魔女のゲーム 同窓会編(解答)

魔女のゲーム:同窓会の魔女(解答編)

「魔女がだれだかわかったぞ!」
 そう言うなり、続けて、大声で叫んだ。
「出口さん! いるんだろう! 君が、魔女だ!」
 教室の前に立った喜一郎から、声が出る。
「は? 出口? だれだ、それ?」
「木下くん、頭おかしくなった?」
 五人が、勝手なことを口ぐちに言う。
 それを聞いて、私は、思わず笑ってしまう。
「―――正解、だよ」
 私、出口デイジー(でぐち・でいじー)は、正解者に惜しみない称賛の拍手を送った。
 数時間前、矢井田のしめた扉にぶつかったせいで肩が痛いけど、まあ、いいや。
 みんなが、だれもいないところから聞こえてきた拍手の音に、ぎょっとして絶句する。
 そのすきに、教室の後ろの黒板に、あらかじめプリントアウトしていた文字をはりつけて、体をずらして、みんなに見えるようにする。

魔女が貴方がたに命令する。
・貴方がたは、みんな出口デイジーの人形。

 喜一郎以外の人間は、全員動かなくなる。
「私が命令するまで、そこでまて」
 五人が直立して動かなくなる。
 喜一郎は、この結界の魔女の名前を看破したから、この結界での魔法は、もう効かない。
 というより、私が負けを認めたからか。
 もう、私の姿も見えているし、記憶も戻っているはずだ。
「ついてきて」

 私は、別の教室で、喜一郎と対峙する。
「ひさしぶり、喜一郎」
「ひさしぶり、デイジー」
 沈黙。
 口火を切ったのは、私からだった。
「ねえ、なんで私が魔女だってわかったの?」
 少し考え込むようにして、喜一郎が話し始める。
「まず――椅子と机が七つあったのは、不思議に思った。ストリップのときにはっきりしたんだけど」
 そうだね、処分するのは面倒だったし、それくらいで気づかれるわけないと思ってたけど。
「矢井田さんがステージにした机が二つ。僕は座れなかったけど他の五人が座ったので五つ。合計七つ、机と椅子、つまり生徒用の席があることになる」
 ここで少し目を閉じて、なにかを思い出すようにする。
「それに、最初ここに来た時、卒業したときのままだ、っていう会話があった。そして、僕たちが最後の卒業生だ。だったら、ここに残っている席は、最後の卒業生である僕らの人数分あることになる」
 だけど、それが七つある。
 僕らは六人しかいないのに。
「そして、最初に千葉くんが言ってたよね。『誰一人欠けることなく、全員そろった』って。だったら、おかしいんじゃないかって思ったんだ」
「でも、もしかしたら、私たちの一つ上の学年が七人で、私たちが六人だったのかもしれないじゃない。そして、たまたま一年間、片づけてなかったのかも」
「学校はふつう、そういうことはしないと思うけど、その可能性も考えた。でもさ」
 私の髪を見て、喜一郎が言う。
「黒髪じゃない髪をしているのは、六人の中にはだれもいないよ」
 びくっ、と私の体が震える。
 また、この髪のせいで。
 私の望むようには、動かないのか。
「―――動機は、やっぱり、いじめの復讐?」
「そうだよ」
 ハーフ。
 まわりと違う。
 それを気にしない人もいるのかもしれない。
 でも、私は気にした。
 周りも気にした。
 自分が気にしていることを、周りから攻撃されるのは、たまらなくつらかった。
「喜一郎だけだったね、助けてくれたのは」
「ごめん」
 喜一郎は、顔をふせる。
「もっと、ちゃんと助ければよかった。中途半端だった」
「ホントだよ」
 私の言葉のナイフが、ぐさっと刺さったのか、喜一郎の体がびくっ、と動く。
「こっそり下の名前で呼びあってたよね、私たち。だれもいないところでさ。喜一郎だけがつらい学校生活の支えだった」
 でも。
「でもね。もっと、助けてほしかった。ちゃんと、完璧に、ヒーローみたいに」
 もしかしたら、それは私のわがままなのかもしれないけど。
 自分でがんばれっていう人もいるのかもしれないけど。
 私は、あのとき、そんなに強くなかったから。
「ごめん」
 もう一度、喜一郎は頭を下げた。
「―――でも、ありがとう」
「なにが」
 私は、つとめて落ち着いた声で問い返す。
「僕に対する命令だけ、優しかったから」
「別に。あいつらがもっと邪悪だったら、あの十分間でもっとひどいことになってたかもしれないよ」
「でも、ありがとう」
 私は、話題を変える。
「なんで、名前までわかったの?」
「ある意味、あてずっぽうだよ。記憶操作されている可能性も考えたけど、今まで体験してきた魔法? でいいんだよね? の中で、人の記憶と認識をいじる永続的な効果を持つのは、最初のあれだけだったから」
 出口のことを忘れ、認識することができない―――。
「さすがに、下の名前まではわからなかったけどね。もってきた手帳には書いてあったのかもしれないけど、探しているうちに何かされるとまずいなって思って」
「正しい判断かな」
「でも、その、魔法、みたいな、あれって、一体―――」
「なんかね、私、魔女みたい」
 ぽかん、とした顔で、喜一郎がこっちを見る。
「いや、本当なんだって。魔女の家系みたいなの。母方の方がね。死んだおばあちゃんの遺品を整理してたら、魔術書が出てきて」
 いろいろ試行錯誤しているうちに、魔女の結界の作り方を知った。
 その中では、魔女である私が作り出した掟は絶対。
 相手がその掟を認識した瞬間、相手を絶対に服従させることができる。
「信じられないって顔してるけど、目の前で見たでしょ?」
「あ、ああ、うん……」
 その言葉には、納得するしかないようだ。
「ところで、これからどうするの?」
 私は、腕を組む。
「全員殺す」
「そ、そんな……」
 呆然とした表情で、喜一郎が言う。
「じゃあ、魔法を解いて、あいつらに説明する? 私、殺されちゃうかもね。きっと、レイプくらいは報復でされるよ。助けてくれる? 五人相手じゃ無理でしょ」
「デイジー、僕は……」
 ぎゅっ、と手を握り、喜一郎は言う。
「じゃあ、新しく、その魔女の結界ってやつを作ってよ。そこに僕が入る」
「それに何の意味があるの?」
 言っている意味がわからず、私は聞き返した。
「それで、僕に何か魔法をかけてよ。そのあとで、僕を外に出して。効果が外に出ても変わらなかったら、きっとこの結界だって同じルールで動いているんだから、みんなの記憶を書きかえればいい。楽しい同窓会だった、って。もし、外に出たら魔法の効果が解けちゃうんだったら――」
「だったら?」
「先に君が逃げて、僕たちが夜になってから出られるようにしたらいい。その間に、逃げることができるんじゃないか?」
「みんなを殺すのを、諦めろって言うの?」
「謎を解いた僕へのご褒美、じゃダメかな?」
 気弱な笑顔を浮かべる彼に、私は心の中で嘘つき、という。
 私を人殺しにしたくないだけじゃないの。
「いいよ。ご褒美、ね。そういうのも、悪くない」
「わかった。じゃ、効果が続くようなら、殺さないでね。約束だよ?」
「わかった。約束する」
 そして―――。

 数か月後。
 ある建物の一室で私は人を待っている。
 その人物が、廊下を歩いて、こちらにやってくる。
 外国人。
【これでいいのか?】
 外国語の質問に対して、こくりとうなずく私。
 扉を開けると、そこには、体の線を強調するような、ホットパンツにビキニのトップをまとった新橋、日笠、矢井田がいた。
「こんにちは。芍薬です。今日はみなさんに楽しんでいただけるように、精いっぱいがんばります」
「ひまわりです。あたしのぐちょぐちょに濡れたおまんこに、かった~いオチンポを入れて、気持ちよくなってくださいね♪」
「山吹と申します。わたしのすべては、今日ここでわたしを買ってくれたあなたのものです。全身全霊をもってご奉仕いたします」
 何を言っているのか理解できないだろうが、彼女たちが何のためにここにいるのかは、わかっているはずだ。
 外国人からお金を受け取ると、部屋の中で、「奉仕」が始まる。
 部屋の隅では、すでに男二人が、見知らぬ男にお尻を捧げていたり、絶対にしらふなら付き合わないだろうような女とセックスに興じていたりする。
 男も相手にできるように調教するのは、なかなか大変だったが、それなりに楽しくもあった。
 それに、趣味じゃない女に喜んで奉仕する嫌いな男を見るのは最高だ。
 女の方も、性格をときどき変えたりして操っている。
 いつもだったら絶対に着ないような服を着させて楽しませたり、場所や人物が特定されないように写真やビデオを撮って、不特定多数にばらまいたり。
 相手がされていることを知らないのだから、復讐にならないのかもしれないが、私はこれで満足だ。
 彼らは、客も含めて、この結界を出たら、ここであったことは忘れてしまう。
 秘密のダンスパーティーで楽しく踊った、たとえば、そういう記憶にすりかわってしまうのだ。
 ここで行った魔法が、外に出たときでも効果がそのままだというのは、知らないことだったけれど、本当によかった。
 圧倒的優越感が押し寄せる。
 私は、人を殺さないという約束は守った。
 きっと、彼がこれを知ったら怒るだろう。いや、悲しむかな。
 でも、私は許せなかったのだ。
 こいつらと一緒にいた時間は、六年間。
「六年間、たっぷりつけをはらってもらうわよ」
 私は、彼らに向けて笑顔を向ける。
「んじゅっ、じゅるっ、じゅぽっ、じゅるっ、じゅぷっ、れろっ、れろれろっ」
 新橋が、下品な音をたてて、外国人にフェラチオをする。
 どこからどうみても立派な売女だ。
 しゃがんで股を開きながら、フェラチオをして、開いているホットパンツの穴から、自分の秘所をまさぐる。
 気持ちよくてくせになっているのだ。
「んじゅっ、んんっ、オチンポおいしいっ、んんっ、じゅるっ、おまんこしあわせっ!! ああ、なんで、どうして……! 彼氏いるのにいっ!! しあわせになっちゃうよおっ!」 
 新橋には、ちゃんと彼氏の記憶は残してある。
 だけれど、見知らぬ相手のペニスの方がずっと気持ちがいいし、見知らぬ相手に奉仕していると、とても幸せだという暗示を与えてある。
「悪い子なのにっ!! じゅるるっ、ん、んはあああっ!! 悪い子なのに、悪い子気持ちいいのおおおお!!!」
 罪悪感を感じれば感じるほど、どんどん気持ちよくなるという命令も与えた。
 新橋はどうやら、この手の快感に弱いらしく、何度やっても、彼氏にあやまりながら絶頂し、最後には――。
「ごめんね、ごめんね、彼氏ごめんね、ああ、ダメ、彼氏の名前、思い出せない、思い出せなくなっちゃったよお……気持ちよすぎて、もうどうでもいい……オチンポ……あなたのオチンポが私を幸せにしてくれるの……んちゅっ、大好きっ、オチンポ大好きっ、あなたが大好きっ、私、幸せっ、しあわせえっ!!」
 秘裂をまさぐっていた指の動きがとまり、絶頂によって、新橋の体が震える。
 奉仕中に、オナニーでオーガズムを迎えてしまうはしたない売春婦を見て、外国人がうれしそうな笑みを浮かべる。
 別に彼氏の名前を忘れさせる命令は出していない。
 こいつはこういう女なのだ。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅ~っ」
 日笠は、上半身を奉仕している。
 口にキスをしたり、乳首や胸板をなめまわしたり。
 矢井田は、ローションを使って、男の睾丸を刺激したり、お尻に刺激を与えたりしている。
「んじゅっ、じゅるっ、んじゅうううっ……えへへ、おじさん、気持ちいい?」
 見た目から、ロリコン系のおじさんたちに大人気の日笠が、コケティッシュな笑顔を浮かべる。
 男の手が、日笠の股間に伸びると、とろけたような顔になり、その甘美な刺激を受け入れる。
「あんっ、おじさんっ、おまんこいじっちゃだめぇ……」
 形ばかりの拒絶を見せるが、その顔は、「もっと欲しい」とあからさまに告げている。
「ひまわりのおまんこ、いじっちゃだめなのぉ……」
 そう言いながら、両手で男の手首をつかみ、ホットパンツにあいた穴に男の指をいれ、リズミカルに抜き差ししている。
 男も、その積極性を評価しているのか、にやにやと笑いながら日笠を見ている。
「んんっ、そんな、見ないでくださいっ、そんな汚いものを見るような目で見ないでっ、見ちゃだめっ、ああっ、ダメダメ、ダメなのに!」
 指の動きが加速する。
 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、と水音が響く。
「やだぁ、変態だって思われちゃうっ、いやらしい子だって、ひまわりいやらしい子っ、いやらしい子なのおおおっ!!」
 日笠には、見下されると快感になるという命令を与えておいた。
 自分で勝手に自分を卑下して、快楽をむさぼる姿はあさましい。
「ひまわり変態っ、ひまわりは変態ですううっ、ああっ、いくっ、みんなに見られて、ひまわり変態おまんこいくううううっ!!」
 快感にほうけた顔を衆目にさらしながら、日笠は絶頂を迎える。
 矢井田は、ビニールの薄い手袋をした手で、男のお尻の穴に奉仕している。
「いかがですか? 山吹の指で、旦那さまのケツ穴に、しっかりご奉仕させていただきますね」
 矢井田は、口調をメイドのように丁寧にして、男性への奉仕に悦びを感じるようにしたくらいだ。
 少し、甘いかもしれない。矢井田はむしろ傍観者のような立ち位置にいて、積極的にいじめていたわけじゃないからだろうか。
 だが、傍観者も加害者と同罪である。
 性奴隷としての役割は、まっとうしてもらわねばならない。
「んふふっ、腰、動いてますよ? ここですか? ここがいいのですか?」
「おおっ、うおおっ」
 矢井田がうまく刺激したのか、男の体が震え、声をあげる。
 もう我慢できない。
 そう感じているのが、女たち三人にもわかったのだろう。
 男の身振り手振りで、ベッドの上に、三人横並びになって、後ろを向いて、尻を突き出す。
「どうか、私のオマンコに、そのたくましいオチンポを、ああ、お願いです、もう我慢できません! 新橋芍薬のおまんこもう我慢できない! ハメて! ハメてください、いますぐに!」
「ひまわり、ひまわりは淫乱女です、売女です、いつもオチンポのことしか考えていません、ひまわりのちっちゃいおまんこの中に、精液びゅーびゅーっ、してくださいっ、中出しおねだりする変態女を、もっと罵って……!」
「私のおまんこは、ご主人様だけのものです。どうか存分に楽しんで、気持ちよくなってくださいませ。それがわたくしの幸せでございます」
 何を言っているか理解できないだろうが、男は突き出された尻に、順番にペニスを入れる。
 最初は新橋だ。
「んんんっ!! おっきいいいいっ!!!! か、彼のよりずっといいっ! たまんないっ! 彼のなんていらないっ!! このオチンポがあればいいっ、いいっ、んんっ、あれ? 彼って誰? ああんっ、奥にずんとくるうっ! ああっ、もう他の男のことなんてどうでもいいっ!! おまんこっ! おまんこにっ! このオチンポがっ、あああっ!!」
 次に日笠。
「ひまわりまんこにオチンポきたあああっ!! きもちいいっ、きもちいいっ、きもちいいっ! 後ろからずんずんってされるの最高っ! 犬みたいに、獣みたいに犯してほしいよおお! ひまわりおまんこ、犬みたいに犯してっ! 犬なのっ、ひまわり犬なのっ、雌犬なのおお! あなただけのおまんこの雌犬なのっ、ああっ、もう人間じゃないっ! ひまわり人間じゃないっ!! ひまわりはおまんこの動物なのっ、たっぷり交尾してくださいっ!! この動物に獣の幸せをくださいいいいっ!!」
 最後に矢井田だ。
「ご、ご主人様っ、ああっ、ふたりのおまんこ汁で、どろどろになったオチンポ、気持ちいいですっ……おまんこのぬるぬるで、私、ああ、ご奉仕しているのに、気持ちよくなってしまいますっ、ご主人様のオチンポの形、はっきりと感じますっ、ふううっ!! は、はげしっ、そんなにパンパンつかないでくださいませっ! じゃないと私、わた、あああっ!! がんがん来て、もう、わたし、いっちゃう、いっちゃう、いっちゃううううううううううう!!!」
 矢井田が絶頂するのとほぼ同時に、男の動きも止まる。
 どうやら、一回目は矢井田で男は達したらしい。
 だが、これで萎えることなく、二回戦へと突入していく。
 そのとき、携帯がメールの着信を知らせる。
【この前の同窓会はけっこう楽しかったね。よかったら、ひまなとき食事でもどう? 最近どうしているのか知りたいし】
 喜一郎からのメールだ。
 彼には、予想以上に楽しい同窓会だった、という記憶を与えてある。
【最近は元気だよ。でも、あと数年は忙しいと思うんだ。だから、ちょっと会うのは難しいかなあ】
 送信ボタンを押すのに時間が、かかる
 目の前で、奉仕に励む五人を見ながら、考える。
 私は、好きな人にウソをつきつづけることができるだろうか?
 復讐を実行していることを隠し続けて、彼と会うことはできる?
 無理だね。
 考えるまでもない質問だった。
 受けた恨みは必ず晴らす。
 嫌いなやつにはウソだってつける。
 でも、好きな人には、私は無理だ。
 送信ボタンを押す。
 君とは住む世界が違うよ、喜一郎。
 はたして、あのとき、喜一郎に言われた通り、復讐をあきらめていたら、どうだったろう。
 しかし、自分の受けた仕打ちを忘れてしまうなんてこと、私にはできない。
 相手を許すこともできない。
 許すことのできない自分を認めてあげることもできない。
 魔道書さえ見つけなければよかったのかもしれない。
 でも、力を得たなら、私は正義のために使いたいし、これが私の正義だ。
 たぶん、喜一郎くんは、私の正義を認めないだろう。
 それが、なんだかうれしかった。
「オチンポ最高でしゅう、ご主人様ぁ!」
「んっんっんーーっ、もっとキスぅ、キスう!」
「はあっ、はあっ……わ、わたしのオマンコにも、オチンポ様を恵んでくださいませっ!」
「おしり、おしりぃ、ああ、いいですっ、そご、がんじまずうううっ!!」
「すっごくかわいいよ、お姉さん、ああっ、もう出るっ、気持ちよすぎるよっ……」
 ひっそりと行われる買春行為。
 ここにいるかぎり、私は安全だ。
 いや、魔女の結界にしたてあげた建物の中ならば、どこだって。
 彼ら五人の悲鳴にも聞こえる悦びの声を聴きながら、魔女の私は、ほんの少しだけ笑った。
 飽きるか、六年経つかまで、これを続けよう。
 そのあとは――そのあとは、どうしようか。
 それは、私にもわからないことだった。

< 終わり >

登場人物紹介

木下喜一郎:いじめをかばっていた。魔女の結界からただ一人、無事生還。
新橋芍薬(しんばし・しゃくやく):いじめの主犯格。性奴隷。
千葉長太郎:千葉長太郎:芍薬の彼氏。一緒にいじめていた。性奴隷。
三村光義:ひまわりの彼氏。一緒にいじめていた。性奴隷。
日笠ひまわり(ひがさ・ひまわり):芍薬のとりまき。一緒にいじめていた。性奴隷。
矢井田山吹(やいだ・やまぶき):不良。傍観者。性奴隷。

出口デイジー(でぐち・でいじー):魔女。あるいは復讐者。

あとがき、および推理解説。

 まじめに考えれば、十人中九人は「七人目がいること」に気づく難易度を目指して書きました。
 五人くらいが、苗字までわかって(読者への挑戦で、名前の半分は推理できるというのはこれを意味します)、さらに十人に一人くらいは、「三人称だけど実は一人称」だという叙述トリック(のヒント)に気づいてくれる程度の難易度を目指しました。
 成功していれば幸い。
 推理ものを書くのは初めてです。
 致命的なロジックの破綻や、「ミステリにはなっているけど、フェアプレイの精神には欠ける」ようなことがないことを切に願っているのですが、自信はそこまでないです。
 もし、そういうものがありましたら、未熟な作者を許してください。
 なにか指摘ありましたら、感想掲示板までよろしくお願いします。
 読者への挑戦ものは、わからないよりわかったほうが気持ちいいので、「すぐには解けないけれど、がんばって考えれば解けるくらいの難易度」に設定しようと思いました。
 難しすぎるくらいなら簡単すぎるほうがいいと思ったのですが、難易度調整は難しいです。
 あと、長ければそれだけ興奮できるかといえばそんなことはなく、短くても十分ツボに入る文章を書くことができるはずだと思ったので、それを試してみました。
 まあ、これは、長すぎると推理のために読み直す量が膨大になって読者の負担になるというのもあるんですが。
 正直、あまり成功した自信はないですね。
 それから、MC系のシチュエーションをできるかぎり網羅するように書いてみることを目標にしてました。
 出てきた順に、認識操作、人形化、常識操作、肉体操作、記憶操作、感度上昇、精神操作です。

 推理のロジックについてあらためて説明します。、
 作者は、読者への挑戦をふくむミステリを書いたのは初めてなので、突っ込みあるかもしれません。
 そのときは感想掲示板へどうぞ。

 どういうロジックで「七人目がいること」が導けるかといえば、
・マグネットで止める音がしたことや誰も消していないはずの文章が消えたことなどから、実体を持った人間が魔女であると推測
・ストリップで簡単なステージに使った席は二つ。喜一郎だけ立って、他の全員が座ったので、座れる席は五つ。合計で七人分の席がある。それと、一番最初の喜一郎の発言(卒業したときのまま)と、千葉の発言(誰一人欠けることなく)から、卒業生は七人いて、全員が来ているとわかる。
このことから、なぜか一切描写されない七人目がいることが推理可能
・冒頭の描写では六人全員黒髪であるのに、茶色の髪があることから、もう一人いることが推測される

 実体を持っているなら、「なぜ描写されないのか、なぜ認識されないのか?」について。
 この疑問が、「魔女の名前」へつながる論理を導く疑問になるでしょう。
 これは、魔法の存在できないふつうの推理小説ならアウトかもしれないんですが、
・出口のことを忘れ、認識することができない
・この校舎から出ることはできない
 この二つの魔女のルールに違和感を覚えたら、解けるかな、と思いました。
 校舎から出さないことが目的なら、最後のルールだけでいいはず。
 この違和感から、七人目が「出口」という名前で、このルールで存在を隠していると読者が推測できるのでは、と考えました。
 ここまでの推理で、喜一郎は魔女の名前を当てるわけですが、あともうひとつ、この作品にはトリック(めいた)ものがあります。

 それが、三人称に見せて一人称です。
 探偵役の喜一郎が解くためのトリックではなく、純粋に読者向けの叙述トリックです。
 まあ、これは気づかれなくても別にいいかという気持ちで書きました。
 犯人当てとも関係ないですし、ボーナストリックみたいな。
 この叙述トリックは、いくつかの作品で使われているようですが、直接知っているのは一作品だけです。
 これは、、以下あたりがヒントになるかな、と。
・千葉の目の前で、デイジーが手を振って、気づかないことを確かめた(デイジーとは書いていないけれど、ちょっと違和感を感じられる描写にしたつもり)
・矢井田の扉にぶつかったときの描写、矢井田が一人でいるときの笑い声。
・語りの中で喜一郎以外の人間は名字呼び捨て、あまりいい描写はしていない
・他にも三人称だと違和感を感じかねない細かい描写がちらほら
 あまり解かせる気のないトリック(というより表現方法)なので、これらの描写に違和感を感じただけでも、すばらしいと思います。

 あと、認識操作についてですが、ストリップしているときに、フェラをさせる命令を、チョークで縦書きにしていたのは、デイジーが自分の体で文字を隠していたからです。
 人間は見えていないものでも脳内補完するといいますし、体で隠せば問題ないという理屈。
 デイジーやそれに属するものは認識できなくても、音や声や書いた文字、手から離れた紙などは認識されてしまうので。
 かなり微妙な描写ですが、こういう描写も推理のヒントになりうるかも。
 あと、これはわかるわけないですが、「あ、でも、教卓は撤去されてるよ」と冒頭でしゃべったのはデイジー。

 今回は、明確に魔女が勝つ展開にしようと思いました。
 執筆していて気がついたんですが、だれがMCしているのかわからないと、あんまり相手を支配しているという描写ができないですね。
 この作品の原案は、人狼ゲーム編(というアイデアだけあった)の魔女のゲームなんですが、原案では、オオカミ視点で物語を進める予定だったので、そういう風に魔女がだれかを明確にして書いたほうが、より悪辣さが表現できたかな、と思いました。まあ、それをすると、いったいだれが魔女なんだ、という物語にはならないわけですが。
 一度、MC小説で本格推理ものをやってみようと思って書いたのですが、思ったより、推理小説とMC小説は、相性がいいと思います。
 うまくいったら、かなりおもしろいものができるんじゃないでしょうか。だれか書いてくれたらうれしいな……。
 この作品も、ちょっとでも楽しめていたらうれしいです。では。

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