第一話:あんちゃん
ある秋の日のことだった。
俺の前にこれが転がり込んできたのは。
持ってきたのはあんちゃんだった。
部活が終わって、家への帰り道。ばったりとあんちゃんにあった。
あわなくなったのは一体いつ頃からだっただろうか。
昔はいっしょに遊んでいたあんちゃんがぶらっと俺の前に立っていた。
「あんちゃん!!」
「よお・・・義男か」
こけた頬にぎらぎらとした眼光。ぼさぼさの髪の毛にぼろぼろのコート。
久し振りに見たあんちゃんは昔の面影なんて微塵もなく、それでもあんちゃんだと俺には何故か分かった。
あんちゃんはそのぎらついた瞳で俺を射抜く。それで俺は先ほどまでのうれしさが吹き飛んでしまった。
あんちゃんは自嘲するようにクックッと嗤った。
「義男。お前にいいもんをくれてやる。手を出せ」
久し振りの再会を喜んでいる俺に対し、あくまでもぶすっと無愛想なあんちゃん。
それでも、あんちゃんにあえた喜びが俺をあんちゃんに従わせた。
あんちゃんがコートのポケットから何かを出して俺の手の上に落とした。
それはちっこい瓶に入っている液体と、一錠の薬だった。
「その液体は成分を体内に取り込んだ相手を軽いトランス状態―――催眠状態にするものだ。そっちの錠剤は体内にその成分の分解機構を備え付けるもの。どう使うかはお前が決めろ」
そして、あんちゃんは俺の横を通り過ぎた。
俺が振り返ると、あんちゃんは右手を挙げていた。
それが俺があんちゃんを見た最後だった。
数日後、ニュースであんちゃんの死を知った。
死因は溺死。
酔った上で車を運転していて、誤って海に落ちたらしい。
あんちゃんの葬式から戻ってきた後、俺は自分の机の上に置いてあるものが目に入った。
それはあんちゃんの残してくれた薬。
これが実際効くのかは分からない。
だが、実際に効くのならば使いたい相手もいた。
薬を手に取る。
俺の手のひらに載る錠剤を凝視する。
あんちゃんがいっていたことが本当かどうか、知る手だてはない。
使ってみるまで分からない。
そして、催眠状態といっても俺には催眠術なんてうさんくさいものとしか思えなかった。
時々、テレビの特番でやっている催眠術ショー。あんな感じのイメージしかなかった。
どうなるか分からない不安の中、俺は意を決して錠剤を口に放り込んだ。
俺には何の変化もない。
これで本当に変わったのだろうか?
俺は霧吹きになっている瓶から液体を手のひらに吹きかけてにおいをかいでみる。
何のにおいもせず、何の色もない。
そして、俺に何の変化もない。
これは、あんちゃんの法螺話だったのではないか?
そんな疑問が頭をよぎった。
だが、あんちゃんは俺が先ほど飲んだ錠剤はこの薬の成分を分解する機構を肉体に備えさせるものだといった。だとすると、もう俺にはこの薬は効かないのではないか?
誰かで試す必要がある。
だが、こんな訳の分からないものを誰かに使用して大丈夫だろうか?
とりあえず、俺は鞄に突っ込むだけ突っ込んで、布団に横になった。
翌朝、俺は起きると朝食を作る。
俺の両親は忙しく、ほとんど家にいない。
その分、俺が別にバイトなんてしなくても余裕で暮らしているだけの金を毎月振り込んでくれている。
俺のような状況をみんなうらやむんだろうけど、掃除や洗濯、食事の支度も自分でやらなければならないから、そう羨ましがられてもそんないいことではない。
食器を片づけると瓶の入った鞄を持ち、学校へと登校した。
退屈な授業もおわって、廊下を歩く。
何をする訳でもなく、さりとて、部活にでるのもおっくうな気分だ。
ぼーっと歩いていると、目の前にとぼとぼと歩いている女子の姿が飛び込んできた。
黒髪のおかっぱ。そして、左目に泣きぼくろ。
この世のすべての不幸を一身に受けているような儚い表情。
確かあいつは同じクラスの・・・誰だっけ?
名前を覚えてない。
つまりはそれほど影の薄い奴だ。
かろうじて顔を覚えているのは、たしかあいつはいじめられていたからだ。
何でか知らんが、同じクラスの羽村 瑞穂(はむら みずほ)がこの子にすごい怒っていて、それでいじめへと発展してるらしい。
クラスの女子の中心的存在の羽村がクラスの女子をけしかけていじめているそうだ。
俺には関係ないから気にもとめていなかったけど。
その時、あることが思い浮かんだ。
・・・あいつに試してみようか?
俺は鞄の中をまさぐる。そして、取り出した瓶を握りしめた。
あいつならいじめられているし、何かを話す相手もいない。もし、これがあんちゃんの法螺だったとしても、俺のことを変人扱いするのはあいつ以外いないと言うことだ。たとえ、本当だったとしても、その時はいろいろできるだけだ。
俺は瓶を握りしめたまま、あいつへと向かっていった。
グラウンドからは部活をやっている奴らの声が聞こえてくるが、廊下には俺とあいつ以外誰もいない。
正直、絶好のチャンスだった。
「あのさ」
柔らかくアタックする。
だが、自分以外信じられないのか、彼女は鞄をぎゅっと抱きしめると後ずさった。
貌が恐怖を映し出している。
逃げだそうな気配がある。
だが、その前に俺はシュッと薬を吹きかけた。
「キャッ」
彼女は怯んで、数歩下がったが、その一瞬後どさっと鞄を落とした。
貌には恐怖が張り付いたまま固まっている。
目は焦点を合わさず、口は何かにおびえたように開いたまま。
「え、え? おい?」
俺は焦った。
本当にうまくいってしまうとは。8割方信じてなかったのだが、こうなってしまうと逆に焦ってしまう。
まて、まずは落ち着け。
深呼吸。
落ち着いたら状況を確認しろ。
あんちゃんのくれた薬は本物だった。
あんちゃんはあの時なんていった?
”その液体は成分を体内に取り込んだ相手を軽いトランス状態―――催眠状態にするものだ。”
催眠状態って言うと、催眠術の事だよな。
催眠術っていえば、時々テレビの特番とかでやっている感じの何でも思い通りにできるって奴か。
そして俺は相手を見据える。
彼女はぼーっとしたまま前を見ている。
「鞄を拾ってついてこい」
俺はそういうと、歩き出す。階段を上に向かって。
そして、彼女もついてきた。
俺は彼女と階段を上がる。うちの学校は屋上を生徒に開放していないので、屋上前の踊り場にたどり着く。
待っていると、彼女は一段一段踏みしめて上ってきた。
ぼーっとしたまま、鞄を持って。
これで、俺はその効果を確信した。
俺はこの子を思い通りにできる。
どこかでにやりとした俺がいた。
「俺・・・いやいや、私の声が聞こえますか?」
俺の言葉に彼女はこくんと頷く。
「あなたは私の質問に答えなければなりません。どんなことでも答えてしまいますよ」
俺は彼女が頷くのを確認してから続ける。
「あなたの名前は?」
「楠 風音(くすのき かざね)」
「楠さん。あなたは同じクラスの羽村 瑞穂にいじめられていますね?」
「はい」
「それは何故でしょうか?」
「羽村さんの好きな人を私が取ったからだそうです」
そうです?
どういう事だろうか?
「それは本当ですか?」
「さあ? 私は羽村さんが好きな方の名前も顔も知りません。だから、それが本当の事かどうかは分かりません。ただ、羽村さんが私に対してそういってました」
そういうと楠は黙り込む。質問に答えたからだろう。
改めて楠を見る。
艶やかな唇に真っ黒な髪。そして見るだけで心を高鳴らせる泣きぼくろ。
そして、彼女は何かやったとしても決して言い出すような性格ではない。
ドクンと胸が高鳴った。
「楠さん。フェラチオという行為を知っていますか?」
俺の口から言葉が紡がれる。
楠はコクンと頷く。
「では、目の前の男性にフェラチオをしなさい」
俺の口から紡がれる言葉。それが俺の意志によるものかどうか、俺にもわからない。
楠はすっと跪くと手を伸ばし、俺のベルトをかちゃかちゃとはずす。
ズボンと下着を一緒におろすと、表情を浮かべないまま手に取った。
そして、それを口に含む。
ピチャピチャという唾液の絡まる音。
まるで、飴をなめるように大切に俺のものを頬張る。
裏筋をなめ、カリをなめる。袋も刺激し、俺に快楽を与え続ける。
その快楽に耐えられず、俺はすぐに射精してしまった。
暴れ回った俺のものはすぐに楠の口から飛び出して、楠の顔を、髪を汚した。
綺麗な黒髪に白いコントラスト。綺麗な肌を伝う、どろどろの液。俺はその姿に再び欲情した。
むくむくと元気を取り戻す俺のもの。
楠はそれを見ると、再び俺のものを手に取った。
そして、再び口にくわえる。それで気づいた。まだ命令は生きているのだ。
「フェラはもういい」
その言葉で楠は止まる。
「今度は下の口で相手をしてくれ」
俺の言葉にビクッと震える楠。
しかし、命令には逆らえないようでそっと服を脱ぎ始める。
おそるおそる、しかし、一歩一歩確実に。
そして、楠はすべての服を脱ぎ捨てた。
「壁に手をついて、ケツをこっちへ向けろ」
楠は言われるままに動く。俺は自分のものをしっかりと握ると楠へとねらいをつけた。
手探りで入り口を探す。ねらいを見つけると、一気に突っ込んだ。
ぶちぶちと破れる抵抗。
「ああああああっ!!!」
楠が大声で叫んだ。
俺は慌てて、楠の口を押さえ、息を潜める。
楠の声は校舎全体へ響いたらしく、下の方ではなにやら騒いでいる。
このままでは見つかってしまう。
俺は急いで、楠から引き抜くと服を着た。
楠にも服を着せる。
「楠。お前は後かたづけをすませてから帰れ。くれぐれも気づかれないようにな。家に帰ったら、お前は催眠からさめる。じゃあな」
そして、俺は階段を下り、ばれないように騒いでいる部活連中に紛れ込んだ。
静かに、家へと帰る。
その帰り道、鞄からあの薬の瓶を取り出し、見る。
最後にはけちがついたが、すごい威力だ。
相手を思い通りにできる力。
これを使えばあの子も・・・。
にやりと思わず口の端が上がっていることに俺は気づかなかった。
< つづく >