リアル術師の異世界催眠体験17

◆ 代行者ラヒーシャ

 

 

 ――。

 

 

「っい、ったああああ、あいたっ、いたい、いたいッあああアアアアアア!!!!」

「アイシャ・バライ。司教様を受け入れることで、貴方の中に神の手が宿ることでしょう」

「っぎ、っあああああ、アアア、やっだっやアアアアアアアアッ!!」

 

 それは、私が預かった記憶。アイシャには持たせられない荷物。私が生まれた、理由。

 

「おお、おお。アイシャよ。痛かろう、苦しかろう。それこそが聖別の儀(サクラメントゥム)。清められし精神は聖別され、汝の罪は神の手が負うであろう」

「お、ごっ……ぎ、ア、アア……っウェ……ごほっ」

「おう、アイシャよ。哀れなる娘よ。打ち捨てられし穢れし魂よ。お前の罪(カルマ)はその身に余る……故に私を受け入れ、分かたれよ。ふっ、は、ふふ、愛(う)き娘よのおアイシャよ」

「アイシャ。司教様の御寵愛を賜る慶びに祝福を」

「や、ッア、っアアッ、アアアアアアッ!!」

 

 ――聖別の儀。

 

 罪深き異教徒の稚児に聖杯(カリス)を与え、精神を清め……高位の司教による祝福を与えることで、その罪を担う器を聖別する儀式。

 

 私は――代行者(アンジェルス)・ラヒーシャは、そのようにして……生まれた。

 

 

 ――。

 

 

 ――何だ、“これ”は?

 

「……くゥンッ、お、おっおおお……ッンあ、アッ、あああっ、あぁあああっ♥」

「うん、やっぱり……そうか。ちょうどよかった」

 気持ちよすぎる。こんなの私は知らない。セックスというのはこういう行為ではない。断じてこんな、温かくて気持ちよくて、溺れるくらい幸せなものなどではない。いや、そもそもただの指。セックス自体してないじゃないか。

 

「アイシャさん……? どうしたんだ?」

「いや、これは違うよ。そうだろ?」

「ゥアアアッ、ゥウ、っくフ、ッ、ゥン、っ、あっ、あっあああああ♥」

 駄目だ。こんなのは、駄目だ。私は、こんなことをされたことはない。こんな風にしてもらったことはない。これは、私の知っている行為とは違うものだ。分からないから、拒めない。

 

「……ラヒーシャだね? いいよ、気持ちよくなって。今日は、運転お疲れ様だったね……アイシャがぐちょぐちょに感じてた身体、最高だろ? よかったよ、君にもしてあげたかったからね……ほら、ほら、ほらっ」

「あウッ、ンンッ、はー、はーっ♥ 何、これ……ンゥ、っくふゥ……ンン♥」

 体中が、この男の指に甘えている。私は戦闘術の訓練を受けているから、いつでも立って戦えるように鍛えられている……けど、今は無理だこれ。それくらい、甘く甘く、蕩けてしまっている。多分立てない。そのくせ、尻ばかり勝手にくいくい上がるのだ。『私』はそれくらいどうしようもなくこれが好きらしい。

 

「別の人……?」

「そ。いやあ嬉しいね、Gスポットでイき散らかす幸せを、3人に教えられるとは」

「はー、はーっ♥ レシヒト……これ、やめ……」

 おかしくなる。いや、もうなっているんだけど、身体だけじゃなくて、これは間違いなく心にも影響するだろう。こんなにも気持ちがいいんだから、こんなの好きにならずに済む気がしない。というかアイシャ! あの子は私にこれを押し付けるために、わざと意識を手放していた!

 

「3人? アイシャさん……その人、違う人なの? だとして後1人って?」

「ラヒーシャ。君には後で聞かなきゃいけないことがある。だけどまあ、そんなのは後でいいから……今は、めいっぱい楽しんでいってよ」

「ッくゥ……ン。レシヒト、ごめン、私、その……っあ♥ だめ♥ それしちゃだめッ♥」

 止まっていた指が再び、ぐりゅ、ぐりゅっと、私の中を捏ね回し始めた。何これ? どうして私はこんなになる? セックスは、したことある。聖別されてからも、修道会では定期的に仕込まれたから。任務で男に迫ったこともある。でも、こういうのは知らない。

 

「よーし、トーマス。君はこれから、彼女……ラヒーシャの受けている快感を、一緒に感じることができる」

「は? えっいや、おい待……、っぁ……」

「感じてしまう。女の身体にされたことのある君は、リルにしてもらったのを思い出して、鮮明にその感覚を味わうことができるよね……ほらっ」

 

 ぱちん。

 

「うあ、あ、あっ……うわっ、な、何だこれ、何これぇ……♥」

「そういうわけで3人目ね」

「あっ♥ うう、レシヒト、やめ……あっ♥ だめ、ンゥッ♥」

 何てことしてるんだこの男。トーマスというのはミリちゃんの男性人格らしいけど、身体は女だから女性器の感覚は分かるはず。むしろ私が分からないのだが。何なんだこの気持ちよすぎるやつは。

 

「ラヒーシャ、君も新鮮な反応するね。こういう風になったことないの?」

「ゥン……ない、から……あゥッ♥ や、め……ゥンッ♥」

 ゆっくり圧迫されるだけで腰が蕩けそうになる。これ親指? そんなことをされたことはないし、こんなに気持ちよくなったこともない。

 

「うあ……何だよ、これ、お、おぉおお……♥」

「ないんだ……経験自体は充分そうなのに。もしかして……こういうの嫌い?」

「ヒッ♥ き、きらいぃ……♥」

 嫌いに決まっている。だって私は、この苦痛と屈辱に満ちた行為を、アイシャに代わって背負うために生まれたのだから。あの子が、身も心も、手も汚さずに済むように……。そう、あの子に代わって汚れるために、私は――代行者は、存在しているんだから。

 

「嫌いかあ……なんでだろう。あ、いや……聞くべきじゃないよね、こういうの」

「ウウ……くふゥン……♥」

 だめだ。シレニア語だと上手く言えない。説明できない。いや、こんなこと説明するつもりもないんだが。とにかく、難しいことを話すのに不便すぎる。いや、仮にジャハーナ族の言葉で喋れたとして、今の私がまともに口を聞けるかは怪しいものだが。

 

「うん、知らなくても関係ないしね。だから今日はさ……ラヒーシャ、君をエッチ大好きな女の子にしてあげるね」

「~~~~~っ!! ~~~~~~~!!??」

「あっうんごめん、何言ってるかわかんない」

 思わず母語でブチ切れてしまった。何を? 何を言い出すんだこの男? デリカシーとかそういうもの無いのか?

 

「いや怒ってるのは分かるし、怒るのも分かるだろ」

「僕は善意の催眠術師だからね。ろくなセックスしてない子には、ちゃんといいもんだよって教えてあげたいじゃん?」

「ゥン、死ね。レシヒト」

「直球だ」

 思わず直球が出た。シレニア語でも比較的よく使う言葉だから使いやすい。そして私の気持ちを端的に伝えられるはずだ。どうか伝わってくれればよいのだが。

 

「……セックスが嫌い、っていうのはさ、傷ついた女の子からしか出ない言葉なんだ。そういう子には長い時間をかけて、寄り添って癒すべきなんだけど、僕はラヒーシャにそこまでできない」

「ゥン。だから、やめて」

 私達が癒される必要はない。私が苦痛や汚れを引き受けるからアイシャは平気で、私は堪えるから平気。大きなお世話である。

 

「でも、とりあえず気持ちいいこといっぱいして、大好きになってもらうことはできる。どんなに嫌がっても、すぐ意見を改めたくなるような……癖になるくらい素敵な経験、させてあげられる」

「レシヒト、バカ?」

「それはそう。そいつ本当におかしいよ」

 どうしてこの男は、そんなに私をセックス好きにさせたいのか。そもそも、これが苦痛だから私が居るんだ。分かっているのか。いないだろうが。

 

「まあ僕のことは嫌いでもいいから、エッチなことは好きになってもらうね。楽しいことは多い方が幸せだ。中でも、これは特に幸せになれるやつだからね。アイシャもそれを望んでるんじゃない?」

「いや、私。幸せ、要らない……!」

「お前リルさんにもそんな理屈で手を出したの……?」

 私は、性的な行為を楽しむことなどできない。だって、それが嫌で堪らないから生まれたのに。それが楽しくなったら私は一体何なんだ。アイシャもアイシャだ、あの子がしたがっていたのはいい。あの子は私と違って、セックスを楽しめてもいいだろう。でもどうして、どういうつもりで引っ込んだんだ。

 

「まあ、僕の指は好きになっちゃうだろうし、僕のことも好きになるかもしれないけど、まあそこは頑張ってもらって。ほら、ね?」

「っあゥッ、あっあ、あ、ああっ♥」

「お、わ……ぉ、おぉぉ……くそ、これ……♥」

 まただ。指がぬるりと一捻りされるだけで、腰が暴れる。暴れると思えば、蕩ける。激しく、甘く。硬く、柔らかく。全部この男の指ひとつで操られているのだ。これは催眠術とやらによるものか?

 

「実際、ちょっと好きになって来てるでしょ? こんなにおまんこ甘やかされて、絆されない子居ないよねえ。分かる? こうして『ぬちっ』って抉るとさ、絞るみたいに吸い付いてきてさ……」

「っゥあああ、だまれッ、くゥンッ♥ し、死ねッ♥ 死ねお前ッぁっあああぁあっ♥」

「待てって、うあ、あー、あああ、うぉお……っ♥ 何? これ何なんだよぉ……♥」

 いや、うん。気持ちいいのは認める。両手でシーツを掴んで、尻を差し出して、膣内の一点を捏ねられるだけで、私は気狂いのように甲高い声を上げ続けているのだ。言い訳しようもなく快楽を味わっているのは確かだ。でも、こんなこと、好きになどなるものか。それくらいで、私は変わることはない。

 

 だというのに。

 

「よしよし……ラヒーシャ、まともな相手と巡り会わなかった? それとも、いや、そうか。もしかすると、辛いことがあったのかな……」

「黙れ、っンあぁッ、くゥンッ……なに、が、分かる……!」

 頭を撫でて、顔を近づけて……そんなことを言うのだ。辛いこと、あった。もちろんあった。それによって私が生まれたのだから。

 

「何にも。君に何があったかは知らないし、今はいいや。どうせ僕にはこれしかできないしね……今まで、こういうので幸せになれたことがないんだろ? じゃあ、幸せになってみようよ。好き嫌いは、その後で決めたらいい」

「ッくゥ、ン……」

 意味が分からない。多分言語的な齟齬じゃなくて、普通にレシヒトの言っていることが意味不明なだけだと思う。だってこれ、幸せとかそういうのじゃないだろう。

 

「ラヒーシャ、さっきも言ったけど……君には聞きたいことがたくさんある。もしかしたら、穏やかじゃない話なのかもしれない。でも、まだ聞いてないからセーフ。今の君は、まだ僕にとって何者でもない友達の女の子だから」

「いや友達にそんなことしないだろ」

 トーマスの言う通りだ。この男はおかしい!

 

「でもトーマス。見てよ、この子……可愛いでしょ? すごく綺麗だよね。こんな子が今まで、ちゃんと気持ちよくしてもらえたことがないって駄目だろ」

「ちが、ゥ……」

「そりゃ、可愛いっていうか……すごく、エッチだと思うけど……」

 そういうのは、嫌いだ。そういう目を向けられるときは、痛かったり、苦しかったり、悔しかったり……そう。そういう目を向けられるときは決まって――『私』という存在が、軽んじられるときだから。

 

「アイシャが言ってたけど……ラヒーシャはさ、すごく強いらしいよね。もしかしたら今だって、その気になれば僕らを殺せるのかもしれない。でも、そんな素振りはないということは……少なくとも、僕らの敵ではないし、僕のすることを許せないわけでもない、ってことだ」

 何を甘ったれたことを言っているんだこいつは。私は南正教会(オルトドクシア)修道会の者で、シレニスタには偵察任務で来ているんだぞ。エルミルとシレニスタは表向きは友好国だが、少なくとも北天教団(セレスティア)の連中は、それを反故にするつもりでいるのだ。そんなことも知らずに、『敵ではない』などとは。

 

「そうだよね。……ラヒーシャ、君は僕らの敵ではない。だって、僕らに疑いを向けられても、何もしようとしないんだから……君は僕らを傷つけることを望んでいない。むしろ仲良くしたい、そうだよね」

「ゥ……あっ、あっ、あああっ」

 この、声。低くて穏やかで、頭の中に入り込んでくるような声。気持ちよくて、思わずうっとりと聞き入ってしまう声。『催眠』だ。アイシャが骨抜きにされた技法。まさか私にも、すでに?

 

「ああ、でも。もしかしたら……気持ちよすぎて、抵抗したくても、できなかったのかもしれないよね。ほら、こんな風に……」

「……ッンゥ♥ ゥあっ、あっあああ♥」

「うあ、ちょ、いきなり……くそぉ……♥」

 そう、そうだ。私は、街道の偵察の途中で宮廷魔術師ミリセンティアを見つけ、その実力を見て知るために彼らに同行することにしたのだ。あの塞がった街道をどうにかできると言うのなら、その手並み見せてもらおうと。そして――それが教主国の脅威となるなら、その場で『処置』せねばならない。

 

「あ、これ気持ちよさそう。確かにこれじゃあ、いくら腕に覚えがあっても、立つこともできないだろうなあ。ラヒーシャが、僕らをどう思っていたのかは分かんないけど……」

「くゥッ、あッ♥ あゥッ、ハァ、ハァ、く、そっ……っあ♥ ダメ、ッアアア♥」

 ぬるん、ぬるん。繰り返し円を描くように、膣内の一か所を撫で回されて。そうなのだ。私は無力になっている。確かに今は丸腰どころか全裸で、武器は――隣の部屋に置きっぱなし。ここはレシヒトたちの部屋だから。でも……体術だけでも、こんな素人丸出しの男に苦労はしないのだ。普段なら!

 

「どうなんだろうね。君は、僕らと仲良くしたいと思ってくれていたのかな。それとも、隙を見て裏切るつもりでいたのかな。どうなんだい? ほら、ほら、なあ?」

「アアゥ、ゥンッ♥ し、知らないっ、く、ゥ……ッ♥」

 そう、普段の私であれば、瞬きひとつする間で充分。それだけで、こんな男の戯言は二度と聞かずにすむようにできるのだ。この、股間から送り込まれ続ける快美感に、四肢から脳髄まで徹底的に糖蜜漬けにされてさえいなければ!

 

「でもまあ、どっちにしても同じだね。僕の声と指が、君をそんなに気持ちよくさせているのなら……君は、もうすぐ僕と『仲良く』なってしまうんだから。そう、ラヒーシャ――」

「あっ、あっ、あぁっ♥」

「――たとえ君が、僕らの敵だったとしても」

 

 

 ――。

 

 

 ぐぽ、ぐぽ、ぐぷ。

 

「あっああっ♥ ああっ、アアアアッ♥」

「むり、むりだって、うぉ、ぉおお♥ おっ、ふおぉぉお♥」

 品の無い水音が響いている。そして二人分の嬌声。レシヒトの親指が膣内に潜り込んだまま、人差し指の付け根が陰核を捉え、『ぎゅむ♥』と挟み込んでいるのだ。そればかりか、左手を腰裏に添えて、高く上げさせた私の尻を、腰を、ゆっさゆっさ、前後に揺さ振っているのだ。あまつさえ、シーツに潰れて泣きじゃくる私に――。

 

「ほら、ラヒーシャ。僕の声は君の心に直接響くんだったよね。ほら……ラヒーシャ、可愛いよ」

「ゥアアアッ」

「ラヒーシャ、君の過去に何があっても、否定などしない。君は今ここにいて、僕の声と指を受け入れてくれている。それが嬉しい。君が何者でも変わらない。この旅で出会えてよかった。とても可愛くて、どこか哀しい女の子。ラヒーシャ、アイシャは君を好きなんだね。君にもこの、気持ちいいことを知って欲しかったんだね。いっぱい、いっぱい味わっていいよ」

 ――ずっと、ずっと。ずっと! こんな言葉を浴びせ続けているのだ!!

 

「トーマス。ラヒーシャのことは好きかい?」

「すき、すきっ、これ気持ちいい! エッチ、エッチすぎて……ダメだよっ、これダメっ♥」

 馬鹿にしてる。あんなの快楽に溺れてるだけ。分かってる。分かってるけど――ぼろぼろ、涙が出る。だって。こんなの、初めてなんだから。

 

「ラヒーシャ、これから君を、世界一幸せな女の子にしてあげる。今夜だけ、特別だからね」

「アッ……♥ ゥン……?」

 にゅぽ、と指が抜かれる。ずいぶん長いこと入っていた……。代わりに、別の指? 恐らくは人差し指が……ぬるり。真っ直ぐ、入ってきた。

 

「トーマス。童貞の君は知らないかもしれないけど」

「う、うるさいな、う、うぅ……」

「女の子の膣はな、背中側に多少曲がってて……突き当たりの天井に、おっ、あった。これ」

「ンッ!? ンンンゥ……♥」

 ぞわ、と背筋を何かが込み上げて来た。今までの、股間に溜まるどっぷりした快楽とは少し違う……四肢が痺れて脱力するような感覚と、下腹部に奇妙な違和感。何か、変なところを触られている。腹を裂かれて臓腑に手を突っ込まれたように感じられ……しかし苦痛も不快も伴わない、まさしく奇妙な感覚。

 

「これな。女の子は気持ちよくイきまくると、子宮の入り口が、精液を吸い上げるために下がってくるんだってね。イったから、相手ももう射精してくれてるだろう……って勘違いしてるんだよ。この出っ張り、ほら。軽く押し込むだけで、すごいだろ?」

「ッア……あっ、あああっ、変……これ、変、これッ、ゥアアアッ♥」

「つまりね、ここを触られるってことは『このセックスで満足しました』ってことなのさ。だから、気持ちいいだけじゃない……めちゃくちゃ、幸せになる。ラヒーシャ、君の身体は、最高のセックスを終えたつもりになってるんだ」

 ぷに、くに、恐らくはその程度の優しい力。それだけで、私は言われるままに全身を震わせて――そう、この快楽はどうやら全身に来るやつで。わなわな、かくかく、震えながら、腰だけ突き上げて、全部レシヒトの言う通りになっていた。

 

「この弱点に触られちゃってるってことは、身体が認めちゃったってことだ。わかるよね? 『満足です』『気持ちよくなりました』『幸せです』『大好きです』って、全身で感じているでしょ。だからね――こんな指1本。これだけで君は今……世界一、幸せになれてしまう」

「ァ……ッアアア、アアッ♥ アッ、あ、あはぁああ……♥」

「ね、トーマス。覚えていきなよ」

「ぉあ……ぁ……ぉっ、お゛おぉぉおお……♥」

 くりん、くりん、円を描くように転がされているのが分かる。それだけで、私は本当に幸せになってしまっているのだ。全部この男の言う通りだった。いや、セックス自体していない、していないのだが。本当の歓びとは、こんなにも神秘的なのだ。

 

「ラヒーシャ。『好き』って言うと、君はもっと気持ちよくなることができるよ。何がとか要らない、ただ『好き』だけでいい。僕を好きにならなくていい。この声を、この指を、この行為を、この時間を、この快楽を……何でもいい。ほら、『好き』と言ってしまえば、君は最高の幸せとともに、今日最高の絶頂に至ることができる。ラヒーシャ、君は深く長くイき続けて――最高に、幸せになれる」

「ゥ……あ」

 イく、ここから? もっと? あり得ない。だって、今、私幸せだよ? もしかしたら、アイシャより幸せになっちゃったよ?

 代行者は、幸せになっちゃ、だめなんだよ?

 

「ラヒーシャ。ほら、好きだよね?」

「ァ……す、き……っ!? ォ、ご、ッン、~~~~!!???」

 っぞぞぞぞぞぞぞぞ。背筋を一気に込み上げてきた、どうしようもない多幸感。聖杯を呑まされたときの恍惚……とも違う。ただただ深い満足、幸福。与えられ続けた快楽、浴びせられた受容、溺れるほどの情愛、それらが練り固められた神秘的な法悦(オーガズム)。こんなの、駄目になっちゃうでしょ。アイシャ、あの子は私を、どうしたかったのよ。何なの?

 

「ほら好きだ。これ好き? 全部好き?」

「すっすき、すきぃ、すきッ♥ ゥア、ッン、アアアアアッ♥」

 好きになった。全部好きだ。こんなにいいものなら好きだ。無理。好きにならないわけない。初めて。こんなの初めてで――。

 

 ――初めて、好きなものができた。

 

「そっか。じゃあラヒーシャ。君のことは好き? ほら、ここ。君の身体だ。君のまんこ、君の子宮だね。これ好き?」

「っくゥン……あ、あー♥ ……す、き……すきっ、あっあ、ああー♥ あは、あはははっ♥」

 好き。好きだ。嬉しい。私、これ好きだったんだな。知らなかった。

 

「良かった。じゃあさ……」

「ッゥン、ゥ……ンンンッ♥」

 すき。全部好き。何より――。

 

「――アイシャのことは、好き?」

「ッすき!! すき、すきすきすき、大好き、ッ! ア……ッ」

 

 そうだ。私はきっと。

 

「ッ……ウアアアアアアアッ!! アッあああ、あぁああああぁ……♥」

 

 

 ――それがきっと、一番……好きなのだ。

 

 

 

◆ それぞれの夜

 

 

 ――。

 

 

「そういえば……自室にお迎えするのは初めてかな。リルさん、どうぞ」

「お邪魔しますね」

 宮殿の、普段はあまり訪れない区画。騎士団副団長の私室です。つまり……アルス様のお部屋ですね。副団長ともなれば、部屋の造りもしっかりしているし、面積も大きく取られています。

 

「これでも羨まれるものなのだが、それでも塔ひとつを預かる身分とはいかない。狭苦しい思いをさせてしまったら申し訳ないね」

 宮廷魔術師であるミリセンティアさんは、東の塔の最上階全面を私室にしていますし、加えて塔全体もあの方のための敷地、と言えます。そう考えれば流石に二枚は落ちますが、それでも流石の厚遇ぶりです。

 しかし……アルス様としては、その差が大層心苦しいのでしょうね。誰よりも、好いた女を守りたいと願う騎士様であればこそ。

 

「そんな。とても素敵なお部屋です」

「飾り気のない部屋だろうに」

「ふふ。男性の部屋らしくて素敵ですよ」

 武侠の人の私室なんてそんなものです。ましてやアルス様ですからね。ミリセンティアさんも、お付き合いする男性の部屋に手を加えるようなことはしなかったでしょう。

 

「そう、だろうかな。できるなら、リルさんに手を加えてもらうのも良いかもしれない」

「あら。良いんですか? でしたら、次回は是非。そうですね……ふふっ、ここにはスツールが欲しいです。こっちには……」

 アルス様の部屋を、彼がするよりも上手に……綺麗に保って、毎日お迎えする。それはきっと、彼が最も望むことなんでしょうね。そして叶えられなかったこと。

 

「はは、リルさんには敵わないな。まあ、まずは座って頂いて、お茶でも……」

「あっいえ、座っていてください。私が淹れますので……お道具、お借りしますね」

「あ、ああ。そうか、ふふ。リルさん……ありがとう、頼むよ」

 あ、今のアレですね。『ミリセンティアはそんなことしてくれたことないのに』ポイントですね? アルス様、こういう所分かりやすくてとても可愛らしいです。

 

 ――さて。そもそも何故私が、アルス様の部屋に通されているのか、ですが。

 

「いや、うん……急に呼んでしまって、申し訳なかったね」

「いいんですよ。だって、私も……あの大きな塔に一人きりは、寂しいですから」

 今日の昼に、塔の方でアルス様に催眠を掛けました。そして、2つの後催眠暗示を言い含めています。

 

 ――アルス様は、今夜、何だか人恋しくなって……無性に話し相手が欲しくなります。『誰か』を部屋に招きたくなりますよね。

 

 1つ目の暗示は、これだけ。まあ、『誰か』としか言っていないのですが……。

 

 ――誰でも、いいのですが……アルス様にはきっと、2人でゆっくりお話をしたい、もっと親密になりたい相手が、いらっしゃいますよね……。

 

 と、こう続けましたので、つまり私ですね。どう考えても私が呼ばれます。アルス様にそんなウェットな交友関係など、他にありませんので。よく知っています、何せ調べましたから。

 ここにエスコートしていただくまでの間、何人かの家臣の皆さんにお会いしました。当然、皆さん驚いておられましたよね。もう少し人目を憚るかと思っていたのですが、アルス様の……剛胆ぶり、でしょうか。それとも単に鈍さなのでしょうか、そうした部分を私はまだ見縊っていたことになります。

 アルス様がミリセンティアさんと恋仲ということになっていることは周知のことですから……お相手が不在の夜に、その侍女を伴って自室へ赴く姿は……まあ、多少は噂になりますかね。

 

「いやあ、ミリセンティアは滅多に来てくれないからね。すっかり一人に慣れてしまったと思っていたが……どうも弱った。リルさんの魅力が、僕を惹きつけるのだろうか」

「ふふ、良いんですか。そんなこと言って」

「悪いとも。悪いというのに……どうにも弱った。こんなことは初めてでね。独り寝が、耐えがたく……寂しい、と感じるなどとは」

 ……面白いものです。あれほど朴訥(ぼくとつ)であったアルス様が、今や一端の、浮名を流す色男のごとく振る舞っているのですから。人恋しい、というセンチメンタリズムは、彼のような豪傑にもこんな顔をさせてしまうのです。これを可愛らしいと言わずして何と言いましょう。

 

「竜とまで称される御方の口から、そのような詩的な思いが語られるなんて。なんだか素敵ですね」

「自分でも驚いているよ。よもや僕にこんな機微を感じる心があったとはね。弱くなった、と嘆くべきだろうか」

 ――まあ、その心情は私が無理やり差し込んだものなのですが。台無しとは言いません。むしろ可愛いじゃないですか、それも。アルス様ちょろかわいい。

 

 

 ――。

 

 

 まあ、そんな風にひとしきりイチャイチャをさせて頂きまして。当然ベッドに参るわけですが。

 

「リルさん? これは一体?」

「まずはアルス様が横になってください。安心して……リルは、気持ちいいことしかしませんよ?」

「うう、嫌な予感がするのだが……」

 そうですね、ベッドに仰向けに寝かせたアルス様は、催眠に掛けられたときのことを思い出しているのかもしれません。

 

「大丈夫ですよ……催眠誘導は、しませんから」

「そ、そうか……あれは、やはり良くないからな」

 私はそっとアルス様に寄り添い……胸を重ねるように、覆い被さります。そして――。

 

「リル、さん……!?」

「アルス様、『弱くなってください』♥」

 

 ――こう言われると、アルス様はとても気持ちよくなってしまって……全身の力が、すっかり抜けてしまいます。

 

「う、あ……ぅ、おぉ……こ、これ……は……?」

「はい……動けませんね。だらーんと……力が抜けて、気持ちよーく……気持ちよーくなって……ぜんぜん、力が入りませんよね……♥」

「う、ぁ……っ」

 だらん、と脱力したのが分かります。暗示のトリガーだけでは完全に入っていなかったみたいですが、追い込んで暗示を囁いたら、すっかり力が抜けてしまいましたね。分かります、私も……少し暗示の入りが甘いときでも、こうされたら絶対入っちゃいますので。

 

「ふふ、アルス様は……とっても、とっても強い騎士様ですよね。私のこと、守ってくださるんですよね……?」

「あ、あ……うう、これ、は……?」

 なでなで。アルス様の短髪を優しく、撫でてあげます。子供をあやすみたいに。

 

「動けませんね……今のアルス様は、とぉーっても弱くなっちゃって……私でもこうして、押さえつけることができちゃうんです……ほら、力、入りませんね……♥」

「なん、で、うう、あ……」

 なんで、と言いますと。そうですね……面白いし、可愛いですし……そして何より。

 

「無理に力を入れようとするとー……ほら、ぞわぞわぞわっ、気持ちよくなっちゃいます。少しでも力を入れると気持ちよくなって、どうしても力が抜けちゃいますね」

「うあっ、あ、っあああっ」

 ……そう、何より。アルス様はきっと、こうされると喜ぶと思ったからですね。

 

「ほら、こんな小娘に組み敷かれちゃってますよ。アルス様、とっても弱ぁ~くなっちゃったんですね。私にも、絶対勝てないですよね、ほら……」

「うっ、うああぁあ、こ、これっ」

 手首を押さえつけて、上から見下ろすと……あ、目を瞑ってしまいました。恥ずかしいのでしょうか。可愛いです。そのまま、アルス様の右手首を掴み上げて……右手の指、力抜けちゃっていますねこれ。アルス様の指を、拳の形に畳んであげて……丸ごと私の右手で、にぎっ。手のひらと指で、掴んでしまいます。

 

「ほら、アルス様の手、捕まえちゃいました。よわーいから、片手で握っちゃいましたよ……」

「うっ、う、あぁあ……」

 全然抵抗がありません。そうですよね、力を入れると気持ちいいですからね。仕方ないです。

 

「私みたいな小娘に、負けちゃっていいんですか……? ほら、頑張って力を入れてー、この手、開いて見せたらどうですか? リルの手くらい、簡単に押しのけられますよね……?」

「うっ、く、うっ、おおおおおおぉぉっ……っあああああああっ」

 あ、すごいです。手が開き始めます。指がぷるぷるして……あ、腰もちょっと動いています。気持ちいいんですね。とても、頑張っているみたいです。

 

「えいっ♥」

 

 にぎっ。くしゃ。

 

「っうああああぁああっ」

 かるーく力を入れただけで、アルス様の手は『くしゃ♥』と元通り潰れてしまいました。あ、これ思ったより良いです。ぞくぞくします。こんな、こんな屈強な男の人が、私の手でくにゃくにゃに負けちゃうんですよ?

 

「アルス様……好き、ですよ……♥」

「うっ、あ、ああ、あああぁあぁ……す、き……♥」

「ふふっ、ふふ、アルス様の……情けない声、だぁい好き……♥」

「うっ、あ、あぅうう、あぁああぁぁ……」

 う、うわあ……ぞくぞく、止まりません。本当に、思っていたより良いです。最高と言っても過言ではありません。これは私、天才だったかもしれませんね。天才でした。

 

「負けちゃうの、気持ちいいですね……リルに負けちゃうと、幸せですね……だから、落ちちゃって、いいですよ。ほら……っ」

「ぉ、あ」

 アルス様は、私に負けてしまったのですから……こうして目を覆ってあげると、当然。

 

「はい、落ちる――深く、落ちますね……気持ちいい……」

「……ぁ……」

 当然、一瞬で――どっぷり、落ちてしまうのでした。

 

 

 ――。

 

 

「リルさん……リルさぁん……♥」

「ふふっ、気持ちいいですか? 分かりました、よねっ。お部屋では、ベッドでは……私の方が、強いんですから……ねっ」

 

 じゅぽ、じゅぽ。

 

「ぁ、ああぁ、あ、うあっ、だめ、だめだ、だめぇ……♥」

「大丈夫ですよ……その気持ちいい声はぁ、私しか知らない、声ですから……他の、だぁれも、聞いてない、ですからね……♥」

 

 ぢゅっぷ、ぢゅぽ。

 

 アルス様のズボンを下ろし、おちんちんを取り出して……当然、生で、犯しています。身体を前に倒して、アルス様の頭の横に両手を衝いて……腰を持ち上げては、降ろす。

 

「き、気持ちいい……気持ちいい、よ、リルさん……」

「私には、全部見せて……負けちゃいましょうね。ほら、ちゅ……♥」

「ん、んふ……ん、ぶ、んむ」

 キスをしながら、胸に布地の感触。私は全裸で、アルス様は私にズボンを下ろされただけで、服は着ています。なるほど。このギャップが、むしろえっちなのではないでしょうか。

 アルス様は弱ぁくなってしまったままなので、自力でお着換えなんてできませんしね。

 

「ふふ、また、ちゅーしちゃいましたね……このベッドで、ミリセンティアさんとは、したことないんですよね……?」

「うあ……な、ない、よ」

 あ、あー、いけませんねこれ。ぞくぞく、しますよ。悪いことって、こんなに、楽しいんですね……。もっと、しちゃいましょう。これはやっておくべきです、心が豊かになります。

 

「じゃあ、じゃあ……ミリセンティアさんに、こんな風に、ほら、ほらっ、上になってもらったりなんて……♥」

「し、してない、だって、これは、娼婦の体位……っ」

「アー」

「ううっ……」

 いやあの……えっちしてるときにアーになっちゃうの、嫌なんですけど……。なんか一瞬で股間も乾く気がするというか……えー。誰が得するんですかこれ?

 

「えっと……そうだ、乳首、触ってもらったりとか……してない、ですよね?」

「そんなの、知らない……されること、無い、だろ……?」

 よし、この路線で行きましょう。娼婦も騎士様に乳首責めはしないらしいです。知見を得ました。

 

「アルス様……男の人も、ここは気持ちいいんですよ。ほら、布地越しに……乳首、かりかりって……ふふっ」

「えっ……うあ、あ、あっ、ひっ、だめっ、だめ、だっ」

 くすぐったそうにしています。身をよじろうとしていますが……だめですよ、それは。

 

「あれ、力が入っちゃいましたね。力が入っちゃうと、どうなるんでしたっけ……♥」

「おっ、お、おおぉぉぉ……あっああああ……♥」

 ああ、可愛いです。このまましばらく、乳首をくりくりしながら、腰も使って――。

 

 

 ――。

 

 

「はー♥ はー♥ アルス様、アルス様……これ、これっ気持ちっ、いぃっ♥」

「リルさん……リルさん、で、でる、出る、出るっ、あ、あ、ああぁあ」

 身体の角度を変えたりしながら……ずうっと、アルス様を犯し続けて……。

 

「だめっだめ、だめですよ? 私、おっ、これ、くぼみ、こすれて、イけます、からぁ♥」

「うっ、うおっ、好き、好きだ、リルさんっ、あっ、あぁあっ、ああっ」

 いつの間にか、私も気持ちよくなってしまっているのです。両手を後ろに衝いて、腰を浮かせて、浅く、ちゅぷちゅぷ、これはあれです。レシヒトさんの指に教えられた、気持ちのいいところ。太いものが、くぽ、くぽ、音を立てて擦れて。

 

「あっイく、イっ、イきますよ♥ アルス様も、ほらっほらっほらあ、一緒に、負けて、くださいっあああぁあああ♥」

「うあ、だめだ、だめっ、それ、は……あっ、ぉ……ぉ……あ、出……っ……ぅぉ、ぉおおお……っ♥」

 

 くぽ、くぽ、じゅぽ、じゅっぽ、じゅっぽ、ずりゅっ。

 

 私がイって、腰がぺたんと落ちて……奥にごりっと、だめなのが当たって。どぷ、どぷ。あ、出てる。出ちゃってるのが、やけにはっきり、分かってしまって……。

 

「あ……♥」

 

 可愛い。

 

「ぉっ、おぉおお、お、ぉ、ぉっ、ぉっ、ぉぁ……♥」

 

 かくかく小刻みに震え……許された僅かな動きで、最後の一滴まで私の中に出そうとしているのが分かります。少しでも、私のおまんこに擦り付けて。少しでも、気持ちよくなりたくって。少しでも、精液注ぎ込みたくって。ああ。

 

 可愛い、可愛い、可愛い、愛しい、虐めたい、可愛い、可愛い。

 

「す、き……です、よ……♥」

 

 奥で射精の余韻を感じながら……アルス様への愛情がぶわぁっと溢れて――。

 

 

 ――ああ。

 

 私は、どんな目で、彼を見下ろしていたんでしょうね――。

 

 

 ――。

 

 

 ぱちん。

 

 いつもの音で私は目覚め――そして理解した。いや何があったかは理解できても、何故そうなっているのかは本当に理解不能なのだが。

 

「……どうしてこうなった」

「こうなった、と申しますと」

「うるさいうるさい! なぜトーマスくんが出てきたのかと聞いている!」

 本当に意味が分からない。拘束して放っておいて欲しいとは確かに言いましたよ? いやちょっと待って。何で私はそんなことを? もしかして私は変態だった……?

 いやそもそもそれだってレシさんが言わせてきたんじゃなかった? 私に命令して、して欲しいことを正直に言ってしまうようにって……おっと。これはダメですね。私は賢いので、自分から隙を見せるようなことを話題にはしない。

 

「いやだってほら、面白かったでしょ」

「面白がるな!! しかも何なんですかあの童貞煽り。何故? 何故私が煽られているんですか……? 関係なさすぎる……」

「ミリちゃン、うるさい……」

 あ、ラヒーシャさんが起きた。レシさんにアホみたいにイかされて、しばらく痙攣して帰って来なくなってたんですよね。わかります。アレは簡単には立ち直れないんですよ、私は詳しいんだ。

 

「あ、ラヒーシャ。はい水、飲んでおいた方がいいよ」

「ゥン……ありがとう……」

「水要りますよね……分かる……」

 無限に分かりみが出てくる。レシヒトさん被害者の会結成しようかな。

 

「いやまあ、そういう話してる場合じゃないんだけどね本当は」

「あっそうですよ。ラヒーシャさん、結局何者なんですか?」

 むしろそれを言うならエッチしてる場合じゃなかったのでは? でも結果的にラヒーシャさんがヘロヘロになってるからそれはそれでアリ? 私にはもう何も分からない。

 

「……私、は……南正教会の、修道士」

「なるほどわからん」

「南正教会、エルミル『正教』のことですね。あの国確か、宗派が2つあって」

 北と南で分かれていたはず。その南側の方。その2つの宗派を取りまとめるのが統一教主で、エルミルで一番偉い人……ってことだったと思う。陛下のお母様が、その統一教主の親族で……って話を聞いたのを覚えている。

 

「ン。北天教団」

「そうそれ、エルミル天教だ。どちらも大神エルンストを信仰してるんですけど、細かい教義とかは違うんだそうで」

「ほーん。どうしてその修道士さんがこの国に?」

 そう、そこだ。私もエルミルの宗教組織には詳しくないけど、普通に考えれば諜報員。一応友好国ではあるけど、だからと言って油断はできないわけだし。国家要人として私が命を狙われることだってあり得る。だって私は今や宮廷魔術師、シレニスタの重臣なわけだから。

 落ち着いて考えると、何でのんびりエッチしてたんだろ……。危機感どこ……?

 

「言えない……任務」

「はあ? それじゃ困るんですけど……」

「まあまあ、ミリちゃん。そうか、それでラヒーシャ。実際僕らが知りたいのはそこじゃない……君が、僕らの敵かどうか、ってことだ」

「それはそう……」

 ラヒーシャさんを見ると、考え込んでいる。いや、これ即答できない時点で信用できないんですが……?

 

「レシヒトと、ミリちゃン」

「レシヒトだよ」

「ミリセンティアさんですが?」

 逐一訂正していくことは大事である。

 

「……今は、違う。敵、違う」

「今は?」

「今じゃなくて、この先の話だと?」

 

「先は、分からない」

「アー」

「アーになっとるね」

「なりもしますよ」

 まあそりゃそうなので何とも言えない。ラヒーシャさんはエルミル国の南正教の人で、何かの任務を帯びている。いやよく考えたらそれを明かしてくれるだけでも相当では? 少なくとも、今敵対する気がないというのは本当っぽい。

 

「今は、友達」

「友達かあ」

「あ、そうですね。友達でいいなら」

 

「アイシャも……いいよね?」

「もちろん」

「こちらこそよろしくお願いします」

 なるほど。今は友達で居てくれる。アイシャさん共々、多分私達のことを嫌いではないし、今すぐ敵対する理由も無いんだろう。エルミルとの関係が悪化すれば敵になることもあり得るけど、今のところそうなる予定はない。ラヒーシャさんはそれだけのことを明かしてくれたわけだ。

 

「いや良かったよ。実際問題、操舵手の当てはないわけだし」

「それは本当にそうなのよ」

「ン。大丈夫……でも、ゥ……疲れた」

「そうなりますよね、分かる」

 わかるぞ!! あれだけイった後は本当に疲れるんですよ!

 

「それとさ……ラヒーシャ。やっぱり、まだ居る?」

「ン。居る……アイシャちゃン。少し、困る」

「……ごめん」

「あ……そっか」

 アイシャちゃん。5歳に若返ったアイシャさんとして、新しく出来ちゃったっぽい人格。私にはそういうのは良く分からないけど、きっと大変なのだろうというのは分かる。

 

「アイシャたち、と、私。嫌じゃない」

「……そう言ってくれるなら、いいんだけどね。僕にできることがあったら言ってくれれば」

「ゥン。平気。アイシャ、喜んでる」

 そうか。アイシャさんは『アイシャちゃん』が消えてしまうのを嫌がっていたっけ。

 

「催眠ならまた掛けられるし、今度は無理はさせないよ」

「そう言ってまたエッチなことするつもりですよ」

「それは……ン。嫌じゃない」

「あー分かる……」

 嫌じゃない、というか、まあ、好きになりますよね……そりゃね……。私だってさあ、最初はこう……うう……。とにかく、やっぱりみんなこうらしい。私だけではないということ。

 

「ミリちゃんはさっきからやけに分かりを示しているけど」

「だって言ったでしょ。私がエッチなんじゃなくて誰でもああなるんですって」

「ゥン……気持ちいい。エッチ……だった。初めて……」

「ほら見ろ!!」

 やっぱり私は悪くなかった。これからは不当な風評には胸を張って反論していこう。

 

「レシヒトは、変。おかしい」

「ほら見ろ! ほら見ろ! ほら見ろ!」

「いや嬉しいけどねそれ」

「だいたい、あんなことされて……う、うう……」

 そうあんなことされて気持ちよくならない訳がないのだ。あんな、指でこう、乳首くりくりして、お腹きゅうきゅうしちゃって……ずっとされて……それで、一番奥まで指で……うう、あんな感じで、こりこり、くにくに、しつこく、しつこく……あー、あー。あー……。

 

「ミリちゃん?」

「……うーうー……うー」

 奥がダメになって……ダメなままイって……そしたらあの甘いとこ、お腹の裏側だ。あれ。あのやたら気持ちいいとこ、親指とかずるいですよね。ぐりぐりしてですよ? こう、あー。だめ。だめなんですって。ああいうのされると、やっぱり思うんですよ。これ私じゃなくっても絶対気持ちよくなるやつでしょって。ぐりゅぐりゅって、アレやられて、変な声出ない女の人おる? おらんでしょ?

 

「ミリちゃーん」

「ミリちゃン、涎」

「はっ」

 しまった。私としたことが余計な妄想に囚われていた。

 

「あっ……あー……うう、うー」

「あー、ラヒーシャ」

「ン。部屋で休む」

「アアアア! やめろ! その空気やめろやめて下さい恥ずかしいんで」

 これあれだ! 『ミリちゃんが発情してるから席外してくれる?』みたいなやつでしょ。私は分かってしまうんだ! そんな優しさは要らない!!

 

 

 ――。

 

 

「さて、それじゃあミリちゃん」

「うー! 知らないし! して欲しくないし!!」

 

 ――レシヒトさんと出てきた、聖業(クエスト)の旅。

 

 なんか、大変なことになってきている気がするけど、めちゃくちゃ……。

 

 うん。

 

「お? 言わせた方がいいやつ?」

「知らないし」

 

 ――めちゃくちゃ、楽しい。

 

<続く>

4件のコメント

  1. よませていただきましたでよ~。
    催眠術師多すぎ問題。
    まさかアイシャちゃんまで催眠術を使い出すとは、このリハクの目を持ってしても・・・w
    独占スキーなみゃふとしては複数人術師がいるとNTRの危険が出てきそうでビクビクしてしまうのでぅ(今のところはNTRはアルスさんくらいなので大丈夫なのでぅが)

    それにしても内容が濃ゆいでぅねぇ。
    アイシャちゃん爆誕も十分に衝撃的なんでぅが、トーマスくんやら、ラヒーシャさんの経緯やら衝撃的な情報が多すぎて感想をまとめるのに困るw
    ノクターンで一話一話感想書けばいいのだろうけど、あっちで一話一話書くのも面倒でぅし(おい)

    アイシャちゃんの爆誕経緯がラヒーシャさんと同じことを辿ってるってことは南正教団も催眠術に似たような行為を行ってるってことでぅよねぇ。
    天教も正教も闇が深くないでぅか?
    宗教なんてそんなもんだろうけど

    そしてアルスさんはもうだめだ・・・おしまいだぁ・・・
    完全に骨抜きにされてますね。これで自信をつけたリルさんがレシヒトに催眠かけて支配するなんて言うバッドエンドが来てもおかしくなさそうなのが・・・w
    頑張れレシさん! リルに負けるなw

    それにしても、宮廷魔術師のイマイチな方って・・・ミリちゃん・・・対外的にもそんな認識なのかw

  2. 個別レスができることに気づいたので個別レスをしていきます。
    いつもありがとうございます。てか感想早い。怖い。

    内容が濃いので、この時期は執筆にかなり時間が掛かりました。風呂敷は丁寧に広げなくてはいけませんからね……。エルミル教主国周りは今後掘り下げていきます。
    トーマスについては、おちょくられるために出てきただけなので特に意味はないですね。
    ノクターンの方についてはまあ気にしなくて構いませんw

    アルスは毎回「ここからさらに下があるのか?」みたいな堕ち方してますが元気です。シーンが多い。優遇ヒロイン。

    ミリちゃんしょぼかわいい

  3. ふへへへ……
    リルちゃんの、好きな人を必要以上によく観察して知ろうとする姿勢、大好き。
    分かるよ、気になっちゃうもんね。それで相手を喜ばせるために使いたくなるよね。
    ……ん、あれ? 言ってて思ったけどその心理って要するにスト……。

    そしてレシミリの恋人カップル。
    関係こそ即席ではないとはいえ、本当に長年連れ添った恋人みたいな信頼関係だなあ……特にラストの茶番好き。
    うんうん、言わされたいよね……だから、わざと言わせてもらえるようにツンツンしちゃうんだよね。
    そうしたら、レシヒトはちゃーんと察してくれるって信じてるから。わかるー。
    催眠で言わされちゃっただけだから仕方ないよねー。ミリちゃんかしこいしレシヒトやさしいなあ。

    1. リルは自分の好奇心を越えて、相手を喜ばせるために観察して知ろうとするからスト……ではないですね。もっと邪悪な何かです。

      ミリちゃんはどうなんでしょうね。言わされたくてやってるのか、はたまた天然でああなるのか、ちょっと分からないところがあります。

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