第四話「せめて浮気だけは」
トモノリがバイブを引き抜くと、バイブと女陰の間でどろりと愛液が糸を引く。マユミは、かなりはげしく気をやってしまったようだ。
「あの、触っていいっすか……」
「いいわけないだろバカッ」
「じゃあ『せめて』全部姉さんのいやらしい液を舐めさせてもらって」
そういわれたので、マユミはこれでも食らえとばかりに、自分の使っていたバイブをぐっとトモノリの口に差し込んでやる。
まるで、トモノリが無理やりフェラチオをさせられているみたいだが、愛液を余さず舐めとっていく。
「美味しいかい、私のは……」
そういいながら、トモノリが舐めやすいように動かしてやる。
男の性器を模したプラスティックの塊を男に舐めさせるという行為は、まんざら悪い気持ちはしないらしい。
マユミは、仕事のやり方と一緒で、どちらかといえば攻めるほうが好きなのだ。
「全部舐めてしまったので、こんどは姉さんの……」
皆までいわせず、マユミは股を開いてトモノリが舐めやすいように腰を浮かせてやる。自ら、そうしたのがマユミの矜持だった。
トモノリ程度の男に舐められて、自分が感極まったりはしないという自負。
ペロペロと自分の股間をトモノリが舐めている間に、少し喉の渇きを覚えて、トモノリの分に持ってたビールを飲み干したりしている。
そうこうしている間にも、マユミのたっぷり溜まったいやらしい蜜を、トモノリがすするように舐めとり、飲み干していく。
その動きは、まるで飢えた旅人が久しぶりの食事にむしゃぶりつくようだった。
恋人のミツヒコも、ここまで執拗にクンニリングスはしてくれない。
気持ちがいいというよりは、自分の股から出したものをこんなに美味しそうに舐めてくれる。
奉仕されているという気持ちが、自然のマユミを心地よくさせて高めていた。
「もっ……もうそろそろいいだろっ……」
「えっ……もうっすか」
「あんまりやると、気持ちよくなっちゃいそうだからさ」
またイッてしまいそうだとは、マユミの口からはいえない。
さっき、あれほど必死に舐めていたトモノリなのに、そうですかとつぶやいて、スッと口を離す。
「あっ……」
あまりに引き際がよすぎて、マユミは少し不満で、少しだけ寂しいと感じた。
「どうしたんすか……」
マユミがイキそうになったのを感じて、わざと満足させなかったトモノリだが、わざとらしくそっけなく聞く。
「別に……なんでもないよ」
自分から、性的な行為をトモノリに求めるのは恋人への裏切りだとマユミは感じている。
だから、して欲しいなんて口が裂けても言うわけがない。
「ほんとは、満足させてほしいんじゃないっすか」
「バカッ、そんなわけなんだろう……私にはミツヒコがいるから」
ほんとは、中途半端なところで止めて欲しくない。
マユミのまだ若い、程好く熟れた身体は快楽には逆らいがたいのだ。
「俺のも、こんなになってるし……どうせなら、セックスしてみないっすか」
断られることが分かっていて、自分の勃起したものを見せ付けるように言うトモノリ。
「そんなこと……。私を誰だと思って言っている……水谷マユミだぞ。浮気だけは、絶対にしない」
マユミは、夢から冷めたように、憮然として言う。自分の名前と共に、まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
感情を高ぶらせて怒ったようにマユミが反抗するときは、実は心の底では抗いがたい誘惑を感じているとき。
でも、浮気となれば話は別だ。それは、絶対に、ありえない。浮気はいけない。
愛した相手を裏切るぐらいなら、身体に冷たい刃を突き立てられて死んだほうがマシだと思えるぐらい、マユミがマユミであるかぎりの絶対の倫理なのだ。
その自分に課した強い戒めが、トモノリに良い様に翻弄されていたマユミの心を、落ち着かせて冷ましていく。
「だったら……『せめて』マユミさんの身体を使って、オナニーをさせてくれないっすかね。とにかく射精してしまわないことには、収まりがつきそうにないんすよ」
苦しげにそんなことをいうトモノリ。まあ、興奮して射精できないのは男の生理を考えれば苦しかろう。
「ああ、それでいいんなら好きにすればいいさ」
マユミは、それがどういう意味なのかも分からず。ホッと気が楽になったように鷹揚にうなずいた。
< 続く >