後編 氷の生き人形たち 薄暗い広間の中、9体の人影が並んでいた。 右側に4人、左側に5人。 いずれも、若い女性ばかり。 髪型はそれぞれだが、皆整った顔立ちで、寒い室内には不似合いな薄手の服を身につけている。 た
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凍てつく夜に人形は踊る 前編
前編 雪山の洋館で 「これは……さすがにちょっとまずいかな……」 ハンドルを握って必死に前を見つめながら、私は舌打ちをした。 辺りは分厚く雪が積もっていて、一面真っ白な銀世界。 その中を、道路が細い線のように縫って
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51 「あんたバッカじゃないの? 自分が言ってることわかってる?」 絵実が呆れた声で言った。 あれから隼人も気を失うように眠ってしまい、夜が明けて目を覚ました由美の悲鳴が全員を起こしたのだった。あわてて隼人は由美に「
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50 一陣の旋風のようだった。 気がついたときには「ドサッ」と音を立てて絵実が倒れていた。 蒲郡の夜から五日目。桑名市を通り過ぎて、なにもない田舎道を歩いているときのことだった。 保奈美の快感を送り込まれた亜実と
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49 「すごい一日だったなぁ・・・」 ふかふかのベッドに座って隼人は心底疲れたように言った。 蒲郡にあるテーマパークに併設されたホテルに三人はチェックインした。いや、チェックインという言葉は正確じゃない。フロントで亜
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48 「ほんっとムカつく!」 絵実は早足で歩きながらそう言った。 隼人はそのプリプリと動くヒップを後ろから眺めながらついて行く。 「絵実、そんなに急いだら結界が・・・」 亜実がそれを制すように言う。 「だって・・・
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45 「あれまあ、どうしたんだい?」 泥だらけの服を着ている隼人を見て饅頭屋のお婆さんが言った。 「あっ、境内で足を滑らせちゃって。ちょっと休ませてください」 総門を出てホッとした隼人は疲れを感じてそう言った。「サイ
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44 二日間歩き続けた。 毒気が抜けたというか、すべてを亜希子に注ぎ込んでしまったというか、街行く女に心を奪われることなく隼人は吉野を目指した。単に疲れて欲望が起きなかったと言えばそれまでだが。 その間、隼人は「サ
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41 新しいアイテムを手に入れたと頭の中の声が告げていた。 しかし、どのようなものかは教えてくれない。そのときになったらわかると言うのだ。 どんな能力か楽しみになった隼人は歩を早める。梨花がくれたリストの中にあった
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39 空腹に気づいた隼人は後悔した。 行き当たりばったりで美香と彩を抱いてしまい前後のことを考えていなかった。もう時刻は夕方に近い。今夜の宿を確保しなければならないし、食事もしなければならない。でも疲れのせいか「サイ
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38 嫌な場面に遭遇してしまった。 昨夜、麻衣と過ごした時間が楽しかっただけに隼人はうんざりした気分になった。 あれから意識が戻った麻衣は初体験のことや、梨花との複雑な関係について、いろいろと話してくれた。姉妹のプ
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37 不思議な体験だった。自分の能力をも含めて世の中には裏というか底知れぬものがあるのだと思った。貴重な体験だが夢のようにも感じる。隼人は黙々と歩き続けた。 島田市に着いたのは日が暮れてだった。昔は東海道の要所として
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36 翌朝早く隼人は杏奈の家を出た。そうしないと長居してしまいそうだった。頭の中の声も「急げ」と告げていた。それに、もっと女を抱かなければ修行にならないらしい。隼人は島田というところを目指した。なぜなら梨花が渡したメモ
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おや、あんたは馬にされてしまったのかね。 なに、驚かんでもええ。 猿が喋るわけがない? そう言うおまえさんも姿は馬でないか。 それに、別に言葉を話しておるわけではないよ。なんというか、声に出さずともわかるんんじ
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33 「ちょっと待ちな」 凄味を利かせた声が背後から聞こえた。 コンビニで飲み物を買って出てきた隼人に女が声をかけたのだ。 振り向いてみると自動ドアの脇でウンコ座りをしている。脱色した髪は根本が黒くプリン状態、いか
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31 「あなた、お母さんとなにしたのよ!」 キッチンで一緒に朝食の支度をしている隼人と服部早苗を見て奈緒が叫ぶように言った。 ひと目で濃厚な関係を結んだのがわかるほど二人が漂わせる雰囲気は親密なものだった。 いや、
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29 ひと休みした隼人は結花と奈緒を屋内まで運んだ。 庭に面するロビーに服部早苗がふたりの寝床を用意していた。 「どうぞ、湯浴みを」 服部早苗に言われて、汗と体液でベトベトになった身体に隼人は気づいた。 「驚きまし
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27 「どうして? あたしは嫌!」 学校から帰ってきた奈緒はそう叫んだ。 特徴のあるセーラー服姿でラクロスのラケットにバッグをぶら下げている。腰のところで巻き上げているのか、スカートはかなり短く膝上から15センチくら
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25 「あのさ、不思議に思うんだけど・・・」 「なにが?」 「僕が『サイ』をもっと別なことに使えば大変なことになると思うんだ」 「どういうこと?」 「たとえば、この場所。見ず知らずの人の部屋を使ってる。ちょっと探したら高
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23 「ただいま~。あら、お客さんなの?」 見慣れぬスニーカーを見つけたからか、玄関から若くて元気な声がした。 老婆の話を聞きはじめてから1時間ほどが経っていた。 「おかえり、結花。こっちへおいで」 「いらっしゃいま
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22 「行っちゃうんだね・・・」 荷物をまとめる隼人を見て南川琴音が言った。 「うん。琴音と一緒になるためには力を完全なものにしなきゃならない。そうしないとサイの一族として生きられないからね。琴音のために僕は行くんだ」
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19 隼人は服を着て南川琴音の傍らに座った。 目を覚ますのを見届けてから出ていくつもりだった。 もし目を覚まさなかったら雄大に助けを求めるしかない。それは旅の終わりを意味している。雄大と葉月の力を借りた時点で跡継ぎ
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17 品川には1時間とちょっとで着いた。 海の方の出口と南川琴音に聞いていたので港南口にまわる。 真新しいビルが建ち並ぶ無機質な街だった。 チェーン展開をしているコーヒーショップに入りエスプレッソを頼んだ。 席
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12 「梨花さん、ちょっと学校に用事があるから行ってくるけど、また戻ってくるから」 そう言い残して隼人はリカを出る。 長谷川恭子にショーツを返さなければならない。コレクションくらいの気持ちだったが、雄大の話を聞いてか
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11 「ここのコーヒーすごくおいしいんだ」 隼人は南川琴音にそう言った。 「泡立ってるね」 南川琴音はカップを覗き込んで言う。 「エスプレッソだよ。高圧で抽出するから濃いんだけど、慣れるとやめられない。イタリアでは食
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10 旅支度と言ってもたいしたものではない。着替えと日用品をバッグに入れればお終いだった。 雄大に別れの挨拶をして隼人は家を出た。でも、どうしたらいいのかわからなかった。空腹に気づき駅前にあるマクドナルドに入った。ビ
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7 「休学?」 「はい。父の手紙も持って来ました」 職員室の一角。長谷川恭子の机の前で隼人は手紙を差し出した。 「いつから?」 「今日からです。家庭の事情があって」 「ずいぶん急なのね。事情って・・・」 長谷川恭子は
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0 姉である葉月の焦点を結んでいない眼を見ながら隼人は脇の下に汗が流れるのを感じていた。 「うん、初めてにしては力は強そうだな」 隼人に手をかざしながら、父親の斎部雄大が満足そうに言う。 「ほ・・・ほんとに・・・」
もっと読むグノーグレイヴ2 エピローグIII
[エピローグIII] 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「ふざけるなああ!!」 「こんな時代なんか望んでないだろう!!」 「出てこい!諸悪の根源!!!」 若者たちが暴動を起こす。 拓也はその光景を黙ってみて
もっと読むグノーグレイヴ2 エピローグII
[エピローグII] 握出が目を覚ました先には、白い天井が広がっていた。コンクリートの壁に電球がぶら下がった天井は、かつて旧世界で握出が勤務していたエムシー販売店であった。 つまりこの世界は、握出が帰りたかった旧世界。
もっと読むグノーグレイヴ2 エピローグI
[エピローグI] 握出は宇宙に投げ捨てられていた。理想郷も消え、新世界も崩壊した握出に返る場所はなかったからだ。握出は不老不死になった。だから宇宙に投げ込まれても死ぬことはない。だが、この世には握出以外、誰もいない。
もっと読むグノーグレイヴ2 第七話 後編
―第七話後半 正義の勇者 千村拓也― [0] 握出たちは階段をのぼる。 エレベーターが使えなかったのは、デモンツールズとは別の『アンドロイド』がいたからだ。『ただの線を描く画家―レプリカント・ツアー・コンダクター―』
もっと読むグノーグレイヴ2 第七話 前編
―第七話前半 採魂の女神ブリュンヒルド― [0] 「おかえりなさいませ、マスター」 地平線の向こう側から帰還した拓也を迎えたブリュンヒルドだが、デルトエルドが倒れこむと拓也は急いで駆け寄った。 「デルトエルド!」 「よ
もっと読むグノーグレイヴ2 第六話
―第六話 千の弓使いメタモルフォーゼ― [0] 新世界、トラディスカンティア。完成したかと思った世界は実は狭く、拓也を中心にした世界しか変わっていなかった。 『ただの線を描く画家―レプリカント・ツアー・コンダクター―
もっと読むグノーグレイヴ2 第五話
―第五話 予兆の魔道士センリ―― [0] 握出が目を覚ますと、隣で微笑んでくれる女性がいた。彼女は握出の寝顔がおかしかったのか、握出がはっきりと意識を覚醒するまでずっと笑っていた。 「おはようございます、握出様」 朝
もっと読むグノーグレイヴ2 第四話
―第四話 孤狐魔術師フォックステイル― [0] ――「お母さんが待っている家に帰りたい」 そんな当たり前で小さな願いも、私の声は届かなかった。 ドウロをヒロクシヨウ トチをフヤシテ、イエをモチタイ シンキカイタク
もっと読むグノーグレイヴ2 第三.五話
―第三.五話 握出紋の消失― [0] 新世界、トラディスカンティア。元々生まれることのなかった、改ざん後の世界。 千村拓也。グノーグレイヴで手に入れた力、『ただの線を描く画家―レプリカント・ツア・コンダクター―』によ
もっと読むグノーグレイヴ2 第三話 後編
―制裁戦士ジャッジメンテス 後半― ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ 「えっ……」 勝敗は決した。握出を裁くための多数決。手を挙げたのは少数しかいなかった。つまり、無罪になった。 「ど、どうして?」 ジ
もっと読むグノーグレイヴ2 第三話 前編
―制裁戦士ジャッジメンテス 前半― [0] 雲息があやしくなってきた。これから一雨降るかもしれない。 新世界に到達してから天気が曇り空になることは初めてだった。黒い雲に重なるように、採魂の女神が拓也のもとに降下する。
もっと読むグノーグレイヴ2 第二話
―第二話 追撃剣士ポリスリオン― [0] ボス、千村拓也の元に舞い降りた採魂の女神―ブリュンヒルド―が報告する。純白の翼に鎧を纏った女神だけが太陽に照らされる。 「報告します、彼の存在を確認しました」 「どこだ?」 「
もっと読むグノーグレイヴ2 第一話
―第一話 救済天使ヒルキュア― [0] 「報告します、依然として対象者の行方は不明。もうしばらく時間がかかるかと思います」 捜索から帰ってきたブリュンヒルドがボスに報告を終える。雲ひとつない青空の下、神保市を望める神保
もっと読むグノーグレイヴ 第7話
第7話 ―アンドロイド― [0] 「マスター御命令を」 俺がしたかったのは、こんなことじゃない。命令をしたい訳でもなく、命令を聞いてほしい訳でもない。 俺は俺の隣にいてくれる人が居てくれれば良かった。そこにちょっと
もっと読むグノーグレイヴ 第6話 後編
第6話 ―粘土[後編]― [-1] 形はなく不定形。 固い柔らかいも決まっていない。 それでも血は通っている心という存在不明な呼び名。 ある学者から言わせれば胸にあると言い、 とある医者に言わせれば頭にあると言
もっと読むグノーグレイヴ 第6話 前編
第6話 ―粘土[前編]― [0] 「んっんんーー」 上機嫌に歩く握出の姿に俺は疲れてしまった。 仕事を辞めたいと思ってしまったら、仕事を続けたいと奮起させるのにどのくらいの力を取り戻さなければいけないのだろう。 今
もっと読むグノーグレイヴ 第5話
第5話 ―時計― [0] ハア・・・ハア・・・ 吐く息が荒い。当然だ。これからやろうとすることは、普通ならやりたくないこと。人生で行う一世一代の賭けである。 テンションが下がるはずの行為を、逆に灼熱のごとく燃え上げ
もっと読むグノーグレイヴ 第4話
第4話 ―電話― [0] アークデーモン 悪魔辞典前説。 悪魔族の中でも上級に属する悪魔。Archdemon。 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ それ以外の場所には何処にも載っていない。 べリアル
もっと読むグノーグレイヴ 第3話
第3話 ―名刺― [0] 自分では変えられないものがある。 とても身近で、あまりに神聖な、名前という商品登録。自分は商品で社会に売買される存在だと認識しなくてはならない。 価値を決めるのは自分ではなく社会であり、低
もっと読むグノーグレイヴ 第2話
第2話 ―人形― 前略 前回まで『エムシー』商品と名乗っておりましたが、この度から『グノ―』商品と変更させて頂くことを申し上げます。 誠に勝手ではございますが、御了承くださいませ。 草々 平成22年度1月25日
もっと読むグノーグレイヴ 第1話
第1話 ―鏡― [0] 私が右手を挙げると奴は左手を上げた。 私が右を向くと奴は左を向いた。 上下逆転している訳じゃないのに、左右だけは逆転する。 なんてつまらない、完璧な製品を作ろうと試行錯誤して、あと少しの所
もっと読むグノーグレイヴ 第0話
第0話 [プロローグ] 人は魅了によってのみ操られる。 才能、魅力、性質、性格、 社会に現存する確固たる自己を築きあげるのが人生である。 努力、経験、運命、軌跡…… 社会の共存が“人”を愛するのである。 そん
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