悪代官

 この部屋には壁が無い。  いや!壁が無いという表現は間違いにあたるかもしれない。  有るには有るのだが壁という壁全部が書物で覆い尽くされているのだ。  それはどれもこれも最初の数ページで頭が痛くなってきそうな書物ばかり

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ムジョウノカゼ

「ね、姉さん・・・」  我ながら、声に力がない。  細くなった手を、目の前の姉さんへと伸ばした。 「ハルミラ!しっかりしなさい!」  ギュッと手が握り締められた。 「私は・・・大丈夫だから・・・」  大好きな姉さんを、心

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催淫師 暗躍編(6)

暗躍編(6) 「此処ね」  廉霞はとある町にある、空き家の前に立っていた。何やらおかしな連中が住み着いて、近隣の者に被害が出ている、警察の手にもおえないから何とかして欲しいという要請を受けての事である。 (確かに妖気を感

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催淫師 暗躍編(5)

暗躍編(5)  ピシャッという音が、始まりの合図だった。 「あっ・・・うんっ・・・」  清華は男を玄関で受け入れ、仰け反った。 「んくっ・・・はっ・・・」  啓人は浅く、ゆっくりと動き出す。清華はその啓人に、しがみついた

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催淫師 暗躍編(4)

暗躍編(4)  二人が入ったのは、六畳の和室であった。そこには机が一つあるだけで、片付いているというよりは他に何もなかった。 「ここは・・・?」  尋ねる啓人の声にも、不思議そうな響きが含まれている。ゴミどころか、塵一つ

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聖域の中の日常

 ちゅんちゅん……。  カーテンから漏れる朝日で私 ― 岡部美緒 ― は目を覚ました。  美緒とお兄ちゃんは裸で抱き合ったまま眠るの。兄妹だから当然でしょ?  いつもの日課、ねぼすけのお兄ちゃんを起こさなくっちゃ。  布

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催淫師 暗躍編(3)

暗躍編(3)  今は昼休み。転校生はヒーローという図式が見事に当てはまっている啓人は、他の生徒の勧誘や質問責めから逃れ、屋上にいた。 「ふう・・・やれやれだ」  さしもの啓人も、あの圧倒的なパワーにはてこずった。力をまだ

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催淫師 暗躍編(2)

暗躍編(2)  白笠は二人の仲間と共に歩いていた。 「ち・・・何でこんなに催淫蟲がうるさいんだ?」 「連中が言ってる事、正しいんじゃないのか?」  仲間の一人がたしなめるように言う。 「別に俺は反対してるわけじゃないぜ。

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催淫師 暗躍編(1)

暗躍編(1)  日曜日、全員揃うと同時に啓人が宣言した。 「今日皆で出掛けるぞ。但し!魅矢は留守番!」 「え?何処へ?」 「山登り♪」  ハテナマークを飛ばす理乃だったが、 「さっさと用意しろ」  と急かされ、慌てて着替

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催淫師 始動編(2)

始動編(2)  冴草啓人は雨桶市内のとある高級マンションの部屋にいた。部屋の住人である美女はベットの上で荒い息をしていた。己の欲望をあと一歩で満たせるという段階に至っても啓人は少しも悠然とした態度を崩さない。目の前にとび

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催淫師 始動編(1)

始動編(1)  割と格好良い一人の少年が市役所の建物を見上げていた。彼は昨日この雨桶市にやってきたばかりなのである。だからと言って、別に住民登録をしに来たという訳ではない。 「思ってたよりも・・・大きいな」  その少年、

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催淫師 序章(改)

 四月も終わる金曜日の夜、雨桶市外にある霧に包まれた古い洋館の前に、一台のトラックが止まり、三人の人間が降りて来た。 「あんた達、本当にあそこに・・・あの‘悪霊の館’に住むのかい?」  まず口を開いたのは、三十代後半と思

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幽体離脱

「・・・」  今の状態をどう表現すればいいのか・・・いわゆる今、俺、氏堂 幽一は・・・ ・・・幽霊になっている ・・・完 「じゃねぇぇっ」  がばっと体を起こし・・そのままくらっともう一度地面へ、固いアスファルトのベッド

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幻市 付章(その③)

付章(その③) 4.倉田(その②)  倉田が離婚したのは3年前だった。離婚にさしたる理由はない。妻の晴代とは実業団の現役サッカー選手時代に結婚したのだが、倉田の体重が増えるのに比例して感情がすれ違いを始め、結局、3年前に

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幻市 付章(その②)

付章(その②)  木曜日の11:00。ホテル・アルフォンヌのスイートでランチオンインタビュー。・・・OK。  倉田は受話器を置いた。今日は火曜日。明日一日準備に使える。倉田は早速メモを出して水曜日一日を使ってできる事を検

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幻市 第八章

第八章  よしっ、そのままこっちに来て・・・。  そこでクルッとターン。そうだ、綺麗だよ、美紀。いいよ、微笑んで・・・うん、素敵だ。純白のウェディングドレス。君に城のドレスがこんなに似合うなんて知らなかった。  床に座っ

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幻市 第七章

第七章  さあ、ここまで《シンイチ》と《てん》の話をしてきたんだけど、美紀ちゃん、理解できた?  これから話すのは《シンイチ》と《てん》が融合した日の事。僕の感覚で言うと《てん》としての自我はそのまま残っていたから《てん

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幻市 第六章

第六章  雨の日曜日。金沢はこれからのシーズン、太陽を見ることはぐっと少なくなる。11月から3月にかけて重苦しい曇りの日が続く。  いつもであれば少々の雨ならレインウェアを着て走り込みをする《シンイチ》だが、期末試験も近

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幻市 第五章

第五章  《シンイチ》が性欲を身につけるのと反比例して《てん》の活動は納まりつつあった。  《てん》は《シンイチ》の性欲の目覚めと自慰によって慰められ、靄(もや)の中から《シンイチ》を眺める生活に戻った。  このころの僕

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