると困るから、濫用は危ないんだけど……とりあえず、応用が利いて便利なので、しばらく使うことにする。相手がとてもちょろい……もとい、賢いことが分かっているので、語形を限定せず、より柔軟な命令ができるような暗示にしてある。

 

「練習してみましょう……ミリセンティア、『はい』と返事をしてみて」

「……はい……」

「ほら気持ちいい……命令に従うことができて、とても幸せ……安心しますね……」

「ぁあ……♥」

 こうした強化も含めて、定番かな。ミリちゃんくらいの被暗示性があると、運動支配、感情支配、認識改変、下手すれば記憶支配や感覚支配もこの『命令』で入ってしまうかもしれない。しばらくは支配して遊ぶのではなく、ミリちゃんの精神的安定のため、必要に応じて使うことになるだろう。

 

「それでは……ゆっくり目を覚ましましょう。ここであったことは、この深いところでしっかり覚えて……表の意識には、持っていきません。すっかり忘れてしまっても、ちゃんとここに……残っているから、大丈夫。目を覚ましても……元彼のことは覚えているし、私の命令には、素直に従うことができますよ……」

「ん……ふ」

 この言い回しもずるいんだよな。『暗示』的に、アルスを元彼と言い切っているんだから。まあ、使えるものは使っていくと決めた。

 

「それでは、私が3つ……3つ数を数えると、すっきりと目覚めることができますよ……」

 

 さて……これだけ周到にやったのだから、上手く行ったのかと言うと――。

 

 

 ――。

 

 

 ――『してもいいんだっけ? この人と、えっちしてもいいんだっけ?』

 

 ミリちゃんが絞り出した言葉が、これ。いやはや、ちょろ神様と思っていたけど、なかなかどうして……本当に芯の強い女性だ。そして本当に根深く……他者に拒絶されることを、恐れている子だった。

 泣きじゃくって謝りながら、彼女は訴えた。『したいもん』『なんで?』『ごめんなさい』。見ていられなくて僕は……彼女をまた、催眠に沈めた。

 ああ、うん。やっぱりさっき入れた『命令』、役に立つね。くそ。

 

「ほら……命令に従って、君は深い……深い、催眠状態になることができた。従うことができて、とても気持ちいい……とても、とても安心するよね……」

 そう。今度は……やっぱり、実際にセックスをする段になって。ミリちゃんは拒絶反応を起こしてしまったのだ。

 

「少しの間……この、穏やかで、深い場所で……休むことができます。心地よい、微睡みに包まれて……ゆっくり、静かに……この深いトランスに、浸っていることができる……とても、いい気持ちですね……」

「……あぁ……」

 

 ミリちゃんを待たせて、考える。

 直前に、『命令』を使って彼女の意志は確認してある。僕と……レシヒトと恋愛関係であろうと、なかろうと、セックスはしたい。でも、しようとしたら……泣き出した。これ、アルスに義理立てしていると言うよりも……怖い、のだろう。何が?

 

 ――決定的な不義理が?

  いや、どうだ? 案外、そうじゃないんじゃないか?

 

 ――怒られること、責められること?

  そりゃ、あるだろうけど……本当に、それだけだろうか?

 

 ――もしかして。

  これ……リルとの件と、同じなんじゃないのか?

 

 ええとつまり――ミリちゃんは、『催眠でセックスをさせられること』に、怯えているのではないか。それは、即ち……『自分の浮気を、他人の責任にしてしまうこと』だから。え、マジ?

 このままセックスすれば、どう考えても全部、自分が悪い。ミリちゃんは正常な判断を奪われ、催眠によって操られ、レシヒトに手籠めにされる。ミリちゃん自身がやっちゃえって言った通りに。でも、それはどうやらどうしても、駄目らしい。

 

 ――そうすると、全部レシヒトのせいで……ミリちゃんは、被害者になってしまうから?

 

「う、わー……すごいな、それ」

「ん……」

 声に反応して、ミリちゃんは僅かに眉を顰めた。

 

「……答えることが、できますよ……この、深いところで……貴方は、私の質問に……素直に、答えることができる。ミリセンティア、教えて……」

「ぁ……」

 ミリちゃんは……不義理を働くなら、自分の意志で、自分の決断で、自分が加害者であろうと……して、いるってこと、なのか? 

 

「君が……僕とセックス、したくても、怖くなってしまったのは……。君が、本当に恐れているのは……相手を、レシヒトを……彼だけを、悪者にしてしまうこと、ですか……?」

「……」

 

 ミリちゃん、どれだけ……どれだけ、面倒くさくて、どれだけ――。

 

「……はい……」

 

 ――どれだけ、カッコよくて、可愛いんだよ。君。

 

「では……この声をよく聴いてください……」

 ああもう、これじゃあもう、こうするしかないじゃないか。

 多分できるよ。このままミリちゃんを犯すのも、やろうと思えば。いくら不安定だといっても、泣いてフリーズしてしまっていても、まあやりようはあるんだ。いつものように、ずるい手段で致命的なところを誤認させて、騙してヤってしまえばいいんだよね。

 

 ――『だったら催眠掛けてくださいよ。悪いやつを』

 

 思えば、そうしてくれと言ったのはそもそもミリちゃん自身だ。だから、罪悪感を吸い上げて気持ちよくなってもらって、僕を彼氏だと思い込むようにさせた。ミリちゃんが不安にならないように。

 それを確かめて、自分で決めたことだから大丈夫って暗示を入れて……うん、やれるだろうな。そうして、アルスとは別れたっていう嘘を強調してやれば充分。ミリちゃんとこの場でセックスするのは、僕にとってはそんなに難しいことじゃない。

 

「これから……貴方と、私は、セックスをします」

「……っ」

 びくっ。ミリちゃんの身体が強張った。……うん、やっぱりだ。ミリちゃんは覚悟ができている訳じゃない。不安になり続けるのが嫌なだけで、むしろ……覚悟ができてないから、催眠に頼ろうとしたんだ。だから、こんなことになってる。この状態で強行したなら、後で暗示を抜いた時、ミリちゃんの情緒はめちゃくちゃになってしまうだろう。

 弱い気持ちから、催眠に逃げようとして……でも、強いミリちゃんは、それを良しとしていない。そんな感じか。いや、思った以上にめんどくさいね君。大好きだよ。

 

「……これからするのは、『怒られないセックス』です。私と貴方は、誰からも怒られない……特別なセックスを、することができます。『怒られないセックス』と言われると貴方は、とても安心して……その行為に熱中することが、できるようになります」

 だったら、こうしてあげよう。ミリちゃんを不安から守り、やりたいことを全部やって、その上で――後で苦しむこともないやり方。あるよ、そういうのも。

「……ぁ」

 ミリちゃんの手を取って、僕の指を握らせる。右手の、硬く伸ばした指2本。中指と薬指だ。

 

「今……貴方が握っているのは、僕の……レシヒトの、ペニス……おちんちん、です。ほら、とても熱くて、硬いですね……。感触を、確かめてみましょう……」

「ん……」

 にぎにぎ。深い催眠トランス状態のまま、おずおずと触り始める。

「ほら。どくどく脈打つ感覚、皮に覆われた幹、先端の丸み、くびれ、滲み出ているぬめる液体。これは彼の男性器ですね。だんだん愛おしくなってきます……これから、これが貴方の中に、入ってきますよ……」

「ぅ、あ……」

 はあ、はあ。ミリちゃんの吐息が熱を持って昂奮している。追い込むように重ねた暗示によって、完全に僕の指をペニスだと思っているんだ。

 そう。この指で……ミリちゃんに、セックスを体験させてあげたらいい。それなら、ミリちゃんは安心して僕の彼女として振る舞うことができるし、深い満足も得られるし……罪悪感だって、それほど残らない。指を挿入するのは、もうやったことがあるわけだから。

 

「それでは、このペニスが深く挿入され……貴方の膣の奥深く、子宮を突き上げたとき。貴方は深い快楽に包まれる。全身がふわりと浮くような、高揚感を伴う、ときめくような快感。ずっとずっと欲しかった、大好きな人との交わりに、身も心も震わせて……思う存分感じることが、できますよ……」

 

 ――まあ、そりゃあ僕だって男なわけだけれども……。

 

「ぁ……♥ ぁ、ぁ……んぅ……♥」

 

 単に、今日じゃなかった。それだけのこと。ミリちゃんとは、いずれ絶対……。

 いや、いい。

 こうして、彼女のために催眠で……気持ちいいことを、してあげたら。

「それでは……私が、『怒られないセックス』と言って、これを入れたら……君は、最高の目覚めを迎えることができる」

 

 気持ちいいことを……彼女のために、し続けたなら。

 

 ――もっと、好きになってくれるよね?

 

 

 ――。

 

 

 なでなで。さすさす。そして、ぺりぺり。

 左手でミリちゃんを撫でながら……右手で、ゴムめいた薄膜をペニスから引き剥がしていく。中身は空っぽ。ミリちゃんにいつまで経っても手が出せない今の自分を、まさしく象徴するような、本当にしょうもない物体だ。まあ、いいんだよ。これを情けないと思うような奴に褒めてもらおうとは思わない。

 

「よしよし……ミリちゃんは、幸せだねえ……」

「んふぅ……♥」

 自分が大好きなのは、可愛い女の子を気持ちよくさせることで……それで、ミリちゃんを落とすのも目的のうちだけど……。

 そのために、セックスは別に必要じゃないもんな。催眠術師は、がっつかない。我慢しているわけでもない。ちょっとだけ残念ではあるけど、むしろ概ね満足している。

 

「貴方は……とても深い、催眠状態です。たくさん、気持ちよくなって……たくさん、汗や涙を出してしまったから、水が飲みたいですね。これから、僕があなたに水を飲ませますよ……まずは、身体を仰向けにしましょう」

「……んう……」

 ごろん。両手で補助をして、ミリちゃんの身体を起こしてあげる。自分でも動いてくれたのでスムーズに行った。

 

「それでは……そのまま、ぼーっとしたまま、最高に気持ちよく……水を飲ませてもらうことができますね……。ん、くぷ」

 そう言って自分で、水差しの水をたっぷり口に含む。そのまま――。

 

「ん……こぷ、くぷ、くぷ」

「……ん、んぅ。んく、ん、くふ」

 

 ――唇を重ねて、少しずつ……水を、飲ませてあげた。

 

 さあて。

 後はどうやって、優しくしてくれようか――。

 

 

 ――。

 

 

「えへ、えへへー。レシさん、レシさん。ちゅーしましょう」

「はいはい、ちゅー」

 朝。ミリちゃんはすっかり僕とセックスしたつもりで、始終ニコニコしていた。

 

「うー、まだ少し歩きづらい」

「昨日イきまくってたからねえ」

「ううううう、レシさんきらい」

「きらい?」

「……すき」

 まあ、こんな調子である。とりあえず、朝からいっぱい撫でておいた。

 

 

 ――。

 

 

 早起きして、早々に部屋を引き払い、荷物をまとめて酒場まで向かう。今日もまた、この街道を東へ突き進むのだ。ちょっと気が滅入るな。

 

「操舵手さん、どんな人でしょうね」

「さあ……あの暴走車両を、ちゃんと運転できる人だといいんだけどね」

 カララン。酒場のドアをくぐると、宿のおやじさんが出迎えた。

 

「おう、早いね。助かるよ」

「どうも。おはようございます」

 おやじさんに会釈をする。店内には意外と他の客もいるようだ。自分たちのように、今朝出立する者たちが集まっているんだろう。

 

「しかし、昨夜はお楽しみだったね」

「あう」

「そのセリフ本当に言う人いるんだ……」

 何ていうかもうこれ、一種のファンサービスだろ。

「やあ、2部屋取ってもらったのに、あんたたちやっぱりそういう関係だったみたいじゃないか。悪いことをしたな」

「い、いえ……そんなことはない……こともない、ですけど、それはですね」

 ミリちゃんは真っ赤になっている。彼女ということでも、これはやはり恥ずかしいらしい。

 

「それよりも、操舵手は見つかったんですか」

「ああ、そこに座ってる女がそうだよ。なんでも傭兵だそうだが、舵取りとしての腕も確かだ」

「女? 傭兵?」

 店内にはまばらに人が入っている。その中の一席、おやじさんが指した方を見ると……。

 

「よろしく、レシヒト。ミリちゃン」

 見覚えのある、褐色肌に赤毛の女が座っていたのだった。

 

「え? ラヒーシャさん……?」

「なんだ、知り合いかい? それは話が早くていいがね」

「ラヒーシャ・バライ。魔術騎(ヴィークル)は、得意」

 そう言って、ラヒーシャは荷物をまとめて立つ。意外な話があったもんだ。

 

「知り合いだったら、紹介料は負けておくよ。一部屋無駄に取らせちまった分もあるしな」

「えっ、いや、それは悪いですよ。私達、経費は出ていますんで……」

 あっちのやり取りは、とりあえずミリちゃんに任せておくとして……。

 

「ラヒーシャ。得意って、乗ったことあるの?」

「ある。一通り、できるよ」

「ふーん。僕らはあっち……東に向かうんだけど、いいんだね?」

「ゥン。山、どかすの、見たい」

 あ、はい。そういうことね。じゃあ……報酬やらはあっちの話が付いたらミリちゃんに決めてもらうとして……。

 

「そういうことなら……よろしく、ラヒーシャ」

「ゥン。よろしく」

 握手した手は、思ったよりもだいぶ、節や傷が刻まれていて……『傭兵』と言われた彼女の経歴を、思い起こさせるものだった。

 

 

<続く>

4件のコメント

  1. 読ませていただきましたでよ~。
    今回はアルスさんとミリちゃんの二本立て。
    アルスさんは置いといて(置いとくなw)、リルさんが本当にやばいでぅねぇ。
    ちゃんと教えたのは一回だけで、実践は数回だっていうのにかなり催眠術を使いこなしているのがやばすぎる。下女という立場で色んな人を見ているのが功を奏してるんでしょうが、才能がありすぎるのでぅw

    そしてミリちゃんはミリちゃんで幼児返りが
    普段から気を張ってる反動なのでぅが、あまあまミリちゃんはこれはこれで。
    みゃふとしてはきりっとしてるミリちゃんが抵抗虚しく落とされていくほうが好みなのでぅけどねw(落とされたあとにはそこまで興味がない)
    そんなわけでアウレイラさんに期待w

    それにしても、ミリちゃんにしろリルさんにしろ、互いへの理解と信頼が凄すぎる(色んな意味で)
    リルさんの内心のツッコミもミリちゃんのリルさんならやるっていう心境も面白いし、ミリちゃん(リルさん)が言ったセリフを本物のミリちゃんも言うっていうシチュに至っては再現度の高いミリちゃん(リルさん)に感動を覚えましたでよw
    こういう仲のいい主従はもっと見たいところでぅ。

    前回ネクタイにツッコミを入れたわけでぅが、今回出てきた魔術騎にはテノヒラクルー。
    こんな感じの設定を反映した技術進歩はいいと思いますでよ。
    まあでも、スチームでタービン回してついでに歯車回して車輪を回すのならば歯車からの機械の発展はありそうだなぁって気もしますけど(というか、スチームだけ技術水準がおかしいw)
    ミライさんは置いといても、誰か歯車とかテコの原理を使って発明をしているやつはいないんだろうか・・・?

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  2. いやー……とりあえず4人の内面がだいぶ明らかになるとともに、
    ミリちゃんとアルスを取り巻く色んな事情が見えましたね。
    結局は誰も悪くなくて、互いに不器用な二人が生んだ悲しいすれ違い

    なわけがないんだが???????
    全容が明らかになって改めて考えると、こんなんアルスがほぼほぼ悪いでしょ。
    既婚者の視点からすると、「こいつ結婚なめてんの?」なんですが。
    いや、風俗嬢を見下してるのとか家事を手伝わないのとかは別にどうでもいいですよ。セックスが下手なことも。

    双方の同意のもとに締結される契約って、要するに互いのギブとテイクのすり合わせなのですよ。
    ましてやそれが生涯を共にするパートナーとなれば尚更。
    で、こいつにその視点が全くと言っていいほど見えない。
    「自分が与えたいものを相手が求めるか?」
    「自分が求めるものを相手が与えてくれるか?」
    「相手が与えてくれるものを自分が求めるか?」
    「相手が求めるものを自分が与えられるか?」
    を考えて一切ギブとテイクがかみ合ってないんだが????
    win-winどころかlose-loseの契約なんですよ。

    いや、もちろん双方間の問題ですから一切ミリに非がないとは言いませんが?
    でもミリちゃん、恥を忍んで「自分が求めるもの」をちゃんと口にしてくれましたよね?
    アルスのような堅物な騎士に対して「首を絞めて欲しい」って求めるの、結構な覚悟だったと思いますよ?
    でもアルスはそれを無下に却下してますよね?
    自分がそれを与えられるように努力するかせめて考えるなり、互いのギブとテイクについて話し合う機会なんてあったと思うんですよ。
    それを一切放棄したらそりゃミリちゃんも何も言えなくなって当然なんですよ。

    「悪い人じゃない」っていうのは、「悪いことをしない人」なだけじゃだめなんですよ。
    して当然のことをしない、「不為(「ふため」ではなく「なさざる」の方)」も十分に「悪」なのではないでしょうか?
    要するにこいつは「自分が与えたい」「自分が求めたい」で思考が停止してる究極のエゴイストなんですわ。

    ……あっ

    えへへ、次回も楽しみにしてますー!(猫かぶり)

  3. あなたにそれでも、体験11。
    や、それでも体験12。
    ありがとうございましたあ。

  4. >みゃふ様
     いつもありがとうでよ〜(?)

     リルミリはどちらもクソ女で、賢くて強い女なのですが、クソ要素も賢いところも強いところも全部全然違っているところが好きです。
     二人はやっぱ付き合いも長いし、そのへん分かりあえている感じが出ていると良いですね。
     リルちゃんの演じるミリちゃんはところどころ怪しかったですが、ミリちゃんは「彼氏のが大きすぎて痛い」というのを経験豊富なリルに相談していたことがあり……それを覚えているリルが、ミリちゃんのつもりでレシさんの控えめサイズを見たため、ああいう出力になったわけですね。
     本物も当然そのようになる、と。実はちょっぴり気にしているんですよレシヒトくんは!

     アウレイラさんに何を期待すればいいのかは作者もよくわかりませんです。

    >ティーカ様
     アルスは、高潔な騎士としての一般像から外れることを恐れてしまうので、もう少し一般的な女性を見つけるべきだったんですけどね。
     目の前の女の子がいくらこうだと言ったところで、彼は普通から乖離したそれを信じることができないのです。
     コミュニティの価値判断を内面化してしまうこと、人間よくありますね。気をつけたいものです。
     lose-loseになっていたのは本当ですが、彼だけを責めるのもまた違う……と言える程度には、ミリちゃんもやらかしてますからねえ。

    >ハナツ様による投稿
     これやっぱBOTですよね?
     

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