リアル術師の異世界催眠体験16

◆ アイシャちゃんと遊ぼう

 

 

 ――退行催眠。

 

 催眠療法などで用いられるものだ。結局は、若返ったり子供に戻ったりしたと、暗示で思い込むだけなんだけど……人間、不思議なもので。そうして、戻ったつもりになるだけで――思い出せなかった、当時の記憶が蘇ったりする。

 

 忘れる、つまり、人間の記憶が失われるという現象には、様々な形があるけど。その多くは、『しまってあった記憶が消える』のではなく、『しまってあった場所がわからなくなる』とか『しまってある引き出しが開かなくなる』とか、そういった比喩が適切であると言われる。つまり、記憶自体はあるけど、思い出すことができないということだ。

 これは、催眠による健忘にも同じことが言える。暗示を入れた後、それを忘れさせる場合でも、綺麗さっぱり消えてなくなるわけじゃない。あれは『覚えているけど、思い出さない』という状態になっている。人によって、掛かり方によって、『覚えているけど思い出そうとしない』だったり、『覚えているという事実自体思い出さない』だったり、色々なパターンがあるけど。

 

 とにかく、アイシャは『ラヒーシャがいつ、どのように生まれたのか』は、知っている可能性が高い。恐らくは、忘れてしまっている――つまり、思い出さないようになっているだけ。

 そのように忘れてしまっている理由は、いくつか考えられるけど……まず単に、子供の頃のことなので覚えていない場合。良くある話だ。あとは、ラヒーシャがその記憶を、アイシャから隠している場合。この場合――ミリちゃんが懸念している通り――ラヒーシャには、何か裏があるということになる。それから――。

 

「アイシャ、君は今……12歳だったね。12歳の可愛い女の子だ。自分がどこで、どんな風に暮らしていて……どんなことを考えていたのか、思い出すことができるよ。だって、今、12歳なんだから……当たり前だよね」

「ぁ……あぅ?」

 

 ――正直、こうしたやり方は気が引ける。だって、多重人格ってやつは。それは、解離性障害とも呼ばれていて。

 

 その主な原因とされるのは――過度のストレス、心的外傷。つまり――。

 

「アイシャ。12歳の君は……ほら、お兄さんの言葉に、ちゃんと答えることができる。答えると、とっても幸せだ……」

 ミリちゃんが『おじさんの間違いでは?』と言いたげな視線でこちらを見ているが無視する。

「アイシャは……ラヒーシャを知ってる?」

「うん……知ってますよ……えへへ」

 知ってるよな、そりゃそうだ。そうか、12歳のアイシャは大人には愛想よく敬語を使うんだな。

 

「よしよし。いい子だね、アイシャ。ラヒーシャは、いつから君の中にいるんだろう?」

「……えっと、小さいころから?」

 12歳から見て、小さいころか。となるともっと下だな。

 ……もっと下、ね。嫌になる。

 

 そう。

 

 解離性障害、つまり――この子は、そんな小さなころに、何か大きな心理的ショックを受けている可能性がある、ということだからだ。

 

「アイシャ。ラヒーシャと初めて会った時……君が、自分の中に彼女を初めて感じた時のことを覚えている?」

「ええ? んんんー、わかんないですね……小さいころだから……」

 

「そう、か……アイシャ、君は……12歳の君は、どこで暮らしているんだい?」

「えっとー、聖地って呼ばれてます」

「聖地?」

「エルンスヘイムですね。エルミル教主国の中心都市です」

 ミリちゃんが教えてくれる。なるほど、そういう感じなのね。ミリちゃんは賢くて頼りになるなあ。

 

「うん、そこ。南正教会にいるんです」

「ミリちゃん」

「はいはい。えーっと、すみませんあんまり詳しくないんですけど、エルミルは南北で宗派の違いがあってですね。こう名前とかあったんですよ、いや調べたら分かるんですよ、これでも外交とかしますので! 今ここではちょっと覚えてないというだけで」

 うんうん。そうだね。ミリちゃんは賢くて頼りになるもんね。

 

「うん、うん。ふふっ、えへへ」

「とにかく、もう少し小さいころまで戻らないと分からないみたいだから……アイシャ、いいかい?」

「うん? いいですよ……あっ――」

 改めて、アイシャの額に掌を被せる。瞬時に身体が弛緩し……深い、催眠状態となった。

 

「ほら……深く、深く落ちて……ぐる、ぐる……どんどん、どんどん戻っていく。何年も……何年も、戻っていくよね。ほら、12歳……11歳、10歳――」

「あっ、ああっ、あっ、あっあ――」

 

 

 ――。

 

 

 ――そうして、アイシャに退行催眠の暗示を施していったわけだが。

 

「うん、おぼえてるよ?」

「おっ、じゃあその話を聞かせてくれるかな?」

 

 

「ふふっ、ふふふっ、あそんでくれるの? えへへっ」

 

 結局、変化が見られたのは。……彼女が、5歳まで遡ったときだった。

 

「アイシャちゃん、それはいいんだけど……ラヒーシャのこと聞いてもいい?」

「うんっ。ラヒーシャちゃんはなかよしだよ?」

 5歳の『アイシャちゃん』には、ラヒーシャとの出会いについて何らかの記憶があるようだった。しかし……。

 

「ラヒーシャが君の中に生まれたのは、どんなときだったのかな」

「ふふっ、んっと、よくわかんないの」

「さっき覚えてるって言ったじゃん……」

「その年頃の子って、そんな感じですよねえ……」

 いかんせん5歳。コミュニケーションが、とても、難しい。シレニア語? が通じているだけマシな方だろうか。

 

「ラヒーシャちゃんはね、きょーかいのこじゃないよ?」

「あれ? アイシャちゃんは南正教会の子で、ラヒーシャちゃんは違うんですか?」

「うんー。しゅーどーかいのこだよ。あそぼ?」

「しゅーどーかい」

 ……とは?

 

「南正教修道会、教会の兄弟組織とかそんなんだった気がします。すみません自信ないですけど」

「どうしてラヒーシャ、ちゃん、は……アイシャちゃんの中にいるんだろ?」

「わかんないよ。あそばない? あそんでくれるよね?」

「あー、じゃあこうしよう。遊んでからいっぱいお話しようか」

 きゃっきゃと楽しそうな中に、どこか強かな感じ。遊んでくれないと嫌だよ、構ってくれなきゃお手伝いしないよ、と交渉されているような気さえしてくる。

 

「うんっ、あそんだらおはなしするね?」

「……やっぱり話せることはまだあるんだなこの子。子供にしてはなかなか狡猾だ……」

「考えすぎでは? レシさんは自分が性格悪いからって、何でもそういう風に考えるの良くないですよ」

 いや、これ絶対分かっててやってるぞ。まあ、どこまで本当に子供なのかも分からないしな……しょせん暗示で思い込んでいるだけ、という見方もできるわけで……。

 

「うふふ、レシヒトしゃんとミリちゃんだよね?」

「あれ、分かるの?」

「なるほど、今のアイシャの記憶を保持したまま、5歳の『アイシャちゃん』になっているわけだ」

 そういう掛かり方も大いにありえる。というか、既にラヒーシャという別人格を有するアイシャにとっては、これが一番自然な現れ方なのかもしれない。自分が5歳に遡るのではなく、5歳の自分という人格を……いや待て、それ危なくない? 大丈夫か?

 

「アイシャ、君はアイシャだよね」

「うん。わたしアイシャちゃんだよ?」

「なるほど、分かった」

 『アイシャちゃん』、か。えー、どうしようかな。

 

 ……解離している対象への退行催眠ってことは、とんでもないトラウマを掘り当ててアイシャが恐慌状態になってしまう――のようなケースが、まああり得たわけだ。そんなリスクを押して、何でこんなことやっているかというと……まあミリちゃんの安全のため。そんなトラウマを抱えて一人で歩いている得体の知れない人物を近くに置き、旅の舵取りを任せ、寝食を共にする……これはやっぱリ危なすぎる。

 

「アイシャちゃん、何してあそぼっか?」

「わーい。ミリちゃんとあそぶよ!」

 

 アイシャには悪いけど、彼女が本当に『安全な』人物なのか、それは確かめておく必要があった。最悪、アイシャの心に何らかのダメージを与えてしまう可能性……それも正直、あった。でも逆に、何らかの快癒を齎すことができる可能性も、無いとは言えない。本来ならプロの療法士がやるべきだが、この世界にそんなもん居る訳ないしな。

 

「いいけど、お姉さんでいい? 何して遊んであげたらいいかな?」

「えっとね、えっとねえ、うふふ、うふふふっ」

 

 しかしまあ、こうして退行させてみたところ……懸念していたようなトラウマは掘り起こさずに済んでいる、と見ていいだろう。すると、何らかの心的外傷による逃避としての解離を起こしたわけではない、ということかもしれない。別の原因によるものか、あるいは、まだ出てきていないだけかもしれない。

 

「アイシャちゃんは、好きな遊びとかあるの?」

「わかんないけど、やりたいこと? あるよ?」

 

 ラヒーシャのことを聞きだすのは、今の5歳の『アイシャちゃん』で、ある程度何とかなりそうだ。これ以上の退行は避けて、元に戻すのがいいだろう。

 

「うん、何したいの?」

 

 そうと決まれば、とりあえず遊んであげて……機嫌を取ったら、一通り話してもらえれば――。

 

「――えっと、さいみんごっこ!」

 

 そう、催眠で元に……ん?

 

「なんて?」

「さいみんごっこー。えっと、えっとねー。ミリちゃんー、ミリちゃん。ミリちゃんはね、こうやってー、かおをおさえちゃうとねー、おちちゃうー、おちちゃうよねー?」

「……え、あ、っう……あ――」

「は???」

 

 待って。今何か凄いことが起こってない???

 

 

 ――。

 

 

「アイシャちゃん? ちょっと何してんの?」

「さいみん?」

「……ぁ、う……ぅ」

 そうだね知ってる。いやマジで何やってんの君? ミリちゃんもまあ気持ちよさそうに落ちちゃってさあもう!

 

「おちるのきもちーねー。ミリちゃんはー、おちるのだいすきだからー、もーっとおちられるよねー。ほらー、さんー、にー、いちー……ぜろー」

 

 かしゅ。

 

 何か乾いた音がした。何かと思えばアイシャの小銭入れの蓋を開閉する音だ。なるほど、何か音の出るもので合図がしたかったんだな。そりゃそうか、5歳児は指パッチンできないだろうし。

 ……いやいや待てよ。5歳児は即興でそんな催眠できないよ。マジでどういうことなんだよ。

 

「おちちゃうー、おちるの、きもちーよねー。おちる、ミリちゃんはー、このきもちーのいっぱいしってるからー、おもいだしてー、おちちゃうもんねー……」

「……ぁ、ぉ……ぉぉ……」

 あ、ずっりい。僕が掛けてるのを見越して、気持ちいいのを思い出させるやり方。ミリちゃんくらい掛かり慣れた相手だったら、これをやるだけで、術師側に技術なんてなくても誘導できてしまう。これなら5歳児でも……いやふざけるなよ、できるわけないだろ。

 そもそも、この子がいきなり催眠を掛けてくること自体が完全に想定の外だからな。瞬間催眠にも使われる、驚愕法という技法があるくらいだ、そうして意表を突かれて気の抜けた状態。ましてや直前まで、幼児と遊ぶつもりで、親愛を表に出していたミリちゃん……そりゃまあ、掛かるに決まっている――。

 

「ほらー、かぞえたらおちる、おちちゃう。ふかくおちるよー、じゅー、きゅー」

 

 ――でもそれは、掛ける側が、ちゃんと催眠をやっていればだ。

 

 アイシャちゃんの催眠は、舌足らずで甘ったるい、子供っぽい声で……それでもちゃんと、催眠になっている。

 

「はちー……ろくー、ごー」

 おい。今飛ばしたぞ、7。あれか? 5歳児だから? 数がちゃんと数えられない? そうだよなあ5歳児だもんなあ!

 どうしよう、なんか面白くなってきちゃったぞ。ミリちゃんには悪いけど、このまま見てようかな。

 

「よんー、さんー? にー、いちー?」

 なんか頼りないんだけど……。

 

「ぁ、う、ぐ……」

「ぜろー」

 

 かしゅ。

 

 小さな乾いた音とともに、ミリちゃんの閉じられた瞼がぴくんと反応し……全身が、弛緩したのが見て取れた。

 

 

 ――。

 

 

「おちるよー、おちちゃう。ふかくおちるー。ふかいそこまでー……ううん、そこなんてないよねー? ないからおちちゃうー。おちる、おちるよー……」

「……ぁ、っ……ふ……」

「……上手いな」

 追い込みによる深化。カウントダウンで落ちて終わりではなく、さらに深い催眠状態に沈めるもの。なんでこんなことができる? 自分も確かにアイシャにそういう誘導をしたけど、大分彼女なりのアレンジが入っている。

 

「うふ、ふふっ、ふふふっ」

「どうしたの?」

「ミリちゃんかわいいな」

「かわいいよねえ」

 うん。この可愛さが分かる奴に悪い奴はいない。そんなことないか。むしろ多そうだ。悪い奴に気をつけてもらわないといけない。

 

「さいみん、たのしいね!」

「うん、なんで? なんでアイシャちゃんがこんなに催眠上手いんだ?」

 やっと聞けた。マジで意味が分からん。

 

「んー? おぼえた?」

 そう言って僕のことを指差す。なるほどー、あの1回で覚えたのか。いやふざけるなよ、そんなことがあってたまるか。リルだってもうちょっと……いやどうだろ、あの子もこういうところあったかも……。

 

「あー、つまり。整理するけど、今の『アイシャちゃん』は、僕がアイシャに催眠掛けるのを見てたわけ?」

「うんー? わかんない」

「そりゃそうか。そのときは大人のアイシャしかいなかったはずだし……」

「アイシャちゃんはおねえちゃんからできてるから?」

 やっぱりそういうことか。『おねえちゃん』が大人のアイシャ、ってことね。その時点ではこの5歳のアイシャちゃんは居なかったけど……その時の記憶が強く残って作られた、と。こりゃ、本当に5歳の頃の話が出てくるか、怪しくなってきたな……。

 

「あそぶね? ミリちゃんー、ミリちゃんー。このこえー、このこえがきこえたらー、いうとおりになるよね。さいみんにおちたら、いうとおりになるのあたりまえーだよね? ミリちゃんはー、レシヒトさんのことがー、すき、だいすきー。だいすきだよー」

「あっこら」

 こいつ何てことしやがる。とんでもないガキだ。身体大人なのに!

 

「だいすきだからー、ひとりじめしたいね? レシヒトさんのことー、ほかのひとにあげたくないー。わたしがー、アイシャちゃんがレシヒトさんにくっつくと、すごくすごくいやーだよね? ぜったいやだもんね。レシヒトさんのこととっちゃうひときらいー、きらいになるよねー」

「マジで?」

 

 かしゅ。かしゅ。抑揚のない甘い声で暗示を囁き……いや囁いてないな、声大きいし。ねじ込みながら、例の音が聞こえる。なるほど、意識を落として聞いて欲しいからか。暗示の内容も、けっこうちゃんとしている。ところどころ拙いけど、充分にこれは入る。だってちょろ神様だし。

 

「ほらー、おきるよ。ミリちゃんはおとなだから、ちゃーんとおきられるもんねー。ほらーおきてー?」

「……あう、あ」

 あ、起きた。

 

「ううー……なに? なんで……?」

「なんか、アイシャちゃんが催眠掛け始めた」

「ぶい」

「いや意味わかんない……うう、レシさんー……」

 ミリちゃんは、もぞもぞこっちに来て……そのまま抱き着こうとしてきた。ハグとキスを求めているなこれは。人前だからもぞもぞもじもじしてるわけだ。なるほど可愛い。

 

「レシヒトしゃんっ」

「うおっ」

 ぼふ、と柔らかい感触。甘い匂い。果物と、女の体の匂いだ。勢いよく抱きついてきたのは――うんまあ、アイシャちゃんだ。

 

「は? ちょ、ちょっと何やってるんですか」

「いや、自分は何も、って、ちょ、痛い、痛いから」

 ぐいぐい引っ張られる。ミリちゃん、目が怖いよ? 落ち着こう?

 

「レシヒトさんとあそぶのー」

「いや駄目ですよ」

「なんでー?」

 むぎゅ、と僕の胸元に顔を埋めて……ミリちゃんの方を向いて、表情は見えないが――多分にまにま笑っているんだろうなこれは。一方でミリちゃんは……うん、とてもとても怒っているねえ!

 

「くっ……子供だと思ったら、あ、あのですね。レシヒトさんも問題ですからね? 5歳でしょ? そういうことしていいわけないって分かりますよね?」

「待て、僕は何もしていない。無実、無実だから」

「レシヒトしゃんしゅき♥」

 こら、そういうことをするな。頼むから。

 

「……アイシャちゃん、いいかなー。お姉さん、その人に話があるんだー」

「やだっ」

「アイシャちゃん、ほら、あのお姉さん怖いから離れよう?」

「レシヒトさんがいいっ」

 だめだ、全然離れない。

 

「ふーん。レシヒトさんは5歳のお子様に抱き着かれてご機嫌なんですね。死ねばいいのに」

「待って!! 僕本当に何もしてないからね!?」

 というか、何でそこはかとなく僕に怒ってるのかなミリちゃんは。暗示ではアイシャちゃんに怒るはずじゃないの? ミリちゃんの中で、子供に怒るのはアウトで、仕方なくロリコン野郎が断罪されることになってる?

 

「うふふふ、ふふふ、おもしろいねー」

「確かにこれはちょっと面白いけど、そろそろ魔術が飛んでくるからやめて。ホントやめて」

「そんなことしませんけど? そんなにアイシャちゃんがいいなら、ずっとそうしてたらいいじゃないですか。私は別に大丈夫です、けど……っ、うー、うー!」

 あっやべ。これ泣くやつだ。

 

「ほら! ミリちゃん泣いちゃうから!! うーうー言ってるからね!!」

「あう、ごめんなさい……ミリちゃんミリちゃんー、あんじとけるよー、みっつかぞえたらもとどおりだよー、さん、にー、いちー、ほらー!」

 

 かしゅ。

 

 

 ――。

 

 

 ――結局、ミリちゃんは元に戻ったのだが。

 

「いや、やっぱりこういうの良くないと思うんですよ」

「ごめんなさい」

「あっごめんなさい。アイシャちゃんはいいですよ。違うからね」

 まあまず、状況を理解してもらうのが大変だった。いきなり催眠掛け始めるアイシャちゃんってどう考えてもおかしいわけで。自分だって訳が分からないんだから。そして。

 

「……私、子供がそういう、エッチな目とかに遭ってるのってちょっと駄目みたいです」

「そうなんだ。道徳的なもの?」

 アイシャは身体は大人の女性だけども、まあ、見るからに子供っぽく振る舞っていたし、今は5歳ということになっている。そういう抵抗があって、暗示が変な現れ方をしたのかもしれない。

 アイシャちゃんの暗示通りだと、ミリちゃんはアイシャちゃんに嫉妬心を募らせるはずだったんじゃないかな。でも、なぜか僕が怒られたからね。

 

「ですかね……。あとレシさんが普通に……」

「普通に?」

 何だろう。何か言いにくいことだろうか。

「あ、いや、気を悪くしないで欲しいんですけどね」

「うん」

 

「小さい子にそういうのやっててもおかしくないように見えて……」

「そうですか……」

「うふふ、ふふっ」

 力が抜けた。いやもう、いいよ何でも。どうせ僕は悪い催眠術師だから……。

 

 

 ――。

 

 

「さて……アイシャ、少し、お話しない?」

「あ、うん。えっと、えっと……ごめんね」

 さっき、ミリちゃんを泣かせてしまいそうになったのを少し引きずっているように見える。うん、きっとこの子は、楽しく遊ぶつもりだったんだろうな……。はっきり言って、この程度のことは大した問題じゃない。だけど、催眠というやつは術者の意図しない結果を産むこともあって……掛かり手の感情や心に、予想外の力を加えてしまうこともある。

 多くの催眠術師がそれを知りながら、『やらかしてしまう』のだ。それは自分も例外ではなくて。アイシャちゃんは、今日の小さな違和から、その嫌な感じ、怖さを感じ取ってしまったのかもしれない。

 

「私は全然平気ですよ。アイシャちゃん、大丈夫? よしよし、私は平気ですからねー」

「ああいうのしんどいよね。よしよし、アイシャは催眠、上手だったよ」

「えへ、ミリちゃんもレシヒトさんも優しい」

 だから、まずは。そんな彼女に、目いっぱい優しくすることにした。

 

「ミリちゃんが怒ってるの、面白かった。めっちゃ僕のこと好きになってたでしょ」

「そうなんですよ。好きな人が小さい女の子にデレデレしてるの、控えめに言って度し難い」

「あのさ? 僕悪くないからね?」

「ふふ、うふふふ」

 アイシャちゃんの催眠、なんであんなに上手いのか、何も分からないけども。とりあえず、僕らを楽しませたくてやっていた、一緒に遊びたかったというのはこれ以上ないくらい伝わってきたわけで。だから。

 

「アイシャ、ありがとう。ミリちゃん可愛かったし、楽しかったよ」

「うんうん。本当、すっごく上手だった……」

「えへへ、ふふ、ふふふっ、ありがとー」

 

 まずは、この子と仲良くなりたいと思った。

 

「うん、うん」

「どうしたの?」

「レシヒトさんも、ミリちゃんも、すきー!」

 

 だって――話を聞くのは、その後でもできる。

 

「うーん、アイシャちゃんは可愛いですねえ」

「可愛がっても怒られない?」

「いや、まだ気にしてたんですか? 可愛がりましょうよほら」

「よーし、なでなでー。なでなでだぞー」

「ふふ、うふふっ」

 

 自分に催眠術師としてのモラルが備わっている、とは全く思っていない。

 だけど、彼女の小さな罪悪感に付け込んで話を聞きだすとか、そういうのは――。

 

「ミリちゃんもなでなでだぞー」

「は? いやちょっと普通に恥ずかしいんで」

「なでなでー」

「アイシャちゃんも!?」

 

 ――そういうのは、やりたくないと思えた。

 

 

 

◆ アイシャさんとも遊ぼう その1

 

 

 ――。

 

 

「ここどこ? たのしいところ?」

「ここは修道会。貴方が、新しいお友達と会えるところよ」

 

 『私』は、南方の乾燥地帯に暮らすジャハーナ族の出身で、身寄りはいなかった。幼くしてこの聖地エルンスヘイムに本拠を構える、エルンスト・南正教会(オルトドクシア)に引き取られた……らしい。

 

「これより……若くも敬虔なる神の徒、アイシャ・バライの身の上に、聖別の儀(サクラメントゥム)を執り行う」

「アイシャさん。誓いの言葉を繰り返して」

「うん? え、あ。はい」

 

 南正教会の修道会は、教会が“保護”した孤児を引き受けて、聖別の儀と呼ばれる儀式を行っているらしい。『聖別』された稚児は『代行者(アンジェルス)』と呼ばれるようになる。

 

「わたしはー、いだいなるエルンストのだいこーしゃとしてー……」

「『私の肉体と精神、その全てを捧げ奉ります』」

「わたしのー、にくたいと、せいしん……そのすべてを……」

 

 南正教に拾われ、保護された稚児のうち、特に優れた子供は……通常、5歳の誕生日に、新たな生を受けることになる。それが――。

 

 

 ――。

 

 

「じゃあ、つぎのあそび!」

「いいよ、アイシャちゃんがしたいこと、何でもしてあげよう」

「いっぱい甘えていいでちゅからね~」

「ミリちゃん、さすがにそれは赤ちゃん向けかな」

 意識が少しずつはっきりしてくる。ああ、眠っていたのだ。なら、今の主体はアイシャだろう。レシヒトとミリちゃん、2人とは上手くやれているだろうか。彼らなら、大丈夫だと思うんだけど……。

 

「うん、うん。じゅんびするね」

「ん?」

「アイシャちゃん? 何やってるの?」

 さて。なぜ『私』は……いや、アイシャは――服を、脱ぎ始めているのだろうか?

 

「じゅんびだよー?」

「レシさん、またスケベな暗示入れました?」

「やってない。アイシャちゃん、ちょっと待て。ええと……なぜ脱ぐ?」

「ふくきらい」

 ああ、『私』は昔、そういうところがあったっけ。皮膚の感覚がザワついて、痒いような嫌な感じがするから、教会に与えられる服がどうも好きではなかったんだ。

 

 ……いや待つんだ。何か状況がおかしい。『私』は今、どうなっているのか。落ち着いて考えれば、アイシャの記憶は大体思い返すことができるので……いつものように思索を試みる。私はジャハーナ族の言葉と旧エルン語の他は得意ではないので、アイシャにシレニア語で思考されると少し手間がかかるんだけども……。

 

「嫌い、かあ。でも我慢しないとね。そこにエッチなお兄さんがいますからねー」

「えーなんでー?」

「正直裸族は2人も要らない」

「その発言が一番要らないですからね」

 なるほど、どうやらアイシャはレシヒトの催眠術とやらを受けたらしい。その結果、5歳まで退行した……いや、これは。まさか新たに『聖別』された?

 催眠術というもの、どことなく覚えがあったような気がしたが……まさか、ね。

 

「ふふ、うふふ、でも、ぬいでたよね?」

「脱いでた? ミリちゃんのこと?」

「え? 違うよね。誰がだろ」

 だってこの子は……幼いころに私と分かれたアイシャは、今、こんなに嬉しそうにしているんだから。あんなものと同じであるわけがない。

 

「えっと、ふたりともー、きのう? はだかで? きもちいいあそび!」

「ぶっ」

「は、え?」

 

 ――は? 

 

「してたよね? うーんと、みてたとおもう」

「いやいやいや。昨日は部屋にいたのは僕とミリちゃんだけだったぞ」

「うん、だってラヒーシャさんを雇う前だし」

 いや、うん。私は確かに……2人のセックス? いや、その未遂のような行為を見ていた。夕方に2人と話してから、宿の主人に魔術騎(ヴィークル)の操舵手としての仕事を振られて……その雇い主となるのがどんな連中なのか、忍んで見に行ったのだ。そうしたら……なんと、2人は普通にセックスをしていた。いや、その前段階、愛撫のような……思えば、あそこでレシヒトがミリちゃんに話しかけていたのは、あれが催眠術とやらだったのだろう。アイシャの記憶と一致する。

 

「えっとー、えっとね、ラヒーシャさん、ラヒーシャさんがみてたのー」

「見てたの!?」

「……えっ、覗かれてたってことです、か……?」

 は? 待って。アイシャは、アイシャは私の記憶を見ることはできないはず。私は代行者として、任務中の記憶を隠す術を身に着けているし、そもそも私が聖別されたときに、そのようになっているはずだ。

 

「おねえちゃんはしらないけどー、わたしはわかるよー?」

「あ、そっか。アイシャさんはそんなこと言ってましたね」

 待って。それは困るから。ええと、この子は、『アイシャちゃん』? 私のことや、修道会のことを下手に喋られたら……いや、どうだろうか。この子、5歳だったら……あんまり分かっていないのではないか。すると、意外と大丈夫とも考えられる。

 

「いやそれは……つまり、ラヒーシャは僕たちの寝室の様子を伺いに来てた、ってことだよね」

「うん。えっちだった! もぐもぐ」

「アイシャちゃんももぐもぐするんだ」

「何をもぐもぐしてるんだこれ」

「くうきだよ?」

 あああああ、もう何が何だか分からない。まず、尾行というか警戒していたことが2人に知られてしまったのが、良くない。レシヒト、彼は何だかよく分からない。催眠術という技法は、何やら思ったより危険なもので……どことなく懐かしいもの。そしてミリちゃん……。

 

 ミリセンティア・ディッシェ。その名ぐらいは知っていた。世に名高きシレニスタの宮廷魔術師――の、イマイチな方。しかし、イマイチと言われようとその地位を得ている魔術師が、凡百の小娘であろうはずがない。ミリちゃんを見れば見るほど疑わしくなってくるが、蒸気術騎(スチームヴィークル)を1人で動かすなど聞いたことがない。きっと実力は確かなはずだ。

 

「うーダメだ……。ラヒーシャさんが私達を探っていたという事実よりも、アレを見られてた衝撃のほうが大きくて正常な思考ができないです」

 こう見えても彼女は、あの街道を開通させる任務を帯びて遣わされているのだ。あの、北天教団(セレスティア)の策略で、完全に山で埋められてしまった道を。1人で……いや、一応従者の男と2人で。普通に無理だと思う。まあ、任務の関係上、実際に開通されても困るが……。

 

「えっちだったよ」

「だからなんですよアイシャちゃん」

「ラヒーシャはどうして僕たちの部屋を見に来てたんだろう」

「よくわかんない」

 よし。うん、アイシャちゃん偉いぞ。私は代行者だけど、この2人とは……仲良くしたいな、と思ったのだ。シレニア語は不慣れで、上手く言えなかったけども。任務の次第によっては、敵になるかもしれないとしても――この、仲良しでお気楽な2人に、疑いの目を向けられるのは……できるだけ、先延ばしにしたかった。

 

「そっかあ、分かんないか……そうだよな」

「あ、わかった」

「分かったの!?」

 分かっちゃうのか。どうやらこの『アイシャちゃん』は、私の……ラヒーシャのことが、アイシャよりも見えている。それは間違いない。だからお願いだから余計なこと言わないでもらいたい。勘弁して欲しい。

 

「うん。おねえちゃんのためだよ、きっと」

「はあ」

「はあ?」

 は?

 

「うんうん。だからやっぱりあそぼうね」

「待て。何を納得した? 脱ぐのをやめなさい」

「アイシャちゃん、あのね。貴方は身体は大人の女の人だから、それは本当に……」

 困っているのは私もだ。どうやら今は『ラヒーシャ』は出られない状態。アイシャちゃんが考えて動いているのは分かるけど、何を考えているのかはよく分からない。なぜ脱ぐ。なぜ。ああ、私の手が勝手に服を……。

 

 

 ――。

 

 

「あーもう本当に脱いじゃうし……とりあえずこれ被っておいて」

 そう言って布団を与えてくれる。レシヒト、ただのスケベだと思ってたけど意外と優しいようだ。

 

「ええと、アイシャちゃんがやりたいのって、その……」

「えっちなあそびー?」

「やっぱり……」

 そう、そこが分からない。ただ遊びたいだけ? レシヒトとミリちゃんがあんまり仲良さそうだったから、確かに私も昨夜はちょっと当てられたのだが。だってあんなに気持ちよさそうに……気持ちいいのかな……。

 セックスで気持ちいいって、私には……本当に、分からないから。アイシャも、きっと。

 

「そう、言われてもなあ。ねえ?」

「当たり前でしょう、5歳ですよ? 何考えてるんですか?」

「だめー? してくれないの?」

 足をばたばたさせるのをやめなさい。どうしてこの子はこんなにセックスにこだわるのか。 

 

「何でもしてあげるとは言ったけど、さすがにそれは駄目かな」

「なんで!」

「子供はダメなんです。エッチなことですからね」

「いいもん。じゃあおねえちゃんにかわるー」

 は? あっ。この感じは――かわる、って、まさか。

 

「えっ、かわる、って」

「うーん? あれ……? レシしゃとミリちゃだね?」

「本当に変わった……」

 ……私の知っている『アイシャ』に戻った。さっきまでのが『アイシャちゃん』で、今のこれは元通りのアイシャだ。

 

「あー、なるほど。なるほどだね、うんうん」

「状況は分かってるやつでしょうか」

「うん。何となく? えっちなことをするんだ?」

「いやそれはともかく……アイシャ、聞いていいかな。さっきまでの『アイシャちゃん』って……」

 そう。これは私にも分かる。だって。

 

「うん。居るよ?」

「あああああああああやっぱりかああああああああ!! うわああやっちまったああああ!!」

「どっ、どうしたんですか」

 そう、出てきていないけれど……『私』の中には今、3人目が……『居る』。

 

「退行させた人格が残っちゃった。やっちまった……アイシャごめん、すぐ解除するから」

「いやだめです」

「なんで!? さすがにそれは……」

「んー。『アイシャちゃん』が消えたくなさそうなんですよね。せっかく、レシしゃとミリしゃが、仲良しになってくれたんだし」

 ……アイシャはいつも、そういう子だった。いつの間にか『私』に同居していた私にも、秘密があることを知っていながら、大らかで優しかった。

 

「それより、私とも遊んでくれるんじゃ?」

「はい?」

「今の私はー、『アイシャさん』は、子供じゃないので」

「なるほど?」

 まさか、本当にするんだろうか。アイシャ、そもそも経験がないのでは? 『私』は当然あるが、アイシャとしてそういうことはしたことがないはずだ。

 

「教会暮らしは窮屈で……私だって人並みに欲求があるわけですよ」

「ぶっちゃけたなあ」

「体質なのか、月に何度かすごくしたくなるんですよね。ずっと我慢してたからー……うん、なのでアイシャちゃんは多分それで! 優しいんですよ」

 確かにこの子、たまに自涜(オナニー)はしてたけど……南正教会は厳格だから、基本的に寮内でそんなことはできない。我慢するか、よそでやるか、ルームメイトの留守でも見計らうしかない。

 

「とはいえ、ミリちゃんの手前そんなことは流石に」

「え? いいですよ。やってあげたらどうですか?」

「あれ? いいんだ?」

 しかしこれは、困ったことになった。アイシャは、『アイシャちゃん』を残してしまうつもりのようだ。そして、アイシャちゃんは――私、ラヒーシャのときのことを、見て知ることが、できる。

 アイシャがレシヒトとセックスをするのは別にどうでもいいけど、これは困る。

 

「まあ……アイシャさんならいいですよ。うん……レシヒトさんがどれだけ気持ちいいのか、他の人に知ってもらいたいし……」

「何それ」

「いやだって……なんか昨日の件、私がめっちゃエッチみたいになってますよね? 違うんですよ。あれはレシさんがおかしいのであって、断じて私のせいではないんで」

 『アイシャちゃん』の存在は本当に困ったことになってしまったが、それはそれとしてこのミリちゃんはとても可愛いと思う。本当に仲が良いな。

 

「つまり、アイシャのこともでろでろに気持ちよくさせてしまえと?」

「そういうことです。そうしたら私が特別エッチってことにはならないので」

「ミリちゃは面白いねえ。もぐもぐ」

「あんなのされたら誰だってああなるんですよ! 私は悪くない!!」

 ……どうだろうか。セックスって、そんなに良いものなんだろうか?

 

「まあ……『アイシャちゃん』との約束もあるし、そう言うならしても良いけど」

「アイシャさん可愛いですもんね」

「正直それもある」

「じゃあお願いします」

 しかし……アイシャ、少しだけ大人っぽくなった? 彼女の、不相応に子供っぽいところが、『アイシャちゃん』に行ったということだろうか。すると、あの子が消える可能性は低いだろう。私が、アイシャから預かっているものがあるように。アイシャがまた、自分を……分け与えているのだとしたら。本当に、困った。

 

「ええと、じゃあするとして、ミリちゃんはどうするの? オナニーする?」

「いやしませんが」

「じゃあ見てる? 混ざる? それともアイシャの部屋で待ってる?」

「あー……えーと、うーんと……それはまあ、見たい。レシさんが他の女の子とエッチなことしてるところ、ですよね。見たいですよそれは」

 宮廷魔術師ミリセンティア・ディッシェ。想定されるイメージとはだいぶ違う人物像だと思う。当初ミリちゃんに抱いた印象ともまた大分違ってきているけども。

 

「じゃあそこに座ってる?」

「あ、う。あー……え、っと」

「何?」

「……いいです。何でもないんで」

 何やら煮え切らない態度である。それはそう、昨夜あれほど熱烈に愛し合っていた恋人が、他の女を抱くところなんて、心穏やかに見ていられるとは思えない。そもそも『してもいい』という発言自体が理解できないが。

 

「あ、そういう?」

「何がですか!?」

「……ミリセンティア、正直に答えて。ねえ、どんな風に見るのがいいの?」

「あう、それずるい……縛られたい、です……手足、動かないように、縛られたい……」

 あれ。何か思ってたのと違うのが出てきてるな……。

 

「ミリちゃはすごいねえ。もぐもぐ」

「縛られて……そのへんに、転がされて……見せつけられるのがいい……です……っ、あ、あああああ……終わった……終わり……私は終わり……」

「いやまあ知ってたけど」

「なら言わせないでもらえないですか!?」

 宮廷魔術師ミリセンティア・ディッシェ。底の知れない人物だと改めて思った。

 

「よし、じゃあそういう方向でやっていこうか」

「お願いしまーす」

「うう、こんな辱めがあっていいのか……? 私は魔術師様であるはず……皆もっと私を尊敬するべき……」

 

「――始めるよ」

 レシヒトは、アイシャとミリちゃんの間に立つと、二人に両手を翳して、囁くように話し始めた。

 

「二人とも……そう、アイシャも、ミリちゃんも……今日は何度も、深く、催眠に掛かっているから……こうして、僕の掌を見つめるだけで……意識が、吸い込まれてしまうよね」

「ぁ……」

「あ、あっ……」

 なるほど――これが、催眠術。

 

「まずは数を……5から、0まで数える。君たちはそれだけで、深い催眠状態になる。もう何度もそこへ落ちていったんだから、疑う余地もなく……必ずそうなってしまうよね。当たり前……だから、ほら、5……、4、3……」

「ぅ、あ……ぉ、っ……」

「あっあ、あ、ああっ」

 落ちる。強烈な眩暈に似た感覚。わずかに身を起こしていたアイシャの身体から、一気に力が抜けて……暗黒。眼前に暗闇が広がる。そして……落下。怖い。落ちるのは、怖い。どうして?

 私は、高いところが得意ではない。落ちるのが怖い。だけど、だけど。あれ。

 

 本当に怖かったのは、どっちの『落ちる』だったんだっけ――。

 

 

「2……1、ほら……0。落ちる、落ちる……深く、落ちる」

 

 

 ――私の……ラヒーシャの、意識は、そこで途切れた。

 

 

 

◆ アイシャさんとも遊ぼう その2

 

 

 ――。

 

 

「はあ? 何だよこれ、おい、ほどけ……って」

「はいはい、無駄なあがきはやめてもらおうかな。力が入らないよねー……椅子に縛り付けられて、抵抗することもできない。君はすっかり、僕の催眠術に掛かって……操られている。はは、なかなかいい眺めじゃない?」

「く、そ……変態、死ね……」

「……ぁー……?」

 

 ――なんだか、遠くに声が聞こえるね。

 

「じゃあ……アイシャ。よーく聴いて……アイシャは、すごく気持ちのいい状態……催眠状態になっているよね……僕が数をまた、3つ数えてあげるから、一緒にもっと、もっと深いところへ……落ちて行こう。ほら……3、2……」

「あっあっ」

 声が私に向いた瞬間、幸せになる。そしてまた……落下の感覚。声が出る。怖い……んだと思う。でも、本当にすごく、気持ちいいんですよね。

 

「1、0。落ちる……深く、落ちる。ぼんやりしていた意識も、暗く、深く呑み込まれて、ほら、落ちるのが気持ちいいんだよね。気持ちいい、気持ちいい、気持ちいいからもっと……落ちる」

「あ……っあ、ああっ、あ、あ、あっ」

 これ、やっぱり気持ちいい。気持ちいいのに、どうしてこんな声が出るんだろ……違うや。気持ちいいから声が出るんだね。

 

「誰、ですか。その女の人……てか、その下、服着てなくない? 何やってんだよ、あんた……」

「この人? アイシャさん。僕の友達だよ……これからね、彼女を気持ちよくさせてあげるのさ。アイシャ、君はもうしばらく……その気持ちいいところを、漂っていることができるよね……ほら、落ちる」

「あっ、あ……っ」

 気持ちいいから、仕方ないよね。全部『あ』で塗りつぶされて、気持ちいいのは、仕方ないよね……。

 

「また、そんなことやってるんだ。……って、おい、まさか」

「ああ、リルにもしたよ? どうしても僕とセックスしたいってせがんでくるから、仕方なくてね」

「っふ、ふざけるな! それはあんたがその変な術でリルさんを!!」

 んー……? 話してる声は、レシしゃと……誰だろ、これは。声は、ミリちゃの声だよねえ……。

 

「あー、トーマスくん。君もさ、ちょっとうるさいから」

「ひっ」

 トーマス君? 男の子かな、よくわからない……。レシしゃの声も急に低くなって、ドスの利いた感じ……。

 

「黙っててよ。トーマス、君は声が出せなくなる。もう喋れない。僕が許可するまで喋ることができない。君は僕の催眠に掛かっているから、必ずそうなってしまう、ほらっ」

 

 ぱちん。

 

「ぉ、あ……っ、っ……」

「……さて。アイシャ……もっと深く落ちようか。ほら、落ちる……3、2……1、0」

「っあ、ああっ、あっ……」

 落ちるの、やっぱり気持ちいい……。

 

「……アイシャ。よく聞いて……この言葉は、君の中に直接響く。とても気持ちよく受け入れることができる……。アイシャ、君はとてもエッチな気持ちだ……定期的に訪れる、性欲の高まる日があると言っていたよね。今日はまさにその日で……いや、もっと激しく欲情している。」

「……あ、っ……う、うぅっ……」

 言われると、思い出したように体が熱くなってくる。月の穢れの日の前後に来る、悩ましい欲情に襲われる時期。あれを強めたような、腰が甘く疼く感覚。

 

「それは仕方ないことだ。人間も動物だから、犬猫と同じく発情する時期がある。君はまさしくそうなっている……雄と一緒に過ごすことで、本能的に発情してしまったんだよね。だからほら、今もとてもいやらしい気持ちだ……今すぐ自分の手で、快感を貪りたい。雌として、雄に身を委ねたい……そんな欲望が思考を濁らせる。もうそれしか考えられない」

「うっ、あ、ああっ、あっ、ああああっ」

 したい。したい、エッチなこと。神様にごめんなさいして、自分の手でぐちゅぐちゅ、気持ちいいことをして、バカみたいに声出して、えへえへ笑いながらイきたい。アレがしたい。したい。

 

「でもそれは、君自身の人格とは何の関係もないこと。動物なのだから、情欲に襲われることもあるし……君は、僕の催眠術によってそれを呼び覚まされているから、仕方がないこと。君のせいではないから、君は誰にも咎められない。君の信仰を傷つけることもない。君の神様も、君を罰したりはしない」

「あっ、あ……ぁ……」

 あ、優しい。こういうの嬉しい。私のせいじゃないし、怒られない。それを言ってもらわないと、私はきっと、そうなれないから。

 

「だから……君は必ず発情してしまう。そうならない理由がない……だって、君のせいじゃないんだから。だったら仕方ないよね。ほら、全部僕の催眠のせいで……君は何にも悪くない。だから君は、拒むことができない。ほらっ」

「あ、ぅっ、うっ、あ、あ、ああっ」

 やっぱりずるい。優しいからずるい。そんなの私は拒めない。本当はしたかったこと、してほしかったこと、それを『悪くない』って言われたら。だめじゃないなら、私は、そうなっちゃうに決まってる。

 

「さて……3つ、3つ数えると……アイシャ。君は意識を取り戻すけど、身体は甘く疼いて発情している。そしてトーマス、君はこの合図で、声を取り戻すことができるよ。でも、手足の力は入らないままだ。ほら、ひとつ……ふたつ、みっつ。はいっ」

 

 ぱちん。

 

「うあっ……あ、あぅ、こ、これ……」

 ――言われたことは覚えてる。えっちになっちゃう。

 なっている。とてもなっている。毎月くるあのむらむらーっとする感じ、それを何倍にもしたような。これ、自涜したら絶対、気持ちいいやつだ。絶対。つまりレシしゃは、私を気持ちよくさせてくれるわけだね。優しい、のかな?

 

「っ! この、クソ野郎。アイシャさん? その男から離れて! そいつは貴方にスケベなことをしようとしてて……」

「ああ、アイシャ。紹介するよ、『彼』はトーマス。僕とミリちゃんの仲間でね、衛兵をしている。なかなか可愛い『少年』だろ?」

「う、うん?」

 私の身体がとってもうずうずしているのは、ひとまず置いておくとして。トーマスって言うけど……まあミリちゃだよね。両手と両足が、椅子に縛られているけど……あまりしっかり縛った様子ではない。部屋に置いてあった布巾で軽く結んだだけ。暴れたら外れそう。

 

「このっ、なあ、これ外してってば」

「駄目だよ。君を縛り上げてくれって、魔術師様の御要望でね。何をやったか知らないが、なかなかいい気味じゃないか」

「はあ? 僕は何もやってないって! うう、こんなの……」

 そういえば、手足の力が入らないとか言ってたよね。それで、暴れようにも動けない、と。うんうん。

 

「トーマスくん? は、男の子なんだね?」

「ああ。まあ、見ての通りだけども」

「おい、アイシャさんに近づくな! アイシャさん、貴方も早く逃げて! そいつは本当に悪い奴なんだって!」

「うんうん。なるほどね」

 なるほど。まさかミリちゃんにも他の子が住んでたとは思わなかった。男の子の人格って面白いね?

 

「じゃあアイシャ、どうやら僕は悪い奴らしいから、君にエッチなことをしちゃうよ」

「あ、よかった。してもらえなかったらどうしようかなって思ってた」

「あああ! ダメだって! そいつは最初からそれが目的で!!」

 私もそれが目的でお願いしたんだからしょうがないよね。うんうん。

 

「アイシャ、まずはベッドのそこに座ってくれる?」

「うん」

「うわっ、うわ、ちょっとアイシャさん、裸……!」

 ミリちゃ……じゃないんだ、トーマスくんだね。口ではこう言ってるけど、普通におっぱい見てるの可愛いねえ。

 

「トーマス、君はアイシャから目を逸らすことができない」

「あう……、ご、ごめんなさい……うう、ううう……エッチだ……」

「ありがとう?」

 なるほど。レシしゃはトーマスくんに見せつけたいんだね。いいけど。

 

「今日はトーマスくんに女の子の触り方を教えてやろうと思ってさ」

「いやいらないし……」

 レシしゃは私の後ろに座って、脇の下から両手を回してきた。ああ、おっぱい触りたいんだねえ。

「まずは乳首な。アイシャ、君は深く発情しているから……こうやって乳首を指で転がされると、ここが切なくなるよね。ほら、きゅうっと気持ちよくなってしまう」

「くあっ、あう、うー……っ」

 右の乳首をくりくり、文字通り『転がされて』いると、左手で抑えられたお腹の奥が、『きゅう♥』と切なくなる。言われた通りになっている。中でつながっているみたい。

 

「人間……特に女の子は、乳首を刺激されると、とっても甘くて優しく、幸せな気持ちになるようになっている。赤ちゃんに授乳するときのためにそうなっているんだ。そして、その成分が作用すると、勝手に子宮が収縮する……これも、アイシャの意志とは関係なく、身体の仕組みとして起こることなんだ」

「あう、あっ、くううっ」

「な、何の話してんのさ……」

 知らなかった。でも、本当に言われた通りになってる。気持ちよくて、きゅんきゅんする。

 

「だからこうして、乳首を念入りに甘やかされると……女の子の頭の中は幸せと愛情でいっぱいになるし、子宮が切なく疼いて、たまらなくなってしまう。アイシャはどう?」

「ううっ、あああっ、なる、なってるかもっ」

「だってさ。せっかくの機会だし、覚えとけよ童貞」

「っ、うるさい!」

 私のおっぱいにじっくり見入ってたトーマスくんが怒った。童貞なんだねえ。そりゃそうだよね、身体はミリちゃんさんのままだし……ついてないってことだろうから。

 

「アイシャ、両手でおっぱいしてあげるからさ、お腹に自分で力入れてごらん」

「うっ、うん。あっあ、あっ、きもち、気持ちいいっ」

「だろ。ほら、脚を開いてトーマスくんに見せてやりな」

「うんっ、うあ、あっ、あっあっ、すごい、すごいよこれっ」

 膝と膝をうんと離すと、身体ごと少し前に出る。背中をレシしゃに預けて、股間を大きく前に見せつけるみたいになる。あれ? これってかなりえっちなやつ。

 

「うあ、なんだこれ……うわ、うわあ……」

「そうそう。触って欲しくてひくひくパクついてるとこ、トーマスくんに見てもらおうな。アイシャは発情しているから、見てもらうともっと気持ちよくなる。絶対気持ちよくなっちゃうよ、ほらっ」

 

 ぱちん。

 

 指が鳴った。ということは、今のも催眠なんだ。だから、私はそんな風になっちゃうんだろう。

 

「う、あ……すご……」

「アイシャ、ほら。『彼』がじろじろ見てるよ、見られてる。君の気持ちよくなってるところ、見てもらえているのがわかる。ゾクゾクして、もっと気持ちよくなる……」

「あっ。あっ……あ……あ、あっ♥ あっ、見られてる……」

 ほら。見られてると思うと、急にドキドキしてきた。恥ずかしいのに。私はこんなの好きじゃないのに。

 

 

「やだっ、これえっち、えっちすぎるよお……!」

 くりくり、両方されると、お腹きゅんきゅんして、触って欲しいというか、触りたい。触ってもいいんじゃないかな?

 

「アイシャ、お腹だけ触っていいよ。ここ」

「あう、うん、ここ?」

 おへその少し下。毛の生え際あたり。きゅんきゅんしてる部分の真上だ。でもお腹で気持ちいいのって変だよね?

 

「ゆっくり押し込んで、くいっ、くいって、力を籠めるといい。そこは一番奥のコリコリがあるとこだから、指を並べて優しく圧迫すると気持ちいいよ。ほら、乳首くすぐってあげるからね」

「なんなんだよ……なんでそういうこと、うう、ううう……」

「あ、ホントだ……これ気持ちいい、あっ、あっ、あっあ」

 くん、くん、小さく押し込むと、響くような快感。おっぱい弄られながらすると、その、すごい。うん、これは……すごい。

 

「あ、これイくね。見とけよー、女の子のマジイキ見たことないだろ?」

「ホントうるさい……見たくないし……催眠のせいだし」

「うあ、あっ、あっあっあっ、これ、これ、うっ、ううっ、くうううっ♥」

 ぶるぶるぶる、って、脚が信じられない震え方をして……腰がくい、くい、浮いた。息が止まる。長い。法悦(オーガズム)ってこんな長いものなんだ。っていうか、終わる気配がない――。

 

 

 ――。

 

 

「いいもの見たでしょ。お兄さんを尊敬してくれてもいいんだぞ」

「するか、クズ野郎……」

「はー、はー♥ ふあぁー……すっごい、気持ちいい……♥」

 こんなに、気持ちいいことってあるんだ。エッチなこと自体の、見方というか、理解というか、そういうのがぐるんと変わった感じがする。こんなに幸せで、楽しいことだったんだね。ああこれ、ラヒーシャさんも感じてくれてるかなあ。あの人もエッチなの苦手だから、一緒に楽しんでくれたらいいと思う。楽しいことは増えた方がいいので。

 

「それじゃアイシャ、次はうつ伏せになってよ。ミリちゃんが大好きなやつをやってあげるから」

「うん。ミリちゃのお勧めなら間違いなさそう! はふ……♥」

「おい、待って、やっぱりあんた魔術師様にもそんなことしてるの?」

 うん? トーマスくんからすると、ミリちゃんさんが自分だとは思ってないみたいだね。ふむふむ。

 

「そうそう、そっち向いて……どんな風に触るか、逐一教えてあげるからさ。トーマスも聞いてちゃんとイメージするんだぞー」

「しないってば……うう」

「うん、これでいいです? うう、うぅん……♥」

 イったばかりで身体が気怠い。なのにまだ発情が収まっていないみたい。それはそう、肝心のところは触ってもいないんだから。何か、お腹でイくの凄かったけど……まだ、してほしい。

 

「こうしてお尻側から触るときはな、立てた親指をこうして……ほら、入った」

「ひっ!」

 

「ふ、あっあ、あっこれ、これ何っ? うっあ……♥」

「う、あ……何だよ、それ……っ」

 膣にぬるんと入ってくる感触。びくっ、と背中が反って、ミリちゃ……いや、トーマスくんと目が合った。あれ、あっちも気持ちよさそう。あっそうか、ミリちゃがされたことなら、覚えてるはずだもんね。イメージすると、気持ちよくなっちゃうんだ。

 

「えらくてかっこいい魔術師様もなー、これをされると甘ったるく鳴いて、腰へっこへこさせて、何回もイってくれるんだぞー」

「し、知るかよそんな、の……うあ、うああああ……」

「これ、これ知らないよ? だめだと思う、これ、うわ、あっ、あっ、あっあっ♥」

 中、ぐりゅ、ぐりゅって、何度もしゃくるように擦られてる。お尻持ち上げるえっちな姿勢がやめられない。指が撫でてるところから、ぞわぁ、ぞわぁって、気持ちいいのがずっと、ずっと来ている。さっきからして欲しかったのは、これ。これなんだなあってはっきり分かる。

 

「入口の少し先で、指を曲げるとな、ヒダヒダの丸い窪みがあるんだ。たいていの女の子は、発情してるここを念入りに擦られると……ほら、ほら、アイシャ? どんな感じ?」

「きっきもち、気持ちいいよっ? これ気持ちいい、気持ちいいのすごく、すごく好きになるっ♥」

「どっ、どこでそんなこと……覚えるんだよ、あんたはぁ……っ」

 本当、どういう人なんだろ。でも、全部言ってる通り。気持ちいいのが止まらない。本当に、こんなに気持ちよくなれることは知らない。多分ラヒーシャさんも知らないんじゃないかな。一緒に感じてほしいな。

 

「あ、これイくよね。わかるわかる、トーマス、何回イくか数えてみる?」

「……し、しないし」

「あっあ、あっああああっ♥ っくふ……あっ、あっ、あっだめっだめっ、だっ、め……!」

 イった、けど、指が止まらない。自分でするときは、陰核を圧迫して、イって終わり。続けるとかキツくなっちゃうし。でもこれ、全然きつくない。むしろすごく良くて、ずっとされたい。こんなのあるんだ……。

 

「こうやって腰ごと揺すると、本当にセックスしてるみたいで喜ばれるよ。指曲げて、がっちり掴んで、ほら、ゆっさゆっさ」

「あうっ、ああっ、ああっ、ああああっ、うああぁああっ♥ あー、あー、あーっ♥」

「うああ……うう、すごい、エッチだ……アイシャさん」

 顔を上げていられなくなって、ベッドに突っ伏してしまう。お尻だけさっきより高くして、ゆさゆさ、揺すられてるのか、私が動いてるのか、ちょっともう分からないね。ただ、ずっと気持ちよくて、それがとっても嬉しいんです。

 

「アイシャ。気持ちいいのが膨らんで、すごく幸せだ。イくたびに満たされた気持ちになる。催眠に掛かっている君は、この快感を心から楽しむことができる。トーマス、君もだ」

 

 ぱちん。

 

「えっ、うあ……ちょ、な、うあ、うあああっ、な、なにこれ……♥」

「あっイく、イくよお、っああああぁぁっ♥ また、またあ、あ、あー、ああああっ、あーっ♥」

 気付いた。涎がべっとべと。シーツに大きな染みができちゃってる。気持ちいい。幸せ。幸せすぎる。だから。だからそろそろ――。

 

 ――私は、もういいから、ね。

 

 

 ――。

 

 

「っあ、アアアッ、ゥンっ、く、ふ、ンゥ……ッ!」

 

 ――は? 何? いや、え?

 

「……あれ? これ……ああ、なるほど?」

「何だ? アイシャさん……?」

「ゥ……ッあ、あああっ、あっ、あ、あっ……ンゥゥ……ッ♥」

 身体が、ガクガク震える。必死にシーツを掴んで耐えて、ベチョベチョの染みに顔を埋もれさせる。そう。

 ――突然鮮明になった快美に、私は容易く、打ちのめされたのである。

 

<続く>

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