後編 「うえっ………ぐすっ………」 俺の部屋に響き渡る幼い泣き声。 「あか……茜……ちゃん………」 俺のベッドに横たわり、もはや動かなくなった茜の身体にすがり付いて泣く、葵の声。 「いやだぁ………いやだぁ…っ」 そ
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マリオネット 前編
前編 ごうごう ごうごうと――― 吹き荒れる、その風自身すら凍らせるような北風が、山の斜面を滑り降りる。 ざわざわ ざわざわと――― その場にそびえる杉の木々が、その風から身を守るように、お互いの幹を寄せ合い
もっと読むマリオネット 第9話
第9話 「あ~…だり~」 カリカリという、ノートにペンを走らせる音が教室に響く。 期末テストも近づくこの時期、誰もがいつ、教師の口からテストのポイントが告げられるかもわからないと、聞き漏らしの無いようにと必死に授業に
もっと読むマリオネット 第8話
第8話 マンションの見慣れたドアノブに、鍵を差込みひねる。 カチャリ、と言う音が響き、鍵が外れた。 俺は鍵をポケットにしまうと、抱きかかえていた葵を持ち直しドアノブをひねる。 葵は、すでにその身体に合わなくなって
もっと読むマリオネット 第7話
第7話 砕かれた葵の青いベールが、まるでダイヤモンドダストのように宙を舞う。 それは、光りを撒き散らす、青い輝きの透き通ったスクリーンとなった。 俺の目の前に広がる、幻想的な青い光のスクリーン、それは儚さをまとい、
もっと読むマリオネット 第6話
第6話 痛みを感じる。 本当は存在するのに空虚のような。 空虚なのに確実に存在するような。 そんな痛み。 へし折られた指からの痛みでも、生爪を剥がされた指先からくる痛みでもない。 この全身で感じているそれは―
もっと読むマリオネット 第5話
第5話 茜の全身から、冷や汗が流れているのがわかる。 ソファーに縛り付けられた滑らかな裸体が、細かく震えている。 今の今まで、官能の渦に溺れかかり、赤く火照っていたその身体は、まるでその事を忘れてしまったように青ざ
もっと読むマリオネット 第4話
第4話 額から電気が走ったような、そんな感覚が俺を襲う。 それは、身体の末端神経まで到達し、ほんの一瞬、全身を硬直させる。 俺は身体をよろけさせ、後ろの窓のサッシにもたれかかった。 そうか、糸を打ち込まれた瞬間っ
もっと読むマリオネット 第3話
第3話 朝日が、細いカーテンの隙間から差込んでくる。 闇を払拭する、爽快な太陽光を浴びると、それまでのすべての事がリセットされ、昨日までとはちがう、また新たな事が起こりそうな、そんな気がする。 鳥の声が聞こえる。
もっと読むマリオネット 第2話
第2話 冬の空――― 頭上に宿る星々が、すべての季節の中で一番華やかに天空を彩る時。 冬の澄み切った空気が、その輝きを躍らせている。 月――――― 冬の透明な風の中、青白く輝くそれは、天に留まる巨大な氷のように
もっと読むマリオネット 第1話
第1話 月明かりに照らされる立ち昇る白煙。 漂うオイルの匂い。 木に留まる猛禽類が、興味深そうにその事態を眺める。 男のうなり声がした。 男はアスファルトに貼りついた顔を懸命に持ち上げる。 運転席から身体半分
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